JP7019338B2 - 幹細胞性維持及び賦活化剤、並びにそれを含有する皮膚外用剤及び化粧品 - Google Patents

幹細胞性維持及び賦活化剤、並びにそれを含有する皮膚外用剤及び化粧品 Download PDF

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Description

本発明は、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有し、LIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子からなる群から選択される遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、遺伝子発現亢進剤に関する。また、本発明は、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有し、間葉系幹細胞の遺伝子を亢進させることを特徴とする、間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤に関する。また、本発明は、遺伝子発現亢進剤、又は、該幹細胞性維持及び賦活化剤を含有する、皮膚外用剤及び化粧品に関する。
線維芽細胞の前駆細胞として骨髄から分離された間葉系幹細胞は、間葉系に属するさまざまな細胞(骨細胞、筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)に分化することから、骨や血管、筋の再構築など再生医療への応用が期待されている。最近では、間葉系組織を持つ組織の多くに存在する可能性が明らかになってきており、脂肪や臍帯血、胎盤等からも間葉系幹細胞が単離されている。また、真皮にも間葉系幹細胞(真皮幹細胞)が存在することも明らかとなっている(特許文献1)。
間葉系幹細胞は、血管周皮細胞(ぺリサイト)として全身の血管に存在し、血管安定化や組織恒常性維持に働くことが知られている(非特許文献1及び2)。組織損傷部位又はその近傍において血管が破壊されると、血管周皮細胞(ぺリサイト)である間葉系幹細胞は血管から離れて増殖し、失われた細胞を供給するとともに、生物活性を持つ因子を放出して組織を保護し、損傷した組織の修復及び再生に寄与する(非特許文献3~7)。また、間葉系幹細胞は、抗線維化作用を示すことも知られている(非特許文献8及び9)。
間葉系幹細胞がこのような性質を有することから、近年、再生医療分野や、美容分野への応用についての研究が広く行われている。このような分野において、所望の部位にて間葉系幹細胞の効果を発揮させるためには、間葉系幹細胞を適用するまで、その未分化性及び健常性を維持させることが重要であるが、これらの性質を長期間維持することは困難であることが知られている(非特許文献10)。
これまでに、Sox2やNanogなどの特定の遺伝子を間葉系幹細胞に導入することにより、増殖・分化能を維持した間葉系幹細胞の培養方法(特許文献2)や、間葉系幹細胞を一定の低酸素濃度条件下で培養することにより、その未分化性及び健常性を維持させる方法が報告されている(特許文献3)。
しかしながら、こうした方法は、インビトロにおいて適用可能であるものの、インビボ、例えば、生体組織に存在する間葉系幹細胞に適用することは困難であった。間葉系幹細胞の未分化性及び健常性を維持しつつ、所望の部位にて賦活化することができ、インビトロ及びインビボにおいても適用し得る、新たな発明が求められていた。
国際公開第2011/034106号 特開2009-11254号公報 国際公開第2014/200068号
da Silva Meirelles L et al., Stem Cells, 2008 Sep;26(9):2287-2299 da Silva Meirelles L et al., J Cell Sci, 2006;119:2204-2213 Gnecchi M et al., Nat Med, 2005; 11:367-368 Kinnaird T et al., Circ Res, 2004;94:678-685 Kinnaird T et al., Circulation, 2004;109:1543-1549 Tang YL et al., Ann Thorac Surg, 2005;80:229-237 Zhang M et al., FASEB J, 2007;21:3197-3207 Fang BJ et al., Transplantation, 2004;78:83-88 Ortiz LA et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2003;100:8407-841 Jahoda CAB et al.(1984)Nature 311:560-562
本発明の課題は、間葉系幹細胞の幹細胞性を維持し、かつ、賦活化することができる、新規な幹細胞性維持及び賦活化剤、それを含む皮膚外用剤及び化粧品、並びにそれを用いる間葉系幹細胞の幹細胞性を維持及び賦活化する方法、を提供することにある。
本発明者らは、間葉系幹細胞について、メタボローム解析を行い、鋭意研究を行った結果、低酸素で培養した時と同様、ヒドロキシプロリンが間葉系幹細胞の未分化性を維持しつつ、組織修復する遺伝子群を亢進させるという驚くべき知見を得て、本発明を完成させるに至った。
従って、本願は以下の発明を包含する:
[1] ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有し、LIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子からなる群から選択される遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、遺伝子発現亢進剤。
[2] ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する、間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤。
[3] 前記間葉系幹細胞において、LIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子からなる群から選択される遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、[2]に記載の間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤。
[4] 前記間葉系幹細胞が、皮膚組織由来の間葉系幹細胞を含む、[2]又は[3]に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤。
[5] 前記間葉系幹細胞が、真皮幹細胞を含む、[2]~[4]のいずれか1項に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤。
[6] 前記ヒドロキシプロリンが、L-ヒドロキシプロリンである、[2]~[5]のいずれか1項に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤。
[7] [1]に記載の遺伝子発現亢進剤、又は、[2]~[6]のいずれか1項に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤を含有する、皮膚外用剤。
[8] [1]に記載の遺伝子発現亢進剤、又は、[2]~[6]のいずれか1項に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤を含有する、化粧品。
[9] 間葉系幹細胞の幹細胞性を維持及び賦活化する方法であって、間葉系幹細胞にヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を添加し、前記間葉系幹細胞を培養し、前記間葉系幹細胞のLIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子からなる群から選択される遺伝子の発現を亢進させることを含む、方法。
[10] 前記間葉系幹細胞が、皮膚組織由来の間葉系幹細胞を含む、[9]に記載の方法。
[11] 前記間葉系幹細胞が、真皮幹細胞を含む、[9]又は[10]に記載の方法。
[12] 前記ヒドロキシプロリンが、L-ヒドロキシプロリンである、[9]~[11]のいずれか1項に記載の方法。
本発明により、間葉系幹細胞の幹細胞性を維持しつつ、組織修復する遺伝子群の発現が亢進し、間葉系幹細胞を含む生体組織の組織再生能力を促進させることを可能とする。
酸素濃度の違いによる、間葉系幹細胞内のヒドロキシプロリンの量を示す図である。 ヒドロキシプロリンの添加の有無による、間葉系幹細胞におけるLIF遺伝子の発現量の比較を示す。 ヒドロキシプロリンの添加の有無による、間葉系幹細胞におけるCOMP遺伝子の発現量の比較を示す。 ヒドロキシプロリンの添加の有無による、間葉系幹細胞におけるFMOD遺伝子の発現量の比較を示す。
本発明は、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有し、LIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子からなる群から選択される遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、遺伝子発現亢進剤を提供する。また、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する、間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤、並びにそれを含有する皮膚外用剤及び化粧品を提供する。また、本発明は、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を用いた、間葉系幹細胞の幹細胞性を維持及び賦活化する方法を提供する。
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)は、典型的には、脂肪、臍帯、骨髄中、滑膜、皮膚などに存在し、多分化能を有する体性幹細胞である。間葉系幹細胞は種々の中胚葉細胞、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞及び線維芽細胞などに分化することができる。間葉系幹細胞はその多分化能から、骨、関節、筋肉、肝臓、腎臓、心臓、中枢神経系及び膵臓等の臓器再生医療や、美容分野への応用が期待されている。例えば、間葉系幹細胞の移植による心筋梗塞、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、自己免疫疾患、慢性腎不全、変形性関節症、脳梗塞、ならびに脳神経系疾患(例えば、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病)等の治療に関する研究が進められている(例えば、特開2012-157263号公報)。
本発明が適用される間葉系幹細胞は、限定されないが、あらゆる哺乳動物(例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類)、家畜動物(例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ)、又は他の実験用動物(例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラット)由来であってよく、好ましくはヒト由来の間葉系幹細胞である。また、本発明が適用される間葉系幹細胞は、脂肪、臍帯、骨髄中、滑膜又は皮膚由来であってもよく、好ましくは脂肪由来間葉系幹細胞(Adipose-derived stem cell:ADSC)又は皮膚組織由来、特に、真皮由来の真皮幹細胞である。
間葉系幹細胞の賦活化は、血管の安定化、組織恒常性の維持、損傷組織の修復・再生(特に真皮の再生)、抗線維化、多発性硬化症や糖尿病等の各種疾患の予防・治療、メタボリックシンドローム等の慢性炎症に基づく各種状態の予防・改善等の用途に極めて有効であることが知られている。本発明は、間葉系幹細胞の幹細胞性を維持しつつ、組織修復する遺伝子群の発現を亢進させることによって、上記のような間葉系幹細胞による組織再生能力を促進させることを可能とする。
本発明が適用される間葉系幹細胞は、上記の哺乳動物の生体組織から、初代培養により取得された細胞であってもよいし、継代培養により取得された細胞であってもよく、また、体性幹細胞、iPS細胞、及びES細胞から分化誘導されて得られた細胞であってもよい。また、上記の哺乳動物の間葉系幹細胞を含む生体組織に適用されてもよい。
本明細書において、「ヒドロキシプロリン」は、天然に存在するアミノ酸の一種であり、プロリンのγ炭素原子にヒドロキシ基が結合した構造を有する。ヒドロキシプロリンは、コラーゲンの主要な構成成分であり、コラーゲンを安定化させるものとして知られている。ヒドロキシプロリンは、細胞内において、タンパク質合成後の翻訳後修飾として、プロリルヒドロキシラーゼによってプロリンにヒドロキシル基が導入されることによっても生成される。本発明に用いられるヒドロキシプロリンは、L-ヒドロキシプロリンであってもよく、D-ヒドロキシプロリンであってもよいが、天然に主に存在するL-ヒドロキシプロリンであることが好ましい。ヒドロキシプロリンは、市販されているものを用いてもよい。
本発明の遺伝子発現亢進剤、又は間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤(以降「本発明の剤」という場合がある。)は、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する。ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩の含有量については、使用する用途、その他の混合物等に応じて適宜変更される。
本明細書において、間葉系幹細胞の「幹細胞性維持」とは、間葉系幹細胞が、骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞、線維芽細胞などの細胞へ分化しておらず、多分化能を維持している状態を意味する。間葉系幹細胞の幹細胞性維持を判定する方法については、当業者に周知の技術を用いれば良く、特に限定されない。例えば、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化誘導の確認には、インスリン及びデキサメサゾンを加えた培地で培養して、Oil Red O染色によって確認すればよい。例えば、間葉系幹細胞から骨細胞への分化誘導では、アスコルビン酸、β-グリセロリン酸、デキサメサゾンを培地に添加して培養し、アルカリフォスファターゼ染色で確認すればよい。例えば、間葉系幹細胞から筋分化誘導には、ウマ血清を加えた培地で培養すればよく、筋細胞に特異的な融合細胞が出現することを確認すればよい。その他、間葉系幹細胞からの分化誘導は、公知の方法を用いればよく、特に限定されない。分化誘導の有無の確認も公知の方法を用いればよく、例えば、分化誘導後にのみ発現する遺伝子又はタンパク質を、定量的RT-PCR法、フローサイトメーター又はELISA法等によって検出し、評価すればよい。
本発明の剤を適用することによって、間葉系幹細胞のLIF遺伝子の発現を亢進させることができる。LIF遺伝子によってコードされているLIF(leukemia inhibitory factor、白血病抑制因子)タンパク質は、ES細胞の分化を抑制し、多能性を維持する液性タンパク質として作用することが知られている(Smith,A.G.,et al.,Nature,336,688-690(1988)を参照のこと)。通常、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞などの幹細胞の未分化能を維持するために、培地中にLIFタンパク質が添加され、培養される。LIFタンパク質は、哺乳動物において広く保存されているタンパク質である。天然のヒトLIFタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、GenPeptデータベースにおいて受入番号NP_001244064として提供される。また、天然のヒトLIFを発現するmRNAのヌクレオチド配列としては、例えば、GenBankデータベースにおいて受入番号NM_001257135として提供されている。これらの配列は単なる例示であり、本明細書中において、「LIF遺伝子の発現が亢進する」とは、上述の配列を有するLIF遺伝子のみならず、その変異体、スプライシングバリアントなどから得られるLIFタンパク質の発現量が、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩の存在によって、増加することを意味する。本発明の剤を適用することにより、間葉系幹細胞のLIF遺伝子が亢進し、幹細胞性を維持することが可能となる。
本発明の剤を適用することにより、間葉系幹細胞のCOMP遺伝子の発現を亢進させることができる。COMP遺伝子によってコードされているCOMP(cartilage oligomeric matrix protein、軟骨オリゴマー基質タンパク質)は、接着性のタンパク質であり、コラーゲン及びフィブロネクチンなどの他の細胞外マトリックスタンパク質と相互作用して、生体組織の構造を維持する役割を果たす、創傷治癒系のタンパク質である(例えば、Chen F.H.,et al.,J.Biol.Chem.280:32655-32661(2005)を参照のこと)。また、COMPは、カスパーゼ-3の活性化をブロックし、生存タンパク質のIAPファミリー(BIRC3、BIRC2、BIRC5及びXIAP)を誘導することによって、アポトーシスを抑制することも知られている(Gagarina V.,et al.,J.Biol.Chem.283:648-659(2008)を参照のこと)。すなわち、COMPの発現量が増加することにより、アポトーシスを抑制しつつ、創傷等によって破損した生体組織構造が再構築される効果が得られる。
COMPは、哺乳動物において広く保存されているタンパク質である。天然のヒトCOMPのアミノ酸配列は、例えば、GenPeptデータベースにおいて受入番号NP_000086として提供される。また、天然のヒトCOMPを発現するmRNAのヌクレオチド配列としては、例えば、GenBankデータベースにおいて受入番号NM_000095として提供されている。これらの配列は単なる例示であり、本明細書中において、「COMP遺伝子の発現が亢進する」とは、上述の配列を有するCOMP遺伝子のみならず、その変異体、スプライシングバリアントなどから得られるCOMPの発現量が、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩の存在によって、増加することを意味する。本発明の剤を適用することにより、間葉系幹細胞の創傷治癒系のCOMP遺伝子が亢進し、間葉系幹細胞を介したコラーゲン組織の再生能力を向上させることを可能とする。
本発明の剤を適用することにより、間葉系幹細胞のFMOD遺伝子の発現を亢進させることができる。FMOD遺伝子によってコードされているFMOD(Fibromodulin)タンパク質(「フィブロモジュリン」ともいう)は、ジスルフィド結合を含む末端ドメインに隣接する4つのケラタン硫酸鎖と、ロイシンリッチリピートを含む中央領域とを有するタンパク質である。フィブロモジュリンは、I型およびII型コラーゲン原線維と相互作用し、細胞外マトリックスの会合において重要な役割を果たす創傷治癒系のタンパク質である(例えば、Hedbom E.,Heinegard D.,J.Biol.Chem.1993 Dec.25;268(36):27307-27312.を参照のこと)。すなわち、FMOD遺伝子の発現量が増加することにより、創傷等によって破損した生体組織構造が再構築される効果が得られる。
フィブロモジュリンは、哺乳動物において広く保存されているタンパク質である。天然のヒトフィブロモジュリンのアミノ酸配列は、例えば、GenPeptデータベースにおいて受入番号NP_002014として提供される。また、天然のヒトフィブロモジュリンを発現するmRNAのヌクレオチド配列としては、例えば、GenBankデータベースにおいて受入番号NM_002023として提供されている。これらの配列は単なる例示であり、本明細書中において、「FMOD遺伝子の発現が亢進する」とは、上述の配列を有するFMOD遺伝子のみならず、その変異体、スプライシングバリアントなどから得られるフィブロモジュリンの発現量が、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩の存在によって、増加することを意味する。本発明の剤を適用することにより、間葉系幹細胞の創傷治癒系のFMOD遺伝子が亢進し、間葉系幹細胞を介したコラーゲン組織の再生能力を向上させることを可能とする。
本明細書において、「遺伝子の発現が亢進する」とは、本発明の剤が適用されない細胞(コントロール)における各遺伝子の発現量と比較して、本発明の剤を適用された細胞の各遺伝子の発現量が増加している状態をいい、コントロールと比較して、例えば、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、又はそれ以上増加している状態であってもよく、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、よりさらに好ましくは25%以上発現量が増加した状態である。各遺伝子の発現量の増加は、例えば、定量的RT-PCR法やノーザンブロット法など、公知の方法によって確認することができる。各遺伝子の発現量の増加は、統計学的に有意であることが好ましい。本明細書において、「遺伝子発現亢進剤」とは、上述するように、所望の遺伝子の発現を亢進させることができる剤をいう。
本明細書において、「賦活化」とは、細胞(好ましくは、間葉系幹細胞)の創傷治癒系の遺伝子(例えば、COMP遺伝子及び/又はFMOD遺伝子)の発現が亢進する作用をいう。賦活化作用を検証する手法は制限されないが、発現する遺伝子又はタンパク質を、定量的RT-PCR法、フローサイトメーター、ELISA等によって検出し、評価すればよい。
本明細書において、「幹細胞性維持及び賦活化剤」とは、上述のように細胞(好ましくは、間葉系幹細胞)の幹細胞性維持に関する遺伝子(好ましくは、LIF遺伝子)の発現を亢進させ、かつ、創傷治癒系の遺伝子(好ましくは、COMP遺伝子及び/又はFMOD遺伝子)の発現を亢進させることができる剤をいう。間葉系幹細胞の幹細胞性の維持や賦活化状態は、メタボローム解析やDNAマイクロアレイ解析により、間葉系幹細胞内に存在する代謝産物及び/又は発現遺伝子を網羅的に解析することによって、判定することができる。また、定量的RT-PCR法、フローサイトメーター、ELISA等によって評価してもよい。
本発明の剤は、間葉系幹細胞の上述の遺伝子の他、幹細胞性を維持し、創傷治癒に関連する他の遺伝子の発現を直接的又は間接的に亢進させるものであってもよい。
本明細書において、「真皮幹細胞」とは、皮膚組織、特に真皮に存在する間葉系幹細胞であり、線維芽細胞などに分化する能力を有している細胞をいう(例えば、国際公開第2011/034106号を参照のこと)。本発明の剤を真皮幹細胞に適用することにより、真皮幹細胞の幹細胞性を維持しつつ、組織修復する遺伝子群の発現が亢進し、真皮の再生・修復力を高め、肌を自己再生することができる。その結果、肌のシワ、ハリ及び弾力の低下によるたるみを予防及び/又は改善する。
本発明の剤は、有効成分である上述のヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩のみからなるものでもよいが、上述のヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を、1種又は2種以上の他の成分、例えば賦形剤、担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。組成物の組成や形態は任意であり、有効成分や用途等の条件に応じて適切に選択すればよい。当該組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。
本発明の剤の用途は制限されないが、例えば、皮膚外用剤の形態で、経皮投与用の化粧品、医薬部外品又は医薬品等として、ヒト又は動物に適用することができる。皮膚外用剤の剤型は、皮膚に適用できる形態であれば任意であるが、液剤(溶液系、可溶化系、懸濁系・乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系等)、軟膏剤、貼付剤、化粧水、ゲル、エアゾール等が挙げられる。
本発明の剤を皮膚外用剤とする場合、本発明の剤をそのまま、或いは必要に応じて用途に応じたその他の成分と混合すればよい。その他の成分としては、医薬製剤や医薬部外品に通常用いられる成分、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線防御剤、色材、水性成分、各種皮膚栄養剤、金属イオン封鎖剤、油分、アルコール類、糖類、粉末成分、水等が挙げられる。これらの成分は、いずれかを単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び組成で使用してもよい。
本発明の剤は、化粧品等の美容用途に用いることが好ましい。本発明の剤を皮膚外用剤として化粧品に用いる場合、その形態は任意であるが、例えば化粧水、乳液、ファンデーション、口紅、リップクリーム、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、パック、ハンドクリーム、ハンドパウダー、ボディシャンプー、ボディローション、ボディクリーム、浴用化粧品等の形態が挙げられる。
本発明の剤を皮膚外用剤として化粧品、医薬製剤、医薬部外品等に用いる場合、本発明の剤の配合量は、皮膚外用剤の種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、皮膚外用剤全体に対し、有効成分たるヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩が0.00001~50重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは0.0001~5重量%である。
また、本発明の剤は、各種の飲食品、飼料(ペットフード等)に配合してヒト及び動物に摂取させてもよい。
具体的に、本発明の剤を飲食品や飼料等に配合する場合、その配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法等に応じて適宜決めることができる。例えば、成人一日当たり有効成分たるヒドロキシプロリンが0.00001~50重量%、中でも0.001~10重量%になるように配合することが好ましい。特に、特定保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分による所定の効果が十分発揮されるように、成人一日当たり有効成分たるヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩が0.001~10重量%となるように配合することが好ましい。
飲食品や飼料は任意の形態とすることが可能であり、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、又は、液体状に成形することができる。これらの形態には、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤等の賦形剤を適宜含有させることができる。
本発明の剤は、間葉系幹細胞の幹細胞性を維持及び賦活化する方法に用いることができる。本発明の方法において使用することができる基礎培地は、ヒトや動物の細胞の培養に用いられる培地ならば特に制限されないが、市販の栄養培地をそのまま、または改性したもので培養することができる。間葉系幹細胞を培養するために使用できる代表的な培地としては、ウシ胎児血清を含むダルベッコ変性イーグル培地(Gibco社)やチャン培地(Irvine Scientific)が挙げられるが、移植を行う観点からは、無血清培地であることが好ましい。多様な種類の無血清培地が市販されており、例えば、HFDM-1(+ (細胞科学研究所)、HFDM-1(-)(細胞科学研究所)、StemPro MSC SFM CTS(sup+)(Lifetechnologies)、StemPro MSC SFM CTS(sup-)(Lifetechnologies)、Mosaic hMSC SF Culture Medium(sup+)(BD)などが挙げられる。これらの市販培地の組成として、HFDM-1(-)は、基礎培地RITC80-7、インスリン5μg/ml、デキサメサゾン10-7Mを含有しており、HFDM-1(+)は、これらに加えて、EGF 10ng/mlを含有することが知られている。
基礎培地には、血小板由来成長因子(PDGF)を含んでもよい。PDGFは、主に間葉系幹細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞、グリア細胞等)の遊走や増殖などの調節に関与する増殖因子であり、PDGF/VEGFファミリーに属する。主に巨核球によって産生されるほか、血小板のα顆粒中にも含まれ、上皮細胞や内皮細胞などの様々な細胞によって産生されることが知られている。PDGFは、A鎖、B鎖、C鎖及びD鎖により、PDGF-A、B、C及びDの少なくとも4種類が存在している。これらはいずれも、ホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成し、PDGF-AA、-AB、-BB、-CC、-DDの5種類のアイソフォームが存在することが知られている。これらのうち、PDGF-BBが特に好ましい。基礎培地に添加されるPDGFの添加量は特に制限されるものではないが、例えば0.01ng/ml~10μg/ml、好ましくは0.1ng/ml~100ng/ml、より好ましくは1~10ng/ml程度である。
また、基礎培地には、Wntシグナル活性化剤を添加してもよい。Wntシグナルとは、β-カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。本シグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWnt3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ-カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。Wntシグナルはβ-カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。Wntシグナルがもつその未分化状態維持機能により、分化を抑制する目的でES細胞の培養の際に利用されている(例えば、Noburo Sato et al.,Nature Medicine Vol.10,No.1,Jan.2004を参照のこと)。
Wntシグナル活性化剤としては、特に限定されるわけではないが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)の阻害活性を示すものであればいかなるものでもよく、例えばビス-インドロ(インジルビン)化合物(BIO)((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、そのアセトキシム類似体BIO-アセトキシム(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)類似体(4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、オキソチアジアゾリジン―3-チオン類似体(2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、チエニルα-クロロメチルケトン化合物(2-クロロ-1-(4,4-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(α-4-ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)ユレア)やGSK-3βペプチド阻害剤、例えばH-KEAPPAPPQSpP-NH2、さらには塩化リチウムなどが挙げられる。また、CT99021(分子量:465.34,純度:99.1%,CAS No:252917-06-9,別名:CHIR99021)は非常に強力な選択的GSK-3阻害物質として知られ、マウスES細胞培養時に、PD184352(MEK/MAPK阻害物質)やSU5402(FGFR阻害物質)と共に使用することにより、長期培養を可能にする。
Wntシグナル活性化剤の添加量は特に制限されるものではなく、Wntシグナル活性化、換言すれば、GSK-3の阻害が奏され、且つ細胞増殖が停止しない量であればよく、使用する薬剤の種類及び増殖すべき細胞の種類に依存し、当業者により適宜決定される。例えば、Wntシグナル活性化剤としてBIOを使用する場合、その量は、例えば0.01μM~100μM、好ましくは0.1μM~10μM、より好ましくは10μM程度である。また、Wntシグナル活性化剤としてCT99021を使用する場合、その量は、例えば0.1~10μM、最適には1μM程度である。
さらに、無血清培地には、必要に応じてほかの細胞増殖因子、ホルモンやその他の微量栄養素を加えることができる。これらの具体的なものとして、例えば、上皮増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β1,2,3(TGFβ1,2,3)、骨形成因子(BMP)又はインスリン様成長因子-1,2(IGF-1,2)を使用する場合、その量は、例えば0.1μg/ml~100μg/ml程度である。リン脂質(例えば、フォスファチジン酸、フォスファチジルイノシトール、エタノールアミン)を使用する場合、その量は、例えば0.1μg/ml~100μg/ml程度である。脂肪酸(例えば、リノール酸、オレイン酸、アラキドン酸を使用する場合、その量は、例えば0.001μg/ml~100μg/ml程度である。プロスタグランジン類を使用する場合、その量は0.1ng/ml~100ng/ml程度である。還元剤(例えば、アスコルビン酸、還元型グルタチオン)を使用する場合、その量は、例えば1μg/ml~100μg/ml程度である。メルカプトエタノールを使用する場合、その量は、例えば0.1μg/ml~100μg/ml程度である。トランスフェリン又はインスリンを使用する場合、その量は0.01μg/ml~100μg/ml程度である。デキサメタゾンを使用する場合、その量は0.000001μM~0.1μM程度である。トリヨードチロニンを使用する場合、その量は0.1pM~100pM程度である。グルカゴンを使用する場合、その量は0.0001μM~0.1μM程度である。コレステロールを使用する場合、その量は、例えば0.1μg/ml~100μg/ml程度である。ハイドロコーチゾンを使用する場合、その量は、例えば0.01μg/ml~10μg/ml程度である。テストステロンを使用する場合、その量は、例えば0.1μM~100μM程度である。エストラジオール又はプロゲステロンを使用する場合、その量は、例えば0.01ng/ml~100ng/ml程度である。微量元素(例えば、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、モリブデン、セレン)を使用する場合、その量は、例えば0.000001mg/ml~0.1mg/ml程度である。アルブミン、ファイブロネクチン又はビトロネクチンを使用する場合、その量は、例えば0.1μg/ml~1000μg/ml程度である。
このような培地において、間葉系幹細胞の培養は、通常、培養皿を用い、ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩の存在下において、5%CO2雰囲気下、37℃のインキユベーター内に静置して行い、アウトグロースが確認されたら、培地を交換してさらに培養を続けることに(継代培養)より実施する。こうして得られる培養細胞はさらに必要な継代数にわたって、継代培養を行う。継代は間葉系幹細胞の所望する量が達成されるまで行なうことができ、たとえば10回以上の継代、所望量が多い場合は好ましくは15回以上、さらに好ましくは20回以上まで継代を行なうことができる。
本発明の方法によって培養した間葉系幹細胞が、幹細胞性を維持し、賦活化していることを確認するために、上述のように発現する遺伝子又はタンパク質を、定量的RT-PCR法、フローサイトメーター、ELISA等によって検出し、評価すればよい。また、間葉系幹細胞の幹細胞性の維持や賦活化は、メタボローム解析やDNAマイクロアレイ解析により、間葉系幹細胞内に存在する代謝産物及び/又は発現遺伝子を網羅的に解析することによっても、判定することができる。方法によって判定することができる。
本明細書において、メタボローム解析とは、アミノ酸、アミン、ヌクレオチド、糖、脂質などを含む、細胞内の低分子代謝産物を包括的に分離し、これらを同定・定量することをいう。メタボローム解析において、用いることができる分離手法としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)が用いられる。これらの分離手法は一般に質量分析(MS)と組み合わせることで、分離-検出機器として利用される。なお、メタボローム解析は、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社などの解析サービスを提供している会社・機関に委託して実施してもよい。
このように包括的に同定・定量された代謝産物の中から、間葉系幹細胞の幹細胞性の維持や賦活化に関与する因子を評価することができる。
本明細書において、DNAアレイ解析は、公知の技術を用いることができ、それによって間葉系幹細胞の遺伝子発現量を網羅的に測定し、その中から、間葉系幹細胞の幹細胞性の維持や賦活化に関与する因子を評価することができる。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
<実施例1>
1-1)皮下脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の低酸素培養
発明者らは、以前、間葉系幹細胞を、低酸素の環境下において培養した場合、間葉系幹細胞の未分化性及び健常性を維持できることを見出した(国際公開第2014/200068号を参照)。低酸素の環境下で培養した間葉系幹細胞について、DNAアレイ解析及びメタボローム解析を行うことにより、変動する遺伝子及び代謝産物を網羅的に解析し、同定した。
資生堂リサーチセンター(新横浜)にて、1%、5%又は16%の酸素、各5%の二酸化炭素、その他のバランスとして窒素を充填した標準ガスを準備し、該標準ガスを用いて密閉容器内でADSC(Invitrogenn社から購入)を培養した。培養は、StemPro SFM MSC(Gibco社)を培地として用い、容器をインキュベーター内に静置して37℃で行った。
1-2)ADSCのDNAアレイ解析
アジレント human 4x44K マイクロアレイ(Agilent Technologies社)を用いてマイクロアレイ解析を行った。試料の調製及びハイブリダイゼーションはAgilent Technologies社推奨プロトコルに準じた。また、試料に用いた細胞は、上記1-1)に従い、各酸素条件(1%、5%、16%)にて各N=4とし、3日間培養した皮下脂肪由来間葉系幹細胞を用いた。RNAの全量1~2μgを、cRNAラベル化キット(Agilent Technologies 社)を用いてラベル化した。Qiaquick(Qiagen社,メーカー推奨プロトコル)にて精製後、SpeedVacにより溶媒を乾燥した。次に、アジレント human 4x44K マイクロアレイを用いてハイブリダイゼーション後、スライドガラスを洗浄した。スキャナー(Agilent Technologies社)によりデータ読み取りを行った。
その結果、低酸素に供することにより、約44000候補遺伝子の中から大きく変動する遺伝子として、LIF、COPM、FMODが見出された。これらの遺伝子は、従来の酸素濃度(約16%)で培養した場合と比較して、5%の酸素濃度で培養することにより、LIF:3.5倍、COPM:26倍、FMOD:1.4倍増加することが明らかとなった。
1-3)ADSCのメタボローム解析(質量分析)
上記1-1)に従い、ADSCの培養を行った。各酸素条件(1%、5%、16%)にて各N=3とし、2日間培養したものを試料として用いた。培養後の細胞群は10cmディッシュあたり約100万個存在した。細胞内の生体物質を取得するために、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(HMT)に送付した(具体的には、等張マンニトール水溶液にて2回洗浄し、1mLの50%メタノール水溶液にて抽出を行った後、遠心フィルター処理にて徐タンパクが行われた)。HMTにて試料を受領後、ろ液を乾固させ、再び50 μL のMilli-Q 水に溶解して測定に供した。
測定
本試験ではカチオンモード、アニオンモードの測定を以下に示す条件で行った。
陽イオン性代謝物質(カチオンモード):
装置
Agilent CE-TOFMS system(Agilent Technologies 社) 3号機
Capillary : Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件
Run buffer : Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001)
Rinse buffer : Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001)
Sample injection : Pressure injection 50 mbar, 10 sec
CE voltage : Positive, 27 kV
MS ionization : ESI Positive
MS capillary voltage : 4,000 V
MS scan range : m/z 50-1,000
Sheath liquid : HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)
陰イオン性代謝物質(アニオンモード):
装置
Agilent CE-TOFMS system(Agilent Technologies 社)1号機
Capillary : Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件
Run buffer : Anion Buffer Solution (p/n : I3302-1023)
Rinse buffer : Anion Buffer Solution (p/n : I3302-1023)
Sample injection : Pressure injection 50 mbar, 25 sec
CE voltage : Positive, 30 kV
MS ionization : ESI Negative
MS capillary voltage : 3,500 V
MS scan range : m/z 50-1,000
Sheath liquid : HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)
データ処理及び解析
CE-TOFMS で検出されたピークは、自動積分ソフトウェアのMasterHands ver.2.13.0.8.h(慶應義塾大学開発)を用いて自動抽出し、ピーク情報として質量電荷比 (m/z)、泳動時間(Migration time:MT)とピーク面積値を得た。得られたピーク面積値は、下記の式:
相対面積値 =目的ピークの面積値/内部標準物質の面積値×試料量
を用いて相対面積値に変換した。また、これらのデータにはNa+やK+などのアダクトイオン及び、脱水、脱アンモニウムなどのフラグメントイオンが含まれているので、これらの分子量関連イオンを削除した。しかし、物質特異的なアダクトやフラグメントも存在するため、すべてを精査することはできなかった。精査したピークについて、m/zとMTの値をもとに、各試料間のピークの照合・整列化を行った。
その結果、従来の酸素濃度(約16%)と比較した場合、低酸素(1%)に供されることにより、細胞内にヒドロキシプロリンが増加することが明らかとなった(図1)。
<実施例2>
2-1)皮下脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)のヒドロキシプロリン存在下での培養
資生堂リサーチセンター(新横浜)にて、13.1mg/Lのヒドロキシプロリン(協和発酵社)を含有したStemPro SFM MSC(Gibco社)を用い、ADSC(Invitrogenn社から購入)を、37℃、5%CO2のインキュベーターで培養した。
その結果、ヒドロキシプロリン非存在下(コントロール)で培養した間葉系幹細胞を1とした場合、ヒドロキシプロリン存在下において培養した間葉系幹細胞のLIF遺伝子(1.28倍)、COMP遺伝子(1.2倍)及びFMOD遺伝子(1.17倍)が相対的に亢進することが認められた(図2~4)。
これらの結果より、ヒドロキシプロリンを間葉系幹細胞へ作用させることにより、低酸素状態で培養した時と同様に、幹細胞維持機構系の遺伝子(LIF遺伝子)及び創傷治癒系遺伝子(COMP遺伝子、FMOD遺伝子)を亢進させることができる。これにより、幹細胞の能力維持及びコラーゲン組織の再生が期待される。

Claims (5)

  1. ヒドロキシプロリン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有し、間葉系幹細胞において、LIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子からなる群から選択される遺伝子の発現を亢進させる、間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤。
  2. 前記間葉系幹細胞において、LIF遺伝子、COMP遺伝子及びFMOD遺伝子の発現を亢進させる、請求項1に記載の間葉系幹細胞の幹細胞性維持及び賦活化剤。
  3. 前記間葉系幹細胞が、皮膚組織由来の間葉系幹細胞を含む、請求項1又は2に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤。
  4. 前記間葉系幹細胞が、真皮幹細胞を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤。
  5. 前記ヒドロキシプロリンが、L-ヒドロキシプロリンである、請求項1~のいずれか1項に記載の幹細胞性維持及び賦活化剤。
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