以下、本発明に係る電波暗箱、測定装置及び被試験対象姿勢監視方法について図面を用いて説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る測定装置1の構成について、図1~図9を参照して説明する。
本実施形態に係る測定装置1は、図1に示すような外観構造を有している。図1は測定装置1の正面図であり、図1(b)は背面図である。図1に示すように、測定装置1は、架台90の各ラック90aにそれぞれ配置される統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30と、架台90の上に載置されるOTAチャンバ50と、を備えて構成される。統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30は、それぞれ、本発明の制御装置(外部装置)、測定装置に構成するものである。
測定装置1において、OTAチャンバ50は、例えば、5G NRシステム(New Radio System)用の無線端末(5G無線端末)、あるいはLTE用の無線端末(4G無線端末)を被試験対象(Device Under Test:DUT)とする性能試験におけるOTA(Over The Air)試験環境を提供するコンパクト・アンテナ・テスト・レンジ(Compact Antenna test Range:CATR)の一例である。OTAチャンバ50は、本発明の電波暗箱を構成する。
OTAチャンバ50は、全体として矩形形状の外観を有する金属製の筐体本体部51により構成されている。図1(a)に示すように、筐体本体部51の正面外壁面には、扉51aが設けられている。扉51aは矩形の平面形状を有し、ヒンジ51bを介して開閉可能に筐体本体部51に取り付けられている。扉51aはまた、ヒンジ51bとは反対側の端部に、一対の密閉ハンドル51c及び1つの取っ手51fが設けられている。密閉ハンドル51cは、筐体本体部51の正面外壁面に平行な面上を回動可能に構成される。密閉ハンドル51cは、一体に形成された係合部51dが対向側係合部51eに対して係合するように回動させることで扉51aを密閉状態に閉じることができ、係合部51dの対向側係合部51eに対する係合が解除されるように回動させることで扉51aを密閉状態から解放することができる。取っ手51fは、密閉状態から解放された扉51aを開閉する操作を行う際の操作手段としての機能を果たす。筐体本体部51は、本発明の筐体部を構成する。
筐体本体部51において、扉51aの取り付け位置は、例えば、当該筐体本体部51の正面外壁を3枚の板部材を2箇所の分割部51gにより繋いで1枚に形成した構造の場合に、図1(a)の正面に向かって筐体右端部から2つ目の分割部51gまでの範囲内で、且つ、筐体右端部から1つ目の分割部51gを跨ぐ位置となっている。筐体本体部51は、扉51aに対応する位置に開口(図示せず)を有し、該扉51aの開閉操作によって当該開口を開閉可能に構成されている。OTAチャンバ50において、筐体本体部51における扉51aの配置位置は、扉51aを開いたときに、上記開口を通じて、例えば、筐体本体部51の内部空間52内に配置される後述の試験用アンテナ5、スプリアス測定用のアンテナ(以下、受信アンテナ)6、カメラ装置8、DUT保持部56、アンテナ保持機構61、DUT110などに適宜アクセスできる位置となっている。
筐体本体部51は、正面外壁に、上述した扉51aに加えてアクセスパネル51h、通風孔51iを有している。アクセスパネル51hは、筐体本体部51の内部空間52内に配置される構成要素の一部(後述する試験用アンテナ5、受信アンテナ6、カメラ装置8、ファン51k、DUT保持部56の駆動部56e、アンテナ保持機構61の動力部64、DUT100等)と、筐体本体部51の外部に配置される統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30とを(あるいは、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30間を)電気的に接続する機能を有するものである(図8参照)。
アクセスパネル51hは、例えば、図2に示すように、コネクタ部53a、53b、53c、LAN接続端子53d、RF信号入出力端子53e、LTEリンクアンテナ用の接続端子53f、USB(Universal Serial Bus)端子53g、スルーホール53h、53i、53jを有している。コネクタ部53a、53bは、例えば、NRシステムシミュレータ20を接続するためのものであり、コネクタ部53cは、例えば、無線通信アナライザ30を接続するためのものである。LAN接続端子53dは、例えば、統合制御装置10が接続されるネットワーク(LAN)19のハブ(HUB)から延びるLANケーブルを接続するための端子である。RF信号入出力端子53eは、例えば、試験用アンテナ5を接続するための端子である。LTEリンクアンテナ用の接続端子53fは、例えば、受信アンテナ6を接続するための端子である。USB端子53gは、後述する直流電源供給ケーブル18としてのUSBケーブルを接続するためのものである。アクセスパネル51hは、本発明の電源供給部、外部接続パネルを構成する。
通風孔51iは、筐体本体部51の内部空間52内の空気を外部に放出するための機能を果たすものであり、後述するように、筐体本体部51の背面外壁に設けられるファン51k(図1(b)参照)に対応する位置に設けられている。
OTAチャンバ50は、図1(b)に示すように、筐体本体部51の背面外壁面に、通風孔51j、ファン51kが設けられる。筐体本体部51の背面外壁面も、例えば、正面外壁と同様に3枚の板部材を2箇所の分割部51gにより繋いで1枚にした構造を有する。筐体本体部51の背面外壁面において、通風孔51jは、例えば、背面に向かって左端の板部材の上方位置に形成され、ファン51kは、例えば、当該左端の板部材の下方位置に形成されている。ファン51kの配置位置は、上述したように、筐体本体部51の正面外壁における通風孔51iに対応する位置である。ファン51kは、本発明のファン装置を構成する。
次に、OTAチャンバ50の内部の構成について説明する。OTAチャンバ50は、図3に示すように、筐体本体部51の、例えば、長方体形状の内部空間52内に、試験用アンテナ5、複数の受信アンテナ6、リフレクタ7、カメラ装置8、DUT保持部56、アンテナ保持機構61を配置して構成されている。筐体本体部51の内面全域、つまり、内部空間52における底面52a、四側面52b及び上面52cには、電波吸収体55が貼り付けられ、外部への電波の放射規制機能が強化されている。
具体的に、OTAチャンバ50において、筐体本体部51は、内部空間52の底面52aに、リフレクタ7で反射する無線信号を送信あるいは受信する受信アンテナ6が設けられ、内部空間52の底面52aには、無線信号の伝搬路を避けて、受信アンテナ6を覆うように、電波吸収体55が設置され、且つ、内部空間52の上面52c及び四側面52bには、それぞれの面を覆う電波吸収体55が設けられる構成を有している。電波吸収体55としては、例えば、誘電性塗料を含浸させた発泡ウレタン等の電波吸収材が用いられる。また、電波吸収体の形状は、角錐の形状を有している。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間52を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
試験用アンテナ5は、DUT保持部56により回転可能に保持されるDUT100のアンテナ110との間で無線信号の送受信を行うものである。試験用アンテナ5は、DUT保持部56に保持されるDUT100に対して指向性を有するように、筐体本体部51の内部空間52の側面52bの所要位置に保持具57を用いて取り付けられている。DUT100のアンテナ110は、例えば、5G NR規格に準拠した規定の周波数帯(ミリ波帯)の無線信号を使用するものであり、試験用アンテナ5もDUT100のアンテナ110と同一な周波数帯の無線信号を使用するものである。
受信アンテナ6は、DUT100のアンテナ110から放射された無線信号を、リフレクタ7を介して受信するものである。本実施形態では、例えば6つの受信アンテナ6が、アンテナ保持機構61によって、互いに離間し、かつ、リフレクタ7の焦点位置Fを順次通過するよう回動可能に保持されている。6つの受信アンテナ6は、上述した規定の周波数帯(ミリ波帯)より低い周波数帯から高い周波数帯までの所定のスプリアス周波数帯の予め設定された例えば6つの区分周波数帯の無線信号を各々使用するものである。具体的には、6つの受信アンテナ6が使用する周波数帯としては、例えば、番号1、2、3、4、5、6、・・・に対応して、6GHz~18GHz、18GHz~26GHz、26GHz~40GHz、40GHz~60GHz、60GHz~76GHz、76GHz~90GHzの各区分周波数帯が規定されている。OTAチャンバ50の内部空間52に配置される試験用アンテナ5としては、例えば、24.25GHz~43.5GHzの周波数帯を既定の周波数帯として使用するアンテナを採用するようにしてもよい。
リフレクタ7は、DUT100のアンテナ110から放射された無線信号を受信アンテナ6の受光面へと折り返す電波経路を実現するものである。リフレクタ7は、回転放射面の軸に対して非対称な鏡面(真円型のパラボラの回転放物面の一部を切り出した形状)を有するオフセットパラボラ型の構造を有するものである。リフレクタ7は、図3に示すように、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。リフレクタ7は、DUT保持部56に保持されるDUT100のアンテナ110からの無線信号を回転放物面に入射できるような姿勢でリフレクタ保持具58に保持されている。リフレクタ7は、試験信号を受信したDUT100が被測定信号とともにアンテナ110から放射するスプリアス周波数帯の無線信号を回転放物面で受け、該回転放物面の焦点位置Fに配置されている1つの受信アンテナ6に向けて反射させることが可能な位置及び姿勢で配設されている。
具体的に、本実施形態に係るOTAチャンバ50では、図3に示すように、リフレクタ7を、DUT100と受信アンテナ6間の電波伝搬経路に配置している。リフレクタ7は、図中、符号Fで示す位置が焦点位置となるように筐体本体部51の側面52bに取り付けられている。
リフレクタ7と、アンテナ保持機構61により保持されている1つの受信アンテナ6とは、リフレクタ7の軸RS1に対して受信アンテナ6のビーム軸BS1が所定の角度α傾いたオフセット状態となっている。ここでいう1つの受信アンテナ6とは、アンテナ保持機構61を覆うカバー部67の開口67aを介してリフレクタ7から見透しが確保できる受信アンテナ6のことである。
リフレクタ7は、受信アンテナ6のビーム軸BS1上に焦点位置Fを有し、アンテナ保持機構61の回転体62に保持された各受信アンテナ6は、上述した見透しを確保可能な1つの受信アンテナ6の位置、すなわち、リフレクタ7の焦点位置Fを順次通過できるようになっている。上述した傾き角度αは、例えば、30度に設定することができる。この場合、受信アンテナ6は、仰角30度でリフレクタ7に対向するように、すなわち、リフレクタ7に対向し、受信アンテナ6の受信面が無線信号のビーム軸に対して直角となる角度でアンテナ保持機構61に保持されることになる。オフセットパラボラ型のリフレクタ7を採用することで、リフレクタ7自体が小さくて済むうえに、鏡面が垂直に近づくような姿勢での配置が可能となり、OTAチャンバ50の構造を縮減させ得るというメリットをもたらす。
次に、DUT保持部56、及びアンテナ保持機構61の構成について説明する。DUT保持部56は、DUT100を保持しつつ、該DUT100を回転させる(後述する全球面走査等)ものであり、OTAチャンバ50の内部空間52の底面52aに鉛直方向に延在して設けられている。
DUT保持部56は、図3に示すように、ターンテーブル56a、支柱部材56b、DUT載置部56c、駆動部56e(図9参照)を有している。ターンテーブル56aは、円盤形状を有する板部材で構成され、アジマス軸(鉛直方向の回転軸)を中心に回転する構成(図9参照)を有する。支柱部材56bは、ターンテーブル56aの板面上に垂直方向に延びるように配置される柱状部材により構成されている。
DUT載置部56cは、支柱部材56bの上端近傍にターンテーブル56aと平行に配置され、DUT100を載置する載置トレイ56dを有している。DUT載置部56cは、ロール軸(水平方向の回転軸)を中心に回転可能な構成(図9参照)を有している。
駆動部56eは、例えば、図9に示すように、アジマス軸を回転駆動する駆動モータ56fと、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gと、を有する。駆動部56eは、駆動モータ56fと駆動モータ56gとによって、アジマス軸とロール軸とをそれぞれの回転方向に回転させる機構を備えた2軸ポジショナにより構成されている。このように、駆動部56eは、載置トレイ56dに載置されたDUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させることができるものである。以下、駆動部56eを含むDUT保持部56全体を2軸ポジショナと称することもある(図9参照)。
DUT保持部56は、載置トレイ56dにDUT100を載置(保持)したまま当該DUT100を全球面走査させることができる。DUT保持部56におけるDUT走査の制御は、後述する統合制御装置10のDUT姿勢制御部15cよって行われる。
ここでDUT100の全球面走査及びTRP測定原理について図4を参照して説明する。図4(a)はDUT100の全球面走査に係る球座標系を示す図であり、図4(b)は球座標系における角度標本点PSの分布を示す図である。DUT100の全球面走査とは、アンテナ110のアンテナ面が、球座標系(γ,θ,φ)系(図4(a)参照)を規定する球体B(図4(b)参照)の1つの角度標本点PSに向いて規定の時間停止し、その後、次の角度標本点PSに移動する動作が、全ての角度標本点PSを対象にして順次繰り返し実行されようにDUT保持部56をアジマス方向及びロール方向に回転駆動させる制御である。
アンテナ保持機構61は、例えば、6つの受信アンテナ6のリフレクタ7の焦点位置Fへの自動配置を行うアンテナ自動配置手段60(図3参照)を構成するものであり、OTAチャンバ50の内部空間52の底面52aに設けられている。
アンテナ保持機構61は、図3に示すように、動力部64、カバー部67を有している。アンテナ保持機構61は、回転軸63を中心に回転可能な回転体62により構成され、回転体62には、回転軸63を中心とした円周上に例えば6つの受信アンテナ6が配置されている。より具体的には、回転体62には、例えば、図5に示すように、上述した円周を規定する円C1の外周に沿って、等間隔で、つまり、水平面上で回転軸63を中心に60度ずつの間隔をおいて各受信アンテナ6が配置されている。ここでアンテナ保持機構61は、回転体62の回転により円周上の周方向に位置移動(周回)する各受信アンテナ6の受信面がリフレクタ7の焦点位置Fを通過するように内部空間52内に設置されている。
動力部64は、回転軸63を介して回転体62を回転駆動する駆動用モータ65、及び該駆動用モータ65と回転軸63間に配設されるギヤ等の連結部材66を有している。カバー部67は、アンテナ保持機構61及び動力部64を、外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を規制できるように覆うものである。
カバー部67には、開口67aが形成されている。開口67aは、アンテナ保持機構61に保持された受信アンテナ6のうちの1つがリフレクタ7の焦点位置Fに配置されたときに、当該受信アンテナ6からリフレクタ7の回転放物面に対する見透しを確保できる位置に形成されている。
次に、カメラ装置8の構成について図6を参照して説明する。カメラ装置8は、例えば、測定中におけるDUT100を撮像する撮像手段である。カメラ装置8は、TIS、TRP等の測定時の他、適宜なタイミングでDUT100の姿勢を監視するために駆動できるようになっている。
図6に示すように、カメラ装置8は、カメラ本体部8aと、カメラ保持部8bと、電波吸収板8cと、を有する。カメラ本体部8aは、直方体形状の筐体の一面に設けられた受光センサ8a2と、受光センサ8a2を取り囲むように上記一面に円周上に配列された複数の赤外線LED8a1と、筐体内部に設けられる電源部8a3を有している。赤外線LED8a1は赤外線を照射する光源であり、受光センサ8a2は照射された赤外線のDUT100からの反射光を受光するものである。電源部8a3は、赤外線LED8a1等を駆動するための直流電源を供給するものである。
カメラ保持部8bは、カメラ本体部8aを収容可能な空間を有する筐体部8b1と、筐体部8b1に一体的に形成されて外方へと延びる延在部8b2とを有する金属製の部品である。筐体部8b1は、延在部8b2とは反対側の一面に開口8b3を有するとともに、それぞれの外側面が複数の放熱用の孔8b4が形成されたメッシュ状の構造を有している。筐体部8b1の延在部8b2の端部は、カメラ保持部8bをOTAチャンバ50の内部空間52の例えば上面52cに固定された固定具8dにねじ止め固定可能な構造となっている。
カメラ保持部8bは、カメラ本体部8aを、開口8b3を通して、筐体部8b1の空間内に収容できるようになっている。これを行うにはまず、カメラ本体部8aを支持部材8b4と一緒に上記空間内に入れ込み、その後、支持部材8b4が上記空間の内面に当接する位置まで戻したうえで、支持部材8b4を開口8b3の外周部にねじ止めによって固定する。この状態で、カメラ本体部8aの赤外線LED8a1及び受光センサ8a2を設けた面と、カメラ保持部8bの開口8b3が形成された面は、ほぼ同一平面となる。
この状態で、カメラ本体部8aの赤外線LED8a1及び受光センサ8a2を設けた面と、カメラ保持部8bの開口8b3が形成された面に対し、赤外線LED8a1及び受光センサ8a2の回りを残して、開口8b3より狭い領域から開口8b3の外周部にかけて電波吸収板8cが取り付けられている。電波吸収板8cは、赤外線LED8a1及び受光センサ8a2の前方から入射する電磁波を遮り、カメラ本体部8a及びカメラ保持部8bを電磁波から保護するものであり、十分な電磁波遮蔽機能を維持するための所定のサイズを有している。
カメラ装置8は、カメラ保持部8bの筐体部8b1内にカメラ本体部8aを収容し、かつ、カメラ保持部8b及びカメラ本体部8aの一面の電波吸収板8cを取り付けたときに、赤外線LED8a1及び受光センサ8a2が開口8b3から見通せるようになっている。この状態で、OTAチャンバ50の内部空間52の上面52cに固定された固定具8dにねじ8b5によってねじ止めすることで取り付けることができる。ここで筐体部8b1に対する延在部8b2の角度は、固定具8dに取り付けた際に、受光センサ8a2がDUT100を撮像可能なエリアに向く画角となるように形成されることが望ましい。
また、カメラ装置8は、DUT100のアンテナ110とリフレクタ7との電波伝搬路に干渉しない位置に取り付けることが望ましい。図7には、例えば、横2000ミリメートル、縦2000ミリメートル未満、奥行き1200ミリメートルのサイズの筐体本体部51を有するOTAチャンバ50を用いた場合のカメラ装置8の配置例を示している。図7(a)は、筐体本体部51のサイズと、内部空間52におけるカメラ装置8とDUT保持部56との位置関係を示す概念図であり、図7(a)は、内部空間52における上面52cとDUT保持部56との位置関係を示す拡大図である。
図7に示す例において、カメラ装置8は、DUT載置部56cの載置トレイ(固定用治具)56dの上端から内部空間52の上面までの距離が300ミリメートル、載置トレイ56dの中心Oから上面までの距離が450ミリメートルであって(図7(b)参照)、載置トレイ56dの中心Oまでの距離が600ミリメートル、且つ内部空間52のDUT保持部56の設置位置寄りの側面から750ミリメートルの位置(図7(a)参照)に配置されている。高さ方向に対して、カメラ装置から中心Oの方向がなす角度θは42°であり、DUT100を所望の大きさで撮影することが可能である。これよりも角度θがさらに大きくなる場所にカメラ装置を配置すると、DUT100が小さく映り、DUT100を所望の大きさで撮影するにはレンズの倍率が大きい高価なカメラを用いる必要がある。この場合、コストの面で大量生産が難しくなる。また、DUT100の真上にカメラを設置すると、DUT100全体が映らない場合があるため、カメラ装置8を設置するθの範囲としては、0°<θ≦42°となる範囲で、カメラ装置8と中心Oの距離dcは450mm≦dc≦600mmが望ましい。
図7において、リフレクタ7とDUT100との間の無線信号の伝搬軸をRS2で表わすものとする。この場合、図7に示すカメラ装置8の配置態様は、リフレクタ7とDUT100との間の無線信号の伝搬軸RS2上ではリフレクタ7とDUT100の間の位置にあり、伝搬軸RS2に直交する鉛直方向ではリフレクタ7より高い位置となるように、内部空間52の上面52cあるいは伝搬軸と平行な内部空間の四側面52bのいずれかの面に配置するという配置条件を満たしていることになる。
次に、OTAチャンバ50のアクセスパネル51hによる筐体本体部51の内部構成要素と外部に配置される外部要素との接続態様について説明する。OTAチャンバ50において、内部空間52内に配置される構成要素のうち、試験用アンテナ5、受信アンテナ6、カメラ装置8、DUT100、アンテナ保持機構61の駆動用モータ65、DUT保持部56の駆動部56e(駆動モータ56f、56g)は、例えば、図8に示すように、外部の構成要素とアクセスパネル51hを介して電気的に接続されている。
図8に示す接続態様を実現するために、OTAチャンバ50の内部空間52では、試験用アンテナ5の信号線5l、受信アンテナ6の信号線6l、カメラ装置8の信号線8l1、DUT100の接続端子に接続される信号線100l、アンテナ保持機構61の駆動用モータ65の電源線65l、DUT保持部56の駆動モータ56f及び56gの電源線56l1、56l2、カメラ装置8の電源線8l2と、アクセスパネル51hの各端子a1、a2、a3、a4、b1、b2、b3、b4との接続は、内部空間52の底面52a、四側面52b及び上面52cに沿って適宜な経路で行われる配線により実現されている。これらの配線は、それぞれ、電波吸収体によって覆われて電磁的にシールドされた構造とすることが望ましい。
一方、OTAチャンバ50の外部では、アクセスパネル51hの端子a1、a2は、それぞれ対応する信号線を介して、NRシステムシミュレータ20の信号出力端子、無線通信アナライザ30の信号入力端子に接続されている。アクセスパネル51hの端子a3、a4は、それぞれに対応する信号線を介して、統合制御装置10の撮像信号入力端子、DUT制御端子に接続されている。
また、アクセスパネル51hの端子b1と、端子b2及びb3とは、それぞれの給電線を介して、統合制御装置10のアンテナ保持機構61の駆動用モータ65に対する給電端子と、DUT保持部56の駆動モータ56f及び56gに対する給電端子に接続される。アクセスパネル51hの端子b4は、統合制御装置10から延びるカメラ装置8に対する直流電源供給ケーブル18に接続されている。
直流電源供給ケーブル18は、統合制御装置10の例えば外部I/F部11dとして備わるUSBポート11d1(図9参照)に接続可能なUSBコネクタを備えたUSBケーブルにより構成されている。直流電源供給ケーブル18は、その他端にもUSBコネクタを備えたものを用いることで、アクセスパネル51hの端子b4がUSB端子(図2におけるUSB端子53gに相当)で構成されている場合に、USBポート11d1と端子b4間を直流電源供給ケーブル18で接続して、USBポート11d1からカメラ装置8に対して直流電源を供給することが可能となる。
直流電源供給ケーブル18としては、Type-A、Type-B、Type-Cなどの各種のUSBケーブルを用いることができる。直流電源供給ケーブル18は、通信速度のついては、USB.3.0以上の規格に準拠するものが好ましい。
なお、OTAチャンバ50の内部空間52内におけるカメラ装置8の信号線8l1及び電源線8l2は、まとめてアクセスパネル51hの端子b4(USB端子53g)に接続されているUSBケーブルに置き換えた構成としてもよい。この構成によれば、カメラ装置8とアクセスパネル51hの端子b4間を上記のUSBケーブルで接続し、且つ、端子b4と統合制御装置10のUSBポート間を直流電源供給ケーブル18で接続することで、統合制御装置10からOTAチャンバ50内のカメラ装置8に対して直流電源供給ケーブル18を介して駆動用直流電源を給電することができる。
アクセスパネル51hは、ファン51kの内部空間52内の配線(図8では不図示)と、筐体本体部51の外部の統合制御装置10とを接続する端子(例えば、端子b5:図8参照)を有する構成としてもよい。
次に、統合制御装置10の機能構成について説明する。統合制御装置10は、図9に示すように、制御部11、操作部12、表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、図9に示すように、測定装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)11aと、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラムおよび制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)11bと、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)11cと、所定の信号が入力される入力インターフェース機能と所定の信号を出力する出力インターフェース機能を有する外部インターフェース(I/F)部11dと、図示しないハードディスク装置などの不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、無線通信アナライザ30に通信可能に接続されている。また、外部I/F部11dは、OTAチャンバ50における駆動用モータ65及び2軸ポジショナ56ともネットワーク19を介して接続されている。また、外部I/F部11dとしては、USBポート11d1が含まれている。入出力ポートには、操作部12、表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
統合制御装置10としてのコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図9に示すように、信号送信制御部15a、アンテナ自動配置制御部15b、DUT姿勢制御部15c、アナライザ制御部15d、カメラ制御部15e、表示制御部15fを有している。信号送信制御部15a、アンテナ自動配置制御部15b、DUT姿勢制御部15c、アナライザ制御部15d、カメラ制御部15e、表示制御部15fも、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
信号送信制御部15aは、操作部12でのユーザ操作を監視し、ユーザにより所定のスプリアス測定開始操作が行われたことを契機に、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信し、試験用アンテナ5を介して試験信号を送信させる制御を行う。
アンテナ自動配置制御部15bは、アンテナ保持機構61に保持されている複数の受信アンテナ6を、リフレクタ7の焦点位置Fに対して、順次、自動的に配置する制御を行う。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、予め、アンテナ自動配置制御テーブル16aが格納されている。アンテナ自動配置制御テーブル16aは、例えば、駆動用モータ65としてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納するものである。本実施形態において、アンテナ自動配置制御テーブル16aは、例えば6つの区分周波数帯にそれぞれ対応して各受信アンテナ6をそれぞれリフレクタ7の焦点位置Fまで移動させるための駆動用モータ65の運転パルス数を制御データとして記憶している。
アンテナ自動配置制御部15bは、アンテナ自動配置制御テーブル16aをRAM11cの作業領域に展開し、該アンテナ自動配置制御テーブル16aに基づき、各受信アンテナ6にそれぞれ対応する区分周波数帯に応じて、アンテナ自動配置手段60の動力部64における駆動用モータ65を回転駆動する制御を行う。この制御により、各受信アンテナ6を、順次、リフレクタ7の焦点位置Fに停止(配置)させるアンテナ自動配置制御が実現可能となる。
DUT姿勢制御部15cは、DUT保持部56に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、予め、DUT姿勢制御テーブル17aが記憶されている。DUT姿勢制御テーブル17aは、例えば、DUT保持部56を構成する2軸ポジショナ56の制御データを格納している。
DUT姿勢制御部15cは、DUT姿勢制御テーブル17aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT姿勢制御テーブル17aに基づき、例えば、アンテナ110が球体表面の全ての点に対して順次向くようにDUT100が姿勢変化するよう2軸ポジショナ56を駆動制御する。
アナライザ制御部15dは、ネットワーク19を介して接続される無線通信アナライザ30による測定処理動作の制御を行うものである。
カメラ制御部15eは、カメラ装置8に直流電源を供給し、DUT載置部56c上のDUT100を撮像させるためのカメラ装置8の駆動制御を行う。表示制御部15fは、DUT100の性能試験におけるカメラ装置8によるDUT100の撮像画像や、無線通信アナライザ30の測定結果等を表示部13に表示させる表示制御を行う。
次に、本実施形態に係る測定装置1におけるDUT100の姿勢監視制御について、図11を参照して説明する。図11においては、DUT100を対象とするスプリアス測定(TRP測定)時の姿勢監視制御について説明する。
測定装置1において、TRP測定を行うためには、まず、OTAチャンバ50の内部空間52内にDUT100をセットする必要がある。これにより、測定装置1では、姿勢監視制御の最初の処理として、ユーザにより、OTAチャンバ50のDUT保持部56のDUT載置部56cに対して試験対象となるDUT100をセットする作業が行われる(ステップS1)。
DUT100のセット作業が行われた後、統合制御装置10では、例えば、カメラ制御部15eが、操作部12においてDUT100の姿勢監視開始操作が行われたか否かを監視する(ステップS2)。
ここで、姿勢監視開始操作が行われていないと判定された場合(ステップS2でNO)、カメラ制御部15eは当該ステップS1の監視を続行する。これに対し、姿勢監視開始操作が行われたと判定された場合(ステップS2でYES)、カメラ制御部15eは、操作部12においてTRP測定開始操作が行われたか否かを監視する(ステップS3)。
ここで、TRP測定開始操作が行われていないと判定された場合(ステップS3でNO)、引き続きカメラ制御部15eは、直流電源供給ケーブル18として用いられるUSBケーブルによりカメラ装置8に対して直流電源を供給し、DUT保持部56のDUT載置部56cに保持されたDUT100を撮像させるようにカメラ装置8を駆動する(ステップS4)。
次いで、カメラ制御部15eは、カメラ装置8の撮像信号を直流電源供給ケーブル18としての機能を有するUSBケーブルの信号線を通して取得する(ステップS5)。表示制御部15fは、該撮像信号に基づいてカメラ装置8によるDUT100の撮像画像を表示部13に表示させる制御を行う(ステップS6)。
引き続きカメラ制御部15eは、操作部12においてDUT100の姿勢監視終了操作が行われたか否かを監視する(ステップS7)。ここで、姿勢監視終了操作が行われていないと判定された場合(ステップS7でNO)、カメラ制御部15eはステップS3以降の制御を継続的に実施する。これに対し、姿勢監視終了操作が行われたと判定された場合(ステップS7でYES)、カメラ制御部15eは、カメラ装置8の駆動を停止し、一連の姿勢制御処理を終了する。
一方で統合制御装置10は、上記ステップS3でTRP測定開始操作が行われたと判定された場合(ステップS3でYES)、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30と協働してTRP測定処理を実行する(ステップS8)。
ステップS8のTRP測定処理について、図11に示すフローチャートを参照して説明する。図11においては、6つのアンテナ6を用いて当該各受信アンテナ6に対応するそれぞれ異なる区分周波数帯のスプリアス信号を測定する場合について説明する。
ステップS8でのTRP測定処理においては、まず、アンテナ自動配置制御部15bが、スプリアス測定周波数帯の測定順番を示すnを、1番目の周波数帯を示すn=1にセットする(ステップS11)。
次いで、アンテナ自動配置制御部15bは、n=1に対応する1番目の区分周波数帯に対応する受信アンテナ6をリフレクタ7の焦点位置Fまで自動的に移動(配置)させる制御を行う(ステップS12)。このとき、アンテナ自動配置制御部15bは、アンテナ自動配置制御テーブル16aから、n=1に対応する1番目の区分周波数帯に対応する受信アンテナ6の運転パルス数を読み取り、該運転パルス数に基づいて駆動用モータ65を回転制御する。
ステップS12での受信アンテナ6の自動配置制御の実行後、信号送信制御部15aは、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。NRシステムシミュレータ20では、上記信号送信指令に基づき、DUT100に対し、試験用アンテナ5を介して試験信号を送信させる(ステップS13)。
なお、信号送信制御部15aは、ステップS13で試験信号送信の制御を開始した後、測定対象のスプリアス周波数帯の全ての区分周波数帯に対応する受信アンテナ6でのスプリアス測定が終了するまでの間(スプリアス測定期間)、試験信号を送信し続けるように制御する。
また、統合制御装置10では、ステップS13で試験信号の送信開始後、DUT姿勢制御部15cが、DUT保持部(2軸ポジショナ)56におけるDUT載置部56cの載置トレイ56dに載置されたDUT100の全球面走査のための制御を行う(ステップS14)。DUT姿勢制御部15cによるDUT100の全球面走査は、その後、スプリアス測定が終了するステップS16までの期間(全球面走査期間)中、継続して実施される。
この間、統合制御装置10では、アナライザ制御部15dが、無線通信アナライザ30を制御し、ステップS12で移動した受信アンテナ6により受信したスプリアス信号に基づいてTRP測定処理を行わせる(ステップS15)。ここで、統合制御装置10は、図4(a)に示す球座標系(γ,θ,φ)系において、DUT100があるθの角度を保ったままφ方向の各角度標本点PSを通過するように走査されるのに合わせて、各角度標本点PSで順次EIRPを測定させるように無線通信アナライザ30を制御する。こうしたEIRPの測定制御を、θの角度を変えて全ての角度標本点PSを通過するDUT100の全球面走査に合わせ実施することで、無線通信アナライザ30では、球座標系(γ,θ,φ)系の全ての角度標本点PSについてのEIRPを測定する。さらに統合制御装置10は、全ての角度標本点PSについてのEIRP測定値の総和であるTRPを求めるように無線通信アナライザ30を制御する。
ステップS15でのTRP測定処理を実行しながら、統合制御装置10は、n=1に対応する1番目の区分周波数帯のスプリアス測定が終了したか否かを判定する(ステップS16)。ここで、1番目の区分周波数帯のスプリアス測定が終了していないと判定された場合(ステップS16でNO)、ステップS11以降の処理を続行する。
これに対し、1番目の区分周波数帯のスプリアス測定が終了したと判定された場合(ステップS16でYES)、アンテナ自動配置制御部15bは、上記nが、最後の区分周波数帯であることを示すn=6に達したか否かを判定する(ステップS9)。ここで、n=6に達していないと判定された場合(ステップS17でNO)、アンテナ自動配置制御部15bは、ステップS11に移行し、nを2番目の周波数帯を示すn=2にセットする。
その後、統合制御装置10は、n=1に対応する1番目の区分周波数帯に対応する受信アンテナ6による受信信号に対して行ったステップS12~S17の処理を、n=2に対応する2番目の区分周波数帯に対応する受信アンテナ6による受信信号に対しても実施する。さらに統合制御装置10は、n=2へのセット時のステップS12~S17の処理の終了後も、n=3~6に対応する3~6番目の区分周波数帯に対応する各受信アンテナ6による受信信号に対して順次S12~S17の処理を実行させる。
この間、ステップS17において、n=6に達したと判定された場合(ステップS17でYES)、アンテナ自動配置制御部15bは、図11に示す一連のTRP測定処理を終了する。
本実施形態に係る測定装置1の上述した構成によれば、カメラ装置8の駆動制御(図10のステップS4参照)に際し、例えば、USBケーブルとしての直流電源供給ケーブル18を用いてカメラ装置8の駆動用直流電源を供給している。このため、AC/DCコンバータを用いてカメラ装置8を駆動する従来の構成のように、AC/DCコンバータによるスイッチングノイズが発生することがない。
図13は、AC/DCコンバータを用いた従来の測定装置におけるDUT100の電波暗箱内部の放射ノイズを示す信号特性を示すグラフである。図13に示す信号特性グラフにおいて、横軸は周波数、縦軸は電力レベルを示している。この信号特性グラフにおいては、周波数100Mhzから500Mhzの周波数帯、すなわち、LTEの周波数帯において、AC/DCコンバータスイッチングノイズに起因する顕著な波形の乱れが発生している様子が分かる。
これに対して、図12は、本実施形態に係る測定装置1におけるDUT100の電波暗箱内部の放射ノイズを示す信号特性を示すグラフである。図12に示す信号特性グラフにおいては、USBケーブルの機能を有する直流電源供給ケーブル18を用いたカメラ装置8の駆動制御を採用することで、LTEの周波数帯における信号波形の乱れが大幅に低減されていることを理解できる。
図12、図13によれば、商用電源をAC/DC変換してカメラを駆動する場合のスイッチングノイズ(140Mhz)の発生を抑えることでLTEの周波数帯(400Mhz)の測定精度を低下させることなくDUT100の姿勢監視を実現する場合の利点について言及している。しかしながら、本発明は、LTEの周波数帯の測定への影響が排除されたこれら本実施形態の構成を採用することで、近年展開されている、LTEと5G NRを組み合わせたノンスタンドアローンNRの運用においても、結果的に、DUT100の測定精度を低下させることなくその姿勢監視を実現できることになる。
上述したように、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、周囲からの電波が遮断された内部空間52を有する筐体本体部51と、内部空間52内に設けられ、無線信号を送信あるいは受信するDUT100を載置トレイ56dに固定して回転させるDUT保持部56と、赤外線LED8a1、受光センサ8a2、及び電源部8a3を有し、内部空間52内に設置されて、DUT保持部56によって回転されるDUT100を撮像するカメラ装置8と、統合制御装置10と直流電源供給ケーブル18により接続され、直流電源供給ケーブル18により電源部8a3に直流電源を供給するアクセスパネル51hと、を有して構成される。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、真っ暗なOTAチャンバ50の内部空間52内におけるDUT保持部56に設置されたDUT100の姿勢を監視することを可能になる。電波暗箱内部の被試験対象の映像を監視する目的は、DUT100の位置ずれや落下を確認することであるため、カラー撮影で要求されるような照度は必要なく、赤外線LED8a1で撮影した単色画像であれば、充分、確認が可能である。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、LED照明(照明用LED)が無くてもDUT100の監視が可能であるために、OTAチャンバ50に設置する際の変更の規模は小さく、設置は容易である。さらに商用電源から電源を供給している照明用LEDを使用せず、統合制御装置10からUSB接続で直流電源を供給する赤外線LED8a1を用いることによって、ノイズが少ない良い環境での試験中のDUT100の姿勢を監視することが可能となる。また、カメラ装置8は、消費電力が照明用LEDを使用する場合の1/10程度であり、OTAチャンバ50内部の温度上昇による測定精度の悪化がない環境での試験中のDUT100の監視が可能になる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、アクセスパネル51hは、直流電源供給ケーブル18としてのUSBケーブルにより統合制御装置10に接続され、統合制御装置10からUSBケーブルを介して直流電源を供給する構成である。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、統合制御装置10とUSBケーブルによって接続するだけでカメラ装置8に対して直流電源を供給することができ、接続作業が容易になる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、カメラ装置8は、同一の面に赤外線LED8a1及び受光センサ8a2が配置されたカメラ本体部8aと、一側面に開口8b3を有し、赤外線LED8a1及び受光センサ8a2が開口8b3から見通せるようにカメラ本体部8aを収容する金属製の筐体部8bと、を有し、筐体部8bは、一側面に、赤外線LED8a1及び受光センサ8a2の周りを残して開口8b3より狭い領域から開口外周部にかけて覆うように電波吸収板8cが取り付けられている構成を有する。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、カメラ本体部8aを収容する筐体部8bを電波吸収板8cによって電磁的にシールドすることができ、測定精度の低下を防止することができる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、筐体本体部51は、内部空間52内に、無線信号を反射するリフレクタ7がさらに設けられ、カメラ装置8は、リフレクタ7を経由する無線信号の伝搬路を避ける位置に配置されている構成を有している。この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、DUT100の測定精度を低下させることなく、発熱やスイッチングノイズが抑制された状態でDUT100の姿勢監視を行うことができる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、カメラ装置8は、リフレクタ7とDUT100との間の無線信号の伝搬軸RS2上ではリフレクタ7とDUT100の間の位置にあり、伝搬軸RS2に直交する鉛直方向ではリフレクタ7より高い位置となるように、内部空間52の上面52cあるいは伝搬軸RS2と平行な内部空間52の四側面52bのいずれかの面に配置される構成を有する。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、水平方向ではリフレクタ7とDUT100の間の位置にあり、鉛直方向ではリフレクタ7より高い位置にあるという配置条件で内部空間52の四側面に選択的にカメラ装置8を配置することができ、設計の自由度を高めることができる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、筐体本体部51は、内部空間52の底面52aに、リフレクタ7で反射する無線信号を送信あるいは受信する受信アンテナ6がさらに設けられ、内部空間52の底面52aには、無線信号の伝搬路を避けて、受信アンテナ6を覆うように、電波吸収体55が設置され、且つ、内部空間52の上面52c及び四側面52bには、それぞれの面を覆う電波吸収体55が設けられる構成である。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、DUT100と受信アンテナ6間のリフレクタ7を介した無線信号の送受信を妨げることなく受信アンテナ6を電磁的にシールド可能であり、DUT100の測定に悪影響を及ぼすことなく、発熱やスイッチングノイズが抑制された状態でDUTの姿勢監視を行うことができる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、カメラ装置8は、載置トレイ56dの中心Oまでの距離dcが450ミリメートル以上600ミリメートル以下であり、カメラ装置8から載置トレイ56dの中心Oに向かう方向と、載置トレイ56dの中心Oから内部空間52の上面までの高さ方向とのなす角度が、0°より大きく42°以下である構成を有する。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、DUT100の測定に悪影響を及ぼすことなく、且つ、カメラ装置8のピントズレが発生せず高精度の撮像が可能な位置にカメラ装置8を配置することができ、測定精度を保ちつつ、DUT100の姿勢監視精度も向上させることができる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50において、筐体本体部51は、内部空間52内に、当該内部空間52を冷却するためのファン51kがさらに配置されている構成を有する。この構成により、内部空間52内の発熱をより抑制することができ、さらに良い条件でDUT100の姿勢監視を行うことができる。
また、本実施形態に係るOTAチャンバ50では、遠赤外線LED9a1、遠赤外線を受光する受光センサ9a2、及び電源部9a3を有し、内部空間52内に設置されて、DUT保持部56によって回転されるDUT100を撮像するサーマルカメラ装置9をさらに有する構成である。
この構成により、本実施形態に係るOTAチャンバ50は、サーマルカメラ装置9によって撮像されたサーマル画像に基づき、DUT100の温度の監視も行うことができ、異常な発熱によるDUT100の故障の可能性を低減することができる。
また、本実施形態に係る測定装置1は、上述した構成を有するOTAチャンバ50と、筐体本体部51の外部に配置され、内部空間52内に設けられる試験用アンテナ及び受信アンテナ6とDUT100との間の送受信信号に基づきDUT100の性能試験に係る測定を行うNRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30と、外部装置として配置され、NRシステムシミュレータ20及び無線通信アナライザ30を制御する統合制御装置10と、を備え、OTAチャンバ50は、内部空間52内の配線によって電源部8a3に接続されているUSB端子53gが設けられたアクセスパネル51hを有し、統合制御装置10は、USBポート11d1を有し、USBポート11d1とアクセスパネル51hのUSB端子53g間に接続されるUSBケーブルを介してカメラ装置8の電源部8a3に直流電源を供給する構成を有している。
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、統合制御装置10のUSBポート11d1と筐体本体部51のアクセスパネル51hのUSB端子53g間をUSBケーブルで接続することでカメラ装置8に対して直流電源を供給することができ、簡単な接続作業を経て、OTAチャンバ50内部の発熱や電源供給に伴うスイッチングノイズを抑制し、測定精度を低下させることなく内部空間52内の被試験対象の姿勢を確実に監視することができる。
また、本実施形態に係る被試験対象姿勢監視方法は、上述した構成を有するOTAチャンバ50と、外部装置として配置され、内部空間52内のDUT保持部56、及びカメラ装置8を駆動制御する統合制御装置10と、を備え、内部空間52内におけるDUT100の姿勢を監視する被試験対象姿勢監視方法であって、統合制御装置のUSBポート11d1と、筐体本体部51のアクセスパネル51hのUSB端子53g間に接続されるUSBケーブル(直流電源供給ケーブル18)を介してカメラ装置8の電源部8a3に直流電源を供給し、DUT100を撮像させるようにカメラ装置8を駆動するステップ(S4)と、カメラ装置8の撮像信号を、USBケーブルを介して取得するステップS5と、カメラ装置8の撮像信号に基づいてDUT100の撮像画像を表示部13に表示させるステップS6と、を含む構成を有している。
この構成により、本実施形態に係る被試験対象姿勢監視方法は、統合制御装置10のUSBポート11d1と筐体本体部51のアクセスパネル51hのUSB端子53g間をUSBケーブルで接続することでカメラ装置8に対して直流電源を供給することができ、簡単な接続作業を経て、内部空間52内での発熱や電源供給に伴うスイッチングノイズを抑制し、測定精度を低下させることなく内部空間52内のDUT100の姿勢を確実に監視することができる。
以上の構成によって、本実施形態では、OTAチャンバ50の内部空間52内での発熱や電源供給に伴うスイッチングノイズを抑制し、DUT100の測定精度を低下させることなく、真っ暗な内部空間52内のDUT100の姿勢を確実に監視することができる。
(第2の実施形態)
図14は、本発明の第2の実施形態に係る測定装置1Aの構成を示す図であり、OTAチャンバ50については透視した状態の構成例を示している。また、図15は、本実施形態に係る測定装置1Aの統合制御装置10Aの機能構成を示している。図14及び図15において、第1の実施形態に係る測定装置1と同等の構成要素については同一の符号を付している。
図14に示すように、本実施形態に係る測定装置1Aは、OTAチャンバ50の内部空間52内にサーマルカメラ装置9が設けられている。また、測定装置1Aにおいて、統合制御装置10Aの制御部11は、図15に示すように、第1の実施形態に係る統合制御装置10と異なる構成として、カメラ制御部15e1、表示制御部15f1を有している。カメラ制御部15e1は、第1の実施形態に係る統合制御装置10の制御部11におけるカメラ制御部15eを制御する機能に、サーマルカメラ装置9を制御する機能が付加されたものである。表示制御部15f1は、統合制御装置10の制御部11における表示制御部15fのカメラ装置8の撮像画像を表示する制御機能に、サーマルカメラ装置9の撮像画像(サーマル画像:DUT100の各部の温度を示す画像)を表示する制御機能が付加されたものである。表示制御部15f1は、カメラ装置8の撮像画像と、サーマルカメラ装置9の撮像画像(サーマル画像)とを、例えば、表示部13に並べて表示するようになっている。測定装置1は、サーマルカメラ装置9、カメラ制御部15e1及び表示制御部15f1を有する以外は第1の実施形態に係る測定装置1と同様の構成を有している。
測定装置1Aにおいて、サーマルカメラ装置9は、カメラ本体部9aが、直方体形状の筐体の一面に設けられた受光センサ9a2と、受光センサ9a2を取り囲むように上記一面に円周上に配列された複数の遠赤外線LED9a1と、筐体内部に設けられる電源部9a3を有している。遠赤外線LED9a1は遠赤外線を照射する光源であり、受光センサ9a2は照射された遠赤外線のDUT100からの反射光を受光するものである。電源部9a3は、遠赤外線LED9a1等を駆動するための直流電源を供給するものである。
カメラ本体部9aは、例えば、第1の実施形態に係るカメラ装置8のカメラ保持部8bと同等のカメラ保持部8b(専用の構造のものでもよい)を用いて内部空間52内に取り付けることができる。その際、カメラ本体部9aは、例えば、第1の実施形態に係るカメラ装置8と同様、カメラ本体部の筐体における遠赤外線LED9a1及び受光センサ9a2が設けられる面、及びカメラ保持部8bの開口8b3の周辺部に、遠赤外線LED9a1及び受光センサ9a2の周りを残すようにして電波吸収板8cが取り付けられた構造(図6参照)とすることが望ましい。
サーマルカメラ装置9の配置位置は、カメラ装置8によるDUT100の撮像を妨げない位置であることが前提となる。それ以外についても、サーマルカメラ装置9は、カメラ装置8と同様の配置条件にしたがって配置することが望ましく、例えば、リフレクタ7を経由する無線信号の伝搬路を避ける位置、あるいは、リフレクタ7とDUT100との間の無線信号の伝搬軸上ではリフレクタ7とDUT100の間の位置にあり、伝搬軸に直交する鉛直方向ではリフレクタ7より高い位置となるように、内部空間52の上面52cあるいは伝搬軸と平行な内部空間の四側面52bのいずれかの面に配置する等の配慮が望まれる。
サーマルカメラ装置9は、カメラ装置8と同様、電源部9a3から直流電源を供給して遠赤外線LED9a1等を駆動するものである。このため、本実施形態に係る測定装置1Aでは、カメラ装置8のみならず、サーマルカメラ装置9の電源部9a3に対しても、統合制御装置10から直流電源供給ケーブル18を通じて直流電源を供給するようになっている。具体的には、サーマルカメラ装置9とアクセスパネル51hの所定の端子、例えば、端子b6(図8参照)との間を、内部空間52の沿った配線(信号線9l1及び電源供給線9l2:図16参照)によって接続する。ここで、当該配線は、USBケーブルであってもよい。一方で、上記端子b6と統合制御装置10のUSBポート11d1(図9参照)との間を直流電源供給ケーブル18(カメラ装置8に直流電源を供給するものとは別のもの)で接続することで、統合制御装置10からOTAチャンバ50内のサーマルカメラ装置9に対して該直流電源供給ケーブル18を介して駆動用直流電源を給電することが可能となる。
このように、本実施形態に係る測定装置1Aは、OTAチャンバ50の内部空間52内に、遠赤外線を放射する光源である遠赤外線LED9a1、遠赤外線を受光する受光センサ9a2、及び電源部9a3を有し、DUT保持部56によって保持あるいは回転されているDUT100を撮像するサーマルカメラ装置9をさらに設けたものである。
この構成により、本実施形態に係る測定装置1Aは、赤外線を使用するカメラ装置8を有することによる第1の実施形態に係る測定装置1と同様の作用効果に加え、表示部13にカメラ装置8の撮像画像ととともに表示されるサーマル画像に基づき、姿勢監視対象のDUT100の温度の監視も行うことができるという作用効果も奏する。5G通信のような高速な送受信を行うとDUT100の温度が高温になるため、送受信特性やプロトコル試験中のDUT100の温度を確認することも重要となる。DUT100の温度を確認するため、OTAチャンバ50の内部に遠赤外線を受光する受光センサ9a2を有するサーマルカメラ装置9を実装することで、該サーマルカメラ装置9に接続された制御PC(統合制御装置10)を介して、試験中のDUT100の姿勢監視と並行して当該DUT100の温度監視も可能となり、異常な発熱によるDUT100の故障の可能性を低減することができる。
なお、上述した各実施形態では、TIS、TRP測定等の全球面走査時のDUT100の姿勢を監視する場合の例を挙げているが、本発明はこれに限らず、プロトコル試験、スループット、AFSなどの通常の走査(回転)を行う場合等、扉51aを閉じた真っ暗な内部空間52内でのDUT100の姿勢監視に適用し得ることはいうまでもない。
また、上述した各実施形態では、消費電力が大きい既存のLED照明を有しない構成を前提としているが、本発明は、当該LED照明(照明用LED)を併用する構成とすることも可能である。この場合には、照明用LEDを、OTAチャンバ50の扉51aを閉じた状態でのDUT100の測定中には使用せず、扉51aを開けたときなどの作業用の照明として用いるようにすることができる。また、照明用LEDを測定中に駆動する場合でも、発熱を極力回避するために、例えば、カメラ装置8の撮像画像から明るさを取得し、該取得した明るさに応じて照明用LEDの発光量を調整する発光量調整制御機能を付加した構成としてもよい。
なお、本発明は、電波暗箱だけではなく電波暗室にも適用できる。