JP7128460B2 - Il-6阻害剤を有効成分とする精神疾患治療剤 - Google Patents

Il-6阻害剤を有効成分とする精神疾患治療剤 Download PDF

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Description

本発明は、精神疾患治療剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、インターロイキン6(IL-6)阻害剤を有効成分とする精神疾患治療剤に関する。
インターロイキン6(IL-6)はB細胞刺激因子2(BSF2)あるいはインターフェロンβ2とも呼称されたサイトカインである。IL-6は、Bリンパ球系細胞の活性化に関与する分化因子として発見され(非特許文献1)、その後、種々の細胞の機能に影響を及ぼす多機能サイトカインであることが明らかになった(非特許文献2)。IL-6は、Tリンパ球系細胞の成熟化を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
IL-6は、細胞上で二種の蛋白質を介してその生物学的活性を伝達する。一つは、IL-6が結合する分子量約80kDのリガンド結合性蛋白質のIL-6受容体である(非特許文献4および5)。IL-6受容体は、細胞膜を貫通して細胞膜上に発現する膜結合型の他に、主にその細胞外領域からなる可溶性IL-6受容体としても存在する。
もう一つは、非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130kDの膜蛋白質gp130である。IL-6とIL-6受容体はIL-6/IL-6受容体複合体を形成し、次いでgp130と結合することにより、IL-6の生物学的活性が細胞内に伝達される(非特許文献6)。
特許文献1には、抗IL-6R(IL-6受容体)抗体の種々の形態、例えばヒト型化抗IL-6R抗体、キメラ抗IL-6R抗体、などが記載されている。特許文献2には、抗IL-6R抗体などのIL-6アンタゴニストを活性成分とする慢性関節リウマチ治療剤及び滑膜細胞増殖抑制剤が記載されている。特許文献3には、プラズマサイトーシス、高イムノグロブリン血症、貧血、腎炎、悪液質、リウマチ、キャッスルマン病、メサンギウム増殖性腎炎、などのIL-6の生産に起因する疾患の治療について記載されている。特許文献4には、抗IL-6R抗体を有効成分とする、感作T細胞関与疾患、たとえば多発性硬化症、ブドウ膜炎、慢性甲状腺炎、遅延性過敏症、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎などの予防・治療剤が記載されている。
特許文献5には、抗IL-6R抗体を有効成分とする、全身性エリテマトーデス治療剤が記載されている。特許文献6には、抗IL-6R抗体を有効成分とするクローン病の治療剤が記載されている。特許文献7には、抗IL-6R抗体を有効成分とする膵炎の治療剤が記載されている。特許文献8には、抗IL-6R抗体を有効成分とする乾癬の治療剤が記載されている。更に、特許文献9には、抗IL-6R抗体を有効成分とする小児慢性関節炎の治療剤が記載されている。特許文献10には、抗IL-6R抗体を有効成分とする細胞の神経浸潤抑制剤が記載され、ヒト膵癌神経浸潤を抑制できることが記載されている。
このように、IL-6受容体に対する抗体がリウマチなどの炎症性疾患の治療に用いられている。しかしながら、IL-6などの炎症性サイトカインは複雑なネットワークを形成していることから、統合失調症などの他の疾患の治療に対してIL-6阻害剤が有効であるか否かは不明であった。
統合失調症は、多様な症状(例えば陽性症状(妄想、幻覚、思考障害等)、陰性症状、および認知障害)によって特徴付けられる精神疾患である。統合失調症における幻覚や妄想などの症状を改善する薬は存在するものの、現在のところその根本的治療法は開発されていない。
統合失調症とサイトカインとの関係に関しては、統合失調症患者の末梢血、脳脊髄液などにおいて、健常者と比較してIL-6濃度が増加していることが報告されている(非特許文献7~10)。また、母体免疫活性化(MIA)が統合失調症発症の環境要因の一つとして考えられており、マウスにおいては妊娠中のMIAが、胎仔脳の発達に影響し、行動異常を有する仔マウスを生じさせることが知られているが、この現象にIL-6が関与していることが報告されている(非特許文献11)。
また高脂肪餌を摂餌させることにより統合失調症のモデル動物が作製されており、その性状が解析されている。例えば、ラットにおいては、高脂肪餌摂餌によりIL-6を含む炎症性サイトカインが血中で増加することが報告されている(非特許文献12)。またマウスにおいては、思春期前後の期間における高脂肪餌摂餌によりプレパルス抑制(本明細書中、PPIともいう)が悪化することが報告されている(非特許文献13)。ここでPPIとは、驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象を意味する。PPIは、感覚運動ゲーティング(sensorimotor gating)の指標となることが知られている。統合失調症では、感覚運動ゲーティングに障害があるために、不必要な信号が大脳皮質に過剰に伝達され、思考障害などの症状が起こる一因になっていると考えられている。
またPPIの悪化はトゥレット症候群、強迫神経症、眼瞼痙攣、遺尿症(夜尿症)、心的外傷後ストレス障害、アンフェタミンなどの覚せい剤やケタミンなどの麻薬の服用時においても見られる生理学的異常であることが報告されている(非特許文献14、15)。トゥレット症候群は18歳以前に発症し、チック(突発的、急速、反復性、非律動性の運動または発声)を呈する一群の神経発達障害のうち、音声チックと行動チックの両者を呈し慢性の経過をたどる。強迫神経症は強迫性障害とも呼ばれ、不合理な行動や思考を自分の意に反して反復してしまい、時間の浪費、自覚的苦痛、社会的機能障害などを来す精神疾患である。眼瞼痙攣は左右の眼瞼(まぶた)の筋肉が攣縮(過度の瞬目)を起こし、開眼困難になる。不随意運動である局所性ジストニアの一種で進行性である。これらの精神疾患についても現在のところ根本的な治療方法は開発されていない。
WO92/19759 WO96/11020 WO96/12503 WO98/42377 WO98/42377 WO99/47170 WO00/10607 WO02/3492 WO02/080969 WO2009/148148
Hirano, T. et al., Nature (1986) 324, 73-76 Akira, S. et al., Adv. in Immunology (1993) 54, 1-78 Lotz, M. et al., J. Exp. Med. (1988)167, 1253-1258 Taga, T. et al., J. Exp. Med. (1987) 166, 967-981 Yamasaki, K. et al., Science (1988) 241, 825-828 Taga, T. et al., Cell (1989) 58, 573-581 Sasayama, D., Wakabayashi, C. et al., J. Psychiatr. Res. (2011) 45(11), 1439-1444 Sasayama, D. et al., J. Psychiatr. Res. (2014) 50, 79-83 Potvin, S. et al., Biol. Psychiatry (2008) 63, 801-808 Noto, C., Ota, V.K. et al., Int. J. Neuropsychopharmacol. (2015) 18 (4): DOI: http://dx.doi.org/10.1093/ijnp/pyu042 First published online: 31 October 2014 Smith, S.E.P. et al., J. Neurosci. (2007) 27(40), 10695-10702 Cano, P. et al., Obesity (2009) 17, 1866-1871 Labouesse, M.A. et al., Psychoneuroendocrinology (2013) 38, 2562-2574 Kohl, S. et al., Journal of Psychiatric Research (2013) 47, 445-452 Braff DL, Geyer MA, Swerdlow NR, Human studies of prepulse inhibition of startle: normal subjects, patient groups, and pharmacological studies. Psychopharmacology (Berl). 2001 Jul;156(2-3):234-58.
上記の通り、統合失調症においてIL-6の血中濃度が増加していることが報告されていたものの、他のサイトカインも増加しており、統合失調症の発症におけるIL-6およびIL-6受容体の詳細な役割については明らかにされていなかった。また非特許文献11には、母体へのIL-6投与により、生まれた仔マウスにプレパルス抑制および潜在抑制の異常が生じること、母体への抗IL-6抗体の投与により、MIAによって引き起こされる仔マウスの行動異常を防ぐことができること、マウスにおいてIL-6がMIAとの関連で胎仔脳の発達に重要であること、などが示されているものの、出生後の統合失調症の発症におけるIL-6の役割については全く示されていない。したがって、IL-6阻害剤の投与が統合失調症に対してどのような効果を示すかは全く不明であった。
また、トゥレット症候群及び強迫神経症についてもその発症におけるIL-6及びIL-6受容体の詳細な役割については明らかにされておらず、IL-6阻害剤の投与がトゥレット症候群及び強迫神経症に対してどのような効果を示すかは全く不明であった。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規な精神疾患治療剤を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を解決するために鋭意研究した結果、抗IL-6受容体抗体がプレパルス抑制の悪化を顕著に抑制することを発見し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、より具体的には以下の[1]~[28]を提供するものである。
[1]インターロイキン6(IL-6)阻害剤を有効成分とする精神疾患治療剤。
[2]IL-6阻害剤がIL-6受容体阻害剤である[1]に記載の精神疾患治療剤。
[3]IL-6阻害剤が抗IL-6受容体抗体である[1]に記載の精神疾患治療剤。
[4]抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である[3]に記載の精神疾患治療剤。
[5]プレパルス抑制効果減弱を抑制することを特徴とする、[1]から[4]のいずれかに記載の精神疾患治療剤。
[6]精神疾患が統合失調症、トゥレット症候群、および/または強迫神経症である、[1]から[5]のいずれかに記載の精神疾患治療剤。
[7]抗IL-6受容体抗体がPM-1抗体である、[3]に記載の精神疾患治療剤。
[8]対象において精神疾患を治療または予防する方法であって、有効量のインターロイキン6(IL-6)阻害剤を、精神疾患を発症した対象または発症する可能性がある対象に投与する工程を含む、前記方法。
[9]IL-6阻害剤がIL-6受容体阻害剤である[8]に記載の方法。
[10]IL-6阻害剤が抗IL-6受容体抗体である[8]に記載の方法。
[11]抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である[10]に記載の方法。
[12]プレパルス抑制効果減弱を抑制することを特徴とする、[8]から[11]のいずれかに記載の方法。
[13]精神疾患が統合失調症、トゥレット症候群、および/または強迫神経症である、[8]から[12]のいずれかに記載の方法。
[14]抗IL-6受容体抗体がPM-1抗体である、[3]に記載の方法。
[15]精神疾患の治療のためのインターロイキン6(IL-6)阻害剤。
[16]IL-6受容体阻害剤である[15]に記載のIL-6阻害剤。
[17]抗IL-6受容体抗体である[15]に記載のIL-6阻害剤。
[18]抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である[17]に記載のIL-6阻害剤。
[19]プレパルス抑制効果減弱を抑制することを特徴とする、[15]から[18]のいずれかに記載のIL-6阻害剤。
[20]精神疾患が統合失調症、トゥレット症候群、および/または強迫神経症である、[15]から[19]のいずれかに記載のIL-6阻害剤。
[21]抗IL-6受容体抗体がPM-1抗体である、[17]に記載のIL-6阻害剤。
[22]精神疾患治療剤の製造のためのインターロイキン6(IL-6)阻害剤の使用。
[23]IL-6阻害剤がIL-6受容体阻害剤である[22]に記載の使用。
[24]IL-6阻害剤が抗IL-6受容体抗体である[22]に記載の使用。
[25]抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である[24]に記載の使用。
[26]プレパルス抑制効果減弱を抑制することを特徴とする、[22]から[25]のいずれかに記載の使用。
[27]精神疾患が統合失調症、トゥレット症候群、および/または強迫神経症である、[22]から[26]のいずれかに記載の使用。
[28]抗IL-6受容体抗体がPM-1抗体である、[24]に記載の使用。
本発明によれば、統合失調症、トゥレット症候群、又は強迫神経症等の精神疾患における感覚運動ゲーティングの異常を改善することにより、精神疾患を治療する新規手段を提供することができる。
C57B6/J雄マウスへの高脂肪餌摂餌実験における摂餌スケジュールを示す図である。 音驚愕反応におけるプレパルス抑制を説明する模式図である。 5週齢のマウスに対し10週間の高脂肪餌を摂餌させることによってPPI悪化を誘導できることを示す図である。 高脂肪摂餌の血中IL-6濃度に対する影響を示す図である。 8週齢のマウスに対する3週間の高脂肪餌摂餌によりPPI悪化を誘導できることを示す図である。 8週齢のマウスに対する3週間の高脂肪餌摂餌により血中IL-6濃度が増加することを示す図である。 高脂肪餌摂餌によるPPI悪化が抗IL-6受容体抗体MR16-1投与により抑制されることを示す図である。 抗IL-6受容体抗体の線条体(Striatum)におけるGSK3α/βのリン酸化ならびにタンパク質発現量に及ぼす影響を示す図である。★★p < 0.01。 抗IL-6受容体抗体の前頭前野(Prefrontal cortex)におけるGSK3α/βのリン酸化ならびにタンパク質発現量に及ぼす影響を示す図である。
本発明において、「IL-6阻害剤」とは、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害する物質である。IL-6阻害剤の具体的な例として、IL-6に結合する物質、IL-6受容体に結合する物質、gp130に結合する物質などを挙げることができる。また、IL-6阻害剤としては、IL-6による細胞内シグナルとして重要なSTAT3リン酸化を阻害する物質、例えばAG490などを挙げることができる。IL-6阻害剤には、特に限定されないが、抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体、IL-6部分ペプチド、IL-6受容体部分ペプチド、これらと同様の活性を示す低分子化合物などが含まれる。
IL-6阻害剤の好ましい態様として、IL-6受容体阻害剤、特に抗IL-6受容体抗体を挙げることができる。
本発明において、「IL-6受容体阻害剤」とは、IL-6受容体を介したシグナル伝達を遮断し、IL-6受容体の生物学的活性を阻害する物質である。IL-6受容体阻害剤は、IL-6受容体に結合してIL-6受容体の生物学的活性を直接阻害する物質でもよいし、gp130などの他の物質に結合してIL-6受容体の生物学的活性を間接的に阻害する物質でもよいが、好ましくはIL-6受容体に結合し、IL-6とIL-6受容体との結合を阻害する活性を有する物質である。
本発明のIL-6受容体阻害剤としては、例えば、抗IL-6受容体抗体、可溶性IL-6受容体改変体、IL-6受容体の部分ペプチド、これらと同様の活性を示す低分子物質などが挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明のIL-6受容体阻害剤の好ましい例として、IL-6受容体を認識する抗体を挙げることが出来る。
本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来の抗体である。
本発明で使用される抗IL-6受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6受容体抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるもの等がある。この抗体はIL-6受容体と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体の例としては、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO 92-19759)、トシリズマブ(tocilizumab)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体、トシリズマブが例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられるが、これに限定されない。
抗IL-6受容体モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL-6受容体抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1~10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000~6000程度のPEG溶液を通常、30~60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日~数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602、WO 94/25585、WO 96/34096、WO 96/33735参照)。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。PM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO-BRL製)、PFHM-II培地(GIBCO-BRL製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
キメラ抗体、ヒト化抗体には、通常、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体重鎖C領域の例としては、Cγ、Cα、Cμ、Cδ、Cεが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。ヒト抗体軽鎖C領域の例としては、κまたはλを挙げることができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、これらはヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM-1抗体(トシリズマブ)が挙げられる(国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。又、ヒト化PM-1抗体のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加など行った置換体でもよい。
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
宿主として原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
宿主として真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702 )。
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523参照)。
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515 、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663 、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10~80、好ましくは20~50、より好ましくは20~40個のアミノ酸残基からなる。
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その特定した領域の一部又は全部のアミノ酸配列に基づいて通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
IL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
IL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α-アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα-アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水-アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
本発明の精神疾患治療剤は、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患の治療および/または予防において使用することが可能である。本発明の精神疾患治療剤には精神疾患の発症を抑制する精神疾患予防剤も含まれる。従って、本発明において「精神疾患治療」とは、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患の予防、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患の発生率の低下、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患の治療、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患の症状の改善などを意味する。
本発明で使用されるIL-6阻害剤の精神疾患治療剤としての効果は、例えばシグナル伝達阻害活性を指標として評価することができるがこれに限定されない。IL-6阻害剤のシグナル伝達阻害活性は、通常用いられる方法により評価することができる。具体的には、IL-6依存性ヒト骨髄腫株(S6B45,KPMM2)、ヒトレンネルトTリンパ腫細胞株KT3、あるいはIL-6依存性細胞MH60.BSF2を培養し、これにIL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を共存させることによりIL-6依存性細胞の3H-チミジン取込みを測定すればよい。また、IL-6受容体発現細胞であるU266を培養し、125I標識IL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を加えることにより、IL-6受容体発現細胞に結合した125I標識IL-6を測定する。上記アッセイ系において、IL-6阻害剤を存在させる群に加えIL-6受容体阻害剤を含まない陰性コントロール群をおき、両者で得られた結果を比較すればIL-6受容体阻害剤のIL-6受容体阻害活性を評価することができる。
一態様において、本発明の精神疾患治療剤は、プレパルス抑制効果減弱を抑制することを特徴とする。プレパルス抑制とは、驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象を意味する。プレパルス抑制の減弱は、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患患者および動物モデルの両方において認められるため、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患の精神生理学的指標の一つと考えられている。また感覚運動ゲーティング(sensorimotor gating)の障害は、精神疾患における思考障害などの症状が起こる一因と考えられているが、プレパルス抑制は、感覚運動ゲーティング(sensorimotor gating)の指標となることが知られている。そのためプレパルス抑制効果減弱を抑制する薬剤は、統合失調症、トゥレット症候群、強迫神経症等の精神疾患に対して治療効果を有すると評価される。
プレパルス抑制効果減弱の抑制は、後述の実施例に記載する、統合失調症モデルマウスを用いた試験により評価する。具体的には、8週齢のマウスに高脂肪餌(例えばHigh Fat Diet 32(日本クレア株式会社))を11週齢まで自由摂取させて、プレパルス抑制の悪化が誘導された統合失調症モデルマウスを作製する。高脂肪餌摂取期間中、IL-6阻害剤またはビヒクルを3回(8、9、および10週齢の時点)、腹腔内注射により投与する。11週齢の時点でプレパルス抑制を測定する。IL-6阻害剤投与群における%プレパルス抑制率が陰性コントロール群と比較して高ければ、IL-6阻害剤はプレパルス抑制効果減弱を抑制すると評価される。プレパルス抑制の測定は、Geyerらの方法(Braff DL and Geyer MA, Arch Gen Psychiatry 1990, 47:181-188)に修正を加えた方法によって行う。具体的には、マウス用音驚愕反応測定装置を用い、65-dBのバックグラウンドノイズに対して3分間マウスを馴れさせたのち、各個体について以下のセッション1~35の条件で音驚愕反応を測定する:セッション1~5(120-dB x 5回連続);セッション6~30((1)プレパルスなし+パルス120-dB、(2)プレパルス78-dB+パルス120-dB、(3)プレパルス84-dB+パルス120-dB、(4)プレパルス90-dB+パルス120-dB、(5)パルスなし(バックグラウンド)の5種類のセッションを各5回ずつ、15~20秒のいずれかの間隔でランダムに発生させる);およびセッション31~35(120-dB x 5回連続)。セッション6~30までの(1)~(4)のそれぞれの驚愕反応の強度(startle intensity)の平均値から(5)の平均値(バックグラウンド)を引き、この値を驚愕度合とし、以下の計算により%プレパルス抑制率を算出する。
%プレパルス抑制率 = 100 x (120-dBにおける驚愕度合 - 各プレパルスありの驚愕度合)/120-dBにおける驚愕度合
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、IL-6阻害剤によるプレパルス抑制効果減弱の抑制は、線条体のGSK3βのリン酸化亢進を特異的に阻害することによると考えられる。
本発明の精神疾患治療剤が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
本発明の精神疾患治療剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は特に限定されないが、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり1~1000mg、好ましくは5~50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法の具体的な例としては、たとえば抗IL-6受容体抗体の場合、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mgから20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで腹腔内注射、点滴などの静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、患者の状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
本発明の精神疾患治療剤は、少なくとも1つの既知の精神疾患療法剤または治療法と共に投与してもよい。例えば、精神疾患が統合失調症である場合、主としてドパミン-2受容体を遮断することにより作用する従来型抗精神病薬(例えば、クロルプロマジン、チオリダジン、トリフロペラジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、ロキサピン、モリンドン、チオチキセン、ハロペリドール、ピモジドなど)、ドパミン受容体とセロトニン受容体の両方を遮断することにより作用する第2世代抗精神病薬(例えば、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アリピプラゾールなど)、長時間作用型の抗精神病薬デポ剤(デカン酸フルフェナジン、エナント酸フルフェナジン、デカン酸ハロペリドール、リスペリドン・マイクロスフェアなど)などと同時にまたは順次投与することができる。例えば、精神疾患がトゥレット症候群である場合、上記薬剤の他、アドレナリンα2受容体作動薬(例えば、クロニジン、グアンファシンなど)と同時にまたは順次投与することもできる。例えば、精神疾患が強迫神経症である場合、上記薬剤の他、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(例えば、セルトラリン、パロキセチン、フルオキセチン、フルボキサミン、シタロプラム、エスシタロプラムなど)と同時にまたは順次投与することもできる。また、精神療法を併用することもできる。
本発明の精神疾患治療剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、上記の薬剤とともに投与可能な材料を意味する。製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6~18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10~18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2~4でアルキル基の炭素原子数が10~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8~18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12~18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
本発明の薬剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF-68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001~100mg/mLであり、好ましくは0.003~50mg/mLであり、さらに好ましくは0.005~2mg/mLである。
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸、他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1~500mMであり、好ましくは5~100mMであり、さらに好ましくは10~20mMである。
また、本発明の治療剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
本発明の薬剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液と混合することができる、また該水溶液は、適当な溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等)と併用してもよい。
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
本発明は、IL-6受容体阻害剤などのIL-6阻害剤を、精神疾患を発症した対象または発症する可能性がある対象に投与する工程を含む、対象において精神疾患を治療および/または予防する方法に関する。
本発明において、「対象」とは、本発明の精神疾患治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、皮下注射剤、筋肉注射剤、静脈内注射剤あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用により投与することも可能である。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
方法
驚愕反応の強度の測定
測定はGeyerらの方法(Braff DL and Geyer MA, Arch Gen Psychiatry 1990, 47:181-188)に修正を加えた方法で行った。驚愕反応試験にはマウス用音驚愕反応測定装置(小原医科産業株式会社)を用いた。マウスを測定用の透明アクリル筒に入れて装置内に固定し、65-dBのバックグラウンドノイズを発生させ、3分間馴れさせたのち、120-dB/40 msのパルス音に対する、78-dB~90-dB/20 msのプレパルス音有無の条件下における音驚愕反応を測定した。具体的には、各個体について以下のセッション1~35の条件で音驚愕反応を測定した。
セッション1~5:120-dB x 5回連続、
セッション6~30:(1)プレパルスなし+パルス120-dB、(2)プレパルス78-dB+パルス120-dB、(3)プレパルス84-dB+パルス120-dB、(4)プレパルス90-dB+パルス120-dB、(5)パルスなし(バックグラウンド)の5種類のセッションが各5回ずつ、15~20秒のいずれかの間隔でランダムに発生するように設定した、および
セッション31~35:120-dB x 5回連続。
セッション6~30までの(1)~(4)のそれぞれの驚愕反応の強度(startle intensity)の平均値から(5)の平均値(バックグラウンド)を引き、この値を驚愕度合とし、以下の計算により%プレパルス抑制率を算出した。
%プレパルス抑制率 = 100 x (120-dBにおける驚愕度合 - 各プレパルスありの驚愕度合)/ 120-dBにおける驚愕度合
血中IL-6濃度の測定
IL-6の測定試薬にはBDTM CBAマウス高感度Flex set (cat#558301)を用いた。また、試薬の調製にはMouse/Rat Soluble protein Master Buffer Kit (cat#558266)を用いた。測定および検出にはFACSCantoII(BD)を用い、FCAP ArrayTM Softwareにて濃度を算出した。測定は、以下に示す通り、BDから出されているInstruction Manualを参考にしながら修正を加えた方法により行った。
マウス血漿回収:マウスを頸椎脱臼にて安楽死させたのち、速やかに頸部を手術鋏にて切断し、血液を100 mM EDTA 15μL入りの1.5 mLチューブに回収して素早く転倒混和させた。室温で30分静置したのち、遠心機で7000 g x 10分(4℃)遠心分離させ、上清の血漿部分を新しいチューブに回収した。50μLに分注して測定までマイナス80℃のディープフリーザーにて保管した。
検量線用スタンダード作成:上記Set内に付属しているIL-6検量線用standardをバイアルから15 mLチューブに移し、Assay Diluent (Master Buffer Kit付属試薬)を4 mL加えて室温で溶解させた(原液2500 pg/mL)。1.5 mLチューブにAssay diluent 460μLを入れて、IL-6 standard原液を40μL加えて希釈し、top standardとし(200 pg/ml)、以下3倍希釈を7回行った。希釈したスタンダードは50μLずつ新しい1.5 mLチューブに入れ、検量線用として用意した。
抗体の反応:凍結保存しておいたサンプルを氷中にて溶解させた。IL-6測定用ビーズCapture Bead Diluent (Master Buffer Kit付属試薬)で10倍希釈し、10μLをサンプル、スタンダード溶液、またはAssay Diluent(blank 2本;2次抗体なし、あり)に加え、遮光して室温で1時間静置させた。各チューブにWash Buffer (250μL/チューブ)を加え、遠心分離(500 g x 10 分、4℃)で沈殿させ、上清を除去した。Capture beadはcapture bead diluent (Master Buffer Kit付属試薬)にて10倍希釈し、10μLをサンプル、スタンダード溶液、またはblank control 1本(2次抗体あり)に加え、遮光して室温で1時間静置させた。Blank control(2次抗体なし)にはCapture bead diluent 10μL を加えた。各チューブにWash Buffer (250μL/チューブ)を加え、遠心分離(500 g x 10 分、4℃)で沈殿させ、上清を除去し、沈殿物をWash Buffer 150μLに懸濁させたのち、FACS測定用5 mL ポリスチレンラウンドチューブ(非滅菌)に移し、FACSCantoIIにてBD FACSDivaTMソフトを用いて測定を行った。縦軸SSC-A、横軸FSC-Aのdot plot図においてビーズの集団をゲートし、さらに縦軸APC-Cy7-A、横軸APC-Aのdot plot図においてIL-6のビーズロケーション(B4)の位置をゲートし、もう1つ縦軸APC-Cy7-A、横軸PE-Aのdot plot図を作成し、PE強度がIL-6スタンダードで濃度依存的に右へシフトしていくことを確認しながらビーズを取り込み、FCAP ArrayTM Softwareで濃度を算出した。
参考例1:C57B6/J雄マウスへの高脂肪餌摂餌実験1
5週齢のC57B6/J雄マウスは、行動試験の誤差を小さくするため、以下の方法により用意した:日本チャールズリバーより交配用の雄雌マウスを購入し、国立精神・神経医療研究センター小型動物飼育施設で繁殖させた。出産後、雄仔マウスのみを出産ケージに残した。3週齢に達したマウスを離乳し、1ケージ3~4匹になるように分けて5週齢まで飼育した。
5週齢のC57B6/J雄マウスに、普通餌CE-2(日本クレア株式会社)または高脂肪餌High Fat Diet 32(日本クレア株式会社)を、5週間(5週齢から10週齢まで)または10週間(5週齢から15週齢まで)自由摂取させた(図1)。
普通餌または高脂肪餌を10週間摂取させたマウスについて、音驚愕反応におけるプレパルス抑制を調べた。普通餌群(ND:n=20)および高脂肪餌群(HFD:n=28)の各個体について、プレパルス(78、84、または90 dB)ありおよびなしにおける驚愕反応を測定した。各個体の%プレパルス抑制率に基づき、各群における平均値±標準偏差を算出した。
結果を図3に示す。高脂肪餌群では、普通餌群と比較してプレパルス抑制が顕著に悪化した(減弱した)。したがって、5週齢のマウスに対して高脂肪餌を10週間摂取させることによってプレパルス抑制の悪化を誘導できることが示された。
さらに、普通餌または高脂肪餌を5週間または10週間摂取させたマウスの血中IL-6濃度を測定した(図4)。5週間摂餌の場合、高脂肪餌群の血中IL-6濃度は普通餌群と比較して有意に増加していた。一方、10週間摂餌の場合、高脂肪餌群と普通餌群との間で血中IL-6濃度に有意な差は認められなかった。
この結果に関して、IL-6は統合失調症様行動異常誘導の初期段階において、プレパルス抑制悪化に重要な役割を果たしており、IL-6によって二次的に誘導される分子がプレパルス抑制悪化に関与している可能性が考えられる。10週間後に高脂肪餌摂餌群と普通餌摂餌群とでIL-6の濃度に差が認められなかった要因としては、加齢により普通餌摂餌群でもIL-6の濃度上昇が認められたことの他、高脂肪餌摂餌の10週間において初期段階より複雑な、脳内シグナル伝達物質などにおける何らかの変化が誘導されていることが考えられる。
参考例2:C57B6/J雄マウスへの高脂肪餌摂餌実験2
5週齢から10週間の高脂肪餌摂餌の実験系で後述の抗体投与を行う場合、抗体投与回数が1匹あたり全10回(1回/週)となり、抗体の使用量が多くなる。そこで、少ない投与回数でMR16-1の効果を判定できる系を確立するために、より短い期間でプレパルス抑制の悪化が誘導される条件を検討した。
8週齢のC57B6/J雄マウスに、普通餌CE-2または高脂肪餌High Fat Diet 32を、3週間(8週齢から11週齢まで)自由摂取させた。11週齢において、普通餌群(ND:n=20)および高脂肪餌群(HFD:n=28)の各マウスについて、参考例1と同様に音驚愕反応におけるプレパルス抑制を調べた。
結果を図5に示す。高脂肪餌群では、普通餌群と比較してプレパルス抑制が悪化した。したがって、8週齢のマウスに対して高脂肪餌を3週間摂取させることによってもプレパルス抑制の悪化を誘導できることが示された。また、8週齢から3週間の高脂肪餌摂餌により、血中IL-6濃度は普通餌摂餌マウスより有意な増加が認められた(図6)。
実施例1:抗IL-6受容体抗体のプレパルス抑制に及ぼす効果
8週齢のC57B6/J雄マウスに、普通餌CE-2または高脂肪餌High Fat Diet 32を、3週間(8週齢から11週齢まで)自由摂取させた。高脂肪餌群については抗IL-6受容体抗体MR16-1(中外製薬)またはビヒクルを、普通餌群についてはビヒクルを、3回(8、9、および10週齢において各1回)投与した。MR16-1は、8週齢では1 mg/マウス、9週齢では0.5 mg/マウス、そして10週齢では0.5 mg/マウスの用量で腹腔内注射により投与した。11週齢において、各マウスについて、参考例1と同様に音驚愕反応におけるプレパルス抑制を調べた。
結果を図7に示す。ビヒクルを投与した高脂肪餌群(HFD + Vehicle:n=25)では、普通餌群(ND + Vehicle:n=22)と比較してプレパルス抑制が悪化し、特にプレパルスが84 dBまたは90 dBの場合に顕著に悪化した。一方、MR16-1を投与した高脂肪餌群(HFD + MR16-1:n=25)では、普通餌群と同程度のプレパルス抑制が認められた。したがって、高脂肪餌摂餌によるプレパルス抑制の悪化が抗IL-6受容体抗体の投与によって抑制されることが示された。
実施例2:抗IL-6受容体抗体の線条体および前頭前野におけるGSK3a/aのリン酸化ならびにタンパク質発現量に及ぼす影響
統合失調症患者の死後脳においてGSK3α/βのリン酸化や発現量に変化が認められることが知られている。そこで、上記の高脂肪餌摂餌マウスにおいて誘導されるプレパルス抑制悪化に対する抗IL-6受容体抗体の作用機序を明らかにするため、線条体および前頭前野におけるGSK3a/aのリン酸化ならびにタンパク質発現量に及ぼす影響を解析した。
実験方法
8週齢のC57B6/J雄マウスに、普通餌CE-2または高脂肪餌High Fat Diet 32を、3週間(8週齢から11週齢まで)自由摂取させた。高脂肪餌群については抗IL-6受容体抗体MR16-1(中外製薬)またはビヒクルを、普通餌群についてはビヒクルを、3回(8、9、および10週齢において各1回)投与した。MR16-1は、8週齢では1 mg/マウス、9週齢では0.5 mg/マウス、そして10週齢では0.5 mg/マウスの用量で腹腔内注射により投与した。11週齢において、各マウスについて、頚椎脱臼ののち速やかに脳を摘出し、冷却したPBSに入れて10秒おいたのち、マウス用ブレインスライサー(EM Japan)にセットし、カミソリを用いて厚さ1mmに切り出したものを冷却したPBSを入れたバット内に即座に移した。さらにVan De Werd らが作成した脳アトラス(Van De Werd HJ and Uylings HB, Brain Struct Funct, 2014, 219: 433-459)に従ってブレグマ+0.74の切片から線条体部位を、ブレグマ+1.70の切片から前頭前野部位を直径1.5mmの生検トレパン(貝印株式会社)を用いて1.5mLチューブに回収し、液体窒素内に入れ速やかに冷凍保存した。ウエスタンブロットの解析方法に関しては沼川らの報告(Numakawa T et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 2009, 106: 647-652)を参照してサンプル処理を行い、ウエスタンブロットを行った。1次抗体には抗リン酸化GSK3α/β抗体 (1:2000; rabbit polyclonal, #9331, Cell Signaling Technology, Japan)、抗-GSK3α/β抗体 (1:2000; mouse monoclonal (0011-A), sc-7291, Santa Cruz Biotechnology Inc., CA, USA) および抗-β-actin抗体 (1:5000; mouse monoclonal, A-5441, Sigma Aldrich, MO, USA)を用い、2次抗体にはperoxidase-conjugated抗マウスIgG抗体 (1:1000; goat polyclonal, Jackson Immunology Research Laboratories Inc., PA, USA) および抗ウサギIgG抗体 (1:1000; goat polyclonal, Rockland Immunochemicals, Inc., PA, USA) を用いた。Immunoblotting bandの検出には ImmunoStar(登録商標)(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Tokyo, Japan) を用い、免疫反応性はCS Analyzer software 3 (ATTO & Rise Corp., Tokyo, Japan)を用いて解析を行った。β-actinを標準化に用いた。
結果
高脂肪餌摂餌マウスにおいて、線条体におけるGSK3βのリン酸化が亢進しており、MR16-1投与によってGSK3βのリン酸化亢進が阻害されることを示す結果が得られた(図8aおよびc)。線条体におけるGSK3αのリン酸化およびGSK3α/βのタンパク質発現量には高脂肪餌摂餌の有無およびMR16-1投与の有無による差は見られなかった(図8a、b、d、およびe)。また、前頭前野におけるGSK3α/βリン酸化ならびにタンパク質発現量にも高脂肪餌摂餌の有無およびMR16-1投与の有無による有意な差は認められなかった(図9)。以上の結果より、MR16-1が線条体のGSK3βのリン酸化亢進を特異的に阻害することによりプレパルス抑制悪化誘導を阻止している可能性が示唆された。
本発明により、従来の精神疾患治療薬とは作用機作の全く異なる新規の精神疾患治療剤が提供される。

Claims (4)

  1. 統合失調症の治療剤であって、
    プレパルス抑制効果減弱がみられる患者に投与するための、
    インターロイキン6(IL-6)抗体または抗IL-6受容体抗体を有効成分とする、前記治療剤。
  2. 抗IL-6抗体または抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である請求項に記載の治療剤。
  3. プレパルス抑制効果減弱を抑制することを特徴とする、請求項1または2に記載の治療剤。
  4. 抗IL-6受容体抗体がPM-1抗体である、請求項に記載の治療剤。
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