A.定義
通常、本明細書で使用する場合、「から実質的になる」及び「からなる」という用語は、「含む」という用語に包含される。
通常、本明細書で使用する場合、他に示されていない限り、「1つの(one)」、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」物品は、「少なくとも1つ」又は「1つ若しくは複数」を指す。
通常、本明細書で使用する場合、「含む(including)」及び「有する」という用語は、「含む(comprising)」を意味する。
本明細書で使用する場合、「LAESI」及び「LAESI−MS」という用語は、レーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化質量分析を指す。
本明細書で使用する場合、「感染」という用語は、細胞、組織、器官及び/又は生物におけるウイルス又は細菌の増殖及び/又は存在による侵入を指す。
本明細書で使用する場合、「代謝異常」という用語は、生物の代謝異常の変化から生じる細胞、組織、器官及び/又は生物におけるいずれかの病的状態を指す。
本明細書で使用する場合、「メタボローム」という用語は、特定時点での細胞、組織、器官及び/又は生物における代謝産物の全て又は部分的なセットを指す。感染及び/又は代謝異常により、特定の代謝産物が上方制御又は下方制御され得る。
本明細書で使用する場合、「パターン」という用語は、代謝産物のセット及び診断的方法によって測定されるそれらの強度を指す。代謝産物のセットは、特定時点での細胞、組織、器官及び/又は生物における代謝産物の全て又は部分的なセットを指す。
通常、本明細書で使用する場合、「約」及び「およそ」という用語は、測定の性質又は精度を考慮して、測定された量についての誤差の許容程度を指す。典型的な例示的な誤差の程度は、所与の値又は値の範囲の20%、10%、又は5%の範囲内であり得る。あるいは、特に生物学的システムにおいて、「約」及び「およそ」という用語は、一桁分の範囲内、潜在的には所与の値の5倍又は2倍の範囲内の値を指す。
本明細書に記載される全ての数量は、他に記載されていない限り、近似であり、「約」という用語が明確に記載されていない場合も推定され得ることを意味する。本明細書に開示される数量は、列挙された正確な数値に厳密に制限されないと理解されるべきである。代わりに、他に記載されていない限り、各数値は、列挙された値及びその値周囲の機能的に同等の範囲を意味すると意図される。最低限でも、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する意図ではないが、各数値パラメータは、少なくとも、報告されている有効数字及び通常の丸め法を適用することを鑑みて解釈されなければならない。本明細書に記載される数量の近似値にも関わらず、実際の測定値の特定の例に記載される数量は可能な限り正確に報告される。
本明細書に記載される全ての数値範囲は、そこに包含される全ての部分範囲を含む。例えば、「1〜10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10の間、及びそれらを含む、全ての部分範囲を含むものと意図する。本明細書に列挙されたあらゆる最大の数値限定は、全てのより小さい数値限定を含むものと意図する。本明細書に列挙されたあらゆる最小の数値限定は、全てのより高い数値限定を含むものと意図する。
以下の説明において、特定の詳細は、質量分析計並びにそれを製造及び使用する方法の種々の実施形態のより良い理解を提供するために記載している。しかしながら、当業者は、本明細書に記載される実施形態がそれらの詳細を用いずに実施されてもよいことを理解するだろう。他の例において、質量分析計に関連する周知の構造及び方法並びに質量分析法は、本開示の実施形態の不必要な曖昧な説明を回避するために詳細に示され又は記載されていない場合もある。
本開示は、質量分析計並びにそれを製造及び使用する方法の種々の実施形態の種々の特徴、態様、及び利点を記載している。しかしながら、本開示は、当業者が有用であると見出し得るもののいずれかの組み合わせ又は部分的組み合わせにおいて本明細書に記載される種々の実施形態の種々の特徴、態様、及び利点のいずれかを組み合わせることによってなされ得る多数の代替の実施形態を包含することは理解される。
B.概説
細胞又は生物の感染は、遺伝子、タンパク質、及び代謝産物レベルにおいて広範な変化を引き起こす。それらの変化の後、通常、遺伝子発現プロファイリング及びプロテオーム解析が行われる。ウイルスは、例えば、生存及び複製のためのそれらの細胞宿主の代謝ネットワークに頼る。ウイルス感染の代謝結果を検証することにより、ウイルス感染の原因及び/又は治療に対する洞察が与えられ得る。そのような研究によって得られた洞察は、標的試料、治療手順、及び使用される検出技術に依存し得る。通常、血液及び尿などの生物流体は感染後の代謝変化を追跡するために使用されるが、多くの場合、それらは、異なる細胞種類の変化のプール及び個体間の変異に起因して分析を複雑にし得る。結局のところ、試料の直接分析が、感染の部位内及び部位における実際の疾患関連代謝変化を理解するためのより容易な方法である。そのような場合、直接検出技術が重要な利点を提供できる。
代謝産物は、それらの識別及び分析を困難にする、大いに異なる存在レベルを有する様々な生理化学特性を有する低分子である。典型的には、フーリエ変換赤外分光法、核磁気共鳴(NMR)などの光学的分光分析、並びにガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びキャピラリー電気泳動などの分離技術と組み合わせた質量分析技術が、メタボローム研究に使用されている。質量分析(MS)は、クロマトグラフ分離と組み合わされ、高い選択性及び感受性、並びに広範なダイナミックレンジを有する複合試料の定性的及び定量的分析を与えることができる多目的技術である。しかしながら、従来の質量分析法は時間がかかり、広範な試料調製を伴う。フローインジェクションエレクトロスプレーイオン化(ESI)などの直接サンプリング方法の適用はクロマトグラフ分離を回避できるが、試料の完全性に影響を及ぼし得、一部の場合、代謝産物分解を引き起こし得る広範な試料調製を回避できない。従って、これらの技術は一般的に、試料の選択を制限し、それらのその場分析を妨げる。
これらの問題の一部は大気圧イオン源の使用により軽減され得る。リアルタイム直接分析(DART)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、大気圧赤外線マトリクス支援レーザ脱離イオン化(AP IR−MALDI)、及びレーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化(LAESI)などの大気圧イオン源の最近の進歩により、広範な試料調製を必要とせずに細胞及び組織試料の直接分析が可能となる。DART、DESI、及びMALDI技術を用いる細胞、細胞培養物、及び細胞抽出物の分析は、検体の適用範囲、表面のみのサンプリング、及び定量制限などのそれら自体の欠点を有し得る。特定の実施形態によれば、LAESI−MSは、その場の細胞及び組織分析のために提供でき、組織画像化及び定量能を用いて代謝産物及び脂質成分について細胞の全体積をサンプリングできる。
ウイルス感染の以前の研究により、解糖、クエン酸(TCA)回路、ピリミジンヌクレオチド生合成、及び脂質代謝が、一般的に、ウイルス感染に伴って主に代謝変化することが示されている。これらの経路の代謝中間体は、感染に対する反応(例えば、より迅速なグルコース及びグルタミンの取り込み、クエン酸塩のより多くの蓄積、並びに感染細胞における乳酸塩及びグルタミン酸塩の排出の増加)を増加し得る。感染細胞からの流出物はヌクレオチド及び脂肪酸生合成に関連する代謝産物中で豊富になり得る。感染細胞における脂肪酸生合成は抗ウイルス反応を考慮され得る。HIV感染細胞の以前の研究により、グルタチオンレベルの減少、脂質代謝の変化、及びポリアミンプール(プトレシン、スペルミジン及びスペルミン)が示されている。しかしながら、これらの研究は、試料抽出及びクロマトグラフ分離の両方を含む、従来のMSベースの技術を用いて行われた。特定の実施形態によれば、LAESI−MSは、HTLV1感染Tリンパ球の代謝変化の迅速且つ直接的な識別を提供し、広範な試料調製の必要性を低減及び/又は除外する。
デルタレトロウイルスサブファミリーのメンバーである、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV1)は、発見された最初のヒト病原性レトロウイルスであった。HTLV1は癌発生の原因となり得る。HTLV1による感染の結果として、成人T細胞白血病(ATL)、CD4+Tリンパ球増殖性悪性腫瘍の発生を生じる場合がある。世界中のHTLV1感染を見積もると、1500万から2500万の間の個体となり得る。しかしながら、感染した個体は、長い潜伏期間の後、3〜5%の発生率でATLを発症する。HTLV1による感染の結果として、多発性筋炎、ブドウ膜炎、及びリンパ球性肺胞炎を含む、HTLV1関連脊髄症/熱帯性痙性不全対麻痺(HAM/TSP)及びいくつかの炎症性疾患を生じる場合がある。HTLV1感染によるATLの発症は、ウイルスタンパク質Taxに起因する初期の形質転換を有する多ヒット型の発生であり得る。最近の研究により、インターロイキン−2受容体(IL−2R)に対するモノクローナル抗体を含む、新規治療並びにインターロイキン−アルファ(IFN−α)及びジドブジン(AZT)の併用療法の使用が、ATL患者のごく一部であるが、効果的であることが示されている。従って、ATL、特に、HTLV1感染を治療するための新規療法が望まれる。
特定の実施形態によれば、感染及び/又は代謝異常の発症後の細胞、組織、及び/又は生物の代謝プロファイルの変化を識別及び分析するための質量分析計及び質量分析法である。ウイルス感染した細胞及び組織の代謝変化は、高スループットメタボローム及び相補的なトランスクリプトーム及び本明細書に記載されているLAESI−MSなどのプロテオーム技術を用いて監視できる。特定の実施形態において、LAESI−MSは、HTLV1感染、HTLV3感染、Tax1発現、及びTax3発現並びにHTLV3分子クローン又はTax3及びHTLV1形質転換細胞のいずれかでトランスフェクトした細胞及び組織の代謝プロファイルの比較の後に、細胞、組織、及び/又は生物の代謝プロファイルの変化を識別及び分析するために使用され得る。代謝及び細胞周期制御において、タンパク質などの重要な調節因子を不安定化するTaxの役割を理解することは、ATL発症の原因となり、新規治療ストラテジーを規定する分子マーカーを識別するのに役立ち得る。特定の実施形態は感染細胞のその場の代謝産物プロファイリングを含む。特定の実施形態は宿主細胞の生化学プロセスにおけるウイルス感染による撹乱の識別を容易にするステップを含む。
本明細書に記載される質量分析計並びにそれを製造及び使用する方法の特定の実施形態は、他の質量分光分析のアプローチよりも特定の利点を与えることができる。その利点としては、限定されないが、その場分析、多数試料の同時検出、アブレーション条件及びイオン化条件の独立最適化、使用され得る試料のより広範なダイナミックレンジ、周囲条件下での作動、より簡単な試料調製、最小試料の操作、最小試料の分解、改良したサンプリング時間、位置感度、表面特性に対する改良した感受性、及び/又は改良した検出限界が挙げられる。
C.レーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化質量分析
特定の実施形態によれば、レーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化質量分析のための質量分析計は、全体として、レーザシステム、エレクトロスプレー装置、及び質量分析計を備えてもよい。レーザシステムは、レーザ、並びに光ファイバ、組みレンズ、及び/又は集束レンズを含む集束系、並びに試料マウントを有するx−y−z並進ステージを備えてもよい。レーザは、Er:YAGレーザ、Nd:YAGレーザ駆動の光学パラメータ式発振器及び自由電子レーザからなる群から選択されてもよい。エレクトロスプレー装置は、電源及びシリンジポンプを有するエレクトロスプレーイオン化エミッタを備えてもよい。質量分析イオン源は固体カメラを備えてもよい。質量分析イオン源は、試料を包囲するためのシュラウド、試料ホルダ、及び/又はエレクトロスプレーエミッタを備えてもよい。並進ステージ及び試料環境は制御された温度及び/又は制御された雰囲気であってもよい。これにより、試料の完全性が維持され、環境からの水分の凝縮が回避できる。雰囲気は周囲雰囲気を含んでもよい。温度は−10℃〜60℃の範囲であってもよい。相対湿度は10%〜90%の範囲であってもよい。
特定の実施形態において、雰囲気及び/又はエレクトロスプレー溶液は、試料の特定の構成物質のイオン化及び/又はフラグメンテーションを促進する反応成分を含んでもよい。例えば、エレクトロスプレー溶液は、衝突誘起解離実験において構造特異的フラグメンテーションを誘発することによって脂質の構造上の識別を容易にするLi2SO4を含んでもよい。反応ガスの例としては、限定されないが、アンモニア、SO2、及びNO2が挙げられる。
図1を参照すると、特定の実施形態において、LAESIイオン源を含む質量分析計は、全体として、エレクトロスプレーキャピラリー2、ポンプ4を有する任意選択の液体供給、高電圧電源6、対電極8、オシロスコープ10、記録装置12、例えばパーソナルコンピュータ、Er:YAGレーザ又はNd:YAGレーザ駆動の光学パラメータ式発振器などのレーザ14、ビームステアリング装置16、例えばミラー、集束装置18、例えばレンズ又は先鋭化光ファイバ、x−y−z位置決めステージを有する試料ホルダ20、質量分析計22、及び記録装置24、例えばパーソナルコンピュータを備えてもよい。
図2を参照すると、特定の実施形態において、LAESIイオン源を含む質量分析計は、全体として、エレクトロスプレーキャピラリー(E)、ポンプを有する任意選択の液体供給(SP)、高電圧電源(HV)、Er:YAGレーザ又はNd:YAGレーザ駆動の光学パラメータ式発振器などのレーザ、ビームステアリング装置、例えばミラー(M)、集束装置、例えばレンズ又は先鋭化光ファイバ、x−y−z位置決めステージを有する試料ホルダ(TS)、長距離ビデオ顕微鏡(FMM)、第2のビデオ顕微鏡(CSM)、及び質量分析計を備えてもよい。特定の実施形態において、LAESIイオン源を含む質量分析計は、エレクトロスプレープルームにより遮断され、質量分析計(MS)によりサンプリングされたイオンを形成するために後でイオン化され得る中赤外アブレーション生成物を生成するためのエッチングされた光ファイバ先端(F)、ファイバ先端と試料表面(S)との間の一定距離を維持するための長距離ビデオ顕微鏡(ファイバモニタ、FMM)、3軸並進ステージ上に置かれた試料(TS)、及び試料を標的にするための第2のビデオ顕微鏡(細胞スポッティング顕微鏡(cell spotting microscope)、CSM)を備えてもよい。エレクトロスプレーは、高電圧(HV)をキャピラリーエミッタ(E)に印加することによって、及びシリンジポンプ(SP)による一定の溶液流量を維持することによって生成され得る。レーザからのパルスは、2つのAuコーティングミラー(M)及びCaF2レンズ(L)を用いて、ファイバチャック(C)及び5軸ファイバマウント(FM)によって調節された、光ファイバに結合され得る。LAESI−MS装置は、記録装置、例えばパーソナルコンピュータを備えてもよい。LAESIイオン源を含む質量分析計は、単一細胞分析のために構成されてもよい。単一細胞のためのLAESI−MS法は、マイクロマニピュレータを用いるステップ及びレーザスポットサイズを5μm〜200μmに低減させるステップを含んでもよい。
特定の実施形態において、アブレーションプルーム(LA)はエレクトロスプレープルーム(ES)と交差してもよい。図3A及び3Bを参照すると、エレクトロスプレーされた液滴は、エミッタから下流(左から右)に移動する。エレクトロスプレーされた液滴は、アブレーションプルームから上方に移動する微粒子によって遮断される。アブレーションプルームは1〜3μmの粒子を含んでもよい。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、2つのプルームの交差点において、アブレートされた粒子の一部は、エレクトロスプレー液滴と融合して、アブレートされた材料の一部を含有する帯電液滴を形成でき、最終的にESIプロセスにおいてイオンを生成する。エレクトロスプレーエミッタは、パルス状噴霧レジーム及び/又はコーンジェットレジームにおいて操作されてもよい。図3Aに示されるように、パルス状噴霧レジームは、より低いデューティサイクルを与えることができ、より低いイオン化効率及びLAESIシグナルを生じるより大きなエレクトロスプレー液滴を生成できる。図3Bに示されるように、コーンジェットレジームは、より高いイオン化効率及びLAESIシグナルを生じるより小さなエレクトロスプレー液滴を生成できる。
特定の実施形態において、レーザは赤外レーザを含んでもよい。赤外レーザは、2600nm〜3450nm、例えば2800nm〜3200nm、及び2930nm〜2950nmの波長で作動できる。レーザは、2600nm〜3450nmの波長、1Hz〜100Hzの繰り返し率、及び0.5ns〜50nsのパルス幅で作動する中赤外パルスレーザを含んでもよい。少なくとも1つの実施形態において、レーザは、2940nm、100Hz繰り返し率、及び5nsパルス幅で作動するダイオード励起されたNd:YAGレーザ駆動の光学パラメータ式発振器(OPO)(Opolette100,Opotek,Carlsbad,CA)を含んでもよい。光ファイバは、1μm〜50μm、例えば5μm〜25μm、及び10μm〜15μmの曲率半径にエッチングされたその先端を有する酸化ゲルマニウム(GeO2)ベースの光ファイバ(450μmコア径、HP Fiber,Infrared Fiber Systems,Inc.,Silver Spriong,MD)を備えてもよい。少なくとも1つの実施形態において、曲率半径は15μmであってもよい。光ファイバはレーザパルスを試料に送達できる。光ファイバに結合する前のレーザパルスのエネルギーは0.1mJ〜6mJであってもよく、従って、パルス間エネルギーは、安定的に通常、2%〜10%に対応する。少なくとも1つの実施形態において、光ファイバに結合する前のレーザパルスのエネルギーは554±26μJであってもよく、従って、パルス間エネルギーは、安定的に通常、5%に対応する。レーザシステムは、試料をアブレートするために0.01秒〜20秒、100Hzで作動できる。少なくとも1つの実施形態において、レーザシステムは、試料をアブレートするために、1秒間、100Hzで作動できる。特定の実施形態において、1〜100のレーザパルスが分析のために試料に送達されてもよい。
特定の実施形態において、エレクトロスプレー源は、エレクトロスプレー溶液を先細状のステンレス鋼エミッタ(内径50μm,MT320−50−5−5,New Objective,Woburn,MA)に供給するために低ノイズシリンジポンプ(Physio22,Harvard Apparatus,Holliston,MA)を備えてもよい。低ノイズシリンジポンプは10nL/分〜10μL/分の速度でエレクトロスプレー溶液を供給できる。少なくとも1つの実施形態において、低ノイズシリンジポンプは200nL/分でエレクトロスプレー溶液を供給できる。先細状のステンレス鋼エミッタは、100μm〜500μmの外径及び10μm〜200μmの内径を有してもよい。電源は、2.5〜5kVの安定な高電圧をエレクトロスプレーエミッタに提供するために、調整電源(PS350,Stanford Research Systems,Sunnyvale,CA)を含んでもよい。電源は、試料、エレクトロスプレーエミッタ、及び/又は質量分析計の入り口開口部の相対位置を調節することによってLAESIシグナルを最適化するために手動並進ステージに取り付けられてもよい。エレクトロスプレー溶液は、0.1%(v/v)酢酸を含む50%メタノール、0.1%(v/v)ギ酸を含む50%メタノール、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸を含む50%メタノール、0.1%(v/v)酢酸アンモニウムを含む50%メタノールのうちの少なくとも1つを含んでもよい。エレクトロスプレー溶液は、0°〜90°、例えば30°、45°、及び60°の角度で、アブレーションプルームに適用されてもよい。角度は、イオン生成を最適化するために0°〜90°で調節されてもよい。少なくとも1つの実施形態において、エレクトロスプレー溶液は、直角(90°)でアブレーションプルームに適用されてもよい。
特定の実施形態において、質量分析計の開口部はLAESIイオン源のエレクトロスプレーエミッタと同じ又は異なる軸上にあってもよい。質量分析計の開口部と、LAESIイオン源のエレクトロスプレーエミッタとの間の角度は、0°〜90°、例えば30°、45°、及び60°であってもよい。質量分析計の開口部からエレクトロスプレーエミッタ先端までの距離は1mm〜20mm、例えば5mm〜15mmであってもよい。少なくとも1つの実施形態において、質量分析計の開口部からエレクトロスプレーエミッタ先端までの距離は12mmであってもよい。試料は、予め洗浄された顕微鏡スライドガラス(カタログ番号125496,Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)上に置かれてもよい。試料は、ステッピングモータ駆動の3軸精密屈曲ステージ(NanoMax TS,Thorlabs,Newton,NJ)上に置かれてもよい。試料は、スプレー軸の下1mm〜30mm、例えば5mm〜25mm、及び10mm〜20mmにあってもよい。少なくとも1つの実施形態において、試料は、スプレー軸の下15mmにあってもよい。1つの実施形態において、ESIが停止した場合、質量分析計によってイオンは検出されず、レーザによって直接誘起されたイオンが収集されなかったことを示す。この観測は、質量分析計の開口部とアブレートされた試料との間の長い(>15mm)距離によって生じ得る。
LAESIイオン源によって生成された陽イオンは質量分析計によって分析され得る。質量分析計は、直交加速飛行時間型質量分析計(QTOF Premier,Waters Co.,MA)を含んでもよい。質量分析計の開口部は、100μm〜500μm、例えば225μm〜375μmの内径を有してもよい。少なくとも1つの実施形態において、質量分析計の開口部は、100μm〜200μm、例えば127μmの内径を有してもよい。質量分析計の開口部は、その質量分析計の開口部と同様の内径及び20mm〜500mmの長さを有する直線状又は湾曲した拡張チューブにより拡張されてもよい。インターフェースブロック温度は、周囲温度〜150℃、例えば23℃〜90℃、及び60℃〜80℃であってもよい。少なくとも1つの実施形態において、インターフェースブロック温度は80℃であってもよい。電位は−100V〜100V、例えば−70V〜70Vであってもよい。少なくとも1つの実施形態において、電位は−70Vであってもよい。タンデム質量スペクトルは、10−6mbar〜10−2mbarの衝突セル圧力、及び10eV〜200eVの衝突エネルギーにて、アルゴン、ヘリウム又は窒素などの衝突ガスを用いて、衝突活性化解離(CAD)によって得られ得る。少なくとも1つの実施形態において、衝突ガスはアルゴンであってもよく、衝突セル圧力は4×10−3mbarであってもよく、衝突エネルギーは10eV〜25eVであってもよい。
特定の実施形態において、レーザビームは、金がコーティングされたミラー(PF10−03−M01,Thorlabs,Newton,NJ)により操作されてもよく、2mm〜100mm、例えば25mm〜75mm、及び40mm〜60mmの焦点長さを有する平凸のフッ化カルシウムレンズ(Infrared Optical Products,Farmingdale,NY)により光ファイバの切断端部に結合されてもよい。少なくとも1つの実施形態において、焦点長さは50mmであってもよい。光ファイバは、むきだしのファイバチャック(BFC300,Siskiyou Corporation,Grants Pass,OR)により保持されてもよい。光ファイバは、5軸変換装置(BFT−5,Siskiyou Corporation,Grants Pass,OR)により位置決めされてもよい。
特定の実施形態において、光ファイバは、GeO2ベースのガラスファイバ、フッ化物ガラスファイバ、及びカルコゲニドファイバを含んでもよい。光ファイバは、その高いガラス遷移温度に起因する高レーザ損傷閾値を有してもよい。ハイトレル及びポリイミドコーティングは、1−メチル−2−ピロリジノン(1分間、130℃〜150℃にて)の塗布によってファイバの両方の端部で剥ぎ取られ得る。ハイトレル及びポリイミドコーティングを剥ぎ取った後、ファイバの端部は、サフィアブレード(KITCO Fiber Optics,Virginia Beach,VA)を用いて、それらの端部を引っ掻き、穏やかに折ることによって開裂され得る。GeO2ベースのガラスファイバ先端の化学エッチングは、低いメニスカス曲率を得るために、開裂したファイバ端部の1つを広いビーカー中の24℃の1%HNO3溶液に0.5mmの深さで浸漬することによってなされてもよい。ファイバ端部で形成されたメニスカスは、450μm直径コアを、15μmの曲率半径(R)を有する鋭い先端に徐々にエッチングできる。使用前に、エッチングされた先端は純水で洗浄されてもよい。特定の実施形態において、損傷又は汚染がないことを示し得るLAESI技術の実施後、ファイバ先端の目に見える変化は観察できない。
特定の実施形態において、ファイバのエッチングされた端部はマイクロマニピュレータ(MN−151、ナリシゲ(Narishige)、東京、日本)に取り付けられて、ファイバのエッチングされた端部を試料により近接するように移動できる。ファイバのエッチングされた端部と試料との距離は接触(0μm)から50μmであってもよい。少なくとも1つの実施形態において、x−y平面が試料と一致し、x軸がエミッタと平行になり、光ファイバが、20°〜160°の方位角及び20°〜70°の天頂角で位置合わせされるように座標系が調整されてもよい。少なくとも1つの実施形態において、方位角は135°であってもよく、天頂角は45°であってもよい。45°の天頂角は、拡張しているプルームを遮断することによってアブレーションマークの形状とシグナル強度減少との間で許容可能なトレードオフを与えることができる。アブレーション後、薄い試料材料堆積物がファイバ先端上に観測され得る。これらの場合、ファイバは表面から引っ込められてもよく、増加したレーザパルスエネルギーが先端を洗浄するために使用されてもよい。少なくとも1つの実施形態において、ファイバ先端と試料表面(h)との間の距離は2Rであってもよい。この結果、2.5Rの平均直径を有するアブレーションマークを生じ得る。少なくとも1つの実施形態において、ファイバ先端と試料表面との間の距離は30μmであってもよく、37.5μmの平均直径を有するアブレーションマークを生じる。アブレーションマークの顕微鏡画像は、反射された又は送信された様式のいずれかにおいて正立顕微鏡(BX51,Olympus America Inc.,Center Valley,PA)によって、及び倒立顕微鏡によって得られてもよい。
特定の実施形態において、質量分析計イオン源は可視化システムを含んでもよい。ファイバ先端と試料表面との間の距離は、5×無限遠補正対物レンズ(M Plan Apo 5×、株式会社ミツトヨ(Mitutoyo Co.)、神奈川、日本)を備えた長距離ビデオ顕微鏡(InFocus Model KC,Infinity,Boulder CO)によって監視されてもよく、画像はCCDカメラ(Marlin F131,Allied Vision Technologies,Stadtroda,Germany)によってキャプチャされてもよい。狭いμm領域における環境振動を用いて、30μm〜40μmの近似距離が先端と試料との間に維持されてもよい。類似のビデオ顕微鏡システムが、アブレーションのための試料中の対象の位置の上にファイバ先端を並べるために試料表面に対して直角で使用されてもよい。可視化システムは、10×無限遠補正長作動距離対物レンズ(M Plan Apo 10×、株式会社ミツトヨ(Mitutoyo Co.)、神奈川、日本)及びCCDカメラ(Marlin F131,Allied Vision Technologies,Stadtroda,Germany)を取り付けられた、7×精密光学ズーム(Edmund Optics,Barrington,NJ)を含んでもよい。
特定の実施形態において、試料は、水を含み、限定されないが、細胞、組織、器官、バイオフィルム、水溶液、有機物質、無機物質、合成物質、生物医学試料、法医学試料、生物兵器、及び浸水表面を含む、任意の試料を含んでもよい。例えば、試料は、生体分子(例えば代謝産物、脂質、核酸、タンパク質、ペプチド、及び炭水化物)、有機及び無機分子(例えば薬剤、ポリマー、デンドリマー及び他の高分子)、並びにそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。試料は、細胞が互いに及び/又は表面に付着している微生物の集合体を含むバイオフィルムを含んでもよい。試料は、単一細胞、細胞、小さな細胞集団、細胞株、組織を含んでもよい。単一細胞は、100μm未満、例えば50μm未満、25μm未満、及び/又は10μm未満の最小の寸法を有してもよい。単一細胞は、1μm〜100μm、例えば5μm〜50μm、及び10μm〜25μmの最小の寸法を有してもよい。少なくとも1つの実施形態において、単一細胞は1μm〜10μmの最小の寸法を有してもよい。小さな細胞集団は、10〜100万個の細胞、例えば50個の細胞〜100,000個の細胞、及び100個の細胞〜1,000個の細胞を含んでもよい。試料はウイルス及び細菌の少なくとも1つに感染した細胞を含んでもよい。試料はウイルス感染した生細胞及び/又は組織を含んでもよい。試料は代謝異常を有する細胞を含んでもよい。
図4を参照すると、特定の実施形態によれば、質量分析法は、インジケータを含む試料をレーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化質量分析に供するステップと、インジケータの相対強度を測定するステップと、インジケータの相対強度を標準インジケータ強度と比較するステップと、を全体として含んでもよい。試料をレーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化質量分析に供するステップは、周囲条件下で赤外レーザを用いて試料をアブレートしてアブレーションプルームを生成するステップと、エレクトロスプレープルームによってアブレーションプルームを遮断するステップと、質量分析によってインジケータを検出するステップとを含んでもよい。特定の実施形態において、試料をレーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化質量分析に供するステップは、試料をマトリクス材料で前処理するステップを除外する。特定の実施形態において、インジケータの相対強度を測定するステップは、複数の荷電状態を含むインジケータの相対強度を測定するステップを含んでもよい。標準インジケータ強度は内部標準及び/又は外部標準を含んでもよい。
特定の実施形態によれば、インジケータは、生体分子、有機分子、分子錯体及び/又は生体異物を含んでもよい。インジケータは、代謝産物、脂質、脂質前駆体、脂質成分、核酸、タンパク質、ペプチド、炭水化物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。インジケータは、単一細胞由来の細胞内代謝産物を含んでもよい。インジケータは、バイオマーカーを含んでもよい。バイオマーカーは、代謝変化に関連付けられてもよい。バイオマーカーは、疾患状態に関連付けられてもよい。疾患状態は、ウイルス感染、細菌感染、及び/又は代謝異常に関連付けられてもよい。
ウイルスとしては、限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV−1)、ヒト免疫不全ウイルス2(HIV−2)、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV1)、ヒトTリンパ球向性ウイルス2型(HTLV2)、ヒトTリンパ球向性ウイルス3型(HTLV3)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、パラミクソウイルス、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、ウイルス性脳炎、ヘルペスウイルス、インフルエンザ、及び/又は重症急性呼吸器症候群(SARS)が挙げられ得る。細菌としては、限定されないが、炭疽菌(炭疽病の病原体)、ペスト菌(腺ペストの病原体)、結核菌(結核の病原菌)及びコレラ菌(コレラの病原菌)が挙げられ得る。代謝異常は、糖尿病、筋ジストロフィー、フェニルケトン尿症(PKU)、テイサックス病、白質ジストロフィー、リソソーム異常、ウィルソン病、レッシュ・ナイハン症候群、尿素サイクル異常症、アミロイドーシス及び/又は脂質蓄積症を含んでもよい。特定の実施形態において、疾患状態は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV1)、及び/又はヒトTリンパ球向性ウイルス3型(HTLV3)並びにTax1及び/又はTax3発現細胞を含んでもよく、インジケータは、グルタチオン、スペルミン、スペルミジン、プトレシン、アルギニン、クレアチン、コリン、ホスホコリン、グリセロホスホコリン、グリセロホスホコリン脂質、ATP、ADP、AMP、cAMP、ドーパミン、ドーパミン代謝産物、及び/又はいずれかのそれらの組み合わせを含んでもよい。特定の実施形態において、インジケータは、毒素に対する曝露によって引き起こされる代謝変化に関連付けられてもよい。例えば、血液中の酵素ブチリルコリンエステラーゼの活性が、神経剤曝露に対するバイオマーカーとして使用されてもよい。
特定の実施形態によれば、質量分析法は、試料を、標準インジケータ強度に属する又は属さないと分類するステップを含んでもよい。標準インジケータ強度に属さない試料は、その試料が代謝変化を含むことを示すことができる。代謝変化は、ウイルス感染、細菌感染、及び/又は代謝異常に関連付けられてもよい。標準インジケータ強度に属さない試料は、その試料が疾患状態を含むと予測されることを示すことができる。疾患状態は、ウイルス感染、細菌感染、及び/又は代謝異常と関連付けられてもよい。
特定の実施形態において、インジケータは複数のインジケータを含んでもよい。質量分析法は、各インジケータの相対強度を測定して試料代謝産物パターンを形成するステップと、その試料代謝産物パターンを、複数のインジケータの各々の標準インジケータ強度を含む標準代謝産物パターンと比較するステップと、を含んでもよい。質量分析法は、試料を、標準代謝産物パターンに属する又は属さないと分類するステップを含んでもよい。標準代謝産物パターンに属さない試料は、その試料が代謝変化を含むことを示すことができる。標準代謝産物パターンに属さない試料は、その試料が疾患状態を含むと予測されることを示すことができる。
図5を参照すると、特定の実施形態によれば、インジケータを含む試料の代謝状態をその場で測定する方法は、周囲条件下で赤外レーザを用いて試料をアブレートしてアブレーションプルームを生成するステップと、エレクトロスプレープルームによってアブレーションプルームを遮断するステップと、質量分析によってインジケータを検出するステップと、インジケータの相対強度を測定するステップと、インジケータの相対強度を標準インジケータ強度と比較するステップと、試料を、標準インジケータ強度に属する又は属さないと分類ステップとを全体として含んでもよい。標準インジケータ強度に属さない試料は、その試料が代謝変化を含むことを示すことができる。標準インジケータ強度に属さない試料は、その試料が疾患状態を含むと予測されることを示すことができる。代謝変化は、ウイルス感染、細菌感染、及び/又は代謝異常と関連付けられてもよい。
特定の実施形態において、インジケータの相対強度を測定するステップは、複数の荷電状態を含むインジケータの相対強度を測定するステップを含んでもよい。インジケータは複数のインジケータを含んでもよい。質量分析法は、各インジケータの相対強度を測定して試料代謝産物パターンを生成するステップと、その試料代謝産物パターンを、複数のインジケータの各々の標準インジケータ強度を含む標準代謝産物パターンと比較するステップとを含んでもよい。質量分析法は、試料を、標準代謝産物パターンに属する又は属さないと分類するステップを含んでもよい。標準代謝産物パターンに属さない試料は、その試料が代謝変化を含むことを示すことができる。標準代謝産物パターンに属さない試料は、その試料が疾患状態を含むと予測されることを示すことができる。標準インジケータ強度は内部標準及び/又は外部標準を含んでもよい。
特定の実施形態において、代謝状態は、発生段階、例えば細胞周期の段階、環境、栄養供給、分類単位、遺伝単位、感染及び非感染状態、疾患及び健康状態、並びに病原性の異なる段階からなる群から選択されてもよい。
特定の実施形態によれば、代謝状態を測定する方法は、周囲条件下で赤外レーザを用いてインジケータを含む第2の試料をアブレートして第2のアブレーションプルームを生成するステップと、第2のエレクトロスプレープルームによって第2のアブレーションプルームを遮断するステップと、質量分析によって第2の試料のインジケータを検出するステップと、第2の試料のインジケータのプロファイルを測定するステップと、第1のインジケータ及び第2のインジケータを、互い及び/又は標準インジケータ強度と比較するステップと、第1の試料及び第2の試料の少なくとも1つを、標準インジケータ強度に属すか又は属さないと分類するステップとを含んでもよい。標準インジケータ強度に属さない試料は、その試料が代謝変化を含むことを示すことができる。標準インジケータ強度に属さない試料は、その試料が疾患状態を含むと予測されることを示すことができる。代謝変化及び/又は疾患状態は、ウイルス感染、細菌感染、及び/又は代謝異常と関連付けられてもよい。特定の実施形態において、第1のインジケータ及び第2のインジケータを互いに比較するステップは、試料が代謝変化を含むことを示すことができる。特定の実施形態において、第1のインジケータ及び第2のインジケータを互いに比較するステップは、試料が疾患状態を含むと予測されることを示すことができる。
特定の実施形態において、質量分析法は、試料からの時間及び/又は空間情報を測定するステップを含んでもよい。第2の試料は異なる時点の第1の試料を含んでもよい。例えば、第1の試料は細胞及び/又は組織を含んでもよく、所定の期間後又は細胞周期の異なる段階においてなどの後の時点の、第2の試料は同じ細胞及び/又は組織を含んでもよい。第2の試料は第1の試料の異なる部分を含んでもよい。例えば、第1の試料は細胞及び/又は組織の第1の部分を含んでもよく、第2の試料は同じ細胞及び/又は組織の別の部分を含んでもよい。
特定の実施形態によれば、ウイルス感染した細胞/組織の代謝変化はLAESI−MSを用いて監視されてもよい。特定の実施形態において、代謝産物及び脂質の変化は、非感染Tリンパ球、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV1)形質転換細胞、及びヒトTリンパ球向性ウイルス3型(HTLV3)形質転換細胞、並びにTax1及びTax3発現細胞株Tリンパ球から直接的に検出されてもよい。非感染及び感染細胞の質量スペクトルは、あらゆる代謝変化を識別するために比較されてもよい。グリセロホスホコリン(PC)脂質成分は非HTLV1形質転換細胞において優性であり得、PC(O−32:1)及びPC(O−34:1)プラズマロゲンは、HTLV1形質転換細胞におけるPC(30:0)及びPC(32:0)種と置き換えられてもよい。HTLV1形質転換細胞において、コリン、ホスホコリン、スペルミン及びグルタチオンは、とりわけ、下方制御され得るのに対して、クレアチン、ドーパミン、アルギニン及びAMPは上方制御され得る。特定の実施形態において、T細胞における個々の測定は、数秒かかってもよく、LAESI−MSを用いてハイスループット研究を可能にする。HTLV3分子クローン又はTax3のいずれかで形質転換した異なる細胞株の分析は、HTLV1及びHTLV3感染細胞と相関する代謝変化を示し得るのに対して、他のものはHTLV1に特有であり得る。
特定の実施形態によれば、質量分析法は、HTLV1及びHTLV3形質転換細胞のハイスループットのその場の代謝産物プロファイリングによって宿主細胞の生化学プロセスにおけるウイルス誘発性撹乱を識別するステップを含んでもよい。この方法は、HTLV1及びHTLV3感染の分子機構をより良く理解するために使用されてもよく、次いでこの結果、薬物開発及び/又は新規治療ストラテジーを得ることができる。
特定の実施形態によれば、質量分析法は、細胞間の代謝的変化を分析するステップ及び/又は細胞周期の異なる段階にて細胞を分析するステップを含んでもよい。特定の実施形態において、質量分析法は、HTLV1及びTax1形質変換Tリンパ球並びにHTLV3及びTax3形質転換腎上皮細胞の代謝変化を識別するステップを含んでもよい。インジケータは、グルタチオン、スペルミン、コリン、ホスホコリン、グリセロホスホコリン、チオアセトアミド、プロリン、タウリン、カルバモイルリン酸、メトキシチラミン及び8−ヒドロキシグアノシン、クレアチン、アルギニン、ドーパミン、ホモバニリン酸及びAMPを含んでもよい。グルタチオン、スペルミン、コリン、ホスホコリン、グリセロホスホコリン、チオアセトアミド、プロリン、タウリン、カルバモイルリン酸、メトキシチラミン及び8−ヒドロキシグアノシンのレベルはC81細胞において下方制御され得る。クレアチン、アルギニン、ドーパミン、ホモバニリン酸及びAMPのレベルは、感染細胞において上方制御され得る。
特定の実施形態において、質量分析法は、H9−Tax1細胞及びH9細胞並びにHUT102細胞及びH9細胞において検出された代謝変化を比較するステップを含んでもよい。C81細胞において検出された重要な代謝変化の一部はまた、H9−Tax1細胞対H9細胞並びにHUT102細胞対H9細胞においても観測された。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、これらのインジケータは、例えば、ポリアミン生合成、クレアチン生合成、AMP生合成、ドーパミン代謝、脂質代謝、酸化還元反応などの生化学経路に関与する。HTLV1とHTLV3形質転換細胞とを比較することにより、代謝反応の一部は類似しているが、HTLV1に特異的ないくつかの変化が存在することが示された。例えば、プトレシン、タウリン、アルギニン及びAMPのレベルの変化はHTLV1形質転換細胞の中で一致していた。
本明細書に記載される種々の実施形態は、以下の代表的な実施例と併せて読んだ場合、より良く理解され得る。以下の実施例は例示の目的のために含まれ、限定するものではない。
D.実施例
非感染Tリンパ球(CEM及びH9)及び腎上皮細胞(293T)、HTLV1感染細胞(C81及びHUT102)、並びにHTLV1(H9−Tax1)のTax1で安定にトランスフェクトしたH9細胞及びHTLV3(293T−HTLV3)に感染させ、Tax3(293T−Tax3)を発現する293T細胞を、ウシ胎仔血清、L−グルタミン(2mM)、ペニシリン(100単位/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含有するRPMI1640培地に維持した。培地溶液及び緩衝液はQuality Biological Inc.(Gaithersburg、MD)から調達し、溶媒はAcros Organics(Geel、Belgium)から入手可能なHPLCグレードであった。氷酢酸はFluka(Munich,Germany)から購入した。
特定の実施形態によれば、質量分析法は赤外レーザシステムにより実施した。光学パラメータ式発振器(OPO)(Opolette 100、Opotek、Carlsbad、CA)は、100Hz繰り返し率Nd:YAGレーザの出力を、2940nM波長における5nsの継続時間の中赤外パルスに変換した。ビームステアリング及び集束は、金でコーティングしたミラー(PF10−03−M01、Thorlabs、Newton、NJ)及び150mm焦点距離CaF2レンズ(Infrared Optical Products、Farmingdale、NY)によりそれぞれ達成した。スプレーキャプラリーの先端から5〜6mm下流において、0.3mJ/パルスの平均出力エネルギーを有するレーザビームを、直角(90°)にて組織試料をアブレートするために使用した。レーザスポットサイズは、印画紙上で生成された熱傷パターンの光学顕微鏡法により測定した。レーザスポットサイズは300μm直径を有した。
特定の実施形態によれば、エレクトロスプレーシステムは、320μmの外径及び50μmの内径を有する先細状先端を有するステンレス鋼エミッタ(MT320−50−5−5、New Objective Inc.、Woburn、MA)を介して0.1%(v/v)酢酸を含有する50%メタノール溶液を供給するために、低ノイズシリンジポンプ(Physio22、Harvard Apparatus、Holliston、MA)から構成された。安定な高電圧(2800V)を調整電源(PS350、Stanford Research Systems、Inc.、Sunnyvale、CA)によって生成した。調整電源はエミッタに直接印加した。サンプリング錐体の開口部は、その先端から12mmの距離にてエレクトロスプレーエミッタとの軸上にあった。
特定の実施形態によれば、試料をLAESI−MSに供する前に、対象の細胞を集団まで増殖させて106細胞/ペレットを生成した。その細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄して、スピンダウン(2000rpm)によりペレットにした。上清PBSをペレットを乱さずに除去し、10μLのペレットを顕微鏡スライド上に載せ、直接LAESI分析のために質量分析計に提供した。細胞ペレットを有する顕微鏡スライドを、周囲条件(周囲温度及び周囲圧力にて空気中)下でスプレー軸の15mm下に位置合わせした。顕微鏡スライドを、ラスタリング(rastering)及び形状最適化のためにコンピュータ制御されたステッピングモータ駆動の3軸精密屈曲ステージ(Nanomax TS、Thorlabs、Newton、NY)に取り付けた。
特定の実施形態によれば、イオン源を、Q−TOF Premier質量分析計(Waters、Milford、MA)に取り付けた。全スキャン質量スペクトルを、8,000(FWHM)の分解能にて飛行時間(TOF)分析器を用いてm/z50−2,000の質量範囲にわたって記録した。試料の個々の測定は、通常、数秒かかった。個々の代謝産物の構造識別のために、衝突活性化解離スペクトルを、四重極解析器(伝送窓2Da)を用いて前駆イオンを選択することによって記録し、生成したイオンをTOF解析器によって分解した。4×10−3mbarの衝突セル圧力及び5〜25eVの衝突エネルギー設定にて衝突ガスとしてアルゴンを使用した。内部標準法を用いて精密質量を測定した。グリシン、メチオニン、N−アセチルフェニルアラニン、ロイシンエンケファリン及びグルフィブリノペプチド(glufibrinopeptide)を、50μM〜200μMの濃度までエレクトロスプレー溶液に溶解し、内部標準として使用した。LAESIスペクトルを得るために使用した細胞の概数は試料のほとんどについてほぼ同じであるように、一定時間、同様の実験的条件下で収集したLAESIスペクトルの平均を考慮した。
ヒトメタボロームデータベース(HMDB;www.hmdb.ca)、MassBank高分解能質量スペクトルデータベース(www.massbank.jp)、NIST/EPA/NIH質量スペクトルライブラリ、及びMetaCycデータベース(http://metacyc.org)を、代謝産物検索及び識別のために0.1Da〜0.01Daの質量許容差範囲で使用した。
特定の実施形態によれば、検証目的のために、製造業社の指示書に従ってQuantiChromアルギナーゼアッセイキット(BioAssay Systems、Hayward、CA)を用いてアルギナーゼ活性を測定した。CEM及びC81細胞溶解物(10μg及び100μg)を3連で測定した。製造業社の指示書に従ってCatchPoint環状AMP蛍光アッセイキット(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いてcAMPの濃度を測定した。CEM及びC81細胞溶解物(10μg及び100μg)を3連で測定した。製造業社の指示書に従ってグルタチオン還元酵素アッセイキット(Sigma、St.Louis、MO)を利用してCEM及びC81細胞溶解物(10μg及び200μg)由来のグルタチオン還元酵素を測定した。
特定の実施形態によれば、試料は、非感染(CEM)及びHTLV1感染(C81)Tリンパ球の集団を含んでもよい。それらの非接着性細胞を、無機塩、糖、アミノ酸、ビタミン及び抗生物質を含有するRPMI培地中で増殖させた。LAESIスペクトルの培地からの干渉ピークを最小化するために、細胞をPBSで洗浄し、細胞ペレットを顕微鏡スライド上に載せた。複数のレーザショットにより細胞を直接アブレートし、10〜15スキャンの平均LAESIスペクトルを使用した。得られた陽イオンスペクトルは、m/z20〜1500の範囲において種々の細胞に関連した代謝産物イオンを示したが、また、PBSからの干渉ピークも含み、培地が細胞ペレットに残存していた。図8を参照すると、特定の実施形態に係る代表的な質量スペクトルが示される。質量スペクトルにおいて観測される代謝産物ピークは、精密質量、アイソトープ分布パターン、及びタンデムMSから得られた構造情報に基づいて識別した。バックグラウンド補正スペクトルは、プロトン化され、ナトリウムイオン化され(sodiated)、及びカリウムイオン化された(potassiated)種からなる細胞から記録した。観測したピークは、小さな代謝産物(<m/z500)、脂質(m/z690から850の間)、及び多価ピーク(multiply charged peak)(m/z700から1300の間)に起因し得る。全ての多価ピーク(m/z710、828、993及び1241)のデコンボレーションは、恐らくペプチドに関連する4960.6の公称分子量を有する一種類と一致した。
Tax1発現細胞を用いたCEM Tリンパ球及びHTLV1感染C81 Tリンパ球のスペクトルは、脂質ピークを除いて、同様のセットのイオンを示したが、一致した相違をそれらの相対的イオン収率で識別した。図6A及び6Bを参照すると、細胞特異的代謝産物イオン並びに精密質量及びタンデム質量スペクトルデータ及び構造特異的断片イオンに基づいた、対応するピーク同定の代表的なリストが示される。代謝産物の識別は、それらのタンデム質量スペクトルを、タンデムMSデータベースからの対応する標準物質のスペクトルと比較することによって確認した。スペルミン(m/z203.2)、グルタチオン(m/z308.1)、ホスホコリン脂質(PC(34:1)、m/z760.6)及びアデノシン一リン酸(m/z348.1)は、図9A〜Dに示されるタンデム質量スペクトルによって識別した。両方のプロトン化環状AMP(cAMP)及びナトリウムイオン化グルタチオンは、理論的にm/z330.0738イオンと同定できる。これらの2つのイオンの間の識別は、たとえ両方のイオンが(標準物質で試験したように)m/z330に寄与したとしても、m/Δm=10,000の利用可能な質量分解能により困難になり得る。図10を参照すると、ナトリウムイオン化グルタチオンは、Tリンパ球由来のm/z330イオンのタンデム質量スペクトルと2つの標準物質から生成されたm/z330イオンのタンデム質量スペクトルとを比較することによって識別できる。しかしながら、検出限界における又は検出限界以下のレベルのcAMPは、m/z330イオンの質量スペクトルに寄与し得る。1つの実験において、Tリンパ球におけるcAMPを6pmole/107細胞のレベルで測定した。グルタチオンからの干渉は、タンデムMSによるcAMPの存在を確認するのに困難を生じ得る。
プトレシン、スペルミジン及びスペルミンの分解/フラグメンテーション生成物の代表的な質量スペクトルが図11に示される(分解生成物a、b及びcと指定される)。分解生成物a、b及びcは通し番号2及び14で図6A及び6Bに示される。これらの生成物の形成は、標準的なポリアミンからのLAESIデータを、同様の実験的条件でTリンパ球において検出されたものと比較することによって確認した。m/z72イオンは主にプトレシンから得られ、m/z129及びm/z112イオンは、スペルミジン及びスペルミンの両方から形成され、恐らく大部分はそのより高いイオン収率に起因してスペルミンから形成された。非感染細胞と感染細胞との間のこれらの分解生成物の存在度はそれらの前駆体の存在度を追跡する。
特定の実施形態によれば、非HTLV1形質転換細胞及びHTLV1形質転換細胞の質量スペクトルにおいて検出されたイオンの相対存在度が、それらの間の代謝変化の程度を決定するために使用されてもよい。PBS/培地溶液からのバックグラウンドピークを内部標準として使用した。CEM及びC81において検出された各イオンについての相対存在比は図6A及び6Bに示される。一部の代謝産物は1つより多いイオン種(すなわち、プロトン化され、ナトリウムイオン化され、カリウムイオン化されている)として検出され得る。例えば、グルタチオンは6つの異なるイオン種として検出された。このような場合、関連した種全ての相対存在度の合計を存在比を計算するために使用した。特定のピークがスペクトルに存在しない場合、バックグラウンド(ベースラインシグナル)を比を計算するために使用した。上方制御は、非HTLV1形質転換細胞に対するHTLV1形質転換細胞からのイオンの存在比によって測定できるのに対して、下方制御は、その反比によって測定できる。もしあれば、1の比はわずかな変化を示し得る。特定の実施形態に係る3連の実験からのCEMとC81細胞との間の代謝産物のレベルの変化が図13に示される。
特定の実施形態によれば、Tリンパ球の質量スペクトルは、培地(11mM)の主な成分である、グルコース(相対存在度<3%)からなった。プロトン化されたスペルミン(203.2236)は、ナトリウムイオン化されたグルコース種(203.059)のものと近かったが、それらの2つのピークは十分に分離され得る。しかしながら、これは、Tリンパ球から検出されたスペクトルに対する培地に関連したピークの可能な寄与の問題を引き起こし得る。培地のみの質量スペクトルは、アルギニン(m/z175)、コリン(m/z104)、及びグルタチオン(m/z308)が、Tリンパ球において関連した代謝産物からのシグナルに寄与することを示した。グルタチオン及びコリンピークはグルコースピーク(m/z203、ベースピーク)に対して2%未満であるのに対して、アルギニンピークは25〜30%であった。これらの比は希釈した培地(100倍)からの値と一致した。グルコースピークは、単位値に近いm/z203についての存在比でCEM及びC81細胞(<3%)の両方において現れた。CEM細胞においてごくわずかであったアルギニンピークはC81細胞におけるグルコースピークより非常に高くなり得る。これにより、培地からのアルギニン干渉がごくわずかであり、アルギニンレベルがC81細胞において実際に上方制御されていることが確認できる。
特定の実施形態によれば、低い質量範囲(<m/z500)における相対質量スペクトルは、培地及びエレクトロスプレー関連バックグラウンドに対して補正されてもよい。補正後、43種のイオンはTリンパ球にのみ関連し、図6A及び6Bに示されるようにそれらのイオンのうち37種は21種の代謝産物に対応した。非HTLV1形質転換細胞とHTLV1形質転換細胞との間のそれらの相対的存在度の変化を示す同定されていないイオンは、m/z158.1572(存在比C81/CEM=2.5)、228.0363(存在比C81/CEM=2.6)、260.0298(存在比C81/CEM=3.6)、311.9216(存在比C81/CEM=1.5)、333.9604(存在比C81/CEM=2.2)、及び346.0616(存在比C81/CEM=1.2)にあった。図6A及び6Bに示されるように、多くの代謝産物(例えばスペルミン、コリン、ホスホコリン、グリセロホスホコリン、及びグルタチオン)は、HTLV1形質転換細胞において下方制御され、多くの他の代謝産物(例えばピロリドン、クレアチン、アルギニン、ドーパミン及びアデノシン一リン酸)は、感染細胞において上方制御された。
特定の実施形態によれば、Tリンパ球の代表的な質量スペクトルはグリセロホスホコリン(PC)脂質を含み得る。図13を参照すると、脂質存在度及び非HTLV1形質転換細胞とHTLV1形質転換細胞との間のタイプにおいて有意な変化を観測した。全ての主な脂質ピークのタンデム質量スペクトルは、PC脂質を確認するためにm/z184にて単一の生成イオンを生じた(m/z760.6イオンの典型的なスペクトルは図9Cに示される)。
図7A〜Cに示されるように、脂質ピークを、タンデム質量分析及び精密質量情報に基づいて同定した。図7A〜Cは、ジアシルグリセロホスホコリン(PC(Cn:dbn)、ここでCnは炭素の総数を表し、dbnは2つの脂肪酸側鎖における二重結合の総数を表し、及びアルキルアシル/アルケニルアシルグリセロホスホコリン又はプラズマロゲン、(PC(O−Cn:dbn))を表す。図7A〜Cはまた、相対存在比の値を含む。非HTLV1形質転換細胞において検出された脂質の大部分はHTLV1形質転換細胞において下方制御された。少しの脂質のみがHTLV1形質転換細胞において保持され、PC(30:0)、PC(0−31:2)、PC(32:3)、PC(32:0)、及びPC(0−33:3)のレベルは、非HTLV1形質転換細胞に比べて高かった。脂質のインソースフラグメンテーション/分解からの衝突誘起解離(CID)生成物はイオンm/z184及び104において現れた。質量スペクトルが同様の実験的条件下で標準脂質(PC(16:0/18:1))に対して記録される場合、断片イオンm/z104及び184がわずかに観測された(<0.5%)。これにより、検出されたコリンピークが代謝産物に対応し、CID人工物に対応しないことが確認された。
特定の実施形態によれば、非HTLV1形質転換Tリンパ球とHTLV1形質転換Tリンパ球との間の代謝産物レベルの変化が、関連する代謝経路に関与する酵素又はタンパク質を定量することによってタンパク質レベルにおいて検証されてもよい。CEM及びC81細胞におけるcAMP、アルギナーゼ、及びグルタチオン還元酵素のレベルは生化学アッセイを用いて測定した。図14を参照すると、アルギナーゼ及びcAMPレベルは上方制御され、グルタチオン還元酵素レベルは、非HTLV1形質転換細胞(CEM)と比べてHTLV1形質転換細胞(C81)において下方制御された。このアッセイは、対応する代謝産物におけるLAESI−MSによって検出される変化と相関する。
特定の実施形態によれば、試料は、他の細胞株、例えば非HTLV1形質転換Tリンパ球(H9)、それらのTax1−トランスフェクト対応物(H9−Tax1)、及びHTLV1形質転換細胞(HUT102細胞)を含んでもよい。トランスフェクション時の代謝変化は図16に記載される。図15を参照すると、代謝産物存在比はHTLV1感染T細胞(C81、HUT102)及びHTLV3、Tax1又はTax3形質転換細胞(それぞれ、293−HTLV3、H9−Tax1、293−Tax3)についての上方又は下方制御を示す。これらの細胞における代謝産物をCEM及びC81細胞と比較した。グルタチオン及びアデノシン一リン酸などの代謝産物の上方制御及び下方制御のパターンはCEM/81の場合と同様であった。これらの結果は、HTLV1感染細胞において観測された代謝変化がTax1発現に部分的に起因し得ることを示唆している。
特定の実施形態によれば、試料は、HTLV1形質転換に対して観測される代謝産物の変化の特異性を決定するために他の細胞株、例えば非感染293T腎上皮細胞、並びにHTLV3及びTax3トランスフェクト293T細胞上で含んでもよい。HTLV1形質転換時の代謝変化及びTax3の存在は図15に記載される。図15を参照すると、代謝産物が293T、293T−HTLV3及び293T−Tax3細胞において検出され、それらの存在比はHTLV3トランスフェクション又はTax3の存在に起因する上方及び下方制御を示す。図15及び16に示されるように、293T細胞は、CEM、C81、H9及びHUT102細胞において検出されなかった種々のイオンを示したが、これらの細胞全てに共通した一部の代謝産物が存在した。HTLV3及びTax3トランスフェクト293T細胞について観測された変化は、HTLV1形質転換細胞において見出されたものと一致しなかった。図18A及び18Bに示されるように、HTLV1形質転換細胞における顕著な変化を示した脂質ピークがHTLV3/Tax3感染293T細胞において変化しないことが見出された。
特定の実施形態によれば、グルタチオンの複数の豊富なイオン種が、高濃度を反映する非HTLV1形質転換Tリンパ球において検出され得るのに対して、HTLV1形質転換細胞において、それらの存在度が2〜5分の1に減少し得る。グルタチオン(GSH)の還元形態は12mM以下の濃度で哺乳動物細胞に最も多く存在しているチオールであり得る。GSHは、抗酸化物質(酸化的ストレスに対する防御)、異性化反応における補因子、システインの輸送及び貯蔵形態、並びに細胞内酸化還元状態の調節因子、細胞増殖及びアポトーシスなどのいくつかの重要な機能を果たし得る。生物学的に、酸化グルタチオン(GSSG)は、酵素であるグルタチオン還元酵素によってGSHに変換され得る。GSHとGSSGの比は細胞の抗酸化容量の代表的なインジケータとして機能し得る。細胞のGSH濃度は、タンパク質栄養不良、酸化的ストレス、及び他の病的状態に反応して低下し得る。細胞内のGSHレベルはTリンパ球の機能を調節でき、GSHの欠損はHIV感染に関連し得る。
特定の実施形態によれば、HTLV1形質転換Tリンパ球におけるGSHレベルは減少した。非HTLV1形質転換細胞及びHTLV1形質転換細胞の両方におけるグルタチオン還元酵素のレベルは酵素アッセイを用いて測定し、GSHはHTLV1形質転換細胞において低下し、GSHはHTLV3形質転換293T細胞において低下した。
特定の実施形態によれば、試料は、ポリアミンと命名されているポリカチオン性化合物に属する、スペルミン、スペルミジン及びプトレシンを含んでもよい。これらのポリアミンは、DNA合成及び遺伝子発現などの遺伝プロセスに関与することができ、細胞増殖、細胞分化、及びプログラム細胞死において重要な役割を果たす。図16を参照すると、ポリアミンの生合成は細胞において厳重に調節され、尿素サイクルにおけるオルニチンはそれらの前駆体である。それらのポリアミンのレベルは、細胞がウイルスに感染しているか否かを示す、細胞の実際の状態を示すことができる。1つの実験において、スペルミンレベルは、HUT102の場合を除いて全ての形質転換細胞において高く、プトレシンレベル及びスペルミジンレベル、スペルミンの前駆体は、HTLV1形質転換細胞において上方制御された。スペルミジンはまた、293T−HTLV3及び293T−Tax3細胞株においても上方制御された。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、これにより、ウイルス及びTax形質転換は、細胞におけるポリアミンの厳重に調節された生合成に影響を与え、それ故、遺伝プロセスにおいて障害を引き起こすことが示され得る。個々のアミンの傾向はHTLV1形質転換細胞の中で完全に一致していないが、ポリアミン生合成全体に対するウイルスの効果が反映される。1つの実験において、尿素サイクルにおけるポリアミンの前駆体である、オルニチンに変換されたアルギニンは、HTLV1形質転換細胞において上方制御され、特にHUT102において高かった。スペルミン、スペルミジン及びプトレシンは、ポリアミンの正電荷のアンモニア基と核酸の負電荷のリン酸塩との間の静電相互作用に起因して核酸と会合できる。
特定の実施形態によれば、HTLV1形質転換細胞におけるアルギニンレベルは増加した。酵素アッセイによって確認され得る、感染細胞におけるアルギナーゼの転写上方制御は、ウイルス感染時のアルギニンの向上したレベルと一致した。アルギニンの役割は、酸化的ストレスの間の内皮細胞の生存において役割を果たすことができる。アルギニンの欠乏は細胞機能において深刻な障害を引き起こす場合があり、アポトーシスを高める。アルギニン利用可能性は、癌におけるTリンパ球機能の調節に寄与し得る。図17を参照すると、アルギニンは、クレアチニンの生合成における前駆体であり、エネルギー供給における重要な分子であり得る。HTLV2感染患者の血液は、異常なクレアチンホスホキナーゼレベルを有し得る。クレアチン及びアルギニン代謝に関連する酵素は、悪性細胞において顕著に上方制御することを見出した。従って、HTLV1形質転換細胞におけるアルギニンレベルの上方制御の発見は他の生物系と一致する。
特定の実施形態によれば、Tリンパ球細胞及び腎上皮細胞の質量スペクトルにより、コリンを含有する代謝産物、例えばコリン、ホスホコリン、グリセロホスホコリン、及びいくつかのグリセロホスホコリン脂質は、HUT102の場合を除いて、非形質転換細胞と比較して、HTLV1、HTLV3、Tax1又はTax3による形質転換時に下方制御され得ることが示される。図19を参照すると、コリンを含有する代謝産物は脂質代謝において役割を有し得る。コリンは種々の代謝産物の前駆体であり得、その種々の代謝産物経路、リン酸化、酸化、及びアセチル化に対するコリンの細胞内経路は細胞特異的であり得る。コリン及びコリン代謝産物は、いくつかの経路を介するコリンリン脂質の制御された分解により再生され得る。コリンを含有する代謝産物の増加は、悪性細胞増殖を含む、多くの障害と関連し得る。HIV及びHCMV感染細胞における脂質レベルの変化は、それぞれ、プロテオーム及びメタボロームプラットフォームを用いて検出できる。感染細胞における脂肪酸生合成もまた、抗ウイルス反応とみなされ得る。コリンを含有する代謝産物のレベルの増加は、多くの障害、例えば、HCMV感染線維芽細胞における脂肪酸合成の十分な上方制御と関連し得る。
生体内NMR分光法は、コリンを含有する代謝産物を監視するために使用できるが、しかし、特定の代謝産物が変化するかを決定することは困難であり得る。特定の実施形態によれば、コリンを含有する代謝産物は、特定の代謝産物が変化するかを決定するためにLAESI−MSに直接供されてもよい。非形質転換細胞及び形質転換細胞の質量スペクトルは、前駆体及び脂質成分についての情報を同時に与えることができる。1つの実験において、HTLV1形質転換細胞におけるグリセロホスホコリン脂質含有量の減少により、脂肪酸を生成するために増加した脂質異化が確認された。HTLV1形質転換細胞において高いレベルのままである少しの脂質(PC(30:0)、PC(32:5)、PC(32:3)、PC(32:0)、及びPC(34:6)は別として、非HTLV1形質転換細胞において存在する大部分のグリセロホスホコリン脂質はHTLV1形質転換細胞において下方制御された。
ATP、ADP、及びAMPを含む、リン酸化アデノシンヌクレオチドのレベルは生細胞におけるエネルギー状態を規定し得る。個々のアデニンヌクレオチドの定量は細胞のエネルギー状態を評価するために使用できる。身体における外因性ATPのレベルは種々の炎症及びショック状態において増加し得る。細胞外ATPは細胞間伝達にとって、及び免疫系において重要であり得る。1つの実験において、AMPは、LAESI−MSに供された細胞から直接検出された。顕著に向上したAMP存在度がHTLV1及びTax1形質転換細胞において観測された。図19Aを参照すると、AMPは、ATP/ADPの脱リン酸化により、又はcAMPの加水分解により形成され得る。ATPの分解生成物は別として、AMPは、哺乳動物細胞において偏在的に発現されるAMP活性化キナーゼ(AMPK)系を活性化させ得る。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、それは、細胞エネルギーホメオスタシスを乱す種々の代謝ストレスに対する反応に関与し得る。
特定の実施形態によれば、試料はcAMPを含んでもよい。cAMPは二次メッセンジャーであり、重要な生化学プロセスに関与し得るいくつかのタンパク質キナーゼを活性化する。Tリンパ球に存在することが知られているcAMPの量は6pmol/107細胞である。1つの実験において、グルタチオンはcAMPの検出を妨げた。図14を参照すると、cAMPは免疫学的検定により測定した。図20Aを参照すると、cAMPレベル(アデニリルシクラーゼ活性)は、非HTLV1形質転換細胞と比較してHTLV1形質転換細胞において増加した。cAMPレベルの変化が、HIV及びHTLV1感染Tリンパ球において示し得る。
特定の実施形態によれば、試料は、Tリンパ球において、ドーパミン、神経修飾物質、及びその代謝産物、メトキシチラミン並びにホモバニリン酸を含んでもよい。ドーパミンは、カテコールアミンの群に属し、神経免疫学的ネットワークに関与し得る。Tリンパ球は、極めて重要な機能を誘発し得る神経伝達物質受容体を介して神経伝達物質により活性化され得る。カテコールアミンはマウスリンパ球において合成され得る。高いレベルのカテコールアミンは活性化状態を示し得る。図20Bに示されるように、ドーパミンは、チロシンから身体において生合成され得、代謝経路に関連し得る。1つの実験において、ドーパミン及びホモバニリン酸レベルは上方制御され、メトキシチラミンはHTLV1形質転換細胞において下方制御された。
本明細書に引用される全ての文献は、関連部分において、参照として本明細書に組み込まれるが、組み込まれる資料は、本明細書に示されている既存の定義、記述事項、又は他の文献と矛盾しない程度にのみ組み込まれる。この文献における用語のあらゆる意味又は定義は、参照によって組み込まれる文献における同じ用語のあらゆる意味又は定義と矛盾する範囲について、この文献におけるその用語に割り当てられた意味又は定義が優先される。あらゆる文献の引用はこの文献に関する先行技術であると認めると解釈されるべきではない。
質量分析計並びにその製造及び使用方法の特定の実施形態を例示し、記載しているが、種々の他の変更及び修飾が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずになされてもよいことは当業者に明らかであろう。当業者は、わずかに慣用の実験だけを用いて、代替、可変、付加、欠失、修飾、及び置換を含む、本明細書に記載される特定の装置及び方法に対する多数の等価物を理解するか、又は確認できるだろう。従って、添付の特許請求の範囲を含む本開示は、本発明の範囲内である全てのこのような変更及び修飾を包含することを意図する。