JP7029123B2 - Si-tag融合異種酵素とメソポーラスシリカとの複合体 - Google Patents

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Description

本発明は、シリカ結合タンパク質(Si-tag)を介したタンパク質固定化方法を利用する複数の異種酵素による共役酵素反応(同時にもしくは順次に共役して行われる酵素反応)の促進技術に関する。更に詳しくは、2種類以上の異種酵素とメソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)とを複合体化する際に、少なくとも1種の酵素をSi-tag又はその断片に融合することによる、酵素反応効率が高く、安定性の高い複合体の形成方法、及び当該複合体を用いた高効率かつ持続的な共役酵素反応技術に関するものである。
生体触媒である酵素を利用した低環境負荷型の物質変換プロセスとして、生成物と酵素の分離、酵素の再利用等に向けた様々な固定化支持体の研究・開発が国内外で精力的に進められている。また、固定化酵素を利用した反応系は、医薬品等の機能性化学品の高効率生産の他、バイオセンサーやバイオ燃料電池等への利用法が提案されている(非特許文献1)。
従来の固定化酵素に関する基礎研究では主に1種類の酵素が使用されてきたが、近年、2種類以上の酵素を用いた複雑な反応経路、すなわち、生体模倣反応を利用した反応システムの構築が、バイオ技術分野における触媒反応等の化学反応プロセスへの応用に期待されている(非特許文献2、3、4)。
しかし、複数の酵素を同時に利用する場合、酵素間の凝集体形成により酵素が失活し、反応が阻害されることが多い。
そこで、真の生体模倣反応を実現するための技術的ブレーク・スルーとして、本発明者らは、シリカ系ナノ空孔材料(メソポーラスシリカ)の規則性細孔の内部に酵素やタンパク質を格納することで複数の異種酵素・タンパク質の高次構造を安定に保持した状態で高密度に配列化することによって、多段階反応の効率化を図る手法を開発している(特許文献1、非特許文献5、6)。しかし、反応率の向上は大きな課題であり、繰り返し耐久性(再利用性)の改善は未だ達成できていない。
本発明者らは、最近本手法を、巨大なサブユニット構造を有するグルコースオキシダーゼ(二量体、分子量:約190kDa)とカタラーゼ(四量体、分子量:約240kDa)とのグルコースの酸化反応に適用したところ、カタラーゼによる中間副反応物(過酸化水素)の分解効率が高まったことが見いだされ、共役酵素反応における異種酵素の集積効果は確認できた(非特許文献7)。しかし、グルコースオキシダーゼによる最終目的物であるグルコノラクトンの生産収率は、未固定の遊離酵素と比較すると極めて低いものであった。このように、特に巨大なサブユニット構造又は多量体構造をとる2種以上の異種の酵素又はタンパク質の場合、メソポーラスシリカの細孔内部に高密度に安定的に配列化して複数の協調的な共役酵素反応を同時に起こさせることは実用的なレベルに達するまでには至っていない。
一方、異種酵素利用における共役酵素反応の一つに補酵素(酵素駆動のエネルギー源)の再生系が挙げられ、例えば、カルボニル還元酵素とグルコース脱水素酵素の組み合わせによる光学活性アルコール合成の高効率化の可能性が示唆されている(非特許文献8)。
この補酵素再生系は、医農薬中間体などの高付加価値化学品の高生産プロセスへの応用が検討されているが、酵素の安定性や再利用性、また、補酵素の再生率に課題が残されており、実用化に至っていない。
したがって、複数の異種酵素を用いた共役酵素反応において、異種酵素間の凝集を防止して、固定化支持体に固定化した状態の酵素の活性低下を極力抑制し、高効率で安定的に共役酵素反応を行わせることができること、さらには反応中であっても固定化支持体からの酵素の脱離を抑制し、繰り返し利用できるような、異種酵素の集積反応場の開発・提供が強く要請されていた。
特許第5164039号公報 特許第5186689号公報
Carlsson, N., et al., Adv. Colloid Interface Sci. 205, 339-360(2014) 戸田敬志ら、多孔質シリカ粒子上への酵素集積化とバイオプロセスへの応用、第64回日本生物工学会大会講演要旨集(2012年10月24日) Fu, J., et al., J. Am. Chem. Soc. 134, 5516-5519(2012) Ngo, T. A., et al., J. Am. Chem. Soc. 138, 3012-3021(2016) Matsuura, S., et al., Bioconjugate Chem. 19, 10-14(2008) Matsuura, S., et al., Chem. Commun. 46, 2941-2943(2010) 松浦俊一ら、メソポーラス材料を足場とした異種酵素の集積反応場の構築、第66回日本生物工学会大会講演要旨集(2014年9月9日) Zhou, X., et al., Process Biochem. 50, 1807-1813(2015)
本発明は、本発明者らが以前に開発したメソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)へ複数の異種酵素・タンパク質を複合化させる手法(特許文献1、非特許文献5、6、7)を改良して、メソポーラスシリカの細孔内へ共役酵素反応に関わる複数の異種酵素(酵素A及び酵素Bとも称する。なお、「酵素A」及び「酵素B」には特別な意味はなく、両者が異種酵素であることと共に、本発明の対象の共役酵素反応に関与する2種以上の異種酵素のうちの主要な酵素であることを示す用語として用いている。例えば還元酵素および脱水素酵素。)を安定に配置・集積化し、酵素機能を連動して発現させ共役酵素反応を起こさせることによって、高度な生体模倣反応による新しい反応場・化学反応システムを提供するものである。
具体的には、複数の異種酵素である酵素A及び酵素B(例えばアゾ還元酵素とグルコース脱水素酵素)と、メソポーラスシリカとの複合体を用いた共役酵素反応において、共役酵素反応環境を整えることで、共役酵素反応中に双方の酵素と相互作用する各種反応基質(例えばメチルレッドおよびグルコース)および補酵素(例えば還元型NAD(P)H及び酸化型NAD(P))に影響を与えることなく、異種酵素の非特異的相互作用による凝集体形成等に起因する酵素の活性低下を極力抑制し、かつ高い反応効率を達成できる共役酵素反応システムを提供することにある。あわせて、当該共役酵素反応システムに用いるための改良された異種酵素-メソポーラスシリカ複合体の製造方法も提供する。
また、さらに、酵素周辺における反応基質濃度の至適化を極限まで高めた共役酵素反応技術を提供すること、そして高効率かつ持続的な酵素反応場を実現し、かつより効率的に酵素の繰り返し再利用を行わせるための技術を提供することも本発明の目的とする。
また、還元酵素を用いるものではないが、脱炭酸酵素と脱水素酵素を組み合わせた共役酵素反応系として、例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素によるカスケード反応は、将来的には、微生物のアルコール発酵を模倣したカスケード反応によるアルコール製造への利用が期待できる。さらに、酵素反応プロセスによる有用物質生産に用いるものではないが、カルボキシル化反応を触媒する酵素であるカルボキシラーゼと脱水素酵素を組み合わせた共役酵素反応系は、血液成分中の二酸化炭素濃度を高感度に測定する反応として有用である。
しかし、前記の脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼは、生体内における機能評価については広範に研究が行われているものの、酸化還元酵素と比較すると、産業利用に向けた研究開発例は極めて少ない。
そのため、高効率の物質生産や成分測定キット、バイオセンサー等としての利用に向けた、脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼの実行可能性の評価は重要であると考えられる。
そこで、異種酵素を用いるものではないが、反応基質の脱炭酸反応とカルボキシル化反応の双方の触媒能を有し、単独酵素でありながら脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼ両者のモデル酵素として、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)に着目し、メソポーラスシリカの規則性細孔を利用したGADの反応性及び再利用性の向上技術の開発に取り組んだ。
本発明者らは、以前開発した異種タンパク質とメソポーラスシリカとの複合体の製造方法(特許文献1、非特許文献5、6、7)の手法を共役酵素反応に関わる複数の異種酵素に適用し、メソポーラスシリカの細孔内部に近接した状態に固定化し、異種酵素同士の共役酵素反応を効率的に起こさせることを想起した。
しかし、一般に有用な共役酵素反応に関わる異種酵素は、巨大なサブユニット構造又は多量体構造をとっているため、それぞれのサイズが大きく、異種酵素を細孔内に近接した状態に固定化することには困難が予想された。実際に共役的なカスケード反応によりグルコノラクトンを合成する多量体のグルコースオキシダーゼとカタラーゼを順次細孔へ固定化させた非特許文献7では、両酵素の集積化には成功し中間副反応物(過酸化水素)の分解効率は向上できたものの、最終目的物(グルコノラクトン)の生産収率は遊離酵素の場合よりも低い結果となっていた。
そこで、本発明者らは、巨大なサブユニット構造をとる異種酵素であってもメソポーラスシリカの細孔内部に立体構造を安定に保持した状態で固定化するための固定化手段を種々検討する中で、本発明者らが以前に開発したシリカ結合タンパク質(Si-tag)を介したタンパク質の固定化方法(特許文献2、非特許文献2)を活用することを思いついた。
具体的には、本発明者らが以前に開発したシリカ結合タンパク質(Si-tag)を介したタンパク質の固定化方法(特許文献2、非特許文献2)を、典型的な補酵素再生系を利用する共役酵素反応である難分解性化学染料(アゾ染料:メチルレッド)の分解反応に適用することを試みた。アゾ染料の分解には、物質変換反応を触媒するアゾ還元酵素(AzoR)と本酵素を持続的に駆動させるための補酵素(酵素のエネルギー源)の再生を担うグルコース脱水素酵素(GDH)との組み合わせによる異種酵素の集積反応場を構築し、高効率かつ持続的な分解反応を起こさせることが必要となる。すなわち、メソポーラスシリカの細孔内部に二量体のAzoRと四量体のGDHとを立体構造を保持したまま近接した状態で安定的に固定化することで、AzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体を形成させなくてはならない。
当該物質変換反応のみならず、本発明が対象とする共役酵素反応に関与する異種酵素は、サブユニット構造などで多量体化したバルキーな酵素が多いので、前記四量体のGDHがメソポーラスシリカ細孔内のAzoRと近接した位置に高次構造を保持したまま安定かつ高密度に固定化できるか否かを検討することは、他の共役酵素反応に関与する異種酵素の安定な固定化の優れたモデルとなると考えられる。
本発明者らは、以前にピルビン酸キナーゼ(PK)及び乳酸脱水素酵素(LDH)をSi-tagを介して多孔質シリカ粒子(多孔状球状シリカゲル充填剤)上に固定化し、2段階の酵素反応を連続して起こさせることに成功している(非特許文献2)。その際、Si-tag融合LDHについては、未固定の状態と比較したところ、固定化に伴う活性低下がみられず、連続反応での反応効率も、別々に固定化した粒子を混合した場合と比較すると高い反応効率を示した。これは、両酵素同士が空間的に集積化・近接化できたことで、生成物/基質の受け渡しがスムーズに起こったものと考えられるので、本発明のメソポーラスシリカ細孔内においても、両酵素が固定化できれば、同様に共役する酵素反応の効率化が期待できる。
しかしながら、非特許文献2で用いた多孔状球状シリカゲル充填剤は、同図1(Nucleosil 500-5(平均細孔径:50nm))に示されるように細孔径が制御されておらず、細孔径の分布がブロードであるのに対して、本発明者らの開発したメソポーラスシリカは中心細孔直径が典型的には10nm以下という微細な細孔が規則的に形成されたシリカ粒子である。Si-tagはおよそ30kDaの分子量を有する上に、サブユニット構造を有する多量体の酵素(AzoR:二量体、又はGDH:四量体)の場合、各サブユニットにSi-tagを融合した多量体酵素-Si-tag複合体は本来の酵素の分子サイズより遙かに大きくなる。このような背景から、複数のSi-tag複合体化した共役酵素反応を担う異種酵素同士が、メソポーラスシリカの微細な規則性細孔の内部で、相互作用を行えるように高次構造を安定に保持した状態での高密度の格納には、かなりの困難性を伴うことが予想された。
本発明者らが最初にモデル的な共役酵素反応として選択した、AzoR酵素とGDH酵素との補酵素再生系反応においては、とりわけ四量体のGDHの場合が、各サブユニットのそれぞれにSi-tagが付加されると、極めてバルキーな三次、四次構造となるため、その高次構造を保ったままでの細孔内への固定化自体が難しいと考えた。
そこで、本発明者らは、両酵素のSi-tag融合体を用いるのではなく、AzoRのみをSi-tagに融合させたSi-tag融合AzoRを、未融合のGDHと共にメソポーラスシリカに固定化処理を行いAzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を形成させてメチルレッドの分解反応に供してみた。その結果、両酵素を遊離状態で反応させた場合と比較しても、脱色率(分解効率)が飛躍的に高いという驚くべき結果が得られた。これは、異種酵素のうちの一方のAzoRだけでもSi-tagを介してメソポーラスシリカ細孔内に結合できたことで、AzoRとGDHとの凝集失活が抑制されたことによるものと考えられる。しかし、当該酵素複合体の再利用性は確保できなかったことから、Si-tag未融合のGDHがメソポーラスシリカの細孔表面から脱離してしまったことが考えられた。
四量体で酵素サイズが大きいGDHの場合は、全長Si-tagではなく、シリカ結合性ドメインを含むN末側又はC末側断片との融合を検討することにした。従来、N末側及びC末側ドメインがSi-tagのシリカ結合性ドメインであり、両ドメインに対応するN末側又はC末側断片であってもシリカ表面への結合性を有していることは知られていたが、全長Si-tagと比較した場合に融合させたタンパク質の結合性がきわめて低いという結果も得られていた(特許文献2)。したがって、大きな期待はできなかったものの、全長Si-tagよりも格段にサイズが小さいという利点を生かせる可能性に賭けて、Si-tagのC末側断片を融合させた場合を念のため試してみることにした。
具体的には、Si-tag融合AzoRと共に、Si-tagのC末端側(203~273位)断片を融合したGDHをメソポーラスシリカに固定化して、Si-tag融合AzoR-Si-tag-CT71融合GDH-メソポーラスシリカ複合体を形成させた(なお、単に、AzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体と表記することもある。)。
そして、当該複合体を用いてメチルレッドの分解反応を行ったところ、驚くべきことに、Si-tag融合AzoRと未融合のGDHを用いた前記の結果よりもさらに高い分解効率が達成できたばかりか、繰り返し使用しても酵素活性の低下が抑えられ、再利用性の向上にも成功した。このことは、当該酵素複合体の場合は、Si-tag融合AzoRと同様Si-tag-CT71融合GDHについても、メソポーラスシリカの細孔表面からの脱離がほとんど起こらないと解される。
一方、Si-tagを介したタンパク質の一般的な固定化方法(特許文献2)では、塩と界面活性剤の添加によりシリカに対するタンパク質の結合能が向上できることが知られているが、本発明のような酵素反応系においては、高塩濃度条件下では、しばしば酵素活性が低下する場合が一般的であるため、上述の異種酵素の固定化および洗浄時には塩や界面活性剤を添加することを控えて行った。
次いで、本発明者らは各酵素のメソポーラスシリカへの固定化条件を変えることで固定化率の向上効果と酵素反応効率の向上効果の両方が得られる可能性を検討することとした。まず積極的に塩(塩化ナトリウム)と界面活性剤(Tween20)を含んだ緩衝液を用いて、Si-tag融合AzoR-Si-tag-CT71融合GDH-メソポーラスシリカ複合体を確実に形成させた後に、当該複合体を含む系から塩及び界面活性剤をほぼ完全に除去した。その後、系にグルコースとメチルレッドを加えてメチルレッド分解反応を行ったところ、驚くべきことに、酵素の反応速度が飛躍的に向上し、さらに、再利用性も一段と高まる、という実験結果を得ることができた。
あわせて、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)についても、Si-tagのN末端側(1~60位)断片を融合し本発明のメソポーラスシリカの規則性細孔に固定化した、Si-tag-NT60融合GAD-メソポーラスシリカ複合体を利用することで、反応性の大幅な向上と共に再利用性の飛躍的な向上を達成できた。
以上の知見を得たことで、本発明を完成することができた。
さらに、異種酵素の組み合わせとして、カルボニル還元酵素(RCR)及びソルビトール脱水素酵素(SDH)の組み合わせ、並びにDT-ジアホラーゼ(DTD)及びソルビトール脱水素酵素(SDH)の組み合わせに適用した場合においても、Si-tag又はその断片を介したメソポーラスシリカ複合体を用いて共役酵素反応を起こさせたところ、同様の反応性増強及び再利用性向上効果を確認できた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 共役酵素反応に関わる複数の異種酵素のうち少なくとも酵素A及び酵素Bがそれぞれメソポーラスシリカに固定化されている複合体であって、
前記酵素A及び酵素Bのうち少なくとも一方の酵素にはSi-tag、又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片が化学的に結合されており、かつ当該Si-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカと結合している、酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔2〕 共役酵素反応が、補酵素再生系を利用する酸化還元反応であり、酵素A及び酵素Bが、還元酵素及び脱水素酵素である、前記〔1〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔3〕 補酵素再生系がNADH又はNADPHを利用する系であって、
還元酵素がアゾ還元酵素(AzoR)、カルボニル還元酵素(CR)、イミン還元酵素(IR)、エノン還元酵素(ER)、アルドース還元酵素(AR)、キシロース還元酵素(XR)、DT-ジアホラーゼ(DTD)から選択されたいずれか1つの酵素であり、
脱水素酵素がグルコース脱水素酵素(GDH)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)、フルクトース脱水素酵素(FDH)、アルコール脱水素酵素(ADH)、ギ酸脱水素酵素(FDH)、乳酸脱水素酵素(LDH)、ソルビトール脱水素酵素(SDH)、グリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、キシリトール脱水素酵素(XDH)から選択されたいずれか1つの酵素である、前記〔2〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔4〕 還元酵素及び脱水素酵素の組み合せがアゾ還元酵素(AzoR)及びグルコース脱水素酵素(GDH)であって、
AzoRの各サブユニットにはSi-tagが結合し、GDHの各サブユニットにはSi-tagのC末側断片が結合しており、かつ当該Si-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカと結合している、前記〔3〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔5〕 還元酵素及び脱水素酵素の組み合せがカルボニル還元酵素(CR)及びグルコース脱水素酵素(GDH)又はソルビトール脱水素酵素(SDH)であって、
CR、GDH又はSDHの各サブユニットにはSi-tagのC末側断片又はN末側断片が結合しており、かつ当該Si-tagの断片の側でメソポーラスシリカと結合している、前記〔3〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔6〕 共役酵素反応がATP再生系を利用する反応であり、酵素A及び酵素Bの組み合わせが、ATP要求性酵素及びキナーゼであって、
ATP要求性酵素が、リガーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、キナーゼ、ルシフェラーゼから選択されたいずれか1つの酵素であり、
キナーゼが、クレアチンキナーゼ(CK)、ピルビン酸キナーゼ(PK)、酢酸キナーゼ(AK)、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(AK)から選択されたいずれか1つの酵素である、前記〔1〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔7〕 共役酵素反応がカスケード反応であり、酵素A及び酵素Bの組み合わせが、以下の(a)~(i)から選択されたいずれか一組の組合せである、前記〔1〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体;
(a)ピルビン酸キナーゼ(PK)と乳酸脱水素酵素(LDH)、
(b)アルドース還元酵素(AR)とソルビトール脱水素酵素(SDH)、
(c)グリセロールキナーゼ(GK)とグリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、
(d)ピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素(ADH)、
(e)ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)とリンゴ酸脱水素酵素(MDH)、
(f)キシロース還元酵素(XR)とキシリトール脱水素酵素(XDH)、
(g)乳酸脱水素酵素(LDH)とピルビン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼから選択されたいずれか1つの酸化酵素、
(h)グルタミナーゼとグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、
(i)グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)とγ-アミノブチルアルデヒド脱水素酵素(ABALDH)、及び
(j)グルコースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、グルタミン酸オキシダーゼから選択されたいずれか1つの酸化酵素とペルオキシダーゼ及びカタラーゼから選択されたいずれか1つのヒドロペルオキシダーゼ。
〔8〕 Si-tagが、配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその1~20個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質であり、
Si-tagのN末側断片が、配列番号2に示されるアミノ酸配列又はその1~6個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質であり、
Si-tagのC末側断片が、配列番号3に示されるアミノ酸配列又はその1~7個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質であり、
Si-tagのN末-C末側結合断片が、配列番号4に示されるアミノ酸配列又はその1~13個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質である、
前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔9〕 酵素A及び酵素Bのうち少なくとも一方の酵素が複数のサブユニットからなる酵素であり、各サブユニットの全てにSi-tag又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片が化学的に結合されている、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔10〕 メソポーラスシリカが、中心細孔直径2~50nmのメソポーラスシリカである、前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔11〕 メソポーラスシリカが、「FSM」「SBA」、「MCM」及び「C-meso」から選択されたいずれか1種のメソポーラスシリカである、前記〔10〕に記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
〔12〕 共役酵素反応に関わる複数の異種酵素のうち酵素A及び酵素Bのそれぞれがメソポーラスシリカに固定化された酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を製造する方法であって、下記(1)~(3)の工程を含む方法;
(1)酵素A及び酵素Bそれぞれに、Si-tag、又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片を、化学的に結合する工程、
(2)(1)で得られた酵素A-Si-tag又はその断片の融合体、及び酵素B-Si-tag又はその断片の融合体のそれぞれを、0.5~1.0Mの塩濃度でかつ0.5~1.0%の濃度の界面活性剤を含有し、pH8~10に調整した緩衝液中でSi-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカに固定化する工程、
(3)固定化終了後、0.5~1.0Mの塩濃度でかつ0.5~1.0%の濃度の界面活性剤を含有し、pH8~10に調整した緩衝液で複数回洗浄し、酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を得る工程。
〔13〕 共役酵素反応に関わる複数の異種酵素のうち酵素A及び酵素Bのそれぞれがメソポーラスシリカに固定化された酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を用いた共役酵素反応方法であって、下記(1)~(3)の工程を含む方法;
(1)酵素A及び酵素Bのうちの少なくとも一方の酵素に、Si-tag、又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片を、化学的に結合する工程、
(2)(1)で得られた酵素A-Si-tagもしくはその断片の融合体、及び/又は酵素B-Si-tagもしくはその断片の融合体をSi-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカに固定化する工程、
(3)(2)で得られた酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を、酵素A及び/又は酵素Bの基質を含む緩衝液内に添加して懸濁させ、酵素A及び酵素Bが関わる共役的な酵素反応を行う工程。
〔14〕 共役酵素反応方法が、反応基質から有用物質を製造する方法である、前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕 共役酵素反応方法が、環境中に存在する反応基質となる環境汚染物質を分解する方法である、前記〔13〕に記載の方法。
〔16〕 共役酵素反応方法が、被検試料中に存在するか又は存在する可能性のある反応基質を検出又は定量する方法である、前記〔13〕に記載の方法。
〔17〕 前記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を含むことを特徴とする、酵素A及び酵素Bが関わる共役酵素反応用キット、センサー又は装置。
〔18〕 共役酵素反応用キット、センサー又は装置が、反応基質から有用物質を製造するためのものであることを特徴とする、前記〔17〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔19〕 カルボニル還元酵素(CR)と脱水素酵素との共役酵素反応を利用した光学活性アルコールを製造するためのキット又はバイオリアクターである、前記〔18〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔20〕 共役酵素反応用キット、センサー又は装置が、被検試料中に存在する可能性のある反応基質又は共役酵素反応後の産物を検出又は定量するためのものであることを特徴とする、前記〔17〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔21〕 グルコースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ又はグルタミン酸オキシダーゼとペルオキシダーゼとの共役酵素反応を利用した被検試料中のグルコース、ピルビン酸、乳酸、コレステロール、又はグルタミン酸を検出又は定量するための測定キットである、前記〔20〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔22〕 グルコース脱水素酵素(GDH)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)、フルクトース脱水素酵素(FDH)、アルコール脱水素酵素(ADH)、ギ酸脱水素酵素(FDH)、乳酸脱水素酵素(LDH)、ソルビトール脱水素酵素(SDH)、グリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)又はキシリトール脱水素酵素(XDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)との補酵素再生系の共役酵素反応を利用した、被検試料中のグルコース、グルコース-6-リン酸、フルクトース、アルコール、ギ酸、乳酸、ソルビトール、グリセロールリン酸、リンゴ酸又はキシリトールを検出又は定量するための測定キットである、前記〔20〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔23〕 ソルビトール脱水素酵素(SDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)との補酵素再生系の共役酵素反応を利用した、被検試料中のソルビトールを検出又は定量するための測定キットである、前記〔22〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔24〕 ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)とリンゴ酸脱水素酵素(MDH)とのカスケード反応を利用して、被検試料中の二酸化炭素濃度を測定するための測定キットである、前記〔20〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔25〕 共役酵素反応用キット又は装置が、環境中に存在する反応基質となる環境汚染物質を分解するためのものであることを特徴とする、前記〔17〕に記載のキット、センサー又は装置。
〔26〕 アゾ還元酵素(AzoR)とグルコース脱水素酵素(GDH)とのNAD又はNADH補酵素再生系を利用した、環境中の難分解性化学染料分解のための装置である、前記〔25〕に記載のキット、センサー又は装置。
本発明では、補酵素再生系などのエネルギー供給系を利用した複数の異種酵素が関わる協調的な共役酵素反応において、各異種酵素が多量体を形成する分子量の大きな酵素同士であっても、少なくとも1種の酵素をSi-tag(又はそのN末もしくはC末側断片)を介してメソポーラスシリカに固定化することにより、メソポーラスシリカの細孔内に安定して近接した状態に固定化できる技術を提供できた。そのことにより、複数の異種酵素が関わる酵素反応全体を極めて効率的に行うことができる。さらに、2種以上の酵素のいずれもSi-tag(又はそのN末もしくはC末側断片)を介して固定化することで、得られたSi-tag融合異種酵素とメソポーラスシリカとの複合体は安定性がさらに高まり繰り返し使用できるため、極めて経済的で実用性の高い技術が提供できた。
本発明により、アゾ染料のような難分解性化学染料を高い反応効率で持続的に分解可能な共役酵素反応場を提供できた。すなわち、持続的使用可能な難分解性化学染料分解用キットなど、各種の共役酵素反応に関わる異種酵素をメソポーラスシリカに固定化した高い反応効率で持続的使用可能なキット製品が提供できる。さらに異種酵素の組み合わせを最適化することにより、光学活性アルコールなど機能性化学品等の有用物質の高効率生産に向けたバイオリアクターへの活用も期待される。メソポーラスシリカに固定化されることで、酵素の安定化と共に凝集失活の抑制効果が達成されるため、従来のバイオリアクターやキット製品と比較して極めて少ない酵素量での反応と定量が可能になるメリットが大きく、さらに再利用も可能であるため、より経済的である。
また、共役酵素反応に関わる異種酵素を利用したソルビトール検出用など各種バイオセンサーやバイオ燃料電池への適用も可能であり、反応効率の増大及び再利用性の向上が期待される。
典型的なメソポーラスシリカ(SBA型、SBA microsphere型、FSM型)の走査型電子顕微鏡(SEM)の像である。(a)~(c)SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:7.1nm)のSEM像、(a)観察倍率:25万倍(b)観察倍率:15万倍(c)観察倍率:6千倍、(d)SBA microsphere型メソポーラスシリカのSEM像(観察倍率:5千倍)、(e)FSM型メソポーラスシリカのSEM像(観察倍率:1千倍)。 メソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)の規則性細孔(シリカ細孔)に固定化したアゾ還元酵素(AzoR)及びグルコース脱水素酵素(GDH)を備えたAzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体のうちAzoRと難分解性化学染料(アゾ染料:メチルレッド)が相互作用し、更に、GDHによる補酵素(NADH)の再生系を組み込み酸化型NADから還元型NADHに再生することができるようになった結果、アゾ染料が高効率かつ持続的に分解される様子を模式的に示す説明図である。 AzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体による補酵素再生系を利用したアゾ染料(メチルレッド)の還元分解における反応系および評価系を示す説明図である。図中、(a)は、異種酵素(AzoR及びGDH)による反応系の概略を示す図であり、また、(b)は、AzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体の調製方法、メチルレッドの分解反応、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順を模式的に示す説明図である。 メチルレッド及びグルコースを反応基質とした、遊離の未固定の異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag未融合GDH)及びこれら異種酵素とシリカ粒子との複合体を用いたメチルレッドの分解反応(30℃、60分間)を経時的に測定し、脱色率を評価した結果である。 単一酵素(Si-tag融合AzoR)、または、異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag未融合GDH)における遊離の未固定酵素、また、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して固定化した酵素による反応60分後のメチルレッドの脱色率(反応1回目)、固定化酵素を繰り返し再利用した場合のメチルレッドの脱色率(反応2回目)、また、反応終了後にシリカ粒子からの酵素の脱離を評価した結果をまとめた表である。 大腸菌タンパク発現系により作製した3種類のSi-tag融合GDH、また、Si-tag未融合GDHの特性を評価した結果である。 非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対する3種類のSi-tag融合GDH、また、Si-tag未融合GDHの吸着能を評価した結果である。 異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag-CT71融合GDH)における遊離の未固定酵素、または、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して固定化した酵素による反応60分後のメチルレッドの脱色率(反応1回目)、また、固定化酵素を繰り返し再利用した場合のメチルレッドの脱色率(反応2回目)を評価した結果をまとめた表である。 単一酵素、または、異種酵素における遊離の未固定酵素、また、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して固定化した酵素による反応60分後のメチルレッドの脱色率について、図5(a)及び8の実験結果をまとめたグラフである。また、図中、(a)は、反応1回目のメチルレッドの脱色率、また、(b)は、固定化酵素を繰り返し再利用した反応2回目のメチルレッドの脱色率、である。 異種酵素における遊離の未固定酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag-CT71融合GDH)、また、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して塩(0.5M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液を利用して固定化した酵素による反応60分後のメチルレッドの脱色率について、図9に対して実験結果を追加したグラフである。また、図中、(a)は、反応1回目のメチルレッドの脱色率、また、(b)は、固定化酵素を繰り返し再利用した反応2回目のメチルレッドの脱色率、である。 シリカ粒子に対する異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag-CT71融合GDH)の固定化及び洗浄操作時に、塩(0.5M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液を利用した場合の反応60分後のメチルレッドの脱色率について、図10(反応1、2回目)に対してさらに反応3~5回目の固定化酵素の繰り返し再利用の実験結果を追加し、繰り返し耐久性(再利用性)を評価した結果である。 図11の反応1~3回目の実験結果について、異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag-CT71融合GDH)と各種シリカ粒子との複合体を用いたメチルレッドの分解反応(30℃、60分間)における脱色率の経時変化を示した結果である。また、図中、(a)は、反応1回目、(b)は、反応2回目、(c)は、反応3回目、また、(d)は、反応3回目のメチルレッドの分解反応における各種固定化酵素の比活性の結果をまとめた表、である。 グルタミン酸脱炭酸酵素(GADβ)-メソポーラスシリカ複合体によるグルタミン酸の脱炭酸における反応系および評価系を示す説明図である。図中、(a)は、PLP依存型酵素(GADβ)による反応系の概略を示す図であり、また、(b)は、GADβ-メソポーラスシリカ複合体の調製方法、グルタミン酸の脱炭酸反応、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順を模式的に示す説明図である。 大腸菌タンパク発現系により作製した3種類のSi-tag融合GADβ、また、Si-tag未融合GADβのタンパク濃度及び変性タンパク状態での電気泳動像を評価した結果である。 3種類のSi-tag融合GADβ、また、Si-tag未融合GADβを用いたグルタミン酸の脱炭酸反応(37℃、60分間)を経時的に測定し、反応基質(グルタミン酸)及び生成物(GABA)のモル濃度を評価した結果である。 非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対する3種類のSi-tag融合GADβ、また、Si-tag未融合GADβの吸着能を評価した結果である。 FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)、C22-meso型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:6.1nm)に対して固定化したSi-tag未融合GADβ、または、Si-tag-NT60融合GADβによる反応30分後の生成物(GABA)のモル濃度を指標として、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した結果である。 メソポーラスシリカの規則性細孔に固定化したR体選択的カルボニル還元酵素(RCR)及びソルビトール脱水素酵素(SDH)を備えたRCR-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体のうちRCRとプロキラルカルボニル化合物(2-HAP)が相互作用し、更に、SDHによる補酵素(NADH)の再生系を組み込み酸化型NADから還元型NADHに再生することができるようになった結果、光学活性アルコール((R)-1-フェニル-1,2-エタンジオール:(R)-PED)が高効率かつ持続的に合成される様子を模式的に示す説明図である。 RCR-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体による補酵素再生系を利用したプロキラルカルボニル化合物(2-HAP)の不斉還元による光学活性アルコール((R)-PED)の合成における反応系および評価系を示す説明図である。図中、(a)は、異種酵素(RCR及びSDH)による反応系の概略を示す図であり、また、(b)は、RCR-SDH-メソポーラスシリカ複合体の調製方法、(R)-PEDの合成反応、HPLC分析、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順を模式的に示す説明図である。 大腸菌タンパク発現系により作製した2種類のSi-tag融合RCR、また、Si-tag未融合RCRの特性を評価した結果である。 大腸菌タンパク発現系により作製した2種類のSi-tag融合SDH、また、Si-tag未融合SDHの特性を評価した結果である。 FSM型メソポーラスシリカ(FSM8.0)、SBA型メソポーラスシリカ(SBA8.1)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して固定化した単一酵素(Si-tag-NT60融合RCR)、または、異種酵素(Si-tag-NT60融合RCRとSi-tag-NT60融合SDH)による反応30分後の生成物((R)-PED)の生成効率(2-HAPから(R)-PEDへの転化率)を指標として、固定化酵素の活性を評価した結果である。図中、(a)は、単一酵素、または、異種酵素における遊離の未固定酵素、また、FSM8.0、SBA8.1、KE-S100に対して固定化した酵素による反応30分後の(R)-PEDへの転化率(反応1回目)、固定化直後の上清に含まれるRCRの活性(転化率)、また、固定化直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した結果をまとめた表である。また、(b)は、反応30分後の(R)-PEDへの転化率を指標として、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した結果である。 FSM型メソポーラスシリカ(FSM8.0)、SBA型メソポーラスシリカ(SBA8.1)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して固定化した単一酵素(Si-tag未融合RCR)、または、異種酵素(Si-tag未融合RCRとSi-tag未融合SDH)による反応30分後の生成物((R)-PED)の生成効率を指標として、固定化酵素の活性を評価した結果である。図中、(a)は、単一酵素、または、異種酵素における遊離の未固定酵素、また、FSM8.0、SBA8.1、KE-S100に対して固定化した酵素による反応30分後の(R)-PEDへの転化率(反応1回目)、固定化直後の上清に含まれるRCRの活性(転化率)、また、固定化直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した結果をまとめた表である。また、(b)は、反応30分後の(R)-PEDへの転化率を指標として、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した結果である。 FSM型メソポーラスシリカ(FSM2.6)、SBA型メソポーラスシリカ(SBA5.4および10.6)に対して固定化したSi-tag融合異種酵素(Si-tag-NT60融合RCRとSi-tag-NT60融合SDH)、または、FSM2.6およびSBA5.4に対して固定化したSi-tag未融合異種酵素(Si-tag未融合RCRとSi-tag未融合SDH)による反応30分後の生成物((R)-PED)の生成効率(2-HAPから(R)-PEDへの転化率)を指標として、固定化酵素の活性を評価した結果である。図中、(a)(b)は、Si-tag融合異種酵素、または、Si-tag未融合異種酵素における、各種シリカ粒子に対して固定化した酵素による反応30分後の(R)-PEDへの転化率(反応1回目)、固定化直後の上清に含まれるRCRの活性(転化率)、また、固定化直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した結果をまとめた表である。また、(c)は、反応30分後の(R)-PEDへの転化率を指標として、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した結果である。 図22~24の繰り返し耐久性(反応1~10回)の評価結果について、異種酵素(Si-tag融合、または、Si-tag未融合)と各種シリカ粒子との複合体を用いた(R)-PEDの合成反応の結果をまとめたグラフ、である。 Si-tag未融合DT-ジアホラーゼ(DTD)-Si-tag-NT60融合SDH(あるいは、Si-tag未融合SDH)-メソポーラスシリカ複合体による補酵素再生系を利用した標的物質(ソルビトール)量又は標的酵素(SDH)活性の高感度測定における反応系を示す説明図および評価結果である。図中、(a)は、異種酵素(DTD及びSDH)による反応系の概略を示す図である。また、(b)は、異種酵素における遊離の未固定酵素、および、FSM型メソポーラスシリカ(FSM2.6および8.0)、SBA型メソポーラスシリカ(SBA5.4および8.1)に予め固定化・洗浄したSi-tag-NT60融合SDH、または、Si-tag未融合SDHに対して、DTDを含んだ反応基質を添加した場合の反応20分後の生成物(ホルマザン)の呈色を示した写真であり、また、(c)は、(b)の反応後サンプルにおけるホルマザンの吸光度を指標として、固定化酵素の反応性(反応1回目および2回目)を評価した結果である。
1.本発明のメソポーラスシリカについて
(1-1)本発明の「メソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)」の種類
本発明で酵素の固定化用担体として用いる「メソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)」は、二酸化ケイ素(シリカ)を材質とする、均一な細孔を持つ多孔質材料であって、細孔の中心細孔直径が2~50nm(メソ孔:IUPAC)であり、一般的には、全細孔容積が0.1~3.0mL/gで、比表面積が200~1500m/gである。メソポーラスシリカ内の細孔を規則的に形成させるための一般的合成方法には、(a)液晶の鋳型法と(b)シート変形法の2種類あり、(a)では、界面活性剤をシリカ又はケイ酸ソーダと混和して縮合による自己組織化させ、焼成により界面活性剤を除去するのに対して、(b)では界面活性剤を層状のカネマイト(NaHSi・3HO)に添加してイオン交換によりシート変形を起こさせてハニカム構造を形成させ界面活性剤を焼成除去する方法がある。(a)の方法で得られる典型的なものとして、「MCM(MCM-41など)」、「SBA-15(中心細孔直径:4~30nm)」などがあり、(b)の方法で得られる典型的なものとして、「FSM-16およびFSM-22など(中心細孔直径:2~12nm)」などがある。両法で得られる「メソポーラスシリカ」は、いずれも通常ハニカム構造の「ヘキサゴナル」型結晶構造を有している。(a)の方法で得られる「MCM」及び「SBA」などでは、「キュービック」型の結晶構造を採ることもある(MCM-48、SBA-16など)。
「FSM」又は「SBA」などは、その合成過程で界面活性剤と共に膨張剤を混和して細孔径を拡大させることができるので、これら添加剤の配合量を調整することにより、所望の細孔径のメソポーラスシリカ、例えば「FSM(中心細孔直径:5~12nm)」、「SBA microsphere(中心細孔直径:10~30nm)」を得ることができる。
また、「C16-meso(中心細孔直径:2~3nm)」又は「C22-meso(中心細孔直径:3~12nm)」などの「C-meso」は、シリカ源が異なる点を除いては前記「FSM」と同様の方法で製造できる。
本発明において用いられる「メソポーラスシリカ」は、上記いずれかの手法で合成された規則的な細孔構造を有する「メソポーラスシリカ」であり、好ましくは、「FSM」「SBA」、「MCM」又は「C-meso」であり、より好ましくは「FSM」、「SBA」又は「C-meso」であり、特に「FSM」又は「SBA」のうちでも細孔径を拡大させた「FSM(中心細孔直径:5~12nm)」、「SBA microsphere(中心細孔直径:10~30nm)」や「C16-meso(中心細孔直径:2~3nm)」又は「C22-meso(中心細孔直径:3~12nm)」が好ましい。
(1-2)本発明の「メソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)」の製造方法
本発明の「メソポーラスシリカ」は特許文献1又は非特許文献5,6等の記載の製造方法により製造することができる。
本発明の実施例では、典型的な規則的な細孔構造を有する「メソポーラスシリカ」のうち、上記(b)のタイプの典型的な「FSM」及び上記(a)のタイプの典型的な「SBA」を用いたが、これらに限定されるものではない。「FSM」は、稲垣らの方法(S. Inagaki et al., J. Chem. Soc. Chem. Commun., pp.680-682 (1993))、及び、卜部らの方法(Y. Urabe et al., ChemBioChem, vol.8, pp.668-674 (2007))を参考にして、、「SBA」は、Zhaoらの方法(D. Zhao et al., Science, vol.279, pp.548-552 (1998))の記載をそれぞれ参考にして合成した。「SBA microsphere」は、Wangらの方法(N. Wang et al., Microporous Mesoporous Mater., vol.91, pp.156-160 (2006))の記載に従って合成できる。
具体的には、「FSM」は、カチオン性界面活性剤を鋳型として用い、層状ケイ酸塩であるカネマイトをシリカ源とした、弱アルカリ性溶液でのシリカの脱水重縮合反応を行い、焼成により界面活性剤を除去する方法により得、「SBA」は、非イオン性界面活性剤を鋳型として用い、オルトケイ酸テトラエチルをシリカ源とした、酸性溶液でのシリカの脱水重縮合反応を行い、焼成により界面活性剤を除去する方法により得られる。
「C16-meso」又は「C22-meso」の場合は、前記FSMのシリカ原料を高アルミニウム含有層状ケイ酸塩(Al-K-LDS)とすれば、池田らの方法(T. Ikeda et al., Microporous Mesoporous Mater., vol.191, pp.38-47 (2014))に記載の手法に従って製造できる。
また、本発明の実施の態様(製造例1)の手法では、微粒子の状態の「メソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)」が得られるため、「メソポーラスシリカ粒子」又は「シリカ微粒子粉末」ということもある。
しかし、本発明のメソポーラスシリカは、用途に合わせて膜状、中空糸状又はペレット状など既知の成型法により適宜の形状に成形して用いても、微粒子状のメソポーラスシリカ粒子と同様の効果を発揮できる。メソポーラスシリカの膜状成型法としては片岡らの方法(S. Kataoka et al., Appl. Catal. A-Gen., vol.342, pp.107-112 (2008))など、中空糸状成型法としてはRownaghiらの方法(A. A. Rownaghi et al., ChemSusChem, vol.8, pp.3439-3450 (2015))など、また、ペレット状成型法としてはMaheshwariらの方法(H. Maheshwari et al., J. Mater. Sci., vol.51, pp.4470-4480 (2016) (2016))などが適用できる。
(1-3)メソポーラスシリカの細孔径について
本発明で用いるメソポーラスシリカの一般的な細孔径は、中心細孔直径で2~50nm(メソ孔)であり、膨張剤の量や加熱温度を調整することで、細孔径を変更できる。そのうち、好ましい細孔径の数値範囲はそれぞれで異なっており、例えば、FSMの場合、中心細孔直径は2~12nm、好ましくは2~10nmの範囲である。SBAの場合は、中心細孔直径は4~22nm、好ましくは4~12nm、より好ましくは5~11nmの範囲である。SBA microsphereの場合は、中心細孔直径は10~30nm、好ましくは12~28nm、より好ましくは15~25nmの範囲である。また、C-mesoの場合は、中心細孔直径は2~12nm、好ましくは2~10nmの範囲である。
2.本発明のシリカ結合タンパク質(Si-tag)について
(2-1)「シリカ結合タンパク質(Si-tag)」とは
本発明で、「シリカ結合タンパク質(Si-tag)」というとき、非特許文献2又は特許文献2に記載の大腸菌又はシュードモナス属など細菌が産生するシリカ(SiO)表面に強力に結合するタンパク質を指す。Si-tagは、0.1M以上の高塩濃度条件下(例えば1M 塩化ナトリウム中)、さらには高濃度界面活性剤(例えば、0.5% Tween20)の存在下では特異的にシリカ(SiO)表面に結合するため、そのような高塩濃度条件、さらには高濃度界面活性剤存在条件を用いることで、細菌の細胞破砕液を精製することなくシリカ表面に結合させることができる。
(2-2)Si-tagの種類
典型的なSi-tagとしては、大腸菌由来のrplB遺伝子によりコードされる、全長273アミノ酸のシリカ結合タンパク質(配列番号1、ACCESSION:NP_417776)である。各種細菌が産生するシリカ結合タンパク質のうち、rplB遺伝子によりコードされるシリカ結合タンパク質は、生物種間でのアミノ酸配列の同一性が約88%以上と非常に良く保存され、シリカ表面への結合特異性も極めて類似性が高い(特許文献2)。
以下、本明細書中では大腸菌K12由来の配列番号1に示されるSi-tagについて主として説明するが、本発明のSi-tagはこれに限られない。例えば、Pseudomonas putida KT2440由来(ACCESSION:NP_742623)、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来(ACCESSION:NP_252950)などのrplB遺伝子によりコードされるシリカ結合タンパク質も本発明のSi-tagに含まれる。他に、Salmonella_enterica_STM3437由来、Haemophilus_influenzae_HI0780由来、及びShewanella_oneidensis_SO_0234由来のrplB遺伝子によりコードされるシリカ結合タンパク質も同様である。
また、これら各Si-tagの全アミノ酸配列との同一性が、90%、好ましくは95%の範囲内での変異、具体的にはアミノ酸配列中の1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列であって、シリカ結合性が保持されたタンパク質は、本発明のSi-tagとして用いることができる。
(2-3)Si-tagのN末端及び/又はC末端断片
Si-tagは主として4つのドメイン構造に別れており、そのうちのシリカ結合ドメインは、N末端側のドメイン(配列番号1の1~60位)及びC末端側のドメイン(配列番号1の203~273位)の2箇所に局在しており、これらN末端側及び/又はC末端側ドメインに対応するSi-tag部分ペプチドはシリカ結合性を有している(特許文献2)。
本発明では、Si-tagのN末端側のドメインに相当するSi-tag部分ペプチドをSi-tagN末端側断片といい、具体的には、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる断片(「Si-tag-NT60」)または当該アミノ酸配列との同一性が、90%、好ましくは95%の範囲内で変異したアミノ酸配列、すなわち当該アミノ酸配列中の1~6個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列であって、シリカ結合性が保持された断片を指す。
また、Si-tagのC末端側のドメインに相当するSi-tag部分ペプチドをSi-tagC末端側断片といい、具体的には、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる断片(「Si-tag-CT71」)または当該アミノ酸配列との同一性が、90%、好ましくは95%の範囲内で変異したアミノ酸配列、すなわち当該アミノ酸配列中の1~7個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列であって、シリカ結合性が保持された断片を指す。
さらに、Si-tagのN末端側及びC末端側ドメインに対応するSi-tag部分ペプチドをSi-tagN末及びC末側結合断片といい、具体的には配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる断片(「Si-tag-NT60-CT71」)または当該アミノ酸配列との同一性が、90%、好ましくは95%の範囲内で変異したアミノ酸配列、すなわち当該アミノ酸配列中の1~13個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列であって、シリカ結合性が保持された断片を指す。
従来、所望のタンパク質との融合体をシリカ表面に結合させる場合、全長のSi-tagと比較してN末及びC末側結合断片でもシリカ表面への結合性は1/2以下であり、N末端側断片及びC末端側断片のいずれも単独で用いると結合性が1/20以下に減弱されるため、N末又はC末端側断片単独ではシリカ表面への結合性は不十分であると考えられていた(特許文献2)。
しかし、本発明のメソポーラスシリカの細孔内へ固定化する場合には、Si-tagN末又はC末端側の断片単独で各酵素に融合した場合であっても、Si-tag全長の場合と同等又はむしろそれ以上に固定化効率が高まる。
したがって、本発明で各酵素と融合させるSi-tagは、全長でなくてもそのC末及び/又はN末側の部分タンパク質、すなわち、前記のSi-tagのN末端及び/又はC末端断片を用いることができるので、あわせて本発明の「Si-tag及びその断片」、又は単に「Si-tag」と称することもある。
(2-4)Si-tagの製造方法
本発明のSi-tag及びその断片は、既知のrplB遺伝子の配列情報をもとに遺伝子組み換え技術により製造することができる。本発明の実施例では、それぞれ配列番号1~3のアミノ酸配列をコードするDNAを用いて大腸菌タンパク発現系により製造している。
なお、本発明の全長Si-tagについては、特許文献2などに記載の方法により大腸菌K12株などの細菌を破砕した細胞破砕液から回収することもできる。
3.本発明が対象とする異種酵素(酵素Aと酵素B)の組合せ
本発明の共役酵素反応に関わる複数の酵素のうち、少なくとも2種類の異種酵素(酵素Aと酵素B)は、少なくともいずれか1つの酵素がSi-tag又はその断片を介してメソポーラスシリカの細孔内に互いに近接して固定化されており、かつ両酵素の酵素反応が補酵素再生系などにより供給されたエネルギーを利用して協調的かつ持続的に効率の良い共役酵素反応を行う。
そのような典型的な異種酵素の組み合わせとしては、補酵素再生系を利用する還元酵素及び脱水素酵素が挙げられる。例えば、補酵素NADHあるいはNADPHを利用した還元酵素(アゾ還元酵素(AzoR)、カルボニル還元酵素(CR)、イミン還元酵素(IR)、エノン還元酵素(ER)、アルドース還元酵素(AR)、キシロース還元酵素(XR)、DT-ジアホラーゼ(DTD)等)及び脱水素酵素(グルコース脱水素酵素(GDH)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)、フルクトース脱水素酵素(FDH)、アルコール脱水素酵素(ADH)、ギ酸脱水素酵素(FDH)、乳酸脱水素酵素(LDH)、ソルビトール脱水素酵素(SDH)、グリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、キシリトール脱水素酵素(XDH)等)による物質変換反応が挙げられる。また、前記のDT-ジアホラーゼ(DTD)及び脱水素酵素(グルコース脱水素酵素(GDH)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)等)の利用による、脱水素酵素の反応基質の高感度定量を目的とした測定キット、バイオセンサーおよびバイオ燃料電池のアノード電極への電子供給、等が挙げられる。
その他、ピルビン酸キナーゼ(PK)及び乳酸脱水素酵素(LDH)、アルドース還元酵素(AR)及びソルビトール脱水素酵素(SDH)、グリセロールキナーゼ(GK)及びグリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、ピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素(ADH)、又、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)及びリンゴ酸脱水素酵素(MDH)等によるカスケード反応、キシロース還元酵素(XR)及びキシリトール脱水素酵素(XDH)を組み合わせた補酵素再生系によるカスケード反応、また、補酵素ATPを利用したATP要求性酵素(リガーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、キナーゼ、ルシフェラーゼ等)による物質変換反応において、キナーゼ(クレアチンキナーゼ(CK)、ピルビン酸キナーゼ(PK)、酢酸キナーゼ(AK)、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(AK)等)によるATP再生系を利用する方法等が挙げられる。
なお、本発明が適用可能な異種酵素による共役酵素反応系は、典型的には補酵素再生系と呼ばれる系であるがそれには限られない。2種以上の酵素のそれぞれ関わる反応系が同時にもしくは順次に共役して行われる酵素反応(共役酵素反応)であればよく、グルコースオキシダーゼとカタラーゼによるカスケード反応(非特許文献7)の他、乳酸又はピルビン酸を反応基質として用いる乳酸脱水素酵素(LDH)、ピルビン酸オキシダーゼ(あるいは、乳酸オキシダーゼ)、ペルオキシダーゼの3酵素のカスケード反応による乳酸又はピルビン酸の定量方法や、グルタミンを反応基質として用いるグルタミナーゼ、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、γ-アミノブチルアルデヒド脱水素酵素(ABALDH)の3酵素のカスケード反応により、茶豆特有の香り成分(2-アセチル-1-プロリン)の原料となる「4-アミノブタナール」の生成反応なども含まれる。2種以上の酵素のうち少なくとも片方が多量体構造を有するなどサイズの大きな酵素を含む場合には、特に本発明を適用することで大きなメリットが得られる。
4.酵素A又は酵素BとSi-tag又はその断片との複合体及びその製造方法
(4-1)酵素A又は酵素Bと融合させるSi-tag又はその断片
本発明で用いる共役酵素反応に関わる酵素A又は酵素Bは、通常多量体化した状態で働き、しかももともとの分子量が大きい場合が多い。そのため、各サブユニットの全てにSi-tagを融合させて複合体化する場合、Si-tagを全長で用いると、サイズが大きすぎてメソポーラスシリカの細孔内に入り込むことができず、他の酵素に近接した状態で高密度に存在できない。
全長のSi-tagの方がシリカ表面への結合性自体は高いものの、酵素の分子量が大きい場合、又はサブユニット数が多い場合は、全長のSi-tagを用いるよりも、C末側断片(例えば「Si-tag-CT71」)、N末側断片(例えば「Si-tag-N60」)又はN末及びC末側結合断片(例えば「Si-tag-NT60-CT71」)を用いる方が本発明のメソポーラスシリカにおける細孔内での確実な固定化が可能となる。
例えば、本発明の実施態様で用いた二量体のアゾ還元酵素(AzoR)は全長のSi-tagと融合させているが、四量体のグルコース脱水素酵素(GDH)の場合は、C末側断片の「Si-tag-CT71」と、そしてカルボニル還元酵素(RCR)やソルビトール脱水素酵素(SDH)の場合は、N末側断片の「Si-tag-NT60」と融合させた。このようなSi-tag又はその断片を介してメソポーラスシリカに固定化させることで、メソポーラスシリカ細孔内で両酵素が近接して配置されることとなり、両酵素反応が活発化して、アゾ染料の脱色率や光学活性アルコールの合成効率が飛躍的に改善すると共に、両酵素が細孔内で確実に固定化されたことで洗浄によってもはずれることなく複数回の使用にも耐えられるようになった。
また、本発明の異種酵素のSi-tag又はその断片を介したメソポーラスシリカ複合体においては、異種酵素のすべてがそれぞれSi-tag又はその断片を介した状態でメソポーラスシリカ複合体を形成していなくてもよく、共役酵素反応にかかわる少なくとも1種の酵素がSi-tag又はその断片を介してメソポーラスシリカに固定化されている場合を含み、その場合でも飛躍的な反応性向上効果が期待できる。例えば、ソルビトール脱水素酵素(SDH)とDTDとの組み合わせによるソルビトール検出系において、SDHはSi-tagのN末側断片(Si-tag-NT60)と融合させた「Si-tag-NT60-SDH」とし、DTDはSi-tag未融合の状態で両者をメソポーラスシリカに固定化させたところ、ソルビトール検出における感度が飛躍的に改善した。
(4-2)酵素とSi-tag又はその断片との融合方法
対象となる多量体酵素の各サブユニットそれぞれの末端に確実にSi-tag又はそのC末側断片、N末側断片もしくはN末-C末側結合断片を融合させるためには、各酵素遺伝子の5’側または3’側に直接、又は3塩基もしくはその倍数の塩基からなるスペーサー配列を介してSi-tag又はその断片をコードするDNAを連結し周知の遺伝子組換え技術を用いて融合タンパク質として形質転換大腸菌などの形質転換体から産生させることが好ましい。なお、その際のスペーサー配列の長さは、ベクターへの挿入のしやすさや酵素の高次構造への影響などを考慮して適宜設計できる。具体的には0~180塩基、好ましくは3~90塩基であり、本実施例のAzoRの場合、24アミノ酸(配列番号8)をコードするスペーサー配列を用いてSi-tagと融合させており、スペーサー配列(配列番号8)を有するベクターにAzoR遺伝子及びSi-tag遺伝子を組み込む方法、又はAzoR遺伝子を有するベクターにSi-tag遺伝子とスペーサー配列が連結したDNAを組み込む方法を用いることができる。
他に、His-tagやFLAG-tag等のエピトープタグ、及び、エンテロキナーゼ等のプロテアーゼの認識配列を含めたスペーサー配列を適宜用いることができる。なお、配列番号8にもエンテロキナーゼの認識配列(5アミノ酸)が含まれる。
なお、多量体酵素の場合に酵素の各サブユニットに対し、均一にSi-tagを融合することが難しいものの、市販の酵素など酵素タンパク質に対し、Si-tagタンパク質又はその断片ペプチドを既知のリンカーを介して又は介さずに化学的に結合することもできる。
5.異種酵素とSi-tag又はその断片との融合体のメソポーラスシリカ細孔内への固定化
(5-1)異種酵素のSi-tag融合体とメソポーラスシリカとの複合体(酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体ともいう。)
本発明は、メソポーラスシリカの細孔内部にSi-tag又はその断片を介し、共役酵素反応に関わる少なくとも二種類の異種酵素を備えた異種酵素内包複合体であって、各酵素の少なくともいずれか1種がSi-tag又はその断片を介した状態で前記メソポーラスシリカの細孔内に吸着され、分散した状態で細孔内に安定に固定されている。好ましくは、補酵素再生系などを利用した共役酵素反応に関わる少なくとも二種類の酵素がSi-tag又はその断片を介した状態で内包され、かつ当該各酵素が補酵素再生系などを介した高効率のエネルギーの受け渡しや電子伝達が可能なように近接した状態にあることを特徴とする。
ここで、各酵素について細孔内で近接した状態にあるとは、異種酵素同士の間に介在する補酵素(酸化型及び還元型)などを高効率に受け渡せる程度に近接していることを指し、具体的には1~10nm程度の距離である。
(5-2)基本的な固定化方法
典型的な固定化方法の実験手順は、図3(b)に示したとおりである。
異種酵素のうち少なくとも一種類の酵素とSi-tag(又はそのC末もしくはN末側断片)との融合体を含んだ酵素溶液を、Tris-HClなどの緩衝液で中性付近(pH 7~8)に調整し、予めマイクロチューブに量り取った微粒子粉末状のメソポーラスシリカ(FSM8.0又はSBA8.1など)と共に、一定温度(4~40℃)にて一晩穏やかに混和する。そのことで、酵素-Si-tag融合体(又はそのC末もしくはN末側断片)をメソポーラスシリカの細孔内に固定化することができる。その際、異種酵素の全てについてそれぞれSi-tag(又はそのC末もしくはN末側断片)との融合体を形成しておき、各酵素融合体の混合溶液を微粒子粉末状のメソポーラスシリカと混和すれば、全ての酵素のSi-tag融合体(又はそのC末側、N末側もしくはN末-C末側結合断片)がメソポーラスシリカの細孔内部で近接した状態に安定して固定化できる。
なお、本発明の対象とする共役酵素反応が、3種類以上の異種酵素が関わるカスケード反応である場合、全ての酵素をSi-tag(又はそのC末側、N末側もしくはN末-C末側結合断片)との融合体として同一のメソポーラスシリカに固定化してもよいが、カスケード反応の最初の2工程に関わる酵素のみを同一のメソポーラスシリカに固定化し、続く工程に関与する酵素は遊離状態で系に添加するか、又は別のメソポーラスシリカに固定化することが好ましい。
その後、当該酵素溶液は、酵素反応の至適温度にまで予備加温した反応基質溶液中に添加して反応を開始させるが、その際、異種酵素のうちの一方の酵素しかSi-tag(又はそのC末側、N末側もしくはN末-C末側結合断片)との融合体を形成させていない場合は、他の酵素は遊離状態のまま反応基質溶液中に添加すればよい。
その他の固定化方法としては、酵素と反応基質等を含んだ緩衝液を調製し、メソポーラスシリカと共に一定温度(4~40℃)にて数分間から数時間混和することで、酵素とSi-tag(又はそのC末側、N末側もしくはN末-C末側結合断片)との融合体をメソポーラスシリカの細孔内に固定化することができる。その際、酵素溶液から補酵素等のその他の反応因子の一部を抜いておくことで反応開始を抑制した状態で酵素の固定化を完了させ、次に、この反応因子を添加することによって反応を開始させる。
(5-3)固定化のための最適化条件
弱アルカリ性のpH範囲(例えば、pH8~10)における高塩濃度条件下(例えば、0.5~1.0Mの塩化ナトリウム含有緩衝液)、又は高塩濃度でかつ高濃度界面活性剤存在下(例えば、0.5~1.0Mの塩化ナトリウム及び0.5~1.0%Tween20含有緩衝液)での固定化を行い、同じ塩濃度又は界面活性剤濃度に調整した洗浄液で複数回洗浄することで、細孔内の夾雑物が確実に除去されて、安定した固定化が行える。
ここで、弱アルカリ性のpH範囲としては、pH8~10が好ましく、そのためには、pH8~10の緩衝能を有する、TES、HEPES、Tris、Tricine、Bicine、TAPS、GLY-GLY、CHESなどのグッド緩衝液を用いることで酵素溶液及び洗浄液のpH値を調整すれば良いが、特にTrisの適用が好ましい。
また、高塩濃度にするための塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを用いることができ、塩化ナトリウムが特に好ましい。その際の好ましい塩濃度は、0.1~2.0M、より好ましくは、0.5~1.0Mである。
界面活性剤としては、Tween20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Tween40(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Tween60(モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Tween80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Triton X-100など非イオン性界面活性剤が好ましいが、陽イオン性、陰イオン性、及び、両イオン性界面活性剤も用いることができる。界面活性剤の好ましい濃度は、0.05~2.0%、より好ましくは0.5~1.0%である。
ただし、続いて酵素反応をさせる際には塩類や界面活性剤が系に高濃度で存在していると反応効率が低下するため、メソポーラスシリカ微粒子粉末を緩衝液で十分に洗浄して用いる必要がある。
6.異種酵素の共役的反応の評価方法
本発明の異種酵素が関わる共役酵素反応が補酵素再生系であれば、補酵素の消費率、再生率を反応溶液中の吸光度の変化を観察することで評価できる。また、本発明で製造されるか、分解される物質の変換効率に着目して、評価することもできる。
本発明の実施態様では、典型的な例として、AzoRとGDHとの補酵素NADH系での協調反応を評価するため、アゾ染料(メチルレッド)の分解効率、又はNADHの消費率及び再生率を、反応溶液中の吸光度(測定波長:430nm、又は340nm)を経時的に測定することで評価した。
また、本発明においては、(R)-体の光学活性アルコールに還元することが可能なNADH依存型カルボニル還元酵素(RCR)とGDH又はSDHとを組み合わせ、2-ヒドロキシアセトフェノンを反応基質として、(R)-1-フェニル-1,2-エタンジオール((R)-PED:フルオキセチン(抗鬱薬)のキラルビルディングブロック)を製造することができるが、その際は、340nmの吸光度変化を経時的に測定する評価法の他、キラルカラムを搭載した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて(R)-PEDの鏡像体過剰率(光学純度)および生産収率を評価できる。なお、本反応系の場合は99%以上、R体が得られるため、ODSカラムを搭載したHPLCにより、直接(R)-PEDの分析が可能である。
7.本発明の異種酵素-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の用途
(7-1)共役酵素反応用のキット、センサー又は装置
本発明の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体は、酵素A及び酵素Bが関与する共役酵素反応の酵素反応用のキット、センサー又は装置を構成する要素として用いることができる。ここで、装置とは、有用物質を合成するためのバッチ式もしくはフロー式の反応装置(バイオリアクター)又は検査、測定用の装置、器具などを含む。
また、本発明のメソポーラスシリカは、一般には微粒子粉末状で使用することが好ましい。しかし、特にバイオリアクターなどの装置、器具の一部として用いる場合は、装置、器具またはその部品の形状、規模に合わせ、1.(1-2)で述べた既知の成型法に従い、膜状、中空糸状又はペレット状などに成形して用いることができる。
これら共役酵素反応キット、センサー又は装置の具体的な用途として、主なものは被検試料中の標的物質の検出もしくは測定、有用物質の生産、及び有害物質、汚染物質の無毒化もしくは除去などがある。以下、それぞれに用いられる酵素A及び酵素Bを含む酵素の組合せの典型的な例について述べるが、あくまでも例示であり、本発明はこれら例示された組合せには限定されない。
(7-2)被検試料中に存在する可能性のある標的物質の産物の検出又は定量、又は被検試料中の酵素活性の測定
本発明の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体は、被検試料中に存在する可能性のある標的物質を検出又は定量するために、又は血液など生体由来被検試料中の酵素活性を測定するために用いることができる。そして、その際に被検試料中の標的物質を検出又は定量するための、又は生体由来被検試料中の酵素活性を測定するためのキット、センサー又は装置として用いることができる。
具体的には、例えば各種疾病の診断、血液マーカー値検査など、被験体由来血液などの被検試料中に標的物質が存在するか否か、又はどの程度存在するかを測定し対象疾病への罹患可能性、罹患の有無又は程度を判定、診断するための標的物質検出又は定量用キットとして、本発明のキットを用いることができる。被検試料中に存在する可能性のある標的物質を酵素Aの反応基質とし、測定対象物質前駆体を酵素Bの反応基質として系に存在させれば、共役酵素反応後に産生される酵素Bの反応産物量を検出又は定量することで被検試料中の酵素Aの基質の標的物質量を測定できる。または、酵素Aの基質を反応系に添加して被検血液など生体試料中の酵素A活性を測定することもできる。その際、発光、蛍光物質またはその前駆体が反応基質となる酵素Bを選択して組合せれば、発光、蛍光物質からの発光、蛍光量として、より迅速、簡便かつ正確に測定できる。
これらをキット化する場合は、酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体と共に、酵素希釈用(及び酵素抽出用)緩衝液、酵素A及び/又は酵素Bの反応基質、酵素A及び/又は酵素Bの標準物質、反応測定用容器(ウエル)などを適宜組み合わせてキットとすることができる。
バイオ電池、又はバイオセンサーの場合はさらに、電極上あるいは電極近傍に酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を配置すると共に、キノン類及びフェロセン類など低分子の酸化還元物質(電子伝達メディエーター)を一方の基質に代えて組み合わせる必要がある。
そのような異種酵素の組合せを例示すると、これらに限定されるわけではないが、
(a)グルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼとの共役酵素反応を利用して生成Hを測定し被検血漿試料中のグルコースを高感度に定量する血糖値測定用キット、
(b)ピルビン酸オキシダーゼとペルオキシダーゼとの共役酵素反応を利用して生成Hを測定し被検血漿試料中のピルビン酸を高感度に定量するための血中のピルビン酸測定用キット、(なおピルビン酸測定用キットは、清酒の熟成度判定のためのキットとして用いることもできる。)
(c)乳酸オキシダーゼとペルオキシダーゼとの共役酵素反応を利用して生成Hを測定し被検血漿試料中の乳酸を高感度に定量するための乳酸測定用キット、
(d)コレステロールオキシダーゼとペルオキシダーゼとの共役酵素反応を利用して生成Hを測定し被検血液試料中のコレステロールを高感度に定量するためのコレステロール測定用キットなどが挙げられる。また、医療用ではないが、
(e)グルタミン酸オキシダーゼとペルオキシダーゼとの共役酵素反応を利用して生成Hを測定し被検食品試料中のグルタミン酸を検出又は定量するための食品の旨味分析用キットも挙げられる。
また、典型的な蛍光・発色測定キットとしては、各種脱水素酵素とDT-ジアホラーゼ(DTD)と、DTDの基質となる発光物質もしくは蛍光物質又はそれらの前駆体を組み合わせた蛍光・発色測定キットが挙げられる。例えば、発色物質のMTTテトラゾリウム塩は、NADHで還元されると紫色(最大波長565 nm)の還元型に変化するので、発色度を測定すると標的物質量又は標的酵素活性が正確に測定できる。
主として疾患との関連で被験者の血液など体液試料に適用する測定キット、検査キットとしてはこれらに限定されるわけではないが、以下の様なキットが例示できる。
(f)グルコース脱水素酵素(GDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料もしくは食品試料中のグルコースを定量するか、又は血中GDH活性を測定するための測定キット、検査キット、
(g)グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料中のグルコース-6-リン酸を定量するか、又は血中G6PDH活性を測定するための測定キット、検査キット、
(h)アルコール脱水素酵素(ADH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料もしくは食品試料中のアルコールを定量するか、又は血中ADH活性を測定するための測定キット、検査キット、
(i)乳酸脱水素酵素(LDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料もしくは食品試料中の乳酸を定量するか、又は血中LDH活性を測定するための測定キット、検査キット、
(j)ソルビトール脱水素酵素(SDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料もしくは食品試料中のソルビトールを定量するか、又は血中SDH活性を測定するための測定キット、検査キット、
(k)グリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料中のグリセロールリン酸を定量するか、又は血中GPDH活性を測定するための測定キット、検査キット
(l)リンゴ酸脱水素酵素(MDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検血液試料もしくは食品試料中のリンゴ酸を定量するか、又は血中MDH活性を測定するための測定キット、検査キットなどが挙げられる。
また、下記の(m)及び(n)は、被検試料中のフルクトース、キシリトールの定量にも用いることができるが、むしろ主としてNAD(P)Hの電気化学酸化を利用した酵素電池(アノード電極)として期待される。酵素電池としては、(f)~(l)を用いることもできる。さらに、(f)~(o)はいずれも脱水素酵素の基質を検出、定量するバイオセンサーとしての用途もある。
(m)フルクトース脱水素酵素(FDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのSi-tagを介したメソポーラスシリカ複合体を含む系にDTDの基質となるキノン類及びフェロセン類などの電子伝達メディエーターを添加して酵素電池のアノード電極とすることができる。同様に、
(n)キシリトール脱水素酵素(XDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)と前記電子伝達メディエーターとを組み合わせれば、酵素電池のアノード電極とすることができる。
また、
(o)ギ酸脱水素酵素(FDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)とのNAD(P)H/NAD(P)再生系共役酵素反応を利用した、被検食品試料中のギ酸を定量するか、又は食品中FDH活性を測定するための測定キット、検査キットとして用いられる。
その他、ホスホエノールピルビン酸の二酸化炭素によるカルボキシル化反応を触媒するホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)とリンゴ酸脱水素酵素(MDH)とのカスケード反応を利用して、環境試料などの被検試料中の二酸化炭素濃度を測定するための測定キットを提供することができる。
(7-3)酵素Aの反応基質から有用物質を製造するためのキット又はバイオリアクター(装置)
本発明の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を、有用物質の原料を基質とする酵素Aの酵素反応に適用すれば、酵素Bの酵素反応と共役的に効率よく働かせることができるので、酵素Aの基質から有用物質を大量生産できる。本発明の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体はそのためのキット又はバイオリアクター(装置)の構成要素として用いることができる。
具体的には、これらに限定されるわけではないが、例えばカルボニル還元酵素(CR)と脱水素酵素(グルコース脱水素酵素(GDH)、ソルビトール脱水素酵素(SDH)等)の共役酵素反応による光学活性アルコールの高効率合成が可能となる。
典型的には、(R)-体の光学活性アルコールに還元することが可能なNADH依存型カルボニル還元酵素(RCR)とGDH又はSDHとを組み合わせ、2-ヒドロキシアセトフェノンを反応基質とすることで、(R)-1-フェニル-1,2-エタンジオールを製造することができる。(R)-1-フェニル-1,2-エタンジオールは、(R)-PED:フルオキセチン(抗鬱薬)のキラルビルディングブロックとして有用である。
また、グルタミナーゼとグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)との共役酵素反応を利用し、グルタミンを原料としてγ-アミノ酸(GABA)を製造するためのキット又はバイオリアクターが提供できる。GABAは、脳内の抑制性神経伝達物質として機能する物質であり、脳内で不足するとIDDMの発症に繋がり、膵臓では、β細胞でインスリンやソマトスタチンなどの分泌制御に関わっているとされている有用物質であり、化成品原料(ポリアミド4)としての活用も期待されている。
グルタミナーゼ、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)にさらにγ-アミノブチルアルデヒド脱水素酵素(ABALDH)を加えた3種類の酵素のカスケード反応を利用すれば、「4-アミノブタナール」を製造するためのキット又はバイオリアクターが提供できる。
「4-アミノブタナール」は、茶豆特有の香り成分(2-アセチル-1-プロリン)の原料となる。
(7-4)環境中の環境汚染物質や毒性物質を分解するためのキット又はバイオリアクター(装置)
本発明の酵素A-酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体は、環境中に存在する酵素Aの反応基質となる環境汚染物質や毒性物質を効率的に分解することができ、そのためのキット又はバイオリアクター(装置)として用いることができる。
例えば、これらに限定されるわけではないが、産業排水中の難分解性化学染料であるアゾ染料(メチルレッドなど)を、アゾ還元酵素(AzoR)とグルコース脱水素酵素(GDH)のSi-tag融合体とメソポーラスシリカ複合体を緩衝液などと組み合わせてアゾ染料(メチルレッドなど)分解用キットとすることができ、当該メソポーラスシリカ複合体をカラムなどに詰めてアゾ染料分解用バイオリアクターとすることもできる。
8.脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼの固定化
(8-1)本発明の対象とする脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼ
本発明の脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼは、Si-tag又はその断片を介してメソポーラスシリカの細孔内に安定かつ強固に固定化されており、高効率に物質変換反応を行う。
そのような典型的な脱炭酸酵素及びカルボキシラーゼとしては、反応基質の脱炭酸反応とカルボキシル化反応の双方の触媒能を有するアミノ酸脱炭酸酵素である、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)が挙げられる。その他の脱炭酸酵素として、ピルビン酸脱水素酵素、ヒドロキシアミノ酸脱水素酵素、ピルビン酸脱炭酸酵素、ヒスチジン脱炭酸酵素、オルニチン脱炭酸酵素等、また、カルボキシル化反応を触媒する酵素として、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)等による物質変換反応が挙げられる。例えば、ピルビン酸脱水素酵素を利用したピルビン酸の脱炭酸反応により合成されるアセチルCoAは、コエンザイムQ10等のサプリメントの原料として有用である。
また、上述の通り、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)及びリンゴ酸脱水素酵素(MDH)等の異種酵素の組み合わせによるカスケード反応は、二酸化炭素濃度の測定に利用できる。さらに、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)は、グルタミナーゼ、又は、γ-アミノブチルアルデヒド脱水素酵素(ABALDH)等と組み合わせた異種酵素によるカスケード反応に適用可能であり、多段階の物質変換反応を実行できる。
(8-2)グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)について
グルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)は、水系反応においてグルタミン酸を脱炭酸しγ-アミノ酸(GABA)に変換する酵素であり、生体内では脳及び膵臓のランゲルハンス島細胞に高濃度で存在する。
上述したようにGABAには、IDDMの発症抑制やインスリンやソマトスタチンなどの分泌制御、化成品原料(ポリアミド4)などの活用が期待されている。一方、GADは、非水系反応ではグルタミン酸のカルボキシル化を促し、近年、人工的な血液凝固剤及び骨等としての利用が期待されているγ-カルボキシグルタミン酸を合成する。また、上述の通り、その他の酵素と組み合わせた共役酵素反応による有用物質の生産が可能である。
本実施例では、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)として、Escherichia coli由来のGADβ(六量体、アミノ酸残基数:466、分子量(単量体):約50kD、配列番号7)を用いた。
GADへのSi-tag又はそのN末及び/又はC末側断片との融合方法、及びメソポーラスシリカへの固定化方法は上記1.~6.に記載の方法と同様である。
本実施例では、GADβ(配列番号7)のN末端側に「Si-tag-NT60」を融合させた「Si-tag-NT60-GADβ」を用いたが、当該N末側断片には限られない。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した先行技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
(製造例1)メソポーラスシリカ(シリカ系ナノ空孔材料)の製造
(1-1)FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:2.6、4.2、8.0nm)の合成
中心細孔直径8.0nmを有するFSM型メソポーラスシリカについては卜部らの方法(Y. Urabe et al., ChemBioChem, vol.8, pp.668-674 (2007))を参考にして合成した。
具体的には、ドコシルトリメチルアンモニウムクロライド(10g、ライオン・アクゾ社製)を、70℃の水125ミリリットルに添加し、溶解後、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン(7.5g、アルファエイサー社製)を添加し、70℃に加熱しながら、ホモミキサーで30分間撹拌(3000rpm)した。これに、予め、カネマイト(トクヤマシルテック社製)6.67gを溶解した80℃の水131ミリリットルを更に添加し、70℃に加熱しながら、ホモミキサーで2時間撹拌(3000rpm)した。これに、2規定塩酸を約1時間かけて添加し、pH8.5の状態で、約3時間撹拌(3000rpm)した。
一方、中心細孔直径2.6、又は4.2nmを有するFSM型メソポーラスシリカは、稲垣らの方法(S. Inagaki et al., J. Chem. Soc. Chem. Commun., pp.680-682 (1993))を参考にして、合成した。
具体的には、まずヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(3.2g、東京化成工業社製)、或いは、ドコシルトリメチルアンモニウムクロライド(4.24g、ライオン・アクゾ社製)を、70℃の水100ミリリットルに添加し、溶解後、カネマイト(トクヤマシルテック社製)5gを更に添加し、ホットスターラーを用いて70℃に加熱しながら、3時間撹拌した。これに、2規定塩酸を約1時間かけて添加し、pH8.5の状態で、約3時間撹拌した。
これらを、吸引濾過した後、70℃の熱水400ミリリットルに再分散して濾過する工程を3回繰り返してから風乾した。これを、45℃で3日間乾燥した後、550℃で6時間焼成することにより、2.6nm(FSM2.6)、4.2nm(FSM4.2)、又は、8.0nm(FSM8.0)の中心細孔直径を有するメソポーラスシリカを得た。
(1-2)SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:5.4、8.1、10.6nm)の合成
前記のZhaoらの方法を参考にして、Pluronic P123(ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(BASF社製))(10g)を、水300ミリリットルに添加し、35℃で一晩撹拌し溶解させた後、これに、塩酸21.87g及びオルトケイ酸テトラエチル(和光純薬工業社製)21.32gを更に添加し、ホットスターラーを用いて35℃に加熱しながら、約20時間撹拌した。これを、異なる合成温度(a:35℃、b:100℃、又は、c:130℃)で24時間静置した。
これを、吸引濾過した後、80℃の熱水400ミリリットルに再分散して濾過する工程を3回繰り返してから風乾した。これを、45℃で3日間乾燥した後、時間あたり105℃の速度で550℃まで昇温させ、更に、これを、550℃で10時間焼成することにより、5.4nm(SBA5.4)、8.1nm(SBA8.1)、又は、10.6nm(SBA10.6)の中心細孔直径を有するメソポーラスシリカを得た。なお、図1に、類似のSBA型メソポーラスシリカ、及び、典型的なSBA microsphere型、FSM型のメソポーラスシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)の像を示す。
(実施例1)AzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造及び酵素反応
本実施例では、各種メソポーラスシリカに対するアゾ還元酵素(AzoR:配列番号5)及びグルコース脱水素酵素(GDH:配列番号6)の固定化と酵素活性の評価を行った。図2に、メソポーラスシリカの規則性細孔(シリカ細孔)に固定化したAzoR及びGDHを備えたAzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体のうちAzoRと難分解性化学染料(アゾ染料:メチルレッド)が相互作用し、更に、GDHによる補酵素(NADH)の再生系を組み込み酸化型NADから還元型NADHに再生することができるようになった結果、アゾ染料が高効率かつ持続的に分解される様子を模式的に表した説明図を示す。
(1-1)AzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造
<AzoR及びGDHのメソポーラスシリカへの固定化>
酵素の固定化支持体には、メソポーラスシリカとして、(製造例1)により得られた中心細孔直径の異なる2種類のメソポーラスシリカ:1)FSM-22(中心細孔直径:8.0nm)及び2)SBA-15(中心細孔直径:8.1nm)を使用した。また、比較のための非多孔質球状シリカとして、シーホスター KE-S100(日本触媒社製、平均粒子径:0.76μm)を使用した。
また、シリカ結合タンパク質(Si-tag)として、Escherichia coli由来のribosomal protein L2(アミノ酸残基数:273、分子量:約30kD)(以下、単に「Si-tag」ともいう。)、及び、上記ribosomal protein L2のC末端側配列(アミノ酸残基数:71)からなるSi-tagのC末側断片(「Si-tag-CT71」ともいう。)を適用し、「Si-tag」を融合させたアゾ還元酵素(AzoR)及び「Si-tag-CT71」を融合させたグルコース脱水素酵素(GDH)を遺伝子組換え大腸菌を利用したタンパク発現系により作製した。
具体的には、アゾ還元酵素としてEscherichia coli由来のAzoR(二量体、アミノ酸残基数:201、分子量(単量体):約23kD)を用いた。まず、AzoR遺伝子をpET100/D-TOPOベクターに挿入し、そのN末端側にリンカー(配列番号8)を介して上記「Si-tag」遺伝子を融合させて「Si-tag-AzoR」遺伝子を合成した。
グルコース脱水素酵素(GDH)としては、Bacillus megaterium由来のGDH(四量体、アミノ酸残基数:261、分子量(単量体):約28kD)のN末端側に上記「Si-tag-CT71」を融合させた「Si-tag-CT71-GDH」の遺伝子をサーモフィッシャーサイエンティフィック社の人工遺伝子合成サービス「Gene Art」により合成した。「Si-tag-AzoR」及び「Si-tag-CT71-GDH」は、前記合成遺伝子を組換え大腸菌に導入し、大腸菌タンパク発現系を利用して製造した。Si-tagを融合していないBacillus sp.由来のGDHは和光純薬工業社から購入した。
<AzoR及びGDHのメソポーラスシリカ複合体によるアゾ染料の還元分解反応の実験手順>
アゾ還元酵素(AzoR)及びグルコース脱水素酵素(GDH)による補酵素再生系を利用したアゾ染料(メチルレッド)の還元分解反応の概略は、図3(a)に示すとおりである。
AzoR及びGDHをSi-tagを介して又は介さずにメソポーラスシリカに固定化したメソポーラスシリカとの複合体の製造法、メチルレッドの分解反応、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順(図3(b))を示す。
<Si-tagを介した酵素-メソポーラスシリカ複合体の製造方法>
図3(b)に記載の手順に従い、Si-tag-AzoR(3μg)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 7.5))0.1mLと、予めマイクロチューブに量り取ったシリカ微粒子粉末(FSM-22又はSBA-15)0.5mgとを、ローテーターを用いて17時間以上4℃で穏やかに混合することによって、AzoR-メソポーラスシリカ複合体を得た。以下、「Si-tag-AzoR-FSM」又は「Si-tag-AzoR-SBA」という。
同様の手順を、Si-tag-AzoR(3μg)及びGDH(3μg)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 7.5))0.1mLとの混合液0.2mLと、シリカ微粒子粉末(FSM-22又はSBA-15)0.5mgとに適用してAzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体を得た。以下、「Si-tag-AzoR-GDH-FSM」又は「Si-tag-AzoR-GDH-SBA」という。
さらに、同様の手順を、Si-tag-AzoR(3μg)及びSi-tag-CT71-GDH(3.8μg)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 7.5))0.1mLとの混合液0.2mLと、メソポーラスシリカ微粒子粉末(FSM-22又はSBA-15)0.5mgとに適用してAzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体を得た。以下、「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-FSM」又は「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-SBA」という。
比較のために非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いて、同様の手順によりそれぞれの複合体を得た。以下、「Si-tag-AzoR-KE-S100」「Si-tag-AzoR-GDH-KE-S100」または「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-KE-S100」という。(これらをあわせて「酵素-シリカ微粒子複合体」ということもある。)
<強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下でのSi-tagを介した酵素-メソポーラスシリカ複合体の製造方法>
次いで、図3(b)記載の酵素固定化による複合体の製造方法として、酵素の固定化及び洗浄のいずれも強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で行った。
具体的には、Si-tag-AzoR(3μg)と共にSi-tag-CT71-GDH(3.8μg)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)0.2mLと、予めマイクロチューブに量り取ったシリカ微粒子粉末0.5mgとを、ローテーターを用いて17時間以上4℃で穏やかに混合した後、遠心分離を行い、上清を全て除去することによって、酵素-シリカ微粒子複合体の前駆体を得た。
続いて、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて約5秒間室温で攪拌し、前記酵素-シリカ微粒子複合体の前駆体を再懸濁した後、遠心分離を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。再び、前記洗浄用緩衝液1mLを用いて洗浄操作を繰り返し、さらに25mM Tris-HCl(pH 7.5)0.2mLを用いて再懸濁し、最終的に、強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で固定化した「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-FSM(SBA)」並びに「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-KE-S100」を得た。
(1-2)メチルレッドの分解活性の評価
(1-1)で得られたAzoR-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体などの各種複合体それぞれの酵素活性を、反応基質としてのアゾ染料(メチルレッド)及びグルコースを添加して補酵素再生系を働かせ、メチルレッドの分解率(脱色率)により評価した。
具体的には、図3(b)に示したように、(1-1)で得られた「Si-tag-AzoR-FSM(SBA)」などの各種複合体それぞれに対して、以下の酵素反応を起こさせ、それぞれのメチルレッドの脱色率を測定した。
酵素反応は、分光光度計用セル内においてあらかじめマイクロ撹拌子を用いて撹拌(250rpm)しながら30℃で10分間の予備加温を行ったメチルレッド、グルコース、また、補酵素を含んだ反応基質(2.9mL、あるいは、2.8mL)に対して、上記AzoR-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の分散液0.1mL、又は、上記AzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の分散液0.2mLを添加することによって開始した。
その際、最終反応組成が、「25mM Tris-HCl(pH 7.5)、0.1mM メチルレッド、0.1mM NADH、1μM FMN、10mM グルコース、1μg/mL AzoR、1~1.3μg/mL GDH、反応液量:3mL」となるように調整した。
反応条件は、マイクロ撹拌子を用いて撹拌(250rpm)しながら30℃で60分間の加温状態を保持することとした。本反応には、分光光度計(島津製作所社製、UV-2450)を使用し、430nm、または、340nmの吸光度変化を観測することによって、メチルレッドの分解率(脱色率)、または、NADHの消費率及び再生率を評価した。
次いで、反応後の固定化酵素サンプルを遠心分離によって回収し、上清を除去した後、新しい反応基質溶液を添加することによって、反応2回目以降の酵素活性測定を行った(再利用性評価)。
さらに、反応評価後の固定化酵素サンプルにSDS-sample buffer(20μL)を加えた後、95℃で5分間加温し、遠心分離後の上清をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で解析することによって、シリカ微粒子からの酵素の脱離の程度を評価した。
(実施例2)異種酵素の活性評価(Si-tag融合AzoR及びSi-tag未融合GDHの場合)
(2-1)メソポーラスシリカへの固定化による酵素活性低下の抑制効果
実施例(1-2)の通り、遊離の未固定の異種酵素(Si-tag-AzoR及びGDH)、又はこれら異種酵素と各種シリカ粒子との複合体を用いて、メチルレッド及びグルコースを反応基質としたメチルレッド分解反応(30℃、60分間)を行い、脱色率を経時的に測定した(図4)。図4における白丸印は、混和した直後の未固定の異種酵素を用いた場合、黒丸印は、4℃で一晩混和した後の未固定の異種酵素を用いた場合、白菱形印は、AzoR-GDH-Si-tag-FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、黒菱形印は、AzoR-GDH-Si-tag-SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、また、白三角印は、AzoR-GDH-Si-tag-非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合を示す。
また、図中、破線は、未固定の遊離Si-tag-AzoRのみを用いた場合のメチルレッドの脱色率(約30%)、である。
その結果、いずれの場合も、未固定のSi-tag-AzoRを単独で用いた場合の脱色率(約30%)よりも高いメチルレッドの脱色率が認められており、これは、GDHの補酵素再生活性の発現に伴うメチルレッド分解反応の促進を示している(図4)。
未固定の異種酵素(Si-tag-AzoR及びGDH)を用いた場合、混和直後にメチルレッドの分解反応を行った場合には反応60分後の脱色率(100%)であったが、異種酵素を混和して一晩放置後に分解反応に用いた場合には、異種酵素間の凝集体形成が引き起こされ、脱色率の大幅な低下が示された(脱色率:37%)。
一方、固定化酵素では、酵素の固定化操作時に一晩、混和しているにもかかわらず、凝集体形成は起こさず、AzoR-GDH-Si-tag-KE-S100複合体では、反応活性の増大が示され(脱色率:51%)、AzoR-GDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体では、さらに著しい反応活性の促進効果が認められた(脱色率:83%(FSM型)、77%(SBA型))。
(2-2)メソポーラスシリカ固定化酵素における補酵素再生系の共役効果
単一酵素(Si-tag-AzoR)、又は異種酵素(Si-tag-AzoR及びGDH)を、遊離の状態で反応させた場合、及び各種シリカ粒子に固定化した場合のそれぞれについて、実施例(1-2)の通り60分間反応させてメチルレッドの脱色率(反応1回目)を測定し、次いで同じ系を繰り返し再利用した場合のメチルレッドの脱色率(反応2回目)を測定し、その反応終了後にシリカ粒子からの酵素の脱離を評価した(図5(a))。その際、シリカ粒子としては、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、及び非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用い、異種酵素を固定化する際には、Si-tag-AzoR及びGDHを同時にシリカ粒子に一晩混和させて吸着させた。
その結果、3種類のSi-tag-AzoR-GDH-シリカ微粒子複合体において、Si-tag-AzoRのみを固定化した場合と比較してより高いメチルレッドの脱色率が認められ、これは、Si-tag-AzoR-GDH-シリカ微粒子複合体が固定化状態にもかかわらず、異種酵素の双方の活性を有していることを示している。特に、2種類のメソポーラスシリカに固定化した異種酵素では、一晩、混和した後の未固定の異種酵素の場合(脱色率:37%)よりも2倍以上高いメチルレッドの分解活性が示された(脱色率:83.2%(FSM型)、76.8%(SBA型))。
これらの実験結果は、Si-tag-AzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体が酵素の凝集体形成を抑制しながら異種酵素を安定的に固定化できるという、酵素の凝集失活の抑制能を有している結果、酵素活性が著しく向上した可能性を示している。しかし、反応1回目の後に回収した固定化酵素を再び反応に使用した結果、Si-tag-AzoRのみを固定化した場合と同等のメチルレッドの脱色率が示され、さらに、反応後のシリカ粒子からの酵素の脱離を調べた結果、特に、GDHが脱離しやすく、大半のGDHが反応系外に排除されている可能性が示唆された。以上より、Si-tag-AzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体が反応1回目においては極めて高い反応活性を発現するが、回収した固定化酵素の再利用性は低いことが明らかとなった。
(2-3)メソポーラスシリカへの固定化順序の検討
(2-2)の結果で、Si-tagと融合させていないGDHは、メソポーラスシリカの場合であっても反応2回目に繰り返し使用した場合に脱離してしまったことから、本実施例では予めGDHをメソポーラスシリカに固定化させてから、Si-tag-AzoRの固定化を行った。
具体的には、FSM又はSBA粒子とGDHを一晩混和し、次いでSi-tag-AzoRを加えて一晩混和したSi-tag-AzoR-GDH-メソポーラスシリカ複合体を用いて、(2-2)と同様の実験を行った。
その結果、2回の繰り返し反応後でもGDHの脱離は認められなかったものの、反応1回目からメチルレッドの分解活性が低く、GDHの補酵素再生能が効率良く機能しなかったことが示された(図5(b))。このことから、GDHをSi-tagと融合していない状態でメソポーラスシリカの細孔内にまず固定化してしまうと、Si-tag-AzoRが細孔内でGDHと共役的反応可能な位置にもはや配置できないことが推察された。
(実施例3)Si-tag融合GDHの調製および特性評価(比活性、シリカ吸着能)
(3-1)Si-tag又はその断片とGDHとの融合体の調製
(実施例2)の結果を受けて、GDHについてもSi-tag融合GDHを用いることを検討した。しかし、GDHは四量体で分子量も大きいため、各単量体のN末端にSi-tagを融合したSi-tag-GDHはさらにサイズが大きく、特に細孔径の小さいメソポーラスシリカの場合に、その高次構造を保ったままで細孔内へ固定化することが難しいことが予想された。
そこで、本実施例では、Si-tag(全長)を融合させたSi-tag-GDHと共に、Si-tagのC末端側断片及びN末端側断片との融合体についても調製し、その特性を調べることとした。
まず、Si-tagのC末端側断片としてSi-tagのC末端側配列の71アミノ酸残基(配列番号3)をGDHに融合したSi-tag-CT71-GDHを、またSi-tagのN末端側配列の60アミノ酸残基(配列番号2)が融合したSi-tag-NT60-GDHを、大腸菌タンパク発現系により製造した。
詳細には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社の人工遺伝子合成サービス「Gene Art」を利用して、各配列の合成遺伝子をpET302/NT-Hisベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に挿入したSi-tag-GDH-pET302/NT-His(7288塩基対)、Si-tag-CT71-GDH-pET302/NT-His(6682塩基対)、及びSi-tag-NT60-GDH-pET302/NT-His(6649塩基対)を作製した。
上記プラスミドDNAにより形質転換した大腸菌(One Shot BL21 Star DE3 chemically Competent Cells、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により目的の酵素を発現させ、得られた各Si-tag融合GDHを、His-tag融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体(Ni Sepharose 6 Fast Flow、GEヘルスケア・ジャパン社製)で精製した。
得られた3種類のSi-tag融合GDHのタンパク濃度を図6の(a)に示す。
各種GDHのタンパク濃度は、Si-tagを融合していないGDH(Normal GDH)で最も高くなり、Si-tag融合GDHでは付加されたSi-tagのアミノ酸残基数に反比例したタンパク濃度の増減が示された。なお、図中Normal GDHは、Si-tag未融合GDHである。
また、精製後の酵素(各2μg)のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の解析結果から見て、Si-tag-GDH、Si-tag-CT71-GDH、Si-tag-NT60-GDHのいずれも正しく合成されている(図6(c))。
(3-2)各Si-tag融合GDHの比活性の比較
Si-tag-GDH、Si-tag-CT71-GDH、Si-tag-NT60-GDH及びNormal GDHのそれぞれを、基質のグルコース(10mM)及びβ-NAD(3mM)を含む25mM Tris-HCl(pH 7.5)緩衝液中に添加し、「酵素濃度:31.6nM、反応液量:3mL、反応温度:30℃、反応時間:60分間」の条件で反応させた。酵素反応中、分光光度計用セル内においてマイクロ撹拌子を用いて反応溶液を撹拌(250rpm)しながら経時的に吸光度を測定し、1分間に1μmolのNADHを生成する酵素量(又はモル数)を1unitとし、酵素活性(比活性)を評価した。
反応開始後5~10分間における340nmでの吸光度変化から、それぞれのNADH生成量を測定し、比活性を求めて比較したところ、酵素の比活性は、Si-tag-CT71-GDHが最も高かった(図6(b))。
(3-3)シリカ粒子への吸着能の比較
各Si-tag-GDHのシリカ表面への結合活性を調べるために、細孔を有さない非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用い、各Si-tag融合体及び未融合GDHのシリカ粒子への吸着能を評価した(図7)。
具体的には、各種GDH(15μg)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)0.5mLと、予めマイクロチューブに量り取った非多孔質球状シリカ(KE-S100)粉末100mgとを、ローテーターを用いて1時間、室温で穏やかに混合した後、遠心分離(15,000~20,000G、5分間)を行い、上清を回収した。続いて、この上清及び吸着操作前の酵素溶液0.5mLに対して、SDS-PAGE Sample Prep Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)による精製を行った後、SDS-PAGEに供した。
一方、遠心分離後に沈殿したシリカ粒子に対して、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて約5秒間室温で攪拌することで前記沈殿シリカ粒子を再懸濁した後、ローテーターを用いて10分間、室温で穏やかに混合し、続いて、遠心分離(15,000~20,000G、5分間)を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。再び、前記洗浄用緩衝液1mLを用いて洗浄する工程を2回繰り返し、さらに、25mM Tris-HCl(pH 8)1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて再懸濁した後、遠心分離(15,000~20,000G、5分間)を行い、上清を全て除去した。最終的には、洗浄後の沈殿シリカ粒子にSDS-sample buffer(0.2mL)を加えた後、95℃で5分間加温し、遠心分離後の上清をSDS-PAGEに供した。
図中、レーン1、4、7、10は、吸着操作前の各種GDH、レーン2、5、8、11は、吸着操作後の上清、また、レーン3、6、9、12は、GDHとKE-S100との複合体をSDS sample buffer中で加熱処理(95℃、5分間)した後の上清、をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で解析した結果である。また、図中、(a)は、Si-tag未融合GDH(Normal GDH)の場合、(b)は、Si-tagの全配列が融合したGDH(Si-tag-GDH)の場合、(c)は、Si-tagのC末端側配列の71アミノ酸残基が融合したGDH(Si-tag-CT71-GDH)の場合、また、(d)は、Si-tagのN末端側配列の60アミノ酸残基が融合したGDH(Si-tag-NT60-GDH)の場合、である。
その結果、Si-tagを融合していないGDH(Normal GDH)では吸着操作後の上清に未吸着の酵素の存在を示唆する32kDa付近のバンドが示され(レーン2)、シリカ粒子への酵素の結合は認められなかった(レーン3)のに対して、3種類のSi-tag融合GDHでは吸着操作後の上清に酵素は遊離しておらず(レーン5、8、11)、当該融合酵素がシリカ粒子に対する高い吸着能を有していることが明瞭に示された(レーン6、9、12)。
シリカ粒子への吸着能については、Si-tag-CT71-GDH及びSi-tag-NT60-GDHのいずれも全長Si-tagと遜色なく高い吸着能が確認された。そこで、以下の実験では、前記(3-2)の比活性比較実験で最も高い酵素活性を有し、かつNormal GDHの約2倍の比活性を有するSi-tag-CT71-GDH(図6(b))を用いた。
(実施例4)異種酵素の活性評価(Si-tag融合AzoR及びSi-tag-CT71融合GDHの場合)
本実施例では、(実施例2)で用いた「Si-tag-AzoR」と共に、(実施例3)で検討した「Si-tag-CT71-GDH」を含む緩衝液を用い、実施例(1-1)の方法に従って、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、及び非多孔質球状シリカ(KE-S100)の各微粒子に対して固定化処理を行い、3種類の「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-シリカ微粒子複合体」を形成させた。
コントロールとして遊離の未固定「Si-tag-AzoR」及び「Si-tag-CT71-GDH」を用い、実施例(2-1)と同様のアゾ染料(メチルレッド)脱色実験を行い、反応60分後のメチルレッドの脱色率(反応1回目)、また、固定化酵素を繰り返し再利用した場合のメチルレッドの脱色率(反応2回目)を評価した(図8)。なお、未固定の遊離酵素による脱色反応は、一晩、混和した後の脱色率を測定した。
その結果、3種類のSi-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-シリカ微粒子複合体のいずれもが未固定酵素の場合(41.3%)よりも2倍以上高い分解活性を示した。特にメソポーラスシリカでは、FSM型で脱色率:97.6%、SBA型で98.5%もの分解活性であったばかりか、反応2回目においても反応1回目の8割程度の活性を保持した(FSM:75.9%、SBA:76.8%)。
図5(a)及び図8の実験結果を、まとめたグラフを図9の(a)(b)に示す。図中、白丸印は、単一酵素(Si-tag融合AzoR)を用いた場合、黒丸印は、異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag未融合GDH)を用いた場合、また、白菱形印は、異種酵素(Si-tag融合AzoRとSi-tag-CT71融合GDH)を用いた場合、である。また、図中、(a)は、反応1回目のメチルレッドの脱色率、また、(b)は、固定化酵素を繰り返し再利用した反応2回目のメチルレッドの脱色率、である。
図9(a)によれば、遊離の未固定の異種酵素(Si-tag-AzoR-GDH、あるいは、Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH)によるメチルレッドの脱色率は、Si-tag-AzoR単独の場合と同等であり、酵素の凝集体形成に起因する酵素活性の低下の可能性が示された。一方、シリカ粒子に固定化した異種酵素では、酵素の凝集失活が抑制され、補酵素再生系が効率良く機能した結果、メチルレッドの脱色率が著しく向上した。特に、双方の酵素にSi-tagを融合したSi-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDHを用い、さらに2種類のメソポーラスシリカ(FSM型及びSBA型)と融合した場合に酵素活性が飛躍的に向上し(図9(a))、また、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)も改善された(図9(b))。
これらの実験結果より、メソポーラスシリカ複合体を用いる場合、共役的な酵素反応を行う異種酵素のいずれか少なくとも1つをSi-tag融合体とすることで、酵素の凝集体形成を抑制しながら固定化異種酵素間の共役的な酵素反応により、酵素活性が高まる効果(図4及び5)が追認できた。さらに、当該異種酵素のそれぞれをSi-tag特異的にシリカ表面と結合したことで、メソポーラスシリカの細孔内で両酵素の触媒部位を配向制御でき、反応基質との接触頻度が増大した結果、共役的な酵素反応が効率的に行われ、酵素活性が飛躍的に向上することが確認でき、その共役的な酵素反応活性の向上効果は2回の繰り返し使用にも耐えられることがわかった(図8)。また、Si-tag融合した酵素では、反応2回目でもシリカ粒子からの脱離を抑制できる(図5、図8)ため、固定化酵素の再利用性が著しく向上する。
また、メソポーラスシリカのシリカ細孔は、メチルレッドの分解反応における異種酵素の凝集体形成の抑制場および酵素活性を安定の保持することで異種酵素機能を最大限に発揮させることのできる酵素の集積組立場として好適であることが判明した。さらに、Si-tagを融合した異種酵素(Si-tag-AzoR及びSi-tag-CT71-GDH)をシリカ細孔に固定化することにより、補酵素再生系を組み込んだ酵素反応における反応活性および再利用性の向上効果が認められた。
(実施例5)異種酵素の活性評価(Si-tag融合AzoR及びSi-tag-CT71融合GDHの固定化における塩および界面活性剤の影響)
本実施例では、異種酵素にSi-tag又はその断片の融合体の調製時と共に、シリカ粒子への固定化及び固定化後の洗浄操作時に、高濃度の塩及び界面活性剤の存在条件で行い、シリカ粒子への特異性を高めた場合について、酵素活性評価を行った。
(5-1)2回の繰り返し実験結果
(実施例4)の「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH」を、塩(0.5M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液(pH8)を用いて酵素溶液を調製し、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、非多孔質球状シリカ(KE-S100)に対して固定化し、同じ組成の緩衝液で洗浄した。
得られた各融合固定化酵素と、遊離の未固定「Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH」の反応1回目のメチルレッドの脱色率(図10(a))及び固定化酵素を繰り返し再利用した反応2回目のメチルレッドの脱色率(図10(b))を(実施例4)と同様に行った。
その結果、遊離の未固定の異種酵素(Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH)、また、3種類のSi-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-シリカ微粒子複合体によるメチルレッドの脱色率は、いずれも100%を示した。未固定酵素の反応組成は、その他の固定化酵素とは異なり、微量の塩(33mM塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.03% Tween20)が含まれており、厳密には同条件での反応評価といえないが、異種酵素溶液の調製時に、塩(0.5M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液(pH8)を使用したことによって酵素の凝集失活が抑制された結果、極めて高い酵素活性が発現した可能性が示された。同様に、シリカ粒子に固定化した異種酵素においても、異種酵素溶液の調製時、また、シリカ粒子への固定化及び固定化後の洗浄操作時に、塩(0.5M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液(pH8)を使用したことによって、凝集体を形成せず分散した状態の酵素をシリカ表面と相互作用することができるようになり、さらに、塩および界面活性剤、pHの違いによる効果によって、Si-tag特異的にシリカ表面と結合できる酵素の相対的な分子数が増大し、また、AzoR及びGDHの触媒部位を配向制御でき、反応基質との接触頻度が増大した結果、酵素活性が飛躍的に向上し(図10(a))、また、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)も改善され、反応2回目のメチルレッドの脱色率はいずれのシリカ粒子を用いた場合にも100%に達した(図10(b))。
(5-2)繰り返し耐久性(再利用性)試験
図11に、各種シリカ粒子に対する異種酵素(Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH)の固定化及び洗浄操作時に、塩(0.5 M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液を利用した場合の反応60分後のメチルレッドの脱色率について、図10(反応1、2回目)に対してさらに反応3~5回目の固定化酵素の繰り返し再利用の実験結果を追加し、繰り返し耐久性(再利用性)を評価した結果を示す。図中、白四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、黒菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、また、白三角印は、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合、である。
その結果、メチルレッドの分解反応における3種類のSi-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-シリカ微粒子複合体の繰り返し耐久性(再利用性)は、SBA型メソポーラスシリカを適用した場合が最も高く、次いで、FSM型メソポーラスシリカ、非多孔質球状シリカ(KE-S100)の順に再利用性が低下する傾向が示された。
(5-3)繰り返し使用持の酵素活性の経時変化
また、図12(a)~(d)に、図11の反応1~3回目の実験結果について、異種酵素(Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH)とシリカ粒子との複合体を用いたメチルレッドの分解反応(30℃、60分間)における脱色率の経時変化を示した結果を示す。図中、白四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、黒菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、また、白三角印は、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合、である。また、図中、(a)は、反応1回目、(b)は、反応2回目、(c)は、反応3回目、また、(d)は、反応3回目のメチルレッドの分解反応における各種固定化酵素の比活性の結果をまとめた表、である。
図12(a)~(c)より、固定化酵素の再利用回数が増大すると共にメチルレッドの脱色率が100%に達するまでに要する反応時間が延びており、すなわち、反応速度が徐々に低下する傾向が認められた。3種類のSi-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-シリカ微粒子複合体の反応速度は、SBA型メソポーラスシリカ、FSM型メソポーラスシリカ、非多孔質球状シリカ(KE-S100)の順に高く、図12(d)より、反応3回目の酵素の比活性は、KE-S100を用いた場合と比較して、SBA型メソポーラスシリカで5倍近く、また、FSM型メソポーラスシリカで約3倍増大した。この反応3回目の結果も勘案すれば、酵素の繰り返し耐久性に与えるメソポーラスシリカの優位性が認められたといえる。
以上の結果から、異種酵素(Si-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH)-メソポーラスシリカ複合体の調製において、異種酵素溶液の調製時、また、メソポーラスシリカへの固定化及び固定化後の洗浄操作時に、塩(0.5M 塩化ナトリウム)及び界面活性剤(0.5% Tween20)を含んだ緩衝液(pH8)を使用することにより、補酵素再生系を組み込んだ酵素反応における反応活性および繰り返し耐久性(再利用性)の飛躍的な向上効果が認められた。特に、固定化酵素の再利用性に関して、非多孔質球状シリカを用いた場合と比較して、メソポーラスシリカを用いた場合により優れた効果が認められ、メソポーラスシリカ細孔への固定化による異種酵素の安定性向上効果が確認された。
(実施例6)GADβ-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造及び酵素反応
本実施例では、各種メソポーラスシリカに対するグルタミン酸脱炭酸酵素(GADβ)の固定化と酵素活性の評価を行った。
(6-1)GADβ-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造
<GADβのメソポーラスシリカへの固定化>
酵素の固定化支持体には、メソポーラスシリカとして、(製造例1)により得られた中心細孔直径の異なる2種類のメソポーラスシリカ:1)FSM-22(中心細孔直径:8.0nm)及び2)SBA-15(中心細孔直径:8.1nm)を使用した。また、高アルミニウム含有メソポーラスシリカとして、C22-meso(中心細孔直径:6.1nm)、及び、比較のための非多孔質球状シリカとして、シーホスター KE-S100(日本触媒社製、平均粒子径:0.76μm)を使用した。
また、上記ribosomal protein L2のN末端側配列(アミノ酸残基数:60)からなるSi-tagのN末側断片(「Si-tag-NT60」)を融合させたグルタミン酸脱炭酸酵素(GADβ)を遺伝子組換え大腸菌を利用したタンパク発現系により作製した。
具体的には、グルタミン酸脱炭酸酵素としてEscherichia coli由来のGADβ(六量体、アミノ酸残基数:466、分子量(単量体):約50kD、配列番号7)のN末端側に上記「Si-tag-NT60」を融合させた「Si-tag-NT60-GADβ」の遺伝子をサーモフィッシャーサイエンティフィック社の人工遺伝子合成サービス「Gene Art」により合成した。「Si-tag-NT60-GADβ」は、前記合成遺伝子を組換え大腸菌に導入し、大腸菌タンパク発現系を利用して製造した。
<GADβ-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体によるグルタミン酸の脱炭酸反応の実験手順>
グルタミン酸脱炭酸酵素(GADβ)を用いたグルタミン酸の脱炭酸反応によるγ-アミノ酪酸(GABA)生成の概略は、図13(a)に示すとおりである。
GADβを固定化したシリカ微粒子(メソポーラスシリカ、あるいは、非多孔質球状シリカ)の製造法、グルタミン酸の脱炭酸反応、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順(図13(b))を示す。
<GADβ-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造方法>
図13(b)に記載の手順に従い、20mM グルタミン酸-100mM 塩酸エチルアミン(pH4)0.9mL、50mM DTT0.01mL、Si-tag-NT60-GADβ(128pmol)0.05mLの混合液(0.96mL)と、予めマイクロチューブに量り取ったシリカ微粒子粉末(FSM-22、SBA-15又はC22-meso)0.5mgとを、ローテーターを用いて10分間37℃で穏やかに混合することによって、GADβ-メソポーラスシリカ複合体を得ることができる。別法として、グルタミン酸-塩酸エチルアミン(pH4)及びDTTの混合液(0.91mL)と、シリカ微粒子粉末(FSM-22、SBA-15又はC22-meso)とを混和した後に、Si-tag-NT60-GADβ(128pmol)を添加し、ローテーターにより穏やかに混合することもできる。本実施例では、別法によりGADβ-メソポーラスシリカ複合体を得た。以下、「Si-tag-NT60-GADβ-FSM」、「Si-tag-NT60-GADβ-SBA」又は「Si-tag-NT60-GADβ-C22-meso」という。
比較のために非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いて、同様の手順によりそれぞれの複合体を得た。以下、「Si-tag-NT60-GADβ-KE-S100」という。
(6-2)グルタミン酸の脱炭酸によるγ-アミノ酪酸(GABA)の生成活性の評価
(6-1)で得られたGADβ-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体などの各種複合体それぞれの酵素活性を、反応基質としてのL-グルタミン酸、及び、生成物としてのγ-アミノ酪酸(GABA)の反応後のモル濃度により評価した。
具体的には、図13(b)に示したように、(6-1)で得られた「Si-tag-NT60-GADβ-FSM(SBA)(C22-meso)」などの各種複合体それぞれに対して、以下の酵素反応を起こさせ、それぞれのグルタミン酸及びGABAのモル濃度を測定した。
酵素反応は、定温恒温器内においてあらかじめローテーターを用いて穏やかに混和しながら37℃で10分間の予備加温を行った上記Si-tag-NT60-GADβ-シリカ微粒子複合体と反応基質との混合液(0.96mL)に対して、12.5mM PLP0.04mLを添加することによって開始した。
その際、最終反応組成が、「18mM グルタミン酸-90mM 塩酸エチルアミン(pH 4)、0.5mM PLP、50mM DTT、128pmol/mL GADβ、反応液量:1mL」となるように調整した。
反応条件は、ローテーターを用いて穏やかに混和しながら37℃で60分間の加温状態を保持することとした。反応開始後、1、5、10、15、30、60分間毎に0.1mLずつ反応液を採取し、この回収液を70℃で10分間加熱処理し、遠心分離した後の上清に含まれる反応基質(グルタミン酸)及び生成物(GABA)の定量を行った。本反応には、定温恒温器(SANYO社製、MIR-154)を使用した。また、グルタミン酸及びGABAの定量には、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社製、SpectraMax M2e)を使用し、L-グルタミン酸測定キットII(ヤマサ社製)、または、GABase(シグマアルドリッチ社製)を利用した反応系(GABaseアッセイ)における、600nm、または、340nmの吸光度を観測することによって、グルタミン酸、または、GABAのモル濃度を測定し、グルタミン酸の消費及びGABAの生成挙動を評価した。
次いで、固定化酵素サンプルの再利用性を評価する場合には、反応30分後の固定化酵素サンプルを遠心分離によって回収し、新しい反応基質溶液を添加することによって、反応2回目以降の酵素反応を開始した。この際、遠心分離によって回収された上清に対して、上記の定量法により酵素活性測定を行った。
(実施例7)Si-tag融合GADβの調製および特性評価(活性、シリカ吸着能)
(7-1)Si-tag又はその断片とGADβとの融合体の調製
GADβは六量体で分子量も大きいため、各単量体のN末端にSi-tagを融合したSi-tag-GADβはさらにサイズが大きく、特に細孔径の小さいメソポーラスシリカの場合に、その高次構造を保ったままで細孔内へ固定化することが難しいことが予想された。
そこで、本実施例では、Si-tag(全長)を融合させたSi-tag-GADβと共に、Si-tagのC末端側断片及びN末端側断片との融合体についても調製し、その特性を調べることとした。
まず、Si-tagのC末端側断片としてSi-tagのC末端側配列の71アミノ酸残基(配列番号3)をGADβに融合したSi-tag-CT71-GADβを、またSi-tagのN末端側配列の60アミノ酸残基(配列番号2)が融合したSi-tag-NT60-GADβを、大腸菌タンパク発現系により製造した。
詳細には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社の人工遺伝子合成サービス「Gene Art」を利用して、各配列の合成遺伝子をpET302/NT-Hisベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に挿入したSi-tag-GADβ-pET302/NT-His(7903塩基対)、Si-tag-CT71-GADβ-pET302/NT-His(7297塩基対)、及びSi-tag-NT60-GADβ-pET302/NT-His(7264塩基対)を作製した。
上記プラスミドDNAにより形質転換した大腸菌(One Shot BL21 Star DE3 chemically Competent Cells、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により目的の酵素を発現させ、得られた各Si-tag融合GADβを、His-tag融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体(Ni Sepharose 6 Fast Flow、GEヘルスケア・ジャパン社製)で精製した。
得られた3種類のSi-tag融合GADβのタンパク濃度を図14の(a)に示す。
各種GADβのタンパク濃度は、Si-tagを融合していないGADβ(NormalGADβ)で最も高くなり、Si-tag融合GADβでは付加されたSi-tagのアミノ酸残基数に反比例したタンパク濃度の増減が示された。なお、図中Normal GADβは、Si-tag未融合GADβである。
また、精製後の酵素(各2μg)のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の解析結果から見て、Si-tag-GADβ、Si-tag-CT71-GADβ、Si-tag-NT60-GADβのいずれも正しく合成されている(図14(b))。
(7-2)各Si-tag融合GADβの活性の比較
実施例(6-2)の方法に従って、Si-tag-GADβ、Si-tag-CT71-GADβ、Si-tag-NT60-GADβ及びNormal GADβの酵素活性を評価した。実験結果をまとめたグラフを図15の(a)(b)に示す。図中、白菱形印は、Normal GADβを用いた場合、黒四角印は、Si-tag-NT60-GADβを用いた場合、白丸印は、Si-tag-CT71-GADβを用いた場合、また、黒三角印は、Si-tag-GADβを用いた場合、である。また、図中、(a)は、反応基質(グルタミン酸)のモル濃度、(b)は、生成物(GABA)のモル濃度、である。
反応開始後1~60分間におけるグルタミン酸の消費(図15(a))及びGABAの生成(図15(b))における反応挙動を評価したところ、酵素活性は、Normal GADβが最も高く、次いで、Si-tag-NT60-GADβが高かった。
(7-3)シリカ粒子への吸着能の比較
各Si-tag-GADβのシリカ表面への結合活性を調べるために、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用い、各Si-tag融合体及び未融合GADβのシリカ粒子への吸着能を評価した(図16)。
具体的には、各種GADβ(15μg)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)0.5mLと、予めマイクロチューブに量り取った非多孔質球状シリカ(KE-S100)粉末100mgとを、ローテーターを用いて1時間、室温で穏やかに混合した後、遠心分離(15,000~20,000G、5分間)を行い、上清を回収した。続いて、この上清及び吸着操作前の酵素溶液0.5mLに対して、SDS-PAGE Sample Prep Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)による精製を行った後、SDS-PAGEに供した。
一方、遠心分離後に沈殿したシリカ粒子に対して、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて約5秒間室温で攪拌することで前記沈殿シリカ粒子を再懸濁した後、ローテーターを用いて10分間、室温で穏やかに混合し、続いて、遠心分離(15,000~20,000G、5分間)を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。再び、前記洗浄用緩衝液1mLを用いて洗浄する工程を2回繰り返し、さらに、25mM Tris-HCl(pH 8)1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて再懸濁した後、遠心分離(15,000~20,000G、5分間)を行い、上清を全て除去した。最終的には、洗浄後の沈殿シリカ粒子にSDS-sample buffer(0.5mL)を加えた後、95℃で5分間加温し、遠心分離後の上清をSDS-PAGEに供した。
図中、レーン1、4、7、10は、吸着操作前の各種GADβ、レーン2、5、8、11は、吸着操作後の上清、また、レーン3、6、9、12は、GADβとKE-S100との複合体をSDS sample buffer中で加熱処理(95℃、5分間)した後の上清、をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で解析した結果である。また、図中、(a)は、Si-tag未融合GADβ(NormalGADβ)の場合、(b)は、Si-tagの全配列が融合したGADβ(Si-tag-GADβ)の場合、(c)は、Si-tagのC末端側配列の71アミノ酸残基が融合したGADβ(Si-tag-CT71-GADβ)の場合、また、(d)は、Si-tagのN末端側配列の60アミノ酸残基が融合したGADβ(Si-tag-NT60-GADβ)の場合、である。
その結果、Si-tagを融合していないGADβ(NormalGADβ)では吸着操作後の上清に未吸着の酵素の存在を示唆する50kDa付近のバンドが示され(レーン2)、シリカ粒子への酵素の結合は認められなかった(レーン3)のに対して、3種類のSi-tag融合GADβでは吸着操作後の上清に酵素は遊離しておらず(レーン5、8、11)、当該融合酵素がシリカ粒子に対する高い吸着能を有していることが明瞭に示された(レーン6、9,12)。
シリカ粒子への吸着能については、Si-tag-CT71-GADβ及びSi-tag-NT60-GADβのいずれも全長Si-tagと遜色なく高い吸着能が確認された。そこで、以下の実験では、前記(7-2)の活性比較実験でNormal GADβに次いで高い酵素活性を有するSi-tag-NT60-GADβ(図15(a、b))を用いた。
(実施例8)Si-tag-NT60融合GADβ-メソポーラスシリカ複合体の活性評価 本実施例では、(実施例7)で検討した「Si-tag未融合GADβ(NormalGADβ)」及び「Si-tag-NT60-GADβ」を含む緩衝液を用い、実施例(6-1)の方法に従って、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)、C22-meso型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:6.1nm)、及び非多孔質球状シリカ(KE-S100)の各微粒子に対して固定化処理を行い、4種類の「NormalGADβ-シリカ微粒子複合体」、又は、4種類の「Si-tag-NT60-GADβ-シリカ微粒子複合体」を形成させた。
次に、前記の酵素複合体を用い、実施例(6-2)と同様のグルタミン酸の脱炭酸反応を行い、反応30分後の生成物(GABA)のモル濃度を指標として、反応10回分における固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した。実験結果をまとめたグラフを図17の(a)(b)に示す。図中、白四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、黒菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、白三角印は、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合、また、黒丸印は、C22-meso型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:6.1nm)を用いた場合、である。また、図中、(a)は、NormalGADβの場合、(b)は、Si-tag-NT60-GADβの場合、である。
その結果、4種類のNormalGADβ-シリカ微粒子複合体のいずれもが繰り返し回数が増大するとともにGABA濃度が低下する傾向が示され、KE-S100では、反応5回目でGABA生成能が認められなくなったが、3種類のメソポーラスシリカに固定化した場合では、反応10回目においてもGABA生成能の残存が認められた(図17(a))。特にメソポーラスシリカでは、反応10回目におけるGABAの反応収率がFSM型で29.4%、SBA型で44.5%、C22-meso型で15.1%もの生成活性を保持した。
一方、NormalGADβ-シリカ微粒子複合体の結果と同様に、4種類のSi-tag-NT60-GADβ-シリカ微粒子複合体のいずれもが繰り返し回数が増大するとともにGABA濃度が低下する傾向が示されたが、KE-S100及び3種類のメソポーラスシリカに固定化した場合のいずれにおいても反応10回目でのGABA生成能の残存が認められた(図17(b))。反応10回目におけるGABAの反応収率がFSM型で58.1%、SBA型で58.3%、C22-meso型で37.4%、また、KE-S100で16.3%もの生成活性を保持し、いずれのSi-tag-NT60-GADβ-シリカ微粒子複合体もNormalGADβ-シリカ微粒子複合体と比較して活性が著しく向上し、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)が改善された。
以上の実験結果より、メソポーラスシリカ複合体を用いる場合、酵素反応を行う酵素をSi-tag融合体とすることで、メソポーラスシリカからの脱離を抑制できるようになり、反応10回の繰り返し使用においても固定化酵素の再利用性の著しい向上効果が認められた。さらに、酵素をSi-tag特異的にシリカ表面と結合したことで、メソポーラスシリカの細孔内で両酵素の触媒部位を配向制御でき、反応基質との接触頻度が増大した結果、酵素反応が効率的に行われ、酵素活性が飛躍的に向上することが追認できた。また、非多孔質球状シリカを用いた場合と比較して、メソポーラスシリカに固定化した場合の酵素活性の向上効果は極めて大きかったことより、メソポーラスシリカのシリカ細孔は酵素機能を最大限に発揮させることのできる酵素の集積組立場として好適であることが判明した。
(実施例9)RCR-SDH-メソポーラスシリカ複合体の製造及び酵素反応の実験手順
本実施例に記載の酵素複合体の製造法および酵素反応の実験手順に従い、(実施例12)~(実施例14)では、R体選択的カルボニル還元酵素(RCR:配列番号9)及びソルビトール脱水素酵素(SDH:配列番号10)のそれぞれをSi-tagを介して又は介さずに各種メソポーラスシリカに対して固定化したRCR-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体又はRCR-SDH-メソポーラスシリカ複合体を調製し、その酵素活性の評価を行った。(実施例10)及び(実施例11)には、その際用いたSi-tag断片融合RCR及びSi-tag断片融合SDHの製造方法を記載した。
図18に、メソポーラスシリカの規則性細孔(シリカ細孔)に固定化したRCR及びSDHを備えたRCR-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体のうちRCRとプロキラルカルボニル化合物(2-ヒドロキシアセトフェノン:2-HAP)が相互作用し、更に、SDHによる補酵素(NADH)の再生系を組み込み酸化型NADから還元型NADHに再生することができるようになった結果、光学活性アルコール((R)-1-フェニル-1,2-エタンジオール:(R)-PED)が高効率かつ持続的に合成される様子を模式的に表した説明図を示す。
(9-1)RCR-SDH-メソポーラスシリカ複合体製造方法の実験手順
図19(b)の「実験手順」の前段に、RCR及びSDHをSi-tagを介して又は介さずにメソポーラスシリカに吸着させ、洗浄する工程における手順を示す。
ここで、Si-tagを介してメソポーラスシリカに固定化する場合は、(実施例5)の結果からみて固定化効率が高いことが予想される強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で固定化及び洗浄を行うが、Si-tagを介さずに固定化する場合は、一般的なTris-HCl(pH 8)を用いる。
酵素の固定化支持体には、メソポーラスシリカとして、(製造例1)により得られた中心細孔直径の異なる5種類のメソポーラスシリカ:1)FSM-16(中心細孔直径:2.6nm)、2)FSM-22(中心細孔直径:8.0nm)及び3)~5)SBA-15(中心細孔直径:5.4、8.1、10.6nm)を使用し、比較のための非多孔質球状シリカとして、シーホスター KE-S100(日本触媒社製、平均粒子径:0.76μm)を使用する。
また、下記(実施例10)及び(実施例11)により、本発明でRCR-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体製造に用いるSi-tagとして、Si-tagのN末側断片(「Si-tag-NT60」)を選択し、「Si-tag-NT60」を融合させたRCR及びSDHを遺伝子組換え大腸菌を利用したタンパク発現系により作製した「Si-tag-NT60-RCR」及び「Si-tag-NT60-SDH」を用いて各種メソポーラスシリカへの固定化を行う。
(9-2)RCR及びSDHのメソポーラスシリカ複合体による光学活性アルコールの合成反応の実験手順
R体選択的カルボニル還元酵素(RCR)及びソルビトール脱水素酵素(SDH)による補酵素再生系を利用したプロキラルカルボニル化合物(2-HAP)の不斉還元による光学活性アルコール((R)-PED)の合成反応の概略は、図19(a)に示すとおりである。
図19(b)の「実験手順」の後段に、得られたRCR及びSDHのメソポーラスシリカ複合体を用いた(R)-PEDの合成反応、HPLC分析、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順を示す。
(9-3)光学活性アルコールの合成活性の評価手順
(9-1)で得られたRCR-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体などの各種複合体それぞれの酵素活性を、反応基質としてのプロキラルカルボニル化合物(2-HAP)及びD-ソルビトールを添加して補酵素再生系を働かせ、光学活性アルコール((R)-PED)の生成効率(2-HAPから(R)-PEDへの転化率)により評価する。
(実施例10)Si-tag融合RCRの調製および特性評価(比活性)
(10-1)Si-tag断片とRCRとの融合体の調製
(実施例3)及び(実施例6)の結果を受けて、Si-tag(全長)を融合させたSi-tag融合RCRの酵素活性は低くなることが予想された。
そこで、本実施例では、Si-tagのC末端側断片及びN末端側断片との融合体についてのみ調製し、その特性を調べることとした。具体的には、R体選択的カルボニル還元酵素として、Candida Parapsilosis由来のRCR(四量体、アミノ酸残基数:336、分子量(単量体):約37kD)を適用し、当該酵素のN末端側に上記のSi-tagの断片を融合させた。
まず、Si-tagのC末端側断片としてSi-tagのC末端側配列の71アミノ酸残基(配列番号3)をRCRに融合したSi-tag-CT71-RCRを、またSi-tagのN末端側配列の60アミノ酸残基(配列番号2)が融合したSi-tag-NT60-RCRを、大腸菌タンパク発現系により製造した。
詳細には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社の人工遺伝子合成サービス「Gene Art」を利用して、各配列の合成遺伝子をpET302/NT-Hisベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に挿入したSi-tag-CT71-RCR-pET302/NT-His(6907塩基対)、及びSi-tag-NT60-RCR-pET302/NT-His(6874塩基対)を作製した。
上記プラスミドDNAにより形質転換した大腸菌(One Shot BL21 Star DE3 chemically Competent Cells、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により目的の酵素を発現させ、得られた各Si-tag融合RCRを、His-tag融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体(Ni Sepharose 6 Fast Flow、GEヘルスケア・ジャパン社製)で精製した。
得られた2種類のSi-tag融合RCRのタンパク濃度を図20の(a)に示す。
各種RCRのタンパク濃度は、Si-tagを融合していないRCR(Normal RCR)で最も高くなり、Si-tag融合RCRでは付加されたSi-tagのアミノ酸残基数に反比例したタンパク濃度の増減が示された。なお、図中Normal RCRは、Si-tag未融合RCRである。
また、精製後の酵素(各2μg)のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の解析結果から見て、Si-tag-CT71-RCR、Si-tag-NT60-RCRのいずれも正しく合成されている(図20(c))。
(10-2)各Si-tag融合RCRの比活性の比較
Si-tag-CT71-RCR、Si-tag-NT60-RCR及びNormalRCRのそれぞれを、基質の2-HAP(0.5mM)及びβ-NADH(0.3mM)を含む100mM リン酸ナトリウム(pH 7.5)緩衝液中に添加し、「酵素濃度:1.87μM、反応液量:1mL、反応温度:35℃、反応時間:30分間」の条件で反応させた。酵素反応中、分光光度計用セル内においてマイクロ撹拌子を用いて反応溶液を撹拌(250rpm)しながら経時的に吸光度を測定し、1分間に1μmolのNADHを酸化する酵素量(又はモル数)を1unitとし、酵素活性(比活性)を評価した。
反応開始後2~5分間における340nmでの吸光度変化から、それぞれのNADH消費量を測定し、比活性を求めて比較したところ、酵素の比活性は、Normal RCRが最も高く、次いで、Si-tag-NT60-RCRが高く、Si-tag-CT71-RCRでは極めて低い活性が示された(図20(b))。
また、Si-tag-NT60-RCRを用いた反応では、硫酸亜鉛(5mM)を加えることによって、NormalRCRと同等の活性が認められた。しかし、硫酸亜鉛の添加により、予期せぬ凝集物の発生が確認された。そこで、以下の実験では、前記の活性比較実験でNormal RCRに次いで高い酵素活性を有するSi-tag-NT60-RCRを用いた。
(実施例11)Si-tag融合SDHの調製および特性評価(比活性)
(11-1)Si-tag断片とSDHとの融合体の調製
(実施例3)及び(実施例6)の結果を受けて、Si-tag(全長)を融合させたSi-tag融合SDHの酵素活性は低くなることが予想された。
そこで、本実施例では、前記(10-1)と同様に、Si-tagのC末端側断片及びN末端側断片との融合体についてのみ調製し、その特性を調べることとした。具体的には、ソルビトール脱水素酵素として、Rhodobacter sphaeroides Si4由来のSDH(四量体、アミノ酸残基数:256、分子量(単量体):約29kD)を適用し、当該酵素のN末端側に上記のSi-tagの断片を融合させた。
まず、Si-tagのC末端側断片としてSi-tagのC末端側配列の71アミノ酸残基(配列番号3)をSDHに融合したSi-tag-CT71-SDHを、またSi-tagのN末端側配列の60アミノ酸残基(配列番号2)が融合したSi-tag-NT60-SDHを、大腸菌タンパク発現系により製造した。
詳細には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社の人工遺伝子合成サービス「Gene Art」を利用して、各配列の合成遺伝子をpET302/NT-Hisベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に挿入したSi-tag-CT71-SDH-pET302/NT-His(6667塩基対)、及びSi-tag-NT60-SDH-pET302/NT-His(6634塩基対)を作製した。
上記プラスミドDNAにより形質転換した大腸菌(One Shot BL21 Star DE3 chemically Competent Cells、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により目的の酵素を発現させ、得られた各Si-tag融合SDHを、His-tag融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体(Ni Sepharose 6 Fast Flow、GEヘルスケア・ジャパン社製)で精製した。
得られた2種類のSi-tag融合SDHのタンパク濃度を図21の(a)に示す。
各種SDHのタンパク濃度は、Si-tagを融合していないSDH(Normal SDH)とSi-tag-NT60-SDHが同等であったが、Si-tag-CT71-SDHでは低い濃度が示された。なお、図中Normal SDHは、Si-tag未融合SDHである。
また、精製後の酵素(各2μg)のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の解析結果から見て、Si-tag-CT71-SDH、Si-tag-NT60-SDHのいずれも正しく合成されている(図21(c))。
(11-2)各Si-tag融合SDHの比活性の比較
Si-tag-CT71-SDH、Si-tag-NT60-SDH及びNormalSDHのそれぞれの比活性を、ソルビトール脱水素酵素活性測定キット(BioAssay Systems社製)を用いて、「酵素濃度:50nM、反応液量:0.1mL、反応温度:30℃、反応時間:15分間、反応pH:8.2」の条件で評価した。本酵素反応には、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社製、SpectraMax M2e)を使用し、経時的に吸光度を測定し、1分間に1μmolのD-ソルビトールをD-フルクトースに変換する酵素量(又はモル数)を1unitとし、酵素活性(比活性)を評価した。
反応開始後3~15分間における565nmでの吸光度変化から、それぞれのD-フルクトース生成量を測定し、比活性を求めて比較したところ、酵素の比活性は、Normal SDHが最も高く、次いで、Si-tag-NT60-SDHが高く、Si-tag-CT71-SDHでは極めて低い活性が示された(図21(b))。
そこで、以下の実験では、Normal SDHに次いで高い酵素活性を有するSi-tag-NT60-SDHを用いた。
(実施例12)RCR-SDH-メソポーラスシリカ複合体の製造
(12-1)Si-tagを介した酵素-メソポーラスシリカ複合体
本実施例では、(実施例10)で検討した「Si-tag-NT60-RCR」及び(実施例11)で検討した「Si-tag-NT60-SDH」を含む緩衝液を用い、実施例(9-1)の方法に従って、FSM型メソポーラスシリカ(FSM8.0,中心細孔直径:8.0nm)、SBA型メソポーラスシリカ(SBA8.1,中心細孔直径:8.1nm)、及び非多孔質球状シリカ(KE-S100)の各微粒子に対して固定化処理を行い、3種類の「Si-tag-NT60-RCR-シリカ微粒子複合体」、又は、3種類の「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体」を形成させた。
これらのSi-tagを介した酵素-シリカ微粒子複合体の製造の場合、酵素の固定化及び洗浄の際は、いずれも強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で行った。
具体的には、Si-tag-NT60-RCR(2μmol)と共にSi-tag-NT60-SDH(0.5μmol)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)1mLと、予めマイクロチューブに量り取ったメソポーラスシリカ(FSM-16、FSM-22又はSBA-15)10mgとを、ローテーターを用いて16時間以上4℃で穏やかに混合した後、遠心分離を行い、上清を全て除去することによって、酵素-シリカ微粒子複合体の前駆体を得た。
続いて、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて約5秒間室温で攪拌し、前記酵素-メソポーラスシリカ複合体の前駆体を再懸濁した後、遠心分離を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。再び、前記洗浄用緩衝液1mLを用いて洗浄操作を繰り返し、さらに25mM Tris-HCl(pH 8)1mLを用いて再懸濁した後、遠心分離を行い、上清を全て除去し、強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で固定化した「Si-tag-NT60-RCR-FSM(SBA)」を得、最終的には「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)」を得た。
比較のために非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いて、同様の手順によりそれぞれの複合体を得た。以下、「Si-tag-NT60-RCR-KE-S100」または「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-KE-S100」という。
(12-2)Si-tagを介さない酵素-メソポーラスシリカ複合体
酵素活性、再利用性の比較のため、Si-tagを介さない酵素-メソポーラスシリカ複合体を製造した。その際、酵素溶液中にも、洗浄用緩衝液中にも塩化ナトリウム及びTween20を添加しない通常のメソポーラスシリカ固定化条件を適用したほかは、Si-tag-NT60融合RCR又はSDHの場合と同様の手順で行い、最終的に、「Normal RCR-FSM(SBA)」、並びに、「Normal RCR-Normal SDH-FSM(SBA)」を得た。
さらに、比較のために非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いて、同様の手順によりそれぞれの複合体を得た。以下、「Normal RCR-KE-S100」または「Normal RCR-Normal SDH-KE-S100」という。
(実施例13)光学活性アルコールの合成活性の評価
(13-1)光学活性アルコール((R)-PED)生成の共役酵素反応
実施例(12-1)で得られた「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)(KE-S100)」など各種複合体それぞれの酵素活性を、反応基質としてのプロキラルカルボニル化合物(2-HAP)及びD-ソルビトールを添加して補酵素再生系を働かせ、光学活性アルコール((R)-PED)の生成効率(2-HAPから(R)-PEDへの転化率)により評価した(図22)。
具体的には、「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)(KE-S100)」などの各種複合体それぞれに対して、以下の酵素反応を起こさせ、それぞれの(R)-PEDへの転化率を測定した。
コントロールとして「Si-tag-NT60-RCR-FSM(SBA)(KE-S100)」と共に、遊離の未固定「Si-tag-NT60-RCR」及び「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH」を用いた。
酵素反応は、(12-1)で得られた、マイクロチューブ内の上記酵素-シリカ微粒子複合体に対して、2-HAP、D-ソルビトール、また、補酵素を含んだ反応基質(1mL)を添加することによって開始した。
その際、最終反応組成が、「25mM Tris-HCl(pH 8)、1mM 2-HAP、0.1mM NADH、10mM D-ソルビトール、2μM RCR、0.5μM SDH、反応液量:1mL」となるように調整した。
反応条件は、定温恒温器内(SANYO社製、MIR-154)においてローテーターを用いて穏やかに混和しながら35℃で30分間の加温状態を保持することとした。
次いで、遠心分離後の上清を回収し、この回収液を80℃で10分間加熱処理し、上清に含まれる生成物((R)-PED)の定量を行った。(R)-PEDの分析には、ODSカラムを搭載した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(日立ハイテクサイエンス社製、LaChrom ELITE)を使用した。
その際、分析条件は、「測定波長:210nm、カラムオーブン設定温度:30℃、流速:0.3mL/min、分析時間:10分間、移動相組成:アセトニトリル/水=60/40(V/V)」とした。
ここで、固定化酵素サンプルの再利用性を評価する場合には、上記の遠心分離後に回収された酵素-シリカ微粒子複合体に対して、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8))1mLを添加し、Vortex Mixerを用いて約5秒間室温で攪拌し、酵素-シリカ微粒子複合体を再懸濁した後、遠心分離を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。続いて、新しい反応基質溶液を添加することによって、反応2回目の酵素反応を開始した。固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)の評価は、上述の実験手順に従い、合計10回行った。
光学活性アルコール((R)-PED)の合成実験は、反応30分後の(R)-PEDへの転化率(反応1回目)、固定化直後の上清に含まれるRCRの活性(転化率)、また、固定化直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した(図22(a))。なお、未固定の遊離酵素による合成反応は、一晩、混和した後の転化率を測定した。
(13-2)光学活性アルコール((R)-PED)の生成効率の比較
その結果、3種類のSi-tag-NT60-RCR-シリカ微粒子複合体のいずれもが未固定酵素の場合(8.4%)と同等の転化率を示した。一方、3種類のSi-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体のいずれもが未固定酵素の場合(66.7%)の6割程度(転化率:約40%)の活性を保持した。従って、異種酵素を固定化した場合、未固定酵素と比較して活性が低下するものの、単一酵素(RCR)の場合よりも転化率が5倍程度増大していることより、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応による反応の向上効果が認められた。
また、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)の場合は、固定化後の上清において遊離のRCRとSDHの活性が全く認められず、これは、酵素が全量固定化されたことを示唆している。一方、KE-S100では、若干のRCR及びSDH活性が示されたことより、酵素が全量固定化されていないことが判明した。特に、SDHに関しては、16.3%分の酵素が遊離していることが明らかとなった。
(13-3)再利用性の比較
次に、前記の酵素複合体を用い、反応30分後の(R)-PEDへの転化率を指標として、反応10回分における固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した。実験結果をまとめたグラフを図22(b)に示す。図中、白四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、黒菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、また、白三角印は、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合、である。また、図中、左図は、RCRのみを固定化した場合、右図は、RCRとSDHを固定化した場合、である。
その結果、Si-tag-NT60-RCR-シリカ微粒子複合体のうち、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)の場合は、反応1~10回において反応初期と同等の転化率を保持し、KE-S100では、最終的に3%程度の転化率の低減が示された(図22(b)左図)。
一方、3種類のSi-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体のいずれもが繰り返し回数が増大するとともに転化率が低下する傾向が示されたが、いずれにおいても反応10回目での(R)-PED生成能の残存が認められた(図22(b)右図)。反応10回目における転化率がSBA型で13.0%、FSM型で12.6%、また、KE-S100で9.1%の生成活性を保持した。
反応4回目以降の活性は、KE-S100の場合よりもメソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)の場合により高い活性が示され、全体的には、SBA8.1 > FSM8.0 > KE-S100の順に固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)が高い傾向が認められた。
(13-4)Si-tag未融合のRCR及びSDHを用いた場合の光学活性アルコール合成効率の評価
本実施例では、上記実施例(12-2)で得られた3種類の「Normal RCR-Normal SDH-シリカ微粒子複合体」と共に3種類の「Normal RCR-シリカ微粒子複合体」、さらにコントロールとして遊離の未固定「Normal RCR」及び「Normal RCR-Normal SDH」を用い、(13-2)と同様に、光学活性アルコール((R)-PED)の合成実験を行い、反応30分後の(R)-PEDへの転化率(反応1回目)、固定化直後の上清に含まれるRCRの活性(転化率)、また、固定化直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した(図23(a))。なお、未固定の遊離酵素による合成反応は、一晩、混和した後の転化率を測定した。
その結果、3種類のNormal RCR-シリカ微粒子複合体のいずれもが未固定酵素の場合(9.3%)と同等の転化率を示した。一方、3種類のNormal RCR-Normal SDH-シリカ微粒子複合体のいずれもが未固定酵素の場合(77.5%)の1割程度(転化率:平均9.6%)の活性を示した。従って、異種酵素を固定化した場合、未固定酵素と比較して活性が極めて低く、さらに、単一酵素(RCR)の場合の転化率と同等であることより、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応が構築できなかったことが判明した。
また、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)の場合は、固定化後の上清において遊離のRCRとSDHの活性が全く認められず、これは、酵素が全量固定化されたことを示唆している。一方、KE-S100では、相当のRCR及びSDH活性が示されたことより、酵素が全量固定化されていないことが判明した。特に、SDHに関しては、ほぼ100%分の酵素が遊離していることが明らかとなった。
(13-5)Si-tag未融合のRCR及びSDHを用いた場合の再利用性の評価
次に、前記の酵素複合体を用い、反応30分後の(R)-PEDへの転化率を指標として、反応10回分における固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した。実験結果をまとめたグラフを図23(b)に示す。図中、白四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、黒菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、また、白三角印は、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合、である。また、図中、左図は、RCRのみを固定化した場合、右図は、RCRとSDHを固定化した場合、である。
その結果、Normal RCR-シリカ微粒子複合体のいずれもが、反応1~10回の繰り返し使用の間に徐々に転化率が低下する傾向が示された。最終的には、FSM8.0の場合に約1%、SBA8.1の場合に約2%。また、KE-S100の場合に約4%の転化率の低減が示された(図23(b)左図)。
一方、3種類のNormal RCR-Normal SDH-シリカ微粒子複合体のいずれもが前述のNormal RCR-シリカ微粒子複合体の場合と同様の反応挙動を示し、全体的には、FSM8.0 > SBA8.1 > KE-S100の順に固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)が高い傾向が認められた(図23(b)右図)。
詳細には、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)の場合は、前述のNormal RCR-シリカ微粒子複合体の場合と比較すると1%未満の極僅かな転化率の向上が認められたが、KE-S100の場合は転化率に有意な差が見られなかった。図23(a)の固定化後の上清のSDH活性の結果より、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)にはSDHが全量固定化されているにもかかわらず、大半の酵素が失活した結果、補酵素再生効率が極めて低かったことが推察される。また、KE-S100にはSDHが全く固定化されておらず、補酵素再生能を発揮できなかったことが推察される。
(13-6)Si-tagを介した又は介さないRCR-SDH-メソポーラスシリカ複合体の酵素活性及び再利用性の比較
前記(13-2)~(13-5)の実験結果より、単一酵素(RCR)に関しては、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)との複合体を用いた場合、Si-tagの有無に関係なく、酵素が全量固定化され、遊離の未固定酵素と同等の酵素活性が発現され、さらに反応10回の繰り返し使用においても高い活性保持率が認められた。また、非多孔質球状シリカ(KE-S100)との複合体では、Si-tagの有無の違いによって酵素の固定化率に差が生じ(固定化率の高さ:Si-tag有り > Si-tag無し)、酵素活性および繰り返し耐久性のいずれもがメソポーラスシリカとの複合体と比較して低い値に留まった。
一方、異種酵素(RCR及びSDH)に関しては、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)との複合体を用いた場合、Si-tagの有無に関係なく2種類の酵素が全量固定化されたが、SDHによる補酵素再生効率に大きな違いが生じた。具体的には、Si-tagを介して異種酵素を固定化した場合には、遊離の未固定酵素より低い活性発現率が示されたものの、補酵素再生の効果により光学活性アルコールの生成効率が向上し、さらに反応10回の繰り返し使用を達成した。Si-tagを介さずに異種酵素を固定化した場合には、補酵素再生における顕著な効果が認められず、反応10回の繰り返し使用においても単一酵素(RCR)の場合と同等の反応挙動が示された。また、非多孔質球状シリカ(KE-S100)との複合体では、Si-tagの有無の違いによって酵素の固定化率に差が生じ(固定化率の高さ:Si-tag有り > Si-tag無し)、酵素活性および繰り返し耐久性のいずれもがメソポーラスシリカとの複合体と比較して低い値に留まった。
以上より、Si-tagを介して異種酵素(RCR及びSDH)をシリカ微粒子に固定化し、シリカ表面で両酵素の触媒部位を配向制御できた結果、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応が効率的に行われ、光学活性アルコール合成における反応活性および繰り返し耐久性(再利用性)の向上効果が認められた。特に、固定化後のSDHの安定性に関して、Si-tag未融合SDHを用いた場合と比較して、Si-tag融合SDHを用いた場合により優れたSDHの安定性向上効果が確認された。
また、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合と比較して、メソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)に固定化した場合の酵素の繰り返し耐久性(再利用性)がより高かったことより、メソポーラスシリカのシリカ細孔は異種酵素の機能を最大限に発揮させることのできる酵素の集積組立場として好適であることが判明した。
(実施例14)異種酵素の活性評価(メソポーラスシリカの細孔径の影響)
本実施例では、固定化異種酵素を用いた光学活性アルコールの合成活性に与えるメソポーラスシリカの細孔径の影響について検証した。具体的には、(実施例12)で検討した「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH」及び「Normal RCR-Normal SDH」を含む緩衝液を用い、実施例(9-1)の方法に従って、FSM型メソポーラスシリカ(FSM2.6,中心細孔直径:2.6nm)、及びSBA型メソポーラスシリカ(SBA5.4および10.6,中心細孔直径:5.4および10.6nm)の各微粒子に対して固定化処理を行い、3種類の「Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-FSM2.6(SBA5.4)(SBA10.6)」、又は、2種類の「Normal RCR-Normal SDH-FSM2.6(SBA5.4)」を形成させた。
次に、実施例(9-2)及び(9-3)の方法に従って、光学活性アルコール((R)-PED)の合成実験を行い、反応30分後の(R)-PEDへの転化率(反応1回目)、固定化直後の上清に含まれるRCRの活性(転化率)、また、固定化直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した(図24(a)(b))。
その結果、3種類のSi-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-FSM2.6(SBA5.4)(SBA10.6)のいずれもが、実施例(13-2)での結果と同様に、未固定酵素の場合(66.7%)の6割程度(転化率:約40%)の活性を保持した(図24(a))。従って、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応による反応の向上効果が認められた。
また、SBA10.6を用いた場合は、FSM8.0及びSBA8.1での結果(実施例(13-2))と同様に、固定化後の上清において遊離のRCRとSDHの活性が全く認められず、これは、酵素が全量固定化されたことを示唆している。
FSM2.6及びSBA5.4を用いた場合は、固定化後の上清において相当のRCR及びSDH活性が示されたことより、酵素が全量固定化されていないことが判明した。特に、SDHに関しては、FSM2.6の場合に6.5%分、SBA5.4の場合に19%分の酵素が遊離していることが明らかとなった。
一方、2種類のNormal RCR-Normal SDH-FSM2.6(SBA5.4)のいずれもが、未固定酵素の場合(77.5%)の1.5割程度(転化率:平均11.6%)の活性を示した(図24(b))。従って、FSM8.0及びSBA8.1での結果(実施例(13-4))と比較すると、0.5割程度の僅かな転化率の向上が認められた。しかし、Si-tagを介して異種酵素を固定化した場合の結果(図24(a))と比較して活性が極めて低く、補酵素再生系を組み込んだ所望の共役酵素反応が構築できなかったことが判明した。
また、FSM2.6及びSBA5.4共に、FSM8.0及びSBA8.1での結果(実施例(13-4))と同様に、固定化後の上清において遊離のRCRとSDHの活性がほとんど認められず、これは、酵素がほぼ全量固定化されたことを示唆している。
次に、前記の酵素複合体を用い、反応30分後の(R)-PEDへの転化率を指標として、反応10回分における固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)を評価した。実験結果をまとめたグラフを図24(c)に示す。図中、黒四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:2.6nm)を用いた場合、白菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:5.4nm)を用いた場合、また、白菱形印(横線入り)は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:10.6nm)を用いた場合、である。また、図中、左図は、Si-tag融合酵素(RCR及びSDH)を固定化した場合、右図は、Si-tag未融合(Normal)酵素(RCR及びSDH)を固定化した場合、である。
その結果、3種類のSi-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-FSM2.6(SBA5.4)(SBA10.6)のいずれもが繰り返し回数が増大するとともに転化率が低下する傾向が示され、反応10回目における転化率は、SBA10.6で18.0%、SBA5.4で9.7%、また、FSM2.6で7.4%であり、メソポーラスシリカの種類および細孔径の違いによって異なる残存活性が示された(図24(c)左図)。
このうち、特に、SBA10.6を用いた場合の残存活性が格段に高く、反応10回目において反応1回目の5割程度の活性を保持した。従って、メソポーラスシリカの細孔径を拡大することによって、固定化酵素の繰り返し耐久性(再利用性)が著しく向上した。
一方、2種類のNormal RCR-Normal SDH-FSM2.6(SBA5.4)のいずれもが、反応10回の繰り返し使用において、FSM8.0及びSBA8.1での結果(実施例(13-5))と比較して僅かな転化率の向上を示したが、Si-tagを介して異種酵素を固定化した場合の結果(図24(c)左図)と比較して活性が極めて低く、補酵素再生系を組み込んだ所望の共役酵素反応が構築できなかったことが判明した(図24(c)右図)。これは、実施例(13-2)で使用した2種類のメソポーラスシリカ(FSM8.0及びSBA8.1)を用いた場合の結果と同様に、図24(b)の固定化後の上清のSDH活性の結果より、FSM2.6及びSBA5.4にはSDHが全量固定化されているにもかかわらず、大半の酵素が失活した結果、補酵素再生効率が極めて低かったことが原因であることが推察される。
Si-tag融合及び未融合の異種酵素(RCR及びSDH)における前述の実験結果(図22(b)右図、図23(b)右図、また、図24(c)左図及び右図)をまとめたグラフを図25に示す。図中、黒四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:2.6nm)を用いた場合、白四角印は、FSM型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.0nm)を用いた場合、白菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:5.4nm)を用いた場合、黒菱形印は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:8.1nm)を用いた場合、白菱形印(横線入り)は、SBA型メソポーラスシリカ(中心細孔直径:10.6nm)を用いた場合、また、白三角印は、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合、である。また、図中、左図は、Si-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体の場合、また、右図は、Normal RCR-Normal SDH-シリカ微粒子複合体の場合、である。
図25(左図)によれば、光学活性アルコール((R)-PED)の合成反応における6種類のSi-tag-NT60-RCR-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体の繰り返し耐久性(再利用性)は、メソポーラスシリカの細孔径に比例して高くなり、非多孔質球状シリカ(KE-S100)で最も低くなる傾向が示された。具体的には、SBA10.6 > SBA8.1 > FSM8.0 > SBA5.4 > FSM2.6 > KE-S100の順に固定化酵素の繰り返し耐久性が高くなった。
上述の通り、細孔径の大きいメソポーラスシリカ(SBA10.6、SBA8.1及びFSM8.0)と比較して、細孔径の小さいメソポーラスシリカ(SBA5.4及びFSM2.6)、また、KE-S100では、異種酵素(RCR及びSDH)の固定化率が低く、これが反応活性および再利用性の低さの要因と考えられる。
一方で、中心細孔直径が8nm以上のメソポーラスシリカでは、いずれも異種酵素が全量固定化されているにもかかわらず、メソポーラスシリカの種類と細孔径の違いにより反応活性および再利用性の程度が変化した。より具体的には、同程度の細孔径を有する2種類のメソポーラスシリカ(SBA8.1及びFSM8.0)に着目すると、SBA8.1の方がより酵素の再利用性が高く、この傾向は、(実施例5)のメチルレッドの分解反応における3種類のSi-tag-AzoR-Si-tag-CT71-GDH-シリカ微粒子複合体の繰り返し耐久性(再利用性)の結果(SBA8.1 > FSM8.0 > KE-S100)(図11)と類似している。
また、細孔径の異なる2種類のSBA型メソポーラスシリカ(SBA10.6及びSBA8.1)に着目すると、SBA10.6の方が飛躍的に酵素の再利用性が高くなるという驚くべき結果が得られた(反応10回目の残存活性:SBA10.6(5割程度) > SBA8.1(3割程度))。
一方、図25(右図)によれば、光学活性アルコール((R)-PED)の合成反応における5種類のNormal RCR-Normal SDH-シリカ微粒子複合体の繰り返し耐久性(再利用性)は、相対的に転化率が低い値に留まったものの、メソポーラスシリカの細孔径に反比例して高くなり、非多孔質球状シリカ(KE-S100)で最も低くなる傾向が示された。具体的には、FSM2.6 > SBA5.4 > FSM8.0 > SBA8.1 > KE-S100の順に固定化酵素の繰り返し耐久性が高くなった。
上述の通り、KE-S100では、異種酵素(RCR及びSDH)の固定化率が低く、特にSDHに関しては全く固定化されておらず、これが反応活性および再利用性の低さの要因と考えられる。
しかし、目的産物((R)-PED)の生成効率については、前記のSi-tag融合異種酵素での結果(図25(左図))と比較すると、細孔径の違いに関係なくいずれも低い。KE-S100以外はメソポーラスシリカに対して両酵素は全量固定化されていると考えられるので、SDHによる補酵素再生能の発揮が不十分であった可能性がある、すなわち、Si-tag融合が補酵素再生能の十分な発揮にとっても有効であることが示唆される。
以上より、Si-tagを介して異種酵素(RCR及びSDH)をシリカ微粒子に固定化する際、メソポーラスシリカの細孔径を拡大することによって、シリカ表面で両酵素の触媒部位を最適に配向制御できた結果、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応が効率的に行われ、光学活性アルコール合成における反応活性および繰り返し耐久性(再利用性)の飛躍的な向上効果が認められた。特に、固定化後のSDHの安定性に関して、Si-tag未融合SDHを用いた場合と比較して、Si-tag融合SDHを用いた場合により優れたSDHの安定性向上効果が確認され、さらに、メソポーラスシリカの細孔径の拡大によってSDHによる補酵素再生能が向上した結果、反応10回の繰り返し使用における高効率の反応活性が維持できることが示唆された。
また、非多孔質球状シリカ(KE-S100)を用いた場合と比較して、メソポーラスシリカ(FSM型及びSBA型)の微粒子粉末は繰り返し使用における溶液中での分散性(ハンドリング性)に優れ、さらに固定化した場合の酵素の繰り返し耐久性(再利用性)がより高かったことも勘案すれば、メソポーラスシリカ及びそのシリカ細孔は異種酵素の機能を最大限に発揮させることのできる酵素の集積組立場として好適であるといえる。
(実施例15)DTD-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造及び酵素反応
本実施例では、各種メソポーラスシリカに対するDT-ジアホラーゼ(DTD)及びソルビトール脱水素酵素(SDH:配列番号10)の固定化と酵素活性の評価を行った。
(15-1)DTD-SDH-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体の製造
<DTD及びSDHのメソポーラスシリカへの固定化>
酵素の固定化支持体には、メソポーラスシリカとして、(製造例1)により得られた中心細孔直径の異なる4種類のメソポーラスシリカ:1)FSM-16(中心細孔直径:2.6nm)、2)FSM-22(中心細孔直径:8.0nm)及び3)4)SBA-15(中心細孔直径:5.4、8.1nm)を使用した。
また、上記ribosomal protein L2のN末端側配列(アミノ酸残基数:60)からなるSi-tagのN末側断片(「Si-tag-NT60」)を融合させた「Si-tag-NT60-SDH」を実施例(11-1)の方法に従って、遺伝子組換え大腸菌を利用したタンパク発現系により製造した。Si-tagを融合していないDTDはソルビトール脱水素酵素活性測定キット(BioAssay Systems社製)の添付品を利用した。
<DTD及びSDHのメソポーラスシリカ複合体による標的物質(ソルビトール)量の測定の実験手順>
DT-ジアホラーゼ(DTD)及びソルビトール脱水素酵素(SDH)による補酵素再生系を利用した標的物質(ソルビトール)量又は標的酵素(SDH)活性の高感度測定における反応系の概略は、図26(a)に示すとおりである。
本実施例では、共役的な酵素反応を行う異種酵素のうち、Si-tag-NT60融合SDH(あるいは、Si-tag未融合SDH)のみをメソポーラスシリカに固定化したメソポーラスシリカとの複合体を予め作製しておき、次いで、Si-tag未融合DTDを含んだ反応基質を相互作用させることによって、シリカ細孔へのDTDの固定化とDTD-SDHによる共役酵素反応を行った。
以下に、Si-tag未融合DT-ジアホラーゼ(DTD)-Si-tag-NT60融合SDH(あるいは、Si-tag未融合SDH)-メソポーラスシリカ複合体の製造法、ホルマザンの発色度を指標としたソルビトール検出、固定化酵素サンプル回収及び再使用の開始までの手順を示す。
<Si-tag未融合DTD及びSi-tagを介したSDH-メソポーラスシリカ複合体の製造方法>
Si-tag-NT60融合SDHの固定化による複合体の製造方法として、酵素の固定化及び洗浄のいずれも強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で行った。
具体的には、Si-tag-NT60-SDH(0.1μmol)を含んだ酵素溶液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)0.1mLと、予め96ウェルの平底マイクロプレートの各ウェルに量り取ったメソポーラスシリカ粉末(FSM-16、FSM-22又はSBA-15)1mgとを、シェイキングインキュベーター(MyBL-P2S; アズワン製)を用いて、10分間、30℃で穏やかに混合した後、遠心分離を行い、上清を全て除去することによって、Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)複合体の前駆体を得た。
続いて、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8)、0.5M 塩化ナトリウム、0.5% Tween20)0.1mLを添加し、上記シェイキングインキュベーターを用いて約5秒間、30℃で攪拌し、前記Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)複合体の前駆体を再懸濁した後、遠心分離を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。再び、前記洗浄用緩衝液0.1mL、及び、25mM Tris-HCl(pH 8)0.1mLを用いて、順次洗浄操作を繰り返し、さらに25mM Tris-HCl(pH 8)0.02mLを用いて再懸濁し、強塩濃度下の高濃度界面活性剤存在下で固定化した「Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)」を得た。
次に、Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)の入った各ウェルに、ソルビトール脱水素酵素活性測定キット(BioAssay Systems社製)に添付のソルビトール、β-NAD、テトラゾリウム塩(MTT)、Si-tag未融合DTD(Normal DTD)を含んだ反応基質溶液(pH 8.2)0.08mLを添加し、上記シェイキングインキュベーターを用いて約5秒間、30℃で攪拌し、最終的に、両酵素が固定化された「Normal DTD-Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)複合体」を得た。
<Si-tag未融合DTD及びSi-tagを介さないSDH-メソポーラスシリカ複合体の製造方法>
Si-tagを融合していないSDH(Normal SDH)に対しては、酵素溶液中にも、洗浄用緩衝液中にも塩化ナトリウム及びTween20を添加しない通常のメソポーラスシリカ固定化条件を適用したほかは、Si-tag-NT60融合SDHの場合と同様の手順で行い、「Normal SDH-FSM(SBA)」を得た。
次に、Normal SDH-FSM(SBA)の入った各ウェル内で上記「Normal DTD-Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)」の場合と同様の手順で、両酵素が固定化された「Normal DTD-Normal SDH-FSM(SBA)複合体」を得た。
(15-2)標的物質(ソルビトール)量の測定評価
酵素反応は、(15-1)で得られた、Normal DTD-Si-tag-NT60-SDH-FSM(SBA)又は、Normal SDH-FSM(SBA)と反応基質の混合液(0.1mL)の入ったマイクロプレートを、上記シェイキングインキュベーターを用いて20分間攪拌しながら、30℃の加温状態を保持することによって行った。
続いて、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e; Molecular Devices製)を用いて、反応後の酵素反応液の565nmの吸光度を測定することによって、テトラゾリウム塩(MTT)を基質とした生成物(ホルマザン)の発色度を評価した。
ここで、固定化酵素サンプルの再利用性を評価する場合には、吸光度測定後の遠心分離操作によって上清を除去し、マイクロプレートの各ウェルに回収された酵素-メソポーラスシリカ複合体に対して、洗浄用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH 8))0.1mLを添加し、上記シェイキングインキュベーターを用いて約5秒間、30℃で攪拌し、酵素-シリカ微粒子複合体を再懸濁した後、遠心分離を行い、上清を全て除去する洗浄操作を行った。続いて、25mM Tris-HCl(pH 8)0.02mLを用いて、酵素-シリカ微粒子複合体を再懸濁し、次いで、DTDを含んでいない新しい反応基質溶液0.08mLを添加することによって、反応2回目の酵素反応を開始した。固定化酵素の再利用性の評価は、上述の実験手順に従い、合計2回行った。
(実施例16)異種酵素の活性評価(Si-tag未融合DTD及びSi-tag-NT60融合SDH(Si-tag未融合SDH)の場合)
本実施例では、「Si-tag未融合DTD(Normal DTD)」と共に、「Si-tag-NT60-SDH」又は、「Si-tag未融合SDH(Normal SDH)」を含む緩衝液を用い、実施例(15-1)の方法に従って、2種類の細孔径の異なるFSM型メソポーラスシリカ(FSM2.6,中心細孔直径:2.6nm,FSM8.0,中心細孔直径:8.0nm)、及び2種類の細孔径の異なるSBA型メソポーラスシリカ(SBA5.4,中心細孔直径:5.4nm,SBA8.1,中心細孔直径:8.1nm)の各微粒子に対して固定化処理を行い、4種類の「Normal DTD-Si-tag-NT60-SDH-メソポーラスシリカ複合体」及び4種類の「Normal DTD-Normal SDH-メソポーラスシリカ複合体」を形成させた。
コントロールとして遊離の未固定「Normal DTD-Si-tag-NT60-SDH」及び「Normal DTD-Normal SDH」を用い、実施例(15-2)の方法に従って、ホルマザンの発色度を指標としたD-ソルビトールからD-フルクトースへの変換反応の評価を行った。
図26(b)に、異種酵素における遊離の未固定酵素、および、FSM型メソポーラスシリカ(FSM2.6および8.0)、SBA型メソポーラスシリカ(SBA5.4および8.1)に予め固定化・洗浄したSi-tag-NT60融合SDH、または、Si-tag未融合SDHに対して、DTDを含んだ反応基質を添加した場合の反応20分後の生成物(ホルマザン)の呈色を示した96ウェルの平底マイクロプレートの写真を示す。
図26(b)の写真によれば、4種類のNormal DTD-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体のいずれもが未固定の異種酵素(Normal DTD及びSi-tag-NT60-SDH)と同様の、ホルマザン由来の呈色(紫色)を示した。これは、図26(a)で示した、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応を効率良く起こさせることに成功しており、すなわち、SDHによるD-ソルビトールからD-フルクトースへの変換反応の際、酸化型NADが還元型NADHへ変換され、さらに、DTDが駆動エネルギー源としてNADHを利用して、テトラゾリウム塩(MTT)をホルマザンに変換したことを示唆している。
一方、未固定の異種酵素(Normal DTD及びNormal SDH)がホルマザン由来の呈色(紫色)を示したにもかかわらず、4種類のNormal DTD-Normal SDH-メソポーラスシリカ複合体のいずれもが反応基質であるMTT由来の呈色(黄色)を示した。これより、Normal DTD及びNormal SDHをメソポーラスシリカに固定化した場合には共役酵素反応が起こらないと解される。
また、図26(c)に、(b)の反応後サンプルにおけるホルマザンの吸光度を指標として、固定化酵素の反応性(反応1回目および2回目)を評価した結果を示す。
図中、白棒状印は、未固定の異種酵素およびDTD-SDH-メソポーラスシリカ複合体を用いた場合(反応1回目)、また、黒棒状印は、DTD-SDH-メソポーラスシリカ複合体を用いた場合(反応2回目)、である。また、図中、左図は、Normal DTD-Si-tag-NT60-SDH-シリカ微粒子複合体の場合、また、右図は、Normal DTD-Normal SDH-シリカ微粒子複合体の場合、である。
図26(c)左図によれば、FSM型及びSBA型メソポーラスシリカ(反応1回目)のいずれも、細孔径が小さい場合(FSM2.6及びSBA5.4)には、未固定の異種酵素(Normal DTD及びSi-tag-NT60-SDH)よりも吸光度が低くなったが、細孔径が大きい場合(FSM8.0及びSBA8.1)には、未固定の異種酵素よりも吸光度が高くなり、細孔径の最適化によってホルマザンの生成量の増大、すなわち、反応効率が向上する可能性が示唆された。
また、反応2回目では、更に、平均して2倍程度の吸光度の増大が確認された。吸光度が増大した原因としては、メソポーラスシリカ微粒子に反応1回目で生成されたホルマザンが吸着状態を維持しており、これに反応2回目に新たに生成されたホルマザンの吸光度が足し合わされたことが推察される。反応2回目の反応基質にはDTDが含まれていないことを勘案すれば、前記の吸光度の増大は、Normal DTD及びSi-tag-NT60-SDHの双方が固定化状態を保持し、反応1回目と同様の共役酵素反応を起こさせたことを示唆しており、反応2回目の再使用を達成したといえる。
一方、図26(c)右図によれば、未固定の異種酵素(Normal DTD及びNormal SDH)が図26(c)左図の未固定の異種酵素(Normal DTD及びSi-tag-NT60-SDH)と同等の吸光度を示したにもかかわらず、FSM型及びSBA型メソポーラスシリカ(反応1回目および2回目)では565nmにおけるホルマザン由来の吸収が示されなかった。これより、図26(b)の結果と合わせて勘案しても、Normal DTD及びNormal SDHをメソポーラスシリカに固定化した場合には共役酵素反応が全く起こらないと解される。
実施例(15-1)において、各メソポーラスシリカ微粒子に対して、Si-tag融合SDH(Si-tag-NT60-SDH)及びSi-tag未融合SDH(Normal SDH)を固定化した直後の上清に含まれるSDHの活性(U/L)を評価した結果、いずれのメソポーラスシリカ(FSM2.6、FSM8.0、SBA5.4及びSBA8.1)にもSDHが全量固定化されている可能性が示唆された。それにもかかわらず、Normal SDHの場合は、大半の酵素が失活した結果、補酵素再生能(NAD→ NADH)及びD-ソルビトールからD-フルクトースへの変換能を発揮できなかったことが推察される。
これらの実験結果より、DTD及びSDHを固定化したメソポーラスシリカ複合体を用いる場合、共役的な酵素反応を行う異種酵素のうち、少なくともSDHをSi-tag融合体とすることで、SDHの活性低下を抑制しながら固定化異種酵素間の共役的な酵素反応を起こさせることが出来るようになり、(実施例13)及び(実施例14)での異種酵素(RCR及びSDH)による反応結果におけるSi-tag融合SDH(Si-tag-NT60-SDH)の優位な効果が追認できた。さらに、異種酵素(Normal DTD及びSi-tag-NT60-SDH)をメソポーラスシリカに固定化する際、メソポーラスシリカの細孔径を拡大することによって、シリカ表面で両酵素の触媒部位を最適に配向制御できた結果、補酵素再生系を組み込んだ共役酵素反応が効率的に行われ、酵素活性が飛躍的に向上することが確認でき、その共役的な酵素反応活性の向上効果は2回の繰り返し使用にも耐えられることがわかった(図26(c)左図)。

Claims (19)

  1. NADH又はNADPH補酵素再生系を利用する酸化還元反応における共役酵素反応に関わる複数の異種酵素のうち少なくとも還元酵素A及び脱水素酵素Bがそれぞれメソポーラスシリカに固定化されている複合体であって、かつそれぞれの酵素は、いずれも多量体構造を有しており、
    前記還元酵素A及び脱水素酵素Bのうち少なくとも一方の酵素にはSi-tag、又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片が化学的に結合されており、かつ当該Si-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカと結合しており、
    前記メソポーラスシリカが、「FSM」、「SBA」、「SBA microsphere」及び「C-meso」から選択されたいずれか1種のメソポーラスシリカであって、
    ここで、「FSM」の中心細孔直径は2~10nmであり、「SBA」の中心細孔直径は4~12nmであり、「SBA microsphere」の中心細孔直径は12~28mであり、「C-meso」の中心細孔直径は2~10nmであることを特徴とする、
    還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
  2. 還元酵素Aが、アゾ還元酵素(AzoR)、カルボニル還元酵素(CR)、イミン還元酵素(IR)、エノン還元酵素(ER)、アルドース還元酵素(AR)、キシロース還元酵素(XR)、DT-ジアホラーゼ(DTD)から選択されたいずれか1つの酵素であり、
    脱水素酵素Bが、グルコース脱水素酵素(GDH)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)、フルクトース脱水素酵素(FDH)、アルコール脱水素酵素(ADH)、ギ酸脱水素酵素(FDH)、乳酸脱水素酵素(LDH)、ソルビトール脱水素酵素(SDH)、グリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、キシリトール脱水素酵素(XDH)から選択されたいずれか1つの酵素である、請求項1に記載の還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
  3. 還元酵素A及び脱水素酵素Bの組み合せがアゾ還元酵素(AzoR)及びグルコース脱水素酵素(GDH)であって、
    AzoRの各サブユニットにはSi-tagが結合し、GDHの各サブユニットにはSi-tagのC末側断片が結合しており、かつ当該Si-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカと結合している、請求項2に記載の還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
  4. 還元酵素A及び脱水素酵素Bの組み合せがカルボニル還元酵素(CR)及びグルコース脱水素酵素(GDH)又はソルビトール脱水素酵素(SDH)であって、
    CR、GDH又はSDHの各サブユニットにはSi-tagのC末側断片又はN末側断片が結合しており、かつ当該Si-tagの断片の側でメソポーラスシリカと結合している、請求項2に記載の還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
  5. Si-tagが、配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその1~20個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質であり、
    Si-tagのN末側断片が、配列番号2に示されるアミノ酸配列又はその1~6個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質であり、
    Si-tagのC末側断片が、配列番号3に示されるアミノ酸配列又はその1~7個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質であり、
    Si-tagのN末-C末側結合断片が、配列番号4に示されるアミノ酸配列又はその1~13個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質である、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
  6. 還元酵素A及び脱水素酵素Bのうち少なくとも一方の酵素が複数のサブユニットからなる酵素であり、各サブユニットの全てにSi-tag又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片が化学的に結合されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体。
  7. NADH又はNADPH補酵素再生系を利用する酸化還元反応における共役酵素反応に関わる複数の異種酵素のうち還元酵素A及び脱水素酵素Bのそれぞれがメソポーラスシリカに固定化された還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を製造する方法であって、
    ここで、両酵素のそれぞれが、いずれも多量体構造を有しており、また、メソポーラスシリカが、中心細孔直径が2~10nmの「FSM」、中心細孔直径が4~12nmの「SBA」、中心細孔直径が12~28nmの「SBA microsphere」、及び中心細孔直径が2~10nmの「C-meso」から選択されたいずれか1種のメソポーラスシリカである、
    下記(1)~(3)の工程を含む方法;
    (1)還元酵素A及び脱水素酵素Bそれぞれに、Si-tag、又はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種のSi-tag断片を、化学的に結合する工程、
    (2)(1)で得られた還元酵素A-Si-tag又はその断片の融合体、及び脱水素酵素B-Si-tag又はその断片の融合体のそれぞれを、0.5~1.0Mの塩濃度でかつ0.5~1.0%の濃度の界面活性剤を含有し、pH8~10に調整した緩衝液中でSi-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカに固定化する工程、
    (3)固定化終了後、0.5~1.0Mの塩濃度でかつ0.5~1.0%の濃度の界面活性剤を含有し、pH8~10に調整した緩衝液で複数回洗浄し、還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を得る工程。
  8. NADH又はNADPH補酵素再生系を利用する酸化還元反応における共役酵素反応に関わる複数の異種酵素のうち還元酵素A及び脱水素酵素Bのそれぞれがメソポーラスシリカに固定化された還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を用いた共役酵素反応方法であって、
    ここで、両酵素のそれぞれが、いずれも多量体構造を有しており、また、メソポーラスシリカが、中心細孔直径が2~10nmの「FSM」、中心細孔直径が4~12nmの「SBA」、中心細孔直径が12~28nmの「SBA microsphere」、及び中心細孔直径が2~10nmの「C-meso」から選択されたいずれか1種のメソポーラスシリカである、
    下記(1)~(3)の工程を含む方法;
    (1)還元酵素A及び脱水素酵素Bのうちの少なくとも一方の酵素に、Si-tag、又
    はそのN末側断片、C末側断片、及びN末-C末側結合断片から選択されたいずれか1種
    のSi-tag断片を、化学的に結合する工程、
    (2)(1)で得られた還元酵素A-Si-tagもしくはその断片の融合体、及び/又は脱水素酵素B-Si-tagもしくはその断片の融合体をSi-tag又はその断片の側でメソポーラスシリカに固定化する工程、
    (3)(2)で得られた還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を、還元酵素A及び/又は脱水素酵素Bの基質を含む緩衝液内に添加して懸濁させ、還元酵素A及び脱水素酵素Bが関わる共役的な酵素反応を行う工程。
  9. 共役酵素反応方法が、反応基質から有用物質を製造する方法である、請求項7又は8に記載の方法。
  10. 共役酵素反応方法が、環境中に存在する反応基質となる環境汚染物質を分解する方法である、請求項7又は8に記載の方法。
  11. 共役酵素反応方法が、被検試料中に存在するか又は存在する可能性のある反応基質を検出又は定量する方法である、請求項7又は8に記載の方法。
  12. 請求項1~6のいずれか一項に記載の還元酵素A-脱水素酵素B-Si-tag-メソポーラスシリカ複合体を含むことを特徴とする、還元酵素A及び脱水素酵素Bが関わる共役酵素反応用キット、センサー又は装置。
  13. 共役酵素反応用キット、センサー又は装置が、反応基質から有用物質を製造するためのものであることを特徴とする、請求項12に記載のキット、センサー又は装置。
  14. カルボニル還元酵素(CR)と脱水素酵素Bとの共役酵素反応を利用した光学活性アルコールを製造するためのキット又はバイオリアクターである、請求項12に記載のキット、センサー又は装置。
  15. 共役酵素反応用キット、センサー又は装置が、被検試料中に存在する可能性のある反応基質又は共役酵素反応後の産物を検出又は定量するためのものであることを特徴とする、請求項12に記載のキット、センサー又は装置。
  16. グルコース脱水素酵素(GDH)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)、フルクトース脱水素酵素(FDH)、アルコール脱水素酵素(ADH)、ギ酸脱水素酵素(FDH)、乳酸脱水素酵素(LDH)、ソルビトール脱水素酵素(SDH)、グリセロールリン酸脱水素酵素(GPDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)又はキシリトール脱水素酵素(XDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)との補酵素再生系の共役酵素反応を利用した、被検試料中のグルコース、グルコース-6-リン酸、フルクトース、アルコール、ギ酸、乳酸、ソルビトール、グリセロールリン酸、リンゴ酸又はキシリトールを検出又は定量するための測定キットである、請求項15に記載のキット、センサー又は装置。
  17. ソルビトール脱水素酵素(SDH)とDT-ジアホラーゼ(DTD)との補酵素再生系の共役酵素反応を利用した、被検試料中のソルビトールを検出又は定量するための測定キットである、請求項16に記載のキット、センサー又は装置。
  18. 共役酵素反応用キット又は装置が、環境中に存在する反応基質となる環境汚染物質を分解するためのものであることを特徴とする、請求項12に記載のキット、センサー又は装置。
  19. アゾ還元酵素(AzoR)とグルコース脱水素酵素(GDH)とのNAD又はNADH補酵素再生系を利用した、環境中の難分解性化学染料分解のための装置である、請求項18に記載のキット、センサー又は装置。
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