JP7126719B2 - 金属材の固相接合方法及び固相接合装置 - Google Patents

金属材の固相接合方法及び固相接合装置 Download PDF

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Description

本発明は金属材同士を固相接合する方法及び当該固相接合方法に好適に用いることができる固相接合装置に関する。
鋼やアルミニウム合金等の金属材料の高強度化に伴い、接合構造物の機械的特性を決定する接合部での強度低下が深刻な問題となっている。これに対し、近年、接合中の最高到達温度が被接合材の融点に達せず、接合部における強度低下が従来の溶融溶接と比較して小さい固相接合法が注目され、急速に実用化が進んでいる。
特に、円柱状の金属部材同士を回転摺動させる摩擦圧接(FW:Friction Welding)や金属部材同士を線形軌跡で摺動させる線形摩擦接合(LFW:Lineaer Friction Welding)は、摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)のようにツールを用いる必要がないことから、高融点金属にも容易に適用することができ、種々の産業における実用化が進められている。
例えば、特許文献1(特開2001-287051号公報)では、硬度が摩擦圧接の回転半径方向にわたってほぼ均一となる高張力鋼材の摩擦圧接継手を提供する方法が提案されている。
上記特許文献1に記載の高張力鋼材の摩擦圧接継手は、結晶粒径が2μm以下の微細組織を有し、引張強さが60kgf/mm以上であるとともに、炭素量が0.1wt%以下の高張力鋼材の摩擦圧接継手であり、高張力鋼材の炭素量が0.1wt%と低く抑えられている。この0.1wt%以下の低炭素量により、摩擦圧接する際に、高張力鋼材の外周部は組織変化が抑制され、硬化が抑制される、としている。
また、特許文献2(特開2002-294404号公報)では、摩擦圧接接合部の硬さ上昇が少ない、摩擦圧接に適した高炭素鋼材およびその製造方法が提供されている。
摩擦圧接される部材(鋼材)は、高圧力下で、融点直下の温度までに10秒前後で急速加熱され、ついで1200℃以上から急速冷却されるという、極めて急激な加熱冷却サイクルに晒される。このため、急速加熱時に部材の結晶粒が粗大化し、その後の急速冷却により硬質のマルテンサイト相に変態し、接合部の硬さが上昇する。
これに対し、上記特許文献2に記載の高炭素鋼材では、固溶状態のNbを0.005 %以上含有させることで高炭素鋼材のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止し、JIS G 0551の規定に準拠した酸化法により800℃×5分の熱処理後に測定されるオーステナイト粒度番号を9以上とすることができ、摩擦圧接接合部の硬さの上昇を抑制することができる、としている。
また、線形摩擦接合に関しては、例えば、特許文献3(特開2015-164738号公報)において、一方の部材を他方の部材に当接させた状態でそれらを同一軌跡上で繰り返し相対移動させて、前記一方の部材を前記他方の部材に摩擦接合する摩擦接合装置であって、前記一方の部材の前記他方の部材に対する相対移動の停止指令にしたがって、該停止指令の発生から前記一方の部材が前記他方の部材に対して前記軌跡を一回相対移動するまでの期間中に前記一方の部材の前記他方の部材に対する相対移動を停止させる停止手段を備えること、を特徴とする摩擦接合装置が開示されている。
上記特許文献3に記載の摩擦接合装置においては、一方の部材を他方の部材に当接させた状態でそれらを同一軌跡上で繰り返し相対移動させて摩擦接合する際に、相対移動の停止命令をどのタイミングで発生させれば、2つの部材が適切な接合状態となるタイミングで両者の相対移動が丁度停止するかを、特定しやすくすることができる、としている。
特開2001-287051号公報 特開2002-294404号公報 特開2015-164738号公報
しかしながら、上記特許文献1に開示されている摩擦圧接継手は炭素量が0.1wt%以下の高張力鋼材であることが必須であり、対象となる被接合材が極めて狭い範囲に限定されてしまう。
また、上記特許文献2に開示されている摩擦圧接継手においても、被接合材として用いることができる鋼材の組成が限定される。加えて、熱影響部における硬度(強度)低下を効果的に抑制することはできない。
更に、上記特許文献3に開示されている摩擦接合方法は、停止指令の発生からアクチュエータの停止までにかかる期間を短縮し、摩擦接合量を制御するものであり、継手特性に大きく影響する接合温度を制御することはできない。
従来の線形摩擦接合は接合界面から軟化したバリを排出することで新生面を当接させて接合を達成するものであり、基本的には摩擦熱によって被接合界面近傍を十分に昇温(軟化)する必要がある。即ち、所望の接合温度を正確に設定することは困難であり、特に、低温化することはより難しい。
加えて、摩擦圧接や線形摩擦接合では、高圧を印加させた状態で被接合材同士を摺動させる必要があり、接合装置が複雑化・大型化するという本質的な問題が存在する。当該問題によって、これらの接合方法の実質的な適用対象が限定されているのが実情である。
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、接合温度の正確な制御が可能であり、接合温度を低温化することができることに加え、被接合材同士を摺動させることなく固相接合を達成できる金属材の固相接合方法及び金属材の固相接合装置を提供することにある。
本発明者は上記目的を達成すべく、金属材の固相接合方法について鋭意研究を重ねた結果、接合温度に対応する圧力を被接合材に印加しつつ、被接合界面近傍のみを局所的に加熱することが極めて効果的であることを見出し、本発明に到達した。
本発明の最大の特徴は、被接合材同士を当接させる際に、単に当該被接合材の固定や被接合界面の密着性を担保するために小さな圧力を印加するのではなく、接合温度の決定を目的として、大きな圧力を印加することにある。当該接合温度決定のメカニズムを模式的に図1に示す。図1は金属材の降伏応力と温度の関係を模式的に示したグラフである。金属材の降伏応力は温度に依存して変化し、当該降伏応力と温度の関係は金属材毎に異なる。
ここで、例えば、金属材同士を突合せ接合する場合、被接合界面近傍を十分に軟化させ、被接合界面への新生面の形成や、被接合界面からのバリの排出により、接合が達成される。図1に示す被接合材である金属材の変形抵抗(降伏応力)に着目すると、温度が高い場合は低く、温度が低い場合は高くなる。即ち、被接合界面近傍に圧力を印加する場合、より高い圧力を印加することによって低い温度で変形やバリの排出が開始され、結果として低温で接合が達成されることになる。図1において、具体的には、被接合界面に圧力Pを印加すると、材料Aの接合温度はtとなり、圧力をPに増加させると接合温度はtに低下する。また、材料Bに関しても、圧力をPからPに増加させることで、接合温度はTからTに低下する。
即ち、本発明は、
一方の被接合材と他方の被接合材との端部同士を当接させて被接合界面を形成し、前記被接合界面に対して略垂直方向に圧力を印加する第一工程と、
外部加熱手段によって前記被接合界面近傍を接合温度に昇温する第二工程と、を有し、
前記圧力を、前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の降伏強度以上とすること、
を特徴とする金属材の固相接合方法を提供する。
従来の摩擦圧接や線形摩擦接合においては、摩擦熱によって被接合界面近傍を十分に軟化させ、大量のバリを被接合界面から排出することで接合が達成される。ここで、一般的に、接合温度は被接合材同士の摺動速度、被接合材同士の押付圧力及び接合時間の増加によって上昇すると見做されている。
しかしながら、被接合材である金属材の変形抵抗に着目すると、温度が高い場合は低く、温度が低い場合は高くなる。即ち、被接合界面近傍に圧力を印加する場合、より高い圧力を印加することによって低い温度でバリが排出され、結果として低温で接合が達成されることになる。本発明の金属材の固相接合方法は、本発明者が明らかにした当該メカニズムに基づいており、特定の金属材における変形抵抗と温度は略一定の関係を有するため、被接合界面近傍に印加する圧力によって、接合温度を正確に制御することができる。
具体的には、第一工程において、被接合材同士を当接させて被接合界面を形成し、当該被接合界面に対して略垂直方向に、所望の接合温度における一方の被接合材及び/又は他方の被接合材の降伏強度以上の圧力を印加する。その後、第二工程において当該被接合界面近傍を昇温することで、第一工程において設定した接合温度に到達した瞬間に被接合界面近傍が変形し、一方の被接合材及び他方の被接合材の新生面同士が当接して(条件によってはバリが排出され)、接合が達成されることとなる。換言すると、第一工程において印加した圧力がトリガーとなり、接合温度の正確な制御が可能となる。なお、第一工程で印加する圧力は、所望の接合温度における一方の被接合材及び/又は他方の被接合材の降伏強度以上かつ引張強度以下とすることが好ましい。
ここで、第一工程で圧力を印加するタイミングは、所望の接合温度(被接合界面近傍が当該圧力によって変形する温度)に達する前であればよい。例えば、第二工程における昇温速度が遅い場合等では、第一工程で圧力を印加するタイミングが第二工程の開始の後になる場合も存在する。
第二工程で用いる外部加熱手段は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の外部加熱手段を用いることができる。ここで、当該外部加熱手段としては、通電加熱、レーザ加熱及び高周波加熱や、アーク、プラズマ及び火炎等を用いた加熱を挙げることができるが、通電加熱を用いることが好ましい。適当な条件で通電加熱を行うことで、被接合界面近傍のみを極めて短時間で昇温することができる。なお、コンデンサを用いることで、極めて短時間に密度の高い電流を通電させることができる。
また、本発明の金属材の固相接合方法においては、被接合界面全体を均一に昇温することが重要であり、当該目的のために上記の各外部加熱手段を組み合わせて用いてもよい。加えて、必要に応じて、液体COや液体窒素等の供給及びエアーブロー等の外部冷却手段を併用してもよい。
本発明の金属材の固相接合方法においては、外部加熱手段として通電加熱を用いると共に、前記被接合界面に、前記一方の被接合材及び前記他方の被接合材よりも電気抵抗値が高くなる発熱材を介在させること、が好ましい。薄膜や粉末状の発熱材を被接合界面に配置してもよく、被接合材の端部を意図的に酸化等させてもよい。被接合界面にこれらの発熱材を介在させることで、被接合界面近傍を効率的に昇温することができる。
また、本発明の金属材の固相接合方法においては、第二工程において、一方の被接合材及び他方の被接合材の寄り代の合計が2mmに到達するまでの時間が3秒以下となるように、通電加熱に用いる電流密度を設定することが好ましく、2秒以下となるように電流密度を設定することがより好ましい。被接合材のサイズ及び形状にも依存するが、寄り代が2mm未満の場合は被接合界面近傍の変形が不十分である場合が多く、良好な継手を得ることが困難である。一方で、接合時間が長くなると接合部に熱影響部が形成され易く、継手の機械的性質が低下してしまう。これに対し、寄り代の合計が2mmに到達するまでの時間が3秒以下(より好ましくは2秒以下)となるように電流密度を設定することで、接合界面の形成と熱影響部の抑制を同時に達成することができる。
また、本発明の固相金属材の接合方法においては、被接合界面近傍を局所的に変形させ、一方の被接合材及び他方の被接合材の新生面同士を密着させることが重要である。例えば、一方の被接合材及び他方の被接合材を直径Dの丸棒とする場合、これらの被接合材が変形可能となる突き出し長さLを0.5D~2Dとすることが好ましい。突き出し長さLを0.5D以上とすることで、被接合界面に十分な新生面を形成させることができ、2D以下とすることで、被接合界面近傍のみを局所的に変形させることができる。なお、接合プロセス後の接合界面の面積Aを被接合界面の初期面積Aの1.5倍以上とすることで十分な新生面が形成され、良好な接合部を得ることができる。
また、本発明の固相金属材の接合方法においては、電流密度を50A/mm以上とすることが好ましく、70A/mm以上とすることがより好ましい。接合部おける熱影響部の形成を抑制すると共に良好な接合界面を形成するためには、接合時間を短くすることが好ましく、50A/mm以上(より好ましくは70A/mm以上)の電流密度による加熱で被接合界面近傍のみを急激に昇温することで、良好な継手を得ることができる。
また、0.5D~2Dに設定した突き出し長さLの領域のみに、高い電流密度の電流を通電させることが好ましい。当該領域の電流密度をそれ以外の領域よりも高くすることで、被接合材全体の温度上昇を抑制しつつ、被接合界面近傍のみを効率的に昇温することができる。
また、本発明の金属材の固相接合方法においては、前記圧力を、前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の流動応力とすること、が好ましい。被接合界面に対して略垂直に印加する圧力を一方の被接合材及び/又は他方の被接合材の流動応力とすることで、設定した接合温度において連続的な被接合界面近傍の変形やバリの排出が開始され、最小限の圧力で安定した接合を達成することができる。
また、本発明の金属材の固相接合方法においては、前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材を鉄系金属とすること、が好ましく、前記接合温度を前記鉄系金属のA点以下とすること、がより好ましい。
本発明の金属材の接合方法は固相接合であり、一般的な溶融接合では顕著に認められる鉄系金属接合部の機械的特性の低下を抑制することができる。なお、本発明において鉄系金属とは、組成において鉄を主とする金属を意味し、例えば、種々の鋼や鋳鉄等が含まれる。また、鉄系金属では相変態によって脆いマルテンサイトが形成し、接合が困難な場合及び接合部が脆化してしまう場合が存在するが、接合温度をA点以下とすることで、相変態が生じないことから、脆いマルテンサイトの形成を完全に抑制することができる。
また、本発明の金属材の固相接合方法においては、前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材をチタン又はチタン合金とすること、が好ましく、前記接合温度を前記チタン又はチタン合金のβトランザス温度以下とすること、がより好ましい。
本発明の金属材の接合方法は固相接合であり、一般的な溶融接合では顕著に認められる接合部の機械的特性の低下を抑制することができる。また、接合温度をチタン又はチタン合金のβトランザス温度以下とすることで、接合部の組織を微細等軸粒とすることができ、高い強度と靭性を兼ね備えた接合部を形成することができる。
更に、本発明の金属材の固相接合方法においては、外部加熱手段に通電加熱を用いる場合、前記被接合界面の面積S1が、前記圧力の印加方向に対して略垂直方向の前記一方の被接合材及び前記他方の被接合材の断面積S2よりも小さいこと、が好ましい。断面積S2は、被接合材における被接合界面と略平行な断面の断面積であり、被接合材の任意の断面の断面積よりも被接合界面の面積S1が小さいことになる。その結果、電流経路を被接合界面で絞ることができ、被接合界面近傍のみの発熱を促進することができる。加えて、被接合面積が減少することで、接合に必要な荷重及び電流を小さくすることができる。
ここで、前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の前記端部において、前記面積S1が前記被接合界面の方向にかけて連続的に減少していることが好ましい。被接合材の端部が所謂テーパー形状となっていることで、効率的に電流経路を被接合界面で絞ることができ、被接合界面近傍の実の発熱を促進することができる。ここで、テーパー角についてより具体的には、被接合材の側面を基準として、30~60°とすることが好ましく、40~50°とすることがより好ましい。テーパー角度を60°以下とすることで被接合材の座屈を抑制でき、30°以上とすることで加熱帯を十分に狭くすることができる。
被接合材の端部をテーパー形状とする場合、接合過程で被接合界面の面積が徐々に変化し、所望の接合温度に対する印加圧力の値を制御することがやや困難になるが、バフ研磨等で被接合界面の凹凸を低減することで、少ない寄り代でも(被接合界面の面積の変化が小さい条件でも)未接合部のない良好な継手を得ることができる。なお、より正確に接合温度等を制御したい場合は、従来公知の種々の方法を用いて、被接合界面の面積の変化を測定し、印加圧力にフィードバックさせればよい。
また、本発明は、
一方の被接合材を他方の被接合材に当接させて被接合界面を形成し、前記被接合界面に対して略垂直方向に圧力を印加する加圧機構と、
前記一方の被接合材から前記被接合界面を介して前記他方の被接合材に通電し、前記被接合界面近傍を昇温する通電機構と、を有し、
前記加圧機構によって、前記圧力を100~450MPaの範囲で制御可能であり、
前記通電機構によって、前記被接合界面近傍の温度を500~1000℃に昇温可能であること、
を特徴とする金属材の固相接合装置も提供する。
本発明の金属材の固相接合装置は加圧機構と通電機構を基本構成とする簡単なものであり、摩擦圧接装置が有する回転機構や線形摩擦接合装置が有する線形摺動機構は不要である。その結果、構造を簡略化できると共に、価格を大幅に低減することができる。
ここで、例えば、従来の抵抗スポット溶接機やシーム溶接機も被接合領域への通電と加圧が可能であるが、通電は被接合材の溶融を目的としてより高い温度に昇温するための手段であり、一方で、加圧は被接合材同士の密着性を担保する程度の低い値に留まるものである。
一方で、本発明の金属材の固相接合装置は従来の抵抗スポット溶接機やシーム溶接機をベースとして製造することもできる。例えば、抵抗スポット溶接機の電源に高速インバータ制御電源等を用いて、超短パルスによる被接合界面近傍の急速加熱を可能とし、加えて、電極による加圧力を高く設定できるようにすることで、本発明の金属材の固相接合装置とすることができる。ここで、機械式(電動式)のサーボプレス装置は応答速度が速く、スライドの動きを任意の速度で設定可能であり、本発明の金属材の固相接合装置の押圧機構として好適に用いることができる。
本発明の金属材の固相接合装置においては、所望する接合温度の設定により、前記圧力が前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の流動応力となること、が好ましい。ここで、各温度における流動応力は、実際の接合中に生じる状況に近い状態で測定することが好ましいが、例えば、各温度における高温引張試験で得られる値を用いることができる。なお、流動応力はひずみ速度に依存するため、高温引張試験の引張速度を可能な限り接合中の状況に近接させることが好ましい。
流動応力の温度依存性は各金属材に固有のものであり、固相接合装置が各温度における流動応力をデータベースとして保有しておくことで、金属材の種類と所望の接合温度を設定すれば、対応する圧力を決定することができる。なお、固相接合装置には少なくとも鉄系材料及びチタン合金のデータベースを記録させておくことが好ましい。
更に、本発明は、
本発明の金属材の固相接合方法によって、一方の被接合材と他方の被接合材とが接合された継手であって、
前記一方の被接合材と前記他方の被接合材が棒状であり、
前記継手の長手方向における接合部の変形領域の長さが、前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の短手方向の幅よりも短いこと、
を特徴とする継手、も提供する。
本発明の継手は接合部のみが局所的に変形しており、継手における特異領域である接合部の影響を最小限に留めた継手となっている。なお、例えば直径が10mmの棒材同士を接合した継手の場合、継手の長手方向における接合部の変形領域の長さが10mmよりも短くなっている。
本発明によれば、接合温度の正確な制御が可能であり、接合温度を低温化することができることに加え、被接合材同士を摺動させることなく固相接合を達成できる金属材の固相接合方法及び金属材の固相接合装置を提供することができる。
本発明における接合温度決定のメカニズムを示す概念図である。 本発明の金属材の固相接合方法の一態様を示す模式図である。 各温度における炭素鋼の変形応力(降伏応力)を示すグラフである。 発熱材を用いる場合の本発明の金属材の固相接合方法の模式図である。 本発明の金属材の固相接合装置の一態様を示す模式図である。 被接合材として用いた丸棒の概略図である。 実施例における接合状況の概略図である。 実施例における被接合材の配置状況を示す外観写真である。 電流密度25.5A/mmで得られた接合界面のSEM写真である。 電流密度79.6A/mmで得られた接合界面のSEM写真である。 接合界面近傍のビッカース硬度分布(接合界面に垂直方向)を示すグラフである。 実施例で得られた各継手の引張特性及び引張試験における破断位置を示すグラフである。 電流値2000Aで得られた継手の概観写真である。 電流値4000Aで得られた継手の概観写真である。 被接合材端部に形成させたテーパー形状の概略図である。 接合中における被接合材の温度変化を示す熱画像である。 端部がテーパー形状の被接合材で得られた継手の引張特性を示すグラフである。 被接合界面にバフ研磨を施して得られた継手の接合界面のSEM写真である。 バフ研磨を施して得られた継手の接合部の硬度分布を示すグラフである(荷重印加方向)。 バフ研磨を施して得られた継手の接合部の硬度分布を示すグラフである(接合界面方向)。 異なる電流値を用いた場合の接合時間と接合温度の関係を示すグラフである。 各寄り代で得られた継手の断面写真及び接合界面の微細組織写真である。 各寄り代で得られた継手の断面に関する方位カラーマップである。 各寄り代で得られた継手の断面に関するKAMマップである。 各寄り代で得られた継手の接合部断面におけるビッカース硬度分布(接合界面に対して垂直方向)である。 各寄り代で得られた継手の接合部断面におけるビッカース硬度分布(接合界面方向)である。 各寄り代で得られた継手及び母材の引張試験結果である。
以下、図面を参照しながら本発明の金属材の固相接合方法及び金属材の固相接合装置の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
(1)金属材の固相接合方法
本発明の金属材の固相接合方法は、被接合界面を形成すると共に接合に必要な圧力を印加する第一工程と、被接合界面を昇温する第二工程と、を有している。以下、各工程について詳述する。
(1-1)第一工程(圧力印加工程)
第一工程では、被接合界面を形成すると共に接合に必要な圧力を印加して、接合温度を決定する。被接合材を溶融させる溶融溶接では、被接合材に印加する圧力は被接合材同士を密着させることを目的としており、当該圧力は接合温度に影響しない。これに対し、被接合界面近傍が溶けることなく固相で接合する場合、圧力によって接合温度を正確に決定することができる。
図2に本発明の金属材の固相接合方法の模式図を示す。第一工程においては、一方の被接合材2と他方の被接合材4とを当接し、被接合界面6を形成させた後、所望の接合温度で一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の降伏強度以上となる圧力Pを、被接合界面6に対しいて略垂直方向に印加する。ここで、被接合界面6を形成する一方の被接合材2及び他方の被接合材4の端面は、表面を平滑にしておくことが好ましく、例えば、バフ研磨等を施しておくことが好ましい。端面同士を密着させることで、接合界面における欠陥(未接合部)の形成を抑制することができる。一方で、発熱の観点からは、一方の被接合材2及び他方の被接合材4の端面に微小な凹凸を形成させてもよい。
圧力Pを所望する接合温度における一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の降伏応力以上に設定することで、接合温度を制御することができる。ここで、圧力Pを被接合材の降伏応力以上とすることで被接合界面6近傍の変形やバリの排出が開始され、圧力Pを更に増加させると、当該変形やバリの排出が加速されることになる。特定の温度における降伏応力は被接合材によって略一定であることから、設定した圧力Pに対応する接合温度を実現することができる。
具体例として、各温度における炭素鋼の変形応力(降伏応力)を図3に示す。なお、図3は「鉄と鋼,第67年(1981)第11号,140頁」に掲載されたグラフである。図3に示されているように、特定の温度における降伏応力は材料によって略一定である。
即ち、接合時の圧力Pを高く設定した場合、より高い降伏強度を有する被接合材を変形させることができ、接合温度を低下させることができる。また、図3に示されているとおり、特定の温度における降伏応力は材料によって略一定であることから、極めて正確に接合温度を制御することができる。例えば、炭素量が0.53wt%の場合、圧力Pを150MPaとすると950℃、50MPaとすると1180℃とすることができる。
ここで、圧力Pは所望する接合温度における一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の流動応力とすることがより好ましい。被接合界面6に対して略垂直に印加する圧力Pを一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の流動応力とすることで、設定した接合温度においてより確実に連続的な被接合界面6近傍の変形やバリの排出が開始され、最小限の圧力で安定した接合を達成することができる。
一方の被接合材2及び他方の被接合材4の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、冶金的に接合可能な金属相を有していればよいが、鉄系金属、チタン又はチタン合金であること、が好ましい。鉄系金属、チタン又はチタン合金は十分な室温強度を有し、一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4が薄い領域や細い領域を有している場合等であっても、第一工程における圧力Pの印加に耐え得る機械的特性を有している。その結果、一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4をこれらの金属とすることで、接合プロセス中における不要な箇所での変形等を防止することができる。加えて、本発明の接合方法は固相接合であり、一般的な溶融接合では顕著に認められる接合部の機械的特性の低下を抑制することができる。
また、一方の被接合材2及び他方の被接合材4の形状及びサイズは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、接合装置によって所望の加圧及び昇温等を実現できるものであればよいが、被接合界面6の面積を一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の断面積よりも小さくすることが好ましい。被接合界面6の面積を比較的小さくすることで、第二工程において、電流密度を高くすることができることに加え、被接合界面6の温度分布を均一にすることができる。
(1-2)第二工程
第二工程は、被接合界面6に対して略垂直に圧力Pを印加した状態で、外部加熱手段によって被接合界面6の近傍を接合温度に昇温する工程である。
外部加熱手段によって被接合界面6の近傍を昇温する方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の外部加熱手段を用いることができる。当該外部加熱手段としては、通電加熱、レーザ加熱及び高周波加熱や、アーク、プラズマ及び火炎等を用いた加熱を挙げることができるが、通電加熱を用いることが好ましい。適当な条件で通電加熱を行うことで、被接合界面6の近傍のみを極めて短時間で昇温することができる。なお、コンデンサを用いることで、極めて短時間に密度の高い電流を通電させることができる。
また、外部加熱手段として通電加熱を用いると共に、被接合界面6に、一方の被接合材2及び他方の被接合材4よりも電気抵抗値が高くなる発熱材を介在させることが好ましい。図4に、発熱材を用いる場合の本発明の金属材の接合方法の模式図を示す。図4では発熱材10が薄膜状の場合を示しているが、発熱材10は粉末状や粒状等であってもよく、一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の端部を意図的に酸化等させてもよい。被接合界面6にこれらの発熱材を介在させることで、被接合界面6の近傍を効率的に昇温することができる。なお、発熱材10には僅かに電気伝導性を付与した絶縁体や、部分的に貫通領域を有する絶縁体等を用いてもよい。また、炭素材を被接合界面に介在させてもよい。
一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4に鉄系材料を用いる場合、発熱材10としては、Mn、V、Cr及び高合金鋼等を用いることができる。Mnの電気抵抗値はFeよりも高いことに加え、Mnとγ-Feは全率固溶することができる。また、V及びCrの電気抵抗値もFeよりも高く、V及びCrとα-Feは全率固溶することができる。また、高合金鋼は合金化により、Feよりも電気抵抗値が高く、高合金鋼とFeは全率固溶することができる。
また、第二工程において通電加熱を用いる場合、一方の被接合材2及び他方の被接合材4の寄り代の合計が2mmに到達するまでの時間が3秒以下となるように、電流密度を設定することが好ましく、2秒以下となるように電流密度を設定することがより好ましい。寄り代が2mm未満の場合は被接合界面6の近傍の変形が不十分である場合が多く、良好な継手を得ることが困難である。一方で、接合時間が長くなると接合部に熱影響部が形成され易く、継手の機械的性質が低下してしまう。これに対し、寄り代の合計が2mmに到達するまでの時間が3秒以下(より好ましくは2秒以下)となるように電流密度を設定することで、接合界面の形成と熱影響部の抑制を同時に達成することができる。
また、通電加熱に用いる電流密度は50A/mm以上とすることが好ましく、70A/mm以上とすることがより好ましい。接合部おける熱影響部の形成を抑制するためには、接合時間を短くすることが好ましく、50A/mm以上(より好ましくは70A/mm以上)の電流密度による加熱で被接合界面近傍のみを急激に昇温することで、良好な継手を得ることができる。ここで、被接合界面6の面積を小さくすることで、電流を被接合界面6に集中させ、電流密度を増加させることができる。また、被接合界面近傍以外の被接合材の周囲を電気伝導体で被覆拘束すると共に、当該電気伝導体の間に突き出し長さに相当する絶縁体を配置することで、被接合材の突き出し部分のみに高い電流密度を有する電流を通電させることができる。被接合界面の初期面積Aは電気伝導体の面積の1/10以下とすることが好ましく、1/30以下とすることがより好ましい。
本発明の金属材の固相接合方法においては、一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4を鉄系金属とし、接合温度を当該鉄系金属のA点以下とすることが好ましい。本発明の金属材の接合方法は固相接合であり、一般的な溶融接合では顕著に認められる鉄系金属接合部の機械的特性の低下を抑制することができる。なお、本発明において鉄系金属とは、組成において鉄を主とする金属を意味し、例えば、種々の鋼や鋳鉄等が含まれる。また、鉄系金属では相変態によって脆いマルテンサイトが形成し、接合が困難な場合及び接合部が脆化してしまう場合が存在するが、接合温度をA点以下とすることで、相変態が生じないことから、脆いマルテンサイトの形成を完全に抑制することができる。
更に、本発明の金属材の固相接合方法においては、一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4をチタン又はチタン合金とし、接合温度を当該チタン又はチタン合金のβトランザス温度以下とすることが好ましい。本発明の金属材の接合方法は固相接合であり、一般的な溶融接合では顕著に認められる接合部の機械的特性の低下を抑制することができる。また、接合温度をチタン又はチタン合金のβトランザス温度以下とすることで、接合部の組織を微細等軸粒とすることができ、高い強度と靭性を兼ね備えた接合部を形成することができる。
外部加熱手段に通電加熱を用いる場合、被接合界面の面積S1が、圧力の印加方向に対して略垂直方向の一方の被接合材2及び他方の被接合材4の断面積S2よりも小さいこと、が好ましい。また、一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の端部において、面積S1が被接合界面の方向にかけて連続的に減少していることがより好ましい。断面積S2は、被接合材における被接合界面と略平行な断面の断面積であり、被接合材の任意の断面の断面積よりも被接合界面の面積S1が小さいことになる。その結果、電流経路を被接合界面で絞ることができ、被接合界面近傍のみの発熱を促進することができる。加えて、被接合面積が減少することで、接合に必要な荷重及び電流を小さくすることができる。また、この場合、被接合界面近傍以外の被接合材の周囲を電気伝導体で被覆拘束することなく、接合を達成することができる。
(1-3)その他の接合条件
本発明の金属材の固相接合方法においては、圧力P及び接合温度以外の接合パラメータ(接合時間及び依り代等)も設定する必要があるが、本発明の効果を損なわない限りにおいてこれらの値は制限されず、被接合材の材質、形状及びサイズ等によって適宜設定すればよい。
ここで、被接合界面6の温度が所望の接合温度に到達した後、圧力Pを除荷するタイミングは適宜設定すればよいが、被接合界面6近傍の変形や被接合界面6からのバリの排出を確認した後に除荷することで、良好な継手をより確実に得ることができる。なお、バリを排出すると共に新生面をより強く当接させる目的で、接合工程の最後でより高い圧力を印加してもよい。
また、被接合界面6の近傍が所望の接合温度に達していれば、外部加熱手段による昇温を停止するタイミングは特に限定されないが、接合温度到達直後に停止することが好ましい。加熱時間を可能な限り短くすることで、接合界面近傍における熱影響部の形成を抑制することができる。
(2)金属材の固相接合装置
図5は本発明の金属材の固相接合装置の一態様を示す模式図である。金属材の固相接合装置20は、一方の被接合材2を他方の被接合材4に当接させて被接合界面6を形成し、被接合界面6に対して略垂直方向に圧力Pを印加する加圧機構22と、一方の被接合材2(又は他方の被接合材4)から被接合界面6を介して他方の被接合材4(又は一方の被接合材2)に通電し、被接合界面6の近傍を昇温する通電機構24と、を有している。
金属材の固相接合装置20は加圧機構22と通電機構24を有する簡単なものであり、摩擦圧接装置が有する回転機構や線形摩擦接合装置が有する線形摺動機構は不要である。その結果、構造を簡略化できると共に、価格を大幅に低減することができる。
加圧機構22は圧力Pを100~450MPaの範囲で制御可能であり、通電機構24によって、被接合界面6近傍の温度を500~1000℃に昇温可能である。従来の抵抗スポット溶接機やシーム溶接機も被接合領域への通電と加圧が可能であるが、通電は被接合材の溶融を目的としてより高い温度に昇温するための手段であり、一方で、加圧は被接合材同士の密着性を担保する程度の低い値に留まるものである。
また、金属材の固相接合装置20は、所望する接合温度の設定により、自動的に圧力Pが当該接合温度における一方の被接合材2及び/又は他方の被接合材4の流動応力となる機能を有することが好ましい。ここで、各温度における流動応力は、実際の接合中に生じる状況に近い状態で測定することが好ましいが、例えば、各温度における高温引張試験で得られる値を用いることができる。なお、流動応力はひずみ速度に依存するため、高温引張試験の引張速度を可能な限り接合中の状況に近接させることが好ましい。
流動応力の温度依存性は各金属材に固有のものであり、金属材の固相接合装置20が各温度における流動応力をデータベースとして保有しておくことで、例えば、図3に示すように、金属材の種類と所望の接合温度を設定すれば、対応する圧力を決定することができる。なお、金属材の固相接合装置20には少なくとも鉄系材料及びチタン合金のデータベースを記録させておくことが好ましい。
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
被接合材としてフェライト・パーライト組織を有する炭素鋼(JIS-S45C)を用い、形状は直径10mmの丸棒(a)と、接合面の電流密度を増やすために端部の直径を8mmに旋盤加工した凸型の丸棒(b)とした。また、被接合面は旋盤で加工後、アセトンにより脱脂した。各丸棒の概略図を図6に示す。
接合状況の概略図を図7、実際の被接合材の配置状況を図8にそれぞれ示す。被接合材は端面を当接させた状態で上下から電極、グラファイトプレート及びWC固定部で挟まれており、被接合界面近傍以外はグラファイトモールドで覆われている。第一工程における加圧及び第二工程における通電は、上下の電極等を介して行われる。また、被接合界面の周囲には絶縁体が配置されている。なお、図8で示しているのはグラファイトモールド及び絶縁体を取り外した状態である。
接合条件は、第一工程で印加する圧力を250MPaとし、第二工程で用いる電流値を2000~4000Aの範囲とした。なお、寄り代が2mmとなった時点で通電を終了し、除荷を行った。ここで、第一工程で印加する圧力(250MPa)は、接合温度が被接合材(JIS-S45C)のA点以下となるように設定した。
表1に、各接合条件で得られた継手の引張特性等を示す。電流密度の増加に伴い接合強度が増加し、電流密度が51.0A/mmの場合に引張強度が約800MPa、79.6A/mmの場合に母材と同等(約830MPa)になっている。なお、熱電対を用いて各接合条件における接合界面近傍の温度(接合温度)を測定したところ、約700℃であった。
Figure 0007126719000001
電流密度が25.5A/mmと低い接合条件で得られた接合界面のSEM写真を図9に示す。接合界面には欠陥(未接合領域)が存在し、全接合界面に対する欠陥の割合は約1%であった。これに対し、継手が母材と同等の強度を示した電流密度79.6A/mmで得られた接合界面には欠陥は認められなかった(図10)。電流密度の増加に伴って昇温速度が大きくなり、より局部的に被接合界面が変形して接合が促進されたと考えられる。なお、接合界面近傍はフェライト(F)及びパーライト(P)からなる組織となっており、マルテンサイトやベーナイトは認められない。
ここで、接合時間に着目すると、引張強度が約800MPaに達した電流密度51.0A/mmの場合は2.6秒、引張強度が母材強度に達した電流密度79.6A/mmの場合は1.3秒となっており、接合時間が3秒以下(特に2秒以下)となる場合に良好な継手が形成されている。
電流密度25.5A/mmの場合及び79.6A/mmの場合の接合界面近傍のビッカース硬度分布(接合界面に垂直方向)を図11に示す。電流密度25.5A/mmの場合は接合時間が長くなるため、熱影響による軟化部が形成されているが、接合時間の短い79.6A/mmの場合は軟化部が認められない。また、両接合条件において、接合温度は炭素鋼(JIS-S45C)のA1点以下となっていることから、マルテンサイトやベーナイトの生成に起因する顕著な硬化は生じていない。
次に、寄り代を6mmとし、第一工程で印加する圧力を250MPa、第二工程で用いる電流値を2000~4000Aの範囲として種々の継手を得た。なお、図6に示す2種類の丸棒に加え、端部の直径を7mmに旋盤加工した凸型の丸棒も被接合材として用いた。
得られた各継手の引張特性及び引張試験における破断位置を図12に示す。電流密度50.0A/mmが母材破断と界面破断の境界であり、電流密度が60.0A/mm以上になると母材破断する良好な継手が得られていることが分かる。
寄り代:6mm、圧力:250MPa、電流値:2000Aの接合条件で得られた継手の概観写真を図13に、寄り代:6mm、圧力:250MPa、電流値:4000Aの接合条件で得られた継手の概観写真を図14にそれぞれ示す。電流値を高くする(電流密度を高くする)ことで、接合界面近傍のみが局所的に大きく変形し、被接合界面の面積が十分に拡大して新生面が形成されたことが分かる。
次に、直径10mmの丸棒(a)に関して、被接合界面を形成する端部を図15のテーパー形状に旋盤加工して、被接合材とした。ここで、被接合材の周囲をグラファイトモールドで被覆拘束することなく、先端をテーパー形状に加工した被接合材同士を当接させることで電流経路を絞り、被接合界面近傍のみを昇温させた。
接合条件は、寄り代:4mm、圧力:250MPa、電流値:3000Aとし、被接合界面をバフ研磨した場合と旋盤加工した場合について、継手を得た。なお、熱画像カメラを用いて接合温度を測定したところ、被接合界面近傍のみでの昇温が確認された。各接合時間における被接合材の温度変化を図16に示す。
得られた継手の引張特性を図17に示す。被接合界面にバフ研磨を施すことで引張強度と伸びが共に向上しており、引張強度については母材と同等の値が得られている。被接合界面にバフ研磨を施して得られた継手の接合界面をSEM観察したところ、図18に示すように未接合部は存在しておらず、良好な接合部が形成されていた。また、接合部の組織はフェライト・パーライト組織であり、A点以下で接合が達成されていることが分かる。
バフ研磨を施して得られた継手の接合部についてビッカース硬度を測定した。図19に荷重印加方向、図20に接合界面方向の硬度分布を示す。接合界面方向には均一な硬度分布が得られており、テーパー材を用いる場合であっても、接合中の入熱は接合界面に対して均一になっていることが確認された。なお、荷重印加方向の測定結果から、熱影響による軟化が殆ど生じていないことが分かる。なお、接合部において若干の軟化が認められるが、再結晶による転位密度の減少が原因であると考えられる。
次に、直径10mmの丸棒(a)を被接合材とし、寄り代:4mm、圧力:250MPaで電流値を3000~5000Aとして継手を得た。接合時間と接合温度の関係を図21に示す。なお、接合温度は熱画像カメラを用いて測定した。電流値によって昇温速度は異なっているが、接合温度は電流値に依らず約700℃となっており、印加圧力によって接合温度が制御されていることが分かる。
次に、直径10mmの丸棒(a)を被接合材とし、圧力:250MPa、電流値:300Aで寄り代を4~7mmとして継手を得た。各寄り代で得られた継手の断面写真及び接合界面の微細組織を図22に示す。寄り代を7mmとした場合は接合界面の面積が十分に拡大されており、未接合部は認められなかった。
接合部の微細組織をより詳細に把握するため、電子線後方散乱回折を用いた微細組織の解析を行った。具体的には、試料観察面を電子線に対し70°傾斜させ、ステップサイズを0.02μmとして電子線を走査することで得られた電子線後方散乱回折パターンを解析し、微小領域の結晶系や結晶方位に関する情報を得た。データの収集・解析にはTSL社製のOIM(Orientation Imaging Microscopy)を用いた。各寄り代で得られた継手の断面に関する方位カラーマップ及びKAMマップを図23及び図24にそれぞれ示す。
方位カラーマップより、寄り代の増加に伴って、再結晶によって結晶粒が微細化しており、寄り代が7mmの場合は平均粒径が1.74μmの微細な再結晶組織となっていることが分かる。また、KAMマップより、接合部の転位密度は母材と比較すると減少し、寄り代の増加に伴って増加することが示されている。
各寄り代で得られた継手の接合部断面におけるビッカース硬度分布を図25及び図26に示す。図25は接合界面に対して垂直方向のビッカース硬度分布であり、図26は接合界面方向のビッカース硬度分布である。図25より、寄り代の増加により、熱影響による軟化が抑制されていることが分かる。また、図26より、接合界面方向の入熱は均一であり、寄り代が大きい場合は特に均一になることが示されている。
各寄り代で得られた継手及び母材の引張試験結果を図27に示す。寄り代の増加に伴い強度及び伸びが向上しており、寄り代が7mmの場合は母材と同等の強度及び伸びが得られている。
2・・・一方の被接合材、
4・・・他方の被接合材、
6・・・被接合界面、
10・・・発熱材、
20・・・金属材の固相接合装置、
22・・・加圧機構、
24・・・通電機構。

Claims (12)

  1. 一方の被接合材と他方の被接合材との端部同士を当接させて被接合界面を形成し、前記被接合界面に対して略垂直方向に圧力を印加する第一工程と、
    外部加熱手段によって前記被接合界面近傍を接合温度に昇温する第二工程と、を有し、
    前記圧力を、前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の降伏強度以上とし、
    前記圧力によって前記接合温度を決定すること、
    を特徴とする金属材の固相接合方法。
  2. 前記外部加熱手段に通電加熱を用いること、
    を特徴とする請求項1に記載の金属材の固相接合方法。
  3. 前記被接合界面に、前記一方の被接合材及び前記他方の被接合材よりも電気抵抗値が高い発熱材を介在させること、
    を特徴とする請求項2に記載の金属材の固相接合方法。
  4. 前記圧力を、前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の流動応力とすること、
    を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の金属材の固相接合方法。
  5. 前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材を鉄系金属とすること、
    を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の金属材の固相接合方法。
  6. 前記接合温度を前記鉄系金属のA1点以下とすること、
    を特徴とする請求項5に記載の金属材の固相接合方法。
  7. 前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材をチタン又はチタン合金とすること、
    を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の金属材の固相接合方法。
  8. 前記接合温度を前記チタン又はチタン合金のβトランザス温度以下とすること、
    を特徴とする請求項7に記載の金属材の固相接合方法。
  9. 前記被接合界面の面積S1が、前記圧力の印加方向に対して略垂直方向の前記一方の被接合材及び前記他方の被接合材の断面積S2よりも小さいこと、
    を特徴とする請求項2~8のうちのいずれかに記載の金属材の固相接合方法。
  10. 前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の前記端部において、前記面積S1が前記被接合界面の方向にかけて連続的に減少していること、
    を特徴とする請求項9に記載の金属材の固相接合方法。
  11. 一方の被接合材を他方の被接合材に当接させて被接合界面を形成し、前記被接合界面に対して略垂直方向に圧力を印加する加圧機構と、
    前記一方の被接合材から前記被接合界面を介して前記他方の被接合材に通電し、前記被接合界面近傍を昇温する通電機構と、を有し、
    前記加圧機構によって、前記圧力を100~450MPaの範囲で制御可能であり、
    前記通電機構によって、前記被接合界面近傍の温度を500~1000℃に昇温可能であり、
    所望する接合温度の設定により、前記圧力が前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の流動応力となり、
    前記圧力によって前記接合温度が決定されること、
    を特徴とする金属材の固相接合装置。
  12. 所望する接合温度の設定により、前記圧力が前記接合温度における前記一方の被接合材及び/又は前記他方の被接合材の流動応力となること、
    を特徴とする請求項11に記載の金属材の固相接合装置。
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