以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る誘導加熱コイル1の斜視図である。図2は、誘導加熱コイル1の側面図である。図3は、誘導加熱コイル1の平面図である。図4は、誘導加熱コイル1のコイル部3の周辺を平面視した状態での断面図である。図5は、コイル部3の周辺を側面視した状態での断面図である。図6は、誘導加熱コイル1のコイル部3の周辺を拡大した斜視図である。
なお、以下では、誘導加熱コイル1の正面と向かい合った状態で当該誘導加熱コイル1を見た場合における、上下、前後および左右を、それぞれ、上下、前後および左右という。
図1~図3を参照して、誘導加熱コイル1は、シャフトなどの金属製の軸である被処理物100に焼入処理などの熱処理を行うために用いられる。被処理物100として、自動車のステアリングシャフトのインターミディエートシャフト、および、歯車を例示することができる。誘導加熱コイル1は、商用電源などから与えられる電力によって、被処理物100を誘導加熱し、当該被処理物100を熱処理する。
誘導加熱コイル1に与えられる電力の電流値は、たとえば、数千アンペアであり、極めて大きい。このため、誘導加熱コイル1に電気抵抗率の不連続な箇所があると、その部分での熱による膨張・収縮による疲労破壊が生じ易い傾向にある。そこで、本実施形態では、このような疲労破壊を生じにくい誘導加熱コイル1が採用されている。
誘導加熱コイル1は、導電性および熱伝導性に優れる材料を用いて形成されている。このような材料として、純銅、および、無酸素銅を例示することができる。本実施形態では、誘導加熱コイル1は、金属積層造形法を用いて形成されている。すなわち、誘導加熱コイル1は、予め別個に形成された複数の金属部材をろう付けなどによって一体に組み合わされた構成ではない。誘導加熱コイル1の製造方法については、後で詳細に説明する。
誘導加熱コイル1は、全体として、前後に細長い形状に形成されており、側面視において略L字状に形成されており、平面視において、略T字状に形成されている。また、誘導加熱コイル1は、左右対称な形状に形成されている。
誘導加熱コイル1は、電力供給部2と、コイル部3と、絶縁体4と、冷却水路5と、を有している。本実施形態では、電力供給部2、コイル部3、および、冷却水路5は、単一の部材を用いて一体に形成されている。
電力供給部2は、図示しない電源からの電力をコイル部3に供給するとともに、コイル部3を冷却するための冷却水をコイル部3に循環させるために設けられている。
電力供給部2は、第1分割体6Rと、第2分割体6Lと、を有している。
第1分割体6R、および、第2分割体6Lは、左右対称な形状に形成されている。分割体6R,6Lは、それぞれ、後壁7と、本体8と、リブ9とを有している。
後壁7,7は、平板状に形成された部分であり、前後方向を向いている。各後壁7,7には、ポート10,10が設けられている。ポート10,10は、円筒状に形成されている。ポート10,10のうちの一方は、冷却水入口として設けられ、他方は、冷却水出口として設けられている。後壁7,7から、本体8,8が前方に延びている。
本体8,8は、側面視において略L字状に形成された部分であり、前後に細長く延びている。本体8,8は絶縁体4を挟んで左右に隣接している。本体8,8は、縦壁部11,11と、下壁部12,12とを有している。
縦壁部11,11は、それぞれ、四角柱状に形成されている。縦壁部11,11は、対応する後壁7,7の前面に連続しており、対応する後壁7,7の下端側に位置している。縦壁部11,11から、対応する下壁部12,12がそれぞれ前方に延びている。
下壁部12,12は、それぞれ、扁平な板状に形成されており、前後に細長い矩形の板状に形成されている。下壁部12,12の厚み方向は、上下方向である。下壁部12,12から、対応するリブ9,9が上方に延びている。
リブ9,9は、本体8,8を補強するように形成された板状部分であり、対応する縦壁部11,11および下壁部12,12の双方に結合している。リブ9,9の厚み方向は、左右方向である。リブ9,9の間に、絶縁体4が挟まれている。
絶縁体4は、本体8,8同士が直接接触することを防止する部分として設けられている。絶縁体4は、本体8,8間に配置されたシート状の部分であり、本体8,8に固定されている。分割体6R,6Lの一方からの電流は、コイル部3を介して、分割体6R,6Lの他方に流れる。
コイル部3は、被処理物100を取り囲んだ状態で当該被処理物100に誘導加熱を生じさせる部分として設けられている。コイル部3は、全体として、略円筒状に形成されている。コイル部3は、本体8,8の下壁部12,12の先端部に連続している。コイル部3は、電力供給部2の厚み(上下方向の長さ)よりも小さい厚みを有しており、また、電力供給部2から前方に突出する形状に形成されている。
本実施形態では、誘導加熱コイル1のうち絶縁体4を除く全体が積層造形法で形成されている。これにより、コイル部3と電力供給部2との接続部13は、熱応力の集中度合いが低減された形状を有している。すなわち、本実施形態では、誘導加熱コイル1のコイル部3、電力供給部2、および、冷却水路5は、金属積層造形法を用いて形成されている。金属積層造形法とは、たとえば、金属粉末を層状に敷く作業と、この層状の金属粉末の各位置に選択的に溶融する作業とを繰返すことで、所望の形状の金属製品を焼結作成する方法をいう。
コイル部3は、有端の環状に形成されており、一端部3aと他端部3bとを有している。一端部3aは、第1分割体6Rの下壁部12の先端に連続している。他端部3bは、第2分割体6Lの下壁部12の先端に連続している。
コイル部3の外周面3cは、有端の円筒状に形成されている。コイル部3の内周面3dは、外周面3cと平行な円筒状面3eと、円筒状面3eからコイル部3の上端面3gに向けて延びるテーパ状面3fとを有している。円筒状面3eは、有端の円筒状に形成されており、外周面3cとは同軸に配置されている。円筒状面3eの下端は、コイル部3の下端面3hに連続している。
テーパ状面3fは、円筒状面3eからコイル部3の上端面3gに進むに従い直径が大きくなる円錐テーパ状に形成されている。コイル部3の上端面3gおよび下端面3hは、それぞれ、平坦な面に形成されており、互いに平行に延びている。また、上端面3gおよび下端面3hは、それぞれ、コイル部3の中心軸線S1とは直交する向きに延びている。
本実施形態では、コイル部3の上端面3gと、下壁部12,12の上端面12a,12aとは、同一平面上に(面一に)配置されている。また、コイル部3の下端面3hと、下壁部12,12の下端面12b,12bとは、同一平面上に(面一に)配置されている。また、下壁部12,12の先端部は、平面視において、コイル部3の外周面3cの円筒形状に対応する円弧状に形成されている。
なお、本実施形態では、下壁部12,12の先端部とコイル部3との接続部13,13は、滑らかな連続した湾曲形状ではなく、不連続状の段差形状となっている。しかしながら、本実施形態では、誘導加熱コイル1は、金属積層造形法によって形成されており、高温時の熱応力による熱歪みの偏りが少なくされている。よって、分割体6R,6Lの下壁部12,12とコイル部3との接続部13,13における、熱応力に起因する強度低下は、十分に抑制されている。
コイル部3の上端面3gには、切除後部14が形成されている。切除後部14は、金属積層造形法による誘導加熱コイル1の形成時に所定の部分としてのコイル部3を支持するサポート部50(後述)が連結されていた部分である。切除後部14は、このサポート部50を切除した後の痕跡部分である。切除後部14は、たとえば、コイル部3の上端面3gの全面に形成されている。上記の構成を有する電力供給部2およびコイル部3には、冷却水路5が形成されている。
冷却水路5は、本発明の「冷媒通路」の一例である。冷却水路5は、コイル部3を冷却する冷媒としての冷却水が通過する部分として設けられている。本実施形態では、冷却水は、電力供給部2から誘導加熱コイル1内に進入し、コイル部3を通った後、電力供給部2に戻され、電力供給部2から誘導加熱コイル1の外部に排出される。冷却水路5は、電力供給部2およびコイル部3内に配置されている。
冷却水路5は、電力供給部側水路15と、コイル部側水路16と、を有している。
電力供給部側水路15は、電力供給部2内に形成された水路であり、コイル部側水路16への冷却水の供給、および、コイル部側水路16からの冷却水の排出を行う。電力供給部側水路15は、本発明の「電力供給部側水路」の一例である。
電力供給部側水路15は、第1分割体6Rに形成された第1水路21Rと、第2分割体6Lに形成された第2水路21Lと、を有している。
第1水路21Rは、コイル部側水路16への冷却水供給路として設けられている。第1水路21Rは、第1分割体6Rに設けられたポート10に開放されており、第1分割体6Rの後壁7内において、正面視でL字状に形成されている。第1水路21Rのうち、第1分割体6Rの後壁7内において左右に延びる部分21aRを機械加工によって形成するためには、通常、当該部分21aRと連続し後壁7の右端面に開放される加工用孔部を形成する必要がある。そして、この加工用孔部を塞ぐ金属プラグを設ける必要がある。しかしながら、本実施形態では、誘導加熱コイル1は、積層造形法によって形成されるので、このような金属プラグは不要である。
第1水路21Rは、第1分割体6Rにおいて、後壁7から本体8の縦壁部11に進むように延び、縦壁部11から下壁部12に延びている。第1水路21Rは、下壁部12内において、前後方向に沿って直線状に延びている。第1水路21Rは、下壁部12内において、前後方向と直交する断面形状(正面視における形状)が矩形状とされている。第1水路21Rの先端部は、下壁部12の先端部において、正面視矩形状に形成されており、コイル部側水路16と滑らかに連続している。第1水路21Rは、第2水路21Lと左右対称な形状に形成されている。
第2水路21Lは、コイル部側水路16からの冷却水の排出路として設けられている。第2水路21Lは、第2分割体6Lに設けられたポート10に開放されており、第2分割体6Lの後壁7内において、正面視でL字状に形成されている。第2水路21Lのうち、第2分割体6Lの後壁7内において左右に延びる部分21aLを機械加工によって形成するためには、通常、当該部分21aLと連続し後壁7の左端面に開放される加工用孔部を形成する必要がある。そして、この加工用孔部を塞ぐ金属プラグを設ける必要がある。しかしながら、本実施形態では、誘導加熱コイル1は、積層造形法によって形成されるので、このような金属プラグは不要である。
第2水路21Lは、第2分割体6Lの後壁7から本体8Lの縦壁部11に進むように延び、縦壁部11から下壁部12に延びている。第2水路21Lは、下壁部12内において、前後方向に沿って直線状に延びている。第2水路21Lは、下壁部12内において、前後方向と直交する断面形状(正面視における形状)が矩形状とされている。第2水路21Lの先端部は、下壁部12の先端部において、正面視矩形状に形成されており、コイル部側水路16と滑らかに連続している。上記の構成を有する第1水路21Rおよび第2水路21Lに、コイル部側水路16が接続されている。
図4~図6を参照して、コイル部側水路16は、コイル部3、特に、高温となるコイル部3の内周面3dの周囲を冷却するために設けられている。コイル部側水路16は、全体として、有端の円環状に形成された水路であり、コイル部3の中心軸線S1の周囲に形成されている。コイル部側水路16は、コイル部3の周方向C1におけるコイル部3の大部分に亘って形成されている。
コイル部側水路16は、入口31と、外周側面32と、内周側面33と、上面34と、下面35と、出口36と、第1拡張部37と、第2拡張部38と、を有している。
入口31は、第1水路21Rの先端部と滑らかに接続される部分として設けられている。入口31の形状は、第1水路21Rの先端部の形状と同じであり、本実施形態では、正面視矩形状に形成されており、且つ、周方向C1に沿って延びている。入口31と第1水路21Rの先端部との間には、段差が形成されておらず、入口31と第1水路21Rとの接続部において、熱応力に起因する歪みの偏りが抑制されている。
出口36は、第2水路21Lの先端部と滑らかに接続される部分として設けられている。出口36の形状は、第2水路21Lの先端部の形状と同じであり、本実施形態では、正面視矩形状に形成されており、且つ、周方向C1に沿って延びている。出口36と第2水路21Lの先端部との間には、段差が形成されておらず、出口36と第2水路21Lとの接続部において、熱応力に起因する歪みの偏りが抑制されている。
入口31と出口36との間には、外周側面32、内周側面33、上面34、および、下面35が延びている。
外周側面32については、コイル部3の周方向C1における当該外側側面32の両端部32a,32b以外の部分としての中間部32cが、円筒面の一部に相当する形状に形成されており、平面視において、略円弧状に形成されている。
外周側面32の一端部32aは、入口31との接続部であり、当該部分では、入口31側に向けて湾曲する滑らかな曲面を構成している。外周側面32の中間部32cの曲率中心は、コイル部3の中心軸線S1であるけれども、外周側面32の一端部32aの曲率中心A1は、電力供給部2とコイル部3との接続部13の近傍において、誘導加熱コイル1の外部に位置している。このように、外周側面32の中間部32cと一端部3aとの曲率中心(平面視においてコイル部3のうち凸部分の向く方向)が異なるように外周側面32を形成することで、入口31と外周側面32との接続部の周囲の形状を滑らかにすることができる。これにより、第1水路21Rとコイル部側水路16との接続部の周囲において、熱応力に起因する応力集中は、抑制される。外周側面32の他端部32bは、外周側面32の一端部32aとは左右対称な形状に形成されている。
外周側面32の他端部32bは、出口36との接続部であり、当該部分では、出口36側に向けて湾曲する滑らかな曲面を構成している。外周側面32の他端部32bの曲率中心A2は、電力供給部2とコイル部3との接続部13の近傍において、誘導加熱コイル1の外部に位置している。このように、外周側面32の中間部32cと他端部3bとの曲率中心(平面視においてコイル部3のうち凸部分の向く方向)が異なるように外周側面32を形成することで、出口36と外周側面32との接続部の周囲の形状を滑らかにすることができる。これにより、第2水路21Lとコイル部側水路16との接続部の周囲において、熱応力に起因する応力集中は、抑制される。外周側面32に取り囲まれるようにして、内周側面33が配置されている。
内周側面33は、入口31からコイル部3の中心軸線S1に向けて進んだ後、周方向C1に沿って延び、さらに、出口36に向けて進むように延びている。内周側面33は、一端部33aと、他端部33bと、中間部33cと、を有している。
内周側面33の一端部33aは、入口31からコイル部3の内周面3d側に向けて延びる部分として設けられている。平面視において、内周側面33の一端部33aは、入口31から遠ざかるに従い外周側面32の一端部32aから離隔するように延びる形状を有しており、コイル部3の一端部3aに向けて凸となる湾曲状に形成されている。内周側面33の一端部33aは、全体が滑らかに連続する面として形成されており、内周側面33の中間部33cに滑らかに接続されている。平面視において、内周側面33の一端部33aと中間部33cとの境界部33dは、コイル部3の中心軸線S1と外周側面32の一端部32aとを結ぶ仮想線L1の近傍に位置している。この境界部33dは、平面視において、コイル部3の内周面3dのテーパ状面3fと重なる箇所に配置されている。内周側面33の一端部33aとは左右対称に、内周側面33の他端部33bが配置されている。
内周側面33の他端部33bは、出口36からコイル部3の内周面3d側に向けて延びる部分として設けられている。平面視において、内周側面33の他端部33bは、出口36から遠ざかるに従い外周側面32の他端部32bから離隔するように延びる形状を有しており、コイル部3の他端部3bに向けて凸となる湾曲状に形成されている。内周側面33の他端部33bは、全体が滑らかに連続する面として形成されており、内周側面33の中間部33cに滑らかに接続されている。平面視において、内周側面33の他端部33bと中間部33cとの境界部33eは、コイル部3の中心軸線S1と外周側面32の他端部32bとを結ぶ仮想線L2の近傍に位置している。この境界部33eは、平面視において、コイル部3の内周面3dのテーパ状面3fと重なる箇所に配置されている。
内周側面33の中間部33cは、外周側面32の中間部32cと同心に形成されており、平面視において、円弧状に形成されている。上記の内周側面33の下端部と外周側面32の下端部とは、下面35によって接続されている。コイル部側水路16の下面35は、コイル部3の下端面3hと平行に延びている。また、上記の内周側面33の上端部と外周側面32の上端部とは、上面34によって接続されている。
コイル部側水路16の上面34は、下面35と同心に形成されており、平面視において有端円環状に形成されている。この上面34は、平坦面34aと、傾斜面34bとを有している。
平坦面34aは、コイル部3の上端面3gと平行に延びている。この平坦面34aは、外周側面32の上端部の全域と連続しており、且つ、内周側面33の両端部33a,33bと連続している。コイル部側水路16の傾斜面34bは、コイル部側水路16の平坦面34aの内周部から、内周側面33に向けて延びる傾斜状に形成されている。内周側面33は、平坦面34aから内周側面33側に進むに従い下方に進む傾斜状に延びる、テーパ状に形成されている。周方向C1におけるこの傾斜面34bの一端部は、内周側面33の一端部33aに連続している。周方向C1におけるこの傾斜面34bの他端部は、内周側面33の他端部33bに連続している。
上記の構成により、コイル部側水路16の入口31の近傍には、第1拡張部37が形成されており、コイル部側水路16の出口36の近傍には、第2拡張部38が形成されている。
冷却水の進行方向F1と直交する断面において、入口31での断面積よりも、第1拡張部37での断面積が大きくなっている。そして、第1拡張部37から進行方向F1の下流側に進むと、外周側面32の中間部32cにおける、コイル部側水路16の断面積は、第1拡張部37における断面積よりも小さくなっている。すなわち、コイル部側水路16は、入口31の周囲で進行方向F1と直交する断面での断面積が一旦拡がり、その後、当該断面積が縮小するような複雑な形状を有している。
上記と同様にして、冷却水の進行方向F1と直交する断面において、外周側面32の中間部32cにおける、コイル部側水路16の断面積は、第2拡張部38における断面積よりも小さくなっている。そして、第2拡張部38においては、進行方向F1と直交する断面積が、出口36での断面積よりも大きくなっている。すなわち、コイル部側水路16は、外周側面32の中間部32cから第2拡張部38に進むと、進行方向F1と直交する断面での断面積が一旦拡がり、その後、当該断面積が出口36で縮小するような複雑な形状を有している。
以上の構成により、電力供給部側水路15とコイル部側水路16との接続部13は、冷却水の進行方向F1に進むに従い、連続的に断面積が変化している。以上が、誘導加熱コイル1の概略構成である。次に、誘導加熱コイル1の製造システム、および、誘導加熱コイル1の製造方法について説明する。
[誘導加熱コイルの製造システム]
図7は、誘導加熱コイル1を製造するための製造システム40の模式図である。図7に示すように、製造システム40は、CAD(Computer Aided Design)装置41と、データ変換装置42と、製造装置43と、を有している。
CAD装置41は、例えば、画面上で画像を3次元的に表示することが可能な3D-CAD装置である。本実施形態では、CAD装置41は、コンピュータと、当該コンピュータにインストールされたソフトウェアと、を含んでいる。誘導加熱コイル1の設計者は、CAD装置41を操作することにより、誘導加熱コイル1を作成するためのCADデータ(画像データ)を作成する。CAD装置41で作成されたCADデータは、データ変換装置42へ出力される。
データ変換装置42は、CADデータを、製造装置43を動作させるためのデータに変換する装置として設けられている。本実施形態では、データ変換装置42、コンピュータと、当該コンピュータにインストールされたソフトウェアとを含んでいる。
データ変換装置42は、例えば、CADデータによって特定される誘導加熱コイル1の3次元画像を、コイル部3の上下方向に沿って所定の間隔毎にスライスして得られる複数のレイヤー画像(2次元画像)に分割し、当該複数のレイヤー画像のデータを保持する。上記所定の間隔は、製造装置43において、積層される金属粉末1層分の厚みに相当し、たとえば、数十μm程度である。上記複数のレイヤー画像のデータは、製造装置43へ与えられる。
製造装置43は、金属粉末を溶融および焼結するための装置である。本実施形態では、製造装置43、たとえば、選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting)法によって、誘導加熱コイル1を形成する。本実施形態では、製造装置43は、レーザー光源44と、制御部45と、可動台46と、粉末供給部47と、を有している。
レーザー光源44は、金属粉末に熱エネルギーを与えるために設けられている。尚、レーザー光源44からのレーザー光線は、レーザー光源44自体が図示しない駆動装置を用いて変位させられることにより、金属粉末の所望の位置に照射されてもよいし、レーザー光源44は固定された状態で、ガルバノメーターミラーを用いて所望の位置に照射されてもよい。レーザー光源44は、制御部45よって制御される。
制御部45は、CPU、RAMおよびROM等を含んでおり、データ変換装置42らデータを与えられる。制御部45は、レーザー光源44、可動台46および粉末供給部47を制御する。より具体的には、制御部45は、データ変換装置42から与えられた画像データを基に、金属粉末の所定箇所へのレーザー光線の照射量を決定し、決定した照射量に基づいて、金属粉末の所定箇所へレーザー光線を照射する。尚、レーザー光線の照射量は、データ変換装置42で設定されてもよい。
レーザー光線が照射される金属粉末は、可動台46に載置される。可動台46は、金属粉末を保持するために設けられている。可動台46は、例えば、略水平な上面を有しており、当該上面に金属粉末が載置される。また、可動台46は、図示しない駆動機構を有しており、上下方向に変位可能である。可動台46には、粉末供給部47から金属粉末が供給される。
粉末供給部47は、金属粉末を収容する収容部と、金属粉末を可動台46に供給する供給部と、を有している。粉末供給部47は、前述した所定の間隔に相当する厚み(本実施形態において、数十μm)の金属粉末層を可動台46上に形成する。
[誘導加熱コイルの製造工程]
次に、誘導加熱コイル1を製造する工程について、図8などを参照しながら説明する。図8は、誘導加熱コイル1の製造工程の一例について説明するためのフローチャートである。なお、以下では、フローチャートを用いて説明する場合、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
図8を参照して、誘導加熱コイル1を製造する際には、まず、設計者が、CAD装置41を用いて、誘導加熱コイル1のCADデータを作成する(ステップS1)。
次に、設計者は、製造装置43における、誘導加熱コイル1の積層造形時の金属粉末の積層方向を設定する(ステップS2)。本実施形態では、たとえば、誘導加熱コイル1が下向きで完成するように、積層方向が設定される。次に、製造装置43は、CADデータを用いて、誘導加熱コイル1を金属積層造形法によって作成する(ステップS3)。このステップS3は、本発明の「積層造形工程」の一例である。これにより、誘導加熱コイル1が完成する。次いで、後処理工程において、誘導加熱コイル1に形成されたサポート部50が除去される(ステップS4)。
次に、製造装置43を用いた積層造形工程(ステップS3)について、より具体的に説明する。図9は、積層造形工程の一例について説明するためのフローチャートである。図9を参照して、積層造形工程では、まず、データ変換装置42が、CAD装置41で作成されたCADデータによって特定される誘導加熱コイル1の三次元画像を、所定の厚み毎に複数のレイヤーに分割する。そして、データ変換装置42は、各レイヤーの画像データを、製造装置43の制御部45へ出力する(ステップS11)。制御部45は、各レイヤーの画像データを読み込み、各レイヤーの各画素(可動台46の各位置に相当)について、レーザー光線の照射量を設定する(ステップS12)。
次に、制御部45は、粉末供給部47を駆動させる。これにより、粉末供給部47は、図10(a)に示すように、可動台46の上面に、前述した所定厚みの金属粉末層51を形成する(ステップS13)。即ち、金属粉末が準備される。次いで、制御部45は、レーザー光源44を駆動させる。これにより、レーザー光源44は、制御部45設定されたレーザー光線の照射量に従って、金属粉末層51所定箇所に、レーザー光線を所定量照射する(ステップS14)。これにより、図10(b)に示すように、金属粉末層51の一部が溶融されることで、当該一部が焼結される。
次に、制御部45、全てのレイヤーに関連して焼結作業が行われたか否かを判定する(ステップS15)。焼結作業が完了していない場合(ステップS15でNo)、制御部45は、可動台46を駆動させ、金属粉末層51の厚みと同じ値だけ、可動台46を下方に変位させる(ステップS16)。
制御部45は、再び、粉末供給部47を駆動させる。これにより、粉末供給部47は、再び金属粉末層を形成する(ステップS13)。次いで、制御部45は、レーザー光源44を駆動させる。これにより、レーザー光源44は、制御部45で設定されたレーザー光線の照射量に従って、金属粉末層の所定箇所に、レーザー光線を所定量照射する(ステップS14)。これにより、金属粉末層の一部が溶融されることで、当該一部が焼結される。このように、金属粉末の溶融量を場所によって異ならせることで、誘導加熱コイル1のうち絶縁体4を除く各部を所望の密度で形成する。
製造装置43では、全てのレイヤーに関連して焼結作業が行われるまで、ステップS13~ステップS16が繰り返される。これにより、図10(c)に示すように、金属粉末層n、n+1、n+2、…、(nは正の整数)が積層され、誘導加熱コイル1が形成されていくこととなる。この積層工程においては、誘導加熱コイル1に加えて、サポート部50が形成される。
サポート部50は、電力供給部2から突出する突出としてのコイル部3が、積層工程での造形最中において金属粉末層51に対して自重で沈むなどの位置ずれを生じることを抑制するために設けられている。本実施形態では、誘導加熱コイル1は、上下反転した状態となるようにして製造装置43で形成される。このため、コイル部3は、サポート部50によって下方から支持された状態で、造形される。
そして、全てのレイヤーについて焼結作業が行われたと制御部45で判定された場合(ステップS15でYes)、焼結作業が完了する。図8を参照して、造形工程の後の後処理(ステップS4)は、可動台46上に形成された誘導加熱コイル1を作業者が可動台46から取り外し、誘導加熱コイル1に付着している不要な金属粉末を誘導加熱コイル1から除去する処理を含む。また、この工程においては、誘導加熱コイル1から、図示しないカッターなどを用いてサポート部50が取り外される。ステップS4は、本発明の「切除工程」の一例である。また、後処理工程(ステップS4)では、電力供給部2に絶縁体4が取付られる。これにより、誘導加熱コイル1が完成する。
以上説明したように、本実施形態によると、コイル部3内、および、電力供給部2内の冷却水路5は、金属積層造形法を用いて形成される。金属積層造形法であれば、金属粉末層51に選択的に熱を加えて溶融させた後にこの溶融金属が固まる作業が繰り返し行われることで、任意の立体形状を形成できる。よって、コイル部3内および電力供給部2内に形成される冷却水路5が複雑な形状であっても、電力供給部2およびコイル部3を単一部品で作ることができる。よって、コイル部3自体と、電力供給部2とコイル部3とを繋ぐために、電力供給部2とコイル部3との間のいずれにもろう付け部分が設けられる必要は無い。このため、熟練を要求されるろう付け作業が不要となる。その上、金属積層造形法であれば、機械的に精度良く同型状の誘導加熱コイル1を量産できる。よって、誘導加熱コイル1を均一の寸法で大量生産することが可能となる。
しかも、コイル部3自体の形成にろう付けが必要なく、さらに、コイル部3と電力供給部2とをろう付けする必要が無いので、ろう付け作業に起因するコイル部3自身の熱歪みと、電力供給部2と加熱コイル部3との間の熱歪みは、生じない。したがって、このような熱歪みを抑制するための専用の治具が不要であり、誘導加熱コイル1をより容易に製造できる。
さらに、ろう付け用の、上記の治具をセットするための作業が不要であるので、誘導加熱コイル1の生産効率を、より高くできる。その上、金属積層造形法であれば、形状の設定の自由度が高い。このため、被処理物100の最適な熱処理を達成するための、誘導加熱コイル1の形状の設定の自由度を高くできる。さらに、電気抵抗的に不連続な部分となるろう付け部分が不要であるため、コイル部3内および電力供給部2とコイル部3との接続部13における熱応力の偏りを少なくできる。よって、誘導加熱コイル1の寿命をより高くできる。
よって、本実施形態によると、誘導加熱コイル1を、より長寿命となるように製造できる。さらに、誘導加熱コイル1を、より容易に、且つ、より高い精度で製造でき、さらには、誘導加熱コイル1の生産効率をより高くすることができる。
また、本実施形態によると、積層造形工程の後の後処理工程で機械加工によって除去されるサポート部50の体積が小さく、誘導加熱コイル1の材料の歩留まりをより高くできる。その結果、材料コストの低減を通じて誘導加熱コイル1の製造コストを抑制できる。また、積層造形工程において、溶融される部分の密度に変化をつけることで、加熱コイル部3の軽量化を実現可能である。これにより、コイル部3の材料をより少なくできるので、誘導加熱コイル1の材料コストをより低減できる。また、コイル部3を支持する電力供給部2とコイル部3との接続部13に作用する応力の低下を通じて、誘導加熱コイル1の寿命をより向上できる。さらに、熟練の作業員が手作業で仕上げたコイル部の形状について、積層造形法で容易に再現(リバースエンジニアリング)も可能である。
また、本実施形態によると、金属積層造形法による誘導加熱コイル1の形成時には、誘導加熱コイル1のコイル部3を支持するサポート部50が形成される。そして、誘導加熱コイル1は、サポート部50を切除した後としての切除後部14を有している。この構成によると、サポート部50は、電力供給部2から突出する突出部としてのコイル部3が、金属積層造形法による造形最中において、金属粉末層51に対して自重で沈むなどの位置ずれを生じることを抑制するために用いることができる。これにより、誘導加熱コイル1の寸法精度を、より高くできる。
特に、本実施形態では、コイル部3は、電力供給部2の厚みよりも小さい厚みを有し電力供給部2から突出する形状に形成されており、サポート部50は、金属積層造形法による誘導加熱コイル1の形成時に、コイル部3を支持する。この構成によると、厚みの薄いコイル部3を有する誘導加熱コイル1を、より精度よく形成できる。
また、本実施形態によると、電力供給部側水路15とコイル部側水路16との接続部13は、冷却水の進行方向F1に進むに従い連続的に断面積が変化する。電力供給部2とコイル部3との接続部13では、形状の変化が大きく、局所的に熱応力が高くなり易い。このような接続部13の周辺において、冷却水路5の形状が、連続的に変化する形状となっている。これにより、上記接続部13での熱応力の偏りを抑制できる。よって、誘導加熱コイル1をより長寿命にすることができる。
また、本実施形態によると、コイル部3、電力供給部2、および、冷却水路5路は、単一の部材を用いて一体に形成されている。この構成によると、コイル部3自体と、電力供給部2とコイル部3との間のいずれにもろう付け部分が設けられる必要は無い。このため、ろう付け作業に起因する電力供給部2と加熱コイル部3との間の熱歪みは、生じない。したがって、このような熱歪みを抑制するための専用の治具が不要であり、誘導加熱コイル1をより容易に製造できる。さらに、ろう付け用の、上記の治具をセットするための作業が不要であるので、誘導加熱コイル1の生産効率を、より高くできる。さらに、電気抵抗的に不連続な部分となるろう付け部分が不要であるため、コイル部3内および電力供給部2とコイル部3との接続部13における熱応力の偏りを少なくできる。よって、誘導加熱コイル1の寿命をより高くできる。
また、本実施形態によると、加熱コイル部3および電力供給部2には、ろう付け部分が設けられていない。したがって、接続部13においても、ろう付け部分が設けられていない。このため、ろう付け作業に起因する加熱コイル部3および電力供給部2の熱歪みは、生じない。したがって、電気抵抗的に不連続な部分となるろう付け部分が不要であるため、加熱コイル部3および電力供給部2における熱応力の偏りを少なくできる。よって、誘導加熱コイル1の寿命をより高くできる。さらに、加熱コイル部3および電力供給部2は、導電性を備える同一の金属材料によって一体に形成されている。このため、複数の金属材料をろう付けすることで組み合わせて形成された従来のコイル部および電力供給部と比べて、単位体積あたりの加熱コイル部3内および電力供給部2内の全部位における電気抵抗率のばらつきが小さい。また、加熱コイル部3内および電力供給部2内の全部位において、単位体積(1mm3)当たりの電気抵抗率(Ω・m)のばらつきは、少なくとも10%以下であり、特に、本実施形態では、5%以下であり、また、銀ろうを用いて形成された場合のコイル部の電気抵抗率のばらつきの少なくとも1/2である。このため、加熱コイル部3および電力供給部2の熱による膨張、収縮において、加熱コイル部3内および電力供給部2内での膨張・収縮量のばらつきに差が生じ難い。よって、加熱コイル部3内および電力供給部2内での疲労破壊を抑制でき、加熱コイル部3および電力供給部2の長寿命化を通じて誘導加熱コイル1の寿命をより高くできる。
ここで、誘導加熱コイル1と、従来の誘導加熱コイル1’(図示せず)との定性的な比較をする。誘導加熱コイル1’は、電力供給部とコイル部とが別体に形成された後に、これら電力供給部とコイル部とがろう付けによって接合された構成を有しており、誘導加熱コイル1と略同じ形状を有する。
誘導加熱コイル1のうち、絶縁体4を除く各部の電気抵抗率は、約1.7×10-8Ω・mである。一方、誘導加熱コイル1’については、ろう付け部の電気抵抗率は、約9.1×10-8Ω・mであり、ろう付け部および絶縁体以外の各部の電気抵抗率は、約1.7×10-8Ω・mである。このように、誘導加熱コイル1’においては、ろう付け部とそれ以外の導電体との間で、電気抵抗率に約5倍の差がある。
誘導加熱コイル1の前後方向における、電力供給部2とコイル部3との接続部13の近辺での電気抵抗率のばらつき量Δ1は、図11(a)に示すように、約1%程度の小さい値となる。誘導加熱コイル1における電気抵抗率のばらつきは、ろう付けされた構成を有する誘導加熱コイル1’における電気抵抗率のばらつきと比較して少なくとも1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下の電気抵抗率にできる。なお、上記のばらつき量Δ1がゼロとはならない理由の一つとして、電力供給部2およびコイル部3を金属積層造形法で形成した際の材料内部の空隙率のばらつきが挙げられる。
ところで、JIS(日本工業規格)に規定されているJIS銀ろうのうち、BAG-1Aの成分配合は、Ag:50%、Cu:15.5%、Zn:16.5%、Cd:18%となっている。そして、このBAG-1Aの導電率(IACS)は、25%である。また、JISの銀ろうBAG-1の成分配合は、Ag:45%、Cu:15%、Zn:16%、Cd:24%となっている。そして、このBAG-1の導電率(IACS)は、19%である。
なお、上記の導電率は、IACS(International Annealed Copper Standard、国際焼きなまし銅線標準)で規定される標準焼きなまし銅線の導電率を100%とした場合の導電率の比である。すなわち、上記のBAG-1A、BAG-1の導電率は、銅の1/4~1/5程度であり、電気抵抗率が大きい。すなわち、ろう材料が用いられる誘導加熱コイル1’での電気抵抗率のばらつきと比べて、誘導加熱コイル1での電気抵抗率のばらつきも、格段に小さくできる。
なお、図11(a)は、第1実施形態に係る誘導加熱コイル1の各部の電気抵抗率を模式的に示すグラフであり、図11(b)は、比較例に係る誘導加熱コイル1’の各部の電気抵抗率を模式的に示すグラフである。図11(a)、図11(b)において、横軸は、各部の前後方向の位置を示しており、縦軸は、電気抵抗率の値を示している。
これに対し、誘導加熱コイル1’の前後方向における、電力供給部とコイル部との接続部の近辺での電気抵抗率のばらつき量Δ2は、図11(b)に示すように、数十%となる。よって、誘導加熱コイル1’では、当該誘導加熱コイル1’の加熱および冷却が繰返される度に、ろう付け部において大きな膨張・収縮が繰返され、疲労破壊が生じ易くなる。これに対し、本実施形態の誘導加熱コイル1では、ろう付け部が設けられていない。よって、誘導加熱コイル1では、当該誘導加熱コイル1の加熱および冷却が繰返されても、接続部13において大きな膨張・収縮が生じず、疲労破壊が生じ難い。よって、誘導加熱コイル1の耐久性が優れていることは、明らかである。
また、誘導加熱コイル1’の製造工程は、誘導加熱コイル1の製造工程と比べて煩雑となり、誘導加熱コイル1の製造は、格段に容易となる。より具体的には、従来の誘導加熱コイル1’製造工程は、(1)コイル部の設計、(2)ろう付け部の設計、(3)ろう付け時の歪みを抑制するための治具の設計、(4)この治具の製作、(5)電力供給部、および、コイル部のそれぞれの製作、(6)電力供給部とコイル部とのろう付け、(7)寸法精度を確保するための仕上げ加工、(8)ろう付け工程後の酸洗い(酸化膜除去)、の8工程が必要である。
なお、上記(2)のろう付け部の設計工程では、応力集中を可及的に避けるための設計について、熟練を要する。また、上記(5)の電力供給部、および、コイル部のそれぞれの製作工程では、各部品毎に機械加工が必要であり、歩留まりの低下(削りだしによる素材のロス)が生じる。また、上記(6)のろう付け工程では、ろう付けの失敗に伴うろう付けのやり直し作業ができず、作業員の熟練を要求される。また、上記(7)の仕上げ加工工程では、ろう付け工程で生じた熱歪みを除去するなどの手間がかかる。
これに対して、誘導加熱コイル1の製造工程は、前述したように、(1)設計工程(ステップS1)と、(2)造形方向設定工程(ステップS2)と、(3)積層造形工程(ステップS3)と、(4)サポート部50を除去するなどの後処理工程(ステップS4)の、僅か4つの工程で済む。
また、上記ステップS1~S3は、何れも、コンピュータを用いて行われるので、作業員による熟練度合いの影響を極めて抑制された状態で、精度の高い誘導加熱コイル1を高い歩留まりで量産できる。なお、上記(4)の後処理工程では、サポート部50が不要な部材として除去されるけれども、このサポート部50の量は僅かであり、誘導加熱コイル1の素材の歩留まりに与える影響は小さくて済む。
なお、上述の実施形態では、冷却水路5において、電力供給部側水路15と、コイル部側水路16との接続部13の周囲で、滑らかな形状が実現されていた。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、図12に示すように、冷却水路5において、電力供給部側水路15と、コイル部側水路16との接続部13の周囲で、段部13aが形成されていてもよい。
[第2実施形態]
図13は、本発明の第2実施形態に係る誘導加熱コイル1Aの斜視図である。図14は、図13のコイル部3を拡大して示す斜視図である。図15は、コイル部3の側面図である。図16は、コイル部3の平面図である。なお、以下では、第1実施形態と異なる構成について主に説明し、第1実施形態と同様の構成には、図に同様の符号を付して説明を省略する。
図13~図16を参照して、誘導加熱コイル1Aは、電力供給部2と、コイル部3と、絶縁体4と、冷却水路61と、第2冷却水路62と、を有している。誘導加熱コイル1Aのうち、絶縁体4以外の部分は、金属積層造形法を用いて形成されている。
冷却水路61は、コイル部3を冷却するための冷却水が通過する水路として設けられている。本実施形態では、冷却水は、電力供給部2から誘導加熱コイル1A内に進入し、コイル部3を通って電力供給部2に戻され、電力供給部2から誘導加熱コイル1Aの外部に排出される。本実施形態では、冷却水路61は、一様な断面形状を有している。すなわち、冷却水路61は、当該冷却水路61の進行方向F1と直交する断面形状が、進行方向F1の何れの箇所においても一定である。本実施形態では、冷却水路61の上記断面形状は、略真円の丸形状である。
冷却水路61は、電力供給部側水路63と、コイル部側水路64と、を有している。
電力供給部側水路63は、電力供給部2内に形成された水路であり、コイル部側水路64への冷却水の供給、および、コイル部側水路64からの冷却水の排出を行う。
電力供給部側水路63は、第1分割体6Rに形成された第1水路65Rと、第2分割体6Lに形成された第2水路65Lと、を有している。
第1水路65Rおよび第2水路65Lは、左右対称な形状に形成されている。第1水路65Rおよび第2水路65Lは、それぞれ、対応する分割体6R,6Lの下壁部12,12のうち対応するリブ9,9の下方に形成されており、前後方向に沿って直線状に延びている。各水路65R,65Lの断面積(進行方向F1と直交する断面での面積)は、第2冷却水路62の後述する電力供給部側第2水路73における断面積(進行方向F1と直交する断面での面積)よりも小さく設定されている。
第1水路65Rおよび第2水路65Lは、それぞれ、対応する後壁7,7の後方に開放されているとともに、コイル部側水路64の対応する第1直線状部66Rおよび第2直線状部66Lに接続されている。
コイル部側水路64は、第1直線状部66Rと、第2直線状部66Lと、起伏部67と、を有している。
第1直線状部66Rは、電力供給部側水路15の第1水路65Rに連続する部分であり、当該第1水路65Rと一直線上に延びている。第1直線状部66Rは、コイル部3の内周面3dのテーパ状面3fの下方において、起伏部67に接続されている。
第2直線状部66Lは、電力供給部側水路15の第2水路65Lに連続する部分であり、当該第2水路65Lと一直線上に延びている。第2直線状部66Lは、コイル部3の内周面3dのテーパ状面3fの下方において、起伏部67に接続されている。
起伏部67は、周方向C1に沿って進むに従い上下方向(コイル部3の厚み方向)に起伏する蛇行状の部分として形成されている。起伏部67は、コイル部3の内周面3dに隣接して配置されており、コイル部3のうち特に発熱量の多い内周面3d近傍の領域を冷却可能に構成されている。起伏部67は、コイル部3の内周面3dのテーパ状面3fの下方に位置している。
起伏部67は、入口部68と、複数の第1アーチ部69と、複数の第2アーチ部70と、出口部71と、を有している。
入口部68は、第1直線状部66Rに繋がる部分として設けられている。入口部68は、径方向内方に向かいつつ下方に延びるように形成されている。入口部68は、第1アーチ部69に接続されている。
本実施形態では、第1アーチ部69と第2アーチ部70とは、周方向C1に交互に配置されており、これら第1アーチ部69と第2アーチ部70との連続形状により、上下方向に起伏した起伏部67が形成されている。
第1アーチ部69は、コイル部3の径方向R1に沿って見たときにU字状に形成された部分である。第1アーチ部69は、コイル部3の下端部寄りに配置されている。第2アーチ部70は、コイル部3の径方向R1に沿って見たときに上下逆向きのU字状に形成された部分である。第2アーチ部70は、上下方向におけるコイル部3の中間部に配置されており、第1アーチ部69の上方に位置している。
前述したように、入口部68に、第1アーチ部69の一端が連続している。そして、第1アーチ部69の他端は、第2アーチ部70の一端に連続している。さらに、この第2アーチ部70の他端は、次の第1アーチ部69の一端に連続している。このようにして、周方向C1に沿って第1アーチ部69と第2アーチ部70とが交互に接続されている。そして、コイル部3の他端部3bにおいて、第1アーチ部69が、出口部71に接続されている。
出口部71は、第2直線状部66Lに接続される部分として設けられている。出口部71は、コイル部3の他端部3bにおける第1アーチ部69から径方向R1の外方に向かいつ上方に延びるように形成されている。上記の構成を有する冷却水路61に隣接して、第2冷却水路62が配置されている。
第2冷却水路62は、コイル部3によって誘導加熱された被処理物100を冷却するための被処理物用冷却水(被処理物用冷媒)が通過する水路として設けられている。第2冷却水路62は、噴射ノズル72に接続されており、第2冷却水路62を通過した冷却水は、噴射ノズル72から被処理物100へ噴射される。すなわち、被処理物100が誘導加熱コイル1Aによって加熱された後、この被処理物100に噴射ノズル72から冷却水が吹き付けられることで、被処理物100の焼入処理などが行われる。
第2冷却水路62は、第1実施形態の冷却水路5と同じ形状を有している。より具体的には、第2冷却水路62は、電力供給部側第2水路73と、コイル部側第2水路74と、を有している。
電力供給部側第2水路73は、電力供給部2内に形成された水路であり、コイル部側第2水路74への冷却水の供給を行う。
電力供給部側第2水路73は、第1分割体6Rに形成された第1水路75Rと、第2分割体6Lに形成された第2水路75Lと、を有している。
第1水路75Rは、コイル部側第2水路74への冷却水供給路として設けられている。第1水路75Rの形状は、誘導加熱コイル1の第1水路21Rの形状と同じであるので、詳細な説明は省略する。
第2水路75Lは、コイル部側第2水路74への冷却水供給路として設けられている。第2水路75Lの形状は、誘導加熱コイル1の第2水路21Lの形状と同じであるので、詳細な説明は省略する。上記の構成を有する第1水路75Rおよび第2水路75Lに、コイル部側第2水路74が形成されている。
コイル部側第2水路74は、噴射ノズル72に冷却水を供給するために設けられている。また、コイル部側第2水路74は、冷却水路61と協働してコイル部3を冷却するように構成されている。コイル部側第2水路74は、全体として、有端の円環状に形成された水路であり、コイル部3の中心軸線を中心として形成されている。コイル部側第2水路74は、冷却水路5の起伏部67を取り囲むように配置されている。コイル部側第2水路74の形状は、誘導加熱コイル1の冷却水路5のコイル部側水路16の形状と同じである。
より具体的には、コイル部側第2水路74は、入口31Aと、外周側面32Aと、内周側面33Aと、上面34Aと、下面35Aと、出口36Aと、第1拡張部37Aと、第2拡張部38Aと、を有している。
そして、入口31A、外周側面32A、内周側面33A、上面34A、下面35A、出口36A、第1拡張部37A、および、第2拡張部38Aの形状は、それぞれ、第1実施形態に係る誘導加熱コイル1の対応する入口31、外周側面32、内周側面33、上面34、下面35、出口36、第1拡張部37、および、第2拡張部38の形状と同じである。
上記の構成を有する第2冷却水路62においては、電力供給部側第2水路73からの冷却水が、コイル部側第2水路74に向けて流れ、さらに、当該コイル部側第2水路74から噴射ノズル72に流れる。
噴射ノズル72は、コイル部3が被処理物100の熱処理時に被処理物100と対向する部分に向けて開放されており、被処理物用冷却水を被処理物100へ噴射する。
噴射ノズル72は、周方向C1、および、上下方向(コイル部3の厚み方向)に沿って多数形成されている。本実施形態では、各噴射ノズル72は、径方向R1に沿って、コイル部側第2水路74からコイル部3の内周面3dに延びており、この内周面3dに開放されている。噴射ノズル72は、円柱状の空間を形成している。噴射ノズル72は、上下方向に等間隔に設けられ、且つ、周方向C1に等間隔に設けられている。
一部の噴射ノズル72は、冷却水路61の起伏部67を避けるようにして配置された筒状に形成されている。また、一部の噴射ノズル72は、起伏部67を貫通するように延びる筒状に形成されている。
以上説明したように、第2実施形態によると、冷却水路61の起伏部67は、周方向C1に沿って進むに従い、コイル部3の厚み方向に起伏するように延びている。この構成によると、コイル部3と冷却水との接触面積をより多く確保できる。よって、コイル部3で生じた熱を、より効率よく冷媒で吸収できるので、コイル部3の過熱による熱応力の偏りが生じることを、より確実に抑制できる。さらに、冷却水路61を細く(小型に)できる。このような立体的な複雑な形状の冷却水路61を有する誘導加熱コイル1Aの製造の容易さは、積層造形法を用いることで、顕著となる。
また、第2実施形態によると、噴射ノズル72は、被処理物用冷却水を被処理物100へ噴射可能である。この構成によると、コイル部3による誘導加熱によって加熱処理された被処理物100を、被処理物用冷却水によって冷却することができる。このように、冷却水路61に加えて第2冷却通路62を有する誘導加熱コイル1Aの製造の容易さは、積層造形法を用いることで、顕著となる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
(1)たとえば、上述の実施形態では、コイル部3が有端の円環状である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。コイル部3は、被処理物100を誘導加熱できる形状であればよく、たとえば、湾曲状部分を有する任意の形状であってもよいし、コ字状に形成されていてもよいし、螺旋状に形成されていてもよい。また、コイル部は、複数のリングがコイル部3の軸方向に並んだ形状(複数ターン形状)を有していてもよい。
(2)また、上述の実施形態では、周方向C1における電力供給部2とコイル部3との接続部13の両端部は、平面視において段差のある形状として設けられていたけれども、この通りでなくてもよい。たとえば、図17に示すように、接続部13は、加熱コイル部3側に進むに従い断面積が連続的に大きくなる形状に形成されていてもよい。この場合、接続部13の外側面13cは、滑らかな円弧状に形成されており、熱応力による応力集中がより生じ難くされている。
(3)また、上述の実施形態では、誘導加熱コイル1のうちの電力供給部2には、サポート部50が形成されない形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、電力供給部2およびコイル部3が完成時に横置き姿勢となる場合に、電力供給部2の下方にもサポート部50Bが設置されてもよい。
この電力供給部2およびコイル部3が横置き姿勢となるように形成される場合、図18(a)に示すように、サポート部50Bとともに、電力供給部2およびコイル部3が形成される。サポート部50Bは、電力供給部2およびコイル部3の下方にプレート状に形成される。そして、図18(a)において想像線である2点鎖線で示される、サポート部50Bと電力供給部2およびコイル部3との境界部55が、後処理工程で切削される。これにより、図18(b)に示すように、サポート部50Bが電力供給部2およびコイル部3から切除される。切除後部14Bは、この境界部55に相当する部分に形成される。境界部55は、下壁部12の下端面12bおよびコイル部3の下端面3hに位置している。
一方、電力供給部2およびコイル部3が縦置き姿勢となるように形成される場合、図19(a)の底面図に示すように、縦置きの姿勢でサポート部50B’とともに、電力供給部2およびコイル部3が形成される。サポート部50B’は、コイル部3の後方(図19(a)においては、コイル部3の下方)の空洞となる部分を埋めるように形成される。すなわち、サポート部50B’は、縦置き姿勢において、コイル部3の下方に位置する部分に形成され、コイル部3を支持する。そして、図19(a)において2点鎖線で示される、サポート部50B’と電力供給部2およびコイル部3との境界部55’が、後処理工程で切削される。これにより、図19(b)に示すように、サポート部50B’は、電力供給部2およびコイル部3から切除される。切除後部14B’は、コイル部3のうちこの境界部55’に相当する部分に形成される。境界部55’は、電力供給部2の下壁部12の側面およびコイル部3の後面に位置する。