JP7041774B2 - 再分散性パルプおよび再分散性パルプ組成物 - Google Patents
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Description
また、製紙分野においても、パルプスラリーを脱水や乾燥させて水分率を低くした状態のパルプは再分散性に劣る、ということは技術常識として当業者の間でも共通した認識であり、このような脱水や乾燥した状態から容易に再分散させることができるというパルプは従来知られていない。
第2発明の再分散性パルプ組成物は、第1発明において、前記パルプが、抄紙用パルプであることを特徴とする。
第3発明の再分散性パルプ組成物は、第1発明または第2発明において、前記組成物が、繊維状、綿状、塊状、ブロック状、粒状、粉状、シート状、蝋状、スポンジ状のいずれかであることを特徴とする。
第4発明の再分散性パルプ組成物は、第1発明、第2発明または第3発明のいずれかの発明において、前記スルホン化パルプは、平均繊維長が0.2mm以上5mm以下であることを特徴とする。
第2発明によれば、抄紙用パルプが含有しているので、強度を向上させることができる。
第3発明によれば、所定の形状であるので、取り扱い性を向上させることができる。
第4発明によれば、所定の繊維長を有しているので、取り扱い性をより向上させることができる。
本実施形態の再分散性パルプは、パルプを構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部がスルホ基で置換されたスルホン化パルプを含むことにより、水分が少ない状態からでも優れた分散性(水解性)を発揮させることができるようにしたことに特徴を有している。そして、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、本実施形態の再分散性パルプが含有した組成物であり、本実施形態の再分散性パルプを含有することにより、水分が少ない状態からでも優れた分散性(水解性)を発揮させることができるようにしたことに特徴を有している。
ここでいう分散媒に対する分散性とは、多量の水に接触すれば接近状態にある繊維状のパルプ同士の結合がほぐれて分散媒中に完全にバラバラにばらけることはもちろん、一部のほぐれた状態の繊維同士が少量接近した状態も含む。
本実施形態の再分散性パルプに含まれるスルホン化パルプは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材であり、含まれるセルロース繊維を構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が下記式(1)で示されるスルホ基でスルホン化されたものである。つまり、本実施形態の再分散性パルプ中のスルホン化パルプは、パルプを構成するセルロース繊維の水酸基の一部が、スルホ基で置換されたパルプである
(ここで、rは、独立した1~7の自然数であり、Zr+は、r=1のとき、水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、1価の遷移金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン、カチオン性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、r=2以上のとき、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオン、ジアミンのようなカチオン性官能基を分子内に2以上含有する化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。)
本実施形態の再分散性パルプ中のスルホン化パルプは、スルホ基が所定の範囲内となるように調整されている。スルホ基が所定の範囲内に調整されたスルホン化パルプを含有することにより、本実施形態の再分散性パルプに対して優れた水解性を付与することができる(実施例参照)。
例えば、スルホ基の導入量が1.0mmol/g以上であれば、後述する方法で調整した本実施形態の再分散性パルプを含有する再分散性パルプ組成物によるシートが、後述する裂断長が強く、引っ張られる方向の強度が強くなるため、シートをロール状に巻き取りやすくなる。そして、このロール状に巻いたシート状の本実施形態の再分散性パルプ組成物を水に入れれば、分散媒に対して簡単に分散させることができる。
本実施形態の再分散性パルプに含まれるスルホン化パルプは、所定のほぐれ易さ(つまり分散性(水解性))を有している。
例えば、上記測定方法におけるほぐれ易さ測定で調製したシートにおける当該試験方法におけるほぐれ易さが、15秒以下である。好ましくは14秒以下であり、より好ましくは12秒以下であり、さらに好ましくは11秒以下であり、よりさらに好ましくは10秒以下である。
本実施形態の再分散性パルプに含まれるスルホン化パルプの分散性は、後述する実施例に記載の水解性試験(JIS P 4501で規定される、ほぐれやすさの試験方法)で評価することができる。詳細については、後述する実施例に記載に示すが、その概略を以下に示す。
または、スルホン化パルプを坪量が100g/m2以上1000g/m2未満、厚みが0.05mm~3.0mmのシート状に形成して、JIS P 4501に準拠してほぐれ易さ(つまり水解性)を測定する。
まず、(i)純水1Lを入れた1Lガラスビーカーへ回転子を入れ、回転子の回転数を600rpmに調整する。ついで、(ii)試験片を投入してから回転子の回転数が450rpmまでに回復するまでの時間を測定する。
また、本実施形態の再分散性パルプは、出願時の製紙分野における技術常識では想定することができない全く新しいパルプである。具体的には、出願時の製紙分野における技術常識では、製紙工程で調製されたパルプスラリーを脱水や乾燥させて水分率を低くすれば、パルプは再分散性に劣るということは当業者の間で共通した認識であり、このような脱水や乾燥した状態のパルプを水にいれても簡単には再分散させることが困難であることも当業者の間で共通した認識である。しかしながら、本実施形態の再分散性パルプは、上述したように従来のドライパルプ等と同様に水分率を低くしても、優れた再分散性(水解性)を発揮させることができるパルプであり、製紙工程において非常に優れたパルプとして用いることができる。
本実施形態の再分散性パルプが含有するスルホン化パルプは、取り扱い性の観点において、所定のろ水度(フリーネス)を有するものが好ましい。
例えば、上記スルホン化パルプは、ろ水度が60mL以上であり、好ましくは100mL以上であり、より好ましくは300mL以上であり、さらに好ましくは500mL以上である。一方、ろ水度が800mLを超えるとシート等にした際の取り扱い性の低下が生じる。このため、上記スルホン化パルプは、取り扱い性の観点において、下限値を60mL以上、上限値を800mL以下とする範囲内となるように調整したものを採用するのが好ましい。
なお、平均繊維長は、後述する実施例に記載のファイバーテスターを用いた方法により測定することができる。
本実施形態の再分散性パルプは、他のパルプ(例えば、抄紙用パルプなど)を混合してもよい。なお、抄紙用パルプとは、摩砕機で処理した機械パルプ、古紙パルプ、化学パルプ、スルホン化以外の官能基が積極的に導入された化学変性パルプなどをいう。
例えば、本実施形態の再分散性パルプが含有するスルホン化パルプの含有割合が、固形分質量%において、1質量%以上であればよく、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、よりさらに好ましくは70質量%以上である。
スルホン化パルプの含有割合が固形分質量%で90質量%以上の場合、本実施形態の再分散性パルプの分散性(水解性)は、スルホン化パルプのほぐれ易さの物性値と同程度の値を示す。一方、引張強度の観点では、上記スルホン化パルプの含有割合を少ない状態のものが好ましい。
なお、上記スルホン化パルプの含有割合が固形分質量%で100質量%の場合(つまり本実施形態の再分散性パルプが上記スルホン化パルプからなる場合)は、当然にスルホン化パルプの物性値と本実施形態の再分散性パルプが同一になる。
固形分質量%=(固形分質量(g)/測定時における全体の質量(g))×100
つぎに、本実施形態の再分散性パルプ組成物について説明する。
本実施形態の再分散性パルプ組成物は、上述したように本実施形態の再分散性パルプを含有した固形状の組成物である。
具体的には、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、水分率が100%よりも低い固形状のものであり、例えば、繊維状、綿状、塊状、ブロック状、粒状、粉状、シート状、蝋状、スポンジ状、ゲル状、ペースト状、クリーム状などの固形状の組成物である。
本実施形態の再分散性パルプ組成物は、上述したように固形状のものであり、水分率が100%よりも低いものであればとくに限定されない。
例えば、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、固形の状態における水分率が、100%よりも低く、好ましくは97%以下であり、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、よりさらに好ましくは80%以下である。
なお、本実施形態の再分散性パルプ組成物の水分率の下限値は、絶乾状態でなければ、とくに限定されない。例えば、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、乾燥機等を用いて水分率を10%以下に調製してもよく、2~3%程度にしたものであってもよく、水分率が1%のものであってもよい。
したがって、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、固形の状態における水分率が0%よりも高く、97%以下である。好ましくは0.5%~95%であり、より好ましくは0.5%~90%であり、さらに好ましくは0.5%~85%であり、よりさらに好ましく0.5%~80%であり、さらに好ましくは0.5%~70%であり、さらに好ましくは0.5%~60%である。
例えば、ゲル状、ペースト状、クリーム状の本実施形態の再分散性パルプ組成物の水分率は、50質量%~97質量%である。また、例えば、繊維状、綿状、塊状、ブロック状、粒状、粉状、シート状、蝋状、スポンジ状の本実施形態の再分散性パルプ組成物の水分率は、0.5質量%~60質量%である。
例えば、本実施形態の再分散性パルプ組成物が、繊維状、綿状、塊状、ブロック状、シート状、粒状、粉状、スポンジ状または蝋状の状態において、水分率が0.5質量%以上、60質量%以下とすれば、優れた分散性を発揮させつつ、取り扱い性を向上させることができる。
水分率(%)=100-(試料の固形分質量(g)/水分率測定時における試料(g))×100={(水分率測定時における試料(g)-試料における固形分質量(g))/水分率測定時における試料(g)}×100
具体的には、乾燥機等を用いて試料を105℃で乾燥させて恒量となるように調整された乾燥重量をいう。詳細は実施例の記載に示す。
例えば、再分散性パルプ組成物を乾燥機に入れ、所定の乾燥条件(例えば、温度105℃、2時間)で乾燥して測定することにより、再分散性パルプから水分が除去された後の乾燥したものの重量を算出することができる。
また、恒量とは、処理施設内における雰囲気中の水分と原料中の水分が見かけ上出入りしなくなる状態のことを意味する。具体的には、一定時間(例えば2時間)乾燥させたのち、連続して測定した2回の重量の変化量が乾燥開始時の重量に対して1%以内となった状態を意味する(ただし、2回目の重量の測定は1回目に要した乾燥時間の半分以上とする)。
本実施形態の再分散性パルプ組成物の分散性が優れているとは、上述した本実施形態の再分散性パルプに含有するスルホン化パルプと同様に、水分率が少ない状態のものを分散媒に入れた際における、分散媒に対する分散性がよいことを意味する。つまり、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、所定のほぐれ易さ(つまり分散性(水解性))を有している。
具体的には、上述したスルホン化パルプの分散性(水解性)と同様に、まず、後述する実施例に記載の方法(JIS P 8222に準拠した方法)によりシートを調製する。ついで、このシートのほぐれ易さ(つまり分散性)は、後述する実施例に記載の水解性試験法(JIS P 4501に準拠した測定方法に準拠した試験法)を用いて評価することができる。
しかも、従来のドライパルプ等を機械的に分散させる場合と比べて塊状のダマの発生を抑制することができる。つまり、従来のドライパルプ等を再分散させる際に要するエネルギーを低減することができるので、かかる工程における二酸化炭素排出量を抑制することができる。しかも分散性を向上させるための添加剤なども使用も抑制することができる。さらに、得られるパルプスラリーは、従来のドライパルプ等を再分散させたものよりも品質の高いパルプスラリーを調製することができる。
このため、本実施形態の再分散性パルプ組成物を製紙工程における抄紙工程に用いれば、経済的にも品質的にも優れた製紙を作製することができる。
このため、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、上述したように従来のドライパルプ等と同様に水分率を低くしても、優れた再分散性(水解性)を発揮させることができる組成物であり、製紙工程において非常に優れたパルプ組成物として用いることができる。
本実施形態の再分散性パルプ組成物は、取り扱い性の観点において、所定のろ水度(フリーネス)を有するものが好ましい。
例えば、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、ろ水度が60mL以上であり、好ましくは100mL以上であり、より好ましくは300mL以上であり、さらに好ましくは500mL以上である。ろ水度を低くすれば、繊維同士の絡み合いを向上させることができるのでシート状などの集合体にした際の強度を向上させることができる。またろ水度を低くすれば、表面の光沢性を向上させることができる。その逆に、ろ水度を高くすれば生産性を向上させることができる。一方、ろ水度が800mLを超えるとシート等にした際の取り扱い性が低下する傾向にある。
このため、本実施の再分散性パルプは、取り扱い性の観点において、下限値を60mL以上、上限値を800mL以下とする範囲内となるように調整したものを採用するのが好ましい。
なお、本明細書のろ水度(フリーネス)は、上述したスルホン化パルプと同様に実施例に記載の測定方法(JIS 8121-2(2012)に準拠する測定方法)を用いて算出される。
例えば、取り扱い性を向上させる上では、本実施形態の再分散性パルプ組成物中のパルプの平均繊維長が0.2mm以上が好ましい。下限値としては、繊維同士の絡み合いにより組成物の強度が向上する観点からは0.5mm以上が好ましく、より好ましくは1.0mm以上であり、さらに好ましくは1.5mm以上であり、さらにより好ましくは2.0mm以上である。上限値はとくに限定されないが、分散性の観点からは20mm以下が好ましく、より好ましくは15mm以下、さらに好ましくは10mm以下である、さらにより好ましくは5mm以下である。
なお、平均繊維長は、後述する実施例に記載のファイバーテスターを用いた方法や、光学顕微鏡観察により測定することができる。
本実施形態の再分散性パルプ組成物は、上述したスルホン化パルプの含有割合が、固形分質量%において、3質量%以上が好ましい。つまり、本実施形態の再分散性パルプ組成物は、固形状であり、水分を含有しつつ、上述したスルホン化パルプの含有率が上記値以上となるように調整されていれば、上記形状を維持しつつ優れた分散性を適切に発揮させることができる。なお、「固形分質量%」の算出式は、上述した式と同じである。
本実施形態の再分散性パルプ組成物に含まれる抄紙用パルプなどの他のパルプの含有割合は、とくに限定されない。
例えば、本実施形態の再分散性パルプ組成物中における他のパルプの含有割合が、上記スルホン化パルプの固形分100質量部に対して、1質量部以上、900質量部以下となるように調整することができる。
なお、他のパルプの含有割合の下限値は、上記スルホン化パルプの固形分100質量部に対して、1質量部以上であればとくに限定されない。例えば、10質量部以上であり、好ましくは40質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらにより好ましくは200質量部以上、よりさらに好ましくは500質量部以上である。
上記水分率である本実施形態の再分散性パルプ組成物に含有される上記スルホン化パルプは、後述する実施例に記載の方法(JIS P 8222に準拠した方法)で調製されたシートにおける水分率が所定の範囲内であり、かかるシートの水解性が上述した範囲内のものである。
シートにおける水分率とは、スルホン化パルプのほぐれ易さ測定におけるシートの水分率のことをいい、例えば、30%以上70%以下のものが好ましく、より好ましくは40%以上60%以下である。
上記水分率である本実施形態の再分散性パルプ組成物に含有される上記スルホン化パルプは、後述する実施例に記載の方法(JIS P 8222に準拠した方法)で調製されたシートにおける水分率が所定の範囲内であり、かかるシートの水解性が上述した範囲内のものである。
シートにおける水分率とは、スルホン化パルプのほぐれ易さ測定におけるシートの水分率のことをいい、例えば、20%以下となるものが好ましく、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらにより好ましくは5%以下である。
本実施形態の再分散性パルプに含まれるスルホン化パルプの製造方法は、以下に示す製法(スルホン化パルプ製法)により製造することができるが、かかる製法に限定されない。
本明細書において、繊維原料とは、セルロース分子を含む繊維状のパルプなどをいう。パルプとは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材である。このセルロース繊維は、複数の微細繊維(例えば、ミクロフィブリル等)が集合したものである。そして、この微細繊維とは、D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子であるセルロース分子(以下、単にセルロースということもある)が複数集合したものである。
接触工程S1は、セルロースを含む繊維原料に対してスルファミン酸と尿素を接触させる工程である。この接触工程S1は、上記接触を起こさせることができる方法であれば、とくに限定されない。
例えば、スルファミン酸と尿素を溶媒に溶解させた反応液に繊維原料(例えば、木材パルプ)を浸漬等して反応液を繊維原料に含浸させてもよいし、繊維原料に対してかかる反応液を塗布してもよいし、繊維原料に対してスルファミン酸と尿素をそれぞれ別々に塗布したり、含浸させたり、スプレー噴霧してもよい。例えば、反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を採用すれば、均質にスルファミン酸と尿素を繊維原料に対して接触させ易いという利点が得られる。
反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に対して反応液を含浸させる方法を採用する場合、反応液に含まれるスルファミン酸と尿素の混合比は、とくに限定されない。例えば、後述する実施例に記載の混合比にすることができる。
例えば、スルホン化剤と尿素または/およびその誘導体は、濃度比(g/L)において、4:1(1:0.25)、2:1(1:0.5)、1:1、2:3(1:1.5)、1:2.5となるように調整することができる。
繊維原料に接触させる反応液の量は、繊維原料に対して反応液中のスルファミン酸と尿素が所定の割合となるように接触させる。
例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態において、反応液に含まれるスルホン化剤が、繊維原料の乾燥重量100重量部に対して、1重量部~20,000重量部であり、反応液に含まれる尿素または/およびその誘導体が、繊維原料の乾燥重量100重量部に対して、1重量部~100,000重量部となるように調製することができる。
上記のごとく接触工程S1で調製された反応液を含浸させた繊維原料は、次工程の反応工程S2へ供給される。
この反応工程S2は、接触工程S1から供給された繊維原料に含まれるセルロース繊維と、スルファミン酸と、尿素とを反応させて、セルロース繊維中のセルロース水酸基に対してスルファミン酸のスルホ基を置換させて、繊維原料に含まれるセルロース繊維にスルホ基を導入する工程である。つまり、この反応工程S2は、反応液を含浸した繊維原料に含まれるセルロース繊維中のセルロース水酸基にスルホ基を置換するスルホン化反応を行う工程である。
反応工程S2における反応温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、上記繊維原料を構成するセルロース繊維にスルホ基を導入できる温度であれば、とくに限定されない。
例えば、反応工程S2に供給した上記繊維原料の雰囲気温度が100℃以上200℃以下となるように調整する。好ましくは雰囲気温度が120℃以上200℃以下である。加熱時における雰囲気温度が200℃よりも高くなると、繊維の熱分解が起こったり、繊維の変色の進行が早くなったりする。一方、反応温度が100℃よりも低くなると、得られるスルホン化パルプの透明性が低下する傾向にある。
したがって、得られるスルホン化パルプの透明性の観点では、反応工程S2における反応温度(具体的には雰囲気温度)は、100℃以上200℃以下であり、好ましくは120℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは120℃以上160℃以下である。
例えば、公知の乾燥機や、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置、熱プレス機(例えば、アズワン(株)製、AH―2003C)を用いたホットプレス法等を採用することができる。とくに、操作性の観点では、反応工程S2でガスが発生する可能性があるので、循環送風式の乾燥機を使用するのが好ましい。
反応工程として上記加熱方法を採用した場合の加熱時間(つまり反応時間)は、上述したようにセルロース繊維にスルホ基を適切に導入することができれば、とくに限定されない。例えば、反応工程S2における反応時間は、反応温度を上記範囲となるように調整した場合、1分以上となるように調整する。好ましくは、5分以上であり、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは15分以上である。
反応時間が1分よりも短い場合は、セルロース繊維の水酸基に対するスルホ基の置換反応がほとんど進行していないと推察される。一方、加熱時間をあまり長くしてもスルホ基の導入量の向上が期待できない傾向にある。
したがって、反応工程S2として上記加熱方法を採用した場合の反応時間は、とくに限定されないが、反応時間や操作性の観点から、5分以上300分以内が好ましく、より好ましくは5分以上120分以内とするのがよい。
スルホン化パルプ製法に用いられる繊維原料は、上述したようにセルロースを含むものであれば、とくに限定されない。例えば、一般的にパルプといわれるものを用いてもよいし、ホヤや海藻などから単離されるセルロースなどを含むものを繊維原料として採用することができるが、セルロース分子で構成されたものであれば、どのようなものであってもよい。
上記パルプとしては、例えば、木材系のパルプ(以下単に木材パルプという)や、溶解パルプ、コットンリンタなどの綿系のパルプ、麦わらや、バガス、楮、三椏、麻、ケナフのほか、果物等などの非木材系のパルプ、新聞古紙、雑誌古紙やダンボール古紙などから製造された古紙系のパルプなどを挙げることができるが、これらに限定されない。なお、入手のし易さの観点から、木材パルプが繊維原料として採用しやすい。
化学処理工程における反応工程S2の後に、スルホ基を導入した後のスルホン化パルプを洗浄する洗浄工程を含んでもよい。
スルホ基を導入した後のスルホン化パルプは、スルホン化剤の影響により表面が酸性になっている。また、未反応の反応液も存在した状態となっている。このため、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にする洗浄工程を設ければ、取り扱い性を向上させることができるようなる。
例えば、スルホ基を導入した後のスルホン化パルプが中性になるまで純水等で洗浄するという方法を採用することができる。また、アルカリ等を用いた中和洗浄を行ってもよい。かかる中和洗浄を行う場合、アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物、有機アルカリ化合物などを挙げることができる。そして、無機アルカリ化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を挙げることができる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、複素環式化合物の水酸化物などを挙げることができる。
以下の実施例では、本発明の再分散性パルプに含まれるスルホン化パルプが所定の特性(水解性)を有することにより、本発明の再分散性パルプおよび本発明の再分散性パルプ組成物が優れた分散性を有していることを確認した。
実験1では、本発明の再分散性パルプが有するスルホン化パルプの特性(水解性)を確認した。
以下では、実験に供したNBKPを単にパルプとして説明する。
パルプは、大量のイオン交換水(ORGANO社製電気伝導率計(型番RG-12)で測定される電気伝導度の値の範囲が0.1~0.2μS/cm。以降、純水という)で洗浄後、目開き75μm(200メッシュ)のステンレスふるいで水を切り、サンプルを一部採り分け後述する方法により固形分濃度を測定した(固形分濃度21.6質量%)。
洗浄後のパルプを後述する方法によりパルプ特性を評価したところ、ろ水度720mL、平均繊維長2.54mmであった。
パルプを以下のように調製した反応液に加え、反応液をパルプに含浸させた。
このパルプに反応液を含浸させる工程が、本実施形態における「接触工程」に相当する。
スルファミン酸(純度99.8%、扶桑化学工業製)と尿素溶液(純度99.0%、富士フィルム和光純薬社製、型番;特級試薬)を使用して、両者の混合比が、濃度比(g/L)において、2:1(200g/L:100g/L)、1:1(200g/L:200g/L)、1:1.5(200g/L:300g/L)、1:2(200g/L:400g/L)、2:2.5(200g/L:500g/L)となるように混合し各反応液を調整した(試料A~E用)。
調製した反応液を用いてパルプに接触させた。
各反応液から1000gを分取し、この反応液とパルプ20g(固形分質量)を接触させた。接触方法は、含浸方法を用いた。
乾燥パルプの重量は、乾燥機(ヤマト科学製、型番;DKN602)を用いて温度105℃、2時間乾燥したものを測定して、水分率が平衡状態になるまで乾燥した。実験での平衡状態の評価方法は、恒温槽の温度を所定の温度(例えば、50℃もしくは105℃)に設定した上記乾燥機にて1時間乾燥後、連続して測定した2回の重量の変化量が乾燥開始時の重量に対して1%以内となった状態を平衡状態にあるとした(ただし、2回目の重量の測定は1回目に要した乾燥時間の半分以上とした)。
なお、以下の記載で乾燥機の型番等の記載がないものは、上記乾燥機と同機種のものを用いた。
水分率の測定は、下記式により算出した。
水分率(%)=100-(パルプの固形分質量(g)/水分率測定時におけるパルプ重量(g))×100
接触工程で調製した反応液を含浸させたパルプを、次工程の反応工程における加熱反応に供した。この加熱反応は、反応液にパルプを接触させて、パルプの繊維に反応液中のスルファミン酸と尿素を保持または担持させた状態で熱を加えることで、加熱反応を進行させてパルプ中のセルロース繊維にスルホ基を導入させる工程である。
なお、この反応液を含浸させたパルプを加熱してスルホ基を導入する工程が、本実施形態における「反応工程」に相当する。
加熱には、乾燥機を用いた
乾燥機の恒温槽の温度:120℃、加熱時間:25分
まず、反応させたパルプに多量の純水を加えパルプスラリーとした。ついで、炭酸水素ナトリウム(純度99.5%、ナカライテスク社製)を泡が生じなくなるまで加えて中和した。
この中和処理と後述の中和したパルプスラリーを多量の純水で洗浄する工程が、本実施形態の「化学処理工程における洗浄工程」に相当する。
調製されたスルホン化パルプに含まれるスルホ基の導入量は、電気伝導度測定により測定した。
上記製法で得られたスルホン化パルプを純水に分散させたパルプスラリーを目開き63μm(235メッシュ)のステンレスふるい上に注ぎ、多量の純水で洗浄し(洗浄の終点は、ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となったときとした)、スルホン化パルプの固形分濃度が1.0質量%となるように測定用パルプスラリーを調製した。
固形分濃度(%)=(パルプの固形分質量(g)/パルプスラリーの質量(g))×100
調製したH型のスルホン化パルプは、固形分質量が0.2gとなるようにビーカーに入れ、純水を加えて全量を50gにした。このビーカーを電気伝導度計(水質計(東亜ディーケーケー社製、型番;MM‐43X)、電気伝導度電極(東亜ディーケーケー社製、型番;CT-58101B)で行った)にセットして官能基導入量を測定した。
測定用パルプスラリー(固形分質量0.1g)をガラスビーカーに入れ、このビーカーに水を加えて全容300mLの希薄パルプスラリーを調製した。この希薄パルプスラリーをファイバーテスター(ローレンツェン&ベットレー社製、CODE912)を用いて希薄パルプスラリー中のスルホン化パルプの平均繊維長を測定した。その際にファイバーテスターが検出した繊維のカウント数(本数)は9000~20000であった。
ろ水度の測定は、JIS P 8121-2 カナダ標準ろ水度法(2012)に準拠した測定方法で測定した。試験では、1.0質量%測定用パルプスラリーを純水で0.3質量%に希釈し、1000mL(20℃)準備した。この調製溶液を使って、ろ水度試験機(熊谷理機工業社製、製造番号;0209087)を用いて測定した。
再分散性パルプの分散性評価は、まず、JIS P 8222 パルプ-試験用手抄紙の調製方法-(2015)により手抄シート(坪量約48g/m2~63g/m2、水分率約10%、厚み約80μm~0.2mm)作製した。このパルプシートから11.4×11.4cmの大きさの試験片をそれぞれ作製した。
手抄シートの作製方法は次のように行った。
5Lプラスチック容器に測定用パルプスラリーを固形分質量で3.75gはかりとり、固形分濃度0.2~0.5質量%になるまで水道水を加えてよく分散させた。この希釈スラリーをJIS P 8222 パルプ-試験用手抄紙の調製方法-(2015)に記載された手抄機を用いて、目開き0.154mm(100メッシュ、大きさ;25cm×25cm)の金網を使用した以外はJIS P 8222に準拠した方法により手抄シートを作製した。つまり、JIS P 8222に準拠し100メッシュの金網を使用してシートを調製した。
得られたシートはJIS P 8111に準拠し調湿を行った後、一辺が11.4cmの大きさにカットした。調湿後において、シートの水分率測定は前述した方法により測定し、シートの厚さはJIS P 8118に準拠し測定した。詳細は、後述するミクロンレベルのパルプシートの厚さ測定を参照。
純水300mL(20℃)が入ったガラスビーカー(柴田科学社製、製品名;ビーカー(目安目盛付き)300mL)をマグネチックスターラー(アズワン社製、型番;HS-30DN)に載せ、回転子(アズワン社製、製品名;撹拌子 星型クロスヘッド PTFE被覆、直径35mm高さ12mm)の回転数を600rpmになるように調整した。その中に試験片を投入し、ストップウォッチで時間の計測をスタートした。
シート投入後、回転数が下降し、試験片がほぐれるに従い回転数は上昇し、540rpmまで回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で記録した。
パルプを固形分濃度2.0質量%に調整後、ミキサー(パナソニック社製、型番;MX-X701、容器;付属の定格容量1000mLのミキサー)に200g投入した。ミキサー回転設定は「高速」で行い、10分間ミキシングした。
図2に示すとおり、再分散性パルプが含有するスルホン化パルプは、上記測定方法におけるほぐれ易さ測定で調製したシートが水分率を少なくした状態であっても、比較例1と比較して、優れた分散性(水解性)を発揮させることができた。
一般的に、パルプ(特に低ろ水度を示すパルプ)はパルプ繊維同士の物理的絡み合いや、セルロース同士の水素結合が増え、水分率が少なくなるに従い強固な結合を生じる。これにより、再度水を与え水分率の向上を図っても水の吸収に時間がかかる。
しかしながら、吸水したパルプとして、ろ水度が同等でありスルホ基を有する試料Aとスルホ基を有さない比較例1とを比較した時、比較例1は再分散性を示さなかった。スルホ基の水解性効果をさらに検討したところ、ろ水度に影響することなく水解性が付与できることを見出した。
従来ではパルプに再分散性を付与させるためには、分散性を向上させる分散剤と呼ばれる薬剤を添加する必要があった。しかし、本発明の再分散性パルプを用いれば分散剤等を用いることなく、優れた分散性を発揮させることができることが確認できた。
したがって、実験1の結果から、再分散性パルプがスルホン化パルプのみから形成される場合、優れた分散性(水解性)を有していることが確認できた。そして、シート状にした再分散性パルプ組成物も同様に優れた分散性(水解性)を有していることが確認できた。
そこで、実験2では、シートの坪量、厚みおよび水分率を増加させた際の水解性について確認した。
実験2では、スルホン化パルプの調製は、接触工程におけるスルファミン酸と尿素の混合比が2:1{(69g/L:35g/L、試料1)、(139g/L:69g/L、試料2)、(278g/L:139g/L、試料4)}と2:3{(278g/L:400g/L、試料3)となるように調製した反応液を用いて、以下のように行った。
反応液の調整の一例(試料1)を示す。
純水720mLにスルファミン酸(純度99.8%、扶桑化学工業製)50gと尿素(純度99.0%、富士フィルム和光純薬社製、型番;特級試薬)25gを完全溶解した(スルファミン酸と尿素の混合比は69(g/L):35(g/L))。
上記反応液を全量用いて、丸住製紙社製NBKPシート(水分率50%、坪量6000g/m2、厚さ0.7mm)を105℃乾燥機で水分率1%程度になるまで乾燥したパルプシート400gに均一に含浸させた。この含浸シートを105℃の乾燥機で3.5時間乾燥させた。その後140℃の乾燥機で25分反応させた。得られた反応物は目開き63μm(235メッシュ)のステンレスふるい上にて、多量の炭酸水素ナトリウム(純度99.5%、ナカライテスク社製)水溶液を用いて中和処理後、多量の純水で洗浄することによりスルホン化パルプ(試料1用のスルホン化パルプ)を得た。
反応液の調整割合を純水720mL、スルファミン酸100g、尿素50g(スルファミン酸と尿素の混合比は139(g/L):69(g/L))とし、調製した反応液を用いて試料1用のスルホン化パルプの調製と同様の操作を行うことにより、試料2用のスルホン化パルプを調製した。調製した試料2用のスルホン化パルプの物性は試料1用のスルホン化パルプと同様に評価した。
反応液の調整割合を純水720mL、スルファミン酸200g、尿素288g(スルファミン酸と尿素の混合比は278(g/L):400(g/L))とし、調製した上記反応液全量を用いて試料1用のスルホン化パルプの調製と同様の操作を行うことにより、試料3用のスルホン化パルプを調製した。調製した試料3用のスルホン化パルプの物性は試料1用のスルホン化パルプと同様に評価した。
反応液の調整割合を純水720mL、スルファミン酸200g、尿素100g(スルファミン酸と尿素の混合比は278(g/L):139(g/L))とし、調製した反応液を用いて試料1用のスルホン化パルプの調製と同様の操作を行うことにより、試料4用のスルホン化パルプを調製した。調製した試料4用のスルホン化パルプの物性は試料1用のスルホン化パルプと同様に評価した。
得られた各スルホン化パルプ(試料1用のスルホン化パルプ、試料2用のスルホン化パルプ、試料3用のスルホン化パルプ、試料4用のスルホン化パルプ)からそれぞれパルプスラリーを調製し、JIS P 8222 パルプ-試験用手抄紙の調製方法-(2015)により以下に示す操作でパルプシート(試料1用パルプシート;ES4-1~ES4-4、試料2用パルプシート;ES3-1~ES3-4、試料3用パルプシート;ES1-1~ES1-4、試料4用パルプシート;ES2-1~ES2-4)を作製した。
手抄紙作製の際には、以外は上述した場合と同様に目開き0.154mm(100メッシュ、大きさ;25cm×25cm)の金網を使用したJIS P 8222に準拠した方法で調製した。
作製したシートをプレス脱水処理した後、乾燥プレートから回収した後、105℃乾燥機に入れ10分程度乾燥することにより、水分率1%、含水時シート坪量100g/m2、厚さ約0.5mmのパルプシートを作製した。
作製したシートをプレス脱水処理した後、乾燥プレートから回収することにより水分率50%、含水時シート坪量200g/m2、厚さ約0.5mmのパルプシートを得た。
パルプスラリーの分取量を3125g(固形分質量31.3g)に変更した以外、パルプシートES1-1と同様の方法により、水分率50%、含水時シート坪量1000g/m2のパルプシートを得た後、このパルプシートを105℃乾燥機に入れ30分程度乾燥することにより、水分率1%、含水時シート坪量500g/m2、厚さ約3mmのパルプシートを得た。
パルプシートES1-3と同様の方法により、水分率50%、含水時シート坪量1000g/m2、厚さ約3mmのパルプシートを作製した。
パルプシートの厚さはデジタルマイクロメーター(新潟精機社製、型番;MCD130-25)を用いて行った。測定値はマイクロメーターの測定面とパルプシートが接触し、かつパルプシートがつぶれない位置を表した。
なお、上述した予備試験のパルプシート、後述する比較例であるリン酸エステル基を導入したリン酸エステル化パルプで作製したパルプシートおよび官能基を導入していないパルプで作製したパルプシートについても同様の方法で測定した。
まず、作製した各パルプシートから11.4×11.4cmの大きさの試験片をそれぞれ作製した。
この各試験片を用いてJIS P 4501を参考にしてパルプシートの水解性(つまり再分散性パルプの分散性)を評価した。
純水1L(20℃)が入った1Lガラスビーカー(柴田科学社製、製品名;ビーカー(目安目盛付き)1000mL)をマグネチックスターラー(アズワン社製、型番;HS-30DN)に載せ、回転子(アズワン社製、製品名;撹拌子 星型クロスヘッド PTFE被覆、直径35mm高さ12mm)の回転数を600rpmになるように調整した。その中に一辺が11.4cmにカットした試験片を投入し、ストップウォッチで時間の計測をスタートした。
シート投入後、回転数が下降し、試験片がほぐれるに従い回転数は上昇し、450rpmまで回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で記録した。また、10分以上撹拌を継続したが450rpmまで回転数が復帰しなかったものは「水解性なし」(つまり分散性なし)と判定した。つまり、坪量が100g/m2以上1000g/m2未満、厚みが0.05mm~3.0mmのシートの場合、300mLガラスビーカーを1Lガラスビーカーへ変更した点、純水の量を300mLから1Lへ変更した点、試験片投入後の回転子の回転数の回復時点を540rpmから450rpmへ変更した点以外はJIS P 4501に準拠した測定方法によりほぐれ易さを測定した。
試験片の水解性試験の終点において、パルプシートの分散状態(再分散性パルプが含有するスルホン化パルプの水解性)を目視により観察した。評価基準は以下のとおりとした。
○:完全に分散した状態が観察された。
△:シート形状は有していないが直径約数ミリの塊状のものが観察された。
×:回転数は450rpmまで復帰するが、2割程がシート形状を維持している状態のものや、回転数が450rpmまで復帰せず、5割以上がシート形状を維持している状態が観察された。
比較例として、反応液の条件や異なる官能基を導入したパルプなどを調製した。
比較例2では、実験2の試料1と同様の方法によりスルホ基の導入量が0.1mmol/g未満のスルホン化パルプを調製し、実験2と同様にパルプの特性およびパルプシート(CS4-1~CS4-4)の特性を評価した。
比較例3、4では、リン酸基が導入されたリン酸エステル化パルプを調製し、実験2と同様にパルプの特性およびパルプシート(CS1-1~CS1-4、CS2-1~CS2-4))の特性を評価した。
比較例5では、官能基を導入していないパルプ(一般的なパルプ)を用いて実験2と同様にパルプの特性およびパルプシート(CS3-1~CS3-4)の特性を評価した。
比較例2は、反応液の調整割合を純水720mL、スルファミン酸20g、尿素10g(スルファミン酸と尿素の混合比は28g/L):14(g/L))とし、調製した反応液を用いて試料1用のスルホン化パルプの調製と同様の操作を行うことにより、スルホ基の導入量が0.1mmol/g未満のスルホン化パルプを調製し、実験2と同様にパルプの特性およびパルプシート(CS4-1~CS4-4)の特性を評価した。
スルホ基の定性は、赤外分光光度計(日本分光社製、フーリエ変換赤外分光光度計、型番FT/IR-4200)により確認した。
赤外分光光度計の測定は、以下の条件で行った。
測定試料:40℃雰囲気下で水分除去した試料を用いて測定
測定条件:ATR法、積算回数100回、分解能4cm-1
スルホ基由来の観測波数:810cm-1付近(S―O由来)
まず、純水720mLにリン酸二水素アンモニウム(純度99.0%、富士フィルム和光純薬社製、型番;特級試薬)144gと尿素72g(純度99.0%、富士フィルム和光純薬社製、型番;特級試薬)を完全溶解した(リン酸二水素アンモニウムと尿素の質量比は200(g/L):100(g/L))。
なお、反応液の調整割合を純水720mL、リン酸二水素アンモニウム144g、尿素360g(リン酸二水素アンモニウムと尿素の質量比が200(g/L):500(g/L))とし、調製した反応液を用いて上記と同様の操作を行うことにより、後述する官能基導入量測定で1.74mmol/gのリン酸エステル化パルプ(比較例2)も調製した。
前述したとおり、リン酸エステル化パルプは実験2のスルホン化パルプと同様の条件にて物性の評価やパルプシートの作製および評価を行った。
純水3000mLが入った標準パルプ離解機(熊谷理機工業社製、製造番号;9107182)に丸住製紙社製NBKPシート(水分率50%、坪量6000g/m2、厚さ7mm)50gを入れ、3分間離解した。離解されたパルプを目開き63μm(235メッシュ)のステンレスふるい上に投入し、多量の純水で洗浄することにより官能基を導入していないパルプを得た。洗浄の終点はろ液の電気伝導度が1.0mS/m以下となったときとした。
洗浄後、官能基を導入していないパルプは純水を用いて固形分濃度1.0質量%に調整し、測定用パルプスラリーを調製した。上述したとおり、官能基を導入していないパルプは実験2のスルホン化パルプと同様の条件にて物性の評価やパルプシートの作製および評価を行った。
実験結果を図3~図7に示す。
図4~図7の(A)は、各シートにおける水解性を示したグラフである。
図4~図7の(B)は、ほぐれ易さ測定で用いるシートの水解性と官能基導入量の関係を示したグラフである。
その結果、すべてのシート作製条件においてスルホ基を導入したスルホン化パルプシートは、リン酸エステル基を導入したリン酸エステル化パルプシートよりも水解性が優れることが示された。また、スルホン化パルプシートは官能基導入量が増加するに従い水解性が向上する傾向にあったが、リン酸エステル化パルプシートは官能基導入量が増加するに従い水解性が低下する傾向にあった。
この効果を官能基の特徴から考察した。パルプへのリン酸エステル化は140℃以上で反応させることが通例である。一方で、リン酸エステル基(―PO3H2)は、高温下において脱水縮合を示す官能基として知られており、脱水縮合反応により架橋構造(―PO2H-O-PO2H-)を生じる。
したがって、反応の際、導入されるリン酸エステル基の大部分は非架橋で導入されるが一部は架橋構造を形成していることが予見される。一方、スルホ基は架橋構造を形成せず、中和・洗浄によりNa型に変換されたことにより水への親和性向上に伴い水解性が向上した。このことから、スルホン化パルプは再分散性に優れるパルプであることが示唆された。
従来の技術では、シートに水解性を付与する方法として、シート表面に凹凸をつけるエンボス加工方法が挙げられる。エンボス加工方法はシート表面部位に水解性を付与することができる。薄いシートであればシート内部にまで凹凸がつけられるため水解性が向上することは想定できる。
しかしながら、本発明で実施したような厚いシートでは、水解性を示さなかった比較例5のCS3-3やCS3-4にエンボス加工を施すのみでは、シート内部まで凹凸が付与されないため、水解性が改善されるとは到底想定できないし、エンボス加工機の煩雑化を招くこととなる。
このことから、スルホ基を導入するのみで高坪量シートでも水解性を発現できたことは例のない効果である。
実験3では、再分散性パルプ組成物、再分散性パルプ組成物がスルホン化パルプの混合割合(含有割合)を所定の範囲内とすることにより、分散性を適切に発揮し、しかも抄紙用パルプの混合割合を調整することにより強度を向上させることができることが確認できた。
混合シート作製パルプには、実験1で調製したスルホン化パルプ(試料A~E)と抄紙用にリファイナーで叩解された広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP(丸住製紙社製、ろ水度276mL、以下抄紙用パルプと記載))を所定の割合で混合したスラリーを用いて実験2実験1と同様の方法で手抄シート(試料5~9の各シート)を作製した。
シートに含まれるスルホン化パルプの固形分質量%=(スルホン化パルプ固形分質量(g))/(シート作製に供したパルプ固形分質量(g))×100
なお、例えば、試料(スルホン化パルプ)と抄紙用パルプの質量比が5:5の場合、シートのスルホン化パルプの含有割合は50質量%を意味する。言い換えれば、抄紙用パルプの含有割合は、スルホン化パルプの固形分100質量部に対して、100質量部である。
試料A(固形分質量2.63g)と抄紙用パルプ(固形分質量1.12g)を混合し、全体で3.75gとなるように調製し、スルホン化パルプ含有割合70%のシート作製用スラリーを調製した(試料A:抄紙用パルプ=7:3(質量比))。
調製した混合パルプに水を加えて固形分濃度が0.2~0.5質量%の範囲に希釈されたスラリーを調整した。
また、1.5×23cmの大きさにカットしたものは、オートグラフ(島津製作所社製、型番;AG-I500N)を用いて、つかみ具の間隔を10cmとした以外はJIS P 8113に準拠した方法により測定した。
引張強度が同じパルプを使用した場合であっても、シート作成時の坪量により結果が異なり一様に対比できないことから、得られた引張強度(kN/m)と係数(重力加速度)の積を坪量(g/m2)で除することにより裂断長(km)を算出した。具体的には以下の式を用いて裂断長を算出した。
裂断長(km)=引張強度(kN/m)×9.8067/坪量(g/m2)
ミクロンレベル(μmレベル)のシート厚さ測定は、次のように行った。
紙厚測定器(測定器(CITIZEN社製、型番;MEI-11)、インジケータ(CITIZEN社製、型番;SA-CD1)で構成された紙圧測定器)を用いてJIS P 8118に準拠し測定した。
パルプシートの耐水性は、ウォータードロップ法(中村 長一 著「紙のサイズ」P.389 「6・1・8水浮遊法」 北尾書籍貿易(1962))を参考とし、以下に示す方法により測定した。
顕微鏡観察時に一般的に用いられるガラス製のプレパラートを試験台として、その上に45mm×85mmにカットしたパルプシートをしわ等が生じないよう両端をセロハンテープで固定した。パルプシートを固定したプレパラートを水平にした台上に置き、パルプシート上10mmの位置から純水(20℃)をシリンジ(JIS T 3101(注射針)H5号に準拠したもの)を用いて1滴(約8mg)を滴下した。滴下した純水がパルプシートと接触した時点からストップウォッチを用いて時間計測を始め、パルプシート表面上に落下した純水が完全にパルプシートへ吸水されるまでの時間(秒)を測定した。
図8に示すように、再分散性パルプは、スルホン化パルプと抄紙用パルプを所定の割合で混合しても、優れた分散性(水解性)を発揮させること確認できた。しかも、抄紙用パルプの割合を増加させることにより、強度を向上させることができることが確認できた。つまり、実験3の結果から、再分散性パルプを含有するシート状に成形した再分散性パルプ組成物は、スルホン化パルプと抄紙用パルプを所定の割合で混合しても、優れた分散性(水解性)を発揮させること確認できた。
しかしながら、本発明の再分散性パルプ、再分散性パルプ組成物を用いれば、分散剤を用いなくとも優れた分散性を示すことが示された。
実験4では、再分散性パルプ組成物が固形状のものであることから、その状態について確認した。
実験の再分散性パルプ組成物は、スルホン化パルプの固形分濃度(実施形態における再分散性パルプ又は再分散性パルプ組成物の「固形分質量%」に相当する)が3質量%(写真では再分散性パルプ 3%と表記)、5質量%(写真では再分散性パルプ 5%と表記)のものを用いた。
図9(A)は、写真の撮影方向の概略を示した。
図9(B)は、倒立状態の側面視(X方向)の写真を示したものである。
図10は、倒伏状態の側面視(Y方向、Z方向)の写真を示したものであり、(A)がスルホン化パルプの固形分濃度が5質量%の再分散性パルプ組成物、(B)がスルホン化パルプの固形分濃度が3質量%の再分散性パルプ組成物、(C)が比較例のスルホン化パルプの固形分濃度が2質量%のもの、(D)が比較例のスルホン化パルプの固形分濃度が1質量%のもの、(E)が比較例の抄紙用パルプの固形分濃度が2質量%もの、の倒伏状態の側面視写真である。
図10の結果から、実施例の再分散性パルプを含有した再分散性パルプ組成物(図10中の(A)、(B))は、瓶を倒した後((Z)方向の写真)にも分散液が比較例(図10中の(C)~(E))のように瓶内に流れることなく留まっていた。この特徴は固形の形状を再分散性パルプ組成物の特有の性質であることを見出した。
したがって、再分散性パルプ組成物は、スルホン化パルプの固形分濃度が3質量%以上の場合、固形状であることが確認できた。
本発明の再分散性パルプ、再分散性パルプ組成物は、2質量%よりも高濃度である3質量%以上の状態(実施例)でパルプが特異的な固形状を示すという新しい形状の特徴を、再分散という物性に紐づけることができた。
S2 反応工程
Claims (4)
- 再分散性パルプと、パルプと、を含有した水分率が0.5%以上60%以下の組成物であり、
前記パルプの含有率が、前記再分散性パルプの固形分100質量部に対して、1質量部以上900質量部以下であり、
前記再分散性パルプは、
セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部がスルホ基で置換されたスルホン化パルプであり、
該スルホン化パルプのスルホ基の導入量は0.1mmol/g以上、5.0mmol/g以下であり、
ほぐれ易さが、15秒以下であり、
該ほぐれ易さは、
JIS P 8222に準拠し100メッシュの金網を用いて、坪量1000g/m 2 厚み3mm水分率50%に調製したシートを、
JIS P 4501に準拠して、(i)純水1Lを入れた1Lガラスビーカーへ回転子を入れて回転子の回転数を600rpmに調整し、ついで(ii)試験片を投入してから回転子の回転数が450rpmまでに回復するまでの時間を測定した値である
ことを特徴とする再分散性パルプ組成物。 - 前記パルプが、抄紙用パルプである
ことを特徴とする請求項1記載の再分散性パルプ組成物。 - 前記組成物が、繊維状、綿状、塊状、ブロック状、粒状、粉状、シート状、蝋状、スポンジ状のいずれかである
ことを特徴とする請求項1または2記載の再分散性パルプ組成物。 - 前記スルホン化パルプは、平均繊維長が0.2mm以上5mm以下である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の再分散性パルプ組成物。
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