以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
〔実施形態〕
以下の説明において、タイヤ幅方向とは、空気入りタイヤの回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面に向かう方向、タイヤ幅方向外側とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面に向かう方向の反対方向をいう。また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう方向、タイヤ径方向外側とは、タイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる方向をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心として回転する方向をいう。また、以下の説明では、子午断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の要部を示す子午断面図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、車両に対する装着方向、つまり車両装着時の方向が規定されており、このため、車両に装着する際には、指定された装着方向で車両のリムに装着される。また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、ORタイヤ(Off the Road Tire)と呼ばれる、建設車両用タイヤになっている。本実施形態として図1に示す空気入りタイヤ1は、子午断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側となる部分にトレッド部2が配設されており、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、トレッド面3として形成されている。
トレッド面3には、ラグ溝15がタイヤ周方向に所定間隔で複数形成されている。ラグ溝15とは、例えば、建設車両用タイヤであれば、10[mm]以上の溝幅を有する横溝をいう。また、ラグ溝15は、タイヤ幅方向に延在してタイヤ接地端Tに開口し、さらに、タイヤ幅方向両側のトレッド端に開口している。このとき、ラグ溝15が、タイヤ幅方向に対して平行に延在しても良いし、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在しても良い。本実施形態では、トレッド面3にはラグ溝15が形成されるのみであるが、トレッド面3には、タイヤ周方向に延びる周方向溝が形成されていてもよい。
なお、トレッド端とは、タイヤのトレッド模様部分の両端部をいう。また、タイヤ接地端Tとは、空気入りタイヤ1を規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を加えたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大幅位置をいう。
ここで、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、或いはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。
タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両端は、ショルダー部4として形成されており、ショルダー部4から、タイヤ径方向内側の所定の位置までは、サイドウォール部5が配設されている。つまり、サイドウォール部5は、トレッド部2のタイヤ幅方向における両側に位置しており、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の両側2箇所に配設されている。
さらに、それぞれのサイドウォール部5のタイヤ径方向内側には、ビード部20が位置しており、ビード部20は、サイドウォール部5と同様に、タイヤ赤道面CLの両側2箇所に配設されている。即ち、ビード部20は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に一対が配設されている。なお、この場合におけるタイヤ赤道面CLは、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の中心点を通り、タイヤ回転軸に直交する平面をいう。一対のビード部20のそれぞれにはビードコア21が設けられており、ビードコア21は、各ビード部20に2つずつが設けられている。各ビード部20に設けられる2つのビードコア21は、タイヤ幅方向に並んで配設されており、即ち、各ビード部20は、相対的にタイヤ幅方向内側に位置する内側ビードコア21aと、内側ビードコア21aのタイヤ幅方向外側に位置する外側ビードコア21bとが配設されている。このようにビード部20に2つずつが配設されるビードコア21は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。
ビードコア21のタイヤ径方向外側には、ビードフィラー22が設けられている。ビードフィラー22は、ビードコア21に対応して設けられており、各ビードフィラー22は、対応するビードコア21のタイヤ径方向外側に配設されている。つまり、ビードフィラー22は、内側ビードコア21aに対応して内側ビードコア21aのタイヤ径方向外側に配設される内側ビードフィラー22aと、外側ビードコア21bに対応して外側ビードコア21bのタイヤ径方向外側に配設される外側ビードフィラー22bとが設けられている。ビードフィラー22は、後述するカーカス6のタイヤ幅方向端部がビードコア21の位置でタイヤ幅方向外側に折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
ビード部20は、5°テーパーの規定リムを有するリムホイールに装着することができるように構成されている。即ち、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、ビード部20と嵌合する部分がリムホイールの回転軸に対して5°±1°の傾斜角でタイヤ幅方向における内側から外側に向かうに従ってタイヤ径方向外側に向かう方向に傾斜する規定リムに装着することが可能になっている。
トレッド部2のタイヤ径方向内側には、ブレーカ7が配設されている。ブレーカ7は、例えば、第1ブレーカ71と第2ブレーカ72とを積層した多層構造をなし、スチール、或いはナイロン等の有機繊維材から成る複数のブレーカコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成される。また、ブレーカ7は、タイヤ周方向に対するブレーカコードの角度が、第1ブレーカ71及び第2ブレーカ72とで互いに異なっている。即ち、第1ブレーカ71と第2ブレーカ72とを有するブレーカ7は、ブレーカコードの方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造として構成される。これらの第1ブレーカ71及び第2ブレーカ72は、第1ブレーカ71がタイヤ径方向内側に配設され、第2ブレーカ72は、第1ブレーカ71のタイヤ径方向外側に、第1ブレーカ71に対して積層して配設される。
このブレーカ7のタイヤ径方向内側、及びサイドウォール部5のタイヤ赤道面CL側には、バイアスプライのカーカスコードを内包するカーカス6が、タイヤ幅方向両側のビード部20間にかけて配設されることによって連続して設けられている。このカーカス6は、第1カーカス61と第2カーカス62との2枚を積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向の両側に配設されるビードコア21間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。
詳しくは、カーカス6は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部20のうち、一方のビード部20から他方のビード部20にかけて配設されており、第1カーカス61と第2カーカス62とが、ビードコア21及びビードフィラー22を包み込むようにビード部20でビードコア21に沿ってタイヤ幅方向外側に巻き返されている。即ち、積層される第1カーカス61と第2カーカス62とのうち、相対的に内側に位置する第1カーカス61は、内側ビードコア21aのタイヤ幅方向内側から内側ビードコア21aのタイヤ径方向内側を通り、内側ビードコア21aのタイヤ幅方向外側にかけて配設されるように、ビード部20で内側ビードコア21a周りに折り返されている。また、第1カーカス61と第2カーカス62とのうち、相対的に外側に位置する第2カーカス62は、外側ビードコア21bのタイヤ幅方向内側から外側ビードコア21bのタイヤ径方向内側を通り、外側ビードコア21bのタイヤ幅方向外側にかけて配設されるように、ビード部20で外側ビードコア21b周りに折り返されている。これにより第1カーカス61と第2カーカス62とは、それぞれビードコア21のタイヤ幅方向における内側と外側との間にかけて配設されている。
このように配設される第1カーカス61と第2カーカス62とは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維材から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。これらのカーカスコードは、タイヤ周方向に対して絶対値で20°以上50°以下の角度θで傾斜して配設されている。さらに、カーカス6は、第1カーカス61のカーカスコードと第2カーカス62のカーカスコードとが互いに交差して配置されている。
また、カーカス6の内方側、或いは、当該カーカス6の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナ8がカーカス6に沿って形成されている。
図2は、図1のA-A方向に見た空気入りタイヤ1の側面図である。タイヤ幅方向における両側に位置するタイヤサイド面10のうち、一方のタイヤサイド面10には、タイヤサイド面10から突出してタイヤ周方向に延びるプロテクター30が複数設けられている。ここでいうタイヤサイド面10は、トレッド部2とサイドウォール部5とビード部20との表面であり、タイヤ幅方向外側を向く面になっている。即ち、タイヤサイド面10は、トレッド部2におけるタイヤ幅方向外側を向く表面と、サイドウォール部5におけるタイヤ幅方向外側を向く表面と、ビード部20におけるタイヤ幅方向外側を向く表面とが連続して形成される面になっている。タイヤ幅方向両側のタイヤサイド面10のうちの一方のタイヤサイド面10に設けられるプロテクター30は、具体的には、空気入りタイヤ1を車両に装着する際の車両装着方向内側に位置するタイヤサイド面10と車両装着方向外側に位置するタイヤサイド面10とのうち、車両装着方向外側に位置するタイヤサイド面10に設けられている。
複数のプロテクター30は、ビード部20のタイヤ径方向の内端部25からタイヤ周方向外側に、タイヤ断面高さSHの10%以上90%以下の範囲内に全て設けられており、本実施形態では、プロテクター30は3本が設けられている。3本のプロテクター30は、タイヤ径方向において互いに異なる位置に配設されており、それぞれ空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ中心AXを中心とする1周に亘って形成されている。即ち、3本のプロテクター30は、タイヤ中心AXを中心とする同心円状に配設されている。
なお、この場合におけるタイヤ断面高さSH、及びタイヤ径方向におけるプロテクター30の配設位置は、タイヤ幅方向における両側に位置するビード部20同士のタイヤ幅方向における距離を、空気入りタイヤ1を規定リムにリム組みした状態のビード部20同士のタイヤ幅方向における距離と同じ大きさにした場合における高さ及び配設位置になっている。
また、プロテクター30は、サイドウォール部5におけるタイヤ最大幅位置の近傍の領域を含んで配設されるのが好ましい。この場合におけるタイヤ最大幅位置は、空気入りタイヤ1を規定リムにリム組みして規定内圧を付与し、空気入りタイヤ1に荷重を加えない無負荷状態のときの、サイドウォール部5の表面から突出する構造物を除いたタイヤ幅方向における寸法が最大となる位置のタイヤ径方向における位置である。
また、本実施形態では、3本のプロテクター30は、ビード部20の内端部25からタイヤ周方向外側にタイヤ断面高さSHの10%以上90%以下の範囲内に全て設けられているが、全てのプロテクター30がこの範囲に配設されていなくてもよい。複数のプロテクター30のうち、少なくとも一部のプロテクター30が、ビード部20の内端部25からタイヤ周方向外側にタイヤ断面高さSHの10%以上90%以下の範囲内に配設されていればよい。また、プロテクター30は、ビード部20のタイヤ径方向の内端部25からタイヤ周方向外側に、タイヤ断面高さSHの30%以上70%以下の範囲内に設けられるのが好ましい。
図3は、図1のB部詳細図である。図4は、図3に示すプロテクター30をC-C方向に見た場合のプロテクター30と弾性補強材40及び被覆材50の説明図である。プロテクター30は、空気入りタイヤ1の子午断面における形状が半円状となる形状で、タイヤサイド面10からタイヤ幅方向外側に突出しており、タイヤ中心AXを中心とする環状に形成されている。即ち、プロテクター30は、タイヤサイド面10から突出する凸状の形状で、タイヤ周方向に延びて形成されている。このように、タイヤサイド面10から突出するプロテクター30は、タイヤサイド面10からの高さHPが、5.0[mm]以上40.0[mm]以下の範囲内になっている。
環状に形成される各プロテクター30の内部には、弾性補強材40と、弾性補強材40を覆う被覆材50とが配設されている。弾性補強材40と被覆材50とのうち、弾性補強材40は、丸棒状の形状で形成されており、丸棒の中心軸CPがタイヤ周方向に延びる向きでプロテクター30の内部に配設されている。また、弾性補強材40は、丸棒の中心軸CPが、プロテクター30の延在方向と一致する向きでプロテクター30の内部に、プロテクター30の1周に亘って配設されている。弾性補強材40は、複数のプロテクター30のそれぞれの内部に配設されており、即ち、弾性補強材40は、複数のプロテクター30と同様に複数が設けられている。複数の弾性補強材40は、複数のプロテクター30と同様に、タイヤ中心AXを中心とする同心円状に配設されている。
なお、プロテクター30の1周に亘って配設される弾性補強材40は、1つの弾性補強材40がプロテクター30の1周に亘って配設されていてもよく、複数の弾性補強材40がタイヤ周方向に連なって配設されることにより、プロテクター30の1周に亘って配設されていてもよい。
図5は、図3に示す被覆材50を展開した模式図である。弾性補強材40を覆う被覆材50は、繊維を平織することにより形成されている。即ち、被覆材50は、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維からなる経糸51と緯糸52とを、相互に交差させつつ網目状に織り上げることによって平織にしたものになっている。被覆材50は、経糸51や緯糸52の打ち込み本数が、30[本/50mm]以上になっており、経糸51や緯糸52の径である繊維径φfが、0.30[mm]以上になっている。なお、被覆材50の経糸51や緯糸52の打ち込み本数は、50[本/50mm]以上であるのが好ましく、被覆材50の繊維径φfは、0.90[mm]未満であるのが好ましい。
被覆材50は、平織で構成される被覆材50を、丸棒状の弾性補強材40に巻き付けることにより、弾性補強材40を覆っている。その際に、被覆材50は、被覆材50同士が重なることなく、弾性補強材40の形状である丸棒の中心軸CPを中心とする1周に亘って弾性補強材40の周囲に巻かれることにより、弾性補強材40を隙間なく覆っている。このため、被覆材50は、被覆材50を単体でみた場合には、円筒形の形状で形成されて、円筒の中心軸CPが、プロテクター30の延在方向と一致する向きでプロテクター30の内部に、弾性補強材40と同様にプロテクター30の1周に亘って配設されている。
被覆材50は、弾性補強材40を覆った状態でプロテクター30の内部に配設され、プロテクター30の内部では、被覆材50は、タイヤサイド面10を構成するゴム組成物であるサイドゴム10aに覆われて配設されている。この場合におけるサイドゴム10aは、トレッド部2、サイドウォール部5、ビード部20の各部位のうち、プロテクター30が配設されるタイヤサイド面10を有する部位を構成するゴム組成物になっている。また、被覆材50は、少なくとも弾性補強材40側の面に接着層58を有しており、本実施形態では、被覆材50は、厚さ方向における両面に接着層58を有している。これにより、被覆材50と弾性補強材40との間、及び被覆材50とサイドゴム10aとの間には、それぞれ接着層58が位置し、被覆材50は、接着層58によって弾性補強材40及びサイドゴム10aに接着されている。なお、接着層58は、被覆材50と弾性補強材40、及び被覆材50とサイドゴム10aを接着することができるものであれば、その素材や原料は問わない。
被覆材50に覆われてプロテクター30の内部に配設される弾性補強材40は、硬さがサイドゴム10aよりも硬くなっており、300%モジュラスが、被覆材50に隣接するサイドゴム10aの300%モジュラスの1.05倍以上になっている。具体的には、弾性補強材40は、300%モジュラスが、被覆材50に隣接するサイドゴム10aの300%モジュラスの1.1倍以上30倍以下の範囲内が好ましい。例えば、サイドゴム10aの300%モジュラスが約9.0MPaであるとき、弾性補強材40の300%モジュラスは、9.9MPa以上225MPa以下の範囲内となる。
また、弾性補強材40は、破断強度が10MPa以上50MPa以下の範囲内になっており、10MPa以上40MPa以下の範囲内が好ましい。また、弾性補強材40は、破断伸びが250%以上になっており、250%以上400%以下の範囲内が好ましい。なお、300%モジュラス、破断強度および破断伸びは、JIS K6251に規定される所定伸び(300%)における引張応力、切断時引張強さおよび切断時伸びの測定方法に準じて求められる。
このような物性を有する弾性補強材40として、共役ジエン単位の含有量が30重量%以下であるエチレン性不飽和ニトリル-共役ジエン系高飽和ゴムにアクリル酸又はメタクリル酸の金属塩を分散させた組成物を有機過酸化物で架橋してなるゴム組成物を用いることができる。より具体的には、共役ジエン単位の含有量が30重量%以下であるエチレン性不飽和ニトリル-共役ジエン系高飽和ゴムを40重量部以上含むゴム合計100重量部に対し、アクリル酸又はメタクリル酸の金属塩を10~120重量部と、架橋剤として0.3~10重量部の有機過酸化物を配合したゴム組成物を使用することができる。勿論、上記ゴム組成物には補強剤、架橋助剤、可塑剤、安定剤等の通常ゴム工業で使用される種々の配合剤を必要に応じて添加することが可能である。
エチレン性不飽和ニトリル-共役ジエン系高飽和ゴムとしては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリルと1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエンとの共重合体、上記の2種の単量体と共重合可能な単量体、例えば、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、シアノアルキル(メタ)アクリレートなどとの多元重合体であっても良い。具体的には、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-イソプレン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリレート共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリレート-メタクリル酸共重合体ゴムなどを挙げることができる。特に、水素化NBRが好ましい。
アクリル酸又はメタクリル酸の金属塩としては、ポリメタクリル酸亜鉛などを挙げることができる。
有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-モノ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンなどを挙げることができる。
また、被覆材50は、弾性補強材40を覆った状態における外径φsが、空気入りタイヤ1の子午断面におけるプロテクター30の形状である半円を円形に見なした場合における直径φpに対して、0.1≦(φs/φp)≦0.9の範囲内となって形成されている。換言すると、被覆材50は、弾性補強材40を覆った状態における外径φsが、空気入りタイヤ1の子午断面におけるプロテクター30の表面の形状である半円の曲率半径rpに対して、0.1≦{φs/(rp×2)}≦0.9の範囲内となって形成されている。なお、弾性補強材40を覆った状態における被覆材50の外径φsは、空気入りタイヤ1の子午断面におけるプロテクター30の直径φpに対して、0.4≦(φs/φp)≦0.8の範囲内であるのが好ましい。
本実施形態に係る空気入りタイヤ1の製造時における加硫成形は、プロテクター30を成形する溝が形成された金型を用いて行う。加硫成形を行う際には、弾性補強材40の表面、または、被覆材50における弾性補強材40に接触する側の面に、接着層58となる接着剤を塗布し、弾性補強材40に被覆材50に巻き付ける。さらに、弾性補強材40に巻き付けられて弾性補強材40を覆う被覆材50の外周面に、接着層58となる接着剤を塗布して、被覆材50の周囲にシート状のサイドゴム10aを巻き付ける。弾性補強材40と被覆材50とは、この状態で、金型に形成されたプロテクター30の成形用の溝に嵌め込み、加硫成形前のいわゆるグリーンタイヤと共に加硫成形を行う。加硫成形は、高温・高圧で行われるため、被覆材50の周囲のサイドゴム10aやグリーンタイヤのサイドゴム10aが流動することにより、被覆材50の周囲のサイドゴム10aとグリーンタイヤのサイドゴム10aとは一体となって成形される。これにより、タイヤサイド面10から突出し、内部に弾性補強材40と被覆材50とが配設されるプロテクター30が、タイヤサイド面10に形成される。
本実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着する際には、まず、規定リムを有するリムホイールにビード部20を嵌合させることにより、空気入りタイヤ1を規定リムに装着し、空気入りタイヤ1をリムホイールに対してリム組みをする。空気入りタイヤ1をリム組みしたらインフレートし、車両には、リム組みしてインフレートした状態の空気入りタイヤ1を装着する。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、例えば、地下鉱山で用いられるホイールローダー等の建設車両に装着する建設車両用の空気入りタイヤ1として用いられる。
空気入りタイヤ1を車両に装着する際には、タイヤ幅方向における両側に位置するタイヤサイド面10のうち、プロテクター30が形成される側のタイヤサイド面10が、車両の車幅方向における外側に位置する向きで装着する。つまり、空気入りタイヤ1をリムホイールにリム組みする際には、プロテクター30が形成されるタイヤサイド面10が、空気入りタイヤ1を車両に装着した際に車両の車幅方向における外側に位置する向きでリム組みをする。
空気入りタイヤ1を装着した車両が走行すると、トレッド面3のうち下方に位置する部分が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。車両は、トレッド面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。例えば、駆動力を路面に伝達する際には、車両が有するエンジン等の原動機で発生した動力がリムホイールに伝達され、リムホイールから空気入りタイヤ1に伝達される。
ここで、本実施形態に係る空気入りタイヤ1が装着される車両は、建設車両であるため、車両が走行する路面には、石や岩石等が散在している。このため、車両の走行時には、路面上の石等が、空気入りタイヤ1のトレッド面3以外の部分に接触することがある。路面上の石等は、例えば、車両の車幅方向における外側に位置するタイヤサイド面10、即ち、車両装着方向外側に位置するタイヤサイド面10に接触することがある。つまり、車両装着方向外側に位置するタイヤサイド面10は、車両の車体の表面と同様に、車両の外面側に位置しているため、路面上の石等は、車両装着方向外側に位置するタイヤサイド面10に接触し易くなっている。
石等は、硬さがサイドゴム10aの硬さよりも硬いため、石等がタイヤサイド面10に対して大きな力で接触した場合、石等がタイヤサイド面10に対して亀裂を生じさせてしまい、タイヤサイド面10の亀裂である、いわゆるサイドカットを発生させてしまうことがある。サイドカットが深くなると、タイヤサイド面10の内側に配設されるカーカス6に石等が接触し、カーカス6の損傷を招く虞がある。
これに対し、本実施形態に係る空気入りタイヤ1には、タイヤサイド面10に複数のプロテクター30が設けられているため、タイヤサイド面10に接触した石等は、プロテクター30に接触する。プロテクター30は、タイヤサイド面10から突出して形成されているため、石等がタイヤサイド面10に接触する際には、プロテクター30に接触し易くなっており、また、石等がプロテクター30に接触した際には、石等はタイヤサイド面10におけるプロテクター30以外の部分には接触し難くなる。
石等が、プロテクター30に対して大きな力で接触した場合、プロテクター30に対して亀裂を生じさせてしまう虞があるが、プロテクター30の内部には、被覆材50に覆われた弾性補強材40が配設されているため、石等は弾性補強材40を覆う被覆材50に接触する。弾性補強材40は、硬さがサイドゴム10aの硬さよりも硬くなっているため、外部から大きな力が与えられた場合でも、サイドゴム10aよりも損傷し難くなっている。これにより、弾性補強材40は、サイドゴム10aよりも損傷の発生を抑えつつ、石等からの力を受けることができる。さらに、弾性補強材40は、被覆材50に覆われているため、石等からの力を被覆材50によって分散することができ、弾性補強材40に対して局所的に大きな力が作用することを抑制できる。これにより、弾性補強材40は、局所的に大きな力が作用することに起因する損傷を抑制することができ、石等からの大きな力を受けることができる。従って、石等は、それ以上深い位置への侵入が抑制され、サイドカットを発生した場合でも、サイドカットの長さや深さが大きくなることが抑制される。タイヤサイド面10は、このようにプロテクター30の内部に配設される弾性補強材40と被覆材50とにより、石等によるタイヤサイド面10の損傷に対して補強される。
また、プロテクター30は、ビード部20のタイヤ径方向の内端部25からタイヤ周方向外側にタイヤ断面高さSHの10%以上90%以下の範囲内に配設されるため、タイヤサイド面10の損傷を効果的に抑制することができる。つまり、ビード部20のタイヤ径方向の内端部25からタイヤ周方向外側にタイヤ断面高さSHの10%未満の範囲は、タイヤ径方向における位置がタイヤ中心AXに近くなり、路面から離れた位置となるため、路面上の石等は接触し難くなる。また、ビード部20のタイヤ径方向の内端部25からタイヤ周方向外側にタイヤ断面高さSHの90%を超える範囲は、トレッド面3に近い位置となり、タイヤサイド面10とカーカス6との距離が大きくなるため、石等が接触してサイドカットが発生しても、カーカス6は損傷し難くなる。
これに対し、ビード部20のタイヤ径方向の内端部25からタイヤ周方向外側にタイヤ断面高さSHの10%以上90%以下の範囲は、路面上の石等が接触し易く、且つ、石等が接触した際には、タイヤサイド面10の内側のカーカス6の損傷が発生する虞がある位置であるため、この範囲内に、被覆材50に覆われた弾性補強材40が内部に配設されるプロテクター30を配設することにより、サイドカットによるカーカス6の損傷を効果的に抑制することができる。
ここで、プロテクター30の内部に配設される弾性補強材40は、弾力性を有しているため、大きな圧力が付与された場合、弾性変形して押し潰されることがある。このため、弾性補強材40を単体でプロテクター30の内部に配設した場合、グリーンタイヤの加硫成形を行う際に、加硫成形時の圧力によって弾性補強材40が変形し、押し潰される虞がある。加硫成形時にグリーンタイヤに付与される圧力は、グリーンタイヤの外側に配置される金型に対してグリーンタイヤを内側から押し付ける方向の力であるため、加硫成形時の圧力によって弾性補強材40が変形する際には、弾性補強材40は、サイドウォール部5の厚さ方向等における厚さが薄くなる方向に押し潰される。弾性補強材40の厚さが薄くなった場合、石等が弾性補強材40に接触した際に弾性補強材40自体が損傷し、サイドカットの長さや深さが大きくなることを弾性補強材40によって抑制し難くなる虞がある。
これに対し、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、弾性補強材40は、被覆材50によって覆われているため、グリーンタイヤの加硫成形時の圧力が弾性補強材40に作用した場合でも、弾性補強材40が、この圧力によって大きく変形することを抑制することができる。このため、弾性補強材40は、加硫成形時の圧力によって押し潰され難くなり、丸棒の形状が維持される。これにより、石等が、弾性補強材40を覆う被覆材50に接触した際に、弾性補強材40は、石等からの力による損傷を抑えつつ、石等からの大きな力を受けることができる。従って、サイドカットの発生時に、サイドカットの長さや深さが大きくなることを、より確実に抑制することができる。これらの結果、耐カット性を向上させることができる。
また、被覆材50は、繊維を平織にすることにより形成されるため、被覆材50に対するいずれの方向からの力に対しても、複数の方向に分散することができる。これにより、石等が被覆材50に接触した際における被覆材50自体の損傷を抑制することができ、石等からの大きな力による弾性補強材40の損傷を、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に耐カット性を向上させることができる。
また、被覆材50は、経糸51や緯糸52の打ち込み本数が、30[本/50mm]以上であり、且つ、繊維径φfが0.30[mm]以上であるため、グリーンタイヤの加硫成形時に、弾性補強材40が経糸51や緯糸52の隙間から流出することを抑制でき、弾性補強材40の形状を、より確実に丸棒の形状に維持することができる。つまり、経糸51や緯糸52の打ち込み本数が30[本/50mm]未満であったり、繊維径φfが0.30[mm]未満であったりする場合は、織り上げられる経糸51や緯糸52の間隔が大きくなり過ぎる虞があり、グリーンタイヤの加硫成形時に、弾性補強材40の一部が経糸51や緯糸52の隙間から流出してしまう虞がある。この場合、弾性補強材40の形状を丸棒の形状に維持するのが困難になるため、サイドカットの発生時に、サイドカットの長さや深さが大きくなることを抑制し難くなる虞がある。
これに対し、被覆材50の経糸51や緯糸52の打ち込み本数が、30[本/50mm]以上であり、且つ、繊維径φfが0.30[mm]以上である場合は、グリーンタイヤの加硫成形時に、弾性補強材40が経糸51や緯糸52の隙間から流出することを抑制することができる。これにより、弾性補強材40の形状を、より確実に丸棒の形状に維持することができ、サイドカットの発生時に、サイドカットの長さや深さが大きくなることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に耐カット性を向上させることができる。
また、弾性補強材40は、300%モジュラスが、被覆材50に隣接するサイドゴム10aの300%モジュラスの1.1倍以上30倍以下の範囲内であるため、弾性補強材40及び被覆材50のサイドゴム10aからの剥離を抑えつつ、弾性補強材40での補強効果をより確実に確保することができる。つまり、弾性補強材40の300%モジュラスが、被覆材50に隣接するサイドゴム10aの300%モジュラスの1.1倍未満である場合は、弾性補強材40の300%モジュラスが低過ぎる虞があり、弾性補強材40を設けても、弾性補強材40での補強効果を確保し難くなる可能性がある。また、弾性補強材40の300%モジュラスが、被覆材50に隣接するサイドゴム10aの300%モジュラスの30倍を超える場合は、サイドゴム10aの300%モジュラスとの差が大き過ぎるため、タイヤサイド面10におけるプロテクター30が配設されている部分が変形した際に、弾性補強材40が、サイドゴム10aの変形に追従し難くなる虞がある。この場合、弾性補強材40と被覆材50とが、サイドゴム10aから剥離し易くなる虞がある。
これに対し、弾性補強材40の300%モジュラスが、被覆材50に隣接するサイドゴム10aの300%モジュラスの1.1倍以上30倍以下の範囲内である場合は、弾性補強材40及び被覆材50のサイドゴム10aからの剥離を抑えつつ、弾性補強材40での補強効果をより確実に確保することができる。この結果、より確実に耐カット性を向上させることができる。
また、弾性補強材40は、破断強度が10MPa以上50MPa以下の範囲内であるため、弾性補強材40及び被覆材50のサイドゴム10aからの剥離を抑えつつ、弾性補強材40での補強効果をより確実に確保することができる。つまり、弾性補強材40の破断強度が10MPa未満である場合は、弾性補強材40の破断強度が低過ぎる虞があり、弾性補強材40を設けても、弾性補強材40での補強効果を確保し難くなる可能性がある。また、弾性補強材40の破断強度が50MPaを超える場合は、サイドゴム10aとの破断強度の差が大き過ぎるため、タイヤサイド面10におけるプロテクター30が配設されている部分が変形した際に、弾性補強材40が、サイドゴム10aの変形に追従し難くなる虞がある。この場合、弾性補強材40と被覆材50とが、サイドゴム10aから剥離し易くなる虞がある。
これに対し、弾性補強材40の破断強度が10MPa以上50MPa以下の範囲内である場合は、弾性補強材40及び被覆材50のサイドゴム10aからの剥離を抑えつつ、弾性補強材40での補強効果をより確実に確保することができる。この結果、より確実に耐カット性を向上させることができる。
また、被覆材50は、弾性補強材40側の面に接着層58を有するため、弾性補強材40を覆った状態で保持することができる。これにより、グリーンタイヤの加硫成形時に弾性補強材40や被覆材50に大きな圧力が作用した場合でも、被覆材50が弾性補強材40から離れてしまうことを抑制でき、加硫成形時の圧力によって弾性補強材40が大きく変形することを、より確実に抑制することができる。この結果、耐カット性を向上させることができる。
また、被覆材50は、弾性補強材40を覆った状態における外径φsが、プロテクター30の半円の直径φpに対して0.1≦(φs/φp)≦0.9の範囲内であるため、サイドカットの長さや深さが大きくなることを、より確実に抑制することができると共に、被覆材50や弾性補強材40がタイヤサイド面10から剥離することを抑制することができる。つまり、弾性補強材40を覆った状態における被覆材50の外径φsが、プロテクター30の半円の直径φpに対して、(φs/φp)<0.1である場合は、被覆材50の外径φsが小さ過ぎ、即ち、弾性補強材40の直径が小さ過ぎるため、弾性補強材40の強度が不足する虞がある。この場合、石等がプロテクター30に接触してサイドカットが発生した際に、サイドカットの長さや深さが大きくなることを、弾性補強材40と被覆材50によって抑制し難くなる虞がある。また、弾性補強材40を覆った状態における被覆材50の外径φsが、プロテクター30の半円の直径φpに対して、(φs/φp)>0.9である場合は、被覆材50の外径φsが、プロテクター30の半円の直径φpに対して大き過ぎるため、石等がプロテクター30に接触した際に、弾性補強材40を覆った状態の被覆材50が露出し易くなる虞がある。被覆材50が露出し易くなることによって、被覆材50が広範囲に亘って露出した場合、サイドゴム10aによる被覆材50の拘束力が弱まるため、被覆材50や弾性補強材40がタイヤサイド面10から剥離して欠落し易くなる虞がある。
これに対し、弾性補強材40を覆った状態における被覆材50の外径φsが、プロテクター30の半円の直径φpに対して0.1≦(φs/φp)≦0.9の範囲内である場合は、弾性補強材40の強度を確保できるため、サイドカットの長さや深さが大きくなることを、より確実に抑制することができると共に、被覆材50や弾性補強材40がタイヤサイド面10から剥離して欠落することを抑制することができる。この結果、より確実に耐カット性を向上させることができる。
〔変形例〕
なお、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、被覆材50は、有機繊維からなる経糸51と緯糸52とを網目状に織り上げて平織にすることによって形成されているが、被覆材50は、これ以外の形態で形成されていてもよい。図6は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、コード状にした繊維を弾性補強材40に巻き付ける被覆材50についての説明図である。被覆材50は、例えば、図6に示すように、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維を撚り合せてコード55の形状にし、このコード55を、弾性補強材40に巻き付けることにより、弾性補強材40を覆ってもよい。コード55を弾性補強材40に巻き付ける際には、螺旋の中心軸CPがタイヤ周方向に延びる向きで弾性補強材40の周囲に螺旋状に巻き付ける。被覆材50は、有機繊維をコード55の形状にして弾性補強材40の周囲に巻き付けることにより、容易に被覆材50を形成して弾性補強材40を覆うことができる。
また、コード55を弾性補強材40の周囲に巻き付けることによって被覆材50を形成する場合でも、プロテクター30に石等が接触した際に、石等からの力を、被覆材50によって分散することが抑制できる。これにより、被覆材50のコード55が巻き付けられる弾性補強材40は、局所的に大きな力が作用することに起因する損傷を抑制することができ、石等からの大きな力を受けることができる。従って、石等は、それ以上深い位置への侵入が抑制され、サイドカットを発生した場合でも、サイドカットの長さや深さが大きくなることが抑制される。
また、コード55を弾性補強材40の周囲に巻き付けることによって被覆材50を形成する場合でも、グリーンタイヤの加硫成形時に弾性補強材40に作用する圧力を、被覆材50によっても受けることができるため、弾性補強材40に大きな圧力が作用することを抑制することができる。これにより、弾性補強材40が、この圧力によって大きく変形することを抑制することができるため、弾性補強材40を丸棒の形状で維持することができる。従って、石等が、弾性補強材40を覆う被覆材50に接触した際に、弾性補強材40は、石等からの力による損傷を抑えつつ、石等からの大きな力を受けることができ、サイドカットの長さや深さが大きくなることを、より確実に抑制することができる。これらの結果、耐カット性を容易に向上させることができる。
なお、このように有機繊維をコード55の形状にして弾性補強材40の周囲に螺旋状に巻き付けることによって被覆材50を形成する場合は、コード55における、タイヤ周方向に隣り合う部分同士の間隔を極力小さくするのが好ましい。即ち、コード55は、タイヤ周方向における螺旋のピッチを小さくして、弾性補強材40の周囲に螺旋状に巻き付けるのが好ましい。
また、有機繊維をコード55の形状にして弾性補強材40の周囲に巻き付けることによって被覆材50を形成する場合でも、少なくともコード55の弾性補強材40側の面に、接着層58を設けるのが好ましい。即ち、コード55は、接着剤を用いて弾性補強材40に接着するのが好ましい。また、被覆材50を覆うサイドゴム10aとコード55との間にも接着層58を設けるのが好ましく、即ち、コード55は、接着剤を用いてサイドゴム10aに接着するのが好ましい。
被覆材50は、実施形態のように繊維を平織にしたり、上記の変形例のように繊維をコード55の形状にして螺旋巻きにしたりする以外でもよく、例えば、有機繊維をシート状にして被覆材50を形成し、シート状の被覆材50を弾性補強材40に巻いて弾性補強材40を覆ってもよい。被覆材50は、弾性補強材40を覆うことによって弾性補強材40の補強を行うことができ、加硫成形時に弾性補強材40の変形を抑制することができるものであれば、その形態は問わない。
また、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、プロテクター30は3本が設けられているが、プロテクター30は3本以外でもよい。図7は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、プロテクター30が2本の場合の説明図である。被覆材50に覆われる弾性補強材40が内部に配設されるプロテクター30は、図7に示すように、タイヤ周方向の1周に亘って形成されるプロテクター30が、タイヤ中心AXを中心とする同心円状に2本配設されていてもよい。または、プロテクター30は、タイヤ中心AXを中心とする同心円状に、4本以上の本数が配設されていてもよい。
また、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、プロテクター30は、1周に亘って連続して形成されているが、プロテクター30は、必ずしも1周に亘って形成されていなくてもよい。図8は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、一部のプロテクター30が不連続の場合の説明図である。図9は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、全てのプロテクター30が不連続の場合の説明図である。被覆材50に覆われる弾性補強材40が内部に配設されるプロテクター30は、図8に示すように、同心円状にタイヤ径方向に並んで配設される複数のプロテクター30のうち、一部のプロテクター30は、タイヤ周方向の1周に亘って形成されていなくてもよい。即ち、複数のプロテクター30のうち、一部のプロテクター30は、タイヤ周方向に分断されてタイヤ周方向に不連続に形成されていてもよい。この場合、タイヤ周方向に不連続に形成されるプロテクター30の内部に配設される弾性補強材40や被覆材50も、プロテクター30と同様にタイヤ周方向に分断され、タイヤ周方向に不連続に配設される。
または、被覆材50に覆われる弾性補強材40が内部に配設される複数のプロテクター30は、図9に示すように、全てのプロテクター30が、タイヤ周方向に不連続に形成されていてもよい。この場合、プロテクター30が分断されている部分のタイヤ周方向における位置が、全てのプロテクター30で同じ位置にならないように配設するのが好ましい。つまり、各プロテクター30における分断されている部分の端部31のタイヤ周方向における位置が、全てのプロテクター30で同じ位置にならないように配設するのが好ましい。これにより、プロテクター30がタイヤ周方向に不連続に形成されていても、タイヤ周上のいずれの位置においても、いずれかのプロテクター30が配設されることになる。このように、プロテクター30は、タイヤ周上のいずれの位置においても1本以上が配設されていればよい。
換言すると、プロテクター30の内部に配設される弾性補強材40と被覆材50とは、弾性補強材40及び被覆材50が配設されるタイヤサイド面10におけるタイヤ周上のいずれの位置においても1本以上配設されていればよい。内部に弾性補強材40及び被覆材50が配設されるプロテクター30が、タイヤ周上のいずれの位置においても1本以上が配設されることにより、タイヤ周上のいずれの位置においてもタイヤサイド面10を補強し、耐カット性を向上させることができる。
また、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、プロテクター30は、タイヤ幅方向における両側に位置するタイヤサイド面10のうち、車両装着方向外側に位置するタイヤサイド面10に設けられているが、プロテクター30は、これ以外のタイヤサイド面10に設けられていてもよい。プロテクター30は、例えば、タイヤ幅方向における両側のタイヤサイド面10に設けられていてもよい。プロテクター30は、タイヤ幅方向における両側に位置するタイヤサイド面10のうち、少なくとも一方のタイヤサイド面10に設けられていればよい。
また、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1は、積層されるカーカス6のカーカスコード同士が互いに交差する、いわゆるバイアス構造を有する空気入りタイヤ1になっているが、被覆材50に覆われる弾性補強材40が内部に配設されるプロテクター30がタイヤサイド面10に設けられる空気入りタイヤ1は、ラジアル構造を有する空気入りタイヤ1であってもよい。
〔実施例〕
図10A~図10Cは、空気入りタイヤ1の性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1とについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、サイドカットの平均カット長さ、サイドカットの平均カット深さについて評価を行った。
これらの性能評価試験は、タイヤの呼びが17.5-25 L20 Y69Uサイズの空気入りタイヤ1を、TRA規格に準拠するリムホイールにリム組みして空気圧をTRA規格で規定する空気圧に調整し、評価試験用の車両として用いられる地下鉱山用ダンプカーに装着して3ヶ月間走行することにより行った。
評価項目のうち、サイドカットの平均カット長さは、プロテクター30が設けられるタイヤサイド面10に発生したサイドカットの長さを計測し、平均の長さを算出した。サイドカットの平均カット深さも同様に、プロテクター30が設けられるタイヤサイド面10に発生したサイドカットの深さを計測し、平均の深さを算出した。
評価試験は、従来の空気入りタイヤ1の一例である従来例と、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1~20の21種類の空気入りタイヤについて行った。これらの空気入りタイヤ1のうち、従来例の空気入りタイヤは、タイヤサイド面10には凸状のプロテクター30が設けられ、プロテクター30の内部には弾性補強材40が配設されているものの、弾性補強材40は被覆材50によって覆われていない。
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~20は、全てタイヤサイド面10に凸状のプロテクター30が設けられ、プロテクター30の内部には、被覆材50によって覆われた弾性補強材40が配設されている。さらに、実施例1~20に係る空気入りタイヤ1は、被覆材50の繊維の打ち込み本数[本/50mm]や、被覆材50の繊維径φf[mm]、弾性補強材40とサイドゴム10aの300%モジュラスの比、弾性補強材40の破断強度[MPa]、接着層58の有無、プロテクター30の半円の直径φpに対する被覆材50の外径φsの比(φs/φp)がそれぞれ異なっている。
これらの空気入りタイヤ1を用いて評価試験を行った結果、実施例1~20に係る空気入りタイヤ1は、図10A~図10Cに示すように、サイドカットの平均カット長さや平均カット深さを、従来例に対して低減させることができることが分かった。つまり、実施例1~20に係る空気入りタイヤ1は、耐カット性を向上させることができる。