以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態は、例示であり、本開示による発光装置の製造方法および切断装置用治具は、以下の実施形態に限られない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、ステップ、そのステップの順序などは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。
図面が示す構成要素の寸法、形状等は、わかり易さのために誇張されている場合があり、実際の発光装置、および、切断装置等の製造装置における、寸法、形状および構成要素間の大小関係を反映していない場合がある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
以下の説明において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。以下の説明では、特定の方向または位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」およびそれらの用語を含む別の用語)を用いる場合がある。しかしながら、それらの用語は、参照した図面における相対的な方向または位置をわかり易さのために用いているに過ぎない。参照した図面における「上」、「下」等の用語による相対的な方向または位置の関係が同一であれば、本開示以外の図面、実際の製品、製造装置等において、参照した図面と同一の配置でなくてもよい。本開示において「平行」とは、特に他の言及がない限り、2つの直線、辺、面等が0°から±5°程度の範囲にある場合を含む。また、本開示において「垂直」または「直交」とは、特に他の言及がない限り、2つの直線、辺、面等が90°から±5°程度の範囲にある場合を含む。
発光装置の製造方法の実施形態の説明に先立ち、まず、切断の対象である被加工物、および、本開示の実施形態による切断装置用治具の詳細を説明する。以下、本明細書では、被加工物を包括的に単に「ワーク」と呼ぶことがある。
[複合基板200]
図1は、切断の対象となるワークの一例を示す。なお、図1には、説明の便宜のために、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を示す矢印があわせて図示されている。本開示の他の図面においてもこれらの方向を示す矢印を図示することがある。なお、これらの矢印は、あくまでも互いに直交する3つの方向を示すために用いられており、空間に固定された特定の方向を示しているわけではない。
図1は、ワークとして複合基板200を例示している。複合基板200は、概ね長方形状の上面視形状を有する。複合基板200は、概略的には、それぞれが、後述の個片化の工程により製品となるべき複数の区画を含む1以上のデバイス領域RDと、デバイス領域RDを取り囲む枠領域RFとを有する。図1に例示する構成において、複合基板200は、図のX方向に沿って配置された4つのデバイス領域RDを含む。言うまでもないが、複合基板200に含まれるデバイス領域RDの数および配置は、図1に示す例に限定されず任意である。ここでは、複合基板200の長方形状の外形の長手方向および短手方向は、X方向およびY方向にそれぞれ一致している。
図2は、複合基板200を表側から見た外観を模式的に示す。図2に例示する構成において、複合基板200のデバイス領域RDの各々は、複合基板200の表面200a側に位置する樹脂部280と、導電性を有するリードフレーム290の一部とを含む。樹脂部280は、光反射性樹脂枠282と、透光部材284とを有する。リードフレーム290は、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、鉄、ニッケルもしくはこれらの合金、または、燐青銅、鉄入り銅等の金属を含む板状部材であり、その表面に、ニッケル、パラジウム、金、銀等のめっき層を有し得る。リードフレーム290は、透光部材284および光反射性樹脂枠282の支持体であり、後述するように、複数の開口部を有する。
図2に模式的に示すように、複数の透光部材284は、デバイス領域RDにおいて複数の行および列に配列され、光反射性樹脂枠282は、これら透光部材284を互いに分離している。後述するように、光反射性樹脂枠282は、二次元に配列された複数の凹部を有し、各凹部の内部に1つまたは2以上の発光素子が配置される。複数の透光部材284の各々は、これらの凹部内に位置する1つまたは2以上の発光素子を覆うように凹部内に形成される。
すなわち、複合基板200のデバイス領域RDは、それぞれが少なくとも1つの発光素子を含む複数の単位発光構造の繰り返し構造を有するといえる。発光素子から出射された光は、透光部材284を介して外部に取り出される。ここで、本明細書では、発光素子を含む複合基板の主面のうち、光が取り出される側の面を「表面」と呼び、その面とは反対側の面を「裏面」と呼ぶ。ただし、これらの呼称は、説明の便宜のために用いているに過ぎない。
図3は、複合基板200のデバイス領域RDの一部を取り出して模式的に示す。図3では、複数の行および列に配列された複数の単位発光構造のうち、2行2列に配列された4つの単位発光構造ULを拡大して示している。後述するように、ダイシング等によって複合基板200を単位発光構造ULの境界の位置で切断することにより、各々が発光素子を含む複数の発光装置が得られる。図3中の破線DLは、切断の位置を示している。なお、以下の実施形態の説明においては、切断の工程の前後の構造に対して同じ「複合基板」の用語を用いることがある。
光反射性樹脂枠282には、単位発光構造ULごとに凹部282dが設けられる。凹部282dの底面に、上述のリードフレーム290の一部である第1リード部分291および第2リード部分292の上面が位置する。図3に模式的に示すように、凹部282dの底面に発光素子210が配置される。発光素子210は、例えばLEDのチップである。発光素子210は、例えば、紫外~可視域の発光が可能な窒化物半導体(InxAlyGa1-x-yN、0≦x、0≦y、x+y≦1)を含む半導体積層構造を有し得る。
この例では、発光素子210は、凹部282dの底面においてより大きな面積を有する第1リード部分291上に固定されている。また、この例では、発光素子210は、第1リード部分291と対向する下面とは反対側に正極および負極を有し、これら正極および負極は、ワイヤ220によって第1リード部分291および第2リード部分292に電気的に接続されている。発光素子の下面側に正極および負極が設けられている場合には、正極および負極のうちの一方を第1リード部分291に接続し、他方を第2リード部分292に接続してもよい。すなわち、発光素子210は、フリップチップ接続によってリードフレーム290に実装されてもよい。2以上の発光素子が凹部282d内に配置されてもよい。
上述の透光部材284は、凹部282d内に位置し、発光素子210およびワイヤ220を覆う。透光部材284は、典型的には、シリコーン樹脂、シリコーン変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン樹脂もしくはポリノルボルネン樹脂、または、これらの2種以上を含む樹脂材料を母材とする樹脂組成物から形成される。透光部材284は、蛍光体等の波長変換部材を含有し得る。透光部材284は、母材とは異なる屈折率を有する材料が母材中に分散させられることにより、光拡散機能を有していてもよい。本明細書における「透光」の用語は、入射した光に対して拡散性を示すことをも包含するように解釈され、「透明」であることに限定されない。
図4は、図3に示す構造から発光素子210、ワイヤ220および透光部材284を取り除いた状態を示す。換言すれば、図4は、光反射性樹脂枠282の凹部282d内に発光素子210を配置する前の状態を示している。
各単位発光構造ULは、第1リード部分291および第2リード部分292の組をその一部に含む。図示するように、凹部282dの底面において第1リード部分291の一部および第2リード部分292の一部が光反射性樹脂枠282から露出される。第1リード部分291と第2リード部分292との間には、ギャップGpが形成されており、このギャップGpには、光反射性樹脂枠282の一部が位置する。図4中に点線によって模式的に示すように、リードフレーム290は、第1リード部分291および第2リード部分292の複数の組に加えて、これらの組を互いに接続する連結部294をさらに有する。リードフレーム290の連結部294は、個片化の工程において切断または除去される。
図5は、複合基板200を裏側から見た外観を模式的に示す。図5に模式的に示すように、第1リード部分291の少なくとも一部、および、第2リード部分292の少なくとも一部は、複合基板200の裏面200bに現れている。第1リード部分291および第2リード部分292は、発光素子210への給電用の端子として機能する。個片化後に得られる発光装置は、はんだ等の接合部材を介して配線基板等に実装することができる。
リードフレーム290は、平板状の金属板にエッチングまたはパンチング等を施すことによって形成することができる。このとき、金属板に複数の開口部を設けて、第1リード部分291および第2リード部分292の複数の組と、連結部294とを形成することができる。上述の光反射性樹脂枠282は、例えば、金型のキャビティの内側にリードフレーム290を配置して、トランスファモールド法、射出成形法、圧縮成形法等を適用することによって形成可能である。光反射性樹脂枠282の材料としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフタルアミド(PPA)、シリコーン樹脂等を母材として含む光反射性の材料を用いることができる。
光反射性樹脂枠282が、発光素子210からの光を吸収しにくくかつ母材との間の屈折率差の大きい反射材を含有していると、より効率的に光を反射させることができ、有益である。このような反射材の例は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウム等の光散乱粒子である。本明細書において、「光反射性」とは、発光素子の発光ピーク波長における反射率が60%以上であることを指す。光反射性樹脂枠282の、発光素子の発光ピーク波長における反射率が70%以上であるとより有益であり、90%以上であるとさらに有益である。光反射性樹脂枠282が白色を有すると有益である。
リードフレーム290に一体的に光反射性樹脂枠282を形成した後、凹部282d内に発光素子210を配置し、例えばワイヤ220によって発光素子210を第1リード部分291および第2リード部分292に電気的に接続する。その後、透光部材284の材料で各凹部282dを充填し、充填された材料を固体化させることにより、充填された材料から透光部材284を凹部282d内に形成して複合基板200を得ることができる。
透光部材284の母材としては、例えばシリコーン樹脂を用いることができる。透光部材284の材料として、母材としての樹脂に、蛍光体の粒子等の波長変換部材が分散された材料を用いてもよい。酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の光散乱粒子が母材としての樹脂に分散させられていてもよい。
図1~図5を参照して説明したような複合基板の製造方法の詳細は、例えば特開2017―069509号公報に説明されている。参考のために、特開2017―069509号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。なお、デバイス領域RDに含まれる単位発光構造ULの数および配置は、任意に決定することができる。図1、図2および図5は、本開示の実施形態に適用可能な複合基板の構造を模式的に示しているに過ぎない。
[切断装置用治具100A]
図6は、本開示の実施形態による切断装置用治具の一例を示す。図6に例示する切断装置用治具100Aは、ブレードを回転させるスピンドルを備えるダイシング装置のテーブルに、ネジ等によって固定された状態で使用される。特許文献1において説明されているように、ダイシング装置のテーブルは、一般に、ダイシング装置本体に対してある方向に沿って往復移動可能かつ待機位置においてテーブルの上面に垂直な軸に関して回転可能に構成されている。したがって、切断装置用治具100Aも、ダイシング装置のテーブルの移動および回転に従い、移動および回転する。
図6は、本開示の実施形態による切断装置用治具の一例を上面側から見た外観を模式的に示している。図6に示す切断装置用治具100Aは、概略的には、長方形状の上面110aを有する支持部110Aと、支持部110Aの外側に位置する規制部150Aとを含む。
ダイシング装置に搭載される切断装置用治具は、ワークの構成に応じて適宜選ばれる。切断装置用治具100Aは、上述の複合基板200に適合した形状を有する治具の例である。支持部110Aの上面110aは、切断の対象であるワークが置かれる領域であり、ここでは、複合基板200が4つのデバイス領域RDを有することに対応して、上面110aは、図のX方向に並ぶ4つの矩形状の領域を含む。
図示するように、上面110aは、複数の第1溝111および複数の第2溝112を有する。第1溝111の各々は、上面110aの長方形状の長手方向(第1方向)に沿って延び、第2溝112の各々は、上面110aの長方形状の短手方向(第2方向)に沿って延びる。第1溝111および第2溝112は、ワークの切断時にブレードの刃先が支持部110Aに接触しないように設けられる構造であり、ワークの切断時、ブレードの刃先は、これらの溝の内部を通る。
複数の第1溝111および複数の第2溝112は、上面110aにおいて互いに直交しており、したがって、支持部110Aの上面110aには、第1溝111および第2溝112に囲まれた複数の矩形状の領域DCが形成される。複数の領域DCの各々は、切断装置本体の真空ラインに連通する開口APを有する。すなわち、負圧の利用により、ワークの切断後に支持部110A上に得られる複数の発光装置が支持部110Aから落下することが防止される。このことからわかるように、領域DCの形状は、最終的に得たい発光装置の形状に応じて適宜変更され得る。換言すれば、第1溝111および第2溝112の本数および配置は、ワークに応じて適宜変更される。
規制部150Aは、支持部110Aから短手方向に間隔をあけて切断装置用治具100Aに設けられる。ここでは、規制部150Aは、上面110aの長方形状の長手方向に沿って並ぶ複数の柱状体152の群である。柱状体152の各々は、上述の支持部110Aを支持する基部120Aから図のZ方向に延びる例えば円柱状の構造である。もちろん、柱状体152の上面視における形状は、円に限定されず、楕円、多角形等であってもよい。柱状体152の断面形状がZ方向に沿って一様である必要もない。
柱状体152は、ブレードに接触しないよう、切断装置用治具100Aにおいて第2溝112の延長線上以外の位置に配置される。また、柱状体152は、典型的には、支持部110Aを挟んで支持部110Aの短手方向の両側に設けられる。
図7は、図6のVII-VII断面を模式的に示し、図8は、図6のVIII-VIII断面を模式的に示す。図7および図8に例示する構成において、支持部110Aは、支持部110A上に複合基板200が置かれた状態において複合基板200のデバイス領域RDを支持する内側支持構造114と、外側支持構造116とを有する。上述の図6を参照すればわかるように、複合基板200が4つのデバイス領域RDを含むことに対応して、ここでは、支持部110Aは、4つの内側支持構造114を有する。外側支持構造116は、これら内側支持構造114を取り囲む配置を有し、複合基板200の枠領域RFを支持する。ただし、外側支持構造116は、本開示の実施形態による切断装置用治具に必須の構造ではなく、省略されることもあり得る。
図8に示すように、切断装置用治具100Aの基部120Aには、支持部110Aと基部120Aとの間に形成される空間SPに連通する貫通孔122が設けられる。この空間は、図7に示すように、上述の開口APの各々と連通している。基部120Aの貫通孔122は、ダイシング装置のテーブルに設けられる真空ラインに対応した位置に設けられ、テーブルに切断装置用治具100Aが固定されることにより、ダイシング装置側の真空ラインに接続される。なお、図7に示すように、この例では、外側支持構造116には、切断装置本体の真空ラインに連通する開口APは設けられていない。
図9は、図7に対応する断面図であり、支持部110A上に上述の複合基板200を載せた状態を模式的に示している。図9では、複合基板200の裏面200bを支持部110Aの上面110aに対向させて複合基板200を支持部110A上に載せた状態を例示しているが、後述するように、裏面200bの反対側に位置する表面200aを支持部110Aの上面110aに対向させて複合基板200を支持部110A上に載せて切断の工程を実行することもあり得る。
図9に模式的に示すように、支持部110A上に複合基板200が置かれたとき、規制部150Aは、支持部110Aの上面110aの長方形状の短手方向において複合基板200の枠領域RFの外縁よりも外側に位置する。図9に模式的に示すように、典型的には、規制部150Aの高さは、基部120Aの上面120aを基準として、支持部110Aの上面110aと同程度か、あるいは、上面110aの高さよりも小さい。
この例では、切断装置用治具100Aは、特に、支持部110Aと規制部150Aとの間に、端材受け部140を有している。端材受け部140は、支持部110Aの上面110aよりも低い位置にある底面140vを有する。図示する例において、支持部110Aは、上面110aの長方形状の長手方向に延びる側面110cを有する。したがって、ここでは、端材受け部140は、支持部110Aの側面110cと、側面110cから上面110aの長方形状の短手方向に間隔をあけて配置された規制部150Aとの間に形成される構造であるといえる。端材受け部140は、ブレードを利用した切断で枠領域RFの一部がデバイス領域RDから分離されることによって形成される長尺状の端材を受け入れることが可能な構造である。
(発光装置の製造方法の実施形態)
以下、本開示の実施形態による発光装置の製造方法の詳細を説明する。図10は、本開示の実施形態による発光装置の製造方法の概要を示す。図10に例示する発光装置の製造方法は、概略的には、複数の単位発光構造を含むデバイス領域と、デバイス領域を取り囲む枠領域とを有する複合基板を準備する工程(ステップS1)と、支持部を含む治具が搭載された切断装置の支持部上に複合基板を置く工程(ステップS2)と、回転刃を用いて複合基板の枠領域をデバイス領域から分離する工程(ステップS3)と、デバイス領域からの枠領域の分離後、デバイス領域の切断により、複数の単位発光構造を個片化する工程(ステップS4)とを含む。以下では、回転刃としてのブレードを取り付け可能なスピンドルを有するダイシング装置を用いて、ワークとしての上述の複合基板200を個片化する例を説明する。
まず、複合基板200を準備する(図10のステップS1)。複合基板200は、上述の方法による製造によって準備されてもよいし、購入によって準備されてもよい。
次に、治具が搭載されたダイシング装置に複合基板200を置く(図10のステップS2)。ここでは、ダイシング装置に取り付ける治具として上述の切断装置用治具100Aを用いる。図11に示すように、切断装置用治具100Aは、ダイシング装置300のテーブル310に固定される。テーブル310は、ダイシング装置300内において例えば図のX方向に往復移動可能であり、かつ、テーブル310の中心を通る回転軸Rに関してXY面内で回転可能である。
切断装置用治具100A上への複合基板200の配置に際し、複合基板200は、図11に模式的に示すように、リードフレーム290の長手方向および短手方向が支持部110Aの上面110aの長方形状の長手方向および短手方向にそれぞれ平行となるように支持部110A上に配置される。支持部110A上への複合基板200の配置後、上述の開口APを介した真空引きにより、複合基板200は、支持部110Aの上面110aに一時的に固定される。このとき、上述したように、複合基板200の枠領域RFの外縁は、支持部110Aの外側に位置する。
次に、ブレードを用いて複合基板200を切断することにより、複合基板200の枠領域RFをデバイス領域RDから分離する(図10のステップS3)。ここでは、一般的な半導体装置の製造における典型的なダイシング工程と同様に、まず、複合基板200の長方形状の長手方向に沿って切断を実行する。最初に長方形状の長手方向に沿って切断を実行する理由は、テーブルを往復させる回数およびブレードの消耗を抑制でき、より効率的に発光装置を製造し得るからである。
ただし、最初に長方形状の長手方向に沿って切断を実行すると、切断によって発生する端材の数を低減できるものの、端材が長尺状となるので、最初に長方形状の短手方向に沿って切断を実行した場合と比較して端材が治具上に残りやすくなる。以下に詳細に説明するように、本開示の実施形態によれば、規制部を有する治具を用いることにより、治具上への端材の残留を抑制して、発光装置をより効率的に製造し得る。
図12を参照する。ここでは、まず、支持部110Aの上面110aの長方形状の長手方向(第1方向)に沿った切断を実行する。図12中の点線DL1およびDL2は、この工程における、複合基板200の切断の位置(ダイシングライン)を示している。これらのダイシングラインは、上述の第1溝111に重なっている。図12に示す点線DL1およびDL2に沿った切断を実行することにより、複合基板200の枠領域RFの一部を含む2つの長尺状の端材がデバイス領域RDから分離される。以下では、このときに発生する長尺状の端材を「第1端材」と呼ぶことがある。
上面110aの長方形状の長手方向に沿った切断においては、図13に太い矢印MVで模式的に示すように、ダイシング装置300のスピンドル320に取り付けられたブレード400に対してテーブル310が図のX方向に沿って相対的に移動させられる。スピンドル320によって高速回転させられたブレード400に対するテーブル310の相対的な移動により、複合基板200および切断装置用治具100Aもブレード400に対して相対的に移動する。したがって、高速に回転させられたブレード400に対するテーブル310の相対的な移動により、複合基板200が図のX方向に沿って切断される。このとき、ブレード400の刃先は、支持部110Aの第1溝111の内部を通る。
図13は、図12に示す点線DL1またはDL2に沿った複合基板200の切断の直前の状態を示している。すなわち、複合基板200の切断において、ブレード400は、テーブル310および切断装置用治具100Aに対して図の左側から図の右側に向かって相対的に移動する。以下、本明細書では、図の左側が装置手前側(例えばダイシング装置300のオペレータに近い側)であり、図の右側が装置奥側であるとして説明する。典型的には、装置奥側に、上述の第1端材を含む端材の回収のための機構が設置される。
図13中の太い矢印RTは、ブレード400の回転の方向を表している。ここで、ブレード400のうち複合基板200に最初に接触する部分に注目すると、この例では、ブレード400の刃先は、概ね複合基板200の裏面200b側から表面200a側(紙面の下側から上側)に向かって移動する。このとき、樹脂部280の一部とリードフレーム290の一部とがブレード400によって除去されることにより、切断が実行される。
一般に、ワークの切断に際しては、回転するブレード400に向けてノズル330から純水等の流体410が噴射される。図13に示す例は、切断装置用治具100Aに対してブレード400が進行する方向とは反対側である装置手前側から装置奥側に向けて流体410を噴射しながら第1方向に沿った切断を実行する例である。なお、流体410は、純水に限定されず、二酸化炭素等のガス、砥粒、油等を含む液体を流体410として用い得る。
図14は、ブレード400が複合基板200の装置奥側の端部に到達する直前、換言すれば、複合基板200のデバイス領域RDから第1端材が分離される直前の状態を示す。図14に模式的に示すように、この例では、ノズル330から噴射された流体410は、装置奥側に向かって複合基板200に当たる。そのため、複合基板200の枠領域RFは、装置奥側に向かう力を流体410から受ける。
図15は、ブレード400が複合基板200の装置奥側の端部に到達し、複合基板200のデバイス領域RDから第1端材が分離された状態を示す。切断によって複合基板200のデバイス領域RDから分離された第1端材250は、図15に模式的に示すように、典型的には、支持部110Aの上面110a上から端材受け部140に移動する。すなわち、第1方向に流体410を噴射しながら第1方向に沿った複合基板200の切断を実行することにより、支持部110A上から第1端材250を除去し得る。この例では、端材受け部140が、支持部110Aの上面110aよりも低い底面140vを有するので、端材受け部140に移動した第1端材250の少なくとも一部は、上面110aよりも低い位置にある。
本実施形態では、切断装置用治具100Aに規制部150Aが設けられている。規制部150Aは、切断装置用治具100Aの基部120Aからの第1端材250の落下を防止する。したがって、切断装置用治具100Aに規制部150Aを設けることにより、切断装置用治具100Aからの第2方向への第1端材250の落下が抑制される。その結果、切断装置用治具100Aから第2方向に第1端材250が落下することに起因する、テーブル310の移動機構に含まれるレール等への第1端材250の噛み込みの防止の効果、テーブル310の移動機構を覆う蛇腹カバー等の破損防止の効果等が期待できる。
特に、ここでは、規制部150Aとして複数の柱状体152が第1方向に沿って配置されているので、端材受け部140に移動した第1端材250の、水流、振動等による移動の方向が第1方向に規制される。したがって、支持部110Aと規制部150Aとの間において第1端材250を第1方向に沿って移動させ、流体410の流れを利用して、より確実に装置奥側に第1端材250を流すことができる。換言すれば、より確実に装置奥側に向けて第1端材250を移動させて、第1端材250を切断装置用治具100A外に移動させることが可能になる。
このように、端材の移動の方向を規制する規制部を切断装置用治具に設けることにより、切断装置用治具上への端材の残留を抑制して、発光装置をより効率的に製造し得る。特に、端材の移動の方向を第1方向に規制する規制部を切断装置用治具に設置することにより、端材をより確実に例えば装置奥側に向けて流すことが可能になり、端材の回収が効率化する。
この例では、装置奥側に向けて流体410を噴射しながら、装置奥側から装置手前側に向けて複合基板200をブレード400に対して相対的に移動させているので、第1端材250が流体410から受ける力の方向は、装置手前側から装置奥側に向かう方向に一致している。したがって、流体410の圧力を利用して第1端材250を装置奥側に向けて効率的に流し得る。
なお、ここで説明した例のようなブレード400の回転方向およびテーブル310の移動方向を採用すると、リードフレーム290の切断の際にバリが生じても、そのバリは、複合基板200の裏面200b側から表面200a側に向かって延びることになる。そのため、切断装置用治具100Aの支持部110Aにバリが食い込むことが回避され、切断装置用治具100A上で支持部110Aを移動させやすい。また、複合基板200の裏面200bにバリが突出することが回避され、配線基板の表面にバリが干渉しなくなる結果、個片化後に得られる発光装置の配線基板等への実装がより容易になる。
第1方向に平行なあるダイシングライン(例えば、図12中に点線DL1で示すダイシングライン)に沿った切断を実行した後、ブレード400を装置手前側の初期位置に戻し、第1方向に平行な他のあるダイシングライン(例えば、図12中に点線DL2で示すダイシングライン)に沿った切断に移行する。このとき、典型的には、ブレード400を図中のZの正方向に移動させた後、X方向に沿ってブレード400をテーブル310に対して相対的に移動させることにより、ブレード400を装置手前側の初期位置に戻す。そして、第2のダイシングラインに関して、再び第1方向に沿った切断を実行する。
ただし、あるダイシングラインから次のダイシングラインに関する切断に移行する前に、図16中に点線の矢印Tr1で模式的に示すように、同一のダイシングラインに重ねて、ブレード400を複合基板200に対して再度移動させてもよい。すなわち、同一のダイシングラインに関して、流体410を噴射しながらの擬似的な切断の工程を追加してもよい。この擬似的な切断の工程において、ブレード400の刃先は、同一の第1溝111の内部を再び通過する。
上述のように、装置奥側に向けて流体410を噴射しながら複合基板200をブレード400に対して相対的に移動させた場合、第1端材250は、装置手前側から装置奥側に向かう力を流体410から受ける。したがって、装置奥側に向けて流体410を噴射させながら、第1方向の一端側から他端側まで、複合基板200の実際の切断の時と同じ方向で切断装置用治具100Aに対してブレード400を相対的に再度移動させることにより、端材受け部140に移動した第1端材250を第1方向に沿ってより確実に切断装置用治具100A外に移動させることが可能になる。
なお、あるダイシングラインに沿った切断によって複合基板200のデバイス領域RDから第1端材250を分離した後に擬似的な切断の工程を実行するにあたり、図17中に点線の矢印Tr2で模式的に示すように、ブレード400を図中のZ方向に関して移動させずに、ブレード400の位置を装置手前側に戻してもよい。実際の切断時とは逆の方向にブレード400を複合基板200に対して相対的に移動させた場合であっても、流体410が第1端材250に及ぼす力の方向は共通し、したがって、このような動作を付加的に行うことによっても、端材受け部140に移動した第1端材250を第1方向に沿ってより確実に切断装置用治具100A外に移動させ得る。
第1方向に沿った切断を実行し、デバイス領域RDから2つの第1端材250を分離した後、支持部110Aの上面110aの短手方向(第2方向)に沿った切断を実行する。第2方向に沿った切断に際しては、図18に示すように、複合基板200および切断装置用治具100Aが、支持部110Aの上面110aに垂直な上述の回転軸Rに関してXY面内でテーブル310ごと90°回転させられる。テーブル310を回転させるまでに、第1端材250を切断装置用治具100A外に移動させておくことにより、テーブル310の回転に起因して第1端材250が複合基板200上に載ってしまうといった不具合を回避できる。
テーブル310の回転後、複合基板200、切断装置用治具100Aおよびテーブル310を装置奥側から装置手前側に移動させることによってブレード400を複合基板200に対して第2方向に相対的に移動させることにより、複合基板200の第2方向に沿った切断を実行することができる。第2方向に沿った複合基板200の切断時、ブレード400の刃先は、第2溝112の内部を通る(図6参照)。なお、上述したように、規制部150Aとしての複数の柱状体152の各々は、第2溝112の延長線上には位置しないので、柱状体152とブレード400との間の物理的な干渉は回避される。
例えば図18中に点線DL3で示す位置で、複合基板200を切断する。この切断の工程により、各々が枠領域RFの一部である複数の第2端材が発生する。なお、第2端材は、第1端材と比較して小さく、したがって水流、振動等によって装置奥側に移動しやすい。また、第2端材が切断装置用治具100Aの第2方向に切断装置用治具100Aから落下したとしても、移動機構に含まれるレール等への第2端材の噛み込み等の、加工に与える影響は、第1端材と比較して小さいといえる。
複合基板200の、第2方向に沿った切断により、第2端材をデバイス領域RDから分離することができる。これにより、複合基板200から枠領域RFが除去される。その後、2つの単位発光構造ULの間の位置でデバイス領域RDを第1方向および第2方向に沿って順次に切断することにより(図3参照)、複数の単位発光構造ULを個片化する(図10のステップS4)。個片化の工程において、第1方向に沿った切断時には、ブレード400の刃先は、第1溝111の内部を通り、第2方向に沿った切断時には、ブレード400の刃先は、第2溝112の内部を通る。なお、デバイス領域RDの切断においては、ブレード400の回転方向およびテーブル310の移動方向として、図13に示すような、ブレード400の刃先が複合基板200の裏面200b側から表面200a側に向かう方式(「アップカット」と呼ばれる。)を採用してもよいし、これとは逆に、ブレード400の刃先が複合基板200の表面200a側から裏面200b側に向かう方式(「ダウンカット」と呼ばれる。)を採用してもよい。以上の工程により、各々が発光素子210を含む複数の発光装置が得られる。
(変形例)
図11~図17を参照して説明した上述の例では、複合基板200の裏面200bを支持部110Aの上面110aに対向させて複合基板200を支持部110A上に載せ、切断を実行している。しかしながら、これとは逆に、複合基板200の表面200aを支持部110Aの上面110aに対向させて複合基板200を支持部110A上に載せ、切断の工程を実行してもよい。
図19は、複合基板200の表面200aを支持部110Aの上面110aに対向させた状態での第1方向に沿った複合基板200の切断を模式的に示す。この場合、リードフレーム290のバリを複合基板200の裏面200b側に突出させない観点からは、ブレード400の回転方向として、図19に太い矢印RTで模式的に示すように、ブレード400のうち複合基板200に最初に接触する部分が概ね複合基板200の表面200a側から裏面200b側(紙面の上側から下側)に向かって移動するような方向を採用することが有利である。したがって、この例では、複合基板200の第1方向に沿った切断において、テーブル310は、装置手前側から装置奥側に向かって移動させられる。換言すれば、ブレード400が複合基板200の装置奥側の端部から装置手前側の端部に向かって相対的に移動させられることにより、複合基板200が切断される。
なお、図19に示すようなブレード400の回転方向およびテーブル310の移動方向を採用した場合、リードフレーム290のバリは、支持部110Aの上面110a側に向かって延びることになる。しかしながら、支持部110Aの上面110a上にはリードフレーム290ではなく樹脂部280が接しているので、リードフレーム290から支持部110Aの上面110aまでの距離が大きくなる結果、切断装置用治具100Aの支持部110Aにバリが食い込むことが回避される。
図20は、ブレード400が複合基板200の装置奥側の端部に到達する直前、換言すれば、複合基板200のデバイス領域RDから第1端材が分離される直前の状態を示す。図19および図20からわかるように、図14と比較して、この例では、切断装置用治具100Aに対するブレード400の進行方向側、すなわち、装置手前側(図の左側)からブレード400に向けて流体410を噴射しながら切断を実行することになる。図14を参照して説明した例と同様に、この例においても、複合基板200の枠領域RFは、装置奥側に向かう力を流体410から受ける。したがって、流体410の流れを利用して、支持部110Aと規制部150Aとの間において第1端材250を装置奥側に向かって移動させることができる。
しかも、この例では、第1方向に平行なあるダイシングラインに沿った切断が実行されてブレード400が複合基板200の装置奥側の端部から装置手前側の端部に移動した状態においても、装置奥側に向かって流体410が第1端材250に当たり得る。したがって、ブレード400が複合基板200の装置奥側の端部から装置手前側の端部に移動した状態においても流体410の噴射を利用して第1端材250に対して装置奥側に向かう力を与えることができ、切断装置用治具100A上への第1端材250の残留をより効果的に抑制し得る。
このように、複合基板200の表面200aを支持部110Aの上面110aに対向させて複合基板200を支持部110A上に載せ、切断の工程を実行してもよい。ただし、切断によって樹脂部280の一部が複合基板200の表面200a側に延びる「樹脂バリ」の発生を抑制する観点からは、図11~図17を参照して説明した例のように、複合基板200の裏面200bを支持部110Aの上面110aに対向させて複合基板200を支持部110A上に載せ、樹脂部280の上方が開放された状態とする方が有利である。
図16および図17を参照しながら説明した例と同様に、同一のダイシングラインに関して、擬似的な切断の工程を付加的に実行してもよい。例えば、同一のダイシングラインに重ねて、ブレード400に向けて流体410を噴射しながらブレード400を複合基板200の装置手前側の端部から装置奥側の端部にさらに移動させてもよい。すなわち、同一のダイシングラインに関して、複合基板200に対してブレード400を往復移動させてもよい。図19および図20に示す例では、複合基板200の切断時における切断装置用治具100Aに対するブレード400の進行方向とは反対の方向にブレード400を切断装置用治具100Aに対して相対的に移動させた場合にも、装置奥側に向かって流体410が第1端材250に当たる。そのため、同一のダイシングラインに関して流体410を噴射しながらの擬似的な切断の工程を追加することにより、端材受け部140に移動した第1端材250を装置奥側に向けてより確実に移動させることが可能になる。
図21および図22は、本開示の実施形態による切断装置用治具の変形例を示す。上述の切断装置用治具100Aと比較して、図21および図22に示す切断装置用治具100Bは、規制部150Aに代えて規制部150Bを有する。規制部150Bは、全体として支持部110Aの長方形状の長手方向に延びる壁状の構造であり、ここでは、支持部110Aの長方形状の短手方向において支持部110Aを挟むように2つの規制部150Bが基部120A上に配置されている。
規制部150Bには、複数の凹部154が設けられている。図示するように、複数の凹部154の各々は、第2溝112の延長線上に位置する。凹部154を第2溝112の延長線上に配置することにより、ブレード400と規制部150Bとの間の干渉を回避することができる。なお、図22からわかるように、規制部150Bは、第2溝112の延長線上以外の位置に配置された凸部156を含む構造であるともいえる。このような構造によっても、上述の規制部150Aを設けた場合と同様の効果が得られる。このように、規制部を構成する構造は、支持部の長方形状の長手方向および短手方向に垂直に延びる柱状体の集合の形態に限定されない。
図23および図24は、本開示の実施形態による切断装置用治具の他の変形例を示す。図23および図24は、図7と同様に、切断装置用治具を第1方向に垂直に切断したときの断面を模式的に示している。
図23に示す切断装置用治具100Cは、基部120Cと、基部120C上の支持部110Cと、規制部150Cを有する。支持部110Cの外側支持構造116は、規制部150Cの位置まで延びている。この例のように、外側支持構造116が複合基板200の枠領域RFの全体を支持してもかまわない。この場合、規制部150Cの上端がブレード400に干渉しない限りにおいて支持部110Cの上面110aよりも高い位置にあれば、第1端材250の移動の方向を規制する効果が得られる。タルクの粉末等を支持部110Cの上面110a上に配置してから、上面110a上にワークを置いてもよい。予めタルクの粉末等を支持部110Cの上面110a上に配置しておくことにより、第1端材250が上面110a上を移動しやすくなる。規制部150Cは、上述の規制部150Aのような、柱状体の集合であってもよいし、規制部150Bのような、複数の凹部を有する壁状の構造であってもよい。
図24に示す切断装置用治具100Dは、基部120Dおよび規制部150Dを含み、基部120Dは、支持部110Aと規制部150Dとの間に、第1方向に延びる溝構造142を有している。溝構造142は、例えば、第1端材250を受け入れ可能な幅を有する。図24に例示するように、支持部110Aと規制部150Dとの間に、より深い部分を設け、端材受け部140として利用してもよい。なお、複合基板200の外縁は、上面視において端材受け部140と重なる位置にあり得る。規制部150Dとしては、上述の規制部150Aおよび150Bのいずれをも適用し得る。