以下、本発明の実施形態に係る車両の運転支援装置(以下、単に運転支援装置という)について、図1から図7を参照して説明する。本実施形態の運転支援装置は、運転者の操作によらずに加速制御を行うための装置である。本実施形態において、加速制御は、車両の最適速度および最適加速度を設定し、最適加速度で最適速度に加速して車両を走行させるための制御として規定する。最適速度は、後述する走行シーンで車両が走行する際の最適な速度であり、最適加速度は、該最適速度とするために最適な加速度である。
本実施形態の運転支援装置が搭載される車両は、ブレーキ制御がブレーキペダルの操作によって行われ、加速制御が運転者の操作によらず行われる車両である。例えば、アクセルペダルが装備されていない車両(アクセルペダルレス車両)、アクセルペダルを装備していても、所定の条件下以外の通常の運転時にはアクセルペダル操作が無効となる車両などが該当する。すなわち、これらの車両では、通常の運転時にはブレーキペダルが開放されることで加速制御が開始される。なお、以下の説明では、これらの車両をまとめてアクセルペダルレス車両として総称する。アクセルペダルレス車両であれば、自家用の乗用自動車、あるいはトラックやバスなどの事業用自動車のいずれであってもよく、用途や車種は特に問わない。車両の駆動装置(パワーユニット)は、内燃機関(エンジン)であっても、電動モータであっても、これらの双方であってもよい。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る運転支援装置1のブロック図である。図1に示すように、運転支援装置1は、検出部2と、制御部3とを備えて構成されている。
検出部2は、加速制御に要する車両の走行状況および周辺状況をそれぞれ検出する。車両は、運転支援装置1が搭載された自車両である。以下の説明では、車両は自車両を意味するものとし、それ以外の車両、例えば先行車両、後続車両、駐停車両、対向車両などは適宜他車両と称して区別する。検出部2は、制御部3と有線もしくは無線により接続され、制御部3によって動作が制御されるとともに、制御部3に対して検出結果を与える。
検出部2は、車両の加速制御に必要な各種の検出を行うため、車両情報検出部21と、車両周辺状況検出部22とを含んで構成されている。
車両情報検出部21は、車両の走行状況を検出し、その情報(以下、走行状況情報という)を取得する。車両情報検出部21は、例えば速度、加速度、ブレーキペダルの開放角および開放角速度、ブレーキユニット42における横滑り防止機構(スタビリティコントロール)の作動量や作動時間などの作動態様、シフトレバーの位置、ステアリングの舵角および舵角速度、ウインカーの動作、車両に設けられたボタンやスイッチなどの操作(ON/OFF、切換)などをそれぞれ検出する各種のセンサである。車両情報検出部21は、これら各種のセンサにより、走行状況情報を取得する。
車両周辺状況検出部22は、車両の周辺状況、具体的には道路状況や車両の現在地付近の状況などを検出し、その情報(以下、周辺状況情報という)を取得する。車両周辺状況検出部22は、例えばカメラ、レーダー、ソナー、測位装置(ロケータ)、データ通信装置などの各種機器である。車両周辺状況検出部22は、これら機器により周辺状況情報を取得する。
カメラは、CCDカメラやCMOSカメラなどであり、車両の周辺状況、例えば走行路(道路幅、走行区画線、ガードレール、路面状態等)、道路標識や道路標示、信号機、歩行者、他車両などの画像(動画や静止画)をそれぞれ撮像する。カメラは、画角内に撮像対象を収めることができれば、車内および車外のいずれであっても構わない。
レーダーやソナーは、車両の周辺に電磁波(赤外線、ミリ波)や超音波などを送出し、対象物で反射した反射波を受信する。これにより、レーダーやソナーは、対象物の存在と対象物までの距離を計測する。対象物は、車両付近の歩行者、他車両、ガードレール、側壁などである。
測位装置は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機、慣性センサ、地図データなどを備える。測位装置は、GNSS受信機が人工衛星から受信した測位信号と、慣性センサの計測結果とを組み合わせ、車両を測位する。そして、測位装置は、測位したデータと、地図データとをマッチングし、車両の現在位置を地図上で特定する。これにより、測位装置は、例えば車両の現在位置の情報として、駐車場、市街路、幹線道路、高速道路などの情報を取得する。地図データは、所定の記憶装置(例えば、後述する演算処理部31の不揮発メモリ)に予め保持され、適宜読み出される。
データ通信装置は、例えばインターネット接続、車車間通信、路車間通信などを行う無線通信機であり、天気、気温、湿度等の気象情報、渋滞、規制、工事等の道路情報(交通情報)など、各種の車外情報を取得する。
制御部3は、検出部2によって検出された検出結果に基づいて、運転者を支援するための車両制御、具体的には加速制御を運転者の操作によらず行う。加速制御を行うことで、制御部3は、車両の最適速度および最適加速度をそれぞれ設定し、最適加速度で最適速度に加速して車両を走行させる。制御部3は、例えば車両ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)として構成し、車両ECUが実行する制御の一つとして、加速制御を行えばよい。制御部3は、車両ECUとは独立して構成されていてもよい。
制御部3は、CPU、メモリ、記憶装置(不揮発メモリ)、入出力回路、タイマなどを含む演算処理部31を備えている。演算処理部31は、各種データを入出力回路により読み込み、記憶装置からメモリに読み出したプログラムを用いてCPUで演算処理し、処理結果に基づいて車両の運転支援制御を行う。
また、制御部3は、具体的な加速制御を実行するため、検出部制御部32と、走行シーン判定部33と、最適速度・加速度設定部34と、走行制御部35とを含んで構成されている。
検出部制御部32、走行シーン判定部33、最適速度・加速度設定部34、および走行制御部35は、例えばプログラムとして演算処理部31の記憶装置(不揮発メモリ)に格納されている。なお、かかるプログラムをクラウド上に格納し、演算処理部31をクラウドと適宜通信させて所望のプログラムを利用可能とする構成であってもよい。この場合、演算処理部31は、クラウドとの通信モジュールやアンテナなどを備えた構成とする。
次に、検出部制御部32、走行シーン判定部33、最適速度・加速度設定部34、および走行制御部35について説明するが、これらの制御内容については、後述する運転支援装置1における加速制御時(図2から図4、図7にそれぞれ示す制御フロー)の説明の中で詳述する。
検出部制御部32は、検出部2(車両情報検出部21および車両周辺状況検出部22)の動作を制御する。本実施形態では、検出部制御部32に制御されることで、車両情報検出部21は走行状況情報を、車両周辺状況検出部22は周辺状況情報をそれぞれ取得し、取得した各情報(データ)を検出部制御部32に与える。検出部制御部32は、与えられた各情報(データ)を走行シーン判定部33、最適速度・加速度設定部34、および走行制御部35に、演算処理部31を介して適宜与える。
走行シーン判定部33は、車両が走行する走行シーンを判定する。走行シーンは、車両が走行し得るあらゆる場面(状況)の中の一つである。例えば、駐車場、市街路、幹線道路、高速道路などを走行する状況、あるいは交差点、カーブ、低μ路(ウエット路や凍結路等)、坂道、未舗装路を走行する状況など、様々な走行シーンが想定できる。走行シーン判定部33は、これら想定される様々な走行シーンのうち、車両の現時点およびその先に想定される走行シーンを判定する。その際、走行シーン判定部33は、検出部2によって取得された検出結果(走行状況情報および周辺状況情報)に基づいて走行シーンを判定し、判定結果を最適速度・加速度設定部34に与える。
最適速度・加速度設定部34は、走行シーン判定部33によって判定された走行シーンで車両が走行する際の最適な速度(最適速度)を設定するとともに、設定した最適速度とするために最適な加速度(最適加速度)を設定する。
最適速度および最適加速度(以下適宜、最適速度等という)の設定にあたって、最適速度・加速度設定部34は、走行路の法定速度や巡航速度、駐車場の徐行速度などに、検出部2によって検出(取得)された走行状況情報および周辺状況情報を加味し、走行シーンに応じた最適速度等を演算する。したがって、例えば走行路が渋滞している場合などには、該走行路における先行車両や後続車両の車速などに応じて、法定速度よりも低速に最適速度が設定される。また、他車両を追い越す場合などには、法定速度以上に最適速度が設定される。そして、最適速度等を設定すると、最適速度・加速度設定部34は、これらの設定結果を走行制御部35に与える。また、最適速度・加速度設定部34は、走行シーンと最適速度等の関係を示すマップを更新する。かかるマップは、例えば演算処理部31の記憶装置(不揮発メモリ)に予め格納されている。
走行制御部35は、最適速度・加速度設定部34によって設定された最適加速度に基づいて車両を加速させ、最適速度とする。すなわち、走行制御部35は、最適加速度に基づいて車両を最適速度まで加速させる。その際、走行制御部35は、車両のパワーユニット41、ブレーキユニット42などの動作を適宜制御する。パワーユニット41は、例えばエンジンや電動モータなどの駆動装置である。ブレーキユニット42は、ブレーキペダル、アクチュエーションユニット、横滑り防止機構(スタビリティコントロール)、ABS(Antilock Brake System)などである。
例えば、走行制御部35は、パワーユニット41の出力を上げて車両を最適加速度で最適速度に達するまで加速させる。最適速度に達した後は、最適速度を維持するようにパワーユニット41の出力を制御して車両を走行させる。その際、走行制御部35は、通知ユニット43の動作を制御し、加速制御の開始や終了、速度や加速度などの制御状況を運転者に通知させる。通知ユニット43は、走行制御部35の出力装置として機能するものであり、例えば通知灯の点灯(点滅)や通知メッセージの表示等を行うインパネやカーナビのモニタ(ディスプレイ)、通知音等を発するスピーカなどが該当する。
このような構成をなす運転支援装置1は、次のように車両の加速制御を行う。図2および図3には、本実施形態において運転支援装置1によって行われる加速制御時の制御フローを示す。以下、図2および図3に示すフローに従って、運転支援装置1による制御とその作用について説明する。
図2に示すように、運転支援装置1において車両の加速制御を行うにあたって、検出部2は、所定の検出を行う。本実施形態では、検出部制御部32によって動作制御され、車両情報検出部21および車両周辺状況検出部22がそれぞれ所定の検出を行い、情報を取得する。
車両情報検出部21は、車両の走行状況情報を取得する(S101)。例えば、車両情報検出部21は、車速、加速度、ブレーキペダルの操作態様、シフト位置などを検出して、これらの情報を取得する。
車両周辺状況検出部22は、車両の周辺状況情報を取得する(S102)。例えば、車両周辺状況検出部22は、走行路における他車両の流れ、信号機の有無、路面状態などの走行路の状況、渋滞や規制、天気や気温などの現在地付近の状況などを検出して、これらの情報を取得する。
次いで、制御部3は、車両の走行シーンに応じた最適速度等の設定および走行処理(以下、最適速度等設定走行処理という)を行う(S103)。最適速度等設定走行処理は、走行状況情報および周辺状況情報に基づいて、車両の走行シーンを判定し、判定した走行シーンにおける車両の最適速度および最適加速度を設定するとともに、設定した最適速度等で車両を走行させる処理である。
本実施形態では、走行シーン判定部33、最適速度・加速度設定部34および走行制御部35が最適速度等設定走行処理を行う。図3には、最適速度等設定走行処理の制御フローを示す。図3に示すように、最適速度等設定走行処理において、走行シーン判定部33は、走行状況情報および周辺状況情報に基づいて、現時点およびその先に想定される走行シーンを判定する(S201)。
走行シーン判定部33によって走行シーンが判定されると、最適速度・加速度設定部34は、該走行シーンで車両が走行する際の最適速度を設定するとともに、設定した最適速度とするための最適加速度をそれぞれ設定する(S202)。
例えば、走行シーン判定部33によって走行シーンが走行シーンAと判定されると、最適速度・加速度設定部34は、走行シーンAに応じた最適速度等をそれぞれ設定する。同様に、最適速度・加速度設定部34は、走行シーンが走行シーンBと判定されると走行シーンBに、走行シーンCと判定されると走行シーンCにそれぞれ応じた最適速度等を設定する。これらの走行シーンA,B,Cは、車両が走行し得るあらゆる場面(状況)の一つであり、車両が走行を重ねるに度に蓄積され、該走行シーンA,B,Cに応じた最適速度等は、適宜更新される。これにより、走行シーンと最適速度等の関係を示すマップは、常に最新の状態に維持されている。
各走行シーンにおいて、最適速度・加速度設定部34は、例えば、ブレーキペダルの開放角速度、車両の車輪と路面との摩擦係数などに基づいて最適速度等を設定する。また、最適速度・加速度設定部34は、ステアリングの舵角および舵角速度に基づいて、設定した最適速度等を調整する。これらの具体例については、後述する第2の実施形態および第3の実施形態で説明する。
最適速度・加速度設定部34によって最適速度等が設定されると、走行制御部35は、最適速度等に基づいて車両の走行を制御する(S203)。その際、走行制御部35は、車両のパワーユニット41の出力を制御して、最適加速度に基づいて車両を最適速度まで加速させる。最適速度に達した後は、最適速度を維持するようにパワーユニット41の出力を制御して車両を走行させる。
走行制御部35によって車両が最適速度で走行されると、走行制御部35は、最適速度等設定走行処理を終了し、加速制御を終了する。そして、次の加速制御に備え、検出部2は、所定の検出を継続し、制御部3は、検出部2が新たに取得した走行状況情報および周辺状況情報に基づいて最適速度等設定走行処理を行って車両の加速制御を繰り返す。これにより、車両は、走行路における最適速度での走行を継続することができる。
このように本実施形態の運転支援装置1によれば、アクセルペダルレス車両であっても、加速制御を自動で行うことができる。すなわち、走行シーンに応じて設定された最適加速度に基づいて車両を加速させ、最適速度で走行させることができる。また、運転者は、通常の運転時にはブレーキペダルの操作のみでブレーキ制御および加速制御のいずれも行うことが可能である。したがって、運転者の「踏む」操作は、車両を減速させる操作にほぼ限定することができる。
これにより、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違いをなくすとともに、運転支援、具体的には自動での加速制御をより適正に行うことが可能となる。加えて、通常の運転時にはブレーキペダルとアクセルペダルの踏み替え操作がなくなるため、運転者の運転負担の軽減を図ることも可能となる。
ここで、本実施形態における走行シーンの具体例として、交差点と低μ路をそれぞれ想定し、これらの走行シーンにおいて運転支援装置が行う最適速度等設定走行処理について説明する。
(第2の実施形態)
これらの走行シーンのうち、交差点走行時における最適速度等設定走行処理について、第2の実施形態として説明する。図4には、本実施形態における最適速度等設定走行処理の制御フローを示す。なお、第2の実施形態の駐車支援装置は、図1に示す第1の実施形態の運転支援装置1と同様である。
図4に示すように、本実施形態において、走行シーン判定部33は、走行状況情報および周辺状況情報に基づいて、走行シーンが交差点であるか否かを判定する(S301)。走行シーンが交差点であることは、現時点およびその先に交差点が存在することを示す。その際、走行シーン判定部33は、車速、ブレーキペダルの開放角および開放角速度、ステアリングの舵角および舵角速度、ウインカーの操作有無などを走行状況情報として車両情報検出部21から取得する。また、走行シーン判定部33は、走行路、信号機、他車両の状況、車両の現在位置などを周辺状況情報として車両周辺状況検出部22から取得する。例えば、走行状況情報として所定速度以下への減速(ブレーキペダルの開放角の変化)、車線変更(ステアリングの舵角の変化)、右左折を示すウインカー操作の情報などが取得され、周辺状況情報として信号機や右左折レーンの画像などが取得されている場合、走行シーン判定部33は、走行シーンが交差点であると判定する。あるいは、周辺状況情報として車両の現在位置が地図上で交差点と特定されている場合、走行シーン判定部33は、走行シーンが交差点であると判定する。
S301において走行シーンが交差点ではないと判定された場合、最適速度・加速度設定部34は、車両がそのまま走行路を直進し続けるものとして、該走行路における最適速度等をそれぞれ設定する(S302)。
これに対し、S301において走行シーンが交差点であると判定した場合、走行シーン判定部33は、以降の各判定を適宜行う(S303~S311)。その際、S301の場合と同様の走行状況情報を車両情報検出部21から取得するとともに、周辺状況情報を車両周辺状況検出部22から取得する。
この場合、走行シーン判定部33は、車両が交差点を直進するか否かを判定する(S303)。例えば右左折を示すウインカーが操作されていない場合、走行シーン判定部33は、車両が直進するものと判定する。
S303において車両が直進すると判定された場合、最適速度・加速度設定部34は、車両がそのまま交差点を通過し、走行路を直進し続けるものとして、該走行路における最適速度等をそれぞれ設定する(S302)。例えば、最適速度・加速度設定部34は、交差点進入前よりも小さくなるように、直進時の最適速度等を設定する。
これに対し、S303において車両が直進しないと判定した場合、走行シーン判定部33は、車両が交差点を右折するか否かを判定する(S304)。例えば右折を示すウインカーが操作されていない場合、走行シーン判定部33は、車両が右折しない(左折する)ものと判定する。
S304において車両が右折しない(左折する)と判定された場合、最適速度・加速度設定部34は、車両が交差点を左折するものとして、交差点の左折時における最適速度等をそれぞれ設定する(S305)。例えば、最適速度・加速度設定部34は、直進時よりも小さく、後述する右折時よりも大きくなるように左折時の最適速度等を設定する。また、最適速度・加速度設定部34は、ブレーキペダル開放時の角速度(開放角速度)に比例して小さくなるように、左折時の最適加速度を設定する。
S304において車両が右折すると判定した場合、走行シーン判定部33は、車両におけるブレーキペダルの開放時の角速度を判定する(S306)。走行シーン判定部33は、ブレーキペダル開放時の角速度を所定の閾値(以下、開放基準値という)と比較し、例えば開放角速度が開放基準値を超えるか否かを判定する。
S306において角速度が開放基準値以下であると判定された場合、最適速度・加速度設定部34は、車両が交差点を右折するものとして、交差点の右折時における最適速度等をそれぞれ設定する(S307)。この場合には、車両が対向車両の間を横切って(すり抜けて)右折する必要はないものとされる。したがって、最適速度・加速度設定部34は、例えば左折時よりも小さくなるように右折時の最適速度等を設定する。これにより、交差点の直進時、左折時、右折時の順で小さくなるように最適速度等が設定される。また、最適速度・加速度設定部34は、ブレーキペダル開放時の角速度(開放角速度)に比例して大きくなるように、右折時の最適加速度を設定する。
これに対し、S306において角速度が開放基準値を超えると判定された場合、最適速度・加速度設定部34は、車両が交差点を対向車両の間を横切って(すり抜けて)右折するものとして、最適速度および最適加速度をそれぞれ設定する(S308)。例えば、最適速度・加速度設定部34は、交差点の通常の右折時(S307)よりも大きく、左折時と同程度にすり抜け右折時の最適速度を設定する。また、最適速度・加速度設定部34は、ブレーキペダル開放時の角速度(開放角速度)に比例して大きくなるように、すり抜け右折時の最適加速度を設定する。
そして、S304,S307,S308において、最適速度等が設定されると、最適速度・加速度設定部34は、車両におけるステアリングの舵角および舵角速度の少なくとも一方に基づいて、設定した最適加速度を調整する(S309)。最適速度・加速度設定部34は、例えばステアリングの舵角に比例して大きくなるように最適加速度を調整する。これにより、車両の回転半径が小さくなるほど最適加速度を小さくでき、より低速で車両を右左折させることができる。また、最適速度・加速度設定部34は、例えばステアリングの舵角が減少し、かつその角速度が増大している場合、最適加速度をより大きな値に調整する。これにより、交差点の出口、つまり右左折の終了に近づくにつれて、車両を加速させることができる。
最適速度等が設定された後、そして最適加速度が適宜調整された後、走行制御部35は、該最適速度および最適加速度に基づいて、車両を走行させる(S310)。すなわち、走行制御部35は、最適速度まで車両を最適加速度で加速させる。
続いて、走行シーン判定部33は、走行状況情報および周辺状況情報に基づいて、車両が交差点を通過したか否かを判定する(S311)。例えば、走行シーン判定部33は、周辺状況情報として信号機や右左折レーンの画像などが取得されていない場合、あるいは車両の現在位置が地図上で交差点と特定されていない場合、走行シーン判定部33は、交差点を通過した(直進、右左折が終了した)と判定する。
S311において交差点を通過していないと判定した場合、運転支援装置1(制御部3)は、S303以降の制御を適宜繰り返す。これに対し、S311において交差点を通過したと判定した場合、運転支援装置1(制御部3)は、交差点走行時における最適速度等設定走行処理を終了する。
このように交差点走行時における最適速度等設定走行処理を行うことで、運転支援装置1は、アクセルペダルレス車両であっても、次のような加速制御を自動で行うことができる。すなわち、交差点走行時において、車両の加速度を小さくし、車両の速度を低下させることができる。加えて、交差点の右左折時において、右左折時の車両の加速度を直進自の加速度よりも小さくし、車両の速度をさらに低下させることができる。これにより、交差点内での急な加速と速度超過(オーバースピード)を抑制し、右左折時における安全性を高めることができる。
また、交差点の右左折時において、左折時よりも右折時の最適速度等を低下させることで、右折時と左折時における車両の回転半径の違いを考慮した最適速度等とすることができ、右左折時においてよりスムーズに車両を加速させることができる。そして、ステアリングの舵角および舵角速度に基づいて、設定した最適加速度を調整することで、交差点の通過後に車両をスムーズに加速させることができる。加えて、対向車両の間を横切って(すり抜けて)交差点を右折する場合であっても、ブレーキペダルの操作だけで車両を大きく加速させることができる。
(第3の実施形態)
次に、低μ路走行時における最適速度等設定走行処理について、第3の実施形態として説明する。低μ路は、乾燥路と比べて車輪と路面との摩擦係数(μ値)が小さく滑りやすい走行路であり、例えば濡れた道路(ウエット路)、泥路、雪路、圧雪路、凍結路、砂利道などが該当する。低μ路の摩擦係数(μ値)の大きさ、端的には滑りやすさは、特に問わない。
図5には、低μ路走行時における最適速度等設定走行処理を行うための運転支援装置1aのブロック図を示す。図5に示すように、本実施形態の運転支援装置1aは、第1の実施形態の運転支援装置1(図1)が備える各部に加えて、路面状態検出部23と路面状態推定部36とを備えている。これら以外の運転支援装置1aの基本的な構成は、運転支援装置1と同様である。したがって、運転支援装置1と同様の基本的な構成については、図面上で同一符号を付して説明を省略する。
路面状態検出部23は、走行路の路面状態を検出する。本実施形態では、走行路の路面状態を乗員(運転者)が選択し、選択された路面の状態を検出する入力機構として、路面状態検出部23は構成されている。路面状態検出部23は、検出部2aに含まれる構成の1つであり、検出部制御部32によって動作が制御されている。
例えば図6に示すように、路面状態検出部23は、運転者が走行路の路面状態を適宜選択するためのスイッチやボタンなどとして構成される。図6に示す構成では、スイッチのつまみ23aを回すことで路面の状態が選択される。この場合、運転者は、乾燥路、ウエット路、泥路、圧雪路、凍結路の中から該当する路面状態(図6ではウエット路)を選択する。選択肢である乾燥路、ウエット路、泥路、圧雪路、凍結路の各選択肢には、各々に対応して摩擦係数(μ値)がそれぞれ設定されている。一例として、摩擦係数(μ値)は、乾燥路、ウエット路、泥路、圧雪路、凍結路の順に小さくなる。各選択肢とμ値の関係を示すマップは、演算処理部31の記憶装置(不揮発メモリ)に予め格納されている。なお、路面状態検出部23は、スイッチやボタンなどの他、例えばインパネやカーナビのモニタなどに路面状態を入力するような構成であってもよい。
路面状態推定部36は、制御部3aに含まれるプログラムの1つとして構成され、検出部制御部32、走行シーン判定部33、最適速度・加速度設定部34、および走行制御部35とともに、演算処理部31の記憶装置(不揮発メモリ)に格納されている。路面状態推定部36は、走行路の路面、より具体的には車両がこの先走行する前方の路面と車輪との間のμ値を推定する。路面状態推定部36の制御内容については、低μ路走行時における最適速度等設定走行処理(図7に示す制御フロー)に沿って説明する。
図7には、低μ路走行時に運転支援装置1aが行う最適速度等設定走行処理の制御フローを示す。
図7に示すように、路面状態推定部36は、路面状態検出部23が検出した、つまり運転者に選択された路面状態に基づいて、μ値(以下、第1の推定値という)を推定する。具体的には、路面状態推定部36は、路面状態検出部23で選択された選択肢(選択結果)に対応するμ値を記憶装置(不揮発メモリ)から読み出し、第1の推定値として取得する(S401)。
次いで、路面状態推定部36は、周辺状況情報(車両周辺状況検出部22の検出結果)に基づいて、μ値(以下、第2の推定値という)を推定する。例えば、路面状態推定部36は、走行路の路面状態を撮像した画像を解析し、第2の推定値を取得(推定)する(S402)。その際、路面状態推定部36は、インターネット接続によって取得した気象情報などを車両周辺状況検出部22から取得し、天気や気温などを画像情報に加味して第2の推定値を推定してもよい。第2の推定値は、走行路における前方の路面のμ値に相当する。
さらに、路面状態推定部36は、走行状況情報(車両情報検出部21の検出結果)に基づいて、μ値(以下、第3の推定値という)を推定する。例えば、路面状態推定部36は、ブレーキユニット42におけるスタビリティコントロールの作動量や作動時間などの履歴から作動態様を解析し、第3の推定値を取得(推定)する(S403)。スタビリティコントロールの作動履歴は、車両が走行してきた走行路のμ値の実績である。すなわち、第3の推定値は、走行路における後方の路面のμ値に基づいて推定される。
そして、路面状態推定部36は、第1の推定値、第2の推定値、第3の推定値の中から走行路のμ値を1つ選択する。本実施形態では一例として、路面状態推定部36は、3つの推定値のうち最も小さな推定値(最低値)を選択し、これを走行路のμ値として推定する(S404)。ただし、選択基準は、最低値でなくともよく、例えば3つの推定値の中間値や平均値などとしてもよい。路面状態推定部36は、推定したμ値を走行路のμ値として走行シーン判定部33に与える。
走行路のμ値が推定されると、走行シーン判定部33は、車両の走行路が低μ路であるか否かを判定する(S405)。走行シーン判定部33は、走行路のμ値を所定の閾値(以下、低μ路基準値という)と比較し、例えば該μ値が低μ路基準値以下であるか否かを判定する。
かかる判定により、走行シーン判定部33は、フラグ(以下、低μ路フラグという)を設定する。低μ路フラグは、車両の走行路が低μ路であることを示すフラグである。例えば、S405においてμ値が低μ路基準値以下であると判定した場合、走行シーン判定部33は、低μ路フラグをONに設定する(S406)。これに対し、S405においてμ値が低μ路基準値を超えると判定した場合、走行シーン判定部33は、低μ路フラグをOFFに設定する(S407)。低μ路フラグの初期値は、OFFである。低μ路フラグの設定値は、例えば、演算処理部31のメモリに格納され、走行シーン判定部33および最適速度・加速度設定部34の引数(プログラムのパラメータ)として適宜読み出される。
低μ路フラグがONに設定された場合、最適速度・加速度設定部34は、走行路が低μ路である、つまり車両が低μ路を走行するものとして、最適速度等を設定する(S408)。この場合、最適速度・加速度設定部34は、走行路のμ値に応じて最適速度等を設定する。例えば、最適速度・加速度設定部34は、乾燥路よりも小さく、走行路のμ値に比例するように最適速度等を設定する。これにより、走行路のμ値が小さくなるほど、設定される最適速度等も小さくなる。
一方、低μ路フラグがOFFに設定された場合、最適速度・加速度設定部34は、走行路が低μ路ではない(例えば乾燥路である)ものとして、該走行路の走行時における最適速度等をそれぞれ設定する(S409)。例えば、最適速度・加速度設定部34は、低μ路走行時よりも大きくなるように最適速度等を設定する。
最適速度等が設定されると、走行制御部35は、該設定速度等に基づいて、つまり走行路のμ値に基づいて、車両を走行させる(S410)。
続いて、走行シーン判定部33は、車両が低μ路を通過したか否か、つまり低μ路フラグがONに設定されているか否かを判定する(S411)。低μ路フラグがONであると判定された場合、運転支援装置1a(制御部3a)は、S401以降の制御を適宜繰り返す。これに対し、低μ路フラグがOFFであると判定された場合、運転支援装置1a(制御部3a)は、低μ路走行時における最適速度等設定走行処理を終了する。
このように低μ路走行時における最適速度等設定走行処理を行うことで、運転支援装置1aは、アクセルペダルレス車両であっても、次のような加速制御を自動で行うことができる。すなわち、車両の走行路のμ値に応じた最適な速度および加速度で車両を走行させることができる。したがって、例えば走行路が低μ路であっても、該低μ路において最適な速度および加速度で車両を走行させることができるため、車輪のスリップなどを抑制してより安定して車両を走行させることができる。これにより、ウエット路や雪路などの走行時における安全性を高めることができる。また、低μ路走行時においても自動での加速制御が可能となるため、アクセルペダルレス車両の運転に慣れた運転者が雪路や圧雪路などを走行する際の安全性を高めることができる。すなわち、例えば乾燥路と比べて運転の困難な雪路や圧雪路などをアクセルペダルレス車両で走行する場合に、運転支援(自動での加速制御)がなされずに運転者が適切に対処できない状況に陥ることを有効に回避することが可能となる。
以上、本発明の実施形態(第1から第3の実施形態)を説明したが、これらは、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、本発明の実施形態(第1から第3の実施形態)では走行シーン判定部33によって判定された走行シーンに基づいて最適速度および最適加速度が設定されたが、これらを運転者が適宜設定するようにしてもよい。