JP6998090B1 - 水性樹脂エマルション、及び水性樹脂エマルションの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】水性樹脂エマルションの調製時に界面活性剤として1種単独で使用しても、凝集物の発生を抑制しうるN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いた水性樹脂エマルションを提供する。【解決手段】界面活性剤、及び前記界面活性剤の存在下で単量体成分が重合した樹脂粒子を含有する樹脂エマルションである。前記界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、水性樹脂エマルション、及び水性樹脂エマルションの製造方法に関する。
従来から、化粧料、皮膚洗浄料、及び毛髪洗浄料等において、ドデシル硫酸ナトリウム(別名:ラウリル硫酸ナトリウム;SLS)等の硫酸エステル(硫酸塩)型アニオン性界面活性剤が使用されていることが多い。そのような界面活性剤を用いた洗浄料等は、その洗浄力の高さ故に、皮膚から水分と油分を奪うことで乾燥や赤みを伴い、皮膚を過敏な状態にする可能性が懸念されている。そこで、皮膚への低刺激性や保湿効果等の観点から、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いることが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
一方、水性樹脂エマルションは、化粧料の分野において、増粘剤や皮膜形成の用途に用いられることが多い。水性樹脂エマルションを調製する際には、一般的に界面活性剤(乳化剤)が使用されている。上述したような洗浄料においての使用が検討されているN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、これまで、水性樹脂エマルションの調製(重合)用の乳化剤としてはほとんど実用化されていない。
特開2005-306843号公報 特開2019-172576号公報
本発明者らは、水性樹脂エマルションを調製するに当たり、重合性単量体を重合させるときに使用する界面活性剤として、皮膚等への影響の観点から、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を使用可能であれば、水性樹脂エマルションのさらに幅広い用途展開が期待できると考え、検討を行った。その検討過程において、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤のなかには、重合時乳化剤として単独で用いた場合、乳化重合自体は可能であるが、乳化力が比較的弱く、発生する凝集物の量が多く、実用性に欠けるものがあることがわかった。
一方、上述した重合時における凝集物の発生を抑制するため、また、乳化安定性を得るために、上記のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤と、他の界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤)とを併用することが考えられる。しかし、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤と他の界面活性剤との併用を必須とすると、上述したような化粧料等への適用を考慮した場合、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を使用する意義が薄れてしまう。
そこで本発明は、水性樹脂エマルションの調製時に界面活性剤として1種単独で使用しても、凝集物の発生を抑制しうるN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いた水性樹脂エマルションを提供しようとするものである。
本発明は、界面活性剤、及び前記界面活性剤の存在下で単量体成分が重合した樹脂粒子を含有し、前記界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含む、水性樹脂エマルションを提供する。
本発明によれば、水性樹脂エマルションの調製時に界面活性剤として1種単独で使用しても、凝集物の発生を抑制しうるN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いた水性樹脂エマルションを提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
水性樹脂エマルションの調製時に使用される界面活性剤(乳化剤とも称される。)は、水性樹脂エマルション(それに含有される樹脂粒子)の合成に用いられる単量体成分を、界面活性剤からなるミセル中で重合させるために使用される。得られる水性樹脂エマルションには、通常、調製時に使用された界面活性剤が残存して含有され、その界面活性剤によって樹脂粒子がエマルション中に安定化されている。
一方、前述した化粧料、皮膚洗浄料、及び毛髪洗浄料等の分野では、直ぐに水洗いしないで皮膚や毛髪に残留する態様にて使用される乳化物があり、そのような乳化物に関しては、より低刺激性で保湿性の高い界面活性剤への代替化が有用となりうる。N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、水性樹脂エマルションを得るための乳化重合時に使用されることの多い界面活性剤に比べて、保湿性が高く、低刺激性であると考えられる。そこで、本発明者らは、例えば化粧料及び洗浄料等のように人の皮膚に適用される材料にも好適に利用しうるエマルションを得るために、単量体成分の重合時に使用する界面活性剤として、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の利用を検討した。
上記の検討過程において、複数種のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤をそれぞれ単独で重合時乳化剤として用いて検討を行ったところ、乳化重合自体は可能であるものが多いことがわかった。しかし、相対的に乳化力が弱く、重合時に凝集物が発生するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤があることがわかった。また、そのようなN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤はpH依存性が強く、それを重合時乳化剤として単独で用いて得られた水性樹脂エマルションは、人肌に近い弱酸性領域のpHで不溶化する傾向があり、乳化安定性が低下し、凝集物が多く発生する場合があることがわかった。せっかく、低刺激性なN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を水性樹脂エマルションの調製時に使用しても、多くの化粧品用途では、人肌に近い弱酸性領域のpHに調整して製品化されることが多いため、実用化においては上述の凝集物対策が大きな支障であったと考えられる。
上述のように、凝集物が比較的多く存在する水性樹脂エマルションは実用性に欠けることから、重合時の凝集物の発生を抑えるため、また、乳化安定性を得るために、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤と、他の界面活性剤(アニオン性、ノニオン性、又はカチオン性界面活性剤)との併用が考えられる。しかし、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤と他の界面活性剤との併用を必須とすると、化粧料等への適用を考慮した場合、せっかくN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を使用している意義が薄れてしまう。
また、上述の重合時の凝集物の発生原因は、樹脂粒子の原料として使用される単量体成分と、その重合に使用される重合開始剤に含まれうるイオン性官能基(例えば、カルボキシ基、スルホ基、又はアミノ基等)の影響によるものと考えられる。そこで、重合時の凝集物の発生を抑えるために、単量体成分や重合開始剤に含まれうるイオン性官能基の当量以上の官能基を有する界面活性剤を用いることが考えられる。しかし、そのような界面活性剤として、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を多量に使用するとコスト高につながるし、他の界面活性剤を併用するのでは、上記と同様、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の使用意義が薄れることとなる。
本発明者らは、鋭意検討の結果、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の分子構造において、N-アシル基を有するアミノ基における水素原子が他の基に置換された構造のものを用いれば、上述した凝集物の発生を効果的に抑制しうることを見出した。すなわち、上記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤として、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いる。これにより、重合時の凝集物の発生を抑制でき、かつ、pH4.5~6.5の人肌に近い弱酸性領域のpHに調整しても、凝集物の発生を抑えられて乳化安定性に優れる水性樹脂エマルションが得られることが見出され、本発明に至った。
その本発明の一実施形態の水性樹脂エマルション(以下、単に「樹脂エマルション」と記載することがある。)は、界面活性剤、及びその界面活性剤の存在下で単量体成分が重合した樹脂粒子を含有する。そして、界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含む。
本実施形態の樹脂エマルションは、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤(以下、「特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤」と記載することがある。)を含有する。そのため、この樹脂エマルションの調製時、すなわち、樹脂粒子の重合時において、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いることができる。この特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、上述の通り、樹脂エマルションの調製時に、界面活性剤としては1種単独で使用しても、重合時の凝集物の発生を抑制することができる。したがって、本技術により、樹脂エマルションの調製時に界面活性剤として1種単独で使用しても、凝集物の発生を抑制しうるN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いた樹脂エマルションを提供することができる。また、この樹脂エマルションは、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含有することにより、pH4.5~6.5の弱酸性領域のpHに調整した場合にも、凝集物の発生を抑えられ、乳化安定性に優れる。
樹脂エマルションには、N-アシル基が結合した第三級アミノ基(R-C(=O)-N(R’)-)を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いる。本明細書において、「N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤」とは、N-アシル基を有するアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤である。一般に、アミノ酸はアミノ基とカルボキシ基の両方を有する有機化合物である。また、一般に、タウリンは、カルボキシ基を有しないが、含硫アミノ酸から合成される。そのことから、本明細書において、「アミノ酸塩型」には、アミノ酸塩の構造のほか、タウリン塩の構造も含まれるものとする。好適なアミノ酸塩型の構造としては、アラニン塩型、グリシン塩型、プロリン塩型、及びタウリン塩型等の各構造を挙げることができる。
上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤における第三級アミノ基は、アシル基(アルカノイル基とも称される;R-C(=O)-)を有する。ここでいうN-アシル基を有する第三級アミノ基(R-C(=O)-N(R’)-)は、N-アシル基を有する第二級アミノ基(R-C(=O)-NH-)とは異なり、窒素原子に直接結合している水素原子を有しない第三級アミンの構造を有する基(上記R’≠Hの基)をいう。一般に、アミノ酸塩系のアニオン性界面活性剤は、脂肪酸、アミノ酸(又はタウリン)、及びアルカリ剤を合成することで製造されうる。上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤における第三級アミノ基(その窒素原子)は、アミノ酸又はタウリンに由来する基をとることができる。アシル基は、脂肪酸に由来する基をとることができる。
特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤におけるN-アシル基の炭素原子数は、6~20であることが好ましく、8~18であることがより好ましく、8~16であることがさらに好ましい。特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、N-アシル基の炭素原子数が異なる複数種を含んでいてもよい。好適なアシル基としては、例えば、ヘキサノイル基、カプリロイル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、及びオレオイル基、並びに混合脂肪酸由来のアシル基(例えば、ヤシ油脂肪酸由来のアシル基、及びパーム核油脂肪酸由来のアシル基等)等を挙げることができる。これらのなかでも、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、及びヤシ油脂肪酸由来のアシル基がより好ましい。なお、ヤシ油脂肪酸には、主成分として飽和脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、カプリル酸、カプリン酸、及びステアリン酸)、少量成分として一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)及び多価不飽和脂肪酸(リノール酸)が含まれる。そのため、ヤシ油脂肪酸由来のアシル基を有する特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤としては、当該アシル基の炭素原子数が8~18の範囲にあるものの混合物を用いることができる。
例えば一般式を用いて表すと、特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
Figure 0006998090000001
一般式(1)中、Rは脂肪族炭化水素基を表す。R及びRは、Rが炭素原子数1~4のアルキル基で、かつRが(CH(nは1又は2を表す。)で示される2価基を表すか、又はR及びRが互いに結合してそれらが結合している窒素原子と共に形成される炭素原子数2~6の複素環構造を表す。Aは-COOM又は-SOMを表し、Mは対イオンを表す。
で示される脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基、及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。Rで示される脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、5~19であることが好ましく、7~17であることがより好ましく、7~15であることがさらに好ましい。特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、一般式(1)で表される化合物として、Rで示される脂肪族炭化水素基の炭素原子数が異なる複数種の化合物を含んでいてもよい。好適な脂肪族炭化水素基としては、例えば、ペンチル基、ヘプチル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ヘプタデセニル基、ヤシ油脂肪酸由来の脂肪族炭化水素基、及びパーム核油脂肪酸由来の脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。これらのなかでも、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、及びヤシ油脂肪酸由来の脂肪族炭化水素基がより好ましい。
が炭素原子数1~4のアルキル基で、かつRが(CH(nは1又は2を表す。)で示される2価基を表す場合、Rで示される炭素原子数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、及びイソブチル基等を挙げることができる。これらのなかでも、メチル基が好ましい。この場合のRで示される2価基は、CH、及びCのいずれをとることもできる。また、R及びRが互いに結合してそれらが結合している窒素原子と共に形成される炭素原子数2~6の複素環構造としては、炭素原子数4の5員環構造が好ましい。R及びRは、Rがメチル基であり、かつRがCH(メチレン基)又はC(エチレン基)であることがさらに好ましい。
Aで示されるCOOMは対イオンMでイオン化されたカルボキシ基を表す。Aで示される-SOMは対イオンMでイオン化されたスルホ基を表す。Mで示される対イオンとしては、例えば、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属原子;1/2カルシウム及び1/2マグネシウム等の1/2アルカリ土類金属原子;アンモニウム;ジメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、及びトリエタノールアンモニウム等の有機アンモニウム;アルギニン及びリシン等のアミノ酸;タウリンナトリウム、タウリンカリウム、及びタウリントリエタノールアンモニウム等のタウリン塩;N-メチルタウリンナトリウム及びN-メチルタウリンカリウム等のN-メチルタウリン塩;等を挙げることができる。なかでも、アルカリ金属原子、有機アンモニウム、及びタウリン塩が好ましく、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアンモニウム、タウリンナトリウム、タウリンカリウム、タウリントリエタノールアンモニウムがより好ましい。
より好適な特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤としては、N-アシル-N-アルキル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤、N-アシル-N-アルキルグリシン塩型アニオン性界面活性剤、N-アシルプロリン塩型アニオン性界面活性剤、及びN-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
N-アシル-N-アルキル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤は、下記一般式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。N-アシル-N-アルキルグリシン塩型アニオン性界面活性剤は、下記一般式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。N-アシルプロリン塩型アニオン性界面活性剤は、下記一般式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤は、下記一般式(5)で表される化合物を含むことが好ましい。下記一般式(2)~(5)中のR、及びMは、好ましいものを含めて一般式(1)中のものと同義である。また、下記一般式(2)、(3)及び(5)中のRは炭素原子数1~4のアルキル基を表し、メチル基を表すことが好ましい。
Figure 0006998090000002
Figure 0006998090000003
Figure 0006998090000004
Figure 0006998090000005
N-アシル-N-アルキル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウロイルメチル-β-アラニンNa、ラウロイルメチル-β-アラニンK、ラウロイルメチル-β-アラニンTEA、ラウロイルメチル-β-アラニンタウリンNa、ラウロイルメチル-β-アラニンタウリンK、ラウロイルメチル-β-アラニンタウリンTEA、ミリストイルメチル-β-アラニンNa、ミリストイルメチル-β-アラニンK、ミリストイルメチル-β-アラニンTEA、及びココイルメチル-β-アラニンNa等を挙げることができる。
N-アシル-N-アルキルグリシン塩型アニオン性界面活性剤としては、アミノ酸としてサルコシン(別名:N-メチルグリシン)を用いて得られるものが挙げられる。その具体例としては、カプロイルサルコシンNa、カプロイルサルコシンK、カプロイルサルコシンTEA、ラウロイルサルコシンNa、ラウロイルサルコシンK、ラウロイルサルコシンTEA、ミリストイルサルコシンNa、ミリストイルサルコシンK、ミリストイルサルコシンTEA、パルミトイルサルコシンNa、パルミトイルサルコシンK、パルミトイルサルコシンTEA、ココイルサルコシンNa、ココイルサルコシンK、及びココイルサルコシンTEA等を挙げることができる。
N-アシルプロリン塩型アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウロイルプロリンNa、ラウロイルプロリンK、ラウロイルプロリンTEA、及びパルミトイルプロリンNa等を挙げることができる。
N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤の具体例としては、カプロイルメチルタウリンNa、カプロイルメチルタウリンK、カプロイルメチルタウリンTEA、ラウロイルメチルタウリンNa、ラウロイルメチルタウリンK、ラウロイルメチルタウリンTEA、ミリストイルメチルタウリンNa、ミリストイルメチルタウリンK、ミリストイルメチルタウリンTEA、ココイルメチルタウリンNa、ココイルメチルタウリンK、ココイルメチルタウリンMg、及びココイルメチルタウリンタウリンNa等を挙げることができる。
なお、上記の具体例の記載において、Naはナトリウム、Kはカリウム、TEAはトリエタノールアミン、Mgはマグネシウム、ココイルはヤシ油脂肪酸由来のアシル基を意味する。
上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、N-アシル-N-アルキル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤、N-アシル-N-アルキルグリシン塩型アニオン性界面活性剤、及びN-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらのN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は入手しやすいうえに、それらを用いることで、目的とする樹脂エマルションを得やすくなる。
上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤を含むことが特に好ましい。N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤は、第三級アミノ基において、N-アシル基及びN-アルキル基(好ましくはメチル基)に加えて、含硫アミノ酸由来のスルホ基を有する。このN-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤を用いることにより、より広い酸性pH領域(pH2.0~6.5)でも乳化安定性に優れた樹脂エマルションを得やすくなる。
樹脂エマルションは、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を含有してもよい。他の界面活性剤を併用する場合、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を使用する意義を維持し、かつ、重合時の凝集物の発生を抑えられるようにすることが好ましい。その観点から、樹脂エマルション中の界面活性剤の含有量に対する上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の含有量は、界面活性剤の全質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、特に好ましくは100質量%である。ただし、樹脂エマルションは、他の界面活性剤の含有を許容しうることから、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の含有量は、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがよりさらに好ましい。
また、目的とする樹脂エマルションが得られやすい観点から、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の含有量は、樹脂粒子を形成する単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましい。この含有量(質量部)は、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましい。また、上記含有量(質量部)は、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることがよりさらに好ましい。
樹脂エマルションは、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の存在下で単量体成分が重合した樹脂粒子を含有する。目的とする樹脂エマルションが得られやすいことから、樹脂粒子は、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤からなるミセル中で単量体成分が重合したものであることが好ましい。
本明細書において、重合性単量体とは、分子中に重合性二重結合(例えば炭素-炭素二重結合)及び重合性三重結合(例えば炭素-炭素三重結合)等の重合性不飽和結合を有するラジカル重合可能な単量体を意味する。重合性不飽和結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、3-ブテニル基、及びエチニル基等を挙げることができるが、ラジカル重合しうる基であれば、これらに限定されない。
以下、樹脂粒子を形成する単量体成分について説明する。単量体成分は、重合性単量体の1種又は2種以上である。なお、以下の各重合性単量体の説明において、特に断りのない限り、当該説明中の重合性単量体は、いずれも1種又は2種以上を用いることができるものである。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。
単量体成分は、目的とする樹脂エマルションが得られれば特に制限されない。乳化安定性が良好な樹脂エマルションを製造しやすいことから、単量体成分は、後述する親水性基を有する重合性単量体(以下、「親水性基含有単量体」と記載することがある。)、及びそれ以外の重合性単量体を含むことが好ましい。したがって、樹脂粒子は、親水性基含有単量体以外の重合性単量体に由来する構造単位、及び親水性基含有単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。本明細書において、「構造単位」とは、樹脂粒子を形成する重合性単量体の単位を意味する。「(単量体に)由来する構造単位」とは、例えば、当該重合性単量体における重合性二重結合(C=C)が開裂して単結合(-C-C-)となった構造単位等が挙げられる。
親水性基含有単量体以外の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン系単量体;アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン及びイソプレン等のジエン系単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル及びエチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;ビニルアルコール及びアリルアルコール等の不飽和アルコール単量体;塩化ビニル及びフッ化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;N-ビニルモルホリン、4-ビニルピリジン、及び1-ビニルイミダゾール等の窒素原子含有ビニル単量体;等を挙げることができる。それらのなかでも、(メタ)アクリル酸エステル、及びスチレン系単量体が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アリールエステル、並びにそれら以外の他の(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。これらのなかでも、炭素原子数が1~18(より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8)のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2-クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-,p-メチルスチレン、o-,m-,p-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、o-,m-,p-メトキシスチレン、o-,m-,p-エトキシスチレン、o-,m-,p-クロロスチレン、o-,m-,p-ブロモスチレン、o-,m-,p-フルオロスチレン、及びo-,m-,p-クロロメチルスチレン等を挙げることができる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。
樹脂粒子を形成する単量体成分は、重合性単量体として、親水性基を有する重合性単量体を含有することが好ましい。本明細書において、「親水性基」とは、水との間に親和性を示す基をいい、水中で電離してイオンになる基、及び水素結合で水和する基を含む。親水性基としては、例えば、酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、及びポリオキシエチレン基等を挙げることができる。親水性基含有単量体は、1種又は2種以上の親水性基を有していてもよいし、1分子中に1種の親水性基を2以上有していてもよい。
親水性基含有単量体としては、例えば、酸基を有する重合性単量体、ヒドロキシ基を有する重合性単量体、アミノ基を有する重合性単量体、アミド基を有する重合性単量体、及びポリオキシエチレン基を有する重合性単量体等を挙げることができる。
酸基を有する重合性単量体(以下、「酸基含有単量体」と記載することがある。)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体、並びにイタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、及びマレイン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等のカルボキシ基含有単量体;スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3-スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基含有単量体;並びに2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基含有単量体等を挙げることができる。また、酸基含有単量体としては、水に溶解した際にカルボキシ基等の親水性基を生じるものでもよく、例えば、無水マレイン酸、及びイタコン酸無水物等の不飽和カルボン酸の無水物も挙げることができる。
ヒドロキシ基を有する重合性単量体(以下、「ヒドロキシ基含有単量体」と記載することがある。)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸アリールエステル;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の末端にヒドロキシ基を有するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;o-,m-,p-ヒドロキシスチレン等のヒドロキシ基を有するスチレン系単量体;等を挙げることができる。
アミノ基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。
アミド基を有する重合性単量体(以下、「アミド基含有単量体」と記載することがある。)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、及び4-メタクリロイルモルホリン等のN-置換基を有していてもよい(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、並びにN-ビニル-2-ピロリドン等を挙げることができる。
ポリオキシエチレン基を有する重合性単量体としては、例えば、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の末端にアルコキシ基を有するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
親水性基含有単量体のなかでも、上記の酸基含有単量体、ヒドロキシ基含有単量体、及びアミド基含有単量体が好ましい。それらのなかでも、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、及びN-置換基を有してもよい(メタ)アクリルアミドがより好ましい。
樹脂粒子を形成する単量体成分には、重合性単量体として、架橋剤としての機能を有し得る多官能タイプの重合性単量体(以下、「架橋性単量体」と記載することがある。)を用いることも可能である。架橋性単量体には、重合性不飽和結合を2以上有する重合性単量体を用いることができる。
架橋性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;並びにジアリルフタレート等が挙げられる。
また、単量体成分としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることもできる。
上述した単量体成分に関し、目的とする樹脂エマルションを得やすい観点から、以下に述べる各群の重合性単量体を所定量用いることが好ましい。すなわち、単量体成分は、親水性基を有する重合性単量体(A)0.1~20質量%、並びにその重合性単量体(A)以外の重合性単量体80~99.9質量%を含むことが好ましい。上記の各群の重合性単量体の含有量(質量%)は、樹脂粒子の形成に用いられる単量体成分の全質量を基準とした割合である。
上記親水性基含有単量体(A)以外の重合性単量体は、炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシルメタクリレート、及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体(B)であることが好ましい。上記親水性基含有単量体(A)以外の重合性単量体(好ましくは上記重合性単量体(B))の含有量は、単量体成分の全質量を基準として、85~99.9質量%であることがより好ましく、90~99.8質量%であることがさらに好ましく、95~99.8質量%であることがよりさらに好ましい。
また、目的とする樹脂エマルションをさらに得やすくなることから、以下に述べる各群の重合性単量体を所定量用いることがさらに好ましい。すなわち、単量体成分は、単量体成分の全質量を基準として、親水性基を有する重合性単量体(A)0.1~20質量%;メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体(B-1)14~85質量%;並びに炭素原子数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(B-2)14~85質量%;を含むことがさらに好ましい。
上記親水性基含有単量体(A)の含有量は、単量体成分の全質量を基準として、0.1~15質量%であることがより好ましく、0.2~10質量%であることがさらに好ましく、0.2~5質量%であることがよりさらに好ましい。上記親水性基含有単量体(A)は、(メタ)アクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、及びアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、上記の重合性単量体(B-1)の含有量は、15~75質量%であることがより好ましく、20~70質量%であることがさらに好ましい。上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(B-2)の含有量は、20~80質量%であることがより好ましく、25~75質量%であることがさらに好ましい。
樹脂エマルションにおける樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、-70~100℃であることが好ましく、-50~50℃であることがより好ましく、-30~30℃であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、当該樹脂粒子が単独重合体である場合には、示差走査熱量測定(DSC)による値をとることができる。また、当該樹脂粒子が共重合体である場合には、上記単独重合体のTgを用いて、以下のFOX式(I)から求められる理論値をとることができる。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・W/Tg ・・・(I)
上記式(I)中、Tgは、n種の単量体成分(単量体1~n)の重合体(共重合体)のガラス転移温度(単位:K)を表す。W、W、・・・Wは、n種の単量体成分の総量に対する各単量体(1、2、・・・n)の質量分率を表し、Tg、Tg、・・・Tgは、各単量体(1、2、・・・n)の単独重合体のガラス転移温度(単位:K)を表す。
樹脂粒子の含有量は、樹脂エマルションの全質量を基準として、10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。樹脂粒子の質量は、樹脂粒子の形成に使用された単量体成分の質量に基づいて求めることができる。
樹脂エマルションは、分散質である前述の樹脂粒子の分散媒として、水性媒体を含有することができる。水性媒体は、少なくとも水を含む液状媒体であり、水のみを使用してもよいし、水、及び水と混じり合うことができる有機溶剤のうちの1種又は2種以上を含む混合溶剤を用いてもよい。水には、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、及びN-メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されない。水性媒体としては、水を主成分として用いることが好ましく、水性媒体の全質量を基準として、水を50~100質量%用いることがより好ましい。
水性媒体の含有量は、樹脂エマルションの全質量を基準として、50~90質量%であることが好ましく、55~85質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。
また、樹脂エマルションは、必要に応じて、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤、樹脂エマルションに配合される界面活性剤及び乳化剤、並びに分散剤、金属化合物、可塑剤、発泡剤、滑剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、架橋剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、防黴剤、殺菌剤、防錆剤、難燃剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、及びブロッキング防止剤等を挙げることができる。これらの添加剤の1種又は2種以上を用いてもよい。
樹脂エマルションについて測定される平均粒子径、すなわち、樹脂粒子の平均粒子径は、30~900nmであることが好ましく、60~600nmであることがより好ましく、90~300nmであることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)を意味する。動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて、平均粒子径を測定することができる。
樹脂エマルションの不揮発分(固形分)は、樹脂エマルションの全質量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションの不揮発分(固形分)は、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができる。
樹脂エマルションのpHは、5.0~10.0であることが好ましく、5.5~8.5であることがより好ましく、6.0~8.0であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションのpHは、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができ、25℃での値である。
樹脂エマルションの25℃での粘度は、1000mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましく、50mPa・s以下であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションの25℃での粘度は、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して、回転速度10rpmの条件下、回転粘度計を用いて測定される値をとることができる。
上述した樹脂エマルションは、以下に述べる本発明の一実施形態の水性樹脂エマルションの製造方法によって得られたものであることが好ましい。その水性樹脂エマルションの製造方法は、界面活性剤の存在下で単量体成分を重合させて、単量体成分が重合した樹脂粒子を含有する水性樹脂エマルションを製造する方法である。この製造方法で用いる界面活性剤は、前述の通り、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含む。
上記製造方法では、水等の水性媒体中で、樹脂粒子を形成する1種又は2種以上の重合性単量体(単量体成分)を乳化重合させる方法を採ることが好ましい。具体的には、水性媒体、単量体成分、重合開始剤、及び界面活性剤等を一括混合して乳化重合を行う方法;水性媒体、単量体成分、及び界面活性剤を含有する単量体乳化物(プレエマルション)を用いて乳化重合を行う方法;等を採ることができる。これらのなかでも、プレエマルションを用いて乳化重合を行う方法が好ましい。より具体的には、水性媒体、単量体成分、及び界面活性剤を予め混合して調製したプレエマルションと、重合開始剤とをそれぞれ、別途用意された水性媒体に滴下し、その水性媒体中で単量体成分を乳化重合させる方法や、重合開始剤を添加した水性媒体に上記プレエマルションを滴下して、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させる方法等がより好ましい。プレエマルションや重合開始剤等の添加(滴下)方法も特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法を採ることができ、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
樹脂粒子を得る際の重合温度及び重合時間等の重合条件は、使用する重合性単量体、及び重合開始剤等の種類並びにそれらの使用量等に応じて、適宜決めることができる。例えば、重合温度は、20~100℃程度の範囲が好ましく、より好ましくは40~90℃程度の範囲であり、また、重合時間は、1~15時間程度の範囲が好ましい。
界面活性剤としては、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を少なくとも用いる。この特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、好ましいものを含めて、前述した通りである。この特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の使用量は、単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましく、1~5質量部であることがよりさらに好ましい。
本製造方法では、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を使用してもよい。他の界面活性剤を併用する場合、N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を使用する意義を維持し、かつ、重合時の凝集物の発生を抑えられるようにすることが好ましい。その観点から、界面活性剤の全使用量に対する上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の使用量は、使用する界面活性剤の全質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、特に好ましくは100質量%である。ただし、他の界面活性剤の使用を許容しうることから、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の使用量は、使用する界面活性剤の全質量を基準として、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがよりさらに好ましい。
他の界面活性剤としては、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤以外のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤を挙げることができる。アニオン性界面活性剤には、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤以外のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤、すなわち、N-アシル基を有する第二級アミノ基(R-C(=O)-NH-)を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤が含まれる。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、及び過酸化水素等の過酸化物、並びにアゾ化合物等を挙げることができ、1種又は2種以上の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤の使用量は、上記の単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~1質量部程度とすることが好ましい。
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル及びジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシラウレート及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド及びt-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を挙げることができる。アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩及び4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等を挙げることができる。還元剤の具体例としては、アスコルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、重亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、並びに鉄(II)塩等を挙げることができる。
樹脂粒子を合成する際には、その樹脂粒子の分子量を調整するために、公知の連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、ヘキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、及びn-,又はt-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類等を用いることができる。
樹脂エマルションを製造する際には、単量体成分を重合させて樹脂粒子を得た後、中和剤により、中和することが好ましい。中和により、エマルションが安定化されることになる。中和剤としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等の有機アミン類等を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。
以上のようにして樹脂エマルションを製造することができる。得られた樹脂エマルションに、前述の添加剤を添加してもよい。また、例えば、上記の中和剤やpH調整剤等の添加により、樹脂エマルションのpHを調整することが可能であり、水や各種添加剤の添加により、樹脂エマルションの不揮発分や粘度を調整することが可能である。
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の水性樹脂エマルションは、N-アシル基が結合した第三級アミノ基を有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含有する。その界面活性剤を樹脂エマルションの調製時に1種単独で使用しても凝集物の発生を抑制することが可能であることから、凝集物の発生を抑制しうるN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いた樹脂エマルションを提供することができる。しかも、この樹脂エマルションは、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含有するため、pH4.5~6.5の人肌に近い弱酸性領域のpHに調整した場合にも、凝集物の発生を抑えられ、優れた乳化安定性を有する。さらに、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤として、N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤を用いることにより、pH4.5未満を含むより広い酸性pH領域(pH2.0~6.5)でも乳化安定性に優れた樹脂エマルションを得ることが可能となる。
上述のような利点から、上記の樹脂エマルションを、例えば、化粧料や洗浄料等に利用することで、染色繊維、シルク繊維、毛髪、及び皮膚等に対して、刺激がより少なく、安全性の高い製品を提供することが可能となる。よって、この樹脂エマルションは、一般的な樹脂エマルションの用途として挙げられる、塗料、インク、及び粘着剤等のほか、化粧料、洗浄料、整髪料、及び皮膚外用剤、並びに創傷被覆材、サージカルテープ、ドレッシングテープ、及びパップ剤等のような医療用や皮膚用の貼付剤等に好適であり、さらに幅広い用途展開が期待できる。
なお、本発明の一実施形態の水性樹脂エマルションは、以下の構成を採ることができる。
[1]界面活性剤、及び前記界面活性剤の存在下で単量体成分が重合した樹脂粒子を含有し、前記界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含む、水性樹脂エマルション。
[2]前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、前掲の一般式(1)で表される化合物を含む、上記[1]に記載の水性樹脂エマルション。
[3]前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、N-アシル-N-アルキル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤、N-アシル-N-アルキルグリシン塩型アニオン性界面活性剤、及びN-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、上記[1]又は[2]に記載の水性樹脂エマルション。
[4]前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の水性樹脂エマルション。
[5]前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の含有量は、前記単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~20質量部である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の水性樹脂エマルション。
[6]前記樹脂粒子は、前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤からなるミセル中で前記単量体成分が重合したものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の水性樹脂エマルション。
[7]前記単量体成分は、前記単量体成分の全質量を基準として、親水性基を有する重合性単量体(A)0.1~20質量%、並びに前記重合性単量体(A)以外の重合性単量体として、炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシルメタクリレート、及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体(B)80~99.9質量%を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の水性樹脂エマルション。
[8]前記単量体成分は、前記単量体成分の全質量を基準として、親水性基を有する重合性単量体(A)0.1~20質量%;メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体(B-1)14~85質量%;並びに炭素原子数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(B-2)14~85質量%;を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の水性樹脂エマルション。
[9]界面活性剤の存在下で単量体成分を重合させて、前記単量体成分が重合した樹脂粒子を含有する水性樹脂エマルションを製造する方法であって、前記界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含む、水性樹脂エマルションの製造方法。
以下、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<樹脂エマルションの製造>
実施例及び比較例では、下記表1に示す界面活性剤A~Gを使用した。界面活性剤A~Gには、有効成分として当該界面活性剤を含有する水性液状の界面活性剤溶液の市販製品(以下、界面活性剤A(B~G)溶液と記載することがある。)を用いた。後述する界面活性剤の使用量は、界面活性剤溶液としての市販製品の使用量である。
Figure 0006998090000006
実施例及び比較例では、樹脂粒子を形成する重合性単量体として、以下に示す重合性単量体を用いた(後記表2では、各単量体の表記で示す)。以下に示す重合性単量体の括弧内のTgは、当該重合性単量体の単独重合体のガラス転移温度を表す。後記表2中のTgは、各重合性単量体のTg、及び単量体成分中の質量分率に基づき、前述のFOX式(I)により算出した樹脂粒子のTg(理論値)である。
MMA:メチルメタクリレート(Tg:105℃)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(Tg:83℃)
ST:スチレン(Tg:100℃)
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(Tg:-70℃)
BA:n-ブチルアクリレート(Tg:-55℃)
EA:エチルアクリレート(Tg:-22℃)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg:55℃)
MAAC:メタクリル酸(Tg:185℃)
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート(Tg:-15℃)
AAC:アクリル酸(Tg:105℃)
AM:アクリルアミド(Tg:165℃)
(実施例1)
メチルメタクリレート(MMA)27.0質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)71.0質量部、及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)2.0質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)、イオン交換水62.0質量部、並びに界面活性剤A溶液(有効成分:ラウロイルメチル-β-アラニンナトリウム30質量%)10.0質量部(有効成分:3.0質量部)を混合及び撹拌して、単量体乳化物(プレエマルション)を調製した。
撹拌機、温度計、及び還流コンデンサー付の容量1Lの4つ口丸底フラスコに、イオン交換水85.0質量部を入れ、撹拌下に窒素置換しながら80℃まで昇温した。そして、フラスコ内の液温を80℃に保ちながら、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.2質量部を添加して溶解後、予め調製した上記プレエマルションを約2時間かけて滴下し、単量体成分を重合させた。プレエマルションの滴下終了後、さらに80℃で約6時間熟成させた後、室温(約25℃)まで冷却した。得られたエマルションに5質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、エマルションのpHを7~8に調整した後、凝集物を除去する目的で120メッシュの金網を用いて濾過をして、水性樹脂エマルションを得た。
(実施例2~12及び比較例1~5)
実施例1で使用した重合性単量体及び界面活性剤溶液のそれぞれの種類及び使用量、並びにプレエマルションの調製に使用したイオン交換水の使用量を、表2(表2-1~表2-3)の上段に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2~12及び比較例1~5の水性樹脂エマルションを製造した。
<評価>
(pH)
JIS K6833-1:2008の規定に準拠し、pHメーター(東亜ディーケーケー社製、商品名「pHメーター HM-41X」)を用いて、製造した各水性樹脂エマルションの25℃でのpHを測定した。
(不揮発分)
JIS K6833-1:2008の規定に準拠し、乾燥温度140℃、乾燥時間0.5時間の条件で、製造した各水性樹脂エマルションの不揮発分(固形分)を測定した。
(平均粒子径)
各水性樹脂エマルションについて、樹脂粒子の動的光散乱法による平均粒子径(nm)を測定した。具体的には、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(商品名「濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000」、大塚電子株式会社製)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)を平均粒子径として求めた。
(粘度)
JIS K6833-1:2008の規定に準拠し、BM型回転粘度計(東機産業社製、BMII形粘度計)を用いて、回転速度30rpm、温度25℃の条件で、製造した各水性樹脂エマルションの粘度を測定した。
(重合後の乳化安定性)
上述した水性樹脂エマルションを製造するに当たり、乳化重合の終了後に、上記の120メッシュの金網を用いて濾過したときの金網上に残渣として分離された凝集物の有無を確認し、また、凝集物があった場合にその乾燥後の質量を測定し、以下の評価基準にしたがって、重合後の乳化安定性を評価した。評価結果がAである場合(分離された凝集物がない場合)、重合時の凝集物の発生を抑制できる効果に優れるといえる。
A:凝集物がない。
B:凝集物が多少ある(水性樹脂エマルションの全質量に対して5質量%未満)。
C:凝集物が多い(水性樹脂エマルションの全質量に対して5質量%以上)。
(pH5.5での乳化安定性)
製造した各水性樹脂エマルション(上述した濾過後に濾液として得られた水性樹脂エマルション)にクエン酸を添加し、水性樹脂エマルションのpHを弱酸性領域であるpH5.5に調整した。pH5.5に調整した後の水性樹脂エマルションを再度120メッシュの金網で濾過したときの金網上に残渣として分離された凝集物の有無を確認し、また、凝集物があった場合にその乾燥後の質量を測定し、以下の評価基準にしたがって、弱酸性領域のpH5.5に調整したときの乳化安定性を評価した。評価結果がAA又はAである水性樹脂エマルションは、人肌に近い弱酸性領域のpHに調整しても、凝集物の発生を抑えられて乳化安定性に優れるといえる。
AA:凝集物がない。
A :凝集物がほとんどない(水性樹脂エマルションの全質量に対して0.2質量%未満)。
B :凝集物が多少ある(水性樹脂エマルションの全質量に対して0.2質量%以上5質量%未満)。
C :凝集物が多い(水性樹脂エマルションの全質量に対して5質量%以上)。
(pH2.0での乳化安定性)
上述の「pH5.5での乳化安定性」の評価結果がAAであった水性樹脂エマルションについて、さらにpHを酸性に調整したときの乳化安定性を評価した。具体的には、水性樹脂エマルションにさらにクエン酸を添加し、水性樹脂エマルションのpHを強酸性領域であるpH2.0に調整した。pH2.0に調整した後の水性樹脂エマルションを再度120メッシュの金網で濾過したときの金網上に残渣として分離された凝集物の有無を確認し、また、凝集物があった場合にその乾燥後の質量を測定し、以下の評価基準にしたがって、強酸性領域のpH2.0に調整したときの乳化安定性を評価した。評価結果がAである水性樹脂エマルションは、より広い酸性pH領域でも凝集物の発生を抑えられ、乳化安定性にさらに優れるといえる。
A:凝集物がない。
B:凝集物が多少ある(水性樹脂エマルションの全質量に対して5質量%未満)。
C:凝集物が多い(水性樹脂エマルションの全質量に対して5質量%以上)。
(引張試験)
上記の「pH5.5での乳化安定性」の評価結果がAA又はAであったpH5.5に調整した各水性樹脂エマルションについて皮膜を作製し、その皮膜について引張試験を行った。具体的には、pH5.5に調整した水性樹脂エマルションを70℃で16時間加熱乾燥させることを経て、幅10mm、長さ60mm、厚さ0.3mmの皮膜を作製した。その皮膜について、引張試験機(商品名「テンシロン万能試験機 RTG-1210」、株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下、引張試験を行い、引張強さ(破断に至るまでの最大応力;MPa)及び伸び(破断伸度;%)を測定した。引張試験の条件は、引張速度200mm/分、チャック間距離20mmとした。
以上の評価結果を表2の下段に示す。なお、表2中の「粘度(mPa・s/25℃)」欄の記載における「50>」は、測定下限値である50mPa・s未満であったことを表す。また、表2中の界面活性剤A~G溶液の各欄中の括弧内は、当該界面活性剤溶液中の有効成分濃度を表す。
Figure 0006998090000007
Figure 0006998090000008
Figure 0006998090000009
実施例及び比較例の結果から、水性樹脂エマルションの調製時に使用する界面活性剤として、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を用いることにより、重合時の凝集物の発生を抑制できることが確認された。この効果は、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を1種単独で使用しても得られることが確認された。また、実施例1~12の水性樹脂エマルションは、上記特定のN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含有するため、弱酸性領域のpHに調整しても、凝集物の発生を抑えられ、乳化安定性に優れることが認められた。さらに、実施例3、4及び7~12の水性樹脂エマルションは、N-アシル-N-アルキルタウリン塩型アニオン性界面活性剤を含有するため、より広い酸性領域のpHに調整しても、凝集物の発生を抑えられ、乳化安定性にさらに優れることが認められた。

Claims (5)

  1. 界面活性剤、及び前記界面活性剤の存在下でラジカル重合可能な単量体成分が重合した樹脂粒子を含有し、
    前記界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含み、
    前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の含有量は、前記界面活性剤の全質量を基準として、50質量%以上であり、かつ、前記単量体成分の総量100質量部に対して、0.5~20質量部であ
    前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、ラウロイルメチル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤、ココイルサルコシン塩型アニオン性界面活性剤、ココイルメチルタウリン塩型アニオン性界面活性剤、及びカプロイルメチルタウリン塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、水性樹脂エマルション。
  2. 前記樹脂粒子は、前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤からなるミセル中で前記単量体成分が重合したものである、請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
  3. 前記単量体成分は、前記単量体成分の全質量を基準として、親水性基を有する重合性単量体(A)0.1~20質量%、並びに前記重合性単量体(A)以外の、前記重合性単量体(A)と共重合する重合性単量体として、炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシルメタクリレート、及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体(B)80~99.9質量%を含む、請求項1又は2に記載の水性樹脂エマルション。
  4. 前記単量体成分は、前記単量体成分の全質量を基準として、親水性基を有する重合性単量体(A)0.1~20質量%;並びに前記重合性単量体(A)以外の、前記重合性単量体(A)と共重合する重合性単量体として、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体(B-1)14~85質量%、及び炭素原子数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(B-2)14~85質量%;を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂エマルション。
  5. 界面活性剤の存在下でラジカル重合可能な単量体成分を重合させて、前記単量体成分が重合した樹脂粒子を含有する水性樹脂エマルションを製造する方法であって、
    前記界面活性剤は、N-アシル基を有する第三級アミノ基を含有するN-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤を含み、
    前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤の使用量は、前記界面活性剤の全質量を基準として、50質量%以上であり、かつ、前記単量体成分の総量100質量部に対して、0.5~20質量部であ
    前記N-アシルアミノ酸塩型アニオン性界面活性剤は、ラウロイルメチル-β-アラニン塩型アニオン性界面活性剤、ココイルサルコシン塩型アニオン性界面活性剤、ココイルメチルタウリン塩型アニオン性界面活性剤、及びカプロイルメチルタウリン塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、水性樹脂エマルションの製造方法。
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