JP7088069B2 - 磁性粉末の製造方法 - Google Patents

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Description

本開示は、磁性粉末の製造方法、特に、ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系合金(Rは希土類元素、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素)を原材料とする磁性粉末の製造方法に関する。
永久磁石の応用はエレクトロニクス、情報通信、医療、工作機械分野、産業用・自動車用モータなど広範な分野に及んでいる。そして、二酸化炭素排出量の抑制の要求が高まっている中、ハイブリッドカーの普及、産業分野での省エネ、発電効率の向上などで近年さらに高特性の永久磁石開発への期待が高まっている。
高性能な永久磁石として、希土類磁石が挙げられる。希土類磁石には、R-Fe-B系磁石、Sm-Fe-N系磁石(SmFe17系磁石)、ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系磁石(Rは希土類元素、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素)等が挙げられる。
これらの希土類磁石(バルク磁石)の製造には、原材料となる合金を粉砕した磁性粉末が用いられる。原材料となる合金を粉砕したとき、磁性粉末にひずみが残留すると、その残留ひずみによって、異方性磁界が向上しないことが知られている。そして、そのような磁性粉末を用いてバルク磁石を得ても、保磁力が向上しないことが知られている。そのため、磁性粉末の残留ひずみを除去する試みがなされている。
例えば、特許文献1には、Sm-Fe-N系磁石(SmFe17系磁石)において、ひずみ除去熱処理をすることが開示されている。具体的には、窒化前のSm-Fe合金の粗粉砕粉末を、粒径が5μm以下の粉末に粉砕し、その粉末の圧粉体を、1気圧以上の不活性ガス雰囲気中、550~850℃で1~3時間にわたり熱処理して、ひずみを除去することが開示されている。
特開2004-303881号公報
ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系合金(Rは希土類元素、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素)を粉砕して原材料粉末を得て、その原材料粉末を、特許文献1に従ってひずみ除去熱処理しても、異方性磁界が充分に向上しなかった。また、このようなひずみ除去熱処理をした磁性粉末を用いて希土類磁石(バルク磁石)を得ても、磁性粉末の異方性磁界の向上から予測されるほどには、希土類磁石(バルク磁石)の保磁力が向上していなかった。
これらのことから、ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系合金の磁性粉末を用いて、希土類磁石(バルク磁石)を得るにあたり、本発明者らは、次の課題を見出した。すなわち、上記磁性粉末を用いた希土類磁石(バルク磁石)の保磁力を向上するには、磁性粉末の製造方法、特に、原材料粉末の熱処理の改善が必要である、という課題を本発明者らは見出した。
本開示は、ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系合金の磁性粉末の製造方法に関し、希土類磁石(バルク磁石)の保磁力が向上する磁性粉末の製造方法を提供することを目的とする。
発明者らは鋭意検討の結果、本開示の磁性粉末の製造方法を完成させた。本開示の磁性粉末の製造方法には、次の態様が含まれる。
〈1〉ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系合金(Rは希土類元素であり、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素である)を粉砕して、メジアン径が1~10μmの原材料粉末を得ること、及び、
前記原材料粉末を、酸素濃度が0~0.01ppmの不活性ガス雰囲気中、1000~1200℃の温度で、30~120分にわたり熱処理すること、
を含む、磁性粉末の製造方法。
本開示の磁性粉末の製造方法によれば、磁性粉末中で、ひずみの除去により異方性磁界を向上させるだけでなく、αFe相の量を低減させることによって、希土類磁石(バルク磁石)の保磁力を向上させることができる。
実施例1~4及び比較例1~3の試料について、熱処理温度と半値半幅の関係を示すグラフである。 実施例1~5及び比較例1~4の試料について、HaとMsの関係を示すグラフである。 実施例1~4及び比較例1~3の試料について、熱処理温度とαFe相の量の関係を示すグラフである。 実施例1及び比較例1の試料について、2θと強度の関係を示すグラフである。 図4について、2θが35~38度の範囲を拡大したグラフである。 本開示の磁性粉末の製造方法を模式的に示す説明図である。
以下、本開示の磁性粉末の製造方法に係る実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の磁性粉末の製造方法を限定するものではない。
理論に拘束されないが、本開示の磁性粉末の製造方法について、図面を用いて説明する。図6は、本開示の磁性粉末の製造方法を模式的に示す説明図である。
本開示の磁性粉末の製造方法は、ThMn12型の結晶構造を有する相(以下、「1-12相」ということがある。)を含有するR-TM系合金を用いる。本明細書において、特に断りがない限り、Rは希土類元素を意味し、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素を意味する。
1-12相を含有するR-TM系合金は脆いため、この合金を、比較的簡単に、メジアン径が数十μm程度の粗粉砕粉末にすることができる。粗粉砕粉末を、さらに、機械的方法で、メジアン径が10μm以下の原材料粉末に粉砕すると、原材料粉末の粒子の表面には、ひずみが導入されて(残留して)、結晶性が低下する(非晶質になる)。1-12相を含有するR-TM系合金は、1-12相によって磁力が発現するため、原材料粉末の粒子の表面において、結晶性が低下すると、原材料粉末全体の磁気特性、特に、異方性磁界が向上しない。
1-12相を含有するR-TM系合金は、Rの種類によっては、窒化されることによって実用的な磁気特性が得られる。1-12相を含有するR-TM系合金が窒化されると、窒素は、1-12相中の特定位置に侵入する。そのため、窒化前の原材料粉末の粒子表面において、その結晶性が低下していると、その結晶性が低下した部分では窒素が不規則に侵入するため、原材料粉末全体の磁気特性、特に、異方性磁界が向上しない。
金属(合金を含む)材料において、機械的方法で導入されたひずみを除去するためには、熱処理が有効である。そして、ひずみ除去熱処理は、熱処理対象物の材質が変化しないように、比較的低温で行われるのが一般的である。
しかし、熱処理対象物が1-12相を含有するR-TM系合金である場合には、従来と異なり、熱処理対象物の材質変化を伴う高温で、所定の時間以上にわたって熱処理することによって、次のような良好な結果が得られることを、本発明者らは知見した。すなわち、1000~1200℃で30分以上にわたって熱処理することによって、ひずみが一層除去されて、異方性磁界が向上し、αFe相の量を低減できる。そして、1-12相を含有するR-TM系合金の原材料粉末に、このような熱処理を施して得た磁性粉末を用いて、希土類磁石(バルク磁石)を成形すると、希土類磁石(バルク磁石)の保磁力が向上する。さらに、高温でのひずみ除去熱処理においては、熱処理雰囲気中の酸素濃度を著しく低くすることによって、熱処理対象物の酸化を抑制するだけでなく、ひずみ除去が阻害されることを回避でき、αFe相の量の低減が阻害されることを回避できる。
理論に拘束されないが、1000~1200℃で30分以上にわたって原材料粉末を熱処理すると、熱処理後の磁性粉末中のαFe相の量を低減できる理由は次のとおりであると考えられる。1-12相を含有するR-TM系合金においては、600~800℃で1-12相の一部が分解し、αFe相が生成する。そのため、原材料粉末を1000~1200℃まで昇温する過程で、原材料粉末の温度が600~800℃になると、1-12相の一部が分解して、αFe相が生成する。そして、原材料粉末の温度が800℃を超えると、αFe相とR-TM系合金中のRとが結合して、1-12相を再生成し、その結果、αFe相の量が減少する。1-12相の再生成は、1000~1200℃で顕著である。そして、1-12相の再生成には、所定の時間、すなわち、30分以上を要する。
これまでに説明した知見に基づいて完成された本開示の磁性粉末の製造方法に係る構成要件は、次のとおりである。
〈粉砕工程〉
本開示の磁性粉末の製造方法は、1-12相を含有するR-TM系合金を粉砕した原材料粉末を用いる。
上述したように、Rは希土類元素である。本明細書において、希土類元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの17元素である。Scはスカンジウム、Yはイットリウム、Laはランタン、Ceはセリウム、Prはプラセオジム、Ndはネオジム、Pmはプロメチウム、Smはサマリウム、Euはユウロビウム、Gdはガドリニウム、Tbはテルビウム、Dyはジスプロシウム、Hoはホルミウム、Erはエルビウム、Tmはツリウム、Ybはイッテルビウム、そして、Luはルテニウムである。また、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素である。なお、Feは鉄である。
R-TM系合金は、RとTMを含有し、合金中の少なくとも一部に1-12相が存在していれば、その組成は特に制限されない。磁気特性確保の観点から、R-TM系合金全体に対する、1-12相の含有量は多い方がよい。このことから、R-TM系合金全体に対する、1-12相の含有量は、80体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上であってよい。一方、R-TM系合金中、そのすべてが1-12相でなくても、実用上、問題はない。このことから、R-TM系合金全体に対する1-12相の含有量は、99体積%以下、98体積%以下、又は97体積%以下であってよい。
R-TM系合金中の1-12相は、典型的には、(R(1-x)Zr(Fe(1-y)Co11 で表すことができる。Rは希土類元素、Zrはジルコニウム、Feは鉄、Coはコバルト、そして、TはTi、V、Mo及びWからなる群より選ばれる一種種以上の遷移金属元素である。R及びZrの合計が1モルに対して、Fe、Co、Tの合計が12モルである。x及びyはモル比である。R、Zr、Fe、Co、及びTの作用及び効果、並びにx及びyの範囲については後述する。
1-12相としては、例えば、NdFe11Ti相、Nd(Fe0.7Co0.311Ti相、(Nd0.9Zr0.1Fe11Ti相、SmFe11Ti相、Sm(Fe0.7Co0.311Ti相、及び(Sm0.9Zr0.1Fe11Ti相等が挙げられる。
Rの種類によっては、1-12相を窒化することによって、実用的な磁気特性が得られる。RとしてNd、La、Ce、Pr、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、又はLuを選択した場合、1-12相を窒化することによって、実用的な磁気特性が得られる。RとしてSm、Pm、Er、Tm、又はYbを選択した場合、1-12相を窒化しなくても、実用的な磁気特性が得られる。窒化については、後述する。
R-TM系合金の組成を一般式で表すと、典型的には、式(R(1-x)Zr(Fe(1-y)Co で表される。上記式中、Rは一種種以上の希土類元素であり、Zrはジルコニウムであり、Feは鉄であり、Coはコバルトであり、TはTi、V、Mo及びWからなる群より選ばれる一種種以上の遷移金属元素であり、MはCr、Cu、Ag及びAuからなる群より選ばれる一種以上の遷移金属元素、Al及びGaからなる群より選ばれる一種以上の典型元素、並びに不可避的不純物元素である。Tiはチタン、Vはバナジウム、Moはモリブデン、Wはタングステン、Crはクロム、Cuは銅、Agは銀、Auは金、Alはアルミニウム、そして、Gaはガリウムである。また、上記式中、x及びyは、モル比で、0≦x≦0.30、0≦y≦0.30であり、a、b、c及びdは、原子%で、7.7≦a≦9.4、b=100-a-c-d、3.1≦c≦7.7、及び、0≦d≦1.0である。
RはFeと1-12相を形成して、本開示の製造方法で得られる磁性粉末が磁力を発現する。R及びFeは、本開示の磁気粉末の製造方法で用いるR-TM系合金において、必須の元素である。
Rの一部は、Zrで置換されていてもよい。Zrは、1-12相の安定に寄与する。1-12相内のRをZrで置換することによって、1-12相の結晶格子に収縮が生じて、1-12相が安定する。一方、磁気特性面では、Rの一部がZrで置換されることによって、Rに由来する強い異方性磁界は弱められる。したがって、1-12相の安定と磁気特性の両面からZrの含有量を決定すればよい。Zrの含有量は、R(1-x)Zrで表される希土類サイトのモル比xで表される。xは、0以上、0.05以上、0.10以上、又は0.15以上であってよく、0.30以下、0.25以下、又は0.20以下であってよい。なお、Rの一部がZrで置換されている場合には、1-12相のRの位置にZrが置換されていると考えられる。
R及びZrの合計含有量は、R(1-x)Zrで表される希土類サイトの含有量aで表される。1-12相が分解されると、αFe相の量が増加する。1-12相が分解され難くなれば、αFe相の量が増加し難くなる。この観点からは、希土類サイトの含有量aは、7.7原子%以上、7.8原子%以上、7.9原子%以上、又は8.0原子%以上であってよい。一方、異方性磁界の低下を抑制する観点からは、希土類サイトの含有量aは、9.4原子%以下、9.2原子%以下、8.7原子%以下、又は8.5原子%以下であってよい。
はTi、V、Mo及びWからなる群より選ばれる一種以上の遷移金属元素である。Tは、1-12相の安定に寄与する。この観点からは、Tの含有量cは、3.1原子%以上、3.5原子%以上、4.0原子%以上、5.0原子%以上、又は5.5原子%以上であってよい。一方、Tの含有量が過剰であると、R-TM系合金を構成するFeの含有量が低くなり、磁性粉末の飽和磁化が低下する。飽和磁化の確保の観点からは、Tの含有量cは、7.7原子%以下、7.5原子%以下、7.3原子%以下、7.0原子%以下、又は6.5原子%以下であってよい。
は、Cr、Cu、Ag及びAuからなる群より選ばれる一種以上の遷移金属元素、Al及びGaからなる群より選ばれる一種以上の典型元素、並びに不可避的不純物元素である。Cr、Cu、Ag、Au、Al、及びGaは、R-TM系合金中に適量含有することによって、本開示の磁性粉末の製造方法の成果物(磁性粉末)を用いて得られる希土類磁石の磁気特性等を阻害しない範囲で、特定の特性の向上に寄与する。特定の特性とは、例えば、得られる磁性粉末の耐食性、あるいは、得られる磁性粉末を焼結する際の焼結性等である。Mには、これらの元素の他に、不可避的不純物元素も含まれる。不可避的不純物元素とは、R-TM系合金の原材料に不可避に含有する不純物元素、あるいは、R-TM系合金の製造時に不可避に混入する不純物元素等である。
の含有量dは、1.0原子%以下、0.8原子%以下、0.6原子%以下、0.4原子%以下、又は0.2原子%以下であってよい。Mの含有量dは、0原子%であってもよいが、これまでに述べたMの含有量dの上限を満たす範囲で、0.1原子%以上であっても、実用上問題ない。なお、理論に拘束されないが、Mは、1-12相の粒界中に存在しているか、1-12相に侵入型で存在していると考えられる。
本開示の磁性粉末の製造方法で用いるR-TM系合金は、これまでに説明したR、Zr、T及びMを含有し、残部が主要元素のFeである。R-TM系合金における残部(Fe)の含有量b(原子%)は、100-a-c-dで表される。上述したように、FeとRが1-12相を形成することによって、本開示の製造方法で得られる磁性粉末が磁力を発現する。
Feの一部は、Coで置換されていてもよい。Feの一部がCoで置換されていると、スレーターポーリング則により、自発磁化が増大して、異方性磁界と飽和磁化の両方が向上する。スレーターポーリング則の効果は、上記式中において、FeのCoによる置換率y(モル比)が0.30以下のときに顕著である。また、Feの一部がCoで置換されていると、磁性粉末のキューリー点が上昇するため、高温での飽和磁化の低下が抑制される。これらの観点から、FeのCoによる置換率yは、0以上、0.05以上、0.10以上、又は0.15以上であってよく、0.30以下、0.26以下、0.24以下、又は0.20以下であってよい。なお、Feの一部がCoで置換されている場合には、αFe相はα(Fe、Co)相になっていると考えられる。
R-TM系合金の製造方法は、特に制限されない。R-TM系合金の製造方法としては、例えば、混合した原材料をアーク溶解してそのまま凝固させる方法、溶湯をブックモールドに鋳造する方法、あるいは、ストリップキャスト法等が挙げられる。溶湯を急冷すると、αFe相の生成を抑制できるため、急冷効果が高いストリップキャスト法が好ましい。ストリップキャスト法は、冷却ロールの周速によって、溶湯の冷却速度を制御でき、典型的な冷却速度は、1×10K/秒~1×10K/秒である。このような冷却速度で得られたR-TM系合金のαFe相の量は、R-TM系合金全体に対して、1~3体積%である。
粉砕前のR-TM系合金の形態は、特に制限されない。粉砕前のR-TM系合金の形態としては、例えば、塊状物、薄片、及び薄帯、並びにこれらの組合せ等が挙げられる。
R-TM系合金は、メジアン径(d50)が1~10μmになるまで粉砕される。このように粉砕された原材料粉末は、後述の熱処理工程に供される。粉砕方法は、特に制限されない。R-TM系合金は、例えば、カッターミル等で粗粉砕された後、さらに、メジアン径が1~10μmになるまでジェットミル等で粉砕されてもよい。あるいは、R-TM系合金は、例えば、ジェットミル等を用いて、一度の粉砕で、メジアン径が1~10μmになるまで粉砕されてもよい。いずれの場合においても、理論に拘束されないが、粒子同士の衝突による物理的な力で、個々の粒子が粉砕されるため、粒子の表面にひずみが導入される(残留する)。
原材料粉末のメジアン径は、原材料粉末及び後述する熱処理工程後の磁性粉末の取扱い及び特性等により決定される。原材料粉末のメジアン径が1μm以上であれば、原材料粉末及び磁性粉末が凝集し難く、また、原材料粉末の粒子において、ひずみが導入される(残留する)領域が広くなり過ぎない。これらの観点からは、原材料粉末のメジアン径は、2μm以上、3μm以上、又は4μm以上であってもよい。一方、原材料粉末のメジアン径が10μm以下であれば、熱処理工程後の磁性粉末を用いた希土類磁石(バルク磁石)の保磁力が向上する。また、窒化によって実用的な磁気特性が得られるRが選択される場合、原材料粉末のメジアン径が10μm以下であれば、窒素ガスを内部まで均一に侵入させることができる。そのため、原材料粉末の異方性磁界を向上させることができ、磁性粉末を用いた希土類磁石(バルク磁石)の保磁力も向上する。これらの観点からは、原材料粉末のメジアン径は、9μm以下、8μm以下、7μm以下であってもよい。
〈熱処理工程〉
原材料粉末を熱処理に供して、磁性粉末を得る。この熱処理により、原材料粉末の粒子表面に導入された(残留する)ひずみを除去できると同時に、熱処理後の磁性粉末中のαFe相の量を低減することができる。磁性粉末中のαFe相の量は、磁性粉末全体に対するαFe相の体積%である。
熱処理温度が1000℃以上であれば、ひずみを除去し、かつ、αFe相の量を低減することができる。この観点からは、熱処理温度は、1050℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましい。一方、熱処理温度が1200℃以下であれば、ひずみを除去する効果及びαFe相の量を低減する効果が飽和せず、1-12相が溶融することもない。これらの観点からは、熱処理温度は、1150℃以下が好ましく、1125℃以下がより好ましい。
上述したように、600~800℃で生成したαFe相が、再度、Rと結合して1-12相を再生成し、αFe相の量を低減するためには、30分以上の熱処理時間を要する。この観点からは、熱処理時間は40分以上が好ましく、50分以上がより好ましい。一方、熱処理温度が120分以下であれば、αFe相の量を低減する効果が飽和しない。この観点からは、熱処理時間は、100分以下が好ましく、80分以下がより好ましく、60分以下がより一層好ましい。熱処理時間は、熱処理温度(保持温度)に達してから、冷却を始めるまでの時間、すなわち、保持時間である。
昇温中に多量のαFe相が生成することを抑制するため、昇温速度は、200~400℃/分が好ましい。また、ひずみが再導入されることを抑制するため、保持時間経過後の冷却速度は、50~200℃/分であることが好ましい。
熱処理は、酸素濃度が0~0.01ppmの不活性ガス雰囲気中で行う。ppmは体積ppmである。通常市販されているアルゴンガスには、0.20ppm程度の酸素を含有するが、本開示の磁性粉末の製造方法では、それよりも低い酸素濃度の不活性ガス雰囲気中で熱処理する。酸素濃度が0.01ppm以下であれば、上述の高温での熱処理で、原材料粉末が酸化することを抑制するだけでなく、ひずみを除去する効果及びαFe相の量を低減する効果が阻害されることを抑制する。これらの観点から、酸素濃度は低い方が好ましいが、酸素濃度を0ppmにできない場合には、酸素濃度の下限は、0.001ppm、0.003ppm、又は0.005ppmであっても、実用上、問題ない。
熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素濃度を0~0.01ppmにする方法については、特に制限はない。例えば、高純度不活性ガス又は超高純度不活性ガスを用いることが挙げられる。これら以外の方法としては、例えば、酸素吸着材(酸素ゲッター材)を用いることが挙げられる。酸素吸着材(酸素ゲッター材)としては、例えば、R-M合金が挙げられる。Rは、Nd及びPrからなる群より選ばれる一種以上の元素であり、Mは、Rと合金化することにより、R-M合金の融点をRの融点よりも低下させる一種以上の合金元素及び不可避的不純物元素である。不可避的不純物元素とは、R-M合金の原材料に不可避に含有する不純物元素、あるいは、R-M合金の製造時に不可避に混入する不純物元素等である。
-M合金を用いる場合には、原材料粉末の熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)にR-M合金の溶湯を接触させる。これにより、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素がR-M合金の溶湯に吸着し、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素濃度が著しく低下する。
熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)にR-M合金の溶湯を接触させる方法に制限はないが、例えば、次のような方法が挙げられる。原材料粉末を装入した容器と、R-M合金を装入した容器を、熱処理炉内に収容して、原材料粉末を熱処理する方法が挙げられる。R-M合金の融点は熱処理温度よりも低いため、熱処理中にR-M合金は溶湯となる。溶湯状態のR-M合金を装入した容器を、原材料粉末を装入した容器とともに熱処理炉に収容して熱処理を開始すれば、原材料粉末の昇温中も、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素濃度を著しく低くすることができる。別の方法としては、原材料粉末の熱処理炉とR-M合金の溶解保持炉を連結して、溶解保持炉の側から不活性ガスを供給する方法が挙げられる。原材料粉末の熱処理開始前から、溶解保持炉中にR-M合金の溶湯を保持し、溶解保持炉の側から不活性ガスを供給すれば、原材料粉末の昇温中も、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素濃度を著しく低くすることができる。
-M合金としては、Nd-Cu合金、Pr-Cu合金、Nd-Al合金、Pr-Al合金、Nd-Pr-Al合金、Nd-Fe合金、Pr-Fe合金、Nd-Ga合金、Pr-Ga合金、Nd-Ni合金、Pr-Ni合金、Nd-Zn合金、及びPr-Zn合金等が挙げられる。これらのR-M合金の二種類以上を、それぞれ、別々の容器に装入して、それらの合金の溶湯を、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)に接触させてもよい。なお、Nd-Cu合金は、Nd及びCu以外の不可避的不純物元素の含有を許容することができる。Nd-Cu合金以外の上記合金についても、不可避的不純物元素の含有は許容される。
-M合金としては、融点が特に低いこと、酸素の吸着性が特に良好であることから、Nd-Cu合金が特に好ましい。また、Nd-Cu合金においては、融点が最も低くなる共晶組成(Nd0.7Cu0.3)付近、すなわち、Nd(1-p)Cu(0.1≦p≦0.5)が特に好ましい。
理論に拘束されないが、本開示の磁性粉末の製造方法において、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素濃度を著しく低くする必要がある理由については、次のように考えられる。原材料粉末中の1-12相はRを含有するため、通常のひずみ除去熱処理温度(550~850℃)でも、原材料粉末は酸化し易い。これまで説明したように、本開示の磁性粉末の製造方法では、原材料粉末を1000~1200℃という高温で熱処理するため、原材料粉末の粒子表面は、非常に酸化され易い。そして、原材料粉末の粒子表面にはひずみが導入されている(残留している)ため、原材料粉末の粒子表面が僅かでも酸化されて酸化物が形成されてしまうと、たとえ高温で熱処理しても、ひずみの除去は困難になると考えられる。また、原材料粉末の粒子表面が僅かでも酸化されて酸化物が形成されてしまうと、昇温の途中で生成したαFe相と粒子中(合金中)のRとが結合して、1-12相を再生成することも困難になると考えられる。これらのことから、高温での熱処理でひずみ除去とαFe相の量の低減とを実現するためには、熱処理雰囲気(不活性ガス雰囲気)中の酸素濃度を著しく低くする必要があると考えられる。
〈窒化工程〉
上述したように、Rの種類によっては、1-12相を窒化することによって、実用的な磁気特性が得られる。Rとして、Ndを選択した場合には、1-12相を窒化することによって、実用的な磁気特性が得られる。窒化は、磁性粉末の状態で行ってもよいし、磁性粉末をバルク体に成形してから行ってもよい。そのため、本開示の磁性粉末の製造方法においては、窒化は任意で行うことができる。本開示の磁性粉末の製造方法においては、熱処理よりも後に窒化を行うことで、窒化の成果物(窒化物)が熱処理によって分解してしまうことを抑制することができる。
窒化の方法は、特に制限されない。窒化の方法としては、例えば、窒素ガス又はアンモニアガス雰囲気中で、磁性粉末又はバルク体を熱処理することが挙げられる。窒素ガスとアンモニアガスの混合ガス雰囲気であってもよい。窒化処理温度は、典型的には、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であってよく、500℃以下、450℃以下、400℃以下であってよい。
〈用途〉
本開示の製造方法で得られた磁性粉末(以下、「本開示の磁性粉末」ということがある。)を成形して、ボンド磁石(低融点メタルボンド磁石を含む)を得てもよい。窒化しなくとも実用的な磁気特性が得られるRを選択した場合、本開示の磁性粉末を成形して焼結磁石を得てもよい。本開示の磁性粉末を成形する場合には、そのまま成形して等方性磁石としてもよいし、磁場中で成形して異方性磁石としてもよい。また、本開示の磁性粉末は、磁性材料として、磁性粉末のまま用いられてもよい。
以下、本開示の磁性粉末の製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の磁性粉末の製造方法は、以下の実施例及び比較例で用いた条件に限定されるものではない。
〈試料の準備〉
Nd1.1(Fe0.7Co0.311Tiで表される組成の合金をストリップキャスト法により準備した。Nd(Fe0.7Co0.311Tiよりも幾分Ndを多く含有させることにより(Ndリッチにすることにより)、合金中のαFe相の量が少なくなるようにした。
準備した合金を、カッターミルを用いて粗粉砕して、粗粉砕粉末を得た。粗粉砕粉末の粒子の粒径は20μm以下であった。そして、粗粉砕粉末を、ジェットミルを用いて、メジアン径(d50)が5μm以下になるまで粉砕して、原材料粉末を得た。
原材料粉末を熱処理して、磁性粉末を得た。熱処理条件は表1のとおりである。酸素吸着材としては、Nd0.7Cu0.3合金を用いた。原材料粉末を装入した熱処理炉と、酸素吸着材を装入した溶解保持炉を連結して、溶解保持炉の側からアルゴンガスを供給した。このようにして、溶解保持炉内に保持しているNd0.7Cu0.3合金の溶湯に、酸素が吸着した。なお、原材料粉末の熱処理開始前から、Nd0.7Cu0.3合金の溶湯を保持している溶解保持炉の側より、アルゴンガスを供給した。
350℃の窒素ガス雰囲気中で、4時間にわたり、磁性粉末を熱処理して、磁性粉末を窒化した。
〈評価〉
窒化前の試料(磁性粉末)をXRD分析(Cu線源)して、ひずみの量と、αFe相の量(体積%)を評価した。ひずみの量については、2θ=36.7度付近のピークの半値半幅(θ)を算出して評価した。αFe相の量については、窒化前の試料(磁性粉末)のSEM像(反射電子像)から、αFe相の大きさ及び面積率を測定し、面積率が体積率と等しいとして、αFe相の含有量(体積%)を算出した。また、窒化前の試料(磁性粉末)を目視することにより、磁性粉末の酸化状態を評価した。
窒化後の試料(磁性粉末)について、PPMS(Physical Properties Measurement System)を用いて、異方性磁界(Ha)及び飽和磁化(Ms)を測定した。測定は室温で行った。
結果を表1に示す。図1は、実施例1~4及び比較例1~3の試料について、熱処理温度と半値半幅の関係を示すグラフである。図2は、実施例1~5及び比較例1~4の試料について、HaとMsの関係を示すグラフである。図3は、実施例1~4及び比較例1~3の試料について、熱処理温度とαFe相の量の関係を示すグラフである。図4は、実施例1及び比較例1の試料について、2θと強度の関係を示すグラフである。図5は、図4について、2θが35~38度の範囲を拡大したグラフである。
Figure 0007088069000001
図4及び図5から、熱処理されていない比較例1の試料よりも、熱処理されている実施例1の試料の方が、XRD分析のX線強度のプロファイルがシャープであり、半値幅も小さいことから、熱処理によってひずみを除去できていることが理解できる。
表1から、酸素吸着材を用いないと、アルゴンガス中には0.20ppmの酸素を含有しており(比較例5、参照)、酸素吸着材を用いると、アルゴンガス中の酸素濃度を0.01ppm未満に低減できること(実施例1~5等、参照)が理解できる。
表1から、すべての実施例の試料において、半値半幅(θ)が小さく、ひずみが除去されて、高い異方性磁界を有していることが理解できる。また、すべての実施例の試料において、αFe相の量が低減されていることが理解できる。磁性粉末において、異方性磁界が高く、αFe相が少量であれば、その磁性粉末を用いて成形した希土類磁石(バルク磁石)の保磁力は向上する。したがって、すべての実施例に係る磁性粉末を用いて成形した希土類磁石(バルク磁石)の保磁力は良好であると考えられる。
表1の実施例5から、熱処理時間が30分以上であれば、ひずみが除去され、αFe相の量が低減されていることが理解できる。また、図1及び図3から、熱処理時間が同じであれば、熱処理温度が高いほど、ひずみが除去され(半値半幅が小さくなり)、αFe相の量が低減されていることを理解できる。
以上の結果から、本開示の磁性粉末の製造方法の効果を確認できた。

Claims (1)

  1. ThMn12型の結晶構造を有する相を含有するR-TM系合金(Rは希土類元素であり、TMは少なくともFeを含む遷移金属元素である)を粉砕して、メジアン径が1~10μmの原材料粉末を得ること、及び、
    前記原材料粉末を、酸素濃度が0~0.01ppmの不活性ガス雰囲気中、1000~1200℃の温度で、30~120分にわたり熱処理すること、
    を含む、磁性粉末の製造方法。
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