JP7063364B2 - 高Mn鋼 - Google Patents
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Description
a.高Mnのオーステナイト鋼は、Mnの拡散が遅いことから、連続鋳造時に生成するMn濃度の低いMn偏析部が熱間圧延後にも存在する。このMn偏析部のMn濃度が16%未満の場合、低温において加工誘起マルテンサイトが生成し、低温靱性の劣化を招く。このことから高Mn鋼の低温靱性向上には、Mn偏析部のMn濃度を高めることが有効である。
1.質量%で、
C:0.100%以上0.700%以下、
Si:0.05%以上1.00%以下、
Mn:20.0%以上35.0%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0070%以下、
Al:0.01%以上0.07%以下、
Cr:0.5%以上7.0%以下、
N:0.0050%以上0.0500%以下、
O:0.0050%以下、
Ti:0.0050%以下および
Nb:0.0050%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成とオーステナイトを基地相とするミクロ組織とを有し、該ミクロ組織におけるMn偏析部のMn濃度が16%以上38%以下あり、KAM(Kernel Average Misorientation)値の平均が0.3以上であり、-196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが100J以上かつ降伏強度が400MPa以上である高Mn鋼。
Mo:2.0%以下、
V:2.0%以下、
W:2.0%以下、
Ca:0.0005%以上0.0050%以下、
Mg:0.0005%以上0.0050%以下および
REM:0.0010%以上0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記1に記載の高Mn鋼。
ここで、前記の各温度域は、それぞれ鋼素材または鋼板の表面温度である。
[成分組成]
まず、本発明の高Mn鋼の成分組成とその限定理由について説明する。なお、成分組成における「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.100%以上0.700%以下
Cは、安価なオーステナイト安定化元素であり、オーステナイトを得るために重要な元素である。その効果を得るために、Cは0.100%以上の含有を必要とする。一方、0.700%を超えて含有すると、Cr炭化物が過度に生成され、低温靱性が低下する。このため、Cは0.100%以上0.700%以下とする。好ましくは、0.200%以上0.600%以下とする。
Siは、脱酸材として作用し、製鋼上必要であるだけでなく、鋼に固溶して固溶強化により鋼板を高強度化する効果を有する。このような効果を得るために、Siは0.05%以上の含有を必要とする。一方、1.00%を超えて含有すると、溶接性が劣化する。このため、Siは0.05%以上1.00%以下とする。好ましくは、0.07%以上0.50%以下とする。
Mnは、比較的安価なオーステナイト安定化元素である。本発明では、強度と低温靱性を両立するために重要な元素である。その効果を得るために、Mnは20.0%以上の含有を必要とする。一方、35.0%を超えて含有した場合、低温靱性が劣化する。また、溶接性、切断性が劣化する。さらに、偏析を助長し、応力腐食割れの発生を助長する。このため、Mnは20.0%以上35.0%以下とする。好ましくは、23.0%以上30.0%以下とする。より好ましくは、28.0%以下とする。
Pは、0.030%を超えて含有すると、粒界に偏析し、応力腐食割れの発生起点となる。このため、0.030%を上限とし、可能なかぎり低減することが望ましい。したがって、Pは0.030%以下とする。尚、過度のP低減は精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.002%以上とすることが望ましい。好ましくは、0.005%以上0.028%以下、さらに好ましくは0.024%以下とする。
Sは、母材の低温靭性や延性を劣化させるため、0.0070%を上限とし、可能なかぎり低減することが望ましい。したがって、Sは0.0070%以下とする。尚、過度のSの低減は精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.001%以上とすることが望ましい。好ましくは0.0020%以上0.0060%以下とする。
Alは、脱酸剤として作用し、鋼板の溶鋼脱酸プロセスに於いて、もっとも汎用的に使われる。このような効果を得るためには、Alは0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.07%を超えて含有すると、溶接時に溶接金属部に混入して、溶接金属の靭性を劣化させるため、0.07%以下とする。このため、Alは0.01%以上0.07%以下とする。好ましくは0.02%以上0.06%以下とする。
Crは、適量の添加でオーステナイトを安定化させ、低温靱性と母材強度の向上に有効な元素である。このような効果を得るためには、Crは0.5%以上の含有を必要とする。一方、7.0%を超えて含有すると、Cr炭化物の生成により、低温靭性および耐応力腐食割れ性が低下する。このため、Crは0.5%以上7.0%以下とする。好ましくは1.0%以上6.7%以下、より好ましくは1.2%以上6.5%以下とする。また、耐応力腐食割れをさらに向上させるためには、2.0%以上6.0%以下がさらに好ましい。
Nは、オーステナイト安定化元素であり、低温靱性向上に有効な元素である。このような効果を得るためには、Nは0.0050%以上の含有を必要とする。一方、0.0500%を超えて含有すると、窒化物または炭窒化物が粗大化し、靭性が低下する。このため、Nは0.0050%以上0.0500%以下とする。好ましくは0.0060%以上0.0400%以下とする。
Oは、酸化物の形成により低温靱性を劣化させる。このため、Oは0.0050%以下の範囲とする。好ましくは、0.0045%以下である。尚、過度のOの低減は精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.0010%以上とすることが望ましい。
TiおよびNbは、鋼中で高融点の炭窒化物を形成し結晶粒の粗大化を抑制し、その結果破壊の起点や亀裂伝播の経路となる。特に、高Mn鋼においては低温靭性を高め、延性を向上するための組織制御の妨げとなるため、意図的に抑制する必要がある。すなわち、TiおよびNbは、原材料などから不可避的に混入する成分であり、Ti:0.005%超0.010%以下およびNb:0.005%超0.010%以下の範囲で混入するのが通例である。そこで、後述する手法に従って、TiおよびNbの不可避混入を回避し、TiおよびNbの含有量を各々0.005%以下に抑制する必要がある。TiおよびNbの含有量を各々0.005%以下に抑制することによって、上記した炭窒化物の悪影響を排除し、優れた低温靭性並びに延性を確保することができる。好ましくは、TiおよびNbの含有量を0.003%以下とする。勿論、TiおよびNbの含有量は0%であってもよい。
上記した成分以外の残部は鉄および不可避的不純物である。ここでの不可避的不純物としては、Hなどが挙げられ、合計で0.01%以下であれば許容できる。
オーステナイトを基地相とするミクロ組織
鋼材の結晶構造が体心立方構造(bcc)である場合、該鋼材は低温環境下で脆性破壊を起こす可能性があるため、低温環境下での使用には適していない。ここに、低温環境下での使用を想定したとき、鋼材の基地相は、結晶構造が面心立方構造(fcc)であるオーステナイト組織であることが必須となる。なお、「オーステナイトを基地相とする」とは、オーステナイト相が面積率で90%以上であることを意味する。オーステナイト相以外の残部は、フェライト相またはマルテンサイト相である。さらに好ましくは95%以上である。
すなわち、上記した成分組成の鋼素材に種々の条件の熱間圧延を施して得た鋼板について、Mn偏析部のMn濃度並びに、-196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーを測定した。ここで、Mn偏析部とは、Mn偏析バンド間のMn濃度が低いまたは高い領域であり、具体的には、熱間圧延後の鋼板の圧延方向断面の研磨面におけるEBSD(Electron Backscatter Diffraction)解析によって測定されるMn濃度が最も低いまたは高い領域で代表される。
まず、Mn濃度の低いMn偏析部について、そのMn濃度並びに-196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーを測定した結果を図1に示すように、Mn偏析部のMn濃度を16%以上とすれば、前記吸収エネルギー:100J以上が実現されることがわかる。Mn偏析部のMn濃度は好ましくは17%以上である。
KAM値は、上述の通り、熱間圧延後の鋼板について、500μm×200μmの視野におけるEBSD(Electron Backscatter Diffraction)解析を任意の2視野にわたって行った結果から、結晶粒内の各ピクセル(0.3μmピッチ)と隣接するピクセルとの方位差の平均値として求められる値である。このKAM値は、組織における転位による局所的結晶方位変化を反映しており、KAM値が高いほど、測定点と隣り合った部位との方位差が大きいことを示している。すなわち、KAM値が高いほど、粒内の局所的な変形度合が高いことを意味するため、圧延後の鋼板においてKAM値が高いほど、転位密度が高いことになる。そして、このKAM値の平均が0.3以上であれば、多量の転位が蓄積されているため、降伏強度が向上する。好ましくは、0.5以上である。一方、KAM値の平均が1.3を超えると靱性が劣化するおそれがあるため、1.3以下とすることが好ましい。
Mo:2.0%以下、V:2.0%以下、W:2.0%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0010%以上0.0200%以下の1種または2種以上
Mo、V、W:2.0%以下
Mo、VおよびWは、オーステナイトの安定化に寄与するとともに母材強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mo、VおよびWは0.001%以上で含有することが好ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、粗大な炭窒化物が生成し、破壊の起点となることがある他、製造コストを圧迫する。このため、これらの合金元素を含有する場合は、その含有量は2.0%とする。好ましくは0.003%以上1.7%以下、より好ましくは1.5%以下とする。
Ca、MgおよびREMは、介在物の形態制御に有用な元素であり、必要に応じて含有できる。介在物の形態制御とは、展伸した硫化物系介在物を粒状の介在物とすることをいう。この介在物の形態制御を介して、延性、靭性および耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる。このような効果を得るためには、Ca、Mgは0.0005%以上、REMは0.0010%以上含有することが好ましい。一方、いずれの元素も多く含有させると、非金属介在物量が増加し、かえって延性、靭性、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。
このため、CaおよびMgを含有する場合には、それぞれ0.0005%以上0.0050%以下、REMを含有する場合には、0.0010%以上0.0200%以下とする。好ましくは、Ca量は0.0010%以上0.0040%以下、Mg量は0.0010%以上0.0040%以下、REM量は0.0020%以上0.0150%以下とする。
[鋼素材加熱温度:1100℃以上1300℃以下]
上記した構成の高Mn鋼を得るためには、1100℃以上1300℃以下の温度域に加熱し、圧延終了温度が800℃以上かつ総圧下率が20%以上の熱間圧延を行うことが重要である。ここでの温度制御は、鋼素材の表面温度を基準とする。
すなわち、熱間圧延にてMnの拡散を促進するために、圧延前の加熱温度は1100℃以上とする。一方、1300℃を超えると鋼の溶解が始まってしまう懸念があるため、加熱温度の上限は1300℃とする。好ましくは、1150℃以上1250℃以下である。
さらに、圧延時の総圧下率を20%以上と高くすることによって、Mn偏析部と偏析部との距離を縮めてMnの拡散を促進することも重要である。同様に、圧延時のMnの拡散を促進する観点から、圧延終了温度を800℃以上とする。なぜなら、800℃未満ではMnの融点の3分の2を大きく下回るため、十分にMnを拡散できないからである。好ましくは950℃以上であり、さらに好ましくは1000℃以上1050℃以下である。また、総圧下率は好ましくは30%以上である。なお、総圧下率の上限は特に定める必要はないが、圧延能率向上の観点から、98%とすることが好ましい。
2回目の熱間圧延は、700℃以上950℃未満で1パス以上の最終仕上圧延を必要とする。すなわち、950℃未満にて好ましくは10%以上の圧延を1パス以上行うことにより、1回目の圧延で導入された転位が回復しにくく残留しやすくなるため、KAM値を高めることができる。また、950℃以上の温度領域で仕上げると、結晶粒径が過度に粗大となり所望の降伏強度が得られなくなる。そのため950℃未満で1パス以上の最終仕上圧延を行うことが好ましい。仕上温度は好ましくは900℃以下、より好ましくは850℃以下である。
熱間圧延終了後は速やかに冷却を行う。熱間圧延後の鋼板を緩やかに冷却させると析出物の生成が促進され低温靭性の劣化を招く。これら析出物の生成は、1.0℃/s以上の冷却速度で冷却することで抑制できる。また、過度な冷却を行うと鋼板が歪んでしまい、生産性を低下させる。特に板厚10mm未満の鋼材では空冷するのが好ましい。そのため、冷却開始温度の上限は900℃とする。以上の理由から、熱間圧延後の冷却は、(仕上圧延終了温度-100℃)以上の温度から300℃以上650℃以下の温度域までの鋼板表面の平均冷却速度は1.0℃/s以上とする。尚、圧延ままでMn偏析部のMn濃度の範囲が狭くなっているので、その後の熱処理は不要である。
転炉-取鍋精錬-連続鋳造法にて、表1に示す成分組成になる鋼スラブを作製した。次いで、得られた鋼スラブを表2に示す条件で分塊圧延(第1回熱間圧延)および熱間圧延(第2回熱間圧延)により10~30mm厚の鋼板とした。得られた鋼板について、引張特性、靭性および組織評価を下記の要領で実施した。
得られた各鋼板より、JIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241(1998年)の規定に準拠して引張試験を実施し、引張試験特性を調査した。本発明では、降伏強度400MPa以上および引張強度800MPa以上を引張特性に優れるものと判定した。さらに、伸び40%以上を延性に優れるものと判定した。
板厚20mmを超える各鋼板の板厚1/4位置、もしくは板厚20mm以下の各鋼板の板厚1/2位置の圧延方向と平行な方向から、JIS Z 2242(2005年)の規定に準拠してシャルピーVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242(2005年)の規定に準拠して各鋼板について3本のシャルピー衝撃試験を実施し、-196℃での吸収エネルギーを求め、母材靭性を評価した。本発明では、3本の吸収エネルギー(vE-196)の平均値が100J以上を母材靭性に優れるものとした。なお、板厚10mm未満の各鋼板については、板厚1/2位置の圧延方向と平行な方向から、JIS Z 2242(2005年)の規定に準拠して5mmサブサイズのシャルピーVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242(2005年)の規定に準拠して各鋼板について3本のシャルピー衝撃試験をー196℃で実施した。ここでは、3本の吸収エネルギー(vE-196)の平均値が67J以上を母材靭性に優れるものとした。
-196℃でシャルピー衝撃試験後、SEM観察(500倍で10視野)を行い、脆性破面率を測定した。脆性破面率が0%を低温靭性に優れるものとした。
KAM値
熱間圧延後の鋼板について、圧延方向断面の研磨面における、500μm×200μmの視野におけるEBSD(Electron Backscatter Diffraction)解析(測定ステップ:0.3μm)を任意の2視野(板厚4分の1位置および板厚2分の1位置)にわたって行って測定した全領域の平均値を平均KAM値とした。
シャルピー衝撃試験後、試験片をノッチ底まで追込み研磨し、EBSD解析(測定ステップ:0.08μm)により、100μm×100μmの視野を5視野観察し、加工誘起マルテンサイトの有無を測定した。
さらに、上記KAM値のEBSD測定位置において、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析を行うことによって、Mn濃度を求め、Mn濃度が最も低い所および最も高い所を偏析部とした。
以上により得られた結果を、表3に示す。
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.288%以上0.700%以下、
Si:0.05%以上1.00%以下、
Mn:20.0%以上35.0%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0070%以下、
Al:0.01%以上0.07%以下、
Cr:0.5%以上7.0%以下、
N:0.0050%以上0.0500%以下、
O:0.0050%以下、
Ti:0.005%以下および
Nb:0.005%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成とオーステナイトを面積率で90%以上含むミクロ組織とを有し、該ミクロ組織におけるMn偏析部のMn濃度が16%以上38%以下であり、KAM(Kernel Average Misorientation)値の平均が0.3以上であり、-196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが100J以上かつ降伏強度が400MPa以上である高Mn鋼。 - 前記成分組成は、さらに、質量%で、
Mo:2.0%以下、
V:2.0%以下、
W:2.0%以下、
Ca:0.0005%以上0.0050%以下、
Mg:0.0005%以上0.0050%以下および
REM:0.0010%以上0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の高Mn鋼。
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