JP2020132650A - 繊維状セルロース含有樹脂組成物、シート及び成形体 - Google Patents
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Abstract
Description
そこで本発明は、微細繊維状セルロースを含む樹脂複合体であって、樹脂成分の変質が抑制された樹脂複合体を提供することを目的とする。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンが有機オニウムイオンであり、
有機オニウムイオンの共役塩基のpKbが1.0以上である繊維状セルロース含有樹脂組成物。
[2] 有機オニウムイオンは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たす[1]に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
(a)炭素数が5以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が17以上である。
[3] 有機オニウムイオンが有機アンモニウムイオンである[1]又は[2]に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
[4] 樹脂が、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、塩素系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、アルコール系樹脂、セルロース誘導体及びこれらの樹脂の前駆体から選択される少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
[5] さらに有機溶剤を含む[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物から形成されるシート。
[7] [1]〜[5]のいずれかに記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物又は[6]に記載のシートから形成される成形体。
本発明は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、樹脂と、を含む繊維状セルロース含有樹脂組成物に関する。ここで、繊維状セルロース含有樹脂組成物は、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして有機オニウムイオンを含み、該有機オニウムイオンの共役塩基のpKbは1.0以上である。
J値=I1/I0
ただし、
I1値=(シート(A)の1650cm-1における吸収ピーク強度)/(シート(A)の1570cm-1における吸収ピーク強度)
I0値=(シート(B)の1650cm-1における吸収ピーク強度)/(シート(B)の1570cm-1における吸収ピーク強度)
なお、赤外線吸収スペクトルの測定はFT−IRを用いて行う。
本発明の繊維状セルロース含有樹脂組成物は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含む。本明細書においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースとも言う。なお、繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、亜リン酸基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W−1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
亜リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、亜リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、亜リン酸基導入繊維が得られることとなる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じて亜リン酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤により亜リン酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、亜リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、亜リン酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
亜リン酸基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
凝集工程では、解繊処理工程で得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、後述する有機オニウムイオンまたは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物を添加する。この際、有機オニウムイオンは、有機オニウムイオンを含有した溶液として添加することが好ましく、有機オニウムイオンを含有した水溶液として添加することがより好ましい。
また、添加する有機オニウムイオンのモル数は、微細繊維状セルロースが含む亜リン酸基の量(モル数)に価数を乗じた値の0.2倍以上であることが好ましく、0.5倍以上であることがより好ましく、1.0倍以上であることがさらに好ましい。なお、添加する有機オニウムイオンのモル数は、微細繊維状セルロースが含む亜リン酸基の量(モル数)に価数を乗じた値の10倍以下であることが好ましい。
有機オニウムイオンの共役塩基のpKbは1.0以上であればく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。有機オニウムイオンの共役塩基のpKbの上限値は特に制限されるものではないが、たとえば7.0であることが好ましい。なお、有機オニウムイオンと有機オニウムイオンの共役塩基は、以下の関係にある。
有機オニウムイオンの共役塩基+H2O⇔有機オニウムイオン+OH-
(1)[OH]=10-(14-pH)
(2)pKb=−log10([OH]2÷(0.01−[OH]))
ただし、[OH]は、有機オニウムの共役塩基水溶液の水酸化物イオン濃度(mol/L)を表す。
なお、水に難溶の有機オニウムの共役塩基は水中でほとんど電離せず、水酸化物イオンをほとんど放出しない。そのため、pKbは非常に大きいと考えられ、本明細書においては、難溶性の有機オニウムの共役塩基については、pKbは3.0より大きいものとする。
(a)炭素数が5以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が17以上である。
すなわち、微細繊維状セルロースは、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして含むことが好ましい。
中でも、Mは、窒素原子であることが好ましい。すなわち、有機オニウムイオンは有機アンモニウムイオンであることが好ましい。また、R1〜R4の少なくとも1つは、炭素数が5以上のアルキル基であり、かつR1〜R4の炭素数の合計が17以上であることが好ましい。なお、炭素数が5以上のアルキル基は置換基を有していてもよい。
本発明の繊維状セルロース含有樹脂組成物は、樹脂を含む。樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を挙げることができる。
なお、セルロース誘導体としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどを挙げることができる。
本発明の繊維状セルロース含有樹脂組成物は、有機溶剤をさらに含んでいてもよい。なお、有機溶剤をさらに含む繊維状セルロース含有樹脂組成物を樹脂含有微細繊維状セルロース分散液と呼んでもよい。
なお、繊維状セルロース含有樹脂組成物の固形分濃度は、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることが一層好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい、また、繊維状セルロース含有樹脂組成物の固形分濃度は、99質量%以下であることが好ましい。
繊維状セルロース含有樹脂組成物は、上述した微細繊維状セルロース及び樹脂の他に、たとえば界面活性剤、有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、及び架橋剤から選択される一種または二種以上を含んでもよい。
本発明の繊維状セルロース含有樹脂組成物においては、水の含有量は少ない方が好ましい。繊維状セルロース含有樹脂組成物における水の含有量は、繊維状セルロース含有樹脂組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。なお、繊維状セルロース含有樹脂組成物における水の含有量は0質量%であることも好ましい。
繊維状セルロース含有樹脂組成物の製造工程は、上述した<凝集工程>で得られた微細繊維状セルロース凝集物(濃縮物)の再分散液と、樹脂溶液を混合する工程を含むことが好ましい。すなわち、繊維状セルロース含有樹脂組成物の製造工程は、共役塩基のpKbが1.0以上の有機オニウムイオンを含有した水溶液を、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロース分散液に添加し、微細繊維状セルロース凝集物(濃縮物)を得る工程と、微細繊維状セルロース凝集物(濃縮物)に溶媒を添加し、微細繊維状セルロースの再分散液を得る工程と、該再分散液と樹脂溶液を混合する工程と、を含むことが好ましい。ここで、微細繊維状セルロース凝集物(濃縮物)の再分散液は、微細繊維状セルロース凝集物(濃縮物)と溶媒を混合することで得ることが好ましい。溶媒の種類は、特に限定されないが、たとえば水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合物を挙げることができる。中でも、溶媒は有機溶剤であることが好ましく、有機溶剤としては、上述した有機溶剤を挙げることができる。
本発明は、上述した繊維状セルロース含有樹脂組成物から形成されるシートに関するものであってもよい。本実施形態においては、たとえば上述した繊維状セルロース含有樹脂組成物を用いて、後述のシートの製造工程を実施することにより、シートを得ることができる。すなわち、本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、樹脂と、を含む。そして、繊維状セルロースが含む亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンは有機オニウムイオンであり、有機オニウムイオンの共役塩基のpKbは1.0以上である。
シートの製造工程は、上述した繊維状セルロース含有樹脂組成物(スラリー)を基材上に塗工する塗工工程、又は上述した繊維状セルロース含有樹脂組成物(スラリー)を抄紙する抄紙工程を含む。これにより、微細繊維状セルロースを含むシートが得られることとなる。
塗工工程では、たとえば繊維状セルロース含有樹脂組成物(スラリー)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
抄紙工程は、抄紙機によりスラリーを抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、とくに限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
本発明は、上述した繊維状セルロース含有樹脂組成物又は上述したシートから形成される成形体に関するものでもある。本発明では、樹脂との相溶性に優れた微細繊維状セルロースを用いているため、成形体は、優れた曲げ弾性率を有し、さらに強度と寸法安定性にも優れている。加えて、本発明の成形体は透明性にも優れている。
成形体の成形方法には特に制限はなく、射出成形法や加熱加圧成形法等を採用することができる。また、成形体をシートから成形する場合、プレス成形法又は真空成形法によって成形してもよい。
本発明の繊維状セルロース含有樹脂組成物の用途は特に限定されない。例えば、増粘剤、補強材、添加材として、化粧品、セメント、塗料、インクなどに使用することができる。また、繊維状セルロース含有樹脂組成物を成形することで補強材としての用途に使用することもできる。さらに、繊維状セルロース含有樹脂組成物の再分散スラリーを用いて製膜し、各種シートとして使用することができる。
〔微細繊維状セルロース濃縮物の製造〕
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
1.78質量%のジ−n−ステアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液100gを、塩酸で中和したポリオキシエチレンドデシルアミン水溶液の代わりに用いたこと以外は、製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース濃縮物Bを得た。微細繊維状セルロース濃縮物Bに含まれる亜リン酸基の対イオンは、ジ−n−ステアリルジメチルアンモニウムイオン(DADMA+)となっていた。得られた微細繊維状セルロース濃縮物Bの固形分濃度は90質量%であった。DADMA+の共役塩基であるジ−n−ステアリルジメチルアンモニウムヒドロキシドのpKbは2.9であった。
1.12質量%のN,N−ジドデシルメチルアミン水溶液100gを、ポリオキシエチレンドデシルアミン水溶液の代わりに用いたこと以外は、製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース濃縮物Cを得た。微細繊維状セルロース濃縮物Cに含まれる亜リン酸基の対イオンは、N,N−ジドデシルメチルアンモニウムイオン(DDMA+)となっていた。得られた微細繊維状セルロース濃縮物Cの固形分濃度は89質量%であった。DDMA+の共役塩基であるN,N−ジドデシルメチルアミンのpKbは3以上であった。
製造例1と同様に微細繊維状セルロース分散液Aを得た。微細繊維状セルロース分散液A100gを分取し、撹拌しながら0.19gの硫酸アルミニウムを添加した。さらに5時間撹拌を続けたところ、微細繊維状セルロースの凝集物が認められた。次いで、微細繊維状セルロース分散液を濾過した後、ろ紙で圧搾し、微細繊維状セルロース凝集物を得た。得られた微細繊維状セルロース凝集物を、イオン交換水で微細繊維状セルロースの含有量が2.0質量%となるよう再懸濁した。その後、再び濾過と圧搾を行う操作を繰り返すことで洗浄し、微細繊維状セルロース濃縮物Dを得た。洗浄終点は、ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった点とした。得られた微細繊維状セルロース濃縮物Dの固形分濃度は17質量%であった。
〔微細繊維状セルロース濃縮物の再分散〕
微細繊維状セルロース濃縮物Aに、微細繊維状セルロースの含有量が2.0質量%となるようジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した。その後、超音波処理装置(ヒールシャー製、UP400S)を用いて超音波処理を10分間行い、微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
アクリル樹脂(1)(楠本化成(株)製、NeoCryl B−817)の濃度が2.0質量%となるように、ジメチルスルホキシドを添加撹拌し、アクリル樹脂溶液を得た。
微細繊維状セルロース10質量部に対しアクリル樹脂が90質量部となるよう、得られた微細繊維状セルロース再分散スラリーにアクリル樹脂溶液を添加し、固形分濃度が2.0質量%である樹脂含有微細繊維状セルロース分散液を得た。
樹脂含有微細繊維状セルロース分散液を、シートの仕上がり坪量が100g/m2となるように計量して、ガラスシャーレ上に注ぎ、100℃の熱風乾燥機で24時間乾燥させ、シートを得た。得られたシートのJ値を後述の方法で算出した。
アクリル樹脂(1)(楠本化成(株)製、NeoCryl B−817)の代わりに別種のアクリル樹脂(2)(DIC(株)製、アクリディック A−181)を用い、微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに微細繊維状セルロース濃縮物Bを用い、ジメチルスルホキシドの代わりにトルエンを用い、熱風乾燥機の温度を100℃の代わりに40℃としたこと以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートのJ値を後述の方法で算出した。
アクリル樹脂の代わりにポリビニルアルコール((株)クラレ製、ポバール117)を用い、微細繊維状セルロース濃縮物Aの代わりに微細繊維状セルロース濃縮物Cを用いたこと以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートのJ値を後述の方法で算出した。
ポリビニルアルコールの代わりにポリフッ化ビニリデン(ソルベイ製、ソレフ6020)を用い、ジメチルスルホキシドの代わりにN−メチルー2ーピロリドン(NMP)を用い、熱風乾燥機の温度を100℃の代わりに80℃としたこと以外は実施例3と同様にしてシートを得た。得られたシートの全光線透過率及び黄色度(YI)を後述の方法で測定した。
ポリフッ化ビニリデンの代わりにポリ塩化ビニル(和光純薬工業製)を用いたこと以外は実施例4と同様にしてシートを得た。得られたシートの全光線透過率及び黄色度(YI)を後述の方法で測定した。
微細繊維状セルロース濃縮物Dに、55%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液1.85gを添加し、微細繊維状セルロースの含有量が1.0質量%となるようメチルエチルケトンを添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(hielscher製、UP400S)で10分間処理し、微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。これにより、亜リン酸基がアルミニウムイオンで架橋され、凝集していた状態から、対イオンがテトラブチルアンモニウムイオン(TBA+)に変換され分散した。
アクリル樹脂(1)(楠本化成(株)製、NeoCryl B−817)の濃度が2.0質量%となるように、メチルエチルケトン(MEK)を添加撹拌し、アクリル樹脂溶液を得た。テトラブチルアンモニウムヒドロキシドのpKbは0.5であった。
微細繊維状セルロース10質量部に対しアクリル樹脂が90質量部となるよう、得られた微細繊維状セルロース再分散スラリーにアクリル樹脂溶液を添加し、固形分濃度が1.0質量%となるようさらにメチルエチルケトンを加えることで、樹脂含有微細繊維状セルロース分散液を得た。
樹脂含有微細繊維状セルロース分散液を、シートの仕上がり坪量が100g/m2となるように計量して、ガラスシャーレ上に注ぎ、60℃の熱風乾燥機で24時間乾燥させ、シートを得た。得られたシートのJ値を後述の方法で算出した。
アクリル樹脂(1)(楠本化成(株)製、B−817)の代わりに別種のアクリル樹脂(2)(DIC(株)製、アクリディック A−181)を用い、メチルエチルケトンの代わりにトルエンを用い、熱風乾燥機の温度を60℃の代わりに40℃としたこと以外は比較例1と同様にしてシートを得た。得られたシートのJ値を後述の方法で算出した。
アクリル樹脂の代わりにポリビニルアルコールを用い、メチルエチルケトンの代わりにジメチルスルホキシドを用い、熱風乾燥機の温度を60℃の代わりに100℃としたこと以外は比較例1と同様にしてシートを得た。得られたシートのJ値を後述の方法で算出した。
ポリビニルアルコールの代わりにポリフッ化ビニリデンを用い、ジメチルスルホキシドの代わりにN−メチルー2ーピロリドンを用い、熱風乾燥機の温度を100℃の代わりに80℃としたこと以外は比較例3と同様にしてシートを得た。得られたシートの全光線透過率及び黄色度(YI)を後述の方法で測定した。
ポリフッ化ビニリデンの代わりにポリ塩化ビニルを用いたこと以外は比較例4と同様にしてシートを得た。得られたシートの全光線透過率及び黄色度(YI)を後述の方法で測定した。
〔亜リン酸基量の測定〕
微細繊維状セルロースの亜リン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を亜リン酸基量(mmol/g)とした。
JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて得られたシートの全光線透過率を測定した。
JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて得られたシートの黄色度を測定した。
実施例及び比較例で得られたシートをシート(A)とし、シート(A)と同一の坪量を有する繊維状セルロース含有樹脂組成物中に含まれる樹脂のみから形成したシートをシート(B)とし、それぞれについてFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行い、下式によりJ値を算出した。
J値=I1/I0
ただし、
I1値=(シート(A)の1650cm-1における吸収ピーク強度)/(シート(A)の1570cm-1における吸収ピーク強度)
I0値=(シート(B)の1650cm-1における吸収ピーク強度)/(シート(B)の1570cm-1における吸収ピーク強度)
有機オニウムイオンの共役塩基を別途準備し、有機オニウムイオンの共役塩基に水を加え、0.01N有機オニウムイオンの共役塩基水溶液を調製した。水溶液の25℃におけるpHを測定し、有機オニウムイオンの共役塩基のpKbを下記(1)、(2)式に基づいて算出した。
(1)[OH]=10-(14-pH)
(2)pKb=−log10([OH]2÷(0.01−[OH]))
ただし、[OH]は、有機オニウムの共役塩基水溶液の水酸化物イオン濃度(mol/L)を表す。
なお、水に難溶の有機オニウムの共役塩基は水中でほとんど電離せず、水酸化物イオンをほとんど放出しない。そのため、pKbは非常に大きいと考えられ、難溶性の有機オニウムの共役塩基については、pKbは3.0より大きいものとした。
実施例1〜3では、J値が高く、これにより、樹脂の脱エステル化が抑制されていることがわかった。また、実施例4及び5では、全光線透過率が高く、また、YI値が低いため、樹脂の変質が抑制されていることがわかった。
Claims (7)
- 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、樹脂と、を含み、
前記亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンが有機オニウムイオンであり、
前記有機オニウムイオンの共役塩基のpKbが1.0以上である繊維状セルロース含有樹脂組成物。 - 前記有機オニウムイオンは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たす請求項1に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
(a)炭素数が5以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が17以上である。 - 前記有機オニウムイオンが有機アンモニウムイオンである請求項1又は2に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
- 前記樹脂が、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、塩素系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、アルコール系樹脂、セルロース誘導体及びこれらの樹脂の前駆体から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
- さらに有機溶剤を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物から形成されるシート。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有樹脂組成物又は請求項6に記載のシートから形成される成形体。
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