JP7318981B2 - 高周波加熱装置用の加熱コイル - Google Patents

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Description

特許法第30条第2項適用 展示日時:令和 3年 4月 7日 展示会名:名古屋ものづくりワールド2021 第3回名古屋 次世代3Dプリンタ展 開催場所:ポートメッセ名古屋
本発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いられる加熱コイルに関するものである。
金属製の被加工物(ワーク)の表面際の部分の硬さを高めるために、金属の変態点(オーステナイト変態点)以上の温度まで被加工物の表面を加熱した後に急冷する加工(所謂、焼入れ加工)が行われている。そして、そのような焼き入れ加工を行うための方法として、高周波加熱装置を用いて、高周波電流を流した金属製の部材(加熱コイル)を被加工物の表面に近接させることによって被加工物を加熱する方法が広く採用されている。
従来の加熱コイルには、高周波電源に接地させる一対の接地部、被加工物に外嵌させるための環状のコイル部、および、それらの接地部とコイル部とを連結するための一対の連結部が設けられている。加えて、一般的な加熱コイルは、高周波電源の出力を高くした場合に、併設された一対の接地部間や一対の連結部間で絶縁破壊が生じる事態を防止するために、一対の接地部間や一対の連結部間に、合成樹脂からなる絶縁板を介在させている。
また、焼入れ加工においては被加工物の表面を金属の変態点以上の温度まで加熱した後に急冷しなければならないため、従来の加熱コイルの中には、特許文献1の如く、環状のコイル部の内部に冷却液流路を設けるとともに、その冷却液流路に充填した冷却液を被加工物に向けて噴射するための複数の噴射孔をコイル部の内周面に設けたものもある。
特開平6-279862号公報
しかしながら、特許文献1の如き従来の加熱コイルは、高周波電源の出力を高くすると、コイル部の発熱量が大きくなり、冷却液流路を流れる冷却液の温度が高くなってしまうため、被加工物の冷却効率が悪くなる、という不具合があった。また、特許文献1の如き従来の加熱コイルは、コイル部内に冷却液流路を設ける必要から複数の部品を銀ロウ等で接着することによって形成しなければならないため、高い出力条件の下で(高電圧の高周波電源を印可する加工条件で)使用し続けると、破損して冷却媒体が漏れ出す事態が発生し易い。さらに、特許文献1の如き従来の加熱コイルは、複数の部品をロウ付けすることによって形成しなければならないため、製造時に同一特性のものを再現性良く製造することが困難であり、そのことに起因して、加熱される被加工物の品質にバラツキを生じてしまう、という不具合もあった。
本発明の目的は、上記した従来の高周波加熱処理用の加熱コイルの問題点を解消し、高周波電源の出力を高くした場合でも、破損しにくく、被加工物の冷却効率が良好である上、製造時に同一特性のものを再現性良く安価かつ容易に製造することができる高周波加熱装置用の加熱コイルを提供することにある。
本発明の内、請求項1に記載された発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(以下、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法という)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(以下、導電性物質の溶融押出積層方法という)を用いて一体的に形成されたものであり、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部とを有しており、前記支持部および前記加熱部に、それらの部位を冷却するための第二冷却媒体流路が連なるように設けられているとともに、前記加熱部のみに、加熱後の被加工物を冷却するための複数の噴射孔を設けた第一冷却媒体流路が設けられており、かつ、その第一冷却媒体流路に、冷却媒体を注入するための注入管が直接的に設けられており、なおかつ、前記環状の加熱部が、上方から下方にかけて小径となる傾斜状の内周面を有しており、前記第二冷却媒体流路が、その傾斜状の内周面に沿うように、扁平な帯状に形成されたものであるとともに、前記噴射孔が、上方から下方にかけて内向きに傾斜した状態になっていることを特徴とするものである。
請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル(以下、単に加熱コイルという)は、環状の加熱部に、加熱後の被加工物を冷却するための第一冷却媒体流路と、加熱部自体を冷却するための第二冷却媒体流路とが別個に設けられているため、加熱後の被加工物の冷却と加熱部自体の冷却とを同時に効率良く実施することができる。その上、高い出力条件の下で使用し続けた場合でも破損しにくい。
また、請求項1に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、環状の加熱部が複雑な形状を有しているにも拘わらず、安価かつ非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、請求項1に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
請求項1に記載の加熱コイルは、加熱後の被加工物を冷却するための第一冷却媒体流路が加熱後の被加工物に冷却媒体を噴射するための複数の噴射孔を設けたものであるため、少ない冷却媒体で短時間の内に効率良く加熱後の被加工物を冷却することができる。
加熱部自体を冷却するための第二冷却媒体流路が第一冷却媒体流路の内側に設けた場合には、加熱部の内の電流が多く流れて高温になり易い部分の近傍を冷却媒体が流下するため、きわめて効率良く加熱部を冷却することができる。
請求項1に記載の加熱コイルは、環状の加熱部の内部のみならず、各支持部の内部にも、加熱部自体を冷却するための第二冷却媒体流路が形成されており、被加工物の加熱処理中に加熱部のみならず支持部も同時に冷却されるため、長時間に亘って高温のまま保持される部分が生じない。それゆえ、請求項4に記載の加熱コイルは、絶縁板の炭化・劣化等に起因した絶縁破壊や特定の部分への応力集中による破損等の事態が起こりにくいため、耐久性に優れており、高い出力条件の下でも長期間に亘って被加工物への加熱処理を繰り返すことができる。
加熱コイルの斜視図である。 加熱コイルの平面図(内部の第二冷却媒体流路を透視した平面図)である。 加熱コイルの右側面図(内部の第二冷却媒体流路を透視した右側面図)である。 加熱コイルの鉛直断面(図2におけるA-A線端面)を示す斜視図である。 加熱コイルの鉛直断面(図2におけるB-B線断面)を示す斜視図である。 加熱コイルの水平断面(図3におけるC-C線断面)を示す斜視図である。 加熱コイルの加熱部の背面図である。 加熱コイルを製造する様子を示す説明図である(aは平面図であり、bは鉛直断面図である)。
本発明に係る加熱コイルは、三次元プリンタを利用して三次元データに基づく造形方法によって一体的に形成されたものであることが必要である。かかる造形方法としては、三次元データに基づいて導電性物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(導電性物質の溶融押出積層方法)を採用することができる。なお、加熱コイルの造形方法として、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を用いると、複雑な形状・構造を有する加熱コイルを容易に製造することが可能となるので好ましい。
本発明において造形の原料として用いる導電性物質とは、実質的に磁性を有しておらず、かつ、良好な導電性を有する物質のことを言う。かかる導電性物質としては、銅、黄銅、銀等を挙げることができる。それらの導電性物質の中でも、銅を用いると、材料費等のコストの低減が可能となり、加熱コイルを三次元プリンタによって安価かつ容易に製造することが可能となる上、導電性がきわめて良好なものとなり、電磁誘導による発熱効率が高いものとなるので好ましい。
また、導電性物質として銅を用いる場合には、純銅を用いることも可能であるが、銅に、鉄、スズ、ニッケル、チタン、ベリリウム、ジルコニウム、クロム、ケイ素等を銅に比べて少ない割合で含有させた合金(高銅合金)を用いると、レーザの吸収を高めて温度上昇を促進することが可能となるので好ましい。さらに、それらの銅合金の中でも、銅にクロムを含有させた銅クロム合金を用いると、三次元プリンタによる製造効率を高く維持したまま加熱コイルの強度を効果的に高めることが可能となるのでより好ましく、銅に所定の割合でクロムおよびジルコニウムを含有させた合金(たとえば、98.71~99.45質量%の銅と、0.50~1.00質量%のクロムと、0.05~0.25質量%のジルコニウムとを含有するもの(高銅合金)等)を用いると、特に好ましい。
導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を利用して本発明に係る加熱コイルを造形する場合には、敷設された造形の原料(すなわち、導電性物質からなる粉末)をレーザあるいは電子ビームの照射によって溶融させる必要がある。その際のレーザとしては、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等を好適に用いることができるが、ファイバレーザ(すなわち、Yb等の希土類元素を添加した光ファイバをレーザ媒質として用いるレーザ)を用いると、小型の装置により高い出力で光軸にずれのないレーザ光を得ることが可能となり、寸法精度の高い加熱コイルを非常に効率良く製造することが可能となるので好ましい。
また、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法により加熱コイルを造形する場合のファイバレーザの出力、波長は、特に限定されないが、出力を400~1,000wの範囲内に調整し、波長を1,000~1,100nmの範囲内に調整すると、短時間での効率的な造形が可能となるので好ましい。また、導電性物質として銅(純銅)を用いる場合には、銅粉末におけるレーザの吸光率を向上させて加熱コイルの製造効率を高めるために、銅粉末中に、黒鉛と無機酸化物との混合粉末等からなる吸収剤を添加することも可能である。
また、本発明に係る加熱コイルは、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部とを有していることが必要である。各支持部は、各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状(あるいは棒状)のものであれば、その形状は特に限定されないが、電力印可時に放電現象が生じないように角部を面取りしたものであると好ましい。
一方、加熱部は、環状に形成されていることが必要であるが、円環状のものに限定されず、非円環状(たとえば、平面視が矩形状)のもの等でも良い。そして、本発明に係る加熱コイルにおいては、その環状の加熱部に、加熱後の被加工物を冷却するための第一冷却媒体流路と、加熱部自体を冷却するための第二冷却媒体流路とが別個に設けられていることが必要である。そのように、用途が異なる2種類の冷却媒体流路を併設することによって、加熱後の被加工物の冷却と加熱部自体の冷却とを同時に効率良く実施することが可能となる。
また、加熱後の被加工物を冷却するための第一冷却媒体流路は、加熱後の被加工物に冷却媒体を噴射するための複数の噴射孔を設けたものであると、加熱後の被加工物の冷却効率が一層向上するので好ましい。さらに、第二冷却媒体流路が第一冷却媒体流路の内側に設けられていると、第二冷却媒体流路内を流れる冷却媒体(冷却液等)が電気が多く流れて高温になり易い部分の近傍を流下することになるため、加熱部自体の冷却効率をより高くすることが可能となるので好ましい。
加えて、本発明に係る加熱コイルは、上記の如く、環状の加熱部の内部に2種類の冷却媒体流路が形成されており、環状の加熱部の形状が複雑であるにも拘わらず、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、非常に容易に製造することができる。
また、本発明に係る加熱コイルは、上記の如く、2種類の冷却媒体流路が形成されていることが必要であるが、各支持部の内部、あるいは、各接地部および各支持部の内部にも、加熱部の内部の冷却媒体流路と連なるように、冷却用の媒体を流下させるための一連の第二冷却媒体流路が形成されていると好ましい。当該第二冷却媒体流路は、左右の接地部、左右の支持部および加熱部の内部を繋ぐように設けられた単一のものでも良いし、加熱コイルの左右において、それぞれ、加熱部および各支持部の内部(あるいは、加熱部、接地部および支持部の内部)を繋ぐように設けられた2本のものでも良い。加えて、第二冷却媒体流路を、内壁に継ぎ目や所定の高さ以上(1.0mm以上)の段差のないものや、屈曲部分、連結部分がなだらかな曲線状(曲率半径が5mm以上の曲線状)に形成されたものとすると、冷却媒体の流下態様が非常にスムーズなものとなり、加熱コイルの冷却効率がきわめて良好なものとなるので好ましい。
[実施例1]
<加熱コイルの構造>
以下、本発明に係る加熱コイルの一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1~図7は、加熱コイルを示したものであり、加熱コイル1は、銅合金(高銅合金)によって一体的に形成されたコイル本体21、絶縁性および耐熱性を有する合成樹脂(フッ素樹脂)によってシート状に形成された絶縁板31、ネジ部材(図示せず)によって構成されている。そして、加熱コイル1は、縦(前後)×横(幅)×高さ=300mm×150mm×100mm(縦、横、高さとも最大部分の長さ)の大きさを有している。
コイル本体21は、後述する三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されたものであり、高周波電源の電極に当着させるための接地部2a,2b、誘導加熱により被加工物(ワーク)を加熱するための環状の加熱部4、および、各接地部2a,2bから離れた位置で加熱部4を支持するための支持部3a,3bを有している。なお、コイル本体21は、三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されているため、全体が同一色を呈しており、表面全体が同じ粗度(表面粗さ)になっている。
各接地部2a,2bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、片方の側面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。
また、各支持部3a,3bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、片方の板面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。そして、各支持部3a,3bの基端縁の部分が、左右の接地部2a,2bの内側の端縁際に連なり、各支持部3a,3bの板面が、各接地部2a,2bの板面に対して直交した状態になっている。また、各支持部3a,3bの側面の中央(前後方向における中央)上方には、それぞれ、円筒形の注入管7、および、排出管8が側方に突出するように設けられている。
<加熱部の構造>
一方、加熱部4は、被加工物Wを挿入させた状態で加熱するためのものであり、基端を左右に分離させたリング状(円環状)になっている。また、外周面は、鉛直状になっており、内周面は、上方から下方にかけて小径となるように傾斜状になっている。そして、図4の如く、内周面の下端際の部分が、上側の部分よりも内側へ突出した状態になっており、鉛直断面視において傾斜面と底面とが鋭角を成している。
また、加熱部4の内部には、冷却用の媒体(水等)を流下させることによって加熱後の被加工物Wを冷却するための第一冷却媒体流路5と、冷却用の媒体を流下させることによって加熱部4自体を冷却するための第二冷却媒体流路6とが、別々の空洞状に設けられている。第二冷却媒体流路6は、傾斜状の内周面に沿うように、扁平な帯状(鉛直断面が、幅広な長方形の各短辺を円弧状に膨出させた形状であるもの)に形成されている。
一方、第一冷却媒体流路5は、第二冷却媒体流路6と隣接するように、第二冷却媒体流路6の外側に周状に設けられている。また、第一冷却媒体流路5は、下方が上方より幅広になるように形成されており、鉛直断面視において略三角形状を成している。そして、内側の傾斜面が、第二冷却媒体流路6の外面と平行になるように隣接した状態になっている。さらに、加熱部4の底面には、加熱後の被加工物Wに冷却媒体を噴射するための断面円形(円柱状)の複数の噴射孔9,9・・が、二重の同心円を描くように等間隔状に設けられており、それらの噴射孔9,9・・の基端が、第一冷却媒体流路5と連通した状態になっている。なお、各噴射孔9,9・・は、上方から下方にかけて内向きに傾斜した状態になっている。
一方、加熱部4の上面および下面は、水平状になっており、上面の左右の対峙した位置には、それぞれ、外部から冷却媒体を注入するための注入管13a,13bが、鉛直方向に沿って上方に伸長するように設けられている。そして、加熱部4の基端の左右に分離した部分が、それぞれ、左右の支持部3a,3bの先端と繋がった状態になっている。
加えて、加熱コイル1は、加熱部4の内部の第二冷却媒体流路6が、加熱部4のみならず支持部3a,3bの内部にも形成されている(一連のものとして形成されている)。すなわち、冷却媒体流路6は、注入管7から左側の支持部3aの内部、加熱部4の内部(すなわち、左側の基端から先端部分を経由して右側の基端まで)、右側の支持部3bの内部を経由して右側の排水管8に至っている。なお、当該第二冷却媒体流路6は、左右の支持部3a,3bの内部においては、それぞれ、上側水平部6α、鉛直部6βおよび下側水平部6γを形成した状態になっており、左右の接地部2a,2bの基端際を経由した状態になっている。
また、加熱コイル1は、三次元プリンタによって一体的に形成されたものであるため、第一冷却媒体流路5、第二冷却媒体流路6とも、すべての屈曲部分、連結部分がなだらかな曲線状(曲率半径が5mm以上の曲線状)に形成されており、急峻な折れ曲がり形状が形成されていない状態になっている。加えて、第一冷却媒体流路5、第二冷却媒体流路6とも、内壁に継ぎ目や所定の高さ(1.0mm)以上の段差が形成されていない状態になっている。
さらに、コイル本体21の左右の接地部2a,2bの間、左右の支持部3a,3bの間、加熱部4の左右の基端部分の間には、所定の厚み(約2.0mm)のシート状の絶縁板31が挟み込まれており、その状態で、左右の支持部3a,3bおよび絶縁板31が、ネジ孔を挿通させたボルト(いずれも図示せず)によって螺着されている。なお、それらのボルトは、絶縁性・耐熱性を有する合成樹脂(ガラスエポキシ樹脂)製のブッシュ(図示せず)を介して支持部3a,3bおよび絶縁板31を螺着した状態になっており、当該ボルトを介して支持部3a,3b同士が導通しないようになっている。
<加熱コイルの製造方法>
図8は、加熱コイル1(コイル本体21)を形成する様子を示したものであり、加熱コイル1を形成するための三次元プリンタ装置Mは、中央に直方体状の凹状部を形成してなるフレームF、そのフレームFに対して昇降可能に設けられた昇降部材、レーザLを照射するための照射手段S、レーザを反射させるための反射手段R、昇降部材を昇降させるための駆動手段(図示せず)等を有している。そして、昇降部材には、フレームFの凹状部の開口部分と略同一の面積を有するテーブルTが設けられている。
三次元プリンタ装置Mにより加熱コイル1を製造する際には、まず、上昇位置にある昇降部材のテーブルTの表面に、銅合金(高銅合金)の粉末を、所定の厚み(たとえば、30μm)になるように敷設する(テーブルTの表面とフレームFの外枠の表面とのギャップだけ銅粉末を敷き詰める)。そして、その銅合金粉末に対して、所定の出力のレーザ(ファイバレーザ)Lを所定の形状に照射して銅合金粉末の一部を溶融させ、冷却して凝固させることによって、加熱コイル1の一部を形成する。
上記の如く、加熱コイル1の一部を形成した後には、駆動手段により昇降部材のテーブルTを所定の高さ(たとえば、30μm)だけ降下させる。そして、その高さ位置において、“先に形成された加熱コイル1の一部の上側での銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化(凝固による固化)”という動作を繰り返す。そして、上記の如く、“昇降部材のテーブルTを降下→銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化”という動作を、所定の回数(たとえば、5,000回)だけ繰り返すことによって、銅合金からなる加熱コイル1を一体的に形成することができる。
<加熱コイルの使用方法>
上記の如く構成された加熱コイル1は、左右の接地部2a,2bを電極に接地させ、環状の加熱部4の内部に被加工物Wを挿入させた状態で、電極を介して外部電源(高周波電源)を投入し、電磁誘導現象を利用して、被加工物Wを加熱することができる。また、注入管13a,13bから冷却媒体(水)を第一冷却媒体流路5に注入して噴射孔9,9・・から被加工物Wへ噴射させることによって、加熱後の被加工物Wを効率的に冷却することができる。さらに、上記した被加工物Wの冷却と同時に、注入管7から冷却媒体(水)を左側の支持部3aの内部の第二冷却媒体流路6に注入して加熱部4の内部を通過させて右側の支持部3bの内部を通過させた後に排水管8から排水することで、加熱部4および支持部3a,3bを効率的に冷却することによって、絶縁板31の溶融による損傷等を精度良く防止することができる。
<加熱コイルの効果>
加熱コイル1は、上記の如く、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部2a,2bと、各接地部2a,2bに対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部3a,3bと、それらの支持部3a,3bの先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部4とを有しており、環状の加熱部4に、加熱後の被加工物Wを冷却するための第一冷却媒体流路5と、加熱部4自体を冷却するための第二冷却媒体流路6とが別個に設けられている。したがって、加熱コイル1によれば、加熱後の被加工物Wの冷却と加熱部4自体の冷却とを同時に効率良く実施することができる上、高い出力条件の下で使用し続けた場合でも、破損する事態を高い精度で防止することができる。
また、加熱コイル1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法(すなわち、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)によって形成されるものであるため、環状の加熱部4が複雑な形状を有しているにも拘わらず、非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、加熱コイル1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
さらに、加熱コイル1は、第一冷却媒体流路5が、加熱後の被加工物Wに冷却媒体を噴射するための複数の噴射孔9,9・・を設けたものであるため、少ない冷却媒体で短時間の内に効率良く加熱後の被加工物Wを冷却することができる。
加えて、加熱コイル1は、第二冷却媒体流路6が第一冷却媒体流路5の内側に設けられているので、加熱部4の内の電流が多く流れて高温になり易い部分の近傍を冷却媒体が流下するため、きわめて効率良く加熱部4を冷却することができる。
また、加熱コイル1は、第二冷却媒体流路6の一部が、加熱部4の内部のみならず、各支持部3a,3bの内部にも形成されているので、被加工物Wの加熱処理中に加熱部4のみならず各支持部3a,3b(および各接地部2a,2b)も同時に冷却され、長時間に亘って高温のまま保持される事態が生じない。それゆえ、加熱コイル1は、絶縁板31の炭化・劣化に起因した絶縁破壊や特定の部分への応力集中による破損等の事態が起こらないため、耐久性に優れており、高い出力条件の下でも長期間に亘って被加工物Wへの加熱処理を繰り返すことができる。
また、加熱コイル1は、第一冷却媒体流路5へ冷却媒体を注入するための注入口13a,13bが加熱部4に設けられており、最も高温になり易い加熱部4に、水源から導き入れた直後の低温の冷却媒体を供給することができるので、きわめて冷却効率に優れており、非常に高い出力で高周波電源を印可した状態で使用することが可能である。
<加熱コイルの変更例>
本発明に係る加熱コイルは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、材質や、接地部、支持部、環状の加熱部、第一冷却媒体流路、第二冷却媒体流路の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
たとえば、加熱コイルの加熱部は、上記実施形態の如く、単純な円環状であるものに限定されず、平面視矩形の環状であるものや、分割した環状体を上下に水平に配置させて鉛直な柱状体によって連結してなるもの等に変更することも可能である。
また、加熱部は、上記実施形態の如く、第一冷却媒体流路が鉛直断面視において三角形状であるものや、第二冷却媒体流路が扁平な帯状であるものに限定されず、第一冷却媒体流路および/または第二冷却媒体流路の形状を必要に応じて適宜変更することができる。なお、上記実施形態の如く、第一冷却媒体流路と第二冷却媒体流路とを平板状体を介して隣り合うように設けることによって、加熱後の被加工物の冷却および加熱部自体の冷却の効率をより良好なものとすることが可能となる。
また、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、単一の第二冷却媒体流路が設けられたものに限定されず、複数の第二冷却媒体流路が設けられたもの(たとえば、左側の注入管から左側の支持部を経由して加熱部に至り加熱部の先端際の左側に設けられた排出管に至っている左側の第二冷却媒体流路と、右側の注入管から右側の支持部を経由して加熱部に至り加熱部の先端際の右側に設けられた排出管に至っている右側の第二冷却媒体流路とを有するもの)等に変更することも可能である。さらに、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、第二冷却媒体流路が、加熱部および支持部の内部のみに設けられたものに限定されず、第二冷却媒体流路が加熱部、支持部および接地部の内部に設けられたものに変更することも可能である。加えて、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、第二冷却媒体流路が単純な直線状や曲線状であるものに限定されず、第二冷却媒体流路がジグザグに屈曲した(蛇行した)形状であるものや、第二冷却媒体流路が支持部(または/および接地部)の内部で分岐しているもの等に変更することも可能である。
さらに、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、単一の第一冷却媒体流路が設けられたものに限定されず、第一冷却媒体流路が仕切り板等によって複数に区分されているもの等に変更することも可能である。
加えて、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、フッ素樹脂(PTFE、PFA、FEP、ETFE、PCTFE、ECTFE、PVDF)からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているものに限定されず、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の絶縁性および耐熱性を有する他の合成樹脂からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているもの等に変更することも可能である。
本発明に係る加熱コイルは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための部材として好適に用いることができる。
1・・加熱コイル
2a,2b・・接地部
3a,3b・・支持部
4・・加熱部
5・・第一冷却媒体流路
6・・第二冷却媒体流路
7・・注入管
8・・排出管
9・・噴射孔
13a,13b・・注入管

Claims (1)

  1. 高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、
    三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法を用いて一体的に形成されたものであり、
    高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、
    前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、
    それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部とを有しており、
    前記支持部および前記加熱部に、それらの部位を冷却するための第二冷却媒体流路が連なるように設けられているとともに、
    前記加熱部のみに、加熱後の被加工物を冷却するための複数の噴射孔を設けた第一冷却媒体流路が設けられており、かつ、その第一冷却媒体流路に、冷却媒体を注入するための注入管が直接的に設けられており、なおかつ、
    前記環状の加熱部が、上方から下方にかけて小径となる傾斜状の内周面を有しており、前記第二冷却媒体流路が、その傾斜状の内周面に沿うように、扁平な帯状に形成されたものであるとともに、
    前記噴射孔が、上方から下方にかけて内向きに傾斜した状態になっていることを特徴とする高周波加熱装置用の加熱コイル。
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