JP7126274B2 - 冷凍すり身の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、冷凍すり身の製造方法に関し、特に、冷凍すり身の冷凍貯蔵中の魚肉タンパク質の変性凝集を抑制する冷凍すり身の製造方法に関する。
魚肉練り製品は、魚肉すり身に、食塩を加えて攪拌・混合を行ったものの中に、調味料、澱粉、水等を加えたすり身ペーストを成形し、これを加熱して製造される。原料となる魚については、スケトウダラ、シログチ、フエダイ、ミナミダラ、ブルーホワイティング、ハモ、エソ、パシフィックホワイティング、イトヨリ、カマス、アジ、イワシ、カレイ、オキギス、サメ等が用いられる。なお、冷凍魚肉すり身(以下、単に「冷凍すり身」という)も広く用いられている。
魚肉すり身に塩を加えて攪拌、混合する工程は古くから「塩ズリ」と称されている。この塩ズリは、攪拌擂潰器(バチ)、カッティングミキサーなどを用いて行われている。尚、この塩ズリに際しては、塩の他に必要に応じ澱粉、卵白、みりん、アミノ酸その他の調味料を加えることもある。塩ズリされた魚肉すり身は、さらに必要に応じ調味料や澱粉、水などが添加され、ペースト状に練られる。このペースト状に練られた物を成形した後、45℃以下で加温する、いわゆる「坐り」と称される処理を経て、又はかかる処理を経ることなく直ちに、中心温度75℃、1分間以上に加熱することで魚肉練り製品が製造される。尚、上記の成形時にあるいは成形よりも前の工程において昆布、魚肉塊、チーズ、種物などが添加されることもある。
魚肉由来の練り製品は、一般に魚肉すり身或いは解凍した冷凍すり身に食塩を加え、調味料等を加えて擂潰することにより魚肉中のタンパク質を溶解させ、これによって得られる肉糊を成形し、加熱して凝固させた加熱ゲル化食品である。その製造原理は、魚肉中のミオシン等の筋肉タンパク質を食塩等の塩で均一に溶解してペースト状とし、これを加熱することにより熱変性させてゲルのネットワークを形成するというものである。
ただし、従来の冷凍すり身の製造においては、製造後の冷凍すり身が冷凍貯蔵中、環境ストレスによるタンパク質の立体構造変化により魚肉中の筋肉タンパク質の変性凝集が生じると、これにより完全に、かつ均一に溶解させることができなくなり、弾性に富んだ加熱ゲルを製造することができず、その結果、練り製品の品質が劣化するという問題がある。
このような、冷凍すり身の冷凍貯蔵中のタンパク質の変性凝集や、練り製品の品質劣化を解決するために、従来、タンパク質冷凍変性の抑制剤として糖類が用いられている。特に二糖類であるショ糖や糖アルコールであるソルビトールは魚肉由来の筋肉タンパク質の冷凍変性抑制剤として用いられている。例えば、主としてスケトウダラから製造される冷凍すり身には、2年程度の冷凍貯蔵性を付与するため、6~8重量%のショ糖やソルビトールが添加されている。
水晒しについても、様々な技術が開発されている。
赤身魚の肉のpHは普通6付近の微酸性であり、肉の水和性が低いので晒しをする時に水切れが良い。しかし、酸による筋原繊維タンパク質の変性(以下、単に「酸変性」という)が進行するので、かまぼこのゲル形成能が低い。この酸変性の進行を止める為に、高知大学の志水氏らは魚肉を0.1~0.2%の重炭酸ソーダ(重曹)溶液に浸漬してpHを中性に調節してから通常の水晒しをする「アルカリ晒し」を開発した(例えば、特許文献1参照)。
また、北海道大学猪上徳雄氏らは、落とし身を0.1%の塩化カルシウム溶液に10分間ほど浸漬処理してから通常の水晒しを行う「カルシウム晒し」を開発した(例えば、特許文献2参照)。カルシウム晒しでは肉の微細化、膨潤を抑えながら晒しができ、残存カルシウムが坐り促進剤として作用するので、かまぼこのゲル強度が増強される。しかし、塩化カルシウム濃度が高すぎて晒し肉中のカルシウムの残存量が多くなると、冷凍すり身にした時の貯蔵性が悪くなる。
高知大学の志水、西岡氏らは、10mmHg以下の減圧状態で水晒しを行い、魚肉落し身中の脂肪分を浮上させて分離する「減圧真空晒し」を開発した(例えば、特許文献3参照)。減圧真空晒しは、水晒しを減圧状態で行うことで、魚肉落し身中に溶けていたガスを気化・膨張させて、脂肪組織を破壊させることで、魚肉落し身中の脂肪分を浮上させる。
特開昭55-081570号公報 特開平02-203769号公報 特開平07-238074号公報
しかしながら、従来より行われている、タンパク質冷凍変性の抑制剤としての糖類の添加だけでは、冷凍すり身の冷凍貯蔵中の魚肉タンパク質の変性凝集の問題は完全に解決できていない。
また、特許文献1~3の水晒しの従来技術では、冷凍すり身の冷凍貯蔵中のタンパク質の変性凝集の問題は解消されない。
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものであって、冷凍すり身の冷凍貯蔵中のタンパク質の変性凝集に優れた防止効果を有する、冷凍すり身の製造方法を提供することを目的とする。
加えて、本発明は、かかる冷凍すり身を材料とする練り製品の物性を向上させることを目的とする。
本発明の請求項1に係る製造方法は、冷凍すり身の製造方法であって、水晒し工程において、糖脂肪酸エステルを加工助剤として用いて魚肉を水晒しすることを特徴とする。
本発明によれば、冷凍すり身の冷凍貯蔵中のタンパク質の変性凝集に優れた防止効果を有する、冷凍すり身の製造方法を提供することができる。
本発明に係る糖エステル晒しを含む、冷凍すり身の製造処理のフローチャートである。 糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプル、及び比較例1~3のサンプルにおける、筋原繊維タンパク質の凝集度合を示す顕微鏡写真である。 糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプル、及び通常晒しの冷凍すり身から調整されたサンプルにおける、筋原繊維タンパク質の凍結貯蔵時間に伴うCa-ATPase活性の残存率を示すグラフである。 糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプル、及び通常晒しの冷凍すり身から調製されたサンプルの夫々から調製したケーシングの物性値を比較するグラフである。 糖エステル晒しに用いられるショ糖脂肪酸エステルを説明するための図である。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
はじめに、冷凍魚肉すり身(以下、単に「冷凍すり身」という)の製造技術について説明する。
蒲鉾、竹輪、薩摩揚げなどの各種魚肉練り製品の製造原料である冷凍すり身は、昭和35年に、当時北海道立水産試験場の西谷喬助氏らの研究グループによって開発され、スケトウダラの落し身を水晒し、脱水処理した精製魚肉に、糖類及び重合リン酸塩を混和して凍結することによって魚肉タンパク質の冷凍変性防止を実用化した(西谷喬助ほか.摺身の凍結と応用に関する研究(第5報)ねり製品原料としての冷凍摺身の製法について.北水試月報.1961,18(4),p.14-27参照)。これは水産加工産業にとって画期的な技術である。魚肉由来の練り製品を製造するために、現在では、殆ど冷凍すり身が用いられている。冷凍すり身は大量処理、魚価維持が図れることから世界各地で製造され、「SURIMI」は世界共通語ともなっている。現在、年間80万トン以上の冷凍すり身がアメリカ、中国、ベトナム、インド、タイを始め世界各国で生産されている。この冷凍すり身は、精製魚肉のみを冷凍するので、各種練り製品を製造する前の段階での原料の貯蔵、輸送が便利であるという利点、また原料魚の調理、水晒しなどの人手の要する工程を省略できる利点、さらに品質安定な原料が年間を通じて安定して入手、保管できるなどの利点を有する。
しかし、冷凍すり身は冷凍貯蔵中に魚肉タンパク質が変性凝集することがよく知られている。保管中の氷結晶成長と共に、冷凍すり身は凍結時にタンパク質自身の濃縮会合(タンパク質凝集)、pHシフトや塩変性(酸性・塩基性物質など凍結濃縮相の濃縮)、タンパク質が氷結晶への吸着など複数の変性ストレスに曝される。冷凍すり身のタンパク質は凍結保管の時間経過に伴って徐々に変性失活していく。
タンパク質は、20種類のアミノ酸がペプチド結合で連なった鎖状の生体高分子で、アミノ酸同士が相互作用することにより非常に精巧な立体構造を形成する。水溶液中では疎水性アミノ酸は通常、親水性アミノ酸によって保護された疎水域を作り、周囲を取り囲む水分子との相互作用(水和)によって折り畳まれる。タンパク質の表面が十分に親水性ならばそのタンパク質は水に溶解する。
しかし、タンパク質が前述した要因で立体構造を失うと、内部に埋もれていた疎水性アミノ酸が露出し、分子間で会合しやすくなり、本来は水溶液中で分散していたタンパク質分子が多数集合し、大きな塊状になる。これがタンパク質の変性凝集である。
タンパク質が変性凝集すると、タンパク質が本来持つべき機能が失われる。練り製品の品質要素としてゲル強度は最も重要な要素であるが、すり身中の筋原繊維タンパク質が変性凝集してしまえば、良いゲルは出来ない。すなわち、冷凍すり身を製造、貯蔵する段階で魚肉中の筋肉タンパク質を変性凝集させず、練り製品を製造する段階で如何に完全に、かつ均一に溶解できるかが、品質の良い練り製品を製造する上で重要となる。
そこで本発明に係る製造方法では、食品添加物として従来より認められ、人体にも安全な、ショ糖脂肪酸エステル(Sucrose fatty acid esters)を始めとする糖脂肪酸エステル(シュガーエステルとも呼ばれる)を、筋肉タンパク質変性凝集抑制効果のある加工助剤として水晒しの工程において用いる。以下、本発明にかかる水晒しを糖エステル晒しともいう。
尚、糖脂肪酸エステルが優れた筋肉タンパク質変性凝集抑制効果のある加工助剤として機能するのは、加工助剤として水晒しの工程において用いられた脂肪酸エステルが氷点下において不溶化してミセルを形成し、筋原繊維タンパク質同士の会合を防ぐからであると考えられる。
ここで糖脂肪酸エステルは、主に食品用乳化剤として用いられ、生分解性が高く環境にやさしい事から、化粧品や医薬品にも用いられている。その安全性に関しては、国際機関(FAO/WHO、食品添加物専門家合同委員会)において高く評価されている。日本においては1959年に食品添加物として認可され、欧米を始めとする世界各国で幅広い用途に使用されている。
ショ糖脂肪酸エステルは、親水基のショ糖と、疎水基の脂肪酸で構成された非イオン性界面活性剤で、ショ糖1分子中に全部で8個の水酸基があり、結合させる脂肪酸の種類やエステル化度によって性質や機能が異なる。主な脂肪酸の原料としては、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸などがあり、ショ糖ステアリン酸エステル(Sucrose stearate)が最も広く用いられている。
工業的に製造されているショ糖脂肪酸エステルのほとんどは、モノエステル、ジエステル、トリエステルなどの単体或いはその混合物であって、白~黄褐色粉末状、塊状または粘ちょうな樹脂状物質である。また、ショ糖脂肪酸エステルは、モノエステル含量が高く、脂肪酸の鎖長の短いものほど水溶性が高くなる。
ショ糖ステアリン酸エステルは脂肪酸によるエステル化度を変化させることにより親水性/親油性バランス(hydrophile-lipophile balance,HLB)を変化させる事ができる。ここで、界面活性剤の親水性/親油性バランスは従来よりHLB値という示性値として表されており、ショ糖ステアリン酸エステルのHLB値はその脂肪酸によるエステル化度に応じて、図5(a)に示すように、1~16までの範囲で変化する。尚、HLB値は、0に近いほど疎水性が高く、20に近いほど親水性が高い。
本発明の実施例で使用したショ糖ステアリン酸エステルは、ショ糖にステアリン酸をエステル結合させたもので、その構造式を図5(b)に示す。
尚、タンパク質が変性せず、安定した構造を保つためには、タンパク質に含まれる筋原繊維が構造を維持する必要があり、この構造の維持にはミオシンの性質が影響する。また、ミオシンが加熱ゲルを生成するといわれている。よって、本発明の実施形態に係る魚肉由来のタンパク質の変性抑制作用の判定は、実施例及び比較例の冷凍貯蔵後の筋原繊維の顕微鏡写真の比較、及び実施例及び比較例のミオシンの生理活性であるCa-ATPase活性の凍結貯蔵時間に伴う残存率を比較することで行った。
ここで、凍結変性抑制作用を判定する方法について説明する。ショ糖脂肪酸エステルで処理した冷凍すり身を経時的に解凍し、筋原繊維を調製し、魚肉由来筋肉タンパク質のCa-ATPase活性の残存率を確認する。Ca-ATPase活性の残存率は、0.5MのKCl、25mMのTris-maleate(pH7.0)、5mMのCaCl、1mMATP、及び0.2~0.3mg/mlの魚肉由来筋肉タンパク質からなる反応組成液を調製し、遊離する無機リン酸を定量することにより測定する。
次に、図1のフローチャートを用いて、本発明に係る糖エステル晒しを含む、冷凍すり身の製造処理を説明する。
図1に示す様に、本発明に係る冷凍すり身の製造処理には、主な工程として、魚の調理工程、採肉工程、水晒し工程、精製工程、脱水工程、攪拌混合工程、成型工程、及び凍結工程が含まれる。また、図1に示す様に、凍結工程により得られた冷凍すり身を-18℃~-25℃の冷凍保管庫に保管し、その後、(段ボール)箱詰めして、出荷する出荷工程を本発明に係る冷凍すり身の製造処理に含めてもよい。
調理工程では、魚の頭と内臓を取り除く。原料の魚は、特に限定されないが、スケトウダラ、シログチ、フエダイ、ミナミダラ、ブルーホワイティング、ハモ、エソ、パシフィックホワイティング、イトヨリ、カマス、アジ、イワシ、カレイ、オキギス、サメ等が用いられる。原料の魚は、頭と内臓を取り除き、水洗いする。頭を取り除く際には、頭の後の肉を残すように頭を斜めに切り落とす。また、この調理工程は、包丁を使って手作業で行ってもよいし、自動調理機で行ってもよい。また、水洗いとは、魚洗機を使い、鱗や血合を取り除く作業を指す。
採肉工程では、頭と内臓が取り除かれた魚から、皮と骨を取り除き魚ドレスとした後、採肉機により細切された魚肉を採肉する。この採肉工程は、5mmの網目から魚肉を採肉するロール式の採肉機を使用してもよいし、キャタビラ-式採肉機やスタンプ式採肉機等の他の採肉機を使用してもよい。
水晒し工程では、細切された魚肉の水晒し(糖エステル晒し)を行う。ここでは、晒しタンクとロータリースクリーン(回転ふるい)とを組み合わせた水晒しを、前晒しと本晒しとで2回繰り返す。
具体的には、前晒しとして、まず、細切された魚肉を、ロータリースクリーンに入れ、水を吹き付けながら回転させて、魚肉表面の水溶性の肉成分を洗い落とす。その後、この魚肉100kgを、容量が800リットルのタンクの中に入れ、真水400リットルを加えて攪拌し、静置して魚肉を沈殿させる。この際に、魚肉のpH値が6.5~7.5の範囲、好ましくは6.8~7.2の範囲になるように、重曹(NaHCO)を加えて調整する。また、水晒しの間に水面に浮いてきた脂肪を、網を使ってこまめに取り除く。そして、魚肉が沈殿したところで上澄み液を取り除く。
次に、本晒しとして、まず、前晒しが終わった魚肉と水の混合物を、ロータリースクリーンに移し、水を吹き付けながら回転させて、水切りと魚肉表面の水溶性の肉成分を洗い落す。その後、この魚肉を容量が800リットルのタンクに入れて、前晒しと同じ方法で攪拌・静置して魚肉を沈殿させる。この際、糖脂肪酸エステル、より具体的には、図5(a)で四角枠で囲まれる範囲のエステル化度(HLB値:12~16)のショ糖ステアリン酸エステルを0.1w/w%~1.0w/w%添加、好ましくは0.2w/w%~0.5w/w%添加し、よく攪拌し、静置して魚肉を沈殿させる。
尚、使用する糖脂肪酸エステルは、その親水基が、スクロース、マルトース、トレハロースなどの二糖類、ラフィノース、マルトトリオースなどの三糖類から成る糖であって、その疎水基が、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸などC8~C18の脂肪酸であり、これらの糖及び脂肪酸によって出来たモノエステル、ジエステル、トリエステルなど単独或いはそれらの混合物であって、HLB値は12~16の範囲のものであれば、この限りではない。
精製工程では、水晒しが終わった魚肉(晒し肉ともいう)を、ロータリースクリーンに入れて、水きりを行い、さらに、この魚肉を、リファイナーに通して鱗や小骨などの夾雑物を取り除いて精製する。
脱水工程では、精製した魚肉(精製肉ともいう)を、スクリュープレスなどの圧搾式、またはデカンターなどの遠心式の脱水装置を通し、魚肉の水分含量を72w/w%~90w/w%、好ましくは81w/w%~86w/w%に調整し、脱水する。
攪拌混合工程では、脱水した魚肉(脱水肉ともいう)をサイレントカッターやニーダーなどの攪拌容器に投入し、凍結変性防止剤である砂糖(ショ糖)などの糖類を4w/w%~10w/w%、好ましくは6w/w%~8w/w%や重合リン酸塩を0%~0.5w/w%、好ましくは0~0.25w/w%を添加し攪拌混合することで身質を均一(平均化)にし、加糖すり身を得る。この工程で使用される糖類は、ショ糖、マルトース、トレハロースなどの二糖類、ブドウ糖、果糖などの単糖類、ソルビトール、ラクチトールなどの糖アルコールが好ましい。また、この工程で使用される重合リン酸塩は、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、或いはこれらの混合物であって、pH値は6~8の中性範囲のものである。さらに、加糖すり身の酸化を防止するために、撹拌・混合工程は真空状態で行うことが好ましい。
成型工程では、糖類や重合リン酸塩を混合した加糖すり身を機械に通して、54cm×37cm×5cm、10kgのブロック状に成型した。
凍結工程では、成型した加糖すり身を-20℃以下、好ましくは-40℃以下の普通冷凍庫、IQF、コンタクトフリーザー、スパイラルフリーザー、スチールベルト式凍結機などの冷媒を空気媒体とする冷凍設備、または液体窒素、低温アルコール溶液などを使用する冷媒を液体媒体とする冷凍設備を用いて凍結させ、冷凍すり身を得る。その後、凍結した冷凍すり身は-18℃~-25℃の冷凍保管庫で貯蔵する。
(実施例)
次に、本発明に係る糖エステル晒しを含む製造処理により得られた冷凍すり身の実施例1,2について説明する。
実施例1
漁獲後、箱詰めで氷蔵して、工場に入荷させたシログチ(Pennahia argentata)を、ラウンドの状態(調理しない原型のままの状態)で水温12℃で洗浄した後、その頭や内臓を除去するよう調理し、ロール式採肉機によりその魚肉を採肉した。採肉された魚肉を、ロータリースクリーンに入れ、水を吹き付けながら回転させて、魚肉に付着した血液や他の水溶性成分を洗い落とした。
そして、この魚肉100kgの糖エステル晒しを行う。
具体的には、まず、前晒しとして、容量が800リットルのタンクの中に入れ、15℃の真水400リットルを加えて攪拌した後、静置して魚肉を沈殿させる。この際に、魚肉のpH値が6.8~7.2になるように、重曹(NaHCO)を加えて調整した。前晒し後、魚肉を沈殿させる間に水面に浮いてきた脂肪を、網を使ってこまめに取り除いた。そして、魚肉が全て沈殿したところで上澄み液を取り除いた。
その後、本晒しとして、魚肉が沈殿しているタンクの水を入れ替えて攪拌した後、静置して魚肉を沈殿させる。この際に、HLB値が12~16のショ糖ステアリン酸エステルを0.3w/w%添加する。また、本晒し後、魚肉を沈殿させる間に水面に浮いてきた脂肪を、網を使ってこまめに取り除いた。そして、魚肉が全て沈殿したところで上澄み液を取り除いた。
水晒しが終わった魚肉(晒し肉ともいう)を、ロータリースクリーンに入れて、水きりを行い、さらに、この魚肉を、リファイナーに通して鱗や小骨などの夾雑物を取り除いて精製する。精製した魚肉を、スクリュープレスにかけて、魚肉の水分含量を83±2w/w%に調整し、脱水した。
脱水した魚肉(シログチ脱水肉)をサイレントカッターに投入し、凍結変性防止剤である砂糖を8w/w%添加し、3分間攪拌・混合することで身質を均一にし、生の加糖すり身を得た後、成型機にかけ、-40℃で急速凍結後、-20℃の冷凍保管庫で貯蔵した。
実施例2
漁獲後、船上で氷蔵して、工場に入荷させたフエダイ(Lutjanus lutjanus, Lutjanus spp.)を、魚洗機で水温12℃で洗浄した後、その頭や内臓を除去するよう調理し、ロール式採肉機によりその魚肉を採肉した。採肉された魚肉を、ロータリースクリーンに入れ、水を吹き付けながら回転させて、魚肉に付着した血液や他の水溶性成分を洗い落とした。
そして、この魚肉100kgの糖エステル晒しを行う。
具体的には、まず、前晒しとして、容量が800リットルのタンクの中に入れ、10℃の真水400リットルを加えて攪拌した後、静置して魚肉を沈殿させる。この際に、魚肉のpH値が6.8~7.2になるように、重曹(NaHCO)を加えて調整した。前晒し後、魚肉を沈殿させる間に水面に浮いてきた脂肪を、網を使ってこまめに取り除いた。そして、魚肉が全て沈殿したところで上澄み液を取り除いた。
その後、本晒しとして、魚肉が沈殿しているタンクの水を入れ替えて攪拌した後、静置して魚肉を沈殿させる。この際に、HLB値が12~16のショ糖ステアリン酸エステルを0.3w/w%添加する。また、本晒し後、魚肉を沈殿させる間に水面に浮いてきた脂肪を、網を使ってこまめに取り除いた。そして、魚肉が全て沈殿したところで上澄み液を取り除いた。
水晒しが終わった魚肉(晒し肉ともいう)を、ロータリースクリーンに入れて、水きりを行い、さらに、この魚肉を、リファイナーに通して鱗や小骨などの夾雑物を取り除いて精製する。精製した魚肉を、スクリュープレスにかけて、魚肉の水分含量を83±2w/w%に調整し、脱水した。
脱水した魚肉(フエダイ脱水肉)をサイレントカッターに投入し、凍結変性防止剤である砂糖を8w/w%添加し、3分間攪拌・混合することで身質を均一にし、生の加糖すり身を得た後、成型機にかけ、-42℃で急速凍結後、-20℃の冷凍保管庫で貯蔵した。
次に、本発明による、魚肉由来の筋肉タンパク質の変性抑制作用について説明する。尚、以下の説明において、タンクにショ糖ステアリン酸エステルを添加することなく本晒しを行う点を除き、実施例1と同一の方法で作成された冷凍すり身を、通常晒しの冷凍すり身といい、実施例1の方法で作成された冷凍すり身を、糖エステル晒しの冷凍すり身という。
図2は、糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプル、及び比較例1~3のサンプルにおける、筋原繊維タンパク質の凝集度合を示す顕微鏡写真である。
比較例1のサンプルとして、実施例1の調理工程で調理されたシログチの魚肉から筋原繊維を調製したサンプル(以下、「魚肉サンプル」ともいう)を作成した。
比較例2のサンプルとして、実施例1の脱水工程で調理されたシログチの魚肉から筋原繊維を調製したサンプル(以下、「凍結前脱水身サンプル」ともいう)を作成した。
比較例3のサンプルとして、通常晒しの冷凍すり身を、凍結工程で-20℃、12ヶ月冷凍貯蔵された後に解凍し、筋原繊維を調製したサンプル(以下、「通常晒しサンプル」ともいう)を作成した。
実施例のサンプルとして、糖エステル晒しの冷凍すり身を、凍結工程で-20℃、12ヶ月冷凍貯蔵された後に解凍し、筋原繊維を調製したサンプル(以下、「糖エステル晒しサンプル」ともいう)を作成した。
比較例1の魚肉サンプル、比較例2の凍結前脱水身サンプル、比較例3の通常晒しサンプル、及び実施例の糖エステル晒しサンプルは、いずれもBX50型システム光学顕微鏡(オリンパス株式会社)を用い、400倍で撮影した。
この撮影の結果、図2(a)に示す魚肉サンプル(比較例1)と比べて、図2(b)に示す凍結前脱水身サンプル(比較例2)は、魚肉筋原繊維の表面損傷が見られる。
また、図2(a)に示す魚肉サンプル(比較例1)と比べて、図2(c)に示す通常晒しサンプル(比較例3)は、タンパク質の凝集が顕著に発生している。これに対し、図2(d)に示す糖エステル晒しサンプル(実施例)では、通常晒しサンプル(比較例3)と比べてタンパク質の凝集が抑制されていることが解る。
図3は、糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプル、及び通常晒しの冷凍すり身から調製されたサンプルにおける、筋原繊維タンパク質の凍結貯蔵時間に伴うCa-ATPase活性の残存率を示すグラフである。
糖エステル晒しの冷凍すり身、及び通常晒しの冷凍すり身を、夫々凍結工程において-20℃で凍結貯蔵させる。
その後、3か月間、6か月間、12か月間、24か月間の4つの凍結貯蔵時間が経過する毎に、凍結貯蔵させた、糖エステル晒しの冷凍すり身及び通常晒しの冷凍すり身の夫々の一部を解凍して筋原繊維を調製し、サンプルを作成した。
0.5M KCl、25mM Tris-maleate(pH7.0)、5mM CaCl2、1mMATP、及び0.2~0.3mg/mlの各サンプルからなる反応組成液を調製し、遊離する無機リン酸を定量することによりCa-ATPase活性の残存率を測定した。
図3に示すように、同一の凍結貯蔵時間が経過した時点で作成されたサンプルのCa-ATPase活性の残存率は、糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプルの方が、通常晒しの冷凍すり身から調製されたサンプルより高い。
また、通常晒しの冷凍すり身の場合、凍結貯蔵期間が24か月の時点で52%のCa-ATPase活性の残存率を有している。すなわち、凍結貯蔵期間が24か月の時点でのCa-ATPase活性の残存率は50%以上であり、一定の冷凍貯蔵性を有する。しかし、凍結貯蔵期間を24か月より長い(例えば36か月の)期間とした場合は、Ca-ATPase活性の残存率は50%未満となり、十分な冷凍貯蔵性を有さなくなる。
これに対し、糖エステル晒しの冷凍すり身の場合、凍結貯蔵期間が24か月の時点で71%のCa-ATPase活性の残存率を有している。すなわち、凍結貯蔵期間が24か月の時点でCa-ATPase活性の残存率は50%を大幅に上回り、十分な冷凍貯蔵性を有することがわかる。また、糖エステル晒しの冷凍すり身の凍結貯蔵時間に伴うCa-ATPase活性の残存率の経時変化をみると、凍結貯蔵期間が24か月より長い(例えば36か月の)期間とした場合も、50%以上のCa-ATPase活性の残存率が見込まれ、十分な冷凍貯蔵性を有することがわかる。
図4は、糖エステル晒しの冷凍すり身から調製されたサンプル、及び通常晒しの冷凍すり身から調製されたサンプルの夫々から調製したケーシングの物性値を比較するグラフである。
糖エステル晒しの冷凍すり身、及び通常晒しの冷凍すり身を、夫々凍結工程で-20℃で12か月間、凍結貯蔵させた後、中心温度-5℃になるように半解凍する。
その後、最終濃度塩2.5%、加水20%になるようにMK-K57型フ-ドカッタ-(パナソニック株式会社)で擂り潰し、4℃で擂り上がり、空気を抜いた後、直径37mmx高さ20mmの軟膏ケ-スに詰め、密封して40℃の恒温槽で所定時間(0分、30分、60分、90分)の坐りを行い、さらに85℃の恒温槽で30分加熱し、サンプルを作成した。
ゲル強度の測定:5℃の冷蔵庫に一晩置いた各サンプルを室温に戻し、軟膏ケ-スから取出し、高さ10mm、幅10mm、長さ25mmのキューブ状に切り出したケーシング切片を調製し、かまぼこゲル物性測定装置レオナー(RE-3305、株式会社山電)を用いてその物性値を測定した。すなわち、楔形プランジャー(接触幅1mm)を用いて、試験台昇速1mm/秒でケーシング切片を破断し、その瞬間の荷重(破断強度)および歪み(破断歪率)を測定した。図4に示す夫々の測定値は平均値(n=10)である。
通常晒しの冷凍すり身より、糖エステル晒しの冷凍すり身は、図2、図3から明らかなように、冷凍貯蔵によるすり身に含まれる筋原線維の変性凝集が少ない。このため、図4に示すように、通常晒しの冷凍すり身を原料とする練り製品より、糖エステル晒しの冷凍すり身を原料とする練り製品は、破断強度が大きく、且つ破断歪率も大きく、品質がよい練り製品であることが解る。
以上、本発明では、冷凍すり身を製造する際の水晒し工程において、糖脂肪酸エステルを加工助剤として用いることで、糖脂肪酸エステルを魚肉の筋原繊維の隅々まで浸透させることができる結果、魚肉由来の筋肉タンパク質の凍結変性凝集を抑制することができる。
魚肉由来のすり身が加熱ゲルを形成するための条件は、魚肉由来のすり身に含まれる筋肉タンパク質が溶解する際に変性していないこと、または既に溶解しているが変性していないことである。本発明に係る糖エステル晒しを行った場合、冷凍すり身のタンパク質を非常に安定に保つことができるため、冷凍すり身を解凍して得られたすり身においてもかかる条件を満たすことができる。また、糖脂肪酸エステル溶液はほとんど無味であり、且つ糖エステル晒しにおける糖脂肪酸エステルの使用量が微量であるため、冷凍すり身への不要な味の付加を防止することができる。これにより、本発明に係る糖エステル晒しを行った冷凍すり身を原料とすると、魚肉が生来有する自然な味を引き出した、弾力性に富んだ練り製品を製造することができる。

Claims (8)

  1. 冷凍すり身の製造方法であって、
    水晒し工程において、糖脂肪酸エステルを加工助剤として用いて魚肉を水晒しすることを特徴とする製造方法。
  2. 前記糖脂肪酸エステルの親水基は、二糖類、三糖類のうちの1つであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. 前記糖脂肪酸エステルの疎水基は、C8~C18のうちの少なくとも1つの脂肪酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
  4. 前記糖脂肪酸エステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステルそれぞれの単体或いはその混合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記糖脂肪酸エステルのHLB値は12~16の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記水晒し工程において、重曹を加えてpH値が6.8~7.2になるように調整された水が入ったタンクで前記魚肉を水晒しする前晒しと、前記タンクの水を、前記加工助剤が添加された水に入れ替えて前記魚肉を水晒しする本晒しとが行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 前記本晒しの際に、前記タンクの水に0.1w/w%~1.0w/w%の前記加工助剤を添加することを特徴とする請求項6記載の製造方法。
  8. 前記本晒しの際に、前記タンクの水に0.2w/w%~0.5w/w%の前記加工助剤を添加することを特徴とする請求項7記載の製造方法。
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