JP7006947B2 - 外用組成物 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 1.発行日:平成30年5月15日、刊行物:第117回 日本皮膚科学会総会プログラム・抄録1175頁 公益社団法人 日本皮膚科学会発行、公開者:長澤輝明、菊地晶子、三宅章彦、久保田芳樹、河村公雄、山口葉子(神奈川県川崎市川崎区殿町3-25-14 ナノ医療イノベーションセンター4F)、公開された発明の内容:長澤輝明、菊地晶子、三宅章彦、久保田芳樹、河村公雄、および山口葉子が、第117回 日本皮膚科学会総会にて、久保田芳樹、三宅章彦および山口葉子が発明した疑似皮脂・細胞間脂質クリームの発明について公開した。 2.発行日:平成30年5月15日、刊行物:プレスリリース資料、公開者:株式会社ナノエッグ、公開された発明の内容:株式会社ナノエッグが新製品「MediQOL(メディコル)」を平成30年6月4日より販売することを公開した。 3.発表日:平成30年5月15日、発表場所:南青山ラコレッツィオーネ(東京都港区青山6-1-3 南青山コレッツィオーネ3F)、公開者:株式会社ナノエッグ、公開された発明の内容:株式会社ナノエッグが新製品「MediQOL(メディコル)」を発表した。 4.ウェブサイトの掲載日:平成30年5月16日、ウェブサイトのアドレス:https://www.nanoegg.co.jp/news/20180516000233165/、公開者:株式会社ナノエッグ、公開された発明の内容:株式会社ナノエッグが新製品「MediQOL(メディコル)」を平成30年6月4日より販売するプレスリリースを同社ホームページ上で公開した。 5.ウェブサイトの掲載日:平成30年5月16日、ウェブサイトのアドレス:https://m.facebook.com/nanoegglabo/、公開者:株式会社ナノエッグ、公開された発明の内容:株式会社ナノエッグがFacebook上の同社アカウントにおいて新製品「MediQOL(メディコル)」を平成30年6月4日より販売することを公開した。 6.ウェブサイトの掲載日:平成30年5月16日、ウェブサイトのアドレス:https://twitter.com/nanoegglabo?lang=ja、公開者:株式会社ナノエッグ、公開された発明の内容:株式会社ナノエッグがTwitter上の同社アカウントにおいて新製品「MediQOL(メディコル)」を平成30年6月4日
本発明は、細胞間脂質類似成分を含む外用組成物に関する。
アトピー性皮膚炎は増悪と寛解と繰り返す難治性の皮膚疾患である。その病因については様々な説が唱えられ、多数の治療方法・薬が存在する。近年、皮膚バリアに関与しているフィラグリン遺伝子の異常とアトピー性皮膚炎との相関が報告されて以降(非特許文献1)、皮膚バリアの異常が重要な病因として注目されるようになった。つまり、皮膚バリアの低下によって抗原が容易に体内に侵入できるようになることで、皮膚感作によるアレルギーを誘発することが、アトピー性皮膚炎の一因であると考えられるようになった(非特許文献2)。現在、最もよく使用されている治療薬としてステロイド剤や免疫抑制剤が挙げられるが、これらはアレルギー反応の抑制による対処療法であり、皮膚からの抗原の侵入を止めることには直接的には作用しない。そのため、寛解状態のアトピー性皮膚炎患者でも、抗原侵入があると再度増悪し、これら治療薬によって一時的に寛解することを繰り返すことになる。
皮膚バリアは皮膚最外層に存在する皮脂と、角層に存在する角質細胞及び細胞間脂質が大きな役割を担っている。特に細胞間脂質はセラミド、コレステロール、脂肪酸などの成分から成るラメラ構造を構築して、脂溶性・水溶性どちらの物質もほとんど透過させず、皮膚バリアにとって重要な役割を担っている。皮膚最外層の皮脂は脂腺から分泌された皮脂(脂腺皮脂)と細胞間脂質の混合物から成っている。アトピー性皮膚炎患者では慢性的に皮脂及び細胞間脂質が低下しており、そのため、乾燥とバリア能低下が見られる(非特許文献3及び4)。
Nomura T, et al., Specific filaggrin mutations cause ichthyosis vulgaris and are significantly associated with atopic dermatitis in Japan. J Invest Dermatol. 2008 Jun;128(6):1436-41. 北垣英樹、塩原哲夫、マウスのアトピー性皮膚炎モデル、J Visual Dermatol 14: 1032-1037, 2015 Le Lamer M, et al., Defects of corneocyte structural proteins and epidermal barrier in atopic dermatitis. Biol Chem. 2015 Nov;396(11):1163-79. 田上八郎、アレルギー:54(5)、445-450、2005
本発明者らは、外用により皮脂と細胞間脂質を補う方法を鋭意検討した結果、皮膚バリアを回復させるのに望ましい外用組成物を見出した。また、本発明者らは、ラメラ構造を維持しつつ細胞間脂質類似成分を溶媒に分散させるための簡便な方法も見出した。したがって、本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞間脂質類似成分を含む外用組成物。
(項目2)
前記細胞間脂質類似成分がラメラ構造または逆ベシクル構造を有する、項目1に記載の外用組成物。
(項目3)
前記細胞間脂質類似成分がラメラ構造を有する、項目2に記載の外用組成物。
(項目4)
前記細胞間脂質類似成分が、コレステロール、セラミド類および脂肪酸類を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目5)
前記セラミド類が、セラミド6II、カルナウバロウ、セラミド2およびセラミド3から選択される少なくとも1つを含む、項目3または4のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目6)
前記脂肪酸類が、炭素数18~30の脂肪酸を含む、項目3~5のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目7)
前記脂肪酸類がベヘン酸を含む、項目6に記載の外用組成物。
(項目8)
前記細胞間脂質類似成分が、皮脂類似成分、炭化水素系低極性油、炭化水素系無極性油、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される分散媒に分散されている、項目1~7のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目9)
前記皮脂類似成分が、スクワラン、ワックスエステル類およびグリセライド類を含む、項目8に記載の外用組成物。
(項目10)
前記皮脂類似成分が、脂腺から分泌される皮脂の皮脂類似成分である、項目8または9に記載の外用組成物。
(項目11)
前記ワックスエステル類が、炭素数12~22の脂肪酸および炭素数12~22の脂肪族アルコールにより形成されるエステルを含む、項目9または10に記載の外用組成物。
(項目12)
前記ワックスエステル類が、炭素数12~18の脂肪酸および炭素数12~18の脂肪族アルコールにより形成されるエステルを含む、項目11に記載の外用組成物。
(項目13)
前記ワックスエステル類が、ラウリン酸メチルヘプチル、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸ヘキシルデシル、およびオレイン酸オレイルから選択される少なくとも1つを含む、項目12に記載の外用組成物。
(項目14)
前記グリセライド類が、炭素数12~22の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルを含む、項目9~13のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目15)
前記グリセライド類が、炭素数12~18の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルを含む、項目14に記載の外用組成物。
(項目16)
前記グリセライド類が、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリオレイン、およびジオレイン酸グリセリルから選択される少なくとも1つを含む、項目15に記載の外用組成物。
(項目17)
アトピー性皮膚炎の治療または予防のための、項目1~18のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目18)
敏感性乾燥肌または皮脂欠乏性乾燥肌のための、項目1~18のいずれか一項に記載の外用組成物。
(項目19)
項目1~18のいずれか一項に記載の外用組成物を作製する方法であって、
(A)前記細胞間脂質類似成分と溶媒とを混合するステップと、
(B)前記細胞間脂質類似成分を加熱して融解するステップと
(C)前記融解した細胞間脂質類似成分を撹拌しながら冷却するステップと
を含む、方法。
(項目20)
前記ステップ(A)~(C)のいずれかにおいて、ケラチンをさらに添加することを含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記ケラチンが、前記ステップ(C)において、約50℃以上の時に添加される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記添加されるケラチンが、約5重量%~約40重量%の濃度で混合される、項目20または21に記載の方法。
(項目23)
前記ステップ(A)~(C)のいずれかにおいて、水をさらに添加することを含む、項目19~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記水が、少なくとも約0.1重量%添加されることを特徴とする、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記ステップ(C)において、約50℃~約80℃の間の温度で保温することをさらに含む、項目19~24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記ステップ(A)~(C)のうちの少なくとも1つのステップが、飽和水蒸気雰囲気下で行われる、項目19~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記ステップ(A)において、カルシウム塩をさらに添加することを含む、項目19~26のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
項目19~27のいずれか一項に記載の方法に従って製造された外用組成物。
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
本発明によれば、敏感肌またはアトピー性皮膚炎の症状を軽減することができる外用組成物が提供される。
図1は、被検製剤1、被検製剤2および比較例1の偏光顕微鏡像を示す。 図2は、被検製剤1および陽性対照を塗布した被験者1の肘窩の状態変化を示す。 図3は、被検製剤1および陽性対照を塗布した被験者1の各層水分量の変化を示す。 図4は、被検製剤1の塗布前後の被験者2の塗布部の状態を示す。 図5は、逆ベシクルの構造の概略図を示す。 図6は、ラメラ構造の概略図を示す。 図7は、実施例3において製造したartECLsベシクルの偏光顕微鏡像を示す。 図8は、ケラチン濃度0~40重量%を添加した場合に製造されるartECLsの偏光顕微鏡像を示す。 図9は、多層化artECLsの示差走査熱量測定(図9A)とヒートステージによる加熱・冷却時の偏光顕微鏡観察(図9Bおよび図9C)の結果を示す。 図10は、加熱前、冷却時110℃(単分散相)、冷却時90℃(単分散相)、冷却時80℃(ベシクル相)、冷却時70℃(ベシクル―ラメラ相)、冷却時60℃(ラメラ相)、冷却時50℃(ラメラ相―流動性低下域)、冷却時30℃(流動性低下域)の時点でケラチンを添加した場合の観察結果を示す。 図11は、冷却中(80~85℃)の20%artECLs分散液に10%ケラチンと0~10%の水を添加した場合の偏光顕微鏡観察結果を示す。 図12は、20%artECLs分散液に5~10%の水を添加して、冷却した場合の偏光顕微鏡観察結果を示す。 図13は、artECLsを120℃以上で融解後、撹拌しながら85℃まで冷却し、1%の水を添加し、その後、保温せず室温にまで撹拌・冷却したもの、65℃で2時間撹拌したもの、80℃で2時間撹拌したもの、の3種類の偏光顕微鏡観察結果を示す。 図14は、図13と同様に、120℃以上で融解後、撹拌しながら85℃まで冷却し、1%の水を添加し、65℃での撹拌を0~4時間まで変えたサンプルの偏光顕微鏡観察結果を示す。 図15は、20%artECLsに対し添加する水の量を0.00~1.00%にまで条件を変えて作製したものの偏光顕微鏡観察結果を示す。 図16は、表9に示されるartECLsの偏光顕微鏡観察結果を示す。 図17は、サンプルの各組成における偏光顕微鏡観察結果を示す。 図18は、多層構造ラメラを作製するための飽和水蒸気雰囲気の実験系の概要を示す。 図19は、表10に記載の配合の各サンプルの偏光顕微鏡観察結果を示す。 図20は、12種類の分散媒を用いた場合の各サンプルの偏光顕微鏡観察結果を示す。 図21は、artSEBを分散媒(0%、20%、30%および40%)としてartECLsを加熱・融解した場合の偏光顕微鏡観察結果を示す。 図22は、artECLsに塩化カルシウム水溶液を添加した場合のサンプルの偏光顕微鏡観察結果を示す。
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(定義)
本明細書において、「約」とは、示される値の±10%を意味する。
本明細書において、「細胞間脂質類似成分」とは、表皮の主要な細胞間脂質成分を含む混合物を指す。本明細書において、人工細胞間脂質(artificial xtraellular ipids:artECLs)と交換可能に使用され得る。細胞間脂質類似成分は、主要な成分であり、かつ工業的利用可能なコレステロールおよびセラミド類を少なくとも含む。
本明細書において、「皮脂類似成分」とは、主要な分泌皮脂を含む混合物を指す。本明細書において、「人工皮脂」(artificial sebum:artSEB)と交換可能に使用される。皮脂類似成分は、主要な成分であり、かつ工業的利用可能なスクワララン、ワックスエステル類、および、グリセライド類を少なくとも含む。
本明細書において、「逆(反転)ベシクル構造」とは、図5に示されるような、通常の極性溶媒(水など)中で形成されるベシクルとは逆の二分子膜構造を有する構造を指す。逆ベシクルは、偏光顕微鏡においてマルテーゼクロスとして観察される。
本明細書において、「ラメラ構造」とは、図6に示されるように、疎水基と親水基の層が交互に配置され、親水基の層には水分が含まれることによって、脂質と水分とが規則正しく交互に重なっている構造を指す。
本明細書において、「被験体」とは、本発明の治療および予防するための組成物もしくは組み合わせ物または方法の投与対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ等)が挙げられる。
本明細書において、「アトピー性皮膚炎」とは、痒疹を伴う皮膚炎であり、寛解、憎悪を繰り返す慢性、反復性の経過を特徴とする。多くは、アレルギー性の喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎などを家系に有し、および/またはIgE抗体を産生しやすい素因であるアトピー素因を背景に発症する。
本明細書において、「乾燥性敏感肌」とは、肌が乾燥することによって、外部の刺激(温度変化、ダニ、ハウスダスト、菌など)に対して過敏に反応する状態を指す。
本明細書において、「皮脂欠乏性乾燥肌」とは、乾皮症とも呼ばれ、皮脂が減少することにより皮膚の水分が減少して、乾燥を生じる皮膚の状態を指す。
本明細書において、「外用組成物」とは、皮膚に対して適用される組成物を指す。
本明細書において、「セラミド類」は、セラミドおよびその誘導体を包含するものであり、合成物であっても、天然由来であってもよい。
本明細書において、「脂肪酸類」は、脂肪酸およびその誘導体を包含するものであり、合成物であっても、天然由来であってもよい。
本明細書において、「ワックスエステル類」は、脂肪酸および脂肪族アルコールにより形成されるエステルおよびその誘導体を包含するものであり、合成物であっても、天然由来であってもよい。
本明細書において、「グリセライド類」は、脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルおよびその誘導体を包含するものであり、合成物であっても、天然由来であってもよい。
本明細書において、「誘導体」とは、親化合物に構造的に類似しており、親化合物から(実際にまたは理論的に)誘導できる、化学的または生物学的に修飾されたものを指す。
本明細書において、「保温」とは、ある温度の±10℃の範囲内で温度を維持することを指す。
(外用組成物)
ある態様において、本発明は、細胞間脂質類似成分を含む外用組成物を提供する。いくつかの実施形態において、細胞間脂質類似成分は、ラメラ構造および/または逆ベシクル構造を有し、好ましくは、少なくともラメラ構造を有している。
いくつかの実施形態において、細胞間脂質類似成分は、コレステロール、セラミド類および脂肪酸類を含み得る。セラミド類としては、セラミド6II、カルナウバロウ(またはセロチン酸ミリシル)、セラミド2およびセラミド3が挙げられる。細胞間脂質中に多く存在する脂肪酸は、リグノセリン酸(C24)であるため、これに近い炭素数を有する脂肪酸であることが好ましく、例えば、脂肪酸類は、炭素数18~30の脂肪酸であり得る。このような脂肪酸類としては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸およびメリシン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態において、脂肪酸類は、炭素数20~30、炭素数20~28、炭素数20~26、炭素数22~30、または炭素数22~28であり得る。特定の実施形態において、脂肪酸類はベヘン酸を含み得る。脂肪酸類は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸の場合、不飽和脂肪酸は、最大3個、好ましくは2個以下の二重結合を有していてもよい。特定の実施形態において、細胞間脂質類似成分は、少なくともコレステロールおよびセラミド6IIを含み得る。別の実施形態において、細胞間脂質類似成分は、少なくともコレステロール、セラミド6IIおよび脂肪酸類を含み得る。さらなる実施形態において、細胞間脂質類似成分は、カルナウバロウ(セロチン酸ミリシル)、セラミド2およびセラミド3のうち少なくとも2つをさらに含み得る。
いくつかの実施形態において、細胞間脂質成分中、コレステロールは、約20~約50重量%、セラミド類は、約40~約60重量%、脂肪酸類は、約5~約15重量%であり得、合計100重量%になるようにする。好ましい実施形態において、コレステロールは、約33±5重量%、セラミド類は、約56±5重量%、脂肪酸類は、約11±5重量%であり得、合計100重量%になるようにする。
いくつかの実施形態において、細胞間脂質類似成分は、皮脂類似成分、炭化水素系低極性油、炭化水素系無極性油、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される分散媒に分散され得る。炭化水素系の低極性油および無極性油としては、例えば、アルカン、アルケン、炭化水素系油脂(オゾケライト、α―オレフィンオリゴマー、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、合成スクワラン、植物スクワラン、スクワラン、スクワレン、セレシン、パラフィン、ポリエチレン末、ポリプロピレン、ポリブテン、マイクロクリスタリンワックス、流動イソパラフィン、流動パラフィン、ワセリン)、トリグリセライド類、植物油脂(アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、杏仁油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、ヤシ油、)、動物油脂(エミュー油、馬油、ミンク油、卵黄脂肪油)、植物性および動物性油脂の硬化油、鉱油(パラフィン類、ナフテン類)、一価アルコール同士が結合したエーテル類、多価アルコールと一価アルコールが結合したエーテル類、脂肪酸とアルコールが結合したエステル類、脂肪酸とステロールが結合したエステル類、天然ロウエステル(キャンデリラロウ、コメヌカロウ、セラック、ラノリン)などが挙げられるが、これらに限定されない。分散媒は、無極性油であることが好ましく、例えば、アルカン、アルケン、炭化水素系油脂(オゾケライト、α―オレフィンオリゴマー、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、合成スクワラン、植物スクワラン、スクワラン、スクワレン、セレシン、パラフィン、ポリエチレン末、ポリプロピレン、ポリブテン、マイクロクリスタリンワックス、流動イソパラフィン、流動パラフィン、ワセリン)、鉱油(パラフィン類、ナフテン類)、などが挙げられる。
いくつかの実施形態において、細胞間脂質類似成分と分散媒とは、組成物中、それぞれ約0.5重量%~約80重量%、約20重量%~約99.5重量%であり得る。特定の実施形態において、細胞間脂質類似成分と分散媒とは、組成物中、それぞれ約20重量%~約60重量%、約40重量%~約80重量%であり得る。好ましい実施形態において、細胞間脂質類似成分と分散媒とは、組成物中、それぞれ約30重量%~約50重量%、約50重量%~約70重量%であり得る。分散媒が皮脂類似成分である場合、組成物は、約0.5重量%~約5重量%の前記細胞間脂質類似成分と、約99.5重量%~約95重量%の皮脂類似成分を含むのが好ましい。
いくつかの実施形態において、皮脂類似成分中、スクワレンは、約5~約20重量%、ワックスエステル類は、約15~約40重量%、トリグリセライド類は、約50~約70重量%であり得、合計100重量%となるようにする。好ましい実施形態において、皮脂類似成分中、スクワレンは、約12.4±5重量%、ワックスエステル類は、約25.8±5重量%、トリグリセライド類は、約61.9±5重量%であり得、合計100重量%となるようにする。
細胞間脂質類似成分および皮脂類似成分における各種成分の量は、当業者であれば適宜変更することができるが、典型的には、表1に示される被験製剤1および2の各種成分の±20%、±15%、±10%、好ましくは±5%の範囲内で適宜設定することが可能である。例えば、被験製剤1のコレステロールは、組成物中約1重量%であるが、0.8~1.2重量%(±20%の場合)の間の量とすることができる。
いくつかの実施形態において、分散媒の粘度は、約40~約500SUS、好ましくは約50~約300SUS、より好ましくは約65~175SUSであり得る。
いくつかの実施形態において、皮脂類似成分は、脂腺から分泌される皮脂の皮脂類似成分であることが好ましく、例えば、スクワラン、ワックスエステル類およびグリセライド類を含み得る。
特定の実施形態において、ワックスエステル類は、炭素数12~22の脂肪酸および炭素数12~22の脂肪族アルコールにより形成されるエステルであり得る。ヒト皮脂は、炭素鎖長12~18のもので大部分を占めているため、ワックスエステル類は、炭素数12~18の脂肪酸および炭素数12~18の脂肪族アルコールにより形成されるエステルであるのが好ましい。ワックスエステル類としては、例えば、ラウリン酸メチルヘプチル、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸ヘキシルデシル、およびオレイン酸オレイルが挙げられるが、これらに限定されない。
特定の実施形態において、グリセライド類は、炭素数12~22の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルであり得る。ヒト皮脂は、炭素鎖長12~18のもので大部分を占めているため、グリセライド類は、炭素数12~18の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルであるのが好ましい。グリセライド類としては、例えば、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリオレイン、およびジオレイン酸グリセリルが挙げられるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態において、本発明の外用組成物は、アトピー性皮膚炎、乾燥性敏感肌、または皮脂欠乏性乾燥肌の治療または予防のためのものであり得る。
(外用組成物の製造方法)
別の態様において、本発明は、本発明の外用組成物を作製する方法であって、(A)前記細胞間脂質類似成分と溶媒とを混合するステップと、(B)前記混合物を加熱して融解するステップと(C)前記融解した細胞間脂質類似成分を撹拌しながら冷却するステップとを含む、方法を提供する。従来方法では、クロロホルム等の有機溶媒を用いたベシクル形成方法などがあるが、クロロホルムのような有機溶媒の使用は忌避されるべきである。また、オーブンでガラス基板上に薄膜を作りラメラ構造を形成する方法は、温度・回転数・脂質濃度・溶媒量・反応量などの諸条件の検討が必要であり、工業的なスケールアップは非常に困難と言われている。本発明の方法は、極めて単純な工程により逆ベシクルおよび/またはラメラ構造を有する細胞間脂質類似成分を含む外用組成物を製造することが可能であり、工業的にも利用可能であり優れている。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、前記ステップ(A)~(C)のいずれかにおいて、ケラチンをさらに添加することを含み得る。いくつかの実施形態において、ステップ(A)または(C)において、ケラチンが添加され得る。特定の実施形態において、ステップ(C)においてケラチンが添加され得る。ステップ(C)において、ケラチンは、加熱した混合物の温度が約50℃~約120℃以上、好ましくは約60℃~約120℃の時に添加され得る。
いくつかの実施形態において、添加されるケラチンは、約5重量%~約40重量%、好ましくは約10重量%~約30重量%の濃度で混合され得る。
いくつかの実施形態において、前記ステップ(A)~(C)のいずれかにおいて、水をさらに添加することを含んでもよい。水は、ケラチンと共に添加されてもよいし、水のみが添加されてもよい。添加される水の量は、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.2重量%、少なくとも約0.3重量%、少なくとも約0.4重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.6重量%、少なくとも約0.7重量%、少なくとも約0.8重量%、少なくとも約0.9重量%、または少なくとも約1.0重量%であり得る。添加される水の量の上限は適宜決定することができるが、1重量%以上ではそれ以上のラメラ構造の形成促進が認められない場合があり得る。特定の実施形態では、添加される水の量の上限は約20重量%、約10重量%、約5重量%、または約1重量%であり得る。好ましい実施形態では、添加される水の量は、約0.1重量%~約1.0重量%であり得る。
ステップ(C)において、一定の温度で保温することをさらに含んでもよい。保温は、約50℃~約80℃、好ましくは約65℃~約75℃、より好ましくは約60℃~約70℃の間のある温度で行われ得る。保温する際の温度は、一定であることが望ましいが、±10℃までの変動は許容され得る。
いくつかの実施形態において、(A)~(C)のうちの少なくとも1つのステップが、飽和水蒸気雰囲気下で行われ得る。別の実施形態では、(A)~(C)のすべてのステップにおいて、飽和水蒸気雰囲気下で行われ得る。特定の実施形態において、少なくともステップ(C)が、飽和水蒸気雰囲気下で行われ得る。飽和水蒸気雰囲気は、例えば、加湿オーブン等で作り出すことができる。
ステップ(A)において、カルシウム塩をさらに添加してもよい。カルシウム塩は、可溶性のものが好ましく、例えば、塩化カルシウム、過酸化カルシウム、水酸化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、炭化カルシウム、リン化カルシム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられる。添加されるカルシウム塩の濃度は、約0.1μM~約2mM、好ましくは、約1.8μM~約1.8mMであり得る。
さらなる態様において、本発明は、上記製造方法によって製造された外用組成物を提供する。
逆ベシクルおよびラメラ構造の形成は、実施例の結果を参照して、適宜条件を変更することで、制御され得る。典型的には、ケラチンおよび/または水の添加によってラメラ構造の形成が促進するため、ケラチンおよび/または水の添加の有無によって制御され得る。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
(実施例1:アトピー性皮膚炎の予防効果)
(材料)
被検製剤1、被検製剤2および比較例1の製剤の組成を表1に示す。
Figure 0007006947000001
各主成分は、以下のように決定した。
皮脂に関しては以下の文献を参考にした(松尾聿郎、生化学、第37巻第10号1988年、827-831)。本文献ではTable-1で表皮皮脂成分比が示されている(表2)。本発明者らは成分を大きく4つに分類した(スクワレン、ワックスエステル類、トリグリセライド類、コレステロール類)。上記文献は皮膚表面での測定結果であり、皮脂腺から分泌された直後の皮脂とは組成が若干異なる。皮脂腺ではコレステロール類は分泌されないため、コレステロール類を除いた値を100%換算した。
Figure 0007006947000002
ワックスエステル類とトリグリセライド類は生体では様々な鎖長の脂肪酸から構成されている。この脂肪酸の鎖長分布について、以下の文献を参考にした(文献:J Dermatol. 2014 Dec;41(12):1069-76.)。この文献からワックスエステルとトリグリセライド分子内の脂肪酸鎖長分布を推定し、組成を決定した。
細胞間脂質に関しては以下の文献を参考にした(光井 武夫編、新化粧品学、2001年、p21)。表3を参照のこと。まず文献値(1)から、工業的に利用が困難なコレステロールエステルとコレステロール硫酸を除いた(2)。これを100%換算に変換した(3)。最後に純品の入手ができなかったセラミドエステルを除き、セラミドと合算した(4)。細胞間脂質中の遊離脂肪酸鎖長分布は皮脂とは異なり、リグノセリン酸(C24)が最も多くなっている(JInvest. Dermatol. (2014) 134, 1238-1245)。しかし、化粧品原料では入手できないため、入手可能なもののうち最も鎖長が近いものとしてベヘン酸(C22)を採用した。最終的に表4の組成とした。
Figure 0007006947000003
Figure 0007006947000004
各セラミドの比率にいては以下の文献におけるアジア人の値を参考にした。(British Association of Dermatologists 2010 163, pp1169-1173)。化粧品原料として利用可能なセラミドはセラミド2、3、6である。また、セラミド1及び4は分子構造からラメラの疎水面・親水面・疎水面を繋ぎ止めるアンカーのような役割を果たしており、ラメラ構造の安定化に寄与すると考えられている(SkinPharmacol Physiol. 2007;20(5):220-9.)。セラミド1およびセラミド4などのアシルセラミドは工業的に利用が困難であるが、重要な役割があることを勘案して、代替品としてカルナウバロウ(主成分:セロチン酸ミリシル)を使用した。アシルセラミドの脂肪酸部分は中央付近でエステル結合を挟んだ直鎖状の構造をしており、この長鎖の脂肪酸部分が、ラメラ構造の疎水膜同士を貫通し、構造安定化に寄与していると言われている。そこで、長鎖脂肪酸部分を模倣した長直鎖エステル油であり、他のECLs脂質と融点が近い、セロチン酸ミリシル(C56)を85%も含有しているカルナウバロウを代替品として使用した。
(製造方法)
まず、皮脂類似成分の全てを90℃で撹拌・溶解させた。撹拌を容易にするために、まずこの溶解液の内、20%(重量%)を抜き取り、細胞間脂質類似成分の全てをそこに添加し、120℃で撹拌・溶解させた。90℃で溶解させた脂腺皮脂成分を撹拌したまま徐々に45℃にまで冷却した。そこに先ほどの120℃で溶解させた細胞間脂質成分を全量投入し、さらに撹拌した。撹拌したまま、室温程度にまで冷却し、混合物を取り出した。
比較例1については、脂腺皮脂成分すべての物質を90℃で撹拌・溶解させた。これを撹拌したまま、室温程度にまで冷却し、混合物を取り出した。
(評価方法)
試験開始時、寛解状態であったアトピー性皮膚炎患者1名(被験者1、女性、20代)の肘窩に対し、被検薬として被検製剤1、及び、陽性対象として医薬品保湿剤(ヒルドイドクリーム0.3%、マルホ)をそれぞれ塗布してもらった。塗布は適量を1日2回、期間は約3.5週間であった。その間、ストレスに起因すると思われる全身症状の増悪が見られたため、被検薬塗布部位の重症化の抑制程度を比較した。評価項目として外観観察と肘窩部の重症度スコア、角層水分量、及び、簡易な水分蒸散量などの測定を行った。
重症度のスコア化にはアトピー性皮膚炎ガイドライン2016年版に準じた方法を用いた。症状の判定には「紅斑・急性期の丘疹」、「浸潤・痂皮」及び「慢性期の丘疹・結節・苔癬化」の3つの症状について0ポイントの「症状なし」から、1ポイントの「軽症」、2ポイントの「中等症」及び3ポイントの「重症」までをスコア化した。「疹部の面積」については0ポイントの「なし」から、1ポイントの「1/3以下」、2ポイントの「1/3から2/3」、及び3ポイントの「2/3以上」までをスコア化し、4つの項目の合計(12点満点)を重症度スコアとした。これを5名で判定し、平均値を算出した。
角層水分量の測定には角層の静電容量を測定するMoisture checker(スカラ)を使用した。肘窩を5回測定し、平均値を算出した。
水分蒸散量の測定には特開2004-236794号公報及び特開2013-3040号公報に記載される方法を用いた。5分間の貼付時間で水分指示紙の色を判別し、経皮水分蒸散量を推定した。色の判定は5名で行い、平均値を算出した。
(結果)
被検製剤1、被検製剤2および比較例1を偏光顕微鏡で観察した(図1)。その結果、被検製剤1ではラメラ構造を示す偏光像が多数観察された。被検製剤2でも同様に、ラメラ構造が観察されたが、被検製剤1よりわずかに減少していた。一方、細胞間脂質成分類似成分を含まない比較例1ではほとんどラメラ構造が観察されなかった。このことから、被検製剤1及び被検製剤2には細胞間脂質類似成分によるラメラ構造体が、皮脂類似成分中に分散した状態であることが示唆された。
次に、アトピー性皮膚炎患者の肘窩に被検製剤1を塗布してもらい、症状悪化の抑制効果を解析した。陽性対象として医薬品保湿剤を使用した。これを肘窩に3.5週間塗布してもらい、重症度スコア、角層水分量及び経皮水分蒸散量を比較した。塗布部の外観を図1に、重症度スコアを表1にそれぞれ示す。その結果、陽性対象では重症度が試験前と比較して4.6ポイントの悪化であったのに対し、被検製剤1では3.8ポイントの悪化に留まった。特に「紅斑・急性期の丘疹」において陽性対象が1.4ポイントの悪化であったのに対し、被検製剤1では0.8ポイントの悪化に留まっていた。このことから、被検製剤1は陽性対象と比較して特に急性期の症状を抑える効果をもつことが示唆された。次に角層水分量を比較した(図3)。陽性対象では4.3%の減少であったのに対し、被検製剤1では1.1%の減少に抑えられていた。次に、バリア能の指標として経皮水分蒸散量の測定を行った。その結果を表5に示す。
Figure 0007006947000005
陽性対象では0.28mg/cmの増加であったのに対し、被検製剤1では0.09mg/cmの増加に抑えられていた。これらの結果から、被検製剤1は角層の水分量、及び、皮膚のバリア能を維持する効果をもつことが示唆された。以上から、ヒト皮脂類似組成物は陽性対象と比較してアトピー性皮膚炎の症状悪化を抑制する効果が高いことが確認された。
(実施例2:アトピー性皮膚炎治療効果)
(評価方法)
アトピー性皮膚炎が増悪状態の被験者2(20代、男性)に対し、被検製剤1のヒト皮脂類似組成物を右手首患部に塗布してもらった。適量の被検物質を1日2回、3週間塗布し、アトピー性皮膚炎の改善度を重症度スコアから評価した。
(結果)
アトピー性皮膚炎が既に増悪状態にある被験者に対し、被検製剤1塗布による改善効果の評価を行った。試験期間の外観および重症度スコアを表6それぞれに示す。その結果、試験前の重症度スコアが9.2であったのに対し、3週間後では5.2へと大きく改善していた(変化量-4.0)。症状別では「紅斑・急性期の丘疹」及び「浸潤・痂皮」において大きなスコアの改善が見られた(変化量-1.0及び-1.6)。この結果から、ヒト皮脂類似組成物はアトピー性皮膚炎の皮膚症状を改善する効果があることが確認された。図4は、塗布前後の被験者2の塗布部の状態を示す。塗布後3週間後において、特に手根付近で見られていた痂皮が顕著に減少している様子が観察された。これは重症度スコアの浸潤・痂皮スコアの大きな減少と一致する。
Figure 0007006947000006
(実施例3:細胞間脂質類似成分のバリエーション作製方法の検討)
従来の人工細胞間脂質の作製方法は、最終的に水系の溶媒に分散させることを念頭に置いているため、脂質(分散質)をクロロホルムなどの有機溶媒に分散し、それを蒸発・濃縮、最終的に超音波等で水系溶媒に分散させる方法が主であった。今回、我々が構築した系は、これらの複雑な操作は必要とせず、分散媒が油相の1相のみである。油相を分散媒として用いることの利点は、水より高温でも液体として存在できるため、融点の高い細胞間脂質類似成分(以降、artificial xtraellular ipids:artECLs)の各脂質成分を容易に融解・単分散化できることである。また、毒性の高い有機溶媒を使わなくてもよく、特殊な機器や工程を必要としない。当初は、artECLsも分散媒もどちらも脂質であるため、ラメラ構造化は難しいのではないかと予想された。そこで着目したのが、分散質と分散媒の融点の差を利用することであった。分散質が高温でも凝固する性質(疎水性相互作用)を利用することで、油相の分散媒中でも部分的に凝集・濃縮が起き、ある種の構造体を形成するようになるのではないかと考えた。すなわち、疎水性相互作用がartECL>分散媒となる温度条件で、油相中でもラメラが形成され得るのではないかと考えた。実際に、artECLsを加熱融解・冷却すると、冷却途中で単分散だったartECLsが凝固・凝集し、さらにベシクルが形成された。ここで見られたベシクルと生体細胞間脂質との大きな違いは、水の有無である。水がartECLsラメラ化に重要な役割を果たすことが、偶然にも造核剤として検討を行っていたケラチンの実験から示差された。そこで、ケラチンの代わりに水を添加してみると、顕著に且つ明瞭なラメラ構造ドメインが形成されるようになった。
artECLsは様々な結晶構造をとることができる。artECLsを無極性あるいは低極性の炭化水素系油に分散し、そこに水を添加することもできる。炭化水素系油に分散することで、ベシクル構造物が形成される。このベシクル構造物は二分子膜の逆ベシクルであると推測される(図5)。さらに水を添加することで半固体状の多層構造物が形成される。この多層構造物はartECLsの二分子膜無限会合体が累積したラメラ構造物(図6)である。
(artECLsベシクルの作製方法)
33.00重量%コレステロール、18.30重量%セラミド6II、13.40重量%カルナウバロウ、12.30重量%セラミド2、12.00重量%セラミド3、11.00重量%ベヘン酸から構成されるartECLsを20重量%でスクワランに混合して分散させた。これを120℃にまで加熱・融解し、撹拌しながら室温にまで冷却した。その分散液を偏光顕微鏡で観察した。その結果、直径5~20μm程度のマルテーゼクロスが多数観察された(図7)。このマルテーゼクロスは逆ベシクルであると推測される。
次に、分散媒としてスクワラン以外のものを試した。上記と同様、120℃で加熱・融解し、撹拌しながら室温にまで冷却。偏光顕微鏡でマルテーゼクロスの有無を観察し、ベシクル形成を判定した(表7)。上記実験から、artECLsの融解には120℃以上が必要であるため、分散媒には120℃では蒸発しない性質のものが求められる。また、artECLsを構成している各脂質が極性をもつことから、無極性あるいは低極性のものが適していると予想された。その結果、炭化水素系で且つ無極性油であるスクワラン、流動パラフィン及び同低極性油であるパルミチン酸ヘキシルデシルでベシクル形成が認められた。一方、極性有機溶媒のジメチルスルホキシド(ethyl ulfxide:DMSO)及び、低極性だがシリコーン系油であるジメチルポリシロキサンではベシクルは形成されず、針状および板状結晶が観察された。また、粘度の異なる流動パラフィンで比較すると、M-72より粘度が低いときはベシクルと同時に針状結晶が多数観察され、ベシクル形成能が低下することが明らかとなった。
Figure 0007006947000007
(artECLsラメラ構造物の作製方法)
(1.造核剤としてのケラチン)
ポリエチレンやポリプロピレンのような非分岐の直鎖上ポリマーにおいて、融解状態から徐冷によって、ラメラ構造をもつ球晶が形成されることが知られている(佐野博成、甲本忠史、ラメラ構造を観る、高分子、54巻、9月号、p674-677、2005年)。球晶は、さらに造核剤を用いることでラメラ化が促進される。そこで、artECLsのベシクルに造核剤を添加するとラメラが形成されるのではないかと考えた。生体皮膚では、細胞間脂質はケラチンを主成分とする角層細胞の周囲に存在している。そこで、これを模倣するため、核剤としてケラチンを用いた。ベシクルのときと同様、33.00重量%コレステロール、18.30重量%セラミド6II、13.40重量%カルナウバロウ、12.30重量%セラミド2、12.00重量%セラミド3、11.00重量%ベヘン酸から構成されるartECLsを20重量%でスクワランに分散し、ケラチン濃度0~40重量%添加した(表8)。これを120℃にまで加熱・融解し、撹拌しながら室温にまで冷却し、偏光顕微鏡で観察した(図8)。ケラチンの添加によって多層構造をもつ構造物が観察された。その現象は特に10~30重量%で顕著に見られた。この多層構造物はartECLsによるラメラ構造体であると推測される。
Figure 0007006947000008
造核剤として用いたケラチンには毛髪が焼け焦げた独特の臭いがあり、外用剤として用いる際にこの臭いをできる限り低減することが好ましい。多層化artECLsの作製工程において、ケラチンが>120℃の油相に暴露されることによってアミノ酸から亜硝酸ガスが発生しているものと考えられた。そこで、ケラチンをなるべく低温で添加し、亜硫酸ガス発生を低減できないか解析を行った。適切なケラチン添加温度を設定するため、多層化artECLsの示差走査熱量測定(DSC)とヒートステージによる加熱・冷却時の偏光顕微鏡観察から、相転移温度の推定を行った。DSCの測定結果を図9Aに示す。その結果、加熱時には51.3および84.4℃に明瞭なピークが確認された。冷却時には72.8、41.7および37.8℃にピークが確認された(加熱時の107℃、冷却時の94℃に見られるピークは空サンプルでも観察されるため、バックグランドと考えられる)。次に、ヒートステージの偏光顕微鏡で観察すると(図9B)、加熱時には27.4-52.4℃にかけて分散媒の流動性が上がるものの、多層構造物に大きな変化は見られなかった。この時の状態の変化はDSCの51.3℃のピークに対応していると考えられる。続けて、62.4~72.4℃においては、多層構造物の層構造が乱れ始める様子が観察された。この時の状態はラメラ構造の変化が起きていると考えられるが、DSC解析では明瞭なピークとして検出されなかった。皮膚中の細胞間脂質も加熱すると約50℃からラメラ構造の相転移が見られることから(八田一郎、中西加奈、太田昇、皮膚角層中の細胞間脂質集合体の構造と相転移、熱測定、34巻、4号、p159-166)、artECLsは生体の細胞間脂質と似た性質を持っていると考えらえる。さらに加熱を続けると、>87.4℃から多層構造を形成している脂質の融解が観察された。これはDSC解析の84.4℃のピークに対応していると考えられる。冷却シークエンス(図9C)では80~70℃でartECLsのベシクルが形成され始める様子が観察された。これはDSC解析の72.8℃のピークであると考えられる。さらに冷却すると、70~60℃にかけて、ベシクル同士が凝集し、少し大きな構造物を形成する様子が観察された。図9Cで示した構造物が65.0℃~60.0℃にかけて大きさがさらに成長しており、且つ、周囲のベシクルを吸収し、そこに空隙ができている様子が確認できる。恐らく、ベシクル同士が合一し、多層ラメラ化している段階であると考えられる。こちらも加熱時同様、この変化をDSCでは検出はできなかった。さらに冷却し、<40.0℃になると大きな変化は見られなくなった。
以上の観察結果から、ケラチンを添加する温度を、加熱前、冷却時110℃(単分散相)、冷却時90℃(単分散相)、冷却時80℃(ベシクル相)、冷却時70℃(ベシクル―ラメラ相)、冷却時60℃(ラメラ相)、冷却時50℃(ラメラ相―流動性低下域)、冷却時30℃(流動性低下域)の8点にそれぞれ設定し(図10A)、室温にまで冷却後、観察を行った(図10B)。その結果、加熱前からの添加でも、冷却中の120~60℃の添加でも多層化ラメラ構造が形成されていた。しかし、50℃以下ではほとんど多層化ラメラ構造が見られなかった。このことから、多層化ラメラを形成させるにはケラチンの添加温度は60℃以上が必要であることが判明した。臭いについて比較すると、ケラチン添加温度を低くすることで、独特の臭いが低減していた。
ケラチンを添加する方法以外の方法を検討した。ケラチンを添加すると、反応液中で泡の発生が確認されていた。この泡は恐らくケラチンの水和水が高温の油相にふれることで蒸発したものであろうと推測された。これまでの実験では水を全く加えていなかった。しかし、生体の細胞間脂質には、極微量の水分が含まれると推定されており、この水は細胞間脂質ラメラ構造の親水基と水和した状態で存在していると考えられ、ラメラ構造を成立させる上で重要な役割を担っている(八田一郎、中西加奈、太田昇、皮膚角層中の細胞間脂質集合体の構造と相転移、熱測定、34巻、4号、p159-166)。そこで、多層ラメラ化には造核剤ではなく、ケラチン中の水分も重要な役割を果たしているのではなかと考えた。冷却中(80~85℃)の20%artECLs分散液に10%ケラチンと0~10%の水を添加して、冷却後、偏光顕微鏡で観察した(図11)。その結果、水を添加しなかったものと比較して、顕著に多層化し、周期的な微細構造であることを意味する構造色を呈する物が観察されるようになった。この現象は水添加量1%までは量依存的であったが、1%以上ではそれ以上の変化は見られなかった。この結果から、artECLs多層化には水が重要な役割を担っていることが示唆された。
(2.水による多層ラメラ化)
(水による相転移)
水のみの添加でも多層化ラメラが形成されるかどうかをさらに検討した。20%artECLs分散液に5~10%の水を添加して、冷却後、偏光顕微鏡で観察した(図12)。併せて、適切な水添加温度を調べるため、水の添加温度を85℃(単分散相)と65℃(ラメラ相)の2条件で比較を行った。その結果、ケラチンだけを添加したサンプル(図8)と比べて、水だけを添加したサンプルでは著しい多層ラメラ化artECLsが観察された。このことから、ラメラ構造の多層化には、ケラチンの造核剤としての作用より、水分供給源としての作用の方がより強く寄与していたことが示唆された。
(適切な水の添加温度(相状態))
水の添加温度を比較すると、85℃添加の方が65℃添加と比較して、より多くの構造色をもった物が観察された。このことから、水はベシクル化温度帯で添加した方がより多層ラメラ化が促進されることが確認された。添加する水の量について、5%と10%の比較ではあまり大きな違いは観察されなかった。これは図11で見られた現象と同様、添加する水が1%以上になるとラメラ構造の水和層が飽和状態になってしまい、多層化にはあまり寄与できないことが原因と推測される。
(撹拌条件の検討)
図9で示した通り、多層ラメラ化は70~50℃で起きている。そこで、この温度を維持した状態で撹拌を続ければ、ラメラ化がより促進するのではないかと考え、次の条件で比較を行った。artECLsを120℃以上で融解後、撹拌しながら85℃まで冷却し、1%の水を添加した。その後、保温せず室温にまで撹拌・冷却したもの、65℃で2時間撹拌したもの、80℃で2時間撹拌したもの、の3種類を作製し、偏光顕微鏡で観察を行った(図13)。その結果、保温なしと比較して65℃で2時間撹拌したサンプルにおいて顕著にラメラ化が促進している様子が確認された。一方、80℃で撹拌したものは保温なしと比較しても、著しいラメラ構造の崩壊及び結晶物が見られた。事前の予想通り、ラメラ化が進行する温度帯での撹拌時間の延長は、ラメラ化促進に有効であることが確認された。また、80℃のベシクル化温度帯での保温はラメラ構造形成には寄与せず、むしろ悪影響であることが確認された。
80℃で保温するとラメラ構造への悪影響が観察された。これは、高温による水分の蒸発が原因ではないかと考えた、そこで、65℃での保温時間を調節することで、水分がどの程度蒸発し、それがラメラ化にどのような影響を与えるのか解析を行った。先ほど同様、120℃以上で融解後、撹拌しながら85℃まで冷却し、1%の水を添加し、65℃での撹拌を0~4時間まで変えたサンプルを用意した。なお、ここでは水浴からの水蒸気の影響を避けるため、オイルバスで全ての実験操作を行った。サンプルは事前に重量を測定しておき、調整後の重量と比較することで、添加した水の残量を推定した。その結果を図14に示す。撹拌時間に比例して、1%添加水の残量が減少していた。1時間の撹拌で残量水は0.39%にまで減少し、2時間以上では0.1%以下にまで減少していた。偏光顕微鏡でラメラ構造を解析すると、0時間撹拌(水量0.82%)と1時間撹拌(水量0.39%)ではラメラ構造が確認された。特に1時間撹拌では顕著なラメラ構造が確認できた。しかし、2時間以上撹拌(水量0.1%以下)では明瞭なラメラ構造が減少している様子が確認された。
以上の結果から、ラメラ相である70~50℃で1~2時間撹拌することが、多層構造化に寄与することが分かった。
(至適水量の検討)
図11で示した通り、添加する水を1%以上にしても、多層ラメラ構造に大きな変化は見られない。では多層ラメラ構造が見られる下限の水添加量はいくつなのか、検討を行った。水分の蒸発を防ぐため、水添加後は密栓状態で撹拌した。20%artECLsに対し添加する水の量を0.00~1.00%にまで条件を変えて作製し、偏光顕微鏡で観察した(図15)。その結果、異方性を示す構造物は0.1%以上から観察された。多層構造物も0.1%でわずかに観察されたが、明瞭な物は0.5%以上から確認された。この結果から、水添加量は20%artECLsに対し、0.5~1%が望ましいことが確認された。
(artECLs脂質の解析)
artECLsを構成する6種類の脂質のうち、多層ラメラ構造に必須あるいは不必要なものは存在するかどうかを検討した。6種類の脂質のうち1種類を含まないartECLsを作製した(表9)。
Figure 0007006947000009
偏光顕微鏡での観察結果を図16に示す。その結果、コントロールにおいては多層ラメラ構造であることを示す、幅が約100~200μmで構造色をもつ異方性ドメインが観察された。一方、コレステロールあるいはセラミド6IIを配合しなかったサンプル{Chol(-)及びCer6(-)}においてはラメラ構造だけでなくベシクルも全く確認されず、結晶が多数観察された。ベヘン酸を配合しなかったサンプル{Behn(-)}においては、異方性部位が僅かに観察されるものの、コントロール(Control)と比較すると明瞭な多層ラメラ構造を示す部位がほとんど観察されなかった。セラミド2および3を配合しなかったサンプル{Cer2(-)及びCer3(-)}では、明瞭なラメラ部位が観察された。しかし、コントールと比較するとドメイン構造が細いものが多く見られた。恐らく平板なラメラ構造だけではなく、ミエリン構造のものが多く含まれていると考えられる。カルナウバロウを配合しなかったサンプル{Carb(-)}は、コントロールと大きな違いは観察されなかった。
以上の結果から、artECLsを構成する6種類の脂質のうち、多層ラメラ構造を形成するためにはコレステロールとセラミド6IIが最も重要で、次いでベヘン酸が重要な役割を果たしていることが示唆された。また、セラミド2及び3はミエリン構造から平板化ラメラ構造への変化に寄与していることが示唆された。生体皮膚では平板なラメラ構造がバリア機能を担っていると考えられている。このことから、細胞間脂質のバリア機能にはセラミド2及び3が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
(artECLsの至適濃度)
液晶の様な超分子では分散質と分散媒の配合比によって様々な構造体を形成することが知られている。これまで見てきたラメラ構造物もartECLsと水とスクワランによる超分子構造体であり、分散質に相当するのがartECLsと水で、分散媒がスクワランである。そこで、この分散質と分散媒の配合比を変えることで、ラメラ構造に影響があるのではないかと考え検討を行った。そこで、artECLs濃度を5~80%{水との比は全て(artECLs:水=20:1)}のサンプルを作製した。作製方法はこれまでに検討してきた至適条件に倣い、以下のように調製した。
120℃で融解後、85℃まで冷却し水を添加、密栓したまま65℃で2時間撹拌した。各サンプルの処方及び偏光顕微鏡での観察結果を図17に示す。その結果、artECLs濃度が5%では全くラメラ構造は確認されなかった。20~40%にかけては、濃度依存的にラメラ構造物が増加・大型化していき、40%でピークとなっていた。50~70%にかけてはラメラ構造物が徐々に減少していき、70~80%になるとほとんど確認できなくなっていた。恐らく、連続相が分散媒であったスクワランから分散質であったartECLsと水の混合物に変化したためと考えられる。この結果から、分散質であるartECLsと水の比率を上げることで、ラメラ構造化を促進できことが確認された。最も効率的なartECLs濃度は30~50%であった。60%を超えると、徐々に転相が起きてしまい、これまで見られていたような明瞭なラメラ構造のドメインは見られなくなってしまうことも確認できた。
(飽和水蒸気雰囲気での作製)
実際の操作では高温の油相中で微量な水分を扱うため、水分蒸散には注意が必要になってくる。この懸念を解決するために、飽和水蒸気条件下で多層構造ラメラを作製することができないか検討を行った。artECLsをスクワランに混合し、120℃以上で融解した。これを撹拌したまま85℃まで冷却し、水を添加した。さらに65℃にまで冷却し、飽和水蒸気雰囲気下に移した。飽和水蒸気雰囲気は、65℃の水浴上に逆さまにしたビーカーを設置し、スペーサーによって水滴が混入しないようにして作り出した(図18)。この状態で2時間撹拌した。サンプルとして20%artECLsと、40%artECLsを用意し、比較を行った。また、85℃で液体の水を添加せず、水蒸気のみから水分供給を受けるサンプルもそれぞれ用意した(表10)。
Figure 0007006947000010
偏光顕微鏡での観察結果を図19に示す。20%artECLsにおいては飽和水蒸気雰囲気処理だけではラメラ構造は全く確認できなかった。液体水と飽和水蒸気雰囲気で処理すると、ラメラ構造は見られるものの、大気雰囲気下で液体水を添加した検体と比べると、ラメラ構造を示すドメインは少なかった。一方。40%artECLsでは、飽和水蒸気雰囲気処理だけの検体において顕著なラメラ構造形成が確認された。液体水と飽和水蒸気雰囲気で処理した検体は、これまでの大気雰囲気で作製したものと大きな違いは見られなかった。
40%artECLsにおいて処置前と後で重量の比較を行った。その結果、飽和水蒸気雰囲気処理のみの検体は約0.3%の、飽和水蒸気雰囲気と液体水添加の検体は約1.2%の増加であった。図13において20%artECLsに対して液体水の添加量がラメラ構造の形成度に与える影響について解析を行った。その結果では、0.5%以上の液体水添加によってラメラ構造形成が促進することを確認した。しかし、図17では至適濃度である40%artECLsを使用したことで、0.3%の水でもラメラ構造が形成されたのではないかと考えられる。図17の20%artECLsにおいては、水蒸気処理のみ検体は約0.7%の、水蒸気と液体水添加の検体は約1.5%の増加であった。しかし、ラメラ構造の形成は著しく減少していた。この違いは、ラメラ構造の形成にはartECLs濃度が水濃度より重要であることを示唆している。例え、水の状態が水蒸気であろうが液体であろうが、あるいは、水の量が0.3%であろうが1.5%であろうが、40%artECLsであればこれらの条件に左右されることなく無限会合状態のラメラが形成され得ることが確認できた。
(分散媒の検討)
これまでの諸検討は、スクワランが分散媒として都合の良い性質を持っていたため、これを中心に行ってきた。表7において、分散媒とベシクルの関係を示した。ここでは、同様にラメラ構造と分散媒の種類について検討を行った。これまでの結果を踏まえて、ラメラ構造が構築されやすい温度、撹拌時間、濃度条件下で、各種分散媒によるラメラ構造形成能の比較を行った。使用した分散媒を表11に示す。
Figure 0007006947000011
精製油の中でも、スクワランは無極性で高分子であり、これまでも安定的にラメラ構造構築が見られていた。パルミチン酸ヘキシルデシルは、表7において、スクワランと比べてベシクルが形成されにくいことが示されていが、ラメラ化にはどのように作用するのか、低極性油として比較を行った。ジメチルスルホキシド(DMSO)は低分子有機溶媒において150℃でも蒸発しない特殊な性質(沸点189℃)を持つ極性有機溶媒である。流動パラフィンは無極性で、オレフィン炭化水素の混合比によって粘度の異なるものが存在し、粘度による影響を比較できる。オリーブ果実油は不飽和脂肪酸が多量に含まれている。現行のartECLsは飽和脂質で構成されている関係上、出来上がった多層ラメラ構造物はゴムのように固い。このオリーブ果実油使うことで、不飽和脂肪酸の作用によりラメラ構造物の物性が変わることが期待される。ホホバオイルはワックスエステルが多量に含まれている。様々な鎖長のエステル油が存在するため、同じエステル油であるパルミチン酸ヘキシルデシルとの比較ができる。ラノリンは動物由来で、ほとんどがエステル油から構成されているが、粘度が大きく異なるため、ホホバオイルとの比較できる。ワセリンは鉱物油の代表である。そのほとんどがパラフィンから構成されているが、流動パラフィンと比べて粘度が非常に高いのが特徴となっている。シリコーン油の代表としてジメチルポリシロキサンを使用した。以上、12種類の分散媒を用いて40%artECLsを120℃以上で融解し、85℃にまで冷却し、そこに2%の水を添加した。密栓した状態で65℃で2時間撹拌し、室温にまで温度を下げ、偏光顕微鏡で観察を行った。観察結果を図20に、多層ラメラ構造の有無判定を表11にそれぞれ示す。DMSOではベシクルが多数観察されたが多層ラメラ構造物は観察されなかった。ジメチルポリシロキサンにおいては、わずかに多層構造物が見られたものの、結晶体が多く見られた。エステル油であるパルミチン酸ヘキシルデシルは異方性ドメインが見られるものの、スクワランと比較すると多層構造体は僅かしか観察されなかった。エステル油を多く含むホホバオイルにおいては多層ラメラが観察された。しかし、同等に球状の結晶体も多数見られた。ラノリンにおいては異方性部位が見られるものの、多層構造体はほとんど見られなかった。これらの結果から、分散媒として無極性油の方が極性油と比べて、多層ラメラ構造物の形成により適していることが示唆された。流動パラフィンとワセリンを比較すると、全てにおいて多層構造体が観察されるものの、粘度の上昇に伴って減少していた。最も、適した流動パラフィンはM-72とK-290であった。この結果から、分散媒の粘度は65~175SUS程度が適していると考えられる。オリーブ果実油ではラメラ構造物が確認された。しかし、実際に手に取ってみると、ラメラ構造物の物性はこれまでと大差なく、ゴム状であった。不飽和脂肪酸は融点が低いことが多く、高温での凝固・凝集過程を必要とするartECLsラメラにおいてはあまり構造に寄与せず、単純に低極性油として作用したと考えられる。
以上をまとめると、分散媒として適した性質は、沸点が150℃以上の無極性炭化水素油が適していると言える。また粘度は65.0~175SUSのものが適している。
次に、分散媒に皮脂類似成分(artificial sebum; artSEB)が利用できないか、検討を行った。artSEBを分散媒としてartECLsを加熱・融解し、液体水を添加して65℃で2時間撹拌した。また、artSEBは偏光顕微鏡観察で高いバックグラウンドを示すため、artECLsを含まない陰性対象も調製した。結果を図21に示す。artECLs濃度20%ではラメラ構造体は僅かしか観察されず、30%以上から明確に観察されるようになる。
(カルシウムの影響)
リポソームでは、カルシウムイオンが構造に与える影響ことが知られている。artECLsにおいては脂肪酸(ベヘン酸)がアニオン性であり、カルシウムイオンによって何かしらの影響を受けることが予想される。また、皮膚表皮層では外層に向って徐々にカルシウム濃度が高くなることが知られている。そこで、artECLsに液体水として塩化カルシウム水溶液を添加した。ここでは20%artECLsを79%スクワランで分散し、0.18~180 mM CaCl水溶液を1%重量添加した(終濃度1.8~1,800 μM CaCl)。その結果、僅かではあるがラメラ構造形成の促進が見られた(図22)。特に1.8μMと1,800μMでその効果が最も強く見られた。
敏感肌またはアトピー性皮膚炎の症状を軽減することができる外用組成物が提供される。このような技術に基づく化粧品等に関連する産業において利用可能な技術が提供される。

Claims (18)

  1. 細胞間脂質類似成分を含む外用組成物であって、該細胞間脂質類似成分が、コレステロール、セラミド6IIおよび炭素数18~30の脂肪酸を含む脂肪酸類を含み、ラメラ構造を有し、
    該細胞間脂質類似成分が、皮脂類似成分、スクワラン、流動パラフィン、植物油脂、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される溶媒に分散されており、該皮脂類似成分が、スクワランと、炭素数12~22の脂肪酸および炭素数12~22の脂肪族アルコールにより形成されるエステルを含むワックスエステル類と、炭素数12~22の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルを含むグリセライド類とを含む、外用組成物。
  2. 前記細胞間脂質類似成分が、カルナウバロウ、セラミド2およびセラミド3から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の外用組成物。
  3. 前記脂肪酸類がベヘン酸を含む、請求項1または2に記載の外用組成物。
  4. 前記ワックスエステル類が、炭素数12~18の脂肪酸および炭素数12~18の脂肪族アルコールにより形成されるエステルを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の外用組成物。
  5. 前記ワックスエステル類が、ラウリン酸メチルヘプチル、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸ヘキシルデシル、およびオレイン酸オレイルから選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載の外用組成物。
  6. 前記グリセライド類が、炭素数12~18の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の外用組成物。
  7. 前記グリセライド類が、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリオレイン、およびジオレイン酸グリセリルから選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載の外用組成物。
  8. アトピー性皮膚炎の治療または予防のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の外用組成物。
  9. 敏感性乾燥肌または皮脂欠乏性乾燥肌のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の外用組成物。
  10. 請求項1~9のいずれか一項に記載の外用組成物を作製する方法であって、該方法が、
    (A)前記細胞間脂質類似成分と溶媒とを混合するステップと、
    (B)前記混合物を加熱して融解するステップと
    (C)前記融解した細胞間脂質類似成分を撹拌しながら冷却するステップと
    を含み、該溶媒が、皮脂類似成分、スクワラン、流動パラフィン、および植物油脂から選択される少なくとも1つであり、該皮脂類似成分が、スクワランと、炭素数12~22の脂肪酸および炭素数12~22の脂肪族アルコールにより形成されるエステルを含むワックスエステル類と、炭素数12~22の脂肪酸およびグリセリンにより形成されるエステルを含むグリセライド類とを含む、方法。
  11. 前記ステップ(A)~(C)のいずれかにおいて、ケラチンをさらに添加することを含む、請求項10に記載の方法。
  12. 前記ケラチンが、前記ステップ(C)において、約50℃以上の時に添加される、請求項11に記載の方法。
  13. 前記添加されるケラチンが、約5重量%~約40重量%の濃度で混合される、請求項11または12に記載の方法。
  14. 前記ステップ(A)~(C)のいずれかにおいて、水をさらに添加することを含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記水が、少なくとも約0.1重量%添加されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
  16. 前記ステップ(C)において、約50℃~約80℃の間の温度で保温することをさらに含む、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
  17. 前記ステップ(A)~(C)のうちの少なくとも1つのステップが、飽和水蒸気雰囲気下で行われる、請求項10~16のいずれか一項に記載の方法。
  18. 前記ステップ(A)において、カルシウム塩をさらに添加することを含む、請求項10~17のいずれか一項に記載の方法。
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