本開示の実施形態について以下の順序で説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
1 第1の実施形態
2 第2の実施形態
3 変形例
<1 第1の実施形態>
[記録再生システムの構成]
図1は、本開示の第1の実施形態に係る記録再生システム100の構成の一例を示す概略図である。記録再生システム100は、磁気テープ記録再生システムであり、カートリッジ10と、カートリッジ10をロードおよびアンロード可能に構成された記録再生装置50とを備える。
[カートリッジの構成]
図2は、カートリッジ10の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ10は、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープカートリッジであり、下シェル12Aと上シェル12Bとで構成されるカートリッジケース12の内部に、磁気テープ(テープ状の磁気記録媒体)MTが巻かれたリール13と、リール13の回転をロックするためのリールロック14およびリールスプリング15と、リール13のロック状態を解除するためのスパイダ16と、下シェル12Aと上シェル12Bに跨ってカートリッジケース12に設けられたテープ引出口12Cを開閉するスライドドア17と、スライドドア17をテープ引出口12Cの閉位置に付勢するドアスプリング18と、誤消去を防止するためのライトプロテクト19と、カートリッジメモリ11とを備える。リール13は、中心部に開口を有する略円盤状であって、プラスチック等の硬質の材料からなるリールハブ13Aとフランジ13Bとにより構成される。磁気テープMTの一端部には、リーダーピン20が設けられている。
カートリッジメモリ11は、カートリッジ10の1つの角部の近傍に設けられている。カートリッジ10が記録再生装置50にロードされた状態において、カートリッジメモリ11は、記録再生装置50のリーダライタ57と対向するようになっている。カートリッジメモリ11は、LTO規格に準拠した無線通信規格で記録再生装置50、具体的にはリーダライタ57と通信を行う。
[カートリッジメモリの構成]
図3は、カートリッジメモリ11の構成の一例を示すブロック図である。カートリッジメモリ11は、規定の通信規格でリーダライタ57と通信を行うアンテナコイル(通信部)31と、アンテナコイル31により受信した電波から、誘導起電力を用いて発電、整流して電源を生成する整流・電源回路32と、アンテナコイル31により受信した電波から、同じく誘導起電力を用いてクロックを生成するクロック回路33と、アンテナコイル31により受信した電波の検波およびアンテナコイル31により送信する信号の変調を行う検波・変調回路34と、検波・変調回路34から抽出されるデジタル信号から、コマンドおよびデータを判別し、これを処理するための論理回路等で構成されるコントローラ(制御部)35と、情報を記憶するメモリ(記憶部)36とを備える。また、カートリッジメモリ11は、アンテナコイル31に対して並列に接続されたキャパシタ37を備え、アンテナコイル31とキャパシタ37により共振回路が構成される。
メモリ36は、カートリッジ10に関連する情報等を記憶する。メモリ36は、不揮発性メモリ(Non Volatile Memory:NVM)である。メモリ36の記憶容量は、好ましくは約32KB以上である。
メモリ36は、第1の記憶領域36Aと第2の記憶領域36Bとを有する。第1の記憶領域36Aは、LTO8以前のLTO規格のカートリッジメモリ(以下「従来のカートリッジメモリ」という。)の記憶領域に対応しており、LTO8以前のLTO規格に準拠した情報を記憶するための領域である。LTO8以前のLTO規格に準拠した情報は、例えば製造情報(例えばカートリッジ10の固有番号等)、使用履歴(例えばテープ引出回数(Thread Count)等)等である。
第2の記憶領域36Bは、従来のカートリッジメモリの記憶領域に対する拡張記憶領域に相当する。第2の記憶領域36Bは、付加情報を記憶するための領域である。ここで、付加情報とは、LTO8以前のLTO規格で規定されていない、カートリッジ10に関連する情報を意味する。付加情報の例としては、テンション調整情報、管理台帳データ、Index情報、または磁気テープMTに記憶された動画のサムネイル情報等が挙げられるが、これらのデータに限定されるものではない。テンション調整情報は、磁気テープMTの長手方向にかかるテンションを調整するための情報である。テンション調整情報は、磁気テープMTに対するデータ記録時における、隣接するサーボバンド間の距離(隣接するサーボバンドに記録されたサーボパターン間の距離)を含む。隣接するサーボバンド間の距離は、磁気テープMTの幅に関連する幅関連情報の一例である。サーボバンド間の距離の詳細については後述する。以下の説明において、第1の記憶領域36Aに記憶される情報を「第1の情報」といい、第2の記憶領域36Bに記憶される情報を「第2の情報」ということがある。
メモリ36は、複数のバンクを有していてもよい。この場合、複数のバンクうちの一部のバンクにより第1の記憶領域36Aが構成され、残りのバンクにより第2の記憶領域36Bが構成されてもよい。
アンテナコイル31は、電磁誘導により誘起電圧を誘起する。コントローラ35は、アンテナコイル31を介して、規定の通信規格で記録再生装置50と通信を行う。具体的には例えば、相互認証、コマンドの送受信またはデータのやり取り等を行う。
コントローラ35は、アンテナコイル31を介して記録再生装置50から受信した情報をメモリ36に記憶する。例えば、アンテナコイル31を介して記録再生装置50から受信したテンション調整情報をメモリ36の第2の記憶領域36Bに記憶する。コントローラ35は、記録再生装置50の要求に応じて、メモリ36から情報を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置50に送信する。例えば、記録再生装置50の要求に応じて、メモリ36の第2の記憶領域36Bからテンション調整情報を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置50に送信する。
[磁気テープの構成]
図4は、磁気テープMTの構成の一例を示す断面図である。磁気テープMTは、テープ状の磁気記録媒体であり、長尺状の基体41と、基体41の一方の主面(第1の主面)上に設けられた下地層42と、下地層42上に設けられた磁性層43と、基体41の他方の主面(第2の主面)上に設けられたバック層44とを備える。なお、下地層42およびバック層44は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。磁気テープMTは、垂直記録型の磁気記録媒体であってもよいし、長手記録型の磁気記録媒体であってもよい。
磁気テープMTは長尺のテープ状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。なお、磁性層43の表面が、記録再生装置50が備える磁気ヘッド56が走行される表面となる。磁気テープMTは、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置で用いられることが好ましい。磁気テープMTは、1500nm以下または1000nm以下のデータトラック幅でデータを記録可能に構成された記録再生装置に用いられることが好ましい。
(基体)
基体41は、下地層42および磁性層43を支持する非磁性支持体である。基体41は、長尺のフィルム状を有する。基体41の平均厚みの上限値は、好ましくは4.2μm以下、より好ましくは3.8μm以下、さらにより好ましくは3.4μm以下である。基体41の平均厚みの上限値が4.2μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気テープよりも高めることができる。基体41の平均厚みの下限値は、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上である。基体41の平均厚みの下限値が3μm以上であると、基体41の強度低下を抑制することができる。
基体41の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気テープMTを準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの基体41以外の層(すなわち下地層42、磁性層43およびバック層44)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプル(基体41)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体41の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
基体41は、ポリエステルを含む。基体41がポリエステルを含むことで、基体41の長手方向のヤング率を低減することができる。したがって、走行時における磁気テープMTの長手方向のテンションを記録再生装置50により調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つことができる。
ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート(PEB)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。基体41が2種以上のポリエステルを含む場合、それらの2種以上のポリエステルは混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。ポリエステルの末端および側鎖の少なくとも一方が変性されていてもよい。
基体41にポリエステルが含まれていることは、例えば、次のようにして確認される。まず、基体41の平均厚みの測定方法と同様にして、サンプルの基体41以外の層を除去する。次に、赤外吸収分光法(Infrared Absorption Spectrometry:IR)によりサンプル(基体41)のIRスペクトルを取得する。このIRスペクトルに基づき、基体41にポリエステルが含まれていることを確認することができる。
基体41は、ポリエステル以外に、例えば、ポリアミド、ポリイミドおよびポリアミドイミドのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよいし、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ポリアミドは、芳香族ポリアミド(アラミド)であってもよい。ポリイミドは、芳香族ポリイミドであってもよい。ポリアミドイミドは、芳香族ポリアミドイミドであってもよい。
基体41が、ポリエステル以外の高分子樹脂を含む場合、基体41はポリエステルを主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、基体41に含まれる高分子樹脂のうち、最も含有量(質量比率)が多い成分を意味する。基体41がポリエステル以外の高分子樹脂を含む場合、ポリエステルと、ポリエステル以外の高分子樹脂は、混合されていてもよいし、共重合されていてもよい。
基体41は、長手方向および幅方向に二軸延伸されていてもよい。基体41に含まれる高分子樹脂は、基体41の幅方向に対して斜め方向に配向されていることが好ましい。
(磁性層)
磁性層43は、信号を磁化パターンにより記録するための記録層である。磁性層43は、垂直記録型の記録層であってもよいし、長手記録型の記録層であってもよい。磁性層43は、例えば、磁性粉、結着剤および潤滑剤を含む。磁性層43が、必要に応じて、帯電防止剤、研磨剤、硬化剤、防錆剤および非磁性補強粒子等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
磁性層43は、多数の孔部43Aが設けられた表面を有している。これらの多数の孔部43Aには、潤滑剤が蓄えられている。多数の孔部43Aは、磁性層43の表面に対して垂直方向に延設されていることが好ましい。磁性層43の表面に対する潤滑剤の供給性を向上することができるからである。なお、多数の孔部43Aの一部が垂直方向に延設されていてもよい。
磁性層43の表面の算術平均粗さRaは、2.5nm以下、好ましくは2.2nm以下、より好ましくは1.9nm以下である。算術平均粗さRaが2.5nm以下であると、スペーシングロスによる出力低下を抑制することができるため、優れた電磁変換特性を得ることができる。磁性層43の表面の算術平均粗さRaの下限値は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.2nm以上、さらにより好ましくは1.4nm以上である。磁性層43の表面の算術平均粗さRaの下限値が1.0nm以上であると、摩擦の増大による走行性の低下を抑制することができる。
算術平均粗さRaは次のようにして求められる。まず、磁性層43の表面をAFM(Atomic Force Microscope)により観察し、40μm×40μmのAFM像を得る。AFMとしてはDigital Instruments社製、Nano Scope IIIa D3100を用い、カンチレバーとしてはシリコン単結晶製のものを用い(注1)、タッピング周波数として、200~400Hzのチューニングにて測定を行う。次に、AFM像を512×512(=262,144)個の測定点に分割し、各測定点にて高さZ(i)(i:測定点番号、i=1~262,144)を測定し、測定した各測定点の高さZ(i)を単純に平均(算術平均)して平均高さ(平均面)Zave(=(Z(1)+Z(2)+・・・+Z(262,144))/262,144)を求める。続いて、各測定点での平均中心線からの偏差Z”(i)(=Z(i)-Zave)を求め、算術平均粗さRa[nm](=(Z”(1)+Z”(2)+・・・+Z”(262,144))/262,144)を算出する。この際には、画像処理として、Flatten order2、ならびに、planefit order 3 XYによりフィルタリング処理を行ったものをデータとして用いる。
(注1)Nano World社製 SPMプローブ NCH ノーマルタイプ PointProbe L(カンチレバー長)=125μm
磁気テープMTが洗浄、乾燥された状態において測定された、磁気テープMTの全体のBET比表面積の下限値は、3.5m2/g以上、好ましくは4m2/g以上、より好ましくは4.5m2/g以上、さらにより好ましくは5m2/g以上である。BET比表面積の下限値が3.5m2/g以上であると、繰り返し記録または再生を行った後にも(すなわち磁気ヘッド56を磁気テープMTの表面に接触させて繰り返し走行を行った後にも)、磁性層43の表面と磁気ヘッド56の間に対する潤滑剤の供給量の低下を抑制することができる。したがって、動摩擦係数の増加を抑制することができる。よって、優れた走行安定性を得ることができる。
磁気テープMTが洗浄、乾燥された状態において測定された、磁気テープMTの全体のBET比表面積の上限値は、7m2/g以下、好ましくは6m2/g以下、より好ましくは5.5m2/g以下である。BET比表面積の上限値が7m2/g以下であると、多数回走行後にも潤滑剤を枯渇することなく十分に供給できる。したがって、動摩擦係数の増加を抑制することができる。よって、優れた走行安定性を得ることができる。
磁気テープMTが洗浄、乾燥された状態において測定された、磁気テープMTの全体の平均細孔直径は、6nm以上11nm以下、好ましくは7nm以上10nm以下、より好ましくは7.5nm以上10nm以下である。平均細孔直径が6nm以上11nm以下であると、上述した動摩擦係数の増加を抑制する効果をさらに向上することができる。したがって、さらに優れた走行安定性を得ることができる。
磁気テープMTが洗浄、乾燥された状態において測定された、磁気テープMTの全体のBET比表面積および磁気テープMTの全体の細孔分布(細孔容積および平均細孔直径(脱着時最大細孔容積の細孔直径である))は以下のようにして求められる。まず、面積0.1265m
2より1割程度大きいサイズの磁気テープMTをヘキサン中(磁気テープMTが十分に浸漬できる量、例えば、150mL)に24時間浸したのち、自然乾燥させ、面積0.1265m
2(例えば、乾燥後の磁気テープMTの両端50cmを切り落とし、テープ幅×10mを準備する。)のサイズに切り出すことにより、測定サンプルを作製する。次に、比表面積・細孔分布測定装置を用いて、BET比表面積を求める。また、比表面積・細孔分布測定装置を用いて、BJH法により細孔分布(細孔容積および平均細孔直径)を求める。以下に、測定装置および測定条件を示す。このようにして、細孔の平均直径が測定される。
測定環境:室温
測定装置:Micromeritics社製3FLEX
測定吸着質:N
2ガス
測定圧力範囲(P/P
0(相対圧)):0~0.995
前記測定圧力範囲に関して、圧力は以下の表1の通りに変化される。以下の表1における圧力値は相対圧P/P
0である。以下の表1において、例えばステップ1において、開始圧0.000から到達圧0.010へ、10秒当たり0.001変化するように、圧力が変化される。圧力が到達圧に達したら、次のステップにおける圧力変化が行われる。ステップ2~10においても同様である。ただし、各ステップにおいて、圧力が平衡に達していない場合は、装置は圧力が平衡になるのを待ってから次のステップに移行する。
磁性層43は、図5に示すように、複数のサーボバンドSBと複数のデータバンドDBとを予め有している。複数のサーボバンドSBは、磁気テープMTの幅方向に等間隔で設けられている。隣り合うサーボバンドSBの間には、データバンドDBが設けられている。サーボバンドSBは、データの記録または再生時に磁気ヘッド56(具体的にはサーボリードヘッド56A、56B)をガイドするためのものである。サーボバンドSBには、磁気ヘッド56のトラッキング制御をするためのサーボパターン(サーボ信号)が予め書き込まれている。データバンドDBには、ユーザデータが記録される。
磁性層43の表面の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの割合RS(=(SSB/S)×100)の上限値は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらにより好ましくは2.0%以下である。一方、磁性層43の表面の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの割合RSの下限値は、5以上のサーボバンドSBを確保する観点から、好ましくは0.8%以上である。
磁性層43の表面全体の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの比率RSは、以下のようにして求められる。磁気テープMTを、フェリコロイド現像液(株式会社シグマハイケミカル製、シグマーカーQ)を用いて現像し、その後、現像した磁気テープMTを光学顕微鏡で観察し、サーボバンド幅WSBおよびサーボバンドSBの本数を測定する。次に、以下の式から割合RSを求める。
割合RS[%]=(((サーボバンド幅WSB)×(サーボバンドSBの本数))/(磁気テープMTの幅))×100
サーボバンドSBの本数は、好ましくは5以上、より好ましくは5+4n(但し、nは正の整数である。)以上である。サーボバンドSBの本数が5以上であると、磁気テープMTの幅方向の寸法変化によるサーボ信号への影響を抑制し、よりオフトラックが少ない安定した記録再生特性を確保できる。サーボバンドSBの本数の上限値は特に限定されるものではないが、例えば33以下である。
サーボバンドSBの本数は、上記の比率RSの算出方法と同様にして求められる。
サーボバンド幅WSBの上限値は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは95μm以下、より好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは30μm以下である。サーボバンド幅WSBの下限値は、好ましくは10μm以上である。10μm未満のサーボバンド幅WSBのサーボ信号を読み取り可能な記録ヘッド56は製造が困難である。
サーボバンド幅WSBの幅は、上記の比率RSの算出方法と同様にして求められる。
磁性層43は、図6に示すように、データバンドDBに複数のデータトラックTkを形成可能に構成されている。データトラック幅Wの上限値は、トラック記録密度を向上し、高記録容量を確保する観点から、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1500nm以下、さらにより好ましくは1000nm以下である。データトラック幅Wの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。
磁性層43は、高記録容量を確保する観点から、磁化反転間距離の最小値Lが好ましくは48nm以下、より好ましくは44nm以下、さらにより好ましくは40nm以下となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。
磁性層43は、磁化反転間距離の最小値Lとデータトラック幅Wが好ましくはW/L≦35、より好ましくはW/L≦30、さらにより好もしくはW/L≦25となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lが一定値であり、磁化反転間距離の最小値Lとトラック幅WがW/L>35であると(すなわちトラック幅Wが大きいと)、トラック記録密度が上がらないため、記録容量を十分に確保できなくなる虞がある。また、トラック幅Wが一定値であり、磁化反転間距離の最小値Lとトラック幅WがW/L>35であると(すなわち磁化反転間距離の最小値Lが小さいと)、ビット長さが小さくなり、線記録密度が上がるが、スペーシングロスの影響により、電磁変換特性(例えばSNR(Signal-to-Noise Ratio))が著しく悪化してしまう虞がある。したがって、記録容量を確保しながら、電磁変換特性(例えばSNR)の悪化を抑制するためには、上記のようにW/LがW/L≦35の範囲にあることが好ましい。W/Lの下限値は特に限定されるものではないが、例えば1≦W/Lである。
データトラック幅Wは以下のようにして求められる。データが全面に記録された磁気テープMTを準備し、その磁性層43のデータバンドDB部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は10μm×10μmとし、当該10μm×10μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの10μm×10μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られた3つのMFM像から、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて、トラック幅を10ヶ所測定し平均値(単純平均である)をとる。当該平均値が、データトラック幅Wである。なお、上記MFMの測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
磁化反転間距離の最小値Lは以下のようにして求められる。データが全面に記録された磁気テープMTを準備し、その磁性層43のデータバンドDB部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離Lの最小値とする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
サーボパターンは、磁化領域であって、磁気テープ製造時にサーボライトヘッドにより磁性層43の特定の領域を特定方向に磁化することによって形成される。サーボバンドSBのうち、サーボパターンが形成されていない領域(以下「非パターン領域」という。)は、磁性層43が磁化された磁化領域であってもよいし、磁性層43が磁化されていない非磁化領域であってもよい。非パターン領域が磁化領域である場合、サーボパターン形成領域と非パターン領域とは、異なる方向(例えば逆方向)に磁化されている。
LTO規格では、サーボバンドSBには、図7に示すように、磁気テープMTの幅方向に対して傾斜した複数のサーボストライプ(線状の磁化領域)113からなるサーボパターンが形成されている。
サーボバンドSBは、複数のサーボフレーム110を含んでいる。各サーボフレーム110は、18本のサーボストライプ113から構成されている。具体的には、各サーボフレーム110は、サーボサブフレーム1(111)およびサーボサブフレーム2(112)から構成される。
サーボサブフレーム1(111)は、Aバースト111AおよびBバースト111Bから構成される。Bバースト111Bは、Aバースト111Aに隣接して配置されている。Aバースト111Aは、磁気テープMTの幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された5本のサーボストライプ113を備えている。図7中では、これらの5本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOT(End Of Tape)からBOT(Beginning Of Tape)に向って符号A1、A2、A3、A4、A5を付して示している。Bバースト111Bは、Aバースト111Aと同様に、磁気テープMTの幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された5本のサーボストライプ113を備えている。図7中では、これらの5本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号B1、B2、B3、B4、B5を付して示している。Bバースト111Bのサーボストライプ113は、Aバースト111Aのサーボストライプ113とは逆向きに傾斜している。すなわち、Aバースト111Aのサーボストライプ113とBバースト111Bのサーボストライプ113はハの字状に配置されている。
サーボサブフレーム2(112)は、Cバースト112CおよびDバースト112Dから構成される。Dバースト112Dは、Cバースト112Cに隣接して配置されている。Cバースト112Cは、テープ幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された4本のサーボストライプ113を備えている。図7中では、これらの4本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号C1、C2、C3、C4を付して示している。Dバースト112Dは、Cバースト112Cと同様に、テープ幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された4本のサーボストライプ113を備えている。図7中では、これらの4本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号D1、D2、D3、D4を付して示している。Dバースト112Dのサーボストライプ113は、Cバースト112Cのサーボストライプ113とは逆向きに傾斜している。すなわち、Cバースト112Cのサーボストライプ113とDバースト112Dのサーボストライプ113はハの字状に配置されている。
Aバースト111A、Bバースト111B、Cバースト112C、Dバースト112Dにおけるサーボストライプ113の上記所定角度φは、例えば5°以上25°以下であり、特には11°以上25°以下でありうる。
サーボバンドSBを磁気ヘッド56で読み取りことにより、テープ速度および磁気ヘッドの縦方向の位置を取得するための情報が得られる。テープ速度は、4つのタイミング信号(A1-C1、A2-C2、A3-C3、A4-C4)間の時間から計算される。ヘッド位置は、前述の4つのタイミング信号間の時間および別の4つのタイミング信号(A1-B1、A2-B2、A3-B3、A4-B4)間の時間から計算される。
図7に示すように、サーボパターン(すなわち複数のサーボストライプ113)は、磁気テープMTの長手方向に向って直線的に配列されていることが好ましい。すなわち、サーボバンドSBは、長手方向に直線状を有していることが好ましい。
サーボパターンの配列の非直線性(サーボバンドSBの非直線性)を示す統計値σSWが、24nm以下、好ましくは23nm以下、より好ましくは20nm以下、さらにより好ましくは15nm以下である。統計値σSWが24nm以下であると、サーボパターンが磁気テープMTの幅方向に振れることを抑制することができる。すなわち、優れた直線性を有するサーボパターンの配列(サーボバンドSB)を得ることができる。このため、磁気テープMT上のデータが書かれている位置に適切に磁気ヘッド56をサーボパターン(サーボバンドSB)によりガイドすることができるので、優れた走行安定性を得ることができる。したがって、データの読み込み時のエラーの発生を抑制することができる。
サーボパターンの配列の非直線性(サーボバンドSBの非直線性)を示す統計値σSWは、走行安定性の向上の観点からすると、小さければ小さいほど好ましく、例えば0以上である。
サーボバンドの非直線性を示す統計値σSWは、磁気テープMTの磁性層43の表面に記録されたサーボパターンを読み取るための磁気ヘッドを備えているテープ走行装置(Tape Transportation(Mountain Engineering II, Inc.))を用いて測定される。当該磁気ヘッドは、市販入手可能なLTO8フルハイトドライブに採用されているものであってよい。当該磁気ヘッドは、当該テープ走行装置に固定された状態で用いられる。
当該テープ走行装置を用いて、磁気テープMTを、その磁性層43側の表面が当該磁気ヘッド表面上を摺動するように、2m/sで走行させる。当該磁気ヘッドの表面の読み取り素子を用いて、磁気テープMTのサーボパターンからサーボ信号の再生波形をデジタルオシロスコープを用いて読み出す。すなわち、磁気的なサーボパターンが電気的なサーボ信号に変換される。サーボ信号の再生波形を十分な精度で取得する為に、デジタルオシロスコープのサンプリングレートは1秒間に20,000,000個以上の速度で行うものとする。
1つのサーボバンドに記録されているサーボパターンを読み取るために、磁気テープMTの長手方向に並べて配置される2つの読み取り素子が用いられる。当該2つの読み取り素子は、LTO8フルハイトドライブに採用されている磁気ヘッドユニットに備えられているものである。当該2つの読み取り素子について、図8を参照しながら以下で説明する。
図8は、当該磁気ヘッドユニットの模式図である。図8に示されるヘッドユニット300は、磁気テープMTの長手方向に沿って並べて配置される3つのヘッド部300A、300B、および300Cを有する。ヘッド部300Aは、2つのサーボヘッド320A1および320A2並びに複数の記録ヘッド340を有する。ヘッド部300A中のエリプシス様の点は、記録ヘッド340が並んでいることを意味する。ヘッド部300Bは、2つのサーボヘッド320B1および320B2並びに複数の再生ヘッド350を有する。ヘッド部300B中のエリプシス様の点は、再生ヘッド350が並んでいることを意味する。ヘッド部300Cは、2つのサーボヘッド320C1および320C2並びに複数の記録ヘッド340を有する。ヘッド部300C中のエリプシス様の点は、記録ヘッド340が並んでいることを意味する。
上記統計値σSWを得るために用いられる上記2つの読み取り素子は、ヘッド部300Aに含まれるサーボヘッド320A1およびヘッド部300Bに含まれるサーボヘッド320B1のみである。他のサーボヘッドは用いられない。以下で、当該2つの読み取り素子のうち、巻き出し側の読み取り素子(サーボヘッド320A1)を読み取り素子aといい、巻取り側の読み取り素子(サーボヘッド320B1)を読み取り素子bともいう。
各読み取り素子によって得られたサーボ信号の再生波形をデジタルオシロスコープ等によって取得する。取得した其々のサーボ信号の再生波形に基づき、「サーボパターンの中心線と、サーボパターン上の読み取り素子の実通過位置との相対差p」を算出する。具体的には、得られたサーボ信号の再生波形の形状とサーボパターンそのものの形状とを用いて、相対差pが算出される。
相対差pの上記計算式について、図7を参照しながら以下で説明する。上記計算式中の上記差分(Ba1-Aa1)は、ストライプB1が読み取り素子aによって読み取られた時間とストライプA1が読み取り素子aによって読み取られた時間との間の差[sec]であり、ストライプA1に起因する信号ピークとストライプB1に起因する信号ピークとの間の間隔およびテープ走行速度(m/s)から求められる。当該2つの信号ピーク間の間隔は、上記得られたサーボ信号の再生波形の形状から求められる。上記差分(Ba1-Aa1)は、読み取り素子のサーボパターン上の実際の走行位置(図7におけるactual pass)における、両ストライプが読み取られるタイミングの差に相当する。同様に、他の差分の項も、対応する2つのストライプに起因する信号ピークの間隔とテープ走行速度とから求められる。また、読み取り素子bによって得られた信号ピークに基づき、同様に相対差pが算出される。
上記サーボパターンそのものの形状から、上記計算式中のアジマス角φが求められる。アジマス角φは、磁気テープMTをフェリコロイド現像液(株式会社シグマハイケミカル製、シグマ―カーQ)で現像し、万能工具顕微鏡(TOPCON TUM-220ES)およびデータ処理装置(TOPCON CA-1B)を用いて求められる。また、上記サーボパターンそのものの形状から、サーボバンドの中心(図7におけるcenter line)におけるストライプA1とストライプB1との距離(図7および上記計算式におけるX)およびストライプA1とストライプC1との距離(図7および上記計算式におけるY)が求められる。テープ長さ方向の任意の箇所において、50個のサーボフレームを選択し、各々のサーボフレームにおいてXおよびYを求め、50個のデータを単純平均したものを、上記計算式において用いるXおよびYとする。
相対差pが、磁気テープMTの長手方向に沿って、連続する1024個のサーボサブフレームについてそれぞれ算出される。すなわち、1024個の相対差pが取得される。例えばサーボサブフレームの間隔が76μmである場合は、76μm毎に相対差pが取得される。読み取り素子aにより読み取られたサーボ信号に基づき算出された1024個の相対差pを、pa0、pa1、・・・、およびpa1023という。読み取り素子bにより読み取られたサーボ信号に基づき算出された1024個の相対差pを、pb0、pb1、・・・、およびpb1023という。
当該磁気ヘッドに対する磁気テープMTの幅方向の動きによる影響を除去するために、各位置nにおけるpaとpbの差を演算し、Δpとする。すなわち、Δpn=pan-pbnである。ここで、n=0、1、・・・、および1023である。得られたΔpnに対し、離散FFT(フーリエ変換)を行い、ΔPn(n=0・・・1023)、すなわちΔP(f)(ここで、f=波数[cycle/m]である)を得る。ここで、ΔPnのDC成分(すなわちn=0)、換言すればΔP(∞)、を除去する為に、ΔP0を例えば10-100等、ほぼ0に近い数値に置換する。
また、ΔP(f)の単位が[nm2/Hz]となる様に上記FFTを行うものとする。
ΔP(f)を得るプロセスを、磁気テープMTの長手方向500m以上に渡って繰り返し、ΔP(f)1・・・ΔP(f)mを得る。測定ノイズを除去する為、ΔP(f)1・・・ΔP(f)mを周波数軸上で平均化し、ΔP(f)aveを得る。この後、上記の変位差の、実際のドライブ中での挙動WIP(f)を見積る為、ΔP(f)aveに対し、一般的な2次閉ループ応答のフィルターCLF(f)を作用させる。すなわち、WIP(f)=|CLF(f)|2×ΔP(f)aveである。CLF(f)については後述する。
上記WIP(f)を用い、下記式(1)の演算を行う事で、σ
SWを得る。下記演算におけるdfについても後述する。
一般的な2次閉ループ応答CLF(s)は、下式(2)で表すことができる。
双一次Z変換を用いることによって、CLF(z)は下式(3)で表すことができる。
z=e
jωTs、および、ω=2πfの関係から、CLF(f)は下式(4)で表すことができる。
以上の式中の各項の意味はそれぞれ以下の通りである。
磁性層43の平均厚みtmの上限値は、80nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下である。磁性層43の平均厚みtmの上限値が80nm以下であると、記録ヘッドとしてはリング型ヘッドを用いた場合に、反磁界の影響を軽減できるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
磁性層43の平均厚みtmの下限値は、好ましくは35nm以上である。磁性層43の平均厚みtmの下限値が35nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
磁性層43の平均厚みtmは以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気テープMTをFIB法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片化サンプルの上記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気テープMTの長手方向の少なくとも10点以上の位置で磁性層43の厚みを測定する。得られた測定値を単純に平均(算術平均)して得られた平均値を磁性層43の平均厚みtm[nm]とする。なお、上記測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
(磁性粉)
磁性粉は、複数の磁性粒子を含む。磁性粒子は、例えば、六方晶フェライトを含む粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)を含む粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)またはCo含有スピネルフェライトを含む粒子(以下「コバルトフェライト粒子」という。)である。磁性粉は、磁気テープMTの厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
(六方晶フェライト粒子)
六方晶フェライト粒子は、例えば、六角板状等の板状を有する。本明細書において、六角坂状は、ほぼ六角坂状を含むものとする。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、PbおよびCaのうちの少なくとも1種、より好ましくはBaおよびSrのうちの少なくとも1種を含む。六方晶フェライトは、具体的には例えばバリウムフェライトまたはストロンチウムフェライトであってもよい。バリウムフェライトは、Ba以外にSr、PbおよびCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外にBa、PbおよびCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe12O19で表される平均組成を有する。但し、Mは、例えばBa、Sr、PbおよびCaのうちの少なくとも1種の金属、好ましくはBaおよびSrのうちの少なくとも1種の金属である。Mが、Baと、Sr、PbおよびCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。また、Mが、Srと、Ba、PbおよびCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは30nm以下、より好ましくは12nm以上25nm以下、さらにより好ましくは15nm以上22nm以下、特に好ましくは15nm以上20nm以下、最も好ましくは15nm以上18nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズが30nm以下であると、高記録密度の磁気テープMTにおいて、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが12nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上2.5以下、より好ましくは1.0以上2.1以下、さらにより好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上2.5以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気テープMTをFIB法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。次に、撮影したTEM写真から、観察面の方向に側面を向けており、且つ、粒子の厚みが明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、図9A、図9BにTEM写真の例を示す。図9A、図9Bにおいて、例えば矢印aおよびdで示される粒子が、その厚みを明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの最大板厚DAを測定する。このようにして求めた最大板厚DAを単純に平均(算術平均)して平均最大板厚DAaveを求める。続いて、各磁性粉の板径DBを測定する。粒子の板径DBを測定するために、撮影したTEM写真から、粒子の板径が明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、図9A、図9Bにおいて、例えば矢印bおよびcで示される粒子が、その板径を明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの板径DBを測定する。このようにして求めた板径DBを単純平均(算術平均)して平均板径DBaveを求める。平均板径DBaveが、平均粒子サイズである。そして、平均最大板厚DAaveおよび平均板径DBaveから粒子の平均アスペクト比(DBave/DAave)を求める。
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5900nm3以下、より好ましくは500nm3以上3400nm3以下、さらにより好ましくは1000nm3以上2500nm3以下、特に好ましくは1000nm3以上1800nm3以下、最も好ましくは1000nm3以上1500nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が5900nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを30nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを12nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法に関して述べた通り、平均長軸長DA
aveおよび平均板径DB
aveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
(ε酸化鉄粒子)
ε酸化鉄粒子は、微粒子でも高保磁力を得ることができる硬磁性粒子である。ε酸化鉄粒子は、球状を有しているか、または立方体状を有している。本明細書において、球状は、ほぼ球状を含むものとする。また、立方体状には、ほぼ立方体状を含むものとする。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、磁気テープMTの厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、磁性粉の分散性を高め、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有する。具体的には、ε酸化鉄粒子は、コア部と、このコア部の周囲に設けられた2層構造のシェル部とを備える。2層構造のシェル部は、コア部上に設けられた第1シェル部と、第1シェル部上に設けられた第2シェル部とを備える。
コア部は、ε酸化鉄を含む。コア部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるものがより好ましい。
第1シェル部は、コア部の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部は、コア部の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部の周囲全体を覆っていてもよい。コア部と第1シェル部の交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部の表面全体を覆っていることが好ましい。
第1シェル部は、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金またはFe-Si-Al合金等の軟磁性体を含む。α-Feは、コア部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
第2シェル部は、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部は、α酸化鉄、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を含む。α酸化鉄は、例えばFe3O4、Fe2O3およびFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含む。第1シェル部がα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部に含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部を有することで、熱安定性を確保するためにコア部単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部を有することで、磁気テープMTの製造工程およびその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆び等が発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、磁気テープMTの特性劣化を抑制することができる。
ε酸化鉄粒子が単層構造のシェル部を有していてもよい。この場合、シェル部は、第1シェル部と同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制する観点からすると、上述したように、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有していることが好ましい。
ε酸化鉄粒子が、上記コアシェル構造に代えて添加剤を含んでいてもよいし、コアシェル構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。この場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaのうちの少なくとも1種である。
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-xMxO3結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaのうちの少なくとも1種である。xは、例えば0<x<1である。)である。
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、例えば22.5nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、好ましくは22nm以下、より好ましくは8nm以上22nm以下、さらにより好ましくは12nm以上22nm以下、特に好ましくは12nm以上15nm以下、最も好ましくは12nm以上14nm以下である。磁気テープMTでは、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子サイズが22nm以下であると、高記録密度の磁気テープMT(例えば44nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気テープMT)において、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気テープMTをFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護層としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粉の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5600nm3以下、より好ましくは250nm3以上5600nm3以下、さらにより好ましくは900nm3以上5600nm3以下、特に好ましくは900nm3以上1800nm3以下、最も好ましくは900nm3以上1500nm3以下である。一般的に磁気テープMTのノイズは粒子個数の平方根に反比例(すなわち粒子体積の平方根に比例)するため、粒子体積をより小さくすることで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子体積が5600nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを22nm以下とする場合と同様に、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子体積が250nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
ε酸化鉄粒子が球状を有している場合には、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave
3
ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合、磁性粉の平均体積は以下のようにして求められる。磁気テープMTをFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜およびタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。次に、撮影したTEM写真から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粉の平均体積Vave(粒子体積)を求める。
Vave=DCave
3
(コバルトフェライト粒子)
コバルトフェライト粒子は、一軸結晶異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト粒子が一軸結晶異方性を有することで、磁性粉を磁気テープMTの厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向させることができる。コバルトフェライト粒子は、例えば、立方体状を有している。本明細書において、立方体状は、ほぼ立方体状を含むものとする。Co含有スピネルフェライトが、Co以外にNi、Mn、Al、CuおよびZnのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
Co含有スピネルフェライトは、例えば以下の式で表される平均組成を有する。
CoxMyFe2OZ
(但し、式中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、CuおよびZnのうちの少なくとも1種の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x、yは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは8nm以上23nm以下、さらにより好ましくは8nm以上12nm以下、特に好ましくは8nm以上11nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズが25nm以下であると、高記録密度の磁気テープMTにおいて、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子サイズの算出方法は、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合における磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様である。
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。磁性粉の平均アスペクト比の算出方法は、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合における磁性粉の平均アスペクト比の算出方法と同様である。
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは15000nm3以下、より好ましくは500nm3以上12000nm3以下、特に好ましくは500nm3以上1800nm3以下、最も好ましくは500nm3以上1500nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が15000nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを25nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。磁性分の平均粒子体積の算出方法は、ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合の平均粒子体積の算出方法と同様である。
(結着剤)
結着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
上記の全ての結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SO3M、-OSO3M、-COOM、P=O(OM)2(但し、式中Mは水素原子またはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属を表す)や、-NR1R2、-NR1R2R3+X-で表される末端基を有する側鎖型アミン、>NR1R2+X-で表される主鎖型アミン(但し、式中R1、R2、R3は水素原子または炭化水素基を表し、X-はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。)、さらに-OH、-SH、-CN、エポキシ基等の極性官能基が導入されていてもよい。これら極性官能基の結着剤への導入量は、10-1~10-8モル/gであるのが好ましく、10-2~10-6モル/gであるのがより好ましい。
(潤滑剤)
潤滑剤は、例えば脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種、好ましくは脂肪酸および脂肪酸エステルの両方を含む。磁性層43が潤滑剤を含むことが、特には磁性層43が脂肪酸および脂肪酸エステルの両方を含むことが、磁気テープMTの走行安定性の向上に貢献する。より特には、磁性層43が潤滑剤を含み且つ細孔を有することによって、良好な走行安定性が達成される。当該走行安定性の向上は、磁気テープMTの磁性層43側表面の動摩擦係数が上記潤滑剤により、磁気テープMTの走行に適した値へ調整されるためと考えられる。
脂肪酸は、好ましくは下記の一般式(1)または(2)により示される化合物であってよい。例えば、脂肪酸として下記の一般式(1)により示される化合物および一般式(2)により示される化合物の一方が含まれていてよく、または両方が含まれていてもよい。
また、脂肪酸エステルは、好ましくは下記一般式(3)または(4)により示される化合物であってよい。例えば、脂肪酸エステルとして下記の一般式(3)により示される化合物および一般式(4)により示される化合物の一方が含まれていてよく、または両方が含まれていてもよい。
潤滑剤が、一般式(1)に示される化合物および一般式(2)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、一般式(3)に示される化合物および一般式(4)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、を含むことによって、磁気テープMTを繰り返しの記録または再生による動摩擦係数の増加を抑制することができる。
CH3(CH2)kCOOH ・・・(1)
(但し、一般式(1)において、kは14以上22以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)nCH=CH(CH2)mCOOH ・・・(2)
(但し、一般式(2)において、nとmとの和は12以上20以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)pCOO(CH2)qCH3 ・・・(3)
(但し、一般式(3)において、pは14以上22以下、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数であり、且つ、qは2以上5以下の範囲、より好ましくは2以上4以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)rCOO-(CH2)sCH(CH3)2 ・・・(4)
(但し、一般式(4)において、rは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、sは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、例えば、カーボンブラック、天然界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。
(研磨剤)
研磨剤としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカ-バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデン、磁性酸化鉄の原料を脱水、アニール処理した針状α酸化鉄、必要によりそれらをアルミおよび/またはシリカで表面処理したもの等が挙げられる。
(硬化剤)
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)と活性水素化合物との付加体等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と活性水素化合物との付加体等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートの重量平均分子量は、100~3000の範囲であることが望ましい。
(防錆剤)
防錆剤としては、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
(非磁性補強粒子)
非磁性補強粒子として、例えば、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等が挙げられる。
(下地層)
下地層42は、基体41の表面の凹凸を緩和し、磁性層43の表面の凹凸を調整するためのものである。下地層42は、非磁性粉、結着剤および潤滑剤を含む非磁性層である。下地層42は、磁性層43の表面に潤滑剤を供給する。下地層42が、必要に応じて、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
下地層42の平均厚みは、好ましくは0.3μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.4μm以下である。なお、下地層42の平均厚みは、磁性層43の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層42の厚みに応じて適宜調整される。下地層42の平均厚みが2.0μm以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。
下地層42は、多数の孔部を有していることが好ましい。これらの多数の孔部に潤滑剤が蓄えられることで、繰り返し記録または再生を行った後にも(すなわち磁気ヘッド56を磁気テープMTの表面に接触させて繰り返し走行を行った後にも)、磁性層43の表面と磁気ヘッドの間に対する潤滑剤の供給量の低下をさらに抑制することができる。したがって、動摩擦係数の増加をさらに抑制することができる。すなわち、さらに優れた走行安定性を得ることができる。
繰り返し記録または再生後における動摩擦係数の低下を抑制する観点からすると、下地層42の孔部と磁性層43の孔部43Aとがつながっていることが好ましい。ここで、下地層42の孔部と磁性層43の孔部43Aとがつながっているとは、下地層42の多数の孔部のうちの一部のものと、磁性層43の多数の孔部43Aのうちの一部のものとがつながっている状態を含むものとする。
磁性層43の表面に対する潤滑剤の供給性を向上する観点からすると、多数の孔部は、磁性層43の表面に対して垂直方向に延設されているものを含んでいることが好ましい。また、磁性層43の表面に対する潤滑剤の供給性を向上する観点からすると、磁性層43の表面に対して垂直方向に延設された下地層42の孔部と、磁性層43の表面に対して垂直方向に延設された磁性層43の孔部43Aとがつながっていることが好ましい。
(非磁性粉)
非磁性粉は、例えば無機粒子粉または有機粒子粉の少なくとも1種を含む。また、非磁性粉は、カーボンブラック等の炭素粉を含んでいてもよい。なお、1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。
(結着剤、潤滑剤)
結着剤および潤滑剤は、上述の磁性層43と同様である。
(添加剤)
帯電防止剤、硬化剤および防錆剤はそれぞれ、上述の磁性層43と同様である。
(バック層)
バック層44は、結着剤および非磁性粉を含む。バック層44が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。結着剤および非磁性粉は、上述の下地層42と同様である。
非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有する非磁性粉を含んでいてもよい。
バック層44の平均厚みの上限値は、好ましくは0.6μm以下である。バック層44の平均厚みの上限値が0.6μm以下であると、磁気テープMTの平均厚みが5.6μm以下である場合でも、下地層42や基体41の厚みを厚く保つことができるので、磁気テープMTの記録再生装置50内での走行安定性を保つことができる。バック層44の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.2μm以上である。
バック層44の平均厚みtbは以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTの平均厚みtTを測定する。平均厚みtTの測定方法は、以下の「磁気テープの平均厚み」に記載されている通りである。続いて、サンプルのバック層44をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、Mitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値tB[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層44の平均厚みtb[μm]を求める。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
tb[μm]=tT[μm]-tB[μm]
バック層44は、多数の突部44Aが設けられた表面を有している。多数の突部44Aは、磁気テープMTをロール状に巻き取った状態において、磁性層43の表面に多数の孔部43Aを形成するためのものである。多数の孔部43Aは、例えば、バック層44の表面から突出された多数の非磁性粒子により構成されている。
(磁気テープの平均厚み)
磁気テープMTの平均厚み(平均全厚)tTの上限値が、5.6μm以下、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.6μm以下、さらにより好ましくは4.4μm以下である。磁気テープMTの平均厚みtTが5.6μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気テープよりも高めることができる。磁気テープMTの平均厚みtTの下限値は特に限定されるものではないが、例えば3.5μm以上である。
磁気テープMTの平均厚みtTは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気テープMTを準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値tT[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
(保磁力Hc)
磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の上限値が、好ましくは2000Oe以下、より好ましくは1900Oe以下、さらにより好ましくは1800Oe以下である。長手方向における磁性層43の保磁力Hc2が2000Oe以下であると、高記録密度であっても十分な電磁変換特性を有することができる。
磁気テープMTの長手方向に測定した磁性層43の保磁力Hc2の下限値が、好ましくは1000Oe以上である。長手方向に測定した磁性層43の保磁力Hc2が1000Oe以上であると、記録ヘッドからの漏れ磁束による減磁を抑制することができる。
上記の保磁力Hc2は以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTが両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気テープMTの長手方向(走行方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMT全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトンまたはエタノール等が用いられて塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)が払拭され、基体41のみが残される。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体41の垂直方向(磁気テープMTの垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体41)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体41)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体41)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから保磁力Hc2が求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの長手方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
(角形比)
磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)における磁性層43の角形比S1が、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上である。角形比S1が65%以上であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
垂直方向における角形比S1は以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTが両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、VSMを用いて磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトンまたはエタノール等が用いられて塗膜(下地層12、磁性層43およびバック層44等)が払拭され、基体41のみが残される。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)とされる。その後、VSMを用いて基体41の垂直方向(磁気テープMTの垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体41)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体41)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体41)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループの飽和磁化Ms(emu)および残留磁化Mr(emu)が以下の式に代入されて、角形比S1(%)が計算される。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
角形比S1(%)=(Mr/Ms)×100
磁気テープMTの長手方向(走行方向)における磁性層43の角形比S2が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下である。角形比S2が35%以下であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
長手方向における角形比S2は、M-Hループを磁気テープMTおよび基体41の長手方向(走行方向)に測定すること以外は角形比S1と同様にして求められる。
(Hc2/Hc1)
垂直方向における磁性層43の保磁力Hc1と、長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の比Hc2/Hc1が、Hc2/Hc1≦0.8、好ましくはHc2/Hc1≦0.75、より好ましくはHc2/Hc1≦0.7、さらにより好ましくはHc2/Hc1≦0.65、特に好ましくはHc2/Hc1≦0.6の関係を満たす。保磁力Hc1、Hc2がHc2/Hc1≦0.8の関係を満たすことで、磁性粉の垂直配向度を高めることができる。したがって、磁化遷移幅を低減し、かつ信号再生時に高出力の信号を得ることができるので、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。なお、上述したように、Hc2が小さいと、記録ヘッドからの垂直方向の磁界により感度良く磁化が反応するため、良好な記録パターンを形成することができる。
比Hc2/Hc1がHc2/Hc1≦0.8である場合、磁性層43の平均厚みが90nm以下であることが特に有効である。磁性層43の平均厚みが90nmを超えると、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層43の下部領域(下地層42側の領域)が長手方向に磁化されてしまい、磁性層43を厚み方向に均一に磁化することができなくなる虞がある。したがって、比Hc2/Hc1をHc2/Hc1≦0.8としても(すなわち、磁性粉の垂直配向度を高めても)、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得られなくなる虞がある。
Hc2/Hc1の下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.5≦Hc2/Hc1である。なお、Hc2/Hc1は磁性粉の垂直配向度を表しており、Hc2/Hc1が小さいほど磁性粉の垂直配向度が高くなる。
長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の算出方法は、上述した通りである。垂直方向における磁性層43の保磁力Hc1は、M-Hループを磁気テープMTおよび基体41の垂直方向(厚み方向)に測定すること以外は長手方向における磁性層43の保磁力Hc2と同様にして求められる。
(活性化体積Vact)
活性化体積Vactが、好ましくは8000nm3以下、より好ましくは6000nm3以下、さらにより好ましくは5000nm3以下、特に好ましくは4000nm3以下、最も好ましくは3000nm3以下である。活性化体積Vactが8000nm3以下であると、磁性粉の分散状態が良好になるため、ビット反転領域を急峻にすることができ、記録ヘッドからの漏れ磁界により、隣接するトラックに記録された磁化信号が劣化することを抑制できる。したがって、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)が得られなくなる虞がある。
上記の活性化体積Vactは、Street&Woolleyにより導出された下記の式により求められる。
Vact(nm3)=kB×T×Χirr/(μ0×Ms×S)
(但し、kB:ボルツマン定数(1.38×10-23J/K)、T:温度(K)、Χirr:非可逆磁化率、μ0:真空の透磁率、S:磁気粘性係数、Ms:飽和磁化(emu/cm3))
上記式に代入される非可逆磁化率Χirr、飽和磁化Msおよび磁気粘性係数Sは、VSMを用いて以下のようにして求められる。なお、VSMによる測定方向は、磁気テープMTの厚み方向(垂直方向)とする。また、VSMによる測定は、長尺状の磁気テープMTから切り出された測定サンプルに対して25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの厚み方向(垂直方向)に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
(非可逆磁化率Χirr)
非可逆磁化率Χirrは、残留磁化曲線(DCD曲線)の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近における傾きと定義される。まず、磁気テープMT全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に約15.9kA/m(200Oe)の磁界を印加し再びゼロに戻し残留磁化量を測定する。その後も同様に、先ほどの印加磁界よりもさらに15.9kA/m大きい磁界を印加しゼロに戻す測定を繰り返し行い、印加磁界に対して残留磁化量をプロットしDCD曲線を測定する。得られたDCD曲線から、磁化量ゼロとなる点を残留保磁力Hrとし、さらにDCD曲線を微分し、各磁界におけるDCD曲線の傾きを求める。このDCD曲線の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近の傾きがΧirrとなる。
(飽和磁化Ms)
まず、上記の角形比S1の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループの飽和磁化Ms(emu)の値と、測定サンプル中の磁性層43の体積(cm3)から、Ms(emu/cm3)を算出する。なお、磁性層43の体積は測定サンプルの面積に磁性層43の平均厚みを乗ずることにより求められる。磁性層43の体積の算出に必要な磁性層43の平均厚みの算出方法は、上述した通りである。
(磁気粘性係数S)
まず、磁気テープMT(測定サンプル)全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に、DCD曲線より得られた残留保磁力Hrの値と同等の磁界を印加する。磁界を印加した状態で1000秒間、磁化量を一定の時間間隔で継続的に測定する。このようにして得られた、時間tと磁化量M(t)の関係を以下の式に照らし合わせて、磁気粘性係数Sを算出する。
M(t)=M0+S×ln(t)
(但し、M(t):時間tの磁化量、M0:初期の磁化量、S:磁気粘性係数、ln(t):時間の自然対数)
(バック面の表面粗度Rb)
バック面の表面粗度(バック層44の表面粗度)Rbが、Rb≦6.0[nm]であることが好ましい。バック面の表面粗度Rbが上記範囲であると、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
バック面の表面粗度R
bは以下のようにして求められる。まず、12.65mm幅の磁気テープMTを準備し、それを100mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、サンプルの被測定面(磁性層側の表面)が上になるようにスライドグラスに乗せ、サンプルの端部をメンディングテープで固定する。測定装置としてVertScan(対物レンズ50倍)を用いて表面形状を測定し、ISO 25178の規格に基づいて以下の式からバック面の表面粗度R
bを求める。
装置:光干渉を用いた非接触粗度計
(株式会社菱化システム製 非接触表面・層断面形状計測システム VertScan R5500GL-M100-AC)
対物レンズ:20倍
測定領域:640×480ピクセル(視野:約237μm×178μm視野)
測定モード:phase
波長フィルター:520nm
CCD:1/3レンズ
ノイズ除去フィルター:スムージング3×3
面補正:2次多項式近似面にて補正
測定ソフトウエア:VS-Measure Version5.5.2
解析ソフトウエア:VS-viewer Version5.5.5
上述のようにして、長手方向で少なくとも5点以上の位置にて面粗度を測定したのち、
各位置で得られた表面プロファイルから自動計算されたそれぞれの算術平均粗さS
a(nm)の平均値をバック面の表面粗度R
b(nm)とする。
(磁気テープの長手方向のヤング率)
磁気テープMTの長手方向のヤング率は、好ましくは8.0GPa以下、より好ましくは7.9GPa以下、さらにより好ましくは7.5GPa以下、特に好ましくは7.1GPa以下である。磁気テープMTの長手方向のヤング率が8.0GPa以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。したがって、オフトラックをさらに適切に抑制することができ、磁気テープMTに記録されたデータをさらに正確に再生することが可能となる。
磁気テープMTの長手方向のヤング率は、外力による磁気テープMTの長手方向における伸縮のし難さを示す値であり、この値が大きいほど外力により磁気テープMTは長手方向に伸縮し難く、この値が小さいほど外力により磁気テープMTは長手方向に伸縮しやすい。
なお、磁気テープMTの長手方向のヤング率は、磁気テープMTの長手方向に関する値であるが、磁気テープMTの幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、磁気テープMTの長手方向のヤング率は、小さい方が有利である。
ヤング率の測定には引っ張り試験機(島津製作所製、AG-100D)を用いる。テープ長手方向のヤング率を測定したい場合は、テープを180mmの長さにカットして測定サンプルを準備する。上記引っ張り試験機にテープの幅(1/2インチ)を固定できる冶具を取り付け、テープ幅の上下を固定する。距離(チャック間のテープの長さ)は100mmにする。テープサンプルをチャック後、サンプルを引っ張る方向に応力を徐々にかけていく。引っ張り速度は0.1mm/minとする。この時の応力の変化と伸び量から、以下の式を用いてヤング率を計算する。
E(N/m2)=((ΔN/S)/(Δx/L))×106
ΔN:応力の変化(N)
S:試験片の断面積(mm2)
Δx:伸び量(mm)
L:つかみ治具間距離(mm)
応力の範囲としては0.5Nから1.0Nとし、この時の応力変化(ΔN)と伸び量(Δx)を計算に使用する。
(基体の長手方向のヤング率)
基体41の長手方向のヤング率は、好ましくは7.5GPa以下、より好ましくは7.4GPa以下、さらにより好ましくは7.0GPa以下、特に好ましくは6.6GPa以下である。基体41の長手方向のヤング率が7.5GPa以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。したがって、オフトラックをさらに適切に抑制することができ、磁気テープMTに記録されたデータをさらに正確に再生することが可能となる。
上記の基体41の長手方向のヤング率は、次のようにして求められる。まず、磁気テープMTから下地層42、磁性層43およびバック層44を除去し、基体41を得る。この基体41を用いて、上記の磁気テープMTの長手方向のヤング率と同様の手順で基体41の長手方向のヤング率を求める。
基体41の厚さは、磁気テープMTの全体の厚さの半分以上を占めている。したがって、基体41の長手方向のヤング率は、外力による磁気テープMTの伸縮し難さと相関があり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。
なお、基体41の長手方向のヤング率は、磁気テープMTの長手方向に関する値であるが、磁気テープMTの幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、基体41の長手方向のヤング率は、小さい方が有利である。
(動摩擦係数)
磁気テープMTに加わる張力が1.2Nであるときの磁性層43の表面と磁気ヘッド56の間の動摩擦係数μAと、磁気テープMTに加わる張力が0.4Nであるときの磁性層43の表面と磁気ヘッド56の間の動摩擦係数μBとの摩擦係数比(μB/μA)が、好ましくは1.0以上2.0以下、より好ましくは1.0以上1.5以下である。摩擦係数比(μB/μA)が1.0以上で2.0以下であると、走行時の張力変動による動摩擦係数の変化を小さくできるため、磁気テープMTの走行時に磁気テープMTのテンション調整を行った場合にも、優れた走行安定性を得ることができる。
摩擦係数比(μB/μA)を算出するための動摩擦係数μAおよび動摩擦係数μBは以下の通りにして求められる。先ず、図10Aに示すように、1/2インチ幅の磁気テープMTを、互いに離間して平行に配置された1インチ径の円柱状の2本のガイドロール73Aおよび73Bに磁性面が接触するように載せる。2本のガイドロール73Aおよび73Bは、硬い板状部材76に固定されており、これにより互いの位置関係が固定されている。
次いで、LTO5ドライブに搭載されているヘッドブロック(記録再生用)74に対し、磁気テープMTを、磁性面が接触するように且つ抱き角θ1(°)=5.6°となるように接触させる。ヘッドブロック74は、ガイドロール73Aおよび73Bの略中心に配置される。ヘッドブロック74は、抱き角θ1を変更することができるように、板状部材76に移動可能に取り付けられているが、抱き角θ1(°)が5.6°となったらその位置が板状部材76に対して固定され、これにより、ガイドロール73Aおよび73Bとヘッドブロック74との位置関係も固定される。
磁気テープMTの一端を、ジグ72を介して可動式ストレインゲージ71と繋ぐ。磁気テープMTは、図10Bに示されるとおりにジグ72に固定される。磁気テープMTの他端に錘75を繋ぐ。錘75によって、0.4Nのテンション(T0[N])が磁気テープMTの長手方向に付与される。可動式ストレインゲージ71は、台77上に固定されている。台77と板状部材76の位置関係も固定されており、これにより、ガイドロール73Aおよび73B、ヘッドブロック74、および可動式ストレインゲージ71の位置関係が固定されている。
可動式ストレインゲージ71によって、磁気テープMTが10mm/sにて可動式ストレインゲージ71へ向かうように、磁気テープMTをヘッドブロック74上を60mm摺動させる。当該摺動時の可動式ストレインゲージ71の出力値(電圧)を、事前に取得されている出力値と荷重との直線関係(後述する)に基づき、T[N]に変換する。上記60mmの摺動の摺動開始から摺動停止までの間に、13回T[N]を取得し、最初と最後の計2回を除いた11個のT[N]を単純平均することによって、Tave[N]が得られる。
上記直線関係は以下の通りに得られる。すなわち、可動式ストレインゲージ71に0.4Nの荷重をかけた場合と1.5Nの荷重をかけた場合のそれぞれについて、可動式ストレインゲージ71の出力値(電圧)を得る。得られた2つの出力値と上記2つの荷重とから、出力値と荷重との直線関係が得られる。当該直線関係を用いて、上記のとおり、摺動時の可動式ストレインゲージ71による出力値(電圧)がT[N]に変換される。
動摩擦係数μBは、上記他端に付与されるテンションT0[N]を1.2Nとすること以外は動摩擦係数μAの測定方法と同じ方法で測定される。
以上のとおりにして測定された動摩擦係数μAおよび動摩擦係数μBから、摩擦係数比(μB/μA)が算出される。
磁気テープMTに加わる張力が0.6Nであるときの磁性層43の表面と磁気ヘッド56の間の動摩擦係数をμCとした場合、走行5回目の動摩擦係数μC(5)と走行1000回目の動摩擦係数μC(1000)との摩擦係数比(μC(1000)/μC(5))が、好ましくは1.0以上2.0以下、より好ましくは1.0以上1.5以下である。摩擦係数比(μC(1000)/μC(5))が1.0以上で2.0以下であると、1000回走行後による動摩擦係数の変化を小さくできるため、1000回走行後においても、優れた走行安定性を得ることができる。ここで、磁気ヘッド56としては磁気テープMTに対応したドライブのものを用いるものとする。
摩擦係数比(μ
C(1000)/μ
C(5))を算出するための動摩擦係数μ
C(5)および動摩擦係数μ
C(1000)は以下の通りにして求められる。磁気テープMTの上記他端に付与されるテンションT
0[N]を0.6Nとすること以外は動摩擦係数μ
Aの測定方法と同じようにして、磁気テープMTを可動式ストレインゲージ71と繋ぐ。そして、磁気テープMTを、ヘッドブロック74に対して10mm/sにて可動式ストレインゲージへ向かって60mm摺動させ(往路)および可動式ストレインゲージから離れるように60mm摺動させる(復路)。この往復動作を1000回繰り返す。この1000回の往復動作のうち、5回目の往路の60mmの摺動の摺動開始から摺動停止までの間に、ストレインゲージの出力値(電圧)を13回取得し、動摩擦係数μ
Aで求めた出力値と荷重との直線関係(後述する)に基づき、T[N]に変換する。最初と最後の計2回を除いた11個を単純平均することによりT
ave[N]を求める。以下の式により、動摩擦係数μ
C(5)を求める。
上記直線関係は以下のとおりに得られる。すなわち、可動式ストレインゲージ71に0.4Nの荷重をかけた場合と1.5Nの荷重をかけた場合のそれぞれについて、可動式ストレインゲージ71の出力値(電圧)を得る。得られた2つの出力値と上記2つの荷重とから、出力値と荷重との直線関係が得られる。当該直線関係を用いて、上記のとおり、摺動時の可動式ストレインゲージ71による出力値(電圧)がT[N]に変換される。
さらに、動摩擦係数μC(1000)は、1000回目の往路の測定をすること以外は動摩擦係数μC(5)と同様にして求める。
以上のとおりにして測定された動摩擦係数μC(5)および動摩擦係数μC(1000)から、摩擦係数比μC(1000)/μC(5)が算出される。
[サーボライタの構成]
次に、図11、図12A、図12Bを参照して、上述のサーボパターンの書き込みに用いるサーボライタ210の構成の一例について説明する。
サーボライタ210は、サーボ信号書込ヘッド219以外は、国際公開第2019/093469号公報に記載されるサーボライタ(特には同文献の図1を参照して説明されたサーボライタ)と同様の構成を有する。サーボ信号書込ヘッド219としては、特開2006-127730号公報に記載されたサーボ信号書込ヘッド(特には同文献の図26を参照して説明されたサーボ信号書込ヘッド)が用いられる。
サーボトラックライタ210は、図11に示すように、送出リール211と、巻取リール212と、キャプスタン213A、214Aと、ピンチローラ213B、214Bと、ガイドローラ215A、215Bと、研磨部216と、ダスティング部217と、テンション調整部218と、サーボ信号書込ヘッド219と、サーボ信号読取ヘッド220と、プリアンプ221と、制御装置222と、パルス発生回路223と、駆動装置224とを備える。このサーボトラックライタ210は、長尺の磁気テープMTのサーボバンドにサーボ信号を書き込むための装置である。テンション調整部218は、テンションアーム218Aと、一対の支持部218Bとを備える。
サーボ信号書込ヘッド219は、図12Aに示すように、ヘッドチップ232を有し、このヘッドチップ232の上面に、リニア型磁気テープ(図示せず)に対する摺動面234を有し、この摺動面234内に、少なくとも、一部がサーボ信号記録用とされた記録用素子からなる磁気ヘッド部235と、周囲が閉じられた有底キャビティ236とが形成される。
サーボ信号書込ヘッド219の摺動面234は、図12Bに示すように、少なくとも一部がフラット面とされ、この摺動面234に対向配置されるリニア型磁気テープ(図示せず)は、走行時には、磁気ヘッド摺動面234のエッジ部によって近傍の空気をかき取られ、更に有底キャビティ236において減圧されることにより、摺動面234とのスペーシングがより小とされる。
サーボトラックライタ210に搭載されているキャビティを有するサーボ信号書込ヘッド219と同ヘッドに隣接するガイドローラ215Aおよび215Bの距離を調整し、且つ、サーボ信号書込ヘッド219へのテープ侵入角度を調整することによって、サーボパターンを記録する際のサーボ信号書込ヘッド219と磁気テープMTとの間の摩擦を調整することが可能である。このように摩擦を調整することで、磁気テープMTのσswを調整することが可能である。サーボパターンを記録する際のサーボ信号書込ヘッド219と磁気テープMTとの間の摩擦を低くするほど、σSWは低下する傾向にある。
[磁気テープの製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気テープMTの製造方法の一例について説明する。
(塗料の調製工程)
まず、非磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
(塗布工程)
次に、下地層形成用塗料を基体41の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層42を形成する。続いて、この下地層42上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層43を下地層42上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体41の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体41の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体41の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このように長手方向に磁性粉を一旦配向させる処理を施すことで、磁性粉の垂直配向度(すなわち角形比S1)をさらに向上することができる。磁性層43の形成後、基体41の他方の主面にバック層44を形成する。これにより、磁気テープMTが得られる。
角形比S1、S2は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度、磁性層形成用塗料中における固形分の濃度、磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより所望の値に設定される。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粉の保磁力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。角形比S1をさらに高めるためには(すなわち角形比S2をさらに低めるためには)、磁性層形成用塗料中における磁性粉の分散状態を向上させることが好ましい。また、角形比S1をさらに高めるためには、磁性粉を磁場配向させるための配向装置に磁性層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粉を磁化させておくことも有効である。なお、上記の角形比S1、S2の調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合わされて使用されてもよい。
(カレンダー工程、転写工程)
その後、得られた磁気テープMTにカレンダー処理を行い、磁性層43の表面を平滑化する。次に、カレンダー処理が施された磁気テープMTをロール状に巻き取ったのち、この状態で磁気テープMTに加熱処理を行うことにより、バック層44の表面の多数の突部44Aを磁性層43の表面に転写する。これにより、磁性層43の表面に多数の孔部43Aが形成される。
加熱処理の温度は、55℃以上75℃以下であることが好ましい。加熱処理の温度が55℃以上であると、良好な転写性を得ることができる。一方、加熱処理の温度が75℃を超えると、細孔量が多くなりすぎ、磁性層43の表面の潤滑剤が過多になってしまう虞がある。ここで、加熱処理の温度は、磁気テープMTを保持する雰囲気の温度である。
加熱処理の時間は、15時間以上40時間以下であることが好ましい。加熱処理の時間が15時間以上であると、良好な転写性を得ることができる。一方、加熱処理の時間が40時間以下であると、生産性の低下を抑制することができる。
(裁断工程)
最後に、磁気テープMTを所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上により、磁気テープMTが得られる。
(サーボパターンの書き込み工程)
上述のサーボライタ210によって、磁気テープMTにサーボパターンを書き込む。この際、上述のようにして、サーボパターンを書き込む際のサーボ信号書込ヘッド119と磁気テープMTとの間の摩擦を調整することにより、磁気テープMTの統計値σswを24nm以下に調整することが可能である。
[記録再生装置の構成]
記録再生装置50は、上述の構成を有する磁気テープMTの記録および再生を行う。記録再生装置50は、磁気テープMTの長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有している。また、記録再生装置50は、カートリッジ10を装填可能な構成を有している。ここでは、説明を容易とするために、記録再生装置50が、1つのカートリッジ10を装填可能な構成を有している場合について説明するが、記録再生装置50が、複数のカートリッジ10を装填可能な構成を有していてもよい。
記録再生装置50は、ネットワーク60を介してサーバ61およびパーソナルコンピュータ(以下「PC」という。)62等の情報処理装置に接続されており、これらの情報処理装置から供給されたデータをカートリッジ10に記録可能に構成されている。また、これらの情報処理装置からの要求に応じて、カートリッジ10からデータを再生し、これらの情報処理装置に供給可能に構成されている。記録再生装置50の最短記録波長は、好ましくは96nm以下、より好ましくは88nm以下、さらにより好ましくは80nm以下である。
記録再生装置50は、図1に示すように、スピンドル51と、記録再生装置50側のリール52と、スピンドル駆動装置53と、リール駆動装置54と、複数のガイドローラ55と、磁気ヘッド(ヘッドユニット)56と、通信部としてのリーダライタ57と、通信インターフェース(以下、I/F)58と、制御装置59とを備えている。
スピンドル51は、カートリッジ10を装着可能に構成されている。磁気テープMTには、サーボ信号としてハの字状のサーボパターンが予め記録されている。リール52は、テープローディング機構(図示せず)を介してカートリッジ10から引き出された磁気テープMTの先端(リーダーピン20)を固定可能に構成される。
スピンドル駆動装置53は、制御装置59からの命令に応じて、スピンドル51を回転させる。リール駆動装置54は、制御装置59からの命令に応じて、リール52を回転させる。複数のガイドローラ55は、カートリッジ10とリール52との間に形成されるテープパスが磁気ヘッド56に対して所定の相対位置関係となるように磁気テープMTの走行をガイドする。
磁気テープMTに対してデータの記録が行われる際、または磁気テープMTからデータの再生が行われる際には、スピンドル駆動装置53およびリール駆動装置54により、スピンドル51およびリール52が回転駆動され、磁気テープMTが走行する。磁気テープMTの走行方向は、順方向(カートリッジ10側からリール52側に流れる方向)および逆方向(リール52側からカートリッジ10側へ流れる方向)での往復が可能とされている。
本実施形態では、スピンドル駆動装置53によるスピンドル51の回転の制御、およびリール駆動装置54によるリール52の回転の制御により、データ記録時またはデータ再生時における磁気テープMTの長手方向のテンションが調整可能とされる。なお、磁気テープMTのテンション調整は、スピンドル51およびリール52の回転の制御に代えて、またはこの制御に加えて、ガイドローラ55の移動の制御により行われてもよい。
リーダライタ57は、制御装置59からの命令に応じて、カートリッジメモリ11に対して第1の情報および第2の情報を書き込むことが可能に構成されている。また、リーダライタ57は、制御装置59からの命令に応じて、カートリッジメモリ11から第1の情報および第2の情報を読み出すことが可能に構成されている。リーダライタ57とカートリッジメモリ11との間の通信方式としては、例えば、ISO14443方式が採用される。第2の情報は、テンション調整情報を含む。テンション調整情報は、データ記録時情報の一例である。
制御装置59は、例えば、制御部、記憶部、通信部等を含む。制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等により構成されており、記憶部に記憶されたプログラムに従い、記録再生装置50の各部を制御する。例えば、制御装置59は、サーバ61およびPC62等の情報処理装置の要求に応じて、情報処理装置から供給されるデータ信号を磁気ヘッド56により磁気テープMTに記録する。また、制御装置59は、サーバ61およびPC62等の情報処理装置の要求に応じて、磁気ヘッド56により、磁気テープMTに記録されたデータ信号を再生し、情報処理装置に供給する。
記憶部は、各種のデータや各種のプログラムが記録される不揮発性のメモリと、制御部の作業領域として用いられる揮発性のメモリとを含む。上記各種のプログラムは、光ディスク等の可搬性の記録媒体または半導体メモリ等の可搬性の記憶装置から読み取られてもよいし、ネットワーク上のサーバ装置からダウンロードされてもよい。
制御装置59は、磁気テープMTに対するデータの記録時または磁気テープMTからデータの再生時に、磁気ヘッド56により、隣接する2本のサーボバンドSBに記録されたサーボ信号を読み取る。制御装置59は、2本のサーボバンドSBから読み取られるサーボ信号を用いて、磁気ヘッド56がサーボパターンを追従するように、磁気ヘッド56の位置を制御する。
制御装置59は、磁気テープMTに対するデータの記録時に、隣接する2本のサーボバンドSBから読み取られるサーボ信号の再生波形から、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離(磁気テープMTの幅方向における距離)d1を求める。そして、求めた距離をリーダライタ57によりメモリ36に書き込む。
制御装置59は、磁気テープMTからのデータの再生時に、隣接する2本のサーボバンドSBから読み取られるサーボ信号の再生波形から、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離(磁気テープMTの幅方向における距離)d2を求める。それと共に、制御装置59は、リーダライタ57によりメモリ36から、磁気テープMTに対するデータの記録時に求めた、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離d1を読み出す。制御装置59は、磁気テープMTに対するデータの記録時に求めたサーボバンドSB間の距離d1と、磁気テープMTからのデータの再生時に求めたサーボバンドSB間の距離d2との差分Δdが規定の範囲内になるように、スピンドル駆動装置53およびリール駆動装置54の回転を制御し、磁気テープMTの長手方向にかかるテンションを調整する。このテンション調整の制御は、例えばフィードバック制御により行われる。
磁気ヘッド56は、制御装置59からの指令に応じて、磁気テープMTに対してデータを記録することが可能に構成されている。また、磁気ヘッド56は、制御装置59からの指令に応じて、磁気テープMTに記録されたデータを再生することが可能に構成されている。磁気ヘッド56は、例えば、2つのサーボリードヘッド56A、56Bおよび複数のデータライト/リードヘッド等を有している。
サーボリードヘッド56A、56Bは、磁気テープMTに記録されたサーボ信号から発生する磁界をMR素子(MR:Magneto Resistive)等により読み取ることで、サーボ信号を再生可能に構成されている。2つのサーボリードヘッド56A、56Bの幅方向の間隔は、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離と略同じとされている。
データライト/リードヘッドは、2つのサーボリードヘッド56A、56Bに挟み込まれる位置に、一方のサーボリードヘッド56A、56Bから他方のサーボリードヘッド56A、56Bに向かう方向に沿って等間隔に配置されている。データライト/リードヘッドは、磁気ギャップから発生する磁界によって、磁気テープMTに対してデータを記録することが可能に構成されている。また、データライト/リードヘッドは、磁気テープMTに記録されたデータから発生する磁界をMR素子等により読み取ることで、データを再生可能に構成されている。
通信I/F58は、サーバ61およびPC62等の情報処理装置と通信するためのものであり、ネットワーク60に対して接続される。
[データ記録時における記録再生装置の動作]
以下、図13を参照して、データ記録時における記録再生装置50の動作の一例について説明する。
まず、制御装置59は、記録再生装置50にカートリッジ10をローディングする(ステップS11)。次に、制御装置59は、スピンドル51およびリール52の回転を制御し、磁気テープMTの長手方向に規定のテンションをかけながら磁気テープMTを走行させる。そして、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56Bによりサーボ信号を読み取ると共に、磁気ヘッド56のデータライト/リードヘッドにより磁気テープMTに対してデータを記録する(ステップS12)。
このとき、磁気ヘッド56は、磁気ヘッド56の2つのサーボリードヘッド56A、56Bにより隣接する2本のサーボバンドSBをトレースしながら、磁気ヘッド56のデータライト/リードヘッドによりデータバンドDBに対してデータを記録する。
次に、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56Bにより読み取られたサーボ信号の再生波形から、データ記録時における、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離d1を求める(ステップS13)。次に、制御装置59は、リーダライタ57により、データ記録時のサーボバンドSB間の距離d1をカートリッジメモリ11に書き込む(ステップS14)。制御装置59は、サーボバンドSB間の距離d1を連続的に計測し、カートリッジメモリ11に書き込んでもよいし、サーボバンド間の距離d1を一定間隔で計測し、カートリッジメモリ11に書き込んでもよい。サーボバンドSB間の距離d1を一定間隔で計測し、カートリッジメモリ11に書き込む場合には、メモリ36に書き込まれる情報量を低減することができる。
[データ再生時における記録再生装置の動作]
以下、図14を参照して、データ再生時における記録再生装置50の動作の一例について説明する。
まず、制御装置59は、記録再生装置50にカートリッジ10をローディングする(ステップS21)。次に、制御装置59は、リーダライタ57によりカートリッジメモリ11から記録時のサーボバンド間の距離d1を読み出す(ステップS22)。
次に、制御装置59は、スピンドル51およびリール52の回転を制御し、磁気テープMTの長手方向に規定のテンションをかけながら磁気テープMTを走行させる。そして、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56Bによりサーボ信号を読み取ると共に、磁気ヘッド56のデータライト/リードヘッドにより磁気テープMTからデータを再生する(ステップS23)。
次に、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56Bにより読み取られたサーボ信号の再生波形から、データ再生時における、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離d2を算出する(ステップS24)。
次に、制御装置59は、ステップS22において読み出したサーボバンド間の距離d1と、ステップS24において算出したサーボバンドSB間の距離d2との差分Δdが規定値以内であるか否かを判断する(ステップS25)。
ステップS25にて差分Δdが規定値以内であると判断された場合には、制御装置59は、規定のテンションが維持されるように、スピンドル51およびリール52の回転を制御する(ステップS26)。
一方、ステップS25にて差分Δdが規定値以内でないと判断された場合には、制御装置59は、差分Δdが小さくなるように、スピンドル51およびリール52の回転の制御し、走行する磁気テープMTにかかるテンションを調整し、処理をステップS24に戻す(ステップS27)。
[効果]
以上説明したように、第1の実施形態に係る磁気テープMTでは、磁気テープMTが洗浄、乾燥された状態において測定された、磁気テープMTの全体のBET比表面積が3.5m2/g以上7.0m2/g以下であり、サーボパターンの非直線性を示す統計値σSWが24nmであるため、磁気テープMTの全厚が薄い場合であっても、優れた走行安定性を得ることができる。また、磁性層43の表面の算術平均粗さRaが2.5nm以下であり、磁性層43の垂直方向における角形比が65%であり、磁性層43の平均厚みが80nmであるため、優れた電磁変換特性を得ることができる。したがって、優れた走行安定性と電磁変換特性を両立することができる。
さらに、第1の実施形態に係る磁気テープMTでは、基体41は、ポリエステルを含む。これにより、上記データトラック幅でデータを記録した磁気テープMT(カートリッジ10)の周囲の環境温度や湿度の変化に伴い、磁気テープMTの幅が変化した場合には、走行時に磁気テープMTの長手方向のテンションを記録再生装置50により調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つことができる。したがって、環境温度や湿度の変化に起因するオフトラックを抑制することができる。
<2 第2の実施形態>
[記録再生装置の構成]
図15は、本開示の第2の実施形態に係る記録再生システム100Aの構成の一例を示す概略図である。記録再生システム100Aは、カートリッジ10と、記録再生装置50Aとを備える。
記録再生装置50Aは、温度計63と、湿度計64とをさらに備える。温度計63は、磁気テープMT(カートリッジ10)の周囲の温度を測定し、制御装置59へ出力する。また、湿度計64は、磁気テープMT(カートリッジ10)の周囲の湿度を測定し、制御装置59へ出力する。
制御装置59は、磁気テープMTに対するデータの記録時に、温度計63および湿度計64により、磁気テープMT(カートリッジ10)の周囲の温度Tm1および湿度H1を測定し、リーダライタ57を介してカートリッジメモリ11に書き込む。温度Tm1および湿度H1は、磁気テープMTの周囲の環境情報の一例である。
制御装置59は、磁気テープMTに対するデータの記録時に、スピンドル51およびリール52の駆動データに基づいて、磁気テープMTの長手方向にかけられていたテンションTn1を求め、リーダライタ57を介してカートリッジメモリ11に書き込む。
制御装置59は、磁気テープMTに対するデータの記録時に、隣接する2本のサーボバンドSBから読み取られるサーボ信号の再生波形から、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離d1を求める。そして、この距離d1に基づいて、データ記録時の磁気テープMTの幅W1を算出し、リーダライタ57によりメモリ36に書き込む。
制御装置59は、磁気テープMTからのデータの再生時に、温度計63および湿度計64により、磁気テープMT(カートリッジ10)の周囲の温度Tm2および湿度H2を測定する。
制御装置59は、磁気テープMTからのデータの再生時に、スピンドル51およびリール52の駆動データに基づいて、磁気テープMTの長手方向にかけられていたテンションTn2を求める。
制御装置59は、磁気テープMTからのデータの再生時に、隣接する2本のサーボバンドSBから読み取られるサーボ信号の再生波形から、隣接する2本のサーボバンドSB間の距離d2を求める。そして、この距離d2に基づいて、データ再生時の磁気テープMTの幅W2を算出する。
制御装置59は、磁気テープMTからのデータの再生時に、リーダライタ57を介してカートリッジメモリ11から、データ記録時に書き込んだ温度Tm1、湿度H1、テンションTn1および幅W1を読み出す。そして、制御装置59は、データの記録時における温度Tm1、湿度H1、テンションTn1および幅W1と、データの再生時における温度Tm2、湿度H2、テンションTn2および幅W2を用いて、データ再生時における磁気テープMTの幅W2がデータ記録時における磁気テープの幅W1に等しくまたはほぼ等しくなるように、磁気テープMTにかけるテンションを制御する。
カートリッジメモリ11のコントローラ35は、アンテナコイル31を介して記録再生装置50Aから受信した温度Tm1、湿度H1、テンションTn1および幅W1をメモリ36の第2の記憶領域36Bに記憶する。カートリッジメモリ11のコントローラ35は、記録再生装置50Aからの要求に応じて、メモリ36から温度Tm1、湿度H1、テンションTn1および幅W1を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置50Aに送信する。
[データ記録時における記録再生装置の動作]
以下、図16を参照して、データ記録時における記録再生装置50Aの動作の一例について説明する。
まず、制御装置59は、記録再生装置50Aにカートリッジ10をローディングする(ステップS101)。次に、制御装置59は、スピンドル51およびリール52の回転を制御し、磁気テープMTの長手方向に規定のテンションをかけながら磁気テープMTを走行させる。そして、制御装置59は、磁気ヘッド56により磁気テープMTに対してデータを記録する(ステップS102)。
次に、制御装置59は、温度計63および湿度計64から、データ記録時における磁気テープMTの周囲の温度Tm1および湿度H1(環境情報)を取得する(ステップS103)。
次に、制御装置59は、データ記録時におけるスピンドル51およびリール52の駆動データに基づいて、データ記録時において磁気テープMTの長手方向にかけられていたテンションTn1を算出する(ステップS104)。
次に、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56Bにより読み取られたサーボ信号の再生波形から、隣接する2本のサーボバンドSBの距離d1を求める。次に、制御装置59は、この距離d1に基づいて、データ記録時の磁気テープMTの幅W1を算出する(ステップS105)。
次に、制御装置59は、リーダライタ57により、温度Tm1、湿度H1、テンションTn1および磁気テープMTの幅W1をデータ記録時情報としてカートリッジメモリ11に書き込む(ステップS106)。
[データ再生時における記録再生装置の動作]
以下、図17を参照して、データ再生時における記録再生装置50Aの動作の一例について説明する。
まず、制御装置59は、記録再生装置50Aにカートリッジ10をローディングする(ステップS111)。次に、制御装置59は、カートリッジメモリ11に書き込まれたデータ記録時情報(温度Tm1、湿度H1、テンションTn1および磁気テープMTの幅W1)を、リーダライタ57によりカートリッジメモリ11から読み出して取得する(ステップS112)。次に、制御装置59は、温度計63および湿度計64により、データ再生時における現在の磁気テープMTの周囲の温度Tm2の情報および湿度H2の情報を取得する(ステップS113)。
次に、制御装置59は、データ記録時における温度Tm1と、データ再生時における温度Tm2との温度差TmD(TmD=Tm2-Tm1)を算出する(ステップS114)。また、制御装置59は、データ記録時における湿度H1と、データ再生時における湿度H2との湿度差HD(HD=H2-H1)を算出する(ステップS115)。
次に、制御装置59は、温度差TmDに係数αを乗算し(TmD×α)、湿度差HDに係数βを乗算する(HD×β)(ステップS116)。係数αは、温度差1℃当たり、磁気テープMTのテンションをデータ記録時のテンションTn1と比べてどの程度変更すればよいかを示す値である。係数βは、湿度差1%あたり、磁気テープMTのテンションをデータ記録時のテンションTn1と比べてどの程度変更すればよいかを示す値である。
次に、制御装置59は、データ記録時におけるテンションTn1に対して、TmD×αの値と、HD×βの値とを加算することで、データ再生時(現在)において、磁気テープMTの長手方向にかけるべきテンションTn2を算出する(ステップS117)。
Tn2=Tn1+TmD×α+HD×β
データ再生時における磁気テープMTのテンションTn2を決定した後、制御装置59は、スピンドル51およびリール52の回転を制御し、そのテンションTn2で磁気テープMTが走行するように磁気テープMTの走行を制御する。そして、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56BによりサーボバンドSBのサーボ信号を読み取りながら、磁気ヘッド56のデータライト/リードヘッドにより、データトラックTkに記録されたデータの再生を行う(ステップS118)。
このとき、磁気テープMTのテンションの調整により、磁気テープMTの幅がデータ記録時の幅に合わせられているので、磁気ヘッド56のデータライト/リードヘッドは、データトラックTkに対して正確に位置合わせすることができる。これにより、何らかの原因(例えば、温度、湿度の変動)で、磁気テープMTの幅が変動したような場合でも、磁気テープMTに記録されたデータを正確に再生することができる。
なお、データ再生時(現在)において、磁気テープMTにかけるべきテンションTn2の値は、データ再生時の温度の方がデータ記録時の温度よりも高ければ高くなる。このため、温度が高くなり、データ記録時よりも磁気テープMTの幅が広くなってしまった場合には、磁気テープMTの幅を狭めてデータ再生時と同じ幅を再現することができる。
逆に、データ再生時(現在)において、磁気テープMTにかけるべきテンションTn2の値は、データ再生時の温度の方がデータ記録時の温度よりも低ければ低くなる。このため、温度が低くなり、データ記録時よりも磁気テープMTの幅が狭くなってしまった場合には、磁気テープMTの幅を広げてデータ再生時と同じ幅を再現することができる。
また、データ再生時(現在)において、磁気テープMTにかけるべきテンションTn2の値は、データ再生時の湿度の方がデータ記録時の湿度よりも高ければ高くなる。このため、湿度が高くなり、データ記録時よりも磁気テープMTの幅が広くなってしまった場合には、磁気テープMTの幅を狭めてデータ再生時と同じ幅を再現することができる。
逆に、データ再生時(現在)において、磁気テープMTにかけるべきテンションTn2の値は、データ再生時の湿度の方がデータ記録時の湿度よりも低ければ低くなる。このため、湿度が低くなり、データ記録時よりも磁気テープMTの幅が狭くなってしまった場合には、磁気テープMTの幅を広げてデータ再生時と同じ幅を再現することができる。
ここで、データ再生時において、磁気テープMTにかけるべきテンションTn2を求めるために、データ記録時の温度Tm1、湿度H1、磁気テープMTのテンションTn1に加えて(あるいは、テンションTn1に代えて)、さらに、データ記録時における磁気テープMTの幅W1の情報が用いられてもよい。
この場合も、同様に、制御装置59は、温度差TmD(TmD=Tm2-Tm1)と、湿度差HD(HD=H2-H1)とを算出する。そして、制御装置59は、温度差TmDに係数γを乗算し(TmD×γ)、湿度差HDに係数δを乗算する(HD×δ)(ステップS116)。
ここで、係数γは、温度差1℃当たり磁気テープMTの幅がどの程度変動するかを示す値(温度に基づく単位長さ(幅方向)当たりの膨張率を示す値)である。また、係数δは、湿度差1%あたり、磁気テープMTの幅がどの程度変動するかを示す値(湿度に基づく単位長さ(幅方向)当たりの膨張率を示す値)である。
次に、制御装置59は、以下の式により、データ記録時における過去の磁気テープMTの幅W1に基づいて、データ再生時における現在の磁気テープMTの幅w2を予測する。
W2=W1(1+TmD×γ+HD2×δ)
次に、制御装置59は、データ再生時における現在の磁気テープMTの幅w2と、データ記録時における過去の磁気テープMTの幅W1との差WDを算出する(WD=W2-W1=W1(TmD×γ+HD2×δ))。
そして、制御装置59は、幅の差WDに係数εを乗算した値を、データ記録時における磁気テープMTのテンションTn1に加算して、データ再生時における磁気テープMTのテンションTn2を算出する
Tn2=Tn1+WD×ε
ここで、係数εは、磁気テープMTの幅を単位距離分変化させるために必要な磁気テープMTの長手方向でのテンションを表す値である。
データ再生時における磁気テープMTのテンションTn2を決定した後、制御装置59は、スピンドル51およびリール52の回転を制御し、そのテンションTn2で磁気テープMTが走行するように磁気テープMTの走行を制御する。そして、制御装置59は、磁気ヘッド56のサーボリードヘッド56A、56BによりサーボバンドSBのサーボ信号を読み取りながら、磁気ヘッド56のデータライト/リードヘッドにより、データトラックTkに記録されたデータの再生を行う。
このような方法でテンションTn2が決定された場合においても、何らかの原因(例えば、温度、湿度の変動)で、磁気テープMTの幅が変動したような場合に、磁気テープMTに記録されたデータを正確に再生することができる。
[効果]
以上説明したように、第2の実施形態では、磁気テープMTのデータ記録時情報がカートリッジメモリ11に記憶されているので、この情報をデータ再生時に利用することで、磁気テープMTの幅を適切に調整することができる。したがって、磁気テープMTの幅が何らかの理由で変動したような場合でも、磁気テープMTに記録されたデータを正確に再生することができる。
また、本実施形態では、データ記録時情報として、データ記録時における磁気テープMTの周囲の温度Tm1および湿度H1(環境情報)が書き込まれる。したがって、温度および湿度の変動による、磁気テープMTの幅およびデータトラックTkの幅の変動に適切に対応することができる。
<3 変形例>
(変形例1)
上述の第1、第2の実施形態では、テンション調整情報がカートリッジメモリ11に記憶される場合について説明したが、テンション調整情報が記録再生装置50、50Aの制御装置59に記憶されていてもよい。この場合、制御装置59は、当該制御装置59が記憶しているテンション調整情報により、スピンドル駆動装置53およびリール駆動装置54の回転を制御し、磁気テープMTの長手方向にかかるテンションを調整する。
(変形例2)
磁気テープMTをライブラリ装置に用いるようにしてもよい。この場合、ライブラリ装置は、磁気テープMTの長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有しており、第1の実施形態における記録再生装置50または第2の実施形態における記録再生装置50Aを複数備えるものであってもよい。
(変形例3)
サーボライタが、サーボ信号の記録時等に磁気テープMTの長手方向のテンションを調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つようにしてもよい。この場合、サーボライタが、磁気テープMTの幅を検出する検出装置を備え、この検出装置の検出結果に基づき、磁気テープMTの長手方向のテンションを調整するようにしてもよい。
(変形例4)
磁気テープMTは、垂直記録型の磁気テープに限定されるものであなく、水平記録型の磁気テープであってもよい。この場合、磁性粉としてはメタル磁性粉等の針状磁性粉を用いてもよい。
(変形例5)
上述の第1の実施形態では、データ記録時における磁気テープに関連する幅関連情報として、サーボバンドSB間の距離を用いる場合について説明したが、磁気テープMTの幅を用いるようにしてもよい。
この場合、制御装置59は、データ記録時に、サーボバンドSB間の距離d1から磁気テープMTの幅W1を算出し、この幅W1をリーダライタ57によりカートリッジメモリ11に書き込む。
制御装置59は、データ再生時に、カートリッジメモリ11からデータ記録時の磁気テープMTの幅W1をカートリッジメモリ11から読み出すと共に、データ再生時のサーボバンドSB間の距離d2からデータ再生時の磁気テープMTの幅W2を算出する。そして、制御装置59は、データ記録時の磁気テープMTの幅W1と、データ再生時の磁気テープMTの幅W2との差分ΔWを算出し、差分ΔWが規定値以内であるか否かを判断する。
差分Δdが規定値以内である場合には、制御装置59は、規定のテンションが維持されるように、スピンドル51およびリール52の回転駆動を制御する。一方、差分Δdが規定値以内でない場合には、差分Δdが規定値以内に収まるように、スピンドル51およびリール52の回転駆動の制御し、走行する磁気テープMTにかかるテンションを調整する。
(変形例6)
上述の第2の実施形態では、データ記録時情報として、温度Tm1、Tm2、湿度H1、H2、テンションTn1、Tn2、幅W1、W2の全てが用いられる場合について説明したが、データ記録時情報は、温度Tm1、Tm2、湿度H1、H2、テンションTn1、Tn2、および幅W1、W2のうちいずれか1つであってもよいし、任意の2つ、3つの組合せであってもよい。
カートリッジメモリ11に対して、データ記録時の情報(温度Tm1、湿度H1、テンションTn1、幅W1)だけでなく、データ再生時の情報(温度Tm2、湿度H2、テンションTn2、幅W2)が記憶されてもよい。例えば、このデータ再生時の情報は、データが再生された後、さらに別の機会に磁気テープMT内のデータが再生されるときに使用される。
(変形例7)
上述の第1、第2の実施形態では、バック層44の表面に設けられた多数の突部44Aを、磁性層43の表面に転写することにより、磁性層43の表面に多数の孔部43Aを形成する場合について説明したが、多数の孔部43Aの形成方法はこれに限定されるものではない。例えば、磁性層形成用塗料に含まれる溶剤の種類および磁性層形成用塗料の乾燥条件等を調整することで、磁性層43の表面に多数の孔部43Aを形成するようにしてもよい。
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、磁気テープの平均厚み、磁性層の表面の算術平均粗さRa、垂直方向における角形比、磁性層の平均厚み、BET比表面積、細孔分布(脱着時最大細孔容積の細孔直径)、およびサーボパターンの非直線性を示す統計値σSWは、上述の第1の実施形態にて説明した測定方法により求められた値である。
[実施例1]
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
(第1組成物)
バリウムフェライト(BaFe12O19)粒子の粉末(六角板状、平均アスペクト比
2.8、平均粒子体積1600nm3):100質量部
塩化ビニル系樹脂(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%):42質量部(溶剤含む)
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al2O3、平均粒径0.1μm)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
(第2組成物)
塩化ビニル系樹脂:3質量部(溶剤含む)
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社):4質量部と、潤滑剤としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe2O3、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂:60.6質量部(溶剤含む)
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
(第4組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社):4質量部と、潤滑剤としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
小粒径のカーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)20nm):90質量部
大粒径のカーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)270nm):10質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(東ソー株式会社、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
(塗布工程)
上述のようにして調製した磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料を用いて、非磁性支持体である、平均厚み4.2μm、長尺のポレエチレンナフタレートフィルム(以下「PENフィルム」という。)の一方の主面上に下地層および磁性層を以下のように形成した。まず、PENフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー後に平均厚みが0.9μmとなるように下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー後に平均厚みが80nmとなるように磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をフィルムの厚み方向に磁場配向させた。また、磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、磁気テープの厚み方向(垂直方向)における角形比S1を65%に設定した。続いて、PENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー後に平均厚みが0.4μmになるようにバック層を形成した。これにより、磁気テープが得られた。
(カレンダー工程、転写工程)
まず、カレンダー処理を行い、磁性層の表面を平滑化した。この際、カレンダー処理の条件を調整して、磁性層の表面の算術平均粗さRaを2.5nmに設定した。次に、得られた磁気テープをロール状に巻き取ったのち、この状態で磁気テープに60℃、10時間の第1の加熱処理を行った。そして、内周側に位置している端部が反対に外周側に位置するように、磁気テープをロール状に巻き直したのち、この状態で磁気テープに60℃、10時間の第2の加熱処理を行った。これにより、バック層の表面の多数の突部が磁性層の表面に転写され、磁性層の表面に多数の孔部が形成された。磁気テープの全体のBET比表面積は、4.5m2/gであった。また、磁気テープMTの全体の平均細孔直径は、8.0nmであった。
(裁断工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、平均厚み5.6μmの長尺状の磁気テープが得られた。
(サーボパターンの書き込み工程)
上述のようにして得られた磁気テープに、サーボライタを用いてサーボパターンを書き込むことにより、5本のサーボバンドを形成した。サーボパターンは、LTO-8規格に準拠するものとされた。サーボライタとしては、第1の実施形態にて説明した構成を有するものが用いられた(図11、図12A、図12B参照)。
サーボ信号書込ヘッドとガイドローラの距離を調整し、且つ、サーボ信号書込ヘッドへのテープ侵入角度を調整することにより、サーボパターンを記録する際のサーボ信号書込ヘッドと磁気テープとの間の摩擦係数を調整した。これにより、磁気テープのσswが23nmへと調整された。以上により、サーボパターンが書き込まれた磁気テープが得られた。
[実施例2]
塗布工程において、PENフィルムの平均厚みを4.0μm、下地層の平均厚みを0.6μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた、平均厚み5.1μmの磁気テープを得た。
[実施例3]
カレンダー工程において、カレンダー処理の条件を調整して、磁性層の表面の算術平均粗さRaを2.2nmに設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例4]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、磁気テープの厚み方向(垂直方向)における角形比を70%に設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例5]
塗布工程において、PENフィルムの平均厚みを4.2μm、カレンダー後の下地層の平均厚みを0.9μm、カレンダー後の磁性層の平均厚みを70nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた、平均厚み5.6μmの磁気テープを得た。
[実施例6]
塗布工程において、PENフィルムの平均厚みを4.2μm、カレンダー後の下地層の平均厚みを0.9μm、カレンダー後の磁性層の平均厚みを50nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた、平均厚み5.6μmの磁気テープを得た。
[実施例7]
転写工程において、第1、第2の加熱処理の温度を55℃とし、第1、第2の加熱処理の時間を10時間とすることにより、BET比表面積を3.5m2/gとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例8]
転写工程において、第1、第2の加熱処理の温度を70℃とし、第1、第2の加熱処理の時間を10時間とすることにより、BET比表面積を7.0m2/g、平均細孔直径を6.0nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例9]
サーボパターンの書き込み工程において、サーボ信号書込ヘッドと磁気テープとの間の摩擦係数を実施例1に比べて減らすことにより、サーボパターンの非直線性を示す統計値σSWを20nmに設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例10]
サーボパターンの書き込み工程において、サーボ信号書込ヘッドと磁気テープとの間の摩擦係数を実施例9に比べて減らすことにより、サーボパターンの非直線性を示す統計値σSWを15nmに設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例11]
磁性層形成用塗料の調製工程において、磁性粉としてストロンチウムフェライト粒子の粉末(六角板状、アスペクト比2.9、粒子体積1600nm3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例12]
磁性層形成用塗料の調製工程において、磁性粉としてε酸化鉄粒子の粉末(球状、アスペクト比1.1、粒子体積1800nm3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例13]
磁性層形成用塗料の調製工程において、磁性粉としてコバルトフェライトの粉末(立方体状、アスペクト比1.7、粒子体積2000nm3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例14]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、磁気テープの厚み方向(垂直方向)における角形比を70%に設定したこと、および転写工程において、第1、第2の加熱処理の温度を55℃とし、第1、第2の加熱処理の時間を10時間とすることにより、BET比表面積を3.5m2/g、平均細孔直径を8.0nmとしたこと以外は実施例3と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[実施例15]
転写工程において、第1、第2の加熱処理の温度を70℃とし、第1、第2の加熱処理の時間を10時間とすることにより、BET比表面積を7.0m2/g、平均細孔直径を6.0nmとしたこと以外は実施例14と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[比較例1]
サーボパターンの書き込み工程において、磁気テープの張力を実施例1に比べて高くし、サーボ信号書込ヘッドと磁気テープとの間の摩擦係数を上げることにより、サーボパターンの非直線性を示す統計値σSWを25nmに設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[比較例2]
カレンダー工程において、カレンダー処理の条件を調整して、磁性層の表面の算術平均粗さRaを3.0nmに設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[比較例3]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、磁気テープの厚み方向(垂直方向)における角形比を60%に設定したこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[比較例4]
塗布工程において、PENフィルムの平均厚みを4.2μm、カレンダー後の下地層の平均厚みを0.9μm、カレンダー後の磁性層の平均厚みを90nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた、平均厚み5.6μmの磁気テープを得た。
[比較例5]
転写工程において、第1、第2の加熱処理の温度を55℃とし、第1、第2の加熱処理の時間を10時間とすることにより、BET比表面積を3.2m2/g、平均細孔直径を9.0nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[比較例6]
転写工程において、第1、第2の加熱処理の温度を70℃とし、第1、第2の加熱処理の時間を20時間としたことにより、BET比表面積を8.0m2/g、平均細孔直径を6.0nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、サーボパターンが書き込まれた磁気テープを得た。
[評価]
(SNR)
実施例1~15、比較例1~6の磁気テープ(サーボパターンが書き込み後の磁気テープ)のSNRを以下のようにして評価した。記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製、MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのSNR(電磁変換特性)を測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHz、記録トラック幅は2.0μmとした。また、SNRは、下記の文献に記載の方法に基づき算出した。その結果を、実施例1のSNRを0dBとする相対値で表2に示した。
Y.Okazaki:“An Error Rate Emulation System.”,IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
(摩擦係数比)
実施例1~15、比較例1~6の磁気テープの摩擦係数比(μB/μA)および摩擦係数比(μC(1000)/μC(5))を、上述の第1の実施形態にて説明した評価方法により評価した。
(走行安定性(1))
実施例1~15、比較例1~6の磁気テープ(サーボパターンが書き込み後の磁気テープ)の走行安定性を以下のようにして評価した。磁気テープをLTOカートリッジに組み込んだ。当該LTOカートリッジに対して、SCSIおよびファイバーチャネルを介してサーバおよびPCと接続されたLTOドライブを用いて磁気テープ全面にデータを記録し、再生する、いわゆるフルボリュームテストを実施した。当該フルボリュームテストでは、データの記録状態が逐次監視されており、問題が発生した場合は当該問題に関する情報が記録された。
当該フルボリュームテストにおいて、磁気テープの走行状態が不安定であると、ドライブは自動的に記録を一時停止する、いわゆるストップライトを行う。当該ストップライトが行われると、データの転送レートが落ちる。また、当該フルボリュームテストにおいて、磁気テープの走行状態がさらに不安定になると、ドライブは自動的に記録を完全に停止し、いわゆるフェイル状態になる。
実施例1~15および比較例1~6の磁気テープそれぞれについて、当該フルボリュームテストを連続で5回繰り返し実施し、「フルボリュームテスト5回目の転送レートの相対値」および「フェイルの有無」が記録された。フルボリュームテストにおける転送レートの相対値は、評価に使用したドライブの最高性能が発揮された場合の転送レートに対する、フルボリュームテスト1回あたりの平均転送レートの割合である。当該ドライブの最高性能が発揮された場合を100%とする。例えば、LTO8ドライブを使用してファイバーチャネルを介してサーバに接続し、LTO8フォーマットで記録を行った場合において、当該LTO8ドライブが最高性能を発揮した時の転送レートは350MB/secである。「フェイルの有無」は、上記のとおりのフェイル状態になったか否かである。
以下の表2に示される4段階の評価基準に従い、各磁気テープを評価した。表2に示されるとおり、レベル4が最良の走行安定性を有することを意味し、レベル1が最悪の走行安定性を有することを意味する。例えば、磁気テープの転送レートの相対値が5回目のフルボリュームテスト全てにおいて95%以上100%以下であり且つフェイルが無い場合に、当該磁気テープはレベル4であると評価される。レベル4または3の評価(すなわち、フルボリュームテスト5回目における磁気テープの転送レートが80%以上であること)が、磁気テープの良好な走行安定性の観点から望ましい。
各磁気テープの走行安定性の評価結果は、表3の「走行安定性(1)」の列に示されている。
表2に、上記の4段階の走行安定性の判定基準の詳細を示す。
(走行安定性(2))
実施例1~15、比較例1~6の磁気テープ(サーボパターンが書き込み後の磁気テープ)の走行安定性を以下のようにして評価した。まず、カートリッジとして、テンション調整情報を書き込む記憶領域をメモリに有し、上記領域に対するテンション調整情報の書き込み、および上記領域からのテンション調整情報の読み出しをコントローラにより行うことが可能なカートリッジメモリを備えるものを準備した。このカートリッジのサイズは、上記の走行安定性(1)の評価で用いたカートリッジと同様のサイズ(102mm×105mm×22mm)とした。
次に、磁気テープ全面にデータを記録および再生するときに磁気テープの長手方向のテンションを調整すること以外は、上記の“走行安定性(1)”と同様にしてフルボリュームテストを行った。次に、上記の“走行安定性(1)”と同様にして走行安定性をレベル1~4の4段階で評価した。
各磁気テープの走行安定性の評価結果は、表3の「走行安定性(2)」の列に示されている。
磁気テープの長手方向のテンション調整は以下のようにして行った。すなわち、記録再生装置により磁気テープを往復走行ながら、2列以上のサーボバンド(サーボトラック)を同時に再生し、それらのサーボバンドのハの字のサーボパターン列(サーボ信号)それぞれの再生波形の形状から、走行時のサーボパターン列の間隔を連続的(サーボの位置情報があるポイント毎(具体的には約6mm毎))に計測した。そして、この計測されたサーボパターン列の間隔情報に基づき、スピンドル駆動装置とリール駆動装置の回転駆動を制御し、サーボパターン列の間隔が規定の幅に近づくように、磁気テープの長手方向のテンションを自動で調整するようにした。ここで、“規定の幅”とは、記録再生装置が有する2つのサーボリードヘッド間の距離を意味する。なお、磁気テープの走行時には、2つのサーボリードヘッドはそれぞれ、データバンドの上下に位置する2つのサーボバンドに位置される。
(ヤング率)
実施例1~15、比較例1~6の磁気テープのヤング率を、上述の第1の実施形態にて説明したヤング率の測定方法により測定した。
表3は、実施例1~15、比較例1~6の磁気テープの構成および評価結果を示す。
PEN:ポレエチレンナフタレート
TC:Tension control
上記評価の結果から以下のことがわかる。
磁気テープが洗浄、乾燥された状態において測定された、磁気テープの全体のBET比表面積が3.5m2/g以上7.0m2/g以下の範囲を外れると、走行安定性が低下する(実施例1、7、8、比較例5、6)。
サーボパターン列(サーボバンド)の非直線性を示す統計値σSWが24nmを超えると、走行安定性が低下する(実施例1、9、10、比較例1)。
磁性層の表面の算術平均粗さRaが2.5nmを超えると、電磁変換特性(SNR)が悪化する(実施例1、3、比較例2)。
磁性層の垂直方向における角形比が65%未満であると、電磁変換特性(SNR)が悪化する(実施例1、4、比較例3)。
磁性層の平均厚みが80nmを超えると、電磁変換特性(SNR)が悪化する(実施例1、5、6、比較例4)。
したがって、平均厚みが5.6μm以下である磁気テープにおいて、優れた走行安定性と電磁変換特性を両立するためには、磁気テープの全体のBET比表面積が3.5m2/g以上7.0m2/g以下であり、サーボパターンの非直線性を示す統計値σSWが24nm以下であり、磁性層の表面の算術平均粗さRaが2.5nm以下であり、磁性層の垂直方向における角形比が65%以上であり、磁性層の平均厚みが80nm以下である。
磁性粉としてバリウムフェライト粒子粉に代えてストロンチウムフェライト粒子粉を用いても、BET比表面積、統計値σSW、算術平均粗さRa、角形比および磁性層の平均厚みが上記の数値範囲を満たすことで、平均厚みが5.6μm以下である磁気テープにおいて、優れた走行安定性と電磁変換特性を両立することができる(実施例1、11)。
磁性粉として六方晶フェライト粒子粉(バリウムフェライト粒子粉、ストロンチウムフェライト粒子粉)に代えて、ε酸化鉄粒子粉またはコバルトフェライト粒子粉を用いた場合にも、BET比表面積、統計値σSW、算術平均粗さRa、角形比および磁性層の平均厚みが上記の数値範囲を満たすことで、平均厚みが5.6μm以下である磁気テープにおいて、優れた走行安定性と電磁変換特性を両立することができる(実施例1、12、13)。
BET比表面積、統計値σSW、算術平均粗さRa、角形比および磁性層の平均厚みが上記の数値範囲を満たすことで、磁気テープのテンションを調整した場合にも、平均厚みが5.6μm以下であり磁気テープにおいて、優れた走行安定性と電磁変換特性を両立することができる(実施例1)。
平均厚みが5.6μm以下である磁気テープにおいて、より優れた走行安定性を得るためには、サーボパターン列(サーボバンド)の非直線性を示す統計値σSWが20nm以下であることが好ましい(実施例1、9、10)。
より優れた電磁変換特性を得るためには、磁性層の表面の算術平均粗さRaが2.2nm以下であることが好ましい(実施例1、3)。
より優れた電磁変換特性を得るためには、磁性層の垂直方向における角形比が70%以上であることが好ましい(実施例1、4)。
摩擦係数比(μB/μA)が1.0以上2.0以下の範囲であると、平均厚みが5.6μm以下である磁気テープをテンションコントロールしても、優れた走行安定性が得られる(実施例1、8、14、15、比較例5、6)。
摩擦係数比(μC(1000)/μC(5)が1.0以上2.0以下の範囲であると、平均厚みが5.6μm以下の磁気テープに対して5回のフルボリュームテストを行った後にも(すなわち平均厚みが5.6μm以下の磁気テープを1000回を超えてパスした後にも)、優れた走行安定性が得られる(実施例1、3、7、14、15、比較例5、6)。
以上、本開示の実施形態および変形例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態および変形例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態および変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。上述の実施形態および変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
上述の実施形態および変形例にて例示した化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。上述の実施形態および変形例で段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。上述の実施形態および変形例で例示した材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と、
前記基体上に設けられた下地層と、
前記下地層上に設けられた磁性層と
を備え、
前記基体は、ポリエステルを含み、
前記下地層および前記磁性層は、潤滑剤を含み、
前記磁性層は、多数の孔部が設けられた表面を有し、
前記表面の算術平均粗さRaは、2.5nm以下であり、
前記磁気記録媒体が洗浄、乾燥された状態において測定された、前記磁気記録媒体の全体のBET比表面積は、3.5m2/g以上7.0m2/g以下であり、
前記磁性層の垂直方向における角形比は、65%以上であり、
前記磁性層の平均厚みは、80nm以下であり、
前記磁気記録媒体の平均厚みは、5.6μm以下であり、
前記磁性層にはサーボパターンが記録され、前記サーボパターンの非直線性を示す統計値σSWは、24nm以下である磁気記録媒体。
(2)
前記統計値σSWは、23nm以下である(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
前記統計値σSWは、20nm以下である(1)に記載の磁気記録媒体。
(4)
前記角形比は、70%以上である(1)から(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)
前記算術平均粗さRaは、2.2nm以下である(1)から(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6)
前記磁気記録媒体に加わる張力が1.2Nであるときの前記磁性層の表面と磁気ヘッドの間の動摩擦係数μAと、前記磁気記録媒体に加わる張力が0.4Nであるときの前記磁性層の表面と前記磁気ヘッドの間の動摩擦係数μBとの摩擦係数比(μB/μA)は、1.0以上2.0以下である(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
前記磁気記録媒体に加わる張力が0.6Nであるときの前記磁性層の表面と磁気ヘッドの間の動摩擦係数μCに関して、走行5回目の動摩擦係数μC(5)と走行1000回目の動摩擦係数μC(1000)との摩擦係数比(μC(1000)/μC(5))は、1.0以上2.0以下である(1)から(6)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(8)
前記磁気記録媒体が洗浄、乾燥された状態において測定された、前記磁気記録媒体の全体の平均細孔直径は、6nm以上11nm以下である(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(9)
長手方向における前記磁性層の保磁力Hcは、2000Oe以下である(1)から(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
前記磁性層は、5以上のサーボバンドを有する(1)から(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(11)
前記表面の面積に対する前記サーボバンドの総面積の割合は、4.0%以下である(10)に記載の磁気記録媒体。
(12)
前記サーボバンドの幅は、95μm以下である(10)または(11)に記載の磁気記録媒体。
(13)
前記磁性層は、複数のデータトラックを形成可能に構成され、
前記データトラックの幅は、2.0μm以下である(1)から(12)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(14)
前記磁性層は、磁化反転間距離Lの最小値が48nm以下となるようにデータを記録可能に構成されている(1)から(13)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(15)
前記基体の平均厚みは、4.2μm以下である(1)から(14)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(16)
前記潤滑剤が、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記脂肪酸が下記一般式(1)または(2)で示される化合物を含み、且つ、前記脂肪酸エステルが下記一般式(3)または(4)で示される化合物を含む(1)から(15)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
CH3(CH2)kCOOH ・・・(1)
(但し、前記一般式(1)において、kは14以上22以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)nCH=CH(CH2)mCOOH ・・・(2)
(但し、前記一般式(2)において、nとmとの和は12以上20以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)pCOO(CH2)qCH3 ・・・(3)
(但し、前記一般式(3)において、pは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、qは2以上5以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)rCOO-(CH2)sCH(CH3)2 ・・・(4)
(但し、前記一般式(4)において、rは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、sは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
(17)
前記磁性層は、磁性粉を含み、
前記磁性粉は、六方晶フェライト、ε酸化鉄またはCo含有スピネルフェライトを含む(1)から(16)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(18)
前記六方晶フェライトは、BaおよびSrのうちの少なくとも1種を含み、
前記ε酸化鉄は、AlおよびGaのうちの少なくとも1種を含む(17)に記載の磁気記録媒体。
(19)
(1)から(18)のいずれかに記載された前記磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を書き込む領域を有する記憶部と
を備えるカートリッジ。
(20)
記録再生装置と通信を行う通信部と、
前記通信部を介して前記記録再生装置から受信した前記調整情報を前記領域に記憶し、かつ、前記記録再生装置の要求に応じて、前記領域から前記調整情報を読み出し、前記通信部を介して前記記録再生装置に送信する制御部と
をさらに備える(19)に記載のカートリッジ。