以下、図面を用いて実施の形態を説明する。尚、図面中、同一又は類似の箇所には、同一又は類似の符号を付している。
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態の複合磁性材料は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素を含む磁性金属相、及び、主面を有する平面型の構造の複数の磁性体と、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の元素を含む介在相と、を有し、表面に平面を有する磁性材料と、板状の補強材と、を備える複合磁性材料において、前記主面が、前記平面に対して略平行に配向し、前記平面内において、方向による保磁力差を有する、複合磁性材料である。
第1の実施の形態の複合磁性材料は、主面を有する平面型構造の複数の磁性体を含む。平面型構造の磁性体として、磁性体は、扁平粒子、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、及び板状部材、からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。扁平粒子は、扁平状(flaky,flatened)の形状(flaky shape,flatened shape)をした、扁平粒子(flaky particle、flatened particle)である。薄帯(リボン)は厚さ数μm程度から百μm程度のリボン状のもの、薄膜は厚さ数nm程度から十μm程度の薄い膜、厚膜は厚さ数μm程度から数百μm程度の厚い膜、板状部材は厚さ百μm程度から数百mm程度の板状の部材を指すが、厳密に区別されるものではなく、また、厚さ範囲から多少外れても良い。いずれにおいても、前記主面内の平均長さ(最大長さa、最小長さbを用いて、(a+b)/2で定義。詳細は後述)が厚さよりも大きいことが好ましい。尚、前述の厚さ範囲及び区分は、あくまで一つの目安であり、磁性体が、扁平粒子、薄帯(リボン)、薄膜、厚膜、板状部材のいずれかを含むかどうかは、外観、形状などの情報を含めて総合的に判断する。
なお、第1の実施の形態の複合磁性材料に含まれる磁性材料は、圧粉材料である事が好ましい。また、前記磁性体が扁平粒子(扁平磁性金属粒子)である事が好ましい。これらによって、渦電流損失が抑制されるため好ましい。また、圧粉材料の場合、機械強度的にも優れるため好ましい。
尚、磁性体における「主面」とは、平面型の構造における、平面に相当する面のことである。図2は、第1の実施の形態における磁性体の主面を説明する模式図である。例えば、角柱の場合は図2(a)に示すように面積が最も広い面、又はそれに対向する面が主面である。角柱の場合は、第1の面20a又は第2の面20bが主面である。円柱の場合は図2(b)に示すように底面を意味する。円柱の場合は、第1の面20a又は第2の面20bが主面である。扁平楕円体の場合は図2(c)に示すように面積が最も広くなる断面が主面である。扁平楕円体の場合は、第1の面20aが主面である。直方体の場合は図2(d)に示すように最も面積の広い面を意味する。直方体の場合は、第1の面20a又は第2の面20bが主面である。つまり、扁平粒子の場合は扁平面(第1の扁平面)を、薄帯(リボン)や板の場合は板面を、薄膜や厚膜の場合は膜面を指す。図2(a)の角柱、図2(b)の円柱、図2(c)の扁平楕円体において最も面積の広い面を第1の面20aとする。そして、第2の面20bは、第1の面20aに対向する面とする。主面は、第1の面20a又は第2の面20bである。
前記磁性材料においては、複数の前記磁性体の主面が略平行に配向していることが好ましい。これによって、前記磁性材料の透磁率が高くなり、また、渦電流損失が抑制され好ましい。ここで、「配向する」とは、磁性体の主面が特定の方向に概ね揃っている状態を意味する。磁性材料に含まれる磁性体の主面と基準面のなす角の平均値が±20°以下の範囲に入っていることが好ましい。基準面の決め方については、磁性材料に含まれる10個以上の磁性体を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)等で観察し、全体として略平行に配向している代表的な(平均的な)磁性体を選び出し、選び出した磁性体の主面に平行な面を基準面とする。なお、基準面の決め方については、測定者が任意に決定しても良い。この場合は、任意に決めた基準面と主面のなす角を求めて、そのばらつき度合いが±20°以下の範囲に入っているかどうかで判断するのが好ましい。
また、複合磁性材料は、表面に平面を有する磁性材料を備える。また、前記平面内において、方向による保磁力差を有する。
尚、「保磁力差を有する」というのは、前記平面内の360度方向に磁界を印加して保磁力を測定した際に、保磁力が最大になる方向と、保磁力が最小になる方向とが存在する、事を表している。例えば、前記平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定した際に、保磁力差が表れる、すなわち保磁力がより大きくなる角度と、保磁力がより小さくなる角度があらわれる場合、「保磁力差を有する」ものとする。前記平面内において保磁力差を有する事によって、保磁力差がほとんどない等方性の場合に比べて、最小となる保磁力値が小さくなり好ましい。これによってヒステリシス損失は低減し、透磁率は向上し、好ましい。
尚、保磁力は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等を用いて評価できる。保磁力が低い場合は、低磁界ユニットを用いる事によって、0.1Oe以下の保磁力も測定する事ができる。測定磁界の方向に対して、前記平面内の方向を変えて測定を行う。
前記平面内において、方向による保磁力差の割合は大きければ大きいほど好ましく、1%以上であることが好ましい。より好ましくは、保磁力差の割合が10%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が50%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が100%以上である。ここでいう保磁力差の割合とは、前記平面内において、最大となる保磁力Hc(max)と最小となる保磁力Hc(min)を用いて、(Hc(max)-Hc(min))/Hc(min)×100(%)で定義される。
また、複合磁性材料においては、板状の補強材8を備える事が好ましい。
板状の補強材8は、曲げ強度などの機械的特性に優れた材料であることが好ましい。また耐熱性に優れた材料であることが好ましい。また、電気的に絶縁性の高い、高電気抵抗の材質が好ましい。これは渦電流損失を抑制するためである。磁性を有する材質であると、複合磁性材料全体の磁気特性が向上するためより好ましい。材質は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン系樹脂、テフロン(登録商標)系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル-ブタジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン系ゴム、シリコーン樹脂、その他の合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、或いはそれらの共重合体が好ましい。特に、高い熱的安定性を実現するためには、耐熱性の高いシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、を含む事が好ましい。また、強度を高くするために、ガラス繊維、アラミド繊維(ケブラー繊維)、カーボン繊維、ザイロン繊維、ポリエチレン繊維(ダイニーマ)、ボロン繊維 などの繊維を混合したFRP(Fiber-Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)等の材料も好ましい。
図3は、第1の実施の形態における複合磁性材料50及び補強材8(第1の補強材部分8a、第2の補強材部分8b)の配置の一例を示す模式図である。補強材(補強材部分)は、磁性材料の片面側に配置しても良いし、両面に配置しても良い。高強度化のためには両面に配置する方が好ましいが、補強材8が非磁性であったり、磁性を有していても磁性成分が少なければ、複合磁性材料50全体の磁性成分が少なくなるため、透磁率が低下したり、飽和磁化が低下したりして好ましくない。よって磁気的な観点からは片面側にのみ配置した方が好ましいが、両面に配置するよりも強度が劣るため強度の観点からは好ましくはない。同様の議論は、配置する補強材8の厚さにも言える。厚さが厚くなると強度は向上するが、磁気特性はやや低下する。厚さが薄くなると磁気特性は向上するが、強度はやや低下する。適用するシステムにおいて要求される特性から、どのような厚さのものをどのように配置するのかを決める事が好ましい。
図3(a)左図では、複数の磁性体2が示されている。複数の磁性体2は、それぞれ第1の磁性金属相3、第1の面(主面)20a及び第2の面(主面)20bを有している。磁性金属相3については後述する。また、図3(a)左図では、介在相4が示されている。介在相4については後述する。なお、図3では、磁性体2として、扁平粒子(扁平磁性金属粒子)が記されているが、これはあくまで一例であり、前述の他の構造の磁性体(主面を有する平面型の構造の磁性体)であっても構わない。同様の事は、以下の図5~図10にも言える。
また、図3(a)左図では、補強材8、磁性材料10、複合磁性材料50が示されている。磁性材料10の形状は、例えば、図3(a)左図で示されるような直方体であるが、直方体に限定されるものではなく、表面に平面を有する形状であれば何でも良い。磁性材料10が直方体である場合には、磁性材料10は、合計6個の表面12を有している。図3(a)左図では、表面12として、表面12a、12b、12c、12d、12e及び12fが示されている。そして、図3(a)左図の磁性材料10の形状は直方体であるため、磁性材料10が有する6個の表面12すべてが平面7となっている。なお、磁性材料10の形状はこれに限定されるものではなく、立方体、円柱、三角錐等が考えられる。ただし、磁性材料10は、磁性体2が配向する平面7を、少なくとも一つ、表面12に有している(表面12a)。そして、表面12b(平面7)と板状の補強材8は接している。これにより、高強度化された複合磁性材料50を得ることができる。そして、第1の面(主面)20a又は第2の面(主面)20bは、表面12a(平面7)に対して略平行に配向し、表面12a(平面7)内において、方向による保磁力差を有している事が好ましい。特に、補強材8が接する表面12(表面12b)と、第1の面(主面)20a又は第2の面(主面)20bが配向する面(表面12a)が、磁性材料10の形状である直方体の辺で互いに接する異なった面になっている事が好ましい。磁性材料10は、第1の面(主面)20a又は第2の面(主面)20bが配向する面に沿った方向に対しての強度が弱いため(図1の方向1に相当)、図3(a)左図のような配置が好ましい。特に、補強材8が接する表面12(表面12b)と、第1の面(主面)20a又は第2の面(主面)20bが配向する面(表面12a)が略垂直である事が好ましい。この時、磁性体2の一部に主面20a(又は20b)が表面12bに対して略垂直でないものがあっても良いが、概ね垂直である事が好ましい。より好ましくは、半分以上の磁性体2の主面20a(又は20b)に平行な面が、表面12bに垂直な方向に対し40°以下の範囲に入っていることが好ましく、更に好ましくは、20°以下の範囲、更に好ましくは、10°以下の範囲に入っていることが好ましい。これにより、複合磁性材料50の強度が向上するため好ましい。
なお、これ以後の文章で、「略垂直である事が好ましい」と表現する場合は、これと同様に、「概ね垂直である事が好ましい。より好ましくは、半分以上が、垂直な方向に対し40°以下の範囲に入っていることが好ましく、更に好ましくは、20°以下の範囲、更に好ましくは、10°以下の範囲に入っていることが好ましい」という内容を含む。また、「略平行である事が好ましい」と表現する場合は、「概ね平行である事が好ましい。より好ましくは、半分以上が、平行な方向に対し40°以下の範囲に入っていることが好ましく、更に好ましくは、20°以下の範囲、更に好ましくは、10°以下の範囲に入っていることが好ましい」という内容を含む。
また、補強材8と磁性体2の配置関係は、図3(a)左図以外にも、図3(a)右上図のような関係であっても同様に好ましい。なお、図3(b)には記していないが、図3(b)においても、図3(a)右上図と同様の配置関係にある場合も、同様に好ましい。
また、図3(a)右上図、右下図においては、補強材8が、主面20a(又は20b)に垂直な方向(図3(a)右上図、右下図の補強材部分に記した矢印の方向)の曲げ応力に対して耐性が高い(強度が高い)ものである事が好ましい。これによって複合磁性材料50の強度が向上し好ましい。
また、補強材8を図3(a)左図、右上図のように配置し、回転電機のステータ又はロータに、一例として、直方体状(必ずしも直方体状に限定されない)の複合磁性材料50を組み込み、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合は、図16~図18に示すように、複合磁性材料50の長手方向すなわち直方体の最も長い辺に平行な方向を(つまり図3の紙面横方向)磁性楔の長手方向として、差し込む(配置する)事が好ましい。
更に、図16~図18のように磁性楔として用いる場合は、ステータとロータの間の空隙面から遠い側に補強材8を配置する方が好ましい。言い換えると、空隙面と補強材8の間に磁性材料10が配置されるようにすることが好ましい。補強材8は磁気的な性質が弱いため(又は非磁性であるため)、空隙面に近い位置に補強材8を配置してしまうと複合磁性材料50の効果(磁性楔としての効果。モータとして、トルクを向上したり、高調波損失を減らしてモータ効率を向上したりする効果)を薄めてしまうため好ましくない。そのため、補強材8は空隙面から遠い側に配置する方が好ましい。
図3(b)は、補強材8が、第1の補強材部分8aと第2の補強材部分8bを有し、磁性材料10は、第1の補強材部分8aと第2の補強材部分8bの間に配置されている例である。第1の補強材部分8a及び第2の補強材部分8bは、いずれも図3(a)で示した補強材8と同様の部材である。第1の補強材部分8aは表面12bに接しており、第2の補強材部分8bは表面12dに接している。補強材8、第1の補強材部分8a及び第2の補強材部分8bは、上述の材質である事が好ましい。8aと8bの材質は同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。尚、図3(b)において、補強材8は特に、主面20a(又は20b)に垂直な方向の曲げ応力に対して耐性が高い(強度が高い)板材料を有する事が好ましい。つまり、図3(b)の右側の上図と下図に、補強材8に記した矢印の方向の曲げ応力に対して耐性が高い(強度が高い)ものを用いる事が好ましい。これによって複合磁性材料50の強度が向上し好ましい。
また、補強材8を図3(b)のように配置し、回転電機のステータ又はロータに複合磁性材料50を組み込み、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合は、図16~図18に示すように、複合磁性材料50の長手方向、すなわち直方体の最も長い辺に平行な方向を(つまり図3の紙面横方向)磁性楔の長手方向として、差し込む(配置する)事が好ましい。
更に、図16~図18のように磁性楔として用いる場合は、ステータとロータの間の空隙面に近い側の補強材8の厚さは比較的薄くする方が好ましい。補強材部分8aと8bは必ずしも同じ厚さにする必要はなく、どちらかを相対的に薄くしても良い。前述の通り、補強材8は磁気的な性質が弱いため(又は非磁性であるため)、空隙面に近い位置に補強材8を多く(厚く)配置してしまうと複合磁性材料50の効果(磁性楔としての効果。モータとして、トルクを向上したり、高調波損失を減らしてモータ効率を向上したりする効果)を薄めてしまうため好ましくない。そのため、空隙面に近い側の補強材の厚さは比較的薄くする方が好ましい。
なお、第1の補強材部分8aと磁性材料10の間に接着層11としての接着層11aが、また第2の補強材部分8bと磁性材料10の間に接着層11としての接着層11bが、それぞれ設けられている。接着層11は、補強材8と磁性材料10を接着して互いに固定する役割を有する。そのため複合磁性材料50としての強度が向上し、好ましい。接着層11は、接着強度の高いものが好ましく、更に好ましくは耐熱性の高いものが好ましい。材質は問わないが、無機系のものや有機系のものが挙げられる。無機系の材質においては、ケイ酸ソーダ系、セメント系(ポルトランドセメント、しっくい、せっこう、マグネシアセメント、リサージセメント、歯科用セメントなど)、セラミックス、ガラス、ホスフェート、コロイダルシリカ、アルカリ金属シリケートなどが挙げられる。有機系の材質においては、デンプン系(しょうふ、デキストリン、続飯など)、蛋白系(膠、カゼイン、大豆蛋白など)、天然ゴム系(ラテックス、ゴム糊など)、アスファルト系、うるし、熱可塑性樹脂系(酢酸ビニル樹脂系(ポリ酢酸ビニル系)、ポリビニルアセタール系、ポリビニルアルコール系、エチレン酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル樹脂系(ポリ塩化ビニル系)、アクリル樹脂系、ポリアクリル酸エステル系、シアノアクリレート系、エチレン共重合体系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、セルロース系、オレフィン系など)、熱硬化性樹脂系(ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、尿素樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリエステル系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル反応形アクリル系、ポリイミド系、ポリアロマティック系など)、エラストマー系(クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、スチレン系ブロック共重合体系、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコーン系、アクリルゴム系、ウレタンゴム系、シリル化ウレタン樹脂系、テレケリックポリアクリレート系など)が挙げられる。特に、高い熱的安定性を実現するためには、耐熱性の高いシリコーン系、ポリイミド系のものを含む事が好ましい。なお、接着層11はなくても良い。
なお、図3に記載の複合磁性材料50は、前述の通り、回転電機のステータ又はロータに複合磁性材料50を組み込み、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合を、一例として想定している。これと同様に、以下の図4~図10に記載の複合磁性材料50においても、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合を、一例として想定している。そして、その場合は、それぞれの図に示すように、複合磁性材料50の長手方向を磁性楔の長手方向として、差し込む(配置する)事が好ましい。
図4は、第1の実施の形態における補強材8の他の配置の一例を示す模式図である。図4(a)と(b)は、複合磁性材料50の長手方向に平行な方向に、補強材8を配置した例であり、図4(c)は、複合磁性材料50の長手方向に垂直な方向に、補強材8を配置した例である。なお、図4(a)、(b)、(c)では、補強材8が一つだけ配置されているが、複数枚配置されていても良い。また図4(a)、(b)、(c)では、補強材8が中心付近に配置されているが、配置される位置は中心でなくても構わない(任意の位置でも良い)。また、図4(a)、(b)、(c)と図3(a)、(b)は、それぞれ、又は全てを組み合わせても良い。なお、磁性体2の記載は省略している。磁性体2の配向方向は、いずれの方向でも構わないが、前述のように、補強材8が接する表面12(表面12b)と、第1の面(主面)20a又は第2の面(主面)20bが配向する面が略垂直であると、強度を向上できるため、より好ましい。また、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合は、特に、図4(b)において、磁性楔としての効果(モータとして、トルクを向上したり、高調波損失を減らしてモータ効率を向上したりする効果)が非常に大きいため好ましい。この場合、補強材8は、非磁性、又は、磁性材料(第1の磁性材料10a、第2の磁性材料10b)の透磁率よりも低い透磁率である事が好ましい。これによって、モータにおいてティース間に漏れる磁束を低減し、ステータからロータ側に効率よく磁束を導く事ができるため好ましい(高トルクを実現できる)。一方で補強材8の幅が大きくなると、磁束が複合磁性材料50側に流れる量が減ってしまうため、高調波損失の低減効果(モータ効率の向上効果)が減少してしまい好ましくない。この観点からは補強材8の幅は小さい方が好ましい。また、補強材8の幅が同じでも、補強材8の透磁率が、ティースの透磁率に比べて小さかったり、絶対量として小さかったりすると、ティース間に漏れる磁束を低減する効果が強まり好ましいが(高トルク化)、一方で磁束が複合磁性材料50側に流れる量が減り高調波損失の低減効果(モータ効率の向上効果)が減少し好ましくない。したがって、補強材8の幅および透磁率は、高トルク化と高効率化の両方の観点から総合的に検討して、最適な幅おとび透磁率を決めることが望ましい。
なお、前記第1の磁性材料10aと、前記第2の磁性材料10bは、明確な界面でそれぞれを区別されるものであっても良いが、両者(前記第1の磁性材料10aと前記第2の磁性材料10b)の間の界面が不明瞭な状態で配置されていても構わない。特に第1の介在相部分4aと第2の介在相部分4bが同じ組成のもので、かつ、第1の磁性体部分2aと第2の磁性体部分2bも同じ組成のものである場合、前記第1の磁性材料10aと前記第2の磁性材料10bの区別を厳密に付ける事は難しい場合もあるが、常識的な視点で観察を行い、磁性体部分の配列状態が明確に変わっている場所を境界(界面)として認識し、両者を区別する事が好ましい。この事は、後述の第1~第4の磁性材料など複数の磁性材料について議論するときにも同じように言える。
図5は、第1の実施の形態における第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10bの一例を示す模式図である。図6は、第1の実施の形態における第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10bの他の一例として、第1の磁性体部分2aの配置と第2の磁性体部分2bの配置が異なる形態を示す模式図である。いずれにおいても、第1の磁性材料10aの前記第1の磁性体部分2aの第1の主面部分20a1と、第2の磁性材料10bの前記第2の磁性体部分2bの第2の主面部分20a2とが略垂直方向になるように配置される事がより好ましい。図6(d)、(e)は、図6(a)、図6(b)、図6(c)と異なり、前記第1の磁性体部分2aの前記第1の主面部分20a1と、前記第2の磁性体部分2bの前記第2の主面部分20a2とが略垂直方向ではなく略平行となり、両者の界面において対称的な配置となるが(つまり幅方向の中心線に対して対称的な配置)、この場合は、磁気特性の観点から好ましい。つまり、複合磁性材料50を回転電機のステータ又はロータに組み込み、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合に、好ましい。この場合、磁束が複合磁性材料50を通過しつつもステータからロータに効率良く流れるため、高トルクと高効率(高調波損失低減による)を実現でき、好ましい。すなわち、モータにおいてティース間に漏れる磁束を減らしてステータからロータ側に効率よく磁束を導きつつも(高トルク実現)、ある程度は複合磁性材料50側に磁束を流すため高調波損失を低減し(モータ効率向上を実現)、好ましい。なお、必ずしも対称的な配置とならなくても、傾斜した配置を取る事によって、同様の効果を得る事ができる。なお、図5(g)には、第1の角度θ1の一例について示している。表面12(第1の平面7a)と、磁性体2(第1の磁性体部分2a)の主面20(第1の主面部分20a1)に平行な線がなす角が、第1の角度θ1である。図5(h)には、第2の角度θ2の一例について示している。表面12(第2の平面7b)と、磁性体2(第2の磁性体部分2b)の主面20(第2の主面部分20a2)に平行な線がなす角が、第2の角度θ2である。第1の平面に対して0度又は第1の角度に略平行な方向に配向、又は第2の平面に対して0度又は第2の角度に略並行な方向に配向している事が好ましい。なお第1の角度及び第2の角度の角度範囲は、40°以下の範囲に入っていることが好ましく、更に好ましくは、20°以下の範囲、更に好ましくは、10°以下の範囲に入っていることが好ましい。これにより、複合磁性材料50の強度が向上するため好ましい。なお、図5(a)~(f)、図6(a)~(c)においては、いずれも、一例として、前記第1の角度及び前記第2の角度が0°のときを示してある。
また、第1の平面7aと第2の平面7bが互いに略垂直に配置される事が好ましい。これによって複合磁性材料50の強度が向上し好ましい。
また、前記第1の磁性材料10aにおいて、前記第1の主面部分20a1が、前記第1の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向している事が好ましい。また、前記第2の磁性材料10bにおいても同様のことが言える。より好ましくは、前記第1の磁性材料10aにおいて、前記第1の主面部分20a1が、前記第1の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向し、かつ、前記第2の磁性材料10bにおいて、前記第2の主面部分20a2が、前記第2の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向する事が好ましい。
すなわち、第1の実施形態の複合磁性材料50は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素を含む磁性金属相3、及び、主面を有する平面型の構造の複数の磁性体2と、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の元素を含む介在相4と、を有し、表面に平面を有する磁性材料と、を備える複合磁性材料50であって、複数の磁性体2は、第1の主面部分20a1を有する平面型の構造の複数の第1の磁性体部分2aと、第2の主面部分20a2を有する平面型の構造の複数の第2の磁性体部分2bと、を有し、介在相4は、少なくとも一つの第2の元素を含む第1の介在相部分4aと、少なくとも一つの第2の元素を含む第2の介在相部分4bと、を有し、複合磁性材料50は、複数の第1の磁性体部分2aと、第1の介在相部分4aと、を有し表面12に第1の平面を有する第1の磁性材料10aと、複数の第2の磁性体部分2bと、第2の介在相部分4bと、を有し表面12に第2の平面を有する第2の磁性材料10bと、を備え、第1の磁性材料10aにおいて、第1の主面部分20a1が、第1の平面に対して0度又は第1の角度に略平行な方向に配向し、第1の平面内において、方向による保磁力差を有し、第2の磁性材料10bにおいて、第2の主面部分20a2が、第2の平面に対して0度又は第2の角度に略平行な方向に配向し、第2の平面内において、方向による保磁力差を有する、複合磁性材料50である事が好ましい。
図7は、第1の実施の形態における第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10bと第3の磁性材料10cの一例を示す模式図である。図8は、第1の実施の形態における第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10bと第3の磁性材料10cの他の一例として、第1の磁性体部分2aの配置と第3の磁性体部分2cの配置が異なる形態を示す模式図である。
図7及び図8に記載の複合磁性材料50において、前記複数の磁性体2は、第3の主面部分20a3を有する平面型の構造の複数の第3の磁性体部分2cをさらに有し、前記介在相4は、少なくとも一つの前記第2の元素を含む第3の介在相部分4cをさらに有し、前記複合磁性材料50は、前記複数の第3の磁性体部分2cと、前記第3の介在相部分4cと、を有し表面12に第3の平面7cを有する第3の磁性材料10cをさらに備え、前記第3の磁性材料10cにおいて、前記第3の主面部分20a3が、前記第3の平面7cに対して0度又は第3の角度に略平行な方向に配向し、前記第3の平面7c内において方向による保磁力差を有している。なお、図7の複合磁性材料においては、一例として、前記第3の角度が0度の場合を示してある。図7右下に、第3の角度θ3の一例について示している。表面12(第3の平面7c)と、磁性体2(第3の磁性体部分2c)の主面20(第3の主面部分20a3)に平行な線がなす角が、第3の角度θ3である。
また、前記第1の磁性材料10aにおける前記第1の主面部分20a1と前記第3の磁性材料10cにおける前記第3の主面部分20a3は、図8に示したように、いずれも前記第2の磁性材料10bに対して傾斜していることが好ましい(対称的に傾斜する事が好ましいが、必ずしも対称的に傾斜する必要はない)。また、前記第2の磁性材料10b自体も傾斜しても構わない。これは、複合磁性材料50を回転電機のステータ又はロータに組み込み、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合に、特に好ましい。図8のような配置にある場合、磁束が複合磁性材料50を通過しつつもステータからロータに効率良く流れるため、高トルクと高効率(高調波損失低減による)を実現でき、好ましい。すなわち、モータにおいてティース間に漏れる磁束を減らしてステータからロータ側に効率よく磁束を導きつつも(高トルク実現)、ある程度は複合磁性材料50側に磁束を流すため高調波損失を低減し(モータ効率向上を実現)、好ましい。
すなわち、第1の実施形態の複合磁性材料50は、前記複数の磁性体2が、第3の主面部分20a3を有する平面型の構造の複数の第3の磁性体部分2cをさらに有し、前記介在相4は、少なくとも一つの前記第2の元素を含む第3の介在相部分4cをさらに有し、前記複合磁性材料50は、前記複数の第3の磁性体部分2cと、前記第3の介在相部分4cと、を有し表面12に第3の平面を有する第3の磁性材料10cをさらに備え、前記第3の磁性材料10cにおいて、前記第3の主面部分20a3が、前記第3の平面に対して0度又は第3の角度に略平行な方向に配向し、前記第3の平面内において方向による保磁力差を有する、複合磁性材料50である事が好ましい。
また、前記第1の平面と前記第2の平面は互いに略垂直に配置され、かつ、前記第2の平面と前記第3の平面は互いに略垂直に配置される事が、複合磁性材料50の強度向上のために好ましい。
また、前記第1の磁性材料10aにおいて、前記第1の主面部分20a1が、前記第1の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向している事が好ましい。また、前記第2の磁性材料10b、第3の磁性材料10cにおいても同様のことが言える。より好ましくは、前記第1の磁性材料10aにおいて、前記第1の主面部分20a1が、前記第1の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向し、かつ、前記第2の磁性材料10bにおいて、前記第2の主面部分20a2が、前記第2の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向し、かつ、前記第3の磁性材料10cにおいて、前記第3の主面部分20a3が、前記第3の平面に対して0度の角度に略平行な方向に配向する事が、複合磁性材料50の強度向上のために好ましい。
図9は、第1の実施の形態における第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10bと第3の磁性材料10cと第4の磁性材料10dの一例を示す模式図である。第4の磁性材料10dは、第4の磁性体部分2dと、第4の介在相部分4dと、を有している。第4の磁性体部分2dは、第4の主面部分20a4を有する。第4の主面部分20a4は、第4の平面7dに対して0度又は第4の角度に略平行な方向に配向し、前記第4の平面において方向による保磁力差を有している。図9右上に、第4の角度θ4の一例について示している。表面12(第4の平面7d)と、磁性体2(第4の磁性体部分2d)の主面20(第4の主面部分20a4)に平行な線がなす角が、第4の角度θ4である。図9では、複数の磁性材料の主面が傾斜している場合を示している(必ずしも傾斜しなくてもよい)。また、中心線に対して対称的に傾斜する事が好ましいが、必ずしも対称的に傾斜する必要はない。また、第4の平面7dが、第2の平面7bや第3の平面7cに対して略垂直な配置となっていることが、複合50の強度向上のために好ましい。また、第1の平面7aが、第2の平面7bや第3の平面7cに対して略垂直な配置となっていることが、複合50の強度向上のために好ましい。一例として、図9のような配置にある場合、図8と同様に、磁束が複合磁性材料50を通過しつつもステータからロータに効率良く流れるため、高トルクと高効率(高調波損失低減による)を実現でき、好ましい。
なお、図7、図8、図9は、図6(d)、(e)と同様に、幅方向の中心線に対して対称的な配置となっており、この場合は、磁気特性の観点から好ましい。つまり、複合磁性材料50を回転電機のステータ又はロータに組み込み、後述の図16~図18のように磁性楔として用いる場合に、好ましい。この場合、磁束が複合磁性材料50を通過しつつもステータからロータに効率良く流れるため、高トルクと高効率(高調波損失低減による)を実現でき、好ましい。すなわち、モータにおいてティース間に漏れる磁束を減らしてステータからロータ側に効率よく磁束を導きつつも(高トルク実現)、ある程度は複合磁性材料50側に磁束を流すため高調波損失を低減し(モータ効率向上を実現)、好ましい。なお、必ずしも対称的な配置とならなくても、傾斜した配置を取る事によって、同様の効果を得る事ができる。
また、隣接する磁性材料(図5、図6の第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10bや、図7、図8の第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10b、第2の磁性材料10bと第3の磁性材料10cや、図9の第1の磁性材料10aと第2の磁性材料10b、第2の磁性材料10bと第3の磁性材料10c、第3の磁性材料10cと第4の磁性材料10dなど)間に接着層11を有すると、複合磁性材料50の強度向上の点でより好ましい。隣接する1組の磁性材料だけが接着層11を介して配置されていても好ましいし、隣接する複数組の磁性材料が接着層11を介して配置されると、より好ましい。隣接する全ての組の磁性材料が接着層11を介して配置されると、更に好ましい。この場合、接着層11は上述の種類のものが好ましい。なお、接着層11はなくても良い。
なお、図5~図9は、磁性体2、磁性材料の配置に関するあくまで一例を示したものであって、必ずしもこれに限定されるものではない(図5~図9以外の配置も考えられる)。本実施形態の基本的な概念が同じであれば、配置は図と全く同じである必要はない。
また、ここまで、第1、第2、第3、第4までの磁性材料について記載してきたが、更に磁性材料の数を増やしても構わない。第5、第6、と、高強度化と磁気特性の向上のために、必要に応じて磁性材料の数を増やす事が好ましい。
また、第1の実施形態の複合磁性材料50は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素を含む磁性金属相3、及び、主面を有する平面型の構造の複数の磁性体2と、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の元素を含む介在相4と、を有し、表面12に平面を有する磁性材料と、前記主面に対し略垂直又は略平行に配向し前記介在相4内に設けられた複数の繊維状材料又は棒状材料9と、を有する複合磁性材料50であって、前記複合磁性材料50において、前記主面が、前記平面に対して略平行に配向し、前記平面内において、方向による保磁力差を有する、複合磁性材料50である。
図10は、第1の実施の形態における繊維状材料又は棒状材料9の配置例を示す模式図である。図10のように、繊維状材料又は棒状材料9が1次元的に配置(配向)された構造や、2次元的に配置(積層)された構造や、3次元的に配置された構造が好ましい。
複合磁性材料50は、前記配向した主面に略垂直方向に配向した繊維状材料(又は棒状材料)9を含む事が好ましい。これによって、複合磁性材料50全体の機械的特性(強度など)が高まり、好ましい。略垂直方向の意味は前述と同じである。図10に、繊維状材料(又は棒状材料)9の配置例を示す。ここで、繊維状材料又は棒状材料9は、曲げ強度などの機械的特性に優れた材料であることが好ましい。材質は問わないが、天然繊維(植物繊維(セルロース繊維)、動物繊維(たんぱく質繊維)、鉱物繊維など)、化学繊維(再生セルロース繊維、半合成繊維(セルロース系、たんぱく質系など)、合成繊維(ポリアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリクラール系、ポリフルオロエチレン系、フェノール系、ポリエーテルエステル系、ポリ乳酸系など)、高性能繊維(芳香族ナイロン・ポリアミド系、全芳香族ポリエステル系、超高分子量ポリエチレン系、ポリオキシメチレン系、ポリイミド繊維など)、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維など)など)などが挙げられる。また、電気的に絶縁性の高い、高電気抵抗の材質が好ましい。これは渦電流損失を抑制するためである。磁性を有する材質であると、複合磁性材料50全体の磁気特性が向上するためより好ましい。また、耐熱性の高いものが好ましい。特に、ポリイミド繊維や無機繊維は、高耐熱性が実現できるため好ましい。繊維状材料又は棒状材料9は多ければ多いほど強度が高まり好ましいが、一方で多すぎると、繊維状又は棒状材料9が非磁性であったり、磁性を有していても磁性成分が少なければ、複合磁性材料50全体の磁性成分が少なくなるため、透磁率が低下したり、飽和磁化が低下したりして好ましくない。適用するシステムにおいて要求される特性から、どのような材料を、どの程度の量加えるのかを決める事が好ましい。
以下、主面を有する平面型構造の磁性体2の一例として、扁平磁性金属粒子を例にとって、磁性体2の好ましい状態について、詳細に説明する(なお、以下は、磁性体としては扁平磁性金属粒子に限定されない。磁性体が扁平磁性金属粒子である事は好ましいが、あくまで一例として用いているだけである)。
厚さとは、一つの扁平磁性金属粒子における平均的な厚さのことをいう。厚さを求める方法としては、一つの扁平磁性金属粒子における平均的な厚さを求める事ができる方法であれば、その方法は問わない。例えば、扁平磁性金属粒子の扁平面に垂直な断面を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)又は走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)又は光学顕微鏡などで観察し、観察した扁平磁性金属粒子の断面において、扁平面内の方向に任意の10箇所以上を選び、選んだ各箇所における厚さを測定し、その平均値を採用する方法を用いても良い。また、観察した扁平磁性金属粒子の断面において、扁平面内の方向で、端部から別の端部に向かって等間隔に10箇所以上を選び(この時、端部及び別の端部は特殊な場所であるため選ばない方が好ましい)、選んだ各箇所における厚さを測定し、その平均値を採用する方法を用いても良い。いずれにおいても、できるだけ多くの箇所を測定することが平均的な情報を取得できるため、好ましい。なお、断面の輪郭線が凹凸の激しい、又は表面の荒れた輪郭線を有し、そのままの状態では平均的な厚さを求める事が難しい場合、輪郭線を平均的な直線又は曲線で、状況に応じて適宜、平滑化した上で、上記の方法を行うことが好ましい。
また、平均厚さとは、複数の扁平磁性金属粒子における厚さの平均値のことを言い、上述の単なる「厚さ」とは区別される。平均厚さを求める際は、20個以上の扁平磁性金属粒子に対して平均した値を採用する事が好ましい。また、できるだけ多くの扁平磁性金属粒子を対象として求めることが平均的な情報を取得できるため、好ましい。また、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察する事ができない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均した値を採用する事が好ましい。扁平磁性金属粒子の平均厚さは、10nm以上100μm以下が好ましい。より好ましくは10nm以上1μm以下、更に好ましくは10nm以上100nm以下である。また、扁平磁性金属粒子は、厚さ10nm以上100μm以下、より好ましくは10nm以上1μm以下、更に好ましくは10nm以上100nm以下のものを含むことが好ましい。これによって扁平面に平行な方向に磁界が印加された際に、渦電流損失を十分に小さく出来て好ましい。また、厚さが小さい方が、磁気モーメントが扁平面に平行な方向に閉じ込められ、回転磁化で磁化が進行しやすくなり好ましい。回転磁化で磁化が進行する場合は、磁化が可逆的に進行しやすいため、保磁力が小さくなり、これによってヒステリシス損失が低減出来好ましい。
扁平磁性金属粒子の平均長さは、扁平面内の最大長さa、最小長さbを用いて、(a+b)/2で定義される。最大長さa及び最小長さbに関しては、次のようにして求める事ができる。例えば、扁平面に外接する長方形の中で最も面積の小さな長方形を考える。そして、その長方形の長辺の長さを最大長さa、短辺の長さを最小長さbとする。最大長さa及び最小長さbは、平均厚さ同様、扁平磁性金属粒子をTEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察することにより求める事ができる。また、計算機上で顕微鏡写真の画像解析を行い、最大長さa及び最小長さbを求めることも可能である。いずれにおいても、20個以上の扁平磁性金属粒子を対象として求めることが好ましい。また、できるだけ多くの扁平磁性金属粒子を対象として求めることが平均的な情報を取得できるため、好ましい。また、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察する事ができない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均した値を採用する事が好ましい。また、この際できるだけ平均的な値として求める事が好ましいため、扁平磁性金属粒子を均一に分散した状態で(最大長さ、最小長さが異なる複数の扁平磁性金属粒子ができるだけランダムに分散した状態で)、観察又は画像解析を行うことが好ましい。たとえば、複数の扁平磁性金属粒子を十分にかき混ぜた状態で、テープの上に貼り付けたり、又は、複数の扁平磁性金属粒子を上から落下させて下に落としてテープの上に貼り付けたり、する事によって観察又は画像解析を行う事が好ましい。
ただし、扁平磁性金属粒子によっては、上記の方法で最大長さa、最小長さbを求めた場合、本質を捉えていない求め方になる場合もある。例えば、扁平磁性金属粒子が細長く湾曲した状態になっている場合は、本質的には、扁平磁性金属粒子の最大長さaは細長い方向の実効的な長さ、最小長さbは幅の長さである。このように、最大長さa、bの求め方としては完全に一義的に決められる訳ではなく、基本的には「扁平面に外接する長方形の中で最も面積の小さな長方形を考えて、その長方形の長辺の長さを最大長さa、短辺の長さを最小長さbとする」方法で問題ないが、粒子の形状に応じて、この方法では本質を捉えない場合は、臨機応変に、本質を捉える最大長さa、最小長さbとして求める。厚さtは、扁平面に垂直方向の長さで定義される。厚さに対する扁平面内の平均長さの比Aは、最大長さa、最小長さb、厚さtを用いて、A=((a+b)/2)/tで定義される。
扁平磁性金属粒子の厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値は、5以上10000以下が好ましい。これによって透磁率が大きくなるためである。また、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくできるためである。
厚さに対する扁平面内の平均長さの比は、平均値を採用する。好ましくは、20個以上の扁平磁性金属粒子に対して平均した値を採用する事が好ましい。また、できるだけ多くの扁平磁性金属粒子を対象として求めることが平均的な情報を取得できるため、好ましい。また、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察する事ができない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均した値を採用する事が好ましい。なお、たとえば、粒子Pa、粒子Pb、粒子Pcがあり、それぞれの厚さTa、Tb、Tc、扁平面内の平均長さLa、Lb、Lcという場合に、平均厚さは(Ta+Tb+Tc)/3で計算され、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値は(La/Ta+Lb/Tb+Lc/Tc)/3で計算される。
尚、「保磁力差を有する」というのは、扁平面内の360度方向に磁界を印加して保磁力を測定した際に、保磁力が最大になる方向と、保磁力が最小になる方向とが存在する、事を表している。例えば、扁平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定した際に、保磁力差が表れる、すなわち保磁力がより大きくなる角度と、保磁力がより小さくなる角度があらわれる場合、「保磁力差を有する」ものとする。図11は、第1の実施形態の扁平磁性金属粒子において、扁平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定した際の方向を示す模式図を示す図である。扁平面内において保磁力差を有する事によって、保磁力差がほとんどない等方性の場合に比べて、最小となる保磁力値が小さくなり好ましい。扁平面内で磁気異方性を有する材料においては、扁平面内の方向によって保磁力に差を有し、磁気的に等方性の材料に比べて、最小となる保磁力値が小さくなる。これによってヒステリシス損失は低減し、透磁率は向上し、好ましい。
尚、保磁力は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等を用いて評価できる。保磁力が低い場合は、低磁界ユニットを用いる事によって、0.1Oe以下の保磁力も測定する事ができる。測定磁界の方向に対して、扁平面内の方向を変えて測定を行う。
扁平面内において、方向による保磁力差の割合は大きければ大きいほど好ましく、1%以上であることが好ましい。より好ましくは、保磁力差の割合が10%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が50%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が100%以上である。ここでいう保磁力差の割合とは、扁平面内において、最大となる保磁力Hc(max)と最小となる保磁力Hc(min)を用いて、(Hc(max)-Hc(min))/Hc(min)×100(%)で定義される。
扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bは平均して2以上であることが好ましく、更に好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、更に好ましくは10以上である。扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bが2以上であるものを含むことが好ましく、更に好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、更に好ましくは10以上のものを含むことが好ましい。これによって、磁気的な異方性を付与し易くなり望ましい。磁気的な異方性が付与されると、扁平面内において保磁力差が生まれ、磁気的に等方性の材料に比べ、最小となる保磁力値が小さくなる。これによって、ヒステリシス損失は低減し、透磁率は向上し、好ましい。更に望ましくは、前記扁平磁性金属粒子において、後述する複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方の第1方向が最大長さ方向に配列されていることが望ましい。また、扁平磁性金属粒子を圧粉化する場合、扁平磁性金属粒子のa/bが大きいため、個々の扁平磁性金属粒子の扁平面が重なり合う面積(又は面積割合)が大きくなり、圧粉体としての強度は高くなり、好ましい。また、最小長さに対する最大長さの比が大きいほうが、磁気モーメントが扁平面に平行な方向に閉じ込められ、回転磁化で磁化が進行しやすくなり好ましい。回転磁化で磁化が進行する場合は、磁化が可逆的に進行しやすいため、保磁力が小さくなり、これによってヒステリシス損失が低減出来好ましい。一方、高強度化の観点からは、扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bは平均して1以上で2より小さい事が好ましく、更に好ましくは、1以上で1.5より小さい事がより好ましい。これによって、粒子の流動性や充填性が向上され望ましい。また、a/bが大きい場合に比べて、扁平面内に垂直な方向に対しての強度が高くなり、扁平磁性金属粒子の高強度化の観点から好ましい。更に、粒子を圧粉化する際に屈曲して圧粉化されることが少なくなり、粒子への応力が低減されやすい。つまり、歪みが低減され保磁力、ヒステリシス損失が低減されるとともに、応力が低減されるため熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
また、扁平面の輪郭形状の少なくとも一部に角を有するものは好ましく用いられる。例えば、正方形や長方形の様な輪郭形状、言い換えれば、角の角度が略90度であることは望ましい。これらによって、角部で、原子配列の対称性が低下し、電子軌道が拘束されるため、扁平面内に磁気的な異方性を付与し易くなり望ましい。
一方、低損失化や高強度化の観点からは、扁平面の輪郭形状は丸みを帯びた曲線によって形成されるほうが望ましい。極端な例としては、円や楕円の様な丸まった輪郭形状をするものの方が望ましい。これらによって、粒子の耐摩耗性が向上され望ましい。また、輪郭形状周辺において応力が集中しにくく、扁平磁性金属粒子の磁気的な歪みが低減され、保磁力が下がり、ヒステリシス損失が低減され望ましい。応力集中が低減されるため熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性も向上しやすくなり望ましい。
扁平磁性金属粒子においては、前記第1の元素がFeとCoを含み、Coの量はFeとCoの合計量に対して10at%以上60at%以下である事が好ましく、10原子%以上40原子%以下である事が更に好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、Fe-Co系は高飽和磁化を実現し易いため好ましい。更にFeとCoの組成範囲が上記の範囲に入る事によって、より高い飽和磁化が実現出来好ましい。
扁平磁性金属粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一つの非磁性金属を含む事が好ましい。これによって、前記扁平磁性金属粒子の熱的安定性や耐酸化性を高める事ができる。中でも、Al、Siは、扁平磁性金属粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、熱的安定性や耐酸化性の向上に寄与するために特に好ましい。
扁平磁性金属粒子は、Fe、Co、Siを含む磁性金属相3を有すことが望ましい。以下この場合について詳しく説明する。前記磁性金属相3において、Coの量はFeとCoの合計量に対して0.001at%以上80at%以下であることが好ましく、より好ましくは1at%以上60at%以下であることが好ましく、更に好ましくは5at%以上40at%以下であることが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、Fe-Co系は高飽和磁化を実現し易いため好ましい。更にFeとCoの組成範囲が上記の範囲に入る事によって、より高い飽和磁化が実現出来好ましい。また、Siの量は前記磁性金属相3全体に対して0.001at%以上30at%以下であることが好ましく、より好ましくは1at%以上25at%以下であることが好ましく、更に好ましくは5at%以上20at%以下であることが好ましい。これによって、結晶磁気異方性が適度な大きさになり、保磁力も低減しやすく、低ヒステリシス損失、高透磁率が実現しやすく好ましい。
なお、前記磁性金属相3が、Fe、Co、Siを含む系であり、且つ、Co量、Si量がそれぞれ上記の範囲に入っている場合、特に、上記の異方性付与効果について大きな効果が発現する。Fe又は、Coだけの単原子系や、FeとSiだけ、又はFeとCoだけの二原子系と比べて、Fe、Co、Siの三原子系においては、特に、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、保磁力が小さくなり、これによって、ヒステリシス損失は低減し、透磁率は向上し、好ましい。この大きな効果は、特に、上記の組成範囲に入っている時にのみもたらされる。また、Fe、Co、Siの三原子系において上記の組成範囲に入っていると、熱的安定性や耐酸化性についても格段に向上し好ましい。また、熱的安定性や耐酸化性が向上するため、高温での機械的特性も向上し好ましい。更には、室温における機械的特性についても、強度、硬度、耐摩耗性などの機械的特性が向上し、好ましい。また、前記扁平磁性金属粒子を合成する際に、ロール急冷法等によってリボンを合成し、このリボンを粉砕する事によって扁平磁性金属粒子を得る場合は、前記磁性金属相3が、Fe、Co、Siの三原子系で、且つ、Co量、Si量がそれぞれ上記の範囲に入っている場合、特に、容易に粉砕されやすく、これによって、前記扁平磁性金属粒子に歪みが比較的入りにくい状態が実現でき好ましい。扁平磁性金属粒子に歪みが入りにくいと、保磁力が低減しやすく、低ヒステリシス損失と高透磁率が実現しやすく好ましい。また歪みが少ないと、経時的な安定性が高くなったり、熱的な安定性が高くなったり、強度、硬度、耐摩耗性などの機械的特性が優れたりして、好ましい。
前記磁性金属相3の平均結晶粒径は、1μm以上である事が好ましく、より好ましくは10μm以上である事が好ましく、更に好ましくは50μm以上である事が好ましく、更に好ましくは100μm以上である事が好ましい。これによって、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
前記磁性金属相3は、B、Si、Al、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、W、P、N、Ga、Yからなる群から選ばれる少なくとも一つの添加元素を含む事が好ましい。これによって、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなり、扁平面内における保磁力差が大きくなり好ましい。Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素の原子半径との差が大きい添加元素が好ましい。また、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素と添加元素との混合エンタルピーが負に大きくなるような添加元素が好ましい。また、第1の元素と添加元素を含めて、合計3種類以上の元素からなる多元系であることが好ましい。また、B、Siなどの半金属の添加元素は、結晶化速度が遅く非晶質化しやすいため、系に混合すると有利である。以上の様な観点から、B、Si、P、Ti、Zr、Hf、Nb、Y、Cu等が好ましく、中でも前記添加元素がB、Si、Zr、Yのいずれか一つを含む事がより好ましい。また、前記添加元素の合計量が、前記第1の元素と前記添加元素の合計量に対していずれも0.001at%以上80at%以下含まれることが好ましい。より好ましくは、5at%以上80at%以下、更に好ましくは、10at%以上40at%以下である。尚、前記添加元素の合計量は多ければ多いほど、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなるため好ましいが(すなわち、低損失、高透磁率の観点からは好ましいが)、一方で磁性金属相3の割合が少なくなるため、飽和磁化が小さくなる、という点では好ましくない。ただし、用途によっては(例えばモータの磁性楔など)、飽和磁化が比較的小さい場合でも十分に使用する事ができ、むしろ低損失、高透磁率に特化した方が好ましい場合もある。尚、モータの磁性楔とは、コイルを入れるスロット部の蓋の様なもので、通常は非磁性の楔が使用されるが、磁性の楔を採用する事によって、磁束密度の疎密が緩和され、高調波損失が低減され、モータ効率が向上する。この時、磁性楔の飽和磁化は大きい方が好ましいが、比較的小さな飽和磁化(例えば0.5~1T程度)であっても、十分な効果を発揮する。よって、用途に応じて、組成及び添加元素量を選定する事が重要である。
また、扁平磁性金属粒子は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素と添加元素からなる磁性金属相3を有することが好ましい。以下、この場合について詳しく説明する。前記添加元素は、B、Hfを含むことがより好ましい。また、前記添加元素の合計量が前記磁性金属相3全体に対して0.002at%以上80at%以下含まれることが好ましく、より好ましくは5at%以上80at%以下であることが好ましく、更に好ましくは10at%以上40at%以下であることが好ましい。これによって、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなり、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、Hfの量が前記磁性金属相3全体に対して0.001at%以上40at%以下含まれることが好ましく、より好ましくは1at%以上30at%以下であることが好ましく、更に好ましくは1at%以上20at%以下であることが好ましい。これによって、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなり、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
なお、前記磁性金属相3が、前記第1の元素と前記添加元素(B、Hf)とからなる系であり、且つ、前記添加元素の合計量、Hf量がそれぞれ上記の範囲に入っている場合、特に、上記の異方性付与効果について大きな効果が発現する。この大きな効果は、特に、上記の組成範囲に入っている時にのみもたらされる。また、他の添加元素の系と比べて、特にHfを含む系においては、少量で非晶質化が進行しやすく、磁気的な異方性を付与しやすく、高飽和磁化との両立が実現しやすく好ましい。また、Hfは融点が高く、前記磁性金属相3に上記量の範囲で含まれることによって、熱的安定性、耐酸化性が格段に向上し好ましい。また、熱的安定性や耐酸化性が向上するため、高温での機械的特性も向上し好ましい。更には、室温における機械的特性についても、強度、硬度、耐摩耗性などの機械的特性が向上し、好ましい。また、前記扁平磁性金属粒子を合成する際に、ロール急冷法等によってリボンを合成し、このリボンを粉砕する事によって扁平磁性金属粒子を得る場合は、前記磁性金属相3が、前記第1の元素と前記添加元素(B、Hf)とからなる系であり、且つ、前記添加元素の合計量、Hf量がそれぞれ上記の範囲に入っている場合、特に、比較的容易に粉砕されやすく、これによって、前記扁平磁性金属粒子に歪みが比較的入りにくい状態が実現でき好ましい。扁平磁性金属粒子に歪みが入りにくいと、保磁力が低減しやすく、低ヒステリシス損失と高透磁率が実現しやすく好ましい。また歪みが少ないと、経時的な安定性が高くなったり、熱的な安定性が高くなったり、強度、硬度、耐摩耗性などの機械的特性が優れたりして、好ましい。
また、前記磁性金属相3の平均結晶粒径が100nm以下である事が好ましく、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下である事が好ましい。小さければ小さいほど好ましく、5nm以下であるとより好ましいし、2nm以下であると尚好ましい。これによって、異方性を付与し易くなり、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、結晶粒径が小さいという事はアモルファスに近付く事を意味しているため、高結晶性のものに比べて、電気抵抗が高くなり、これによって渦電流損失が低減しやすくなり好ましい。また、高結晶性のものに比べて耐食性、耐酸化性、の点で優れるため好ましい。なお、100nm以下の結晶粒径は、XRD測定によるScherrerの式によって簡単に算出することができるし、また、TEM(Transmission electron microscope、透過型電子顕微鏡)観察によって多数の磁性金属相3を観察しその粒径を平均化する事によっても求めることができる。結晶粒径が小さい場合はXRD測定で求める方が好ましく、結晶粒径が大きい場合はTEM観察で求める方が好ましいが、状況に応じて測定方法を選択するか、若しくは、両方の方法を併用して総合的に判断する事が好ましい。
扁平磁性金属粒子は体心立方構造(bcc)の結晶構造を有する部分を有することが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、面心立方構造(fcc)の結晶構造を部分的に有する「bccとfccの混相の結晶構造」であっても、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上述の磁気特性が向上するため好ましい。
扁平面は、結晶的に配向している事が好ましい。配向方向としては、(110)面配向、(111)面配向、が好ましいが、より好ましくは(110)面配向である。扁平磁性金属粒子の結晶構造が体心立方構造(bcc)の場合は(110)面配向が好ましく、扁平磁性金属粒子の結晶構造が面心立方構造(fcc)の場合は(111)面配向が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。前記扁平磁性金属粒子の扁平面の結晶面は、(110)以外の全ての結晶面が(110)に対してピーク強度比で10%以下である事が好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下である事が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
また、更に好ましい配向方向としては、(110)[111]方向、(111)[110]方向が好ましいが、より好ましくは(110)[111]方向である。扁平磁性金属粒子の結晶構造が体心立方構造(bcc)の場合は(110)[111]方向への配向が好ましく、扁平磁性金属粒子の結晶構造が面心立方構造(fcc)の場合は(111)[110]方向への配向が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。尚本明細書において、「(110)[111]方向」とは、すべり面が(110)面又はそれに結晶学的に等価な面すなわち{110}面であり、すべり方向が[111]方向又はそれに結晶学的に等価な方向すなわち<111>方向をいう。(111)[110]方向に関しても同様である。すなわち、すべり面が(111)面又はそれに結晶学的に等価な面すなわち{111}面であり、すべり方向が[110]方向又はそれに結晶学的に等価な方向すなわち<110>方向をいう。
扁平磁性金属粒子は、飽和磁化が高い方が好ましく、1T以上である事が好ましく、より好ましくは1.5T以上である事が好ましく、更に好ましくは1.8T以上、更に好ましくは2.0T以上である事が好ましい。これによって磁気飽和が抑制され、システム上で磁気特性を十分に発揮する事が出来好ましい。ただし、用途によっては(例えばモータの磁性楔など)、飽和磁化が比較的小さい場合でも十分に使用する事ができ、むしろ低損失に特化した方が好ましい場合もある。尚、モータの磁性楔とは、コイルを入れるスロット部の蓋の様なもので、通常は非磁性の楔が使用されるが、磁性の楔を採用する事によって、磁束密度の疎密が緩和され、高調波損失が低減され、モータ効率が向上する。この時、磁性楔の飽和磁化は大きい方が好ましいが、比較的小さな飽和磁化であっても、十分な効果を発揮する。よって、用途に応じて、組成を選定する事が重要である。
扁平磁性金属粒子の格子歪みは、0.01%以上10%以下が好ましく、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下にすることが好ましい。これによって、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
尚、格子歪みは、X線回折法(XRD:X-Ray Diffraction)で得られる線幅を詳細に解析する事によって算出できる。即ち、Halder-Wagnerプロット、Hall-Williamsonプロットを行う事によって、線幅の広がりの寄与分を、結晶粒径と格子歪みに分離する事ができる。これによって格子歪みを算出する事ができる。Halder-Wagnerプロットの方が信頼性の観点から好ましい。Halder-Wagnerプロットに関しては、例えば、N. C. Halder、 C. N. J. Wagner、 Acta Cryst. 20 (1966) 312-313.等を参照されたい。ここで、Halder-Wagnerプロットは、以下の式で表される。
つまり、縦軸にβ2/tan2θ、横軸にβ/tanθsinθを取ってプロットし、その近似直線の傾きから結晶粒径Dを算出、また縦軸切片から格子歪みεを算出する。上記式のHalder-Wagnerプロットによる格子歪み(格子歪み(二乗平均平方根))が0.01%以上10%以下、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下であると、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
上記の格子歪み解析はXRDでのピークが複数検出できる場合には有効な手法であるが、一方でXRDでのピーク強度が弱く検出できるピークが少ない場合(例えば一つしか検出されない場合)は解析が困難である。この様な場合は、次の手順で格子歪みを算出する事が好ましい。まず、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分析、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)などで組成を求め、磁性金属元素Fe、Co、Ni、三つの組成比を算出する(二つの磁性金属元素しかない場合は、二つの組成比。一つの磁性金属元素しかない場合は、一つの組成比(=100%))。次に、Fe-Co-Niの組成から理想的な格子面間隔d0を算出する(文献値などを参照。場合によっては、その組成の合金を作製し、格子面間隔を測定によって算出する)。その後、測定した試料のピークの格子面間隔dと理想的な格子面間隔d0との差を求める事によって歪み量を求めることができる。つまりこの場合は、歪み量としては、(d-d0)/d0×100(%)、として算出される。以上、格子歪みの解析は、ピーク強度の状態に応じて上記の二つの手法を使い分け、また場合によっては両方を併用しながら評価するのが好ましい。
扁平面内における格子面間隔は、方向によって差を有し、最大格子面間隔dmaxと最小格子面間隔dminの差の割合(=(dmax-dmin)/dmin×100(%))が、0.01%以上10%以下が好ましく、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下にすることが好ましい。これによって、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。尚、格子面間隔はXRD測定によって簡単に求める事ができる。このXRD測定を面内で向きを変えながら測定を行う事によって、方向による格子定数の差を求める事ができる。
扁平磁性金属粒子の結晶子は、扁平面内で一方向に数珠繋ぎになっているか、若しくは、結晶子が棒状であり且つ扁平面内で一方向に配向しているかどちらかである事が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
扁平磁性金属粒子の扁平面は、第1方向に配列し、幅0.1μm以上、長さ1μm以上でアスペクト比が2以上の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方を有する事が好ましい。これによって、前記第1方向に磁気異方性が誘起され易くなり、扁平面内において、方向による保磁力差が大きくなり好ましい。この観点においては、更に好ましくは、幅1μm以上、長さ10μm以上が好ましい。アスペクト比は5以上が好ましく、更に好ましくは10以上が好ましい。また、このような凹部又は凸部を備える事によって、扁平磁性金属粒子を圧粉化して圧粉材料を合成する際の扁平磁性金属粒子同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。
一つの扁平磁性金属粒子が凹部と凸部の両方を有していても良い。尚、凹部又は凸部のアスペクト比とは、長軸の長さ/短軸の長さである。つまり、凹部又は凸部の幅よりも長さのほうが大きい(長い)場合、アスペクト比は長さ/幅で定義され、長さよりも幅のほうが大きい(長い)場合、アスペクト比は幅/長さで定義される。アスペクト比が大きいほうが、磁気的に一軸異方性(異方性)を有しやすくなり、より好ましい。
また、「第1方向に配列」とは、凹部又は凸部の長さ及び幅のうち長いほうが第1方向に平行に配列していることをいう。なお、凹部又は凸部の長さ及び幅のうち長いほうが、第1方向に平行な方向から±30度以内に配列されていれば、「第1方向に配列している」ものとする。これらによって、扁平磁性金属粒子が、形状磁気異方性の効果によって、第1方向に磁気的に一軸異方性を有しやすくなり好ましい。なお、扁平磁性金属粒子は扁平面内において一方向に磁気異方性を有する事が好ましいが、これについて詳しく説明する。まず、扁平磁性金属粒子の磁区構造が多磁区構造の場合は、磁化過程は磁壁移動で進行するが、この場合扁平面内の容易軸方向の方が困難軸方向よりも保磁力が小さくなり、損失(ヒステリシス損失)が小さくなる。また容易軸方向の方が困難軸方向よりも透磁率が大きくなる。尚、等方的な扁平磁性金属粒子の場合と比べると、磁気異方性を有する扁平磁性金属粒子の場合の方が、特に容易軸方向において保磁力が小さくなり、これによって損失が小さくなり好ましい。また透磁率も大きくなり好ましい。つまり、扁平面内方向で磁気異方性を有する事によって、等方的な材料と比べて磁気特性が向上する。特に、扁平面内の容易軸方向の方が困難軸方向よりも磁気特性が優れ、好ましい。次に、扁平磁性金属粒子の磁区構造が単磁区構造の場合は、磁化過程は回転磁化で進行するが、この場合は、扁平面内の困難軸方向の方が容易軸方向よりも保磁力が小さくなり、損失が小さくなる。完全に回転磁化で磁化が進行する場合は保磁力がゼロになり、ヒステリシス損失がゼロとなり好ましい。尚、磁化が磁壁移動で進行するか(磁壁移動型)それとも回転磁化で進行するか(回転磁化型)は、磁区構造が多磁区構造になるかそれとも単磁区構造になるか、によって決定される。この時、多磁区構造になるか単磁区構造にあるかは、扁平磁性金属粒子のサイズ(厚さやアスペクト比)、組成、粒子同士の相互作用の状況、等によって決定される。例えば、扁平磁性金属粒子の厚さtは小さい程単磁区構造になりやすく、厚さが10nm以上1μm以下の時、特に10nm以上100nm以下の時に単磁区構造になりやすい。組成としては、結晶磁気異方性が大きい組成においては厚さが大きくても単磁区構造を維持し易く、結晶磁気異方性が小さい組成においては厚さが小さくないと単磁区構造を維持し難い傾向にある。つまり、単磁区構造になるか多磁区構造になるかの境目の厚さは組成によっても変わる。また扁平磁性金属粒子同士が磁気的に結合して磁区構造が安定化した方が単磁区構造になりやすい。尚、磁化挙動が磁壁移動型か、それとも、回転磁化型かの判断は、次の様に簡単に判別する事ができる。まず、材料面内(扁平磁性金属粒子の扁平面と平行な面)において、磁界を加える向きを変えて磁化測定を行い、磁化曲線の違いが最も大きくなる二つの方向(この時二つの方向は互いに90度傾いた方向)を探し出す。次に、その二つの方向の曲線を比較する事によって磁壁移動型か回転磁化型かを判別する事ができる。
以上の様に、扁平磁性金属粒子は扁平面内において一方向に磁気異方性を有する事が好ましいが、より好ましくは、扁平磁性金属粒子が、第1方向に配列し、幅0.1μm以上で長さ1μm以上でアスペクト比が2以上の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方を有する事によって、前記第1方向に磁気異方性が誘起され易くなり、より好ましい。この観点においては、更に、幅1μm以上、長さ10μm以上が好ましい。アスペクト比は5以上が好ましく、更には10以上が好ましい。また、このような凹部又は凸部を備える事によって、扁平磁性金属粒子を圧粉化して圧粉材料を合成する際の扁平磁性金属粒子同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。
また、前記扁平磁性金属粒子において、磁化容易軸方向に、最も多くの複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方の第1方向が配列されていることが好ましい。つまり、扁平磁性金属粒子の扁平面内において、多数の配列方向(=第1方向)が存在した場合、多数の配列方向(=第1方向)の中で最も数が多い配列方向(=第1方向)が、扁平磁性金属粒子の容易軸方向に一致する事が好ましい。凹部又は凸部が配列している長さ方向すなわち第1方向は、形状磁気異方性の効果によって、磁化容易軸になりやすいため、この方向を磁化容易軸として揃える方が、磁気異方性が付与され易くなり、好ましい。
複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方は、一つの扁平磁性金属粒子の中に平均して5個以上含まれる事が望ましい。ここで、凹部が5個以上含まれていても良いし、凸部が5個以上含まれていてもよいし、凹部の個数と凸部の個数の和が5個以上であっても良い。なお、更に好ましくは10個以上含まれることが望ましい。また、各々の凹部又は凸部間の幅方向の平均距離が0.1μm以上100μm以下である事が望ましい。更には、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも一つの前記第1の元素を含み、平均大きさが1nm以上1μm以下である複数の付着金属が、凹部又は凸部に沿って配列している事が望ましい。なお付着金属の平均大きさの求め方は、TEM又はSEM又は光学顕微鏡などによる観察に基づいて、凹部又は凸部に沿って配列している複数の付着金属の大きさを平均する事によって算出する。これらの条件を満たすと、一方向に磁気異方性が誘起され易く好ましい。また、扁平磁性金属粒子を圧粉化して圧粉材料を合成する際の扁平磁性金属粒子同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。
扁平磁性金属粒子は、扁平面上に平均して5個以上の複数の磁性金属小粒子をさらに備える事が望ましい。磁性金属小粒子は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の元素を含み、平均粒径は10nm以上1μm以下である。より好ましくは、磁性金属小粒子は、扁平磁性金属粒子と同等の組成を有する。磁性金属小粒子が扁平面の表面に設けられる、又は扁平磁性金属粒子に磁性金属小粒子が一体化されることによって、扁平磁性金属粒子の表面が擬似的にやや荒らされた状態になり、これによって、扁平磁性金属粒子を後述する介在相4とともに圧粉化する際の密着性が大きく向上する。これによって、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。この様な効果を最大限に発揮するためには、磁性金属小粒子の平均粒径を10nm以上1μm以下にして、平均して5個以上の磁性金属小粒子を扁平磁性金属粒子の表面、すなわち扁平面に一体化させる事が望ましい。尚、磁性金属小粒子が扁平面内の一方向に配列させると、扁平面内で磁気的な異方性が付与されやすく、高透磁率と低損失を実現しやすいため、より好ましい。磁性金属小粒子の平均粒径は、TEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察することにより求める。
扁平磁性金属粒子の粒度分布ばらつきは、変動係数(CV値)で定義できる。すなわち、CV値(%)=[粒度分布の標準偏差(μm)/平均粒径(μm)]×100である。CV値が小さいほど、粒度分布ばらつきが小さくシャープな粒度分布になるといえる。上記定義のCV値が0.1%以上60%以下であると、低保磁力、低ヒステリシス損失、高透磁率、高熱的安定性、を実現出来好ましい。また、ばらつきが少ないため、高い歩留りも実現しやすい。より好ましいCV値の範囲は0.1%以上40%以下である。
扁平磁性金属粒子の扁平面内において、方向による保磁力差を付与する一つの有効な方法は、磁場中で熱処理を施す方法である。扁平面内の一方向に磁場を印加しながら熱処理する事が望ましい。磁場中熱処理を行う前に、扁平面内の容易軸方向を探しておき(保磁力が最も小さい方向を探しておき)、その方向に磁場を印加しながら熱処理を行う事が望ましい。印加する磁場は大きければ大きい程好ましいが、1kOe以上印加する事が好ましく、更に好ましくは10kOe以上印加する事がより好ましい。これによって扁平磁性金属粒子の扁平面内に磁気異方性を発現させる事ができ、また、方向による保磁力差を付与する事ができ、優れた磁気特性を実現できるため、好ましい。熱処理は50℃以上800℃以下の温度で行う事が好ましい。尚、熱処理の雰囲気は、低酸素濃度の真空雰囲気下、不活性雰囲気下、還元性雰囲気下が望ましく、更に望ましくは、H2(水素)、CO(一酸化炭素)、CH4(メタン)等の還元雰囲気下が好ましい。この理由としては、扁平磁性金属粒子が酸化していても還元雰囲気で熱処理を施す事によって、酸化してしまった金属を還元して、金属に戻す事が可能となるためである。これによって、酸化し飽和磁化が減少した扁平磁性金属粒子を還元して、飽和磁化を回復させる事もできる。尚、熱処理によって、扁平磁性金属粒子の結晶化が著しく進行してしまうと特性が劣化(保磁力が増加、透磁率が低下)してしまうため、過剰な結晶化を抑制するように条件を選定することが好ましい。
また、扁平磁性金属粒子を合成する際に、ロール急冷法等によってリボンを合成し、このリボンを粉砕する事によって扁平磁性金属粒子を得る場合は、リボン合成時に、複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方が第1方向に配列されやすく(ロールの回転方向に凹部、凸部が付きやすい)、これによって、扁平面内において、方向による保磁力差を有し易くなり好ましい。すなわち、扁平面内の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方が第1方向に配列した方向が磁化容易軸方向になりやすくなり、扁平面内において、方向による保磁力差が効果的に付与され好ましい。
扁平磁性金属粒子は、扁平磁性金属粒子の表面の少なくとも一部が、厚さ0.1nm以上1μm以下で、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の元素を含む被覆層で覆われている事が好ましい。
被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一つの非磁性金属を含み、且つ、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の元素を含む事がより好ましい。非磁性金属としては、Al、Siが熱的安定性の観点から特に好ましい。扁平磁性金属粒子がMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、扁平磁性金属粒子の構成成分の一つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも一つ含むことがより好ましい。酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)の中では、酸素(O)を含む事が好ましく、酸化物、複合酸化物である事が好ましい。以上は、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点からである。以上によって、扁平磁性金属粒子と被覆層の密着性を向上出来、後述する圧粉材料の熱的安定性及び耐酸化性を向上させることが可能となる。被覆層は、扁平磁性金属粒子の熱的安定性や耐酸化性を向上させるのみならず、扁平磁性金属粒子の電気抵抗を向上させることができる。電気抵抗を高くすることによって、渦電流損失を抑制し、透磁率の周波数特性を向上することが可能になる。このため、被覆層14は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
また、被覆層の存在は、磁気的な観点からも好ましい。扁平磁性金属粒子は、扁平面のサイズに対して厚さのサイズが小さいため、疑似的な薄膜と見なす事ができる。この時、扁平磁性金属粒子の表面に被覆層を形成させて一体化させたものは、疑似的な積層薄膜構造と見なす事が出来、磁区構造がエネルギー的に安定化する。これによって、保磁力を低減させる事(これによってヒステリシス損失が低減)が可能になり、好ましい。この時、透磁率も大きくなり好ましい。このような観点においては、被覆層は非磁性である事がより好ましい(磁区構造が安定化しやすくなる)。
被覆層の厚みは、熱的安定性・耐酸化性・電気抵抗の観点からは、厚ければ厚い程好ましい。しかしながら、被覆層の厚さが厚くなりすぎると、飽和磁化が小さくなるため透磁率も小さくなり好ましくない。また、磁気的な観点からも、厚さが厚くなりすぎると、「磁区構造が安定化して低保磁力化・低損失化・高透磁率化する効果」は低減する。以上を考慮して、好ましい被覆層の厚さは、0.1nm以上1μm以下、より好ましくは0.1nm以上100m以下である。
複合磁性材料50について、扁平磁性金属粒子を含む磁性材料(圧粉材料)を例に取って、詳細に説明する(なお、以下は、磁性体としては扁平磁性金属粒子に限定されない。あくまで一例として用いているだけである)。
圧粉材料の飽和磁化は高い方が好ましく、0.2T以上である事が好ましく、より好ましくは0.5T以上である事が好ましく、1.0T以上、更に好ましくは1.8T以上、更に好ましくは2.0T以上である事が好ましい。これによって磁気飽和が抑制され、システム上で磁気特性を十分に発揮する事が出来好ましい。ただし、用途によっては(例えばモータの磁性楔など)、飽和磁化が比較的小さい場合でも十分に使用する事ができ、むしろ低損失に特化した方が好ましい場合もある。よって、用途に応じて、組成を選定する事が重要である。
扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な面と、圧粉材料が有する平面とのなす角度が0度に近ければ近い程配向していると定義する。10個以上の多数の扁平磁性金属粒子に関して前述の角度を求めその平均値が、好ましくは0度以上45度以下、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下である事が望ましい。すなわち、圧粉材料においては、前記複数の扁平磁性金属粒子の前記扁平面は互いに平行に、又は互いに平行に近くなるように層状に配向されている事が好ましい。これによって、圧粉材料の渦電流損失を低減する事ができ好ましい。また、反磁界を小さくできるため、圧粉材料の透磁率を大きくでき好ましい。また、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。更には、この様な積層構造においては、磁区構造が安定化し、低い磁気損失を実現できるため好ましい。
圧粉材料が有する前記平面内(扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な平面内)において、方向による保磁力を測定する場合は、例えば、前記平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定する。
圧粉材料の前記平面内において保磁力差を有する事によって、保磁力差がほとんどない等方性の場合に比べて、最小となる保磁力値が小さくなり好ましい。平面内で磁気異方性を有する材料においては、平面内の方向によって保磁力に差を有し、磁気的に等方性の材料に比べて、最小となる保磁力値が小さくなる。これによってヒステリシス損失は低減、透磁率は向上し、好ましい。
圧粉材料が有する前記平面内(扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な平面内)において、方向による保磁力差の割合は大きければ大きいほど好ましく、1%以上であることが好ましい。より好ましくは、保磁力差の割合が10%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が50%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が100%以上である。ここでいう保磁力差の割合とは、扁平面内において、最大となる保磁力Hc(max)と最小となる保磁力Hc(min)を用いて、(Hc(max)-Hc(min))/Hc(min)×100(%)で定義される。
尚、保磁力は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等を用いて、簡単に評価できる。保磁力が低い場合は、低磁界ユニットを用いる事によって、0.1Oe以下の保磁力も測定する事ができる。測定磁界の方向に対して、圧粉材料の前記平面内(扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な平面内)において方向を変えて測定を行う。
保磁力を算出する際は、横軸と交わる二つの点(磁化がゼロになる磁界H1、H2)の磁界の差分を2で割った値を採用する事ができる(つまり保磁力=|H2-H1|/2で算出できる)。
磁気異方性を付与する観点からは、磁性金属粒子が最大長さ方向を揃えて配列されている事が好ましい。最大長さ方向が揃っているかどうかは、圧粉材料に含まれる磁性金属粒子をTEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察し、最大長さ方向と任意に決めた基準線のなす角を求めて、そのばらつき度合いにより判断する。好ましくは、20個以上の扁平磁性金属粒子に対して平均的なばらつき度合いを判断することが好ましいが、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察する事ができない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均的なばらつき度合いを判断することが好ましい。本明細書においては、ばらつき度合いが±30°以下の範囲に入っている時、最大長さ方向が揃っているという。ばらつき度合いは±20°以下の範囲内がより好ましく、±10°以下の範囲内が更に好ましい。これによって、圧粉材料の磁気的な異方性を付与し易くなり望ましい。更に好ましくは、扁平面にある複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方の第1方向が最大長さ方向に配列されていることが望ましい。これによって、磁気的な異方性を大きく付与でき望ましい。
圧粉材料においては、近似的な第1方向が第2方向に配列される「配列割合」が30%以上であることが好ましい。より望ましくは50%以上、更に望ましくは75%以上である。これによって、磁気異方性が適度に大きくなり、前述の通り磁気特性が向上し好ましい。まず事前に評価する全ての扁平磁性金属粒子について、各扁平磁性金属粒子が有する凹部又は凸部の配列方向が最多数を占める方向をそれぞれ第1方向として定め、各扁平磁性金属粒子の第1方向が、圧粉材料全体として最も多く配列している方向を第2方向と定義する。次に、第2方向に対して、360度の角度を、45度おきの角度で分割した方向を決める。次に、各扁平磁性金属粒子の第1方向がどの角度の方向に最も近くに配列しているかを分類し、その方向を「近似的な第1方向」として定義する。すなわち、0度の方向、45度の方向、90度の方向、135度の方向の四つのいずれかに分類する。近似的な第1方向が、第2方向に対して、同じ方向で配列している割合を、「配列割合」と定義する。この「配列割合」を評価する際には、隣り合った扁平磁性金属粒子を順番に四つ選び、その四つを評価する。これを少なくとも3回以上の複数回(多い方が良い、例えば5回以上が望ましい、更に望ましくは10回以上が望ましい)行う事によって、その平均値を配列割合として採用する。なお、凹部又は凸部の方向が判別できない扁平磁性金属粒子は評価から除き、そのすぐ隣の扁平磁性金属粒子の評価を行う。例えば、単ロール急冷装置で合成したリボンを粉砕した扁平磁性金属粒子においては、片側の扁平面のみに凹部又は凸部が付き、もう片側の扁平面は凹部又は凸部が付かない事が多い。このような扁平磁性金属粒子をSEMで観察した場合、凹部又は凸部が付いていない扁平面が観察の画面上で見えている場合も確率としては半分ほど起こりうる(この場合も、実は裏側の扁平面は凹部又は凸部が付いているはずであるが、上記評価においては除く)。
また、圧粉材料の磁化容易軸方向に、最も多くの近似的な第1方向が配列されていることが好ましい。すなわち、圧粉材料の磁化容易軸は第2方向と平行であることが好ましい。凹部又は凸部が配列している長さ方向は、形状磁気異方性の効果によって、磁化容易軸になりやすいため、この方向を磁化容易軸として揃える方が、磁気異方性が付与され易くなり、好ましい。
第1方向に沿って前記介在相4の一部が付着していることが好ましい。言い換えると、扁平磁性金属粒子の扁平面上にある凹部又は凸部の方向に沿って、介在相4の一部が付着している事が好ましい。これによって、一方向に磁気異方性が誘起され易くなり、好ましい。また、このような介在相4の付着は、扁平磁性金属粒子同士の密着性を向上させ、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。また、介在相4は粒子状のものを含む事が好ましい。これによって、適度に扁平磁性金属粒子同士の密着性を適度な状態に保持し、歪みを軽減し(扁平磁性金属粒子間に粒子状の介在相4がある事によって、扁平磁性金属粒子に印加される応力が緩和され)、保磁力を低減しやすくさせ(ヒステリシス損失は低減、透磁率は増加)、好ましい。
介在相4は、圧粉材料全体に対して0.01wt%以上80wt%以下、より好ましくは0.1wt%以上60wt以下、更に好ましくは0.1wt%以上40wt%以下の量を含むことが好ましい。介在相4の割合が大きすぎると、磁性を担う扁平磁性金属粒子の割合が小さくなるため、これによって圧粉材料の飽和磁化や透磁率が小さくなり好ましくない。逆に、介在相4の割合が小さすぎると、扁平磁性金属粒子と介在相4との接合が弱くなり、熱的な安定性や強度・靱性等の機械的特性の観点から好ましくない。飽和磁化、透磁率などの磁気特性と、熱的な安定性、機械的特性の観点から最適な介在相4の割合は、圧粉材料全体に対して0.01wt%以上80wt%以下、より好ましくは0.1wt%以上60wt以下、更に好ましくは0.1wt%以上40wt%以下である。
また、介在相4と扁平磁性金属粒子との格子ミスマッチ割合が0.1%以上50%以下である事が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。格子ミスマッチを上記の範囲に設定するためには、介在相4の組成と扁平磁性金属粒子10の組成の組み合わせを選ぶことによって実現できる。例えば、fcc構造のNiは格子定数が3.52Åで、NaCl型構造のMgOは格子定数が4.21Åであり、両者の格子ミスマッチが(4.21-3.52)/3.52×100=20%になる。つまり、扁平磁性金属粒子の主組成をfcc構造のNiに、介在相4をMgOにする事によって、格子ミスマッチを20%に設定できる。この様に、扁平磁性金属粒子の主組成と介在相4の主組成の組み合わせを選ぶ事によって、格子ミスマッチを上記の範囲に設定する事が可能となる。
介在相4は、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の元素を含む。これにより、抵抗を高くすることができるためである。介在相4の電気抵抗率は、扁平磁性金属粒子の電気抵抗率よりも高い方が好ましい。これによって扁平磁性金属粒子の渦電流損失を低減できるためである。介在相4は、扁平磁性金属粒子を取り囲んで存在するため、扁平磁性金属粒子の耐酸化性、熱的安定性を向上させる事が出来好ましい。この中で酸素を含むものは、高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点からより好ましい。介在相4は、扁平磁性金属粒子同士を機械的に接着する役割も担っているため、高い強度の観点からも好ましい。
また、介在相4は、「共晶系を有する酸化物」か、「樹脂を含有する」か、「Fe、Co、Niから選ばれる少なくとも一つの磁性金属を含有する」か、これら三つのうち少なくとも一つを有していても良い。これらの点について、以下に説明する。
まず、一つ目の「介在相4が共晶系を有する酸化物の場合」について説明する。この場合、介在相4は、B(ホウ素)、Si(シリコン)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Li(リチウム)、Ba(バリウム)、Zn(亜鉛)、La(ランタン)、P(リン)、Al(アルミニウム)、Ge(ゲルマニウム)、W(タングステン)、Na(ナトリウム)、Ti(チタン)、As(ヒ素)、V(バナジウム)、Ca(カルシウム)、Bi(ビスマス)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Sn(スズ)からなる群から選ばれる少なくとも二つの第3の元素を含む共晶系を有する酸化物を含む。特に、B、Bi、Si、Zn、Pbのうちの少なくとも二つの元素を含む共晶系を含むことが好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子と介在相4との密着性が強固になり(接合強度が高まり)、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
また上記の共晶系を有する酸化物は、軟化点が200℃以上600℃以下である事が好ましく、更に好ましくは、400℃以上500℃以下である。更に好ましくは、B、Bi、Si、Zn、Pbのうちの少なくとも二つの元素を含む共晶系を有する酸化物であり、且つ軟化点が400℃以上500℃以下である事が好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子と上記の共晶系を有する酸化物との接合が強固になり、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。扁平磁性金属粒子を上記の共晶系を有する酸化物とともに一体化させる際は、上記の共晶系を有する酸化物の軟化点付近の温度、好ましくは軟化点よりやや高い温度で熱処理しながら一体化させる事によって、扁平磁性金属粒子と上記の共晶系を有する酸化物との密着性を向上させ、機械的特性を向上させる事ができる。一般に、熱処理の温度がある程度高い程、扁平磁性金属粒子と上記の共晶系を有する酸化物との密着性は向上し、機械的特性は向上する。ただし熱処理の温度が高くなりすぎると、熱膨張係数が大きくなるため扁平磁性金属粒子と上記の共晶系を有する酸化物との密着性が逆に低下してしまう事もある(扁平磁性金属粒子の熱膨張係数と上記の共晶系を有する酸化物の熱膨張係数の差が大きくなると、密着性が更に低下してしまう事もある)。また、扁平磁性金属粒子の結晶性が非晶質又は非晶質的な場合は、熱処理の温度が高いと結晶化が進行し保磁力が増加してしまい好ましくない。このため、機械的特性と保磁力特性を両立させるために、上記の共晶系を有する酸化物の軟化点を200℃以上600℃以下、更に好ましくは400℃以上500℃以下にして、上記の共晶系を有する酸化物の軟化点付近の温度、好ましくは軟化点よりやや高い温度で熱処理しながら一体化させる事が好ましい。また、一体化した材料を実際にデバイスやシステムの中で使用する際の温度は軟化点より低い温度で使用する事が好ましい。
また、上記の共晶系を有する酸化物は、ガラス転移点を有する事が望ましい。更には、上記の共晶系を有する酸化物は、熱膨張係数が0.5×10-6/℃以上40×10-6/℃以下である事が望ましい。これによって、扁平磁性金属粒子10と上記の共晶系を有する酸化物との接合が強固になり、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
尚、粒径が10nm以上10μm以下の粒子状(好ましくは球状)の共晶粒子を少なくとも一つ以上含む事がより好ましい。この共晶粒子は、粒子状以外の上記の共晶系を有する酸化物と同じ材料を含む。圧粉材料中には空隙も部分的に存在している事があり、上記の共晶系を有する酸化物の一部が粒子状、好ましくは球状となって存在している事を容易に観察する事ができる。空隙がない場合も、粒子状若しくは球状の界面は容易に判別する事ができる。共晶粒子の粒径は、より好ましくは10nm以上1μm、更に好ましくは10nm以上100nm以下である。これによって、熱処理時に、扁平磁性金属粒子同士の密着性を保持しながらも、応力を適度に緩和させる事によって、扁平磁性金属粒子に印加される歪みを低減し、保磁力を低減させる事ができる。これによって、ヒステリシス損失も低減し、透磁率は向上する。尚、共晶粒子の粒径は、TEM又はSEM観察により測定することができる。
また、介在相4は、その軟化点が、上記の共晶系を有する酸化物の軟化点よりも高く、より好ましくは軟化点が600℃より高く、O(酸素)、C(炭素)、N(窒素)及びF(フッ素)からなる群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む中間介在粒子を更に含む事が好ましい。中間介在粒子が扁平磁性金属粒子間に存在する事によって、圧粉材料が高温に曝された時、扁平磁性金属粒子同士が熱的に融合し特性が劣化する事を抑制する事ができる。すなわち、主に熱的な安定性のために中間介在粒子が存在する事が望ましい。尚、中間介在粒子の軟化点が上記の共晶系を有する酸化物の軟化点よりも高く、更に好ましくは軟化点が600℃以上である事によって、熱的な安定性をより高める事ができる。
中間介在粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一つの非磁性金属を含み、且つ、O(酸素)、C(炭素)、N(窒素)及びF(フッ素)からなる群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む事が好ましい。より好ましくは、高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点から、酸素を含有する酸化物若しくは複合酸化物である事がより好ましい。特に、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化珪素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO3)などの酸化物、やAl-Si-O等の複合酸化物などが高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点から好ましい。
中間介在粒子を含む圧粉材料を製造する方法としては、例えば、扁平磁性金属粒子及び中間介在粒子(酸化アルミニウム(Al2O3)粒子、二酸化珪素(SiO2)粒子、酸化チタン(TiO2)粒子、酸化ジルコニウム(ZrO3)粒子など)を、ボールミル等によって混合し、分散させた状態を作り、その後、プレス成型などで一体化させる方法などが挙げられる。分散させる方法は、適度に分散させる事ができる方法であれば、その方法は特に拘らない。
次に、二つ目の「介在相4が樹脂を含有する場合」について説明する。この場合、樹脂は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン系樹脂、テフロン(登録商標)系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル-ブタジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン系ゴム、シリコーン樹脂、その他の合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、或いはそれらの共重合体が用いられる。特に、高い熱的安定性を実現するためには、耐熱性の高いシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、を含む事が好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子と介在相4との接合が強固になり、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
樹脂は、大気雰囲気中180℃で3000時間加熱した後の重量減少率が5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、大気雰囲気中220℃で200時間加熱した後の重量減少率に関して、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、大気雰囲気中250℃で200時間加熱した後の重量減少率に関して、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましいなお、これら重量減少率の評価は、未使用の状態の材料を用いて行う。未使用の状態とは、成形して使える状態にしたもので、その状態から熱(たとえば40度以上の温度の熱)、化学薬品、太陽光(紫外線)等に曝されていない状態のことである。重量減少率は、加熱前後の質量から次式で計算するものとする:重量減少率(%)=[加熱前の質量(g)-加熱後の質量(g)]/加熱前の質量(g)×100。また、好ましくは、大気雰囲気中180℃で20000時間加熱後の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。更に好ましくは、大気雰囲気中220℃で20000時間加熱後の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。また日本工業規格(JIS)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、最高温度180℃に耐える耐熱性を満たす事が好ましい。更に好ましくは、国鉄規格(JRE)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、周囲温度(標準:25℃、最高:40℃)に対して180℃の温度上昇に耐える耐熱性を満たす事が好ましい。これに好ましい樹脂は、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリベンズオキサゾール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、液晶ポリマーなどがある。これらの樹脂は、分子間凝集力が大きいため、耐熱性が高くなり、好ましい。中でも、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾールは、分子内に占める剛直ユニットの割合が高いため、より耐熱性が高く好ましい。また、熱可塑性樹脂であることが好ましい。以上の加熱重量減少率の規定、強度の規定、樹脂種類の規定は、それぞれ、樹脂の耐熱性を高めるために効果的である。また、これらによって、複数の扁平磁性金属粒子と介在相4(ここでは樹脂)から成る圧粉材料を形成した時に、圧粉材料としての耐熱性が高まり(熱的な安定性が高まり)、高温(たとえば上記の200℃や250℃)に曝した後、又は高温(たとえば上記の200℃や250℃)での強度・靱性などの機械的特性が向上しやすくなり、好ましい。また、加熱後も扁平磁性粒子の周りを多くの介在相4が取り囲んで存在するため、耐酸化性に優れ、扁平磁性金属粒子の酸化による磁気特性の劣化も起こり難く、好ましい。
また、圧粉材料は、180℃で3000時間加熱後の重量減少率が5%以下である事が好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、圧粉材料は、220℃で3000時間加熱後の重量減少率が5%以下である事が好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、大気雰囲気中250℃で200時間加熱した後の圧粉材料の重量減少率に関して、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。なお、重量減少率の評価は、上記の樹脂の場合と同様である。また、好ましくは、大気雰囲気中180℃で20000時間加熱後の圧粉材料の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。更に好ましくは、大気雰囲気中220℃で20000時間加熱後の圧粉材料の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。また日本工業規格(JIS)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、最高温度180℃に耐える耐熱性を満たす事が好ましい。更に好ましくは、国鉄規格(JRE)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、周囲温度(標準:25℃、最高:40℃)に対して180℃の温度上昇に耐える耐熱性を満たす事が好ましい。以上の加熱重量減少率の規定、強度の規定、前述の樹脂種類の規定は、それぞれ、圧粉材料の耐熱性を高めるために効果的であり、高信頼性の材料を実現できる。また、圧粉材料としての耐熱性が高まり(熱的な安定性が高まり)、高温(たとえば上記の200℃や250℃)に曝した後、又は高温(たとえば上記の200℃や250℃)での強度・靱性などの機械的特性が向上しやすくなり、好ましい。また、加熱後も扁平磁性粒子の周りを多くの介在相4が取り囲んで存在するため、耐酸化性に優れ、扁平磁性金属粒子の酸化による磁気特性の劣化も起こり難く、好ましい。
さらに、熱分解温度までガラス転移点を有しない結晶性の樹脂を含むことが好ましい。また、ガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含むことが好ましく、更に好ましくはガラス転移温度が220℃以上の樹脂を含むことが好ましい。更に好ましくは、ガラス転移温度が250℃以上の樹脂を含むことが好ましい。尚、一般に扁平磁性金属粒子は、熱処理する温度が高くなるほど結晶粒径が大きくなる。そのため、扁平磁性金属粒子の結晶粒径を小さくする必要がある場合は、用いる樹脂のガラス転移温度は高すぎないほうが好ましく、具体的には600℃以下である事が好ましい。また、熱分解温度までガラス転移点を有しない結晶性の樹脂にガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含むことが好ましく、更に好ましくはガラス転移温度が220℃以上の樹脂を含むことが好ましい。具体的には180℃以上のガラス転移温度を有するポリイミドを含むことが好ましく、更に好ましくは220℃以上のガラス転移温度を有するポリイミドを含むことが好ましく、更に好ましくは熱可塑性ポリイミドを含むことが好ましい。これによって、磁性金属粒子への融着が起こり易くなり、特に圧粉成形に好適に用いる事ができる。熱可塑性ポリイミドとしては、熱可塑性芳香族ポリイミド、熱可塑性芳香族ポリアミドイミド、熱可塑性芳香族ポリエ-テルイミド、熱可塑性芳香族ポリエステルイミド、熱可塑性芳香族ポリイミドシロキサンなどの高分子鎖中にイミド結合を有するものが好ましい。中でも、ガラス転移温度が250℃以上の場合は、より耐熱性が高くなり好ましい。
芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾールは、芳香族環と複素環が直接結合して平面構造をとり、それらがπ-πスタッキングにより固定化されている事で高耐熱性を発現している。これによって、ガラス転移温度を高くでき、熱的安定性を向上できる。また、分子構造内に適度にエーテル結合などの屈曲ユニットを導入することで所望のガラス転移点に容易に調整できるので好ましい。中でも、イミドポリマーを構成する酸無水物由来ユニットのベンゼン環構造がビフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのいずれかの構造であると強度の観点から好ましい。耐熱性に影響を及ぼすイミド基間の対称構造を損なわず、配向性も長距離に及ぶことから材料強度も向上する。これに好ましい芳香族ポリイミドの構造は、下記化学式(1)で示される。言い換えると、第1の実施形態のポリイミド樹脂は、下記化学式(1)で表される繰り返し単位を含む。
(1)
化学式(1)中、Rはビフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのいずれかの構造、R’は構造内に少なくとも一つ以上の芳香環を有する構造を示す。
圧粉材料から、その構成成分である介在相4(ここでは樹脂)の特性(重量減少率、樹脂種類、ガラス転移温度、分子構造など)を求める際には、圧粉材料から樹脂の部分のみを切り出して、種々の特性評価を行う。目視で樹脂かどうか判断がつかない場合は、EDXによる元素分析などを用いて樹脂と磁性金属粒子とを区別する。
圧粉材料全体に占める樹脂の含有量は、多ければ多いほど、扁平磁性金属粒子をぬらしている(覆っている)ポリマーと、隣接する扁平磁性金属粒子をぬらしている(覆っている)ポリマーの間を、無理なくポリマーがつなぐ事ができ、強度などの機械的特性が向上する。また電気抵抗率も高くなり圧粉材料の渦電流損失を低減でき好ましい。一方で、樹脂の含有量が多ければ多いほど、扁平磁性金属粒子の割合が減るため、圧粉材料の飽和磁化が下がり、透磁率も下がり、好ましくない。強度などの機械的特性、電気抵抗率・渦電流損失、飽和磁化、透磁率の特性を総合的に考慮してバランスの良い材料を実現するためには、圧粉材料全体に占める樹脂の含有量を93wt%以下、更に好ましくは86wt%以下、更に好ましくは2wt%以上67wt%以下、更に好ましくは2wt%以上43wt%以下にする事が好ましい。また、扁平磁性金属粒子の含有量は、7wt%以上である事が好ましく、更に好ましくは、14wt%以上である事が好ましく、更に好ましくは、33wt%以上98wt%以下、更に好ましくは、57wt%以上98wt%以下である事が好ましい。また、扁平磁性金属粒子は、粒子径が小さくなると、表面積が大きくなり、必要な樹脂の量が飛躍的に増加するため、適度に大きい粒子径を有することが好ましい。これによって、圧粉材料を高飽和磁化にでき、透磁率を大きくでき、システムの小型化・高出力化に有利である。
次に、三つ目の「介在相4がFe、Co、Niから選ばれる少なくとも一つの磁性金属を含有し、磁性を有する場合」について説明する。この場合、介在相4が磁性を有する事によって、扁平磁性金属粒子同士が磁気的に結合し易くなり透磁率が向上するため好ましい。また、磁区構造が安定化するため、透磁率の周波数特性も向上し、好ましい。尚、ここで言う磁性とは、強磁性、フェリ磁性、弱磁性、反強磁性、等の事を示す。特に、強磁性、フェリ磁性の場合が、磁気的な結合力が高まり好ましい。介在相4が磁性を有する点については、VSM(Vibrating Sample Magetometer:振動試料型磁力計)等を用いて評価することができる。介在相4がFe、Co、Niから選ばれる少なくとも一つの磁性金属を含有し磁性を有する点については、EDX等を用いて簡単に調べる事ができる。
以上、介在相4の三つの形態を説明したが、これら三つのうち少なくとも一つを満たす事が好ましいが、二つ以上、更には三つ全てを満たしても構わない。「介在相4が共晶系を有する酸化物の場合」(一つ目の場合)は、介在相4が樹脂の場合(二つ目の場合)と比較すると、強度などの機械的特性ではやや劣るものの、一方で、歪みが解放され易く、特に、低保磁力化が進行しやすい、という観点では非常に優れており、好ましい(これによって、低いヒステリシス損失、高い透磁率、が実現し易く、好ましい)。また、樹脂に比べると耐熱性が高い場合が多く、熱的安定性にも優れているため好ましい。逆に、「介在相4が樹脂を含有する場合」(二つ目の場合)は、扁平磁性金属粒子と樹脂との密着性が高いため、応力が加わり易く(歪みが入り易く)、これによって保磁力が増加しやすい傾向がある、という欠点があるものの、特に、強度などの機械的特性の点では非常に優れているため好ましい。「介在相4がFe、Co、Niから選ばれる少なくとも一つの磁性金属を含有し、磁性を有する場合」(三つ目の場合)は、扁平磁性金属粒子同士が磁気的に結合し易くなるため、特に、高透磁率、低保磁力(それゆえに低ヒステリシス損失)の点で非常に優れているため好ましい。以上の長所、短所を踏まえて、使い分けたり、また、いくつかを組み合わせる事によって、バランスの良いものを作ったりする事ができる。
圧粉材料に含まれる扁平磁性金属粒子に関しては、第1、2の実施の形態で記述した要件を満たす事が望ましい。ここでは内容が重複するため、記述を省略する。
圧粉材料においては、前記複数の扁平磁性金属粒子の前記扁平面は互いに平行になるように層状に配向されている事が好ましい。これによって、圧粉材料の渦電流損失を低減する事ができ好ましい。また、反磁界を小さくできるため、圧粉材料の透磁率を大きくでき好ましい。また、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。更には、この様な積層構造においては、磁区構造が安定化し、低い磁気損失を実現できるため好ましい。ここで、扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な面と、圧粉材料が有する平面とのなす角度が0度に近ければ近い程配向していると定義する。具体的には、10個以上の多数の扁平磁性金属粒子10に関して前述の角度を求めその平均値が、好ましくは0度以上45度以下、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下である事が望ましい。
圧粉材料は、前記扁平磁性金属粒子を含有する磁性層と、O、C、Nのいずれかを含有する中間層とからなる積層型の構造を有していても良い。磁性層においては、前記扁平磁性金属粒子が配向している(互いの扁平面を平行にする様に配向)事が好ましい。また、中間層の透磁率を磁性層の透磁率よりも小さくする事が好ましい。これらの処置によって、疑似的な薄膜積層構造を実現でき、層方向の透磁率が高くできるため好ましい。また、このような構造においては、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。更には、この様な積層構造においては、磁区構造が安定化し、低磁気損失を実現できるため好ましい。尚、これらの効果を更に高めるためには、中間層の透磁率を介在相4(磁性層の中の介在相4)の透磁率よりも小さくする事がより好ましい。これによって、疑似的な薄膜積層構造において、層方向の透磁率を更に高くできるため好ましい。また、強磁性共鳴周波数を更に高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。
なお、ここまでで、「平面内における方向による保磁力差の割合の規定」、「磁性体のサイズの規定」、「磁性体の組成の規定」、「磁性体の主面に有する凹部と凸部の規定」、「磁性体の格子歪みの規定」、「磁性体に含まれる被覆層の規定」、「介在相の規定」などを詳細に記述してきたが、これらは第1、第2、第3、第4、等の磁性材料のうちのいずれか1つの磁性材料、もしくは複数の磁性材料、もしくは全ての磁性材料において満たす事が好ましい。
以上、本実施形態によれば、優れた磁気特性及び機械的特性を有する複合磁性材料50の提供が可能になる。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態のシステム及びデバイス装置は、第1の実施の形態の複合磁性材料を有するものである。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。このシステム、デバイス装置に含まれる複合磁性材料の部品は、例えば、各種モータや発電機などの回転電機(例えば、モータ、発電機など)、変圧器、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ等のコアや、回転電機用の磁性楔(磁性くさび)等である。図12は、第2の実施の形態のモータシステムの概念図例である。モータシステムは、回転電機システムの一例である。モータシステムとは、モータの回転数や電力(出力パワー)を制御する制御系を含めたシステムの事である。モータの回転数を制御する方式としては、ブリッジサーボ回路による制御、比例電流制御、電圧比較制御、周波数同期制御、PLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)制御、等による制御方法がある。一例として、PLLによる制御法について図12に示してある。PLLによるモータの回転数を制御するモータシステムは、モータと、モータの回転の機械的変位量を電気信号に変換してモータの回転数を検出するロータリーエンコーダと、ある命令により与えられたモータの回転数とロータリーエンコーダにより検出されたモータの回転数を比較しそれらの回転数差を出力する位相比較器と、当該回転数差を小さくするようにモータを制御するコントローラと、を備える。一方、モータの電力を制御する方法としては、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御、PAM(Pulse Amplitude Modulation:パルス電圧振幅波形)制御、ベクトル制御、パルス制御、バイポーラ駆動、ペデスタル制御、抵抗制御、等による制御方法がある。またその他の制御方法として、マイクロステップ駆動制御、多相駆動制御、インバータ制御、スイッチング制御、等の制御方法がある。一例として、インバータによる制御法について図12に示してある。インバータによるモータの電力を制御するモータシステムは、交流電源と、交流電源の出力を直流電流に変換する整流器と、当該直流電流を任意の周波数による交流に変換するインバータ回路と、当該交流により制御されるモータと、を備える。
図13は、第2の実施の形態のモータの模式図である。図13に示したのは、回転電機の一例としてのモータ200の概念図である。モータにおいては、第1のステータ(固定子)と第2のロータ(回転子)が配置されている。図13では、ロータがステータの内側に配置されているインナーロータ型を示しているが、ロータがステータの外側に配置されるアウターロータ型でも構わない。
図14は、第2の実施の形態のモータコア300(ステータ)の模式図である。図15は、第2の実施の形態のモータコア300(ロータ)の模式図である。モータコアとしては、ステータ及びロータのコアが該当する。この点を、以下に説明する。図14は第1のステータの断面概念図例である。第1のステータは、コアと、巻き線と、を有する。巻き線は、コア内側に設けられた、コアが有する突起の一部に巻き付けられている。このコア内に第1の実施形態の複合磁性材料を配置することができる。図15は第1のロータの断面概念図例である。第1のロータは、コアと、巻き線と、を有する。巻き線は、コア外側に設けられた、コアが有する突起の一部に巻き付けられている。このコア内に第1の実施形態の複合磁性材料を配置することができる。
尚、図14、図15はあくまでモータの一例を示したものであり、複合磁性材料の適用先としてはこれに限定されるものではない。磁束を導きやすくするためのコアとして、あらゆる種類のモータに適用する事ができる。
また、複合磁性材料はモータの磁性楔として用いる事もできる。通常、回転電機のコイル巻線は、鉄心スロットの中に収納され、スロット開口部に設けた楔によって支持固定されている。この楔の材質には非磁性体が一般的に採用されるが、固定子鉄心及び回転子鉄心間の空隙における磁気抵抗値が不連続になるため、楔に空隙を介して対向する鉄心表面部の磁束分布に脈動が生じ、高調波損失が大きくなる。この高調波損失を低減する目的で、兼ねてより、適度に磁性をもった楔(磁性楔)が供されている。この磁性楔に第1の実施の形態の複合磁性材料を適用すると、磁気特性及び機械的特性が優れているため、好ましい。この時、前記複合磁性材料の前記主面が前記回転電機の固定子と回転子との間の空隙面に対し略垂直になるように配置される事が、磁気特性を向上できるため、より好ましい。以下、主面を有する平面型構造の磁性体の一例として、扁平磁性金属粒子を例にとって、説明する。
図16は、第2の実施の形態において、ラジアルギャップ型回転電機に、磁性楔用の複合磁性材料を挿入した場合の、扁平磁性金属粒子の配置方向を示す模式図である。図16(a)は、空隙端部から鉄心外側へ流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態である。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。また、図16(b)は、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態である。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。
図17は、第2の実施の形態において、アキシャルギャップ型回転電機に、磁性楔用の複合磁性材料を挿入した場合の、扁平磁性金属粒子の配置方向を示す模式図である。図17は、空隙端部から鉄心外側へ流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態であり、これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。また、図16(b)の場合と同様に、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態にすることもできる。これによって、磁性楔使用による回転電機の効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。
図18は、第2の実施の形態において、リニアモータに、磁性楔用の複合磁性材料を挿入した場合の、扁平磁性金属粒子の配置方向を示す模式図である。リニアモータはラジアルギャップ型モータを展開し平板状の構造としたものであるため、本実施形態の磁性楔をリニアモータに適用することも可能である。即ち、固定子は固定子鉄心と、固定子鉄心のスロットに挿置した界磁コイルを備え、スロット開口部に磁性楔を設けても良い。図18は、空隙端部から鉄心外側へ流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態であり、これによって、磁性楔使用による効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。また、図16(b)の場合と同様に、磁性楔を介して鉄心ティース間を流れる漏れ磁束を低減するのに適した磁性体の配置状態にすることもできる。これによって、磁性楔使用による効率向上の効果を十分に享受することが可能となる。
図19は、第2の実施の形態の変圧器・トランスの模式図である。図20は、第2の実施の形態のリング状インダクタ概念図例及び棒状インダクタ概念図例である。図21は、第2の実施の形態のチップインダクタ断面概念図例及び平面インダクタ概念図例である。図19に変圧器・トランス400、図20及び図21にインダクタ500の概念図がそれぞれ示されている。これらもあくまで一例として示したものである。変圧器・トランス、インダクタにおいてもモータコアと同様に、磁束を導きやすくするために、又は高い透磁率を利用するために、あらゆる種類の変圧器・トランス、インダクタに複合磁性材料を適用する事ができる。
図22は、第2の実施の形態の発電機の模式図である。図22には回転電機の一例として発電機500の概念図例を示されている。発電機500は、第1の実施形態の複合磁性材料をコアとして用いた第2のステータ(固定子)530と、第1の実施形態の複合磁性材料をコアとして用いた第2のロータ(回転子)540の、いずれか一方又はその両方を備えている。図22では、第2のロータ(回転子)540は第2のステータ530の内側に配置されているが、外側に配置されていても構わない。第2のロータ540は、発電機500の一端に設けられたタービン510と、シャフト520を介して接続されている。タービン510は、例えば図示しない外部から供給される流体により回転する。尚、流体により回転するタービンに代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフトを回転することも可能である。第2のステータ530及び第2のロータ540には、各種公知の構成を採用することができる。
シャフトは、第2のロータに対してタービンとは反対側に配置された、図示しない整流子と接触している。第2のロータの回転により発生した起電力は、発電機の電力として、図示しない相分離母線及び図示しない主変圧器を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。尚、第2のロータには、タービンからの静電気や発電に伴う軸電流による帯電が発生する。このため、発電機は、第2のロータの帯電を放電させるためのブラシを備えている。
また、本実施形態の回転電機は、鉄道車両に好ましく用いることができる。例えば、鉄道車両を駆動するモータ200や、鉄道車両を駆動するための電気を発生する発電機500に好ましく用いることができる。
図23は、磁束の方向と複合磁性材料の配置方向の関係を示す概念図である。図23には、磁束の方向と複合磁性材料の配置方向の関係について好ましい例を記す。尚、まず、磁壁移動型、回転磁化型のいずれにおいても、磁束の方向に対して、複合磁性材料に含まれる扁平磁性金属粒子の扁平面をできるだけ互いに平行に、かつ層状に揃える方向に配置する事が好ましい。これは磁束を貫く扁平磁性金属粒子の断面積をできるだけ小さくする事によって渦電流損失を低減できるからである。その上で、尚且つ、磁壁移動型においては、扁平磁性金属粒子の扁平面内における磁化容易軸(矢印方向)を磁束の方向と平行に配置する事が好ましい。これによって、保磁力がより低減する方向で使用する事ができるためヒステリシス損失を低減出来好ましい。また透磁率も高く出来て好ましい。逆に、回転磁化型においては、扁平磁性金属粒子の扁平面内における磁化容易軸(矢印方向)を磁束の方向と垂直に配置する事が好ましい。これによって、保磁力がより低減する方向で使用する事ができるためヒステリシス損失を低減出来好ましい。つまり、複合磁性材料の磁化特性を把握し、磁壁移動型か回転磁化型か(判別方法は前述の通り)を見極めた上で、図23のように配置する事が好ましい。磁束の向きが複雑な場合は完全に図23の様に配置する事は難しいかもしれないが、できる限り図23のように配置する事が好ましい。以上の配置方法は、本実施の形態の全てのシステム及びデバイス装置(例えば、各種モータや発電機などの回転電機(例えば、モータ、発電機など)、変圧器、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ等のコアや、回転電機用の磁性楔(くさび)等)において適用される事が望ましい。
このシステム及びデバイス装置に適用するために、複合磁性材料は、種々の加工を施すことを許容する。例えば焼結体の場合は、研磨や切削等の機械加工が施され、粉末の場合はエポキシ樹脂、ポリブタジエンのような樹脂との混合が施される。必要に応じて更に表面処理が施される。また、必要に応じて巻線処理がなされる。
本実施の形態のシステム及びデバイス装置によれば、優れた特性(高効率、低損失)を有するモータシステム、モータ、変圧器、トランス、インダクタ及び発電機が実現可能となる。
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。