JP7026938B2 - 低エネルギー型の二酸化炭素発生方法、及び該方法に使用するための二酸化炭素発生剤 - Google Patents

低エネルギー型の二酸化炭素発生方法、及び該方法に使用するための二酸化炭素発生剤 Download PDF

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Description

本発明は、空気中の二酸化炭素の吸収剤、該吸収剤により空気中の二酸化炭素が吸収され、固定化された化合物を含有してなり、100℃未満の温度で二酸化炭素を発生させることが可能な二酸化炭素発生剤に関する。
最近、地球環境保護の観点から、温室効果ガスである二酸化炭素の排出削減について活発な議論がなされているが、真に効果的な解決策は未だ見出されていない。その解決策として、火力発電所等から排出される排ガスから高濃度の二酸化炭素を効率的に回収し、地中や海中に埋めて貯蔵する技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)が有力視されている(非特許文献1)。しかし、CCSは、大規模な設備等への多大な投資が必要であるため、民間レベル(個人レベル)においては現実的な解決策であるとはいえない。また、排ガス等には、二酸化炭素以外にも窒素酸化物や硫黄酸化物等の有毒ガスも高濃度で含まれており、これらの有毒ガスと共に回収した二酸化炭素を炭素源として活用するためには多くの問題が残されている(特許文献1、2)。空気中の二酸化炭素(空気中の二酸化炭素比率は、通常、わずか0.04~0.05v/v%である)を、炭素源として、簡便且つ効果的に活用できれば、真に有効な解決策となり得る。
現在までに、二酸化炭素を炭素源として利用する各種化学反応の開発研究や人工光合成に関する研究が盛んに行われているが、殆どの場合、二酸化炭素雰囲気下(すなわち、100%二酸化炭素中)での反応や超臨界二酸化炭素(気体と液体が共存できる限界の温度・圧力(臨界点)を超えた状態)中での反応であり、二酸化炭素源としては、二酸化炭素ボンベ(主に石油や石炭からの水素製造工程から副産物として大量に回収された二酸化炭素を完全に脱硫、脱臭し、圧縮液化工程を経て得た液化二酸化炭素を充填したボンベ)を使用するのが一般的である。それ故、その製造過程で多大な手間やエネルギーを要する二酸化炭素ボンベ等を一切必要とせず、空気中に無尽蔵に存在する二酸化炭素を、加温及び/又は加圧することなく、効率良く回収、貯蔵することができ、適時に適量だけ発生させて炭素源として使用することができれば、真に地球環境に優しい技術となり得る。
現在、最も有力視されている空気中の二酸化炭素のみを収集する方法としては、水酸化ナトリウム水溶液に空気中の二酸化炭素を吸収させ、炭酸ナトリウム水溶液とした後、水酸化カルシウムスラリーと反応させ、固体状態の炭酸カルシウムを得、それを900℃で加温することにより炭酸ガスを発生させる方法が知られている(非特許文献2)。しかし、この方法では、二酸化炭素の吸収剤として使用される水酸化ナトリウムは劇物であること、二酸化炭素を発生させる際に高温条件(900℃程度)が必要であること、また、二酸化炭素の吸収から発生までに4工程を要するという問題点を有していた。
本発明者らは、最近、ヒドロキシ基又は置換されていてもよいアミノ基で置換されたアルキルアミンが空気中から二酸化炭素を効率良く吸収、固定化することを見出すと共に、それにより生成する二酸化炭素を吸収したアルキルアミンを酸と反応させるか、または約120~140℃で加熱することにより、適時に適量だけ二酸化炭素を発生させることができることを見出した(特許文献3、非特許文献3)。また、本発明者らは、m-キシリレンジアミン(MXDA)が空気中の水を吸収することなく、二酸化炭素のみを選択的に吸収して、MXDA・COが得られることを見出すと共に、得られたMXDA・COを110~120℃で加熱して二酸化炭素を発生させることにより、疎水性のGrignard反応が高収率で進行することを報告した(特許文献3、非特許文献4)。
特開2003-53134号公報 特開2005-40683号公報 特開2017-31046号公報
Iijima, M.; Nakatani, S. Kagaku Kogaku, 2013, Vol.77, pages 300-303 Baciocchi, R.; Storti, G.; Mazzotti, M. Chemical Engineering and Processing, 2006, Vol.45, pages 1047-1058. Inagaki, F.; Okada, Y.; Matsumoto, C.; Yamada, M.; Nakazawa, K.; Mukai, C. Chem. Pharm. Bull. 2016, 64, pages 8-13. Inagaki, F.; Matsumoto, C.; Iwata, T.; Mukai, C. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, pages 4639-4642.
本発明の目的は、二酸化炭素の有効活用におけるエネルギーコストの更なる削減を企図し、常温、常圧下で空気中から二酸化炭素を効率良く吸収、固定化し、当該固定化された二酸化炭素を、化学工場等で日常的に発生する100℃未満の排熱等で、適時に適量だけ発生させて炭素源として利用することが可能な低エネルギー型の二酸化炭素発生剤、及びそれを用いる二酸化炭素の発生方法を提供することである。
本発明者らは、かかる状況下、鋭意検討を重ねた結果、空気中の二酸化炭素を吸収、固定化してなる、式(I):
Figure 0007026938000001
(式中、
n個のRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルキル基、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルコキシ基、シアノ基又はニトロ基を示し;
Arは、C6-14芳香族炭化水素環を示し;
m個のRは、それぞれ独立して、水素原子又はC1-4アルキル基を示し;
nは、0~3の整数を示し;
mは、1~3の整数を示し;
Xは、4を示し;
Yは、8~9を示し;及び
Zは、1を示す。)
で表される化合物(以下、「化合物(I)」と称することもある。)が、固体として貯蔵可能であることを見出すと共に、化合物(I)又は化合物(I)を含有してなる組成物を100℃未満の温度という緩和な条件下で加熱することにより、空気中から吸収、固定化した二酸化炭素を、適時に適量だけ発生させることができる、低エネルギー型の二酸化炭素発生剤となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]式(I):
Figure 0007026938000002
(式中、
n個のRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルキル基、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルコキシ基、シアノ基又はニトロ基を示し;
Arは、C6-14芳香族炭化水素環を示し;
m個のRは、それぞれ独立して、水素原子又はC1-4アルキル基を示し;
nは、0~3の整数を示し;
mは、1~3の整数を示し;
Xは、4を示し;
Yは、8~9を示し;及び
Zは、1を示す。)
で表される化合物を100℃未満の温度で加熱することにより、二酸化炭素を発生させることを特徴とする、二酸化炭素の発生方法。
[2]前記式(I)で表される化合物が、空気雰囲気下、下記式(II):
Figure 0007026938000003
(式中の各記号は、請求項1と同義である。)
で表される化合物(以下、「化合物(II)」と称することもある。)を、常温、常圧下で放置して、空気中の二酸化炭素を吸収させることにより得られる、前記[1]に記載の方法。
[3]前記式(I)中のRが、フッ素原子、塩素原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいC1-4アルキル基又は1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、Arが、ベンゼン環であり、Rが、水素原子であり、nが0又は1であり、且つmが1又は2である、前記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]加熱が、45℃~90℃で行われる、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]式(I):
Figure 0007026938000004
(式中、n個のRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルキル基、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルコキシ基、シアノ基又はニトロ基を示し;
Arは、C6-14芳香族炭化水素環を示し;
m個のRは、それぞれ独立して、水素原子又はC1-4アルキル基を示し;
nは、0~3の整数を示し;
mは、1~3の整数を示し;
Xは、4を示し;
Yは、8~9を示し;及び
Zは、1を示す。)
で表される化合物を含有してなり、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法に使用するための二酸化炭素発生剤。
[6]前記式(I)中のRが、フッ素原子、塩素原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいC1-4アルキル基又は1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、Arが、ベンゼン環であり、Rが、水素原子であり、nが0又は1であり、且つmが1又は2である、前記[5]に記載の二酸化炭素発生剤。
[7]4-トリフルオロメチルベンジルアミンを含有してなる、空気中の二酸化炭素吸収剤。
[8]式(I-4):
Figure 0007026938000005
で表される化合物(以下、「化合物(I-4)」と称することもある。)を含有してなる、二酸化炭素発生剤。
本発明によれば、空気中の二酸化炭素を、常温、常圧下で簡便且つ効率的に吸収して得られ、且つ100℃未満(約45~90℃程度)の緩和な温度条件下で二酸化炭素を効率良く発生させることを特徴とする実用的な二酸化炭素発生剤、及びそれを利用する新規な二酸化炭素発生方法を提供することができる。本発明の二酸化炭素発生剤は、従来公知のアミン系二酸化炭素吸収剤であるモノエタノールアミンが二酸化炭素吸収後も液体であり、且つ水分も多く吸収してしまうのとは異なり、全て固体として得られ、含水率も低く、その組成も変化することがないため、長期間保存することも容易であり、また、酸を使用する必要もなく、100℃未満の緩和な条件で加熱することによりアミン(化合物(II))が再生することから、高温加熱によるアミンの劣化も起こりにくいという利点を有する。また、本発明によれば、化学工場等において日常的に発生する100℃未満の工場排熱等を二酸化炭素の発生に有効活用することもできることから、エネルギーコストの削減につながり、地球環境に優しい空気中の二酸化炭素の有効活用方法を提供することができる。
図1は、デシケーター中に種々の化合物(II)(化合物(II-1)、化合物(II-2)、化合物(II-3)及び化合物(II-4))を、それぞれシャーレに入れて放置した際の時間経過に伴う二酸化炭素濃度(ppm)の変化を表す。 図2は、化合物(II-3)を、空気中に放置した際の時間経過に伴う質量変化(増加したg数)を表す。
以下、本発明について詳細に説明する。
(定義)
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である。
本明細書中、「アルキル基」としては、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1以上のアルキル基が挙げられ、特に炭素数範囲の限定がない場合には、C1-12アルキル基であり、好ましくはC1-6アルキル基であり、より好ましくはC1-4アルキル基である。好適な具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられ、中でも、メチル基が特に好ましい。
本明細書中、「アルコキシ基」としては、炭素数1以上のアルコキシ基が挙げられ、特に炭素数範囲の限定がない場合には、C1-12アルコシ基であり、より、好ましくはC1-6アルコキシ基であり、より好ましくはC1-4アルコキシ基である。好適な具体例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等が挙げられ、中でも、メトキシ基が特に好ましい。
本明細書中、「C6-14芳香族炭化水素環」としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、中でも、ベンゼン環が特に好ましい。
本明細書中、「常温」とは、第16改正日本薬局方通則で規定されている常温(15℃~25℃)をいう。
本明細書中、「約」は、±5℃と定義する。
(二酸化炭素吸収剤)
本発明の二酸化炭素発生剤を製造するために使用する二酸化炭素吸収剤は、下記式(II):
Figure 0007026938000006
(式中の各記号は、前記と同義である。)
で表される化合物(化合物(II))、又はそれを含有してなる組成物である。
化合物(II)の具体例としては、例えば、ベンジルアミン、フェネチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、4-フルオロベンジルアミン、4-フルオロフェネチルアミン、4-クロロベンジルアミン、4-クロロフェネチルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-メチルフェネチルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-エチルフェネチルアミン、4-メトキシベンジルアミン、4-メトキシフェネチルアミン、4-トリフルオロメチルベンジルアミン、4-トリフルオロメチルフェネチルアミン等が挙げられる。中でも、ベンジルアミン、フェネチルアミン、4-メトキシベンジルアミン又は4-トリフルオロメチルベンジルアミンは二酸化炭素吸収能が高いので好ましく、4-トリフルオロメチルベンジルアミンは特に好ましい。これらは、いずれも市販されており、容易に入手することが可能である。また、これらは、二酸化炭素吸収時に水(空気中の湿気)を吸収しにくいので、二酸化炭素を発生させる際に水蒸気の混入を抑制することができる点でも有利である。
二酸化炭素吸収剤としては、化合物(II)自体を使用することができるが、それを含有してなる組成物を使用することもできる。該組成物は、化合物(II)を1種のみを含んでもよいし、2種以上の化合物(II)を含んでいてもよい。化合物(II)を1種のみを含む二酸化炭素吸収剤が好ましい。
また、二酸化炭素吸収剤として、化合物(II)以外の二酸化炭素吸収能を有する化合物、例えば、メタノール、ポリエチレングリコール等を含んでいてもよく、また、水分を除去するための乾燥剤(硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブス等)を含ませてもよい。
ただし、二酸化炭素吸収能力を考慮すれば、二酸化炭素吸収剤中の化合物(II)の含有量は、80重量%以上が好ましく、化合物(II)のみからなるものが特に好ましい。
(二酸化炭素吸収剤を用いる空気中の二酸化炭素の吸収、固定化方法)
前記二酸化炭素吸収剤を、常温、常圧下、空気中(空気雰囲気下)に放置することにより、空気中の二酸化炭素が二酸化炭素吸収剤に吸収されて固定化される。
具体的には、例えば、開閉可能なデシケーター内に二酸化炭素濃度計とシャーレを準備し、前記二酸化炭素吸収剤をデシケーター内のシャーレに置き、すぐに扉を閉め、数時間~7日間放置する。デシケーター内の二酸化炭素濃度を常温、常圧下、経時的に観測する。そして、デシケーター内の二酸化炭素濃度が変化しなくなった時点で二酸化炭素吸収剤への空気中の二酸化炭素の固定化が完了したことを確認することができる。
本発明において、二酸化炭素吸収剤としては、液体又は固体のいずれのものでも使用することができるが、当該二酸化炭素吸収剤が二酸化炭素を吸収すると固体物質(後述する二酸化炭素発生剤)が生成することから、二酸化炭素の吸収及び後述する二酸化炭素の発生を目視で確認できる点で、液体のものを使用することが好ましい。
(本発明の二酸化炭素発生剤)
本発明の二酸化炭素発生剤は、前記二酸化炭素吸収剤に、空気中の二酸化炭素が固定化されたものであり、下記式(I):
Figure 0007026938000007
(式中、
n個のRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルキル基、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいアルコキシ基、シアノ基又はニトロ基を示し;
Arは、C6-14芳香族炭化水素環を示し;
m個のRは、それぞれ独立して、水素原子又はC1-4アルキル基を示し;
nは、0~3の整数を示し;
mは、1~3の整数を示し;
Xは、4を示し;
Yは、8~9を示し;及び
Zは、1を示す。)
で表される化合物(化合物(I))自体、又はそれを含有してなる組成物である。
本発明の化合物(I)としては、以下の化合物が好適である。
[化合物(IA)]
前記式(I)中のRが、フッ素原子、塩素原子、1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいC1-4アルキル基又は1~3個のハロゲン原子により置換されていてもよいC1-4アルコキシ基であり、
Arが、ベンゼン環であり、
が、水素原子であり、
nが、0又は1であり、
mが、1又は2であり、
Xが、4であり、
Yが、8又は9であり、且つ
Zが、1である、
化合物(I)。
[化合物(IB)]
前記式(I)中のRが、1~3個のフッ素原子により置換されていてもよいメチル基(例、メチル基、トリフルオロメチル基等)又は1~3個のフッ素原子により置換されていてもよいメトキシ基(例、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基等)であり、
Arが、ベンゼン環であり、
が、水素原子であり、
nが、0又は1であり、
mが、1又は2であり、
Xが、4であり、
Yが、8又は9であり、且つ
Zが、1である、
化合物(I)。
化合物(I)の好ましい具体例としては、例えば、後述する実施例1により得られる化合物(I-1):
Figure 0007026938000008
、化合物(I-2):
Figure 0007026938000009
、化合物(I-3):
Figure 0007026938000010
、又は化合物(I-4):
Figure 0007026938000011
が挙げられる。
本発明の化合物(I)の具体的な化学構造は不明であるが、非特許文献4(J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, pages 4639-4642)のFigure 1、3及び4の記載に基づけば、同様のカルバミン酸塩を形成していると推定することができる。
本発明の二酸化炭素発生剤は、化合物(I)自体を使用することができるが、それを含有してなる組成物を使用することもできる。該組成物は、化合物(I)を1種のみを含んでもよいし、異なる種類の化合物(I)を2種以上含んでいてもよい。化合物(I)を1種のみを含む二酸化炭素発生剤が好ましい。
また、本発明の二酸化炭素発生剤には、水分を除去するための乾燥剤(硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブス等)を含ませてもよい。
ただし、二酸化炭素発生能力を考慮すれば、本発明の二酸化炭素発生剤中の化合物(I)の含有量は、80重量%以上が好ましく、化合物(I)のみからなるものが特に好ましい。
本発明の二酸化炭素発生剤は、固体であることを特徴とする。
本発明の二酸化炭素発生剤は、常温下又はそれ以下の温度下では、二酸化炭素を発生させることなく、二酸化炭素の固定化を維持することができる。
本発明の化合物(I)は、保存条件下(常温又はそれ以下の温度条件下)において安定であり、その組成は殆ど変化しない。このことは、一定時間経過後に元素分析を行うことにより確認することができる(後述する表1参照)。
(本発明の二酸化炭素発生剤を用いる二酸化炭素の発生方法)
本発明の二酸化炭素発生剤(すなわち、化合物(I))は、100℃未満(約45~90℃程度)の緩和な温度条件下で二酸化炭素を効率良く発生させることができる。化合物(I)は、水の沸点よりも低い温度で二酸化炭素を発生させことができるので、化合物(I)中の水分は、気化せずに二酸化炭素のみを発生させることができるという利点を有する。
二酸化炭素の発生方法としては、特に限定されないが、例えば、発生させた二酸化炭素を有機合成反応の炭素源として使用する場合には、有機合成反応を行う反応容器に連結可能な反応装置(その材質等は特に限定されない)を準備し、そこに本発明の二酸化炭素発生剤(化合物(I))を秤量して加え、100℃未満(約45~90℃程度)の温度で加熱することにより、二酸化炭素の発生を目視により確認することができる。本発明の二酸化炭素発生剤から二酸化炭素を発生させた後の残渣には、対応する化合物(II)と微量の水分のみを含むことから、前記した二酸化炭素吸収剤として、そのまま再利用することができる。
有機合成反応等に本発明の二酸化炭素発生方法及び二酸化炭素発生剤を使用する場合、発生させる二酸化炭素の量は、反応基質の量よりも反応装置の全容積に依存する。そのため化合物(I)の使用量は、用いる反応装置の全容積の約2倍程度の二酸化炭素が発生するように設定するのが望ましい。
本発明の二酸化炭素発生方法においては、溶媒は、必ずしも必要ではないが、必要に応じて、化合物(I)を溶媒で希釈して使用することもできる。使用し得る溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類等が挙げられる。
本発明の二酸化炭素発生方法においては、本発明の二酸化炭素発生剤(化合物(I))を100℃未満の温度下に置くだけで効果的に二酸化炭素を発生させることが可能である。本発生方法は、900℃という高温での加熱条件が必要な従来法、あるいは酸の添加又は110℃以上の加熱条件が必要であった特許文献3又は非特許文献4に記載の方法と比較して、極めて緩和な条件下で二酸化炭素を発生させることが可能であり、それ故、二酸化炭素吸収剤であるアミン(すなわち、化合物(II))の劣化を起こすことなく、リサイクルも極めて簡便に行うことができる実用性に優れた方法である。また、100℃未満(約45~90℃程度)の温度は、化学工場等において日常的に発生する工場排熱により得られるものであるから、本発明の二酸化炭素発生方法によれば、二酸化炭素の発生にかかるエネルギーコストを大幅に低減することが可能である。
以上、説明した通り、本発明の二酸化炭素発生剤は、その使用に際して、外部エネルギーの使用量を顕著に低減することができ、高温処理に起因する二酸化炭素吸収剤(アミン)の劣化の心配もなく、リサイクルも容易であるという点で、地球環境に優しい試薬である。
また、本発明の二酸化炭素発生剤は、固体で得られるので保存安定性に優れ、また、100℃未満(約45~90℃程度)の温度で加熱するという極めて緩和な条件下で必要な時に必要な量だけ二酸化炭素を発生させることができるので、エネルギー効率に優れ、炭素源として種々の有機合成反応等に有効に活用することができ、工業的規模への応用も期待される。
以下に実施例及び実験例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
融点測定は、柳本製作所 融点測定器(Micro Melting Point Apparatus MP-J3)を用いて計測した。
赤外吸収測定は、島津製赤外分光光度計 FT/IR-8700を用いて、NaCl板固定セルでのクロロホルム溶液による透過測定により行うか、またはThermo Fisher Scientific社製 Nicolet iS5 FT-IR spectrometerを用いて、ATR法により測定した。
元素分析は、J-SCIENCE LAB JM10を用いて実行した。
二酸化炭素の濃度は、God Ability(GA)社製の二酸化炭素濃度計(GC-02)を用いて計測した。
以下の実施例中の「室温」は、通常約10℃ないし約25℃を示す。混合溶媒において示した比は、特に断らない限り容量比を示す。%は、特に断らない限り重量%を示す。
本発明の二酸化炭素発生剤として使用する化合物(I)の調製に使用した二酸化炭素吸収剤である化合物(II)としては、市販品(ベンジルアミン(ナカライテスク株式会社製)、フェネチルアミン(東京化成工業株式会社製)、4-メトキシベンジルアミン(関東化学株式会社製)及び4-トリフルオロメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社製))をそのまま使用した。
実施例1
種々の化合物(II)を二酸化炭素吸収剤として用いた場合の、時間経過に伴う空気中の二酸化炭素量の変化(化合物(II)から本発明の化合物(I)への変換反応)
(実験操作例)
開閉可能なデシケーター(35.7L)内に二酸化炭素濃度計とシャーレを準備した。その後、種々の化合物(II)(すなわち、ベンジルアミン(化合物(II-1))、フェネチルアミン(化合物(II-2))、4-メトキシベンジルアミン(化合物(II-3))又は4-トリフルオロメチルベンジルアミン(化合物(II-4)))(5mmol)をデシケーター内のシャーレに加え、すぐに扉を閉め、デシケーター内二酸化炭素濃度を室温下、24時間経時的に測定した。なお、二酸化炭素の初期濃度は、空気中の二酸化炭素濃度に依存するが、空気中の二酸化炭素濃度は常に一定ではなく、437~640ppmの範囲内で変動したため、実験毎に異なっている(図1参照)。
(二酸化炭素吸収量の測定)
化合物(II-3)(0.33mol)をシャーレに加え、室温下、空気中で静置し、その質量の増加量(g)を7日間経時的に電子天秤で秤量した(図2参照)。
当該増加量、及び下記方法により決定された二酸化炭素吸収後の化合物(化合物(I))の組成から、二酸化炭素吸収量を算出することができる。
(本発明の化合物(I)の組成の決定方法)
種々の化合物(II)(二酸化炭素吸収剤)を室温下、空気中に放置することにより生成した化合物(I)(本発明の二酸化炭素発生剤)の成分組成は、以下の方法により決定することができる。すなわち、種々の二酸化炭素吸収剤を、それぞれシャーレに加え、室温下、空気中で2週間以上静置した。その後、二酸化炭素吸収後の化合物(化合物(I-1)~化合物(I-4))の元素分析により成分比等を特定した。結果を下記表1(化合物(I-1)~(I-4))に示した。
種々の化合物(II)(二酸化炭素吸収剤)を用いて、上記実験を行った結果を図1及び図2に示した。図1によれば、二酸化炭素吸収剤として、化合物(II-1)~化合物(II-4)を用いた場合には、いずれも効率良く空気中の二酸化炭素を吸収できることが確認された。また、図2によれば、二酸化炭素吸収剤として、化合物(II-3)を用いた場合に、約2日空気中に放置することで飽和状態である化合物(I-3)を生成し、それ以上、二酸化炭素を吸収できなくなることが確認された。
表1の各化合物(I)の元素分析結果によれば、一定期間(6~8日間)経過後に複数回繰り返して(2~4回)測定しても、各化合物(I)の組成に殆ど変化は見られなかった。このことから、二酸化炭素吸収量が一旦飽和状態に達した後は、常温下では二酸化炭素は発生させることなく、化合物(I)中に安定に固定化されていることを確認することができた。
実施例2
本発明の二酸化炭素発生剤(化合物(I))からの二酸化炭素の発生試験
(実験操作例)
上記実施例1で得られた化合物(I-1)~化合物(I-4)(固体)を、柳本製作所の微量融点測定器(MP-J3)を用いて、100℃未満(すなわち、融点(mp)の近傍温度)で加熱することにより、二酸化炭素の発生及び各試料の液体化(発泡及び融解)を確認することができた。化合物(I-1)~化合物(I-4)の二酸化炭素の発生温度(すなわち、各試料の融点)を、結果を下記表1に示した。
Figure 0007026938000012
以上の結果から、本発明の二酸化炭素発生剤を用いることにより、従来法と比較して極めて緩和な加熱条件下(約45℃~90℃)でも、二酸化炭素を効率良く発生できることが確認された。これにより、エネルギーコストを抑えながら、空気中の二酸化炭素を炭素源として種々の有機合成反応等に有効に活用することができる。
本発明によれば、空気中の二酸化炭素を、常温、常圧下で簡便且つ効率的に吸収して得られ、且つ100℃未満(約45~90℃程度)の緩和な温度条件下で加熱することにより二酸化炭素を効率良く発生させることを特徴とする実用的な二酸化炭素発生剤、及びそれを利用する新規な二酸化炭素発生方法を提供することができる。本発明の二酸化炭素発生剤は、全て固体として得られ、含水率も低く、その組成も変化することがないため、保存安定性に優れ、100℃未満の温度下でアミン(化合物(II))を再生することから、高温加熱によるアミンの劣化も起こりにくいという利点を有する。また、本発明によれば、化学工場等において日常的に発生する100℃未満の工場排熱等を有効活用することもできることから、エネルギーコストの削減につながり、地球環境に優しく、実用的な二酸化炭素の新規発生方法を提供することができる。

Claims (6)

  1. 式(I-1):
    Figure 0007026938000013
    、式(I-2):
    Figure 0007026938000014
    、式(I-3):
    Figure 0007026938000015
    、又は式(I-4):
    Figure 0007026938000016
    で表される化合物を45℃~90℃の温度で加熱することにより、二酸化炭素を発生させることを特徴とする、二酸化炭素の発生方法。
  2. 式(I-4):
    Figure 0007026938000017
    で表される化合物を45℃~59℃の温度で加熱する、請求項1に記載の方法。
  3. 式(I-1):
    Figure 0007026938000018
    で表される化合物を含有してなる、二酸化炭素発生剤。
  4. 式(I-2):
    Figure 0007026938000019
    で表される化合物を含有してなる、二酸化炭素発生剤。
  5. 式(I-3):
    Figure 0007026938000020
    で表される化合物を含有してなる、二酸化炭素発生剤。
  6. 式(I-4):
    Figure 0007026938000021
    で表される化合物を含有してなる、二酸化炭素発生剤。
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