JP7000883B2 - 酸窒化物薄膜および容量素子 - Google Patents

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本発明は、酸窒化物から成る主組成を有する誘電体薄膜およびそれを含む容量素子に関する。
近年、デジタル機器の小型化、高性能化に伴い、高性能な誘電体薄膜を用いた容量素子が求められている。
従来、誘電体薄膜としては金属酸化物材料を用いた薄膜が広く用いられてきた。しかしながら、金属酸化物材料による誘電体薄膜の特性向上は限界を迎えつつあり、より高い特性を持つ新しい材料が求められている。新しい材料の候補の一つにペロブスカイト結晶構造の酸素8面体中の酸素原子の一部を窒素原子に置換した金属酸窒化物材料が挙げられる。しかし、金属酸窒化物材料を有する誘電体薄膜を得ることは困難である。
例えば、特許文献1および特許文献2には、ペロブスカイト型酸窒化物ABONの粉末を作製する方法が記載されている。しかし、特許文献1および特許文献2には、ペロブスカイト型酸窒化物ABONを用いた薄膜を得ることに関しては何ら開示されていない。
また、非特許文献1および非特許文献2にはペロブスカイト型酸窒化物ABONからなる薄膜を作製した旨が記載されている。しかし、非特許文献1および非特許文献2で得られる薄膜はエピタキシャル膜である。
エピタキシャル膜はその製造に非常に時間がかかるという欠点がある。非特許文献1では厚さ20nm以下のエピタキシャル膜の製造に530時間以下という長い時間がかかる旨が記載されている。
特開昭61-122108号公報 特開2013-001625号公報
Scientific Reports 4. DOI: 10.1038/srep04987 KAST 平成25年度研究概要 32-33ページ
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、製造効率が高く、誘電特性に優れる酸窒化物から成る主組成を有する誘電体薄膜およびそれを含む容量素子を提供することを目的とする。
本発明に係る誘電体薄膜は、
組成式A(a+b+o+n=5)で表される酸窒化物から成る主組成を有する誘電体薄膜であって、
前記AはSr,Ba,Ca,La,Ce,Pr,Nd,Naのいずれか1つ以上であり、
前記BはTa,Nb,Ti,Wのいずれか1つ以上であり、
前記誘電体薄膜を構成する結晶粒子は、ある特定の結晶面方位に配向していない多結晶であり、前記誘電体薄膜に含まれる結晶粒子の結晶子のサイズが100nm以下であることを特徴とする。
本発明に係る誘電体薄膜は、上記の特徴を有することで、誘電特性を高めることができる。
好ましくは、誘電体薄膜に対して、Out-of-Plane法によりX線回折測定を行った結果に基づき算出した結晶子のサイズが、In-Plane法によりX線回折測定を行った結果に基づき算出した結晶子のサイズの1.5倍以上である。
好ましくは、前記AはSrであり、前記Bは、Taおよび/またはNbであり、前記nは、ゼロより大きく1より小さい。
本発明に係る容量素子は、前記誘電体薄膜を有する。
本発明の一実施形態に係る薄膜キャパシタの概略図である。 本発明の一実施形態に係る誘電体薄膜における結晶粒子に含まれる、結晶子の形状を示した模式図である。 Out-of-Plane法によるX線回折測定を示した模式図である。 In-Plane法によるX線回折測定を示した模式図である。 実施例1の誘電体薄膜サンプルのTEM画像である。破線は結晶子の形状を示す。
以下、本発明を実施形態に基づき説明する。
本実施形態に係る薄膜キャパシタ(容量素子)の模式図を図1に示す。図1に示す薄膜キャパシタ1は、基板11上に下部電極12、誘電体薄膜13の順に形成され、誘電体薄膜13の上に上部電極14を備える。
基板11の材質には特に制限はないが、基板11としてSi単結晶基板を用いることが入手容易性およびコスト性に優れている。フレキシビリティを重視する場合にはNi箔を基板として使用することも出来る。
下部電極12および上部電極14の材質に特に制限はなく、電極として機能すればよい。例えば、Pt,Ag,Ni等が挙げられる。下部電極12の厚みは0.01~10μmが好ましい。上部電極14の厚みは0.01~10μmが好ましい。
誘電体薄膜13は、組成式A(a+b+o+n=5)で表される酸窒化物から成る主組成を有する。
AはSr,Ba,Ca,La,Ce,Pr,Nd,Naから選ばれる1以上の元素である。好ましくは、Aは、Sr,Ba,La,Ndから選ばれる1以上の元素である。より好ましく、AはSrである。Aとして上記元素を用いることで、高い容量が得られる。BはTa,Nb,Ti,Wから選ばれる1以上の元素である。好ましくは、Bは、Ta,Nbから選ばれる1以上の元素である。より好ましく、BはTaである。Bとして上記元素を用いることで、異相が少ない誘電体薄膜13が得られる。
また、組成式Aにおいて、好ましくは、a<1である。また、好ましくはa/b>1であり、より好ましくはa/b≧1.05である。また、好ましくは1>n>0であり、より好ましくは1>n≧0.3であり、さらに好ましくは1>n≧0.5である。a、bおよびnを上記の範囲とすることで、良好な誘電特性が得られる。
誘電体薄膜13を構成する結晶粒子Xは、ある特定の結晶面方位に配向していない多結晶である。
上記結晶粒子Xは、図2に示すように、複数の縦長の結晶子Yを含む。結晶子Yとは、上記結晶粒子X内で同一の結晶面で構成された、結晶の最少単位である。よって結晶子Y同士の接続部は結晶格子が不連続となっているが、その接続部に異相や粒界が存在するわけではなく、組成および結晶性としては連続であり、その連なった結晶子の集合体が結晶粒子Xである。1つの結晶粒子Xの中で、複数の結晶子Yの結晶面は、同一の方向を向いている。結晶粒子X同士の接続部には粒界面に相当する界面が存在し、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。
本実施形態において、上記結晶粒子Xに含まれる結晶子Yのサイズは100nm以下である。結晶子Yのサイズを100nm以下とすることで、誘電特性を向上できる。結晶子Yのサイズは、図4に示すようなTEM画像に基づいて測定される。
一般に、誘電体薄膜を構成する結晶粒子に含まれる結晶子のサイズを小さくすることで、周波数に対する誘電率の変化率を小さく抑えることが出来ることが知られている。一方で、結晶子のサイズを小さくすると、得られる比誘電率も小さくなってしまうことも知られている。特に高容量の誘電体として利用されるチタン酸バリウムは、結晶子のサイズが小さくなることで最密六方格子における高い軸比(c/a比)を得ることが難しくなり、結晶子のサイズが100nm以下では極端に比誘電率が低下することが知られている。結晶子サイズが100nm以下であっても高い比誘電率を得ることが出来れば、周波数に対する誘電率の変化も小さい理想的な誘電体となるが、そのような誘電体はこれまで報告されていなかった。本実施形態では、誘電体薄膜を構成する結晶粒子を、ある特定の結晶面方位に配向していない多結晶とし、結晶粒子に含まれる結晶子のサイズを100nm以下としても、周波数に対する比誘電率の変化率を小さく抑えると同時に、比誘電率を向上できる。
また、誘電体薄膜13に対して、Out-of-Plane法によりX線回折測定を行った結果に基づき算出した結晶子のサイズが、In-Plane法によりX線回折測定を行った結果に基づき算出した結晶子のサイズの1.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.8倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上である。Out-of-Plane法による結晶子のサイズとIn-Plane法による結晶子のサイズとの比率を上記範囲とすることで、誘電特性を向上できる。
なお、Out-of-Plane法では、図3(a)に示すように、誘電体薄膜の表面から5~90°の角度範囲で入射X線Rを照射し、その回折X線R’から結晶子のサイズを評価する。これにより、結晶子の、誘電体薄膜の厚み方向(縦方向)の大きさを測定できる。
また、In-Plane法では、図3(b)に示すように、誘電体薄膜の側面から、入射角を全反射臨界角度付近(0.2~0.5°)の小さな角度に固定して入射X線Rを照射し、回折X線R’から結晶子のサイズを評価する。これにより、結晶子の横方向の大きさを測定できる。
誘電体薄膜13の厚さには特に制限はないが、好ましくは10nm~2μmであり、より好ましくは10nm~1μmである。
誘電体薄膜13の比誘電率εは、特に限定されないが、好ましくは1800以上であり、より好ましくは2500以上であり、さらに好ましくは2700以上である。比誘電率εを上記範囲とすることで、誘電特性に優れる誘電体薄膜が得られる。
なお、比誘電率εは、電圧1Vrms/μm、周波数20Hz~10kHzの条件で測定できる。
誘電体薄膜13の比誘電率変化率Δεは、好ましくは±20%未満であり、より好ましくは±10%以内である。比誘電率変化率Δεを上記範囲とすることで、誘電特性に優れる誘電体薄膜が得られる。
なお、比誘電率変化率Δεは、周波数20Hzおよび10kHzで測定した比誘電率の差分を周波数20Hzで測定した比誘電率で割ることで算出できる。
薄膜キャパシタ1の製造方法
次に、薄膜キャパシタ1の製造方法について説明する。以下、組成式Aで表される酸窒化物から成る主組成を有する誘電体薄膜13において、A原子がSrであり、B原子がTaである場合について説明するが、他の種類の原子を用いる場合でも同様である。
最終的に誘電体薄膜13となる薄膜の成膜方法に特に制限はない。例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、PLD法(パルスレーザー蒸着法)、MO-CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)、ゾル・ゲル法、CSD(化学溶液堆積法)などが例示される。また、成膜時に使用する原料には微少な不純物や副成分が含まれている場合があるが、薄膜の性能を大きく損なわない程度の量であれば特に問題はない。また、本実施形態に係る誘電体薄膜13も、性能を大きく損なわない程度に微少な不純物や副成分を含んでいても構わない。
上記の成膜方法のうち、PLD法、スパッタリング法およびCSD法などの方法で成膜すると、最終的に得られる薄膜が多結晶膜となりやすい。CVD法でも合成は可能であるが、成分元素数が多いため、PLD法やスパッタリング法の方がより組成制御性が高い。本実施形態ではPLD法による成膜方法について説明する。
まず、基板11としてSi単結晶基板を準備する。次に、Si単結晶基板上にSiO、TiO、Ptの順に成膜し、Ptからなる下部電極12を形成する。下部電極12を形成する方法には特に制限はない。例えば、スパッタリング法やCVD法などが挙げられる。
次に、下部電極12上にPLD法で金属酸化物薄膜を成膜する。下部電極12の一部を露出させるためにメタルマスクを使用して薄膜が一部成膜されない領域を形成してもよい。
PLD法では、まず、目的とする誘電体薄膜の構成元素を含むターゲットを成膜室内に設置する。次に、ターゲットの表面上にパルスレーザーを照射する。パルスレーザーの強いエネルギーによりターゲットの表面を瞬時に蒸発させる。そして、ターゲットと対向するように配置した基板上に蒸発物を堆積させて金属酸化物薄膜を成膜する。
ターゲットとしては、例えば、組成式Aを有する前駆体を用いることができる。この前駆体は、ペロブスカイトスラブと呼ばれる、ペロブスカイトユニットとO過剰層が交互に積み重なったペロブスカイト層状化合物であることが好ましい。
ターゲットの種類に特に制限はなく、酸窒化粉を圧縮して成形したペレットを使用することも出来る。ただし、含有されているN量を十分に管理する必要があるため、Aのペレットを使用する方が制御性は良い。また、ターゲットにおいては各元素が平均的に分布していることが好ましいが、得られる誘電体薄膜の品質に影響がない範囲で分布にばらつきがあってもよい。さらに、ターゲットは必ずしも一つである必要はなく、誘電体薄膜の構成元素の一部を含むターゲットを複数用意して成膜に用いることも可能である。ターゲットの形状にも制限はなく、使用する成膜装置に適した形状とすればよい。また、成膜条件(酸素のガス圧,窒素のガス圧,成膜室の大きさおよびガス導入管の位置等)を調整することで、最終的に得られる誘電体薄膜のaおよびbを制御できる。例えば、ターゲットのa/bを大きくすれば、成膜された膜中のa/bを大きくすることができる。
例えば、最終的に得られる誘電体薄膜の組成がSrTaである場合には、ターゲットとしてSrTaを含む焼結体を準備する。そして、成膜条件(例えば酸素のガス圧,窒素のガス圧,成膜室の大きさおよびガス導入管の位置等)を調整することで、最終的に得られる誘電体薄膜のaおよびbを制御できる。
成膜条件も重要である。パルスレーザーによりターゲットから蒸発した金属元素は成膜室中の雰囲気を構成する元素の影響を受け、基板の成膜面に到達するからである。雰囲気圧力を超高真空から大気圧近くまで幅広くとれるのがPLD法の特徴であるが、真空度が高い方が結晶性の高い膜が得られやすく、一方、酸素等の雰囲気圧力が高い方が酸素等の欠陥が少ない膜が得られやすい。プラズマを併用する場合は、プラズマが維持できる圧力範囲幅が決まっているため、その範囲内において、結晶性および欠陥等を鑑みて、適切な圧力を決めれば良い。特にPLD法で成膜する場合は、全圧が1×10-2Pa以上であることが望ましく、より好ましくは全圧が2×10-2Pa以上であることである。望ましいとする条件は比較的真空度が高くない条件である。これは結晶子の小さな膜を得るために適した条件であり、この場合結晶性は低く評価される。なお、スパッタンリング法では成膜室中の雰囲気としてアルゴンを併用するのが望ましい。成膜レートは30nm/min以下が望ましく、10nm/min以下がより望ましい。
また、PLD法の際には、成膜する金属酸化物薄膜を結晶化させるために成膜時に基板11を赤外線レーザーで加熱することが好ましい。成膜時の基板11の加熱温度は、金属酸化物薄膜および基板11の構成元素および組成等により変化するが、好ましくは550~850℃であり、より好ましくは600~800℃である。成膜時の基板の加熱温度を上記範囲とすることで、空隙が形成されにくくなって誘電特性が向上する。また、基板11の温度を適温とすることで、金属酸窒化物薄膜が結晶化しやすくなるとともに冷却時に生じる割れの発生を防止できる。
成膜中に、窒素ラジカルを導入して窒化処理を行うことで、ペロブスカイト型酸窒化物からなる誘電体薄膜13を得ることができる。金属酸化物膜を成膜した後に、窒素ラジカルを導入して窒化処理を行っても良いが、成膜中に窒素ラジカルを導入した方が、成膜した薄膜中の窒素量をより多くすることができる。
基板上の誘電体薄膜13は、成膜後、高速熱アニール処理(RTA)する必要がある。アニール時の雰囲気は、成膜雰囲気より高い酸素分圧および窒素分圧とすることが周波数特性をより良好にするために必要である。
最後に、誘電体薄膜13上に上部電極14を形成することで、薄膜キャパシタ1を製造できる。なお、上部電極14の材質に特に制限はなく、Ag,Au,Cu等を用いることができる。また、上部電極14の形成方法にも特に制限はない。例えば、スパッタリング法や蒸着により形成できる。
なお、誘電体薄膜13と下部電極12との間、および誘電体薄膜13と上部電極14との間には、中間層15があってもよい。中間層15は、絶縁材で構成されてもよく、導電材で構成されてもよい。絶縁材としては、アルミニウム、ケイ素、ストロンチウム、およびタンタルのうち少なくとも1つを含む酸化物または窒化物等の化合物等を用いることができる。導電材としては、Cu、Al、Ni、Au、およびNi-Cr等を用いることができる。中間層15の形成方法としては、上述の誘電体薄膜13の形成方法、または下部電極12および上部電極14の形成方法と同様の方法を採用できる。そして、中間層15は、絶縁層、応力緩和層、または電極面の凹凸を平滑化するための層等として機能し得る。
中間層15は、誘電体薄膜13と下部電極12との間、および誘電体薄膜13と上部電極14との間の両方にあってもよく、いずれか一方にあってもよい。中間層が複数ある場合には、それぞれの中間層が異なる機能を有していてもよい。
中間層15の厚さは、好ましくは、誘電体薄膜13の厚さの20%以下であり、より好ましくは10%以下である。
本実施形態に係る誘電体薄膜は、例えば電圧同調可能なコンデンサや、デカップリング薄膜コンデンサのような高密度コンデンサ装置の誘電層として使用できる。
本実施形態に係る容量素子は、本実施形態に係る誘電体薄膜の優れた誘電性を利用した素子のことであり、コンデンサ、サーミスタ、フィルター、ダイプレクサ、共振器、発信子、アンテナ、圧電素子、トランジスタ、強誘電体メモリ等を含む。本実施形態に係る誘電体薄膜は、特に誘電特性が高いことが求められる容量素子に好適に用いられる。
本実施形態に係る容量素子として、例えばコンデンサの製造する方法としては、基板上に適当な電極を有する高同調装置構造を形成する方法が挙げられる。該高同調装置構造として、特に限定されないが、例えばSAWデュプレクサ、RF-MEMSによるスイッチ、圧電駆動型のMEMSエアギャップバラクタ、固定(低同調性)高密度薄膜コンデンサ、TFBAR回路、抵抗器、インダクタ、酸化物をベースとするTFTおよびセンサなどの他の薄膜装置と集積化したものを用いてよい。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
まず、成膜用ターゲットとして用いるSrTa焼結体の原料として、SrCO粉末およびTa粉末を準備した。Sr/Taのモル比が1となるようにSrCO粉末およびTa粉末を秤量した。
次に、SrCO粉末およびTa粉末に対して、エタノール溶媒を用いた湿式ボールミルにて16時間混合して混合スラリーを得た。
次に、前記混合スラリーを恒温乾燥機にて80℃で12時間乾燥し、混合物を得た。
次に、前記混合物を乳鉢にて軽く解砕し、セラミック製のるつぼに入れた。そして、電気炉を用いて大気雰囲気中、1000℃で2時間熱処理し、仮焼物を得た。
次に、前記仮焼物に対して、再びエタノール溶媒を用いた湿式ボールミルにて16時間混合して仮焼後スラリーを得た。
得られた仮焼後スラリーを恒温乾燥機にて80℃で12時間乾燥し、仮焼後混合物を得た。
前記仮焼後混合物に対し、バインダーとしてポリビニルアルコール溶液を添加し、混合して造粒物を得た。ポリビニルアルコール溶液の添加量は、粉砕物100重量%に対して0.6重量%とした。
前記造粒物を直径約23mm、高さ約9mmの円柱形状に成形して成型物を得た。成形方法はCIP成形とした。
前記成型物に対し、電気炉を用いて大気雰囲気中、1400℃で2時間焼成して焼結物を得た。さらに、前記焼結物の上面および下面を鏡面研磨して高さ5mmの成膜ターゲットを得た。なお、得られた成膜ターゲットの相対密度が96~98%であることを確認した。
上記のようにして得られた成膜用ターゲットを成膜装置に設置し、成膜用ターゲットと対向するように、Si基板を設置した。当該Si基板としては表面に下部電極としてPt膜を有するものを用いた。
実施例1では、PLD法で厚さ1000nmとなるように成膜した。このとき成膜室に窒素ラジカルを導入して、誘電体酸化膜を形成した。成膜時の雰囲気の窒素分圧は1×10―3Paとした。成膜温度は700℃とした。成膜後に、窒素ラジカルの導入をやめ、窒素および酸素を同時に導入し、700℃で30分間アニールを行った。その後200℃まで冷却し、雰囲気を真空にして、誘電体薄膜サンプルを得た。得られた誘電体薄膜サンプルについて以下とおり評価した。
多結晶膜およびその配向性の評価
得られたサンプルについてXRD測定を行い、そのXRDパターンから特定の面に配向している配向膜か否かと、多結晶性を有するか否かを確認した。多結晶性を有し特定の面に対して配向している配向膜ではない場合は「良」、多結晶性を有さない場合および配向膜である場合には「不良」と評価した。また、得られた薄膜サンプルに含まれる酸窒化物における組成はULVAC-PHI, Inc.製PHI Quantera IITMを用いて光電子分光分析によって定量した。Arエッチングを行いながら、薄膜の深さ方向の組成を定量した。
TEMによる結晶子のサイズ測定
得られたサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)用いてTEM画像を得た。得られたTEM画像を図4に示す。図4に示すTEM画像に基づいて、結晶子のサイズを測定した。また、TEMを用いて柱状の粒子の有無を確認した。結果を表1に示す。
XRDによる結晶子のサイズ測定
得られたサンプルについて、Out-of-Plane法およびIn-Plane法によりX線回折測定を行って結晶子のサイズを測定した。
比誘電率εの測定
比誘電率(ε)は電圧1Vrms/μm、周波数20Hz~10kHzにおいて評価し、その変化率を算出した。比誘電率を評価するための上部電極は直径100μmのサイズにてAgを蒸着することにより形成した。結果を表1に示す。
比誘電率変化率Δεの測定
上記Ag電極を形成したサンプルについて、比誘電率変化率Δεを測定した。比誘電率変化率Δεは、周波数20Hzおよび10kHzで測定した比誘電率の差分を周波数20Hzで測定した比誘電率で割ることによって算出した。
実施例2~4
成膜時の雰囲気を制御し、XRDによる結晶子のサイズを表1に示すように調整した他は、実施例1と同様にして誘電体薄膜サンプルを得た。実施例1と同様に評価した。
実施例5
以下に示す以外は実施例3と同様にして誘電体薄膜サンプルを得た。すなわち、実施例5では、成膜用ターゲットとして用いる(La0.1Sr0.9(Ta0.9Ti0.1焼結体の原料として、La粉末、SrCO粉末、Ta粉末およびTiO粉末を準備した。(La0.1Sr0.9)/(Ta0.9Ti0.1)のモル比が1となるようにLa粉末、SrCO粉末、Ta粉末およびTiO粉末を秤量した。
実施例6
以下に示す以外は実施例3と同様にして誘電体薄膜サンプルを得た。すなわち、実施例6では、成膜用ターゲットとして用いる(Ba0.2Sr0.8Ta焼結体の原料として、BaCO粉末、SrCO粉末およびTa粉末を準備した。(Ba0.2Sr0.8)/(Ta)のモル比が1となるようにBaCO粉末、SrCO粉末およびTa粉末を秤量した。SrTaの組成物がペロブスカイトスラブ構造を有する焼結体として存在するのに対し、BaTaは存在しないことが知られている。しかしながら、(Ba0.2Sr0.8)/(Ta)のモル比が1となるようにBaCO粉末、SrCO粉末およびTa粉末を秤量および配合することによって、(Ba0.2Sr0.8Ta組成の焼結体を得ることが可能である。得られた焼結体はSrTaと同じX線回折パターンを有しており、そのピーク位置は低角側にシフトしていた。
比較例1
比較例1は非特許文献1から算出したものである。非特許文献1では、窒素プラズマ支援パルスレーザー堆積法を用いたエピタキシャル成長によって、SrTaONの薄膜結晶サンプルを形成している。具体的には、結晶成長用の基板としてSrTaONよりも格子定数の小さなニオブ添加チタン酸ストロンチウム(Nb:SrTiO)単結晶を使い、紫外レーザーを照射して気化させたタンタル酸ストロンチウム(SrTa)とプラズマにより活性化した窒素を基板上で反応させた。実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
実施例7~12
実施例7~12では、成膜時の雰囲気の窒素分圧を変えて成膜した他は、実施例1と同様にして誘電体薄膜サンプルを得た。実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
Figure 0007000883000001
表1より、実施例1~12では、特定の結晶面方位に配向していない多結晶である結晶粒子で構成される誘電体薄膜サンプルが得られ、優れた誘電特性を有していた。一方、比較例1の誘電体薄膜サンプルでは、結晶粒子に含まれる結晶子のサイズは100nmを超えており、周波数に対する比誘電率の変化率が劣ることが確認された。
1・・・薄膜キャパシタ
11・・・基板
12・・・下部電極
13・・・誘電体薄膜
14・・・上部電極
15・・・中間層
X・・・結晶粒子
Y・・・結晶子
R・・・入射X線
R’・・・回折X線

Claims (2)

  1. 組成式AaBbOoNn(a+b+o+n=5)で表される酸窒化物から成る主組成を有する誘電体薄膜であって、
    前記AはSr,Ba,Ca,La,Ce,Pr,Nd,Naのいずれか1つ以上であり、
    前記BはTa,Nb,Ti,Wのいずれか1つ以上であり、
    前記誘電体薄膜を構成する結晶粒子は、ある特定の結晶面方位に配向していない多結晶であり、前記誘電体薄膜に含まれる結晶粒子の結晶子のサイズが100nm以下であり、
    前記誘電体薄膜に対してOut-of-Plane法によりX線回折測定を行った結果に基づき算出した結晶子のサイズが、In-Plane法によりX線回折測定を行った結果に基づき算出した結晶子のサイズの1.5倍以上であることを特徴とする誘電体薄膜。
  2. 請求項1に記載の誘電体薄膜を有する容量素子。
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