以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る緩衝器Dは、正立型の複筒型緩衝器であり、自動車等の車両に搭載されている。以下、特別な説明がない限り、車両に取り付けられた状態での本実施の形態に係る緩衝器Dの上下を、単に、緩衝器Dの「上」「下」という。
上記緩衝器Dは、取付状態において軸方向の一端を上側へ向け、他端を下側へ向けて配置されるシリンダ1と、このシリンダ1の外周に設けられる有底筒状の外筒10と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、下端がピストン2に連結されて上端がシリンダ1外へ突出するピストンロッド20とを備える。
図示しないが、シリンダ1外へ突出するピストンロッド20の上端には、車体側ブラケットが連結されており、ピストンロッド20がその車体側ブラケットを介して車両の車体に連結される。また、図示しないが、外筒10の底部となるボトムキャップ11の下側には、車輪側ブラケットが連結されており、外筒10がその車輪側ブラケットを介して車両の車軸に連結される。シリンダ1は外筒10内に固定されているので、シリンダ1も外筒10と同じく車軸に連結されるといえる。
このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド20がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮し、ピストン2がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
また、緩衝器Dは、シリンダ1の上端に嵌合してピストンロッド20を摺動自在に支える環状のロッドガイド3と、このロッドガイド3の上側に積層される環状のシール部材30とを備える。そして、ロッドガイド3の内周には、環状のブッシュ31が嵌合されており、そのブッシュ31の内周をピストンロッド20の外周に摺接させている。
このように、本実施の形態では、ロッドガイド3がブッシュ31を介してピストンロッド20を摺動自在に支えつつ、シリンダ1の上端を塞ぐようになっている。さらに、シリンダ1から上方へ突出するロッドガイド3の外周部(後述の大径部3b(図2))が外筒10側へ張り出しており、外筒10の上端もロッドガイド3で塞がれる。
そのロッドガイド3に積層されるシール部材30は、ピストンロッド20の外周に摺接する環状のリップ部30aと、外筒10の内周に密着する環状の外周シール部30bとを有し、ピストンロッド20の外周と外筒10の内周を液密にシールする。
このように、ロッドガイド3とシール部材30とでシリンダ1及び外筒10の上端が液密に塞がれる一方、外筒10の下端は前述のボトムキャップ11で液密に塞がれており、シリンダ1の内側を含む外筒10の内側が外気と区画されている。そして、その外筒10の内側に液体及び気体が封入されている。
なお、ロッドガイド3とシール部材30の構成は、それぞれ適宜変更できる。例えば、ブッシュ31を廃し、ロッドガイド3でピストンロッド20を直接支えるようにしてもよい。また、リップ部30aと外周シール部30bを個別に形成してそれぞれをロッドガイド3に装着してもよい。
つづいて、緩衝器Dは、シリンダ1の下端に嵌合し、シリンダ1とボトムキャップ11とで挟まれて固定されるバルブケース4を備えている。そして、シリンダ1の内周側であってロッドガイド3とバルブケース4との間をシリンダ1内とすると、そのシリンダ1内には作動油等の液体が充填されている。
また、そのシリンダ1内は、ピストン2で伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。伸側室R1は、ピストン2で区画された二室のうち、緩衝器Dの伸長時にピストン2の進行方向にある室である。本実施の形態では、その伸側室R1がピストン2の上側に位置して、その中心部をピストンロッド20が貫通する。その一方、圧側室R2は、ピストン2で区画された二室のうち、緩衝器Dの収縮時にピストン2の進行方向にある室である。本実施の形態では、その圧側室R2がピストン2の下側に位置する。
そして、上記ピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側通路2aと圧側通路2bが形成されている。さらに、ピストン2の下側には、伸側通路2aの出口を開閉する伸側バルブV1が積層されており、ピストン2の上側には、圧側通路2bの出口を開閉する圧側バルブV2が積層されている。
伸側バルブV1は伸側減衰要素であり、緩衝器Dの伸長時に開いて伸側通路2aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるとともに、収縮時には閉じてその逆向きの流れを阻止する。その一方、圧側バルブV2はチェックバルブであり、緩衝器Dの収縮時に開いて圧側通路2bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れを許容するが、伸長時には閉じてその逆向きの流れを阻止する。
つづいて、シリンダ1と外筒10との間の筒状の隙間には、液溜室R3が形成されている。この液溜室R3には、シリンダ1内の液体と同じ液体が貯留されるとともに、その液面上方にエア又は窒素ガス等の気体が封入されている。シリンダ1の下端に嵌合するバルブケース4には切欠き4aが形成されており、その切欠き4aにより液溜室R3の液体がバルブケース4の下側へと回る。
また、上記バルブケース4には、圧側室R2と液溜室R3とを連通する吸込通路4bと排出通路4cが形成されている。さらに、バルブケース4の上側には、吸込通路4bの出口を開閉する吸込バルブV3が積層されており、バルブケース4の下側には、排出通路4cの出口を開閉する減衰バルブV4が積層されている。
吸込バルブV3は、チェックバルブであり、緩衝器Dの伸長時に開いて吸込通路4bを液溜室R3から圧側室R2へ向かう液体の流れを許容するが、収縮時には閉じてその逆向きの流れを阻止する。その一方、減衰バルブV4は、圧側減衰要素であり、緩衝器Dの収縮時に開いて排出通路4cを圧側室R2から液溜室R3へ向かう液体の流れに抵抗を与えるとともに、伸長時には閉じてその逆向きの流れを阻止する。
上記構成によれば、ピストンロッド20がシリンダ1から退出する緩衝器Dの伸長時には、ピストン2がシリンダ1内を上方へ移動して伸側室R1を圧縮する。この緩衝器Dの伸長時には、伸側室R1の液体が伸側バルブV1を押し開き、伸側通路2aを通って圧側室R2へ移動する。当該液体の流れに対しては伸側バルブV1により抵抗が付与される。このため、緩衝器Dの伸長時には伸側室R1の圧力が上昇し、緩衝器Dが伸長作動を妨げるメインの伸側減衰力を発揮する。
また、緩衝器Dの伸長時には、吸込バルブV3が開き、シリンダ1から退出したピストンロッド20体積分の液体が吸込通路4bを通って液溜室R3から圧側室R2へ供給される。このため、緩衝器Dの伸長時にピストンロッド20がシリンダ1から退出した分シリンダ1内容積が大きくなっても、その容積変化が液溜室R3で補償される。
反対に、ピストンロッド20がシリンダ1内へ侵入する緩衝器Dの収縮時には、ピストン2がシリンダ1内を下方へ移動して圧側室R2を圧縮する。この緩衝器Dの収縮時には、圧側バルブV2が開き、圧側室R2の液体が圧側通路2bを通って伸側室R1へ移動する。前述のように、圧側バルブV2はチェックバルブであるので、緩衝器Dの収縮時には伸側室R1と圧側室R2の圧力が略等しくなる。
さらに、緩衝器Dの収縮時には、圧側室R2の液体が減衰バルブV4を押し開き、シリンダ1内へ侵入したピストンロッド20体積分の液体が排出通路4cを通って圧側室R2から液溜室R3へ排出される。当該液体の流れに対しては減衰バルブV4により抵抗が付与される。このため、緩衝器Dの収縮時にはシリンダ1内の圧力が上昇し、緩衝器Dが収縮作動を妨げるメインの圧側減衰力を発揮する。また、緩衝器Dの収縮時にピストンロッド20がシリンダ1内に侵入した分シリンダ1内容積が小さくなっても、その容積変化が液溜室R3で補償される。
このように、本実施の形態では、伸側バルブV1が伸側減衰力を発揮するための伸側減衰要素として機能し、減衰バルブV4が圧側減衰力を発揮するための圧側減衰要素として機能する。そして、各減衰要素を設けた通路が一方通行とされているので、伸側減衰力と圧側減衰力を個別に設定できる。しかし、減衰要素の構成と、その減衰要素を設ける通路の構成は、それぞれ適宜変更できる。
例えば、本実施の形態において、各減衰要素はリーフバルブであるが、ポペットバルブ等であってもよく、双方向流れを許容するオリフィス又はチョーク通路であってもよい。また、圧側バルブV2を圧側減衰要素に替えて、圧側通路2bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに抵抗を与えてもよい。
さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ロッド・複筒型となっていて、液溜室R3がシリンダ1に出入りするピストンロッド20の体積補償をするためのリザーバ室として機能する。そして、シリンダ1と外筒10とでそのリザーバ室を形成するためのリザーバタンクを構成している。しかし、緩衝器Dの様式は適宜変更できる。
例えば、外筒10を廃してシリンダ1とは別置き型のリザーバタンクを設けてもよい。また、外筒10を廃してシリンダ1内に膨縮可能な気室を設け、この気室でシリンダ1に出入りするピストンロッド20の体積補償をしてもよい。この場合には、緩衝器を単筒型にできる。さらに、ピストン2の両側からピストンロッド20をシリンダ1外へ突出させて、緩衝器を両ロッド型にしてもよい。この場合には、シリンダに出入りするピストンロッドの体積補償を不要にできる。
つづいて、緩衝器Dは、ピストン2とロッドガイド3との間に設けられる液圧リバウンドストッパSを備える。そして、その液圧リバウンドストッパSで緩衝器Dの最伸長時の衝撃を緩和する。
具体的に、上記液圧リバウンドストッパSは、ロッドガイド3に取り付けられてシリンダ1の上端部内周に設けられる筒状のケース5と、ピストンロッド20の外周に装着されてケース5内に挿入可能な環状のリング部材6とを有して構成される。さらに、ケース5とロッドガイド3との嵌合部にエア抜き通路7が形成されており、このエア抜き通路7によりシリンダ1とケース5との間に形成される隙間がケース5の内側へと連通される。
より詳しくは、図2に示すように、ロッドガイド3は、外周にシリンダ1が嵌合する嵌合部3aと、この嵌合部3aから上側へ突出するとともに外径が嵌合部3aの外径よりも大きい大径部3bと、嵌合部3aから下側へ突出するとともに外径が嵌合部3aの外径よりも小さいソケット部3cとを含む。嵌合部3a、大径部3b、及びソケット部3cは、それぞれ環状で同軸上に配置されている。
そして、大径部3bと嵌合部3aの外周側の境界には環状の段差部3dがあり、嵌合部3aの外周に嵌合したシリンダ1の上端がその段差部3dに突き当たる。また、嵌合部3aとソケット部3cの外周側の境界にも環状の段差部3eがある。ソケット部3cの外周にはケース5が嵌合し、組立直後の初期状態ではそのケース5の上端が段差部3eに突き当たる。
このように、本実施の形態では、嵌合部3aとソケット部3cの境界にできる下側の段差部3eがケース5の上端と対向する対向部となっている。また、嵌合部3aの外径はケース5の外径よりも大きく、ソケット部3cの外周に嵌合されたケース5と、嵌合部3aの外周に嵌合されたシリンダ1との間に環状の隙間ができる。以下、この隙間をケース外周隙間Gという。
図2に示すように、ケース5の下端部には、下端へ向かうに従って内径が徐々に大きくなるテーパ部5aが設けられている。そして、図2中、二点鎖線で記載のように、ケース5の内側に挿入されるリング部材6がそのテーパ部5aより奥側へ挿入された状態で、リング部材6の外周がケース5の内周に摺接するようになっている。
リング部材6は、ホルダ21を介してピストンロッド20の外周に取り付けられている。このホルダ21は、ピストンロッド20の外周にピストンロッド20に対して軸方向へ動かないように固定される筒部21aと、この筒部21aの下端から径方向外側へ張り出す環状のシート部21bと、筒部21aの上端から径方向外側へ張り出す環状の抜止部21cとを含む。
そして、リング部材6は、筒部21aの外周に上下(軸方向)に移動可能に取り付けられており、リング部材6が筒部21aに対して下方へ移動してシート部21bに着座すると、それ以上のリング部材6の下方への移動が阻止される。その一方、リング部材6が筒部21aに対して上方へ移動して抜止部21cに突き当たると、それ以上のリング部材6の上方への移動が阻止される。このように、リング部材6はホルダ21から外れないようになっている。
また、リング部材6と筒部21aとの間にはチェック通路8が形成されている。さらに、リング部材6の上端部には、切欠き6aが形成されていて、その切欠き6aの一端がチェック通路8に開口するとともに他端が軸方向視で抜止部21cの外周端より外周側に位置している。このため、リング部材6がシート部21bから離れた状態ではチェック通路8が開いた状態に維持される。その一方、リング部材6がシート部21bに着座すると、チェック通路8がシート部21bにより閉じられる。
上記構成によれば、ピストン2がシリンダ1内を上方へ移動する緩衝器Dの伸長時であって、ピストン2の上方(伸長側)へのストローク量が所定以上になると、リング部材6がケース5内へ挿入されてその奥側へと侵入する。このように、ケース5内に挿入されたリング部材6がケース5の奥側(上側)へ侵入する場合、リング部材6はシート部21bに着座してチェック通路8を閉じる。
このため、ケース5内の液体は、リング部材6とケース5との間にできる絞り隙間(図示せず)を通ってケース5外へと移動するとともに、当該液体の流れに対して抵抗が付与される。よって、リング部材6がケース5の奥側へ侵入する場合にはケース5内の圧力が上昇し、緩衝器Dの伸長作動を妨げる位置依存の減衰力が発生する。
つまり、ピストン2の伸長側へのストローク量が所定以上になる伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域にピストン2がある場合に、上記絞り隙間の抵抗に起因する液圧リバウンドストッパSによる位置依存の減衰力が発生する。
また、前述のように、緩衝器Dの伸長時には、伸側バルブ(伸側減衰要素)V1の抵抗に起因するメインの伸側減衰力が発生する。このため、ピストン2が伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域にある場合に緩衝器Dが伸長作動を呈すると、メインの伸側減衰力に液圧リバウンドストッパSによる位置依存の減衰力が付加されて緩衝器D全体としての減衰力が大きくなる。そして、その大きな減衰力で緩衝器Dの伸長速度を減速して停止できるので、緩衝器Dの最伸長時の衝撃を緩和できる。
また、ケース5にはテーパ部5aが設けられている。このため、テーパ部5aの内側に位置するリング部材6がケース5の奥側へと進むほどリング部材6の外周にできる絞り隙間が徐々に狭くなり、ケース5内から外へ向かう液体の流れに付与される抵抗が徐々に大きくなるので、位置依存の減衰力が徐々に大きくなる。
さらに、ピストン2が伸側のストロークエンドに近づくとリング部材6がテーパ部5aよりも奥側へと進み、リング部材6がケース5の内周に摺接する。このため、ピストン2が伸側のストロークエンド近くにある場合には、リング部材6の外周にできる絞り隙間が摺動隙間分となって非常に狭くなり、ケース5内から外へと向かう液体の流れに大きな抵抗を与えて大きな位置依存の減衰力を発揮できる。
よって、ピストン2が伸側のストロークエンドに近づくと、液圧リバウンドストッパSの発揮する大きな位置依存の減衰力で緩衝器Dの伸長速度を確実に減速できる。その一方、リング部材6がケース5内の浅い位置にある場合の位置依存の減衰力を小さくできるので、リング部材6がケース5内へ挿入されるのを境にした減衰力の急変を抑制し、異音の発生を防ぐとともに車両の乗り心地を良好にできる。
反対に、緩衝器Dが収縮してケース5内に挿入されたリング部材6がケース5から退出する場合、リング部材6がシート部21bから離れてチェック通路8を開く。このため、ケース5外の液体がチェック通路8を通ってケース5内へと速やかに流入する。
よって、ピストン2が伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域にある場合であっても、緩衝器Dの収縮時には液圧リバウンドストッパSによる位置依存の減衰力がほとんど生じず、液圧リバウンドストッパSが緩衝器Dの収縮作動の妨げとならない。このように、液圧リバウンドストッパSは片効きとなっている。
また、ピストン2が伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域の外にあり、リング部材6がケース5の外側に位置する場合には、リング部材6とシリンダ1との間を液体が自由に移動できる。このため、ピストン2が伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域の外にある場合には、液圧リバウンドストッパSによる位置依存の減衰力は生じず、緩衝器Dの発生する減衰力がメインの減衰力となる。
なお、リング部材6とホルダ21の構成は、それぞれ適宜変更できる。例えば、リング部材6の切欠き6aを廃して抜止部21cに切欠き又は孔を形成し、リング部材6がケース5から退出する際に、チェック通路8とケース5内との連通をその切欠き又は孔で維持するとしてもよい。
また、リング部材6の形状は、周方向の一部に割を有したC字状でも割の無いO字状でもよい。そして、リング部材6がC字状の場合には、テーパ部5aの内周にリング部材6を摺接させて、テーパ部5aの奥側で割を閉じるようにしてもよい。さらに、リング部材6がテーパ部5aより奥側へ進んだ状態で、必ずしもリング部材6をケース5の内周に摺接させなくてもよく、例えば、ピストン速度が高速域にある場合にのみリング部材6を拡径させてケース5に摺接させてもよい。
つづいて、図3,4に示すように、ソケット部3cの外周に嵌合したケース5の上端に対向する下側の段差部3eには、径方向に沿って横溝3fが形成されている。この横溝3fにおいて、下側の段差部3eの外周側に位置する端を始端3fa、その反対側の端を終端3fbとする。すると、図3に示すように、横溝3fの始端3faは、軸方向視でケース5の上端外周よりも外周側に位置する。その一方、横溝3fの終端3fbは、軸方向視でケース5の上端内周よりも内周側に位置する。
また、ケース5の内周に対向するソケット部3cの外周には、軸方向に沿って縦溝3gが形成されている。その縦溝3gは、ソケット部3cの上端から下端にかけて連続して形成されている(図4)。そして、横溝3fは、縦溝3gの内側まで延びており、横溝3fの終端3fbが軸方向視で縦溝3gの内側に位置するようになっている(図3)。
このため、図2に示すように、ケース5をソケット部3cの外周に嵌合し、ケース5の上端を下側の段差部3eに突き当てた初期状態では、ケース5の上端と下側の段差部3eとの間に横溝3fにより径方向に長い横長の隙間ができて、この横長の隙間により径方向通路70が形成される。また、ケース5の内周とソケット部3cの外周との間に縦溝3gにより軸方向に長い縦長の隙間ができて、この縦長の隙間により径方向通路70に連通する軸方向通路71が形成される。
そして、前述のように、ケース5の上端に対向する下側の段差部3eに形成された横溝3fの始端3faが軸方向視でケース5の上端外周よりも外周側に位置しているので、径方向通路70がケース外周隙間Gの上端に接続される。その一方、縦溝3gの下端がソケット部3cの下端に位置しているので、軸方向通路71がケース5の内側に接続される。
このため、緩衝器Dの組立時にケース外周隙間Gにエアが溜まったり、緩衝器Dの使用時に液体中に溶けていたエアが気泡となってケース外周隙間Gに溜まったりしても、そのエアが径方向通路70と軸方向通路71を通ってケース5内へ移動し、ピストンロッド20とブッシュ31との間の摺動隙間を通ってケース5内からシリンダ1外へと自然と抜けていく。このように、本実施の形態では径方向通路70と軸方向通路71とでエア抜き通路7を構成している。
また、前述のように、ケース5の上端が下側の段差部3eに突き当たる初期状態では、径方向通路70が横溝3fの内側に形成される横長の隙間からなる。そして、図4に示すように、横溝3fの短手方向の断面積A(図4)は、縦溝3gの短手方向の断面積Bよりも小さく設定されていて、エア抜き通路7の径方向通路70部分が絞りとして機能するようになっている。
このため、ケース5内に挿入されたリング部材6がケース5の奥側へと進む際、ケース5内の液体がエア抜き通路7を通じてケース5外へ漏れ出るものの、その液体の流れを絞ってケース5内を昇圧できる。このため、エア抜き通路7でケース5内外を連通していても、液圧リバウンドストッパSによる位置依存の減衰力発生の妨げとならない。
また、本実施の形態では、ケース5の内側にソケット部3cを圧入してこれらを連結しており、ケース5がソケット部3cを所定の緊迫力で締め付けることによりソケット部3cに保持されている。そして、ケース5内の圧力は、ケース5を拡径させる方向へ作用するので、ケース5内の圧力が高圧になると緊迫力が低下する。
よって、ケース5内の圧力が高まり、その圧力によってケース5が押し広げられて緊迫力が低下すると、ケース5が図5(a)に示す初期状態での位置(初期位置)から下側へずれる。すると、図5(b)に示すように、下側の段差部3eとケース5の上端5bとの間に周方向に沿って環状の隙間ができて、この環状の隙間が径方向通路70となる。
このようにケース5の上端5bが下側の段差部3eから離れると、径方向通路70の流路面積が広がる。すると、ケース5内の圧力が逃げ、ケース5内の圧力上昇を抑制できるので、ケース5内の圧力が過大にならない。また、ケース5内の圧力上昇を抑制すればケース5の緊迫力の低下を抑制できるので、ケース5がそれ以上下側にずれるのを防ぎ、ケース5がソケット部3cから脱落するのを防止できる。
つまり、本実施の形態のエア抜き通路7は、ケース5の移動によって開かれる圧抜き通路9としても機能して、ケース5の脱落防止に寄与するようになっている。なお、圧抜き時に径方向通路70を広げたとしても、当該径方向通路70が絞りとして機能してケース5内の圧力上昇を可能にし、充分な位置依存の減衰力を得られるように設定されているのは勿論である。
さらに、本実施の形態では縦溝3gの断面積Bを横溝3fの断面積Aよりも大きく設定し(図4)、軸方向通路71の流路面積を径方向通路70の流路面積より広くしている。また、ケース5が初期位置から下側へずれると、径方向通路70が横溝3fの内側にできる横長の隙間から、ケース5の上端と下側の段差部3eとの間に周方向に沿ってできる環状の隙間になって流路面積が格段に大きくなる。
このため、ケース5が初期位置からわずかにずれただけでも十分な流量を確保できる。つまり、ケース5の移動により圧抜き通路9を開いて圧抜きする場合であっても、その圧抜き時におけるケース5の初期位置からの移動量を小さくできるので、液圧リバウンドストッパSの作動するストローク領域をほとんど変えずに済む。
以下、本実施の形態に係る緩衝器Dの作用効果について説明する。
本実施の形態に係る緩衝器Dは、軸方向の一端を上側へ向けて配置されるシリンダ1と、このシリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストン2と、このピストン2に連結されてシリンダ1から上方へ突出するピストンロッド20とを備える。つまり、本実施の形態ではシリンダ1の軸方向の他端は下側を向く。
さらに、本実施の形態に係る緩衝器Dは、シリンダ1の上端部に装着されてピストンロッド20を摺動自在に支える環状のロッドガイド3と、このロッドガイド3に取り付けられてシリンダ1の内周に設けられる筒状のケース5と、ピストンロッド20の外周に取り付けられてケース5内に挿入可能なリング部材6と、ケース外周隙間(シリンダ1とケース5との間に形成される隙間)Gの上端をケース5の内側へ連通するエア抜き通路7とを備える。
上記構成によれば、リング部材6がケース5内をその奥側へと進む際、ケース5内からその外へ向かう液体の流れに抵抗が付与されて、位置依存の減衰力が発生する。そして、ケース5はロッドガイド3に取り付けられていて、リング部材6がケース5内を奥側へと進むのは、ピストン2が伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域にあって緩衝器Dが伸長する場合である。
このため、緩衝器Dの伸長時であって、ピストン2が伸側のストロークエンド側の所定のストローク領域にある場合に上記位置依存の減衰力が発生し、緩衝器Dの最伸長時の衝撃を緩和できる。このように、上記構成によれば、ケース5とリング部材6とで液圧リバウンドストッパSを構成し、当該液圧リバウンドストッパSで緩衝器Dの最伸長時の衝撃を緩和できる。
さらに、上記構成によれば、エア抜き通路7がケース外周隙間Gの上端をケース5の内側へ連通する。このため、ケース外周隙間Gにエアが溜まったとしても、そのエアがエア抜き通路7を通ってケース5内へと移動し、ピストンロッド20とロッドガイド3との間を通ってケース5内からシリンダ1外へと抜ける。よって、上記構成によれば、ケース外周隙間Gのエア抜きをして、緩衝器Dの減衰力発生応答性を良好にできる。
また、従来のように、エア抜き通路がシリンダ外へ通じている場合には、緩衝器がその作動を停止した状態で長時間放置された場合等に、シリンダ外のエアがエア抜き通路を逆流してケース外周隙間に吸い込まれ、作動開始時の減衰力発生応答性の低下の原因となることがある。
これに対して、上記構成によれば、ケース5内が液体で満たされているので、緩衝器Dがその作動を停止した状態で長時間放置されたとしてもエア抜き通路7からケース外周隙間Gにエアが吸い込まれてしまうこともない。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、ケース外周隙間Gのエアを抜くエア抜き通路7を備えていても、作動開始時における減衰力発生応答性を良好にできる。
また、従来のように、エア抜き通路がシリンダ外へ通じている場合には、緩衝器の作動時に伸側室の液体がエア抜き通路からシリンダ外へ漏れてしまう。このため、従来の緩衝器では、エア抜き通路を考慮してメインの減衰力を設定する必要があり、その減衰力の設定が煩雑である。
これに対して、本実施の形態では、エア抜き通路7によりケース外周隙間Gと連通されるケース5の内側は伸側室R1内にあり、液体がエア抜き通路7を通じてシリンダ1外へ漏れることがない。このため、本実施の形態の緩衝器Dではメインの減衰力の設定が容易である。
また、従来のように、エア抜き通路がシリンダ外へ通じていて、作動時にエア抜き通路からシリンダ外へ液体が漏れる場合には、シリンダの外周に液溜室等の部屋を形成する必要がある。よって、従来の緩衝器は複筒型でなければならず、緩衝器の様式が限定される。
これに対して、本実施の形態では、前述のように液体がエア抜き通路7を通じてシリンダ1外へ漏れることがない。よって、シリンダ1の外周に必ずしも外筒10を設けなくてもよい。つまり、本実施の形態のエア抜き通路7は、複筒型の緩衝器のみならず単筒型の緩衝器にも適用できるので、汎用性が高い。
なお、前述のようにシリンダ1の軸方向の一端を上側へ向けた状態とは、必ずしもシリンダ1が直立してシリンダ1の一端と他端が鉛直線上に配置される場合に限られず、シリンダ1が鉛直線に対して傾斜した状態をも含む。換言すると、シリンダ1の軸方向の一端を上側へ向けた状態とは、シリンダ1における軸方向の一端と他端が高低差をもって配置され、一端が他端よりも高い位置にあればよい。
また、ケース外周隙間Gの上端とは、ケース外周隙間Gを液体で満たしたときにその液面が位置する部分のことであり、所定の面積をもつ。具体的に、本実施の形態では、ケース外周隙間Gにおいてロッドガイド3の下端面と対向する端面がケース外周隙間Gの上端である。そして、このケース外周隙間Gの上端が質量をもった物体であると仮定したとき、エア抜き通路7とケース外周隙間Gとが連通するようにエア抜き通路7の入口(ケース外周隙間G側の開口)の縁がケース外周隙間Gの上端に接するようになっていれば、エア抜き通路7がケース外周隙間Gの上端に接続される。
ここで、例えば、ケース外周隙間Gと上下に向かい合うロッドガイド3の下端面に凹凸がある場合、又は、前述のようにシリンダ1が鉛直線に対して傾斜する場合等には、ケース外周隙間Gの上端自体にも高低差ができる。そして、ケース外周隙間Gのエアを抜く上では、ケース外周隙間Gの上端のうちの最も高い位置(最上端)にエア抜き通路7を接続するのが好ましい。とはいえ、エア抜き通路7とケース外周隙間Gの接続位置は、ケース外周隙間Gの最上端から多少ずれていてもよい。
また、本実施の形態において、ロッドガイド3は、ケース5が嵌合する環状のソケット部3cと、ケース5の上端(上側の端)5bに対向する下側の段差部(対向部)3eとを含む。そして、エア抜き通路7がケース5の上端5bと下側の段差部3eとの間に形成される径方向通路70と、ケース5とソケット部3cとの間に形成される軸方向通路71とを有して構成されている。
上記構成によれば、ロッドガイド3又はケース5に孔開け加工をする等してエア抜き通路7を形成する場合と比較して、エア抜き通路7を形成するのが容易である。なぜなら、エアを抜くためのエア抜き通路は一般的に非常に細い通路であり、孔開け加工では、そのような細い通路を形成するのが難しい場合があるのに対し、二部材間の隙間を利用すれば細い通路を容易に形成できるためである。
さらに、本実施の形態では、径方向通路70がケース5の上端(上側の端)5bと下側の段差部(対向部)3eとの間に形成され、軸方向通路71がケース5とソケット部3cとの間に形成されるとともに、ケース5がソケット部3cの外周に嵌合されている。
上記構成によれば、ケース5がソケット部3cから下側へずれれば、径方向通路70の流路面積が広がる。さらに、このようにケース5がソケット部3cから下側へずれても、径方向通路70と軸方向通路71の連通が維持される。このため、上記構成によれば、エア抜き通路7が圧抜き通路9としても機能して、ケース5内の圧力が過大になるのを防止できるとともに、ケース5の脱落を防止できる。
ここで、例えば、特表2015-500970号公報に記載の緩衝器は、前述の背景技術に記載の特徴をもつものであり、当該緩衝器では、液圧リバウンドストッパのケースがロッドガイドに設けた環状のソケット部の外周に嵌合している。そして、その緩衝器では、シリンダの内周に形成した段差にケースの上端外周に設けた拡径部を引っ掛けたり(特表2015-500970号公報、図1)、ソケット部の外周に形成した爪をケースの上端内周に設けた溝に引っ掛けたりして(同、図4)ケースの脱落を防いでいる。しかし、このようにした場合、シリンダ又はソケット部とケースの形状が複雑になり、これらの加工が煩雑でコストがかかるとともに、ケース内の圧力が過大になるのを防げない。
これに対して、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シリンダ1、ソケット部3c、及びケース5の形状を複雑化せずにケース5の脱落を防止できるとともに、ケース5内の圧力が過大になるのを防止できる。
なお、本実施の形態では、圧抜き通路9がエア抜き通路7としての機能も兼ねているので、ケース5が初期位置にある場合であっても圧抜き通路9とケース外周隙間Gとを連通させている。しかし、圧抜き通路9としての機能のみを考えるのであれば、横溝3fを廃し、ケース5が初期位置にある場合に径方向通路70を完全に閉じるようにしてもよく、圧抜き通路9を必ずしもケース外周隙間Gの上端に接続していなくてもよい。
さらに、圧抜き通路9としての機能のみを考えるのであれば、ケース5の上端部に孔を形成し、ケース5が初期位置にある場合にはその孔を閉じ、ケース5が初期位置から下側へずれた場合にその孔を開くようにしてもよい。このように、ロッドガイド3が外周にケース5が嵌合する環状のソケット部3cと、ケース5の上端(上側の端)5bに対向する下側の段差部(対向部)3eとを含み、ケース5が初期位置から下側へずれたときにケース5の内外を連通する通路を設ければ、この通路を圧抜き通路9として利用できる。
また、本実施の形態では、下側の段差部(対向部)3eに径方向に沿って横溝3fが形成されていて、ケース5の上端(上側の端)5bが下側の段差部(対向部)3eに当接した状態ではその横溝3fにより径方向通路70が形成されている。その一方、ソケット部3cの外周に軸方向に沿って縦溝3gが形成されていて、その縦溝3gにより軸方向通路71が形成されている。
上記構成によれば、径方向通路70と軸方向通路71を形成するための横溝3fと縦溝3gがともにロッドガイド3に形成されている。このため、径方向通路70と軸方向通路71を連通させるのにロッドガイド3とケース5の周方向の位置合わせが不要となり、緩衝器Dの組立作業を容易にできる。
さらに、上記構成によれば、径方向通路70と軸方向通路71がそれぞれ横溝3fと縦溝3gにより形成されている。横溝3f、縦溝3gのような溝は、幅、深さ等を自由に設定できるので、径方向通路70と軸方向通路71を任意の流路面積に設定するのが容易である。さらに、細い孔を型で形成するのは難しいが、細い溝であれば型で形成しやすいので、上記構成によれば、径方向通路70又は軸方向通路71が細い通路であっても形成しやすい。
また、本実施の形態では、縦溝3gの短手方向の断面積Bは、横溝3fの短手方向の断面積Aよりも大きい。当該構成によれば、エア抜き通路7を圧抜き通路9として機能させる場合に、軸方向通路71の流量を確保して初期位置から下側へずれるケース5の移動量を小さくできる。しかし、エア抜き通路7及び圧抜き通路9の構成は、上記の限りではなく、適宜変更できる。
例えば、図5に示すような横溝3fと径方向視で上下に重なるように形成された縦溝3gの他に、横溝3fと周方向にずれた位置に縦溝3gを形成してもよい。このように縦溝3gが横溝3fより多く設けられている場合には、縦溝3gの断面積Bを横溝3fの断面積Aより大きくしなくても軸方向通路71の流量を確保して初期位置から下側へずれるケース5の移動量を小さくできる。
このように、横溝3fと縦溝3gの数は、それぞれ一以上であればよく、同じでなくてもよい。さらに、図6に示すように、一実施の形態の横溝3fと縦溝3gに替えてケース5の上端に径方向に沿って横溝5cを形成するとともに、ケース5の内周に軸方向に沿って縦溝5dを形成し、横溝5cと縦溝5dとで径方向通路70と軸方向通路71をそれぞれ形成してもよい。とはいえ、ケース5の肉厚が薄い場合等には、横溝5c又は縦溝5dをケース5に形成するのが困難なことがある。このため、ロッドガイド3に横溝3fと縦溝3gを形成する方が、汎用性を向上できる。
また、図7に示すように、ケース5をソケット部3cの内周に嵌合してもよい。当該構成によれば、ケース5内の圧力によりケース5が拡径しようとした場合、そのケース5の拡径をソケット部3cで抑制できるので、ケース5の脱落を防止できる。
なお、図7では、ロッドガイド3において、ソケット部3cの内周に嵌合したケース5の上端(上側の端)に対向する対向部(符示せず)に径方向に沿って横溝3hが形成されるとともに、ソケット部3cの内周に軸方向に沿って縦溝3iが形成されている。そして、横溝3hによってケース5の上端とロッドガイド3の対向部との間にできる横長の隙間により径方向通路70が形成されている。その一方、縦溝3iによってケース5の外周とソケット部3cの内周との間にできる縦長の隙間により径方向通路70に連通する軸方向通路71が形成されている。
しかし、図示しないが、ケース5をソケット部3cの内周に嵌合する場合であっても、ロッドガイド3に形成された横溝3hと縦溝3iに替えてケース5に横溝と縦溝を形成し、これらで径方向通路70と軸方向通路71を形成してもよいのは勿論である。
また、ロッドガイド3とケース5の一方に横溝と縦溝の両方を形成すれば、ロッドガイド3とケース5の周方向の位置合わせが不要になるので、緩衝器Dの組立作業を容易にできる。しかし、ロッドガイド3とケース5の一方に形成される横溝と他方に形成される縦溝を組み合わせて利用してもよい。
また、径方向通路70と軸方向通路71は、例えば、ロッドガイド3又はケース5に形成した孔を利用して形成されていてもよく、溝と孔の組合せにより形成されていてもよい。さらに、ケース5が初期位置にある場合に、ケース5の上端(上側の端)5bが全周に亘って下側の段差部(対向部)3eから離れるように設定されていてもよく、この場合には、横溝5cを省略できる。そして、これらの変更は、ケース5をソケット部3cの外周と内周のどちらに嵌合する場合であっても可能である。
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。