<第1の実施形態>
以下、図1から図14を参照しつつ、第1の実施形態に係るプレス成形品の製造方法について説明する。プレス成形品の製造方法では、素材金属板に予加工を施した中間素材の一例としての中間成形品20を用いて、最終成形品であるプレス成形品10を成形する。なお、本実施形態では、中間素材としてプレス成形した中間成形品20を用いる場合を例に挙げて説明するが、プレイス成形以外の方法で形成した中間素材を用いても良い。
以下、初めにプレスライン100について説明し、次いで、プレス成形品10の構成、中間成形品20の構成、中間成形品20の予加工、及びプレス成形品の製造方法について説明する。なお、図面において同一の部材などには同一の符号を付しており、以下の説明において同一部材について先に説明したものは、適宜説明を省略している。
(プレスライン100について)
図1を参照しつつ、素材金属板50(以下ブランク50という。)から中間成形品20を形成し、中間成形品20からプレス成形品10を成形するプレスライン100について説明する。
このプレスライン100は、上流側から順に配置された材料テーブル102と、後述する中間成形用プレス装置30と、後述するプレス装置60とを備える。材料テーブル102には、ブランク50が供給される。材料テーブル102上のブランク50は、搬送手段の一例である多関節ロボットで構成された第1マニピュレータ104によって中間成形用プレス装置30へ搬送され、中間成形用プレス装置30により成形されて中間成形品20になる。
中間成形用プレス装置30で成形した中間成形品20は、第2マニピュレータ106によってプレス装置60へ搬送され、プレス装置60により成形されてプレス成形品10になる。そして、プレス装置60で成形したプレス成形品10は、第3マニピュレータ108によって次工程に引き渡される。
なお、搬送手段の少なくとも一部は、マニピュレータ以外であっても良い。この搬送手段として例えばコンベアが挙げられる。
中間成形用プレス装置30、プレス装置60、及び各マニピュレータ104、106、108は、産業用コンピュータ等で構成された制御部110に接続されており、制御部110からの制御信号に従って各処理を行う。
(プレス成形品10について)
図2を用いてプレス成形品10の構成について説明する。なお、図2に示される矢印Wはプレス成形品10の幅方向を示し、矢印Aはプレス成形品10の上側を示し、矢印Bはプレス成形品10の下側を示している。
プレス成形品10は、例えば、引張強度が440MPa以上の高強度鋼板で構成される。このプレス成形品10は、例えば、自動車の骨格を構成する略長尺状を成す車体骨格部材である。そして、プレス成形品10は、その長手方向一方側の正面から見て、断面略ハット形状である。
具体的にはプレス成形品10は、プレス成形品10の幅方向に延在する天板10Aと、天板10Aの幅方向両端に隣接し且つ図2中上側Aである表面側へ凸となる弧状に湾曲した一対の稜線部10Bとを含む。また、プレス成形品10は、稜線部10Bから天板10Aの板厚方向一方側である裏面側へ延出した一対の縦壁10Cと、一対の縦壁10Cの下端である先端に隣接し且つ裏面側へ凸となる弧状に湾曲した一対の稜線部10Dとを含む。さらに、プレス成形品10は、一対の稜線部10Dから天板10Aの幅方向両側、すなわち縦壁10Cの表面側へそれぞれ延出した一対のフランジ10Eを含む。
なお、以下の説明では、プレス成形品10の板厚方向一方側である裏面側をプレス成形品10の内側と称し、プレス成形品10の板厚方向他方側である表面側をプレス成形品10の外側と称する。そして、上述のように、一対の稜線部10Bは、天板10Aと縦壁10Cとの境界部であると共に、正面視でプレス成形品10の外側へ凸となる曲げ部である。
(中間成形品20について)
図3を用いて中間成形品20について説明する。なお、図3に示される矢印Wは中間成形品20の幅方向を示し、矢印Aは中間成形品20の上側を示し、矢印Bは中間成形品20の下側を示している。そして、中間成形品20の特に天板20Aの幅方向とプレス成形品10の特に天板10A(図2参照)の幅方向とが一致しており、中間成形品20の天板20Aの上下方向とプレス成形品10の天板10Aの上下方向とが一致している。
中間成形品20は、正面から見た断面視で略W字形状である。具体的に中間成形品20は、プレス成形品10の天板10Aの幅方向中央部分に対応する天板20Aと、プレス成形品10の天板10Aの幅方向両側部分、稜線部10B、及び縦壁10Cに対応する傾斜壁20Cとを含む。また、中間成形品20は、プレス成形品10の稜線部10Dに対応する稜線部20Dと、プレス成形品10のフランジ10Eに対応するフランジ20Eとを含む。傾斜壁20Cは、中間成形品20の幅方向両端側へ向かうに従い、天板20Aの板厚方向一方側である中間成形品20の下側へ傾斜する。このため、中間成形品20には、幅方向中間部において、中間成形品20の板厚方向一方側へ折り曲げられ屈曲した一対の曲げ部としての予曲げ部20Fが形成されている。
そして、中間成形品20の天板20Aの幅W2、すなわち幅方向における一対の予曲げ部20F間の距離は、プレス成形品10の天板10Aの幅W1、すなわち幅方向におけるプレス成形品10の一対の稜線部10B間の距離(図2参照)よりも小さい。例えば、幅W2と幅W1との差が、中間成形品20の板厚の2倍以上、望ましくは10mm以上に設定されている。ここで、プレス成形品10の天板10Aの幅W1は(図2参照)、一方の稜線部10Bが形成する湾曲部の縁から他方の稜線部10Bが形成する湾曲部の縁からまでの距離を示す。
幅W2と幅W1との幅方向一方側及び幅方向他方側のそれぞれの差は、中間成形品20の板厚以上、望ましくは5mm以上に設定されている。これにより、上述したように、天板20Aが、プレス成形品10の天板10Aの幅方向中央部分として成形される。傾斜壁20Cの天板20A側の部分である基端側の部分が、プレス成形品10の天板10Aの幅方向両側部分及び稜線部10Bとなる。
また、天板20Aと傾斜壁20Cとの成す予曲角度θ2は、プレス成形品10の天板10Aと縦壁10Cとの成す角度θ1(図2参照)より大きく設定されると共に、鈍角に設定されている。なお、予曲角度θ2の角度については、後述する。
(中間成形品20の予加工について)
次に、中間成形品20の予加工について、図4から図6を参照しつつ説明する。中間成形品20の予加工では、予成形装置の一例としての中間成形用プレス装置30(以下、単にプレス装置30という)を用いて中間成形品20を成形する。
初めに、プレス装置30について説明する。なお、図4から図6では、矢印Wをプレス装置30の幅方向とする。また、矢印Aをプレス装置30の上側とし、矢印Bをプレス装置30の下側とする。更に、矢印A及び矢印Bは、それぞれ予成形プレス方向である。そして、プレス装置30の幅方向と中間成形品20の幅方向とが一致しており、プレス装置30の装置上下方向と中間成形品20の上下方向とが一致している。
プレス装置30は、プレス装置30の装置上側部分を構成する予成形パンチ32と、プレス装置30の装置下側部分を構成する予成形ダイ34とを含む。また、予成形ダイ34は、予成形ダイ34の幅方向中央部分を構成する予成形ダイパッドの一例として中間成形品用パッド36(以下、単にパッド36という)を有している。
予成形パンチ32は、中間成形品20の天板20A、傾斜壁20C、稜線部20D、及びフランジ20Eの表面側の形状に対応した成形面を有している。また、予成形パンチ32には、移動装置38が連結されており、移動装置38は、例えば油圧装置、電動駆動装置等を備える。これにより、予成形パンチ32は、移動装置38によって予成形ダイ34に接離する装置上下方向、すなわち予成形プレス方向に移動する。
予成形パンチ32には、予成形パンチ凹部32Fが形成されている。予成形パンチ凹部32Fの両側には、予成形パンチ肩部32Gが設けられている。予成形パンチ肩部32Gからは、予成形パンチ側壁面32Dが延出している。
予成形パンチ凹部32Fは、装置上下方向である予成形プレス方向を横切る予成形パンチ凹部底面32Aを備えている。予成形パンチ凹部底面32Aの幅H2は、後述するプレス装置60のパンチ66の頂部66Fの幅H1(例えば図7参照)より狭く、インナパッド68のインナパッド頂面68Aの幅H4(例えば図7参照)以上の幅H2である。なお、本実施形態では、予成形パンチ凹部底面32Aの幅H2とインナパッド頂面68Aの幅H4とが同じ寸法に設定されている。
また、予成形パンチ凹部32Fの予成形パンチ凹部底面32Aの両側には、予成形パンチ凹部角部32Bが設けられている。この予成形パンチ凹部角部32Bは、断面円弧状の曲面で構成されている。各予成形パンチ凹部角部32Bからは、予成形パンチ凹部斜面32Cが予成形パンチ凹部底面32Aから離れる方向へそれぞれ延出する。両側の予成形パンチ凹部斜面32Cが互いに成す角度は、後述するパンチ66の両パンチ壁面66Gが成す角度α(例えば図7参照)より大きな角度βである。
予成形ダイ34は、中間成形品20の稜線部20D及びフランジ20Eの裏面側の形状に対応した成形面を有している。また、予成形ダイ34の幅方向中央部には、パッド36を配置するための予成形ダイパッド収容部の一例としての凹部34Aが形成されており、凹部34Aは予成形パンチ32側である装置の上側Aへ開放されている。
具体的に説明すると、予成形ダイ34は、予成形パンチ32に対向している。予成形ダイ34には、ダイ穴34Fが形成されている。ダイ穴34F内には、予成形パンチ側壁面32Dに対応する予成形ダイ穴壁面34Cと、両予成形ダイ穴壁面34Cの間に配置された予成形ダイ底34Dとが形成されている。この予成形ダイ底34Dに凹部34Aが形成されている。
パッド36には、予成形パンチ凹部底面32Aに対応するパンチ底面対応面36Aと、予成形パンチ凹部斜面32Cに対応するパンチ斜面対応面36Bとが形成されている。パッド36は、中間成形品20の天板20A及び傾斜壁20Cの裏面側の形状に対応した成形面を有している。
このパッド36は、パッド加圧装置40によって予成形ダイ34に連結されている。パッド加圧装置40は、例えばガスクッション、油圧装置、ばね、電動駆動装置等を備える。これにより、パッド36はパッド加圧装置40によって予成形ダイ34に対して装置上下方向である予成形プレス方向(以下予成形プレス方向に統一する)に相対移動する。そして、パッド36が予成形ダイ34に最も接近するパッド36の下死点では、パッド36の下部が、予成形ダイ34の凹部34A内に収容される(図6参照)。
(予加工工程)
次に、プレス装置30によってブランク50をプレスして中間成形品20を製造する予加工工程について説明する。この予加工は、以下に示す第1から第3の予加工工程を有している。
第1の予加工工程では、図4に示したように、パッド加圧装置40によってパッド36が予成形ダイ34に対して装置の上側Aへ突出した状態に保持する。そして、ブランク50をパッド36上に配置してセットする。
第2の予加工工程では、図5に示したように、移動装置38によって予成形パンチ32をパッド36に接近する方向である下側Bへ移動し、予成形パンチ32及びパッド36でブランク50の幅方向中央側の部分を加圧挟持する。これにより、中間成形品20の天板20A、一対の予曲げ部20F、及び一対の傾斜壁20Cを形成する。
第3の予加工工程では、図6に示したように、予成形パンチ32及びパッド36でブランク50を加圧挟持した状態で、移動装置38によって予成形パンチ32及びパッド36を予成形ダイ34に対して下側Bへ相対的に移動する。そして、予成形パンチ32及びパッド36を下死点に到達させ、ブランク50の幅方向両端部分を予成形パンチ32及び予成形ダイ34で加圧挟持する。これにより、中間成形品20の一対の稜線部20D及びフランジ20Eを形成する。以上により、中間成形品20が成形される。
(プレス成形品10の製造方法について)
次に、プレス成形品10の製造方法について説明する。プレス成形品10の製造方法では、プレス装置60を用いて、予加工の施された中間成形品20をプレス成形品10に成形する。初めに、図7から図11を参照しつつ、プレス装置60について説明する。
なお、図7から図11では、矢印Wをプレス装置60の幅方向とし、矢印Aをプレス装置60の上側とし、矢印Bをプレス装置60の下側としている。矢印A及び矢印Bは、それぞれプレス方向を示す。
そして、プレス装置60の幅方向とプレス成形品10及び中間成形品20の幅方向とが一致する。また、プレス装置60の装置上下方向とプレス成形品10及び中間成形品20の上下方向とが一致する。
プレス装置60は、プレス装置60の装置上側部分を構成するダイ62と、プレス装置60の装置下側部分を構成するパンチ66とを含む。そして、ダイ62とパンチ66とが、プレス方向に対向している。
ダイ62の幅方向中央部には、下側Bに開放されたダイ穴62Aが形成されている。ダイ穴62Aの上側Aを構成するダイ底部62Fのダイ底面62Gは、平坦面である。このダイ底面62Gは、プレス成形品10の製品形状に応じた面形状とされ、製品形状によっては平坦面ではない場合もある。そして、ダイ穴62Aの内周面は、プレス成形品10の稜線部10B、縦壁10C、稜線部10Dの表面に対応した成形面である。
ここで、本明細書において、一方の金型の面が他方の金型の面に対応するとは、成形下死点において一方の金型の面と他方の金型の面が対向するという意味である。また、一方の金型の面と他方の金型の面とが互いに平行でない場合も含む。
詳述すると、ダイ62は、パンチ66の頂部66Fに対向するダイ底部62Fと、ダイ底部62Fに形成されたダイ底面62Gとを有する。また、ダイ62は、ダイ底部62Fの両側に設けられ、後述するパンチ66のパンチ肩部66Hに対応する底角部の一例である稜線成形面62A1を有している。さらに、ダイ62は、各稜線成形面62A1より延出しパンチ66のパンチ壁面66Gに対応するダイ穴壁面62Hを有しており、ダイ穴壁面62Hは、パンチ壁面66Gと平行である。
ダイ穴62Aの幅は、中間成形品20の一対の予曲げ部20F間の距離である天板20Aの幅W2よりも大きい。そして、ダイ穴62Aにおけるプレス成形品10の稜線部10Bを成形する部分が、一対の底角部としての稜線成形面62A1である。稜線成形面62A1は略円弧状に湾曲した形状である。なお、ダイ62の稜線成形面62A1は、必ずしも円弧状に湾曲した形状でなくても良く、パンチ66のパンチ肩部66Hと異なる形状であっても良い。しかし、ダイ62の稜線成形面62A1もプレス成形品10の製品形状に応じた湾曲形状とすることが好ましい。
ダイ底面62Gは、一対の稜線成形面62A1の間にあり、ダイ底面62Gは、プレス方向に対して直交し中間成形品20の天板20Aと平行である。ダイ底面62Gと稜線成形面62A1との間には、ダイ側傾斜面62Iが形成されている。ダイ側傾斜面62Iは、ダイ62の幅方向中央側へ向かうに従ってパンチ66側である下側Bへ傾斜している。
これにより、ダイ底面62Gは、稜線成形面62A1より下側Bへ突出しており、ダイ底面62Gの突出量は、プレス装置60から離型したプレス成形品10の天板10Aが平坦状(平板状)になるように適宜設定されている。このダイ底面62Gの稜線成形面62A1からの突出量、すなわちプレス方向におけるダイ側傾斜面62Iの高さ寸法は、プレス成形品10に用いられる素材金属板の引張強度や板厚等に応じたシミュレーション等を用いて適宜設定する。
また、ダイ62は、移動装置70に連結されており、移動装置70は、例えば油圧装置、電動駆動装置等を備える。これにより、ダイ62は、移動装置70によってパンチ66に接離する方向であるプレス方向に移動する。
そして、ダイ底面62Gの幅W4は、中間成形品20の天板20Aの幅W2と一致している。つまり、ダイ底面62Gと後述するインナパッド68が中間成形品20の天板20Aを挟持した状態では、図9に示したように、ダイ底面62Gとダイ側傾斜面62Iとの境界部の位置と、中間成形品20の予曲げ部20Fの位置とが幅方向で一致する。また、ダイ底面62Gの幅方向の端部とインナパッド頂面68Aの幅方向の端部とは、プレス方向で重なる。
パンチ66は、ダイ62の下側Bに配置され、ダイ62とプレス方向に対向している。パンチ66は、正面から見た断面視で、上側Aへ突出した凸形状である。パンチ66の外面は、プレス成形品10の天板10Aの幅方向両側部分、稜線部10B、縦壁10C、稜線部10D、及びフランジ10Eの裏面に対応した成形面である。
プレス方向を横切るパンチ66の上部を構成する頂部66Fには、ダイ側傾斜面62Iに対してプレス方向に対向する位置に、ダイ側傾斜面62Iに対応するパンチ側傾斜面66Aが形成されている。すなわち、パンチ側傾斜面66Aは、ダイ側傾斜面62Iと平行であると共に、パンチ66のパンチ肩部66Hから幅方向中央側へ向かうに従い下側Bへ傾斜している。また、パンチ側傾斜面66Aは、ダイ側傾斜面62Iと凹凸が反転した形状である。
なお、本実施形態では、頂部66Fの幅方向両側にパンチ側傾斜面66Aを設けたが、これに限定されるものではない。例えば、頂部66Fの幅方向の一方側のみにパンチ側傾斜面66Aを設けてもよい。また、頂部66Fの幅方向両側に同形状のパンチ側傾斜面66Aを設けたが、これに限定されるものではない。例えば、頂部66Fの幅方向の一方側のパンチ側傾斜面66Aと他方側のパンチ側傾斜面66Aとを異なる形状にしてもよい。
さらに、パンチ66の上部の頂部66Fには、後述するインナパッド68を収容するためのインナパッド収容部66Bが形成されている。インナパッド収容部66Bは、上側Aへ開放された凹状であると共に、一対のパンチ側傾斜面66Aに隣接している。これにより、パンチ66の頂面は、パンチ66の頂部66Fの両側に設けられたパンチ肩部66H及びインナパッド収容部66Bを除く上面、すなわち一対のパンチ側傾斜面66Aによって構成されている。
パンチ66の頂部66Fの両側に設けられた各パンチ肩部66Hは、ダイ62の稜線成形面62A1と凹凸が反転した形状である。各パンチ肩部66Hからは、頂部66Fより離れる方向へ延出したパンチ壁面66Gが形成されている。両パンチ壁面66Gは、抜き勾配を有するため下側Bへ向かうに従って離れ、両パンチ壁面66Gは、角度αを成している。なお、両パンチ壁面66Gは、プレス方向に沿った方向に延在し互いに平行であっても良い。
また、パンチ66の頂部66Fにおける幅方向中央部には、幅H4のインナパッド68が設けられている。このインナパッド68は、パッド加圧装置74によってパンチ66またはパンチ66の下側に配置される図示しないプレス機に連結されており、パッド加圧装置74は、例えばガスクッション、油圧装置、電動駆動装置等を備える。これにより、インナパッド68は、パッド加圧装置74によってパンチ66に対してプレス方向に相対移動可能である。インナパッド68がパンチ66に最も接近した下死点では、インナパッド68がインナパッド収容部66B内に収容される(図11参照)。
さらに、インナパッド68は、ダイ62のダイ底面62Gとプレス方向に対向している。インナパッド68の上面は、プレス方向を横切るインナパッド頂面68Aであり、インナパッド頂面68Aはダイ62のダイ底面62Gと平行である。すなわち、インナパッド頂面68Aは、ダイ62とパンチ66との対向方向であるプレス方向に対して直交する。このインナパッド頂面68Aは、プレス成形品10の製品形状やプレス条件によって、プレス方向に対して直交しない場合もある。
そして、インナパッド頂面68Aの幅H4は、中間成形品20の天板20Aの幅W2と一致する。つまり、ダイ62のダイ底面62Gとインナパッド68とが中間成形品20の天板20Aを挟持した状態で(図9参照)、インナパッド68の幅方向両側の肩部68Bの幅方向における位置と、中間成形品20の予曲げ部20Fの幅方向における位置とが一致する。なお、インナパッド68をインナパッド収容部66B内に収容した状態では、インナパッド68のインナパッド頂面68Aがインナパッド収容部66Bの開口面と面一に配置される(図11参照)。
(プレス成形品の製造方法)
次に、プレス成形品10の製造方法について説明する。プレス成形品10の製造方法は、以下に示す第1工程から第3工程を有している。
第1工程では、図7に示したように、インナパッド68をパッド加圧装置74によってインナパッド収容部66Bから上側Aへ突出させる。この状態において、中間成形品20の天板20Aの裏面をインナパッド68上に配置する。このとき、インナパッド68の幅方向両側の肩部68Bを中間成形品20の予曲げ部20Fの位置に合わせ、天板20Aをインナパッド68上に配置してセットする。
第2工程では、図7に示した状態から、移動装置70によってダイ62をパンチ66側である下側Bへ移動し(図8参照)、ダイ62をインナパッド68及びパンチ66に接近する。なお、パンチ66に移動装置を取り付け、パンチ66をダイ62側である上側Aへ移動させても同様の効果が得られる。
これにより、パンチ66が、図9に示したように、ダイ62のダイ穴62A内へ押し込まれ、プレス成形品10の縦壁10Cが成形される。このプレス過程において、中間成形品20の天板20Aは、ダイ62のダイ底面62Gとインナパッド68のインナパッド頂面68Aとによって加圧挟持される。
第3工程では、第2工程の状態から、中間成形品20の天板20Aをダイ底面62Gとインナパッド頂面68Aとで加圧挟持した状態において、ダイ62を下側Bへさらに移動し、パンチ66をダイ穴62Aへ押し込む(図9から図10参照)。すると、インナパッド68がダイ62と共に下側Bへ移動し、インナパッド68は、図10に示したように、インナパッド収容部66B内に収容される。
具体的には、中間成形品20におけるプレス成形品10の天板10Aに対応する部分が平坦状となるように、インナパッド68がインナパッド収容部66B内に収容される。これにより、ダイ底面62G及びインナパッド68によって、中間成形品20の予曲げ部20Fが平坦状(平板状)に曲げ戻される。
次に、図10に示した状態から図11に示すように、移動装置70によってダイ62を下側Bへさらに移動し、突出したダイ底面62Gをパンチ66側へ押し込む。これにより、ダイ底面62Gを有したダイ62と、インナパッド68及びパンチ66とによって、中間成形品20の予曲げ部20Fを天板10Aの裏面側へさらに曲げ戻す。このとき、中間成形品20におけるプレス成形品10の天板10Aに対応する部分は、ダイ底面62Gとインナパッド68とで加圧挟持される。
そして、プレス成形品10を、プレス装置60から離型することで、平板状の天板10Aを有したプレス成形品10が得られる。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
本実施形態においては、予曲げ部20Fを有する中間成形品20を用いてプレス成形品10を成形する。このため、図8に示したように、ダイ62及びパンチ66で中間成形品20の傾斜壁20Cの曲げを開始する際には、中間成形品20の中央部に設けられた天板20Aの撓みを抑制することができる。
このため、平板状のブランク50を用いてプレス成形品10を成形する場合と比較して、ブランク50の中央部を押える為のダイ62側のダイパッドが無くても、プレス成形品10の天板10Aの湾曲を抑えることができる。これにより、プレス成形品10の天板10Aの湾曲に起因した縦壁10Cの口開きの変動を抑制することができる。
次に、図9に示したように、ダイ62のダイ底面62Gとインナパッド68とで中間成形品の天板20Aを挟持した状態でダイ62をさらに下側Bへ移動する際の作用及び効果を比較例の製造方法と比較しつつ説明する。
まず、比較例におけるプレス成形品の製造方法について説明する。この比較例のプレス成形品の製造方法では、本実施形態における予加工が施された中間成形品20を用いず、平板状のブランク50を用いてプレス成形品10を成形する。
図12は、比較例のプレス装置におけるパンチ肩部66Hの周辺を拡大した図である。この比較例のプレス装置では、本実施形態のダイ62のダイ側傾斜面62I及びパンチ66のパンチ側傾斜面66Aに相当する部分がプレス方向に対して直交する面で構成され、ダイ底部62Fが平面状である。この比較例のプレス装置において、本実施形態と同様に構成されている部分には、同一の符号を付している。
この比較例では、ブランク50をインナパッド68上に配置した状態で、本実施形態と同様に、ダイ62をパンチ66側へ押し込んで、プレス成形品10の縦壁10Cに対応する部分を成形する。このとき、インナパッド68がパンチ66に対してダイ62側へ突出している。このため、ブランク50におけるインナパッド68の肩部68Bからパンチ肩部66Hまでの部分(以下、この部分を弛み部52という)が、プレス装置の幅方向外側へ向かうに従い下側Bへ斜めに曲げられる。これにより、弛み部52が、ブランク50の表面側へ凸となるように湾曲する。
また、弛み部52に沿った長さL1は、幅方向におけるインナパッド68とパンチ肩部66Hとの間の長さL2よりも長い。このため、この状態からダイ62を下死点まで移動させると、パンチ肩部66Hによって曲げられた部分(a部)が下側Bへ押し出され、縦壁10Cとして成形される。また、弛み部52のインナパッド68側の部分(b部)が押し潰され、天板10Aの一部になる。
これにより、比較例のプレス成形品10では、図13に示すように、上記a部が縦壁10Cの基端部を構成すると共に、上記b部が天板10Aの幅方向両側部分を構成する。そして、a部は、図12の状態でパンチ肩部66Hによってプレス成形品10の外側へ凸となる弧状に曲げられた後に、図13の状態では縦壁10C側へ押し出されて、縦壁10Cとして曲げ戻される。
この際、曲げ戻されたa部には、プレス成形品10の外側に圧縮応力が生ずると共に、プレス成形品10の内側に引張応力が生ずる。このため、離型前におけるプレス成形品10のa部には、プレス成形品10の内側へ向かう第1のモーメントM1が生ずる。
また、弛み部52のb部は、プレス成形品10の外側、すなわちブランク50の表面側へ凸となるように湾曲した後に、曲げ戻され天板10Aとして平板状に成形される。この際、平板状に成形したb部には、プレス成形品10の外側に圧縮応力が生ずると共に、プレス成形品10の内側に引張応力が生ずる。このため、離型前におけるプレス成形品10のb部には、プレス成形品10の内側へ向かう第2のモーメントM2が生ずる。
さらに、プレス成形品10のa部とb部との間に形成された稜線部10Bは、パンチ肩部66Hによってプレス成形品10の外側へ凸となる弧状に曲げられている。この稜線部10Bには、プレス成形品10の外側に引張応力が生ずると共に、プレス成形品10の内側に圧縮応力が生ずる。このため、離型前におけるプレス成形品10の稜線部10Bには、プレス成形品10の外側へ向かう第3のモーメントM3が生ずる。
ここで、本実施形態では、予加工が施された中間成形品20を用いてプレス成形品10を成形することで、前述した第2のモーメントM2の発生を抑制し、プレス成形品10のスプリングバックを抑制することができる。
具体的に説明すると、本実施形態では、予加工が施された中間成形品20を用いてプレス成形品10を形成している。この中間成形品20の幅方向中間部には、予曲げ部20Fが形成されており、上記弛み部52に対応する中間成形品20の傾斜壁20Cがパンチ肩部66H側へ予め曲げられている。これにより、上記比較例と比べて、中間成形品20の傾斜壁20Cがパンチ肩部66Hに接近する。
このため、図14に示すように、ダイ62をパンチ66側へ押し込んで、プレス成形品10の縦壁10Cを成形するときには、傾斜壁20Cの上記弛み部52に対応する部分が傾斜壁20Cの表面側へ凸に湾曲変形することを抑制できる。これにより、離型後におけるプレス成形品10では、上述したb部において、第2のモーメントM2の発生が抑制される。
これにより、成形されるプレス成形品10のスプリングバックをさらに抑制できるので、縦壁10Cの口開き抑制効果をさらに高めることができる。ここで、縦壁10Cの口開きとは、プレス成形品10の正規形状200に対して縦壁10Cが内側又は外側へ倒れ込むことをいう。
このように、ダイ62側のパッドが無いシンプルな構成でプレス成形品10の寸法精度の確保が可能となる。これにより、プレス成形品10の両縦壁10Cの開き量を公差内に収めることが可能となる。
そして、ダイ62側のパッドを無くすことで、パンチ66及びダイ62の両者にパッドを設けた場合と比較して、金型構造の簡素化及び小型化を図ることができ、低コスト化を図ることができる。
また、本実施形態では、プレス装置60におけるパンチ66の頂部66Fに、パンチ肩部66Hからパンチ66の幅方向中央側へ向かうに従い凹むパンチ側傾斜面66Aが形成されている。また、ダイ62のダイ底部62Fには、パンチ側傾斜面66Aに対向して配置され且つパンチ側傾斜面66Aと平行を成すダイ側傾斜面62Iが形成されている。
このため、前述した第3工程において、中間成形品20の傾斜壁20Cを曲げ戻すことができる。これにより、中間成形品20に予曲げ部20Fを予め形成した場合でも、プレス成形品10の天板10Aを平坦状に形成することができる。
また、プレス装置60では、インナパッド68の幅H4と中間成形品20の天板20Aの幅W2とが一致している。このため、前述した第1工程において、中間成形品20をインナパッド68上に配置してセットしたときに、幅方向におけるインナパッド68に対する中間成形品20のずれを抑制することができる。これにより、中間成形品20の位置ずれを抑制した状態で中間成形品20をインナパッド68上に良好に配置してセットすることができる。
さらに、プレス装置60では、パンチ66のパンチ側傾斜面66Aがインナパッド68に隣接して配置されており、インナパッド68の幅H4と中間成形品20の天板20Aの幅W2とが一致している。
ダイ62のダイ底部62Fでは、パンチ側傾斜面66Aに対向して配置され且つパンチ側傾斜面66Aと平行を成すダイ側傾斜面62Iが形成されている。また、ダイ側傾斜面62I及びダイ底面62Gが隣接して配置されており、ダイ底面62Gの幅W4と中間成形品20の天板20Aの幅W2とが一致し、プレス方向で重なる。そして、幅方向におけるインナパッド68の肩部68Bの位置と、幅方向における中間成形品20の予曲げ部20Fの位置とが一致する。
このため、前述した第3工程において、プレス成形品10の天板10Aを成形するときには、中間成形品20における予曲げ部20Fが、天板20Aの裏面側へ曲げ戻された状態で加圧挟持される。これにより、プレス成形品10の天板10Aにおいて、予曲げ部20Fの曲げ癖を取り除くことができる。その結果、プレス成形品10の天板10Aを効果的に平坦化することができる。
ここで、中間成形品20の予曲角度θ2は、プレス条件に応じて設定することができる。このため、中間成形品20の天板20Aをインナパッド68上に配置した状態で、傾斜壁20Cがパンチ肩部66Hに接するように中間成形品20の予曲角度θ2を設定することができる。
この場合、前述した第1工程において、中間成形品20の天板20Aをインナパッド68上に配置した際に、傾斜壁20Cがパンチ肩部66Hに接するので、中間成形品20を安定的に支持することができる。
そして、傾斜壁20Cの弛み部52に対応する部分を、直線状に傾斜した状態に維持したまま、プレス成形品10を成形することができる。これにより、傾斜壁20Cの上記弛み部52に対応する部分における傾斜壁20Cの表面側への湾曲変形を有効に抑制することができ、上述したプレス成形品10のb部において(図13参照)、第2のモーメントM2の発生を効果的に抑制し、第2のモーメントM2による影響を有効に抑えることができる。
(成形試験)
プレス成形品10の成形試験1~成形試験8について、図15から図34を用いて説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛する。
この成形試験では、プレス装置60を用いて、図15に示した中間成形品20から図16に示したプレス成形品10を成形する。
中間成形品20は、図15に示したように、天板20Aの表面の延長線20Gと傾斜壁20Cの表面とが成す傾斜角度をθ3とする。そして、この傾斜角度θ3が、0°(予曲げ無し)の中間成形品20と、20°の中間成形品20と、30°の中間成形品20と、40°中間成形品20とを用意する。
これらの中間成形品20から成形するプレス成形品10は、図16に示したように、天板10Aと縦壁10Cとの成す角度θ1を、90°とする。また、一方の縦壁10Cの表面から他方の縦壁10Cの表面までの距離で示す天板10Aの幅W3を、90mmとする。天板10Aの表面からフランジ10Eの表面までの上下寸法Jを、60mmとする。そして、このプレス成形品10は、板厚は、1.4mmで、引張り強度が1180MPaの高強度鋼板である。
図17は、使用するプレス装置60のパンチ66の要部を示す拡大図であり、一方のパンチ壁面66Gから他方のパンチ壁面66Gまでのパンチ幅PH1は、87.2mmである。パンチ肩部66Hの曲率半径Rは、5mmであり、パンチ肩部66Hの曲面が終了したR止まりからインナパッド68までの離間距離PH2は、プレス方向に直交した方向において、5mmである。
パンチ側傾斜面66Aのインナパッド収容部66B側の縁からパンチ肩部66H側の縁までのプレス方向での高さ寸法PH3は、0.3mmである。そして、インナパッド68のインナパッド頂面68Aの幅H4は、70mmである。
(突出量H=5mm)
このような条件のプレス装置60において、パンチ肩部66Hからのインナパッド68の突出量Hを、5mmとして成形したプレス成形品10を、図18から図21に示す。
(第1成形試験)
図18は、傾斜角度θ3が、0°の予曲げの無い中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを半割形状で比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、+3.57mmであり、天板10Aが最も突出した部位が正規形状200より、3.57mm上側Aへ張り出していた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、-10.09mmであった。縦壁10Cの稜線部10D側の端は、正規形状200より、10.09mm幅方向W内側に位置する。
(第2成形試験)
図19は、傾斜角度θ3が、20°の中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを半割形状で比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、+0.27mmであり、天板10Aの最も突出した部位が正規形状200より、0.27mm上側Aへ張り出していた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、-1.75mmであり、縦壁10Cの稜線部10D側の端は正規形状200より、1.75mm幅方向W内側に位置していた。
(第3成形試験)
図20は、傾斜角度θ3が、30°の中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを半割形状で比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、-0.16mmであり、天板10Aの最も窪んだ部位が正規形状200より、0.16mm下側Bへ凹んでいた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、-0.14mmであり、縦壁10Cの稜線部10D側の端は正規形状200より、0.14mm幅方向W内側に位置していた。
(第4成形試験)
図21は、傾斜角度θ3が、40°の中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを半割形状で比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、-0.27mmであり、天板10Aの最も窪んだ部位が正規形状200より、0.27mm下側Bへ凹んでいた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、+0.35mmであり、縦壁10Cの稜線部10D側の端は正規形状200より、0.35mm幅方向W外側に位置していた。
図22から図25は、パンチ肩部66Hからのインナパッド68の突出量Hを、5mmとしたプレス装置60を用いてプレス成形品10を成形する際の途中過程を示すシミュレーション結果である。
図22及び図23は、傾斜角度θ3が、0°の予曲げの無い中間成形品20を用いてプレス成形品10を成形する第1成形試験での途中過程を示す。図22は、ダイ62を下死点より20mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示し、図23は、ダイ62を下死点より5mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示す。
ダイ62を下死点より20mm高い位置まで移動した際には、図22に示したように、ダイ62及びパンチ66によって両側部が曲げられた中間成形品20は、中央部が大きく上側Aに撓み、塑性変形する。
このため、図23に示したように、中間成形品20の中央部をダイ62のダイ底面62Gとパンチ66のインナパッド頂面68Aとでプレスして潰しても、離型後において、プレス成形品10の天板10Aに撓みが残留することが分かった。
一方、図24及び図25は、傾斜角度θ3が、30°の中間成形品20を用いてプレス成形品10を成形する第2成形試験での途中過程を示す。図24は、ダイ62を下死点より20mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示し、図25は、ダイ62を下死点より5mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示す。
ダイ62を下死点より20mm高い位置まで移動した際には、図24に示したように、ダイ62及びパンチ66によって両側部が曲げられた中間成形品20は、中央部が若干上側Aに撓むが、中央部で生じた撓みは、弾性変形の範囲内での撓みである。
このため、図25に示したように、中間成形品20の中央部をダイ62のダイ底面62Gとパンチ66のインナパッド頂面68Aとでプレスして潰せば、離型後において、プレス成形品10の天板10Aに残存する撓みを抑制できることが確認できた。
(突出量H=7mm)
前述した条件のプレス装置60において、パンチ肩部66Hからのインナパッド68の突出量Hを、7mmとして成形したプレス成形品10を図26から図29に示す。
(第5成形試験)
図26は、傾斜角度θ3が、0°の予曲げの無い中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、+4.58mmであり、天板10Aが最も突出した部位が正規形状200より、4.58mm上側Aへ張り出していた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、-12.41mmであった。縦壁10Cの稜線部10D側の端は、正規形状200より、12.41mm幅方向W内側に位置する。
(第6成形試験)
図27は、傾斜角度θ3が、20°の中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、+1.21mmであり、天板10Aの最も突出した部位が正規形状200より、1.21mm上側Aへ張り出していた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、-4.11mmであり、縦壁10Cの稜線部10D側の端は正規形状200より、4.11mm幅方向W内側に位置していた。
(第7成形試験)
図28は、傾斜角度θ3が、30°の中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とを示す。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、+0.24mmであり、天板10Aの最も突出した部位が正規形状200より、0.24mm上側Aへ張り出していた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、-0.41mmであり、縦壁10Cの稜線部10D側の端は正規形状200より、0.41mm幅方向W内側に位置していた。
(第8成形試験)
図29は、傾斜角度θ3が、40°の中間成形品20を用いて成形したプレス成形品10と正規形状200とを比較する図であり、プレス成形品10における厚み方向の中心線と正規形状200における厚み方向の中心線とが示されている。
このプレス成形品10の天板10Aにおいて、天板10Aと、天板10Aに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS1の最大値は、-0.23mmであり、天板10Aの最も窪んだ部位が正規形状200より、0.23mm下側Bへ凹んでいた。
このプレス成形品10の縦壁10Cと、縦壁10Cに相当する正規形状200の部位との誤差寸法GS2は、稜線部10D側の端において、+0.37mmであり、縦壁10Cの稜線部10D側の端は正規形状200より、0.37mm幅方向W外側に位置していた。
図30から図33は、パンチ肩部66Hからのインナパッド68の突出量Hを、7mmとしたプレス装置60を用いてプレス成形品10を成形する際の途中過程を示すシミュレーション結果である。
図30及び図31は、傾斜角度θ3が、0°の予曲げの無い中間成形品20を用いてプレス成形品10を成形する第5成形試験での途中過程を示す。図30は、ダイ62を下死点より20mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示し、図31は、ダイ62を下死点より7mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示す。
ダイ62を下死点より20mm高い位置まで移動した際には、図30に示したように、ダイ62及びパンチ66によって両側部が曲げられた中間成形品20は、中央部が大きく上側Aに撓み、塑性変形する。
このため、図31に示したように、中間成形品20の中央部をダイ62のダイ底面62Gとパンチ66のインナパッド頂面68Aとでプレスして潰しても、離型後において、プレス成形品10の天板10Aに撓みが残留することが分かった。
一方、図32及び図33は、傾斜角度θ3が、30°の中間成形品20を用いてプレス成形品10を成形する第7成形試験での途中過程を示す。図32は、ダイ62を下死点より20mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示し、図33は、ダイ62を下死点より7mm高い位置まで下側Bへ移動した状態を示す。
ダイ62を下死点より20mm高い位置まで移動した際には、図32に示したように、ダイ62及びパンチ66によって両側部が曲げられた中間成形品20は、中央部が若干上側Aに撓むが、中央部で生じた撓みは、弾性変形の範囲内での撓みである。
このため、図33に示したように、中間成形品20の中央部をダイ62のダイ底面62Gとパンチ66のインナパッド頂面68Aとでプレスして潰せば、離型後において、プレス成形品10の天板10Aに残存する撓みを抑制できることが確認できた。
図34は、各成形試験の結果を示すグラフであり、中間成形品20の予曲げ部20Fでの傾斜角度θ3とプレス成形品10の縦壁10C片側の口開き量との関係を示している。
このグラフにおいて、ドットで示される領域は、一方の縦壁10Cの正規形状に対する公差内の領域を示す。本実施形態では、一方の縦壁10Cの正規形状に対する公差が±0.5mmに設定されている。
また、このグラフにおいて、白抜きの丸印のプロットは、パンチ肩部66Hからのインナパッド68の突出量Hを、5mmとして成形したプレス成形品10のデータを示す。また、白抜きの四角印のプロットは、パンチ肩部66Hからのインナパッド68の突出量Hを、7mmとして成形したプレス成形品10のデータを示す。
このグラフから、突出量Hを5mm又は7mmとして成形したプレス成形品10の両者において、中間成形品20の予曲げ部20Fでの傾斜角度θ3を30°又は40°とすれば、プレス成形品10の縦壁10C片側の口開き量が公差内に収まることが分かる。
このように、中間成形品20のダイ62側のパッドが無い構造であっても、予曲げされた中間成形品20を用いるとともに、予曲げ部20Fでの傾斜角度θ3を適切に選択することで、縦壁10Cの開き量(縦壁10Cの内側及び外側への倒れ込み量)を公差内に収めることができる。
なお、本実施形態においては、中間成形品20の予曲げ部20Fでの傾斜角度θ3を、30°又は40°とした際に、プレス成形品10の縦壁10C片側の口開き量が公差内に収まる場合を例に挙げて説明した。しかし、公差によっては、予曲げ部20Fの傾斜角度θ3が30°未満、例えば20°の中間成形品20を用いることができる。
また、本実施形態のパンチ66にあっては、パンチ肩部66Hからパンチ66の幅方向中央側へ向かうに従って下側Bへ傾斜するパンチ側傾斜面66Aを、パンチ肩部66Hからインナパッド収容部66Bに亙って形成したが、これに限定されるものではない。例えば、以下の第2の実施形態に示すようにしても良い。
<第2の実施形態:プレス装置60の変形例>
図35は、第2の実施形態に係るプレス装置60のパンチ66の要部を示す図である。この第2の実施形態では、第1の実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛するとともに、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
本実施形態のパンチ66にあっては、パンチ側傾斜面66Aとインナパッド収容部66Bとの間に、プレス方向に対して直交する水平面66Cが形成されている。
この場合、中間成形品20の予曲げ部20Fが、パンチ側傾斜面66Aと水平面66Cの境界に合うように、中間成形品20の天板20Aの幅W2を設定することが望ましい。このように構成すれば、プレス成形時において、パンチ66の水平面66Cの箇所で中間成形品20の予曲げ部20Fを曲げ戻すことができる。
この中間成形品20の天板20Aの幅W2は、インナパッド頂面68Aの幅H4以上であって、パンチ66の頂部66Fの幅H1未満の範囲で設定することができる(図7参照)。
なお、水平面66Cが無い場合、中間成形品20の予曲げ部20Fが、パンチ側傾斜面66Aの縁、すなわちインナパッド68の端部に合うように、中間成形品20の天板20Aの幅W2を設定する。このように、インナパッド68の端部に中間成形品20の予曲げ部20Fが合うように中間成形品20の天板20Aの幅W2を設定すれば、インナパッド68への中間成形品20の位置決めが容易となる。
なお、本実施形態では、図4から図6に示したように、予成形ダイ34と中間成形品用パッド36とが分割されている中間成形用プレス装置30を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、以下の第3の実施形態に示すようにしても良い。
<第3の実施形態:中間成形用プレス装置30の変形例1>
図36及び図37は、第3の実施形態に係る中間成形用プレス装置30を示す図である。この第3の実施形態では、第1の実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛するとともに、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
すなわち、本実施形態に係る中間成形用プレス装置30では、第1の実施の形態の中間成形用プレス装置30の予成形ダイ34と中間成形品用パッド36とが一体化されている。
本実施形態では、図36に示したように、ブランク50を予成形ダイ34の幅方向両端部34G上に配置し、この状態から予成形パンチ32を、図37に示したように、予成形ダイ34に対して下側Bへ相対移動させる。これにより、前述した中間成形品20を成形することができる。
<第4の実施形態:中間成形用プレス装置30の変形例2>
図38は、第4の実施形態に係る中間成形用プレス装置30を示す図である。この第4の実施形態では、第1の実施形態と同一又は同等部分については、同符号を付して説明を割愛するとともに、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
この中間成形用プレス装置30では、中間成形用プレス装置30の予成形パンチ凹部底面32Aに予成形インナパッド収容部32H(以下凹部32Hとする)が形成されており、この凹部32Hに予成形インナパッド32Iが収容可能に設けられている。予成形インナパッド32Iの幅は、H2であり、第1から第3の実施形態の予成形パンチ凹部底面32Aの幅H2と同寸法である。
この予成形インナパッド32Iは、パッド加圧装置32Jによって予成形プレス方向へ移動される。パッド加圧装置32Jは、例えばガスクッション、油圧装置、ばね、電動駆動装置等を備える。予成形インナパッド32Iは、予成形プレス方向を横切るパッド頂面32Kを有する。
このような中間成形用プレス装置30であっても、前述した中間成形品20を成形することができる。