JP7131699B2 - 質量分析装置及び質量分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は質量分析装置及び質量分析方法に関し、さらに詳しくは、実測結果に基づいて装置パラメータを最適又はそれに近い状態に調整する機能を有する質量分析装置、及び質量分析方法に関する。
液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)では、液体クロマトグラフ部のカラムから溶出する試料液中の化合物をイオン化するために、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化(APPI)法などの大気圧イオン化(API)法によるイオン源が用いられる。例えばESIイオン源では、カラムからの溶出液が供給されるキャピラリの先端付近にkVオーダーの高電圧を印加することで、溶出液に片寄った電荷を付与しながら略大気圧雰囲気であるイオン化室内に噴霧する。これにより生成された微小な帯電液滴は、イオン化室内で高温のガスに晒され、該液滴中の溶媒(移動相)の気化が促進される。溶媒の気化や液滴の分裂の過程で、該液滴中の試料成分はイオン化され気相中に取り出される。こうして生成された試料成分由来のイオンが収集されて質量分析に供される。
上記のようなイオン源を備えたLC-MSにおいて高感度の成分分析を行うには、イオン化効率ができるだけ高くなるように、イオン源の構成要素へ印加する電圧、それら構成要素自体やイオン化室内の温度、或いは、イオン化に際して利用される各種のガスの流量、等の装置パラメータを最適化することが重要である。こうした装置パラメータの最適値は、目的成分(化合物)の種類や移動相の条件(移動相の種類、流速等)等に依存する。そこで、装置パラメータの最適化は一般に、各パラメータの値を所定の範囲で変化させつつ目的成分を含む試料(一般的には標準試料)を実測することで得られた結果に基づいて行われる。この装置パラメータ最適化のための測定の回数が多いと、測定の効率が低下するのみならず、試料や移動相等の消費材の使用量が多くなり測定コストの増加に繋がる。そのため、できるだけ少ない測定回数で以て最適なパラメータ値、つまりは最適な測定条件を探索することが要望されている。
いま、調整すべきパラメータの種類の数がN、1種類のパラメータについて変化させる値の数(以下「水準数」という)をLとした場合、全てのパラメータについて総当たり的にパラメータ値を組み合わせて測定を実行しようとすると測定回数はLNとなる(以下、この方法を「網羅法」という)。例えばL、Nが数個程度であっても測定回数はかなり多くなる。これに対し、複数種類のパラメータについて1種類ずつ順番に値の最適化を行う方法が従来知られている(以下、この方法を「逐次法」という)。この逐次法は、非特許文献1に記載の、株式会社島津製作所が提供しているインターフェイスパラメータ最適化機能を含む「Labsolutions Connect MRM」に採用されている方法である。逐次法では測定回数はL×Nであり、上述した網羅法に比べると測定回数は格段に少なくて済む。
「LabSolutions Connect MRM」、[online]、株式会社島津製作所、[2019年4月18日検索]、インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/data-net/labsolutions/connect_mrm/index.htm>
しかしながら、逐次法では、複数種類のパラメータのうちの1種類を除く他のパラメータの値を所定値に固定したうえでその1種類のパラメータを最適化するという処理を順番に行うため、全てのパラメータの最適化が終了した段階でも、全体的にみて必ずしも検出感度が高いようなパラメータに到達しない場合がある。即ち、大局的最適解が導かれず、局所的最適解に陥ってしまう場合があるという問題がある。装置パラメータ最適化の結果、局所的最適解であることが判明した場合には、最適化をやり直せばよいものの、それだけ測定効率が低下するうえに試料や移動相などの消費材の使用量が増加して測定コストが高くなる。一方、局所的最適解のままで目的試料の測定を実行することになると、検出感度が低く分析精度の低下に繋がる。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、逐次法により装置パラメータを最適化する際に局所的最適解に陥ることを防止し、高い検出感度のパラメータを探索することができる質量分析装置及び質量分析方法を提供することにある。
本発明に係る質量分析方法の一態様は、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源を具備する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
前記N種類のパラメータのうちの各パラメータの値又はM種類(但しMはNよりも小さい整数)のパラメータをまとめた値の組、を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行する測定実行工程と、
前記測定実行工程における測定の結果に基づいて、前記N種類のパラメータのうちの、各パラメータの値又はM種類のパラメータをまとめた値の組、についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ値探索工程と、
を有し、前記測定実行工程では、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類の値又はその値の組を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して変化させ、前記パラメータ値探索工程では、該物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先に最適化するものである。
また本発明に係る質量分析装置の一態様は、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源、試料成分由来のイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離部、及び、分離されたイオンを検出する検出部、を具備する質量分析装置であって、前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
前記N種類のパラメータのうちの各パラメータの値又はM種類(但しMはNよりも小さい整数)のパラメータをまとめた値の組、を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行するように前記イオン源、前記質量分離部、及び前記検出部を制御する測定制御部と、
前記測定制御部による制御の下で実行される測定の結果に基づいて、前記N種類のパラメータのうちの、各パラメータの値はM種類のパラメータをまとめた値の組、についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ決定部と、
を備え、前記測定制御部は、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類の値又はその値の組を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して変化させながら測定の繰り返しを実行するように制御を行い、前記パラメータ決定部は、前記物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先に最適化するものである。
本発明に係る質量分析方法及び質量分析装置の一態様において、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源とは、典型的には、ESI法、APCI法、又はAPPI法によるイオン源であるものとすることができる。例えばESIイオン源において、物理量が温度であるパラメータとは、液体試料を噴霧するスプレーノズル(プローブ)先端付近の温度、及び、イオン化室内で生成されたイオンと完全には溶媒が気化していない帯電液滴とを次段へと送る脱溶媒管の温度、などを含むものとすることができる。
こうした大気圧イオン源では、液体試料が微細な液滴として略大気圧雰囲気中に噴霧され、その液滴から溶媒が気化する過程で試料成分由来のイオンが生成される。したがって、イオン化効率つまり検出感度は、例えば液体試料が噴霧される領域の温度や噴霧直前の液体試料の温度など、温度の影響を受け易い。但し、必ずしも常に温度が高いほうがイオン化効率が高いというわけではなく、成分の種類等によっては、高温条件よりも低温条件の下で検出感度が高くなるものもある。一方で、高い検出感度を達成する上での温度の最適条件は他の物理量、例えば電圧やガス流量などの影響を受け易いため、温度パラメータよりも先に、他の物理量であるパラメータを最適化してしまうと、あとから温度パラメータを最適化しても全体的にみれば高感度とはいえない局所的な最適条件に到達してしまうおそれがある。
これに対し本発明の一態様である質量分析方法及び質量分析装置によれば、少なくとも1種類の温度パラメータは、物理量が温度以外である、電圧パラメータやガス流量パラメータなどよりも先に最適化される。そのため、その少なくとも1種類の温度パラメータが全体的にみれば高感度とはいえない局所的な最適条件に到達してしまうことを回避し、全体的にみて高感度であるようなパラメータの値を見いだすことができる。それにより、無駄なパラメータ最適化の作業を行うことを回避でき、測定効率の向上を図ることができる。また、試料や、移動相などの消費材の使用量を抑えることができ、測定コストの抑制に有利である。
本発明の一実施形態であるLC-MSの概略ブロック構成図。 本実施形態のLC-MSにおけるイオン源の概略構成図。 本実施形態のLC-MSにおけるイオン源の装置パラメータ最適化の手順を示すフローチャート。 本実施形態のLC-MSにおける温度パラメータの低温セットでの実測結果に基づく感度マップを示す図。 本実施形態のLC-MSにおける温度パラメータの高温セットでの実測結果に基づく感度マップを示す図。 装置パラメータ最適化におけるパラメータ探索条件の一例を示す図であり、(a)は温度パラメータをあとで最適化する場合、(b)は温度パラメータを先に最適化する場合。 図6に示したパラメータ探索条件の下での測定回数と最大信号強度との関係を示す図。 3種類の温度パラメータを独立に最適化する場合の、異なる2種類の化合物に対する感度マップを示す図。 装置パラメータ最適化におけるパラメータ探索条件の一例を示す図であり、(a)は3種類の温度パラメータを独立に最適化する場合、(b)は3種類の温度パラメータをまとめて最適化する場合。 図8に示したパラメータ探索条件の下での、異なる2種類の化合物に対する測定回数と最大信号強度との関係を示す図。
本発明に係る質量分析装置の一実施形態であるLC-MSについて、添付図面を参照して説明する。
[本実施形態のLC-MSの全体構成]
図1は、本実施形態のLC-MSの概略ブロック構成図である。
図1において、測定部1は、液体クロマトグラフ部(LC部)2及び質量分析部(MS部)3を含む。質量分析部3は、イオン源31、質量分離部32、及び検出部33を含む。図示しないが、液体クロマトグラフ部2は、送液ポンプ、インジェクタ、カラムなどを含み、送液ポンプにより送給される移動相中にインジェクタから所定量の試料を注入し、移動相の流れに乗せて該試料をカラムへと送り込む。試料中の各種成分(化合物)はカラムを通過する間に時間的に分離されて、カラム出口から溶出して質量分析部3に導入される。質量分析部3においてイオン源31は、カラムからの溶出液中の成分をイオン化し、質量分離部32は生成された各種イオンをその質量電荷比m/zに応じて分離する。検出部33は質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出し、イオン量に応じた検出信号を発生する。
制御部4は測定部1の動作を制御するものであり、装置パラメータ最適化時測定制御部41、装置パラメータ記憶部42、測定制御部43などの機能ブロックを含む。装置パラメータ最適化時測定制御部41はパラメータ探索用データが予め格納されたメモリを有する。データ処理部5は測定部1で得られたデータを受けて各種のデータ処理を行うものであり、データ記憶部51、ピーク検出部52、装置パラメータ決定部53などの機能ブロックを含む。
なお、通常、制御部4及びデータ処理部5の機能ブロックの大部分は、パーソナルコンピュータをハードウェア資源とし、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理用のプログラムを該コンピュータ上で実行することで具現化されるものとすることができる。
[本実施形態のLC-MSにおけるイオン源の構成及び概略動作]
図2は、本実施形態のLC-MSにおけるイオン源31の概略構成図である。このイオン源31は大気圧イオン源の一つであるESIイオン源であり、チャンバ310の内部に形成される略大気圧雰囲気であるイオン化室311に、溶出液中の成分をイオン化するESIプローブ312を備える。ESIプローブ312は、溶出液が流通するキャピラリ3121、該キャピラリ3121を囲むように配置されているネブライズガス管3122、該ネブライズガス管3122を囲むように配置されている加熱ガス管3123、ESIプローブ312の先端部を加熱するインターフェイスヒータ3124、及び、キャピラリ3121に高電圧を印加する高電圧電源3125、を含む。イオン化室311と次段の中間真空室(図示しない)との間は脱溶媒管313を通して連通している。脱溶媒管313の周囲には、乾燥ガスをイオン化室311内に噴出する乾燥ガス管314が配置されている。また、脱溶媒管ヒータ315は脱溶媒管313のを加熱するものであり、ブロックヒータ316はイオン化室311内全体を加熱するものである。
イオン源31におけるイオン生成動作を簡単に説明する。
試料成分を含む溶出液がキャピラリ3121の先端付近に到達すると、高電圧電源3125からキャピラリ3121に印加されている高電圧(最大数kV程度)により形成される直流電場によって、溶出液には片寄った電荷が付与される。電荷を付与された溶出液はネブライズガス管3122から噴出するネブライズガスの助けを受けて、微細な液滴(帯電液滴)となってイオン化室311内に噴霧される。噴霧された液滴はイオン化室311内のガス分子に接触して分裂して微細化される。イオン化室311内は高温になっているため液滴中の溶媒は気化する。また、加熱ガス管3123から噴出する加熱ガスは噴霧流を囲むように流れるため、液滴からの溶媒の気化は促進され、噴霧流の広がりは抑えられる。液滴からの溶媒の気化が進行する過程で該液滴中の成分分子は電荷を有して該液滴から飛び出し気体イオンとなる。
脱溶媒管313の両開口端には圧力差があるため、イオン化室311内のガスは脱溶媒管313中に吸い込まれるようなガス流が形成されている。キャピラリ3121の先端からの噴霧流中から生成された試料成分由来のイオンや溶媒が完全には気化していない帯電液滴は、上記ガス流に乗って脱溶媒管313中に吸い込まれる。なお、脱溶媒管313の入口開口の周りの乾燥ガス管314からは乾燥ガスが噴出しているため、乾燥ガスに晒されることで帯電液滴からの溶媒の気化は一層進行する。さらに、脱溶媒管313はヒータ315により高温に加熱されているので、脱溶媒管313中においても帯電液滴からの溶媒の気化は進行する。それにより、試料成分由来のイオンは効率良く生成され、次段の中間真空室へと送られる。
イオン源31には、主としてイオン化効率に影響を与える装置パラメータとして次の7種類のパラメータがある。
(1)インターフェイス温度(以下、「IFT」又は「I/F温度」と略す場合がある)
主としてインターフェイスヒータ3124により加熱される、ESIプローブ312先端付近の温度であり、その温度範囲は100~400℃である。
(2)ブロックヒータ温度(以下、「BHT」又は「BH温度」と略す場合がある)
主としてブロックヒータ316により加熱される、脱溶媒管313の入口(乾燥ガス管314の出口)付近の温度であり、その温度範囲は50~500℃である。
(3)脱溶媒管温度(以下、「DLT」又は「DL温度」と略す場合がある)
主として脱溶媒管ヒータ315により加熱される、脱溶媒管313の温度であり、その温度範囲は50~300℃である。
(4)インターフェイス電圧(以下、「IFV」又は「I/F電圧」と略す場合がある)
ESIプローブ312の先端(つまりはキャピラリ3121)へ印加されるイオン生成用の高電圧であり、その電圧範囲は1~5kV(但し、極性はイオン化モードに依存し、正又は負のいずれかを採り得る)である。
(5)ネブライズガス流量(以下、「Nebgas」と略す場合がある)
ネブライズガス管3122を通してESIプローブ312先端の噴出口付近に流すネブライズガスの流量であり、その流量範囲は0~3.0L/minである。
(6)加熱ガス流量(以下、「Heatgas」と略す場合がある)
加熱ガス管3123を通してキャピラリ3121周囲から液滴の噴霧流と同方向に流す高温のガスの流量であり、その流量範囲は0~20L/minである。
(7)乾燥ガスの流量(以下、「Drygas」と略す場合がある)
乾燥ガス管314を通して、脱溶媒管313へのガスの吸い込み方向と逆方向に流す乾燥したガスの流量であり、その流量範囲は0~20L/minである。
なお、上記の(1)、(2)、(3)は物理量が温度であるパラメータ(以下「温度パラメータ」という場合がある)、(4)は物理量が電圧であるパラメータ(以下「電圧パラメータ」という場合がある)、(5)、(6)、(7)は物理量がガス流量であるパラメータ(以下「ガス流量パラメータ」という場合がある)である。
上記7種類のパラメータの値を変えるとイオン化効率が変化し、質量分析に供されるイオンの量が変化して検出部33における検出感度(信号強度)も変化する。検出感度の変化の度合いや変化の方向は成分(化合物)に依存するため、高感度の測定を行うには化合物毎にパラメータ値を最適化する必要がある。
次に、本実施形態のLC-MSにおける装置パラメータの最適化の方法とその手順について説明する。図3は装置パラメータを最適化する際の手順を示すフローチャートである。
装置パラメータ最適化時測定制御部41は全てのパラメータの値を一旦、初期値に設定する(ステップS1)。初期値としては、様々な化合物について一般的に検出感度が高くなるようなデフォルト値が選ばれる。
次に装置パラメータ最適化時測定制御部41は、上記初期条件から、温度パラメータのみを、上述した3種類の温度パラメータ(I/F温度、BH温度、DL温度)をセットにした、低温セットから高温セットまでのLtemp水準(Ltemp段階)に順次変更し、その各水準においてそれぞれ目的化合物を含む試料についてのLC/MS分析を実行するように測定部1を制御する(ステップS2)。温度の具体例は後述する。
測定部1で得られたデータはデータ記憶部51に一旦保存され、ピーク検出部52は得られたデータに基づいて、異なる温度セットを含む装置パラメータ毎に、クロマトグラム(トータルイオンクロマトグラム又は抽出イオンクロマトグラム)を作成する。そして、目的化合物に対応するピークを検出し、そのピーク面積値を計算する。ピーク面積値は検出感度を反映しているから、装置パラメータ決定部53は異なる温度条件の下でそれぞれ得られたピーク面積値を比較し、最も大きなピーク面積値を与える温度セットを見いだして、該セットのパラメータ値を温度パラメータの最適条件として選択する(ステップS3)。
そのあと装置パラメータ最適化時測定制御部41は、上記初期条件の温度パラメータを上記最適条件に設定したうえで、インターフェイス電圧パラメータをLvoltage水準に順次変更し、その各水準においてそれぞれ目的化合物を含む試料についてのLC/MS分析を実行するように測定部1を制御する(ステップS4)。
測定部1で得られたデータはデータ記憶部51に一旦保存され、ステップS3と同様に、ピーク検出部52は得られたデータに基づいてクロマトグラムを作成する。そして、目的化合物に対応するピークを検出し、そのピーク面積値を計算する。装置パラメータ決定部53は異なる電圧条件の下でそれぞれ得られたピーク面積値を比較し、最も大きなピーク面積値を与える電圧値を見いだして、それをインターフェイス電圧の最適条件として選択する(ステップS5)。
装置パラメータ最適化時測定制御部41は、上記初期条件のインターフェイス電圧を上記最適条件に設定したうえで、ネブライズガス流量パラメータをLnebgas水準に順次変更し、その各水準においてそれぞれ目的化合物を含む試料についてのLC/MS分析を実行するように測定部1を制御する(ステップS6)。
測定部1で得られたデータはデータ記憶部51に一旦保存され、ステップS3と同様に、ピーク検出部52は得られたデータに基づいてクロマトグラムを作成する。そして、目的化合物に対応するピークを検出し、そのピーク面積値を計算する。装置パラメータ決定部53は異なるネブライズガス流量条件の下でそれぞれ得られたピーク面積値を比較し、最も大きなピーク面積値を与えるガス流量値を見いだして、それをネブライズガス流量の最適条件として選択する(ステップS7)。
装置パラメータ最適化時測定制御部41は、上記初期条件のネブライズガス流量を上記最適条件に設定したうえで、加熱ガス流量パラメータをLheatgas水準に順次変更し、その各水準においてそれぞれ目的化合物を含む試料についてのLC/MS分析を実行するように測定部1を制御する(ステップS8)。
測定部1で得られたデータはデータ記憶部51に一旦保存され、ステップS3と同様に、ピーク検出部52は得られたデータに基づいてクロマトグラムを作成する。そして、目的化合物に対応するピークを検出し、そのピーク面積値を計算する。装置パラメータ決定部53は異なる加熱ガス流量条件の下でそれぞれ得られたピーク面積値を比較し、最も大きなピーク面積値を与えるガス流量値を見いだして、それを加熱ガス流量の最適条件として選択する(ステップS9)。
装置パラメータ最適化時測定制御部41は、上記初期条件の加熱ガス流量を上記最適条件に設定したうえで、乾燥流量パラメータをLdrygas水準に順次変更し、その各水準においてそれぞれ目的化合物を含む試料についてのLC/MS分析を実行するように測定部1を制御する(ステップS10)。
測定部1で得られたデータはデータ記憶部51に一旦保存され、ステップS3と同様に、ピーク検出部52は得られたデータに基づいてクロマトグラムを作成する。そして、目的化合物に対応するピークを検出し、そのピーク面積値を計算する。装置パラメータ決定部53は異なる乾燥ガス流量条件の下でそれぞれ得られたピーク面積値を比較し、最も大きなピーク面積値を与えるガス流量値を見いだして、それを乾燥ガス流量の最適条件として選択する(ステップS11)。
以上のようにして、セットとされた3種類の温度パラメータを含めた7種類のパラメータを順番に最適化し、最終的に選択されている値を各パラメータの最適値として決定する(ステップS12)。
上述したように本実施形態のLC-MSでは、装置パラメータの最適化の際に、電圧パラメータやガス流量パラメータに先立って温度パラメータを最適化している。また、3種類の温度パラメータを独立ではなく、まとめて最適化するようにしている。これらの点について、その効果を確認するために実施した実験とその結果について説明する。
[温度パラメータを先行して最適化することの効果]
電圧パラメータやガス流量パラメータに先立って温度パラメータを最適化することの効果について、具体的に基づいて説明する。
図4及び図5は、3種類のガス流量パラメータ(Nebgas、Heatgas、Drygas)及び電圧パラメータ(IFV)に対する検出感度の分布を示す感度マップである。図4は温度パラメータの値が全体的に低温である低温セットの場合、図5は温度パラメータの値が全体的に高温である高温セットの場合である。図4及び図5において、一つのグラフ(マップ)の横軸はI/F電圧、縦軸はNebgas、グラフマトリクスの横軸はDrygas、縦軸はHeatgasである。この例は、除草剤の一種であるジカンバ(Dicamba)に対する実測により作成したものである。
イオン源31では一般に、噴霧流中の帯電液滴からの脱溶媒が促進されたほうがイオン化効率が高くなる傾向にある。そのため、温度パラメータのデフォルト値(つまりは図3のステップS1における初期値)は相対的に高い温度に定められる。しかしながら、中には低温条件の下で高い感度を示す化合物もあり、ジカンバはその一つである。図4と図5とを比較すると、温度パラメータが低温セットである図4のほうが、全体的に感度が高くなっていることが分かる。つまり、カンバにおいては、同じガス流量及び電圧の条件の下では、温度が高いよりも低いほうが検出感度が高くなる。
図4及び図5に示した感度マップの中で検出感度が最大になる点、つまり最適解をそれぞれ○で示している。図4及び図5から、温度条件が異なるとガス流量と電圧の最適な条件が全く異なっていることが分かる。これは、温度パラメータは検出感度への影響が大きく、温度条件によって、ガス流量や電圧などの他のパラメータの最適値が大きく変わる傾向にあるためである。図4における最適解と図5における最適解とを比べると、図4における最適解のほうが検出感度はかなり高い。したがって、図5における最適解は、温度パラメータを含む装置パラメータ全体の中では最適解ではない局所的最適解にすぎないことが分かる。一方、図4における最適解は、温度パラメータを含む装置パラメータ全体の中での大局的最適解である。
ジカンバのように高温度条件よりも低温度条件において感度が高くなる化合物が目的化合物である場合、高温度条件の下で、温度パラメータに先立ってガス流量パラメータ及び電圧パラメータを最適化すると図5中に示したような局所的最適解に到達してしまう。それにより、ガス流量パラメータ及び電圧パラメータが決まってしまうため、そのあとに温度パラメータを最適化したとしても、図4に示したような大局的最適解に到達し得ない。即ち、大局的最適解を見つけるうえで、温度パラメータの最適化を後回しにすることは不利であることが分かる。これに対し、本実施形態のLC-MSでは、検出感度に対する影響が大きい温度パラメータをガス流量パラメータや電圧パラメータよりも先に最適化しているので、より高い感度の条件に到達し易いという効果がある。
温度パラメータを先行して最適化することの効果を確認するため、図6(a)、(b)に示した二通りの探索条件で装置パラメータの最適化を実施し、その最適化の過程における測定毎の最大信号強度を比較した。図6から分かるように、7種類のパラメータにおいて各水準の値は同じであり、異なるのは、3種類の温度パラメータを他のパラメータに先行して最適化するか他のパラメータよりもあとに最適化するかだけである。但し、単純に図6に示した二通りの探索条件で実測を行って信号強度を比較しようとしても、信号強度の経時的変化や観測ノイズの影響を受けて正しい比較が行えない。そこで、装置パラメータの組合せの条件を変えて実測を行うことで大量のデータを予め収集しておき、その大量データを基に構築した信号強度モデルに対しコンピュータ上で、上記二通りの探索条件に従ったパラメータ最適化を実施した。
図7は、装置パラメータ最適化の過程での最大信号強度の変化を示す図である。温度パラメータを先行して最適化した場合には、最終的に、つまりは30回の探索(測定)の結果、最大信号強度が0.84(相対値)であるのに対し、温度パラメータをあとで最適化した場合には、最終的に最大信号強度は0.65にしかならない。この結果から、温度パラメータを先行して最適化することにより、より高い検出感度の条件に到達し得ることを実験的に確認することができる。
[複数種類の温度パラメータをまとめて最適化することの効果]
まず、複数種類(上記実施形態では3種類)の温度パラメータをまとめて最適化することの妥当性について、図8を参照して説明する。図8は、3種類の温度パラメータを独立に変更してアトラジン(Atrazine)及びフルルビプロフェン(Flurbiprofen)を実測して得られた信号強度の分布を示す感度マップである。一つのグラフ(マップ)の横軸はBH温度、縦軸はDL温度であり、複数のグラフの横軸はI/F温度である。それ以外のパラメータは予め確認しておいた高感度の条件に設定している。
温度パラメータのセットの例として、低温から高温まで変化させた5組のセットを、図8中に星印で示している。また、矢印を付した星印は、各化合物において検出感度が最大となる温度条件を示している。図8から分かるように、アトラジンとフルルビプロフェンとでは最適な温度条件は異なるものの、いずれの化合物においても3種類の温度パラメータ全体の昇降と信号強度とが相関関係にあることが確認できる。この結果から、3種類の温度パラメータを一つのセットとしてまとめて最適化しても、十分に高い感度に到達し得るということができる。
3種類の温度パラメータをセットにして最適化することの効果を確認するため、図9(a)、(b)に示した二通りの探索条件で装置パラメータの最適化を実施し、その最適化の過程における測定毎の最大信号強度を比較した。なお、図9(b)に示した温度パラメータの5セットは、上記図8中に星印で示したものと同じである。図9から分かるように、7種類のパラメータにおいて各水準の値は同じであり、異なるのは、3種類の温度パラメータをセットにしているか否かだけである。但し、この実験も上記温度パラメータを先行して最適化することの効果の確認実験と同様に、予め収集した大量のデータを基に構築した信号強度モデルに対しコンピュータ上で、上記二通りの探索条件に従ってパラメータ最適化を実施したものである。
図10は、装置パラメータ最適化の過程での最大信号強度の変化を示す図である。いずれの化合物においても、温度パラメータをセットにして変更しながら探索することで、温度パラメータを独立に変更しながら探索する場合と同等の信号強度に、より少ない測定回数(この例では、30回→21回)で以て到達できることが確認できる。なお、図10(b)に示したフルルビプロフェンでは、温度パラメータをセットにすることで探索空間が絞られているものの、最終的に到達する信号強度が向上する効果もみられた。これは、温度パラメータの最適化が3段階から1段階に減ることで、観測ノイズの影響により測定値は大きいものの真値は小さい、という誤った条件に探索が進むことが減るためであると推測される。
[変形例]
上記実施形態のLC-MSは様々に変形が可能である。具体的には、上述した装置パラメータの数値はあくまでも一例であることは当然である。また、装置パラメータの種類も適宜に変更が可能である。また、図3のステップS2~S11の処理において最適な条件を選択する際には、単に実測データから信号強度が最大である条件を選択するのではなく、実測データに基づいて回帰モデルを計算し、その回帰モデルにおける最適条件を選択するようにしてもよい。
また、上記実施形態のLC-MSでは、3種類の温度パラメータをセットとしているので、3種類の温度パラメータの全てを電圧パラメータ及びガス流量パラメータよりも先に最適化しているが、3種類の温度パラメータを独立に最適化する場合には、最もイオン化効率に影響がある一種類の温度パラメータを電圧パラメータ及びガス流量パラメータよりも先に最適化するようにしてもよい。また、3種類の温度パラメータの全てをセットにするのではなく、そのうちの2種類の温度パラメータのセットとし、他の1種類の温度パラメータは該セットとは別に最適化してもよい。
また、上記実施形態のLC-MSはイオン源にESIイオン源を用いていたが、それ以外のイオン化法、例えば大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化(APPI)法、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法、リアルタイム直接分析(DART)法におけるイオン化法などによるイオン源を用いた質量分析装置であってもよい。また、質量分析装置は四重極型質量分析装置のようなシングルタイプの質量分析装置に限らず、トリプル四重極型質量分析装置、四重極-飛行時間型質量分析装置、イオントラップ飛行時間型質量分析装置などに本発明を適用可能であることは当然である。
さらにまた、上記実施形態や変形例も本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態及びその変形例が以下の態様の具体例であることは、当業者であれば容易に理解される。
第1の態様の質量分析方法は、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源を具備する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
前記N種類のパラメータのうちの各パラメータの値又はM種類(但しMはNよりも小さい整数)のパラメータをまとめた値の組、を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行する測定実行工程と、
前記測定実行工程における測定の結果に基づいて、前記N種類のパラメータのうちの、各パラメータの値はM種類のパラメータをまとめた値の組、についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ値探索工程と、
を有し、前記測定実行工程では、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類の値又はその値の組を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して変化させ、前記パラメータ値探索工程では、該物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先に最適化するものである。
また第1の態様の質量分析装置は、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源、試料成分由来のイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離部、及び、分離されたイオンを検出する検出部、を具備する質量分析装置であって、前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
前記N種類のパラメータのうちの各パラメータの値又はM種類(但しMはNよりも小さい整数)のパラメータをまとめた値の組、を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行するように前記イオン源、前記質量分離部、及び前記検出部を制御する測定制御部と、
前記測定制御部による制御の下で実行される測定の結果に基づいて、前記N種類のパラメータのうちの、各パラメータの値はM種類のパラメータをまとめた値の組、についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ決定部と、
を備え、前記測定制御部は、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類の値又はその値の組を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して変化させながら測定の繰り返しを実行するように制御を行い、前記パラメータ決定部は、前記物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先に最適化するものである。
第1の態様の質量分析方法及び質量分析装置によれば、少なくとも1種類の温度パラメータは、物理量が温度以外である、電圧パラメータやガス流量パラメータなどよりも先に最適化される。そのため、その少なくとも1種類の温度パラメータが全体的にみれば高感度とはいえない局所的な最適条件に到達してしまうことを回避し、全体的にみて高感度であるようなパラメータの値を見いだすことができる。それにより、無駄なパラメータ最適化の作業を行うことを回避でき、測定効率の向上を図ることができる。また、試料や、移動相などの消費材の使用量を抑えることができ、測定コストの抑制に有利である。
第2の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、第1の態様の質量分析方法及び質量分析装置において、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの全てを、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して最適化するものとすることができる。
第2の態様の質量分析方法及び質量分析装置によれば、温度パラメータの全てが電圧パラメータやガス流量パラメータなどよりも先に最適化されるため、全体的にみて、より高感度であるようなパラメータの値を見いだすことができる。
第3の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、第1の態様の質量分析方法及び質量分析装置において、前記N種類のパラメータは、物理量が温度、電圧、及びガス流量であるパラメータを含むものとすることができる。
第4の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、第1の態様の質量分析方法及び質量分析装置において、前記測定実行工程では、物理量が温度であるパラメータの値を変化させる際に、所定範囲内で単調に変化させるものとすることができる。
「単調に変化させる」とは単調増加又は単調減少である。温度は電圧やガス流量とは異なり、変更後の値に安定するまでに時間を要する。これに対し第4の態様の質量分析方法及び質量分析装置によれば、温度パラメータを変更する際に温度を昇降させず単調に変更するので、温度の変更に要する時間を短縮することができ、装置パラメータの最適化に要する時間も短縮することができる。
第5の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、第4の態様の質量分析方法及び質量分析装置において、前記測定実行工程では、物理量が温度であるパラメータの値を変化させる際に単調増加させるものとすることができる。
一般に、温度を変化させる際には、ヒータを用いた昇温のほうが放熱又は冷却素子を用いた冷却による降温よりも速い。したがって、第5の態様の質量分析方法及び質量分析装置によれば、温度の変更に要する時間を一層短縮することができ、装置パラメータの最適化に要する時間も短縮することができる。
第6の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、第1~5の態様のいずれか一つの質量分析方法及び質量分析装置において、物理量が温度である2種類以上のパラメータをパラメータセットとしてまとめて最適化するものとすることができる。
第7の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、第6の態様の質量分析方法及び質量分析装置において、前記N種類のパラメータのうちの物理量が温度であるパラメータの全てをパラメータセットとしてまとめるものとすることができる。
第6及び第7の態様の質量分析方法及び質量分析装置によれば、物理量が温度である複数種類のパラメータをセットとしてまとめて最適化するので、少ない測定回数で以て高い検出感度の条件を見つけることができる。これにより、装置パラメータの最適化に要する時間を短縮することができる。
上述したように、上記第1~第7の態様の質量分析方法及び質量分析装置では、局所的最適解に陥ることを回避することにより、高い検出感度の装置パラメータを探索することができる。但し、最適化するパラメータの順序を入れ替えても、それだけで最適化に必要な測定回数が少なくなるわけではない。上述したように、パラメータの最適化は目的成分毎、或いは移動相の条件毎に行う必要があるため、例えば目的成分の数が多いと、逐次法であっても測定回数はかなり多くなる。そのため、従来の逐次法よりもさらに少ない測定回数で以て、従来法と同等の出感度を達成できるような手法が求められている。
以下の態様の質量分析方法及び質量分析装置は、従来の網羅法及び逐次法よりも少ない測定回数で以て高い検出感度のパラメータを探索することができ、それによって測定効率を向上させるとともに試料及び消費材の使用量を抑制することをその目的としている。
即ち、一つ態様の質量分析方法は、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源を具備する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
前記N種類のパラメータのうちの、少なくとも1種類の物理量について物理量が同一であるパラメータの全て又は一部をまとめたM種類(但し、Mは1以上N未満)のパラメータセットと、それ以外のN-M種類のパラメータとを順番に、それぞれのパラメータセット又はパラメータの値を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行する測定実行工程と、
前記測定実行工程における測定の結果に基づいて、前記M種類のパラメータセット及びN-M種類についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ値探索工程と、
を有するものである。
また一つの態様の質量分析装置は、液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源、試料成分由来のイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離部、及び、分離されたイオンを検出する検出部、を具備する質量分析装置であって、
前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
前記N種類のパラメータのうちの、少なくとも1種類の物理量について物理量が同一であるパラメータの全て又は一部をまとめたM種類(但し、Mは1以上N未満)のパラメータセットと、それ以外のN-M種類のパラメータとを順番に、それぞれのパラメータセット又はパラメータの値を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行するように前記イオン源、前記質量分離部、及び前記検出部を制御する測定制御部と、
前記測定制御部による制御の下で実行される測定の結果に基づいて、前記M種類のパラメータセット及びN-M種類についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ決定部と、
を備えるものである。
ここでいう物理量は上記と同様に、温度、電圧、ガス流量などである。特に、検出感度には温度の影響が大きく、また複数の温度条件は相関性が高いため、物理量が温度であるパラメータの全て又は一部をまとめることでパラメータセットを形成するとよい。これにより、少ない測定回数で以て高い検出感度の条件を見つけることができ、装置パラメータの最適化に要する時間を短縮することができる。
1…測定部
2…液体クロマトグラフ部(LC部)
3…質量分析部(MS部)
31…イオン源
310…チャンバ
311…イオン化室
312…ESIプローブ
3121…キャピラリ
3122…ネブライズガス管
3123…加熱ガス管
3124…インターフェイスヒータ
3125…高電圧電源
313…脱溶媒管
314…乾燥ガス管
315…脱溶媒管ヒータ
316…ブロックヒータ
32…質量分離部
33…検出部
4…制御部
41…装置パラメータ最適化時測定制御部
42…装置パラメータ記憶部
43…測定制御部
5…データ処理部
51…データ記憶部
52…ピーク検出部
53…装置パラメータ決定部

Claims (8)

  1. 液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源を具備する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
    前記N種類のパラメータのうちの各パラメータの値又はM種類(但しMはNよりも小さい整数)のパラメータをまとめた値の組、を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行する測定実行工程と、
    前記測定実行工程における測定の結果に基づいて、前記N種類のパラメータのうちの、各パラメータの値はM種類のパラメータをまとめた値の組、についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ値探索工程と、
    を有し、前記測定実行工程では、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類の値又はその値の組を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して変化させ、前記パラメータ値探索工程では、該物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先に最適化する、質量分析方法。
  2. 前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの全てを、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して最適化する、請求項1に記載の質量分析方法。
  3. 前記N種類のパラメータは、物理量が温度、電圧、及びガス流量であるパラメータを含む、請求項1に記載の質量分析方法。
  4. 前記測定実行工程では、物理量が温度であるパラメータの値を変化させる際に、所定範囲内で単調に変化させる、請求項1に記載の質量分析方法。
  5. 前記測定実行工程では、物理量が温度であるパラメータの値を変化させる際に単調増加させる、請求項4に記載の質量分析方法。
  6. 物理量が温度である2種類以上のパラメータをパラメータセットとしてまとめて最適化する、請求項1に記載の質量分析方法。
  7. 前記N種類のパラメータのうちの物理量が温度であるパラメータの全てをパラメータセットとしてまとめる、請求項6に記載の質量分析方法。
  8. 液体試料に含まれる成分をイオン化する大気圧イオン化法によるイオン源、試料成分由来のイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離部、及び、分離されたイオンを検出する検出部、を具備する質量分析装置であって、
    前記イオン源でのイオン化効率に影響を及ぼすN種類(但しNは2以上の整数)のパラメータを最適化するために、
    前記N種類のパラメータのうちの各パラメータの値又はM種類(但しMはNよりも小さい整数)のパラメータをまとめた値の組、を複数段階に変化させながら目的成分を含む試料に対する測定を繰り返し実行するように前記イオン源、前記質量分離部、及び前記検出部を制御する測定制御部と、
    前記測定制御部による制御の下で実行される測定の結果に基づいて、前記N種類のパラメータのうちの、各パラメータの値はM種類のパラメータをまとめた値の組、についての最適な値を逐次的に見つけるパラメータ決定部と、
    を備え、前記測定制御部は、前記N種類のパラメータのうち、物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類の値又はその値の組を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先行して変化させながら測定の繰り返しを実行するように制御を行い、前記パラメータ決定部は、前記物理量が温度であるパラメータの少なくとも1種類を、物理量が温度以外であるパラメータの全てよりも先に最適化する、質量分析装置。
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