以下、本発明の燃料噴射制御装置を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態は、車両用のガソリンエンジンを制御する制御システムとして具体化している。まず、図1に基づいてエンジン制御システムの概略構成を説明する。
筒内噴射式の多気筒内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
スロットルバルブ16の下流側にはサージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。サージタンク18には、エンジン11の各気筒21に空気を導入する吸気マニホールド20が接続され、エンジン11の各気筒21には、それぞれ筒内に燃料を直接噴射する電磁式の燃料噴射弁30が取り付けられている。エンジン11のシリンダヘッドには、気筒21ごとに点火プラグ22が取り付けられており、各気筒21の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
エンジン11の排気管23には、排出ガスに基づいて混合気の空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ27が取り付けられている。クランク軸28の外周側には、クランク軸28が所定クランク角回転するごとにパルス信号を出力するクランク角センサ29が取り付けられ、このクランク角センサ29のクランク角信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
これら各種センサの出力はECU40に入力される。ECU40は、マイクロコンピュータを主体として構成された電子制御ユニットであり、各種センサの検出信号を用いてエンジン11の各種制御を実施する。ECU40は、エンジン運転状態に応じた燃料噴射量を算出して燃料噴射弁30の燃料噴射を制御するとともに、点火プラグ22の点火時期を制御する。これら点火プラグ22や燃料噴射弁30には車載のバッテリ51から電力が供給される。
ECU40は、エンジン制御用のマイコン41(エンジン11の制御用のマイクロコンピュータ)や、データバックアップ用のメモリ42、インジェクタ駆動用の電子駆動装置(EDU:Electronic Driving Unit)43等から構成されている。マイコン41は、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度やエンジン負荷等)に応じて要求噴射量を算出するとともに、この要求噴射量に基づき算出される噴射時間から噴射パルスを生成し、EDU43に出力する。EDU43では、噴射パルスに応じて燃料噴射弁30を開弁駆動して、要求噴射量分の燃料を噴射させる。マイコン41が「燃料噴射制御装置」に相当する。メモリ42は、IGスイッチのオフ後にも記憶内容を保持することが可能なバックアップRAMやEEPROM等の記憶部である。
EDU43には、駆動IC45、低圧電源部46、高圧電源部47、電圧切替回路48、電流検出回路49が設けられている。電圧切替回路48は、各気筒21の燃料噴射弁30に印加される駆動用電圧を高電圧V2と低電圧V1とで切り替える回路であり、具体的には、図示しないスイッチング素子のオンオフにより、低圧電源部46と高圧電源部47とのいずれかから燃料噴射弁30のコイルに対して駆動電流を供給させるものとなっている。低圧電源部46は、バッテリ51のバッテリ電圧(低電圧V1)を燃料噴射弁30に印加する低電圧出力回路を有している。高圧電源部47は、バッテリ電圧を所定の高電圧(例えば40V~70V)となるように昇圧した高電圧V2(昇圧電圧)を燃料噴射弁30に印加する高電圧出力回路(昇圧回路)を有してなり、それら高電圧出力回路は燃料噴射弁30毎に設けられている。
噴射パルスにより燃料噴射弁30が開弁駆動される際には、燃料噴射弁30に対して低電圧V1と高電圧V2とが時系列で切り替えられて印加されるようになっている。この場合、開弁初期には高電圧V2が印加されることで燃料噴射弁30の開弁応答性が確保され、それに引き続いて低電圧V1が印加されることで燃料噴射弁30の開弁状態が保持される。
電流検出回路49は、燃料噴射弁30の開弁駆動時における通電電流を検出するものであり、その検出結果は駆動IC45に逐次出力される。電流検出回路49は周知構成であればよく、例えばシャント抵抗と比較器とを有するものとなっている。
ここで、図2を参照して燃料噴射弁30について説明する。燃料噴射弁30は、通電により電磁力を生じさせるコイル31と、その電磁力によってプランジャ32(可動コア)と一体的に駆動されるニードル33(弁体)と、プランジャ32を閉弁方向へ付勢するバネ部材34、ニードル33等を収容するボディ35とを有してなる。ボディ35は磁性体であり、燃料噴射弁30における磁気回路を構成している。
噴射パルスの立ち上がりに伴いコイル31の通電が開始されると、プランジャ32及びニードル33がバネ部材34の付勢力に抗して開弁位置に移動する。これにより、ボディ35の噴孔36からニードル33が離間して燃料噴射弁30が開弁状態となり、燃料噴射が行われる。噴射パルスの立ち下がりに伴いコイル31の通電が停止されると、バネ部材34の付勢力によりプランジャ32及びニードル33が閉弁位置に戻ることで燃料噴射弁30が閉弁状態となり、燃料噴射が停止される。以下の説明では、プランジャ32がストッパに当たってそれ以上の開弁方向への移動が制限される位置を、ニードル33の「フルリフト位置」と称する。
なお、ボディ35には、ニードル33を収容する収容室37と、内部の燃料圧力の変化に応じて開弁方向及び閉弁方向に摺動するコマンドピストンを収容する圧力制御室38とが設けられている。コマンドピストンを介してプランジャ32に燃料圧力を作用させることによりニードル33を閉弁方向へ付勢している。このように、燃料圧力を利用してニードル33を閉弁位置に付勢する構成においては、燃料圧力(燃圧)が高くなるほど燃料噴射時の開弁応答性が低下する。要求噴射量に対する噴射パルスを決定する際には、燃圧に応じて噴射パルスが調整される。
次に、図3を参照し、駆動IC45及び電圧切替回路48により噴射パルスに基づき実施される燃料噴射弁30の駆動動作を説明する。
時刻ta1では、噴射パルスの立ち上がりに伴い高電圧V2が燃料噴射弁30に印加される。時刻ta2において、駆動電流が、あらかじめ定めた目標ピーク値Ipに到達すると、高電圧V2の印加が停止される。このとき、駆動電流が目標ピーク値Ipに到達するタイミング又はその前後のタイミングにおいてニードルリフトが開始され、そのニードルリフトに伴い燃料噴射が開始される。駆動電流が目標ピーク値Ipに到達したか否かの判定は、電流検出回路49により検出された検出電流に基づいて実施される。つまり、昇圧期間(ta1~ta2)では、駆動IC45において検出電流がIp以上になったか否かが判定され、検出電流≧目標ピーク値Ipになった時点で、電圧切替回路48により印加電圧の切替(V2印加停止)が実施される。
時刻ta3では、バッテリ電圧である低電圧V1が燃料噴射弁30に印加される。これにより、ニードル33がフルリフト位置に到達した後においてそのフルリフト状態が維持され、燃料噴射が継続されることとなる。その後、時刻ta5で噴射パルスがオフになると、燃料噴射弁30への電圧印加が停止され、駆動電流がゼロになる。そして、燃料噴射弁30のコイル通電の停止に伴いニードルリフトが終了され、それに合わせて燃料噴射が停止される。
ここで、燃料噴射弁30の動きについては個体差、経時劣化、温度等の影響を受ける。このような影響によって実際の噴射量が要求噴射量からずれることは、燃料噴射量の適正化を図る上で妨げになる。そこで、本実施形態においては、燃料噴射弁30への駆動指令に対する通電電流の変化である通電特性に基づいて補正値を算出し、その補正値を用いて噴射パルスの幅を増減させることにより、燃料噴射量の過不足を軽減している。具体的には、図4の例に示すように、燃料噴射弁30の駆動電流が、実線で示す目標波形に対して2点鎖線で示す実波形に変化している場合、その両者を比較すると、高電圧印加時(すなわち通電開始時)の電流立ち上がり区間での傾きや、電流立ち上がり区間での電流積算値、所定電流(例えばピーク電流)に到達するまでの時間、所定時間経過時における駆動電流の大きさがそれぞれ互いに相違する。かかる場合、予め定めた標準波形である目標波形との差を解消すべく、上述した電流の傾きや電流積算値、所定電流の到達時間等をパラメータとして補正値が設定される。例えば、噴射量が不足する場合には噴射パルスの出力時間が延長され、噴射量が過剰となる場合には噴射パルスの出力時間が短縮されるようにして補正値が設定される。
電磁駆動式の燃料噴射弁30においては、通電に伴って磁束が発生する。この磁束は、電流値の上昇に伴って増大し、電流値に対応した値に収束する(例えば時刻ta4~ta5参照)。このようにして発生した磁束は、通電終了後も直ちに消失することはなくコイル31など燃料噴射弁30内の磁性材料部分に残った状態となり、時間の経過に伴って徐々に減少する。そして、ニードル33が閉弁位置に復帰した時刻ta6の後の時刻ta7にて消失する。以下の説明では、通電終了後に残留する磁束を残留磁束と称する。
先の噴射が終了してから次の噴射が開始されるまでの時間が残留磁束の消失に必要な所要時間(数msec~数十msec)以下である場合には残留磁束の影響が次の噴射に及ぶことが回避され、この所要時間を超える場合には残留磁束の影響が次の噴射に及ぶ。例えば、エンジンが低回転となっている場合には噴射間のインターバル時間が長くなるため上記残留磁束の影響は回避されやすく、高回転となっている場合には噴射間のインターバル時間が短くなるため残留磁束の影響が次の噴射に及びやすくなる。
また、本実施形態においては、1燃焼サイクル内で燃料を複数回噴射する多段噴射が可能となっており、低負荷且つ低回転の場合(例えばアイドリング時)は単発噴射が実行されるのに対して、それ以外(例えば高負荷時や加速過渡時)には多段噴射が実行される構成となっている。多段噴射における前段の噴射(以下、前段噴射という)と後段の噴射(以下、後段噴射という)のインターバル時間は、所定の範囲で可変となっておりエンジン回転速度等に応じて設定される。ここで、インターバル時間が上記所要時間よりも短い場合には、残留磁束の影響が後段噴射に及ぶこととなる。
以下、図5を参照して多段噴射時の残留磁束の影響について説明する。図5では、多段噴射における前段噴射及び後段噴射を例示しており、説明の便宜上、残留磁束の影響がない場合の電流、磁束、ニードル33の位置の変化を2点鎖線によって併記している。
時刻tb1にて前段噴射用の通電が開始されると駆動電流の上昇に伴って磁束が増加する。高電圧V2の印加終了(tb2参照)及び低電圧V1への切り替えにより駆動電流が減少すると、それに応じて磁束も減少し、低電圧V1時の駆動電流に対応した値に収束する(時刻tb4)。通電が終了した時刻tb5では、ニードル33がフルリフト位置から閉弁位置へ向けた移動を開始する。これに併せて残留磁束も徐々に減少することとなる。
ニードル33の閉弁位置への復帰が完了し且つ磁束が残留している時刻tb6にて後段噴射用の通電が開始されると、残留磁束の影響を受けて電流値が速やかに上昇し、ニードル33の開弁方向への動きが後押しされる。このように、残留磁束がない場合と比較して噴射弁の応答性が高くなることで、ニードル33がフルリフト位置に到達するまでの時間が短くなる(時刻tb6~tb8参照)。この結果、同じパルス幅で比較した場合に、残留磁束がない場合と比べてニードル33がフルリフト位置に保持される時間が長くなり、実際の燃料噴射量が要求噴射量を上回ることとなる。
既に説明したように、残留磁束は通電終了直後が最も多く、時間の経過とともに減少する。このため、前後の噴射のインターバルが小さいほどその影響が顕著になり、実際の燃料噴射量と要求噴射量とのずれも大きくなる。
ここで、上述した補正値(燃料噴射弁30の通電特性に基づき算出した補正値)については、過去の累積データから平均等を求めることにより、偶発的な要因によるばらつきの影響を抑え、その確からしさの向上が期待できる。このような構成においては、サンプルとして利用可能なデータの数を稼ぐことにより、燃料噴射の適正化に寄与し得る。ただし、電流波形の傾きについては残留磁束の影響によって変化するため、仮に残留磁束の影響を受けた電流波形を残留磁束の影響を受けていない電流波形と同じ取り扱いとした場合には、それらのデータから算出される補正値が残留磁束に左右されることとなる。これに対して、残留磁束の影響がありそうな場合には補正値の算出を行わない構成とすれば、補正値の確からしさの低下を抑制し得るものの、補正値の算出機会を増やすことが困難になる。
本実施形態では、燃料噴射弁30の通電特性に基づいて、補正値を学習値として算出することとし、その学習値の算出に際して残留磁束の影響を配慮することにより、残留磁束の影響による学習値の精度低下を抑制し、かつ学習機会を増やす工夫がなされていることを特徴の1つとしている。
以下、図6を参照して、残留磁束の影響を加味しつつ実行される学習処理について説明する。学習処理は、マイコン41にて定期的に実行される処理であり、各燃料噴射弁30について各々実行される。
学習処理においては先ず、ステップS101にて今回の燃料噴射が、単発噴射又は多段噴射の1段目噴射であるか否かを判定する。ステップS101にて肯定判定をした場合には、ステップS102に進む。ステップS102では、単発噴射又は1段目噴射での通電特性として、高電圧印加時における電流積算値S1を算出する。このとき、噴射パルスのオンに伴う高電圧の印加開始後において駆動電流がピーク値(又はその前後の所定値)に到達するまでの期間で、駆動電流が逐次積算されて電流積算値S1が算出される。
続くステップS103では、電流積算値S1と予め定められた電流積算値の標準値Srefとの差に基づいて、第1学習値LRN1を算出する。この場合、第1学習値LRN1は、単発噴射又は多段噴射の1段目噴射であること、すなわち残留磁束の影響がない状態下で燃料噴射が行われることを条件に算出される。電流積算値S1が、残留磁束の影響が無い条件下で取得される第1通電特性に相当し、第1学習値LRN1が第1補正値に相当する。
また、ステップS101にて否定判定をした場合には、ステップS104に進む。ステップS104では、今回の燃料噴射が多段噴射の2段目以降の燃料噴射であるか否かを判定する。ステップS104にて否定判定をした場合には、そのまま本処理を終了する。ステップS104にて肯定判定をした場合には、ステップS105に進む。
ステップS105では、多段噴射において前段の燃料噴射を終了してから今回の燃料噴射を開始するまでのインターバル時間Tを取得する。インターバル時間Tは、都度の噴射パターンに応じて設定されるものとなっている。その後、ステップS106では、多段2段目以降の燃料噴射での通電特性として、高電圧印加時における電流積算値S2を算出する。電流積算値S2は、上述の電流積算値S1と同様に、高電圧の印加開始後における駆動電流の積算により算出される。
続くステップS107では、電流積算値S2と電流積算値の標準値Srefとの差に基づいて、第2学習値LRN2を算出する。この場合、第2学習値LRN2は、多段2段目以降の噴射であること、すなわち残留磁束の影響が生じている可能性のある状態下で算出される。電流積算値S2が、残留磁束の影響がある条件下で取得される第2通電特性に相当し、第2学習値LRN2が第2補正値に相当する。
なお、多段噴射として例えば3段の燃料噴射が行われる場合には、2段目噴射と3段目噴射とにおいてステップS105~S107でそれぞれ第2学習値LRN2が算出される。
その後、ステップS108では、多段噴射の最終の燃料噴射が終了したか否かを判定する。そして、ステップS108にて否定判定をした場合には、そのまま本処理を終了する。ステップS108にて肯定判定をした場合には、ステップS109に進む。
ステップS109では、多段噴射の各噴射のうちインターバル時間Tが同一の範囲に入る燃料噴射が存在しているか否かを判定する。そして、ステップS109が肯定される場合にステップS110に進み、インターバル時間Tが同一の範囲に入る燃料噴射どうしで、学習値の平均化処理を実施する。
具体的には、ステップS110では以下の処理が実施される。すなわち、2段目以降の燃料噴射においてインターバル時間Tが所定時間TH1よりも大きいものが含まれている場合に、第2学習値LRN2のうちT≧TH1である燃料噴射で算出された第2学習値LRN2と、ステップS103で算出した第1学習値LRN1との平均値が算出され、その平均値が第1学習値LRN1とされる。なお、所定時間TH1は、残留磁束の影響の有無を判定するための閾値であり、T≧TH1であれば残留磁束の影響が生じていない、又は残留磁束の影響が生じていても微小であると考えられるため、残留磁束の影響が生じていない学習値どうしの平均値が、第1学習値LRN1として算出される。また、2段目以降の燃料噴射において複数の燃料噴射でインターバル時間Tが同一の範囲にあれば、複数の第2学習値LRN2で平均値が算出され、その平均値が第2学習値LRN2とされる。
その後、ステップS111では、第1学習値LRN1に対する第2学習値LRN2の差を影響量EAとして算出する(EA=LRN2-LRN2)。
続くステップS112では、第1学習値LRN1と影響量EAとインターバル時間Tとをメモリ42に記憶する。このとき、第1学習値LRN1は、残留磁束の影響を受けていない学習値として記憶され、影響量EAは、残留磁束の影響分に相当する学習値として記憶される。ここで、エンジン回転速度やエンジン負荷といったエンジン運転状態に応じて複数の学習領域(設定領域)が定められており、今回の燃料噴射時におけるエンジン運転状態に対応する学習領域に第1学習値LRN1や影響量EAが記憶される。メモリ42において既に第1学習値LRN1や影響量EAが記憶されている場合には、例えばなまし処理等を用いて、第1学習値LRN1や影響量EAの前回値が更新される。上記に加え第2学習値LRN2をメモリ42に記憶する構成であってもよい。
影響量EAは、残留磁束の影響の無い条件下で算出された第1学習値LRN1と、残留磁束の影響のある条件下で算出された第2学習値LRN2との差であり、残留磁束の影響分に相当する値である。また、残留磁束とインターバル時間Tとには相関があり、インターバル時間Tが小さいほど残留磁束が大きくなる。以上のとおりインターバル時間Tと影響量EAとには相関があることから、これらが対応付けられてメモリ42に記憶される。
なお、単発噴射が実施される場合には、その単発噴射にて算出された第1学習値LRN1によりメモリ42内の記憶値が更新される。
学習処理により算出された影響量EAとインターバル時間Tとは、図7に示す関係を有すると考えられる。つまり、インターバル時間Tを横軸、影響量EAを縦軸にして、学習処理により得られたデータをマークすると、図示のとおり下側に凸の曲線状の関係になると考えられる。学習処理の実施後には、マイコン41は、影響量EA及びインターバル時間Tの関係を近似曲線LAとして求めて、その関係をメモリ42に記憶する。図7の近似曲線LAでは、影響量EAはインターバル時間Tが小さくなるほど大きくなり、その増加率についてもインターバル時間Tが小さくなるほど大きくなっている。
次に図8を参照して、上記のごとく算出した学習値を用いた噴射制御処理について説明する。噴射制御処理は、マイコン41にて定期的に実行される処理であり、各燃料噴射弁30について各々実行される。
噴射制御処理においては先ず、ステップS201にて同じ燃料噴射弁30について先の燃料噴射からのインターバル時間Tを取得する。続くステップS202,S203では、インターバル時間Tに基づいて、メモリ42に記憶されている影響量EAに基づく噴射量補正を実施するかしないかの可否判定を実施する。以下にその可否判定を詳しく説明する。
上述のとおりインターバル時間Tと影響量EAとは、インターバル時間Tが小さくなるほど影響量EAが大きくなり、その影響量EAの増加率についてもインターバル時間Tが小さくなるほど大きくなる関係にある(図7参照)。そのため、インターバル時間Tが比較的小さい範囲では、それよりもインターバル時間Tが大きい範囲に比べて影響量EAのばらつき(誤差)が大きくなるおそれがある。そこで本実施形態では、影響量EAのばらつきを加味しつつ、影響量EAに基づく噴射量補正の実施を可否判定する。
図8においては、影響量EAとインターバル時間Tとの関係を近似した近似曲線LAを用いて、今回のインターバル時間Tでの曲線LAの傾きを設定し(ステップS202)、その傾きが所定の傾き閾値TH2よりも小さいか否かを判定する(ステップS203)。そして、曲線LAの傾きが傾き閾値TH2よりも小さい場合には、影響量EAに基づく噴射量補正の実施を許可するとしてステップS204に進み、曲線LAの傾きが傾き閾値TH2よりも大きい場合には、影響量EAに基づく噴射量補正の実施を禁止するとしてステップS208に進む。
図7では、例えばインターバル時間TがTAである場合において、T=TAでの近似曲線上の接線の傾きがAxであり、その傾きAxが傾き閾値TH2よりも大きいか否かにより、影響量EAに基づく噴射量補正の実施が可否判定される。
なお、図7に示す近似曲線LAが作成されている場合に、近似曲線LAの傾き(詳しくは近似曲線LA上の接線の傾き)が所定の閾値以上となる領域を禁止領域として定めておき、その禁止領域に該当する場合に、影響量EAに基づく噴射量補正の実施を禁止する構成であってもよい。図7では、禁止領域の境界となるインターバル時間TがTBであり、マイコン41は、インターバル時間TがTB以下である場合に、近似曲線LAの傾きが傾き閾値TH2よりも大きくなるとして、影響量EAに基づく噴射量補正の実施を禁止する。
影響量EAに基づく噴射量補正の実施が許可される場合(ステップS203がYESの場合)、ステップS204に進む。ステップS204では、今回のインターバル時間Tに対応する影響量EAをメモリ42から読み出し、続くステップS205では、メモリ42から第1学習値LRN1(すなわち残留磁束の影響の無い条件で算出された補正値)を読み出す。ステップS204,S205では、現時点のエンジン運転状態に応じて、それに対応する学習領域から影響量EAと第1学習値LRN1とが読み出される。
その後、ステップS206では、第1学習値LRN1と影響量EAとにより噴射補正値Faを算出し、続くステップS207では、噴射補正値Faを用いて燃料噴射量の補正を実施する。このとき、例えばエンジン回転速度やエンジン負荷に基づき算出された基本噴射量に対して水温や空燃比等による各種補正が実施され、さらに噴射補正値Faによる補正が実施される。
また、影響量EAに基づく噴射量補正の実施が禁止される場合(ステップS203がNOの場合)、ステップS208に進む。ステップS208では、噴射補正値Faとして第1学習値LRN1に所定係数Kを乗算して噴射補正値Faを算出し、続くステップS207では、その噴射補正値Faを用いて燃料噴射量の補正を実施する。所定係数Kは、1よりも大きい値として予め定められた値である。つまり、影響量EAに基づく噴射量補正の実施が禁止される場合には、今回のインターバル時間Tに対応する影響量EAがメモリ42に記憶されていても、その影響量EAを用いることなく燃料噴射制御が実施される。
次に、図9を参照して、多段噴射が実行される場合の学習の流れについて例示する。本実施形態に示すエンジン11は4サイクルエンジンであり、1サイクルが吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程によって構成されている。多段噴射では、1回目及び2回目の燃料噴射が吸気行程にて実行され、3回目の燃料噴射が圧縮行程にて実行される。
多段噴射の1段目噴射は、前回の燃料噴射が前サイクルである噴射であり、その直前のインターバル時間はT1であり、2段目噴射、3段目噴射の直前のインターバル時間はそれぞれT2,T3である。ここで、2段目噴射では、インターバル時間T2が所定時間TH1よりも小さいことから残留磁束の影響が生じ、3段目噴射では、インターバル時間T3が所定時間TH1よりも大きいことから1段目噴射と同様に残留磁束の影響が生じていないとしている。
図9に示す多段噴射では、1段目噴射で第1学習値LRN1が算出されるととともに、2段目噴射及び3段目噴射で第2学習値LRN2がそれぞれ算出される。なお、図9では、2段目噴射、3段目噴射の第2学習値LRN2を区別するために、それぞれLRN2a、LRN2bとしている。図9の場合、1段目噴射で算出された第1学習値LRN1と、3段目噴射で算出された第2学習値LRN2bとの平均値が、残留磁束の影響を受けていない第1学習値LRN1としてメモリ42に記憶される。また、2段目噴射で算出された第2学習値LRN2と第1学習値LRN1との差が、残留磁束の影響分を示す影響量EAとしてメモリ42に記憶される。なお、第1学習値LRN1や影響量EAの記憶は、それまでの値(前回値)に対してなまし値が上書きされることに行われる。
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
先の燃料噴射によって発生した磁束の影響が次の燃料噴射に及ぶ場合には、燃料噴射弁30への駆動指令に対する通電電流の変化を示す通電特性に影響が及び、さらにはその通電特性に基づいて算出される学習値(すなわち燃料噴射弁30の通電制御に関する補正値)に影響が及ぶ。かかる場合には、上記学習値を用いて燃料噴射弁30の通電制御を実施する際に制御精度の低下が懸念される。この点、燃料噴射弁30における先の燃料噴射からの残留磁束の大きさを示すパラメータとしてインターバル時間Tを取得するとともに、第1学習値LRN1や影響量EA、インターバル時間Tをメモリ42に記憶保持するようにしたため、残留磁束の影響が生じていても、学習値を適正に用いつつ、適正なる燃料噴射制御を実施することができる。
特に多段噴射ではインターバル時間Tが小さくなるため、先の燃料噴射の影響が次の燃料噴射に及びやすくなる。本実施形態においては、多段噴射において残留磁束の影響を加味しつつ影響量EAの算出等を実施するようにしたため、学習機会を増やしつつ学習値である影響量EAを適正に算出することが可能となっている。
残留磁束の影響が無い条件下で取得した電流積算値S1(第1通電特性)に基づいて第1学習値LRN1(第1補正値)を算出するとともに、残留磁束の影響がある条件下で取得した電流積算値S2(第2通電特性)に基づいて第2学習値LRN2(第2補正値)を算出し、さらに第2学習値LRN2における第1学習値LRN1との差を影響量EAとして算出し、影響量EAと第1学習値LRN1とインターバル時間Tとをメモリ42に記憶する構成とした。また、燃料噴射弁30による燃料噴射時に、残留磁束パラメータであるインターバル時間Tに応じて、メモリ42に記憶されている影響量EAを読み出し、その影響量EAと第1学習値LRN1とに基づいて燃料噴射制御を実施する構成とした。
これにより、残留磁束の影響が無い場合を基準にしつつ、燃料噴射弁30の通電特性における残留磁束の影響を適正に把握でき、ひいては燃料噴射制御の精度向上を図ることができる。
第2学習値LRN2における第1学習値LRN1との差である影響量EAとインターバル時間Tとの関係を示す近似曲線LAでは、その傾きが大きくなるほど影響量EAのばらつきが大きくなることが考えられる。この点を鑑み、燃料噴射弁30による燃料噴射時に、その時のインターバル時間Tでの近似曲線LAの傾きが傾き閾値TH2よりも大きいか否かを判定し、近似曲線LAの傾きが傾き閾値TH2よりも大きいと判定された場合に、影響量EAと第1学習値LRN1とに基づく噴射量補正の実施を禁止するようにした。この場合、影響量EAを用いることで生じる制御誤差を抑制できる。また、近似曲線LAは、実際の残留磁束の影響度合いに基づいて求められたものであり、燃料噴射弁30の個体ごとに制御精度向上を図ることもできる。
多段噴射の各噴射にて算出された第1学習値LRN1や第2学習値LRN2のうち、噴射ごとのインターバル時間Tが同一の範囲内にある各学習値LRN1,LRN2については平均値を算出して、その平均値や平均値から算出した影響量EAをインターバル時間Tと共に記憶し、噴射ごとのインターバル時間Tが同一の範囲内にない第1学習値LRN1や第2学習値LRN2については個別にインターバル時間Tと共に記憶する構成とした。この場合、インターバル時間Tを基準として残留磁束の影響度合いが同じものどうしをまとめて学習値として把握できる。
第1学習値LRN1や影響量EAを、エンジン運転状態に応じて定めた学習領域ごとに記憶する構成とした。これにより、エンジン運転状態が変わっても、第1学習値LRN1や影響量EAを用いた適正なる燃料噴射制御を実現できる。
以下に、別の実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。
<第2実施形態>
本実施形態では、燃料噴射弁30の通電特性に基づき学習値LRN(補正値)を算出し、その学習値LRNを、残留磁束パラメータであるインターバル時間Tに対応付けてメモリ42に記憶することとしている。そして、燃料噴射弁30による燃料噴射時に、インターバル時間Tに応じて、メモリ42に記憶されている学習値LRNを読み出し、その学習値LRNに基づいて燃料噴射制御を実施する。
図10を参照して、本実施形態における学習処理を説明する。学習処理は、マイコン41にて定期的に実行される処理であり、各燃料噴射弁30について各々実行される。
先ずステップS301では、同じ燃料噴射弁30について前回の燃料噴射を終了してから今回の燃料噴射を開始するまでのインターバル時間Tを取得する。その後、ステップS302では、燃料噴射弁30の通電特性として、高電圧印加時における電流積算値Sを算出する。電流積算値Sは、既述のとおり高電圧の印加開始後における駆動電流の積算により算出される。
続くステップS303では、電流積算値Sと予め定めた標準値Srefとの差に基づいて、学習値LRNを算出する。多段噴射の実施時には、多段噴射の各噴射にて上記学習値LRNの算出がそれぞれ行われる。
その後、ステップS304では、ステップS301で取得したインターバル時間Tと共に学習値LRNをメモリ42に記憶する。このとき、学習値LRNは、今回のエンジン運転状態に対応する学習領域に記憶される。ここで、学習値LRNは、エンジン回転速度、エンジン負荷、インターバル時間Tに応じて各々記憶される。例えば、図11に示すように、インターバル時間Tの大きさ、すなわち残留磁束の大きさに応じて、複数の記憶領域を定めておき、その記憶領域ごとに、エンジン回転速度とエンジン負荷とにより区分されたエンジン運転状態に応じて学習値LRNが記憶される。
なお、多段噴射の実施時には、多段噴射の各噴射にて算出された学習値LRNのうち、噴射ごとのインターバル時間Tが同一の範囲内にある学習値LRNについては平均値が算出されて、その平均値がインターバル時間Tと共に記憶される一方、噴射ごとのインターバル時間Tが同一の範囲内にない学習値LRNについては個別にインターバル時間Tと共に記憶されるとよい。
次に図12を参照して、本実施形態における噴射制御処理を説明する。噴射制御処理は、マイコン41にて定期的に実行される処理であり、各燃料噴射弁30について各々実行される。
先ずステップS401では、同じ燃料噴射弁30について前回の燃料噴射からのインターバル時間Tを取得する。続くステップS402では、今回のインターバル時間Tに対応する学習値LRNをメモリ42から読み出す。ステップS402では、現時点のエンジン運転状態に応じて、それに対応する学習領域から学習値LRNが読み出される。
その後、ステップS403では、学習値LRNを噴射補正値として用いて燃料噴射量の補正を実施する。このとき、例えばエンジン回転速度やエンジン負荷に基づき算出された基本噴射量に対して水温や空燃比等による各種補正が実施され、さらに学習値LRNによる補正が実施される。
本実施形態では、燃料噴射弁30による燃料噴射時に、残留磁束パラメータであるインターバル時間Tに応じて、メモリ42に記憶されている学習値LRNを読み出し、その学習値LRNに基づいて燃料噴射制御を実施する構成とした。これにより、学習値LRNの算出時における残留磁束の影響分を加味しつつ、その学習値LRNを用いた噴射量補正を実施でき、ひいては燃料噴射制御の精度向上を図ることができる。
<他の実施形態>
・先の燃料噴射に起因する残留磁束の影響度合いは、インターバル時間T以外に、先の燃料噴射時における通電態様に応じて変わると考えられる。つまり、後の燃料噴射の実施時において先の燃料噴射による残留磁束の影響は、先の燃料噴射からのインターバル期間における磁束減衰の程度以外に、先の燃料噴射での通電により生じる磁束の大きさに依存すると考えられる。具体的には、先の燃料噴射時において燃料噴射弁30の噴射パルスオンに伴う通電期間内の全通電量(電流積算値)や、その通電期間の長さが相違すると、残留磁束の大きさが変わると考えられる。この場合、通電期間内の全通電量や通電期間の長さが大きくなるほど、残留磁束が大きくなると考えられる。
そこで、マイコン41は、例えば図10の学習処理を実施する場合において、残留磁束パラメータとして、先の燃料噴射での通電情報である全通電量(電流積算値)を取得するとともにインターバル時間Tを取得し(ステップS301)、それらと対応付けて学習値LRNをメモリ42に記憶する(ステップS304)。この場合、例えば図13に示すように、先の燃料噴射の全通電量とインターバル時間Tの大きさとに応じて複数の記憶領域を定めておき、その記憶領域ごとに、エンジン回転速度とエンジン負荷とにより区分されたエンジン運転状態に応じて学習値LRNが記憶されるとよい。
残留磁束パラメータとして、先の燃料噴射の終了から次の燃料噴射の開始までのインターバル時間Tと、先の燃料噴射における燃料噴射弁30への通電量を示す通電量情報とを取得し、学習値LRN(影響量EAでも可)とインターバル時間Tと通電量情報とをメモリ42に記憶するようにした。これにより、一層適正に残留磁束の影響度合いを把握でき、ひいては燃料噴射制御の精度向上を図ることができる。
・残留磁束の大きさを示すパラメータとして、インターバル時間Tに代えて他のパラメータを用いることも可能である。例えば、センサを用いて残留磁束を測定し、その測定結果をパラメータとして取得する構成であってもよい。
・上記実施形態では、多段噴射の1段目噴射で算出した第1学習値LRN1と、第2学習値LRN2のうちT≧TH1である燃料噴射で算出した第2学習値LRN2との平均値を算出し、その平均値を第1学習値LRN1としてメモリ42に記憶する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、多段噴射の各噴射のうち1段目のみを残留磁束の影響の無い燃料噴射とし、その1段目噴射にて算出された第1学習値LRN1をメモリ42に記憶する構成としてもよい。
・上記実施形態では、学習値を用いて燃料噴射量を補正する構成としたが、これに代えて、学習値を用いて噴射パルスの時間幅を補正する構成、高電圧印加時の高電圧V2を補正する構成、高電圧印加時の目標ピーク電流を補正する構成のいずれかを採用することも可能である。
・上記実施形態では、先の燃料噴射の終了から次の燃料噴射の開始までをインターバル時間としたが、これ以外であってもよい。例えば、先の燃料噴射の開始から次の燃料噴射の開始までをインターバル時間としてもよい。又は、先の燃料噴射のピーク電流到達時から次の燃料噴射の開始までをインターバル時間としてもよい。
・本発明の燃料噴射制御装置は、ガソリンエンジン以外にディーゼルエンジンにおいても適用可能である。すなわち、直噴式ディーゼルエンジンの燃料噴射弁を制御する燃料噴射制御装置への適用が可能となっている。
・バッテリクリア後等における未学習時の対応としては、失火を回避すべく、低圧電源部46から低電圧V1を印加することで燃料噴射弁30を駆動させる構成としてもよい。
・デジタル制御の場合には燃料噴射弁用の駆動電圧に最小分解能が存在する。このような構成においては、エネルギ不足による失火等を防ぐ上で小さい側の一番近い電圧を用いることが好ましい。また、過剰なエネルギを与えることで噴射量がずれることを避ける上では四捨五入値とすることが好ましい。