(第1の実施形態)
実施形態の磁性楔は、回転電機に用いられる磁性楔であって、主面を有する平面型の構造の磁性体を含む。磁性体の主面が回転電機の固定子と回転子との間の空隙面に対し略垂直に配置される。回転電機の軸方向における軸方向透磁率、回転方向における回転方向透磁率及び径方向における径方向透磁率に差を有する。
本明細書において、「軸方向」、「回転方向」及び「径方向」の各方向は、回転電機の回転子を基準として定めるものとする。即ち、「軸方向」は回転子の回転軸に沿った方向を意味し、「回転方向」は回転子の回転軸まわりの周回方向(又は、その接線方向)を意味する。そして、「径方向」は回転子の回転軸に直交する方向を意味する。
「空隙面」については、回転子と固定子との間の空隙から規定する。図2及び図3を用いて、ラジアルギャップ型回転電機とアキシャルギャップ型回転電機の「空隙面」を説明する。図2は、本実施形態のラジアルギャップ型回転電機の模式図である。図3は、本実施形態のアキシャルギャップ型回転電機の模式図である。
図2では、回転電機200、回転子210、固定子鉄心220、コイル230、空隙面240が示されている。
図3では、回転電機200、回転子210、コイル230、空隙面240、鉄心ティース250、固定子270、軸280が示されている。
ラジアルギャップ型回転電機の場合、図2に示すように、回転子に対して径方向に所定の間隔をもって固定子が対向配置されるため、「空隙面」は回転子の回転軸を中心とする円筒面に平行な面である。したがって、径方向が空隙面に対し垂直な方向となり、軸方向と回転方向が空隙面に対し平行な方向となる。
一方、アキシャルギャップ型回転電機の場合、図3に示すように、回転子に対して軸方向に所定の間隔をもって固定子が対向配置されるため、「空隙面」は回転子の回転軸に直交する面である。したがって、軸方向が空隙面に対し垂直な方向となり、回転方向と径方向が空隙面に対し平行な方向となる。
本実施形態の磁性楔において、軸方向透磁率、回転方向透磁率、径方向透磁率の3方向の透磁率は、差を有する事が好ましい。更に好ましくは差の割合として10%以上である事が好ましく、更に好ましくは50%以上、更に好ましくは100%以上である事が好ましい。これにより、磁性楔使用による漏れ磁束の増加を抑えて、回転電機の効率向上の効果を十分に享受でき好ましい。又、有効磁束(主磁束)が増加することによって、回転電機のトルク向上も期待できる。
尚、透磁率の差の割合は、低い透磁率を基準として規定する。例えば、径方向透磁率μrと回転方向透磁率μθの差の割合は、回転方向透磁率が低い場合(μr-μθ)/μθ×100(%)で算出され、径方向透磁率が低い場合(μθ-μr)/μr×100(%)で算出する。
図4は、本実施形態の磁性楔の模式図である。
図4では、磁性楔100、磁性体2、第1の面2a、空隙面240が示されている。
磁性楔は、主面を有する平面型構造の磁性体を含む。平面型構造の磁性体として、磁性体は、扁平粒子、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、及び板状部材、からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。扁平粒子は、扁平状(flaky,flatened)の形状(flaky shape,flatened shape)をした、扁平粒子(flaky particle、flatened particle)である。薄帯(リボン)は厚さ数μm程度から百μm程度のリボン状のもの、薄膜は厚さ数nm程度から十μm程度の薄い膜、厚膜は厚さ数μm程度から数百μm程度の厚い膜、板状部材は厚さ百μm程度から数百mm程度の板状の部材を指すが、厳密に区別されるものではなく、また、厚さ範囲から多少外れても良い。いずれにおいても、前記主面内の平均長さ(最大長さa、最小長さbを用いて、(a+b)/2で定義。詳細は後述)が厚さよりも大きいことが好ましい。尚、前述の厚さ範囲および区分は、あくまで一つの目安であり、磁性体が、扁平粒子、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材のいずれかを含むかどうかは、外観、形状などの情報を含めて総合的に判断する。
尚、磁性体における「主面」とは、平面型の構造における、平面に相当する面のことである。図5は、本実施形態の磁性体の主面を説明する模式図である。例えば、角柱の場合は図5(a)に示すように面積が最も広い面、又はそれに対向する面が主面である。角柱の場合は、第1の面2a又は第2の面2bが主面である。円柱の場合は図5(b)に示すように底面を意味する。円柱の場合は、第1の面2a又は第2の面2bが主面である。扁平楕円体の場合は図5(c)に示すように面積が最も広くなる断面が主面である。扁平楕円体の場合は、第1の面2aが主面である。直方体の場合は図5(d)に示すように最も面積の広い面を意味する。直方体の場合は、第1の面2a又は第2の面2bが主面である。つまり、扁平粒子の場合は扁平面を、薄帯(リボン)や板の場合は板面を、薄膜や厚膜の場合は膜面を指す。図5(a)の角柱、図5(b)の円柱、図5(c)の扁平楕円体において最も面積の広い面を第1の面2aとする。そして、第2の面2bは、第1の面2aに対向する面とする。主面は、第1の面2a又は第2の面2bである。
また、主面内の平均長さは厚さよりも大きい事が好ましい。更に好ましくは、厚さに対する主面内の平均長さの比が5以上であることが好ましい。これによって、磁性楔の透磁率に差が生まれやすくなる(異方性が大きくなる)ため好ましい。低損失化の観点からも、渦電流損を低減することができるため好ましい。
主面内の平均長さは、最大長さa、最小長さbを用いて、(a+b)/2で定義される。また、厚さに対する主面内の平均長さの比は、最大長さa、最小長さb、厚さtを用いて、((a+b)/2)/tで定義される。
漏れ磁束を抑制する観点からは、磁性体が空隙面に対し略垂直となるように配置されることが好ましい。磁性体の一部に垂直でないものがあっても良いが、半分以上の磁性体の主面が空隙面に垂直な面に対し±20°の範囲に入っていることが、本実施形態における「略垂直」の定義であり、本定義の「略垂直」を満たす事が好ましい。より好ましくは、半分以上の磁性体の主面が空隙面に垂直な面に対し±10°の範囲に入っていることが好ましい。
この構成を理解しやすくするため、磁性体の主面と空隙面との関係を模式的に示したのが図4(a)である。又、図4(b)は,空隙面に垂直な直線と磁性楔に含まれる磁性体の主面とのなす角を説明するものである。
図4(a)及び図4(b)では磁性体として扁平粒子を用いた例を示したが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材の磁性体を用いても良い。このような構成にすることで、磁性楔の透磁率は空隙面に対し垂直な方向に高く平行な方向に低くなるため、磁性楔使用による漏れ磁束の増加を抑えて、回転電機の効率向上の効果を十分に享受でき好ましい。又、有効磁束(主磁束)を増加し、回転電機のトルクを向上できる。
なお、本実施形態の透磁率とは、形状により左右されない真の透磁率である。つまり、反磁界の影響を受けない真の透磁率である。実効的な透磁率は、形状が変わると反磁界の影響度合いが変わるため、変化する。しかしながら真の透磁率は、反磁界の影響を除去した透磁率であり、完全な閉磁路を形成して測定することで求める事が可能である。例えば、試料(磁性楔)がリング状であれば完全に閉磁路を形成するため、真の透磁率が容易に求まる。また、試料(磁性楔)がリング状でない場合も、ヨークを用いて閉磁路を形成すれば、真の透磁率を求める事ができる。図6は、本実施形態の透磁率の測定方法を示す模式図である。図6では、3方向の透磁率の測定方法を示す。ヨークを用いる事によって、3方向それぞれにおいて閉磁路を形成し、これによって、3方向それぞれの真の透磁率を求める事ができる。しかしながら、軸方向透磁率μz、回転方向透磁率μθ、径方向透磁率μrの3方向の透磁率を正確に測定する事が難しい場合がある。その場合は、3方向で保磁力を測定し、透磁率を推測しても良い。一般に、保磁力、および、透磁率は、磁気異方性の大きさに左右され、磁気異方性が小さいと保磁力も小さくなり、反対に透磁率は大きくなる。逆に、磁気異方性が大きいと、保磁力がも大きくなり、反対に透磁率は小さくなる。そのため、保磁力と透磁率は磁気異方性を介して相関があり、保磁力の値から透磁率の大きさを推測することができる。
ただし、保磁力が同じでも、透磁率が同じではない場合もあるため注意が必要である。たとえば、同じ保磁力であっても、磁性楔に含まれる磁性体の形状が棒状の形状を有する場合は、棒に平行な方向では形状磁気異方性の効果で透磁率は大きくなり、棒に垂直な方向では透磁率は小さくなる。また、同じ保磁力であっても、磁性楔に含まれる磁性体の形状が扁平状の形状を有する場合は、扁平面に平行な方向では形状磁気異方性の効果で透磁率は大きくなり、扁平面に垂直な方向では透磁率は小さくなる。以上の事から、保磁力で透磁率の大きさの関係を求める場合は、最初に保磁力の大きさで透磁率を推測した上で、その後、磁性楔に含まれる磁性体の形状を観察し、その形状から形状磁気異方性の効果を見積もり、総合的に透磁率の大きさの関係を求めることも可能である。
径方向透磁率μrは、回転方向透磁率μθ及び軸方向透磁率μzよりも高くなるように、磁性体を配置することが好ましい。 これは特にラジアルギャップ型回転電機の場合に好ましい。この効果について、図7を用いて詳細に説明する。図7は、本実施形態のラジアルギャップ型回転電機における磁性楔の使用状態を示す模式図である。ラジアルギャップ型回転電機に対して、磁性楔は、回転方向に所定の間隔をあけて配置された鉄心ティース間を橋絡するように装着され、軸方向に沿って延びるスロット開口部を塞ぐ。
このため、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束を低減する観点からは、回転方向透磁率μθが径方向透磁率μrよりも低いことが好ましい。一方、空隙端部から軸方向鉄心外側へ流れる漏れ磁束を低減する観点からは、軸方向透磁率μzが径方向透磁率μrよりも低いことが好ましい。
まとめると、径方向透磁率μrが回転方向透磁率μθ及び軸方向透磁率μzよりも高くなるように、前記磁性体を配置することによって、漏れ磁束の増加を最小限に抑えることができ好ましい。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。更に好ましくは、径方向、回転方向、軸方向の順番で透磁率が高くなっている(径方向透磁率μr>回転方向透磁率μθ>軸方向透磁率μzとなっている)ことが好ましい。回転方向透磁率μθが軸方向透磁率μzよりも大きいと、鉄心ティースから楔を介して空隙側に通過する磁束が増え、又、高調波損失を低減できため、好ましい。即ち、磁性楔使用による回転電機の効率をさらに向上させることが可能となる。
図7では、鉄心スロットにおいて、磁性楔がコイルと鉄心表面の間の全ての空間を満たしているが、必ずしも全てを満たす必要はない。磁性楔の占める空間がコイルと鉄心表面の間の一部であっても良い。
図7では、磁性楔100、コイル230、鉄心ティース250が示されている。
軸方向透磁率μzは、回転方向透磁率μθ及び径方向透磁率μrよりも高くなるように、磁性体を配置することが好ましい。これは特にアキシャルギャップ型回転電機の場合において好ましい。 この効果について、図8を用いて詳細に説明する。図8は、アキシャルギャップ型回転電機における磁性楔の使用状態を示す模式図である。アキシャルギャップ型回転電機に対して、磁性楔は、回転方向に所定の間隔をあけて配置された鉄心ティース間を橋絡するように装着され、径方向に沿って延びるスロット開口部を塞ぐ。
図8では、磁性楔100、コイル230、鉄心ティース250が示されている。
このため、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束を低減する観点からは、回転方向透磁率μθが軸方向透磁率μzよりも低いことが好ましい。一方、空隙端部から径方向鉄心外側へ流れる漏れ磁束を低減する観点からは、径方向透磁率μrが軸方向透磁率μzよりも低いことが好ましい。
まとめると、軸方向透磁率μzが回転方向透磁率μθ及び径方向透磁率μrよりも高くなるように、前記磁性体を配置することによって、漏れ磁束の増加を最小限に抑えることができ好ましい。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。更に好ましくは、軸方向、回転方向、径方向の順番で透磁率が高くなっている(軸方向透磁率μz>回転方向透磁率μθ>径方向透磁率μrとなっている)ことが好ましい。回転方向透磁率μθが径方向透磁率μrよりも大きいと、鉄心ティースから楔を介して空隙側に通過する磁束が増え、又、高調波損失を低減できため、好ましい。即ち、磁性楔使用による回転電機の効率をさらに向上させることが可能となる。
図9は、本実施形態の磁性体を配向して形成される磁性楔の模式図である。磁性体は、配向して配置されることが好ましい。本発明において、「配向する」とは、磁性体の主面が特定の方向に揃っている状態を意味する。磁性楔に含まれる磁性体の主面と基準面のなす角の平均値が±20°の範囲に入っていることが好ましい。この構成を理解しやすくするため、模式的に示したのが図9(a)である。図9(a)では、磁性楔に含まれる全ての磁性体の主面の法線を特定の方向に一致させて配列している。又、図9(b)は磁性楔に含まれる磁性体の主面と基準面とのなす角を説明したものである。基準面の決め方については、磁性楔に含まれる10個以上の磁性体を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)等で観察し、空隙面に略垂直を満たす磁性体を選び出し、選び出した磁性体の主面に関して、平均的な面を基準面とする。なお、基準面の決め方については、空隙面と垂直な面であれば、測定者が任意に決定しても良い。この場合は、任意に決めた基準面と主面のなす角を求めて、そのばらつき度合いが±20°の範囲に入っているかどうかで判断する。図9(b)の左側の磁性体は、主面と基準面とのなす角が0°の場合、即ち、主面と基準面が一致する場合の例を示している。一方、右側の磁性体は、主面と基準面とのなす角が20°の場合の例を示している。このような構成にすることで、磁性楔の透磁率に差が生まれやすくなる(異方性が大きくなる)ため好ましい。更に、図9(c)に示すように、扁平粒子ではなく、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材の磁性体を用いて構成しても良い。
図9では、磁性楔100、磁性体2、主面(第1の面)2a、基準面RP、空隙面240が示されている。
図10は、本実施形態の空隙端部から鉄心外側へ流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態を説明するための模式図である。磁性体の主面は、回転方向に沿って配向して配置されることが好ましい場合がある。これは、ラジアルギャップ型回転電機とアキシャルギャップ型回転電機の両方の場合において好ましい。この構成を理解しやすくするため、ラジアルギャップ型回転電機の場合を例として磁性体の配置状態を模式的に示したのが図10である。このような構成にすることで、空隙端部から鉄心外側へ流れる漏れ磁束を大幅に低減することが可能となる。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。
図10では、磁性楔100、磁性体2、主面(第1の面)2a、コイル230、空隙面240、鉄心ティース250が示されている。
図11は、本実施形態の磁性楔を介して鉄心ティースを流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態を説明するための模式図である。磁性体の主面は、回転方向に対し略垂直となるように沿って配向して配置されることが好ましい。これは、ラジアルギャップ型回転電機とアキシャルギャップ型回転電機の両方の場合において好ましい。この構成を理解しやすくするため、ラジアルギャップ型回転電機の場合を例として磁性体の配置状態を模式的に示したのが図11である。このような構成にすることで、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束を大幅に低減することが可能となる。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。
図11では、磁性楔100、磁性体2、主面(第1の面)2a、コイル230、空隙面240、鉄心ティース250が示されている。
前記磁性体は、主面内の方向によって透磁率に差を有することが好ましい。より好ましくは、磁性体の透磁率が最も高くなる方向(磁化容易軸方向)が一方向に揃っていることが好ましい。このような構成にすることで、磁性楔の透磁率に差が生まれやすくなる(異方性が大きくなる)ため好ましい。更に好ましくは、磁性体の磁化容易軸方向が空隙面に垂直な方向に揃っていることが好ましい。つまり、ラジアルギャップ型回転電機の場合は、磁性体の磁化容易軸方向が径方向に揃っていることが好ましく、アキシャルギャップ型回転電機の場合は、磁性体の磁化容易軸方向が軸方向に揃っていることが好ましい。このような構成にすることで、磁性楔の透磁率は空隙面に対し垂直な方向に高く平行な方向に低い異方性を有し易くなる。これによって、磁性楔使用による漏れ磁束の増加を抑えて、回転電機の効率向上の効果を十分に享受でき好ましい。又、有効磁束(主磁束)を増加し、回転電機のトルクを向上できる。
図12は、本実施形態の、面内の方向によって透磁率差を有する磁性体を含む磁性楔の概念図例である。図12は、ラジアルギャップ型回転電機の場合を例として、主面内の方向によって透磁率差を有する磁性体を含む磁性楔の概念を説明する図である。同図において、磁性体の磁化容易軸方向をμeの矢印で示し、磁性体の磁化容易方向と垂直な方向(即ち、磁性体の磁化困難軸方向)をμhの矢印で示した。図12(a)は個々の磁性体の磁化容易軸方向が揃っていない(μe>μhだが、μeの方向が揃っていない)状態を、図12(b)は個々の磁性体の磁化容易軸方向が空隙面に垂直な方向に揃っている(μe>μhで、且つ、μeの方向が揃っていて、且つ、その方向が空隙面に垂直な方向)状態を示している。
図12では、磁性楔100、磁性体2、主面(第1の面)2a、コイル230、空隙面240、鉄心ティース250が示されている。
磁性体は、扁平粒子、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜及び板状部材からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。このような構成にすることで、製造が容易となり製造歩留りが向上し、製造コストを低減できる。磁性体は、特に、薄帯(リボン)、又は板状部材であることが好ましい。これは、製造が容易となり製造歩留りが向上し、製造コストを特に低減できるためである。
磁性体は、特に、扁平粒子であることが好ましい。このような構成にすることで、磁性楔で発生する渦電流損を低減することが可能となる。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。また複雑な形状の磁性楔を製造する場合、粉を固めるだけなので、製造が容易となり、製造歩留りが向上し、製造コストを低減できる。
磁性体は、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも1つの磁性元素を含有し、厚さ10nm以上100μm以下で、厚さに対する主面内の平均長さの比5以上10000以下であることが好ましい。磁性体が扁平粒子の場合は、扁平状(flaky,flatened)の形状(flaky shape,flatened shape)をした、扁平粒子(flaky particle、flatened particle)である。
図13は、本実施形態の磁性体の一例の模式図である。
図13では、磁性体2と、主面2aが示されている。同図では扁平粒子を例として示したが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材であっても良い。
磁性体は、Fe、Coを含み、Coの量はFeとCoの合計量に対して10原子%以上60原子%以下であることが好ましく、10原子%以上40原子%以下であることが更に好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすいため好ましい。また、Fe-Co系は高飽和磁化を実現し易いため好ましい。更にFeとCoの組成範囲が上記の範囲に入る事によって、より高い飽和磁化が実現でき好ましい。
磁性体は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む事が好ましい。これによって、前記磁性体の熱的安定性や耐酸化性を高める事が出来る。中でも、Al、Siは、磁性体の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、熱的安定性や耐酸化性の向上に寄与するために特に好ましい。
磁性体の厚さ、及び、厚さに対する主面内の平均長さの比は、磁性体を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)又は走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)で観察することにより求めることができ、10個以上の値を平均した値を採用する。
磁性体の厚さは10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは、1μm以上100μm以下である。また、厚さに対する主面内の平均長さの比は5以上10000以下が好ましく、更に好ましくは10以上1000以下であることが好ましい。複数の磁性体が磁性楔に含まれる場合は、厚さ及び、厚さに対する主面内の平均長さの比を個々の磁性体に対して求め、その平均値が上記範囲に入っていることが好ましい。厚さが薄く、厚さに対する主面内の平均長さの比が大きいと、渦電流損失を低減し易いという観点からは好ましいが、一方で、保磁力がやや大きくなる傾向にある。そのため、保磁力を低減するという観点からは、適度な厚さ、適度な厚さに対する主面内の平均長さの比を有する事が好ましい。上述の範囲の厚さ、厚さに対する主面内の平均長さの比においては、渦電流損失と低保磁力(低ヒステリシス損失が可能)の点でバランスの良い材料となる。
磁気異方性を誘起させるためには、磁性体の結晶性を出来るだけ非晶質化させ、磁場や歪みによって面内一方向に磁気異方性を誘起させる(透磁率に差を生み出す)方法もある。この場合においては、磁性体を出来る限り非晶質化させやすい組成にすることが望ましい。このような観点においては、磁性体は、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、炭素(C)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブテン(Mo)、クロム(Cr)、銅(Cu)、タングステン(W)、リン(P)、窒素(N)、ガリウム(Ga)及びイットリウム(Y)からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加元素を含有することが好ましい。 これによって、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなり、主面内における保磁力差が大きくなり好ましい。Fe、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1つの第1の元素の原子半径との差が大きい添加元素が好ましい。また、Fe、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1つの第1の元素と添加元素との混合エンタルピーが負に大きくなるような添加元素が好ましい。また、第1の元素と添加元素を含めて、合計3種類以上の元素からなる多元系であることが好ましい。また、B、Siなどの半金属の添加元素は、結晶化速度が遅く非晶質化しやすいため、系に混合すると有利である。以上の様な観点から、B、Si、P、Ti、Zr、Hf、Nb、Y、Cu等が好ましく、中でも前記添加元素がB、Si、Zr、Yのいずれか1つを含む事がより好ましい。また、前記添加元素の合計量が、前記第1の元素と前記添加元素の合計量に対していずれも0.001at%以上80at%以下含まれることが好ましい。より好ましくは、5at%以上80at%以下、更に好ましくは、10at%以上40at%以下である。尚、前記添加元素の合計量は多ければ多いほど、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなるため好ましいが(すなわち、低損失、高透磁率の観点からは好ましいが)、一方で磁性金属相の割合が少なくなるため、飽和磁化が小さくなる、という点では好ましくなく、目的に応じて、組成及び添加元素量を選定する事が重要である。
磁性体の結晶粒径(前記磁性金属を含んだ主相の結晶粒径)は、10nm以下である事が好ましい。より好ましくは5nm以下であり、更に好ましくは2nm以下である。なお、結晶粒径は、XRD測定から簡易的に求めることができる。即ち、XRDで磁性金属相に起因するピークのうち最強ピークに関して、回折角度と半値幅からScherrerの式によって求めることができる。Sherrerの式は、D=0.9λ/(βcosθ)で表され、ここでDは結晶粒径、λは測定X線波長、βは半値幅、θは回折ブラッグ角である。また、結晶粒径は、TEM(Transmission electron microscope、透過型電子顕微鏡)によって多数の磁性金属相を観察しその粒径を平均化する事によっても求めることができる。結晶粒径が小さい場合はXRD測定で求める方が好ましく、結晶粒径が大きい場合はTEM観察で求める方が好ましいが、状況に応じて測定方法を選択するか、若しくは、両方の方法を併用して総合的に判断する事が好ましい。XRD測定若しくはTEM観察によって求められる磁性金属相の結晶粒径は、10nm以下である事が好ましく、より好ましくは5nm以下、更に好ましくは2nm以下である。これによって、たとえば、磁場中で熱処理を施す事によって、磁気的な異方性を付与し易くなり、主面内における保磁力差が大きくなり好ましい。また、結晶粒径が小さいという事はアモルファスに近付く事を意味しているため、高結晶性のものに比べて、電気抵抗が高くなり、これによって渦電流損失が低減しやすくなり好ましい。また、高結晶性のものに比べて耐食性、耐酸化性の点で優れるため好ましい。
磁性体はFeとCoを含み体心立方構造(bcc)の結晶構造を有する部分を有することが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、面心立方構造(fcc)の結晶構造を部分的に有する「bccとfccの混相の結晶構造」であっても、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上述の磁気特性が向上するため好ましい。
主面は、結晶的に配向している事が好ましい。配向方向としては、(110)面配向、(111)面配向、が好ましいが、より好ましくは(110)面配向である。磁性体の結晶構造が体心立方構造(bcc)の場合は(110)面配向が好ましく、磁性体の結晶構造が面心立方構造(fcc)の場合は(111)面配向が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
また、更に好ましい配向方向としては、(110)[111]方向、(111)[110]方向が好ましいが、より好ましくは(110)[111]方向である。磁性体の結晶構造が体心立方構造(bcc)の場合は(110)[111]方向への配向が好ましく、磁性体の結晶構造が面心立方構造(fcc)の場合は(111)[110]方向への配向が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。尚本明細書において、「(110)[111]方向」とは、すべり面が(110)面又はそれに結晶学的に等価な面すなわち{110}面であり、すべり方向が[111]方向又はそれに結晶学的に等価な方向すなわち<111>方向をいう。(111)[110]方向に関しても同様である。すなわち、すべり面が(111)面又はそれに結晶学的に等価な面すなわち{111}面であり、すべり方向が[110]方向又はそれに結晶学的に等価な方向すなわち<110>方向をいう。
磁性体の格子歪み(前記磁性金属を含んだ主相の格子歪み)は、0.01%以上10%以下が好ましく、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下にすることが好ましい。これによって、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく(透磁率に差が生まれやすくなり)、磁気特性が向上するため好ましい。
尚、格子歪みは、X線回折法(XRD:X-ray Diffraction)で得られる線幅を詳細に解析する事によって算出できる。即ち、Halder-Wagnerプロット、Hall-Williamsonプロットを行う事によって、線幅の広がりの寄与分を、結晶粒径と格子歪みに分離する事ができる。これによって格子歪みを算出する事ができる。Halder-Wagnerプロットの方が信頼性の観点から好ましい。Halder-Wagnerプロットに関しては、例えば、N. C. Halder, C. N. J. Wagner, Acta Cryst. 20 (1966) 312-313.等を参照されたい。ここで、Halder-Wagnerプロットは、以下の式で表される。
つまり、縦軸にβ2/tan2θ、横軸にβ/tanθsinθを取ってプロットし、その近似直線の傾きから結晶粒径Dを算出、また縦軸切片から格子歪みεを算出する。上記式のHalder-Wagnerプロットによる格子歪み(格子歪み(二乗平均平方根))が0.01%以上10%以下、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下であると、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上述の磁気特性が向上するため好ましい。
上記の格子歪み解析はXRDでのピークが複数検出できる場合には有効な手法であるが、一方でXRDでのピーク強度が弱く検出できるピークが少ない場合(例えば1つしか検出されない場合)は解析が困難である。この様な場合は、次の手順で格子歪みを算出する事が好ましい。まず、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray Spectrometry)などで組成を求め、磁性金属元素Fe、Co、Niの3つの組成比を算出する(2つの磁性金属元素しかない場合は、2つの組成比。1つの磁性金属元素しかない場合は、1つの組成比(=100%))。次に、Fe-Co-Niの組成から理想的な格子面間隔d0を算出する(文献値などを参照。場合によっては、その組成の合金を作製し、格子面間隔を測定によって算出する)。その後、測定した試料のピークの格子面間隔dと理想的な格子面間隔d0との差を求める事によって歪み量を求めることができる。つまりこの場合は、歪み量としては、(d-d0)/d0×100(%)、として算出される。以上、格子歪みの解析は、ピーク強度の状態に応じて上述の2つの手法を使い分け、また場合によっては両方を併用しながら評価するのが好ましい。
磁性体の結晶子は、主面内で一方向に数珠繋ぎになっているか、若しくは、結晶子が棒状であり且つ主面内で一方向に配向しているかどちらかである事が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
図14は、本実施形態の磁性体の凹部又は凸部を有する磁性体の例を示す模式図である。尚、磁性体は、図14のように、主面上に、第1方向に配列した長さ1μm以上、幅0.1μm以上、アスペクト比が2以上の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方を有することが好ましい。アスペクト比は、長手の方向のサイズ/短手の方向のサイズで定義される。つまり、幅よりも長さの方が大きい(長い)場合、アスペクト比は長さ/幅で定義され、長さよりも幅の方が大きい(長い)場合、アスペクト比は幅/長さで定義される。幅より長さの方が大きい(長い)方が、磁気的に一軸異方性を有しやすくなり、より好ましい。また、主面上で凹部又は凸部が第1方向に配列している。ここで「第1方向に配列」とは、凹部又は凸部の長さ及び幅のうち長いほうが第1方向に平行に配列していることをいう。なお、凹部又は凸部の長さ及び幅のうち長いほうが、第1方向に平行な方向から±30度以内に配列されていれば、「第1方向に配列している」ものとする。これらによって、磁性体が、形状磁気異方性の効果によって、第1方向に磁気的に一軸異方性を有しやすくなり(透磁率に差が生まれやすくなり)好ましい。この観点においては、更に好ましくは、幅1μm以上、長さ10μm以上が好ましい。アスペクト比は5以上が好ましく、更に好ましくは10以上が好ましい。また、このような凹部又は凸部を備える事によって、磁性体を圧粉化して圧粉材料を合成する際の磁性体同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。尚、扁平回転楕円体のように主面が磁性体内部にある場合は、主面に対して垂直方向から見た表面上に、第1方向に配列した長さ1μm以上、幅0.1μm以上、アスペクト比が2以上の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方を有することが好ましい。
図14では、磁性体2、主面2a、凹部12a、凸部12bが示されている。同図では扁平粒子を例として示したが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材であっても良い。
前記磁性体は、磁性体の表面の少なくとも一部が、厚さ0.1nm以上1μm以下で、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含む被覆層で覆われている事が好ましい。
被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含み、且つ、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含む事がより好ましい。非磁性金属としては、Al、Siが熱的安定性の観点から特に好ましい。磁性体がMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、磁性体の構成成分の1つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含むことがより好ましい。酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)の中では、酸素(O)を含む事が好ましく、酸化物、複合酸化物である事が好ましい。以上は、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点からである。以上によって、磁性体と被覆層の密着性を向上出来、磁性楔の熱的安定性及び耐酸化性を向上させることが可能となる。被覆層は、磁性体の熱的安定性や耐酸化性を向上させるのみならず、磁性体の電気抵抗を向上させることが出来る。電気抵抗を高くすることによって、渦電流損失を抑制し、透磁率の周波数特性を向上することが可能になる。このため、被覆層14は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
また、被覆層の存在は、磁気的な観点からも好ましい。磁性体は、扁平面のサイズに対して厚さのサイズが小さいため、疑似的な薄膜と見なす事が出来る。この時、磁性体の表面に被覆層を形成させて一体化させたものは、疑似的な積層薄膜構造と見なす事が出来、磁区構造がエネルギー的に安定化する。これによって、保磁力を低減させる事(これによってヒステリシス損失が低減)が可能になり、好ましい。この時、透磁率も大きくなり好ましい。このような観点においては、被覆層は非磁性である事がより好ましい(磁区構造が安定化しやすくなる)。
被覆層の厚みは、熱的安定性・耐酸化性・電気抵抗の観点からは、厚ければ厚い程好ましい。しかしながら、被覆層の厚さが厚くなりすぎると、飽和磁化が小さくなるため透磁率も小さくなり好ましくない。また、磁気的な観点からも、厚さが厚くなりすぎると、「磁区構造が安定化して低保磁力化・低損失化・高透磁率化する効果」は低減する。以上を考慮して、好ましい被覆層の厚さは、0.1nm以上1μm以下、より好ましくは0.1nm以上100m以下である。
磁性体の間に、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含有する介在相を有することが好ましい。これによって、介在相の電気抵抗が高くなり、磁性楔の渦電流損を低減することができるためである。この観点においては、磁性体よりも介在相の電気抵抗が高いことが好ましい。介在相は、磁性体を取り囲んで存在するため、扁平粒子の耐酸化性、熱的安定性を向上させる事ができ好ましい。この中で酸素を含むものは、高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点からより好ましい。介在相は、磁性体同士を機械的に接着する役割も担っているため、高い強度の観点からも好ましい。例えば図10に介在相20が示されているが、介在相20の形態はこれに限定されない。
また介在相は、磁性体同士を機械的に接着する役割も担っているため、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、ポリエチレン繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維から選択される少なくとも1つ以上の補強材料を混合することが好ましい。
また、本実施形態の磁性楔においては、磁性楔の内部に非磁性体を配設することによって、回転方向の透磁率を低くし、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束の一層の低減を図ることができる。
また、本実施形態の磁性楔は、磁性楔の表面を樹脂で覆うことによって、磁性楔の機械的な強度を一層高めることができる。この場合、樹脂は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン系樹脂、テフロン(登録商標)系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル-ブタジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン系ゴム、シリコーン樹脂、その他の合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、或いはそれらの共重合体が用いられる。特に、耐熱性の高いシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、を含むことが好ましい。
次に、本実施形態の効果について説明する。
ここでは、一例として、ラジアルギャップ型回転電機を対象とした有限要素法による電磁場数値解析の結果を表1に示す。実施例は、磁性体の主面を回転電機の軸方向と垂直に配置し形成され、磁性体の主面内で方向によって透磁率に差を有する磁性楔である。即ち、軸方向透磁率μz、回転方向透磁率μθ、径方向透磁率μrの3方向の透磁率に差を有し、径方向、回転方向、軸方向の順番で透磁率が高くなるように(径方向透磁率μr>回転方向透磁率μθ>軸方向透磁率μzとなるように)配置してある。
一方、比較例は、磁性体の主面を回転電機の軸方向と垂直に配置し形成され、主面内の全方向において透磁率が等しい磁性楔である。即ち、回転方向、径方向の2方向に透磁率の差を付与することができない(径方向透磁率μr=回転方向透磁率μθ>軸方向透磁率μzとなる)。
実施例と比較例を比べることによって、磁性体の主面を回転電機の軸方向と垂直に配置し形成される磁性楔において、磁性体の主面内に磁気異方性を付与して回転方向透磁率μθを径方向透磁率μrよりも低くしたときの効果を検証することができる。
表1の解析結果から明らかなように、実施例の磁性楔は、比較例の磁性楔よりも、回転方向透磁率μθが低くなるため、漏れ磁束の比率が小さくでき、回転電機の効率向上に好適な磁性楔であることが分かる。又、今回の解析においては、空隙磁束分布の脈動緩和による損失減少と、有効磁束増加によるトルク増加が、回転電機の効率向上に寄与していることが確認されるが、どちらか一方だけでも構わない。
ここでは、磁性体を軸方向に積層し形成される磁性楔において、磁性体の主面内に磁気異方性を付与して回転方向透磁率μθを径方向透磁率μrよりも低くしたときの効果を示したが、磁性体の主面を回転電機の回転方向と垂直に配置し形成される磁性楔において、磁性体の主面に磁気異方性を付与して軸方向透磁率μzを径方向透磁率μrよりも低くしたときの効果、つまり、径方向透磁率μr>軸方向透磁率μz>回転方向透磁率μθの場合と、径方向透磁率μr=軸方向透磁率μz>回転方向透磁率μθの場合の、効果の差)も同様に確認することができる。
尚、アキシャル型回転電機に対しても、本実施形態の磁性楔の効果を同様に確認することができる。
本実施の形態の磁性楔によれば、漏れ磁束の増加を最小限に抑えて、鉄心表面部における磁束分布の脈動を効果的に緩和できる磁性楔を提供し、回転電機の効率を向上させる事が可能となる。場合によっては、有効磁束(主磁束)を増加し、回転電機のトルクも向上させる事ができる。また、磁性楔を、主面を有する磁性体を用いて構成する事によって、3方向での透磁率の制御幅を大きくする事ができ、回転電機の効率を向上させる事ができる。また、製造が容易となり製造歩留りが向上し、製造コストを低減できる。
(第2の実施形態)
本実施形態の回転電機は、第1の実施形態の磁性楔を備えることを特徴とする。したがって、第1の実施形態と重複する内容については記載を省略する。本明細書において、回転電機とは、電動機(モータ)、発電機(ジェネレータ)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータの何れをも含む概念を意味する。
本実施形態のラジアルギャップ型モータは、主面を有する磁性体を空隙面に対し主面が略垂直となるように配置し、軸方向透磁率、回転方向透磁率、径方向透磁率の3方向の透磁率に差を付与した磁性楔を有することを特徴とする。
図15は、本実施形態のラジアルギャップ型回転電機の一例を示す模式図である。図15は、本実施形態のラジアルギャップ型モータの一例である。ラジアルギャップ型回転電機は、回転子と、この回転子に対して径方向に所定の空隙をもって対向配置される固定子を有する。図15では、回転子は固定子の内側に配置されているが、外側に配置されていても構わない。回転子は、回転子鉄心と軸を備えており、回転できるように支持されている。一方、固定子は、固定子鉄心と、固定子鉄心のスロットに挿置した界磁コイルと、スロット開口部の楔溝に保持された磁性楔を備える。図15では、該磁性楔は、径方向透磁率μrが回転方向透磁率μθ及び軸方向透磁率μzよりも高くなるように配置されている場合を一例として示しているがこれに限定されない。
このように磁性楔において、軸方向透磁率μz、回転方向透磁率μθ、径方向透磁率μrの3方向の透磁率に差を有する事によって、漏れ磁束の増加を抑えながら、回転子表面部に生じる高調波損失の低減を図ることが可能となる。また、空隙を通過する磁束が増加するため、ラジアルギャップ型モータのトルクは増大される。以上の損失低減効果とトルク増加効果のいずれかもしくは両方によって、高効率化を実現することができる。
尚、図では、扁平粒子を使用しているが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材の磁性体を使用しても良い。
鉄心の材料としては、磁性薄板の積層コア、磁性粒子を圧縮成形した圧粉コア、フェライトコア等のいずれを採用しても構わない。
特に、磁性薄板の積層コアを採用したラジアルギャップ型モータにおいては、磁性楔に含まれる磁性体の主面と積層コアを形成する磁性薄板の主面を平行に配置した場合においては、渦電流損を低減することができるため、特に好ましい。
又、ラジアルギャップ型モータとしては、回転子に導体を備えたもの(誘導モータ)、永久磁石を備えたもの(永久磁石モータ)、磁性体を備えたもの(リラクタンスモータ)の何れであっても構わない。
本実施形態のアキシャルギャップ型モータは、主面を有する磁性体を空隙面に対し主面が略垂直となるように配置し、軸方向透磁率、回転方向透磁率、径方向透磁率の3方向の透磁率に差を付与した磁性楔を有することを特徴とする。
図16は、本実施形態のアキシャルギャップ型回転電機の一例を示す模式図である。図16は、本実施形態のアキシャルギャップ型モータの一例である。アキシャルギャップ型モータは、回転子と、この回転子に対して軸方向に所定の空隙を隔てて対向配置される固定子を有し、固定子に、固定子鉄心と、固定子鉄心のスロットに挿置した界磁コイルと、スロット開口部の楔溝に保持された磁性楔を備える。図16では、該磁性楔は、軸方向透磁率μzが径方向透磁率μr及び回転方向透磁率μθよりも高くなるように配置されている場合を一例として示しているがこれに限定されない。このように磁性楔において、軸方向透磁率μz、回転方向透磁率μθ、径方向透磁率μrの3方向の透磁率に差を有する事によって、漏れ磁束の増加を抑えながら、回転子表面部に生じる高調波損失の低減を図ることが可能となる。又、空隙を通過する磁束が増加するため、アキシャルギャップ型モータのトルクは増大される。以上により、高効率化を実現することができる。
図16では、回転子は2つの固定子の間に配置されているが、1つの固定子の片側もしくは両側に配置されていても構わない。
尚、図16では、扁平粒子を使用しているが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材の磁性体を使用しても良い。
鉄心の材料としては 、磁性薄板の積層コア、磁性粒子を圧縮成形した圧粉コア、フェライトコア等のいずれを採用しても構わない。特に、磁性薄板の積層コアを採用したアキシャルギャプ型モータにおいては、磁性楔に含まれる磁性体の主面と積層コアを形成する磁性薄板の主面を平行に配置した場合においては、渦電流損を低減することができるため、特に好ましい。
本実施形態の発電機は、主面を有する磁性体を空隙面に対し主面が略垂直となるように配置し、軸方向、回転方向、径方向の3方向で透磁率に差を付与した磁性楔を有することを特徴とする。
図17は、本実施形態の発電機の一例を示す模式図である。発電機は、通常、回転子鉄心のスロットに励磁コイルを収納する回転子(この他、永久磁石を励磁源とした回転子を採用しても良い)と、固定子鉄心のスロットに電機子コイルを収納する固定子を有し、回転子を回転させて、且つ、前記励磁コイルに励磁電流を流すことで、前記電機子コイルに電力を発電する。回転子は、回転子鉄心と、回転子鉄心のスロットに挿置した界磁コイルと、スロット開口部の楔溝に保持された磁性楔を備え、軸受によって回転できるように支持される。図17では、該磁性楔は、径方向透磁率μrが回転方向透磁率μθ及び軸方向透磁率μzよりも高くなるように配置されている場合を一例として示しているがこれに限定されない。
このように磁性楔において、軸方向透磁率μz、回転方向透磁率μθ、径方向透磁率μrの3方向の透磁率に差を有する事によって、漏れ磁束の増加を抑えながら、固定子表面部に生じる高調波損失を低減することが可能となる。また、空隙を通過し電機子コイルと鎖交する磁束が増加するため、電機子コイルに誘起される発電電圧は増大する。以上により、高効率化を実現することができる。
図17では、回転子鉄心のスロット開口部に磁性楔が配置されているが、固定子鉄心のスロット開口部に配置されていても構わない。又、図では、回転子に励磁コイルを備えた巻線式の発電機を示したが、回転子に永久磁石を備えた永久磁石式の発電機であっても良い。この場合、磁性楔は固定子鉄心のスロット開口部に配置される。
図17では、扁平粒子を使用しているが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材の磁性体を使用しても良い。
鉄心の材料としては、磁性薄板の積層コア、磁性粒子を圧縮成形した圧粉コア、フェライトコア等のいずれを採用しても構わない。特に、磁性薄板の積層コアを採用した発電機においては、磁性楔に含まれる磁性体の主面と積層コアを形成する磁性薄板の主面を平行に配置した場合においては、渦電流損を低減することができるため、特に好ましい。
リニアモータはラジアルギャップ型モータを展開し平板状の構造としたものであるため、本発明の磁性楔をリニアモータに適用することも可能である。即ち、固定子は固定子鉄心と、固定子鉄心のスロットに挿置した界磁コイルを備え、スロット開口部に磁性楔を設けても良い。図18は、本実施形態のリニアモータの一例を示す模式図である。リニアモータにおいては、可動子の進行方向、可動子の進行方向に直角な方向、固定子に対し鉛直な方向が、ラジアルギャップ型モータの回転方向、軸方向、径方向にそれぞれ対応している。
このとき、磁性楔の磁気特性としては、図18に示すように、磁性楔において、固定子に対し鉛直な方向の透磁率μz、可動子の進行方向の透磁率μx、進行方向に直角な方向の透磁率μyの3方向の透磁率に差を付与させる事が好ましい。図18では、固定子に対し鉛直な方向の透磁率μzが可動子の進行方向の透磁率μx及び進行方向に直角な方向の透磁率μyよりも高くなるように配置しているがこれに限定されない。これによって、漏れ磁束の増加を抑えながら、可動子表面部に生じる高調波損失の低減を図ることが可能となる。また、空隙を通過する磁束が増加するため、リニアモータの推力は向上される。以上により、高効率化を実現することができる。図18には可動子290が示されている。
尚、図18では、扁平粒子を使用しているが、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材の磁性体を使用しても良い。
本実施の形態の回転電機によれば、磁性楔使用による漏れ磁束の増加を抑えて、鉄心表面部における磁束分布の脈動を効果的に緩和できるため、高効率化を実現することができる。
本実施形態の回転電機のスロット形状は、半閉スロット(もしくはセミクローズドスロット)であっても良いが、好ましくは開放スロット(もしくは開口スロット、オープンスロット)である。この時、高調波損失を大幅に低減でき好ましい。
本実施形態の回転電機は、鉄道、電気自動車、ハイブリッドカーなどの交通システム、エレベータ、空調機などの社会システム、ロボット、ポンプ、圧縮機、送風機などの産業システム、火力発電機、水力発電機、風力発電機、原子力発電機、地熱発電機などのエネルギーシステム、洗濯機などの家電に応用でき、システムの高効率化を図ることができる。特に産業用の大容量機では、スロット形状に開放スロットが一般的に採用されるため、第1の実施形態の磁性楔を備えることが好ましい。また、鉄道用の主電動機では、高電圧と振動に耐える必要性から型巻コイルを使用しており、スロット形状に開放スロットが採用されるため、第1の実施形態の磁性楔を備えることが好ましい。
特に鉄道では、鉄道走行時の消費電力量の約半分を回転電機の損失が占めているため、回転電機の損失低減による高効率化の効果が大きい。また、電気自動車、ハイブリッドカーでは、第1の実施形態の磁性楔を用いることによって主電動機の効率を向上できるため、航続距離を伸ばすことができる。
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態及び実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施形態や実施例及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。