本開示は、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を、適切な条件下において未分化な状態で長期間維持可能であることを示す。このことから、分化誘導や様々な分子の発現が必要となるときまで、SMS細胞を簡便に長期間培養することができる。
したがって、本開示は、SMS細胞集団を、未分化な状態で維持可能な条件下において培養する方法に関する。この方法は、単離されたSMS細胞集団を、好ましくは未分化な状態で維持可能な条件下において、増殖培地中で懸濁培養することを含む。いくつかの実施形態において、前記SMS細胞を培養するための増殖培地は高糖濃度基礎培地である。いくつかの実施形態において、前記高糖濃度基礎培地は、仔ウシ血清、インスリンまたはその両方をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたSMS細胞集団を5%CO2下、37℃で培養する。前記SMS細胞を表面に接着させずに培養するには、たとえば、ポリスチレン製ではなく、ポリプロピレン製のプラスチックなどの表面が必要である。
いくつかの実施形態において、前記単離されたSMS細胞集団は、臍帯血、末梢血、骨髄または固形組織から単離されたものである。いくつかの実施形態において、前記固形組織は、胎盤、肝臓、心臓、脳、腎臓または消化管組織である。前記SMS細胞集団は、ヒト、霊長類、ネコおよびイヌなどの家庭動物、またはラクダ、ウマ、ブタ、ウシなどの哺乳動物の末梢血から単離されたものであってもよい。
いくつかの実施形態において、遺伝子産物をコードするSMS細胞を培養する前記方法は、該遺伝子産物を単離または精製することをさらに含む。
いくつかの実施形態において、前記単離された懸濁状態のSMS細胞集団を接着細胞から分離する。いくつかの実施形態では、前記方法は、分化した細胞の塊を低速遠心分離によって除去することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された懸濁状態のSMS細胞集団を分画遠心法によって単離する。
いくつかの実施形態において、SMS細胞を未分化な状態で培養する前記方法は、前記培養後に遠心分離または濾過を行い、前記単離されたSMS細胞集団を単離または継代することをさらに含む。いくつかの実施形態において、この遠心分離は、3000×g、3500×g、4000×g、4100×g、4200×g、4300×g、4500×gもしくは5000×g、またはこれらの速度のいずれか2つによって定義される範囲内の速度で行い、遠心時間は、4200×gで15分間遠心分離を行った場合と同等となるように調整する。いくつかの実施形態において、前記濾過は分別濾過によって行い、孔径の大きいフィルターを使用して濾過を開始し、徐々にフィルターの孔径を小さくしていく。いくつかの実施形態では、約3~5μmの孔径を有するフィルターを使用してSMS細胞を捕捉する。特に、未分化のSMS細胞は懸濁液中で塊を形成しないことから、濾過によって容易に単離することができる。
いくつかの実施形態において、前記SMS細胞集団を、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに導入し、任意で、培地を流動および/または循環させる。いくつかの実施形態では、前記SMS細胞を、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターで培養する。いくつかの実施形態では、前記SMS細胞を、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに播種する。いくつかの実施形態では、前記SMS細胞を、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに入れ、使用するまで凍結または保存しておく。いくつかの実施形態では、前記フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターの表面を前処理する。いくつかの実施形態において、前記フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターの表面に施される前記前処理は、該表面に1つ以上の所定の幾何学的形状をエッチングすることを含み、該1つ以上の幾何学的形状は前記SMS細胞のガイドとして機能する。いくつかの実施形態において、前記表面に施されたエッチングによって、前記SMS細胞の増殖および組織化が調整または誘導されるか、あるいは前記SMS細胞の増殖および組織化を誘導するようなシグナルが出される。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の幾何学的形状は、線状、曲線状、網状、溝状、隆起状またはその他の形状である。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の幾何学的形状は、滑らかな形状または粗い形状である。
いくつかの実施形態において、前記流路はマイクロ流路である。いくつかの実施形態において、前記マイクロ流路はマイクロ流体デバイスに組み込まれたものである。いくつかの実施形態において、前記マイクロ流体デバイスはマイクロ流体チップである。いくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップは、実験室で行われる1つ以上の操作を1枚のチップに組み込んだlab-on-a-chipデバイスである。いくつかの実施形態において、前記マイクロ流体デバイスは、細胞、組織、器官全体または器官系の活性、機構および生理反応を模擬したcell-on-a-chipデバイス、tissue-on-a-chipデバイスまたはorgan-on-a-chipデバイスである。
いくつかの実施形態において、前記SMS細胞の培養方法は、遺伝子産物をコードする遺伝子、好ましくは成長因子、サイトカイン、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、酵素、タンパク質断片、細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質をコードする遺伝子を、前記単離されたSMS細胞集団にトランスフェクトすることをさらに含む。
いくつかの実施形態において、前記遺伝子産物としては、たとえば、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、インスリン、副甲状腺ホルモン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲンおよびエンタクチン、もしくはこれらのバリアントならびに/またはこれらの組み合わせが挙げられる。
いくつかの実施形態は、分子を製造するために、単離された小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を使用する方法であって、
単離されたSMS細胞集団を提供すること、および
分子を産生するように、前記単離されたSMS細胞集団を誘導すること
を含む方法に関する。
いくつかの実施形態において、前記分子は、成長因子、サイトカイン、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質である。
いくつかの実施形態において、前記分子としては、たとえば、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、インスリン、副甲状腺ホルモン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲンおよびエンタクチン、もしくはこれらのバリアントならびに/またはこれらの組み合わせが挙げられる。
いくつかの実施形態において、前記タンパク質は、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、骨形成タンパク質1(BMP-1)、ビトロネクチン、acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member A(ANP32A)、カルシニューリン様ホスホエステラーゼ、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、β-エノラーゼ、fermitin family homolog 1、微小管関連タンパク質RP/EB(MAPRE1)、熱ショックタンパク質、LIM and senescent cell antigen-like-containing domain protein 1(LIMS1)、ミオシン調節タンパク質、プロフィリン-1、グリコーゲンホスホリラーゼ、フラビンレダクターゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、チューブリン、細胞内クロライドチャネルタンパク質、wings apart-like protein homolog(WAPAL)、cell division control protein、オステオポンチン、BPI fold-containing、伸長因子、プラスミノゲン、アルド-ケトレダクターゼまたはケラチンである。
いくつかの実施形態において、前記細胞の誘導は1種以上の化学誘導物質を用いて行う。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチンもしくはインドメタシン、またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記化学誘導物質は、0.1μMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸-2-リン酸エステルおよび10mMのβ-グリセロリン酸塩を含む。
いくつかの実施形態は、単離された未分化の小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を分化誘導する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団を提供すること、および
前記単離された未分化のSMS細胞集団を1種以上の化学誘導物質と接触させて、1種以上の分化細胞、組織、組織様構造、オルガノイドまたは器官に分化誘導すること
を含む方法に関する。
いくつかの実施形態において、前記1つ以上の化学誘導物質としては、たとえば、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシドおよびブチルヒドロキシアニソールが挙げられる。
いくつかの実施形態は、3Dバイオプリンティング装置を使用して、空間制御された細胞パターンを作製するプロセスのための基材として小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を使用する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団を提供すること、および
基材としての前記単離された未分化のSMS細胞集団と3Dバイオプリンティング装置とを使用して、空間制御された細胞パターンを作製すること
を含む方法に関する。
いくつかの実施形態において、前記3Dバイオプリンティング装置としては、たとえば、BioBot1(登録商標)、3D-Bioplotter(登録商標)、3DS Alpha(登録商標)または3Dynamic Omega(登録商標)が挙げられる。
いくつかの実施形態は、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を使用して、培養物中で細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を製造する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団を提供すること、および
ECMタンパク質を産生するように、前記単離された未分化のSMS細胞集団を誘導すること
を含む方法に関する。
いくつかの実施形態において、前記単離された未分化のSMS細胞集団と、ECMタンパク質の産生を誘導する1種以上の化学誘導物質とを接触させることによって、前記単離された未分化のSMS細胞集団におけるECMタンパク質の産生を誘導する。前記1種以上の化学誘導物質は、たとえば、ヘッジホッグ阻害剤、TGF/BMP活性化因子、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、前記増殖培地中に含まれている血清、および/またはポリスチレンである。
いくつかの実施形態において、前記産生されたECMタンパク質は、懸濁状態のECMタンパク質と接着状態のECMタンパク質の一方または両方を含む。いくつかの実施形態において、前記ECMタンパク質の製造方法は、前記懸濁状態のECMタンパク質を、たとえば遠心分離、沈殿、濾過などによって単離することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記ECMタンパク質の製造方法は、前記接着状態のECMタンパク質を、たとえば培養ベッセルから掻き取ることなどによって単離することをさらに含む。いくつかの実施形態において、SMS細胞からECM成分またはECMタンパク質を単離する前記方法は、前記単離されたECMから残存細胞を溶解または除去することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記ECM成分としては、たとえば、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片が挙げられる。いくつかの実施形態において、SMS細胞からECMタンパク質を単離する前記方法は、前記単離されたECMタンパク質を、たとえば凍結、凍結乾燥、架橋、乾燥および/または微粉砕によって改変することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記改変されたECMタンパク質は、インビトロまたはインビボにおける細胞増殖または細胞分化の促進に適したものである。
いくつかの実施形態において、SMS細胞からECMタンパク質を単離する前記方法は、前記単離された未分化のSMS細胞集団を足場上で培養することを含む。いくつかの実施形態において、前記足場は多孔性および/または移植可能な足場であり、たとえば、脱細胞化された天然の骨、炭素材料、多孔質炭素、活性炭、脱細胞化された軟らかいコラーゲン、脱細胞化された器官、キトサン、脱灰化された骨基質、膜同種移植片および/もしくはバリア同種移植片またはこれらの組み合わせを含む足場である。いくつかの実施形態において、前記足場は、合成、半合成または天然の足場である。
いくつかの実施形態は、軟部組織を製造する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団を末梢血の存在下で培養すること、
ゲル様構造を形成させること、
形成されたゲル様構造を凍結すること、
凍結したゲル様構造を解凍すること、および
解凍したゲル様構造を培養して軟部組織様構造を形成させること
を含む方法に関する。
いくつかの実施形態において、前記ゲル様構造は-20℃で凍結される。
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から得られる1種以上の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含む組成物に関する。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は変性されたものである。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化またはユビキチン化によって改変されたものである。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は、微生物の増殖を抑制する分子、たとえば細菌および/または真菌の増殖を抑制する化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記微生物の増殖を抑制する化合物は、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12および膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される抗微生物タンパク質である。いくつかの実施形態において、前記組成物は、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される。
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、創傷治癒システムに関する。いくつかの実施形態において、この創傷治癒システムは創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態において、前記創傷被覆材は、SMS細胞から調製または誘導された細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含む組成物を含む。いくつかの実施形態において、前記創傷被覆材は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏または吸収性創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態において、前記創傷治癒システムまたは前記創傷被覆材に含まれる前記ECMタンパク質は、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片からなる群から選択される。
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、創傷を治療または改善する方法に関する。いくつかの実施形態において、創傷を治療または改善する該方法は、SMS細胞から取得または誘導された1種以上のECMタンパク質を含む組成物に対象の創傷を接触させることを含む。好ましくは、前記SMS細胞から取得または誘導された前記ECMタンパク質は抗微生物化合物を含むか、あるいは該ECMタンパク質自体が、抗ウイルス活性、抗細菌活性、抗真菌活性などの抗微生物活性を発揮または保持する。いくつかの実施形態において、創傷を治療または改善する前記方法は、創傷被覆材を含むシステムに対象の創傷を接触させることを含み、該創傷被覆材は、SMS細胞から取得または誘導された1種以上のECMタンパク質を含み、好ましくは、抗ウイルス化合物、抗細菌化合物、抗真菌化合物などの抗微生物化合物を含む、前記SMS細胞から取得または誘導されたECMタンパク質を含む。
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、SMS細胞からタンパク質を製造する方法に関する。いくつかの実施形態において、この方法は、単離された未分化の小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を、ベッセルに入れた増殖培地中で培養することを含む。いくつかの実施形態において、SMS細胞からタンパク質を製造する前記方法は、タンパク質を産生するように前記SMS細胞を誘導することを含む。前記方法の実施形態のいくつかにおいて、前記細胞はCO2の非存在下で培養される。いくつかの実施形態において、前記細胞は抗生物質の非存在下で培養される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、300mL~500Lの培地、たとえば、300mL、500mL、1L、5L、10L、20L、30L、40L、50L、60L、70L、80L、90L、100L、200L、300L、400Lもしくは500L、またはこれらの量のいずれか2つによって定義される範囲内の量の培地を含む容器中で培養される。前記タンパク質の製造方法の実施形態のいくつかにおいて、前記SMS細胞によって産生されるタンパク質、または前記SMS細胞からの産生が誘導されるタンパク質は、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、骨形成タンパク質1(BMP-1)、ビトロネクチン、acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member A(ANP32A)、カルシニューリン様ホスホエステラーゼ、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、β-エノラーゼ、fermitin family homolog 1、微小管関連タンパク質RP/EB(MAPRE1)、熱ショックタンパク質、LIM and senescent cell antigen-like-containing domain protein 1(LIMS1)、ミオシン調節タンパク質、プロフィリン-1、グリコーゲンホスホリラーゼ、フラビンレダクターゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、チューブリン、細胞内クロライドチャネルタンパク質、wings apart-like protein homolog(WAPAL)、cell division control protein、オステオポンチン、BPI fold-containing、伸長因子、プラスミノゲン、アルド-ケトレダクターゼ、ケラチンもしくは細胞外マトリックスタンパク質(ECM)、または前記1種以上のタンパク質の断片である。いくつかの実施形態において、誘導下または非誘導下において前記SMS細胞によって産生されるECMタンパク質は、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片である。いくつかの実施形態において、SMS細胞を増殖させるために使用される前記ベッセルは、懸濁液中でのSMS細胞の増殖を促進するものであるか、あるいは懸濁液中でのSMS細胞の増殖を促進するように構成されたものである。いくつかの実施形態において、前記ベッセルは、ポリプロピレン製ベッセル、前処理されたシリコーン加工ベッセル、または懸濁液中のSMS細胞の増殖を促進するように構成されたベッセル(たとえば、攪拌、振盪または旋回振盪によって培地を循環させることが可能なフラスコまたはバイオリアクター)である。いくつかの実施形態において、前記ベッセルによってSMS細胞の接着が促進される。いくつかの実施形態において、前記SMS細胞の誘導は、1種以上の化学誘導物質を用いて行われる。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチンもしくはインドメタシン、またはこれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記化学誘導物質は、0.1μMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸-2-リン酸エステルおよび10mMのβ-グリセロリン酸塩を含む。
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、細管構造または脈管構造を製造する方法であって、SMSに由来する細胞外マトリックス(ECM)とともに内皮細胞を培養することを含む方法に関する。いくつかの実施形態において、前記内皮細胞は、前記SMS由来ECM内へと遊走して該SMS由来ECMと相互作用し、その結果、細管構造または脈管構造が形成される。
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、細胞集団による脈管形成、血管新生または動脈新生を誘導、促進または支援する薬剤または化合物を選択する方法に関する。いくつかの実施形態において、この方法は、本明細書に記載のSMS細胞から産生された細胞外マトリックス(ECM)を提供することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、脈管形成能、血管新生能または動脈新生能を有する細胞(たとえば内皮細胞など)を含む第1の細胞集団に、前記SMS細胞から産生された前記ECMを接触させることを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMと接触させた第1の細胞集団を薬剤または化合物と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記薬剤または化合物と接触させた後の、前記ECMと接触させた第1の細胞集団における脈管形成、血管新生または動脈新生の質または量を、前記薬剤または化合物と接触させずに前記ECM上で培養した好ましくは第1の細胞集団と同じ細胞種の第2の細胞集団と比較することによって、前記薬剤または化合物が第1の細胞集団において脈管形成、血管新生または動脈新生を誘導、促進または支援するかどうかを判断することを含む。いくつかの実施形態において、第2の細胞集団と比較して、第1の細胞集団における脈管形成、血管新生または動脈新生の量が多く、またはそれらの質が高い場合、細胞集団による脈管形成、血管新生または動脈新生を誘導、促進または支援する薬剤または化合物として前記薬剤または化合物が選択される。
したがって、本発明の態様のいくつかは以下に関する。
1.小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を培養する方法であって、
単離されたSMS細胞集団を、好ましくは懸濁状態および/または未分化な状態で維持可能な条件下において、増殖培地中で懸濁培養することを含む方法。
2.前記増殖培地が高糖濃度基礎培地である、前記態様1に記載の方法。
3.前記高糖濃度基礎培地が、仔ウシ血清、インスリンまたはその組み合わせをさらに含む、前記態様2に記載の方法。
4.前記単離されたSMS細胞集団を5%CO2下、37℃で培養する、前記態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記SMS細胞の接着を阻害するように構成されたベッセル、たとえばポリプロピレン製のベッセルまたはチューブ中で、前記単離されたSMS細胞集団を培養する、前記態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記単離されたSMS細胞集団が臍帯血、末梢血、骨髄または固形組織から単離されたものであり、たとえば、ヒト、霊長類、ネコおよびイヌなどの家庭動物、またはラクダ、ウマ、ブタ、ウシなどの哺乳動物の末梢血から単離されたものである、前記態様1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.前記固形組織が、胎盤、肝臓、心臓、脳、腎臓または消化管組織である、前記態様6に記載の方法。
8.前記SMS細胞集団を、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに導入し、任意で、前記単離されたSMS細胞集団を培養するための前記増殖培地を流動および/または循環させる、前記態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターの表面を前処理することをさらに含む、前記態様8に記載の方法。
10.前記前処理が、前記表面に所定の幾何学的形状をエッチングすることを含み、該幾何学的形状が前記SMS細胞を組織化させるためのガイドとして機能する、前記態様9に記載の方法。
11.前記幾何学的形状が、線状、網状、溝状、隆起状またはその他の形状である、前記態様10に記載の方法。
12.前記流路が、マイクロ流体デバイスに組み込まれたマイクロ流路である、前記態様8に記載の方法。
13.前記培養後に遠心分離または濾過を行い、前記単離されたSMS細胞集団を単離または継代することをさらに含む、前記態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
14.遺伝子産物をコードする遺伝子、好ましくは成長因子、サイトカイン、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、酵素、タンパク質断片、細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質をコードする遺伝子を、前記単離されたSMS細胞集団にトランスフェクトすることをさらに含む、前記態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
15.前記遺伝子産物が、インスリン成長因子2、インターロイキン6、インスリン、副甲状腺ホルモン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲンおよびエンタクチンからなる群から選択される、前記態様14に記載の方法。
16.前記遺伝子産物を単離または精製することさらに含む、前記態様14に記載の方法。
17.前記単離された懸濁状態のSMS細胞集団を接着細胞から分離する、前記態様1~16のいずれか1つに記載の方法。
18.前記単離されたSMS細胞集団を5%CO2下、37℃で培養する、前記態様1~17のいずれか1つに記載の方法。
19.分化した細胞の塊を低速遠心分離によって除去することをさらに含む、前記態様1~18のいずれか1つに記載の方法。
20.前記単離された懸濁状態のSMS細胞集団を分画遠心法によって単離する、前記態様1~19のいずれか1つに記載の方法。
21.分子を製造するために、単離された小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を使用する方法であって、
単離されたSMS細胞集団、たとえば前記態様1~20のいずれか1つに記載の方法によって得られる単離された懸濁状態のSMS細胞集団を提供すること;および
分子を産生するように、前記単離されたSMS細胞集団を誘導すること
を含む方法。
22.前記分子が、成長因子、サイトカイン、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質である、前記態様21に記載の方法。
23.前記分子が、インスリン成長因子2、インターロイキン6、インスリン、副甲状腺ホルモン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲンおよびエンタクチンからなる群から選択される、前記態様21または22に記載の方法。
24.前記タンパク質が、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、骨形成タンパク質1(BMP-1)、ビトロネクチン、acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member A(ANP32A)、カルシニューリン様ホスホエステラーゼ、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、β-エノラーゼ、fermitin family homolog 1、微小管関連タンパク質RP/EB(MAPRE1)、熱ショックタンパク質、LIM and senescent cell antigen-like-containing domain protein 1(LIMS1)、ミオシン調節タンパク質、プロフィリン-1、グリコーゲンホスホリラーゼ、フラビンレダクターゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、チューブリン、細胞内クロライドチャネルタンパク質、wings apart-like protein homolog(WAPAL)、cell division control protein、オステオポンチン、BPI fold-containing、伸長因子、プラスミノゲン、アルド-ケトレダクターゼまたはケラチンである、前記態様21~23のいずれか1つに記載の方法。
25.前記細胞の誘導を1種以上の化学誘導物質を用いて行う、前記態様21~24のいずれか1つに記載の方法。
26.前記1種以上の化学誘導物質が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチンもしくはインドメタシン、またはこれらの組み合わせである、前記態様25に記載の方法。
27.前記化学誘導物質が、0.1μMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸-2-リン酸エステルおよび10mMのβ-グリセロリン酸塩を含む、前記態様25または26に記載の方法。
28.単離された未分化の小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を分化誘導する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団、たとえば前記態様1~20のいずれか1つに記載の方法によって得られる単離された懸濁状態のSMS細胞集団を提供すること;および
前記単離された未分化のSMS細胞集団を1種以上の化学誘導物質と接触させて、1種以上の分化細胞、組織、組織様構造、オルガノイドまたは器官に分化誘導すること
を含む方法。
29.前記1種以上の化学誘導物質が、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシドおよびブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される、前記態様28に記載の方法。
30.3Dバイオプリンティング装置を使用して、空間制御された細胞パターンを作製するプロセスのための基材として小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を使用する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団、たとえば前記態様1~20のいずれか1つに記載の方法によって得られる単離された懸濁状態のSMS細胞集団を提供すること;および
基材としての前記単離された未分化のSMS細胞集団と3Dバイオプリンティング装置とを使用して、空間制御された細胞パターンを作製すること
を含む方法。
31.前記3Dバイオプリンティング装置が、BioBot1(登録商標)、3D-Bioplotter(登録商標)、3DS Alpha(登録商標)および3Dynamic Omega(登録商標)からなる群から選択される、前記態様30に記載の方法。
32.小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を使用して、培養物中で細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を製造する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団、たとえば前記態様1~20のいずれか1つに記載の方法によって得られる単離された懸濁状態のSMS細胞集団を提供すること;および
ECMタンパク質を産生するように、前記単離された未分化のSMS細胞集団を誘導すること
を含む方法。
33.前記単離された未分化のSMS細胞集団と、ECMタンパク質の産生を誘導する1種以上の化学誘導物質とを接触させることによって、前記単離された未分化のSMS細胞集団におけるECMタンパク質の産生を誘導し、
前記1種以上の化学誘導物質が、たとえば、ヘッジホッグ阻害剤、TGF/BMP活性化因子、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、前記増殖培地中に含まれている血清、および/またはポリスチレンである、前記態様32に記載の方法。
34.前記産生されたECMタンパク質が、懸濁状態のECMタンパク質と接着状態のECMタンパク質の一方または両方を含む、前記態様33に記載の方法。
35.前記懸濁状態のECMタンパク質を、たとえば遠心分離、濾過、沈殿などによって単離すること、および/または前記接着状態のECMタンパク質を、たとえば培養ベッセルから掻き取ることなどによって単離することをさらに含む、前記態様32~34のいずれか1つに記載の方法。
36.前記単離されたECMから残存細胞を溶解または除去することをさらに含む、前記態様35に記載の方法。
37.前記ECMタンパク質が、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片からなる群から選択される、前記態様32~36のいずれか1つに記載の方法。
38.前記ECMタンパク質を、たとえば凍結、凍結乾燥、架橋、乾燥および/または微粉砕によって、改変することをさらに含む、前記態様32~37のいずれか1つに記載の方法。
39.前記改変されたECMタンパク質が、インビトロまたはインビボにおける細胞増殖または細胞分化の促進に適したものである、前記態様38に記載の方法。
40.前記単離された未分化のSMS細胞集団を足場上で培養し、該足場が好ましくは多孔性および/または移植可能な足場であり、たとえば、脱細胞化された天然の骨、脱細胞化された軟らかいコラーゲン、脱細胞化された器官、キトサン、脱灰化された骨基質、膜バリア同種移植片またはこれらの組み合わせを含む足場である、前記態様32~39のいずれか1つに記載の方法。
41.前記足場が、合成、半合成または天然の足場である、前記態様40に記載の方法。
42.軟部組織を製造する方法であって、
単離された未分化のSMS細胞集団、たとえば前記態様1~20のいずれか1つに記載の方法によって得られる単離された懸濁状態のSMS細胞集団を末梢血の存在下で培養すること;
ゲル様構造を形成させること;
形成されたゲル様構造を凍結すること;
凍結したゲル様構造を解凍すること;および
解凍したゲル様構造を培養して軟部組織様構造を形成させること
を含む方法。
43.前記凍結工程が-20℃で行われる、前記態様42に記載の方法。
44.小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から得られる1種以上の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含む組成物。
45.前記1種以上のECMタンパク質が変性されたものである、前記態様44に記載の組成物。
46.前記1種以上のECMタンパク質が、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化またはユビキチン化によって改変されたものである、前記態様44または45に記載の組成物。
47.前記1種以上のECMタンパク質が、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片からなる群から選択される、前記態様44~46のいずれか1つに記載の組成物。
48.前記1種以上のECMタンパク質が、細菌および/もしくは真菌などの微生物の増殖を抑制する化合物を含むか、または該ECMタンパク質自体が、細菌および/もしくは真菌などの微生物の増殖を抑制する化合物として作用する、前記態様44~47のいずれか1つに記載の組成物。
49.前記微生物の増殖を抑制する化合物が、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12および膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される抗微生物タンパク質である、前記態様48に記載の組成物。
50.エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される、前記態様44~49のいずれか1つに記載の組成物。
51.前記態様44~50のいずれか1つに従って調製された細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含む組成物を含む創傷被覆材を含む創傷治癒システム。
52.前記創傷被覆材が、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏または吸収性創傷被覆材である、前記態様51に記載のシステム。
53.前記ECMタンパク質が、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片からなる群から選択される、前記態様51または52に記載のシステム。
54.対象の創傷を治療もしくは緩和する方法、または対象の創傷の治癒を促進する方法であって、前記態様44~50のいずれか1つに記載の組成物または前記態様51~53のいずれか1つに記載のシステムに対象の創傷を接触させることを含む方法。
55.タンパク質を製造する方法であって、
単離された未分化の小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を、タンパク質の産生を促進する増殖培地を入れたベッセル中で培養すること;
任意でタンパク質の産生を誘導すること;および
任意で前記タンパク質を単離または精製すること
を含む方法。
56.前記細胞をCO2の非存在下で培養する、前記態様55に記載の方法。
57.前記細胞を抗生物質の非存在下で培養する、前記態様55または56に記載の方法。
58.前記細胞を、ベッセルに入れた300mL~500Lの培地中で培養する、前記態様55~57のいずれか1つに記載の方法。
59.前記タンパク質が、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、骨形成タンパク質1(BMP-1)、ビトロネクチン、acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member A(ANP32A)、カルシニューリン様ホスホエステラーゼ、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、β-エノラーゼ、fermitin family homolog 1、微小管関連タンパク質RP/EB(MAPRE1)、熱ショックタンパク質、LIM and senescent cell antigen-like-containing domain protein 1(LIMS1)、ミオシン調節タンパク質、プロフィリン-1、グリコーゲンホスホリラーゼ、フラビンレダクターゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、チューブリン、細胞内クロライドチャネルタンパク質、wings apart-like protein homolog(WAPAL)、cell division control protein、オステオポンチン、BPI fold-containing、伸長因子、プラスミノゲン、アルド-ケトレダクターゼ、ケラチンもしくは細胞外マトリックスタンパク質(ECM)、または前記1種以上のタンパク質の断片である、前記態様55~58のいずれか1つに記載の方法。
60.前記ECMタンパク質が、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片である、前記態様59に記載の方法。
61.前記ベッセルによって懸濁液中のSMS細胞の増殖が促進されるか、または前記ベッセルが、懸濁液中のSMS細胞の増殖を促進するように構成されている、前記態様55~60のいずれか1つに記載の方法。
62.前記ベッセルが、ポリプロピレン製ベッセル、前処理されたシリコーン加工ベッセル、または懸濁液中のSMS細胞の増殖を促進するように構成されたベッセルである、前記態様55~61のいずれか1つに記載の方法。
63.前記ベッセルによって細胞接着が促進される、前記態様55~60のいずれか1つに記載の方法。
64.前記細胞の誘導を1種以上の化学誘導物質を用いて行う、前記態様55~63のいずれか1つに記載の方法。
65.前記1種以上の化学誘導物質が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチンもしくはインドメタシンまたはこれらの組み合わせである、前記態様64に記載の方法。
66.前記化学誘導物質が、0.1μMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸-2-リン酸エステルおよび10mMのβ-グリセロリン酸塩を含む、前記態様64または65に記載の方法。
67.細管構造または脈管構造を製造する方法であって、
SMS細胞に由来する細胞外マトリックス(ECM)とともに内皮細胞を培養することを含み、
該内皮細胞が前記SMS由来ECM内へと遊走して該SMS由来ECMと相互作用し、その結果、細管構造または脈管構造が形成されることを特徴とする方法。
68.細胞集団による脈管形成、血管新生または動脈新生を誘導、促進または支援する薬剤または化合物を選択する方法であって、
SMS細胞から産生された細胞外マトリックス(ECM)、たとえば前記態様のいずれか1つに従って製造されるECMなどを提供すること;
脈管形成能、血管新生能または動脈新生能を有する細胞(たとえば内皮細胞など)を含む第1の細胞集団に、前記SMS細胞から産生された前記ECMを接触させること;
前記ECMと接触させた第1の細胞集団を薬剤または化合物と接触させること;および
前記薬剤または化合物と接触させた後の、前記ECMと接触させた第1の細胞集団における脈管形成、血管新生または動脈新生の質または量を、前記薬剤または化合物と接触させずに前記ECM上で培養した好ましくは第1の細胞集団と同じ細胞種の第2の細胞集団と比較することによって、前記薬剤または化合物が第1の細胞集団において脈管形成、血管新生または動脈新生を誘導、促進または支援するかどうかを判断すること
を含み、
第2の細胞集団と比較して、第1の細胞集団における脈管形成、血管新生または動脈新生の量が多く、またはそれらの質が高い場合、細胞集団による脈管形成、血管新生または動脈新生を誘導、促進または支援する薬剤または化合物として前記薬剤または化合物が選択されることを特徴とする方法。
前述した特徴以外のさらなる特徴や変形例は、以下の図面の説明および代表的な実施形態から容易に理解できるであろう。以下の図面は代表的な実施形態を示しており、本発明の範囲を限定するものではない。
培養されたSMS細胞が、フラスコ底部で複数の不透明な細胞層からなる接着細胞層を形成した様子を示す。培地中にも浮遊した未分化SMS細胞が含まれている。
T25フラスコで培養した浮遊分画から単離した後、懸濁培養した未分化SMS細胞を示す、デジタル補正した顕微鏡写真である(400×;スケールバー=15μm)。
4200×gで15分間遠心分離したSMS細胞培養物を示す。写真に示したポリプロピレン製のバイオリアクターチューブを使用し、血清非添加(左)または血清添加(右)の条件において高グルコースDMEM培地中でSMS細胞を培養した(各10mL)。いずれの培養も遠心分離後に大きなペレットが得られ、ペレットの形がわずかに異なっていた。遠心分離後の各培養物の上清は透明である。
T25フラスコ中で培養したSMS細胞が、神経細胞、骨細胞または脂肪細胞への分化誘導によって様々な細胞株に分化可能であることを示す。
6ウェルプレートに入れた骨芽細胞誘導培地中での培養によって分化したSMS細胞を示す。未分化SMS細胞は、数倍の大きさの骨細胞前駆細胞株へと分化した(200×;スケールバー=30μm)。
6ウェルプレートに入れた骨芽細胞誘導培地中での培養によって分化したSMS細胞を示す。SMS細胞は骨細胞前駆細胞株へと分化した(400×;スケールバー=15μm)。
培養条件を変えたところ、SMS細胞の形態が大きく変化したことを示す。SMS細胞と巨大化した細胞とが同時に存在していることがわかる。いずれの細胞も活発に分裂し、そのうちのいくつかは非対称な細胞分裂を示している。
6ウェルプレートに入れた誘導培地中での培養によって分化したSMS細胞を示す。SMS細胞は巨大化して形態変化し、隣り合う細胞と凝集塊を形成している(200×;スケールバー=30μm)。
血清除去後に巨大化したSMS由来細胞の走査型電子顕微鏡写真を示す。SMS細胞は接着して徐々に形態が変化し、巨大化した。
6ウェルプレートに入れた誘導培地中での培養によって分化したSMS細胞を示す。細胞凝集塊が浮遊していることから、細胞がフラスコへの接着性を喪失したことがわかる。細胞は形態変化して立方体様となり、隣り合う細胞同士で接着したことから、細胞極性が変化したことが示された。上皮細胞のように頂部および基底面が形成された(400×;スケールバー=15μm)。
わずかに突出した外縁と透明な細胞質を有する、懸濁状態の大型円形細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートで培養したSMS細胞が全体的な形態変化を起こしたことによって得られた(400×;スケールバー=15μm)。
わずかに突出した外縁と透明な細胞質を有する懸濁状態の大型円形細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートで培養したSMS細胞が全体的な形態変化を起こしたことによって得られた(400×;スケールバー=15μm)。
透明な細胞質と扁平な形態を有する、浮力の小さい大型円形浮遊細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートで培養したSMS細胞が全体的な形態変化を起こしたことによって得られた(200×;スケールバー=30μm)。
透明で伸長した細胞質突起を有する、不規則で扁平な形態の大型浮遊細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートに入れた誘導培地中で培養したSMS細胞に由来するものである(200×;スケールバー=30μm)。
透明な細胞質を有し、外縁が平滑で、均一な形態の大型円形接着細胞を示す(矢印)。この細胞は、6ウェルプレートに入れた誘導培地中で培養したSMS細胞に由来するものである(400×;スケールバー=15μm)。
伸長した突起を有する、いびつな形態の大型扁平接着細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートに入れた誘導培地中で培養したSMS細胞に由来するものである(40×;スケールバー=150μm)。
伸長した突起を有する、いびつな形態の大型接着扁平細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートに入れた誘導培地中で培養したSMS細胞に由来するものである(100×;スケールバー=60μm)。
伸長した突起を有する、いびつな形態の大型接着扁平細胞を示す。この細胞は、6ウェルプレートに入れた誘導培地中で培養したSMS細胞に由来するものである(200×;スケールバー=30μm)。
T25フラスコにおけるSMS細胞と(同じ由来の)線維芽細胞との共培養を示す。整列したSMS細胞が、これよりも大きな線維芽細胞の整列を促していると見られる(40×;スケールバー=150μm)。
T25フラスコにおけるSMS細胞と(同じ由来の)線維芽細胞との共培養を示す。整列したSMS細胞が、これよりも大きな線維芽細胞の整列を促していると見られる(40×;スケールバー=150μm)。
T25フラスコにおけるSMS細胞と(同じ由来の)線維芽細胞との共培養を示す。整列したSMS細胞が、これよりも大きな線維芽細胞の整列を促していると見られる(400×;スケールバー=15μm)。
ヘッジホッグアンタゴニストを使用した、SMS細胞からの細胞外基底膜の形成の促進を示す(左:100×;右:400×)。ヘッジホッグアンタゴニストによって細胞のシグナル伝達が制御されることから、様々な種類の細胞外マトリックスが大量に産生される。
膜状構造を有する細胞外マトリックスの形成の概要を示す。SMS細胞を培養することによって、ヒツジ骨髄から得られる細胞外マトリックスと同等の高度に組織化された細胞外マトリックス層が得られる。実験において、膜状構造を有する細胞外マトリックスの形成を誘導した。培養フラスコの底に、ほとんど細胞を含んでいない密な構造のECM層が形成される。ECM層を掻き取って剥離すると、水よりも密度が小さいことがわかった。ECM層を詳しく調べたところ、さらに3層に区別できることがわかった。第1層は、フラスコのプラスチック面と接した、細胞を含んでいない平滑な層であり、第2層も平滑な層であり、第3層は細胞を含み、粗面を有していた。異染性色素サフラニンを使用した分染法によって、第1層と第2層を明確に区別することができた。
主にコラーゲン線維からなる足場を使用したSMS細胞の初期培養(1~2週間)を示す。SMS細胞(矢印)は、ポリスチレン製の6ウェルプレートの底面でなく、コラーゲン線維に選択的に接着している(200×;スケールバー=30μm)。
6ウェルプレートにおいて主にコラーゲン線維からなる足場を使用したSMS細胞の後期培養(4週間)を示す。SMS細胞(矢印)は、コラーゲン線維に選択的に接着し、増殖し、分化して、細胞外マトリックスを形成する(200×;スケールバー=30μm)。
SMS細胞との共培養を行う前の、脱細胞化された骨足場を示す。
SMS細胞とともに3週間培養した後の、脱細胞化された骨足場を示す。分化したSMS細胞が骨表面に接着している(100×;スケールバー=60μm)。
SMS細胞とともに6週間培養した後の、脱細胞化された骨足場を示す。6週間後に、SMS細胞に由来する軟部組織の増殖が骨表面で観察される(40×;スケールバー=150μm)。
細管からなる多孔構造を有する、SMS細胞に由来した組織様構造を示す(200×;スケールバー=30μm)。
誘導培地を使用したSMS細胞培養に由来する、骨片によく似た足場のde novo形成を示す(200×;スケールバー=30μm)。
誘導培地を使用したSMS細胞培養に由来する、骨片によく似た足場のde novo形成を示す(400×;スケールバー=15μm)。
SMS細胞を含む末梢血成分のみを使用して作製した軟部組織を示す。この組織はゲル状の透明な組織から暗色の強固な組織に変化する。
SMS細胞を含む末梢血成分のみを使用して作製した軟部組織を示し、この軟部組織が細管構造を有することを示す(40×;スケールバー=150μm)。
トリクローム染色を使用した前記軟部組織の顕微鏡観察を示す。顕微鏡写真は、毛細血管様構造および脈管様構造が存在することを示しており、三次元方向への増殖、伸長および細管の融合がはっきりと示されている(40×;スケールバー=150μm)。
図25Aおよび図25Bは、ヒト臍帯血管内皮細胞(矢印)が、SMS細胞によって産生されたECM内に遊走することを示す(100×;スケールバー=50μm)。
図26A、図26Bおよび図26Cは、SMS細胞によって産生されたECM内でヒト臍帯血管内皮細胞(矢印)が活発に増殖することを示す(100×)。
図27Aおよび図27Bは、SMS細胞によって産生されたECM内でヒト臍帯血管内皮細胞が細管構造を形成することを示す(100×)。
図28A、図28Bおよび図28Cは、ヒト臍帯血管内皮細胞(矢印)が整列し、壁様構造を形成することを示す。SMS細胞によって産生されたECMの特徴的な組織化構造が、ヒト臍帯血管内皮細胞の整列のガイドとして機能したように見える。整列した内皮細胞(矢印)の境界の外側では、内皮細胞はほとんど見られない(両矢印)(図28Aおよび図28C:100×;図28B:200×)。
図29A~29Dは、ヒト臍帯血管内皮細胞によって形成された脈管が、SMS細胞由来ECM内に埋没した接着内皮細胞層に強固に固着していることを示す(図29A:200×;図29B:100×;図29C:200×;図29D:400×)。
図30Aおよび図30Bは、ヒト角化細胞がSMS由来ECMの表面に接着し、典型的なコンフルエント細胞層を形成したことを示す(図30A:100×;図30B:40×)。
図31Aおよび図31Bは、ヒト皮膚線維芽細胞(矢印)が、SMS細胞によって産生されたECM内に遊走することを示す(100×)。
図32Aおよび図32Bは、SMS細胞によって産生されたECM内でヒト皮膚線維芽細胞(矢印)が活発に増殖することを示す(100×)。
図33A、図33Bおよび図33Cは、神経細胞分化培地において分化誘導したSMS細胞を示す(図33A:200×;図33Bおよび図33C:400×)。
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照しながら本発明を説明する。別段の記載がない限り、図面中の類似の記号は、通常、類似の構成要素を示す。詳細な説明、図面および請求項に記載の実施形態は例示を目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではない。本明細書に記載の主題の要旨や範囲から逸脱することなく、その他の実施形態を採用してもよく、その他の変更を加えてもよい。本明細書に概説され、図面に示された本開示の態様は、様々な構成で配置、置換、合体、分離および設計することができることは容易に理解され、このような態様はいずれも明示的に本明細書に包含される。
SMS細胞は、運動性が高く、また、様々な体細胞や体組織などの様々に特殊化した系列への分化能が極めて高いことから、ユニークな幹細胞であると言える。このようなユニークな特性を有していることから、SMS細胞は基礎科学研究分野、薬理学分野および再生医療分野において多岐にわたる用途に使用できると期待される。また、SMS細胞株は、機能ゲノム研究、薬物スクリーニングおよび薬物探索を目的とした、ヒトの初期発生の分子生物学研究および細胞生物学研究に有用なインビトロモデルを提供することができる。SMS細胞株は、毒性や催奇形性のハイスループットスクリーニングに使用することもできる。SMS細胞は自己複製能および分化能を有することから、移植療法のための機能的に成熟した分化細胞または分化組織を得るための再生可能な供給源としても使用することができる。さらに、遺伝子治療において、遺伝子組換えされたSMS細胞を運搬手段として移植することによって標的器官に遺伝子を送達し、該標的器官において該遺伝子を発現させることもできる。重要なことに、SMS細胞は、様々な遺伝子産物を産生させることを目的として使用することができ、ECMタンパク質の産生にも有用である。
用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有すると見なされる。たとえば、Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994);Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Press (Cold Springs Harbor, NY 1989)を参照されたい。本発明の開示を目的として以下の用語を以下のように定義する。
本明細書において冠詞「a」または「an」は、該冠詞の文法上の目的語となる1つまたは複数の(たとえば少なくとも1つの)ものを指すために使用される。たとえば、「an element」は1つの構成要素または複数の構成要素を意味する。
「約」は、特定の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さが、対照としての数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さと比較して、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%の範囲で変動することを意味する。
本明細書を通して、別段の記載がない限り、「含む」(comprise、comprisesおよびcomprising)という用語は、記載の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を包含すると理解されるが、記載されているもの以外の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を除外するものではない。
「からなる」は、この用語の前に挙げられたもののみを含むことを意味する。したがって、「からなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示し、その他の構成要素は含まれていなくてもよいことを意味する。「本質的にからなる」は、この用語の前に挙げられた構成要素を含み、該構成要素の開示に関連して記載された活性または作用に対して阻害も寄与もしないその他の構成要素も含むことを意味する。したがって、「本質的にからなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示すが、その他の構成要素は任意であり、この用語の前に挙げられた構成要素の活性または作用に実質的な影響を与えるかどうかによって含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
いくつかの実施形態において、組成物中の任意の薬剤(たとえば抗体、ポリペプチド結合性薬剤)の「純度」は具体的に定義されていてもよい。たとえば、特定の組成物は、たとえば高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)(化合物を分離、同定かつ定量するために生化学分野および分析化学分野において頻繁に使用される公知のカラムクロマトグラフィーの一種)(ただしこれに限定されない)などによって測定した場合に、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の純度(各数値の間の小数値を含む)の薬剤を含んでいてもよい。
本明細書において「機能」や「機能的」などの用語は、生物学的機能、酵素的機能または治療的機能を指す。
「単離された」という用語は、天然の状態において通常含まれている成分が実質的または本質的に除去された材料を意味する。たとえば、本明細書において「単離されたポリヌクレオチド」は、天然の状態では該ポリヌクレオチドの両端に位置する配列から精製されたポリヌクレオチドを包含し、たとえば、特定のDNA断片から通常このDNA断片の両端に隣接する配列が除去されていることを意味する。あるいは、本明細書において「単離されたペプチド」または「単離されたポリペプチド」などの用語は、天然の細胞環境やその他の細胞成分との関わりから、該ペプチド分子または該ポリペプチド分子がインビトロで単離および/または精製されたことを包含し、たとえば、インビボで見られる物質と有意な関連性がないことを指す。
本開示の実施に当たって、別段の記載がない限り、当技術分野で従来公知の分子生物学的方法および組換えDNA技術が使用され、これらの方法の大部分は説明を目的として後述されている。このような技術は文献に詳述されている。たとえば、Sambrook, el al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd Edition, 2000);DNA Cloning: A Practical Approach, vol. 1 & II (D. Glover, ed.);Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, ed., 1984);Oligonucleotide Synthesis: Methods and Applications (P. Herdewijn, ed., 2004);Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, eds., 1985);Nucleic Acid Hybridization: Modern Applications (Buzdin and Lukyanov, eds., 2009);Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, eds., 1984);Animal Cell Culture (R. Freshney, ed., 1986);Freshney, R.I. (2005) Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique, 5th Ed. Hoboken NJ, John Wiley & Sons;B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (3rd Edition 2010);Farrell, R., RNA Methodologies: A Laboratory Guide for Isolation and Characterization (3rd Edition 2005)を参照されたい。
創傷治癒
「創傷」とは、生体成分の喪失を伴うことがある体組織の連続性の離断を意味し、一般に機械的損傷や物理的な細胞障害によって引き起こされる。創傷には、皮膚障害、熱傷、放射線損傷、日光皮膚炎、擦過創、裂創、切創、ただれ、刺創、貫通創、銃創および挫滅損傷が含まれる。また、創傷には、切断創、裂創、引っ掻き傷、擦過創、穿孔創、刺創、貫通創、挫滅創、鈍的外傷、挫傷などの機械的創傷が含まれていてもよい。また、創傷には、極端な熱や冷気の作用によって生じる熱傷および凍傷が含まれていてもよい。また、創傷には、特に酸やアルカリによる腐食のような、化学物質の作用によって生じる化学的損傷が含まれていてもよい。さらに、創傷には、たとえば紫外線および/または電離放射線などの化学線の照射によって生じる組織断裂または組織障害が含まれていてもよく、これらは放射線創傷と呼ばれる。創傷は、壊死創、感染創、慢性創傷、急性創傷のいずれであってもよい。
本明細書において「創傷治癒」は、創傷が損傷状態から回復することを指す。創傷発生後の最初の数時間の、潜伏期あるいは炎症期と呼ばれる第1期において、体液(特に血液)が漏出し、創傷の開放部から異物、病原菌および死組織が除去される。次いで、流出した血液が凝固し、外部からの病原菌や異物の侵入から創傷を保護する役割を果たす痂皮が形成される。痂皮が形成された後、潜伏期の次の段階として再吸収期が始まり、自己細胞による異物の消化が行われ、創傷組織へのマクロファージの遊走や、創傷の開放部に形成された凝血塊中の異物に対する食作用が見られる。創傷に侵入した異物や微生物はこの段階で分解され、軽度から中程度の炎症症状を伴うことがある。さらに、この再吸収期において、基底上皮および肉芽組織が形成され始める。通常、創傷発生から約1~3日後に潜伏期が終了し、増殖期あるいは肉芽形成期と呼ばれる第2期へと進む。この時期は通常、創傷発生後の4日目~7日目に見られる。この第2期において同化修復が始まり、線維芽細胞によるコラーゲンの形成が起こる。修復期あるいは上皮化期と呼ばれる最終段階が創傷発生後の約8日目から始まり、瘢痕組織が最終的に形成され、皮膚扁平上皮が新生される。形成された瘢痕組織は皮脂腺も汗腺も有しておらず、皮膚上で白色~乳白色を呈する。損傷を受けていない組織とは異なり、瘢痕組織中のコラーゲンは複雑に絡み合うことなく、平行に配列している。
「創傷治癒」についてのさらに詳しい情報は、Pschyrembel-Clinical Dictionary, 257th edition, 1994, Verlag de Gruyter, Berlin/New Yorkに記載されており、この文献は引用によりその全体が明示的に本明細書に援用される。
創傷治癒障害は疾患の経過で見られることのある主要な合併症の1つである。低酸素(酸素欠乏)、炎症、感染症、有害な活性酸素種(ROS)の生成による酸化ストレスなどの様々なプロセスによって効率的な創傷治癒が阻害される。創傷治癒過程は本質的に複雑なものであることから、治癒過程の遅延に関与する単一のパラメータを標的とした治療法の大部分では、その有効性は限定的である。
創傷治癒は、微生物感染によって正常なプロセスから逸脱する。様々な病原菌が創傷に感染する恐れがあり、それによって正常な治癒過程が悪影響を受ける。たとえば、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌などの様々な病原菌によって創傷感染が引き起こされる。微生物感染を緩和するために複数の抗生物質が開発されているが、様々な細菌株が耐性を獲得している。たとえば、黄色ブドウ球菌株の多くは、メチシリンやオキサシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質に対して耐性を獲得しており、グリコペプチド系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、キノロン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質などの、その他の様々な種類の抗生物質に対しても耐性を獲得している。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の創傷治癒製剤は、抗微生物性を有することから、創傷からの微生物の排除、創傷中の微生物の増殖の抑制、創傷中の微生物の増殖の阻害、または創傷中に存在しうる微生物の殺傷を行うことができる。
本明細書において「創傷治癒化合物」または「創傷治癒システム」は、創傷を治癒することができる化合物またはシステムを指す。創傷治癒化合物は抗微生物性を有することから、創傷から微生物を排除することができ、創傷表面の微生物の成長および増殖を阻害することができる。いくつかの実施形態において、前記創傷治癒化合物は創傷の治癒を加速させることができる。いくつかの実施形態において、前記創傷治癒化合物は、エアロゾル剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ペースト剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤、酒精剤、噴霧剤、液剤、塗布剤、血清製剤、ゲル剤、ローション剤、溶液剤などの形態の組成物として製剤化される。いくつかの実施形態において、前記製剤は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、吸収性創傷被覆材などの創傷被覆材に塗布される創傷治癒化合物を含むシステムとして構成される。本明細書に記載されているように、化合物は局所適用のために調製された局所製剤として製剤化してもよい。
幹細胞
本明細書において「幹細胞」は、ある特化した機能を有する別の細胞種(たとえば「完全に分化した」細胞)に、適切な条件下で分化することが可能であり、別の適切な条件下では、後述するように、未分化多能性または未分化万能性を維持したまま自己複製することが可能な細胞を指す。本明細書において「細胞」は、単一の細胞および細胞集団(たとえば2個以上の細胞を含む集団)を指す。細胞集団は、1種類の細胞のみを含む純粋な集団であってもよい。あるいは、細胞集団は2種以上の細胞を含んでいてもよい。幹細胞は、たとえば末梢血、臍帯血、骨髄、固形組織などから得られた小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞であることが好ましい。
本明細書において「SMS細胞」は、直径が約5μmの接着細胞であるという特徴を有する細胞または細胞集団を指す。SMS細胞は均一な大きさで、完全な放射対称であり、光学顕微鏡下では、コントラストが異なる球状体を中央に含む球状の核と半透明の細胞質とが観察される。さらに、SMS細胞は、低温や高温、標準的な増殖培地中での凍結融解、脱水、高pH、イオン強度の変動などの様々な非生理学的条件に対して極めて高い耐性を示す。さらに、SMS細胞は、最大で約1.5μm/秒という高い運動性を特徴とする。
本明細書において「細胞培養」または「培養細胞」は、人工のインビトロ環境中で維持、培養または増殖された細胞または組織を指す。これらの用語には、連続継代性細胞株(たとえば不死化表現型細胞株)、初代細胞培養、有限寿命細胞株(たとえば非形質転換細胞)、およびインビトロで維持されるその他の細胞集団が含まれる。これに関連して、初代細胞は、培養を経ずに、ヒトなどの動物の組織または器官から直接得られた細胞である。初代細胞は、例外はあるものの、通常、老化および/または増殖停止までにインビトロで最大10回にわたって継代することができる。
本明細書において「未分化」とは、細胞集団中に含まれる細胞およびこれに由来する細胞の大部分(少なくとも20%、場合によっては50%または80%を超える)が、胚または成体に由来する分化細胞と識別可能な、未分化細胞の形態学的特徴を示す培養細胞を指す。細胞数の少なくとも約50%を維持したまま、少なくとも3週間の培養期間中に少なくとも1回の集団倍加を経た場合、または同じ割合の細胞が、同じ培養期間後に未分化細胞に特徴的なマーカーまたは形態学的特徴を示す場合に、細胞は未分化な状態で増殖していると見なされる。
「維持」は、時として細胞数の増加を伴うことのある、細胞または細胞集団の生存の持続を意味する。「増殖」(proliferation、propagation、expansionおよびgrowth;これらの用語は互いに区別なく使用してもよい)は、細胞数の増加を指す。一実施形態によれば、この用語は、少なくとも6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、24週間、25週間、26週間、32週間、48週間、52週間、104週間もしくはそれ以上の期間、またはこれらの期間のいずれか2つよって定義される範囲内の期間にわたって、細胞が生存を維持することを指す。別の一実施形態では、少なくとも25代、26代、27代、28代、29代、30代もしくはそれ以上の継代数、またはこれらの継代数のいずれか2つによって定義される範囲内の継代数にわたって、細胞は生存を維持する。
本明細書において「細胞懸濁液」は、細胞の大部分が培地(通常、培養培地(培養系))中で自由に浮遊している状態の細胞培養を指し、細胞は、単一の細胞、細胞集塊および/または細胞凝集塊として浮遊している。換言すれば、細胞は、固体の基材または半固体の基材に接着することなく、培地中で生存を維持し増殖する。本明細書において「接着細胞」は、基材または表面に接着している細胞または細胞集団を指す。
本明細書において「培養系」は、SMS細胞またはこれに由来する体細胞の維持および増殖を支持するための培養条件、ならびに未分化のSMS細胞または分化したSMS細胞の分化誘導および増殖を支持するための選択された条件を指す。この用語は、基礎培地(塩、糖およびアミノ酸を含む所定の組成の基礎溶液を通常含む細胞培養培地)や、血清代替添加物などを含む構成成分の組み合わせを示す。培養系はさらに、細胞外マトリックス(ECM)成分、さらなる血清または血清代替物、培養(栄養)培地、およびその他の外部添加因子などの構成成分を含んでいてもよいが、培養系の構成成分はこれらに限定されず、これらの構成成分は共同して、SMS細胞の増殖、細胞培養の維持、細胞の分化、様々な分子の発現を支持する適切な条件を提供する。これに関連して、「培養系」は、該培養系において培養された細胞を包含する。
本明細書において「細胞外マトリックス(ECM)」は、細胞によって分泌されるタンパク質および多糖類の複雑なネットワークからなる細胞外成分である。SMS由来ECMとは、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞によって産生されたECMを指す。本明細書で提供される実施形態のいくつかは、SMS由来ECMの製造方法に関する。本明細書に記載の実施形態のいくつかは、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの細胞を、SMS由来ECMとともに培養する方法に関する。いくつかの実施形態において、たとえば内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの前記培養細胞は、SMS由来ECMと相互作用する。いくつかの実施形態において、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの前記培養細胞は、SMS由来ECM内に遊走する。いくつかの実施形態において、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの前記培養細胞は、SMS由来ECM内で増殖する。いくつかの実施形態において、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの前記培養細胞は、SMS由来ECM上に接着層を形成する。いくつかの実施形態において、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの前記培養細胞は、SMS由来ECM上で安定な複合体または安定な結合を形成する。いくつかの実施形態において、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、その他の細胞などの前記培養細胞は、SMS由来ECM上で長期間にわたって生存を維持し、たとえば、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年間またはこれよりも長い期間にわたって生存を維持する。
いくつかの実施形態において、前記培養細胞(たとえば内皮細胞など)は、前記SMS細胞から得られたECM上において細管または脈管構造を形成する。本明細書で提供されるいくつかの実施形態は、前記SMS細胞から得られたECMにおける細管または脈管構造の形成を抑制または促進する1種以上の薬剤または化合物の効果を測定する方法に関する。いくつかの実施形態において、SMS由来ECMとの相互作用によって内皮細胞から形成された細管または脈管構造を、血管新生または動脈新生を抑制または促進する1種以上の薬剤または化合物と接触させる。いくつかの実施形態において、前記SMS細胞から得られたECMと接触させた細胞(たとえば内皮細胞集団など)による血管新生または動脈新生の抑制または促進を、1種以上の薬剤または化合物を投与せずに前記SMS細胞由来ECM上で培養したコントロール細胞集団(たとえばコントロール内皮細胞集団など)と比較することによって、前記SMS細胞由来ECMと接触させた前記細胞(たとえば内皮細胞など)による血管新生または動脈新生を抑制または促進するための前記1種以上の薬剤または化合物の効果を測定する。いくつかの実施形態において、前記血管新生または動脈新生の抑制または促進は、脈管の成長の程度および/または脈管形成の質を測定し、これらの特性を、前記1種以上の薬剤を投与していないコントロール試料と比較することによって判断する。
本開示は、未分化SMS細胞を未分化多能性または未分化万能性の状態で維持可能な培養系において、未分化SMS細胞を維持するための、好ましくは増殖させるための培養系および方法に関する。本明細書で提供されるこの培養系は、未分化の幹細胞をラージスケールで長期間にわたり維持するのに特に適していることが判明している。
「細胞外マトリックス」は当技術分野でよく知られている。細胞外マトリックスの成分としては、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、トロンボスポンジン、エラスチン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリリン、メロシン、anchorin、コンドロネクチン、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、undulin、エピリグリンおよび/またはカリニンのうちの1種以上のタンパク質が挙げられる。「細胞外マトリックス」は、今後見出される可能性のある現在未知の細胞外マトリックスも包含し、当業者であれば、このような現在未知の細胞外マトリックスを細胞外マトリックスとして容易に特定することができる。
本明細書において「遺伝子産物」は、細胞または細胞集団にトランスフェクトされる遺伝子産物を指す。たとえば、成長因子、サイトカイン、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、酵素、タンパク質断片または細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質をコードする遺伝子をトランスフェクトすることができる。具体的には、たとえば、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、インスリン、副甲状腺ホルモン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、ゼラチン、フィブリリン、メロシン、anchorin、コンドロネクチン、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、undulin、エピリグリン、カリニン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲンおよび/もしくはエンタクチンもしくはこれらのバリアントならびに/またはこれらの組み合わせをコードする遺伝子をトランスフェクトすることができる。
本明細書において「細胞マーカー」は、特定の細胞を特徴付けることが可能な表現型特性、または他の種類の細胞から特定の細胞を識別することが可能な表現型特性を指す。マーカーは、タンパク質(分泌タンパク質、細胞表面タンパク質、内部タンパク質など;細胞によって合成されたタンパク質または細胞内に取り込まれたタンパク質)、核酸(mRNAや、酵素活性を有する核酸分子など)、多糖類のいずれであってもよい。前記マーカーには、目的の細胞種に特異的な抗体、レクチン、プローブ、または核酸増幅反応によって検出可能な、前述のような細胞成分の決定因子も含まれる。また、遺伝子産物の機能に基づく生化学的アッセイまたは酵素アッセイによってこれらのマーカーを同定することもできる。転写産物をコードする遺伝子およびマーカーの発現を引き起こす事象も各マーカーと関連している。マーカーが、(抗体またはPCRアッセイを使用して測定された遺伝子産物の総量として)少なくとも5倍の発現量または(細胞集団中の陽性細胞の頻度として)5倍の頻度で発現されている場合に、未分化細胞集団または分化細胞集団においてマーカーが差次的に発現されていると見なされる。10倍、100倍または10,000倍というようにマーカーの発現量または頻度が高くなればなるほどより好ましい。
小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞は、T25フラスコに入れた増殖培地中で(たとえば37℃、5%CO2の条件のインキュベーター内で)簡便に培養することができる。このようにして培養されたSMS細胞集団は、未分化SMS細胞とSMSから分化した細胞とからなる不均一細胞集団を含んでいることがある。未分化SMS細胞は浮遊分画および接着分画として存在し、浮遊分画の大部分は未分化SMS細胞が占める(たとえば50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上を未分化SMS細胞が占め、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量を未分化SMS細胞が占める)。したがって、いくつかの態様は、未分化の非接着SMS細胞の懸濁液に関し、好ましくは、細胞接着が阻害されるような方法(たとえばポリプロピレン製のベッセルまたはフラスコ)を使用して、液体培地中で培養された未分化の非接着SMS細胞の懸濁液に関する。いくつかの態様において、未分化の浮遊SMS細胞集団は、浮遊分画の50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上を占め、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量を占める。
未分化SMS細胞は分画遠心法によって単離または精製することができる。まず低速で遠心分離して細胞塊または分化細胞を除去し、次いで高速で遠心分離して未分化SMS細胞を回収する。別の方法として、濾過によって未分化SMS細胞を単離してもよく、たとえば、フィルターの孔径を3~5μmまで徐々に小さくしていく分別濾過によって単離してもよい。別の方法として、未分化SMS細胞を、免疫結合(たとえばSMS細胞上の幹細胞受容体に特異的な結合パートナーを使用し、該結合パートナー(抗体など)がビーズ(磁気ビーズなど)に結合されていたり、あるいはFACSセルソーティングによって検出されるもの)や、フィルターの孔径を3~5μmまで徐々に小さくしていく分別濾過によって単離してもよい。未分化SMS細胞を単離した後、顕微鏡下で未分化SMS細胞の均一性を確認する。前述の単離プロトコルの1つ以上を実施する前に未分化SMS細胞を少なくとも25代まで継代培養することによって(たとえば、25代、26代、27代、28代、29代、30代、31代、32代、33代、34代、35代、36代、37代、38代、39代もしくは40代、またはこれらの継代数のいずれか2つによって定義される範囲内の継代数まで継代培養することによって)、均一性の高いSMS細胞集団を得ることができる。
SMS細胞は、分化誘導化合物(たとえばインスリン)を添加または非添加の、様々な種類の血清含有培地または無血清培地を使用して増殖させることができる。週に1回、4200×gで15分間遠心分離してSMS細胞を沈殿させ、細胞増殖培地を交換する。遠心分離の速度は、3000×g、3500×g、4000×g、4100×g、4200×g、4300×g、4500×gまたは5000×gに変更してもよく、これらの速度のいずれか2つによって定義される範囲内の速度で遠心分離を行ってもよく、これに応じて遠心時間を調整する。このような条件下では、培地の量(細胞の密集度)によってSMS細胞の増殖が制限される。SMS細胞の均一性は顕微鏡下で評価し、SMS細胞の細胞数は、懸濁液の混濁度を分光光度計で測定することによって評価するか、かつ/または高速遠心分離後にペレットの大きさを測定することによって評価する。SMS細胞を懸濁培養することによって、増殖培地を入れた新たなチューブに該細胞を分取および/または移動することが容易となり、培養細胞の移動およびクローニングが容易となる。また、既存の培養から新たな培養へと培養細胞を分取および/または移動させるこの方法は、培養ディッシュまたは基底細胞層から細胞を剥離するための酵素(たとえばトリプシン)を使用せずに行われる。SMS細胞の大部分は細胞塊を形成することなく個々の細胞として増殖し、懸濁液中のSMS細胞は、細胞の移動操作が行われるにもかかわらず、未分化な状態のまま維持可能である。また、懸濁培養はスケールアップすることができ、培地の量を増加することによって得られる細胞の数を増やすことができる。
SMS細胞は、たとえば脂肪細胞前駆細胞、神経細胞前駆細胞、骨細胞前駆細胞などの様々な細胞へと分化誘導することができる。SMS細胞をコンフルエントまで増殖させた後、適切な誘導培地中で培養する。該誘導培地には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチン、インドメタシンまたはこれらの組み合わせが含まれていてもよい。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質の添加量は、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%もしくは10%、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量であってもよい。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質の添加量は、0.0001mM、0.0005mM、0.001mM、0.005mM、0.01mM、0.02mM、0.03mM、0.04mM、0.05mM、0.06mM、0.07mM、0.08mM、0.09mM、0.1mM、0.2mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.8mM、0.9mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mMもしくは10mM、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量であってもよい。いくつかの実施形態において、前記誘導培地に血清は含まれていない。したがって、いくつかの実施形態において、前記誘導培地は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチンまたはインドメタシンの1種以上を含むが、血清は含んでいない。
単一の理論に拘束されることを望むものではないが、いくつかの実施形態において、化学誘導物質として使用されるDMSOは、別の化合物のSMS細胞への到達を促す誘導物質として作用すると考えられる。また、単一の理論に拘束されることを望むものではないが、いくつかの実施形態において、β-メルカプトエタノールはSH基を減少させる作用があると考えられる。
いくつかの実施形態において、SMS細胞から分化した細胞は特異的なマーカーを発現する(たとえば、脂肪細胞前駆細胞は脂肪細胞前駆細胞に特異的なマーカーを発現し;神経細胞前駆細胞は神経細胞前駆細胞に特異的なマーカーを発現し;骨細胞前駆細胞は骨細胞前駆細胞に特異的なマーカーを発現する)。いくつかの実施形態において、脂肪細胞に分化したSMS細胞は、CD44、インテグリン、ICAM-1/CD54、その他の脂肪細胞分化マーカーなどの、脂肪細胞に特異的なマーカーを発現する。いくつかの実施形態において、神経細胞に分化したSMS細胞は、ダブルコルチンドメイン含有タンパク質2C(DCDC2)、ケラチン関連タンパク質(KRTAP)5-1、ネスチン、SOX2、ABCG2、FGF R4、frizzled-9、NCAM、Musashi-1、神経特異的クラスIIIβ-チューブリン、微小管関連タンパク質2、ニューロン特異的エノラーゼ、カルレチニン、チロシンヒドロキシラーゼ、コリンアセチルトランスフェラーゼ、カルビンジン、neuronal nuclei抗原、GABA、その他の神経細胞分化マーカーなどの、神経細胞に特異的なマーカーを発現する。いくつかの実施形態において、骨細胞前駆細胞に分化したSMS細胞は、アルカリホスファターゼ、Runt関連転写因子2、アネキシンA1および/またはA5、コリントランスポーター様タンパク質1、オステオカルシン、その他の骨細胞前駆細胞分化マーカーなどの、骨細胞に特異的なマーカーを発現する。
未分化のSMS細胞は、様々な治療方法、タンパク質の製造方法、創薬方法および診断方法に使用することができる。SMS細胞の機能は、様々な分化誘導培地を使用して、SMS細胞の分化能を試験することによって評価される。天然または遺伝子組換えのSMS細胞を使用して、様々な低分子化合物または高分子化合物を製造することができ、たとえば、成長因子や細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質を製造することができるが、製造できるものはこれらに限定されない。また、SMS細胞は、分化誘導によって別の細胞を作製するため、または組織、組織様構造、オルガノイドもしくは器官を形成するために使用することができる。さらに、SMS細胞は、3Dプリンティング(3Dバイオプリンティング)を使用して空間制御された細胞パターンを製造する方法のための基材として使用することができる。この方法は、本明細書に記載のSMS細胞と3Dバイオプリンタとを使用して実施することができ、3Dバイオプリンタとしては、たとえば、BioBot1(登録商標)、3D-Bioplotter(登録商標)、3DS Alpha(登録商標)、3Dynamic Omega(登録商標)などが挙げられる。さらに、(GFPなどのマーカーを含む)遺伝子組換えSMS細胞を使用して、細胞間相互作用、分化およびその他の細胞関連活性を追跡することができる。
いくつかの実施形態において、SMS細胞はタンパク質の製造に使用される。いくつかの実施形態において、懸濁培養されたSMS細胞からタンパク質が差次的に発現されるようにSMS細胞を誘導する。SMS細胞を培養する際の懸濁液の量は、0.001L、0.005L、0.010L、0.05L、0.1L、0.2L、0.3L、0.4L、0.5L、0.6L、0.7L、0.8L、0.9L、1L、2L、3L、4L、5L、6L、7L、8L、9L、10L、15L、20L、30L、40L、50L、60L、70L、80L、90L、100L、150L、200L、250L、300L、350L、400L、450L、500L、600L、700L、800L、900Lもしくは1000L、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量であってもよい。いくつかの実施形態において、SMS細胞は、0.001L~1000Lの容量のバイオリアクターで培養される。いくつかの実施形態において、SMS細胞が培養されるバイオリアクターの容量は、0.001L、0.005L、0.010L、0.05L、0.1L、0.2L、0.3L、0.4L、0.5L、0.6L、0.7L、0.8L、0.9L、1L、2L、3L、4L、5L、6L、7L、8L、9L、10L、15L、20L、30L、40L、50L、60L、70L、80L、90L、100L、150L、200L、250L、300L、350L、400L、450L、500L、600L、700L、800L、900Lもしくは1000L、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の容量である。いくつかの実施形態において、SMS細胞はWAVEバイオリアクターで培養される。本明細書において「容器」はSMS細胞を培養するための容器を指し、バイオリアクター、培養ベッセル、フラスコ、試験管、ディッシュ、細胞培養物を培養可能なその他のベッセルなどが挙げられる。
いくつかの実施形態において、前記培養ベッセルによって、懸濁液中のSMS細胞の増殖が促進される。いくつかの実施形態において、前記培養ベッセルは、ポリプロピレン製ベッセル、前処理されたシリコーン加工ベッセル、培養物中のSMS細胞の増殖を促進可能なその他のベッセル、または培養物中のSMS細胞の増殖を促進するように構成されたベッセルである。いくつかの実施形態において、前記培養ベッセルによって、細胞接着が促進される。
いくつかの実施形態において、SMS細胞は、SMS細胞の濃度の増加、タンパク質の産生の増加またはこれらの両方を誘導可能な1種以上の化学誘導物質の存在下で培養される。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシアニソール、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、デキサメタゾン、β-グリセロリン酸塩、ジメチルスルホキシド、インスリン、イソブチルメチルキサンチンおよびインドメタシンの1種以上を含む。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質の添加量は、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%もしくは10%、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量であってもよい。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質の添加量は、0.0001mM、0.0005mM、0.001mM、0.005mM、0.01mM、0.02mM、0.03mM、0.04mM、0.05mM、0.06mM、0.07mM、0.08mM、0.09mM、0.1mM、0.2mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.8mM、0.9mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mMもしくは10mM、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量であってもよい。いくつかの実施形態において、前記誘導培地に血清は含まれていない。
いくつかの実施形態において、懸濁液中においてSMS細胞を前記1種以上の化学誘導物質で誘導することによって、前記1種以上の誘導物質の非存在下で培養したSMS細胞と比較して、SMS細胞の濃度が増加する。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質で誘導したSMS細胞の濃度は、前記1種以上の化学誘導物質の非存在下で培養したSMS細胞コントロール集団と比較して、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%以上、150%以上、200%以上、300%以上、400%以上もしくは500%以上増加し、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の割合で増加する。いくつかの実施形態において、前記1種以上の化学誘導物質で誘導したSMS細胞の濃度は、前記1種以上の化学誘導物質の非存在下で培養したSMS細胞コントロール集団と比較して、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍もしくは10倍増加し、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の倍率で増加する。
いくつかの実施形態において、SMS細胞は、1種以上のタンパク質の産生を誘導する1種以上の化学誘導物質の存在下で培養される。いくつかの実施形態において、SMS細胞から産生が誘導される1種以上のタンパク質としては、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、骨形成タンパク質1(BMP-1)、ビトロネクチン、acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member A(ANP32A)、カルシニューリン様ホスホエステラーゼ、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、β-エノラーゼ、fermitin family homolog 1、微小管関連タンパク質RP/EB(MAPRE1)、熱ショックタンパク質、LIM and senescent cell antigen-like-containing domain protein 1(LIMS1)、ミオシン調節タンパク質、プロフィリン-1、グリコーゲンホスホリラーゼ、フラビンレダクターゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、チューブリン、細胞内クロライドチャネルタンパク質、wings apart-like protein homolog(WAPAL)、cell division control protein、オステオポンチン、BPI fold-containing、伸長因子、プラスミノゲン、アルド-ケトレダクターゼおよびケラチンの1種以上が挙げられる。
いくつかの実施形態において、培養物中のSMS細胞から産生が誘導された1種以上のタンパク質は、次いで濃縮、単離および/または精製される。いくつかの実施形態において、濃縮、単離および/または精製される前記タンパク質は、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、骨形成タンパク質1(BMP-1)、ビトロネクチン、acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member A(ANP32A)、カルシニューリン様ホスホエステラーゼ、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、β-エノラーゼ、fermitin family homolog 1、微小管関連タンパク質RP/EB(MAPRE1)、熱ショックタンパク質、LIM and senescent cell antigen-like-containing domain protein 1(LIMS1)、ミオシン調節タンパク質、プロフィリン-1、グリコーゲンホスホリラーゼ、フラビンレダクターゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、チューブリン、細胞内クロライドチャネルタンパク質、wings apart-like protein homolog(WAPAL)、cell division control protein、オステオポンチン、BPI fold-containing、伸長因子、プラスミノゲン、アルド-ケトレダクターゼおよびケラチンの1種以上である。いくつかの実施形態において、1種以上のタンパク質の産生はラージスケールで行ってもよく、たとえば1L以上の量で行ってもよく、1L以上、2L以上、3L以上、4L以上、5L以上、6L以上、7L以上、8L以上、9L以上、10L以上、20L以上、30L以上、40L以上、50L以上、100L以上、150L以上、200L以上、250L以上、300L以上、350L以上、400L以上、450L以上、500L以上、600L以上、700L以上、800L以上、900L以上もしくは1000L以上、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量で行ってもよい。
いくつかの実施形態において、SMS細胞は、該SMS細胞の巨大化を促進する培地中で培養される。いくつかの実施形態において、SMS細胞の巨大化を促進する培地としてMesenPRO基礎培地が挙げられる。いくつかの実施形態において、巨大化したSMS細胞は表面に接着する。いくつかの実施形態において、巨大化したSMS細胞は形態変化を遂げる。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、SMS細胞を懸濁状態のまま、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の産生に利用する。いくつかの実施形態において、ECMタンパク質をコードする遺伝子で(懸濁状態または接着状態の)SMS細胞を形質転換する。SMS細胞(ECMタンパク質をコードする遺伝子で形質転換されたSMS細胞または天然のSMS細胞)は懸濁培養することができ、好ましくは未分化な状態で維持される。SMS細胞を数代継代することによって、未分化SMS細胞の均一な集団を懸濁状態で得ることができる(たとえば50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上を未分化SMS細胞が占め、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量を未分化SMS細胞が占める)。ECMタンパク質の産生を促す化学誘導物質(たとえばヘッジホッグ阻害剤および/またはTGF/BMP活性化因子)を培養物に添加し、懸濁液中に産生されたECMを(たとえば濾過、遠心分離または免疫結合によって)回収する。同様に、本明細書に記載の接着状態のSMS細胞を使用してECMを産生させることもできる。この態様では、SMS細胞(ECMタンパク質をコードする遺伝子で形質転換されたSMS細胞または天然のSMS細胞)を、T25フラスコまたはプレート(たとえばポリスチレン製;物理的な誘導因子としての表面刺激)に播種し、接着細胞を数代にわたり継代培養することによって、未分化SMS細胞の均一な集団を懸濁状態で得ることができる(たとえば50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上を未分化SMS細胞が占め、またはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲内の量を未分化SMS細胞が占める)。所望の均一性が得られた後、たとえばヘッジホッグ阻害剤および/またはTGF/BMP活性化因子などの、ECMの産生を促す化学誘導物質を培地に添加する。その後、懸濁液中に産生されたECMを(たとえば濾過、遠心分離または免疫結合によって)回収する。約2週後に浮遊状態のECMを高速遠心分離で回収することが好ましい。接着状態のECMもほぼ同時期に、フラスコまたはディッシュの底から掻き取って回収することができる。
いくつかの実施形態において、SMS由来ECMは、1種以上の抗微生物化合物を産生するものであるか、あるいはSMS由来ECMタンパク質自体が、抗細菌特性、抗ウイルス特性、抗真菌特性などの抗微生物特性を有している。いくつかの実施形態において、SMS細胞によって産生される前記抗微生物化合物または抗微生物特性を有する前記ECMタンパク質は、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12または膵リボヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、SMS細胞は、抗微生物化合物を自己産生することから、抗生物質の非存在下で培養してもよい。
本明細書に記載の実施形態のいくつかは、SMS細胞の培養物から得られる1種以上のECMタンパク質を含む組成物に関する。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は改変されたものである。いくつかの実施形態において、前記改変されたECMタンパク質は、変性、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化および/またはユビキチン化によって改変されたものである。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は、アグリン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1(microtubule-actin cross-linking factor 1)、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン-1、ネスプリン-2、ネスプリン-3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、トータルタンパク質および/または前記1種以上のタンパク質の断片のうちの1種以上を含む。いくつかの実施形態において、前記1種以上のECMタンパク質は、たとえばコレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、膵リボヌクレアーゼなどの、微生物の増殖を抑制する化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される。いくつかの実施形態において、前記組成物を創傷被覆材に塗布することによって創傷治癒システムが得られる。いくつかの実施形態において、前記創傷被覆材は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏または吸収性創傷被覆材である。
いくつかの実施形態において、SMS由来ECMは、懸濁培養されたSMS細胞から得られる。いくつかの実施形態において、SMS由来ECMは、懸濁培養されたSMS細胞から得られる。いくつかの実施形態において、SMS由来ECMとともに様々な細胞を培養し、該細胞をSMS由来ECMと相互作用させる。いくつかの実施形態において、SMS由来ECMの存在下で内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞などの細胞を培養し、かつ/またはこれらの細胞をSMS由来ECMと相互作用させる。
いくつかの実施形態において、SMS由来ECMとともに内皮細胞を培養し、該内皮細胞をSMS由来ECMと相互作用させる。いくつかの実施形態において、前記内皮細胞は、前記SMS由来ECM内へと遊走する(図25Aおよび図25B)。いくつかの実施形態において、前記内皮細胞はSMS由来ECMx内で活発に増殖する(図26A~図26C)。いくつかの実施形態において、内皮細胞は細管に分化し、その状態で、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年間もしくはこれ以上の期間、またはこれらの期間のいずれか2つによって定義される範囲内の期間にわたって生存が維持される(図27Aおよび図27B)。いくつかの実施形態において、前記内皮細胞は、整列したSMS細胞の縁に沿って一時的に整列し、整列した細胞の一方の境界と他方の境界の内側には内皮細胞はほとんど見られない。内皮細胞がほとんど存在しないこの部分は比較的大きな細管(脈管)構造の痕跡である(図28A~図28C)。
いくつかの実施形態において、SMS由来ECMとともに角化細胞を培養し、該角化細胞をSMS由来ECMと相互作用させる。いくつかの実施形態において、角化細胞はSMS由来ECM上に接着層を形成する(図30Aおよび図30B)。いくつかの実施形態において、SMS由来ECM上に形成されたこの角化細胞構造は安定な状態のまま、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年間もしくはこれ以上の期間、またはこれらの期間のいずれか2つによって定義される範囲内の期間にわたって維持された。
いくつかの実施形態において、SMS由来ECMとともに線維芽細胞を培養し、該線維芽細胞をSMS由来ECMと相互作用させる。いくつかの実施形態において、前記線維芽細胞は、前記SMS由来ECM内へと遊走する(図31Aおよび図31B)。いくつかの実施形態において、線維芽細胞はECM内へと遊走し、該ECM内で増殖する(図32Aおよび図32B)。いくつかの実施形態において、線維芽細胞は数日間でコンフルエントに達する。いくつかの実施形態において、線維芽細胞はSMS由来ECM内でその生存が、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年間もしくはこれ以上の期間、またはこれらの期間のいずれか2つによって定義される範囲内の期間にわたって維持された。
いくつかの態様において、前記ECMは、(たとえば化学的方法、物理的方法および/または酵素的方法を使用して)脱細胞化される。脱細胞化方法は、ECM足場の構造統合性および化学的統合性を維持したまま脱細胞化できる方法であることが好ましい。さらに、SMS由来ECMの様々な分子成分を濃縮または単離することができる。SMS細胞のインビトロ培養から得られたECMは、様々な器官の様々な組織に由来するECMと類似あるいは同一と見なすことができる。前述のSMS細胞によって産生されたECMを凍結乾燥して粉末化し、そのまま保存してもよい。粉末形態またはその他の形態のECMは、各種用途に使用することができ、たとえば、インビトロにおける細胞増殖または細胞分化の促進(たとえば3D細胞培養を目的としたもの)や、インビボにおける細胞増殖または細胞分化の促進(たとえば創傷治癒の促進を目的としたもの)(または腫瘍の増殖の抑制を目的としたもの)に使用することができる。
いくつかの態様において、足場上で培養したSMS細胞からECMが産生される。SMS細胞は、適切な増殖培地(たとえば血清含有DMEMや無血清DMEM)中において様々な足場(たとえば、脱細胞化された天然の骨;脱細胞化された軟らかいコラーゲン;活性炭、カーボンブラック、炭素膜、炭素繊維布帛、ナノチューブもしくはマイクロチューブ、または炭素から構成された医療器具もしくはインプラント(ステントやシャントなど)などの炭素系支持体)上で培養される。いくつかの態様において、このような支持体は増殖培地中で自由に浮遊するものである。また、分化誘導化合物を添加してもよい。顕微鏡観察では、分化したSMS細胞が劇的な形態変化を遂げることが示されるが、このSMS細胞の分化は足場の特性および/または添加される化合物の種類に左右される。また、SMS細胞の接着、増殖および分化は、培地の種類の影響も受ける。SMS細胞およびこの細胞から分化した細胞は、足場に接着した状態の細胞外マトリックスおよび組織様構造を産生する。
SMS細胞を含む産生されたECMおよび組織様構造、またはSMS細胞から産生されたECMおよび組織様構造は、様々な細管構造が形成されていることから、高度に多孔性であり、よって、細胞に栄養分を供給するのに有利である。足場に接着したSMS細胞および分化細胞は培地中(5%CO2下、37℃)で何ヶ月にもわたって生存可能である。様々な足場に接着させた状態の、SMS細胞、この細胞から分化した細胞、SMSによって産生されたECMおよびこれらからなる構造物は、埋植された足場の生体適合性を向上させ、かつ埋植された足場による治癒プロセスを短縮するために使用することができる。
さらに、SMS細胞を使用して、構造化された足場をde novo形成させることができる。SMS細胞は、インビトロ細胞培養において、秩序正しく位置し組織化する傾向がある。適切な分子で誘導されたSMS細胞は、高度に構造化された足場を形成し、適切な幾何学的形状を備えた立体物を形成することができる。いくつかの態様において、懸濁液中で増殖させたSMS細胞を、ポリスチレン製プレートに入れた誘導培地中で培養する。2週に1回培地を添加して約3週間にわたって培養すると、様々な形態の様々な足場が形成される。したがって、本発明の態様は、SMS細胞から形成された3次元構造体に関する(たとえば、足場の存在下または非存在下で懸濁培養されたSMS細胞であり、該足場として、たとえば、活性炭、カーボンブラック、炭素膜、炭素繊維布帛、ナノチューブもしくはマイクロチューブ、または炭素から構成された医療器具もしくはインプラント(ステントやシャント)などの炭素系足場などが挙げられる)。
いくつかの態様は、末梢血からの軟部組織培養物の作製に関する。この方法では、末梢血(抗擬固剤としてACDを含む)を低速で遠心分離し、上清を除去する。SMS細胞をペレットに加え、適切なベッセル(たとえばプレートやフラスコなど)に入れた増殖培地中でこの混合物を培養する。ベッセルの底にSMS細胞を含むゲルが形成される。このゲルには白血球および赤血球が含まれる。フラスコからゲルを回収し、(たとえばハンクス緩衝液で2回)洗浄し、(たとえば-20℃または-70℃で)凍結することができる。数日後に、凍結したゲルを冷凍庫から取り出し解凍することができる。リン酸緩衝液(PBS)を使用して、解凍したゲルを数回洗浄し、白血球および赤血球の大部分を除去することができる。白血球および赤血球は、凍結/解凍サイクルによって破壊されるが、SMS細胞は影響を受けない。したがって、いくつかの態様は、SMS細胞、白血球および赤血球を含むゲルと、生体内インプラントとしてのこのゲルの使用とを含む。埋植されるゲルは、インプラントのレシピエントとなる対象の末梢血から調製された自己由来ゲルであることが好ましい。また、ゲルは、標準的な条件において増殖培地中で培養することができ、時間が経つにつれてゲルは徐々に強固さを増し、さらに組織に近い構造を形成する。形成された組織様構造が組織化され、この組織化された構造は細管様構造および毛細血管様構造を有する。
いくつかの態様において、SMS細胞を様々な基材または表面上で増殖させることもできる。SMS細胞は、たとえばフラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターなどで培養することできる。この際、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターの表面に、幾何学的形状のエッチングをあらかじめ施しておくことができる。これらの基材の表面は、たとえば所望の幾何学的形状が形成されるように、化学的処理または物理的処理で前処理してもよく、たとえば、ホウケイ酸塩、機械的研磨、ブラスト加工、炭化ケイ素、溶剤、酸、陽極酸化処理、炭素膜コーティング(たとば炭素蒸着など)などを使用してもよい。このような前処理によって、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターなどのベッセルの表面上に幾何学的形状を形成したり、多孔性を高めたりすることができる。幾何学的形状としては、たとえば、線状、曲線状、網状、溝状、隆起状またはその他の形状の1つ以上を挙げることができる。前処理されたフラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに播種または導入されたSMS細胞は、設けられた幾何学的形状を増殖の際の組織化のためのガイドとして利用し、この幾何学的形状に沿って組織化する。
いくつかの態様において、SMS細胞はマイクロ流体デバイスに導入される。SMS細胞(およびこの細胞から分化した細胞)をlab-on-a-chipデバイスに導入する(lab-on-a-chipデバイスとは、たとえば、実験室で行われる1つ以上の操作を1枚のチップに組み込んだデバイスであり、中空のマイクロ流路内で粒子を扱うものである)。いくつかの態様において、SMS細胞はデバイス(たとえば、器官全体または器官系の活性、機構および生理反応を模擬したマルチチャネルの3Dマイクロ流体細胞培養チップ)中で使用され、薬物もしくは医薬品または治療プロトコルの影響の評価に利用される。したがって、いくつかの方法では、SMS細胞をマイクロ流体デバイスに導入し、次いで薬物または医薬品を該マイクロ流体デバイスに導入して、SMS細胞を薬物または医薬品と接触させる。SMS細胞の生理的変化または形態学的変化を評価することができる。いくつかの態様では、評価対象を特定し、該対象の末梢血からSMS細胞を単離し、たとえば、該SMS細胞が化合物、薬物、医薬品または治療プロトコルと接触するように、マイクロ流体デバイスに該SMS細胞を導入し、次いで該デバイスに化合物、薬物、医薬品または治療プロトコルを導入することなどによって、SMS細胞を化合物、薬物、医薬品または治療プロトコルと接触させる。化合物、薬物、医薬品または治療と接触させる前、接触中および/または接触後の、SMS細胞の生理的評価および/または形態学的評価および/または診断的評価を行うことができる。
柔軟性および回復力を備えたSMS細胞によって、(特に有効期間および費用、分化誘導性、特定の分子の作製の点において)マイクロ流体チップの利用がより容易となる。SMS細胞をマイクロ流体回路に導入し、未分化の形態(柔軟性および回復力を備えた形態)のまま保存した後、特定の機能または分化を誘導してもよく、このような誘導は、設計された流路内のSMS細胞の位置に依存して選択的に行われてもよく、チップ内のいわゆる「チャンバー」と呼ばれる特定の区画に閉じ込められた細胞に、選択的な化学誘導物質またはその他の局所的な誘導因子(温度、表面構造、圧力など)を作用させ、選択された位置で細胞を変化させて所望の機能を誘導し、その位置において使用してもよい。
本発明の様々な実施形態を説明するため、本明細書では概して肯定的な記載により本発明を開示している。本発明は、成分または材料、方法の工程および条件、プロトコルまたは操作などの要素が一部または完全に除外された実施形態も包含する。
前述した本発明の実施形態の態様のいくつかを、以下の実施例においてさらに詳細に開示するが、以下の実施例は本発明の開示の範囲をなんら限定するものではない。詳細な説明および請求項に記載されているように、その他の多くの実施形態も本発明の範囲内に含まれることを、当業者であれば十分に理解できるであろう。
実施例1
分化を阻止したSMS細胞の懸濁培養
以下の実施例では、SMS細胞を未分化な状態で長期間にわたって培養する方法について示す。
小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を、T25フラスコに入れた増殖培地中で培養する(5%CO2下、37℃)。このようにして培養したSMS細胞集団は、未分化SMS細胞とSMSから分化した細胞とからなる不均一細胞集団を含んでいることがある。
図1に示すように、未分化SMS細胞は浮遊分画および接着分画として存在する。浮遊分画の大部分は未分化SMS細胞が占める。
浮遊した未分化SMS細胞は、過去に報告されているように、特徴的な形態を有することから識別可能であり、T25フラスコ中で培養したSMS細胞の培地中から得られる。
未分化SMS細胞は分画遠心法によって単離することができる。まず、低速で遠心分離して細胞塊または分化細胞を除去し、次いで高速で遠心分離して未分化SMS細胞を回収する。別の方法として、濾過によって未分化細胞を単離してもよく、たとえば、フィルターの孔径を3~5μmまで徐々に小さくしていく分別濾過によって単離してもよい。未分化SMS細胞を単離した後、顕微鏡下で未分化SMS細胞の均一性を確認する。
未分化SMS細胞はポリプロピレン製チューブ(たとえばTechno Plastic Products AG(TPP)社によって提供されている15mlのバイオリアクターチューブ)中で培養する。
増殖培地として、たとえば、高糖濃度基礎培地(ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、[+]6g/L D-グルコース、[-]ピルビン酸ナトリウム、[-]L-グルタミン、[-]フェノールレッド)に、1%GlutaMAXTM-I(100×)、10%仔ウシ血清および5μg/mLヒトインスリンを添加したものを使用する。別の方法では、仔ウシ血清を含んでいない培地を使用することもできる。旋回振盪によって細胞を時折懸濁させる。
週に1回、4200×gで15分間遠心分離してSMS細胞を沈殿させ、完全培地を交換する。遠心分離の速度は、3000×g、3500×g、4000×g、4100×g、4200×g、4300×g、4500×gまたは5000×gに変更してもよく、これらの速度のいずれか2つによって定義される範囲内の速度で遠心分離を行ってもよく、これに応じて遠心時間を調整する。
このような条件下では、培地の量(細胞の密集度)によってSMS細胞の増殖が制限される。SMS細胞の均一性は顕微鏡下で評価し(図2参照)、SMS細胞の細胞数は、懸濁液の混濁度を分光光度計で測定することによって評価するか、かつ/または高速遠心分離後にペレットの大きさを測定することによって評価する(図3参照)。
SMS細胞の増殖能は、増殖培地を入れた新しいチューブに該細胞を接種することによって評価する。SMS細胞の大部分は、細胞塊を形成することなく個々の細胞として増殖し、この条件下では未分化のまま増殖する。懸濁培養はスケールアップすることができ、培地の量を増加することによって得られる細胞の数を増やすことができる(図3参照)。
実施例2
様々な分子の製造のためのSMS細胞の使用
未分化SMS細胞は様々な用途に使用できる。本実施例では、SMS細胞を様々な種類の細胞へと分化可能であることを示す。
以下の表1および各項目に対応する図面(図4~図13)に示すように、SMS細胞を様々な種類の細胞へと分化させることができる。
ポリスチレン製プレート(T25フラスコまたは6ウェルプレート)に入れた好適な誘導培地の使用を含む表1に示した様々なアッセイを使用してSMS細胞の分化能を試験し、SMS細胞の機能を評価する。
また、天然または遺伝子組換えのSMS細胞を使用して、様々な低分子化合物または高分子化合物を製造することができ、たとえば、タンパク質などを製造することができるが、製造できるものはこれに限定されない。さらに、SMS細胞は、別の細胞への分化、組織もしくは組織様構造またはオルガノイドもしくは器官の形成などの各種用途に使用することもできる。
さらに、SMS細胞は、3Dプリンティング(3Dバイオプリンティング)を使用して空間制御された細胞パターンを製造する方法のための基材として使用することができる。この方法は、たとえばBioBot1(登録商標)、3D-Bioplotter(登録商標)、3DS Alpha(登録商標)、3Dynamic Omega(登録商標)などの3Dバイオプリンタを使用して実施することができる。
さらに、図14A、図14Bおよび図15に示すように、(マーカーを含む)遺伝子組換えSMS細胞を使用して、細胞間相互作用、分化およびその他の細胞関連活性を追跡することができる。
実施例3
培養フラスコにおける細胞外マトリックスの製造
本実施例では、培養フラスコでのSMS細胞を使用した細胞外マトリックス(ECM)の製造手順を示す。
実施例1に記載の、分化を抑制した最適な増殖条件下でSMS細胞を懸濁培養する。細胞を高速(たとえば4200×gで15分間)で遠心分離し、新たな増殖培地に懸濁して、SMS細胞の培養培地を交換する。
T25またはプレート(ポリスチレン製;物理的な誘導因子としての表面刺激)にSMS細胞を接種し、増殖培地中で培養する(5%CO2下、37℃)。増殖条件(5%CO2下、37℃)において、ヘッジホッグ阻害剤やTGF/BMP活性化因子などの、ECMの産生を促す化学誘導物質を培地に添加する。週2回、完全培地を添加または交換する。
約2週間後に、浮遊状態のECMを高速遠心分離で回収する。接着状態のECMは、スクレーパーを使用して底から掻き取って回収する。図16に示すように、誘導条件および増殖条件に応じて様々なECMが産生される。
当技術分野で公知の様々な方法を使用してECMを脱細胞化する。たとえば、化学的方法、物理的方法および酵素的方法を使用して、ECM足場の構造統合性および化学的統合性を維持したままECMを脱細胞化することができる。さらに、SMS由来ECMの様々な分子成分を濃縮または単離する。図17に示すように、SMS細胞のインビトロ培養から得られたECMは、様々な器官の様々な組織に由来するECMと類似あるいは同一と見なすことができる。
SMS細胞によって産生されたECMを、凍結乾燥して粉末化し、そのまま保存してもよい。粉末形態またはその他の形態のECMは各種用途に使用することができ、たとえば、インビトロにおける細胞増殖または細胞分化の促進(たとえば3D細胞培養を目的としたもの)や、インビボにおける細胞増殖または細胞分化の促進(たとえば創傷治癒の促進を目的としたもの)(または腫瘍の増殖の抑制を目的としたもの)に使用することができる。
実施例4
足場に接着させたSMS細胞からの細胞外マトリックスの産生
本実施例では、ECM産生SMS細胞およびこの細胞から分化した細胞を含む足場を作製するための基本手順を示す。
様々な足場(脱細胞化された天然の骨や脱細胞化された軟らかいコラーゲンなど)の存在下でSMS細胞を培養すると、SMS細胞は良好に足場に接着する。SMS細胞を足場に接着させた後、様々な増殖培地中で培養(5%CO2下、37℃)して増殖させ、分化させる。図18A、図18B、図19A、図19Bおよび図19Cに示すように、SMS細胞が分化してその形態が大きく変化し、このSMS細胞の分化は足場の特性に左右されることが顕微鏡観察からわかる。
また、SMS細胞の接着、増殖および分化は、培地の種類の影響を受ける。SMS細胞およびこの細胞から分化した細胞は、足場に接着した状態の細胞外マトリックスおよび組織様構造を産生する。
産生されたECMおよび組織様構造は、図20に示すように様々な細管構造が形成されていることから、高度に多孔性であり、よって、細胞に栄養分を供給するのに有利である。足場に接着したSMS細胞および分化細胞は培地中(5%CO2下、37℃)で何ヶ月にもわたって生存可能である。
様々な足場に接着させた状態の、SMS細胞、この細胞から分化した細胞、SMSによって産生されたECMおよびこれらからなる構造物は、埋植された足場の生体適合性を向上させ、かつ埋植された足場による治癒プロセスを短縮するために使用することができる。
実施例5
SMS細胞を使用した、構造化された足場のde novo産生
本実施例では、SMS細胞を使用した、構造化された足場のde novo産生について詳述する。
SMS細胞は、インビトロ細胞培養において、秩序正しく位置し組織化する傾向がある。適切な分子で誘導されたSMS細胞は、高度に構造化された足場を形成し、適切な幾何学的形状を備えた立体物を構成する。
懸濁液中で増殖させたSMS細胞を、ポリスチレン製プレートに入れた誘導培地中で培養する(5%CO2下、37℃)。2週に1回培地を添加して約3週間にわたって培養すると、図21Aおよび図21Bに示すように様々な形態の様々な足場が形成される。
実施例6
末梢血からの軟部組織の製造
本実施例では、末梢血から軟部組織培養物を製造するための基本手順を提供する。
末梢血(抗擬固剤としてACDを含む)を低速で遠心分離し、上清を除去する。SMS細胞をペレットに加え、ポリスチレン製フラスコに入れた増殖培地中でこの混合物を4日間培養する(5%CO2下、37℃)。
培養フラスコの底にSMS細胞を含むゲルが形成される。このゲルには白血球および赤血球が含まれる。
フラスコからゲルを回収し、ハンクス緩衝液で2回洗浄し、-20℃で凍結する。数日後、凍結したゲルを取り出し解凍する。リン酸緩衝液(PBS)を使用して、解凍したゲルを数回洗浄し、白血球および赤血球の大部分を除去する。白血球および赤血球は、凍結/解凍サイクルによって破壊されるが、SMS細胞は影響を受けない。
洗浄したゲルを小片に切断し、フラスコまたはプレートに入れた増殖培地中において標準的な条件(5%CO2下、37℃)で培養する。ゲルは徐々に強固さを増し、さらに組織に近い構造を形成する。
このようにして得られる組織様構造は組織化された構造を示し、細管様構造および毛細血管様構造を形成する。また、この組織様構造は白血球や赤血球を含んでいない。
図22、図23および図24に示すように、SMS細胞およびSMS由来細胞が存在していることが顕微鏡観察および染色によってわかる。
実施例7
表面上に播種したSMS細胞
本実施例では、基材または表面上でのSMS細胞の使用を示す。
SMS細胞を、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに導入する。この際、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターの表面に、幾何学的形状のエッチングをあらかじめ施しておく。これらの表面は化学的処理または物理的処理で前処理してもよく、たとえば、ホウケイ酸塩、機械的研磨、ブラスト加工、炭化ケイ素、溶剤、酸、陽極酸化処理またはその他の前処理法を使用してもよい。このような前処理によって、フラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターの表面上に幾何学的形状を形成する。幾何学的形状としては、たとえば、線状、曲線状、網状、溝状、隆起状またはその他の形状の1つ以上を挙げることができる。
前処理されたフラスコ、容器、チャンバー、流路、チューブ、ベッセル、ニッチまたはバイオリアクターに播種または導入されたSMS細胞は、設けられた幾何学的形状を増殖の際の組織化のためのガイドとして利用し、この幾何学的形状に沿って組織化する。
実施例8
マイクロ流体デバイスにおけるSMS細胞の使用
本実施例では、マイクロ流体デバイスにおけるSMS細胞の使用について示す。
SMS細胞(およびこの細胞から分化した細胞)をlab-on-a-chipデバイスに導入する(lab-on-a-chipデバイスとは、実験室で行われる1つ以上の操作を1枚のチップに組み込んだデバイスであり、中空のマイクロ流路内で粒子を扱うものである)。
チップ上の細胞または組織または器官(器官全体または器官系の活性、機構および生理反応を模擬したマルチチャネルの3Dマイクロ流体細胞培養チップ)における使用も含まれる。
柔軟性および回復力を備えたSMS細胞によって、(特に有効期間および費用、分化誘導性、特定の分子の作製の点において)マイクロ流体チップの利用がより容易となる。SMS細胞をマイクロ流体回路に導入し、未分化の形態(柔軟性および回復力を備えた形態)のまま保存した後、特定の機能または分化を誘導してもよく、このような誘導は、設計された流路内のSMS細胞の位置に依存して選択的に行われてもよく、チップ内のいわゆる「チャンバー」と呼ばれる特定の区画に閉じ込められた細胞に、選択的な化学誘導物質またはその他の局所的な誘導因子(温度や圧力など)を作用させ、選択された位置で細胞を変化させて所望の機能を誘導し、その位置において使用してもよい。
実施例9
懸濁液中のSMS細胞の濃度および収率の増加
本実施例では、懸濁液中の小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の濃度を増加させる方法を示す。
10%ウシ胎仔血清(シグマ、カタログNo.:F2442)、0.1μmol/Lデキサメタゾン(シグマ、カタログNo.:D4902)、0.05mmol/Lアスコルビン酸-2-リン酸エステル(シグマ、カタログNo.:49752)および10mmol/L β-グリセロリン酸塩(シグマ、カタログNo.:G9422)を添加したDMEM誘導増殖培地(Gibco、カタログNo.:31053-0028)を使用して、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で数週間懸濁培養した。週1回、培地を交換した。
この培地中で培養すると、ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地で培養したコントロール細胞集団と比較して細胞濃度が有意に増加した。
実施例10
SMS由来ECMとの細胞間相互作用
本実施例では、内皮細胞、角化細胞または線維芽細胞とSMS細胞由来細胞外マトリックスとの相互作用について示す。
SMS由来ECMと内皮細胞の相互作用
懸濁培養したSMS細胞を、DMEM基礎培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)を使用して2回洗浄した。10%ウシ胎仔血清(シグマ、カタログNo.:F2442)を添加したDMEM増殖培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)を入れた6ウェル培養プレート(TPP、カタログNo.:92406)中において、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で2週間培養した。最初の1週間の培養後、週2回培地を交換した。SMS細胞は、細胞外マトリックス(ECM)からなる安定した接着層を形成する。基礎培地200(Gibco、カタログNo.:M200-500)でウェルを3回洗浄してから、内皮細胞との培養に使用した。
ライフテクノロジーズ社から購入したヒト臍帯血管内皮細胞(カタログNo.:C-003-5C、ロット:1786264)を各ウェル(100,000個)に加え、2%large vessel endothelial supplement(LVES;Gibco、カタログNo.:14608-01)を添加した基礎培地200(Gibco、カタログNo.:M200-500)からなる増殖培地2mLを各ウェルに加えて、5%CO2および最大湿度の条件において37℃で培養した。週2回培地を交換した。
内皮細胞は、SMS細胞によって産生された細胞外マトリックス内へと遊走し(図25Aおよび図25B)、この細胞外マトリックス内で活発に増殖することが観察された(図26A~図26C)。数日後、内皮細胞のいくつかは細管状に分化し、実験期間(数週間)にわたってこの状態のまま生存を維持した(図27Aおよび図27B)。この内皮細胞は、動物由来のECMマトリックスであるGeltrex(Gibco、カタログNo.:A14132-02)においても細管を形成することができるが、数時間しか生存せず、アポトーシスを起こすと予想されたことから、この実験で得られた結果は予想外である。
内皮細胞は、整列したSMS細胞の縁に沿って一時的に整列し、整列した細胞の一方の境界と他方の境界の内側には内皮細胞はほとんど見られなかった。内皮細胞がほとんど存在しなかったこの部分は比較的大きな細管(脈管)構造の痕跡である(図28A~図28C)。
培養の開始から約2週後に、内皮細胞は長い安定した脈管を形成した。これらの脈管は、プレート上の接着細胞層に両端で強固に固着していたが、最終的には立体的に成長するか、細胞接着層から分離した(図29A~図29D)。
SMS由来ECMと角化細胞の相互作用
懸濁培養したSMS細胞を、DMEM基礎培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)を使用して2回洗浄した。10%ウシ胎仔血清(シグマ、カタログNo.:F2442)を添加したDMEM増殖培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)を入れた6ウェル培養プレート(TPP、カタログNo.:92406)中において、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で2週間培養した。週1回培地を交換した。SMS細胞は、細胞外マトリックスからなる安定した接着層を形成する。
ロンザ社から購入した正常新生児由来ヒト表皮角化細胞(カタログNo.:00192906、ロット:0000357051)を各ウェル(100,000個)に加え、15%ウシ胎仔血清(シグマ、カタログNo.:F2442)を添加したDMEM増殖培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)3mLを各ウェルに加えて、5%CO2および最大湿度の条件において37℃で培養した。週2回培地を交換した。
角化細胞は、SMS細胞によって産生された細胞外マトリックス上に接着層を形成した(図30Aおよび図30B)。この構造は数週間にわたって安定に維持された。
SMS由来ECMと線維芽細胞の相互作用
懸濁培養したSMS細胞を、DMEM基礎培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)を使用して2回洗浄した。10%ウシ胎仔血清(シグマ、カタログNo.:F2442)を添加したDMEM増殖培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)を入れた6ウェル培養プレート(TPP、カタログNo.:92406)中において、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で2週間培養した。最初の1週間の培養後、週2回培地を交換した。SMS細胞は、細胞外マトリックス(ECM)からなる安定した接着層を形成する。
ロンザ社から購入した正常ヒト皮膚線維芽細胞(カタログNo.:CC-2511、ロット:0000473428)を各ウェル(100,000個)に加え、10%ウシ胎仔血清(シグマ、カタログNo.:F2442)を添加したDMEM増殖培地(Gibco、カタログNo.:11054-020)2mLを各ウェルに加えて、5%CO2および最大湿度の条件において37℃で培養した。週2回培地を交換した。
線維芽細胞は、SMS細胞によって産生された細胞外マトリックス内へと遊走し(図31Aおよび図31B)、この細胞外マトリックス内で遊走および増殖し(図32Aおよび図32B)、数日間でコンフルエントに達したことが観察された。線維芽細胞は実験期間(数週間)にわたってこのままの状態で生存を維持した。
実施例11
SMS細胞から神経細胞への分化
本実施例では、細胞培養における小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞から神経細胞への分化を示す。
SMS細胞を懸濁培養し、DMEM基礎培地(Gibco、カタログNo.:31053-0028)を使用して2回洗浄した。10%仔ウシ血清(シグマ、カタログNo.:12133C)を添加したDMEM増殖培地(Gibco、カタログNo.:31053-0028)を入れた6ウェル培養プレート(TPP、カタログNo.:92406)中において、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で2週間培養した。最初の1週間の培養後、週2回培地を交換した。次いで、β-メルカプトエタノール(シグマ、カタログNo.:M3148)を加えてSMS細胞を24時間培養し、ハンクス緩衝塩溶液(Gibco、カタログNo.:14025-092)を使用して3回洗浄し、DMEM(Gibco、カタログNo.:31053-0028)、2%DMSO(シグマ、カタログNo.:D2438)および200μMブチルヒドロキシアニソール(シグマ、カタログNo.:B1253)を含む神経細胞分化誘導培地を使用して5%CO2および最大湿度の条件において37℃で培養した。週2回培地を交換した。
2週後、細胞は劇的な形態変化を遂げ、神経細胞と一致する形態となった(図33A~図33C)。この細胞は、血清や添加物を含まない分化培地中において数ヶ月間にわたり安定なまま維持された。プロテオーム解析を実施したところ、ダブルコルチンドメイン含有タンパク質2C(DCDC2)やケラチン関連タンパク質(KRTAP)5-1などの神経特異的タンパク質の存在が示された。
実施例12
懸濁培養したSMS細胞からのタンパク質の差次的発現の誘導
本実施例では、懸濁培養した小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞から様々なタンパク質を差次的に発現させる方法を提供する。
10%仔ウシ血清(シグマ、カタログNo.:12133C)、0.1μmol/Lデキサメタゾン(シグマ、カタログNo.:D4902)、0.05mmol/Lアスコルビン酸-2-リン酸エステル(シグマ、カタログNo.:49752)および10mmol/L β-グリセロリン酸塩(シグマ、カタログNo.:G9422)を添加したDMEM増殖誘導培地(Gibco、カタログNo.:31053-0028)を使用して、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で数週間にわたり懸濁培養した。
コントロールとして、10%仔ウシ血清を添加したDMEMからなるコントロール培地中で細胞を培養した。増殖誘導培地中で培養した細胞から、第XIII凝固因子A鎖、アポリポタンパク質E、アンチトロンビンIII、BMP-1、ビトロネクチンなどの様々なタンパク質が差次的に産生された。
実施例13
SMS細胞を使用した抗微生物タンパク質の産生
本実施例では、懸濁培養した小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞から抗微生物タンパク質を産生させる方法を提供する。
SMS細胞は、抗生物質無添加の標準的な条件下で何年にもわたって培養することができる。インビトロ培養したSMS細胞から産生されたECMのプロテオーム解析を実施することによって、抗微生物タンパク質(AMP)であると見られる様々なタンパク質、すなわちコレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12および膵リボヌクレアーゼの存在が示される。
実施例14
SMS細胞の巨大化
本実施例では、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞を巨大化させる方法を提供する。
懸濁培養したSMS細胞を、MesenPRO基礎培地(Gibco、カタログNo.:127747-010)を使用して2回洗浄した。MesenPRO基礎培地(Gibco、カタログNo.:127747-010)を入れた6ウェル培養プレート(TPP、カタログNo.:92406)中において、SMS細胞を5%CO2、最大湿度の条件において37℃で培養した。SMS細胞はプレートに接着し、徐々に形態が変化して巨大化した(図8Bおよび図8C)。
前述の実施形態の少なくともいくつかにおいて、これらの実施形態において使用された1つ以上の構成要素は、技術的に不可能な場合を除き、別の実施形態の構成要素と入れ替えて使用することができる。請求項に記載された主題の範囲から逸脱することなく、前記の方法および構造に前述以外の様々な省略、付加および改変を行ってもよいことは、当業者であれば容易に理解できるであろう。このような改変や変更はいずれも、添付の請求項で定義されている本発明の主題の範囲内にあると見なされる。
本明細書で使用されている実質的に複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(たとえば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(たとえば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。さらに、特定の数が請求項に記載されている場合、前述のような意図も請求項に明確に記載されており、特定の数が記載されていない場合はそのような意図も存在しないことも、当業者であれば理解できるであろう。具体的に説明をすれば、たとえば、後述の特許請求の範囲では、請求項を定義するために、「少なくとも1つ」や「1つ以上」といった前置きが記載されている場合がある。しかしながら、このような前置きが記載されているからといって、不定冠詞「1つ(aまたはan)」を使用して構成要素が記載された請求項を、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではなく、たとえ同じ請求項内に「1つ以上」または「少なくとも1つ」といった前置きと「1つ(aまたはan)」といった不定冠詞とが含まれていたとしても、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではない(たとえば、「1つ(aおよび/またはan)」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈されるべきである)。これは、定冠詞を使用して記載された請求項でも同じである。また、請求項に特定の数が明確に記載されていたとしても、「少なくとも」記載されたその数であるということを当業者であれば理解できるであろう(たとえば、修飾語を伴わない「2つ」という記載は、「少なくとも2つ」または「2つ以上」を意味する)。さらに、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」といった頻用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。また、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つ」といった頻用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。さらに、2つ以上の選択肢を表すための選言的用語および/または選言的語句は、明細書、特許請求の範囲または図面のいずれにおいても、記載された用語のうちの1つ、記載された用語のいずれか、または記載された用語の両方を含む場合があると当業者であれば理解できるであろう。たとえば「AまたはB」という表現は、「Aのみ」または「Bのみ」または「AおよびB」を含む場合がある。
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュ形式で記載されている場合、当業者であれば、マーカッシュ形式で記載された各メンバーまたはそれらからなるサブグループについても記載されていると理解できるであろう。
詳細な説明の提供などの何らかの目的で本明細書に記載された範囲はいずれも、あらゆる可能な部分範囲およびその組み合わせも包含することを、当業者であれば理解できるであろう。前記範囲はいずれも、同じ範囲を少なくとも等分、3等分、4等分、5等分、10等分などに分割したものも十分に記載されており、このような分割された範囲で本発明を実施可能であることを容易に理解できるであろう。たとえば、本明細書に記載の範囲はいずれも、容易に、低域、中域、高域といった三等分などにすることができるが、これに限定されない。また、「以下」、「少なくとも」、「よりも大きい」、「未満」といった用語はいずれも、記載された数値を含むとともに、前述したように、部分範囲に分割可能な範囲も指すことを当業者であれば理解できるであろう。さらに、当業者であれば、本明細書に記載の範囲は各メンバーを含むことを理解できるであろう。したがって、たとえば、1~3つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群または3つのメンバーを有する群を指す。同様に、1~5つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群、3つのメンバーを有する群、4つのメンバーを有する群、または5つのメンバーを有する群などを指す。
本明細書において様々な態様および実施形態を述べてきたが、当業者であればその他の態様および実施形態も容易に理解できるであろう。本明細書において開示された様々な態様および実施形態は本発明を説明することを目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではなく、本発明の範囲および要旨は以下の請求項によって示される。