以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
まず、本発明の建設機械として油圧ショベルを例にとり説明する。
図1は油圧ショベルの外観を示す図である。
図1において、建設機械としてよく知られている油圧ショベルは、下部走行体300と、下部走行体300上に旋回可能に搭載された上部旋回体301と、上部旋回体301の前部に俯仰可能に取り付けられたフロント作業機302とを有している。下部走行体300の中央フレームの前部にはブレード305が取り付けられ、上部旋回体301の前部にスイングポスト303が取り付けられ,このスイングポスト303にフロント作業機302が上下動可能に取り付けられている。フロント作業機302は、ブーム306、アーム307、バケット308とから構成されている。
上部旋回体301は下部走行体300に対し、旋回モータ13の回転によって旋回駆動させる。スイングポスト303はスイングシリンダ14の伸縮により上部旋回体301に対して水平方向に回動可能であり、フロント作業機302のブーム306,アーム307,バケット308は、それぞれ、ブームシリンダ18、アームシリンダ15、バケットシリンダ19の伸縮により上下方向に回動可能である。下部走行体300は、左右の走行モータ17,16の回転により左右の履帯310,311を駆動することによって走行を行う。ブレード304は、ブレードシリンダ12(図2参照)の伸縮により下部走行体300の中央フレームに対して上下動作を行う
<第1の実施の形態>
図2は、本発明の第1の実施の形態の建設機械に備えられる油圧駆動装置を示す図である。
図2において、本実施の形態に係わる油圧駆動装置は、原動機(例えばディーゼルエンジン)1と、原動機1によって駆動されるメインポンプである第1油圧ポンプP1,P2及び第2油圧ポンプP3と、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3と連動してエンジン1により駆動されるパイロットポンプP4と、第1油圧ポンプP1,P2から吐出される圧油により駆動される複数の第1アクチュエータ15,16,17,18,19と、第2油圧ポンプP3から吐出される圧油により駆動される複数の第2アクチュエータ12,13,14と、コントロールバルブ2とを備えている。また、複数の第1アクチュエータ15,16,17,18,19において、アクチュエータ17,18,19には第1油圧ポンプP1から圧油が供給され、アクチュエータ15,16には第1油圧ポンプP2から圧油が供給される。
第1油圧ポンプP1,P2は可変容量型の油圧ポンプである。また、その可変容量型の油圧ポンプは、共通のレギュレータ41を備えたスプリットフロータイプの油圧ポンプ42であり、第1油圧ポンプP1は、スプリットフロータイプの油圧ポンプ42と2つの吐出ポートの一方により構成され、第1油圧ポンプP2は、スプリットフロータイプの油圧ポンプ42と2つの吐出ポートの他方により構成されている。
レギュレータ41は、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の吐出圧が導かれ、それらの圧力の上昇によって第1油圧ポンプP1,P2の傾転(容量)を減少させるトルク制御(馬力制御)ピストン41a,41b,41cと、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3が利用可能な最大トルクを設定するバネ41eとを備えている。小型の油圧ショベルでは設置スペースの制約からスプリットフロータイプの油圧ポンプ42を含む3ポンプシステムにて油圧駆動装置を構成することが有効である。
図1を用いて説明したように、アクチュエータ12はブレードシリンダであり、アクチュエータ13は旋回モータであり、アクチュエータ14はスイングシリンダであり、アクチュエータ16,17は右左の走行モータであり、アクチュエータ15はアームシリンダであり、アクチュエータ18はブームシリンダであり、アクチュエータ19はバケットシリンダである。
コントロールバルブ2は、第1油圧ポンプP1の圧油供給路51に接続され、第1油圧ポンプP1からアクチュエータ17,18,19に供給される圧油の方向をそれぞれ制御するオープンセンタ型の複数の方向切換弁9,10,11と、第1油圧ポンプP2の圧油供給路52に接続され、第1油圧ポンプP2からアクチュエータ15,16に供給される圧油の方向をそれぞれ制御するオープンセンタ型の複数の方向切換弁7,8と、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53に接続され、第2油圧ポンプP3からアクチュエータ12,13,14に供給される圧油の方向をそれぞれ制御するオープンセンタ型の複数の方向切換弁3,4,5と、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の圧油供給路51,52,53にそれぞれ設けられ、第1油圧ポンプP1の吐出圧を制限するメインリリーフ弁26、第1油圧ポンプP2の吐出圧を制限するメインリリーフ弁27及び第2油圧ポンプP3の吐出圧を制限するメインリリーフ弁28とを有している。
方向切換弁9,10,11は、それぞれ、左走行用、ブーム用、バケット用であり、方向切換弁7,8は、それぞれ、アーム用、右走行用であり、方向切換弁3,4,5は、それぞれ、ブレード用、旋回用、スイング用である。
メインリリーフ弁26,27,28の出側はコントロールバルブ2内でタンク油路30に接続され、タンク油路30はタンクTに接続されている。このように本実施の形態に係わる油圧駆動装置はオープンセンタ型の方向切換弁3~11を備えたオープンセンタシステムとして構成されている。
また、本実施の形態に係わる油圧駆動装置は、パイロットポンプP4の圧油供給路54に接続され、パイロットポンプP4の圧力を一定に保つパイロットリリーフ弁29と、パイロットポンプP4の圧油供給路54に接続され、パイロットポンプP4の油圧を元圧として方向切換弁3~11を操作するための操作パイロット圧a,b,c,d,e,f,g,h,i,j,k,l,m,n,o,pを生成するためのリモコン弁を備えた操作レバー装置20,21,22及び操作ペダル装置23,24とを備えている。操作レバー装置20はブーム用操作レバー装置20aとバケット用操作レバー装置20bとを有し、操作レバー装置21はアーム用操作レバー装置21aと旋回用操作レバー装置21bとを有している。操作レバー装置22はブレード用である。操作ペダル装置23は右走行用操作ペダル装置23aと左走行用操作ペダル装置23bとを有している。操作ペダル装置24はスイング用である。
以上のように構成した本実施の形態に係わる油圧駆動装置の基本的な動作は次のようである。
操作レバー装置20a,20bの操作レバー及び操作ペダル装置23bの操作ペダルが中立であるとき、方向切換弁9,10,11は中立位置にあり、第1油圧ポンプP1の吐出油は方向切換弁9,10,11を介してタンクTに戻される。操作レバー装置20a,20bの操作レバー及び操作ペダル装置23bの操作ペダルを操作すると方向切換弁9,10,11が切り換えられ、それぞれのアクチュエータ(走行モータ17、ブームシリンダ18、バケットシリンダ19)に対する圧油の流入・排出方向と流量を制御し、それぞれのアクチュエータ(走行モータ17、ブームシリンダ18、バケットシリンダ19)を作動させる。
操作レバー装置21aの操作レバー及び操作ペダル装置23aの操作ペダルが中立であるとき、方向切換弁7,8は中立位置にあり、第1油圧ポンプP2の吐出油は方向切換弁7,8を介してタンクTに戻される。操作レバー装置21aの操作レバー及び操作ペダル装置23aの操作ペダルを操作すると、方向切換弁7,8が切り換えられ、それぞれのアクチュエータ(アームシリンダ15、走行モータ16)に対する圧油の流入・排出方向を制御し、それぞれのアクチュエータ(アームシリンダ15、走行モータ16)を作動させる。
第2油圧ポンプP3についても同様であり、操作レバー装置21b,22の操作レバー及び操作ペダル装置24の操作ペダルが中立であるとき、第2油圧ポンプP3の吐出油は方向切換弁3,4,5を介してタンクTに戻される。操作レバー装置21b,22の操作レバー及び操作ペダル装置24の操作ペダルを操作すると方向切換弁3,4,5が切り換えられ、それぞれのアクチュエータ(ブレードシリンダ12、旋回モータ13、スイングシリンダ14)に対する圧油の流入・排出方向を制御し、それぞれのアクチュエータ(ブレードシリンダ12、旋回モータ13、スイングシリンダ14)を作動させる。
なお、本実施の形態では、第1油圧ポンプはスプリットフロータイプの2つの油圧ポンプP1,P2としたが、第1油圧ポンプは1つの吐出ポートを有する1つの油圧ポンプであってもよい。また、第1油圧ポンプP1,P2はスプリットフロータイプの油圧ポンプとしたが、別々の独立した2つの油圧ポンプであってもよい。
次に、本実施の形態の特徴となる構成について説明する。
本実施の形態に係わる油圧駆動装置において、複数の第1アクチュエータ15~19は、下部走行体300を駆動する走行モータ16,17を含み、複数の第2アクチュエータ12~14は、下部走行体300の前部に設けられたブレード304を駆動するブレードシリンダ12を含んでいる。走行モータ16,17とブレードシリンダ12を同時に駆動し、その複合動作により行う作業は高負荷作業であり、そのとき、第1油圧ポンプP1,P2及び第2油圧ポンプP3に高負荷が作用し、その結果、エンジン1にも高負荷が作用する。また、複数の第1アクチュエータ15~19は、フロント作業機302のアーム307を駆動するアームシリンダ15を含み、複数の第2アクチュエータ12~14は、上部旋回体301を駆動する旋回モータ13を含んでいる。アームシリンダ15と旋回モータ13を同時に駆動し、その複合動作により行う作業も高負荷作業であり、そのときも、第1油圧ポンプP1,P2及び第2油圧ポンプP3に高負荷が作用し、その結果,エンジン1にも高負荷が作用する。
本明細書では、このような複合動作において高負荷を作用させるアクチュエータのうち、複数の第1アクチュエータ15~19に含まれるアクチュエータ(走行モータ16,17とアームシリンダ15)を第1の特定アクチュエータといい、複数の第2アクチュエータ12~14に含まれるアクチュエータ(ブレードシリンダ12と旋回モータ13)を第2の特定のアクチュエータという。なお、ブームシリンダ18も、旋回モータ13と同時に駆動する複合動作において第1油圧ポンプP1,P2及び第2油圧ポンプP3に高負荷が作用するアクチュエータであり、ブームシリンダ16が第1の特定のアクチュエータであってもよい。
そして、本実施の形態に係わる油圧駆動装置は、複数の第1アクチュエータ15~19に含まれる第1の特定アクチュエータ(走行モータ16,17及びアームシリンダ15)と複数の第2アクチュエータ12~14に含まれる第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)の駆動を検出する第1センサとして、左右走行用の操作パイロット圧e,f,k,lを検出する圧力センサ111と、ブレード用の操作パイロット圧o,pを検出する圧力センサ112と、アーム用(本実施の形態ではアームクラウド)の操作パイロット圧iを検出する圧力センサ113と、左右旋回用の操作パイロット圧g,hを検出する圧力センサ114とを備え、エンジン1(原動機)の出力に係わる状態量を検出する第2センサとして、油圧ショベルが稼動する作業現場の気圧を検出する気圧センサ115とを備えている。また、油圧駆動装置は、第1位置Iと第2位置IIとに切り換え可能であり、第1位置Iにあるときは第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)に第2油圧ポンプP3から圧油を供給し、第2位置IIに切り換えられたときは第1油圧ポンプP1,P2から第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)に圧油を供給するよう第2の特定アクチュエータに圧油を供給する油圧ポンプを切り換えるポンプ切換弁100を備えている。
更に、油圧駆動装置は、第1センサ(圧力センサ111~114)により、第1の特定アクチュエータ(走行モータ16,17又はアームシリンダ15)及び第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12又は旋回モータ13)の同時駆動を検出し、かつ第2センサ(気圧センサ115)により、エンジン1の出力不足が検出されたときに、ポンプ切換弁100を第1位置Iから第2位置IIに切り換えるコントローラ120を備えている。
右走行用操作ペダル装置23aと左走行用操作ペダル装置23bから操作パイロット圧が導出されるパイロット油路にシャトル弁61,62,63がトーナメント方式に接続されており、圧力センサ111は最上位のシャトル弁63に接続され、左右走行用の操作パイロット圧e,f,k,lのうちの最も高い操作パイロット圧力を検出する。同様に、ブレード用操作レバー装置22から操作パイロット圧が導出されるパイロット油路にシャトル弁64が接続されており、圧力センサ112はシャトル弁64に接続され、ブレード用の操作パイロット圧o,pのうちの高圧側の操作パイロット圧を検出し、旋回用操作レバー装置21bから操作パイロット圧が導出されるパイロット油路にシャトル弁65が接続されており、圧力センサ114はシャトル弁65に接続され、左右旋回用の操作パイロット圧g,hのうちの高圧側の操作パイロット圧を検出する。以下において、圧力センサ111によって検出された操作パイロット圧を符号Pefklで表し、圧力センサ112によって検出された操作パイロット圧を符号Popで表し、圧力センサ114によって検出された操作パイロット圧を符号Pghで表す。
ポンプ切換弁100は、第1油圧ポンプP1,P2の圧油供給路51,52から分岐したバイパス油路55と第2油圧ポンプP3の圧油供給路53とに配置され、第1位置Iと第2位置IIとに切換可能な電磁切換弁である。ポンプ切換弁100は、第1位置Iにあるとき、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53を圧油供給路53の下流側53aに連通させバイパス油路55を遮断することで、第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)に第2油圧ポンプP3から圧油を供給し、第2位置IIに切り換えられたとき、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53をタンクに連通させ(第2油圧ポンプP3を無負荷とし)、バイパス油路55を第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側53aに連通させることで、第1油圧ポンプP1,P2から第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)に圧油を供給する。
また、本実施の形態において、第1油圧ポンプがP1,P2の2つの油圧ポンプであるため、第1油圧ポンプP1の圧油供給路51と第1油圧ポンプP2の圧油供給路52の間にシャトル弁101が配置され、ポンプ切換弁100が第2位置IIに切り換えられたとき、第1油圧ポンプP1と第1油圧ポンプP2のうち吐出圧が高圧側の油圧ポンプからの吐出油が第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側に供給される。
本実施の形態において、コントローラ120は、気圧センサ115により検出された気圧が所定の閾値Pa(後述)以下であるときにエンジン1が出力不足となる可能性があると判定する。更に、コントローラ120は、ポンプ切換弁100を第1位置Iから第2位置IIに切り換えたとき、第1の特定のアクチュエータ(走行モータ16,17及びアームシリンダ15)及び第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)の同時駆動が終了するまで、ポンプ切換弁100を第2位置IIに保持する。
以下、コントローラ120の機能の詳細を図3に示すフローチャートを用いて説明する。
コントローラ120には、圧力センサ111,112,113,114及び気圧センサ115からの信号が入力されている。
コントローラ120は、まず、気圧センサ115からの信号に基づいて、気圧センサ115によって検出された気圧が予め設定した所定の閾値Pa以下であり、油圧ショベルが、本発明が意図する空気密度の小さい高地で稼動しているかどうかを判定する(ステップS100)。閾値Paは、特定のアクチュエータが下記ステップS110,S120において閾値Pc以上の操作圧で駆動されたときに、油圧ショベルが、本発明が意図する空気密度の小さい高地で稼動しており、気圧の低下によりエンジン1の出力が低下し、このエンジン1の出力不足によりエンジン回転数が大幅に低下するラグダウンや、エンジンストールを生じる可能性があるかどうかを判定する値であり、そのようなラグダウンや、エンジンストールを生じる可能性がある気圧範囲の最低値が設定されている。そして、気圧が閾値Pa以下であるときは作業現場が空気密度の小さい高地であると判定し、次の処理に進む。気圧が閾値Pa以下でないときはその判定を繰り返す。
ステップS100の判定が肯定され、作業現場が高地であると判定したとき、コントローラ120は、圧力センサ111,112からの信号に基づいて、圧力センサ111によって検出された操作パイロット圧Pefklと圧力センサ112によって検出された操作パイロット圧Popが共に予め設定した所定の閾値Pc以上であるかどうかを判定する(ステップS110)。閾値Pcは、特定のアクチュエータの操作レバー或いは操作ペダルが十分に操作され、特定のアクチュエータが駆動されたかどうか判定する値であり、閾値Pcとして、例えば、操作パイロット圧の最大値の60~80%の値が設定される。操作パイロット圧Pefklと操作パイロット圧Popが共に閾値Pc以上であるとき、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12が共に駆動され、走行とブレードの複合動作中であると判定する。操作パイロット圧Pefklと操作パイロット圧Popの少なくとも一方が閾値Pc以上でない場合、コントローラ120は、次に、圧力センサ113,114からの信号に基づいて、圧力センサ113によって検出された操作パイロット圧iと圧力センサ114によって検出された操作パイロット圧Pghが共に閾値Pc以上であるかどうかを判定する(ステップS120)。操作パイロット圧iと操作パイロット圧Pghが共に閾値Pc以上であるとき、特定のアクチュエータであるアームシリンダ15と旋回モータ13が共に駆動され、アームと旋回の複合動作中であると判定する。操作パイロット圧Piと操作パイロット圧ghの少なくとも一方が閾値Pc以上でないときはステップS110,S120の判定を繰り返す。
ステップS110,S120のいずれかで判定が肯定され、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12が駆動される走行とブレードの複合動作中、或いはアームシリンダ15と旋回モータ13が駆動され、アームと旋回の複合動作中であると判定したとき、コントローラ120は、ポンプ切換弁100を第1位置Iから第2位置IIに切り換える(ステップS130)。これにより第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側53aとの連通は遮断され、バイパス油路55が第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側53aに連通し、第1油圧ポンプP1,P2のうち高圧側の吐出油がシャトル弁101、バイパス油路55、ポンプ切換弁100を介して、ブレードシリンダ12又は旋回モータ13に供給される。また、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53はタンクに連通する。本明細書において、このポンプ切換弁100の切り換えにより油圧ポンプを切り換えて、ブレードシリンダ12又は旋回モータ13に第1油圧ポンプP1,P2から圧油を供給する制御をポンプ切り換え制御という。
次いで、コントローラ120は、圧力センサ111によって検出された操作パイロット圧Pefkl又は圧力センサ112によって検出された操作パイロット圧Popが予め設定した所定の閾値Pmin以下であるかどうかを判定する(ステップS140)。閾値Pminは、操作レバー装置21,22及び操作ペダル装置23の操作レバー或いは操作ペダルが中立位置に戻されたかどうかを判定する値であり、操作レバー或いは操作ペダルが中立位置にあるときの操作パイロット圧(タンク圧)が設定されている。操作パイロット圧Pefkl又は操作パイロット圧Popが閾値Pmin以下でないときは、走行用の操作ペダル又はブレード用の操作レバーが中立位置に戻されておらず、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12が駆動され続け、走行とブレードの複合動作の継続中であると判定し、その判定を繰り返す。操作パイロット圧Pefkl又は操作パイロット圧Popが閾値Pmin以下であるときは、走行用の操作ペダル又はブレード用の操作レバーが中立位置に戻され、特定のアクチュエータである走行モータ16,17又はブレードシリンダ12の駆動を停止し、走行とブレードの複合動作を終了したと判定し、次の処理に進む。
コントローラ120は、次の処理として、圧力センサ113によって検出された操作パイロット圧i又は圧力センサ114によって検出された操作パイロット圧Pghが閾値Pmin以下であるかどうかを判定する(ステップS150)。操作パイロット圧i又は操作パイロット圧Pghが閾値Pmin以下でないときは、アーム用の操作レバー又は旋回用の操作レバーが中立位置に戻されておらず、特定のアクチュエータであるアームシリンダ15と旋回モータ13が駆動され続け、アームと旋回の複合動作の継続中であると判定し、その判定を繰り返す。一方、操作パイロット圧i又は操作パイロット圧Pghが閾値Pmin以下であるときは、アーム用の操作レバー又は旋回用の操作レバーが中立位置に戻され、特定のアクチュエータであるアームシリンダ15又は旋回モータ13の駆動を停止し、アームと旋回の複合動作を終了したと判定し、コントローラ120は、ポンプ切換弁100を第2位置IIから第1位置Iに切り換える(ステップS160)。これによりバイパス油路55と第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側53aとの連通を遮断し、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53をその下流側53aに再び連通させ、ブレードシリンダ12又は旋回モータ13に第2油圧ポンプP3からの吐出油が供給可能となる。
図4は、本実施の形態のポンプ切り換え制御の効果を説明するための、エンジン1のトルク特性と第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の合計のポンプ吸収トルクの関係を示す図である。図4の横軸はエンジン1の回転数であり、縦軸はトルクである。
図4において、実線Te1は、油圧ショベルが標準的な標高の作業現場で稼動しているときのエンジン1の出力トルク特性を示し、破線Te2は、油圧ショベルが閾値Pa以下の気圧の高地で稼動しているときのエンジン1の出力トルク特性を示している。
また、実線Tp1は、ポンプ切換弁100が第1位置Iにあり、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の3つのポンプが稼働する(アクチュエータに圧油を供給して駆動する)ときにレギュレータ41のバネ41eによって設定される最大吸収トルクを示し、破線Tp2は、ポンプ切換弁100が第2位置IIに切り換わって第2油圧ポンプP3の圧油供給路53がタンクに連通し、第2油圧ポンプP3が無負荷となり(アクチュエータに圧油を供給しておらず)、第1油圧ポンプP1,P2が稼動する(アクチュエータに圧油を供給して駆動する)ときにレギュレータ41のバネ41eによって設定される最大吸収トルクを示している。
ここで、第1油圧ポンプP1,P2を構成する油圧ポンプ42内におけるトルク制御ピストン41a,41b.41cとバネ41eと押しのけ容積可変部材、例えば斜板との位置関係に起因して、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の3つのポンプが稼働するときにバネ41eによって設定される最大吸収トルクと、第2油圧ポンプP3が無負荷となり、第1油圧ポンプP1,P2が稼動するときにバネ41eによって設定される最大吸収トルクは同じにならず、図4に示すように後者の最大吸収トルクTp2は前者の最大吸収トルクTp1よりも所定値ΔT2だけ小さくなる。このΔT2は、例えば前者の最大吸収トルクTp1の20~30%程度である。
このように本実施の形態において、第1油圧ポンプP1,P2に備えられるレギュレータ41は、第1油圧ポンプP1,P2の吐出圧だけでなく第2油圧ポンプP3の吐出圧も導かれ、それらの圧力の上昇によって第1油圧ポンプP1,P2の傾転(容量)を減少させる全トルク制御のレギュレータであり、第1油圧ポンプP1,P2のみが稼動するときに利用可能な最大吸収トルクTp2は第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3が稼動するときに利用可能な最大吸収トルクTp1よりも所定値ΔT2だけ小さくなるように構成されている。
第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の3つのポンプの合計の最大吸収トルクTp1は、油圧ショベルが標準的な標高の作業現場で稼動しているときのエンジン1の定格トルクTrated1に対して、Taの余裕をみて設定されている。
これに対し、油圧ショベルが閾値Pa以下の気圧の高地で稼動するとき、エンジン1の定格トルクはTrated1からTrated2に減少する。この場合、本実施の形態のポンプ切り換え制御を行わない従来の油圧ショベルにおいては、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の合計の最大吸収トルクTp1との差がTaからTbに減少し、エンジン1の出力トルク(定格トルクTrated2)はTp1に対してほとんど余裕が無くなってしまう。
ここで、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12或いはアームシリンダ15と旋回モータ13の複合動作により行う作業は、前述したように高負荷作業である。このため、これらアクチュエータの複合動作時、本実施の形態のポンプ切り換え制御を行わない従来の油圧ショベルでは、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の3つのポンプの合計の最大吸収トルクは最大吸収トルクTp1に達し、ポンプ負荷の急増時は、第1油圧ポンプP1,P2のレギュレータ41におけるトルク制御ピストン41a,41b,41cの制御遅れにより、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の合計の吸収トルクが過渡的にエンジン1の定格トルクTrated2を上回ってしまいエンジン1が出力不足となり得る。その結果、エンジン1の回転数が大幅に低下するラグダウンを発生し、場合によってはエンジンストールを生じる可能性がある。
これに対し、本実施の形態においては、油圧ショベルが稼動する作業現場が閾値Pa以下の気圧の高地であり、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12の複合動作時、或いはアームシリンダ15と旋回モータ13の複合動作時は、ポンプ切換弁100が第1位置Iから第2位置IIに切り換わり、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53はタンクに連通し、第1油圧ポンプP1,P2のうち高圧側の吐出油がポンプ切換弁100を介してブレードシリンダ12又は旋回モータ13に供給される。このため、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の3つのポンプの合計の最大吸収トルクはTp1からTp2に減少し(すなわち必要な減トルク量が確保され)、エンジン1の定格トルクTrated2に対する第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の合計の最大吸収トルクTp2との差はTbからTcに増加する。このためエンジン1の出力不足が解消され、エンジン1の回転数が大幅に低下するラグダウンの発生やエンジンストールを防止し、良好な作業性を確保することができる。
以上のように本実施の形態によれば、油圧ショベルが高地で稼動し、エンジン出力が低下する状況下において、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の合計の最大吸収トルクを低減して、必要な減トルク量を確保し、原動機の回転数が大幅に低下するラグダウンや、ストールを防止することができ、良好な作業性を確保することができる。
また、本実施の形態においては、特許文献1のように油圧ポンプの押しのけ容積を減少させる制御を行って減トルク量を確保するのではなく、ポンプ切り換え制御により稼働するポンプ数を減らすことで必要な減トルク量を確保するため、油圧ポンプのサイズに係わらず必要な減トルク量を確保することができる。また、油圧ポンプを大型化しなくても必要な減トルク量を確保することができるため、油圧ポンプを大型化する場合の高コスト化を回避することができる。
また、本実施の形態においては、第2油圧ポンプP3は固定容量型であり、この固定容量型の第2油圧ポンプP3では、高負荷が作用しても押しのけ容積(容量)を減少させることができないため、特許文献1の発明を適用し、油圧ポンプの押しのけ容積を減少させるポンプトルク制御を行うことができない。これに対し、本実施の形態はポンプ切り換え制御を行うため、第2油圧ポンプP3が固定容量型であっても、必要な減トルク量を確保するポンプトルク制御を行うことができる。
また、本実施の形態においては、ポンプ切換弁100を一旦第2位置IIに切り換えた後は、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12の駆動(複合動作)、或いはアームシリンダ15と旋回モータ13の駆動(複合動作)が終了するまでポンプ切換弁100を第2位置IIに保持するため、当該複合動作の間、第1油圧ポンプP1,P2から特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12或いはアームシリンダ15と旋回モータ13に安定して圧油を供給することができる。
なお、本実施の形態は、第2油圧ポンプP3が固定容量型である場合について説明したが、第2油圧ポンプP3は可変容量型であっても構わない。
<第2の実施の形態>
図5は、発明の第2の実施の形態の建設機械に備えられる油圧駆動装置を示す図である。
図5において、図2に示した第1の実施の形態に係わる油圧駆動装置と同じ部材には同じ符号を付している。
本実施の形態に係わる油圧駆動装置は、エンジン1の目標回転数を設定するエンジンコントロールダイヤル200(回転数設定装置)を備え、かつエンジン1(原動機)の出力に係わる状態量を検出する第2センサとして、第1の実施の形態に備えられていた気圧センサの代わりに、エンジン1の実回転数を検出する回転数センサ215を備えている。また、本実施の形態においても、油圧駆動装置は、第1センサ(圧力センサ111~114)により、第1の特定アクチュエータ(走行モータ16,17又はアームシリンダ15)及び第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12又は旋回モータ13)の同時駆動を検出し、かつ第2センサ(回転数センサ216)により、エンジン1の出力不足が検出されたときに、ポンプ切換弁100を第1位置Iから第2位置IIに切り換えるコントローラ220を備えている。コントローラ220は、エンジンコントロールダイヤル200(回転数設定装置)によって設定された目標回転数と回転数センサ215によって検出された実回転数の偏差が所定の閾値ΔNa(後述)以上であるときにエンジン1(原動機)が出力不足となる可能性があると判定する。更に、コントローラ220は、ポンプ切換弁100を第1位置Iから第2位置IIに切り換えたとき、第1の特定のアクチュエータ(走行モータ16,17及びアームシリンダ15)及び第2の特定アクチュエータ(ブレードシリンダ12及び旋回モータ13)の同時駆動が終了するまで、ポンプ切換弁100を第2位置IIに保持する。油圧駆動装置のそれ以外の構成は第1の実施の形態と同じである。
以下、その詳細を図6に示すフローチャートを用いて説明する。図6は、コントローラ220の機能の詳細を示すフローチャートである。図6において、図3に示したフローチャートの処理と同じ処理を行うステップには同じ符号を付し、説明を簡略化、或いは省略する。
コントローラ220には、エンジンコントロールダイヤル200及び圧力センサ111,112,113,114からの信号が入力されている。
コントローラ220は、まず、ステップS110,S120の処理を行う。すなわち、コントローラ220は、圧力センサ111,112からの信号に基づいて、圧力センサ111によって検出された操作パイロット圧Pefklと圧力センサ112によって検出された操作パイロット圧Popが共に閾値Pc以上であり、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12が駆動され、走行とブレードの複合動作中であるかどうかを判定し(ステップS110)、その判定が否定されたとき、更に、圧力センサ113,114からの信号に基づいて、圧力センサ113によって検出された操作パイロット圧iと圧力センサ114によって検出された操作パイロット圧Pghが共に閾値Pc以上であり、特定のアクチュエータであるアームシリンダ15と旋回モータ13が駆動され、アームと旋回の複合動作中であるかどうかを判定する(ステップS120)。
ステップS110,S120のいずれかで判定が肯定され、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12又はアームシリンダ15と旋回モータ13が駆動されているとき、コントローラ120は、エンジンコントロールダイヤル200からの信号と回転数センサ215からの信号に基づいて、エンジン1の目標回転数と実回転数の偏差、すなわち回転数偏差ΔNを演算し(回転数偏差ΔN=目標回転数-実回転数)、この回転数偏差ΔNが予め設定した所定の閾値ΔNa以上であるかどうかを判定する(ステップS200)。閾値ΔNaは、特定のアクチュエータが下記ステップS110,S120において閾値Pc以上の操作圧で駆動されたときに、エンジン1に過負荷が作用し、エンジン1の出力不足によりエンジン回転数が大幅に低下するラグダウンや、エンジンストールを生じる可能性があるかどうかを判定する値であり、閾値ΔNaとして、そのようなラグダウンや、エンジンストールを生じる可能性があるエンジン回転数偏差の最小値を設定する。
ここで、閾値ΔNaとして、油圧ショベルが空気密度の小さい高地で稼動しているときにエンジン1のラグダウンや、エンジンストールを生じる可能性があるエンジン回転数偏差の最小値を設定した場合は、第1の実施の形態と同様、回転数偏差ΔNが閾値ΔNa以下かどうかを判定することで、油圧ショベルが高地で稼動しているかどうかを判定することができる。なお、閾値ΔNaの設定は、エンジン1のラグダウンやエンジンストールを防止したい状況に応じて任意に設定することができる。
コントローラ220は、エンジン回転数偏差ΔNが閾値ΔNa以上でないとき、エンジン1がそのような過負荷状態にないと判定し、その判定を繰り返す。エンジン回転数偏差ΔNが閾値ΔNa以上であるときは次の処理に進む。
コントローラ220は、エンジン回転数偏差ΔNが閾値ΔNa以上であるとき、ポンプ切換弁100を第1位置Iから第2位置IIに切り換える(ステップS130)。これにより第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側53aとの連通は遮断され、バイパス油路55が第2油圧ポンプP3の圧油供給路53の下流側53aに連通し、第1油圧ポンプP1,P2のうち高圧側の吐出油がシャトル弁101、バイパス油路55、ポンプ切換弁100を介して、ブレードシリンダ12又は旋回モータ13に供給される。また、第2油圧ポンプP3の圧油供給路53はタンクに連通する。
この後は、図3に示したフローチャートのステップS140,S150,S160の処理と同じ処理を行う。
なお、第1の実施の形態の図3に示したフローチャートでは、ステップS100の判定を行った後にステップS110,S120の判定を行ったのに対して、本実施の形態の図6に示すフローチャートでは、ステップS110,S120の判定を行った後に、ステップS200の判定を行っている。これは、ステップS200の判定はエンジン1の回転数偏差ΔNが閾値ΔNa以上であるかどうかの判定であり、エンジン1の回転数偏差ΔNが閾値ΔNa以上になるのは、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12或いはアームシリンダ15と旋回モータ13の複合動作を行ったときであるからである。
以上のように構成した本実施の形態においては、回転数偏差ΔNが予め設定した閾値ΔNa以上であるかどうかを判定することで、エンジン1に回転数が大幅に低下するラグダウンや、エンジンストールを生じるような過負荷が作用しているかどうかを判定するため、閾値ΔNaとして、油圧ショベルが空気密度の小さい高地で稼動しているときにエンジン1のラグダウンや、エンジンストールを生じる可能性があるエンジン回転数偏差の最小値を設定した場合は、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。すなわち、油圧ショベルが高地で稼動し、エンジン出力が低下する状況下において、第1及び第2油圧ポンプP1,P2,P3の合計の最大吸収トルクを低減して、必要な減トルク量を確保し、原動機の回転数が大幅に低下するラグダウンや、ストールを防止することができ、良好な作業性を確保することができる。
また、閾値ΔNaを、油圧ショベルが標準の標高の作業現場で稼動しているときの過負荷によるラグダウンやエンジンストールの防止を意図する値に設定してもよく、その場合は、油圧ショベルが標準の標高の作業現場で稼動しているときに、エンジン1に回転数が大幅に低下するラグダウンやエンジンストールを防止することができる。このように本実施の形態によれば、閾値ΔNaの設定値を適宜選択することによってポンプ切り換え制御をより汎用的に実施することができる。
また、本実施の形態においては、第1の実施の形態と同様、ポンプ切換弁100を一旦第2位置IIに切り換えた後は、特定のアクチュエータである走行モータ16,17とブレードシリンダ12の駆動(複合動作)、或いはアームシリンダ15と旋回モータ13の駆動(複合動作)が終了するまでポンプ切換弁100を第2位置IIに保持するため、ポンプ切換弁100が一旦第2位置IIに切り換えられたとき、その後回転数偏差ΔNが閾値ΔNa未満に減少したとしても、アームシリンダ15と旋回モータ13の駆動(複合動作)が継続する限り、ポンプ切換弁100は第2位置IIに保持され、複合動作中に油圧ポンプが切り換わることが回避され、作業性の低下を防止することができる。
~その他~
上記実施の形態は、原動機がディーゼルエンジンである場合について説明したが、原動機は電動モータであってもよい。また、建設機械は、ホイールローダ、ブルドーザ等の油圧ショベル以外の建設機械であってもよく、その場合も同様の効果が得られる。