以下、本発明の一実施形態に係る温度計について、図面を参照して説明する。本発明に係る温度計1は、図1、図2、および図3に示すように、温度計本体2と温度計本体2を収納するホルダ3とを備えるデジタル温度計であり、ホルダ3は、温度測定時に、ユーザが温度計本体2を保持する保持具として用いることができる。
温度計本体2は、温度センサ10を先端部20aに有する棒状の感温体20と、感温体20の後端側に結合され、温度センサ10からの信号に基づく温度を表示する温度処理表示部21と、温度処理表示部21に設けられた保持用の貫通孔22と、を備えている。感温体20は、先端が閉じた金属パイプであり、例えばステンレス合金で形成される。
温度処理表示部21は、角部に丸みを有する矩形平板形状を有し、先端側の端面に感温体20が結合され、後端寄りに長円形状の貫通孔22が配置されている。貫通孔22は、感温体20の長手方向に直交する方向に向けて開口し、その開口の長手方向が感温体20の長手方向に直交する方向に向くように、形成されている。温度処理表示部21は、その表側の面に、温度表示部21aと、電源をオンおよびオフするための電源スイッチ21bと、測定時に温度の瞬時値を固定して表示させるためのホールドスイッチ21cとを備えている。
温度表示部21aは、感温体20に直交する方向に長い長方形の表示部であり、例えば、液晶表示デバイスを用いて構成される。各スイッチ21b,21cは、温度表示部21aに沿って配列されている。温度処理表示部21は、樹脂成形されたケースに、感温体20や電子デバイスを取り付けて、または内蔵して組み立てられる。ケース用の樹脂には、例えばABS樹脂などが用いられる。電気的処理のための構成は後述する(図4、図5参照)。
ホルダ3は、感温体20を収納するための空洞部30xを有する筒状部30と、筒状部30の後端側に接続された、筒状部30よりも幅広の平板部31と、平板部31における筒状部30の中心軸に対向しない面に固定された平板状の磁石32と、備えている。平板部31は、温度処理表示部21をその背後から保護または支持する。また、平板部31は、温度測定をする際に、ユーザが手に持つための把持部としても用いられる。磁石32は、ホルダ3を磁力によって磁性体壁面などに固定するために用いられる(後述の図12参照)。
ホルダ3の筒状部30は、その先端側から後端側に向けて順に、貫通孔22に挿通される抜け止め部30aと、抜け止め部30aの断面よりも小断面のくびれ部30bとを筒状部30の先端寄りに有している。抜け止め部30aは、筒状部30の先端部分によって構成されている。くびれ部30bは、抜け止め部30aの後端に設けられ、抜け止め部30aの外周よりも短い外周を有する。抜け止め部30aと、くびれ部30bとは、いずれも、筒状部30の中心軸回りに形成された構造体であり、内部に空洞部30xを有する。
また、筒状部30は、くびれ部30bの弾性変形を容易とするため、筒状部30の中心軸に沿って、くびれ部30bとその前後に、スリット30dを有している。さらに、筒状部30は、筒状部30のくびれ部30bよりも後端側であって、スリット30dの位置から90°回転した外周位置に、回転位置合わせ用の目印30cを有している。目印30cは、1つでもよく、筒状部30の中心軸に対して互いに対角位置にあってもよい。この目印30cに対応して、温度計本体2の温度処理表示部21は、貫通孔22に近接する後端面の中央線に沿って目印22bを有している(図6参照)。
目印30cは、凹部や凸部などの構造で構成すればよく、また、色や模様により視覚的に構成してもよい。ホルダ3の筒状部30と平板部31は、例えば、樹脂による一体成形で作られる。樹脂には、例えばABS樹脂などが用いられる。
次に、図4、図5を参照して、温度計1の電気的な処理をするための構成を説明する。温度計1は、回路基板に電子部品を搭載して構成された制御部11、駆動源となる電池12、および各電気部品を電気的に接続する配線などを備えている。配線は、例えば、制御部11に、温度センサ10、電池12、温度表示部21a、電源スイッチ21b、ホールドスイッチ21cなどを接続する被覆線、フレキシブル回路基板、電池用の弾性金属板などである。温度計1は電気部品や電子部品が水分などで劣化しないように防水構造を備え、温度処理表示部21のケースは封止されている。温度処理表示部21は、温度表示部21aがある側とは反対側の面(裏面)に、電池12を交換する際に開け閉めされる、封止構造を有する電池蓋12aを有している。
制御部11は、温度センサからの信号を温度値に変換する処理、温度表示部21aを駆動して温度値を表示する処理、温度測定中にホールドスイッチ21cが押された時の温度表示を所定時間に渡ってホールドした表示状態にする処理などを行う。なお、ホールドスイッチ21cは、ホールド表示状態を解除するスイッチとしても用いられる。温度センサ10には、例えば、サーミスタ素子が用いられる。電池12は、例えば、標準市販品のボタン電池が用いられ、電池12は電池蓋12aを外して容易に交換可能である。なお、図4では、温度計本体2とホルダ3の筒状部30とが結合された状態(第1係合状態)が示されている。この第1係合状態については後述する。
次に、図6を参照して、温度計1の使用状態を説明する。ホルダ3は、その筒状部30の先端の抜け止め部30aを、温度処理表示部21の貫通孔22に挿通することにより、温度計本体2を保持する保持具として用いられる。温度計本体2とホルダ3とは、それぞれの長手方向の軸を互いに直交させた状態で、互いに結合される。この状態において、ユーザは、例えば、平板部31を手に持って、感温体20を上下方向に維持し、温度表示部21bを前方から正面に見て、温度表示部21bに左右水平方向にデジタル表示される温度を読み取ることができる。
次に、図7を参照して、温度計本体2とホルダ3とを結合させて温度計本体2をホルダ3によって保持するための手順と各部の構造を説明する。図7(a)(b)に示すように、抜け止め部30aは、筒状部30の中心軸に直交する面における抜け止め部30aの断面(図9(b)参照)が、その断面における直交2方向の一方向で長く他方向で短い不等形状を有している。矢印a3は、その断面における長手方向(長径方向ともいう)を示す。また、貫通孔22は、温度処理表示部21の後端側(図における上端側)に、長円形状に開口して形成されている。貫通孔22の開口は、左右に長い長円形状であり、矢印a2は、その長手方向(長径方向ともいう)を示す。
貫通孔22は、その内面に周方向に設けられた突条22aを有している。突条22aは、貫通孔22の内縁部、すなわち内側に出っ張った部分を形成する。突条22aは、本実施形態において貫通孔22の内周の全体に連続する閉曲線状に周設されている。突条22aの内縁が成す開口は、貫通孔22における最も狭い開口部分となる。突条22aは、閉曲線状に設けられているが、温度計本体2とホルダ3とを結合させるためには、このような形状に限られず、少なくとも貫通孔22の長円形状における上下にある長手方向(図示の左右方向)の突条だけであってもよい。
貫通孔22の内部における図示の左右方向に延びる上側と下側の突条22aは、貫通孔22を挿通される抜け止め部30aを形成する部材、または貫通孔22を形成する部材が変形しなければ通過できないように、空間の上下幅を制限している。抜け止め部30aは、このような幅が制限された空間に圧入される。貫通孔22の左右方向(矢印a2方向)については、貫通孔22の左右方向の開口幅が、抜け止め部30aの矢印a3で示される方向の幅よりも広いので、抜け止め部30aの挿入に対する規制はない。
抜け止め部30aは、スリット30dが上下に開口している上下の外面に、それぞれ平らな形状の肉取部30eを有している。これらの肉取部30eがあることにより、抜け止め部30aは、筒状部30の軸方向に直交する面による、抜け止め部30aの断面が、その断面における直交2方向の一方向(矢印a3の方向)で長く他の方向で短い不等形状となる。つまり、抜け止め部30aは、筒状部30の円形状の外形を有する部分よりも細く形成されている。
抜け止め部30aの構造をさらに説明する。抜け止め部30aの肉取部30eは、筒状部30の先端から所定長さに亘って、円筒の側面が平面状に中心軸側に後退した形状である。肉取部30eにおける平面上の面に直交する方向が、抜け止め部30aの上述の断面における、短手方向である。同様に、肉取部30eにおける平面上の面に平行かつ筒状部30の中心軸に直交する方向が、抜け止め部30aの断面における、長手方向(矢印a3)である。なお、肉取部30eは、本実施形態では、筒状部30の中心軸の両側に、互いに対向する態様で設けられているが、この態様に限られず、肉取部30eは、中心軸の片側だけに設けてもよい。
抜け止め部30aの後端面は、筒状部30の軸方向に直交する平面状とされている。抜け止め部30aの側面は、円柱状の表面および肉取部30eが形成する面からなる。この抜け止め部30aの側面と抜け止め部30aの後端面とは、互いに直交し、直角に切り立つエッジを構成する。このような抜け止め部30aの、後端面の外縁部分は、貫通孔22の突条22aに接して、引っ掛かり、抜け止めとなる部分である。
貫通孔22と抜け止め部30aは、それぞれ樹脂成形によって形成されており、そのいずれも弾性変形可能とされている。例えば、貫通孔22を形成する周辺の部材の厚みが、目印22bのある側において小さくなっており、弾性変形が容易とされている。また、筒状部30において、その弾性変形を容易にするために設けられているスリット30dの他に、筒状部30の先端に設けられた開口30fも、筒状部30の弾性変形を容易にする効果を有する。
くびれ部30bは、抜け止め部30aの後端面と筒状部30の円柱状の部分の端面との間に挟まれて、抜け止め部30aおよび筒状部30の円柱状の部分と同軸に形成された四角柱状体である。このようなくびれ部30bは、くびれ部30bの両端に隣接している抜け止め部30aおよび筒状部30の円柱状部分の断面よりも小さい断面を有し、抜け止め部30aの外形内に収まる外形を有する。くびれ部30bは、角部が適宜に面取りされた角柱形状を有する。このようなくびれ部30bは、温度計本体2とホルダ3とが結合された状態において、ホルダ3の中心軸回りの回転状態の変化を規制する規制部材となる。
筒状部30は、肉取部30eのある面を上下に配置して目印30cを横向きとした状態で、抜け止め部30aが貫通孔22に挿入される。すなわち、貫通孔22と抜け止め部30aの、それぞれの長手方向を表す矢印a2とa3とが、互いに平行とされた状態で、挿入が行われる。この挿入は、貫通孔22と抜け止め部30aとが弾性変形する状態で行われる圧入となる。抜け止め部30aが上下の突条22aの間を通過することにより、抜け止め部30aの挿通が完了する。
抜け止め部30aが上下の突条22aの間を通過する挿通が完了すると、抜け止め部30aと貫通孔22とに加えられていた、圧入のための圧力(圧縮応力)が解放される。すると、抜け止め部30aの後端面の外縁が上下の突条22aの内縁よりも外方に位置する様になり、抜け止め部30aの後端面の外形が突条22aの内縁が成す開口よりも、上下の部分において、拡がった状態になる。これにより、抜け止め部30aの後端面と、この後端面に接する突条22aの端面とが係合し、抜け止め部30aが貫通孔22から抜け出ることが規制され、温度計本体2とホルダ3とは、互いに結合された第1係合状態となる。
この第1係合状態において、貫通孔22の内縁部すなわち突条22aがくびれ部30bに嵌合した状態になる。また、この第1係合状態において、貫通孔22の長円形状の長手方向(矢印a2方向)と、抜け止め部30aの肉取部30eが形成する面に沿う方向(矢印a3方向)とは、互いに同方向である。
図7(b)に示す第1係合状態において、矢印Rで示すように、ホルダ3が筒状部30の中心軸回りに90°回転されると、温度計本体2とホルダ3とは、図7(c)に示す第2係合状態となる。この状態は、ホルダ3を保持具として用いて温度計1による温度測定がなされる状態である。第2係合状態において、温度処理表示部21における目印22bと、筒状部30における目印30cとが同一平面に含まれる状態となり、ユーザは、第2係合状態であることを容易に確認できる(図6参照)。この第2係合状態において、貫通孔22の長円形状の長手方向(矢印a2方向)と、抜け止め部30aの肉取部30eが形成する面に沿う方向(矢印a3方向)とは、互いに直交する方向となる。
抜け止め部30aにおける矢印a3の方向は、筒状部30の中心軸に直交する面における抜け止め部30aの断面の長手方向である。このため、第2係合状態では、突条22aの内縁が成す開口の上下方向の幅に対し、抜け止め部30aの後端面の外形の上下方向の幅が、第1係合状態から、さらに広がった状態になる。このため、抜け止め部30aの後端面と、これに接する突条22aの側面との重なりの面積が、第1係合状態の場合よりも大きくなる。つまり、第2係合状態は、第1係合状態よりも、抜け止め部30aと貫通孔22の突条22aとの係合の程度が大きくされた状態である。
次に、図8乃至図11を参照して、抜け止め効果と、筒状部30の90°回転操作とを説明する。図8(a)に示すように、貫通孔22は、筒状部30の回転を規制する方向である上下方向において、温度処理表示部21の背面側の開口寸法D1と、温度処理表示部21の前面側の開口寸法D3と、上下の突条22aの内縁間の寸法D2とを、特徴的寸法として有する。
また、筒状部30は、図8(b)(d)に示すように、その特徴的寸法として、筒状部30の円柱状の外形部の直径d0と、抜け止め部30aにおける肉取部30eのなす面間の寸法d1と、くびれ部30bにおける、肉取部30eのなす面に沿った方向の、対向する面間の寸法d2と、抜け止め部30aの長径方向の寸法d3(寸法d1の方向に直交する方向における抜け止め部30aの外形寸法)と、を有する。
さらに、温度計本体2にホルダ3が結合された状態で温度処理表示部21に対する筒状部30の前後方向の動きを規制するための構造寸法として、突条22aの前後方向の厚みWと、くびれ部30bの長さ(幅)wと、がある。くびれ部30bの長さwが突条22aの厚みWより大きく、かつ、その差が小さいほど、係合時における筒状部30の前後方向の遊びが少なくなる。
本実施形態において、抜け止め部30aは、筒状部30の円柱状部分と同じ直径d0を有する円柱状部分に肉取部30eを形成した構造とされている。従って、抜け止め部30aの長径方向の寸法d3は筒状部30の円柱状部分の直径d0と同じである(d3=d0)。また、本実施形態において、温度処理表示部21の背面側における貫通孔22の開口寸法D1と、温度処理表示部21の前面側における貫通孔22の開口寸法D3とは同じとされている(D1=D3)。しかしながら、例えば、寸法d3は、寸法d0よりも大きくしてもよく、大きくする場合は、温度処理表示部21の背面側における貫通孔22の開口寸法D1を寸法d3に対応させて大きくすればよい。
各寸法の関係を不等式で示すと、温度処理表示部21において、貫通孔22の各開口寸法D1,D3よりも、突条22aの内縁間の寸法D2が小さい(D1,D3>D2)。また、筒状部30において、筒状部30の円柱状の外形部の直径d0よりも、抜け止め部30aにおける肉取部30eのなす面間の寸法d1が小さく、さらに、寸法d1よりも、くびれ部30bにおける対向する面間の寸法d2が小さい(d0,d3>d1>d2)。また、各構成部品相互間では、貫通孔22内の突条22aに、抜け止め部30aが圧入によって挿通されることから、突条22aの内縁間の寸法D2よりも、抜け止め部30aにおける肉取部30eのなす面間の寸法d1が大きい(D2<d1)。
また、このような寸法の他の大小関係については、設計方針に基づいて適宜に設定することができる。例えば、くびれ部30bに対する突条22aの嵌合具合を強くする場合は、突条22aの内縁間の寸法D2よりも、くびれ部30bにおける対向する面間の寸法d2を大きく(D2<d2)して、突条22aがくびれ部30bを締め付けるように(くびれ部30bが突っ張るように)すればよい。また、くびれ部30bと突条22aとの嵌合強度は、突条22aの前後方向の厚みWと、くびれ部30bの長さwとを調整することにより調整できる。
図8(c)に示すように、抜け止め部30aが挿通された直後の状態である第1係合状態においては、抜け止め部30aを圧縮する負荷が無くなり、挿入時に変形していた貫通孔22と抜け止め部30aの形状がもとの寸法に復帰する。この状態では、突条22aの内縁間の寸法D2よりも、抜け止め部30aにおける肉取部30eのなす面間の寸法d1が大きい(D2<d1)という関係により、抜け止め部30aが突条22aによって抜け止めされて係合状態が維持される。この第1係合状態において、突条22aの内縁間の寸法D2とくびれ部30bにおける対向する面間の寸法d2、および温度処理表示部21の前面側における貫通孔22の開口寸法D3と筒状部30の円柱状の外形部の直径d0を、それぞれ互いに同じ程度の寸法(D2≒d2、およびD3≒d0)にすることにより、温度処理表示部21と筒状部30との結合状態を、互いにぐらつきの少ない、安定した状態にすることができる。
第1係合状態および第2係合状態のいずれの状態においても、抜け止め部30aと筒状部30の円柱状の部分とは、弾性変形を何ら生じることなく、貫通孔22内で筒状部30の中心軸回りの回転を自由に行える。これに対し、くびれ部30bは、四角形の対角線方向の径が対向2面間の距離よりも大きいので、くびれ部30bと突条22aの両方または何れかが弾性変形しなければ、筒状部30の中心軸回りに回転することができない。そこで、第1係合状態における温度処理表示部21と筒状部30は、このような弾性変形する状態を経て、図8(d)に示す第2係合状態となる。
上記のように、くびれ部30bは、温度計本体2とホルダ3とが結合された状態において、弾性変形を生じさせるための力が加えられなければ第1係合状態と第2係合状態との相互の状態変化を発生させないようにする規制部材として機能する。また、ユーザが力を加えて、例えば第1係合状態を第2係合状態とするとき、ユーザは、突条22aがくびれ部30bの対角線方向の角を乗り越える手応えを感じることができ、これにより、温度処理表示部21と筒状部30が第2係合状態に至った、という感覚を得ることができる。
図9(a)乃至図9(d)は第1係合状態にある筒状部30と突条22aとの関係を示し、図10(a)乃至図10(d)は第2係合状態にある筒状部30と突条22aとの関係を示す。第1係合状態においては、図9(b)に示すように、抜け止め部30aの断面における長径方向a3と、貫通孔に設けられた突条22aの断面における長径方向a2とが、互いに同方向にある。図中に、抜け止め部30aの長径方向の寸法d3、短径方向の寸法d1が示され、突条22aの開口の短径方向の寸法D2が示されている。
ここで、抜け止め部30aの短径方向の寸法d1と突条22aの開口の短径方向の寸法D2との差の半分を高さh1(h1=(d1-D2)/2)とする。この高さh1は、突条22aに対する抜け止め部30aの引っ掛かりの程度をあらわすので、抜け止め部30aと貫通孔22との係合の程度を表す指標となる。この指標は、大きい値になればなるほど、係合の程度が大きいことを表す。
図9(c)には、くびれ部30bにおける、肉取部30eのなす面に沿った面間の寸法d2と、この寸法d2の方向に直交する面間の寸法d4とが示されている。これらの寸法d2,d4は、本実施形態では、くびれ部30bの断面が突条22aの成す開口に丁度含まれるように設定されている。
図9(d)に示すように、筒状部30の円柱部分の断面には、突条22aの成す開口の領域から上下にはみ出した部分があり、この部分が突条22aに当接することにより、筒状部30の、貫通孔22への挿入が停止される。
第2係合状態においては、図10(b)に示すように、抜け止め部30aの断面における長径方向a3と、貫通孔に設けられた突条22aの断面における長径方向a2とが、互いに直交する方向にある。この第2係合状態において、抜け止め部30aと貫通孔22との係合の程度を表す指標は、抜け止め部30aの長径方向の寸法d3と突条22aの開口の短径方向の寸法D2との差の半分からなる高さh2(h2=(d3-D2)/2)である。
抜け止め部30aの長径方向の寸法d3が短径方向の寸法d1よりも大きい(d3>d1)ことから、係合の程度を表す指標である高さh1,h2については、第1係合状態における高さh1よりも第2係合状態における高さh2の方が大きい(h1<h2)。従って、第1係合状態よりも第2係合状態の方が、抜け止め部30aと貫通孔22との係合の程度が大きくなる。
図10(c)に示すように、図9(c)に示す第1係合状態からくびれ部30bが突条22aに対して90°回転した第2係合状態においても、くびれ部30bの断面は、突条22aの成す開口に丁度含まれている。これは、本実施形態では、抜け止め部30bの断面が正四角形状に設定されており、抜け止め部30bの各対向面間の寸法d2,d4が同じ(d2=d4)とされていることによる。これらの寸法d2,d4は、互いに同じである場合に限られず、例えば、寸法d2よりも,寸法d4を大きく(d2<d4)してもよく、この場合には、くびれ部30bが、突条22aの内部で突条22aに対して上下に突っ張った状態となる。
図10(d)に示すように、第2係合状態における、筒状部30の円柱部分と突条22aの成す開口との関係は、第1係合状態の場合(図9(d))と同じである。
図11(a)(b)(c)は、それぞれ、第1係合状態、遷移状態、第2係合状態における、突条22aの形状とくびれ部30bの形状の関係を示す。第1係合状態と第2係合状態において、くびれ部30bは突条22aに安定して挟持された状態にある。遷移状態においては、くびれ部30bを中心に軸方向に設けられたスリット30dの存在、および、感温体20を収納するための筒状部30におけるの空洞部30xの存在により、くびれ部30bの断面の対角線上にある角間距離が短くなるように、くびれ部30bが適宜に変形し、また、突条22aの上下方向の内径が適宜に拡大する。
遷移状態では、くびれ部30bの前後位置における抜け止め部30aと筒状部30の円柱状部分が弾性変形して、くびれ部30bにおけるスリット30dの隙間が狭められる。これにより、スリット30dを挟んで対向するくびれ部30bの各部は、それぞれ、筒状部30の中心軸に近付くように平行移動され、第1係合状態から第2係合状態への遷移が容易になる。なお、温度計1の各部の構成の説明において、便宜的に温度計本体2に対する上下、左右、前後などの用語を用いて説明したが、温度計1は、任意の空間姿勢で使用することができる。
本実施形態の温度計1によれば、ホルダ3を温度測定時における温度計本体2の保持具として用いるときに、温度計本体2の貫通孔22とホルダ3の筒状部30とは、筒状部30の抜け止め部30aが圧入により貫通孔22に挿通されて貫通孔22の内縁部が筒状部30のくびれ部30aに嵌合して係合された第1係合状態とされた後、ホルダ3が筒状部30の中心軸回りに回転されることにより、第2係合状態となる。この第2係合状態では、第1係合状態よりも、筒状部30の抜け止め部30aと貫通孔22との係合の程度が大きくなるので、温度計本体2がホルダ3から外れ落ちにくくすることができる。また、第2係合状態では、筒状部30の先端部分から成る抜け止め部30aと貫通孔22とが係合されるので、ホルダ3を持ち替えることなく簡単な操作で温度計本体2とホルダ3とを結合させることができ、利便性が向上する。
また、従来の温度計は、図15(b)におけるホルダ92の小径部92aを貫通孔91eに挿通した状態では、温度計本体91のホルダ92に対する軸方向の位置と軸回りの回転位置とが不定である。これらの位置は、温度計本体91を大径部92bの位置まで移動させ、大径部92bが貫通孔91eに係合されて初めてロックされる。このように、従来の温度計は操作が煩雑な1段階のロックであるのに対し、本実施形態による温度計は、操作が簡単かつ2段階のロックで、温度計本体2をホルダ3で簡便に保持でき、利便性よく使用できる。
次に、図12を参照して、温度計1の未使用時の保管について説明する。温度計1は、温度計本体2がホルダ3に収納された状態で保管される。図12(a)(b)に示すように、ホルダ3は、その平板部31における、筒状部30の中心軸に対向しない面に備えている、固定用の磁石32を用いて、冷蔵庫の扉表面などのような磁性体面に吸着させて固定し、保管することができる。温度計1は、このような保管状態において、その温度表示部21aが正面を向いているので、室温を測定し表示する温度計としても用いることができる。また、ホルダ3を保持具として用いずに、温度計本体2を手で持って温度測定をする場合には、図12(c)に示すように、ホルダ3から温度計本体2だけを取り出して用いることができる。
次に、図13(a)(b)(c)を参照して、本実施形態の温度計1の変形例を説明する。この変形例の温度計1は、図13(b)に示すように、温度処理表示部21における貫通孔22の周辺の厚みW’が薄く、上述の実施形態における突条22aの前後方向の厚みWと同じ(W’=W)に設定されている。第1係合状態と第2係合状態のいずれにおいても、貫通孔22の内縁がくびれ部30bに嵌合して、抜け止め部30aと貫通孔22とが係合する。
上記の実施形態、およびその変形例において、貫通孔22の開口形状が長円形状である旨説明したが、この長円形状は、楕円形状、長丸形状、長方形の角部に丸みを備えた形状、さらには単なる長方形の形状などを含む広い概念のものである。また、突条22aの断面形状は、図8に示した半円形のようなものに限られず、断面が四角形状のものであってもよい。
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、肉取部30eは、平らに形成された形状に限られず、抜け止め部30aが挿通される貫通孔22の内縁すなわち突条22aの内縁の形状に相似の外縁形状を有するものとしてもよい。抜け止め部30aは、筒状部30の先端から所定長さに亘って、円筒の側面が平面状に中心軸側に後退した形状の肉取部30eを有する場合に限られず、円筒の側面が凸曲面状に中心軸側に後退した形状の肉取部30eを有してもよい。肉取部30eが平らな場合は製造が簡単である。肉取部30eの外縁が突条22aの内縁に相似の形状である場合は、第1係合状態における係合の程度を表す高さh1(図9(b)参照)を大きくすることができる。
また、抜け止め部30aを貫通孔22に挿入して第1係合状態とするためには、貫通孔22と抜け止め部30aの両方が弾性変形可能である必要はなく、いずれか一方が弾性変形可能であればよい。同様に、第1係合状態から第2係合状態とするためには、貫通孔22またはくびれ部30bの少なくとも一方が弾性変形可能であればよい。くびれ部30bを弾性変形容易とするためのスリット30dは、筒状部30の中心軸の両側に設ける場合に限られず、片側だけに設けるようにしてもよい。
上記実施形態において、貫通孔22の開口形状は、温度計本体2の長手方向に沿った長さが短い場合の構成を示したが、貫通孔22の開口形状は、このような構成にかぎられず、温度計本体2の長手方向に沿った長さが、長手方向に直交する方向に沿った長さと異なり、かつ開口の短い方の長さが抜け止め部30aを圧入可能な長さであればよい。
また、貫通孔22の変形性を用いる場合、貫通孔22を形成する部材のうち、目印22bが設けられた梁状部分に、1箇所または数カ所の切り込みや連続した小断面部分などを設けて、抜け止め部30aの挿通やくびれ部30bの回転の際に、貫通孔22が適切に変形できるようにしてもよい。また、貫通孔22は、外周が閉じた貫通孔に限られず、切断部分を有する、断面がC字状の貫通孔であってもよい。