以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
<第1の実施形態>
[印象用トレーの構成]
図1~図4は、本発明の一実施形態に係る印象用トレー1を表した図である。図1は印象用トレー1の斜視図、図2はその模式的な平面図、底面図、側面図、図3は印象用トレー1の背面図である。図4は図2(A)の線IV―IVで切断した断面図である。
印象用トレー1は、上下顎、咬合の3つの印象を採得するトリプルトレーであって、歯列弓全体を採得することが想定されたトレーである。印象用トレー1は、患者の口腔内に挿入して噛ませることで印象を採得する印象材を保持することができるように構成されている。
なお、本実施形態においては、印象材として、ビニルポリシロキサン(VPS)や超親水VPSのようなシリコーン印象材が使用される。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、アルジネート印象材やその他の印象材を用いることができる。
印象用トレー1は、トレー本体12と、指導標部11と、指導標用の棒14と、ボール15と、回転止め部としての固定用ネジ13とを備えている。
トレー本体12は、フレーム16とスクリーン20とを有する。
フレーム16は、弓状の枠であり、典型的には、外枠16aと内枠16bを含む。外枠16aは、患者の口腔内に挿入したときに頬側に位置し、内枠16bは、患者の口腔内に挿入したときに舌側に位置する。フレーム16は、スクリーン20の外周の少なくとも一部を支持する。フレーム16は、スクリーン20を着脱可能に支持する。これにより、スクリーン20の交換が可能となり、フレーム16を再利用することが可能となる。
フレーム16の外枠16a及び内枠16bは、典型的には、樹脂材料により形成されている。外枠16a及び内枠16bのうち少なくともいずれか一方は、印象材に対して良好な接着性を有することが好ましい。これは、スクリーン20と印象材との接着性が良くない場合にも、外枠16a又は内枠16bと印象材との接着力によって、印象材を印象用トレー1に保持しやすくすることができるためである。外枠16aの内枠16bに向けられた壁面116aと、内枠16bの外枠16aに向けられた壁面116bとの、少なくともいずれか一方には、印象材が印象用トレー1からずれたり剥がれたりすることを防止するための凹凸が形成されていてもよい。
スクリーン20は、印象材を保持する基台として作用するように設けられ、例えばポリウレタン樹脂膜の薄膜により形成されている。スクリーン20は、フレーム16に接続されて支持されている。本実施形態では、スクリーン20の一つの縁が外枠16aに接続され、もう一つの縁が内枠16bに接続されることによって、スクリーン20がフレーム16に張られている。スクリーン20は、印象採得のために噛まれた際に大きな反発力を生じることがないように、適度に弛ませた状態で張られていることが好ましい。
スクリーン20は、被咬合部を有する。被咬合部は、スクリーン20のうち、印象の採得時(咬合時)に患者の上下の歯が噛み合う箇所を含むように設定された領域である。すなわち、被咬合部は、スクリーン20の中央部を占める領域であり、印象の採得時の歯の位置が被咬合部の範囲内に収まるように、便宜的に規定される領域である。被咬合部の範囲は、特に限定されるわけではなく、印象用トレー1の形状などに応じて、適宜設定されればよい。
被咬合部は、無孔であり、被咬合部の厚さは20μm以下である。被咬合部が無孔であるとは、例えば、既存のトリプルトレーでは、メッシュ状のスクリーン又は和紙製のスクリーンを備えているものがあるが、このようなスクリーンが孔を持った構造を有するのに対して、上記の被咬合部は、孔を持たない一枚の膜により構成されているということである。
スクリーン20の材料である樹脂膜としては、典型的には、水系ポリウレタンにより形成されたポリウレタン樹脂膜を用いることができる。ポリウレタン樹脂膜は、伸展性に優れ、厚さ20μm以下であっても十分な強度を有するので、厚さ20μm以下の無孔の被咬合部を形成するのに適している。また、印象採得のための咬合時に咬合の妨げとなるような反力を生じにくく、破れにくいというメリットがある。ただし、樹脂膜の材料としてはこれに限定されず、シリコーン等の他の材料を用いることができる。樹脂膜の厚さはより好ましくは10μm程度が望まれる。これにより噛み合わせ等をより正確に再現することができる。
スクリーン20のうち、少なくとも被咬合部は、光反射性を有する色素を含んでいる。この色素としては、医療用品に用いるのに十分な安全性を有するものが用いられる。色素は、ポリウレタン樹脂の材料中に含有されてもよいし、スプレー又は塗布によって樹脂膜表面に付着させられていてもよい。典型的には色素含有は酸化チタンのパウダリングによって行うことができる
本実施形態において、スクリーン20は、被咬合部以外の領域として、被咬合部の周辺に設定された周辺部を有する。周辺部は、印象採得時に患者の歯が噛み合う位置となる可能性が低い領域である。例えば、スクリーン20の中央部から離れたフレーム16の近傍の領域を、周辺部とすることができる。周辺部には、印象採得時に歯の周りに押し出される印象材を受け止める作用がある。
本実施形態において、周辺部には、接着用領域が設けられる。接着用領域は、接着剤によって印象材を接着させるための領域である。すなわち、接着用領域は、印象材を接着可能な接着剤が塗布される領域である。接着用領域は、スクリーン20の上顎側及び下顎側の両表面に設けられる。接着用領域は、周辺部全体であってもよいし、周辺部の一部であってもよい。
接着剤は、印象用トレーに塗布されることによってトレーと印象材の接着を強め、印象材の剥がれ・変形を防ぐために用いられる。接着剤としては、例えば、市販品のトレーアドヒーシブ(付加型シリコーン用)(スリーエムジャパン株式会社製)等、公知の、歯科トレー用の接着剤を適宜選択して用いればよい。
接着剤によってスクリーン20に印象材を接着させる方法としては、作業者が、印象用トレー10の使用直前にスクリーン20の両面の接着用領域に接着剤を筆又は綿球で薄く塗布し、接着剤をよく乾燥させて、その後で印象材を盛り付ければよい。しかし、これに限定されず、例えば、予め接着用領域に接着剤が塗布されていてもよい。
接着用領域は、外見上、例えば輪郭線やマーク等が付されて大まかな接着剤塗布範囲が示されていることが、作業者による接着剤塗布や印象材の盛り付け等の作業のためには好ましい。しかし、接着用領域を有するスクリーン20の形態は、これに限られない。例えば、接着剤の塗布範囲は作業者が任意に判断してもよく、接着用領域とそれ以外の領域との境界が外見上判別できないような形態であっても構わない。
接着用領域が設けられているのは、以下の理由からである。スクリーン20がポリウレタン樹脂膜により形成されているような場合、シリコーン印象材がポリウレタン樹脂膜に接着しにくいため、スクリーン20から印象材が剥がれやすく、印象材を保持しにくくなる可能性がある。そこで、本実施形態では、スクリーン20に印象材を保持しやすくするため、スクリーン20に印象材を接着剤で接着させるものとしている。この構成によると、周辺部の接着用領域に接着剤を塗布することで、被咬合部の周囲で印象材をスクリーン20に接着させて保持しやすくすることができる。
ここで、接着用領域は、被咬合部には設けられず、周辺部のみに設けられていることが好ましい。印象用トレー1の使用時に、スクリーン20に接着剤を塗布すると、接着剤の厚さの分だけ厚みが増加することになる。この構成によると、接着剤の分の厚みが増加するのは、接着用領域を有する周辺部のみなので、被咬合部の厚さを20μm以下としたままで印象用トレー1を使用することができる。その結果、周辺部は、接着剤により印象材との接着を強めて印象材を保持することが可能となり、一方、被咬合部は、厚さが十分に薄いため印象材の変形に対して大きな反力を生じることがないので、全体としてスクリーン20から印象材が剥がれることを防ぐことができる。
なお、周辺部にスクリーン20の表裏を貫通する孔(図示を省略)を設けてもよい。このような孔は周辺部内に沿って複数有することが好ましいが、1つであっても構わない。孔を介してスクリーン20の表面側に盛られた印象材とスクリーン20の裏面側に盛られた印象材とが直接接触して接着し、上記と同様に被咬合部の周囲で印象材をスクリーン20に保持しやすくすることができる。また、接着用領域は、印象材を接着可能な接着剤成分を予め含んでいてもよい。この場合、例えば、上記の接着剤と同様の成分が、スクリーン20のうち被咬合部を避けた周辺部にのみ含有されることによって、接着用領域が形成されていてもよい。あるいは、上記の接着剤と同様の成分が、予めスクリーン20の両表面の接着用領域に塗り込められていてもよい。更に、スクリーン20に接着用領域が設けられていなくてもよい。スクリーン上に接着用領域を設けない場合には、印象材を、例えばフレームに接着させることで、印象用トレーに保持させるようにしてもよい。あるいは、印象の採得の邪魔にならず、印象の精度や安全性を損ねることがないのであれば、被咬合部の一部に接着剤を塗布して印象用トレーを使用してもよい。
トレー本体12は、指導標部11に対して着脱自在で交換可能とされている。一例として、指導標部11に設けれた凹部に対して後述するトレー本体の一部を構成する基部を係合するように構成することで、トレー本体12を指導標部11に対して着脱自在となるように構成することできる。
図5は本発明の一実施形態に係るトレー本体12の分解斜視図、図6は組み立て後のトレー本体12の斜視図である。なお、この実施形態に係るトレー本体12は後述する第3の実施形態(図14参照)の如く指導標部がトレー本体から着脱可能な構成とされている。そして、このトレー本体12を本発明に係る印象用トレーとしてもよい。
トレー本体12は、上下の両面に印象材が盛られるスクリーン20の外周を着脱可能に保持するフレーム16を有する。
フレーム16は、左右上下4つに分割されたフレーム1021~1024から構成される。正面から見て右側上を右上フレーム1021、右側下を右下フレーム1022、左側上を左上フレーム1023、左側下を左下フレーム1024と便宜上呼ぶ。
右上フレーム1021及び左上フレーム1023と右下フレーム1022及び左下フレーム1024とは、スクリーン20の上下の両面より挟持してスクリーン20を保持する。また、右下フレーム1022と左下フレーム1024とが着脱可能に係合され、更に右下フレーム1022と右上フレーム1021とが着脱可能に係合され、左したフレーム1024と左上フレーム1023とが着脱可能に係合されている。
右下フレーム1022の右上フレーム1021との対向端面である挟持端1022a及び左下フレーム1024の左上フレーム1023との対向端面である挟持端1024aに、それぞれ複数の突起部1022b、1024bを有する。一方、右上フレーム1021の右下フレーム1022との対向端面である挟持端1021a及び左上フレーム1023の左下フレーム1024との対向端面である挟持端1023aに、それぞれ前記の突起部1022b、1024bに対応する複数の凹部(図示を省略)を有する。
右下フレーム1022は基部1022dを有する。基部1022dには、正面から見て左右対称に一対の突起部1022bと凹部1022cが設けられている。
左下フレーム1024も同様に基部1024dを有する。基部1024dにも、正面から見て左右対称に一対の突起部1024bと凹部1024cが設けられている。
これらの突起部1022b、1024bと凹部1022c、1024c(図示しない凹部も含む)とを係合することで、左右上下4つに分割されたフレーム1021~1024が着脱可能に係合される。
なお、右上フレーム1021と左上フレーム1023、及び右下フレーム1022と左下フレーム1024は、それぞれ同一の構造物である部品を上下にひっくり返して用いるようにすることで、部品を共通化でき、部品点数を削減できる。
右上フレーム1021及び左上フレーム1023と右下フレーム1022及び左下フレーム1024は、スクリーン20と当接してスクリーン20を挟持する挟持端1021a~1024aに、当該フレーム16の内壁102a側から外壁102b側まで貫通する第1の貫通溝104が設けられてもよい。
右上フレーム1021及び左上フレーム1023の第1の貫通溝104と右下フレーム1022及び左下フレーム1024の第1の貫通溝104とは、互いに対向するように設けられている。
右上フレーム1021及び左上フレーム1023と右下フレーム1022及び左下フレーム1024は、挟持端1021a~1024aと反対側の端1021e~1024eに、当該フレーム16の内壁102a側から外壁102b側まで貫通する第2の貫通溝105を有する。
なお、図7に示すように、第2の貫通溝105は、反対側の端1021e~1024eに近い位置に、溝壁105aより溝内105bに突出する突出部105cを有していてもよい。また、図8に示すように、第1の貫通溝104又は第2の貫通溝105は、当該フレーム16の内壁102a側から外壁102b側に向けて大きくてもよい。更に、フレーム1021~1024は、当該フレーム16の内壁102a側から外壁102b側まで貫通する貫通孔(図示を省略)を有してもよい。この場合に、貫通孔の孔径は、当該フレーム16の内壁102a側から外壁102b側に向けて大きくてもよい。
本実施形態においては、フレーム16は左右上下に4つに分割されていたが、例えば上下に2つに分割されたフレームであってもよい。
指導標部11は、連結部111とボール設置部112とからなる。指導標部11はトレー本体12に連結し、固定されている。指導標部11はトレー本体12から突出して配置される。指導標部11は、印象用トレー1を用いた口腔内の上下顎の印象及び噛み合わせの採得時、上下顎の模型の製作時、咬合調整時等に、医師や歯科技師工等によって把持される把持部となる。
指導標部11の連結部111はボール設置部112とトレー本体12との間に設けられ、両者を連結する。連結部111は、Y軸方向における幅がトレー本体12の幅及びボール設置部112の幅よりも狭くなるように構成される。
指導標部11のボール設置部112は、弓形の平面形状を有する。ボール設置部112は空間部17を有する。ボール設置部112には、ボール15を回転可能の状態で空間部17内を移動可能とする固定用ネジ13と、板状部材19と、一対のガイドレール50及び51が設けられる。
ボール15は、指導標用の棒14が挿入される貫通孔151を有する。指導標用の棒14は、貫通孔151から挿入及び脱去可能に構成される。ボール15の貫通孔151に指導標用の棒14を挿入した状態で、ボール15をボール15の中心を中心として回転させることにより、指導標用の棒14の傾きを調整することができる。
ボール設置部112内に設けられる空間部17は、細長い略円筒を弓状に曲げた形状を有しており、空間部17の長手方向に沿ったXY平面に直交する断面形状は略円形である。空間部17はボール15が移動可能な空間であり、空間部17の略円形の断面の直径はボール15の直径よりも大きい。ボール15は、後述する固定用ネジ13の保持部131により回転可能に保持された状態を維持して空間部17を移動可能となっている。また、空間部17は、ボール設置部112の上面112aに開口する第1の開口空間171、ボール設置部112の曲面状の側面112bに開口する第2の開口空間172及びボール設置部112の下面112cに開口する第3の開口空間173と空間的につながっている。
第1の開口空間171は、細長い略直方体を弓状に曲げた形状を有しており、その長手方向に沿ったXY平面に直交する断面形状は略矩形である。第1の開口空間171のXY平面と平行な面で切断した断面形状は弓形であり、その幅は、ボール15の直径よりも小さくなっており、これによりボール15が空間部17から印象用トレー1の外へ脱離することがない。
指導標用の棒14は、第1の開口空間171により上面112aに形成される細長い開口部181から突出するよう構成される。指導標用の棒14が貫通孔151に挿入された状態のボール15を空間部17内で移動させることにより、第1の開口空間171内を、弓状の空間部17に沿って弓なりに指導標用の棒14が移動する。
第2の開口空間172は、細長い略直方体を弓状に曲げた形状を有しており、その長手方向に沿ったXY平面に直交する断面形状は略矩形である。第2の開口空間172によりボール設置部112の側面112bに形成される開口部182は矩形状を有し、その縦の長さはボール15の直径よりも小さい。これによりボール15が空間部17から外へ脱離することがない。後述する固定用ネジ13のネジ部132は、第2の開口空間172内を移動可能となっている。
第3の開口空間173は、細長い略直方体を弓状に曲げた形状を有しており、その長手方向に沿ったXY平面に直交する断面形状は略矩形である。第3の開口空間173のXY平面と平行な面で切断した断面形状は弓形であり、その幅は、ボール15の直径よりも小さくなっており、これによりボール15が空間部17から印象用トレー1の外へ脱離することがない。
固定用ネジ13は、保持部131と、ネジ部132と、つまみ133を有する。固定用ネジ13の一端である先端に保持部131が位置し、他端である頭部につまみ133が位置し、保持部131とつまみ133との間にネジ部132が位置する。
保持部131は、ボール15の一部の面を覆う笠状を有する。保持部131は、空間部17内で、保持部131からボール15が脱離することなくボール15を回転及び移動可能に保持する。固定用ネジ13は、保持部131が空間部17内に位置し、ネジ部132が第2の空間部172及び外部で後述する板状部材19を貫通して位置し、つまみ133が開口部182から突出して外部に位置する。
ボール15は、保持部131及び空間部17により保持部131から脱離せず、かつ、回転可能に保持される。つまみ133の移動と連動して、つまみに連結する保持部131、更に保持部131により保持されるボール15は、空間部17を移動する。
このように、印象用トレー1は、指導標部11にボール15が保持部113により保持された状態で移動可能な空間部17が設けられ、ボール15の位置をトレー本体12に対して相対的に可変可能とする可変機構を具備する。
板状部材19は、平面形状が矩形であって中央部に貫通孔を有する。この貫通孔の内壁面には雌ネジ部が設けられている。貫通孔には固定用ネジ13のネジ部132が挿入される。板状部材19は、固定用ネジ13とともに、位置決めしたボール15の位置を固定するために用いられる。板状部材19の貫通孔に雌ネジ部が設けられることにより、固定用ネジ13に対して板状部材19が自由に回転することが防止される。板状部材19は、固定用ネジ13と連動して移動可能に構成される。
一対のガイドレール50及び51は、開口部182をはさんで上下に1つずつ側面112bに設けられる。一対のガイドレール50及び51は、板状部材19が側面112bに沿って移動可能となるように、板状部材19の対向する一対の側面をそれぞれ支持する。
図3及び図4に示すように、ボール15を位置決めする場合、ユーザによりつまみ133がXY平面内で移動されることにより、ボール15は保持部131に回転可能に保持された状態で空間部17内をXY平面上で移動する。そして、ユーザにより指導標用の棒14の傾きを変えることにより、ボール15は回転し、貫通孔151の位置が変化する。
患者の口腔内に、印象材を保持させた印象用トレー1を噛ませることで口腔内の上下の印象(上顎及び下顎の歯の形)及び噛み合わせを採得する際、患者の鼻筋と指導標用の棒14とが一致するように、ボール15をXY平面内で移動させ、かつ、指導標用の棒14の傾きを調整してボール15を位置決めし、患者の鼻筋と指導標用の棒14とが一致した位置でボール15を固定する。
ボール15を位置決めし、ボール15の位置を固定する場合、図4に示すように、ボール15が空間部17の内壁に接するように固定用ネジ13を空間部17に向かって押し込み、更に、板状部材19がボール設置部112の側面112bに接するようにした状態で固定用ネジ13を締め、ボール15を固定する。これにより、位置決めされた状態でボール15が固定される。
以上のように、本実施形態においては、空間部17が設けられることによりボール15の位置が空間部17内で移動可能となり、ボール15が回転可能に保持されることによりボール15の貫通孔151に挿入される指導標用の棒14の傾きが調整可能となる。これにより、印象用トレー1を用いて口腔内の上下顎の印象及び噛み合わせを採得する際、ボール15の位置を移動させ、ボールを回転させることにより、指導標用の棒と鼻筋が一致するように指導標用の棒の位置を調整することができる。
そして、位置決めされたボール15が固定された印象用トレーを用いて採得された印象材を基に石膏模型が製作される。これにより、例えば、患者の口腔内の状態が、鼻筋に対して歯列の中心がずれていたり、鼻筋に対して上顎と下顎との境界が略垂直ではなく傾いていても、この歯列の中心と鼻筋との位置関係や顎の傾きが正確に再現された石膏模型を製作することができる。
トレー本体12及び指導標部11は同一の材料から形成され、例えばプラスチック、アルミニウム、ステンレスなどで形成される。また、スクリーン20に用いられる材料はウレタンに限定されず、例えば和紙等を用いても良い。
[咬合器の構成]
上下顎の石膏模型の製作、歯科補綴物の製作及び咬合調整で用いる咬合器の構成について図9及び図10を用いて説明する。図9及び図10はそれぞれ咬合器4の模式的な側面図及び正面図である。
咬合器4は、顎の動きを再現するものである。咬合器4は、下部フレーム41と、上部フレーム42と、支柱部47と、下顎支持部43と、上顎支持部44と、位置決め用の棒であるインサイザルピン46と、上顎支持部用ネジ48と、インサイザルピン用ネジ49とを具備する。
下部フレーム41は支柱部47に固定され、下部フレーム41上には下顎支持部43が配置される。上部フレーム42は、軸45を介して支柱部47に設置され、軸45を中心に回動可能に構成される。上部フレーム42には上顎支持部44が配置される。上顎支持部44は、上顎支持部用ネジ48により、上顎支持部44の厚さ方向に移動可能となっている。咬合器4は、下顎支持部43に下顎の模型が設置され、上顎支持部44に上顎の模型が設置されて作業模型として用いられ、咬合調整等が可能となっている。
インサイザルピン46は、上部フレーム42及び上顎支持部44の平面が水平面(XY平面)と平行となるように配置されたとき、その長手方向が水平面に直交するように設けられる。インサイザルピン46は、上述の印象用トレー1を用いて、上顎及び下顎の石膏模型を製作する際、印象用トレー1の位置決めされたボール15の貫通孔151の中に挿入される。インサイザルピン46は、咬合器4に対する印象用トレー1の位置を決める位置決め用の棒である。インサイザルピン46は、インサイザルピン用ネジ49により、長手方向に沿って移動可能となっており、上部フレーム42から突出する長さを調節可能となっている。
[印象用トレーを用いた歯科補綴物の製作方法]
上述の印象用トレー1を用いた歯科補綴物の製作方法について説明する。本実施形態においては、歯科補綴物として例えば銀のクラウンを製作する場合を例にあげて説明する。以下、順に、印象用トレーを用いた口腔内の上下の印象(上顎及び下顎の歯の形)及び噛み合わせの採得方法、口腔内の上下の印象及び噛み合わせが採得された印象材を用いた上下顎の石膏模型の製作方法、石膏模型を用いた歯科補綴物の製作方法について説明する。
(口腔内の印象の採得方法)
図11は、印象用トレーを患者が口に加え、口腔内の上下顎の印象及び噛み合わせを採得する様子を示す図である。図11(A)は患者の正面図、図11(B)は患者の側面図である。
まず、スクリーン20の両面に上下の印象材が盛られた印象用トレー1のトレー本体12を、患者2の口腔内に挿入し、患者2に噛ませる。
印象用トレー1を把持する医師や歯科衛生士は、患者2の顔を正面からみながら、図11に示すように、印象材を患者2に噛ませた状態で、指導標用の棒14が患者2の鼻筋Aに一致するように、つまみ133を左右に移動させて指導標用の棒14が挿入される貫通孔151を有するボール15の位置を移動させ、更に、指導標用の棒14を持ってボール15の中心を起点としてボール15を回転させて指導標用の棒14の傾きを調整する。
医師や歯科衛生士は、鼻筋Aと指導標用の棒14が一致した位置で、ボール15が空間部17の内壁に接するように固定用ネジ13を空間部17に向かって押し込み、更に、板状部材19がボール設置部112の側面112bに接するようにした状態で固定用ネジ13を締め、ボール15を固定する。これにより、位置決めされた状態でボール15が固定される。
そして、鼻筋Aと指導標用の棒14が一致した状態を維持しながら、印象材が硬化するまで待機する。印象材が硬化した後、指導標用の棒14をボール15の貫通孔151から抜き、印象用トレー1を患者2の口腔内からとりだす。これにより、上下顎の印象及び噛み合わせが採得される。
(上下顎の石膏模型の製作方法)
次に、上述の印象の採得方法により得られた、印象材が保持された印象用トレー1を用いて歯科技工士により石膏模型が製作される。
一般に、医師や歯科衛生士により口腔内の印象が採得された印象材は、歯科技工所へ搬送されて、歯科技工士によって石膏模型の製作及びこの石膏模型を用いた歯科補綴物の製作が行われる。歯科技工士によって製作された歯科補綴物は、医師に搬送される。
印象用トレー1は、指導標用の棒14がボール15から抜かれた状態で、歯科技工所へ搬送される。このように指導標用の棒14が抜かれた状態で搬送されるので、配送物の小型化が可能となる。また、指導標用の棒14が挿入された状態で印象用トレー1が搬送されてもよいが、この場合、指導標用の棒14が搬送中に何かにぶつかって、固定されていたボール15の位置がずれることがないように梱包する等すればよい。
以下、図12及び図13を用いて石膏模型の製作方法について説明する。
図12は上述の咬合器4を用いて上下顎の石膏模型を製作する様子、図13は製作された上下顎の石膏模型が咬合器4に設置されている様子を示す。
まず、上顎、下顎それぞれの印象がついた印象材23a、23bがスクリーン20の両面にそれぞれ保持された印象用トレー1の略弓状のフレーム16を囲むようにシートをフレーム16に貼り付ける。この際、シートは、Z軸方向に印象材23a及び印象材23bそれぞれから突出するように配置する。これにより、上下顎の印象材23a及び23bとシートにより形成された壁により囲まれた空間を形成する。
次に、上顎の印象材23aとシートにより形成された空間内に石膏25aを流しいれ、更に、下顎の印象材23bとシートにより形成された空間内にも石膏25bを流しいれる。次に、図12に示すように、石膏25a及び25bが完全に硬化する前に、インサイザルピン46をボール15の貫通孔151に挿入し、咬合器4の上顎支持部44に着脱可能に設けられたゴム製の上顎側土台31と石膏25aとが接触し、咬合器4の下顎支持部43に着脱可能に設けられたゴム製の下顎側土台32と石膏25bとが接触するように印象用トレー1を咬合器4に配置する。この状態を維持して石膏25a及び25bが硬化するまで待機する。
上下顎の石膏模型25a及び25bの製作後、図13に示すように、印象用トレー1、上顎の印象材23a及び下顎の印象材23bを取り去り、下顎側土台32、下顎の石膏模型25b、上顎の石膏模型25a及び上顎側土台31からなる作業模型25が完成する。この作業模型25は、印象用トレー1の位置決めされたボール15の貫通孔151にインサイザルピン46を挿入して石膏を硬化させて製作されているので、患者の鼻筋と上下顎の位置関係とが正確に再現されたものとなる。
以上のように、本実施形態ではトリプルトレーの印象用トレーを用いているので、口腔内の上下の印象とともに噛み合わせも採得することができる。そして、この上下の印象及び噛み合わせが採得された印象材を印象用トレーに保持した状態で、上下顎の石膏模型を製作するので、上下の印象及び噛み合わせが正確に再現された作業模型を得ることができる。
更に、印象用トレーに指導標用の棒を設けて患者の鼻筋と上下顎の位置関係を取得し、この位置関係を咬合器のインサイザルピンを用いて再現して作業模型を製作するので、鼻筋と上下顎の位置関係が正確に再現され、患者の顔の特徴をより一層正確に再現した作業模型を得ることができる。例えば、鼻筋に対して歯列の中心がずれていたり、鼻筋に対して上顎と下顎との境界が略垂直ではなく傾いていても、歯列の中心のずれや傾きも再現することができ、鼻筋と歯列の中心との位置関係や顎の傾きが再現された石膏模型を製作することができる。
(作業模型を用いた歯科補綴物の製作方法)
上述の咬合器4に設置された作業模型25を用いた銀のクラウン(歯科補綴物)の製作方法について説明する。
まず、製作した作業模型25から、クラウンを被せる対象の歯の部分を切り出す。切り出したクラウンをかぶせる対象の歯の部分石膏模型の土台に接していた面にダウエルピンを植え付ける。また、土台に、ダウエルピンが挿入される孔を形成する。
次に、クラウンを被せる対象の歯の部分石膏模型の歯の部分にワックスを塗り、ワックスを塗った部分石膏模型を、咬合器4に設置されている作業模型25に戻す。そして、咬合器4で上顎の石膏模型25aを動かして、顎の動きを再現させ、クラウンを被せる対象の歯と他の歯との噛み合わせや周囲との調和、歯茎の状態等を確認しながら、ワックスを削ったり、ワックスを補填しながらして慎重に歯の形状のワックスパターンを形成する。
次に、ワックスパターンを鋳型となる埋没材中に埋没させ、これを高温で加熱する。これにより、ワックスは溶け、ワックスパターンが存在した部分が空洞となる鋳型が形成される。その後、この空洞に溶かした金属、ここでは銀を流し込み、冷却し、鋳型材から金属を取り出し、表面を研磨するなどの仕上げをしてクラウンを製作する。
次に、製作したクラウンを、クラウンを被せる対象の歯の部分石膏模型に被せ、これを咬合器4に設置された作業模型25に戻して、隣りの歯との接触状態を調整したり、咬合器4で上顎の石膏模型を動かし、顎の動きを再現させて噛み合わせ等をみながら、クラウン表面を削ったりし、クラウンの細かい溝等の調整を行い、クラウンを製作する。
以上のように、本実施形態では、指導標用の棒14を備えた印象用トレー1を用いて印象を採得し、指導標用の棒14を用いて位置決めされたボール15の貫通孔151に咬合器4のインサイザルピン46を挿入して作業模型25が製作されるので、上下顎の印象及び噛み合わせの再現性が高い。また患者の顔写真を見ながら作業模型を製作する必要がないので、手間を要することなく、患者の鼻筋と顎との位置関係が正確に再現された作業模型を得ることができる。そして、このような患者の口腔内の特徴が再現された作業模型を用いて歯科補綴物が製作されるので、患者の口腔内の状態に適した歯科補綴物を製作することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論であり、以下に説明する。
<第2の実施形態>
上述の実施形態においては、採得した印象に石膏を流し込んで上下顎の石膏模型を製作したが、採得した印象をCAD/CAMシステムで直接読み取り、3Dプリンタ技術を利用して作業模型を製作することもできる。具体的には、印象用トレー1を使用して、患者の印象を採得し、印象用トレー1に印象材を保持したまま印象面を指導標用の棒を基準として光学式の読み取り手段でスキャンする。
現在知られている、CAD/CAMシステムを用いて歯科補綴物を製作する技術としては、例えば特開2007-209575号公報、特開2012-217622号公報等に記載された技術が挙げられる。
CAD/CAMシステムでは、スキャンした3DデータをCADに取り込み、CADにて患者の鼻筋と顎の位置関係が正確に再現された作業模型を設計し、設計データをCAMに送信する。そして、CAMにて作業模型が製作され、仕上げが行われる。
<第3の実施形態>
また、上述の印象用トレー1は、トレー本体12と指導標部11とが連結し固定されて構成されるが、図14に示す印象用トレー201のように、指導標部211がトレー本体212から着脱可能な構成としてもよい。図14において、印象用トレー1と同様の構成については同様の符号を付し、その説明を省略する。また、トレー本体がスクリーンとフレームを有する構成は上記印象用トレー1と同様であり、ここでは説明を省略する。
図14に示すように、印象用トレー201は、トレー本体212と、該トレー本体212に連結する指導標部211を有する。指導標部211は、一端に固定用ネジ13が設けられ、他端に突起部211aが設けられている。トレー本体212には、突起部211aの挿入及び脱去が可能な凹部2121が設けられ、指導標部211がトレー本体212から着脱可能となっている。これにより、印象材が保持された印象用トレーの運搬の際、指導標部211をトレー本体212から脱去し、小型化して運搬することが可能となる。
<第4の実施形態>
上述の実施形態においては、指導標用の棒14をボール15から着脱可能に構成したが、指導標用の棒がボール15に固定されていてもよい。この際、指導標用の棒は、ボール15を貫通し、貫通孔151を形成する2つの開口それぞれから指導標用の棒が突出した形状となっている。このようにトレー本体に連結される指導標部に指導標用の棒が回転可能に枢着されてもよい。このように指導標用の棒14がボール15に固定された印象用トレーを用いて作業模型を製作する場合、上述の咬合器4のインサイザルピン46の代わりに指導標用の棒14を用いることができる。例えば、上述の咬合器4のインサイザルピン46を外し、代わりに指導標用の棒14を設置し、位置を調整し、インサイザルピン用ネジ49により位置を固定することができる。
<第5の実施形態>
上述の実施形態においては、上顎の石膏模型25a及び下顎の石膏模型25bの製作時にインサイザルピン46を用いて印象用トレーの位置決めを行っていたが、これに限定されない。例えば、印象用トレー1で採得した印象材を用いて上下顎の石膏模型を予め製作しておき、この石膏模型と土台とを第2の石膏により接着させて作業模型を製作する際に、印象取得時に指導標用の棒によって位置決めされたボールの孔に咬合器のインサイザルピンを挿入して印象用トレーの位置決めを行ってもよい。具体的には、次のようにして作業模型を製作することができる。
まず、上顎、下顎それぞれの印象がついた印象材23a、23bがスクリーン20の両面にそれぞれ保持された印象用トレー1の略弓状のフレーム16を囲むようにシートをフレーム16に貼り付ける。この際、シートは、Z軸方向に印象材23a及び印象材23bそれぞれから突出するように配置する。これにより、上下顎の印象材23a及び23bとシートにより形成された壁により囲まれた空間を形成する。
次に、上顎の印象材23aとシートにより形成された空間内に第1の石膏を流しいれ、更に、下顎の印象材23bとシートにより形成された空間内に第1の石膏を流しいれる。第1の石膏を硬化させ、シートを剥がして、上下顎の石膏模型25a及び25bを製作する。
次に、上顎の石膏模型25aの上顎の印象材23aと接する側と対向する面に、クラウンを被せる歯の部分、それ以外の歯の部分それぞれに対応させて、ダウエルピンが植えつけられる孔を設ける。その後、この孔にダウエルピンを植え付け、ダウエルピンを上顎の石膏模型25aに固定する。同様に、下顎の石膏模型25bにダウエルピンを植え付け、固定する。
次に、上顎の石膏模型25aのダウエルピンが植えつけられている面上及び下顎の石膏模型25bのダウエルピンが植え付けられている面上それぞれに第2の石膏を盛り付ける。第2の石膏を盛りつけた印象用トレー1のボール15の貫通孔151にインサイザルピン46を挿入し、咬合器4に印象用トレー1を配置する。この状態を維持して第2の石膏が硬化するまで待機する。
第2の石膏の硬化後、印象用トレー1、上顎の印象材23a及び下顎の印象材23bを取り去り、作業模型が完成する。このように製作された作業模型は、印象採得時に指導標用の棒14によって位置決めされ固定されたボール15の貫通孔151に咬合器4のインサイザルピン46を挿入した状態で第2の石膏の硬化が行われて製作されるので、患者の鼻筋と顎の位置関係とが正確に再現されたものとなる。
また、この製作方法により、上顎の石膏模型(下顎の石膏模型)と、上顎側土台31(下顎側土台32)との間に設けられる第2の石膏には、ダウエルピンが第2の石膏に突き刺さることによりダウエルピンが挿入される孔が設けられる。これにより、クラウンを被せる対象となる部分の歯の模型を石膏模型から切り出したとき、切り出した石膏模型にはダウエルピンが設けられ、また、このダウエルピンが挿入される孔が第2の石膏に設けられる。このような構成とすることにより、ダウエルピンを位置決め用のピンとして用い、切り出した石膏模型を元の作業模型に戻したり、取り外したりを繰りかえすことができる。
<第6の実施形態>
第1の実施形態においては、ボール15の位置をトレー本体12に対して相対的に可変可能とする可変機構として、ボール15がXY平面上で移動可能となる空間部17を設けたが、これに限定されない。例えば、ボールが設置される指導標部をトレー本体と分離可能に構成し、指導標部のトレー本体に対する相対的な位置を任意に調整可能な構成とすることにより、ボール15の位置をトレー本体12に対して相対的に可変可能としてもよい。以下図15~図206を用いて説明する。
図15~図20は、本実施形態の印象用トレー501を表した図である。図15は印象用トレー501の模式的な平面図であり、位置決め部材の蓋状部材を閉め、位置決め部材により指導標部のフランジ部を固定した状態を示す。図17は、図16に示す印象用トレー501の位置決め部材の蓋状部材を開けた状態の模式的な平面図である。図17は、図15に示す印象用トレー501の模式的な側面図であり、位置決め部材の蓋状部材を閉め、指導標部とトレー本体とを離間させている状態を示す。図18は図15の線XV-XVで切断した断面図である。図19及び図20は、印象用トレー501の可変機構を説明する模式的な背面図であり、図19は位置決め部材の蓋状部材を開けている状態、図20は位置決め部材の蓋状部材を閉めている状態を示す。
本実施形態に係る印象用トレー501も第1の実施形態と同様に上下顎、咬合の3つの印象を採得するトリプルトレーであって、歯列弓全体を採得することが想定されたトレーである。印象用トレー501は、患者の口腔内に挿入して噛ませることで印象を採得する印象材を保持することができるように構成されている。
印象用トレー501は、トレー本体512と、位置決め部材521と、指導標部511と、指導標用の棒14と、ボール15と、回転止め部としての固定用ネジ513とを備えている。
図15及び図16に示すように、トレー本体512は、第1の実施形態と同様にフレームとスクリーンとを有する。フレームとスクリーンの構成は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。トレー本体512と位置決め部材521とは結合して構成され、トレー本体512及び位置決め部材521と、指導標部511とは、離間可能に構成されている。
図16に示すように、可変機構である位置決め部材521は、印象用トレー501を用いて印象を採得する際、トレー本体512の前歯の印象を採得する側となる弓の中央部付近に結合される。位置決め部材521は、蝶番構造で連結された箱状部材5212と蓋状部材5211を備える。蓋状部材5211には孔527を有する軸筒529が設けられる。箱状部材5212には軸筒529が挿入される平面形状がコの字型の窪み528を有する。また、箱状部材5212は、窪み528を形成する向かい合う面及びこの面と平行に位置する箱状部材の側壁面にそれぞれ設けられた複数の孔526を有する。これら複数の孔526と蓋状部材5211に設けられている軸筒529の孔は一直線上に配置され、これらの孔すべてを貫通するようにピンが設けられ、蝶番構造が形成される。位置決め部材521では、ピンを軸にして蓋状部材5211の開閉が可能となっている。
更に、図16、図19及び図20に示すように、位置決め部材521は、蝶番構造が形成される端部と対向する端部に、蓋状部材5211を閉めた状態で箱状部材5212と蓋状部材5211とを固定する固定用ネジ541が設けられている。固定用ネジ541は、蓋状部材5211に設けられている内壁面が雌ネジ状の貫通孔523と、箱状部材5212に設けられえている内壁面が雌ネジ状の孔524に挿入可能となっている。
図19に示すように、蓋状部材5211を開けた状態では、固定用ネジ513は貫通孔532にのみ挿入されて保持される。
図20に示すように、蓋状部材5211を閉めた状態では、箱状部材5212の開口空間530aと蓋状部材5211の開口空間530bとからなる、略直方体形状の固定用空間530が、位置決め部材521内に形成される。箱状部材5212の内底面と蓋状部材5211の内底面とは互いに平行にある。
蓋が閉じた状態の外径が直方体状の位置決め部材521では、位置決め部材521の側面521aには固定用空間530に通ずる開口部534が形成される。蓋状部材5211を閉めて箱状部材5212と蓋状部材5211とを固定するときは、固定用ネジ541は貫通孔532及び孔533に挿入され、ネジが締められて、位置決め部材521は蓋が閉じた直方体の形状となる。開口部534は、細長い矩形状を有しており、開口部534のZ軸方向における縦の長さは、固定用空間530の高さ、すなわち、箱状部材5212の内底面と蓋状部材5211の内底面の距離よりも短い。
図17に示すように、指導標部511は、フランジ部5111とボール設置部5112とが結合した形状を有する。指導標部511は、一端にボール15及びボール15を回転可能に保持する後述する保持部(図18における符号5114)を有する。指導標部511の他端であるフランジ部5111は位置決め部材521の固定用空間530内に配置され任意の位置で固定される部分である。
フランジ部5111は、ボール設置部5112から突出した直方体形状を有する。フランジ部5111のZ軸方向における高さは、固定用空間530の高さと同じである。フランジ部5111のX軸方向における縦の長さ及びY軸方向における横の長さはそれぞれ、固定用空間530の縦の長さ及び横の長さよりも小さい。これにより、箱状部材5212の開孔空間530a内にフランジ部5111を配置する際、フランジ部5111の配置位置を任意に変えることができる。そして、フランジ部5111の配置位置を変えることによって指導標部511の長手方向に沿った指導標部511の中心線と、X軸方向に沿ったトレー本体512の中心線との位置関係を任意に調整することができる。
図19に示すように、フランジ部5111は、指導標部511の位置決め時、位置決め部材521の蓋状部材5211を開けた状態で、箱状部材5212の開口空間530a内に配置される。指導標部511の位置決めが行われる間は、蓋状部材5112は開けられた状態となっている。そして、指導標部511の位置決め後、図20に示すように、蓋状部材5211が閉められ、固定用ネジ541で箱状部材5212と蓋状部材5211とが固定されることにより、フランジ部5111は固定用空間530内で位置が移動しないように固定される。
ボール設置部5112は、ユーザが作業をするときに持つ把持部となっており、X方向に長い形状を有する。指導標部511は、一端にボール15、保持部5114、固定用ネジ513を備え、他端はフランジ部5111と結合している。
指導標部511は、球体のボール15と、保持部5114を有する。
ボール15は、指導標用の棒14が挿入される貫通孔151を有する。指導標用の棒14は、貫通孔151から挿入及び脱去可能に構成される。
図18に示すように、保持部5114は、指導標部511の内部に形成された、ボール15よりやや大きい略球形状の空間である。保持部5114は、指導標部511の上下の両面それぞれに設けられている開口部5116及び5113と空間的につながっており、保持部5114、開口部5116及び5113により、指導標部511を厚さ方向(Z軸方向)に貫通する貫通孔を形成している。開口部5116及び5113は、略円形状の平面形状を有し、それらの直径は、ボール15の直径よりも小さく設定される。これにより、ボール15が指導標部511から脱離することがない。
ボール15は保持部5114により保持され、保持部5114内で回転可能に構成される。また、開口部5116からは、ボール15に挿入された指導標用の棒14が突出するように構成される。ボール15の貫通孔151に指導標用の棒14を挿入した状態で、ボール15をボール15の中心を中心として回転させることにより、指導標用の棒14の傾きを調整することができる。
固定用ネジ513は、指導標部511の側面に設置される。固定用ネジ513は、指導標部511の側面から保持部5114に向かって図面X軸方向に形成された雌ネジ状の内壁面を有する孔5115に挿入可能に構成される。孔5115と保持部5114とは空間がつながっている。固定用ネジ513を、保持部5114の内壁面に向かってボール15を押し込むように、回して締めることにより、固定用ネジ513は、ボール15を回転止めし、ボール15の位置を保持部5114内で固定する。また、固定用ネジ513を緩めることにより、ボール15は保持部5114内で回転可能となる。
患者の口腔内に、印象材を保持させた印象用トレー1を噛ませることで口腔内の上下の印象(上顎及び下顎の歯の形)及び噛み合わせを採得する際、指導標部511のフランジ部5111を、蓋状部材5211を開けた状態で箱状部材5212の開口空間530a内に配置し、患者の正面を見ながら、患者の鼻筋と指導標用の棒14とが一致するように、箱状部材5212の内底面上でフランジ部5111を移動させ、更に、指導標用の棒14の傾きを調整する。そして、患者の鼻筋と指導標の棒14とが一致した位置で、蓋状部材5211を閉め、固定用ネジ541で蓋状部材5211と箱状部材5212とを固定してフランジ部5111を固定空間530内で動かないように固定し、更に、ボール15を固定用ネジ513により回転しないように固定する。
このように、本実施形態の印象用トレー501においては、指導標部511とトレー本体512とを離間可能とし、トレー本体512に結合する位置決め部材521にて指導標部511を任意の位置で固定可能な構成としたので、ボール15の位置をトレー本体12に対して相対的に可変可能とすることができる。更に、ボール15を回転可能な構造とし、かつ、ボール15の位置を固定してボール15の回転を止める固定用ネジ513を設けることにより、ボール15の貫通孔151に挿入される指導標用の棒14の傾きを任意の位置で固定することが可能となる。
<第7の実施形態>
第1の実施形態に係る印象用トレーの構成に加えて、印象採得時の位置合わせ用の補助ピンを指導標用の棒14に設けても良い。以下、図21を用いて説明する。尚、上述の印象用トレー1の同様の構成については同様の符号を付し、その説明を省略する。
図21に示すように、印象用トレー601は、指導標用の棒14に貫通し、指導標用の棒14に対して垂直に配置、固定される補助ピン602を有する。補助ピン602は、印象採得時に、患者が印象用トレー601を噛んだ時に患者の鼻の下付近に位置するように設けられる。補助ピン602の先端を鼻柱の中心付近に合わせ、補助ピン602の先端が動かないように指導標用の棒14の傾きを鼻筋にあうように調整することができる。このように、補助ピン602は、指導標用の棒14の回転の中心に近い位置に配置されるので、指導標用の棒14の傾きを鼻筋にあうように調整することが容易となる。これにより、患者の口腔内をより再現することができる作業模型を製作することができる。
<第8の実施形態>
第1の実施形態に係る印象用トレーの構成に加えて、印象採得時の左右位置合わせ用の一対の耳係止部に設けても良い。以下、図22を用いて説明する。尚、上述の印象用トレー1の同様の構成については同様の符号を付し、その説明を省略する。
図22に示すように、印象用トレー801は、ボール設置部112の両側に耳係止部802、802が設けられている。
耳係止部802、802は典型的には棒状の部材からなり、一端がボール設置部112に回動可能に支持され、他端が患者の耳に挿入される例えばイヤホン形状の係止部材803が設けられ、更に顎の回動位置に対応する位置に位置決め部材804が設けられている。一対の耳係止部802、802はボール設置部112に対してそれぞれ独立して回動可能な構成であってもよく、また相互に連結されていて共に回動可能な構成であってもよく、或いはボール設置部112に固定されていてもよい。各位置決め部材804は、係止部材803と同じ方向に突出し、相互に対向するように設けられている。
印象採得時には、一対の耳係止部802を介して印象用トレー801を患者の耳に係止する。これにより、印象採得時に印象用トレー801の左右の位置合わせを行う。
図9及び図10に示した咬合器4の上部フレーム42の軸45と一致する位置に、上記の位置決め部材804が回転可能に係止する一対の係止部材(図示を省略)を設ける。
これにより、上顎及び下顎の石膏模型を製作する際、印象用トレー801が左右に正確に位置決めされると共に、その後患者の顎の動きに近い動きで噛み合わせを行うことができる。