JP7102733B2 - イオン検出装置及び電界非対称波形イオン移動度分光分析システム - Google Patents

イオン検出装置及び電界非対称波形イオン移動度分光分析システム Download PDF

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Description

本発明は、イオン検出装置及び電界非対称波形イオン移動度分光分析システムに関する。
電界非対称波形イオン移動度分光分析(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry:FAIMS)システムによる化学物質の検出及び分析について種々の検討が行われている。FAIMSシステムは、非対称の交流信号が印加される1対の電極を備えたイオンフィルタを有しており、イオン化した化学物質をイオンフィルタに流すと、その移動度の差によって選別される。イオンフィルタを通過した化学物質をイオン検出電極に衝突させ、イオン検出電極で発生した電流を検出することで、化学物質を特定できる。
従来、FAIMSシステムに関し、イオン化した化学物質の流れを制御するための構造を備えたイオン移動度分光計が提案されている。
しかしながら、従来のFAIMSシステムでは十分な検出感度を得ることができない。
本発明は、優れた検出感度を得ることができるイオン検出装置及びFAIMSシステムを提供することを目的とする。
イオン検出装置の一態様は、互いに対向する第1の電極及び第2の電極を備えたイオンフィルタと、前記イオンフィルタを通過した通過イオンが衝突するイオン検出電極と、前記イオン検出電極を前記第1の電極及び前記第2の電極から電気的に絶縁する固体の絶縁材と、を有し、第1の支持層、第1の絶縁層及び第1の活性層を備えた第1のSOI基板と、第2の支持層、第2の絶縁層及び第2の活性層を備え、前記第2の支持層が前記第1の支持層に接する第2のSOI基板と、を有し、前記イオン検出電極は、前記第1の活性層に形成され、前記絶縁材は、前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層に形成され、前記第1の電極及び前記第2の電極は、前記第2の活性層に形成されていることを特徴とする。
イオン検出装置の他の一態様は、互いに対向する第1の電極及び第2の電極を備えたイオンフィルタと、前記イオンフィルタを通過した通過イオンが衝突するイオン検出電極と、前記イオン検出電極を前記第1の電極及び前記第2の電極から電気的に絶縁する固体の絶縁材と、を有し、第1の支持層、第1の絶縁層及び第1の活性層を備えた第1のSOI基板と、第2の支持層、第2の絶縁層及び第2の活性層を備え、前記第2の活性層が前記第1の支持層に接する第2のSOI基板と、を有し、前記イオン検出電極は、前記第1の活性層に形成され、前記絶縁材は、前記第2の絶縁層に形成され、前記第1の電極及び前記第2の電極は、前記第2の活性層に形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、優れた検出感度を得ることができる。
第1の実施形態に係るイオン検出装置を示す模式図である。 イオンの移動度の電界強度依存性を示す図である。 第1の実施形態に係るイオン検出装置におけるイオンの移動の軌跡を示す図である。 イオンフィルタで発生する電界波形の一例を示す図である。 第2の実施形態に係るイオン検出装置を示す模式図である。 第2の実施形態に係るイオン検出装置の作用を示す断面図である。 第3の実施形態に係るイオン検出装置を示す模式図である。 第3の実施形態に係るイオン検出装置の使用方法を示す斜視図である。 第4の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図及び上面図である。 第4の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。 第4の実施形態に係るイオン検出装置を示す断面図である。 第4の実施形態に係るイオン検出装置の使用方法を示す斜視図である。 第4の実施形態に係るイオン検出装置の製造方法を工程順に示す断面図である。 第5の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図及び上面図である。 第5の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。 第5の実施形態に係るイオン検出装置を示す断面図である。 第5の実施形態に係るイオン検出装置の使用方法を示す斜視図である。 第4の実施形態の変形例を示す斜視図である。 第6の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図及び断面図である。 第6の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。 第7の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図及び断面図である。 第7の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。 第8の実施形態に係るFAIMSシステムの構成を示すブロック図である。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、従来のFAIMSシステムに用いられているイオン検出装置においては、イオンフィルタとイオン検出電極との間にセンチメートルオーダーの隙間が存在しており、この隙間が検出感度に影響を及ぼしていることが判明した。一般に、イオンは拡散及びクーロン斥力により、空間的に広がろうとする。このため、イオンフィルタからイオン検出電極までの距離が長いほどイオンのロスが増加し、検出感度が低下してしまう。イオンフィルタとイオン検出電極との距離を短縮すればイオンのロスを低減することが可能であるが、距離が短いほどイオンフィルタとイオン検出電極との間で放電が生じやすい。そこで、本発明者らは、放電を回避しながらイオンのロスを低減すべく、更に鋭意検討を行った。この結果、イオンフィルタ及びイオン検出電極を互いから電気的に絶縁する固体の絶縁材を設けることで、イオンフィルタとイオン検出電極との距離を短縮しても放電を回避することが可能であることが見出された。更に、固体の絶縁材はイオンフィルタ及びイオン検出電極の位置決め部材として機能し、構造の安定性の向上にも寄与することが見出された。そして、本発明者らは下記の種々の実施形態に想到した。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るイオン検出装置を示す模式図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係るイオン検出装置100は、互いに対向する第1の電極111及び第2の電極112を備えたイオンフィルタ110と、イオンフィルタ110を通過した通過イオンが衝突するイオン検出電極120と、イオン検出電極120を第1の電極111及び第2の電極112から電気的に絶縁する固体の絶縁材130とを有する。
ここで、イオン検出装置100の基本原理について説明する。図2は、イオンの移動度の電界強度依存性を示す図である。図3は、イオン検出装置100におけるイオンの移動の軌跡を示す図である。図4は、イオンフィルタで発生する電界波形の一例を示す図である。イオン検出装置100は、イオン検出電極120にイオン電流検出回路を接続して用いられる。イオン検出電極120に衝突したイオンの量に応じて電流が発生し、この電流がイオン電流検出回路により検出される。なお、ここでは、XYZ3次元直交座標系を用い、被測定分子の進行方向を+Z方向とし、第2の電極112から第1の電極111が見える方向を+Y方向とする。
イオンは、電界Eの環境下では次の(1)式で示される移動速度Vで移動する。ここで、Kは、該イオンの移動度である。
V=K×E ・・・ (1)
ところで、イオンの移動度には電界強度依存性がある。そして、この電界強度依存性は、イオンの種類によって異なっている。図2には、一例として、種類が異なる3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)における移動度の電界強度依存性が示されている。なお、図2では、分かりやすくするため、各イオンの移動度が電界強度0で等しくなるように正規化されている。
3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)の移動度は、電界強度が9kV/cm以下の低電界強度ではほぼ変化なしである。電界強度が約10kV/cmから増すにつれてイオンの種類固有の特性が移動度に現れる。イオン11の移動度は、電界強度が増加するに従って大きく増加し、正の高電界(Emax)で最大となる。イオン12の移動度は、イオン11よりも緩やかに増加する。イオン13の移動度は、緩やかに減少する。このように三者三様の特性を示している。イオンフィルタ110は、低電界強度での移動度と高電界強度での移動度との違いを利用してイオンの選別を行う。
図3には、イオンフィルタ110の第1の電極111と第2の電極112との間における3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)の移動の軌跡が示されている。なお、ここでは、分かりやすくするため、便宜的に、第1の電極111及び第2の電極112を導電体でできた平行平板としている。
第1の電極111と第2の電極112との間に発生する電界の波形を非対称電界波形とすることによって、任意のイオン(図3では、イオン12)のみをイオン検出電極120に到達させることができる。
図4には、第1の電極111と第2の電極112との間に発生させる電界波形の一例が示されている。この電界波形は、正の高電界(Emax)と負の低電界(Emin)を交互に繰り返している。そして、高電界の期間(t1)は低電界の期間(t2)よりも短く、t1とt2との比は1:3~1:5である。このように電界波形は、上下に関して非対称である。この非対称電界波形は、時間平均電界が零であり、次の(2)式が成り立つように設定されている。
|Emax|×t1=|Emin|×t2 ・・・ (2)
すなわち、図4における領域21の面積と領域22の面積が一致するように設定されている。
なお、以下では、次の(3)式に示されるように、|Emax|×t1の値、及び|Emin|×t2の値をβとする。
|Emax|×t1=|Emin|×t2=β ・・・ (3)
ところで、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度(Vup)は、次の(4)式で示される。ここで、K(Emax)は、高電界(Emax)のときのイオンの移動度である。
Vup=K(Emax)×|Emax| ・・・ (4)
例えば、|Emax|が約10kV/cm以上の場合、3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)では、イオン毎に移動度が異なるので、3つのイオンの移動速度(Vup)は三者三様に異なる。すなわち、図3に示されるように、高電界の期間(t1)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜は互いに異なっている。
そして、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位(yup)は、次の(5)式で示される。
yup=Vup×t1 ・・・ (5)
一方、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度(Vdown)は、次の(6)式で示される。ここで、K(Emin)は、低電界(Emin)のときのイオンの移動度である。
Vdown=-K(Emin)×|Emin| ・・・ (6)
例えば、|Emin|が約5kV/cm以下の場合、3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)では、移動度がほぼ同一であるので、3つのイオンの移動速度(Vdown)はほぼ同一である。すなわち、図3に示されるように、低電界の期間(t2)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜はほぼ同じである。
そして、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位(ydown)は、次の(7)式で示される。
ydown=Vdown×t2 ・・・ (7)
非対称電界波形の1周期(T)内では、イオンは、+Z方向に移動しつつ、期間(t1)の間に+Y方向に移動し、期間(t2)の間に-Y方向に移動する。
そこで、図3に示されるように、ジグザグ運動を繰り返しながら第1の電極111に向かうもの(イオン11)と、ジグザグ運動を繰り返しながら第2の電極112に向かうもの(イオン13)と、+Y方向の変位と-Y方向の変位とが釣り合い、イオン検出電極120に向かうもの(イオン12)とに分類される。
ところで、非対称電界波形における1周期(T)での、イオンのY軸方向に関する平均変位(ΔyRF)は、次の(8)式で表される。
ΔyRF=yup+ydown
=K(Emax)×|Emax|×t1-K(Emin)×|Emin|×t2 ・・・ (8)
そして、上記(8)式は、上記(3)式を用いて次の(9)式のように表すことができる。
ΔyRF=β{K(Emax)-K(min)} ・・・ (9)
ここで、K(Emax)-K(min)をΔKとおくと、上記(9)式は次の(10)式のように表される。
ΔyRF=βΔK ・・・ (10)
βは第1の電極111と第2の電極112との間に印加される非対称電界で決まる定数である。そこで、非対称電界波形の1周期(T)あたりのイオンのY軸方向に関する変位は、低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度の差分であるΔKに依存する。
キャリアガスだけがイオンをZ軸方向に移送させると仮定すると、イオンが第1の電極111と第2の電極112との間に滞在しているときの、該イオンのY軸方向に関する変位(Y)は、次の(11)式で示される。ここで、tresは、イオンが第1の電極111と第2の電極112との間に滞在している平均時間(平均イオン滞在時間)である。
Figure 0007102733000001
平均イオン滞在時間tresは、次の(12)式で表される。ここで、Aはイオンフィルタ110におけるイオンパスの断面積、LはZ軸方向に関する電極の長さ(電極深さ)、Qはキャリアガスの容積流量である。Vはイオンフィルタ110の容積(=A×L)である。
Figure 0007102733000002
上記(11)式は、上記(12)式及び上記(3)を用いて、次の(13)式のように表すことができる。ここで、Dは非対称電界波形のデューティであり、D=t1/Tである。
Figure 0007102733000003
非対称電界波形における高電界(Emax)、イオンフィルタ110におけるイオンパスの容積(V)、非対称電界波形のデューティ(D)、及びキャリアガスの容積流量(Q)について、すべてのイオン種に対して同一の値を用いると、上記(13)式から、変位(Y)は、イオン種固有の低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度との差分ΔKに比例することがわかる。
なお、図3ではイオン12の変位(Y)が最小であり、イオン12のみがイオン検出電極120に到達しているが、デューティ(D)を変化させることによってイオン12とは異なるΔKを有するイオンをイオン検出電極120に到達させることができる。さらに、デューティ(D)を小刻みに変化させていくことで、ΔKが異なる様々なイオンの有無や量を検出することができる。
また、イオン検出装置100において、ΔKが異なる様々なイオン種を検出する方法として、非対称電界波形に低強度のDC電界を重畳する方法がある。この方法によると、期間(t1)及び期間(t2)でのY軸方向に関する変位量を変化させることができる。そこで、第1の電極111又は第2の電極112に接触せずにイオン検出電極120に到達することができるイオン種を連続的に変えることができる。なお、非対称電界波形に重畳するDC電界は補償電圧(compensation voltages:CV)とよばれている。この方法では、補償電圧を掃引してΔKが異なる様々なイオン種の有無や量を検出する。
ところで、イオン検出電極120に到達する前に第1の電極111又は第2の電極112に接触したイオンは、中和されてイオンでなくなり検出されない。
イオン検出装置100によれば、イオンフィルタ110とイオン検出電極120との間に固体の絶縁材130が設けられているので、イオンフィルタ110とイオン検出電極120との距離を短くしても放電が生じにくい。従って、放電を回避しながら、イオンフィルタ110とイオン検出電極120とを互いに近づけてイオンのロスを低減することができる。このため、高い検出感度を得ることができる。更に、固体の絶縁材130はイオンフィルタ110及びイオン検出電極120の位置決め部材としても機能するため、構造の安定性を向上することができる。また、固体の絶縁材130の特性は気温、湿度及び気圧等の雰囲気の影響を受けにくいため、イオンフィルタ110とイオン検出電極120との間に空気のみが存在する構造と比べて本実施形態は安定した動作が可能である。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図5は、本発明の第2の実施形態に係るイオン検出装置を示す模式図である。
図5に示すように、第2の実施形態に係るイオン検出装置200は、第1の実施形態におけるイオン検出電極120に代えて、イオンフィルタ110を通過する通過イオンの進行方向と平行に延びる開口部221が設けられたイオン検出電極220を含む。他の構成は第1の実施形態と同様である。通過イオンの進行方向は、イオンフィルタ110内のドリフトガスの進行方向と一致する。
イオン検出装置200によってもイオン検出装置100と同様の効果が得られる。更に、イオン検出装置200では、イオン検出電極220に開口部221が設けられているため、図6に示すように、イオンフィルタ110を通過してきたドリフトガスがイオン検出電極220を通過しやすい。従って、第1の実施形態と比較して、ドリフトガスの流れの乱れに起因するイオンのロスが低減される。
イオン検出電極220が多孔質の導電材から構成されていてもよく、機械加工等により導電性の板材に開口部221が形成されていてもよい。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図7は、本発明の第3の実施形態に係るイオン検出装置を示す模式図である。
図7に示すように、第3の実施形態に係るイオン検出装置300は、第1の実施形態におけるイオン検出電極120に代えて、互いから電気的に絶縁された第3の電極323及び第4の電極324を有するイオン検出電極320を含む。第3の電極323及び第4の電極324は、例えば、第1の電極及び第2の電極と同様に、互いに対向している。第3の電極323及び第4の電極324は、通過イオンの進行方向と平行な板形状を有しており、第3の電極323と第4の電極324との間には、イオンフィルタ110内のイオンパスと繋がる空間が存在する。他の構成は第1の実施形態と同様である。通過イオンの進行方向は、イオンフィルタ110内のドリフトガスの進行方向と一致する。
ここで、イオン検出装置300の使用方法について説明する。図8は、イオン検出装置300の使用方法を示す斜視図である。第3の電極323又は第4の電極324の一方にイオン電流検出回路が接続され、他方に直流電圧が印加される。例えば、図8に示すように、第3の電極323にイオン電流検出回路が接続され、第4の電極324に直流電圧が印加される。この場合、直流電圧の極性に応じたイオンが第3の電極323に衝突し、この衝突したイオンの量に応じた電流がイオン電流検出回路により検出される。他の内容は第1の実施形態と同様である。
イオン検出装置300によってもイオン検出装置200と同様の効果が得られる。更に、イオン検出装置300によれば、ドリフトガスの乱れをより一層抑制できるとともに、イオン検出電極320への直流電圧の印加によりイオンのイオン検出電極320への衝突頻度を向上することができる。従って、より高効率での検出が可能となる。また、直流電圧の極性に応じて検出するイオンを選択することもできる。
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。図9(a)及び(b)は、それぞれ本発明の第4の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図、上面図である。図10は、本発明の第4の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。図11(a)、(b)及び(c)は、それぞれ図9(b)中のI-I線、II-II線、III-III線に沿った断面図である。
第4の実施形態に係るイオン検出装置400は、図9~図11に示すように、SOI(Silicon On Insulator)基板450を有する。SOI基板450は、例えば、導電性を具備したSiの支持層460、支持層460上のSiOの絶縁層470、及び絶縁層470上の導電性を具備したSiの活性層480を含む。支持層460の中央部に複数の矩形の開口部461が並んで形成され、絶縁層470の中央部に平面視で蛇行する開口部471が形成され、活性層480の中央部に平面視で蛇行する開口部481が形成されている。言い換えると、絶縁層470及び活性層480は、いずれも、その中央部に互いに入れ違いになった櫛歯状のパターンを有する。開口部471及び開口部481は開口部461を横切るようにして蛇行している。支持層460はイオン検出電極の一例であり、絶縁層470は絶縁材の一例であり、活性層480はイオンフィルタの一例である。活性層480に開口部481に繋がる2つの溝482が形成されており、開口部481及び溝482により活性層480が2分割されている。分割された活性層480の一方が第1の電極の一例であり、他方が第2の電極の一例である。
ここで、イオン検出装置400の使用方法について説明する。図12は、イオン検出装置400の使用方法を示す斜視図である。図12に示すように、例えば、第2の電極412の電位を接地電位等に固定し、第1の電極411に非対称の交流信号源を接続する。また、支持層460にイオン電流検出回路を接続する。そして、イオンを含むドリフトガスを活性層480の上方から開口部481に通流させる。この結果、開口部481を通過する間にイオンが分類され、支持層460に衝突したイオンの量に応じて電流が発生し、この電流がイオン電流検出回路により検出される。
次に、イオン検出装置400の製造方法について説明する。図13は、イオン検出装置400の製造方法を工程順に示す断面図である。図13には、図11(a)と同様、図9(b)のI-I線に沿った断面を示す。
まず、図13(a)に示すように、支持層460、絶縁層470及び活性層480を含むSOI基板を準備する。次いで、図13(b)に示すように、活性層480をエッチングし、開口部481(第1の開口部)を形成する。次いで、図13(c)に示すように、支持層460をエッチングし、開口部461(第2の開口部)を形成する。次いで、図13(d)に示すように、絶縁層470をエッチングし、開口部471(第3の開口部)を形成する。このようにして、イオン検出装置400を製造することができる。
この方法によれば、小型のイオン検出装置を容易かつ高精度に製造することができる。すなわち、イオンフィルタ、絶縁材及びイオン検出電極を個別に準備し、これらを組み合わせる方法では、これらを小型化するほど組み合わせ時の位置合わせ精度を高く維持することが困難となる。特に、イオンフィルタとイオン検出電極との間の距離を狭めるべく、絶縁材を薄くするほど、絶縁材のハンドリング性が低下し、位置合わせが困難になりやすい。一方、この方法では、一般的な半導体装置等の製造方法で採用されているSOI基板のエッチングを行えばよく、例えば絶縁層470を単独でハンドリングする必要がなく、高精度での位置合わせが可能である。
なお、開口部の形成順序は上記のものに限定されない。例えば、開口部461を形成した後に開口部481を形成してもよい。
第4の実施形態において、絶縁層470のパターンが活性層480のパターンに倣うのではなく、支持層460のパターンに倣っていてもよい。
イオン検出装置400の寸法は限定されない。例えば、SOI基板450の厚さは0.2mm~0.4mm、SOI基板450の平面形状は一辺の長さが3.0mm~7.0mmの矩形、開口部481が形成された領域は一辺の長さが2.0mm~3.0mmの矩形領域、開口部481の幅は0.030mm~0.040mmである。
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。図14(a)及び(b)は、それぞれ本発明の第5の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図、上面図である。図15は、本発明の第5の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。図16(a)及び(b)は、それぞれ図14(b)中のI-I線、II-II線に沿った断面図である。
図14~図16に示すように、第5の実施形態に係るイオン検出装置500は、SOI基板550を有し、SOI基板550は、第4の実施形態における支持層460に代えて、導電性を具備したSiの支持層560を含む。支持層560の中央部に平面視で蛇行する開口部561が形成されている。言い換えると、支持層560は、その中央部に互いに入れ違いになった櫛歯状のパターンを有する。開口部561は開口部471及び開口部481と倣うように形成されている。つまり、開口部561、開口部471及び開口部481は、平面視で重なり合っている。支持層560はイオン検出電極の一例である。支持層560に開口部561に繋がる2つの溝562が形成されており、開口部561及び溝562により支持層560が2分割されている。分割された支持層560の一方が第3の電極523として用いられ、他方が第4の電極524として用いられる。
ここで、イオン検出装置500の使用方法について説明する。図17は、イオン検出装置500の使用方法を示す斜視図である。第3の電極523又は第4の電極524の一方に直流電圧が印加され、他方にイオン電流検出回路が接続される。例えば、図17に示すように、第3の電極523に直流電圧(バイアス電圧)が印加され、第4の電極524にイオン電流検出回路が接続される。この場合、直流電圧の極性に応じたイオンが第4の電極524に衝突し、この衝突したイオンの量に応じた電流がイオン電流検出回路により検出される。他の内容は第4の実施形態と同様である。
イオン検出装置500によってもイオン検出装置400と同様の効果が得られる。更に、イオン検出装置500によれば、ドリフトガスの乱れをより一層抑制できるとともに、イオン検出電極として機能する支持層560への直流電圧(バイアス)の印加によりイオンを支持層560に衝突させやすくできる。従って、イオンの検出効率をより向上することができる。また、直流電圧の極性に応じて検出するイオンを選択することもできる。
平面視で、溝562の位置は溝482の位置からずれていることが好ましい。これらが重なり合っている場合、平面視で重なり合った場所には絶縁層470のみが存在することになるため、イオン検出装置500の強度が低くなるおそれがあるからである。
イオン検出装置500を製造するには、イオン検出装置400の製造方法と同様の方法において、支持層560のエッチングパターンを変更すればよい。
なお、第4の実施形態において、開口部461が互いに繋がり、開口部561のように平面視で蛇行していてもよい。更に、図18に示すように、平面視で蛇行する開口部461に溝562と同様の溝462が形成され、2分割された支持層463が支持層460に代えて用いられてもよい。この場合、使用時には、2分割された支持層463の両方にイオン電流検出回路が接続される。
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。図19(a)及び(b)は、それぞれ本発明の第6の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図、断面図である。図20は、本発明の第6の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。図19(b)には、図19(a)中の二点鎖線で示す断面を示す。
第6の実施形態に係るイオン検出装置600は、図19及び図20に示すように、2つのSOI基板650を有する。SOI基板650は、例えばSiの支持層660、支持層660上のSiOの絶縁層670、及び絶縁層670上の導電性を具備したSiの活性層680を含む。活性層680の中央部に平面視で蛇行する開口部681が形成されている。言い換えると、活性層680は、その中央部に互いに入れ違いになった櫛歯状のパターンを有する。支持層660の中央部には、平面視で、開口部681を取り囲むように開口部661が形成されている。絶縁層670の中央部には、開口部661に倣う開口部671が形成されている。活性層680に開口部681に繋がる2つの溝682が形成されており、開口部681及び溝682により活性層680が2分割されている。
2つのSOI基板650は、互いに支持層660同士が向かい合うようにして貼り合わされており、両SOI基板650の開口部681同士が平面視で重なり合っている。両SOI基板650の開口部661同士及び開口部671同士も平面視で重なり合っている。2つの活性層680のうちの一方がイオン検出電極の一例であり、他方がイオンフィルタの一例であり、絶縁層670及び支持層660の積層体が絶縁材の一例である。イオンフィルタに相当する分割された活性層680の一方が第1の電極の一例であり、他方が第2の電極の一例である。イオン検出電極に相当する分割された活性層680の一方が第3の電極の一例であり、他方が第4の電極の一例である。
イオン検出装置600によっても第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
イオン検出装置600を製造する際には、SOIウェハを準備し、エッチングにより開口部681、開口部661及び開口部671を形成し、SOIウェハの個片化を行うことにより、複数のSOI基板650を作製する。次いで、2つのSOI基板650を貼り合わせることにより、イオン検出装置600を得る。
このように、イオン検出装置600の製造に当たっては、支持層660及び絶縁層670に開口部681ほどの微細な加工を行う必要がない。このため、第5の実施形態と比較して製造しやすい。一般に、パターンが疎であるほど高いエッチングレートが得やすい。このため、開口部661を短時間で形成することができる。
開口部681の形成後で開口部661を形成する前に研磨等により支持層660を薄化することが好ましい。両活性層680の間の距離を縮めてイオンのロスをより低減するためである。
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態について説明する。図21(a)及び(b)は、それぞれ本発明の第7の実施形態に係るイオン検出装置を示す斜視図、断面図である。図22は、本発明の第7の実施形態に係るイオン検出装置を示す分解斜視図である。図21(b)には、図21(a)中の二点鎖線で示す断面を示す。
第7の実施形態に係るイオン検出装置700は、図21及び図22に示すように、2つのSOI基板650を有する。SOI基板650の構成は第6の実施形態と同様である。イオン検出装置700においては、一方のSOI基板650の支持層660が他方のSOI基板650の活性層680と向かい合うようにして、2つのSOI基板650が貼り合わされており、両SOI基板650の開口部681同士が平面視で重なり合っている。両SOI基板650の開口部661同士及び開口部671同士も平面視で重なり合っている。
絶縁材は、その全体が絶縁体から構成されている必要はなく、イオンフィルタとイオン検出電極とを互いから電気的に絶縁できればよい。
絶縁材の材料は特に限定されないが、絶縁材は100kV/mm以上の絶縁破壊強度を有することが好ましく、200kV/mm以上の絶縁破壊強度を有することがより好ましい。絶縁材を薄くしてもイオンフィルタとイオン検出電極との間の絶縁破壊を生じにくくするためである。種々の材料の絶縁破壊強度を表1に示す。絶縁材の材料としては、SiO、Si及びAlが特に好ましい。
Figure 0007102733000004
(第8の実施形態)
次に、本発明の第8の実施形態について説明する。図23は、本発明の第8の実施形態に係る電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)システムの構成を示すブロック図である。
第8の実施形態に係るFAIMSシステム800は、イオン検出装置802と、イオン検出装置802の前段に設けられたイオン発生装置801と、イオン検出装置802のイオン検出電極で発生した電流を検出するイオン電流検出回路803と、を含む。イオン発生装置801は、被測定分子をイオン化させる。イオン検出装置802は、第1~第7の実施形態に係るイオン検出装置のいずれかである。
FAIMSシステム800には、第1~第7の実施形態に係るイオン検出装置のいずれかが含まれるため、優れた検出感度を得ることができる。
100、200、300、400、500、600、700 イオン検出装置
110 イオンフィルタ
111 第1の電極
112 第2の電極
120、220 イオン検出電極
130 絶縁材
221 開口部
323、523 第3の電極
324、524 第4の電極
450、550、650 SOI基板
460、560、660 支持層
461、561、661 開口部
470、670 絶縁層
471、671 開口部
480、680 活性層
481、681 開口部
800 FAIMSシステム
801 イオン発生装置
802 イオン検出装置
803 イオン電流検出回路
特許第5221954号公報
"HIGH SENSITIVITY FIELD ASYMMETRIC ION MOBILITY SPECTROMETER", Mario Andres, (2016), EPFL, PhD Thesis "Improving FAIMS Sensitivity Using a Planar Geometry with Slit Interfaces" Ridha Mabrouki, et al., J. Am. So. Mass Spectrom., (2009), 20, 1768 "Review on Ion Mobility Spectrometry. Part 1: current instrumentation" R. Cumeras et al., Analyst, 2015, 140, 1376-1390

Claims (8)

  1. 互いに対向する第1の電極及び第2の電極を備えたイオンフィルタと、
    前記イオンフィルタを通過した通過イオンが衝突するイオン検出電極と、
    前記イオン検出電極を前記第1の電極及び前記第2の電極から電気的に絶縁する固体の絶縁材と、
    を有し、
    第1の支持層、第1の絶縁層及び第1の活性層を備えた第1のSOI基板と、
    第2の支持層、第2の絶縁層及び第2の活性層を備え、前記第2の支持層が前記第1の支持層に接する第2のSOI基板と、
    を有し、
    前記イオン検出電極は、前記第1の活性層に形成され、
    前記絶縁材は、前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層に形成され、
    前記第1の電極及び前記第2の電極は、前記第2の活性層に形成されていることを特徴とするイオン検出装置。
  2. 互いに対向する第1の電極及び第2の電極を備えたイオンフィルタと、
    前記イオンフィルタを通過した通過イオンが衝突するイオン検出電極と、
    前記イオン検出電極を前記第1の電極及び前記第2の電極から電気的に絶縁する固体の絶縁材と、
    を有し、
    第1の支持層、第1の絶縁層及び第1の活性層を備えた第1のSOI基板と、
    第2の支持層、第2の絶縁層及び第2の活性層を備え、前記第2の活性層が前記第1の支持層に接する第2のSOI基板と、
    を有し、
    前記イオン検出電極は、前記第1の活性層に形成され、
    前記絶縁材は、前記第2の絶縁層に形成され、
    前記第1の電極及び前記第2の電極は、前記第2の活性層に形成されていることを特徴とするイオン検出装置。
  3. 前記絶縁材に、前記通過イオンの進行方向と平行に延びる開口部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン検出装置。
  4. 前記絶縁材は100kV/mm以上の絶縁破壊強度を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン検出装置。
  5. 前記絶縁材は、SiO、Si又はAlの膜を有することを特徴とする請求項4に記載のイオン検出装置。
  6. 前記イオン検出電極は、導電性を備えた第1のSi層を有し、
    前記第1の電極及び前記第2の電極は、導電性を備えた第2のSi層を有し、
    前記絶縁材は、SiO膜を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のイオン検出装置。
  7. 前記イオン検出電極は、互いから電気的に絶縁された第3の電極及び第4の電極を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のイオン検出装置。
  8. 請求項1乃至7のいずれか1項に記載のイオン検出装置と、
    前記イオン検出装置の前段に設けられたイオン発生部と、
    前記イオン検出電極で発生した電流を検出するイオン電流検出部と、
    を有することを特徴とする電界非対称波形イオン移動度分光分析システム。
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