JP7076392B2 - 湿潤粉体塗工装置制御プログラム、湿潤粉体塗工装置、及び塗工膜の製造方法 - Google Patents
湿潤粉体塗工装置制御プログラム、湿潤粉体塗工装置、及び塗工膜の製造方法 Download PDFInfo
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Description
(a)活物質を含む電極ペーストを基材表面に塗布し、乾燥させる方法、
(b)活物質を含む造粒粉体(湿潤粉体)を基材表面に塗工する方法
などが知られている。
これらの中でも、湿潤粉体を塗工する方法は、溶媒の乾燥工程が不要である、活物質の塗工量の制御が容易である、などの利点がある。そのため、このような方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
直径が同一である3本の非等速ロールを用いて集電箔上に溶媒及び活物質を含む湿潤造粒物を塗工し、集電箔上に電極合剤層を形成する湿潤粉体成膜方法において、
使用する溶媒の粘度、活物質の溶媒に対する接触角、及び、湿潤造粒物の固形分の重量割合を所定の範囲内とする方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、集電箔上に厚みが均一な電極合剤層を形成することができる点が記載されている。
直径が同一である第1ロール及び第2ロールを用いて、活物質を含む湿潤材料を圧延する工程と、
直径が同一である第2ロール及び第3ロールを用いて、金属箔上に活物質材料を転写する工程と
を備えた電極の製造方法において、
(a)転写後の活物質材料の単位面積当たりの重量Wc、
(b)圧延後の第2ロール上の活物質材料の単位面積当たりの重量Wb、
(c)第2ロールの周速Vbに対する第3ロールの周速Vcの比Vr(=Vc/Vb)、
(d)転写後の第3ロール上の活物質材料の密度ρC、
(e)圧延後の第2ロール上の活物質材料の密度ρB、及び
(f)活物質材料の許容最大密度ρM
の間に所定の関係が成り立つように、第2ロールと第3ロールとの間の隙間、及び周速比Vrを決定する方法が開示されている。
同文献には、このような方法により転写不良を抑制できる点が記載されている。
(a)複数コイルの圧延中に複数スタンドまたは複数パスの入側板厚、出側板厚、圧延荷重、先進率、および張力の実績データを測定し、
(b)これらの測定値と圧延理論式を用いて圧延ロールと被圧延材との摩擦係数および被圧延材の二次元平均変形抵抗を演算し、
(c)その演算結果および前記測定値を複数コイルの圧延中に一定期間蓄積し、
(d)前記演算結果および前記測定値に基づいて二次元平均変形抵抗式および摩擦係数式を学習し、
(e)前記学習結果に基づきロール間隙の設定を行う
ロール間隙設定方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、板厚精度が向上し、歩留が向上する点、及び、ロール間隙の設定精度が向上する点が記載されている。
同様に、特許文献3には、等速ロールを用いて金属帯を圧延する際のロール間隙を設定する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の方法は、直径が異なる非等速ロールを用いた造粒粉体の圧縮には適用できない。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなプログラムを備えた湿潤粉体塗工装置を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような湿潤粉体塗工装置を用いた塗工膜の製造方法を提供することにある。
(A)操作者に、
(a)湿潤粉体の圧縮係数K、内部摩擦角δ、壁面摩擦角φ、及びゆるみかさ密度ρ、
(b)圧密ロール及び保持ロールで圧縮され、転写ロールにより基材表面に転写される前記湿潤粉体の目付量の目標値Wc、並びに、
(c)前記圧密ロールの直径D1、前記保持ロールの直径D2(但し、D2/D1≧1.01)、及び、前記保持ロールのロール速度VBに対する前記転写ロールのロール速度VCの比rBC(=VC/VB>1)
の入力を求め、入力されたこれらの変数をメモリに記憶させる手順A。
(B)ロール速度比rを、前記圧密ロールのロール速度VAに対する前記保持ロールのロール速度VBの比(=VB/VA>1)とし、ギャップGを、前記圧密ロールと前記保持ロールとの間のギャップとした時に、入力された前記変数に基づいて、与えられた前記ロール速度比r及び前記ギャップGに対応するニップアングルαを算出し、これを前記メモリに記憶させる手順B。
(C)入力された前記変数、及び算出された前記αに基づいて、前記目付量の推定値Wc'を算出し、前記Wc'を前記メモリに記憶させる手順C。
(D)前記Wc'と前記Wcとの間の偏差をε、前記εのしきい値をεcとした場合において、ε>εcである時にはε≦εcとなるまで、又は、ε≧εcである時にはε<εcとなるまで、前記r及び/又は前記Gを変更し、前記手順B及び前記手順Cを繰り返す手順D。
(E)ε≦εc又はε<εcとなった時には、その時の前記r及び前記Gを、それぞれ、確定ロール速度比rf及び確定ギャップGfとし、これらを前記メモリに記憶させる手順E。
(F)前記r及び前記Sのすべての組み合わせについて探査を行ってもなお、ε≦εc又はε<εcとなる条件を見出すことができなかった場合には、前記操作者に
(a)前記D1、前記D2、及び/又は、前記rBCの変更、
(b)前記K、前記δ、前記φ、及び/又は、前記ρの変更、並びに、
(c)前記Wcの変更
からなる群から選ばれるいずれか1以上を求め、変更後の前記変数に基づいて、前記手順B~手順Eを繰り返す手順F。
(1)前記湿潤粉体塗工装置は、
湿潤粉体を圧縮するための圧密ロールと、
圧縮された前記湿潤粉体からなる成形物を保持するための保持ロールと、
前記保持ロールの表面に付着している前記成形物を基材の表面に転写するための転写ロールと、
前記圧密ロール、前記保持ロール、及び前記転写ロールを互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップを調整するための駆動装置と、
前記圧密ロールと前記保持ロールとの間のギャップGに湿潤粉体を供給するための湿潤粉体供給装置と、
前記転写ロールに基材を供給するための基材供給装置と、
前記湿潤粉体塗工装置の動作を制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記圧密ロールの直径はD1であり、前記保持ロールの直径はD2(但し、D2/D1≧1.01)である。
(3)前記駆動装置は、前記圧密ロールのロール速度をVA、前記保持ロールのロール速度をVB、前記転写ロールのロール速度をVCとしたときに、VA<VB<VCとなるように、前記圧密ロール、前記保持ロール、及び前記転写ロールを、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。
(4)前記制御装置のメモリには、本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムが格納されている。
そのため、圧密ロールの直径D1、保持ロールの直径D2、ロール速度比rBC、及び湿潤粉体の性状(K、δ、φ、ρ)が与えられている場合において、ロール速度比r及びギャップGを変えて計算を繰り返すと、目付量の推定値Wc'が目付量の目標値Wcに等しくなる最適塗工条件(すなわち、Wcを得るために必要なrとGの組み合わせ)を求めることができる。
[1. 湿潤粉体]
[1.1. 組成]
本発明において、「湿潤粉体」とは、
(a)少なくとも粉体と液体(分散媒など)とを含み、
(b)固形分体積分率が50%以上100%未満であり、かつ、
(c)静止状態において流体としての性質を持たない
粉体組成物をいう。
(a)二次電池の正極活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質であるLiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4など)、
(b)二次電池の負極活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質である黒鉛、Si、Geなど)、
(c)金属粉末、鉱石粉末、高分子ビーズ、デンプン顆粒
などがある。
粉体の一次粒子径は、目的に応じて最適な値を選択するのが好ましい。一般に、一次粒子径が小さくなりすぎると、造粒体の作製が困難となる。従って、一次粒子径は、1μm以上が好ましい。一次粒子径は、好ましくは、3μm以上、さらに好ましくは、5μm以上である。
一方、一次粒子径が大きくなりすぎると、表面積が減り、粒子同士の吸着が困難となる。また、薄膜の作製も困難となる。従って、一次粒子径は、100μm以下が好ましい。一次粒子径は、好ましくは、50μm以下、さらに好ましくは、30μm以下である。
一方、二次粒子径が大きくなりすぎると、完成した膜の膜厚や密度がばらつきやすくなる。従って、二次粒子径は、6mm以下が好ましい。二次粒子径は、好ましくは、4mm以下、さらに好ましくは、2mm以下である。
なお、「粒径」とは、レーザー回折・散乱法により測定されたメディアン径(d50)をいう。
図1に、本発明に係る湿潤粉体塗工装置の模式図を示す。図1において、湿潤粉体塗工装置10は、
湿潤粉体を圧縮するための圧密ロール(Aロール)12と、
圧縮された湿潤粉体からなる成形物22を保持するための保持ロール(Bロール)14と、
保持ロール14の表面に付着している成形物22を基材20の表面に転写するための転写ロール(Cロール)16と、
圧密ロール12、保持ロール14、及び転写ロール16を互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップを調整するための駆動装置(図示せず)と、
圧密ロール12と保持ロール14との間のギャップGに湿潤粉体を供給するための湿潤粉体供給装置(図示せず)と、
転写ロール16に基材20を供給するための基材供給装置(図示せず)と、
湿潤粉体塗工装置10の動作を制御する制御装置(図示せず)と
を備えている。
圧密ロール12及び保持ロール14は、所定の間隔を隔てて水平方向に配置されている。一方、転写ロール16は、所定の間隔を隔てて保持ロール14の下方に配置されている。圧密ロール12、保持ロール14、及び転写ロール16は、それぞれ、駆動装置(図示せず)に接続されており、互いに反対方向に回転するようになっている。
なお、圧密ロール12と保持ロール14は、ギャップGに粉体を均一に供給する必要があるため、水平方向に並んでいる必要がある。一方、転写ロール16は、基材20表面への成形物22の転写が可能な位置にあれば良く、必ずしも保持ロール14の下方に配置されている必要はない。
ここで、「直径が異なる」とは、圧密ロール12の直径D1に対する保持ロール14の直径D2の比(=D2/D1)が1.01以上であることを言う。
D2/D1比が大きくなるほど、保持ロール14に粉体を転写しやすくなる。D2/D1比は、好ましくは、1.1以上、さらに好ましくは、1.5以上である。
一方、D2/D1比が大きくなりすぎると、ギャップG間に十分量の湿潤粉体を供給できなくなる場合がある。D2/D1比は、好ましくは、5.0以下、さらに好ましくは、3.0以下である。
圧密ロール12の表面と保持ロール14の表面との間の最短距離は、「ギャップG」に該当する。さらに、圧密ロール(低速ロール)12のロール速度VAに対する保持ロール(高速ロール)14のロール速度VBの比(=VB/VA>1)は、「ロール速度比r」に該当する。ギャップG及びロール速度比rは、後述する方法を用いて最適化される。
さらに、保持ロール14のロール速度VBに対する転写ロール16のロール速度VCの比(=VC/VB>1)は、「ロール速度比rBC」に該当する。
駆動装置(図示せず)は、圧密ロール12、保持ロール14、及び転写ロール16を互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップG、G’を調整するためのものである。また、駆動装置は、圧密ロール12のロール速度をVA、保持ロール14のロール速度をVB、転写ロールのロール速度をVCとしたときに、VA<VB<VCとなるように、圧密ロール12、保持ロール14、及び転写ロール16を、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。駆動装置は、各ロールのロール速度VA、VB、VC、ギャップG、G’、及びロール速度比r、rBCを制御可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
湿潤粉体供給装置(図示せず)は、圧密ロール12と保持ロール14との間のギャップGに湿潤粉体を供給するためのものである。湿潤粉体供給装置は、適時に適量の湿潤粉体をギャップGに供給可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
基材供給装置(図示せず)は、転写ロール16に基材20を供給するためのものである。基材供給装置は、転写ロール16に必要量の基材20を供給可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
制御装置(図示せず)は、湿潤粉体塗工装置10の動作を制御するためのものである。制御装置は、湿潤粉体塗工装置10の一般的動作を制御するための機構に加えて、メモリを備えている。メモリには、本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムが格納されている。湿潤粉体塗工装置制御プログラムは、目的とする粉体量(目付量)を得るためのギャップG及びロール速度比rを算出するためのプログラムである。プログラムの詳細については、後述する。
本発明に係る塗工膜の製造方法は、図1に示す湿潤粉体塗工装置10を用いて、基材表面に湿潤粉体を塗工することを要旨とする。塗工膜の製造は、具体的には、以下のようにして行う。
まず、転写ロール16に基材20を巻き付ける。次いで、圧密ロール12と保持ロール14の間に湿潤粉体を投入する。この状態で圧密ロール12、保持ロール14及び転写ロール16を互いに反対方向に回転させると、湿潤粉体が圧密ロール12と保持ロール14の間で圧縮され、シート状に成形される。
この時、保持ロール14のロール速度VBを圧密ロール12のロール速度VAより大きくすると、シート状の成形物22が保持ロール14の表面に付着したまま、転写ロール16まで搬送される。転写ロール16まで搬送された成形物22は、保持ロール14と転写ロール16の間で圧縮されながら、基材20の表面に連続的に転写される。
本発明に係る湿潤粉体塗工装置を用いて湿潤粉体を塗工する場合において、塗膜の厚さは、目的に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。一般に、塗膜が薄くなりすぎると、スケが発生しやすくなる。従って、塗膜の厚さは、5μm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上である。
一方、塗膜が厚くなりすぎると、ひび割れが発生しやすくなる。従って、塗膜の厚さは、300μm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、150μm以下である。
[4.1. 用語の定義]
ロール間に供給された粉体は、まず、ロール表面との摩擦によって、粉体がロール表面でスリップしながら圧縮される。その結果、粉体の密度は、徐々に上がっていく。さらに密度が上がると、やがてロール速度と粉体の移動速度がほぼ等しくなる。その結果、粉体がロール表面でスリップすることなく圧縮される。
「スリップ区間」とは、粉体とロールの間でスリップが発生し、粉体がわずかしか圧縮されない区間をいう。
「ニップ区間」とは、粉体がスリップすることなく圧縮される区間をいう。
「ニップアングル」とは、ニップ区間が開始する地点のBロールの回転角度をいう。
αは、ニップアングルを表す。αは、具体的には、
(a)AロールとBロールの中心間を結ぶ線と、
(b)Bロールの中心とニップ区間が始まるBロールの表面上の点とを結ぶ線
とのなす角を表す。
Vθ(又は、Vα)は、角度θ(又は、角度α)の位置において、Bロールが微小長さΔLだけ進んだ時に、角度θ(又は、角度α)の位置を通過する粉体の微小体積を表す。
Wcalcは、ロール間距離が最小となる位置において、Bロールが微小長さΔLだけ進んだ時に、ロール間距離が最小となる位置(すなわち、ロール間のギャップ)を通過する粉体量を表す。Wcalc,aは、後述する計算により求められた粉体量の推定値を表す。
非等速ロール間を通過する粉体量の推定値Wcalc,a(すなわち、基材表面への粉体の目付量の推定値)を算出するためには、まず、ニップアングルαを知る必要がある。αは、粉体の性状(K:圧縮係数、δ:内部摩擦、φ:壁面摩擦角、ρ:ゆるみかさ密度)、Aロールの直径D1、Bロールの直径D2、ギャップG、及び、ロール速度比rに依存する。
ニップアングルαを算出するためには、左右のロールにより粉体に加えられる主応力を知る必要がある。ロール径が左右で異なる場合、厳密には、左右のロールによる主応力の向きがずれる。具体的には、図3(A)に示すように、Aロールによる主応力の向きとx軸とのなす角は、sin-1{(D1/D2)sinθ}+νと表される。一方、Bロールによる主応力の向きとx軸とのなす角は、ν+θと表される。さらに、νは、{π-arcsin(sinφ/sinδ)-φ}/2と表される。
rは、低速ロールのロール速度に対する高速ロールのロール速度の比、
Gは、非等速ロール間のギャップ、
σは、非等速ロール間に作用する圧縮応力、
dσ/dxは、非等速ロールの中心間を結ぶ線に対して垂直方向をx軸とした時の前記σの変化率(x軸に対するσの傾き)、
C0は、任意の定数。
ここで、粉体の圧縮係数Kは、粉体の圧縮試験より求まる、応力と体積の関係より求めることができる。粉体の内部摩擦角δ、及び粉体の壁面摩擦角φは、粉体層せん断試験により求めることができる。さらに、ゆるみかさ密度ρは、周知の方法(例えば、メスシリンダーを用いて測定する方法)により求めることができる。
そのため、粉体性状(K、δ、φ、ρ)、D1、D2、r、及びGが与えられると、式(1)及び式(2)の交点から、ニップアングルαを求めることができる。
非等速ロールを用いた粉体の圧縮において、ゆるみかさ密度ρ及び微小体積Vαの積と、粉体量Wcalc,aとが等しいと仮定すると、次の式(3)が導かれる。従って、式(3)にニップアングルαを代入すれば、与えられた条件下における粉体量Wcalc,aが得られる。さらに、Wcalc,aを式(4)に代入すれば、目付量の推定値Wc'が得られる。
なお、式(3)におけるΔLは、粉体量Wcalc,aを算出する際の積分区間の分割数を決定する変数である。ΔLの値が小さいほど正確な粉体量を計算できいるが、小さすぎると計算に時間がかかる。従って、ΔLは、0.05mm<ΔL<0.5mmの範囲で設定するのが好ましい。
Hは、塗工幅、
ΔLは、微小長さ。
目付量の推定値Wc'が算出された時は、Wc'と目付量の目標値Wcとを対比する。そして、Wc'とWcとの間の偏差をε、εのしいき値をεcとした場合において、ε≦εc又はε<εcである時は、その時のr及びGを、それぞれ、確定ロール速度比rf及び確定ギャップGfとする。なお、εcの大きさは、要求される塗工精度に応じて、最適な値を選択することができる。
本発明に係る湿潤粉体塗工装置は、ロール速度比r及びギャップGを変更可能である。しかし、一般に、r及びGの変更可能な範囲は限られている。そのため、取りうるrとGの組み合わせのすべてについて計算を行っても、ε≦εc又はε<εcとなるrとGの組み合わせを見出すことができない場合もあり得る。
(a)Aロールの直径D1、Bロールの直径D2、及び/又は、ロール速度比rBC、
(b)粉体の性状(すなわち、粉体の圧縮係数K、内部摩擦角δ、壁面摩擦角φ、及び/又は、ゆるみかさ密度ρ)、又は、
(c)目付量の目標値Wc
のいずれか1以上を変更して、同様の計算を繰り返せば良い。
上述したα及びWc'の計算方法は、Johanson法(非特許文献1参照)を改良したものであるが、α及びWc'は、他の方法により算出することもできる。
α及び/又はWc'の他の算出方法としては、例えば、
(a)slab法を用いる方法(参考文献1、2参照)、
(b)FEMやDEMを用いたシミュレーションにより求める方法、
(c)機械学習を用いて統計的に予測する方法、
などがある。
[参考文献1]Katashinskii V.P. and Shtern, M.B., Stress-Strained State of Powder Being Rolled in the Densificatiion Zone. I. Mathematical Model of Rolling in the Densificfation Zone. Poroshkovaya Metallurgiya, 1983, 11(251), pp. 17-21
[参考文献2]Katashinskii V.P. and Shtern, M.B., Stress-Strained State of Powder Being Rolled in the Densification Zone. II Distribution of Density, Longitudinal Strain and Contact Stress in the Densification Zone. Poroshkovaya Metallurgiya, 1983, 12(252), pp. 9-13
図4に、本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムのフロー図を示す。図5に、図4に示すフロー図の続きを示す。
まず、ステップ1(以下、単に「S1」という)において、操作者に
(a)湿潤粉体の圧縮係数K、内部摩擦角δ、壁面摩擦角φ、及びゆるみかさ密度ρ、
(b)圧密ロール及び保持ロールで圧縮され、転写ロールにより基材表面に転写される湿潤粉体の目付量の目標値Wc、並びに、
(c)圧密ロールの直径D1、保持ロールの直径D2、及び、保持ロールのロール速度VBに対する転写ロールのロール速度VCの比rBC(=VC/VB>1)
の入力を求め、入力されたこれらの変数をメモリに記憶させる(手順A)。
αの算出は、具体的には、
(a)上述した式(1)及び式(2)を予めメモリに記憶させておき、
(b)与えられたロール速度比r及びギャップGにおいて、式(1)及び式(2)の交点の座標(θ、dσ/dx)を求め、
(c)交点におけるθをニップアングルαとしてメモリに記憶させる、
ことにより行われる。
αの算出方法の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
Wc'の算出は、具体的には、
(a)上述した式(3)及び式(4)を予めメモリに記憶させておき、
(b)αを式(3)に代入することにより粉体量の推定値Wcalc,aを算出し、
(c)Wcalc,aを式(4)に代入することにより、目付量の推定値Wc'を算出し、
(c)算出されたWc'をメモリに記憶させる
ことにより行われる。
Wc'の算出方法の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
一方、S10において、nがnmax未満でない時(S10:NO)には、選択可能なrが残っていないことを意味する。このような場合には、S12に進む。
なお、図4及び図5に示す例では、先にrの探査を行い、次いでGの探査を行っているが、探査順序は逆でも良い。
一方、r及びGのすべての組み合わせを探査しても、ε≦εc(又は、ε<εc)となる組み合わせを見出すことができなかった時(S10:NO、S12:NO)には、操作者に、
(a)D1、D2、及び/又はrBCの変更、
(b)粉体性状(K、δ、φ、及び/又は、ρ)の変更、並びに、
(c)Wcの変更
からなる群から選ばれるいずれか1以上を求め、変更後の変数に基づいて、手順B~手順Eを繰り返す(手順F)。
一方、D1、D2、及びrBCの変更ができない場合、又は、D1、D2、及びrBCを変更してもなお、ε≦εc(又は、ε<εc)となる組み合わせを見出せなかった場合(S14:NO)には、S16に進む。
一方、粉体性状の変更ができない場合、又は、粉体性状を変更してもなお、ε≦εc(又は、ε<εc)以下となる組み合わせを見出せなかった場合(S16:NO)には、S18に進む。
一方、Wcの変更ができない場合、又は、Wcを変更してもなお、ε≦εc(又は、ε<εc)となる組み合わせを見出せなかった場合(S18:NO)には、塗工条件の変更のみでは、目標を達成できないことを意味する。このような場合には、S20に進み、エラー表示を行い、制御を終了させる。
直径が同一である3本の非等速ロールを横一列に並べた塗工装置を用いると、基材の表面に造粒粉体を連続的に塗工することができる。しかしながら、従来の塗工装置では、基材表面への造粒粉体の目付量を正確に制御するのが難しい。また、従来の方法は、直径が異なる非等速ロールに対してそのまま適用することができない。
そのため、圧密ロールの直径D1、保持ロールの直径D2、ロール速度比rBC、及び湿潤粉体の性状(K、δ、φ、ρ)が与えられている場合において、ロール速度比r及びギャップGを変えて計算を繰り返すと、Wc'がWcに等しくなる最適塗工条件(すなわち、Wcを得るために必要なrとGの組み合わせ)を求めることができる。
[1. 試験方法]
図1に示す湿潤粉体塗工装置10を用いて、基材表面に湿潤粉体の塗工を行った。ニップアングルαを一定とするために、同じ粉体を用いて、Aロールの回転速度のみを変化させて塗工を行った。湿潤粉体には、固形分体積濃度が56vol%であるものを用いた。Bロールの回転速度は、2.5rpmとし、Cロールの回転速度は、6.1rpmとした。基板には、アルミ箔を用いた。また、Aロールの直径D1<Bロールの直径D2<Cロールの直径D’とした。ギャップGは、60μmとした(実施例1)。
また、Bロールの回転速度を2.7rpmとした以外は、実施例1と同一条件下で、塗工を行った(実施例2)。
塗工後、電極を直径16mmに打ち抜き、その電極重量(目付量)を測定した。さらに、上述した式(1)~式(4)を用いて、目付量の推定値Wc'を算出した。
図6(A)に、Aロール直径<Bロール直径<Cロール直径であり、Bロールの回転速度、Cロールの回転速度、及びA-Bロール間のギャップGが一定である条件下で湿潤粉体を塗工した時のAロールの回転速度と電極目付量との関係(実施例1)を示す。図6(B)に、Bロールの回転速度を実施例1より速くした以外は、実施例1と同一の条件下で湿潤粉体を塗工した時のAロールの回転速度と電極目付量との関係(実施例)2を示す。
図6より、計算値が実験値の傾向を再現できていることが分かる。但し、実験値は、計算値に完全には一致していない。これは、ニップアングルαでの粉体のゆるみかさ密度ρを1.0と仮定しているためと考えられる。実際は粉体のゆるみかさ密度は0.7程度であるため、ニップアングルαでの粉体のゆるみかさ密度も1.0以下と考えられる。そのため、目付量の計算値が実測値よりも大きく算出されていると考えられる。
以上の結果より、本発明に係る方法を用いることで直径の異なるロールを用いた湿潤粉体の成膜において供給量を予測できることが分かった。
Claims (7)
- コンピュータに以下の手順を実行させるための湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
(A)操作者に、
(a)湿潤粉体の圧縮係数K、内部摩擦角δ、壁面摩擦角φ、及びゆるみかさ密度ρ、
(b)圧密ロール及び保持ロールで圧縮され、転写ロールにより基材表面に転写される前記湿潤粉体の目付量の目標値Wc、並びに、
(c)前記圧密ロールの直径D1、前記保持ロールの直径D2(但し、D2/D1≧1.01)、及び、前記保持ロールのロール速度VBに対する前記転写ロールのロール速度VCの比rBC(=VC/VB>1)
の入力を求め、入力されたこれらの変数をメモリに記憶させる手順A。
(B)ロール速度比rを、前記圧密ロールのロール速度VAに対する前記保持ロールのロール速度VBの比(=VB/VA>1)とし、ギャップGを、前記圧密ロールと前記保持ロールとの間のギャップとした時に、入力された前記変数に基づいて、与えられた前記ロール速度比r及び前記ギャップGに対応するニップアングルαを算出し、これを前記メモリに記憶させる手順B。
(C)入力された前記変数、及び算出された前記αに基づいて、前記目付量の推定値Wc'を算出し、前記Wc'を前記メモリに記憶させる手順C。
(D)前記Wc'と前記Wcとの間の偏差をε、前記εのしきい値をεcとした場合において、ε>εcである時にはε≦εcとなるまで、又は、ε≧εcである時にはε<εcとなるまで、前記r及び/又は前記Gを変更し、前記手順B及び前記手順Cを繰り返す手順D。
(E)ε≦εc又はε<εcとなった時には、その時の前記r及び前記Gを、それぞれ、確定ロール速度比rf及び確定ギャップGfとし、これらを前記メモリに記憶させる手順E。 - 前記手順Bは、
次の式(1)及び式(2)を予め前記メモリに記憶させておき、
与えられた前記ロール速度比r及び前記ギャップGにおいて、前記式(1)及び前記式(2)の交点の座標(θ、dσ/dx)を求め、
前記交点におけるθをニップアングルαとして前記メモリに記憶させるものである
請求項1に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
rは、前記圧密ロールのロール速度VAに対する前記保持ロールのロール速度VBの比(=VB/VA>1)、
Gは、前記圧密ロールと前記保持ロールとの間のギャップ、
σは、前記圧密ロールと前記保持ロールとの間に作用する圧縮応力、
dσ/dxは、前記圧密ロールと前記保持ロールの中心間を結ぶ線に対して垂直方向をx軸とした時の前記σの変化率、
C0は、任意の定数。 - 以下の手順をさらに含む請求項1から3までのいずれか1項に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
(F)前記r及び前記Sのすべての組み合わせについて探査を行ってもなお、ε≦εc又はε<εcとなる条件を見出すことができなかった場合には、前記操作者に
(a)前記D1、前記D2、及び/又は、前記rBCの変更、
(b)前記K、前記δ、前記φ、及び/又は、前記ρの変更、並びに、
(c)前記Wcの変更
からなる群から選ばれるいずれか1以上を求め、変更後の前記変数に基づいて、前記手順B~手順Eを繰り返す手順F。 - 以下の構成を備えた湿潤粉体塗工装置。
(1)前記湿潤粉体塗工装置は、
湿潤粉体を圧縮するための圧密ロールと、
圧縮された前記湿潤粉体からなる成形物を保持するための保持ロールと、
前記保持ロールの表面に付着している前記成形物を基材の表面に転写するための転写ロールと、
前記圧密ロール、前記保持ロール、及び前記転写ロールを互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップを調整するための駆動装置と、
前記圧密ロールと前記保持ロールとの間のギャップGに湿潤粉体を供給するための湿潤粉体供給装置と、
前記転写ロールに基材を供給するための基材供給装置と、
前記湿潤粉体塗工装置の動作を制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記圧密ロールの直径はD1であり、前記保持ロールの直径はD2(但し、D2/D1≧1.01)である。
(3)前記駆動装置は、前記圧密ロールのロール速度をVA、前記保持ロールのロール速度をVB、前記転写ロールのロール速度をVCとしたときに、VA<VB<VCとなるように、前記圧密ロール、前記保持ロール、及び前記転写ロールを、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。
(4)前記制御装置のメモリには、請求項1から4までのいずれか1項に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラムが格納されている。 - 請求項5に記載の湿潤粉体塗工装置を用いて、基材表面に湿潤粉体を塗工する塗工膜の製造方法。
- 前記湿潤粉体は、二次電池用活物質、導電材、バインダー、及び溶媒を含む請求項6に記載の塗工膜の製造方法。
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