A.第1実施形態の構成:
(1)実施形態に共通のハードウェア構成:
燃料噴射弁の制御装置として機能するエンジン制御システム10のハードウェア構成について、説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
エンジン制御システム10は、図1に示すように、筒内噴射式の内燃機関である筒内噴射式エンジン11(以下では単に「エンジン11」とも表記する)と、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)30を備え、エンジン11の挙動をECU30が制御するように構成されている。エンジン11は、例えば4つの気筒40を有する直列4気筒エンジンなどのように複数の気筒40を有するが、図1では単一の気筒40及びそれに繋がる管系のみが図示されている。
エンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15により開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒40に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられている。
気筒40は、ピストン40a及びシリンダ40bによって構成されている。エンジン11の各気筒40には、それぞれ筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁50が取り付けられている。また、シリンダ40bの上方のシリンダヘッド40cには、各気筒40毎に点火プラグ22が取り付けられ、各気筒40の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
燃料噴射弁50は、周知の電磁駆動式(ソレノイド式)のインジェクタである。燃料噴射弁50は、図2に示したように、内蔵するソレノイドの駆動コイル60に通電することにより、駆動コイル60が形成する磁束により、燃料の供給路を形成するケース51内に設けられたニードル弁54をリフトし、ケース51の先端に設けられた開口部53を開閉し、燃料噴射を実現する。燃料噴射弁50は、弁体としてのニードル弁54の他、ニードル弁54に固定されたプランジャ58と、プランジャ58を全体としては開口部53方向に付勢する2つのコイルばね56,57と、コイルばね57のバックアップ部材として機能する供給孔栓59等を備える。供給孔栓59は、中心に、燃料の供給を受ける供給孔を有する。燃料噴射弁50に供給される燃料は、図示しない加圧ポンプにより、筒内噴射可能な程度の圧力に昇圧され、図示しない燃料供給管を介して、供給される。
この燃料噴射弁50では、ソレノイドは燃料噴射弁50に一体に組み込まれているので、ソレノイドとして単独の構成部品とはされていないが、駆動コイル60とプランジャ58とが、いわゆるソレノイドを構成していると解することができる。燃料噴射弁50は、内蔵されたソレノイドの駆動コイル60に通電されると、駆動コイル60によって生じる電磁力によってプランジャ58(可動コア)に一体化されたニードル弁54を、その先端が開口部53から離脱する方向にリフトする。ニードル弁54の先端が開口部53から離れると、燃料噴射弁50は、開弁状態となり、供給孔から供給されている高圧の燃料が、エンジン11の筒内に噴射される。燃料噴射弁50は、駆動コイル60への通電が停止されると、ニードル弁54が、コイルばね57の力により開口部53方向に戻って閉弁状態となり、燃料噴射が停止される。燃料噴射弁50には、通電用の端子が設けられ、ECU30に接続されている。駆動コイル60は通電用の端子に接続されており、ECU30は、所望のタイミングで駆動コイル60への通電を行なうことができる。
エンジン11の各気筒40には排気管23が繋がれている。排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
エンジン11のシリンダ40bには、筒内圧を検出する筒内圧センサ26、冷却水温を検出する冷却水温センサ27が取り付けられている。各ピストン40aには、ピストン40aの往復運動を円運動に変換するクランク軸28が連結されている。クランク軸28の外周側には、クランク軸28が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ29が取り付けられ、このクランク角センサ29の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度(単位時間当りの回転数)が検出される。
これら各種センサからの出力信号は、ECU30に入力される。ECU30に入力される出力信号には、この他、図示しないアクセルペダルの踏込量(アクセル操作量)を検出するアクセルセンサ41からの信号がある。これらの出力信号を受け付けるECU30は、マイクロコンピュータ(CPU)31を主体として構成され、内蔵されたメモリ32に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。燃料噴射量は、燃料噴射弁50の開弁時間により制御する。また、点火時期は、ピストン40aの上死点(UDC)に対して所定の角度で、点火プラグ22に火花点火することにより制御する。スロット開度は、アクセルセンサ41が検出したアクセルペダルの踏込量と連動するようモータ15を駆動することにより、調整する。各制御のためのアクチュエータは、周知のものなので、モータ15や燃料噴射弁50を除いて図示は省略した。また、これらのアクチュエータは、ECU30内蔵されたドライバを介して、駆動される。燃料噴射弁50の駆動コイル60には、このドライバを介して、噴射パルスが印加される。噴射パルスの詳細については、後述する。
(2)燃料噴射弁50の動作の詳細:
次に、燃料噴射弁50の動作とその特性について説明する。燃料噴射弁50は、上述したように、内蔵するソレノイドの駆動コイル60に通電することにより、プランジャ58に固定されたニードル弁54をリフトし、開口部53から燃料を噴射する。そのり噴射量は、供給される燃料の圧力が一定であれば、ニードル弁54がリフトして開口部53が開口している時間に比例する。こうしたニードル弁54のリフトには、フルリフトとパーシャルリフトとがある。
フルリフトは、駆動コイル60に十分な電流を供給できる電圧で、かつ十分なパルス幅の通電パルス(噴射パルスとも言う)が印加される場合のニードル弁54の動きのことである。駆動コイル60に供給されるエネルギは、駆動コイル60に流れる電流(通電電流)と通電パルスのパルス幅で決まる。ECU30からみれば、通電パルスの電圧とパルス幅が直接の制御対象であるが、駆動コイル60側からみて、以下の説明では、電流値と通電パルス幅として説明する。十分な通電電流およぴパルス幅とは、プランジャ58がコイルばね57の付勢力に抗してリフトされ、プランジャ58の背面がケース51の内側の停止位置に突き当たるまで移動し、その状態で一定時間保持するに足る場合の通電電流およびパルス幅を言う。印加された通電パルスのパルス幅に相当する時間が経過して、プランジャ58およびニードル弁54が元の位置に戻ることで、燃料噴射は終了する。この状態を、図3に実線で示し た。図3において(a)噴射パルスは、駆動コイル60に印加される通電パルスの状態を、(b)リフト量は、通電パルスが印加されたときのプランジャ58およびニードル弁54のリフト量を示す。プランジャ58の背面がケース51の内側の停止位置に突き当たるまで移動した位置を、フルリフトラインとして示した。
他方、パーシャルリフトとは、駆動コイル60に供給される通電電流およびパルス幅の少なくともいずれか一方が小さく、リフト量がフルリフトラインに達しないうちに、駆動コイル60による磁束が失われ、ニードル弁54が閉弁位置に戻ってしまうような動きを言う。この場合の電圧パルスおよびニードル弁54のリフト量を、図3に、破線で示した。通電電流が同一であれば、パーシャルリフトの場合のパルス幅Wv2は、フルリフトの場合の噴射パルスのパルス幅Wv1より、有意に短い。フルリフトの場合でもパーシャルリフトの場合でも、電圧パルスの印加とニードル弁54のリフトとは、時間的には一致していない。これは、磁束の形成に遅れ時間が存在するからである。ECU30は、この遅れ時間も加味して、所定のタイミングでエンジン11の筒内に燃料が噴射されるよう、燃料噴射弁50を駆動する。
こうしたフルリフトとパーシャルリフトとでは、当然燃料噴射量が異なる。ECU30は、エンジン11が必要とする燃料噴射量に対応した噴射パルスのパルス幅Wvを計算し、燃料噴射量が十分に多ければ、フルリフトに対応したパルス幅とし、燃料噴射量がフルリフトによる噴射量では多すぎる場合には、パーシャルリフトに対応したパルス幅とする。こうしたパーシャルリフトが必要となる燃料噴射量としては、アイドル運転の場合や、1サイクル中に複数段の噴射を行なう多段噴射の場合の1つの噴射などが考えられる。
フルリフトによる燃料噴射とパーシャルリフトによる燃料噴射とには、特性状の相違が見られる。高圧の燃料を筒内に噴射する筒内噴射式エンジン11の燃料噴射弁50は、図4に示すように、同じ電圧・同じパルス幅の噴射パルスを印加しても、実噴射量にバラツキが生じる。図4で、破線は、標準品(設計値)の特性を示す。実際の燃料噴射弁50の噴射パルス幅に対する実噴射量の上限値と下限値を実線で示した。噴射パルス幅が一定以上(図4、右側)では、フルリフトとなり、噴射パルス幅が一定未満(図4、左側)では、パーシャルリフトとなる。図示するように、パーシャルリフト領域(噴射パルス幅が短くてニードル弁54のリフト量がフルリフト位置に到達しないパーシャルリフト状態となる領域)では、同じ噴射パルス幅に対する実噴射量のバラツキが、フルリフト領域でのバラツキより大きい。パーシャルリフト領域では、燃料噴射弁50の個体間でニードル弁54のリフト量のバラツキが大きくなって噴射量バラツキが大きくなる傾向があることが知られている。噴射量のバラツキが大きくなると、排気エミッションやドライバビリティが悪化する可能性がある。そこで従来から、こうしたバラツキを予め検出し、バラツキを打ち消すように、駆動コイル60への通電電流および/または噴射パルス幅を補正することが行なわれている。以下、こうしたバラツキの測定を含めて、燃料噴射弁の動作特性検出処理について説明する。
(3)燃料噴射弁の動作特性検出処理:
第1実施形態における燃料噴射弁の動作特性の検出処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。図5に示した処理は、筒内噴射式エンジン11が運転されている間、所定のインターバルで繰り返し実行される。この処理が開始されると、まずエンジン11において、燃料カットが行なわれているかを判断する(ステップS100)。本実施形態では、燃料噴射弁50の動作特性の検出処理は、燃料噴射を行なっておらず、エンジン11で燃料の燃焼が行なわれていない間に実施するからである。燃料カット中でなければ(ステップS100:「NO」)、そのまま何も行なわずに、「END」に抜けて、本処理ルーチンを一旦終了する。
他方、燃料カット中であれば(ステップS100:「YES」)、次にフラグFihが値0であるか否かの判断を行なう(ステップS110)。このフラグFihは、燃料噴射弁50の駆動コイル60への通電が禁止されているか否かを示すフラグであり、初期値が値0であり、かつ通電を禁止すべきと判断されると値1に設定される。フラグFihがどのような場合に設定されるかについては、後で詳述する。ステップS110の判断において、フラグFihが値0に設定されていないと判断すれば(ステップS110:「NO」)、燃料カット中でない場合と同様、「END」に抜けて本処理ルーチンを一旦終了する。
燃料カット中でかつ通電禁止フラグFihが値0であれば、次に燃料噴射弁50おいてニードル弁54が駆動しない目標電流値および通電パルス幅を設定し、駆動コイル60の通電を実施する(ステップS120)。ここで、目標電流値とは、駆動コイル60に流す電流値の制御上の目標値である。図2に示したように、燃料噴射弁50のニードル弁54は、その先端が開口部53を閉弁する方向に、コイルばね57により付勢されている。このため、駆動コイル60に印加する通電パルスの大きさが一定以下であれば、駆動コイル60の通電により発生する磁束では、ニードル弁54はリフトされず、燃料が開口部53から噴射されることはない。ステップS120では、標準品であればこうした燃料噴射が起きない目標電流値および通電パルス幅として予め定めた値を設定し、これを駆動コイル60に印加するのである。
駆動コイル60に所定の目標電流値および通電パルス幅の電圧を印加した後、ECU30は、燃焼がないか否かの判断を行なう(ステップS150)。この判断は、筒内圧センサ26からの信号を読み取ることにより行なう。図6に示すように、エンジン11の気筒内の圧力(以下、筒内圧という)は、燃焼の有無に関わらず、圧縮行程、つまりピストン40aが上昇するに伴い、上昇する。この過程で、燃料噴射弁50の駆動コイル60にステップS120で設定した目標電流値および通電パルス幅の電圧を印加すると、本来、ニードル弁54がリフトしないものとして設定された通電パルス幅であっても、燃料噴射弁50の個体差などにより、ニードル弁54がリフトして、開口部53から燃料が噴射されることがある。燃料が噴射されて燃焼すると、図6に実線J1で示したように、筒内圧は、燃焼が生じない場合の圧力(破線B1)と比べて、高くなる。従って、筒内圧センサ26より検出したエンジン11の筒内圧が、閾値Tbより大きくなったか否かを判別すれば、燃焼が生じなかったか否かを容易に判別することができる。
筒内圧が閾値Tbを上回ることが検出されなければ、燃焼はなかったとして(ステップS150:「YES」)、次にパラツキ検出処理(ステップS200)を行なう。バラツキ検出処理(ステップS200)の詳細については、後述する。他方、筒内圧が閾値Tbを上回ることが検出された場合は(ステップS150:「NO」)、通電禁止フラグFihを値1に設定する(ステップS155)。ステップS155の後、あるいはステップS200のバラツキ検出処理の実行後は、「END」に抜けて本処理ルーチンを一旦終了する。
従って、第1実施形態では、本来、ニードル弁54がリフトしないものとして設定された目標電流値および通電パルス幅の電圧を駆動コイル60に印加した結果、燃料噴射弁50の個体差などにより、ニードル弁54がリフトして、開口部53から燃料が噴射されて燃焼が起きた場合には、通電禁止フラグFihが値1に設定される。その結果、上述した燃料噴射弁50の動作特性を検出する処理、具体的には目標電流値および通電パルス幅の電圧を印加した際の燃料噴射弁50の動作のパラツキを検出する処理(ステップS120~S200)は実行されなくなる。
ステップS200として示したバラツキ検出処理の詳細を、図7に拠って説明する。ステップS200として示したバラツキ検出処理では、CPU31は、ECU30のドライバに接続された燃料噴射弁50のマイナス端子の端子電圧Vmの時系列データを取得する処理を行なう(ステップS210)。このとき得られるマイナス端子電圧Vmにはノイズ等が重畳されているので、次にフィルタ処理を行ない(ステップS220)、ノイズ等を除去する。フィルタ処理は、読み取った端子電圧Vmに対してプログラムにより行なっても良いし、マイナス端子の電圧Vmを読み込む前にフィルタ回路を用いて実現してもよい。次にこのマイナス端子電圧Vmの時系列データから、燃料噴射弁50毎の駆動電圧の挙動値を算出する(ステップS230)。駆動電圧の挙動値については、後で説明する。この駆動電圧の挙動値の平均値を求め(ステップS240)、この平均値に対する駆動電圧挙動値の分布を、バラツキ値として記録する(ステップS250)。
燃料噴射弁50は、噴射パルスのオフ後に誘導起電力によってマイナス端子電圧Vmが変化する。このマイナス端子電圧Vmの挙動は、プランジャ58および駆動コイル60からなる磁気回路の特性による影響を受ける。本実施形態では、通常の開弁駆動時に用いる噴射パルスの代わりに、燃料噴射弁50のニードル弁54が駆動しない範囲の所定の通電パルスで駆動コイル60に通電を行ない、このときのマイナス端子電圧(駆動電圧)の挙動を用いて磁気回路のバラツキを検出している。燃料噴射弁50のニードル弁54が駆動しない範囲の所定の通電パルスで駆動コイル60に通電を行なって、バラツキを検出するのは、燃料噴射弁50のニードル弁54が動作すると、マイナス端子電圧Vmには大きな変化が生じ、磁気回路のバラツキを求めることが困難になる場合があるからである。
測定する「駆動電圧挙動値」としては、時間を単位とする指標(例えばマイナス端子電圧の微分値など)や、電圧を単位とする指標(例えば時点における基準との電圧差)などの任意の指標を選択することができる。駆動電圧挙動値としては、噴射パルスの終了タイミング付近でマイナス端子電圧Vmの変化特性が変化する電圧変曲点を求め、所定の基準タイミングからのこの電圧変曲点が発生するタイミングまでの時間を用いてもよい。
燃料噴射弁50のニードル弁54(弁体)が駆動しない範囲の所定の通電パルスで駆動コイル60に通電を行なう。通電パルスとしては、パーシャルリフトする際の噴射パルスと比較すると、パルス幅は同程度であり、目標電流値は小さく設定されている。この際の通電パルスは、燃料噴射弁50のニードル弁54が駆動しない程度の駆動エネルギ(電流)を有するものとしている。これにより、通電中にもアーマチャ(ニードル弁54)はリフトしない。従って、燃料噴射弁50におけるマイナス端子電圧Vmの挙動のバラツキは、アーマチャの挙動の影響が無い状態で検出されることになる。このため、個々の燃料噴射弁50における駆動コイル60とプランジャ58とが構成する磁気回路のバラツキを反映した駆動電圧挙動値を検出できる。従って、この駆動電圧挙動値を用いて、駆動コイル60とプランジャ58とが構成する磁気回路の個体間のバラツキを検出することができることになる。
本実施形態では、ECU30は、燃料噴射弁50のニードル弁54(弁体)が駆動しない範囲の所定の通電パルスで駆動コイル60に通電を行うときのマイナス端子電圧Vm(駆動電圧)を計測し、計測したマイナス端子電圧の挙動を用いて、マイナス端子電圧Vm(駆動電圧)に係る情報として磁気回路のバラツキを算出して、これをメモリ32に記憶する。そして、この磁気回路のバラツキを考慮して、燃料噴射を行なう際、燃料噴射弁50に印加するパーシャルリフト噴射の噴射パルスのパルス幅または目標電流値を補正する。本実施形態のエンジン制御システム10は、こうすることで、燃料噴射弁50の個体間のパーシャルリフト噴射における噴射量のバラツキを抑制するよう構成されている。なお、かかる磁気回路の特性のバラツキの検出と、検出したバラツキに基づく燃料噴射量の補正については、特許文献1に詳しく開示されている。
以上説明したように、第1実施形態のエンジン制御システム10およびこのエンジン制御システム10に含まれる燃料噴射弁の制御装置によれば、エンジン11の運転中であって、燃料カットがなされている間に、燃料噴射弁50に対して、ニードル弁54がリフトされず、燃料噴射が生じない範囲のパルス幅と目標電流値の噴射パルスを印加して、磁気回路の特性のバラツキを検出する(図5、図7)。従って、このエンジン制御システム10に含まれる燃料噴射弁制御装置は、磁気回路の特性のバラツキを検出した後は、このバラツキを補正して、パーシャルリフト噴射量の精度を高めた燃料噴射制御を行なうことがでる。しかも、この磁気回路のバラツキを検出する処理を行なっている間に、筒内圧センサ26が、エンジン11の筒内に燃焼が生じたことを検出すると(図5、ステップS150)、通電禁止フラグFihを値1に設定し、燃料カット中であっても、噴射パルスの印加や、磁気回路の特性のバラツキの検出といった一連の処理を行なわない。従って、燃料噴射弁50の磁気回路の特性のバラツキを検出しようとして、燃料噴射弁50から不慮の燃料噴射を起こしてしまうということがない。このため、エミッションの悪化、燃費の低下などを抑制することができる。
B.第2実施形態:
次に第2実施形態としてのエンジン制御システム10およびこれに含まれる燃料噴射弁の制御装置について説明する。第2実施形態では、第1実施形態と同様のハードウェア構成を用いる。第2実施形態では、ECU30が、図8として示した動作特性検出処理ルーチンを実行する点で第1実施形態と相違する。第1実施形態と同様の処理については、ステップ番号を同一とし、その詳細な説明は省略する。また、ステップS200として示したバラツキ検出処理の内容は、第1実施形態(図7)と同様である。
第2実施形態では、ニードル弁を駆動しない程度の目標電流値および通電パルス幅を設定した後(ステップS120)、通電パルス幅および目標電流値の少なくとも一方を補正する補正値αを用いて補正する処理(ステップS130)を行なう点で、第1実施形態と相違する。また、その後、筒内圧センサ26を用いて燃焼がないか否かの判断を行なった後(ステップS150)、燃焼が検出された場合には、通電パルス幅および目標電流値の少なくとも一方を補正する補正値αを算出する処理(ステップS160)を行なった後、ステップS100に戻るものとされている点でも、第1実施形態と相違する。
ここで補正値αは、値1以下の係数であり、燃焼が生じたと判断した場合に、ステップS160の処理により、例えば筒内圧センサ26が検出した燃焼圧が大きいほど、小さい値に設定される。この結果、通電パルス幅および目標電流値は、燃焼が生じない程度の通電パルス幅および/または目標電流値となるように補正される(ステップS130)。
かかる第2実施形態では、燃焼が検出されても、直ぐに燃料噴射弁50への通電を中止するのではなく、燃料噴射が生じない程度の通電パルス幅および目標電流値に補正できるように補正値αを求める。従って、燃料噴射弁50への次の通電の際には、通電パルス幅および目標電流値の少なくとも一方は小さな値に補正されるので、燃焼が生じない可能性が高く、バラツキの検出を行なうことができる可能性が高い。燃焼が生じていなければ(ステップS150:「YES」)、バラツキの検出処理を行なうことができる。従って、一度燃焼がおきても、燃料噴射弁50のバラツキの検出処理を継続できる可能性が高まる。なお、第1実施形態と組合わせて、複数回燃焼が検出されたら、通電禁止フラグFihをセットして、燃料カット中の磁気回路のバラツキ検出を行なわないようにしてもよい。
C.第3実施形態:
次に第3実施形態としてのエンジン制御システム10およびこれに含まれる燃料噴射弁の制御装置について説明する。第3実施形態では、第1,第2実施形態と同様のハードウェア構成を用いる。第3実施形態では、ECU30が、図9として示した動作特性検出処理ルーチンを実行する点で第1,第2実施形態と相違する。第1,第2実施形態と同様の処理については、ステップ番号を同一とし、その詳細な説明は省略する。また、ステップS200として示したバラツキ検出処理の内容は、第1実施形態(図7)と同様である。
第3実施形態では、燃料カット中であると判断すると(ステップS100:「YES」)、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅をメモリ32から読み出して、これを設定する処理を行なう(ステップS125)。第1,第2実施形態と異なり、第3実施形態では、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅は予め定められた値ではなく、メモリ32に記憶され、更新される値として扱われる。図9に示した処理が開始された際のデフォルトの値は、予め定められている。
その後、このニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅を補正値αで補正する処理を行なう(ステップS130)。この補正値αは、初期値が値1であり、第2実施形態と同様、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅の噴射パルスを印加したにもかかわらず燃焼が生じた場合(ステップS150:「NO」)に、燃料噴射の状況に応じて算出される値である(ステップS160)。
補正値αで、目標電流値および通電パルス幅を補正した結果、燃焼が生じていなければ(ステップS150:「YES」)、このときの目標電流値および通電パルス幅、つまり補正値αによって補正された後の目標電流値および通電パルス幅をメモリ32に記憶する(ステップS170)。その上で、補正値αを値1にリセットし(ステップS180)、その後、燃料噴射弁50のバラツキ検出処理を実行する(ステップS200)。
上記の処理を行なうことにより、第3実施形態では、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅に補正され、これがメモリ32に記憶される(ステップS170)。なお、一旦記憶された後は、この値がメモリ32から読み出されて(ステップS125)、用いられる。記憶済みの目標電流値および通電パルス幅を用いれば、通常は燃焼は生じないが、経年劣化などに起因して、再度燃焼が生じれば、記憶済みの目標電流値および通電パルス幅に対する補正値αが、同様に求められ、燃焼が生じないことが確認されれば、これがメモリ32記憶される。
従って、第3実施形態によれば、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅を補正しておくことができ、燃料カットなど、燃料噴射弁50の特性のバラツキを検出する処理を行なう条件が整ったとき、燃料噴射が生じないようにしてパラツキ検出の処理を行なうことができる。補正済みの値は、メモリ32に不揮発的に記憶しておき、次にエンジン11を始動した際に、補正済みの目標電流値および通電パルス幅を用いてバラツキの検出を行なってもよい。あるいは、エンジン11が停止する度に補正済みの値を破棄し、目標電流値および通電パルス幅を初期値に戻して、処理を行なうものとしてもよい。前者の場合は、エンジン11の起動毎に補正する必要がなく、後者の場合にはエンジン11の停止中に特性が変化した場合などに素早く対応できる。
D.第4実施形態:
次に、第4実施形態としてのエンジン制御システム10およびこれに含まれる燃料噴射弁の制御装置について説明する。第4実施形態では、第1から第3実施形態と同様にハードウェア構成を用いる。第4実施形態では、ECU30が、図10として示した動作特性検出処理ルーチンを実行する点で、第1から第3実施形態と相違する。第1から第3実施形態と同様の処理については、ステップ番号を同一とし、その詳細な説明は省略する。また、ステップS200として示したバラツキ検出処理の内容は、第1実施形態(図7)と同様である。
第4実施形態では、燃料カット中であると判断すると(ステップS100:「YES」)、次に、学習済みフラグFsが値1であるか否かの判断を行なう(ステップS105)。学習済みフラグFsが値1でなければ、学習が完了していないと判断し、ステップS300に移行して、燃焼検知領域BDAの学習を行なう。燃焼検知領域BDAの学習処理は、図11に示すように、噴射パルスの通電パルス幅を一定に保ったまま目標電流値Imを徐々に高くし、エンジン11のサイクルに合わせて燃料噴射弁50に噴射パルスを印加する。目標電流値Imが大きくなって、いずれかのサイクルで筒内圧センサ26により筒内での燃焼が検出されると(燃焼判定フラグ=1)、余裕度分の電流値ΔImを差し引いた値を目標電流値Imとして記憶し、かつ学習済みフラグFsを値1に設定する。上記の説明では、通電パルス幅を一定として目標電流値Imを漸増したが、目標電流値Imを一定にして、通電パルス幅を漸増してもよい。
図12に示したように、燃料噴射弁50には、燃焼が生じる燃焼検知領域BDAがあり、この領域から十分に隔たった領域CSが存在する。この領域CSは、ニードル弁54がリフトしない、つまり噴射が起きない領域であり、通常の目標電流値および通電パルス幅は、この領域に設定されている。燃料噴射弁50は経年変化により、ニードル弁54の摺動抵抗が小さくなり、動きやすくなることがある。こうした場合、図12の符号MIで示したように、燃焼が生じ、筒内圧センサ26により検知される領域が拡大することがある。ステップS300に示した燃焼検知領域BDAの学習によれば、拡大した領域MIを燃焼検知領域BDAとして検出することができる。学習が済めば、新たに検出された燃焼検知領域BDAから、余裕度分の電流値ΔImだけ隔たった領域CSに対応した噴射パルスが印加される。
他方、学習済みフラグFsが値1、つまり学習が済んでいれば(ステップS105:「YES」)、第3実施形態と同様に、ニードル弁54がリフトしないとして学習済みの目標電流値および通電パルス幅をメモリ32から読み出して、これを設定する処理を行なう(ステップS125)。
その後、燃焼が生じたか否かを判断し、燃焼が生じていれば(ステップS150:「NO」)、第2,第3実施形態と同様に、通電パルス幅および目標電流値の少なくとも一方を補正する補正値αを算出する処理(ステップS160)を行なった後、ステップS100に戻る。ここで補正値αは、第2実施形態で説明したように、値1以下の係数であり、燃焼が生じたと判断した場合に、ステップS160の処理により、例えば筒内圧センサ26が検出した燃焼圧が大きいほど、小さい値に設定される。この結果、燃焼が生じた場合には、通電パルス幅および目標電流値は、燃焼が生じない程度の通電パルス幅および/または目標電流値となるように補正される。
他方、燃焼が生じていなければ(ステップS150:「YES」)、このときの目標電流値および通電パルス幅、つまり補正値αによって補正された後の目標電流値および通電パルス幅をメモリ32に記憶する(ステップS170)。その上で、補正値αを値1にリセットし(ステップS180)、燃料噴射弁50のバラツキ検出処理を実行する(ステップS200)。
上記の処理を行なうことにより、第4実施形態では、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅が学習され、通常は、燃料カットの実施時に、この学習済みの噴射パルスを燃料噴射弁50に印加して、燃料噴射弁50の磁気回路のバラツキを検出する処理が行なわれる。従って、学習済みの目標電流値および通電パルス幅を用いれば、通常は燃焼は生じないが、経年劣化などに起因して、再度燃焼が生じれば、学習済みの目標電流値および通電パルス幅に対する補正値αが、同様に求められ、燃焼が生じないことが確認されれば、これが学習され、メモリ32の内容は更新される。
かかる第4実施形態によれば、ニードル弁54がリフトしない目標電流値および通電パルス幅を学習することができ、燃料カットなど、燃料噴射弁50の特性のバラツキを検出する処理を行なう条件が整ったとき、燃料噴射が生じないようにしてパラツキ検出の処理を行なうことができる。エンジン制御システム10が動作を停止し、その後動作を再開した際の学習済みの値の扱いは、第3実施形態の補正済みの値の扱いと同様にすることができる。
E.その他の実施形態:
上述した第1~第4実施形態では、エンジン11の筒内の燃焼の有無は、筒内圧センサ26により検出したが、筒内の燃焼の有無を直接検出する手法としては、例えば筒内の温度を直接検出する温度センサや筒内のイオン電流を検出するイオン電流センサなど、種々の形態を考えることができる。いずれセンサを採用した場合も、筒内の燃焼の状態を直接検出することができるので、駆動コイル60への通電の条件を変更することができ、非所望の燃料噴射の発生を抑制し、エンジン11のエミッションの悪化を燃費の低下を抑制することができる。
上記実施形態では、燃焼が生じていると判断すると、駆動コイル60に印加する噴射パルスの目標電流値および通電パルス幅の少なくとも一方を、燃焼の状況に応じた補正係数αで補正したが、燃焼が検出される度に、補正値αを一定量ずつ低減するといった対応を取っても差し支えない。あるいは、一度、目標電流値および通電パルス幅の少なくとも一方を、ほぼ0まで小さくし、その後徐々に目標電流値および通電パルス幅の少なくとも一方を大きくしていく、という対応を取っても差し支えない。
上記の各実施形態では、燃料カットの間に、燃料噴射弁の動作特性検出処理ルーチンの各処理を実施したが、燃料カット以外のタイミングで実施しても差し支えない。例えば、アイドル状態で、圧縮行程であり、かつ通常の燃料噴射のタイミングより前のタイミングで、動作特性検出処理を実施するようにしてもよい。本来、燃料噴射弁の動作特性検出処理における通電パルス印加は、燃料噴射が行なわれないはずのものなので、アイドル状態で行なっても問題はない。また、仮に燃料噴射が行なわれ、燃焼が生じてしまうとしても、アイドル状態本来での点火・燃焼と分離できるタイミングであれば、動作特性の検出は可能である。
(1)上述した燃料噴射弁の制御装置は、内燃機関の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁の弁体を開閉駆動するソレノイドと、前記内燃機関の前記筒内の燃焼の状況を直接検出する検出部と、前記ソレノイドの特性を検出するために、前記燃料噴射弁が燃料噴射しないとされた領域で、前記ソレノイドに通電する通電部と、前記通電部による前記ソレノイドへの通電の後に、前記検出部により検出された前記筒内の燃焼の状況に基づいて、前記通電部による前記通電の条件を変更する制御部とを備える態様で実施可能である。
(2)こうした燃料噴射弁の制御装置において、前記検出部により、前記ソレノイドへの通電の後に、前記筒内での燃焼が検出された場合には、前記燃料噴射弁が燃料噴射しないとされた領域での前記ソレノイドへの通電を抑制するものとしてもよい。通電の抑制は、通電を禁止以外に、通電の回数を減らす態様も含む。
(3)また、前記ソレノイドへの通電の抑制は、前記通電の禁止または前記通電のエネルギの低減のいずれかとしてもよい。
(4)ここで、前記通電のエネルギの低減は、前記ソレノイドに印加する通電パルスの縮小、および前記ソレノイドへの通電電流の低減の少なくとも1つとすることができる。従って両者を低減してもよいし、一方を高め、他方を低減して、トータルでのエネルギを低減するものであってもよい。
(5)こうした燃料噴射弁の制御装置において、前記通電パルスおよび前記通電電流の少なくとも1つを記憶する記憶部を備え、前記制御部は、前記ソレノイドへの通電の後に、前記筒内での燃焼が検出された場合には、前記縮小した前記通電パルスおよび前記低減した前記通電電流の少なくとも1つを、前記記憶部に記憶し、前記ソレノイドへの通電の後に、前記筒内での燃焼が検出されなくなった場合には、前記通電部による前記ソレノイドへの通電を、前記記憶部に記憶された前記通電パルスおよび前記通電電流の少なくとも1つで行なわせるものとしてもよい。もとより、筒内での燃焼が検出された場合には、前記縮小した前記通電パルスおよび前記低減した前記通電電流を、記憶部に記憶せず、毎回燃焼の有無と、燃焼が検出された場合の通電パルスのおよび目標電流値の補正値を求めて、次の通電を行なうようにしてもよい。
(6)こうした燃料噴射弁の制御装置において、前記制御部は、前記ソレノイドへの通電の後に、前記筒内での燃焼が検出されなくなった場合には、前記検出部により前記筒内での燃焼を検出するまで、前記通電パルスの拡大および前記通電電流の増加の少なくとも1つを行ない、前記縮小または前記拡大した通電パルスおよび前記縮小した通電電流または前記増加した通電電流の少なくとも1つにより、前記記憶部に記憶した前記通電パルスおよび前記通電電流の少なくとも1つを更新するものとしてもよい。なお、この場合も、通電パルスと通電電流のいずれか一方のみを変更してもよく、一方を大きくなる側に、他方を小さくなる側に、それぞれ変更し、トータルで所望の側に変更してもよい。
(7)上記の実施の態様と共に、燃料噴射弁の制御方法としての実施態様も可能である。この燃料噴射弁の制御方法では、内燃機関の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁の弁体をソレノイドにより開閉駆動し、前記ソレノイドの特性を検出するために、前記燃料噴射弁が燃料噴射しないとされた領域で、前記ソレノイドに通電し、前記ソレノイドへの前記通電の後に、前記内燃機関の前記筒内の燃焼の状況を前記筒内に設けられたセンサにより検出し、前記筒内の燃焼の状況に基づいて、前記ソレノイドへの前記通電の条件を変更する。こうすれば、ソレノイドへの通電の条件を、筒内の燃焼の状況に基づいて変更することができ、内燃機関の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁が燃料噴射しないとされた領域で、前記ソレノイドに通電して、前記ソレノイドの特性を検出することが容易となる。
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。例えば、上記実施形態においてハードウェアにより実現した構成の一部は、ソフトウェアにより実現することができる。また、ソフトウェアにより実現している構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。