前述したマルチガスセンサにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態のマルチガスセンサ1は、図1~図4に示すように、アンモニアセンサ部11、NOxセンサ部12及び算出制御部13を備える。アンモニアセンサ部11は、酸素イオンの伝導性を有する第1固体電解質体21と、第1固体電解質体21を介して配置されたアンモニア電極22及び第1基準電極23とを有する。アンモニアセンサ部11は、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる電位差ΔVを検出し、電位差ΔVに基づいて測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するよう構成されている。
NOxセンサ部12は、酸素イオンの伝導性を有する第2固体電解質体31と、第2固体電解質体31を介して配置されたNOx電極32及び第2基準電極34Aと、NOx電極32を収容するとともに拡散抵抗部351を介して測定ガスGが導入される測定ガス室35とを有する。NOxセンサ部12は、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に電圧が印加された状態において、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に生じる電流を検出し、この電流に基づいて測定ガスGにおける補正前NOx濃度を算出し、補正前NOx濃度からアンモニア濃度を差し引いてNOx濃度(補正後NOx濃度)を算出するよう構成されている。
算出制御部13は、図6に示すように、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度がNOxセンサ部12による補正後NOx濃度よりも所定濃度(第2濃度差Δn2)以上高い第3濃度領域N3にある場合において、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度を利用して、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するよう構成されている。
NOxセンサ部12によるNOx濃度は、2種類あるものとする。NOxセンサ部12に生じる電流に基づくNOx濃度を補正前NOx濃度とする。補正前NOx濃度においては、NOx電極32において反応するアンモニアによるアンモニア濃度が含まれる。一方、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度からアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度を差し引いた濃度を、補正後NOx濃度とする。補正後NOx濃度は、アンモニアによる影響が除外されたNOx濃度を示す。アンモニア濃度とNOx濃度とが比較される場合には、補正後NOx濃度が用いられる。
以下に、本形態のマルチガスセンサ1について詳説する。
(マルチガスセンサ1)
図1に示すように、本形態のマルチガスセンサ1は、電位差式としての混成電位式のものである。このマルチガスセンサ1においては、酸素及びアンモニアが含まれる状態の測定ガスGにおけるアンモニアの濃度を検出する。本形態のアンモニアセンサ部11は、アンモニア電極22における、酸素の電気化学的還元反応(以下、単に還元反応という。)による還元電流とアンモニアの電気化学的酸化反応(以下、単に酸化反応という。)による酸化電流とが等しくなるときに生じる、アンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差ΔVを検出するよう構成されている。
図5に示すように、マルチガスセンサ1は、車両の内燃機関(エンジン)7の排気管71において、NOxを還元する触媒72から流出するアンモニアの濃度を検出するものである。測定ガスGは、内燃機関7から排気管71へ排気された排ガスである。排ガスの組成は、内燃機関7における燃焼状態によって変化する。内燃機関7における、空気と燃料との質量比である空燃比が、理論空燃比に比べて燃料リッチな状態にあるときには、排ガスの組成においては、未燃ガスに含まれるHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、H2(水素)等の割合が多くなる一方、NOxの割合が少なくなる。内燃機関7における空燃比が、理論空燃比に比べて燃料リーンな状態にあるときには、排ガスの組成においては、HC、CO等の割合が少なくなる一方、NOxの割合が多くなる。また、燃料リッチな状態においては、測定ガスGに酸素(空気)がほとんど含まれず、燃料リーンな状態においては、測定ガスGに酸素(空気)がより多く含まれる。
(触媒72)
同図に示すように、排気管71には、NOxを還元するための触媒72と、触媒72へアンモニアを含む還元剤Kを供給する還元剤供給装置73とが配置されている。触媒72は、触媒担体に、NOxの還元剤Kとしてのアンモニアが付着されるものである。触媒72の触媒担体におけるアンモニアの付着量は、NOxの還元反応に伴って減少する。そして、触媒担体におけるアンモニアの付着量が少なくなったときには、還元剤供給装置73から触媒担体へ新たにアンモニアが補充される。還元剤供給装置73は、排気管71における、触媒72よりも排ガスの流れの上流側位置に配置されており、尿素水を噴射して発生するアンモニアガスを排気管71へ供給するものである。アンモニアガスは、尿素水が加水分解されて生成される。還元剤供給装置73には、尿素水のタンク731が接続されている。
本形態の内燃機関7は、軽油の自己着火を利用して燃焼運転を行うディーゼルエンジンである。また、触媒72は、NOx(窒素酸化物)をアンモニア(NH3)と化学反応させて窒素(N2)及び水(H2O)に還元する選択式還元触媒(SCR)である。
なお、図示は省略するが、排気管71における、触媒72の上流側位置には、NOのNO2への変換(酸化)、CO、HC(炭化水素)等の低減を行う酸化触媒(DOC)、微粒子を捕集するフィルタ(DPF)等が配置されていてもよい。
(マルチガスセンサ1)
図5に示すように、本形態のマルチガスセンサ1は、排気管71における、触媒72よりも下流側位置に配置される。なお、排気管71に配置されるのは、厳密には、マルチガスセンサ1のセンサ素子10及びセンサ素子10を保持するセンサ本体である。便宜上、本形態においては、センサ本体のことをマルチガスセンサ1ということがある。
本形態のマルチガスセンサ1は、アンモニア濃度の検出だけでなく、酸素濃度及びNOx濃度の検出も可能なマルチガスセンサ(複合センサ)として形成されている。そして、酸素濃度は、アンモニア濃度を補正するために使用される。また、マルチガスセンサ1によるアンモニア濃度及びNOx濃度は、内燃機関7の制御装置としてのエンジン制御ユニット(ECU)50によって、還元剤供給装置73から排気管71へ還元剤Kとしてのアンモニアを供給する時期を決定するために使用される。
なお、制御装置には、エンジンを制御するエンジン制御ユニット(ECU)50、マルチガスセンサ1を制御するセンサ制御ユニット(SCU)5の他、種々の電子制御ユニットがある。制御装置とは、種々のコンピュータ(処理装置)のことをいう。
エンジン制御ユニット50は、マルチガスセンサ1によって、測定ガスG中にNOxが存在することが検出されるときには、触媒72においてアンモニアが不足していると検知し、還元剤供給装置73から尿素水を噴射し、触媒72へアンモニアを供給するよう構成されている。一方、エンジン制御ユニット50は、マルチガスセンサ1によって、測定ガスG中にアンモニアが存在することが検出されるときには、触媒72においてアンモニアが過剰に存在していると検知し、還元剤供給装置73からの尿素水の噴射を停止し、触媒72へのアンモニアの供給を停止するよう構成されている。触媒72においては、NOxを還元するためのアンモニアが過不足なく供給されることが好ましい。
(触媒出口721のアンモニア濃度とNOx濃度との関係)
エンジン制御ユニット50によるアンモニアの供給制御が行われることにより、触媒72の下流側位置(触媒出口721)及びアンモニアセンサ1の配置位置に存在する測定ガスGのNOx及びアンモニアの濃度領域においては、NOxがアンモニアによって適切に還元される状態と、NOxの流出量が多くなる状態と、アンモニアの流出量が多くなる状態とが、時間を変えて生じることになる。
より具体的には、図6に示すように、エンジン制御ユニット50においては、アンモニア(NH3)濃度とNOx濃度との関係を示す濃度領域は、NOx濃度がアンモニア濃度よりも所定濃度(第1濃度差Δn1)以上高い第1濃度領域N1と、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度(第2濃度差Δn2)以上高い第3濃度領域N3と、第1濃度領域N1と第3濃度領域N3との間の第2濃度領域N2とに区分される。この濃度領域は、アンモニアセンサ1によって検出されるNOx濃度(補正後NOx濃度)とアンモニア濃度とを比較し、測定ガスGにおいていずれの濃度が高いかを示すものである。
ここで、NOx濃度がアンモニア濃度よりも所定濃度以上高い場合とは、NOx濃度がアンモニア濃度よりも高く、かつNOx濃度とアンモニア濃度との差が第1濃度差Δn1以上である場合を示す。また、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度以上高い場合とは、アンモニア濃度がNOx濃度よりも高く、かつアンモニア濃度とNOx濃度との差が第2濃度差Δn2以上である場合を示す。
同図において、NOx濃度が高い第1濃度領域N1においては、測定ガスG中にアンモニアが少量存在し、アンモニア濃度が高い第3濃度領域N3においては、測定ガスG中にNOxが少量存在すると仮定している。触媒72におけるNOxの還元反応がより適切に行われる場合には、第1濃度領域N1においては、アンモニアがほとんど存在せず、第3濃度領域N3においては、NOxがほとんど存在しなくなる状態が形成されると考えられる。
濃度領域の区分において、アンモニア濃度及びNOx濃度は、いずれも体積%(ppm)で表されることとする。濃度領域を区分する際のアンモニア濃度は、酸素濃度に応じて補正したアンモニア濃度とすることができる。エンジン制御ユニット50は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が、第2濃度領域N2内になるよう、還元剤供給装置73から触媒72へ供給する還元剤Kの量を調整するよう構成することができる。
第1濃度領域N1と第2濃度領域N2とを区分する所定濃度としての、NOx濃度とアンモニア濃度との第1濃度差Δn1は、10~50ppmとすることができる。そして、算出制御部13は、NOx濃度がアンモニア濃度よりも10~50ppm以上高い場合に、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第1濃度領域N1にあると判定することができる。第1濃度差Δn1は、アンモニアセンサ1の仕様、搭載環境等に応じて、適宜変更することができる。
また、第2濃度領域N2と第3濃度領域N3とを区分する所定濃度としての、アンモニア濃度とNOx濃度との第2濃度差Δn2は、50~100ppmとすることができる。そして、算出制御部13は、アンモニア濃度がNOx濃度よりも50~100ppm以上高い場合に、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第3濃度領域N3にあると判定することができる。第2濃度差Δn2は、アンモニアセンサ1の仕様、搭載環境等に応じて、適宜変更することができる。
マルチガスセンサ1は、還元剤供給装置73が、後述するアンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度と後述するNOx濃度算出部57によるNOx濃度(補正後NOx濃度)とが第2濃度領域N2内になるよう、触媒72への還元剤Kの供給量を調整するために用いられる。エンジン制御ユニット50は、マルチガスセンサ1によるアンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が、第2濃度領域N2内になるよう、還元剤供給装置73から触媒72への還元剤Kの供給量を調整するよう構成する。マルチガスセンサ1を用いることにより、アンモニア濃度とNOx濃度とを監視して触媒72への還元剤Kの供給量を決定することができ、触媒72におけるNOxの還元反応を、アンモニアの流出を抑えつつ、より最適に行うことができる。
図示は省略するが、マルチガスセンサ1は、アンモニア濃度及びNOx濃度を検出するためのセンサ素子10と、センサ素子10を保持して排気管71に取り付けるためのハウジングと、ハウジングの先端側に取り付けられてセンサ素子10を保護する先端側カバーと、ハウジングの基端側に取り付けられてセンサ素子10の電気配線部分を保護する基端側カバーとを備える。図1及び図2に示すように、センサ素子10は、後述するアンモニア素子部2及び後述するNOx素子部3に対して、後述するヒータ部4を積層して形成されている。
(アンモニアセンサ部11)
アンモニアセンサ部11は、機械的構成部位であるアンモニア素子部2と、電気的構成部位である電位差検出部51及びアンモニア濃度算出部52とによって構成されている。アンモニア素子部2は、第1固体電解質体21、アンモニア電極22及び第1基準電極23を有する。
(アンモニア素子部2)
第1固体電解質体21は、板状に形成されており、所定の温度において酸素イオンを伝導させる性質を有するジルコニア材料を用いて構成されている。ジルコニア材料は、ジルコニアを主成分とする種々の材料によって構成することができる。ジルコニア材料には、イットリア(酸化イットリウム)等の希土類金属元素もしくはアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを用いることができる。
アンモニア電極22は、第1固体電解質体21における、酸素及びアンモニアが含まれる測定ガスGに晒される第1表面211に設けられている。第1基準電極23は、第1固体電解質体21における、第1表面211とは反対側の第2表面212に設けられている。第2表面212及び第2表面212に設けられた第1基準電極23は、基準ガスAとしての大気に晒されている。第1固体電解質体21の第2表面212には、大気が導入される基準ガスダクト24が隣接して形成されている。
アンモニア電極22は、アンモニア及び酸素に対する触媒活性を有する金(Au)、白金-金合金、白金-パラジウム合金、パラジウム-金合金等の貴金属材料を用いて構成されている。第1基準電極23は、酸素に対する触媒活性を有する白金(Pt)等の貴金属材料を用いて構成されている。また、アンモニア電極22及び第1基準電極23は、第1固体電解質体21と焼結する際の共材となるジルコニア材料を含有していてもよい。
図1及び図2に示すように、第1固体電解質体21の、測定ガスGに晒される第1表面211は、マルチガスセンサ1のセンサ素子10における最も外側の表面を形成する。そして、第1表面211に設けられたアンモニア電極22には、測定ガスGが接触しやすい状態が形成されている。本形態のアンモニア電極22の表面には、セラミックスの多孔質体等による保護層が設けられていない。そして、アンモニア電極22には、測定ガスGが拡散律速されずに接触する。なお、アンモニア電極22の表面には、測定ガスGの流速を極力低下させない保護層を設けることも可能である。
第1固体電解質体21の第2表面212及び第2表面212に設けられた第1基準電極23は、基準ガスAとしての大気に晒されている。第1固体電解質体21の第2表面212には、大気が導入される基準ガスダクト(大気ダクト)24が隣接して形成されている。
(電位差検出部51)
図1に示すように、本形態の電位差検出部51は、アンモニア電極22に混成電位が生じたときのアンモニア電極22と基準電極23との間の電位差ΔVを検出する。アンモニア電極22においては、アンモニア電極22に接触する測定ガスG中にアンモニアと酸素とが存在する場合に、アンモニアの酸化反応と、酸素の還元反応とが同時に進行する。アンモニアの酸化反応は、代表的には、2NH3+3O2-→N2+3H2O+6e-によって表される。酸素の還元反応は、代表的には、O2+4e-→2O2-によって表される。そして、アンモニア電極22における、アンモニアと酸素とによる混成電位は、アンモニア電極22における、アンモニアの酸化反応(速度)と酸素の還元反応(速度)とが等しくなるときの電位として生じる。
図7は、アンモニア電極22において生じる混成電位を説明するための図である。同図においては、横軸に、第1基準電極23に対するアンモニア電極22の電位(電位差ΔV)をとり、縦軸に、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に流れる電流をとって、混成電位の変化の仕方を示す。また、同図においては、アンモニア電極22においてアンモニアの酸化反応が行われる際の電位と電流の関係を示す第1ラインL1と、アンモニア電極22において酸素の還元反応が行われる際の電位と電流の関係を示す第2ラインL2とを示す。第1ラインL1及び第2ラインL2は、いずれも右肩上がりのラインによって示す。
電位(電位差ΔV)が0(ゼロ)の場合は、アンモニア電極22の電位が第1基準電極23の電位と同じであることを示す。混成電位は、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1上のプラス側の電流と、酸素の還元反応を示す第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合ったときの電位となる。そして、アンモニア電極22における混成電位は、第1基準電極23に対してマイナス側の電位として検出される。
また、図8に示すように、測定ガスGにおけるアンモニア濃度が高くなるときには、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1の傾きθaが急になる。このとき、第1ラインL1上のプラス側の電流と、第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合う電位が、よりマイナス側へシフトする。これにより、アンモニア濃度が高くなるほど、第1基準電極23に対するアンモニア電極22の電位がマイナス側に大きくなる。言い換えれば、アンモニア濃度が高くなるほど、アンモニア電極22と第1基準電極23との電位差(混成電位)ΔVが大きくなる。そのため、アンモニア濃度が高くなるほど電位差ΔVが大きくなり、電位差ΔVを検出することにより、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を検出することが可能になる。
また、図9に示すように、測定ガスGにおける酸素濃度が高くなるときには、酸素の還元反応を示す第2ラインL2の傾きθsが急になる。このとき、第1ラインL1上のプラス側の電流と、第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合う電位が、よりマイナス側におけるゼロに近い位置へシフトする。これにより、酸素濃度が高くなるほど、第1基準電極23に対するアンモニア電極22のマイナス側の電位が小さくなる。言い換えれば、酸素濃度が高くなるほど、アンモニア電極22と第1基準電極23との電位差(混成電位)ΔVが小さくなる。そのため、酸素濃度が高くなるほど、電位差ΔV又はアンモニア濃度を高くする補正を行うことにより、アンモニア濃度の検出精度を高めることができる。
(アンモニア濃度算出部52)
図1に示すように、アンモニア濃度算出部52は、電位差検出部51による電位差ΔVに基づいて、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するよう構成されている。アンモニア濃度算出部52は、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するに当たり、後述する酸素濃度算出部55によって酸素濃度を算出し、算出した酸素濃度における電位差ΔVを、電位差ΔVとアンモニア濃度との関係マップに照合して、アンモニア濃度を算出するように構成されている。
なお、アンモニア濃度算出部52は、酸素濃度及びNOx濃度に基づいてアンモニア濃度を算出するよう構成することもできる。後述するNOx素子部3におけるNOx電極32は、NOxに対する触媒活性を有するだけでなく、アンモニアに対する触媒活性も有する。そのため、アンモニア濃度は、NOx電極32において、NOx濃度として検出することが可能である。これにより、アンモニア濃度算出部52においては、アンモニア濃度とNOx濃度とを比較して、アンモニア濃度がより正しい値を示すよう補正することができる。
電位差検出部51及びアンモニア濃度算出部52は、マルチガスセンサ1に電気接続されたセンサ制御ユニット5(SCU)内に形成されている。電位差検出部51は、アンモニア電極22と第1基準電極23との電位差ΔVを測定するアンプ等を用いて形成されている。アンモニア濃度算出部52は、コンピュータ等を用いて形成されている。また、センサ制御ユニット5は、内燃機関7のエンジン制御ユニット(ECU)50に接続されており、エンジン制御ユニット50による、内燃機関7、還元剤供給装置73等の動作の制御に利用される。
(NOxセンサ部12)
図1に示すように、NOxセンサ部12は、機械的構成部位であるNOx素子部3と、電気的構成部位であるポンピング部53、ポンプ電流検出部54、酸素濃度算出部55、NOx検出部56及びNOx濃度算出部57とによって構成されている。NOx素子部3は、第2固体電解質体31、NOx電極32、第2基準電極34A、ポンプ電極33及び第3基準電極34Bを有する。NOx素子部3は、第2固体電解質体31、NOx電極32及び第2基準電極34A、測定ガス室35の他に、第2固体電解質体31を介して配置されたポンプ電極33及び第3基準電極34Bを更に有する。
NOx素子部3には、NOx素子部3及びアンモニア素子部2を加熱するヒータ部4が積層されている。NOxセンサ部12は、NOx濃度を検出する機能の他に、酸素濃度を検出する機能も備える。具体的には、NOxセンサ部12は、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に電圧を印加して、ポンプ電極33が収容された測定ガス室35における酸素を汲み出すとともに、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れる電流に基づいて測定ガスGにおける酸素濃度を算出するようにも構成されている。
(NOx素子部3)
NOx素子部3は、第2固体電解質体31、測定ガス室35、拡散抵抗部351、ポンプ電極33、NOx電極32、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bを有する。第2固体電解質体31は、第1固体電解質体21に対向して配置されている。第2固体電解質体31は、板状に形成されており、所定の温度において酸素イオンを伝導させる性質を有するジルコニア材料を用いて構成されている。このジルコニア材料は、第1固体電解質体21の場合と同様である。
図1、図2及び図4に示すように、測定ガス室35は、第2固体電解質体31の第3表面311に接して形成されている。測定ガス室35は、ガス室用絶縁体36によって形成されている。ガス室用絶縁体36は、アルミナ等のセラミックス材料からなる。拡散抵抗部351は、多孔質のセラミックス層として形成されており、測定ガス室35へ拡散速度を制限して測定ガスGを導入するための部分である。
ポンプ電極33は、第3表面311における測定ガス室35内に収容されており、測定ガス室35内の測定ガスGに晒される。NOx電極32は、第3表面311における測定ガス室35内に収容されており、ポンプ電極33によって酸素濃度が調整された後の測定ガスGに晒される。第3基準電極34Bは、第2固体電解質体31における、第3表面311とは反対側の第4表面312に設けられている。
ポンプ電極33は、酸素に対する触媒活性を有する白金-金合金等の貴金属材料を用いて構成されている。NOx電極32は、NOx及び酸素に対する触媒活性を有する白金-ロジウム合金等の貴金属材料を用いて構成されている。第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、酸素に対する触媒活性を有する白金等の貴金属材料を用いて構成されている。また、ポンプ電極33、NOx電極32、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、第2固体電解質体31と焼結する際の共材となるジルコニア材料を含有していてもよい。
本形態の第2基準電極34Aは、第2固体電解質体31を介してNOx電極32と対向する位置に設けられており、本形態の第3基準電極34Bは、第2固体電解質体31を介してポンプ電極33と対向する位置に設けられている。なお、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、ポンプ電極33及びNOx電極32と対向する位置の全体に1つ設けられていてもよい。
図1~図3に示すように、第2固体電解質体31の第4表面312及び第4表面312に設けられた第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、基準ガスAとしての大気に晒されている。第1固体電解質体21と第2固体電解質体31とは、基準ガスダクト24を形成するダクト用絶縁体25を介して積層されている。ダクト用絶縁体25は、アルミナ等のセラミックス材料からなる。
基準ガスダクト24は、第1固体電解質体21の第2表面212及び第1基準電極23と、第2固体電解質体31の第4表面312、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bとに大気を接触させる状態で形成されている。第1基準電極23、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、基準ガスダクト24内に収容されている。基準ガスダクト24は、センサ素子10の基端から測定ガス室35に対向する位置まで形成されている。
マルチガスセンサ1の基端側カバー内に導入された基準ガスAは、基準ガスダクト24の基端側の開口部から基準ガスダクト24内に導入される。本形態のセンサ素子10は、第1固体電解質体21と第2固体電解質体31との間に基準ガスダクト24を有することにより、第1~第3基準電極23,34A,34Bの全体をまとめて大気に接触させることができる。
(ヒータ部4)
図1及び図2に示すように、第2固体電解質体31の、第1固体電解質体21が積層された側とは反対側には、NOx素子部3及びアンモニア素子部2を加熱するヒータ部4が積層されている。ヒータ部4は、通電によって発熱する発熱体41と、発熱体41を埋設するヒータ用絶縁体42とによって形成されている。ヒータ用絶縁体42は、アルミナ等のセラミックス材料からなる。
発熱体41は、発熱部と、発熱部に繋がるリード部とによって形成されており、発熱部が各電極22,23,32,33,34A,34Bに対向する位置に形成されている。発熱体41には、発熱体41に通電を行うための通電制御部58が接続されている。通電制御部58は、発熱体41に、PWM(パルス幅変調)制御等を行った電圧を印加するドライブ回路等を用いて形成されている。通電制御部58は、センサ制御ユニット5内に形成されている。
アンモニア素子部2とヒータ部4との距離は、NOx素子部3とヒータ部4との距離よりも大きい。そして、ヒータ部4によってNOx素子部3を加熱する温度に比べて、ヒータ部4によってアンモニア素子部2を加熱する温度は低い。NOx素子部3のポンプ電極33及びNOx電極32は、600~900℃の温度において使用され、アンモニア素子部2のアンモニア電極22は、400~600℃の温度において使用される。アンモニア電極22の温度は、ヒータ4の加熱によって、400~600℃の温度範囲内のいずれかの温度を目標として制御される。
また、NOx素子部3とアンモニア素子部2との間に基準ガスダクト24が形成されていることにより、ヒータ部4によってNOx素子部3及びアンモニア素子部2を加熱する際に、基準ガスダクト24を断熱層として作用させることができる。これにより、NOx素子部3のポンプ電極33及びNOx電極32の温度に比べて、アンモニア素子部2のアンモニア電極22の温度を容易に低くすることができる。また、通電制御部58による通電制御を行うことにより、NOx素子部3及びアンモニア素子部2の温度を目標とする温度に制御する。
(ポンピング部53、ポンプ電流検出部54及び酸素濃度算出部55)
図1に示すように、ポンピング部53は、第3基準電極34Bをプラス側として、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に直流電圧を印加して、測定ガス室35内の測定ガスGにおける酸素を汲み出すよう構成されている。ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に直流電圧が印加されるときには、ポンプ電極33に接触する、測定ガス室35内の測定ガスGにおける酸素が、酸素イオンとなって第2固体電解質体31を第3基準電極34Bに向けて通過し、第3基準電極34Bから基準ガスダクト24へと排出される。これにより、測定ガス室35内の酸素濃度が、NOxの検出に適した濃度に調整される。
ポンプ電流検出部54は、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れる直流電流を検出するよう構成されている。酸素濃度算出部55は、ポンプ電流検出部54によって検出された直流電流に基づいて、測定ガスGにおける酸素濃度を算出するよう構成されている。ポンプ電流検出部54においては、ポンピング部53によって測定ガス室35内から基準ガスダクト24へ排出される酸素の量に比例した直流電流が検出される。
また、ポンピング部53は、測定ガス室35内の測定ガスGにおける酸素濃度が所定の濃度になるまで、測定ガス室35内から基準ガスダクト24へ酸素を排出する。そのため、酸素濃度算出部55は、ポンプ電流検出部54によって検出される直流電流を監視することにより、アンモニア素子部2及びNOx素子部3に到達する測定ガスGにおける酸素濃度を算出することができる。
酸素濃度算出部55によって算出される酸素濃度は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を補正するための酸素濃度として利用される。
(NOx検出部56及びNOx濃度算出部57)
図1に示すように、NOx検出部56は、第2基準電極34Aをプラス側としてNOx電極32と第2基準電極34Aとの間に直流電圧を印加して、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に流れる直流電流を検出するよう構成されている。NOx濃度算出部57は、NOx検出部56によって検出される直流電流に基づいて、測定ガスGにおける補正前NOx濃度を算出し、補正前NOx濃度からアンモニア濃度を差し引いて補正後NOx濃度を算出するよう構成されている。NOx検出部56においては、NOxだけでなくアンモニアも検出される。そのため、NOx濃度算出部57においては、アンモニアの検出量を差し引くことにより実際のNOxの検出量が得られる。
NOx電極32には、ポンプ電極33によって酸素濃度が調整された後の測定ガスGが接触する。そして、NOx検出部56においては、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に直流電圧が印加されるときには、NOx電極32に接触する、測定ガス室35内の測定ガスGにおけるNOxが窒素と酸素に分解され、酸素が酸素イオンとなって第2固体電解質体31を第2基準電極34Aに向けて通過し、第2基準電極34Aから基準ガスダクト24へと排出される。また、NOx検出部56にアンモニアが到達するときには、アンモニアが酸化されて生成されたNOxも同様に窒素と酸素に分解される。そして、NOx濃度算出部57は、NOx検出部56によって検出される直流電流を監視することにより、NOx素子部3に到達する測定ガスGにおける補正前NOx濃度を算出し、補正前NOx濃度からアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度を差し引いて補正後NOx濃度を算出する。
ポンピング部53、ポンプ電流検出部54及びNOx検出部56は、アンプ等を用いてセンサ制御ユニット5内に形成されている。酸素濃度算出部55及びNOx濃度算出部57は、コンピュータ等を用いてセンサ制御ユニット5内に形成されている。
なお、図1においては、便宜的に、電位差検出部51、ポンピング部53、ポンプ電流検出部54及びNOx検出部56を、センサ制御ユニット5と区別して記載する。実際には、これらは、センサ制御ユニット5内に構築されている。
図6において、触媒出口721のアンモニア濃度とNOx濃度との関係を示す濃度領域におけるNOx濃度は、NOx濃度算出部57によって算出される補正後NOx濃度とすることができる。また、この濃度領域におけるアンモニア濃度は、アンモニア濃度算出部52によって算出されるアンモニア濃度とすることができる。
マルチガスセンサ1によれば、アンモニア濃度及びNOx濃度を検出するためのガスセンサの使用数を減らすことができる。また、NOx濃度を検出するために使用されるポンプ電極33及びポンピング部53を利用して、ポンプ電流検出部54及び酸素濃度算出部55によって酸素濃度を検出することができる。
(算出制御部13)
本形態の算出制御部13は、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度の算出の仕方を、アンモニア濃度とNOz濃度との関係を考慮して、適宜変更するよう構成されている。算出制御部13は、前述したアンモニア濃度とNOx濃度との関係を示す第1~第3濃度領域N1,N2,N3ごとに、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度の算出の仕方を切り替えるよう構成されている。
(アンモニア出力濃度)
本形態においては、図6に示すように、算出制御部13は、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度がNOxセンサ部12による補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高い場合は、アンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第3濃度領域N3にあると判断する。この場合には、算出制御部13は、マルチガスセンサ1からの出力に用いるアンモニア出力濃度を、NOxセンサ部12の補正前NOx濃度を利用して算出されたアンモニア濃度とする。なお、この補正前アンモニア濃度は、酸素濃度に応じた補正が行われて、マルチガスセンサ1から出力される。
また、算出制御部13は、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度がNOxセンサ部12による補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高くない場合は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第1濃度領域N1又は第2濃度領域N2にあると判断する。この場合には、算出制御部13は、マルチガスセンサ1からの出力に用いるアンモニア出力濃度を、NOxセンサ部12の補正後NOx濃度によって補正された、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度とする。なお、このアンモニア濃度は、酸素濃度による補正が行われて、マルチガスセンサ1から出力される。
アンモニア濃度が補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高くない場合とは、アンモニア濃度が補正後NOx濃度よりも高くても、アンモニア濃度と補正後NOx濃度との差が第2濃度差Δn2未満である場合、又はアンモニア濃度がNOx濃度未満である場合を示す。
より具体的には、算出制御部13は、第1濃度領域N1における、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度を、NOxセンサ部12の補正後NOx濃度に基づく第1補正量と、酸素濃度算出部55の酸素濃度とを用いて補正された、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度とする。また、算出制御部13は、第2濃度領域N2における、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度を、NOxセンサ部12の補正後NOx濃度に基づく、第1補正量よりも補正の度合いが小さい第2補正量と、酸素濃度算出部55の酸素濃度とを用いて補正された、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度とする。
第1補正量及び第2補正量は、補正後NOx濃度によってアンモニア濃度を補正するときの第1補正係数及び第2補正係数とすることができる。また、第1補正量及び第2補正量は、算出制御部13において、アンモニア濃度をパラメータとして、補正後NOx濃度と第1補正量(又は第2補正量)との関係が求められた(記憶された)関係マップを利用して決定することができる。
この関係マップは、アンモニア濃度が異なると、補正後NOx濃度に対する第1補正量(又は第2補正量)が変化する関係に作成される。そして、マルチガスセンサ1が使用される特定時点におけるアンモニア濃度及び補正後NOx濃度を関係マップに照合すると、この特定時点における第1補正量(又は第2補正量)を読み取ることが可能である。
また、算出制御部13は、第3濃度領域N3における、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度を、NOxセンサ部12の補正前NOx濃度を用いて算出されたアンモニア濃度とする。この第3濃度領域N3におけるアンモニア出力濃度は、NOx濃度算出部57による補正前NOx濃度とすることができる。
なお、算出制御部13は、第2濃度領域N2における、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度は、酸素濃度算出部55の酸素濃度を用いて補正された、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度とすることもできる。
(NOx出力濃度)
算出制御部13は、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度を、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度によって補正するよう構成することができる。そして、マルチガスセンサ1から出力するNOx出力濃度は、算出制御部13によって補正されたNOx濃度とすることができる。この場合に、アンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第3濃度領域N3にある場合には、NOxセンサ部12においては、内燃機関7から排気されたNOxではなく、アンモニアが酸化して生成されたNOxが検出されている可能性が高くなる。そのため、第3濃度領域N3にある場合のNOx出力濃度は、第1濃度領域N1又は第2濃度領域N2にある場合のNOx出力濃度に比べて、アンモニア濃度による補正量を大きくすることができる。
図10は、混成電位式のアンモニアセンサ部11において、測定ガスGにおけるアンモニア濃度の変化に応じて検出される、電位差検出部51によるアンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差(混成電位)ΔVを示す。同図においては、アンモニア濃度の領域を、第1~第3濃度領域N1,N2,N3に区分して示す。なお、第1~第3濃度領域N1,N2,N3は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係によって決定されるが、同図においては、NOx濃度を省略して示す。
同図に示すように、電位差検出部51によって検出される電位差(混成電位)ΔVは、アンモニア濃度が低い第1濃度領域N1においては、アンモニア濃度の変化に応じて感度良く変化して検出される。第2濃度領域N2における電位差ΔVの変化率は、第1濃度領域N1における電位差ΔVの変化率に比べて小さくなる。変化率とは、アンモニア濃度の変化量に対する電位差ΔVの変化量の割合のことをいう。そして、第3濃度領域N3における電位差ΔVの変化率は、第2濃度領域N2における電位差ΔVの変化率に比べて更に小さくなる。また、第3濃度領域N3においては、電位差ΔVが飽和状態に近くなっている。
この電位差(混成電位)ΔVの飽和は、図8のアンモニア電極22において生じる混成電位の説明図を用いて説明することができる。同図において、測定ガスGにおけるアンモニア濃度が高くなるときには、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1の傾きθaが急になる。そして、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1上のプラス側の電流と、酸素の還元反応を示す第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合うときの混成電位が、よりマイナス側へシフトする。このとき、傾きθaが大きくなるほど、混成電位がマイナス側へシフトしにくくなる。このことは、アンモニア濃度が高くなると、混成電位が飽和状態に近づくことを意味する。
図11は、混成電位式のアンモニアセンサ部11において、測定ガスGにおけるアンモニア濃度の変化に応じて検出される、電位差検出部51によるアンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差(混成電位)ΔVが、酸素濃度の影響を受けて変化することを示す。同図においては、アンモニア濃度の領域を、第1~第3濃度領域N1,N2,N3に区分して示す。なお、第1~第3濃度領域N1,N2,N3は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係によって決定されるが、同図においては、NOx濃度を省略して示す。
同図に示すように、電位差検出部51によって検出される電位差(混成電位)ΔVは、酸素濃度が高くなるほど小さく検出される(マイナス側のゼロに近い位置で検出される)。この理由は、図9における傾きθsによって説明したとおりである。
図12は、混成電位式のアンモニアセンサ部11において、測定ガスGにおけるアンモニア濃度の変化に応じて検出される、電位差検出部51によるアンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差(混成電位)ΔVが、NOx濃度の影響を受けて変化することを示す。同図においては、アンモニア濃度の領域を、第1~第3濃度領域N1,N2,N3に区分して示す。なお、第1~第3濃度領域N1,N2,N3は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係によって決定される。
同図に示すように、第1濃度領域N1においては、アンモニア濃度が低いために、NOx濃度の変化を受けて電位差検出部51によって検出される電位差(混成電位)ΔVが大きく変化している。また、第1濃度領域N1においては、混成電位は、NOx濃度が高くなるほど小さく検出される。この理由は、アンモニア濃度が低いときには、混成電位がNOx等の他ガスによる影響を受けやすいことに起因する。なお、第2濃度領域N2及び第3濃度領域N3においても、混成電位は、NOx濃度の影響を受け、NOx濃度が高くなるほど若干小さく検出される。ただし、アンモニア濃度がある程度以上高い第2、第3濃度領域N2,N3においては、アンモニア濃度がNOx濃度による影響を受けにくい。
この電位差(混成電位)ΔVに対するNOx濃度の影響は、図13のアンモニア電極22において生じる混成電位の説明図を用いて説明することができる。同図においては、NOxがNO(一酸化窒素)である場合を示す。同図において、測定ガスG中に酸素及びNOが存在するときには、酸素の還元反応を示す第2ラインL2上のマイナス側の電流は、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1上のプラス側の電流と釣り合おうとするとともに、NOの還元反応を示す第3ラインL3上のマイナス側の電流とも釣り合おうとする。
第3ラインL3の傾きθnは、第1ラインL1の傾きθaよりも緩やかであり、かつNOによる電位がアンモニアによる電位よりも小さいことにより、酸素の還元反応とNOの酸化反応とが釣り合う混成電位ΔV2は、酸素の還元反応とアンモニアの酸化反応とが釣り合う混成電位ΔV1よりも低くなる(マイナス側のゼロに近い位置になる)。そして、アンモニア濃度が低い場合には、酸素の還元反応とアンモニアの酸化反応とが釣り合う混成電位ΔV1が小さくなり、この混成電位が、酸素の還元反応とNOの酸化反応とが釣り合う混成電位ΔV2に近くなる。そのため、アンモニア濃度が低い場合には、電位差検出部51によって検出される電位差(混成電位)ΔV1がNOx等の他ガスによる影響を受けやすくなると考える。その結果、特に第1濃度領域N1においては、NOx濃度に応じたアンモニア濃度の補正が必要になる。
アンモニアは、アンモニア素子部2に比べて高い温度に加熱されるNOx素子部3の付近に存在するとき、NOxに酸化されやすい性質を有する。このアンモニアがNOxに酸化される反応式は、代表的には、4NH3+5O2→4NO+6H2Oによって表される。
図14は、混成電位式のアンモニアセンサ部11において、測定ガスGにおけるNOx濃度の変化に応じて検出される、NOx検出部56によるNOx電極32と第2基準電極34Aとの間に生じる直流電流が、アンモニア濃度の影響を受けて変化することを示す。NOx検出部56による直流電流は、NOx検出部56から出力されるNOx出力電圧に変換して示す。同図においては、NOx濃度の領域を、第1~第3濃度領域N1,N2,N3に区分して示す。なお、第1~第3濃度領域N1,N2,N3は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係によって決定される。
同図に示すように、測定ガスGにおけるNOx濃度が低い第3濃度領域N3においては、測定ガスGにおけるアンモニア濃度が高くなる。第3濃度領域N3においては、アンモニア濃度が上昇したときに、第1、第2濃度領域N1,N2に比べて、NOx検出部56の直流電流が上昇しやすい傾向にある。
そして、第3濃度領域N3にあるときに、NOx検出部56においては、内燃機関7から排気されるNOx以外に、アンモニアが酸化して生成されたNOx(特にNO等)も多く検出される。そのため、第3濃度領域N3においては、NOx濃度算出部57によって算出される補正前NOx濃度を利用して、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出することができる。
(制御方法)
次に、マルチガスセンサ1の制御方法の一例を、図15のフローチャートを参照して説明する。
内燃機関7の燃焼運転が開始されたときには、マルチガスセンサ1、還元剤供給装置73等が動作する。マルチガスセンサ1においては、電位差検出部51によって、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる電位差ΔVが検出されるとともに、ポンプ電流検出部54によって、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れる直流電流が検出される。また、NOx検出部56によってNOx電極32と第2基準電極34Aとの間に生じる直流電流が検出される。
また、アンモニア濃度算出部52によって、電位差検出部51による電位差ΔVに基づいて、測定ガスGにおけるアンモニア濃度が算出される(ステップS101)。また、酸素濃度算出部55によって、ポンプ電流検出部54による直流電流に基づいて、測定ガスGにおける酸素濃度が算出される(ステップS101)。さらに、NOx濃度算出部57によって、NOx検出部56による直流電流に基づいて、測定ガスGにおける補正前NOx濃度が算出され、補正前NOx濃度からアンモニア濃度が差し引かれて補正後NOx濃度が算出される(ステップS101)。
次いで、算出制御部13は、アンモニア濃度と補正後NOx濃度とを比較し、補正後NOx濃度がアンモニア濃度よりも第1濃度差Δn1以上高いか否かを判定する(ステップS102)。このアンモニア濃度は、酸素濃度に応じて補正したアンモニア濃度とすることができる。補正後NOx濃度がアンモニア濃度よりも第1濃度差Δn1以上高い場合には、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第1濃度領域N1にあることが認定される(ステップS103)。この場合には、算出制御部13は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度に基づく第1補正量と、酸素濃度算出部55による酸素濃度とを用いて補正する。そして、マルチガスセンサ1から出力されるアンモニア出力濃度は、補正後NOx濃度及び酸素濃度によって補正されたアンモニア濃度として算出される(ステップS104)。
第1濃度領域N1においては、図12に示すように、電位差検出部51による電位差ΔVがNOx濃度の影響を大きく受け、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度がNOx濃度の影響を大きく受けた値に算出されている。そのため、算出制御部13によるアンモニア出力濃度においては、第1補正量を用いてNOx濃度の影響をより大きく補正する。
また、ステップS102の判定において、補正後NOx濃度がアンモニア濃度よりも第1濃度差Δn1以上高くない場合には、アンモニア濃度が補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高いか否かを判定する(ステップS105)。アンモニア濃度が補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高い場合には、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第3濃度領域N3にあることが認定される(ステップS106)。この場合には、算出制御部13は、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度を、NOx濃度算出部57によって算出された補正前NOx濃度とする(ステップS107)。
第3濃度領域N3においては、図12に示すように、電位差検出部51による電位差ΔVがNOx濃度の影響を受けにくいものの、この電位差ΔVが飽和状態に近くなる。そして、測定ガスGにおけるアンモニア濃度の変化が、電位差ΔVとして検出されにくい状態にある。そのため、算出制御部13によるアンモニア出力濃度においては、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度を、電位差ΔVを用いずに、NOx濃度算出部57による補正前NOx濃度とする。
この場合には、NOx電極32に接触する測定ガスGには、内燃機関7から排気されたNOxに比べて、アンモニアが酸化して生成されたNOx(特にNO等)が多く含まれる。そのため、NOx濃度算出部57による補正前NOx濃度をアンモニア出力濃度とすることにより、飽和状態にある電位差ΔVに基づいて算出されたアンモニア濃度をアンモニア出力濃度とする場合よりも、アンモニア出力濃度の精度を向上させることができる。
また、ステップS105の判定において、アンモニア濃度が補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高くない場合には、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第2濃度領域N2にあることが認定される(ステップS108)。この場合には、算出制御部13は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度に基づく、第1補正量よりも補正の度合いが小さい第2補正量と、酸素濃度算出部55による酸素濃度とを用いて補正する。そして、マルチガスセンサ1から出力されるアンモニア出力濃度は、補正後NOx濃度及び酸素濃度によって補正されたアンモニア濃度として算出される(ステップS109)。
第2濃度領域N2においては、図12に示すように、電位差検出部51による電位差ΔVがNOx濃度の影響を小さく受け、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度がNOx濃度の影響を小さく受けた値に算出されている。そのため、算出制御部13によるアンモニア出力濃度においては、第2補正量を用いてNOx濃度の影響を小さく補正する。
ステップS104、S107又はS109の実行後には、マルチガスセンサ1の制御を終了する信号があるか否かを判定する(ステップS110)。制御を終了する信号がある場合には、マルチガスセンサ1の制御を終了する。一方、制御を終了する信号がない場合には、ステップS101に戻り、ステップS101~S110が繰り返し実行される。
(作用効果)
本形態のマルチガスセンサ1は、アンモニアセンサ部11及びNOxセンサ部12の他に、特定条件が満たされた場合にアンモニア濃度をアンモニアセンサ部11のアンモニア濃度算出部52とは異なる手段によって算出することができる算出制御部13を備える。この算出制御部13においては、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度とNOxセンサ部12のNOx濃度算出部57による補正後NOx濃度とを比較し、アンモニア濃度が補正後NOx濃度よりも第2濃度差Δn2以上高い場合を、特定条件としての第3濃度領域N3にある場合として認定する。
アンモニア濃度とNOx濃度とを比較する知見は、本願発明者らによって初めて見出されたものである。マルチガスセンサ1によってアンモニア濃度及びNOx濃度の検出が行われる環境下においては、アンモニアはNOxを還元するために用いられる。そして、本願発明者らは、この環境下においては、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度が、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度よりも、低くなる場合と高くなる場合とが異なるタイミングで生じることに着目している。
また、本形態の算出制御部13は、アンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第1~第3濃度領域N1,N2,N3のいずれにあるかを判定し、各濃度領域N1,N2,N3において、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度の算出の仕方を変更している。特に、第3濃度領域N3においては、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度は、アンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差ΔVが飽和状態に近くなることにより、検出精度を高めることが難しくなる。そこで、この第3濃度領域N3においては、算出制御部13は、NOx濃度算出部57による補正前NOx濃度がアンモニア濃度を疑似的に示すものであるとして、このNOx濃度をマルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度として使用する。これにより、マルチガスセンサ1においては、アンモニア濃度が高濃度になる場合であっても、その検出精度を高めることができる。
また、本形態のマルチガスセンサ1は、アンモニア濃度が単に所定濃度以上になった場合に特定条件を認定する場合とは異なる。この場合とは異なり、マルチガスセンサ1は、触媒72におけるNOxの還元反応の状態も加味し、NOx濃度が低いことを前提としてアンモニア濃度が高くなった場合を第3濃度領域N3として認定することができる。これにより、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度及び補正後NOx濃度を、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度に利用するタイミングを適切に検知することができる。そして、マルチガスセンサ1からアンモニア出力濃度を出力する制御を、第1~第3濃度領域N1,N2,N3に応じて適切に切り替えることができる。
それ故、本形態のマルチガスセンサ1によれば、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を広い濃度範囲に亘って精度良く検出することができる。
アンモニアは、特異的に吸着性の強いガスであるため、排気管71、触媒72等への吸着によって、排気管71の各部において均一な濃度分布になりにくいといった性質を有する。また、アンモニアは、還元剤供給装置73からの尿素水の噴射によって生成され、排気管71内において十分に混合されていない状態で触媒72及びマルチガスセンサ1に到達することがある。
そのため、排気管71におけるマルチガスセンサ1の検知部の配置位置によっては、検出されるアンモニアの濃度が異なるといったことが生じ得る。従って、NOx濃度によってアンモニア濃度を検知する場合、あるいはNOx濃度によってアンモニア濃度を補正する場合等においては、アンモニアセンサとNOxセンサとが、排気管71における別々の位置に配置されているよりも、マルチガスセンサ1として一つのガスセンサに集約されていた方が、アンモニア濃度を精度良く検出するために有利である。
なお、アンモニア濃度によってNOx濃度を補正する場合にも、同様の理由により、マルチガスセンサ1によれば、NOx濃度を精度良く検出することが可能になる。
また、NOxセンサ部12は、アンモニアセンサ部11が設けられたアンモニアセンサとは別のNOxセンサに設けることも可能である。この場合には、アンモニアセンサにアンモニアセンサ部11及び算出制御部13が設けられ、算出制御部13は、NOxセンサのNOxセンサ部12からNOx濃度の信号を利用して、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出することができる。
この場合には、アンモニアセンサの検知部とNOxセンサの検知部とを、排気管71におけるできるだけ近い位置に配置することが好ましい。なお、「検知部」とは、センサ素子10における、測定ガスGが接触する先端部のことをいう。
<実施形態2>
本形態の算出制御部13は、測定ガスGにおけるアンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第1濃度領域N1にある場合に、実施形態1に示す制御とは異なる制御を行う。本形態においては、アンモニア濃度が低い第1濃度領域N1において、アンモニアセンサ部11の電位差検出部51において検出される電位差ΔVが、アンモニアの検出によるものか、酸素を除く他ガスの検出によるものかを判定する。前述したように、他ガスが混成電位に与える影響は、特に第1濃度領域N1において顕著になるためである。
図16に示すように、本形態のマルチガスセンサ1は、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に直流電圧Eを印加するための電圧印加部61を備える。本形態の電圧印加部61は、第1基準電極23がマイナス側になるようにして、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に直流電圧Eを印加する。また、マルチガスセンサ1は、電圧印加部61による直流電圧Eが印加されたときに、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる直流電流Iを検出する電流検出部62を備える。
マルチガスセンサ1は、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に、電圧印加部61及び電流検出部62を接続するための切り替え部60を有する。切り替え部60は、直流電圧Eを印加するときに、アンモニア電極22と基準電極23との間に電圧印加部61及び電流検出部62を接続し、直流電圧Eを印加しないときには、アンモニア電極22と基準電極23との間から電圧印加部61及び電流検出部62を切り離すスイッチング回路によって構成されている。電圧印加部61、電流検出部62及び切り替え部60は、センサ制御ユニット5内に構築されている。なお、図16においては、便宜的に、電圧印加部61、電流検出部62及び切り替え部60をセンサ制御ユニット5と区別して記載する。
電圧印加部61によって、第1基準電極23がマイナス側になるようにして、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に直流電圧Eが印加されるときには、第1基準電極23から第1固体電解質体21を通ってアンモニア電極22へ酸素イオンが強制的に供給され、アンモニア電極22における化学反応が促進される。
図17は、アンモニア電極22に種々のガスが接触するときに、アンモニア電極22に生じる電位を示す図である。同図においては、横軸に、第1基準電極23に対するアンモニア電極22の電位(電位差)をとり、縦軸に、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に流れる電流をとって、種々のガスによる電位の変化の仕方を示す。種々のガスには、アンモニアの他に、代表的に、一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)及び水素(H2)があるとする。
同図においては、アンモニアによる電位と電流との関係を示す第1ラインL1の他に、一酸化窒素による電位と電流との関係を示す第3ラインL3、一酸化炭素による電位と電流との関係を示す第4ラインL4、及び水素による電位と電流との関係を示す第5ラインL5を示す。各ラインL1,L3,L4,L5は、右肩上がりのラインであり、電流を電位によって除算して得られる傾きθa,θxを有する。アンモニアの第1ラインL1の傾きθaは、一酸化窒素、一酸化炭素及び水素の第3~第5ラインL3,L4,L5の傾きθxに比べて大きい。
電圧印加部61によって印加する直流電圧Eと、電流検出部62によって検出される直流電流Iとの間にも、各ラインL1,L3,L4,L5の傾きθa,θxが反映されると考える。直流電流Iを直流電圧Eによって除算した傾きθを得るために、電圧印加部61によって、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に2つの異なる直流電圧E1,E2を印加する。そして、それぞれの直流電圧E1,E2が印加されたときの直流電流I1,I2を電流検出部62によって検出する。
図18に示すように、本形態の算出制御部13は、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に第1電圧E1を印加したときに、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる第1電流I1と、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に第1電圧E1よりも大きな第2電圧E2を印加したときに、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる第2電流I2とを検出する。第2電流I2は第1電流I1よりも大きな値として検出される。
そして、第2電流I2から第1電流I1を差し引いた差分I2-I1を、第2電圧E2から第1電圧E1を差し引いた差分E2-E1によって除算した傾きθ(=(I2-I1)/(E2-E1))を算出する。電圧E1,E2が印加されたときのアンモニアによる傾きθa0は、電圧E1,E2が印加されたときの一酸化窒素、一酸化炭素、水素等の他ガスによる傾きθx0に対して大きい。そこで、アンモニアによる傾きθa0の大きさと、他ガスによる傾きθx0の大きさとの間に、アンモニアの場合と他ガスの場合とを区別するための基準傾きθ0を設定する。
こうして、算出制御部13は、電流検出部62によって第1電流I1及び第2電流I2を検出して得られる傾きθが、基準傾きθ0以上である場合には、測定ガスGにアンモニアが含まれていることを検知することができる、一方、算出制御部13は、電流検出部62によって第1電流I1及び第2電流I2を検出して得られる傾きθが、基準傾きθ0未満である場合には、測定ガスGにアンモニアが含まれていないことを検知し、アンモニア電極22には、アンモニアではなく他ガスが接触していることを検知することができる。
(制御方法)
次に、本形態のマルチガスセンサ1の制御方法の一例を、図19のフローチャートを参照して説明する。
本形態においても、ステップS201の動作は、実施形態1のステップS101の動作と同様である。
次いで、算出制御部13は、アンモニア濃度と補正後NOx濃度とを比較し、補正後NOx濃度がアンモニア濃度よりも第1濃度差Δn1以上高いか否かを判定する(ステップS202)。補正後NOx濃度がアンモニア濃度よりも第1濃度差Δn1以上高い場合には、アンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第1濃度領域N1にあることが認定される(ステップS203)。
次いで、この場合には、電圧印加部61によってアンモニア電極22と第1基準電極23との間に第1電圧E1を印加し、このときに生じる第1電流I1を電流検出部62によって検出する(ステップS204)。また、電圧検出部によってアンモニア電極22と第1基準電極23との間に第2電圧E2を印加し、このときに生じる第2電流I2を電流検出部62によって検出する(ステップS205)。次いで、算出制御部13は、第2電流I2から第1電流I1を差し引いた差分を、第2電圧E2から第1電圧E1を差し引いた差分によって除算して、傾きθを算出する(ステップS206)。
次いで、算出制御部13は、傾きθが基準傾きθ0以上であるか否かを判定する(ステップS207)。傾き値が基準傾きθ0以上である場合には、算出制御部13は、アンモニア電極22にアンモニアが接触していることを検知する。この場合には、算出制御部13は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度に基づく第1補正量と、酸素濃度算出部55による酸素濃度とを用いて補正する。そして、マルチガスセンサ1から出力されるアンモニア出力濃度は、補正後NOx濃度及び酸素濃度によって補正されたアンモニア濃度として算出される(ステップS208)。
一方、傾き値が基準傾きθ0未満である場合には、算出制御部13は、アンモニア電極22にアンモニアがほとんど接触せず、アンモニア電極22には他ガスが接触していることを検知する。この場合には、算出制御部13は、測定ガスGにアンモニアが存在しないと検知して、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度を0(ゼロ)にすることができる(ステップS209)。また、算出制御部13は、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度をマルチガスセンサ1から出力しないようにすることもできる。
また、ステップS102の判定において、補正後NOx濃度がアンモニア濃度よりも第1濃度差Δn1以上高くない場合には、ステップS210以降が実行される。ステップS210~S215は、実施形態1のステップS105~S110と同様である。
(作用効果)
本形態のマルチガスセンサ1においては、測定ガスGにおけるアンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第1濃度領域N1にある場合に、測定ガスG中にアンモニアが存在するのかしないのかを検知することができる。そして、測定ガスG中にアンモニアが存在しないと検知される場合には、マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度をゼロにすることができる。これにより、アンモニア濃度が低い場合において、測定ガスG中にアンモニアが存在しないにも拘らず、誤ってアンモニアが存在すると検知することを回避することができる。
本形態のマルチガスセンサ1におけるその他の構成、制御方法、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
<実施形態3>
本形態は、NOx検出部56によるアンモニアの検出を容易にするために、センサ素子10に、アンモニアを酸化させてNOxに変換させる酸化触媒37を設けたマルチガスセンサ1について示す。
酸化触媒37は、アンモニア電極22の近くに配置すると、アンモニア電極22及び電位差検出部51によって検出されるべきアンモニアの濃度が低下してしまう。そのため、酸化触媒37は、アンモニア電極22からできるだけ離れた位置に配置することが望ましい。
また、酸化触媒37は、アンモニアから変換されたNOxを、NOx電極32に接触させるために、センサ素子10の周囲からNOx電極32が配置された測定ガス室35までの測定ガスGの流れの経路に配置する。酸化触媒37は、図20に示すように、測定ガス室35における測定ガスGの入口に配置された拡散抵抗部351に設けることができる。酸化触媒37は、例えば、NiO(酸化ニッケル)等とすることができる。酸化触媒37は、拡散抵抗部351を形成するアルミナ等の多孔質の金属酸化物に担持させることができる。
また、酸化触媒37は、図21に示すように、センサ素子10における、各電極22,23、32,33,34A,34B及び発熱体41が設けられた先端部の外側面に設けることもできる。この場合には、酸化触媒37は、センサ素子10の先端部に設ける、アルミナ等の金属酸化物による多孔質の保護層38に担持させることができる。この場合には、酸化触媒37は、第2固体電解質体31に積層された各絶縁体25,36,42の表面に配置されることになる。
また、酸化触媒37は、保護層38における、拡散抵抗部351の周囲に位置する部分にのみ担持させることもできる。また、酸化触媒37は、測定ガス室35内における、第2固体電解質体31の表面又は各絶縁体36,42の表面に配置することもできる。
本形態のマルチガスセンサ1においては、測定ガスGにおけるアンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第3濃度領域N3にある場合において、NOx電極32に接触するアンモニアをNOxに積極的に変換することができる。そのため、算出制御部13が、第3濃度領域N3において、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度を利用して、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出する場合に、このアンモニア濃度の算出精度を高めることができる。
本形態のマルチガスセンサ1におけるその他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
<確認試験1>
本確認試験においては、マルチガスセンサ1におけるアンモニアセンサ部11をモデル化した試作品11Xを用い、アンモニア濃度を変化させたときの混成電位を検出した。図22に示すように、この試作品11Xは、1mmの厚みの固体電解質体21Xの第1表面201にアンモニア電極22を形成するとともに、第1表面201と反対側の第2表面202に基準電極23を形成したものである。
固体電解質体21Xは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)によって構成し、アンモニア電極22は、Au及びYSZによって構成し、基準電極23は、Pt及びYSZによって構成した。また、アンモニア電極22は、Auを80体積%、YSZを20体積%含有し、基準電極23は、Ptを80体積%、YSZを20体積%含有するものとした。
アンモニア電極22のペースト材料を、φ8mmの大きさで固体電解質体21Xのシートの第1表面201に印刷するとともに、基準電極23のペースト材料を、φ8mmの大きさで固体電解質体21Xのシートの第2表面202に印刷した。アンモニア電極22は、850℃の大気雰囲気下においてペースト材料を2時間焼成することによって形成した。また、基準電極23、1200℃の大気雰囲気下においてペースト材料を2時間焼成することによって形成した。
また、固体電解質体21Xの第1表面201には、アンモニア電極22を囲う絶縁材による筒体39を形成し、固体電解質体21Xの第2表面202には、基準電極23を囲う絶縁材による筒体39を形成した。
また、確認試験においては、酸素(O2)を5体積%含有し、残部が窒素(N2)からなるベース気体に、アンモニア(NH3)を適宜含ませた試験ガスを、500ml/minの流量でアンモニア電極22へ供給した。そして、試験ガスにおけるアンモニア濃度を0~500ppmに変化させて、アンモニア電極22に生じる混成電位を、アンモニア電極22と基準電極23との電位差ΔVとして電圧計51Xによって測定した。また、基準電極23は大気に開放した。また、試作品11Xは、電気炉4X内に配置し、電気炉4Xによって固体電解質体21Xの温度が450℃になるように加熱した。
図23には、アンモニア電極22に生じる混成電位(電位差)ΔVの測定結果を示す。同図において、アンモニア濃度が500ppmに近づくように高くなるに連れ、混成電位は所定の電位に飽和していくことが確認された。このことより、アンモニア濃度が高くなると、混成電位が飽和状態に近くなり、アンモニア濃度の変化を検出することが難しくなることが確認された。
<確認試験2>
本確認試験においては、電位差検出部51による電位差ΔVの検出に、アンモニア及び酸素以外の他ガスが与える影響について確認した。本確認試験においては、確認試験1に示した試作品11Xを用いた。
本確認試験においては、試作品11Xのアンモニア電極22へ供給する試験ガスに、アンモニア、他ガスとしてのCO、H2、NO、C3H8のそれぞれを100ppm(0.01体積%)単独で含有させたときの混成電位を電圧計51Xによって測定した。試験ガスは、酸素(O2)を5体積%含有し、残部が窒素(N2)からなるものである。
図24には、アンモニア又は他ガスが単独で含有された試験ガスがアンモニア電極22へ供給された場合の混成電位(電位差)ΔVの測定結果を示す。同図において、アンモニア電極22においては、アンモニアが100ppm含まれる場合だけでなく、CO、H2、NO、又はC3H8の他ガスが100ppm含まれる場合にも、混成電位が検出されることが確認された。このことは、アンモニア電極22に、アンモニアではなく他ガスが接触する場合でも、アンモニア電極22において混成電位が検出されることを示す。
そして、アンモニア電極22に他ガスが単独で接触する場合には、他ガスが、アンモニア電極22によって検出されてしまうことが確認された。従って、測定ガスGにおけるアンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第1濃度領域N1にある場合には、アンモニア濃度が低く、他ガスがアンモニア濃度に影響を与えてしまうことが確認された。
<確認試験3>
本確認試験においても、電位差検出部51による電位差ΔVの検出に、アンモニア及び酸素以外の他ガスが与える影響について確認した。本確認試験においても、確認試験1に示した試作品11Xを用いた。
本確認試験においては、試作品11Xのアンモニア電極22へ供給する試験ガスに、アンモニアを100ppm含有させるとともに、他ガスとしてのCO、H2、NO、C3H8のそれぞれを100ppm含有させたときの混成電位を電圧計51Xによって測定した。試験ガスは、酸素(O2)を5体積%含有し、残部が窒素(N2)からなるものである。
図25には、アンモニア及び他ガスの両方が含有された試験ガスがアンモニア電極22へ供給された場合の混成電位の測定結果を示す。同図においては、アンモニアが単独で100ppm含まれる場合の混成電位も示す。そして、アンモニア及びCO、H2、NO、又はC3H8の他ガスが100ppmずつ含まれる場合の混成電位は、アンモニアが単独で100ppm含まれる場合の混成電位と比べて、大きな差はないことが確認された。このことは、アンモニア電極22に、アンモニアとともに他ガスが接触する場合には、アンモニア電極22において検出される混成電位は、アンモニアに支配されることを示す。
そして、アンモニア電極22に他ガスがアンモニアとともに接触する場合には、他ガスが、アンモニア電極22によるアンモニアの検出に、ほとんど影響を与えないことが確認された。従って、測定ガスGにおけるアンモニア濃度と補正後NOx濃度との関係が第2、第3濃度領域N2,N3にある場合には、アンモニア濃度がある程度高く、他ガスがアンモニア濃度にほとんど影響を与えないことが確認された。
<確認試験4>
本確認試験においては、NOx電極32によって、アンモニアから変換されたNOxを検出する場合に、NOx電極32の周辺に、酸化触媒37を設けない場合と設けた場合とについて、検出される電流を比較した。
図26に示すように、本確認試験においては、マルチガスセンサ1におけるNOxセンサ部12を形成した、NOxセンサの試作品12Xを用いた。また、NOxセンサの試作品12Xは、NOx電極32の周辺に酸化触媒37が設けられていない第1試作品と、NOx電極32の周辺に酸化触媒37としてのNiO(酸化ニッケル)が設けられた第2試作品とを準備した。
第1試作品及び第2試作品は、実施形態1に示したNOxセンサ部12と同様になるように、固体電解質体31Xの第3表面301にポンプ電極33及びNOx電極32を設けるとともに固体電解質体31Xの第4表面302に基準電極33A,33Bを設け、測定ガス室35の入口に拡散抵抗部351を設けて形成した。第1試作品及び第2試作品においては、NOx電極32と第2基準電極33Bとの間に生じる電流を測定する電流計56Xを接続した。また、ポンプ電極33と第3基準電極33Bとの間、及びNOx電極32と第2基準電極33Aとの間には、電圧を印加した。
まず、第1試作品及び第2試作品に、NOxとしてのNO(一酸化窒素)及び酸素が含有された試験ガスを供給した場合の、NOx電極32と第2基準電極33Aとの間に生じる電流を検出電流値[μA]として測定した。NOx電極32に接触させる試験ガスのNO濃度は100[ppm]、500[ppm]、1000[ppm]に順次変化させ、NOx電極32に接触させる試験ガスの酸素濃度は5[体積%]、10[体積%]、20[体積%]に順次変化させた。なお、試験ガスの残部は窒素とした。
図27及び図28には、NO及び酸素が含有された試験ガスを用いた場合の試験結果としての検出電流値[μA]を、「NO」として実線によって示す。図27は、酸化触媒37が設けられていない第1試作品についての結果を示し、図28は、酸化触媒37が設けられた第2試作品についての結果を示す。
次に、酸化触媒37が設けられていない第1試作品のNOx電極32に、アンモニア及び酸素が含有された試験ガスを供給した場合の、NOx電極32と基準電極23との間に生じる電流を検出電流値[μA]として測定した。NOx電極32に接触させる試験ガスのアンモニア濃度は100[ppm]、500[ppm]、1000[ppm]に順次変化させた。酸素濃度等については、「NO」の場合と同様である。
図27には、酸化触媒37が設けられていない第1試作品について、アンモニア及び酸素が含有された試験ガスを用いた場合の試験結果としての検出電流値[μA]を、「アンモニア」として破線によって示す。酸化触媒37が設けられていない第1試作品においては、NOの代わりにアンモニアがNOx電極32に供給されたことにより、検出電流値は、NOが供給された場合に比べて小さく測定された。この理由は、アンモニアの一部は、NOxに酸化されるものの、アンモニアの残部はアンモニアのままNOx電極32に到達したためである。
次に、酸化触媒37が設けられた第2試作品のNOx電極32に、アンモニア及び酸素が含有された試験ガスを供給した場合の、NOx電極32と基準電極23との間に生じる電流を検出電流値[μA]として測定した。NOx電極32に接触させる試験ガスのアンモニア濃度は100[ppm]、500[ppm]、1000[ppm]に順次変化させた。酸素濃度等については、「NO」の場合と同様である。
図28には、酸化触媒37が設けられた第2試作品について、アンモニア及び酸素が含有された試験ガスを用いた場合の試験結果としての検出電流値[μA]を、「アンモニア」として破線によって示す。酸化触媒37が設けられた第2試作品においては、検出電流値は、NOが供給された場合に比べてわずかに低く測定され、NOが供給された場合から大きくは変化しなかった。この理由は、アンモニアの多くが酸化触媒37によってNOxに酸化され、酸化されたNOxがNOx電極32に到達したためである。
このように、NOx電極32の周辺に酸化触媒37を設けることにより、アンモニアを効果的にNOxに酸化(変換)させることができ、NOxセンサ部12によってアンモニア濃度を精度良く検出できることが確認された。
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。