以下に図面を用いて本発明の実施形態の車両用回転電機温度推定システムを説明する。以下では、回転電機のステータコイルとして、ハイブリッド車両に搭載されたモータジェネレータのステータコイルの実温度を推定する場合を説明するが、モータジェネレータの代わりに発電機の機能を有しない電動モータを用いることもできる。以下ではすべての図面の説明で同様の要素には同一の符号を付して説明する。
図1は、実施形態の車両用回転電機温度推定システム(以下、単に「温度推定システム」と記載する。)12の主要構成を示している。温度推定システム12は、第2モータジェネレータ14、冷却ユニット25、温度センサ39、及び制御装置40を含んで構成される。
温度推定システム12は、ハイブリッド車両10(図1、図2)に搭載されて用いられる。制御装置40は、後述するように車体60の姿勢の向きを表す第2モータジェネレータ14のトルク指令値の変化に応じて、第2モータジェネレータ14のステータコイルの実温度推定に用いる温度補正値を変更する。これとともに、制御装置40は、後述するように電動式ポンプ32の起動の有無に応じて、ステータコイルの実温度推定に用いる温度補正値を変更する。これによって、車体60が傾斜する場合におけるステータコイルの実温度の推定精度を向上できるとともに、機械式ポンプ27及び電動式ポンプ32を用いてステータコイルを冷却する場合におけるステータコイルの実温度の推定精度を向上できる。
図2を用いて、ハイブリッド車両10の全体構成を説明する。ハイブリッド車両10には、エンジン35、第1モータジェネレータ36、第1インバータ37、第2モータジェネレータ14、及び第2インバータ38が搭載される。以下では、第1モータジェネレータ36は「第1MG36」と記載し、第2モータジェネレータ14は「第2MG14」と記載する。
第1MG36は、3相同期モータであり、エンジン35の始動用モータとしての機能を有する。第1MG36は、エンジン35により駆動される発電機としての機能も有する。この場合、エンジン35からのトルクの少なくとも一部が、動力分割機構50を介して第1MG36の回転軸に伝達される。第1MG36で発生した電力は、第1インバータ37を介してバッテリ51に供給され、バッテリ51が充電される。
第2MG14は、3相同期モータであり、バッテリ51からの電力が供給されて、車両の駆動力を発生する走行用モータとしての機能を有する。第2MG14は、電力回生用の発電機としての機能も有する。第2MG14で発生した電力は、第2インバータ38を介してバッテリ51に供給され、バッテリ51が充電される。
第1MG36及び第2MG14として、3相誘導モータを用いることもできる。第2MG14の構成は、後で詳しく説明する。
第1インバータ37及び第2インバータ38は、それぞれ複数のスイッチング素子を有する。後述の制御装置40から第1及び第2インバータ37,38の一方または両方にトルク指令値に基づく制御信号が入力される。これにより、各インバータ37,38のスイッチング素子のスイッチングが制御される。
バッテリ51と各インバータ37,38との間にDC/DCコンバータ(図示せず)を接続し、バッテリ51の電圧を昇圧して各インバータ37,38に供給してもよい。また、インバータ37,38から供給される電圧を降圧してバッテリ51を充電してもよい。
動力分割機構50は、遊星歯車機構により構成される。動力分割機構50は、エンジン35からの動力を、車輪52に接続された駆動軸53への経路と、第1MG36への経路とに分割する。例えばエンジン35からの動力は、動力分割機構50、減速機57、及び駆動軸53を介して左右の車輪52に伝達される。また、第2MG14からの動力は、減速機57及び駆動軸53を介して左右の車輪52に伝達される。これにより、ハイブリッド車両10は、エンジン35及び第2MG14の少なくとも一方を駆動源として走行する。
制御装置40は、ECUと呼ばれるもので、CPU、メモリ等の記憶部を有するマイクロコンピュータを含んで構成される。制御装置40は、1つに限定するものではなく、複数の構成要素が互いに電気的に接続されて制御部が構成されてもよい。
制御装置40には、アクセルペダルセンサ54(図1)及び車速センサ(図示せず)と、レバー位置センサ55とから、アクセルペダル(図示せず)の操作位置、車速、走行切替レバー56の操作位置を表す検出信号が入力される。
走行切替レバー56は、シフトレバーと呼ばれ、操作によってN位置、D位置、R位置を含む複数の操作位置のいずれか1つへの切替を指示できるように構成される。走行切替レバー56がN位置に操作されることによりNレンジが選択される。Nレンジは、車両10の動力源と車輪52との間の動力伝達経路を遮断する中立レンジである。走行切替レバー56がD位置に操作されることによりDレンジモードが選択される。Dレンジモードは、車両10を前進させる動力が車輪52に伝達される前進走行モードである。走行切替レバー56がR位置に操作されることによりRレンジモードが選択される。Rレンジモードは、車両10を後進させる動力が車輪52に伝達される後進走行モードである。操作部として、走行切替レバー56以外、例えば操作によってD位置、R位置を含む複数の操作位置のいずれか1つへの切替を指示可能に構成されるスイッチまたはダイヤルを用いてもよい。
図1に示すように、制御装置40は、モータ制御部41と、実温度推定部42と、記憶部43とを有する。モータ制御部41は、アクセルペダルセンサ54の検出信号及び車速センサの検出信号から、第2MG14(または第1MG36)のトルク指令値Triを算出する。モータ制御部41は、そのトルク指令値Triに応じて第2インバータ38(または第1インバータ37)のスイッチング素子のスイッチングを制御する。これにより、第2MG14(または第1MG36)の駆動が制御される。車両10は、第2MG14の駆動によって、走行切替レバー56(図2)によって選択された前進方向または後進方向に走行する。実温度推定部42及び記憶部43は、後で説明する。
図3は、第2MG14についての図1のA-A断面と、冷却ユニット25を構成する第1回路D1とを示している。第2MG14は、ケース15の内側に固定されたステータ16と、ステータ16の径方向内側に対向配置されたロータ20とを含む。ケース15は、車体60を構成するフレーム61に、トランスアクスルケース及びマウント装置(図示せず)を介して固定される。トランスアクスルケースは、第1MG36(図2)、第2MG14、及び動力分割機構50(図2)を収容し、第1MG36のケース(図示せず)及び第2MG14のケース15を固定する。トランスアクスルケースには、ケース15を介さずにステータ16が固定されてもよい。
ステータ16は、ステータコア17と、ステータコイル18とを含む。ステータコア17は、環状の磁性体部品であり、外周側に配置される円環状のヨーク17aと、ヨーク17aの内周面から径方向に伸びる複数のティース19とを有する。複数のティース19は、周方向に間隔をあけて配置される。隣り合う2つのティース19の間には溝であるスロット(図示せず)が形成される。ステータコイル18は、複数のティース19に集中巻きまたは分布巻きで巻回された複数相、例えば3相コイルを含んでいる。ステータコイル18において、ステータコア17の軸方向両端から外側に突出した部分により、一対のコイルエンド18aが形成される。
ロータ20は、ケース15に回転可能に支持された回転軸23の軸方向中間部に嵌合固定される。ロータ20は、磁性材製のロータコア21と、ロータコア21の周方向複数位置に埋め込んで配置され、磁化方向が径方向、または径方向に対して傾斜する方向である永久磁石22とを含む。回転軸23は、車両の左右方向(車幅方向)に沿って配置される。
第1MG36(図2)の基本構成は、第2MG14と同様である。図2では、第1MG36の回転軸が車両の前後方向に沿って配置されるように図示されているが、実際には、第2MG14と同様に、第1MG36の回転軸は、車両10の左右方向(図2の上下方向)に沿って配置される。
図1に戻って、冷却ユニット25は、第1冷却部26と、第2冷却部31とを含み、第2MG14のステータコイル18を、第1冷却部26と第2冷却部31とで協調して冷却する。第1冷却部26は、機械式ポンプ27(MOP)を用いてステータコイル18を冷却する。第2冷却部31は、電動式ポンプ32(EOP)を用いてステータコイル18を冷却する。
具体的には、第1冷却部26は、第1冷媒流路28、機械式ポンプ27、及び第1冷媒パイプ29を有する。第1冷媒流路28は、第2MG14のケース15の外部に配置され、ケース15の底部と第1冷媒パイプ29とを、機械式ポンプ27を介して接続する配管である。
機械式ポンプ27は、エンジン35により駆動される。このために、エンジン35の出力軸に固定された駆動プーリP1と、機械式ポンプ27の回転軸に固定された従動プーリP2との間に、ベルトBが掛け渡される。機械式ポンプ27は、ケース15の底部に貯留された冷媒Fを、入口C1から吸引し、出口C2から吐出する。吐出された冷媒は、第1冷媒パイプ29に送られる。機械式ポンプ27は、第1回路D1に冷媒を循環させる。第1回路D1は、第1冷媒流路28、機械式ポンプ27、第1冷媒パイプ29、及び第2MG14の配置空間であるケース15の内部を含んで形成される。
図3に示すように、第1冷媒パイプ29は、ケース15の上端部の内部において、第2MG14のステータ16の鉛直上方で車両の左右方向に沿って配置される。第1冷媒パイプ29は、その両端部の下端に冷媒を下方に噴出させる第1噴出口29aを有する。第1冷媒パイプ29の一端(図3の左端)は塞がれる。第1冷媒パイプ29は、第1噴出口29aのそれぞれから、各コイルエンド18aの上側に向け冷媒を噴出可能とする。これによって噴出した冷媒が流下しながらコイルエンド18aに接触し、ステータコイル18が冷却される。機械式ポンプ27は、第1回路D1に冷媒を循環させることにより、第1噴出口29aから第2MG14に冷媒を噴出させ、ステータコイル18を冷却する。このような機械式ポンプ27は、エンジン35(図1)の駆動時に定常的に駆動される。
一方、図1に示すように、第2冷却部31は、第2冷媒流路33、電動式ポンプ32、及び第2冷媒パイプ34を有する。第2冷媒流路33は、ケース15の外部に配置され、ケース15の底部と第2冷媒パイプ34とを、電動式ポンプ32を介して接続する配管である。
電動式ポンプ32は、電動モータ62により駆動される。電動モータ62は、バッテリ51から電力が供給されることにより駆動される。電動モータ62の起動は、制御装置40により制御される。例えば、後述の温度センサ39の測定温度が第1所定値以上の場合には、電動モータ62が起動され、第1所定値未満、または第1所定値より低い第2所定値以下の場合には、電動モータ62の起動が停止される。電動式ポンプ32は、ケース15の底部に貯留された冷媒Fを、入口C3から吸引し、出口C4から吐出する。吐出された冷媒は、第2冷媒パイプ34に送られる。電動式ポンプ32は、第2回路D2に冷媒を循環させる。第2回路D2は、第2冷媒流路33、電動式ポンプ32、第2冷媒パイプ34、及び第2MG14のケース15の内部を含んで形成される。
第2冷媒パイプ34は、第1冷媒パイプ29と並んで、ケース15の上端部の内部に車両の左右方向に沿って配置される。第2冷媒パイプ34は、その両端部の下端に冷媒を下方に噴出させる第2噴出口34aを有する。第2冷媒パイプ34の一端も第1冷媒パイプ29と同様に塞がれる。第2冷媒パイプ34は、第2噴出口34aのそれぞれから、各コイルエンド18aの上側に向け冷媒を噴出可能とする。これによって、第1冷媒パイプ29の場合と同様に、噴出した冷媒が流下しながらコイルエンド18aに接触し、ステータコイル18が冷却される。電動式ポンプ32は、第2回路D2に冷媒を循環させることにより、第2噴出口34aから第2MG14に冷媒を噴出させ、ステータコイル18を冷却する。このような電動式ポンプ32は、制御装置40により任意のタイミングで起動される。
冷媒として、例えばATF(Automatic transmission fluid)と呼ばれるオイルが用いられるが、冷媒として冷却水を用いてもよい。第1回路D1及び第2回路D2の一方または両方に冷却用熱交換部を設けて、より効果的に冷媒を冷却してもよい。冷却用熱交換部は、外部を流れる空気と内部を流れる冷媒との間で熱交換を行って、冷媒を冷却する。
温度センサ39は、第1及び第2噴出口29a、34aよりも下側で、コイルエンド18aのうち、噴出口29a、34aから噴出した冷媒が接触する位置付近の温度を測定するように配置される。温度センサ39として、例えばサーミスタが用いられる。図1に示すように、第2MG14を回転軸23の軸方向一方側から見た場合に、温度センサ39は、回転軸23よりも車両前側に片寄って設けられる。温度センサ39は、回転軸23よりも車両後側に片寄って設けられてもよく、回転軸23の鉛直下側に設けられてもよい。温度センサ39の測定値を表す信号は、制御装置40に入力される。
第1冷媒パイプ29、第2冷媒パイプ34及び温度センサ39は、第2MG14のケース15を介して車体60に固定される。これにより、車体60の姿勢の向きが水平面上に停止している場合の「所定基準姿勢」から変化した場合には、第1、及び第2冷媒パイプ29,34と温度センサ39の測定部との位置が変化する。
図1では、第2MG14が所定基準姿勢で配置される場合を示している。「所定基準姿勢」は、車両10が水平面上に位置する場合で、乗員が乗っていない静止状態で、設計上車体の傾きがない場合として予め設定される車体姿勢である。この場合、第1及び第2冷媒パイプ29,34から噴出された冷媒は、前後方向(図1の左右方向)に関してほぼ均等にケース15内で流下する。
一方、車両の車体60は、第2MG14のトルクが増大し、加速する傾向となった場合に、図1の左下部に示すように後下がりの後傾状態となり、これに伴って、第2MG14も後傾状態となる。図4は、第2MG14が後傾状態となる様子を示す断面図である。図1の左下で示すように車体が後傾状態となった場合には、図4に示すように、車体に固定されたケース15の姿勢が後下がりに変化し、各冷媒パイプ29,34と温度センサ39との位置が変化する。図4では、所定基準姿勢の場合に対する時計方向の傾斜度を「+α」として示している。
図5は、第2MG14が前下がりの前傾状態となる様子を示す断面図である。車両の車体は、制動等で減速する傾向となった場合に、車体が前傾するように姿勢が変化する。この場合には、図5に示すように、車体に固定されたケース15の姿勢が前下がりに変化し、各冷媒パイプ29,34と温度センサ39との位置が変化する。図5では、所定基準姿勢の場合に対する反時計方向の傾斜度を「-α」として示している。
図1に戻って、制御装置40は、車体60の姿勢の変化と、電動式ポンプ32の起動の有無とに応じて、ステータコイル18の実温度推定に用いる温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)(図6、図7)を変更する。温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)は、所定時間間隔(t2-t1)における温度補正値を示している。
具体的には、図1に示す記憶部43は、第1マップM1、第2マップM2,第3マップM3(図示せず)及び第4マップM4(図示せず)を予め記憶している。第1マップM1及び第2マップM2は、車体60の姿勢の向きが後傾方向の場合の温度補正値を示すマップである。このうち、第1マップM1は、電動式ポンプ32が起動停止の場合(EOP off)の温度補正値を示している。第2マップM2は、電動式ポンプ32が起動中の場合(EOP on)の温度補正値を示している。一方、第3マップM3及び第4マップM4は、車体の姿勢の向きが前傾方向の場合の温度補正値を示すマップである。第3マップM3及び第4マップM4は、後で説明する。
図6は、第1マップM1を示している。第1マップM1は、予め設定された所定時間間隔(t2-t1)における温度センサ39の測定温度の変化値(・・・-2℃、-1℃、0℃、1℃、2℃・・・)及び第2MG14のトルク指令値Tri(=A1,A2,A3・・・)と、予め設定された温度補正値ΔAn(t2-t1)との関係を定める。トルク指令値Triとして、正の値のみが設定される。第1マップM1において、トルク指令値と測定温度変化値との一方または両方が異なる、2つの温度補正値ΔAn(t2-t1)の数値自体は同じであっても、異なっていてもよい。
第1マップM1では、予め行った実験等によって、予め規定された複数の所定時間間隔(t2-t1)での温度センサ39の測定温度の変化値と、第2MG14のトルク指令値Triとに対応する温度補正値ΔAn(t2-t1)が設定される。
図7は、第2マップM2を示している。第2マップM2は、温度補正値ΔAn(t2-t1)の代わりに、温度補正値ΔBn(t2-t1)が規定される。第2マップM2のトルク指令値Tri(=B1,B2,B3・・・)は、図5、図6のマップの上の欄から順に、第1マップM1のトルク指令値Tri(=A1,A2,A3・・・)のそれぞれと同じ値である。第2マップM2でも第1マップM1と同様に、トルク指令値Triとして、正の値のみが設定される。第2マップM2において、トルク指令値と測定温度変化値との一方または両方が異なる、2つのΔBn(t2-t1)の数値自体は同じであっても、異なっていてもよい。
第1マップM1と第2マップM2とにおいて、2つの温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)の一部の数値自体は同じであってもよい。各温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)は正の値だけでなく、負の値または0になる場合もある。第1マップM1及び第2マップM2は、車両の種類に応じて変更してもよい。
温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)は、所定時間間隔(t2-t1)において、第2MG14のコイルエンド18aの実温度Tcoilから温度センサ39の測定温度Tthmを差し引いた値(Tcoil-Tthm)の増減分である。
一方、図示は省略するが、記憶部43(図1)には、車体の姿勢が前傾状態の場合の第3マップM3及び第4マップM4も記憶されている。第3マップM3は、図6に示した第1マップM1と同様に、電動式ポンプ32が起動停止の場合のマップであるが、前傾状態に対応する温度補正値となるように設定されている。第4マップM4は、図7に示した第2マップM2と同様に、電動式ポンプ32の起動中の場合のマップであるが、前傾状態に対応する温度補正値となるように設定されている。第3及び第4マップM3,M4では、トルク指令値Triとして、負の値のみが設定される。第2MG14のトルク指令値は、車体の姿勢の向きに対応する。
制御装置40の実温度推定部42は、車体60の姿勢の向きに対応する第2MG14のトルク指令値Triと、電動式ポンプ32の起動の有無を表す情報とを取得する。そして、実温度推定部42は、トルク指令値及び電動式ポンプ32の起動の有無に応じて、温度補正値を変更して、ステータコイル18の実温度を推定する。具体的には、実温度推定部42は、モータ制御部41で算出された第2MG14のトルク指令値Triを取得する。トルク指令値Triが正の値となる場合には、図1の左下で示すように、車両の加速が大きくなる。この場合には、後側の車輪を支持するサスペンション装置のバネが縮んで車体60が後傾する。この後傾の程度はトルクが正方向に大きくなるほど大きくなる傾向となる。実温度推定部42は、トルク指令値Triが車体60の後傾を表す正の値となる場合に、後傾用の第1マップM1または第2マップM2を選択する。
また、電動式ポンプ32が起動中である場合には、第2噴出口34aから冷媒が第2MG14に噴出されるので、第2MG14のステータコイル18の温度が低下しやすい。一方、電動式ポンプ32が起動停止中の場合には、第2噴出口34aからの冷媒の噴出が停止されるので、第2MG14のステータコイル18の温度が上昇しやすい。実温度推定部42は、このことが温度センサ39の測定温度の温度補正値に与える影響を反映させるために、電動式ポンプ32の起動の有無に応じて選択するマップを切り換える。具体的には、電動式ポンプ32が起動停止の場合は第1マップM1が選択され、電動式ポンプ32が起動中の場合は第2マップM2が選択される。第2マップM2の温度補正値は、全体として、第1マップM1の温度補正値より小さい。例えば、時間間隔(t2-t1)における温度センサ39の測定温度の変化値が0であり、トルク指令値Triが同じA1、B1の場合の第2マップM2の温度補正値ΔB1(0)は、第1マップM1の温度補正値ΔA1(0)より小さい。
実温度推定部42は、トルク指令値Triが正の値であり、電動式ポンプ32が起動停止の場合に、第1マップM1のデータを参照して、トルク指令値Triと、単位時間間隔(t2-t1)での温度センサ39の測定温度の変化値とから温度補正値ΔAn(t2-t1)を算出する。一方、実温度推定部42は、トルク指令値Triが正の値であり、電動式ポンプ32が起動中の場合には、第2マップM2のデータを参照して、トルク指令値Triと、単位時間間隔(t2-t1)での温度センサ39の測定温度の変化値とから温度補正値ΔBn(t2-t1)を算出する。
一方、トルク指令値Triが負の値となる場合には、車両の後方への加速が大きくなるか、または減速度が高くなる。この場合には、前側の車輪を支持するサスペンション装置のバネが縮んで車体が前傾する。この前傾の程度はトルクが負方向に大きくなるほど大きくなる傾向となる。実温度推定部42は、トルク指令値Triが車体60の前傾を表す負の値となる場合に、前傾用の第3マップM3または第4マップを選択する。また、実温度推定部42は、電動式ポンプ32が起動停止の場合は第3マップM3を選択し、電動式ポンプ32が起動中の場合は第4マップM4を選択する。
実温度推定部42は、算出された温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)と温度センサ39の測定温度Tthmとを用いて、ステータコイル18の実温度推定値Tcestを算出する。これによって、ステータコイル18の実温度が推定される。
この場合、実温度推定部42は、今回の時間間隔(t2-t1)で求めた1つまたは複数の温度補正値ΔAn(t2-t1)、ΔBn(t2-t1)の総和を、測定温度Tthmに足し合わせることで、実温度推定値Tcestを算出する。具体的には、実温度推定値Tcestは、次式により求められる。
Tcest=Tthm+Σ(ΔAn(t2-t1),ΔBn(t2-t1))+Tia ・・・(1)
ここで、Σ(ΔAn(t2-t1),ΔBn(t2-t1))は温度補正値ΔAn(t2-t1),ΔBn(t2-t1)の総和を表している。Tiaは、測定初期時点での第2MG14のステータコイル18の実温度と推定温度との差である初期乖離温度を表している。「初期乖離温度」は、車両の種類に応じて予め設定される。例えば車両の空車重量に応じて初期乖離温度を変えることもできる。初期乖離温度Tiaは0として設定してもよい。初期乖離温度はある所定条件が成立した時点から、(1)式の計算に追加してもよい。
さらに、図6、図7のマップで設定されていない測定温度変化量とトルクTriとに対応する温度補正値は、その両側の測定温度変化量、またはその両側のトルクTriから、線形補間により算出することができる。
上記の温度推定システム12を用いて第2MG14の実温度を推定する方法は次のようにして行う。図8は、温度推定システム12を用いたコイル実温度の推定方法を示すフローチャートである。このフローチャートは制御装置40に記憶されたプログラムの実行により行われてもよい。ステップS1(以下、ステップSは単にSと記載する。)において、実温度推定部42は、第2MG14のトルク指令値Triが0Nmより大きいか否かを判定し、0Nmより大きい場合、すなわちS1の判定結果が肯定(YES)の場合にはS2に移行する。
S2では、実温度推定部42は、電動式ポンプ32が起動中か(EOP_ONか)否かを判定する。S2の判定結果が否定(NO)の場合には、S3で第1マップM1を選択して参照し、S4で車体の所定基準姿勢におけるステータコイル18の実温度を推定する。
この場合、例えば予め設定された所定時間間隔おきの時間t1、t2(t1<t2)で、温度センサ39により測定されたステータコイル18の測定温度T1、T2を取得し、温度センサ39の測定温度の変化値(T2-T1)を求める。
実温度推定部42は、時間t2での第2MG14のトルク指令値Triと、温度センサ39の測定温度の変化値(T2-T1)とに基づいて、記憶部43に記憶された第1マップM1のデータを参照しつつ温度補正値ΔAn(t2-t1)を取得する。実温度推定部42は、この温度補正値ΔAn(t2-t1)を用いて、時間t2における測定温度Tthm(=T2)を補正する。そして、実温度推定部42は、上記の(1)式を用いて実温度推定値Tcestを算出する。S4の処理が終了した場合には、S1に戻る。
一方、S2の判定結果が肯定(YES)の場合には、S5で第2マップM2を選択して参照し、S4で車体の所定基準姿勢におけるステータコイル18の実温度を推定する。この場合の実温度の算出方法は、第2マップM2を用いることが異なるだけで第1マップM1を選択した場合と同様である。
一方、S1において、第2MG14のトルク指令値Triが0Nm以下の場合、すなわちS1の判定結果が否定(NO)の場合にはS6に移行する。
S6では、実温度推定部42は、電動式ポンプ32が起動中か(EOP_ONか)否かを判定する。S6の判定結果が否定(NO)の場合には、S7で第3マップM3を選択して参照し、S4で車体の所定基準姿勢におけるステータコイル18の実温度を推定する。この場合の実温度の算出方法は、第3マップM3を用いることが異なるだけで第1マップM1を選択した場合と同様である。
一方、S6の判定結果が肯定(YES)の場合には、S8で第4マップM4を選択して参照し、S4で車体の所定基準姿勢におけるステータコイル18の実温度を推定する。この場合の実温度の算出方法は、第4マップM4を用いることが異なるだけで第1マップM1を選択した場合と同様である。
上記の温度推定システム12によれば、車体60の姿勢の向きを表す取得値の変化と、電動式ポンプ32の起動の有無とに応じて温度補正値が変更される。これにより、車体60が傾斜する場合に電動式ポンプ32の起動の有無に関係なくステータコイル18の実温度の推定精度を向上できる。このため、機械式ポンプ27及び電動式ポンプ32を用いてステータコイル18を冷却する場合におけるステータコイル18の温度推定精度を向上できる。推定されたステータコイル18の実温度は、制御装置40により、第2MG14の出力を制御するために利用される。
図9は、実施形態において、電動式ポンプ32の駆動の有無に関係なく、ステータコイル18の温度の推定精度を高くできる効果を説明するための、温度センサ39の測定温度、ステータコイルの実温度及び推定温度の関係を示す図である。図9では、温度センサ39の測定温度Tthmと、第2MG14のステータコイル18の実温度Tcoilと、ステータコイル18の実温度推定値Tcestとの時間的変化の1例を示している。図9では、測定開始からの前半時間において、電動式ポンプ32の起動が停止されている、すなわちEOP_onフラグが0である。この場合には、第1マップM1を用いてステータコイル18の実温度推定値Tcestが推定される。このとき、図8に示すように、実温度推定値Tcestとステータコイル18の実温度Tcoilとは、ほぼ一致している。
さらに、測定開始からの後半時間において、電動式ポンプ32が起動中となる、すなわちEOP_onフラグが1となる。この場合には、ステータコイル18が冷媒により冷却されやすいので、温度センサ39の測定温度Tthmと、第2MG14のステータコイル18の実温度Tcoilとの両方が徐々に低下する。このときには、電動式ポンプ32が起動中の第2マップM2を用いて、ステータコイル18の実温度推定値Tcestが推定される。この場合には、図8に示すように、実温度推定値Tcestとステータコイル18の実温度Tcoilとが若干離れるが、かなり近くなっている(温度差小)。
一方、図9の一点鎖線βは、電動式ポンプ32の起動の有無で温度補正値のマップを変更しない比較例における、ステータコイル18の実温度推定値を示している。この比較例では、電動式ポンプ32の起動停止の場合には、実温度推定値Tcestとステータコイル18の実温度Tcoilとがかなり一致しているが、電動式ポンプ32の起動後には、この起動による冷媒流れの変化が温度補正値に反映されていない。これにより、実温度推定値Tcestとステータコイル18の実温度Tcoilとの差がかなり大きくなる(温度差大)。
上記のように、実施形態では、機械式ポンプ27及び電動式ポンプ32を用いてステータコイル18を冷却する場合におけるステータコイル18の温度推定精度を向上できる。例えば、図7の第2マップM2を用いる場合には、温度補正値は、全体として、図6の第1マップM1を用いる場合より小さい。これにより、第2マップM2を用いることで、温度センサ39の測定温度Tthmに加算する温度補正値が小さくなる。このため、実温度推定値Tcestが、ステータコイル18の実温度Tcoilより上側に大きくずれることを防止できる。したがって、図8に示すように実温度推定値Tcestとステータコイル18の実温度Tcoilとを近くでき、温度推定精度の向上を図れる。
図10は、実施形態の別例の温度推定システムを用いたコイル実温度の推定方法を示すフローチャートである。本例の場合、図1、図2を参照して、実温度推定部42は、走行切替レバー56の操作位置の検出値を取得する。実温度推定部42は、車体の姿勢の向きが後傾方向か前傾方向かを表す取得値として、走行切替レバー56の操作位置の検出値をレバー位置センサ55から取得する。実温度推定部42は、この操作位置の変化と、電動式ポンプ32の起動の有無とに応じて、記憶部43で記憶された第1~第4マップM1~M4から1つのマップを選択することで温度補正値を変更する。例えば、走行切替レバー56の操作位置の検出値が車両の後進走行を指示するR位置であり、電動式ポンプ32が停止されている場合には、実温度推定部42は、記憶部43に記憶されたマップから前傾用の第3マップM3(または第4マップM4)を選択する。さらに、実温度推定部42は、電動式ポンプ32の起動の有無に応じて、第3マップM3または第4マップM4を選択する。一方、走行切替レバー56の操作位置の検出値がR位置以外の場合、例えば車両の前進走行を指示するD位置である場合には、実温度推定部42は、記憶部43に記憶されたマップから後傾用の第1マップM1(または第2マップM2)を選択する。さらに、実温度推定部42は、電動式ポンプ32の起動の有無に応じて、第1マップM1または第2マップM2を選択する。
実温度推定部42は、選択されたマップのデータを参照して、トルク指令値と温度センサ39の測定温度の変化値とから温度補正値を算出し、測定温度と温度補正値とを用いて、ステータコイル18の実温度推定値Tcestを算出し、実温度を推定する。
図10では、S1aにおいて、実温度推定部42は、走行切替レバー56の操作位置の検出値がR位置か否かを判定し、R位置である、すなわち、S1aの判定結果が肯定(YES)の場合にはS6aで、電動式ポンプ32が起動中か否かが判定される。一方、S1aにおいて、走行切替レバー56の操作位置の検出値がR位置ではない、すなわち、S1aの判定結果が否定(NO)の場合にはS2aで、電動式ポンプ32が起動中か否かが判定される。S2a~S8aの処理は、図8のS2~S8の処理と同様である。
上記の構成の場合も、図1から図9の構成と同様に、車体が傾斜する場合に電動式ポンプ32の起動の有無に関係なくステータコイル18の実温度の推定精度を向上できる。その他の構成及び作用は、図1から図8の構成と同様である。
なお、上記の各例の構成において、電動式ポンプのオンデューティを制御することで、ATF等の冷媒の吐出流量を変化させることもできる。この場合に、電動式ポンプの起動の有無に応じて温度補正値を表すマップを切り換えるだけでなく、電動式ポンプの起動時のマップとして、オンデューティの変化に対応した温度補正値を表す複数のマップを記憶部に記憶させることもできる。実温度推定部42は、この複数のマップを用いてステータコイルの実温度を推定する。この構成では、冷媒吐出流量の変化に応じてステータから冷媒に移動する熱量に変化が生じることを利用して、ステータコイルの実温度の推定精度をさらに高くすることができる。
また、上記の各例の構成では、温度センサ39の値とトルク指令値とを変数としてステータコイル18の温度補正値を取得する2次元推定マップを用いている。一方、上記の各例の構成において、ATF等の冷媒の温度が冷媒温度センサにより測定できる場合には、2次元推定マップに加え、冷媒の温度を変数に加えた3次元推定マップを用いて温度補正値を取得してもよい。この構成では、冷媒の温度とステータコイル18との温度差によって、ステータコイル18から冷媒に移動する熱量に変化が生じることを利用して、ステータコイルの実温度の推定精度をさらに高くすることができる。
また、上記の各実施形態において、実温度推定部42は、マップを用いずに、車体60の姿勢の向きを表す取得値と、電動式ポンプ32の起動の有無とに応じて、異なる複数の関係式のいずれか1を選択し、選択した関係式から温度補正値を算出してもよい。関係式は、トルク値、電動式ポンプ32の起動の有無、温度センサ39の測定温度の変化量、及び温度補正値の関係を規定する。
また、上記では、車両の車体の姿勢の変化に応じて異なるマップを用いる場合を説明した。一方、車体の姿勢の変化の影響を無視できるのであれば、電動式ポンプ32の起動の有無に応じて第1マップ及び第2マップのいずれかを選択して温度補正値を算出することもできる。この場合も、機械式ポンプ及び電動式ポンプを用いてステータコイルを冷却する場合におけるステータコイルの温度推定精度を向上できる。