JP7066664B2 - ポリヒドロキシウレタン樹脂及びポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法 - Google Patents

ポリヒドロキシウレタン樹脂及びポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、塗料、コーティング剤用の樹脂として使用できる、水酸基の一部がシリル化された化学構造を有する新規なポリヒドロキウレタン樹脂を提供する技術に関する。すなわち、本発明は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の特徴であるガスバリア性を十分に有している一方で、その広範な利用を妨げていた、メチルエチルケトンなどの低沸点有機溶剤への溶解性を良好なものに改変することで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の工業的な利用方法を大きく拡大できる技術の提供に関する。また、本発明で提供するポリヒドロキシウレタン樹脂は、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂と同様に、化学構造中に二酸化炭素を組み込むことも可能であり、環境対応製品としての使用も期待できる。
ポリウレタン樹脂は、強度、柔軟性、耐摩耗性、耐油性に優れた樹脂であり、塗料や接着剤用の樹脂として広く使用されている。近年、新規なポリウレタン系の樹脂として、化学構造中にウレタン結合と水酸基を併せ持つポリヒドロキシウレタン樹脂が開発され、その工業的応用が期待されている(特許文献1)。ポリヒドロキシウレタン樹脂は、既存のポリウレタン樹脂が、イソシアネート化合物とポリオールから得られるのに対して、エポキシ化合物、二酸化炭素、アミン化合物の組み合わせにより製造することができる。この場合に使用された二酸化炭素は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造中に-CO-O-結合として組み込まれるので、温室効果ガスである二酸化炭素の有効利用の観点からも注目される樹脂材料である。ポリヒドロキシウレタン樹脂は既存ポリウレタン樹脂と同様に、機械強度に優れた樹脂であるが、既存ポリウレタン樹脂には無い水酸基に由来した機能性を生かした応用が検討されている。例えば、水酸基の架橋反応を利用した耐熱性塗料としての応用(特許文献2)や、水酸基由来のガスバリア性を利用したガスバリア性フィルムへの応用が検討されている(特許文献3)。
このようにポリヒドロキシウレタン樹脂の応用用途として、塗料やコーティング分野が有望である。しかし、これまでに開発されているポリヒドロキシウレタン樹脂は、その化学構造に、ウレタン結合と共に水酸基を有するため、汎用の有機溶剤に対する溶解性に劣り、各用途で使用される、基材や加工装置によって異なる多様な溶剤組成への対応が困難であり、この点が広範な利用を妨げており、応用上の問題となっている。良溶媒としては、N,Nジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられるが、N,Nジメチルホルムアミドは毒性に問題があり、テトラヒドロフランも、その刺激性と危険性から使用が限られている。この点に対し、本発明者らは、ポリヒドロキシウレタン樹脂を水分散体とすることで、近年、溶剤系塗料からの置き換えが進んでいる水系の塗料としての応用をすることについて、提案している(特許文献4)。
米国特許第3072613号明細書 特開2011-102005号公報 特開2012-172144号公報 特開2016-204592号公報
しかしながら、水系塗料へのライン切り替えは、投資コストがかかることや、水の蒸発にかかるエネルギーのランニングコストの観点などから、依然として有機溶剤が好んで使用される場合がある。但し、その場合であっても、前述した安全性に問題のあるポリヒドロキシウレタン樹脂の良溶媒である、DMFやTHFではなく、例えば、グラビア印刷で一般的に使用されている、メチルエチルケトン、酢酸エチル、イソプロパノール(2-プロパノール)といった汎用の有機溶剤を使用するものであることが求められている。
従って、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、イソシアネートを使用した従来のポリウレタン樹脂に比較して優れたガスバリア性を有していながら、従来のポリウレタン樹脂と同様の有機溶剤に溶解可能なポリヒドロキシウレタン樹脂を提供する技術を開発することにある。
上記課題は、以下の本発明によって解決される、すなわち、本発明は、[1]下記一般式(1)で示される、水酸基の一部がシリル化された化学構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂であって、該樹脂は、メチルエチルケトン中に、及び/または、酢酸エチルが70質量%以上を占める混合有機溶剤中に、樹脂分として30質量%以上の濃度で溶解する溶解性を示し、且つ、水酸基価が100mgKOH/g以上となる水酸基を有することを特徴とするポリヒドロキシウレタン樹脂を提供する。
Figure 0007066664000001
[一般式(1)中のXは、モノマー単位由来の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。Y、Yは、それぞれ独立して下記式(2)~(5)のいずれかの化学構造を示し、且つ、YまたはYの少なくとも一方が、下記式(4)或いは(5)の化学構造である。Zは、炭素数1~100の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該化学構造中には酸素原子、窒素原子を含んでもよい。]
Figure 0007066664000002
本発明は、好ましい形態として、[2]重量平均分子量が、10000~100000の範囲である上記[1]に記載したポリヒドロキシウレタン樹脂を提供する。
また、本発明の別の実施の形態として、上記したポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を提供する。
[3]上記[1]または[2]に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法であって、疎水性有機溶剤中または水酸基を有していない有機溶剤中で、1分子中に少なくとも二つの環状カーボネート構造を有する化合物と、1分子中に少なくとも二つの1級アミノ基を有する化合物とを重付加反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得る重付加工程と、該重付加工程後に、前記樹脂溶液中にシリル化剤を添加して反応させて、前記樹脂の水酸基の一部をシリル化する反応工程と、前記疎水性溶剤と、前記シリル化剤の反応副生成物を減圧除去するための減圧留去工程と、を有することを特徴とするポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を提供する。
本発明は、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法の好ましい形態として、下記を提供する。
[4]前記シリル化剤が、ヘキサメチレンジシラザンである上記[3]のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
[5]前記シリル化する反応工程で、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基の20~50モル%をシリル化する上記[3]または[4]のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
本発明によれば、水酸基の一部がシリル化された化学構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂としたことで、汎用の有機溶剤への溶解性が改善され、一般的な工業的コーティング剤に使用されている低沸点の有機溶剤、例えば、メチルエチルケトンや、酢酸エチル系溶剤に溶解可能なポリヒドロキシウレタン樹脂が提供される。また、本発明で提供する樹脂は、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂に近いコーティング特性と、ガスバリア性とを有しており、工業的に有用な材料である。また、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素を原材料(形成材料)として使用することが可能であるので、本発明の技術によって、環境負荷の低減にも貢献するという有用な効果が得られる。
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
本発明は、下記一般式(1)で示されるポリヒドロキシウレタン樹脂であり、水酸基の一部がシリル化された化学構造を有し、メチルエチルケトン中に、及び/または、酢酸エチルが70質量%以上を占める混合有機溶剤中に、樹脂分として30質量%以上の濃度で溶解する溶解性を示し、且つ、該樹脂が100mgKOH/g以上の水酸基価を有したものであることを特徴とする。
Figure 0007066664000003
[一般式(1)中のXは、モノマー単位由来の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。Y、Yは、それぞれ独立して下記式(2)~(5)のいずれかの化学構造を示し、且つ、YまたはYの少なくとも一方が、下記式(4)或いは(5)の化学構造である。Zは、炭素数1~100の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該化学構造中には酸素原子、窒素原子を含んでもよい。]
Figure 0007066664000004
上記した一般式(1)で示される構造のポリヒドロキシウレタン樹脂は、以下の工程によりなる、本発明の製造方法によって得ることができる。
本発明の製造工程は、1分子中に少なくとも二つの五員環環状カーボネート(以下単に環状カーボネートと略す)を有する化合物Aと、1分子中に少なくとも二つのアミノ基を有する化合物Bとを重付加反応させて、ベースとなるポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得る重付加工程と、次いで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中の水酸基の一部をシリル化剤にてシリル化する反応工程と、最後に、反応に使用した疎水性溶剤と、シリル化反応の副生成物を減圧による留去するための減圧留去工程の、3つの工程により構成されることを特徴とする。
まず、最初の工程であるポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得る重付加工程について説明する。
ポリヒドロキシウレタン樹脂は、ポリ環状カーボネートとポリアミン化合物の重付加反応により得られることが知られている。環状カーボネート化合物とアミン化合物との重付加反応は、従来技術と同様に、例えば、両者を混合し、40~200℃の温度で、4~24時間反応させることで得ることができる。
重付加反応は、無溶剤或いは各種有機溶剤中で行うことも可能であるが、本発明においては、次工程のシリル化を考慮し、少量の疎水性溶剤中または水酸基を有していない溶剤中で行う。この際に使用できる好ましい溶剤を例示すると、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、キシレン、などが挙げられる。特に好ましい溶剤としては、反応において一定の加熱ができ、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基の一部をシリル化後、留去しやすい溶剤であることが好ましい。この点で、沸点が100℃~150℃程度である溶剤が好ましい。これらの点で特に好ましい溶剤としては、ジメチルホルムアミドが挙げられる。また、少量の溶剤化で、熱溶融に近い状態で反応を行うことから、貧溶剤であるトルエンも好ましい溶剤として挙げることができる。なお、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤は、アミン化合物と反応し、ケチミンを生成することから、使用が好ましくない。
本発明に使用する環状カーボネートは、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られた物であることが好ましい。具体的には、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下で、0℃~160℃の温度にて、大気圧~1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4~24時間反応させる。この結果、下記に示したように、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
Figure 0007066664000005
上記した二酸化炭素を原料として合成した環状カーボネート化合物を使用することによって、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された-O-CO-結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の-O-CO-結合(二酸化炭素の固定化量)のポリウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、上記した製造方法では、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1~20質量%の範囲で含有させることができる。
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、エポキシ化合物100質量部当たり1~50質量部、好ましくは1~20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるためにトリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能であり、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が好ましいものとして挙げられる。
本発明で使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、1分子中に二つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや脂肪族系や脂環式系のいずれも環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとして以下の化合物が例示される。以下に挙げる式中のRは、独立に、水素又はCHである。
Figure 0007066664000006
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとして以下の化合物が例示される。
Figure 0007066664000007
Figure 0007066664000008
本発明の製造方法で使用可能な、上記した環状カーボネート化合物との反応に使用する多官能アミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノへキサン、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6-シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5-ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
上記した環状カーボネートとアミン化合物の中で、ガスバリア性の高いポリヒドロキシウレタン樹脂を得るために特に好ましい組み合わせとして、芳香族系の環状カーボネート化合物とメタキシレンジアミンの組み合わせが挙げられる。
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法における重付加工程は、特に触媒を使用せずに行うことができるが、反応を促進させるため、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。上記触媒の好ましい使用量は、使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01~10質量部である。
次に、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を構成する、シリル化する反応工程について説明する。シリル化する反応工程は、上記のような重付加反応工程で得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基の一部に対して、シリル化剤を反応させる工程である。
本発明の製造方法に使用できる特に好ましいシリル化剤としては、副生成物が気体のアンモニアである点で、系外への除去が容易になるヘキサメチルジシラザンが挙げられる。
シリル化の反応工程は、ポリヒドロキシウレタン樹脂溶液中にシリル化剤を添加することで行えるが、反応温度としては、60~150℃であり、好ましくは80~120℃である。このシリル化工程においては、シリル化剤が親水性溶剤には溶解しにくいことから、トルエンなどの疎水性溶剤にて希釈した状態で行うことが好ましい。
本発明の製造方法を構成するシリル化の反応工程では、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基の一部がシリル化されるように、水酸基のシリル化量をコントロールする。この場合に、本発明で目的とする、ポリヒドロキシウレタン樹脂の、メチルエチルケトンや、酢酸エチル系溶剤に対する溶解性向上を達するためには、シリル化量が高過ぎると溶解性が悪くなり、低すぎても溶解性の改善が十分に行われない。本発明者らの検討によれば、シリル化の反応工程で行うシリル化量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基の20~50モル%程度が適当である。本発明では、シリル化後の樹脂の水酸基価が100mgKOH/g以上となるようにすることを要するが、樹脂の骨格によっても異なるが、120~160mgKOH/gとすることがより好ましい。
また、これらの水酸基価の範囲であることにより、ポリヒドロキシウレタン樹脂の特性であるガスバリア性を一定量保持させることも可能である。
次に、製造の最終段階の減圧留去工程について説明する。本工程は、反応に使用した疎水性有機溶剤または水酸基を有していない有機溶剤と、シリル化反応における副生成物(シリル化剤の脱離基)を除去するために必要である。この工程は、例えば、反応後の樹脂溶液を100℃~140℃に加熱した状態で減圧することで実施される。真空度については特に規定はなく、目的物が留去できる条件であれば問題なく、使用した有機溶剤や、シリル化剤の種類により適宜選択し、併せて減圧時間も調整すればよい。
ここまで記載した条件で、本発明で規定する一般式(1)の本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができるが、ここで一般式(1)のY、Yの構造が複数ある点について説明する。
高分子鎖を形成する環状カーボネートとアミンとの反応においては環状カーボネートの開裂は2種類であり、以下のモデル反応が示す2種類の構造が発生することが知られている。
Figure 0007066664000009
従って、重付加反応により得られるポリヒドロキシウレタン樹脂を表す一般式(1)のYの構造は、式(2)か(3)の何れかの構造となりその存在はランダムである。また、本発明におけるシリル化は、上記した1級水酸基、2級水酸基のいずれも行うものであり、その反応性の差から、どちらか一方を選択的にシリル化するものではない。従って、シリル化された水酸基の構造は、式(4)、(5)がランダムに存在することになる。
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I-A)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、N-メチル-2-ピロリドン100部と、を仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液にイソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
上記で得られた粉末をIR(商品名:FT-720、堀場製作所社製、以下の製造実施例も同様の装置を使用)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC(商品名:LC-2000、日本分光社製、カラム;FinepakSIL C18-T5、移動相;アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物と確認された。これをI-Aと略称した。I-Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
Figure 0007066664000010
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I-B)の合成]
エポキシ化合物に、エポキシ当量115のレゾルシノールジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX201、ナガセケムテックス社製)を用いた以外は、製造例1と同様の方法で、下記式で表わされる構造の環状カーボネート化合物(I-B)を合成した。得られたI-Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。収率は55%であり、IR分析の結果は、I-Aと同様であり、HPLC分析による純度は97%であった。I-Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.0%であった(計算値)。
Figure 0007066664000011
(実施例1)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製、他の例でも同様の物を使用)を27.1部、さらに、反応溶媒としてN,Nジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)を48部加え、100℃の温度で撹拌しながら、7時間の反応を行った。得られた樹脂をIRにて分析したところ、環状カーボネートのカルボニル由来の1800cm-1のピークが消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収を確認することで重合が進行していることが確認された。次いで、反応溶液中に、ヘキサメチジシラザン(商品名:SZ-31、信越化学工業社製)11.3部を同量のトルエンで希釈したものを、滴下ロートにて30分かけて添加した。添加終了後、30分間反応を継続した後に反応容器を減圧した。
反応液をIRにて分析したところ、シラザンのSi-N結合由来の933cm-1のピークは確認されず、シリル化が終了したことを確認した。次に、撹拌しながら徐々に真空度を上げ、DMFと反応副生成物であるアンモニアを除去した。その後、真空度を2000mPa以下まで下げ、留出物が無くなった時点で反応を終了した。溶融状態で樹脂を取り出すことでポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。水酸基当量は133.6mgKOH/gであり、DMFを移動相としたGPC測定(商品名:GPC-8220、東ソー社製、カラム;Super AW2500+AW3000+AW4000+AW5000、以下の例でも同様の条件で測定)による重量平均分子量は、39000(ポリスチレン換算)であった。
(実施例2)
製造例1で得た化合物I-Aを100部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)を31.8部、DMFを56.5g、ヘキサメチジシラザンを11.3部用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は129.2mgKOH/gであり、また、GPC測定による重量平均分子量は38000(ポリスチレン換算)であった。
(実施例3)
製造例2で得た化合物I-Bを100部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)を43.4部、DMFを61.4g、ヘキサメチジシラザンを15.4部用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は159.2mgKOH/gであり、また、GPC測定による重量平均分子量は36000(ポリスチレン換算)であった。
(比較例1)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、さらに、反応溶媒としてDMFを127部加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の溶液を、メタノール中に注ぎ、生成物を析出させ、これを濾別し回収し、80℃で24時間乾燥させることによりポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。これは、水酸基がシリル化されていない従来のポリヒドロキシウレタン樹脂である。実施例1と同様に測定した水酸基価は206.1mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量は42000(ポリスチレン換算)であった。なお、この樹脂は、後述するように、メチルエチルケトンに対する溶解性及び酢酸ビニル/IPA=70:30に対する溶解性の点で、いずれも本発明で規定する要件を満たさないものであった。
(比較例2)
製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、DMFを48部、ヘキサメチジシラザンを3.8部用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は156.5mgOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量は39000(ポリスチレン換算)であった。なお、この樹脂は、後述するように、メチルエチルケトンに対する溶解性及び酢酸ビニル/IPA=70:30に対する溶解性の点で、いずれも本発明で規定する要件を満たさないものであった。
(比較例3)
製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、DMFを48部、ヘキサメチジシラザンを18.8部用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は91mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量は40000(ポリスチレン換算)であった。なお、この樹脂は、水酸基当量の点で、本発明で規定する要件を満たさず、さらに、後述するように、メチルエチルケトンに対する溶解性及び酢酸ビニル/IPA=70:30に対する溶解性の点でも、本発明で規定する要件を満たさないものであった。
(比較例4)
製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、DMFを48部、ヘキサメチジシラザンの替わりに、ブチルイソシアネート(東京化成工業社製)13.9部を同量のDMFに溶解したものを用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は136.8mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量は41000(ポリスチレン換算)であった。なお、この樹脂は、後述するように、メチルエチルケトンに対する溶解性及び酢酸ビニル/IPA=70:30に対する溶解性の点で、いずれも発明で規定する要件を満たさないものであった。
(比較例5)
製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、DMFを48部、ヘキサメチジシラザンの替わりに、ブチルイソシアネート(東京化成工業社製)46.3部を同量のDMFに溶解したものを用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は87.2mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量は42000(ポリスチレン換算)であった。なお、この樹脂は、水酸基当量の点で、本発明で規定する要件を満たさないものであった。
(比較例6)
製造例1で得た化合物I-Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、DMFを48部、ヘキサメチジシラザンの替わりに、無水マレイン酸(東京化成工業社製)13.9部を同量のDMFに溶解したものを用い、実施例1と同様に反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂のIR分析の結果は実施例1と同様であり、水酸基当量は1122.2mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量は40000(ポリスチレン換算)であった。なお、この樹脂は、後述するように、メチルエチルケトンに対する溶解性及び酢酸ビニル/IPA=70:30に対する溶解性の点で、いずれも本発明で規定する要件を満たさないものであった。
(比較例7)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、プラクセル205(商品名、ダイセル社製、ポリオール;水酸基価210)100部と、1,3ブタンジオール10部を、反応溶剤としてメチルエチルケトン100部を使用して溶解させて入れた。溶解液に、メチレンジフェニル4,4’ジイソシアネート(東京化成工業社製)を74.7部加え、70℃で2時間反応させた後に、触媒として、ジラウリンサンジブチル錫0.05部を加え更に4時間反応させて、イソシアネートを使用した水酸基を有さない従来のポリウレタン樹脂を合成した。本比較例では、得られたものをポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液としてそのまま評価に使用した。
(評価)
上記実施例1~3及び比較例1~7で得た樹脂の特性を評価した。評価及び評価方法は、以下の試験項目及び方法によるものである。得られた結果を表1にまとめて示した。
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、ポリウレタン樹脂の化学構造中における、合成に使用した原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I-A、I-Bを合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、使用した化合物I-Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%であるので、これより、実施例1のポリウレタン中の二酸化炭素濃度は、(100部×20.5%)/138.4全量=14.8質量%となる。
[分子量]
DMFを移動相としたGPC測定(商品名:GPC-8220、東ソー社製、カラム;Super AW2500+AW3000+AW4000+AW5000)により測定した。表1の重量平均分子量の値は、ポリスチレン換算値である。
[溶解性試験]
樹脂1gを、有機溶剤3gと混ぜ、室温で24時間放置後にスパチュラでかき混ぜて静置した。そして、静置した後、室温で12時間後の状態を目視で観察し、下記の基準で評価した。有機溶剤として、メチルエチルケトンと、酢酸エチル/2-プロパノールを質量比70:30で混合した混合有機溶剤の2種類を用い、それぞれの場合について評価した。
<評価基準>
○:均一透明
△:溶解している樹脂分が30質量%未満であり、樹脂の一部が沈降または溶液が白濁している)
×:樹脂のほぼ全部が分離して沈降
[塗膜評価]
先に行った溶解性試験で、有機溶剤にメチルエチルケトンを用いての溶解性試験の結果が○となった樹脂について、該樹脂10部を、28.6部のメチルエチルケトンに溶解し、樹脂溶液を作製した。これを、40μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)〔商品名:パイレンP1111、東洋紡社製、酸素透過率実測値:1500mL40μm/m・day・atm〕を用い、そのコロナ処理面上に、乾燥時の膜厚が20μmになるように塗布し、80℃にて乾燥することで基材上に被膜層を形成し、複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを用いて、塗膜外観、密着性、ガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については後述する。結果を表1に示した。なお、比較例1~4及び比較例6の樹脂はメチルエチルケトンに溶解しなかったため、塗膜を作成できず、複層フィルムを用いての評価ができなかった。比較例1の樹脂について、参考に、比較評価用にDMFに樹脂を溶解したものを用い、上記と同様にして塗膜を形成して複層フィルムを得、このフィルムを用いて同様の試験を行った。参考に、その結果を表1に示した。
[塗膜外観]
全光線透過率及びヘイズを測定し、「全光線透過率90%以上で、且つ、ヘイズ0.5%以下」の基準を満たすものを○と評価し、それ以外の○の基準に該当しないものを×と評価した。
複層フィルムの全光線透過率及びヘイズは、JIS K-7105に準拠して、いずれもヘイズメーター(商品名:HZ-1、スガ試験機社製)で測定した。ヘイズメーターで測定される、全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
[密着性]
塗膜表面の一部にセロハンテープを圧着し、ゆっくりと手で引きはがし、塗膜の剥がれ具合を観察し、以下の基準で評価した。結果を表1、2に示した。
<評価基準>
○:塗膜の剥がれがなし
△:塗膜の一部が剥離
×:塗膜が完全に剥離
[ガスバリア性]
JIS K-7126に準拠して酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX-TRAN 2/21ML)を使用して、温度23℃で、湿度65%とした各恒温恒湿条件下にて、酸素透過率を測定した。結果を表1、2に示した。
Figure 0007066664000012
Figure 0007066664000013
表1に示したように、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、水酸基の一部をシリル化した構成を有することで、従来、溶解が困難であったメチルエチルケトンや、酢酸エチル/イソプロパノール=70/30の混合溶剤に溶解させることができる。このため、これらの有機溶剤に溶解させた樹脂溶液を用いることで、塗膜の形成が可能になる。また、樹脂溶液のコーティングにより得られた塗膜は、外観も従来のポリウレタン樹脂と変わらず、密着力も同レベルにある。
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、構造中の水酸基の一部をシリル化するため、ポリヒドロキシウレタンの特徴であるガスバリア性が低下することになるが、従来のポリウレタン樹脂との比較においては、依然として各段に優れている。本発明者らは、シリル化以外の水酸基の修飾方法として、モノイソシアネート化合物を用いて比較したが、この場合は、水酸基の全量を修飾しないと溶解性が上がらなかった。このことから、本発明を特徴づける構造中の水酸基の一部をシリル化する手法は、樹脂の構造中に水酸基を残した状態でメチルエチルケトンなどに溶解させることができるようになる点で優れている。このように構成されていることにより、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、上述したガスバリア性の低下が、モノイソシアネートによる修飾よりも少なくてすみ、また、シリル化されていない水酸基を架橋反応にも使用できることから、コーティング用の樹脂として優れたものである。
本発明によれば、コーティング分野で工業的に要求される、一般的な有機溶剤であるメチルエチルケトンなどに溶解可能なポリヒドロキシウレタン樹脂を提供することができる。また、水酸基を多く残した状態で溶解性を改善することができることから、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂と同様に、ガスバリア性などの特徴を保持することができ、機能性コーティング剤用の樹脂としての利用が期待できる。さらに、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、その原料に二酸化炭素を使用することができるものであるので、地球環境保護の面からも期待される材料である。

Claims (4)

  1. 下記一般式(1)で示される、水酸基の一部がシリル化された化学構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂であって、該樹脂は、メチルエチルケトン中に、及び/または、酢酸エチルが70質量%以上を占める混合有機溶剤中に、樹脂分として30質量%以上の濃度で溶解する溶解性を示し、且つ、水酸基価が100mgKOH/g以上となる水酸基を有することを特徴とするポリヒドロキシウレタン樹脂。
    Figure 0007066664000014
    [一般式(1)中のXは、モノマー単位由来の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。Y、Yは、それぞれ独立して下記式(2)~(5)のいずれかの化学構造を示し、且つ、YまたはYの少なくとも一方が、下記式(4)或いは(5)の化学構造である。Zは、炭素数1~100の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該化学構造中には酸素原子、窒素原子を含んでもよい。]
    Figure 0007066664000015
  2. 重量平均分子量が、10000~100000の範囲である請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
  3. 請求項1または2に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法であって、
    疎水性有機溶剤中または水酸基を有していない有機溶剤中で、1分子中に少なくとも二つの環状カーボネート構造を有する化合物と、1分子中に少なくとも二つの1級アミノ基を有する化合物とを重付加反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得る重付加工程と、
    該重付加工程後に、前記樹脂溶液中にシリル化剤としてヘキサメチルジシラザンを添加して反応させて、前記樹脂の水酸基の一部をシリル化する反応工程と、
    前記疎水性溶剤と、前記シリル化剤の反応副生成物を減圧除去するための減圧留去工程と、を有することを特徴とするポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
  4. 前記シリル化する反応工程で、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基の20~50モル%をシリル化する請求項3に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
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