従来、切削工具にセンサを取り付け、切削加工時のセンサによる計測結果に基づいて、切削工具の異常を検知する技術が提案されている。
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1の技術を超えて、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することが可能な技術が望まれる。
本開示は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することが可能な切削システム、表示システム、処理装置、処理方法および処理プログラムを提供することである。
[本開示の効果]
本開示によれば、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の実施の形態に係る切削システムは、穴あけ加工用の切削工具と、前記切削工具に取り付けられる複数のセンサと、処理部とを備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記複数のセンサは、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、前記処理部は、複数の計測時点における各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データに基づいて、前記切削加工に関する異常を検知する。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データに基づいて、切削加工に関する異常を検知する構成により、たとえば、生成した2次元データが理想値と異なる異常値であった場合に、切削工具の座標系に対応付けられる要因と、工作機械の座標系に対応付けられる要因とに切り分けて解析することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(2)好ましくは、前記処理部は、前記切削工具に関する、前記切削加工の準備段階において生じる種類の異常である第1の異常を検知する。
このような構成により、発生し得る複数種類の異常のうち、刃振れ等の切削加工の準備段階において生じる異常を検知することができる。
(3)より好ましくは、前記処理部は、前記回転軸を原点とする2次元座標上にプロットされた複数の前記2次元データの代表値と、前記原点との位置関係に基づいて、前記第1の異常を検知する。
このような構成により、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常のうちの切削加工の開始前に発生し得る異常を、他の異常と区別して第1の異常として検知することができる。
(4)より好ましくは、前記処理部は、前記第1の異常を検知した場合、前記原点および前記代表値を通る直線と、前記2次元座標における座標軸との間の角度に基づいて、前記2以上の切刃のうちの、前記第1の異常の発生要因である前記切刃を特定する。
このような構成により、第1の異常が発生した際、第1の異常の発生要因である切刃を交換する等の対処を容易に行うことができる。
(5)好ましくは、前記処理部は、切削対象物、前記切削工具が取り付けられる工作機械および前記切削加工に用いられる治具のうちの少なくともいずれか1つに関する種類の異常である第2の異常を検知する。
このような構成により、発生し得る複数種類の異常のうち、切削対象物、工作機械および治具に関する異常を検知することができる。
(6)より好ましくは、前記処理部は、第1の期間における複数の前記計測時点に対応する複数の前記2次元データの代表値と、前記第1の期間の開始時刻以降の前記計測時点に対応する前記2次元データとの比較結果に基づいて、前記第2の異常を検知する。
このような構成により、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を、他の異常と区別して第2の異常として検知することができる。
(7)好ましくは、前記処理部は、前記切削工具に関する、前記切削加工の実行段階において生じる種類の異常である第3の異常を検知する。
このような構成により、発生し得る複数種類の異常のうち、切刃の欠損等の切削加工の実行段階において生じる異常を検知することができる。
(8)より好ましくは、前記処理部は、複数の前記2次元データの代表値の時間変化に基づいて、前記第3の異常を検知する。
このような構成により、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常のうちの切削加工中に発生し得る異常を、他の異常と区別して第3の異常として検知することができる。
(9)より好ましくは、前記処理部は、前記第3の異常を検知した場合、前記回転軸を原点とする2次元座標における前記代表値の時間変化の方向に基づいて、前記2以上の切刃のうちの、前記第3の異常の発生要因である前記切刃を特定する。
このような構成により、第3の異常が発生した際、第3の異常の発生要因である切刃を交換する等の対処を容易に行うことができる。
(10)本開示の実施の形態に係る処理装置は、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられる複数のセンサの計測結果を取得する取得部を備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記取得部は、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量の前記計測結果を取得し、前記処理装置は、さらに、前記取得部により取得された、複数の計測時点における各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データに基づいて、前記切削加工に関する異常を検知する検知部とを備える。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データに基づいて、切削加工に関する異常を検知する構成により、たとえば、生成した2次元データが理想値と異なる異常値であった場合に、切削工具の座標系に対応付けられる要因と、工作機械の座標系に対応付けられる要因とに切り分けて解析することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(11)本開示の実施の形態に係る処理方法は、処理装置における処理方法であって、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられる複数のセンサの計測結果を取得するステップを含み、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記計測結果を取得するステップにおいては、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量の前記計測結果を取得し、前記処理方法は、さらに、取得した複数の計測時点における各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成するステップと、生成した各前記2次元データに基づいて、前記切削加工に関する異常を検知するステップとを含む。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データに基づいて、切削加工に関する異常を検知する方法により、たとえば、生成した2次元データが理想値と異なる異常値であった場合に、切削工具の座標系に対応付けられる要因と、工作機械の座標系に対応付けられる要因とに切り分けて解析することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(12)本開示の実施の形態に係る処理プログラムは、処理装置において用いられる処理プログラムであって、コンピュータを、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられる複数のセンサの計測結果を取得する取得部、として機能させるための処理プログラムであり、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記取得部は、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量の前記計測結果を取得し、前記処理プログラムは、さらに、コンピュータを、前記取得部により取得された、複数の計測時点における各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、
前記生成部により生成された各前記2次元データに基づいて、前記切削加工に関する異常を検知する検知部、として機能させるためのプログラムである。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データに基づいて、切削加工に関する異常を検知する構成により、たとえば、生成した2次元データが理想値と異なる異常値であった場合に、切削工具の座標系に対応付けられる要因と、工作機械の座標系に対応付けられる要因とに切り分けて解析することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(13)本開示の実施の形態に係る表示システムは、穴あけ加工用の切削工具と、前記切削工具に取り付けられる複数のセンサと、処理装置とを備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記複数のセンサは、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、前記処理装置は、複数の計測時点における各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データと、各前記2次元データを用いた前記切削加工の評価に用いる評価基準とを表示する処理を行う。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データおよび評価基準を表示する構成により、たとえば、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準と、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準とを表示することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとの評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(14)好ましくは、前記処理装置は、前記評価基準として、前記切削工具に関する、前記切削加工の準備段階において生じる異常の判定に用いる判定基準を表示する処理を行う。
このような構成により、刃振れ等の切削加工の準備段階において生じる異常を判定するための評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。
(15)好ましくは、前記処理装置は、前記評価基準として、切削対象物、前記切削工具が取り付けられる工作機械および前記切削加工に用いられる治具のうちの少なくともいずれか1つに関する異常の判定に用いる判定基準を表示する処理を行う。
このような構成により、切削対象物、工作機械および治具に関する異常を判定するための評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。
(16)好ましくは、前記処理装置は、前記評価基準として、前記切削工具に関する、前記切削加工の実行段階において生じる異常の判定に用いる判定基準を表示する処理を行う。
このような構成により、切刃の欠損等の切削加工の実行段階において生じる異常に関する評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。
(17)好ましくは、前記処理装置は、前記判定基準を用いた判定結果を表示する処理を行う。
このような構成により、切削加工に関する各種異常の有無をユーザに認識させることができる。
(18)好ましくは、前記処理装置は、前記回転軸の方向の前記負荷に関するデータをさらに表示する処理を行う。
このような構成により、切削加工が実際に行われているか否かをユーザに認識させることができる。
(19)本開示の実施の形態に係る処理装置は、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられる複数のセンサの計測結果を取得する取得部を備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記取得部は、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量の前記計測結果を取得し、前記処理装置は、さらに、前記取得部により取得された、複数の計測時点における各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データと、各前記2次元データを用いた前記切削加工の評価に用いる評価基準とを表示する処理を行う表示処理部とを備える。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データおよび評価基準を表示する構成により、たとえば、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準と、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準とを表示することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとの評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(20)本開示の実施の形態に係る処理方法は、処理装置における処理方法であって、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられる複数のセンサの計測結果を取得するステップを含み、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記計測結果を取得するステップにおいては、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量の前記計測結果を取得し、前記処理方法は、さらに、取得した複数の計測時点における各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成するステップと、生成した各前記2次元データと、各前記2次元データを用いた前記切削加工の評価に用いる評価基準とを表示する処理を行うステップとを含む。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データおよび評価基準を表示する方法により、たとえば、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準と、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準とを表示することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとの評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
(21)本開示の実施の形態に係る処理プログラムは、処理装置において用いられる処理プログラムであって、コンピュータを、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられる複数のセンサの計測結果を取得する取得部、として機能させるための処理プログラムであり、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記取得部は、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量の前記計測結果を取得し、前記処理プログラムは、さらに、コンピュータを、前記取得部により取得された、複数の計測時点における各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データと、各前記2次元データを用いた前記切削加工の評価に用いる評価基準とを表示する処理を行う表示処理部、として機能させるためのプログラムである。
このように、穴あけ加工用の切削工具に取り付けられたセンサの計測結果に基づいて、当該切削工具の回転軸と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データを生成し、生成した各2次元データおよび評価基準を表示する構成により、たとえば、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準と、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準とを表示することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとの評価基準および2次元データを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
[切削システム]
図1は、本開示の実施の形態に係る切削システムの構成を示す図である。
図1を参照して、切削システム301は、穴あけ加工用の切削工具101と、複数のひずみセンサ20と、処理装置201とを備える。切削システム301は、表示システムの一例である。処理装置201は、切削システム301における処理部の一例である。
[切削工具]
切削工具101は、2以上の切刃を用いた切削加工を行う。切削工具101は、たとえば、金属等からなる切削対象物に予め設けられた下穴をくり広げる穴あけ加工に用いられる。切削工具101は、たとえば刃先交換式のボーリングである。切削工具101は、工作機械におけるアーバ等の工具ホルダ210に保持された状態で使用される。なお、切削工具101は、ボーリングに限定されず、ドリル、リーマまたはタップであってもよい。
切削工具101は、シャフト部10と、ハウジング24と、電池22と、無線通信装置23と、刃取付部12とを備える。シャフト部10は、シャンク部11を含む。図1では、ハウジング24を想像線である二点鎖線により示している。
刃取付部12は、切削工具101におけるシャフト部10よりも先端側に設けられる。刃取付部12は、たとえば3つの刃固定部13を含む。各刃固定部13には、切刃を有するチップ14が取り付けられる。なお、刃取付部12は、2つまたは4つ以上の刃固定部13を含む構成であってもよい。
工具ホルダ210は、工作機械の主軸220に取り付けられる。主軸220は、柱状であり、工具ホルダ210に回転力を与える。工具ホルダ210は、主軸220の延長線上に配置される柱状の部材である。具体的には、工具ホルダ210の上端部が、主軸220に保持される。また、工具ホルダ210の下端部が、切削工具101のシャンク部11を保持する。
ひずみセンサ20は、切削工具101に取り付けられる。たとえば、ひずみセンサ20は、たとえば接着剤または粘着剤を介してシャフト部10の周面に取り付けられる。
ハウジング24は、シャフト部10に取り付けられたひずみセンサ20を格納する。具体的には、ハウジング24は、図示しない底板部および側壁部を含む。ハウジング24は、ひずみセンサ20を下方および側方から覆う。
電池22および無線通信装置23は、ハウジング24に格納される。たとえば、電池22および無線通信装置23は、ハウジング24の底板部または側壁部に固定される。無線通信装置23は、たとえば通信用IC(Integrated Circuit)等の通信回路を含む。
電池22は、図示しない電力線を介して、ひずみセンサ20および無線通信装置23と接続されている。電池22は、電力線を介して、ひずみセンサ20および無線通信装置23へ電力を供給する。電力線には、電力供給のオンおよびオフを切り替えるスイッチが設けられている。
たとえば、切削システム301は、3つのひずみセンサ20を備える。なお、切削システム301は、切削工具101におけるチップ14の数よりも少数のひずみセンサ20を備える構成であってもよいし、切削工具101におけるチップ14の数よりも多数のひずみセンサ20を備える構成であってもよい。また、切削システム301は、切削工具101におけるチップ14の数と相関の無い数のひずみセンサ20を備える構成であってもよい。
図2は、本開示の実施の形態に係る切削工具の構成を示す断面図である。図2は、図1におけるII-II線矢視断面図である。
図2を参照して、ひずみセンサ20として、ひずみセンサ20A,20B,20Cがシャフト部10に設けられる。ひずみセンサ20Aは、シャフト部10の周方向においてひずみセンサ20Bが設けられた位置から90°ずれた位置に設けられる。ひずみセンサ20Cは、シャフト部10の周方向においてひずみセンサ20Aが設けられた位置から90°ずれた位置に設けられる。ひずみセンサ20B,20Cは、シャフト部10の回転軸17を介して点対称となる位置に設けられる。ひずみセンサ20A,20B,20Cは、たとえば、シャフト部10の回転軸17に沿う方向において、同じ位置に設けられてもよいし、互いに異なる位置に設けられてもよい。
なお、ひずみセンサ20A,20B,20Cは、刃取付部12の位置に関わらず、たとえば上述のようにシャフト部10の周面にそれぞれ設けられればよい。すなわち、ひずみセンサ20A,20B,20Cは、シャフト部10の周面において、刃固定部13から回転軸17に沿った位置に設けられる必要はない。
以下では、説明のため、回転軸17に直交する平面において、回転軸17からひずみセンサ20Aが設けられた位置への方向をX方向と称し、回転軸17からひずみセンサ20Cが設けられた位置への方向をY方向と称し、回転軸17と平行な方向をZ方向とも称する
図3は、本開示の実施の形態に係る切削工具の構成を示す矢視図である。図3は、図1におけるIII方向から見た矢視図である。
図3を参照して、刃取付部12は、刃固定部13として、刃固定部13A,13B,13Cを含む。刃固定部13A,13B,13Cは、この順に、刃取付部12の周方向において時計回りに120°ずつずれた位置にそれぞれ設けられる。
刃固定部13A,13B,13Cには、チップ14として、チップ14A,14B,14Cがそれぞれ取り付けられる。以下、チップ14Aの切刃を切刃CAとも称し、チップ14Bの切刃を切刃CBとも称し、チップ14Cの切刃を切刃CCとも称し、切刃CA,CB,CCの各々を切刃Cとも称する。
チップ14は、たとえばスローアウェイチップである。チップ14は、たとえばネジ止めにより刃固定部13に取り付けられる。なお、チップ14は、ネジ止め以外の手段により刃固定部13に固定されてもよい。また、切削工具101は、刃取付部12の代わりに、シャフト部10と一体となった切刃を備える、いわゆるソリッドボーリングであってもよい。
ひずみセンサ20は、切削加工時の切削工具101の負荷に関する状態を示す物理量を計測する。より詳細には、ひずみセンサ20は、切削加工時の切削工具101の負荷に関する状態を示す物理量として、シャフト部10のせん断ひずみεを計測する。
ひずみセンサ20は、たとえば、切削加工の開始時刻である時刻tsから終了時刻である時刻teまでの期間においてせん断ひずみεを計測し、たとえばせん断ひずみεに応じたレベルのアナログ信号を図示しない信号線経由で無線通信装置23へ送信する。
無線通信装置23は、ひずみセンサ20から受信したアナログ信号を所定のサンプリング周期でAD(Analog Digital)変換し、変換後のデジタル値であるセンサ計測値を生成する。より詳細には、無線通信装置23は、ひずみセンサ20Aから受けるせん断ひずみεのアナログ信号をAD変換することによりセンサ計測値saを生成し、ひずみセンサ20Bから受けるせん断ひずみεのアナログ信号をAD変換することによりセンサ計測値sbを生成し、ひずみセンサ20Cから受けるせん断ひずみεのアナログ信号をAD変換することによりセンサ計測値scを生成する。
無線通信装置23は、生成したセンサ計測値sa,sb,scにサンプリングタイミングを示すタイムスタンプを付与し、タイムスタンプが付与されたセンサ計測値sa,sb,scを図示しない記憶部に保存する。
無線通信装置23は、たとえば所定周期で、当該記憶部から1または複数組のセンサ計測値sa,sb,scを取得し、取得したセンサ計測値sa,sb,scおよび対応のひずみセンサ20の識別情報を含む無線信号を生成し、生成した無線信号を処理装置201へ送信する。
[処理装置]
図4は、本開示の実施の形態に係る切削システムにおける処理装置の構成を示す図である。
図4を参照して、処理装置201は、無線通信部110と、生成部120と、処理部130と、記憶部140と、表示部150とを備える。無線通信部110は、取得部の一例である。処理部130は、検知部の一例であり、かつ表示処理部の一例である。
無線通信部110は、たとえば通信用IC等の通信回路により実現される。生成部120および処理部130は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)およびDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって実現される。記憶部140は、たとえば不揮発性メモリである。表示部150は、たとえばディスプレイである。なお、表示部150は、処理装置201の外部に設けられてもよい。
<無線通信部>
無線通信部110は、切削工具101の切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量を計測するひずみセンサ20による計測結果を取得する。
より詳細には、無線通信部110は、切削工具101における無線通信装置23と無線による通信を行う。無線通信装置23および無線通信部110は、たとえば、IEEE 802.15.4に準拠したZigBee(登録商標)、IEEE 802.15.1に準拠したBluetooth(登録商標)およびIEEE802.15.3aに準拠したUWB(Ultra Wide Band)等の通信プロトコルを用いた無線による通信を行う。なお、無線通信装置23と無線通信部110との間において、上記以外の通信プロトコルが用いられてもよい。
無線通信部110は、切削工具101における無線通信装置23から受信した無線信号からセンサ計測値sa,sb,scおよび識別情報を取得する。そして、無線通信部110は、当該センサ計測値sa,sb,scを当該識別情報に対応付けて記憶部140に保存する。
<生成部>
生成部120は、無線通信部110により取得された、複数の計測時点における各ひずみセンサ20による計測結果に基づいて、切削工具101におけるシャフト部10の回転軸17と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測時点ごとの2次元データDをそれぞれ生成する。
より詳細には、生成部120は、無線通信部110によりセンサ計測値sa,sb,scが記憶部140に保存されると、記憶部140に保存されたセンサ計測値sa,sb,scに基づいて2次元データDを生成する。
図5は、本開示の実施の形態に係る切削工具に加わる切削抵抗のベクトルを示す図である。
図5を参照して、切削工具101による切削加工時に、回転軸17と垂直な平面であって、切刃Cを通る平面である切削抵抗作用面内において、チップ14AにベクトルVAを有する荷重、すなわち切削抵抗FA[N]が加わる。また、切削工具101による切削加工時に、当該切削抵抗作用面内において、チップ14BにベクトルVBを有する切削抵抗FB[N]が加わり、チップ14CにベクトルVCを有する切削抵抗FC[N]が加わる。たとえば、ベクトルVA,VB,VCの方向は、切刃CA,CB,CCを通る円の接線方向である。ベクトルVA,VB,VCの方向は、切刃CA,CB,CCの形状および被削材等により定まり、シミュレーション結果または実加工時のひずみセンサ20による計測結果に基づいて把握することができる。
たとえば、生成部120は、センサ計測値sa,sb,scに基づいて、当該切削抵抗作用面内において切削工具101が受けるX方向の荷重FxおよびY方向の荷重Fyを示す2次元データDを生成する。また、たとえば、生成部120は、センサ計測値sa,sb,scに基づいて、Z方向の荷重FzおよびZ方向周りのモーメントMzを算出する。
より詳細には、記憶部140は、センサ計測値sa,sb,scを荷重Fx,Fy,Fzに変換するための変換式およびセンサ計測値sa,sb,scをモーメントMzに変換するための変換式を記憶している。たとえば、これらの変換式は、特許文献5および6等に記載の技術を用いて予め作成される。より詳細には、これらの変換式は、切削工具101に既知の荷重を加えたときに得られるセンサ計測値sa,sb,scに基づいて予め作成される変換行列である。
生成部120は、記憶部140におけるセンサ計測値sa,sb,scおよび変換行列に基づいて、荷重Fx,Fy,FzおよびモーメントMzを算出する。
生成部120は、荷重Fx,Fy,FzおよびモーメントMzの算出を順次行う。より詳細には、生成部120は、無線通信部110によりセンサ計測値sa,sb,scが記憶部140に保存されるたびに、荷重Fx,Fy,FzおよびモーメントMzを算出し、算出した荷重Fx,Fyを2次元データDとして記憶部140に保存するとともに、算出した荷重FzおよびモーメントMzを記憶部140に保存する。
なお、生成部120は、変換行列を用いることなく、センサ計測値sa,sb,scに基づいて、ひずみセンサ20Aが設けられた位置におけるせん断ひずみε、およびひずみセンサ20Bが設けられた位置におけるせん断ひずみεを示す2次元データDを生成する構成であってもよい。
図6A、図6Bおよび図6Cは、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切り取り厚さのシミュレーション結果の一例を示す図である。図6A、図6Bおよび図6Cにおいて、横軸は切削工具101の回転角[degree]であり、縦軸は回転軸17に垂直な方向すなわち半径方向における切削対象物の切り取り厚さ[mm]を示している。図6Aにおける破線は、チップ14Aによる切削対象物の切り取り厚さKaを示している。図6Bにおける一点鎖線は、チップ14Bによる切削対象物の切り取り厚さKbを示している。図6Cにおける二点鎖線は、チップ14Cによる切削対象物の切り取り厚さKcを示している。
図7A、図7Bおよび図7Cは、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切削断面積のシミュレーション結果の一例を示す図である。図7A、図7Bおよび図7Cにおいて、横軸は切削工具101の回転角[degree]であり、縦軸は切削対象物の切削断面積[mm^2]を示している。図7Aにおける破線は、チップ14Aによる切削対象物の切削断面積Aaを示している。図7Bにおける一点鎖線は、チップ14Bによる切削対象物の切削断面積Abを示している。図7Cにおける二点鎖線は、チップ14Cによる切削対象物の切削断面積Acを示している。
図6A、図6B、図6C、図7A、図7Bおよび図7Cを参照して、切削工具101を用いた理想的な穴あけ加工では、すべてのチップ14の切り取り厚さKa,Kb,Kcおよび切削断面積Aa,Ab,Acが、互いに等しく、かつ時間的に変化しない。この場合、チップ14Aに加わる切削抵抗FAのベクトルVA、チップ14Bに加わる切削抵抗FBのベクトルVBおよびチップ14Cに加わる切削抵抗FCのベクトルVCはキャンセルして相殺され、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVはゼロになる。
図8は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データのシミュレーション結果の一例を示す図である。図8は、図6A、図6B、図6C、図7A、図7Bおよび図7Cに示すような理想的な穴あけ加工を行った場合における360個の2次元データDのシミュレーション結果を、縦軸が荷重Fy[N]であり、横軸が荷重Fx[N]であり、かつ回転軸17を原点とする2次元座標TDC上に示している。
図8では、説明のため、チップ14Aが受けるX方向の荷重FaxおよびY方向の荷重Fayを示す2次元データDa、チップ14Bが受けるX方向の荷重FbxおよびY方向の荷重Fbyを示す2次元データDb、およびチップ14Cが受けるX方向の荷重FcxおよびY方向の荷重Fcyを示す2次元データDcを2次元座標TDC上に示している。生成部120は、センサ計測値sa,sb,scに基づいて2次元データDを生成する一方、2次元データDa,Db,Dcを生成しない。
図8を参照して、上述したように、切削工具101による理想的な穴あけ加工が行われた場合、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVはゼロになるので、切削工具101が受ける荷重Fx,Fyはゼロになり、2次元データDは2次元座標TDCにおいて原点に位置する。
<処理部>
処理部130は、生成部120により生成された各2次元データDに基づいて、切削工具101による切削加工に関する異常を検知する検知処理を行う。
たとえば、処理部130は、生成部120により記憶部140に保存された複数の2次元データDの代表値たとえば移動平均Daveを算出する。処理部130は、切削工具101が1回転する間のセンサ計測値sa,sb,scに基づく2次元データDの数よりも多くの数の2次元データDを用いて当該移動平均Daveを算出する。具体的には、処理部130は、たとえば10000個の2次元データDの移動平均Daveを算出する。
処理部130は、所定の算出周期で、記憶部140における直近の10000個の2次元データDの移動平均Daveを算出し、算出した移動平均Daveを記憶部140に保存する。
処理部130は、記憶部140における2次元データDおよび移動平均Daveに基づいて検知処理を行う。
(切削加工に関する異常の分類)
たとえば、処理部130は、切削工具101に関する、切削加工の準備段階において生じる種類の異常である準備段階異常A1を検知する。このような構成により、発生し得る複数種類の異常のうち、刃振れ等の切削加工の準備段階において生じる異常を検知することができる。準備段階異常A1は、第1の異常の一例である。
より詳細には、処理部130は、準備段階異常A1として、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常のうち、切削加工の準備段階において発生し得る異常を検知する。具体的には、処理部130は、準備段階異常A1として、刃振れに起因する異常、切削工具101の送り速度等の加工条件に起因する異常、工具ホルダ210の剛性の不均一に起因する異常、および切削工具101の軸と主軸220とのずれに起因する異常を検知する。
また、たとえば、処理部130は、切削対象物、切削工具100が取り付けられる工作機械および切削加工に用いられる治具のうちの少なくともいずれか1つに関する種類の異常である工作機械系異常A2を検知する。このような構成により、発生し得る複数種類の異常のうち、切削対象物、工作機械および治具に関する異常を検知することができる。工作機械系異常A2は、第2の異常の一例である。
より詳細には、処理部130は、工作機械系異常A2として、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を検知する。具体的には、処理部130は、工作機械系異常A2として、切削対象物の下穴と工作機械の主軸220とのずれである芯ずれに起因する異常、切削対象物の下穴の円筒度に起因する異常、切削対象物の剛性の不均一に起因する異常、および切削対象物を固定する治具の剛性の不均一に起因する異常を検知する。
また、たとえば、処理部130は、切削工具101に関する、切削加工の実行段階において生じる種類の異常である実行段階異常A3を検知する。このような構成により、発生し得る複数種類の異常のうち、切刃Cの欠損等の切削加工の実行段階において生じる異常を検知することができる。実行段階異常A3は、第3の異常の一例である。
より詳細には、処理部130は、実行段階異常A3として、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常のうち、切削加工の実行段階において発生し得る異常を検知する。具体的には、処理部130は、実行段階異常A3として、切刃の欠損、および切刃の摩耗量のバラつきを検知する。
(異常発生時の2次元データDの例1)
図9A、図9Bおよび図9Cは、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切り取り厚さのシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図10A、図10Bおよび図10Cは、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切削断面積のシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図9A、図9Bおよび図9Cの見方は、図6Aと同じである。図10A、図10Bおよび図10Cの見方は、図7Aと同じである。図9A、図9B、図9C、図10A、図10Bおよび図10Cは、回転軸17方向における切刃CCの位置が切刃CA,CBの位置よりも高く、かつ半径方向における回転軸17から切刃CCまでの距離が回転軸17から切刃CA,CBまでの距離よりも短い場合、すなわち刃振れによりチップ14Cの切刃CCが回転軸17方向および半径方向に引っ込んでいる場合のシミュレーション結果を示している。
図9A、図9B、図9C、図10A、図10Bおよび図10Cを参照して、刃振れ等の切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態、具体的にはチップ14Cの切刃CCが回転軸17方向および半径方向に引っ込んでいる状態における穴あけ加工では、切り取り厚さKcが取り厚さKa,Kbよりも小さく、かつ切削断面積Aa,Ab,Acが互いに異なる。
具体的には、回転軸17方向および半径方向に引っ込んでいる切刃CCに対応するチップ14Cの切削断面積Acが、チップ14Bの切削断面積Abよりも小さい。また、切削工具101の回転方向に沿ってチップ14Cの隣に位置するチップ14Aの切削断面積Aaが、チップ14Bの切削断面積Abよりも大きい。
この場合、チップ14Aに加わる切削抵抗FAのベクトルVA、チップ14Bに加わる切削抵抗FBのベクトルVBおよびチップ14Cに加わる切削抵抗FCのベクトルVCは相殺されないので、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVはゼロにならない。
図11は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データのシミュレーション結果の他の例を示す図である。図11は、上述のような刃振れが発生している状態で穴あけ加工を行った場合における360個の2次元データDのシミュレーション結果を2次元座標TDC上に示している。図11では、図8と同様に、説明のため、2次元データDa,Db,Dcを2次元座標TDC上に示している。
図11を参照して、上述したように、刃振れ等の切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態において穴あけ加工が行われた場合、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVはゼロにならない。したがって、切削工具101が受ける荷重Fx,Fyはゼロにならないので、2次元データDの移動平均Daveは2次元座標TDCにおいて原点からずれたところに位置する。
ここで、2次元データDの移動平均Daveは、2次元座標TDCにおいて、原点から、当該異常の発生要因である切刃Cに応じた方向にずれたところに位置する。より詳細には、上述したように、切刃CCが回転軸17方向および半径方向に引っ込んでいる場合、チップ14Cの切削断面積Acがチップ14Bの切削断面積Abよりも小さく、かつ、チップ14Aの切削断面積Aaがチップ14Bの切削断面積Abよりも大きい。したがって、ベクトルVCはベクトルVBよりも小さく、かつベクトルVAはベクトルVBよりも大きい。この場合、2次元データDの移動平均Daveは、2次元座標TDCにおいて、原点から、2次元データDa側かつ2次元データDcとは反対側にずれたところに位置する。
(異常発生時の2次元データの例2)
図12は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切り取り厚さのシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図13は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切削断面積のシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図12および図13の見方は、図6Aおよび図7Aとそれぞれ同じである。図12および図13は芯ずれが生じている場合のシミュレーション結果を示している。なお、図12では、図6A,6B,6Cとは異なり、切り取り厚さKa,Kb,Kcを1つのグラフにまとめて図示している。また、図13では、図7A,7B,7Cとは異なり、切削断面積Aa,Ab,Acを1つのグラフにまとめて図示している。
図12および図13を参照して、芯ずれ等の工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態における穴あけ加工では、切り取り厚さKa,Kb,Kcおよび切削断面積Aa,Ab,Acが、切削工具101の回転周期に従って、互いに異なる位相で周期的に変化する。
この場合、ベクトルVA,VB,VCは、切削工具101の回転周期に従って周期的に変化する。したがって、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVもまた、切削工具101の回転周期に従って周期的に変化する。
図14は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データのシミュレーション結果の他の例を示す図である。図14は、上述のような芯ずれが発生している状態で穴あけ加工を行った場合における360個の2次元データDのシミュレーション結果を2次元座標TDC上に示している。図14では、図8と同様に、説明のため、2次元データDa,Db,Dcを2次元座標TDC上に示している。
図14を参照して、上述したように、芯ずれ等の工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態において穴あけ加工が行われた場合、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVは周期的に変化する。したがって、切削工具101が受ける荷重Fx,Fyは周期的に変化するので、2次元データDは2次元座標TDCにおいて楕円上に位置する。
(異常発生時の2次元データの例3)
図15は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切り取り厚さのシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図16は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切削断面積のシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図15および図16の見方は、図12および図13とそれぞれ同じである。図15および図16は、上述のような刃振れおよび芯ずれが生じている場合のシミュレーション結果を示している。
図15および図16を参照して、刃振れ等の切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常、および芯ずれ等の工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態における穴あけ加工では、切り取り厚さKa,Kb,Kcが、切削工具101の回転周期に従って、互いに異なる位相で周期的に変化し、かつ切り取り厚さKa,Kbと切り取り厚さKcとが互いに異なる振幅のオフセットを有する。また、切削断面積Aa,Ab,Acが、切削工具101の回転周期に従って、互いに異なる位相で周期的に変化し、かつ互いに異なる振幅のオフセットを有する。
具体的には、切削断面積Aa,Ab,Acが、それぞれ異なる位相で周期的に変化する。また、切削断面積Acの平均値が切削断面積Abの平均値よりも小さく、切削断面積Aaの平均値が切削断面積Abの平均値よりも大きい。
この場合、上述したように、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVは、切削工具101の回転周期に従って周期的に変化する。また、合成ベクトルVの平均値はゼロにならない。
図17は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データのシミュレーション結果の他の例を示す図である。図17は、上述のような刃振れおよび芯ずれが発生している状態で穴あけ加工を行った場合における360個の2次元データDのシミュレーション結果を2次元座標TDC上に示している。図17では、図8と同様に、説明のため、2次元データDa,Db,Dcを2次元座標TDC上に示している。
図17を参照して、上述したように、刃振れ等の切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常、および芯ずれ等の工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態において穴あけ加工が行われた場合、合成ベクトルVは周期的に変化し、かつ合成ベクトルVの平均値はゼロにならない。したがって、切削工具101が受ける荷重Fx,Fyもまた周期的に変化し、かつ荷重Fxの平均値および荷重Fyの平均値はゼロにならないので、2次元データDの移動平均Daveは原点からずれたところに位置し、かつ各2次元データDは当該移動平均Daveを中心とする楕円上に位置する。
図18および図19は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データの他の例を示す図である。図18は、刃振れが発生している状態で実際に穴あけ加工を行った場合における800個の2次元データDの実測値を2次元座標TDC上に示している。図19は、図18の状態において0.1mmの芯ずれを発生させた状態で実際に穴あけ加工を行った場合における800個の2次元データDの実測値を2次元座標TDC上に示している。
図18および図19を参照して、0.1mmの芯ずれを発生させることにより、2次元座標TDCのY軸方向における2次元データDのバラつきが、約10Nから約25Nに増大し、X軸方向における2次元データDのバラつきが、約10Nから約20Nに増大した。これは、芯ずれが発生している状態において荷重Fx,Fyが周期的に変化することを示すシミュレーション結果と一致している。
(異常発生時の2次元データの例4)
図20は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切り取り厚さのシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図21は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃による切削対象物の切削断面積のシミュレーション結果の他の例を示す図である。
図20および図21の見方は、図12および図13とそれぞれ同じである。図20および図21は、図15および図16に示すように刃振れおよび芯ずれが生じている場合において、さらに切削加工中に切刃CAの欠損が生じることにより回転軸17方向における切刃CAの位置が切刃CB,CCの位置よりも高くなった場合、すなわち切刃CAが回転軸17方向に引っ込んだ場合のシミュレーション結果を示している。
図20および図21を参照して、穴あけ加工中に切刃Cの欠損等の切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生すると、切削断面積Aa,Ab,Acの振幅のオフセットが変化することにより、切削断面積Aa,Ab,Acの平均値が変化する。具体的には、切刃CAが回転軸17方向に引っ込むことにより、切り取り厚さKa,Kb,Kcは変化しない一方で、切削断面積Aa,Ab,Acの平均値が変化する。
具体的には、図21に示す、欠損が生じた切刃CAに対応するチップ14Aの切削断面積Aaが、図16に示す、欠損が生じる前の状態における切削断面積Aaと比べて小さい。また、図21に示す、切削工具101の回転方向に沿ってチップ14Aの隣に位置するチップ14Bの切削断面積Abが、図16に示す、切刃CAの欠損が生じる前の状態における切削断面積Abと比べて大きい。
この場合、切刃CAの欠損が生じる前後で、ベクトルVA,VBが変化するので、ベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVもまた変化する。
図22は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データのシミュレーション結果の他の例を示す図である。図22は、上述のような切刃CAに欠損が生じた場合における360個の2次元データDのシミュレーション結果を2次元座標TDC上に示している。図22では、図8と同様に、説明のため、2次元データDa,Db,Dcを2次元座標TDC上に示している。
図17および図22を参照して、上述したように、切刃CAの欠損が生じる前後でベクトルVA,VB,VCの合成ベクトルVが変化するので、切削工具101が受ける荷重Fx,Fyもまた変化し、2次元データDおよび移動平均Daveもまた変化する。
ここで、2次元データDの移動平均Daveの位置は、2次元座標TDCにおいて、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常の発生要因である切刃Cに応じた方向に移動する。より詳細には、上述したように、切刃CAの欠損が生じた場合、チップ14Aの切削断面積Aaが小さくなり、かつチップ14Bの切削断面積Abが大きくなる。したがって、切刃CAの欠損が生じることにより、ベクトルVAは小さくなり、かつベクトルVBは大きくなる。この場合、2次元データDの移動平均Daveの位置は、切刃CAの欠損が生じることにより、2次元座標TDCにおいて、2次元データDb側かつ2次元データDaとは反対側に移動する。
(検知処理の具体例)
(準備段階異常A1)
図23は、本開示の実施の形態に係る処理装置の処理部による検知処理の一例を示す図である。図23は、許容可能なレベルの芯ずれおよび許容できないレベルの刃振れが発生している状態で穴あけ加工を行った場合に生成される2次元データDおよび移動平均Daveのシミュレーション結果を示している。
図23を参照して、たとえば、処理部130は、2次元座標TDC上にプロットされた移動平均Daveと原点との位置関係に基づいて、準備段階異常A1を検知する。より詳細には、処理部130は、2次元座標TDC上における移動平均Daveと原点との間の距離d1に基づいて、準備段階異常A1を検知する。
上述したように、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態において穴あけ加工が行われた場合、2次元データDの移動平均Daveは2次元座標TDCにおいて原点からずれたところに位置するので、移動平均Daveと原点との位置関係に着目することにより、準備段階異常A1を検知することができる。したがって、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常のうちの切削加工の開始前に発生し得る異常を、他の異常と区別して準備段階異常A1として検知することができる。
より詳細には、記憶部140は、距離d1に対して設定されるしきい値Thr1を記憶している。
たとえば、処理部130は、切削加工開始後に初めて算出した移動平均Daveである移動平均Dave1の絶対値を距離d1として算出し、当該距離d1と記憶部140におけるしきい値Thr1とを比較する。処理部130は、当該距離d1がしきい値Thr1以下である場合、準備段階異常A1が発生していないと判断する一方で、当該距離d1がしきい値Thr1を超えた場合、準備段階異常A1が発生していると判断する。
すなわち、処理部130は、移動平均Dave1の2次元座標TDC上における位置が、中心が原点であり、かつ半径がしきい値Thr1である円R1の上または円R1の内側である場合、準備段階異常A1が発生していないと判断する。一方、処理部130は、移動平均Dave1の位置が円R1の外側である場合、準備段階異常A1が発生していると判断する。
たとえば、しきい値Thr1は、穴あけ加工における公差範囲に応じて予め設定される。より詳細には、しきい値Thr1は、切削工具101の剛性、工具ホルダ210の剛性および主軸220の剛性と、公差範囲に応じて定まる切刃Cの位置ずれ許容範囲とを用いた演算により定まる合成ベクトルVの許容範囲に基づいて、切削システム301のユーザにより予め設定される。切削工具101の剛性、工具ホルダ210の剛性および主軸220の剛性は、実測またはシミュレーションにより得られる。
たとえば、処理部130は、準備段階異常A1を検知した場合、2次元座標TDCの原点および移動平均Dave1を通る直線と、2次元座標TDCにおける座標軸たとえば横軸との間の角度θ1に基づいて、切刃Cのうちの準備段階異常A1の発生要因である切刃Cを特定する。
上述したように、2次元データDの移動平均Daveは、2次元座標TDCにおいて、原点から、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常の発生要因である切刃C、に応じた方向にずれたところに位置するので、角度θ1に着目することにより、準備段階異常A1の発生要因である切刃Cを特定することができる。したがって、準備段階異常A1が発生した際、準備段階異常A1の発生要因である切刃Cを交換する等の対処を容易に行うことができる。
より詳細には、記憶部140は、たとえば、切刃Cと、切刃Cに刃振れが生じている場合における角度θ1の範囲との対応関係を示す刃振れデータベースを記憶している。
処理部130は、準備段階異常A1が発生していると判断した場合、記憶部140における刃振れデータベースおよび角度θ1に基づいて、準備段階異常A1の発生要因である切刃Cとして、刃振れが生じている切刃Cを特定する。
たとえば、刃振れデータベースは、切刃Cに刃振れが生じた場合における2次元データDのシミュレーション結果、または切刃Cに刃振れが生じた場合における2次元データDの実測値に基づいて、切削システム301のユーザにより予め生成される。
(工作機械系異常A2)
図24は、本開示の実施の形態に係る処理装置の処理部による検知処理の一例を示す図である。図24は、許容可能なレベルの刃振れおよび芯ずれが発生している状態で穴あけ加工を行った場合に生成される2次元データDおよび移動平均Daveのシミュレーション結果を示している。
図24を参照して、たとえば、処理部130は、第1の期間における複数の計測時点に対応する複数の2次元データDの移動平均Daveと、第1の期間の開始時刻以降の計測時点に対応する2次元データDとの比較結果に基づいて、工作機械系異常A2を検知する。
上述したように、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生している状態において穴あけ加工が行われた場合、2次元データDは2次元座標TDCにおいて楕円上に位置し、または2次元データDのバラつきが増大するので、移動平均Daveと2次元データDとの比較結果に着目することにより、工作機械系異常A2を検知することができる。したがって、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を、他の異常と区別して工作機械系異常A2として検知することができる。
より詳細には、記憶部140は、移動平均Daveと2次元データDとの間の距離d2に対して設定されるしきい値Thr2を記憶している。
たとえば、処理部130は、算出周期に従う算出タイミングにおいて移動平均Daveを算出すると、算出した移動平均Daveと、当該算出タイミング以降に生成部120により記憶部140に保存された2次元データDとの差分の絶対値を距離d2として算出し、当該距離d2と記憶部140におけるしきい値Thr2とを比較する。処理部130は、当該距離d2がしきい値Thr2以下である場合、工作機械系異常A2が発生していないと判断する一方で、当該距離d2がしきい値Thr2を超えた場合、工作機械系異常A2が発生していると判断する。
すなわち、処理部130は、生成部120により新たに生成された2次元データDの2次元座標TDC上における位置が、中心が移動平均Daveであり、かつ半径がしきい値Thr2である円R2の上または円R2の内側である場合、工作機械系異常A2が発生していないと判断する。一方、処理部130は、2次元データDの位置が円R2の外側である場合、工作機械系異常A2が発生していると判断する。
ただし、上述したように、2次元データDは、たとえば切削加工中に切刃Cの欠損が発生することによっても変化する。
したがって、処理部130は、算出周期に従う最新の算出タイミングで算出した移動平均Daveを工作機械系異常A2の検知処理に用いる。すなわち、処理部130は、算出タイミングにおいて移動平均Daveを算出するたびに、工作機械系異常A2の検知処理に用いる移動平均Daveを更新する。具体的には、処理部130は、移動平均Daveを算出して記憶部140に保存すると、当該移動平均Daveを、工作機械系異常A2の検知処理に用いる移動平均Daveとして設定する。
具体的には、たとえば、処理部130は、算出周期に従う最新の算出タイミングで算出した移動平均Daveと、当該算出タイミング以降に生成部120により記憶部140に保存された2次元データDとを用いて距離d2を算出し、当該距離d2と記憶部140におけるしきい値Thr2との比較結果に基づいて、工作機械系異常A2の検知処理を行う。これにより、工作機械系異常A2を実行段階異常A3と区別して検知することができる。
しきい値Thr2は、切削対象物の異方性、芯ずれおよび加工条件等の組み合わせに応じて定まる値である。たとえば、しきい値Thr2は、テスト加工の結果またはシミュレーション結果に基づいて切削システム301のユーザにより予め設定される。具体的には、たとえば、しきい値Thr2は、意図的に芯ずれ等の異常を発生させた状態におけるテスト加工を行ったときに算出される距離d2に基づいて設定される。あるいは、しきい値Thr2は、芯ずれ等の異常を発生させた状態における距離d2のシミュレーション結果に基づいて設定される。
(実行段階異常A3)
図25は、本開示の実施の形態に係る処理装置の処理部による検知処理の一例を示す図である。図25は、許容可能なレベルの刃振れおよび芯ずれが発生している状態で穴あけ加工を行った場合に生成される2次元データDおよび移動平均Daveのシミュレーション結果を示している。
図25を参照して、たとえば、処理部130は、移動平均Daveの時間変化に基づいて、実行段階異常A3を検知する。
上述したように、切削加工中において切刃Cの欠損等の切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常が発生した場合、移動平均Daveが変化するので、移動平均Daveの時間変化に着目することにより、実行段階異常A3を検知することができる。したがって、切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する異常のうちの切削加工中に発生し得る異常を、他の異常と区別して実行段階異常A3として検知することができる。
より詳細には、記憶部140は、移動平均Daveと移動平均Dave1との間の距離d3に対して設定されるしきい値Thr3を記憶している。
たとえば、処理部130は、算出周期に従う算出タイミングにおいて移動平均Daveを算出すると、算出した移動平均Daveと移動平均Dave1との差分の絶対値を距離d3として算出し、当該距離d3と記憶部140におけるしきい値Thr3とを比較する。処理部130は、当該距離d3がしきい値Thr3以下である場合、実行段階異常A3が発生していないと判断する一方で、当該距離d3がしきい値Thr3を超えた場合、実行段階異常A3が発生していると判断する。
すなわち、処理部130は、算出した移動平均Daveの2次元座標TDC上における位置が、中心が移動平均Dave1であり、かつ半径がしきい値Thr3である円R3の上または円R3の内側である場合、実行段階異常A3が発生していないと判断する。一方、処理部130は、移動平均Daveの位置が円R3の外側である場合、実行段階異常A3が発生していると判断する。
しきい値Thr3は、切刃Cの欠損の有無および摩耗量の組み合わせに応じて定まる値である。たとえば、しきい値Thr3は、テスト加工の結果またはシミュレーション結果に基づいて切削システム301のユーザにより予め設定される。具体的には、たとえば、しきい値Thr3は、意図的に欠損等の異常を発生させた状態におけるテスト加工を行ったときに算出される距離d3に基づいて設定される。あるいは、しきい値Thr3は、欠損等の異常を発生させた状態における距離d3のシミュレーション結果に基づいて設定される。
たとえば、処理部130は、実行段階異常A3を検知した場合、2次元座標TDCにおける移動平均Daveの時間変化の方向に基づいて、切刃Cのうちの実行段階異常A3の発生要因である切刃Cを特定する。より詳細には、処理部130は、移動平均Daveおよび移動平均Dave1を通る直線と、2次元座標TDCにおける座標軸たとえば横軸との間の角度θ2に基づいて、切刃Cのうちの実行段階異常A3の発生要因である切刃Cを特定する。
上述したように、2次元データDの移動平均Daveの位置は、2次元座標TDCにおいて、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常の発生要因である切刃C、に応じた方向に移動するので、移動平均Daveの時間変化の方向に着目することにより、実行段階異常A3の発生要因である切刃Cを特定することができる。したがって、実行段階異常A3が発生した際、実行段階異常A3の発生要因である切刃Cを交換する等の対処を容易に行うことができる。
より詳細には、記憶部140は、たとえば、切刃Cと、切刃Cに欠損が生じている場合における角度θ2の範囲との対応関係を示す欠損データベースを記憶している。
処理部130は、実行段階異常A2が発生していると判断した場合、記憶部140における欠損データベースおよび角度θ2に基づいて、実行段階異常A3の発生要因である切刃Cとして、欠損が生じている切刃Cを特定する。
たとえば、欠損データベースは、切刃Cに欠損が生じた場合における2次元データDのシミュレーション結果、または切刃Cに欠損が生じた場合における2次元データDの実測値に基づいて、切削システム301のユーザにより予め生成される。
なお、記憶部140は、欠損データベースとして、上述した刃振れデータベースを記憶している構成であってもよい。すなわち、欠損データベースは刃振れデータベースと同一であってもよい。
(加工精度に関する異常A4)
図26は、本開示の実施の形態に係る処理装置の処理部による検知処理の一例を示す図である。図26は、許容可能なレベルの刃振れおよび芯ずれが発生している状態で穴あけ加工を行った場合に生成される2次元データDのシミュレーション結果を示している。
図26を参照して、たとえば、処理部130は、2次元データDと原点との位置関係に基づいて、加工精度に関する異常A4を検知する。より詳細には、処理部130は、2次元データDと原点との間の距離d4に基づいて、加工精度に関する異常A4を検知する。処理部130は、加工精度に関する異常A4として、切削加工により切削対象物に開けられた穴の、直径および内壁の形状精度に関する異常を検知する。
より詳細には、記憶部140は、2次元データDと原点との間の距離d4に対して設定されるしきい値Thr4を記憶している。
たとえば、処理部130は、生成部120により記憶部140に2次元データDが保存されると、当該2次元データの絶対値を距離d4として算出し、当該距離d4と記憶部140におけるしきい値Thr4とを比較する。処理部130は、当該距離d4がしきい値Thr4以下である場合、加工精度に関する異常A4が発生していないと判断する一方で、当該距離d4がしきい値Thr4を超えた場合、加工精度に関する異常A4が発生していると判断する。
すなわち、処理部130は、2次元データDの2次元座標TDC上における位置が、中心が原点であり、かつ半径がしきい値Thr4である円R4の上または円R4の内側である場合、加工精度に関する異常A4が発生していないと判断する。一方、処理部130は、2次元データDの位置が円R4の外側である場合、加工精度に関する異常A4が発生していると判断する。
たとえば、しきい値Thr4は、しきい値Thr1よりも大きい。たとえば、しきい値Thr4は、穴あけ加工における公差範囲に応じて予め設定される。より詳細には、しきい値Thr4は、切削工具101の剛性、工具ホルダ210の剛性および主軸220の剛性と、公差範囲に応じて定まる切刃Cの位置ずれ許容範囲とを用いた演算により定まる合成ベクトルVの許容範囲に基づいて、切削システム301のユーザにより予め設定される。切削工具101の剛性、工具ホルダ210の剛性および主軸220の剛性は、実測またはシミュレーションにより得られる。
なお、処理部130は、準備段階異常A1、工作機械系異常A2、実行段階異常A3および加工精度に関する異常A4のうちの一部または全部の検知を行わない構成であってもよい。また、処理部130は、移動平均Daveの単位時間あたりの変化量に基づいて、切削加工に関する異常の検知を行う構成であってもよい。たとえば、処理部130は、準備段階異常A1、工作機械系異常A2、実行段階異常A3および加工精度に関する異常A4の検知を行わない場合、移動平均Daveの単位時間あたりの変化量に基づいて、切削加工に関する異常の検知を行う。
(表示処理)
図27は、本開示の実施の形態に係る処理装置における表示部に表示される表示画面の一例を示す図である。
図27を参照して、処理部130は、生成した各2次元データDと、各2次元データを用いた切削加工の評価に用いる評価基準とを表示する処理を行う。より詳細には、処理部130は、2次元データDおよび移動平均Daveをプロットした1または複数の2次元座標TDCを含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う。
たとえば、処理部130は、評価基準として、準備段階異常A1の判定に用いる判定基準を表示する処理を行う。より詳細には、処理部130は、準備段階異常A1の判定に用いる判定基準を示す円R1と、移動平均Dave1とを含む2次元座標TDCである2次元座標TDC1を表示部150に表示する処理を行う。このような構成により、準備段階異常A1を判定するための評価基準および2次元データDを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。処理部130は、準備段階異常A1の判定が終わった後、円R1と、準備段階異常A1の判定に用いた移動平均Dave1および2次元データDとを含む2次元座標TDC1を表示し続けてもよいし、2次元座標TDC1の表示を終了してもよい。
たとえば、処理部130は、評価基準として、工作機械系異常A2の判定に用いる判定基準を表示する処理を行う。より詳細には、処理部130は、工作機械系異常A2の判定に用いる判定基準を示す円R2と、2次元データDとを含む2次元座標TDCである2次元座標TDC2を表示部150に表示する処理を行う。このような構成により、工作機械系異常A2を判定するための評価基準および2次元データDを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。処理部130は、たとえば、生成部120により新たな2次元データDが記憶部140に保存されるたびに、記憶部140に保存された当該2次元データDにより2次元座標TDC2を更新する。
たとえば、処理部130は、評価基準として、実行段階異常A3の判定に用いる判定基準を表示する処理を行う。より詳細には、処理部130は、実行段階異常A3の判定に用いる判定基準を示す円R3と、移動平均Daveとを含む2次元座標TDCである2次元座標TDC3を表示部150に表示する処理を行う。このような構成により、実行段階異常A3に関する評価基準および2次元データDを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。処理部130は、たとえば、生成部120により新たな2次元データDが記憶部140に保存されるたびに、記憶部140に保存された当該2次元データDおよび移動平均Daveにより2次元座標TDC3を更新する。
たとえば、処理部130は、円R1,R2,R3,R4を用いた判定結果を表示する処理を行う。より詳細には、判定結果を示すテキストボックスTxを表示部150に表示する処理を行う。このような構成により、切削加工に関する各種異常の有無をユーザに認識させることができる。
たとえば、処理部130は、回転軸17の方向の負荷に関するデータをさらに表示する処理を行う。より詳細には、処理部130は、記憶部140から荷重Fzを取得し、取得した荷重Fzの時間変化を示すグラフG1を表示部150に表示する処理を行う。また、処理部130は、記憶部140からモーメントMzを取得し、取得したモーメントMzの時間変化を示すグラフG2を表示部150に表示する処理を行う。このような構成により、切削加工が実際に行われているか否かをユーザに認識させることができる。
処理部130は、生成部120により記憶部140に荷重FzおよびモーメントMzが保存されるたびに、表示部150におけるグラフG1,G2を更新する。
[動作の流れ]
本開示の実施の形態に係る切削システムにおける各装置は、メモリを含むコンピュータを備え、当該コンピュータにおけるCPU等の演算処理部は、以下のフローチャートおよびシーケンスの各ステップの一部または全部を含むプログラムを当該メモリから読み出して実行する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、HDD(Hard Disk Drive)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)および半導体メモリ等の記録媒体に格納された状態で流通する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、外部からインストールすることができる。たとえば、これら複数の装置のプログラムは、上記記録媒体からインストールすることができる。また、たとえば、これら複数の装置のプログラムは、所定のサーバ等から、電気通信回線、無線通信回線、有線通信回線、およびインターネットを代表とするネットワークを経由してダウンロードし、インストールすることができる。また、たとえば、これら複数の装置のプログラムは、所定のサーバ等からデータ放送等によりダウンロードし、インストールすることができる。
図28は、本開示の実施の形態に係る切削システムにおける処理装置が切削加工に関する異常を検知する際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
図28を参照して、まず、処理装置201は、切削工具101における無線通信装置23からの無線信号を待ち受け(ステップS102でNO)、無線信号を受信すると(ステップS102でYES)、受信した無線信号からセンサ計測値sa,sb,scおよび識別情報を取得する(ステップS104)。
次に、処理装置201は、取得したセンサ計測値sa,sb,scおよび記憶部140における変換行列に基づいて、荷重Fz,Fyを示す2次元データDを生成する(ステップS106)。
次に、処理装置201は、移動平均Daveの算出タイミングではない場合(ステップS108でNO)、生成した2次元データDに基づいて検知処理を行う。より詳細には、2次元データDと円R2とを用いて工作機械系異常A2を検知し、2次元データDと円R4とを用いて加工精度に関する異常A4を検知する(ステップS112)。
一方、処理装置201は、移動平均Daveの算出タイミングである場合(ステップS108でYES)、記憶部140における複数の2次元データDの移動平均Daveを算出する(ステップS110)。
次に、処理装置201は、生成した2次元データDおよび算出した移動平均Daveに基づいて検知処理を行う。より詳細には、移動平均Dave1と円R1とを用いて準備段階異常A1を検知し、2次元データDと円R2とを用いて工作機械系異常A2を検知し、移動平均Daveと円R3とを用いて実行段階異常A3を検知し、2次元データDと円R4とを用いて加工精度に関する異常A4を検知する(ステップS112)。
次に、処理装置201は、2次元座標TDC1,TDC2,TDC3、グラフG1,G2およびテキストボックスTxを含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う(ステップS114)。
次に、処理装置201は、切削工具101における無線通信装置23からの新たな無線信号を待ち受ける(ステップS102でNO)。
なお、上記ステップS112およびステップS114の順番は、上記に限らず、順番を入れ替えてもよい。また、上記ステップS112およびステップS114のいずれか一方を行わなくてもよい。
図29は、本開示の実施の形態に係る切削システムにおける検知処理および表示処理のシーケンスの一例を示す図である。
図29を参照して、まず、切削工具101は、2以上の切刃を用いた切削加工を開始する(ステップS202)。
次に、切削工具101に設けられたひずみセンサ20は、シャフト部10のせん断ひずみεの計測を開始する(ステップS204)。
次に、切削工具101は、ひずみセンサ20からのアナログ信号に基づくセンサ計測値sa,sb,scを無線信号に含めて処理装置201へ送信する(ステップS206)。
次に、処理装置201は、切削工具101から受信した無線信号からセンサ計測値sa,sb,scを取得し、取得したセンサ計測値sa,sb,scおよび記憶部140における変換行列に基づいて、荷重Fx,Fyを示す2次元データDを生成する(ステップS208)。
次に、処理装置201は、検知処理を行う(ステップS210)。
次に、処理装置201は、表示処理を行う(ステップS212)。
次に、切削工具101は、ひずみセンサ20からのアナログ信号に基づく新たなセンサ計測値sa,sb,scを無線信号に含めて処理装置201へ送信する(ステップS214)。
ところで、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することが可能な技術が望まれる。たとえば、特許文献1には、モータの駆動電流に基づいて回転刃具の寿命を予測することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、たとえば小径の切削工具を用いる場合において、モータの駆動電流に含まれるノイズの影響により、回転刃具の寿命を正確に予測することが困難な場合がある。また、特許文献1に記載の技術では、1次元データである駆動電流の変化量に基づいて寿命を予測するというものであり、たとえば穴あけ加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することは困難である。特許文献2~4に記載の技術もまた、たとえば穴あけ加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することは困難である。
これに対して、穴あけ加工用の切削工具101に取り付けられたひずみセンサ20の計測結果に基づいて、当該切削工具101の回転軸17と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データDを生成し、生成した各2次元データDに基づいて、切削加工に関する異常を検知する構成および方法により、たとえば、生成した2次元データDが理想値と異なる異常値であった場合に、切削工具101の座標系に対応付けられる要因と、工作機械の座標系に対応付けられる要因とに切り分けて解析することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとに異常の有無を判定することができる。
また、穴あけ加工用の切削工具101に取り付けられたひずみセンサ20の計測結果に基づいて、当該切削工具101の回転軸17と垂直な平面内における負荷に関する複数の2次元データDを生成し、生成した各2次元データDおよび評価基準を表示する構成および方法により、たとえば、切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準と、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常を判定するための評価基準とを表示することができるため、切削加工に関する複数種類の異常が発生し得る場合において、異常の種類ごとの評価基準および2次元データDを用いて切削加工の状態をユーザに認識させることができる。
したがって、本開示の実施の形態に係る切削システム301、処理装置201および処理方法では、切削加工の評価に関する優れた機能を実現することができる。
[変形例1]
本開示の実施の形態に係る切削システム301では、ひずみセンサ20は、シャフト部10のせん断ひずみεを計測する構成であるとしたが、これに限定するものではない。ひずみセンサ20は、回転軸17に平行な方向におけるシャフト部10のひずみεを計測する構成であってもよい。
この場合、たとえば、生成部120は、ひずみセンサ20により計測された垂直ひずみを示すセンサ計測値に基づいて、切削抵抗作用面18内において、X方向の負荷により生じるモーメントMxおよびY方向の負荷により生じるモーメントMyを示す2次元データDを生成する。
また、切削システム301は、せん断ひずみεを計測するひずみセンサ20に加えて、垂直ひずみを計測する1または複数のひずみセンサ20を備える構成であってもよい。
また、切削システム301は、複数のセンサとして、ひずみセンサ20の代わりに、またはひずみセンサ20に加えて、加速度センサ、速度センサおよび変位センサ等の他のセンサを備える構成であってもよい。
この場合、生成部120は、センサによる計測結果に基づいて、切削抵抗作用面18内における切削工具101のX方向の加速度およびY方向の加速度を示す2次元データD、切削抵抗作用面18内における切削工具101のX方向の速度およびY方向の速度を示す2次元データD、または切削抵抗作用面18内における切削工具101のX方向の変位およびY方向の変位を示す2次元データDを生成する。
[変形例2]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、複数の2次元データDの代表値として移動平均Daveを算出する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、代表値として、移動平均Dave以外を算出する構成であってもよい。具体的には、たとえば、処理部130は、代表値として、複数の2次元データDの中央値を算出する構成であってもよい。
[変形例3]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、移動平均Daveと原点との間の距離d1に基づいて準備段階異常A1を検知する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、たとえば、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常に基づく荷重Fx,Fyの周期的な変化量が所定値未満であることが予め何らかの手段により分かっている場合、2次元データDと原点との間の距離d1に基づいて準備段階異常A1を検知する構成であってもよい。
[変形例4]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、算出タイミングにおいて移動平均Daveを算出するたびに、工作機械系異常A2の検知処理に用いる移動平均Daveを更新する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、たとえば、穴あけ加工中に切削工具101の座標系に対応付けられる要因に起因する異常に基づく移動平均Daveの変化量が所定値未満であることが予め何らかの手段により分かっている場合、工作機械系異常A2の検知処理に用いる移動平均Daveを更新しない構成であってもよい。
[変形例5]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、移動平均Daveの時間変化に基づいて、実行段階異常A3を検知する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、たとえば、工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する異常に基づく荷重Fx,Fyの周期的な変化量が所定値未満であることが予め何らかの手段により分かっている場合、2次元データDの時間変化に基づいて、実行段階異常A3を検知する構成であってもよい。
[変形例6]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、2次元座標TDC1,TDC2,TDC3を表示部150に表示する処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、2次元座標TDC1,TDC2,TDC3のうちの一部または全部を表示する処理を行わない構成であってもよい。
また、処理部130は、円R1,R2,R3を、それぞれ異なる2次元座標TDC1,TDC2,TDC3に含めて表示部150に表示する処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。
図30は、本開示の実施の形態の変形例6に係る処理装置における表示部に表示される表示画面の一例を示す図である。
図30を参照して、処理部130は、円R1,R2,R3を、1つの2次元座標TDCに含めて表示部150に表示する処理を行う構成であってもよい。なお、図30の2次元座標TDCに示す2次元データDは、図27の2次元座標TDC2,TDC3に示す2次元データDと同じである一方で、図27の2次元座標TDC1に示す2次元データDとは異なる。これは、図27では、切削加工開始直後のある時刻t1における2次元データDを2次元座標TDC1に示し、時刻t1より後の時刻t2における2次元データDを2次元座標TDC2,TDC3に示しており、図30では、時刻t2における2次元データDを2次元座標TDCに示しているからである。
なお、処理部130は、円R1,R2,R3のすべてを表示部150に並行して表示する構成に限定されない。
図31は、本開示の実施の形態の変形例6に係る処理装置における表示部に表示される2次元座標の遷移を示す図である。
図31を参照して、処理部130は、表示部150に表示する円R1,R2,R3を遷移させる。たとえば、処理部130は、切削加工の開始時刻から所定時間が経過するまでの期間において、円R1を2次元座標TDCに含めて表示部150に表示する処理を行い、切削加工の開始時刻から当該所定時間が経過すると、円R1の代わりに円R2,R3を2次元座標TDCに含めて表示部150に表示する処理を行う。
あるいは、処理部130は、切削加工が開始されると、円R1を2次元座標TDCに含めて表示部150に表示する処理を行い、準備段階異常A1の検知処理が終了すると、円R1の代わりに円R2,R3を2次元座標TDCに含めて表示部150に表示する処理を行う。
また、処理部130は、判定結果を示すテキストボックスTxを表示部150に表示する処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、テキストボックスTxを表示する処理を行わない構成であってもよい。
また、処理部130は、グラフG1,G2を表示部150に表示する処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、グラフG1,G2の一方または両方を表示する処理を行わない構成であってもよい。
[変形例7]
本開示の実施の形態に係る切削システム301は、切削工具101とは別個に処理装置201を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理装置201は、切削工具101に設けられる構成であってもよいし、工作機械に設けられる構成であってもよい。また、処理装置201は、検知処理および表示処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理装置201は、検知処理および表示処理のいずれか一方を行わない構成であってもよい。
[変形例8]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、2次元データDと原点との間の距離d4に基づいて、加工精度に関する異常A4を検知する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、距離d4の代わりに、縦軸における2次元データDと原点との差分da1と、横軸における2次元データDと原点との差分da2とに基づいて、加工精度に関する異常A4を検知する構成であってもよい。たとえば、処理部130は、差分da1の絶対値および差分da2の絶対値の和と、所定のしきい値との比較結果に基づいて、加工精度に関する異常A4が発生しているか否かを判断する。
[変形例9]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、切刃Cのうちの準備段階異常A1の発生要因である切刃Cを特定する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、準備段階異常A1を検知する一方で、準備段階異常A1の発生要因である切刃Cを特定しない構成であってもよい。また、本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、切刃Cのうちの実行段階異常A3の発生要因である切刃Cを特定する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、実行段階異常A3を検知する一方で、実行段階異常A3の発生要因である切刃Cを特定しない構成であってもよい。
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
[付記1]
穴あけ加工用の切削工具と、
前記切削工具に取り付けられる複数のセンサと、
処理部とを備え、
前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、
前記複数のセンサは、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、
前記処理部は、複数の計測時点における各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データに基づいて、前記切削加工に関する異常を検知し、
前記処理部は、前記切削工具の座標系に対応付けられる要因に起因する前記異常と、前記切削工具が取り付けられる工作機械の座標系に対応付けられる要因に起因する前記異常とを検知する、切削システム。
[付記2]
穴あけ加工用の切削工具と、
前記切削工具に取り付けられる複数のセンサと、
処理装置とを備え、
前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、
前記複数のセンサは、前記切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、
前記処理装置は、複数の計測時点における各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測時点ごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データと、各前記2次元データを用いた前記切削加工の評価に用いる評価基準とを表示する処理を行い、
前記処理装置は、前記評価基準として、
前記切削工具に関する、前記切削加工の準備段階において生じる種類の異常に関する第1の評価基準と、
切削対象物、前記切削工具が取り付けられる工作機械および前記切削加工に用いられる治具のうちの少なくともいずれか1つに関する種類の異常に関する第2の評価基準と、
前記切削工具に関する、前記切削加工の実行段階において生じる種類の異常に関する第3の評価基準とを表示する処理を行う、表示システム。