以下、図面を用いて実施の形態を説明する。尚、図面中、同一又は類似の箇所には、同一又は類似の符号を付している。
(第1の実施の形態)
本実施形態の複数の扁平磁性金属粒子は、平均厚さが10nm以上100μm以下である複数の扁平磁性金属粒子であって、複数の扁平磁性金属粒子は、扁平面と、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素を含む磁性金属相と、扁平面内における方向による保磁力差と、を有し、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が5以上10000以下であり、複数の扁平磁性金属粒子中に、扁平磁性金属粒子の厚さ方向において厚さの10%以上の深さと深さよりも短い幅を有する亀裂若しくは扁平面に平行な方向に厚さの10%以上の長さと長さよりも短い幅を有する亀裂のいずれか一方又は両方を有する扁平磁性金属粒子を含む複数の扁平磁性金属粒子である。
扁平磁性金属粒子は、扁平状(flaky、flattened)の形状(flaky shape、flattened shape)をした、扁平粒子(flaky particle、flattened particle)である。
厚さとは、1つの扁平磁性金属粒子における平均的な厚さのことをいう。厚さを求める方法としては、1つの扁平磁性金属粒子における平均的な厚さを求めることができる方法であれば、その方法は問わない。例えば、扁平磁性金属粒子の扁平面に垂直な断面を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)又は走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)又は光学顕微鏡などで観察し、観察した扁平磁性金属粒子の断面において、扁平面内の方向に任意の10箇所以上を選び、選んだ各箇所における厚さを測定し、その平均値を採用する方法を用いても良い。また、観察した扁平磁性金属粒子の断面において、扁平面内の方向で、端部から別の端部に向かって等間隔に10箇所以上を選び(この時、端部及び別の端部は特殊な場所であるため選ばない方が好ましい)、選んだ各箇所における厚さを測定し、その平均値を採用する方法を用いても良い。図1は、第1の実施の形態の扁平磁性金属粒子において、厚さの求め方の一例を示す概念図である。図1に、この場合の厚さの求め方を具体的に示す。いずれにおいても、できるだけ多くの箇所を測定することが平均的な情報を取得できるため、好ましい。なお、断面の輪郭線が凹凸の激しい、又は表面の荒れた輪郭線を有し、そのままの状態では平均的な厚さを求めることが難しい場合、輪郭線を平均的な直線又は曲線で、状況に応じて適宜、平滑化した上で、上記の方法を行うことが好ましい。
また、平均厚さとは、複数の扁平磁性金属粒子における厚さの平均値のことを言い、上述の単なる「厚さ」とは区別される。平均厚さを求める際は、20個以上の扁平磁性金属粒子に対して平均した値を採用することが好ましい。また、できるだけ多くの扁平磁性金属粒子を対象として求めることが平均的な情報を取得できるため、好ましい。また、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察することが出来ない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均した値を採用することが好ましい。扁平磁性金属粒子の平均厚さは、10nm以上100μm以下が好ましい。より好ましくは10nm以上1μm以下、更に好ましくは10nm以上100nm以下である。また、扁平磁性金属粒子は、厚さ10nm以上100μm以下、より好ましくは10nm以上1μm以下、更に好ましくは10nm以上100nm以下のものを含むことが好ましい。これによって扁平面に平行な方向に磁界が印加された際に、渦電流損失を十分に小さく出来て好ましい。また、厚さが小さい方が、磁気モーメントが扁平面に平行な方向に閉じ込められ、回転磁化で磁化が進行しやすくなり好ましい。回転磁化で磁化が進行する場合は、磁化が可逆的に進行しやすいため、保磁力が小さくなり、これによってヒステリシス損失が低減出来好ましい。
扁平磁性金属粒子の平均長さは、扁平面内の最大長さa、最小長さbを用いて、(a+b)/2で定義される。最大長さa及び最小長さbに関しては、次のようにして求めることができる。例えば、扁平面に外接する長方形の中で最も面積の小さな長方形を考える。そして、その長方形の長辺の長さを最大長さa、短辺の長さを最小長さbとする。図2は、第1の実施の形態の扁平磁性金属粒子において、扁平面内の最大長さ、最小長さの求め方を説明するための概念図である。図2は、いくつかの扁平磁性金属粒子を例として、前記方法で求めた最大長さaと最小長さbを示した模式図である。最大長さa及び最小長さbは、平均厚さ同様、扁平磁性金属粒子をTEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察することにより求めることができる。また、計算機上で顕微鏡写真の画像解析を行い、最大長さa及び最小長さbを求めることも可能である。いずれにおいても、20個以上の扁平磁性金属粒子を対象として求めることが好ましい。また、できるだけ多くの扁平磁性金属粒子を対象として求めることが平均的な情報を取得できるため、好ましい。また、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察することが出来ない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均した値を採用することが好ましい。また、この際できるだけ平均的な値として求めることが好ましいため、扁平磁性金属粒子を均一に分散した状態で(最大長さ、最小長さが異なる複数の扁平磁性金属粒子ができるだけランダムに分散した状態で)、観察又は画像解析を行うことが好ましい。たとえば、複数の扁平磁性金属粒子を十分にかき混ぜた状態で、テープの上に貼り付けたり、又は、複数の扁平磁性金属粒子を上から落下させて下に落としてテープの上に貼り付けたり、することによって観察又は画像解析を行うことが好ましい。図2においては、扁平磁性金属粒子6が示されている。
ただし、扁平磁性金属粒子によっては、上記の方法で最大長さa、最小長さbを求めた場合、本質を捉えていない求め方になる場合もある。図3は、第1の実施の形態の扁平磁性金属粒子において、扁平面内の最大長さ、最小長さの他の一例における求め方を説明するための概念図である。例えば、図3のような場合においては、扁平磁性金属粒子が細長く湾曲した状態になっているが、この場合は、本質的には、扁平磁性金属粒子の最大長さ、最小長さは図2に示したa、bの長さである。このように、最大長さa、bの求め方としては完全に一義的に決められる訳ではなく、基本的には「扁平面に外接する長方形の中で最も面積の小さな長方形を考えて、その長方形の長辺の長さを最大長さa、短辺の長さを最小長さbとする」方法で問題ないが、粒子の形状に応じて、この方法では本質を捉えない場合は、臨機応変に、本質を捉える最大長さa、最小長さbとして求める。厚さtは、扁平面に垂直方向の長さで定義される。厚さに対する扁平面内の平均長さの比Aは、最大長さa、最小長さb、厚さtを用いて、A=((a+b)/2)/tで定義される。
扁平磁性金属粒子の厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値は、5以上10000以下が好ましい。これによって透磁率が大きくなるためである。また、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくできるためである。
厚さに対する扁平面内の平均長さの比は、平均値を採用する。好ましくは、20個以上の扁平磁性金属粒子に対して平均した値を採用することが好ましい。また、できるだけ多くの扁平磁性金属粒子を対象として求めることが平均的な情報を取得できるため、好ましい。また、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察することが出来ない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均した値を採用することが好ましい。なお、たとえば、粒子Pa、粒子Pb、粒子Pcがあり、それぞれの厚さTa、Tb、Tc、扁平面内の平均長さLa、Lb、Lcという場合に、平均厚さは(Ta+Tb+Tc)/3で計算され、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値は(La/Ta+Lb/Tb+Lc/Tc)/3で計算される。
前記扁平磁性金属粒子は、前記扁平面内において方向による保磁力差を有することが好ましい。言い換えると、前記扁平磁性金属粒子は、前記扁平面内における方向に依存して、保磁力に差を有することが好ましい。保磁力差の割合は大きければ大きいほど好ましく、1%以上であることが好ましい。より好ましくは、保磁力差の割合が10%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が50%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が100%以上である。ここでいう保磁力差の割合とは、扁平面内において、最大となる保磁力Hc(max)と最小となる保磁力Hc(min)を用いて、(Hc(max)−Hc(min))/Hc(min)×100(%)で定義される。尚、保磁力は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等を用いて評価できる。保磁力が低い場合は、低磁界ユニットを用いることによって、0.1Oe以下の保磁力も測定することができる。測定磁界の方向に対して、扁平面内の方向を変えて測定を行う。
尚、「保磁力差を有する」というのは、扁平面内の360度方向に磁界を印加して保磁力を測定した際に、保磁力が最大になる方向と、保磁力が最小になる方向とが存在する、ことを表している。例えば、扁平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定した際に、保磁力差が表れる、すなわち保磁力がより大きくなる角度と、保磁力がより小さくなる角度があらわれる場合、「保磁力差を有する」ものとする。図4は、第1の実施の形態の扁平磁性金属粒子において、扁平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定した際の方向を示す模式図である。扁平面内において保磁力差を有することによって、保磁力差がほとんどない等方性の場合に比べて、最小となる保磁力値が小さくなり好ましい。扁平面内で磁気異方性を有する材料においては、扁平面内の方向によって保磁力に差を有し、磁気的に等方性の材料に比べて、最小となる保磁力値が小さくなる。これによってヒステリシス損失は低減し、透磁率は向上し、好ましい。
保磁力は、結晶磁気異方性と関連して、Hc=αHa−NMs (Hc:保磁力、Ha:結晶磁気異方性、Ms:飽和磁化、α、N:組成、組織、形状などによって変わる値)という近似式で議論されることがある。すなわち、一般的には、結晶磁気異方性が大きければ大きいほど保磁力は大きくなりやすく、結晶磁気異方性が小さければ小さいほど保磁力は小さくなりやすい傾向にある。しかしながら、上記近似式のα値、N値は材料の組成、組織、形状によって大きく変わる値であり、結晶磁気異方性が大きくても保磁力が比較的小さい値になったり(α値が小さかったりN値が大きかったりする場合)、結晶磁気異方性が小さくても(α値が大きかったりN値が小さかったりする場合)保磁力が比較的大きい値になったりする。すなわち、結晶磁気異方性は材料の組成によって決まる物質固有の特性であるが、保磁力は材料の組成だけでは決まらず組織、形状などによって大きく変わりうる特性である。また、結晶磁気異方性は、ヒステリシス損失に直接的に影響を与える因子ではなく間接的に影響を与える因子であるが、保磁力は、直流磁化曲線のループ面積(この面積がヒステリシス損失の大きさに相当する)に対して直接的に影響を与える因子であるため、ヒステリシス損失の大きさをほぼ直接的に決める因子である。すなわち、保磁力は、結晶磁気異方性とは異なり、ヒステリシス損失に直接的に大きく影響を与える非常に重要な因子と言える。
また扁平磁性金属粒子が、結晶磁気異方性を含めた磁気異方性を有するからと言って、必ずしも、扁平磁性金属粒子の扁平面の方向によって保磁力差が発現するとは限らない。前述の通り、保磁力は、結晶磁気異方性によって一義的に決まる値ではなく、材料の組成、組織、形状によっていかようにも変わってくる特性であるためである。そして、前述の通り、ヒステリシス損失に直接的に大きく影響を与える因子は、磁気異方性ではなく、保磁力の方である。以上のことから、高特性化に向けて大変好ましい条件は、「扁平面内の方向によって保磁力差を有すること」である。これによって、ヒステリシス損失が低減し、透磁率も大きくなり好ましい。
扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bは平均して2以上であることが好ましく、更に好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、更に好ましくは10以上である。扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bが2以上であるものを含むことが好ましく、更に好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、更に好ましくは10以上のものを含むことが好ましい。これによって、磁気的な異方性を付与し易くなり望ましい。磁気的な異方性が付与されると、扁平面内において保磁力差が生まれ、磁気的に等方性の材料に比べ、最小となる保磁力値が小さくなる。これによって、ヒステリシス損失は低減し、透磁率は向上し、好ましい。更に望ましくは、前記扁平磁性金属粒子において、後述する複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方の第1方向が最大長さ方向に配列されていることが望ましい。また、扁平磁性金属粒子を圧粉化する場合、扁平磁性金属粒子のa/bが大きいため、個々の扁平磁性金属粒子の扁平面が重なり合う面積(又は面積割合)が大きくなり、圧粉体としての強度は高くなり、好ましい。また、最小長さに対する最大長さの比が大きいほうが、磁気モーメントが扁平面に平行な方向に閉じ込められ、回転磁化で磁化が進行しやすくなり好ましい。回転磁化で磁化が進行する場合は、磁化が可逆的に進行しやすいため、保磁力が小さくなり、これによってヒステリシス損失が低減出来好ましい。一方、扁平磁性金属粒子自身の高強度化の観点からは、扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bは平均して1以上で2より小さいことが好ましく、更に好ましくは、1以上で1.5より小さいことがより好ましい。これによって、粒子の流動性や充填性が向上され望ましい。また、a/bが大きい場合に比べて、扁平面内に垂直な方向に対しての強度が高くなり、扁平磁性金属粒子自身の高強度化の観点から好ましい。更に、粒子を圧粉化する際に屈曲して圧粉化されることが少なくなり、粒子への応力が低減されやすい。つまり、歪みが低減され保磁力、ヒステリシス損失が低減されるとともに、応力が低減されるため熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
また、扁平面の輪郭形状の少なくとも一部に角を有するものは好ましく用いられる。例えば、正方形や長方形のような輪郭形状、言い換えれば、角の角度が略90度であることは望ましい。これらによって、角部で、原子配列の対称性が低下し、電子軌道が拘束されるため、扁平面内に磁気的な異方性を付与し易くなり望ましい。
一方、低損失化や高強度化の観点からは、扁平面の輪郭形状は丸みを帯びた曲線によって形成されるほうが望ましい。極端な例としては、円や楕円のような丸まった輪郭形状をするものの方が望ましい。これらによって、粒子の耐摩耗性が向上され望ましい。また、輪郭形状周辺において応力が集中しにくく、扁平磁性金属粒子の磁気的な歪みが低減され、保磁力が下がり、ヒステリシス損失が低減され望ましい。応力集中が低減されるため熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性も向上しやすくなり望ましい。
また、前記磁性金属相は、体心立方構造(bcc)の結晶構造を有する部分を有することが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、面心立方構造(fcc)の結晶構造を部分的に有する「bccとfccの混相の結晶構造」であっても、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
また、前記扁平磁性金属粒子の扁平面は、結晶的に概ね配向していることが好ましい。配向方向としては、(110)面配向が好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。更に好ましい配向方向としては、(110)[111]方向である。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。前記扁平磁性金属粒子の扁平面の結晶面は、(110)(220)以外の他の結晶面(たとえば、(200)、(211)、(310)、(222)など)が(110)に対してXRD(X線回折法)で測定されたピーク強度比で10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下であることが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
前記扁平磁性金属粒子の扁平面を(110)配向させるためには、適切な熱処理条件を選定することが有効である。熱処理温度を800℃以上1200℃以下に設定することが好ましく、より好ましくは850℃以上1100℃以下、更に好ましくは900℃以上1000℃以下、更に好ましくは920℃以上980℃以下(940℃付近が好ましい)である。熱処理温度は低すぎても、また、高すぎても(110)配向が進みにくく、上記の範囲の熱処理温度が最も好ましい。また熱処理時間は10分以上が好ましく、より好ましくは1h以上であり、更に好ましくは4h程度である。熱処理時間は短すぎても、また、長すぎても(110)配向が進みにくく、4h程度の熱処理時間が最も好ましい。熱処理雰囲気は低酸素濃度の真空雰囲気下、不活性雰囲気下、還元性雰囲気下が望ましく、更に望ましくは、H2(水素)、CO(一酸化炭素)、CH4(メタン)等の還元雰囲気下が好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子の酸化が抑制され、酸化された部分を還元することができるため好ましい。以上の熱処理条件を選定することによって、(110)配向が進行しやすくなり、(110)(220)以外の他の結晶面(たとえば、(200)、(211)、(310)、(222)など)が(110)に対してXRD(X線回折法)で測定されたピーク強度比で10%以下、更には5%以下、更には3%以下となることがはじめて可能となる。また歪みも適切に除去することができ、酸化を抑制した状態(還元された状態にする)も実現でき好ましい。
また、扁平磁性金属粒子は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素を含む磁性金属相を有する。なお、扁平磁性金属粒子は、Fe、Coを含み、Coの量はFeとCoの合計量に対して10原子%以上60原子%以下であることが好ましく、10原子%以上40原子%以下含まれることが更に好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。また、Fe−Co系は高飽和磁化を実現し易いため好ましい。更にFeとCoの組成範囲が上記の範囲に入る事によって、より高い飽和磁化が実現出来好ましい。また、扁平磁性金属粒子と付着金属の組成は同等である方が、熱的安定性や、強度、硬度などの機械的特性が向上し易く好ましい。
扁平磁性金属粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む事が好ましい。これによって、前記扁平磁性金属粒子の熱的安定性や耐酸化性を高める事が出来る。中でも、Al、Siは、扁平磁性金属粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、熱的安定性や耐酸化性の向上に寄与するために特に好ましい。
尚、磁気異方性を誘起させるためには、扁平磁性金属粒子の結晶性を出来るだけ非晶質化させ、磁場や歪みによって面内一方向に磁気異方性を誘起させる方法もある。この場合においては、扁平磁性金属粒子を出来る限り非晶質化させやすい組成にすることが望ましい。このような観点においては、扁平磁性金属粒子に含まれる磁性金属が、B(ホウ素)、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)、C(炭素)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、Cu(銅)、W(タングステン)、P(リン)、N(窒素)、Ga(ガリウム)、Y(イットリウム)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含む事が好ましい。Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素の原子半径との差が大きい添加元素が好ましい。また、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素と添加元素との混合エンタルピーが負に大きくなるような添加元素が好ましい。また、第1の元素と添加元素を含めて、合計3種類以上の元素からなる多元系であることが好ましい。また、B、Siなどの半金属の添加元素は、結晶化速度が遅く非晶質化しやすいため、系に混合すると有利である。以上のような観点から、B、Si、P、Ti、Zr、Hf、Nb、Y、Cu等が好ましく、中でも前記添加元素がB、Si、Zr、Yのいずれか1つを含む事がより好ましい。また、前記添加元素の合計量が、前記第1の元素と前記添加元素の合計量に対していずれも0.001at%以上80at%以下含まれることが好ましい。より好ましくは、5at%以上80at%以下、更に好ましくは、10at%以上40at%以下である。尚、前記添加元素の合計量は多ければ多いほど、非晶質化が進行し、磁気的な異方性を付与し易くなるため好ましいが(すなわち、低損失、高透磁率の観点からは好ましいが)、一方で磁性金属相の割合が少なくなるため、飽和磁化が小さくなる、という点では好ましくない。ただし、用途によっては(例えばモータの磁性くさびなど)、飽和磁化が比較的小さい場合でも十分に使用する事ができ、むしろ低損失、高透磁率に特化した方が好ましい場合もある。尚、モータの磁性くさびとは、コイルを入れるスロット部の蓋のようなもので、通常は非磁性のくさびが使用されるが、磁性のくさびを採用する事によって、磁束密度の疎密が緩和され、高調波損失が低減され、モータ効率が向上する。この時、磁性くさびの飽和磁化は大きい方が好ましいが、比較的小さな飽和磁化(例えば0.5〜1T程度)であっても、十分な効果を発揮する。よって、用途に応じて、組成及び添加元素量を選定する事が重要である。
扁平磁性金属粒子は、飽和磁化が高い方が好ましく、1T以上であることが好ましく、より好ましくは1.5T以上であることが好ましく、更に好ましくは1.8T以上、更に好ましくは2.0T以上であることが好ましい。これによって磁気飽和が抑制され、システム上で磁気特性を十分に発揮することが出来好ましい。ただし、用途によっては(例えばモータの磁性くさびなど)、飽和磁化が比較的小さい場合でも十分に使用することができ、むしろ低損失に特化した方が好ましい場合もある。尚、モータの磁性くさびとは、コイルを入れるスロット部の蓋のようなもので、通常は非磁性のくさびが使用されるが、磁性のくさびを採用することによって、磁束密度の疎密が緩和され、高調波損失が低減され、モータ効率が向上する。この時、磁性くさびの飽和磁化は大きい方が好ましいが、比較的小さな飽和磁化であっても、十分な効果を発揮する。よって、用途に応じて、組成を選定することが重要である。
扁平磁性金属粒子の格子歪みは、0.01%以上10%以下が好ましく、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下にすることが好ましい。これによって、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
尚、格子歪みは、X線回折法(XRD:X−Ray Diffraction)で得られる線幅を詳細に解析することによって算出できる。即ち、Halder−Wagnerプロット、Hall−Williamsonプロットを行うことによって、線幅の広がりの寄与分を、結晶粒径と格子歪みに分離することができる。これによって格子歪みを算出することができる。Halder−Wagnerプロットの方が信頼性の観点から好ましい。Halder−Wagnerプロットに関しては、例えば、N. C. Halder、 C. N. J. Wagner、 Acta Cryst. 20 (1966) 312−313.等を参照されたい。ここで、Halder−Wagnerプロットは、以下の式で表される。
つまり、縦軸にβ2/tan2θ、横軸にβ/tanθsinθを取ってプロットし、その近似直線の傾きから結晶粒径Dを算出、また縦軸切片から格子歪みεを算出する。上記式のHalder−Wagnerプロットによる格子歪み(格子歪み(二乗平均平方根))が0.01%以上10%以下、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下であると、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
上記の格子歪み解析はXRDでのピークが複数検出できる場合には有効な手法であるが、一方でXRDでのピーク強度が弱く検出できるピークが少ない場合(例えば1つしか検出されない場合)は解析が困難である。このような場合は、次の手順で格子歪みを算出することが好ましい。まず、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分析、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)などで組成を求め、磁性金属元素Fe、Co、Ni、3つの組成比を算出する(2つの磁性金属元素しかない場合は、2つの組成比。1つの磁性金属元素しかない場合は、1つの組成比(=100%))。次に、Fe−Co−Niの組成から理想的な格子面間隔d0を算出する(文献値などを参照。場合によっては、その組成の合金を作製し、格子面間隔を測定によって算出する)。その後、測定した試料のピークの格子面間隔dと理想的な格子面間隔d0との差を求めることによって歪み量を求めることができる。つまりこの場合は、歪み量としては、(d−d0)/d0×100(%)、として算出される。以上、格子歪みの解析は、ピーク強度の状態に応じて上記の2つの手法を使い分け、また場合によっては両方を併用しながら評価するのが好ましい。
扁平面内における格子面間隔は、方向によって差を有し、最大格子面間隔dmaxと最小格子面間隔dminの差の割合(=(dmax−dmin)/dmin×100(%))が、0.01%以上10%以下が好ましく、より好ましくは0.01%以上5%以下、更に好ましくは0.01%以上1%以下、更に好ましくは0.01%以上0.5%以下にすることが好ましい。これによって、磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。尚、格子面間隔はXRD測定によって簡単に求めることができる。このXRD測定を面内で向きを変えながら測定を行うことによって、方向による格子定数の差を求めることができる。
扁平磁性金属粒子の結晶子は、扁平面内で一方向に数珠繋ぎになっているか、又は、結晶子が棒状でありかつ扁平面内で一方向に配向しているかどちらかであることが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。
扁平磁性金属粒子の扁平面は、第1方向に配列し、幅0.1μm以上、長さ1μm以上でアスペクト比が2以上の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方を有することが好ましい。これによって、前記第1方向に磁気異方性が誘起され易くなり、扁平面内において、方向による保磁力差が大きくなり好ましい。この観点においては、更に好ましくは、幅1μm以上、長さ10μm以上が好ましい。アスペクト比は5以上が好ましく、更に好ましくは10以上が好ましい。また、このような凹部又は凸部を備えることによって、扁平磁性金属粒子を圧粉化して圧粉材料を合成する際の扁平磁性金属粒子同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。
図5は、第1の実施の形態の、凹部又は凸部を有する扁平磁性金属粒子の斜視模式図である。なお、図5の上の図においては凹部のみ、図5の中央の図においては凸部のみが設けられているが、図5の下図のように、一つの扁平磁性金属粒子が凹部と凸部の両方を有していても良い。図6は、第1の実施の形態の、凹部又は凸部を有する扁平磁性金属粒子を上方から見た場合の模式図である。凹部又は凸部の幅と長さ及び凹部又は凸部間の距離を示す。一つの扁平磁性金属粒子が凹部と凸部の両方を有していても良い。尚、凹部又は凸部のアスペクト比とは、長軸の長さ/短軸の長さである。つまり、凹部又は凸部の幅よりも長さのほうが大きい(長い)場合、アスペクト比は長さ/幅で定義され、長さよりも幅のほうが大きい(長い)場合、アスペクト比は幅/長さで定義される。アスペクト比が大きいほうが、磁気的に一軸異方性(異方性)を有しやすくなり、より好ましい。図5及び図6においては、凹部2a、凸部2b、扁平面6、扁平磁性金属粒子10が示されている。
また、「第1方向に配列」とは、凹部又は凸部の長さ及び幅のうち長いほうが第1方向に平行に配列していることをいう。なお、凹部又は凸部の長さ及び幅のうち長いほうが、第1方向に平行な方向から±30度以内に配列されていれば、「第1方向に配列している」ものとする。これらによって、扁平磁性金属粒子が、形状磁気異方性の効果によって、第1方向に磁気的に一軸異方性を有しやすくなり好ましい。なお、扁平磁性金属粒子は扁平面内において一方向に磁気異方性を有することが好ましいが、これについて詳しく説明する。まず、扁平磁性金属粒子の磁区構造が多磁区構造の場合は、磁化過程は磁壁移動で進行するが、この場合扁平面内の容易軸方向の方が困難軸方向よりも保磁力が小さくなり、損失(ヒステリシス損失)が小さくなる。また容易軸方向の方が困難軸方向よりも透磁率が大きくなる。尚、等方的な扁平磁性金属粒子の場合と比べると、磁気異方性を有する扁平磁性金属粒子の場合の方が、特に容易軸方向において保磁力が小さくなり、これによって損失が小さくなり好ましい。また透磁率も大きくなり好ましい。つまり、扁平面内方向で磁気異方性を有することによって、等方的な材料と比べて磁気特性が向上する。特に、扁平面内の容易軸方向の方が困難軸方向よりも磁気特性が優れ、好ましい。次に、扁平磁性金属粒子の磁区構造が単磁区構造の場合は、磁化過程は回転磁化で進行するが、この場合は、扁平面内の困難軸方向の方が容易軸方向よりも保磁力が小さくなり、損失が小さくなる。完全に回転磁化で磁化が進行する場合は保磁力がゼロになり、ヒステリシス損失がゼロとなり好ましい。尚、磁化が磁壁移動で進行するか(磁壁移動型)それとも回転磁化で進行するか(回転磁化型)は、磁区構造が多磁区構造になるかそれとも単磁区構造になるか、によって決定される。この時、多磁区構造になるか単磁区構造にあるかは、扁平磁性金属粒子のサイズ(厚さやアスペクト比)、組成、粒子同士の相互作用の状況、等によって決定される。例えば、扁平磁性金属粒子の厚さtは小さいほど単磁区構造になりやすく、厚さが10nm以上1μm以下の時、特に10nm以上100nm以下の時に単磁区構造になりやすい。組成としては、結晶磁気異方性が大きい組成においては厚さが大きくても単磁区構造を維持し易く、結晶磁気異方性が小さい組成においては厚さが小さくないと単磁区構造を維持し難い傾向にある。つまり、単磁区構造になるか多磁区構造になるかの境目の厚さは組成によっても変わる。また扁平磁性金属粒子同士が磁気的に結合して磁区構造が安定化した方が単磁区構造になりやすい。尚、磁化挙動が磁壁移動型か、それとも、回転磁化型かの判断は、次のように簡単に判別することができる。まず、材料面内(扁平磁性金属粒子の扁平面と平行な面)において、磁界を加える向きを変えて磁化測定を行い、磁化曲線の違いが最も大きくなる2つの方向(この時2つの方向は互いに90度傾いた方向)を探し出す。次に、その2つの方向の曲線を比較することによって磁壁移動型か回転磁化型かを判別することができる。
以上のように、扁平磁性金属粒子は扁平面内において一方向に磁気異方性を有することが好ましいが、より好ましくは、扁平磁性金属粒子が、第1方向に配列し、幅0.1μm以上で長さ1μm以上でアスペクト比が2以上の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方を有することによって、前記第1方向に磁気異方性が誘起され易くなり、より好ましい。この観点においては、更に、幅1μm以上、長さ10μm以上が好ましい。アスペクト比は5以上が好ましく、更には10以上が好ましい。また、このような凹部又は凸部を備えることによって、扁平磁性金属粒子を圧粉化して圧粉材料を合成する際の扁平磁性金属粒子同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。
また、前記扁平磁性金属粒子において、磁化容易軸方向に、最も多くの複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方の第1方向が配列されていることが好ましい。つまり、扁平磁性金属粒子の扁平面内において、多数の配列方向(=第1方向)が存在した場合、多数の配列方向(=第1方向)の中で最も数が多い配列方向(=第1方向)が、扁平磁性金属粒子の容易軸方向に一致することが好ましい。凹部又は凸部が配列している長さ方向すなわち第1方向は、形状磁気異方性の効果によって、磁化容易軸になりやすいため、この方向を磁化容易軸として揃える方が、磁気異方性が付与され易くなり、好ましい。
複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方は、1つの扁平磁性金属粒子の中に平均して5個以上含まれることが望ましい。ここで、凹部が5個以上含まれていても良いし、凸部が5個以上含まれていてもよいし、凹部の個数と凸部の個数の和が5個以上であっても良い。なお、更に好ましくは10個以上含まれることが望ましい。また、各々の凹部又は凸部間の幅方向の平均距離が0.1μm以上100μm以下であることが望ましい。更には、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの前記第1の元素を含み、平均大きさが1nm以上1μm以下である複数の付着金属が、凹部又は凸部に沿って配列していることが望ましい。なお付着金属の平均大きさの求め方は、TEM又はSEM又は光学顕微鏡などによる観察に基づいて、凹部又は凸部に沿って配列している複数の付着金属の大きさを平均することによって算出する。これらの条件を満たすと、一方向に磁気異方性が誘起され易く好ましい。また、扁平磁性金属粒子を圧粉化して圧粉材料を合成する際の扁平磁性金属粒子同士の密着性が向上し(凹部又は凸部が粒子同士をくっつけるアンカーリングの効果をもたらす)、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。図7に、第1の実施形態の、凹部又は凸部を有する扁平磁性金属粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。例えば、図7に示した扁平磁性金属粒子においては、凹部又は凸部の幅は数μm程度であり、凹部又は凸部の長さは数μmから数十μmの程度である。勿論、凹部又は凸部の幅及び長さは、これに限定されるものではない。
扁平磁性金属粒子は、扁平面上に平均して5個以上の複数の磁性金属小粒子をさらに備えることが望ましい。磁性金属小粒子は、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素を含み、平均粒径は10nm以上1μm以下である。より好ましくは、磁性金属小粒子は、扁平磁性金属粒子と同等の組成を有する。磁性金属小粒子が扁平面の表面に設けられる、又は扁平磁性金属粒子に磁性金属小粒子が一体化されることによって、扁平磁性金属粒子の表面が擬似的にやや荒らされた状態になり、これによって、扁平磁性金属粒子を後述する介在相とともに圧粉化する際の密着性が大きく向上する。これによって、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。このような効果を最大限に発揮するためには、磁性金属小粒子の平均粒径を10nm以上1μm以下にして、平均して5個以上の磁性金属小粒子を扁平磁性金属粒子の表面、すなわち扁平面に一体化させることが望ましい。尚、磁性金属小粒子が扁平面内の一方向に配列させると、扁平面内で磁気的な異方性が付与されやすく、高透磁率と低損失を実現しやすいため、より好ましい。磁性金属小粒子の平均粒径は、TEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察することにより求める。
扁平磁性金属粒子の粒度分布ばらつきは、変動係数(CV値)で定義できる。すなわち、CV値(%)=[粒度分布の標準偏差(μm)/平均粒径(μm)]×100である。CV値が小さいほど、粒度分布ばらつきが小さくシャープな粒度分布になるといえる。上記定義のCV値が0.1%以上60%以下であると、低保磁力、低ヒステリシス損失、高透磁率、高熱的安定性、を実現出来好ましい。また、ばらつきが少ないため、高い歩留りも実現しやすい。より好ましいCV値の範囲は0.1%以上40%以下である。
扁平磁性金属粒子の扁平面内において、方向による保磁力差を付与する1つの有効な方法は、磁場中で熱処理を施す方法である。扁平面内の一方向に磁場を印加しながら熱処理することが望ましい。磁場中熱処理を行う前に、扁平面内の容易軸方向を探しておき(保磁力が最も小さい方向を探しておき)、その方向に磁場を印加しながら熱処理を行うことが望ましい。印加する磁場は大きければ大きいほど好ましいが、1kOe以上印加することが好ましく、更に好ましくは10kOe以上印加することがより好ましい。これによって扁平磁性金属粒子の扁平面内に磁気異方性を発現させることができ、また、方向による保磁力差を付与することができ、優れた磁気特性を実現できるため、好ましい。熱処理は50℃以上800℃以下の温度で行うことが好ましい。尚、熱処理の雰囲気は、低酸素濃度の真空雰囲気下、不活性雰囲気下、還元性雰囲気下が望ましく、更に望ましくは、H2(水素)、CO(一酸化炭素)、CH4(メタン)等の還元雰囲気下が好ましい。この理由としては、扁平磁性金属粒子が酸化していても還元雰囲気で熱処理を施すことによって、酸化してしまった金属を還元して、金属に戻すことが可能となるためである。これによって、酸化し飽和磁化が減少した扁平磁性金属粒子を還元して、飽和磁化を回復させることもできる。尚、熱処理によって、扁平磁性金属粒子の結晶化が著しく進行してしまうと特性が劣化(保磁力が増加、透磁率が低下)してしまうため、過剰な結晶化を抑制するように条件を選定することが好ましい。
また、扁平磁性金属粒子を合成する際に、ロール急冷法等によってリボンを合成し、このリボンを粉砕することによって扁平磁性金属粒子を得る場合は、リボン合成時に、複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方が第1方向に配列されやすく(ロールの回転方向に凹部、凸部が付きやすい)、これによって、扁平面内において、方向による保磁力差を有し易くなり好ましい。すなわち、扁平面内の複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方が第1方向に配列した方向が磁化容易軸方向になりやすくなり、扁平面内において、方向による保磁力差が効果的に付与され好ましい。
図8は、第1の実施の形態の、凹部、凸部及び亀裂を有する扁平磁性金属粒子の要部の模式断面図である。なお、図の扁平磁性金属粒子には凹部、凸部が記されているが、これらは必ずしも必要ではない。図8においては、凹部2a、凸部2b、扁平磁性金属粒子6及び亀裂7が示されている。また、亀裂7の幅であるD、及び深さであるLが示されている。図8において、前記扁平磁性金属粒子は、前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向に、前記幅Dが前記深さLより短い亀裂を有する事が好ましい。なお、「厚さ方向に」というのは、図8に示すように、厚さに平行な方向の事を指すが、完全に平行でなくても構わない。常識の範囲内で、概ね平行に見える範囲(平行に対して±45度以下程度の範囲)に入っていれば良い(以下、平行に関する規定は、同様の規定とする)。なお、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下であることが望ましい(角度の±は区別せずに規定する場合)。角度が厚さ方向に対してθtだけずれている例を、図8の右下に示した。この角度θtが好ましくは0度以上45度以下、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下であることが望ましい。なお、亀裂が厚さ方向から傾いている場合(図8の右下図)、深さLの長さは、図8の右下図に記したように、亀裂の実効的な長さ(亀裂の方向に沿った実効的な長さ)として定義する。亀裂が直線状でなく曲線状である場合は、状況に応じて、常識的な視点で、亀裂の実効的な長さとして定義する(複雑な曲線状の亀裂の場合は場合によってはシンプルな直線状の亀裂に近似して実効的な長さを求めても良い)。また、前記深さLが前記扁平磁性金属粒子の厚さに対して10%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。より好ましい深さLとして、前記厚さに対して20%以上、更に好ましくは50%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。また厚さ方向に対して貫通している亀裂を有する事も好ましい。これらによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。なお、図8には亀裂の例として、いくつかの種類の形の亀裂を書いたが、種類としてはこれに限定されるものではない。直線状でなかったり(曲線状であったり)、いびつな形であったり、様々な形状を含む。いずれにせよ、常識的な範囲で、扁平磁性金属粒子の断面に「ヒビ」が入っていればそれを「亀裂」として識別する。
亀裂の好ましい例として、例えば、扁平磁性金属粒子が10〜20μmの厚さを有している場合、前記厚さ方向に幅0.1μm以上10μm以下で深さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましい。より好ましくは、前記厚さ方向に幅1μm以上10μm以下で深さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましく、更に好ましくは、前記厚さ方向に幅1μm以上10μm以下で深さ5μm以上の亀裂を有することが好ましい。また、前記幅が前記深さより短い亀裂を有する事が好ましい。これらによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
また、前記扁平磁性金属粒子は、扁平面に平行な方向(厚さ方向に垂直な方向)の亀裂を有する事が好ましい。図9には、第1の実施の形態の、凹部、凸部及び亀裂(扁平面に平行な方向の亀裂)を有する扁平磁性金属粒子の要部の模式断面図を記す。なお、図の扁平磁性金属粒子には凹部、凸部が記されているが、これらは必ずしも必要ではない。なお、「扁平面に平行な方向」というのは、図9に示すように、扁平面に平行な方向の事を指すが、完全に平行でなくても構わない。常識の範囲内で、概ね平行に見える範囲(平行に対して±45度以下程度の範囲)に入っていれば良い(以下、平行に関する規定は、同様の規定とする)。なお、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下であることが望ましい(角度の±は区別せずに規定する場合)。角度が扁平面に平行な方向に対してθtだけずれている例を、図9の右図に示した。この角度θtが好ましくは0度以上45度以下、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下であることが望ましい。なお、亀裂が、扁平面に平行な方向から傾いている場合(図9の右図)、長さLは、図9の右図に記したように、亀裂の実効的な長さ(亀裂の方向に沿った実効的な長さ)として定義する。亀裂が直線状でなく曲線状である場合は、状況に応じて、常識的な視点で、亀裂の実効的な長さとして定義する(複雑な曲線状の亀裂の場合は場合によってはシンプルな直線状の亀裂に近似して実効的な長さを求めても良い)。亀裂の好ましいサイズとしては、幅(図9のDに相当)が長さ(図9のLに相当)より短い亀裂を有する事が好ましい。また前記長さLが前記扁平磁性金属粒子の厚さに対して10%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。より好ましい長さLとして、前記厚さに対して20%以上、更に好ましくは50%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。また更に好ましいサイズとしては、前記長さLが扁平磁性金属粒子の扁平面内の平均長さに対して10%以上の長さである亀裂を有する事が好ましく、更に好ましくは、前記扁平面内の平均長さに対して20%以上、更に好ましくは50%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。また扁平面に平行な方向に対して貫通している亀裂を有する事も好ましい。これらによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。なお、図9には亀裂の例として、非常に単純な形の亀裂を書いたが、種類としてはこれに限定されるものではない。直線状でなかったり(曲線状であったり)、いびつな形であったり、様々な形状を含む。いずれにせよ、常識的な範囲で、扁平磁性金属粒子の断面に「ヒビ」が入っていればそれを「亀裂」として識別する。
なお、扁平面に平行な方向の亀裂の好ましい例としては、例えば、扁平磁性金属粒子が10〜20μmの厚さを有している場合、前記扁平面に平行な方向に幅0.01μm以上10μm以下で長さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましい。より好ましくは、幅0.1μm以上10μm以下で長さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましい。更に好ましくは、幅0.1μm以上1μm以下で長さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましい。また、前記幅が前記長さより短い亀裂を有する事が好ましい。これらによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
なお、前記扁平磁性金属粒子は、上述の、「厚さ方向の亀裂」と、「扁平面に平行な方向の亀裂」のいずれか一方又は両方を有する事が好ましい。特に、両方の亀裂を有する事によって、応力をより緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率をより実現しやすくなり、好ましい。また、熱による応力もより緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などがより高まり好ましい。
なお、前記扁平磁性金属粒子の亀裂は、前記扁平磁性金属粒子の凹部又は凸部とは区別される(図8、図9)。前述の前記扁平磁性金属粒子の凹部に関しては、断面における深さは定義していなかったが、一般的に、幅と深さは同程度の長さ、もしくは前記深さは前記幅よりも短い長さである事が多い。これに対して、前記扁平磁性金属粒子の亀裂においては、前記深さは前記幅より長い亀裂である事が好ましいため、区別する事ができる。また一般的に、前述の前記扁平磁性金属粒子の凹部は、図7のように、1つの扁平磁性金属粒子に多数の凹部を有する事が多い。これに対して、前記扁平磁性金属粒子の亀裂は、図14、図15のように、1つの扁平磁性金属粒子においては多くても数個程度であるため、数密度においても大きな違いがある。つまり、「凹部の場合は数が多いが深さは浅く」、「亀裂の場合は数は少ないが深さが深い」、という特徴をそれぞれ有しており、両者は明確に区別される。またこれらの特徴によって、凹部の場合、扁平磁性金属粒子自身としての強度はかなり強い状態を保持するが、応力を緩和する効果は亀裂の場合ほど大きくはない事が多い。逆に、亀裂の場合は、応力を緩和する効果は極めて大きいが、扁平磁性金属粒子自身の強度は、凹部の場合ほど強固ではない(それなりに強固ではある)。それぞれ得られる効果も異なり区別される。
また、本実施の形態の複数の扁平磁性金属粒子は、「平均厚さが10nm以上100μm以下である複数の扁平磁性金属粒子であって、前記複数の扁平磁性金属粒子は、扁平面と、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素を含む磁性金属相と、前記扁平面内における方向による保磁力差と、を有し、前記厚さに対する前記扁平面内の平均長さの比の平均値が5以上10000以下であり、前記複数の扁平磁性金属粒子中に、前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂若しくは前記扁平面に平行な方向に前記厚さの10%以上の長さと前記長さよりも短い幅を有する亀裂のいずれか一方又は両方を有する扁平磁性金属粒子を含む複数の扁平磁性金属粒子」であるが、「前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂若しくは前記扁平面に平行な方向に前記厚さの10%以上の長さと前記長さよりも短い幅を有する亀裂のいずれか一方又は両方を有する扁平磁性金属粒子」が1%以上の個数割合で含まれる事が好ましい。更に好ましくは10%以上の個数割合で含まれる事が好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子の集合体として扱う際に、集合体全体として、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
なお、扁平磁性金属粒子の亀裂は、たとえば、断面SEMもしくは断面TEM、断面光学顕微鏡等によっての観察を行うことによって調査する事ができる。
本実施形態によれば、低い磁気損失等の優れた磁気特性を有する扁平磁性金属粒子の提供が可能になる。
(第2の実施形態)
本実施形態の扁平磁性金属粒子は、扁平磁性金属粒子の表面の少なくとも一部が、厚さ0.1nm以上1μm以下で、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含む被覆層で覆われている点で、第1の実施形態と異なっている。
なお、第1の実施の形態と重複する内容の記載は省略する。
図10は、第2の実施の形態の扁平磁性金属粒子の模式図である。被覆層9が示されている。なお、凹部2a、凸部2b及び亀裂7の図示は省略している。
被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含み、かつ、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含むことがより好ましい。非磁性金属としては、Al、Siが熱的安定性の観点から特に好ましい。扁平磁性金属粒子がMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、扁平磁性金属粒子の構成成分の1つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含むことがより好ましい。酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)の中では、酸素(O)を含むことが好ましく、酸化物、複合酸化物であることが好ましい。以上は、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点からである。以上によって、扁平磁性金属粒子と被覆層の密着性を向上出来、後述する圧粉材料の熱的安定性及び耐酸化性を向上させることが可能となる。被覆層は、扁平磁性金属粒子の熱的安定性や耐酸化性を向上させるのみならず、扁平磁性金属粒子の電気抵抗を向上させることができる。電気抵抗を高くすることによって、渦電流損失を抑制し、透磁率の周波数特性を向上することが可能になる。このため、被覆層9は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
また、被覆層の存在は、磁気的な観点からも好ましい。扁平磁性金属粒子は、扁平面のサイズに対して厚さのサイズが小さいため、疑似的な薄膜と見なすことができる。この時、扁平磁性金属粒子の表面に被覆層を形成させて一体化させたものは、疑似的な積層薄膜構造と見なすことが出来、磁区構造がエネルギー的に安定化する。これによって、保磁力を低減させること(これによってヒステリシス損失が低減)が可能になり、好ましい。この時、透磁率も大きくなり好ましい。このような観点においては、被覆層は非磁性であることがより好ましい(磁区構造が安定化しやすくなる)。
被覆層の厚みは、熱的安定性・耐酸化性・電気抵抗の観点からは、厚ければ厚いほど好ましい。しかしながら、被覆層の厚さが厚くなりすぎると、飽和磁化が小さくなるため透磁率も小さくなり好ましくない。また、磁気的な観点からも、厚さが厚くなりすぎると、「磁区構造が安定化して低保磁力化・低損失化・高透磁率化する効果」は低減する。以上を考慮して、好ましい被覆層の厚さは、0.1nm以上1μm以下、より好ましくは0.1nm以上100m以下である。
以上、本実施形態によれば、高い透磁率、低い損失、優れた機械特性、高い熱的安定性等の優れた特性を有する扁平磁性金属粒子の提供が可能となる。
(第3の実施の形態)
本実施の形態の圧粉材料は、平均厚さが10nm以上100μm以下である複数の扁平磁性金属粒子であって、複数の扁平磁性金属粒子は、扁平面と、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素を含む磁性金属相と、を有し、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が5以上10000以下であり、複数の扁平磁性金属粒子中に、扁平磁性金属粒子の厚さ方向において厚さの10%以上の深さと深さよりも短い幅を有する亀裂若しくは扁平面に平行な方向に厚さの10%以上の長さと長さよりも短い幅を有する亀裂のいずれか一方又は両方を有する扁平磁性金属粒子を含む複数の扁平磁性金属粒子と、複数の扁平磁性金属粒子間に存在し、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含む介在相と、を備える圧粉材料であり、圧粉材料において、扁平面が、圧粉材料が有する平面に対して平行に配向し、平面内における方向による保磁力差を有する、圧粉材料である。
前記扁平磁性金属粒子は、第1及び第2の実施の形態で述べた要件を満たすことが好ましいが、重複する部分については記載を省略する。
図11は、第3の実施の形態の圧粉材料の模式図である。介在相20、圧粉材料100、圧粉材料の平面102が示されている。なお、図11右に示した図は、介在相が部分的に存在する状態を示した模式図である。また、凹部2a、凸部2b、亀裂7の図示は省略している。
所定の断面22a及び22bの一例を図11右図に示した。本実施形態においては、扁平面6が、圧粉材料が有する平面102に対して平行に配向している。そして、「所定の断面22」は、この平面102に対して垂直な、圧粉材料100の断面である。なお、「所定の断面22」の取り方は、勿論図11に示したものに限定されるものではない。
図12は、第3の実施形態において、それぞれの断面に平行な面における扁平磁性金属粒子の配置例を示した模式図である。図12に一例として示した圧粉材料100は、縦の長さa、横の長さb、高さcの、直方体状の形状を有する。そして、圧粉材料が有する面102は、図12においては、圧粉材料100の上面(もしくは下面)であるものとする。この場合、扁平磁性金属粒子6は圧粉材料が有する面102(ab面)に対して平行に配向するため、扁平磁性金属粒子6の配置は、例えば図12下図に示したようになる(なお、図12の場合は、扁平磁性金属粒子の扁平面内の最小長さbに対する最大長さaの比a/bが大きめの細長い扁平磁性金属粒子を用いている)。そして、ab面に垂直な面は、「所定の断面」となる。例えば、bc面に平行な面や、ac面に平行な面は「所定の断面」となりうる(それ以外にも、ab面に垂直な面は任意に求める事ができ、その面を「所定の断面」とする事ができる)。なお、「圧粉材料が有する面」及び「所定の断面」の取り方は、これに限定されるものではない。
図13は、圧粉材料の厚さ方向について示した模式図である。「圧粉材料の厚さ方向」については、圧粉材料の形状が直方体状の場合、例えば3辺の長さのうち最も短い長さの辺の方向を「圧粉材料の厚さ方向」とする。なお、圧粉材料の形状が単純な直方体状でない場合においても(例えば複雑な形状を有す場合や、多面体などの場合)、同様に、常識的な視点で、最も短い長さの辺の方向を「圧粉材料の厚さ方向」とする。図13(a)及び図13(b)において、c軸方向が圧粉材料の厚さ方向である(3辺a、b、cの中でcが最も短い辺であるため)。一方、「扁平磁性金属粒子の厚さ方向」については、図13(a)においてはc軸方向が扁平磁性金属粒子の厚さ方向である。また、図13(b)においてはb軸方向が扁平磁性金属粒子の厚さ方向である。このように、圧粉材料の厚さ方向と扁平磁性金属粒子の厚さ方向は、一致するとは限らない点に注意が必要である。
図14及び図15は、第3の実施の形態において、所定の断面における、扁平磁性金属粒子に含まれる亀裂、圧粉材料に含まれる空隙の具体例を示した走査型電子顕微鏡写真である。扁平磁性金属粒子の扁平面に沿っている空隙(第1の空隙部分)3、楕円体状の空隙(第2の空隙部分)4、亀裂7が示されている。
複数の扁平磁性金属粒子においては、内部に亀裂を有する事が確認できる。また圧粉材料中には空隙が複数含まれていることが確認できる。このような構造を取ると、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。なお、亀裂も空隙も、それぞれ、上記の効果を有するため、単独で存在しても好ましいし、両方存在しても好ましい。また、亀裂の場合は、上記効果を特に発揮しやすく好ましい。また、強度的な面でも、圧粉材料の強度を維持したまま上記効果を発揮できるため好ましい。一方で、空隙の場合は、多ければ多いほど、上記効果を発揮しやすくこの点では好ましいが、空隙が多すぎると、圧粉材料に占める扁平磁性金属粒子の割合が小さくなるため磁化が低く、透磁率が低くなり、好ましくない。また圧粉材料の強度的にも劣化しやすくなるため、過剰な空隙量は好ましくない。その点で空隙量は、後述の範囲内に収める事が好ましい。
圧粉材料に含まれる前記扁平磁性金属粒子は、幅Dが深さLより短い亀裂を有する事が好ましい。また前記深さLが前記厚さに対して10%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。より好ましい深さLとして、前記厚さに対して20%以上、更に好ましくは50%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。また厚さ方向に対して貫通している亀裂を有する事も好ましい。これらによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
亀裂の好ましい例として、例えば、扁平磁性金属粒子が10〜20μmの厚さを有している場合、前記厚さ方向に幅0.1μm以上10μm以下で深さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましい。より好ましくは、前記厚さ方向に幅1μm以上10μm以下で深さ1μm以上の亀裂を有する事が好ましく、更に好ましくは、前記厚さ方向に幅1μm以上10μm以下で深さ5μm以上の亀裂を有することが好ましい。また、前記幅が前記深さより短い亀裂を有する事が好ましい。これらによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
また、前記扁平磁性金属粒子は、扁平面に平行な方向(厚さ方向に垂直な方向)の亀裂を有する事が好ましい。この場合においても、亀裂の好ましいサイズとしては、幅(図9のDに相当)が長さ(図9のLに相当)より短い亀裂を有する事が好ましい。また前記長さLが扁平磁性金属粒子の扁平面内の平均長さに対して10%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。より好ましい長さ(Lに相当)として、前記扁平面内の平均長さに対して20%以上、更に好ましくは50%以上の長さである亀裂を有する事が好ましい。また扁平面方向に対して貫通している亀裂を有する事も好ましい。これによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
なお、前記圧粉材料の所定の断面において、前記亀裂を有する前記扁平磁性金属粒子が、前記圧粉材料中の全ての扁平磁性金属粒子(亀裂を有している扁平磁性金属粒子と亀裂を有していない扁平磁性金属粒子を全て含めたもの)に対して、1%以上の個数割合で含まれる事が好ましく、更に好ましくは10%以上の個数割合で含まれる事が好ましい。これによって、応力を緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましいためである。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましいためである。
なお、所定の断面での観察の方法は、複数の扁平磁性金属粒子の断面を観察する方法であれば、その方法は問わない。例えば、扁平磁性金属粒子の扁平面に垂直な断面をTEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察し、観察した複数の扁平磁性金属粒子において個数割合を測定する。以下、「所定の断面での観察」は全て同様である。
また、前記亀裂の内部に前記介在相が配置されていることが好ましい。これにより、亀裂の入っていない部分における扁平磁性金属粒子に加わる応力が緩和され、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなるためである。また、熱による応力も緩和されやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましいためである。
前記圧粉材料中においては、空隙を、前記圧粉材料の所定の断面における面積比で1%以上60%以下含む事が好ましい。より好ましくは1%以上50%以下、更に好ましくは1%以上20%以下である。これら空隙は、前記亀裂と同様に、応力を緩和しやすくする効果があり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
また、圧粉材料の空隙は、前記所定の断面において、前記扁平磁性金属粒子の前記扁平面に沿っている第1の空隙部分を含む事が好ましい。また、第1の空隙部分は、前記扁平面に接している事が好ましい。もしくは、前記扁平磁性金属粒子の少なくとも一部において接しているものを含む事が好ましい。尚、第1の空隙部分の形状は扁平状である事が好ましい。扁平状の空隙は、圧粉材料の所定の断面において、扁平磁性金属粒子の扁平面に沿って形成されやすいため、形状が扁平状になりやすい。なお、扁平面の上に付着している介在相がある場合には、当然のことながら、前記第1の空隙部分は、介在相と接することがあるがこの場合も好ましい。また、介在相に覆われていても好ましい。前記第1の空隙部分は、長軸及び短軸を有する扁平状として表すと、長軸/短軸の比は2以上である事が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、更に好ましくは10以上である事が好ましい。このような構成になる事によって、応力が緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
また、圧粉材料の空隙は、長軸及び短軸を有する楕円体(球状を含む)である、第2の空隙部分を含む事が好ましい。この時、長軸/短軸の比は1以上10以下である事が好ましく、より好ましくは1以上5以下、更に好ましくは1以上3以下、更に好ましくは1以上2以下である事が好ましい。また、前記短軸が、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。また、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは1μm以上50μm以下であることが好ましい。また、第2の空隙部分は、前記介在相に接する事が好ましく、より好ましくは、前記第2の空隙部分は、前記所定の断面において、前記介在相に覆われている事が好ましい。また、前記第2の空隙部分は、前記所定の断面において、扁平面に接している場合も好ましい。もしくは、前記扁平磁性金属粒子の少なくとも一部において接しているものを含む事が好ましい。これらの構成にする事によって、応力が緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。前記空隙(前記第1の空隙部分、前記第2の空隙部分などの空隙)は、前記圧粉材料が有する平面に対して垂直な所定の断面において、前記扁平磁性金属粒子の少なくとも一部において接しているものを含む事が好ましい。また、前記空隙が、前記圧粉材料が有する平面に対して垂直な所定の断面において、前記介在相に覆われているものを含む事が好ましい。これらの構成にする事によって、応力が緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
このように、第3の実施の形態の圧粉材料においては、第1の空隙部分や、第2の空隙部分が設けられている。これらの空隙は、扁平磁性金属粒子の形状をある程度反映して、圧粉材料の内部に形成されている。これにより、扁平磁性金属粒子に加わる応力が緩和され、保磁力の低い圧粉材料が得られていると考えられる。
なお、圧粉材料の、少なくとも1つの所定の断面で上述のようになっていることが好ましく、複数の所定の断面において上述のようになっていればさらに好ましい。これらの構成にする事によって、応力が緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
図16は、第3の実施の形態における、楕円体状の空隙及び扁平磁性金属粒子の模式断面図である。図16(a)は、第3の実施の形態における、扁平磁性金属粒子の模式断面図である。図16(b)は、第3の実施の形態における、楕円体状の空隙の模式断面図である。図16(c)は、第3の実施の形態における、楕円体状の空隙及び楕円体状の空隙の周囲に配置された扁平磁性金属粒子の模式断面図である。なお、図16において、介在相20、凹部2a及び凸部2bの記載は省略している(必ずしも必要ではない)。
前記第2の空隙部分の前記短軸は、前記第2の空隙部分に前記介在相を介して扁平面方向で最も近い位置に存在する(隣接する)前記扁平磁性金属粒子の平均厚さ以下の長さを有するものを含む事が好ましい。前記第2の空隙部分の短軸長さは長い方が応力が緩和されて好ましいが、一方で、扁平磁性金属粒子の厚さよりも前記第2の空隙部分の短軸長さが長くなると、圧粉材料の強度が低下してしまう傾向にあるため好ましくない。高強度を維持しながら応力を緩和し低保磁力を実現できる条件として、前記第2の空隙部分の前記短軸は、前記第2の空隙部分に前記介在相を介して隣接する前記扁平磁性金属粒子の平均厚さ以下の長さを有するものを含む事が好ましい。なお、ここで「第2の空隙部分に介在相を介して扁平面方向で隣接する扁平磁性金属粒子」とは、図16(c)においては、扁平磁性金属粒子6c、6dが該当し、複数の扁平磁性金属粒子6a、6b、6e、及び6fは、「第2の空隙部分に介在相を介して扁平面方向で最も近い位置に存在する扁平磁性金属粒子」に該当しない(6a、6fはそもそも「最も近い位置」と言えず、隣接していない。6b、6eは厚さ方向で隣接はしているが、扁平面方向で隣接はしていないため、「最も近い位置」に該当しない)。そして、この隣接する6c、6dの扁平磁性金属粒子のそれぞれの厚さの平均値を採用し、それを「隣接する前記扁平磁性金属粒子の平均厚さ」とする。
第1方向に沿って前記介在相の一部が付着していることが好ましい。言い換えると、扁平磁性金属粒子の扁平面上にある凹部又は凸部の方向に沿って、介在相の一部が付着していることが好ましい。これによって、一方向に磁気異方性が誘起され易くなり、好ましい。また、このような介在相の付着は、扁平磁性金属粒子同士の密着性を向上させ、これによって、強度、硬度などの機械的特性や熱的安定性が向上するため好ましい。また、介在相は粒子状のものを含むことが好ましい。これによって、適度に扁平磁性金属粒子同士の密着性を適度な状態に保持し、歪みを軽減し(扁平磁性金属粒子間に粒子状の介在相があることによって、扁平磁性金属粒子に印加される応力が緩和され)、保磁力を低減しやすくさせ(ヒステリシス損失は低減、透磁率は増加)、好ましい。
介在相は、圧粉材料全体に対して0.01wt%以上80wt%以下、より好ましくは0.1wt%以上60wt以下、更に好ましくは0.1wt%以上40wt%以下の量を含むことが好ましい。介在相の割合が大きすぎると、磁性を担う扁平磁性金属粒子の割合が小さくなるため、これによって圧粉材料の飽和磁化や透磁率が小さくなり好ましくない。逆に、介在相の割合が小さすぎると、扁平磁性金属粒子と介在相との接合が弱くなり、熱的な安定性や強度・靱性等の機械的特性の観点から好ましくない。飽和磁化、透磁率などの磁気特性と、熱的な安定性、機械特性の観点から最適な介在相の割合は、圧粉材料全体に対して0.01wt%以上80wt%以下、より好ましくは0.1wt%以上60wt以下、更に好ましくは0.1wt%以上40wt%以下である。
また、介在相と扁平磁性金属粒子との格子ミスマッチ割合が0.1%以上50%以下であることが好ましい。これによって磁気異方性が適度に大きく付与されやすく、上記の磁気特性が向上するため好ましい。格子ミスマッチを上記の範囲に設定するためには、介在相の組成と扁平磁性金属粒子6の組成の組み合わせを選ぶことによって実現できる。例えば、fcc構造のNiは格子定数が3.52Åで、NaCl型構造のMgOは格子定数が4.21Åであり、両者の格子ミスマッチが(4.21−3.52)/3.52×100=20%になる。つまり、扁平磁性金属粒子の主組成をfcc構造のNiに、介在相20をMgOにすることによって、格子ミスマッチを20%に設定できる。このように、扁平磁性金属粒子の主組成と介在相の主組成の組み合わせを選ぶことによって、格子ミスマッチを上記の範囲に設定することが可能となる。
介在相は、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含む。これにより、抵抗を高くすることができるためである。介在相の電気抵抗率は、扁平磁性金属粒子の電気抵抗率よりも高い方が好ましい。これによって扁平磁性金属粒子の渦電流損失を低減できるためである。介在相は、扁平磁性金属粒子を取り囲んで存在するため、扁平磁性金属粒子の耐酸化性、熱的安定性を向上させることが出来好ましい。この中で酸素を含むものは、高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点からより好ましい。介在相は、扁平磁性金属粒子同士を機械的に接着する役割も担っているため、高い強度の観点からも好ましい。
また、介在相は、「酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物」か、「樹脂を含有する」か、「Fe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する」か、これら3つのうち少なくとも1つを有していても良い。これらの点について、以下に説明する。
まず、1つ目の「介在相が酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の場合」について説明する。この場合、介在相は、B(ホウ素)、Si(シリコン)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Li(リチウム)、Ba(バリウム)、Zn(亜鉛)、La(ランタン)、P(リン)、Al(アルミニウム)、Ge(ゲルマニウム)、W(タングステン)、Na(ナトリウム)、Ti(チタン)、As(ヒ素)、V(バナジウム)、Ca(カルシウム)、Bi(ビスマス)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Sn(スズ)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第3の元素を含む酸化物を含む。より好ましくは、前記群から選ばれる少なくとも2つの第3の元素を含む共晶系を有する酸化物を含む。特に、B、Bi、Si、Zn、Pbのうちの少なくとも2つの元素を含む共晶系を含むことが好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子と介在相との密着性が強固になり(接合強度が高まり)、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
また上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物は、軟化点が200℃以上600℃以下であることが好ましく、更に好ましくは、400℃以上500℃以下である。更に好ましくは、B、Bi、Si、Zn、Pbのうちの少なくとも2つの元素を含む共晶系を有する酸化物であり、かつ軟化点が400℃以上500℃以下であることが好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子と上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物との接合が強固になり、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。扁平磁性金属粒子を上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物とともに一体化させる際は、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の軟化点付近の温度、好ましくは軟化点よりやや高い温度で熱処理しながら一体化させることによって、扁平磁性金属粒子と上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物との密着性を向上させ、機械的特性を向上させることができる。一般に、熱処理の温度がある程度高いほど、扁平磁性金属粒子と上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物との密着性は向上し、機械的特性は向上する。ただし熱処理の温度が高くなりすぎると、熱膨張係数が大きくなるため扁平磁性金属粒子と上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物との密着性が逆に低下してしまうこともある(扁平磁性金属粒子の熱膨張係数と上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の熱膨張係数の差が大きくなると、密着性が更に低下してしまうこともある)。また、扁平磁性金属粒子の結晶性が非晶質又は非晶質的な場合は、熱処理の温度が高いと結晶化が進行し保磁力が増加してしまい好ましくない。このため、機械的特性と保磁力特性を両立させるために、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の軟化点を200℃以上600℃以下、更に好ましくは400℃以上500℃以下にして、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の軟化点付近の温度、好ましくは軟化点よりやや高い温度で熱処理しながら一体化させることが好ましい。また、一体化した材料を実際にデバイスやシステムの中で使用する際の温度は軟化点より低い温度で使用することが好ましい。
また、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物は、ガラス転移点を有することが望ましい。更には、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物は、熱膨張係数が0.5×10-6/℃以上40×10-6/℃以下であることが望ましい。これによって、扁平磁性金属粒子6と上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物との接合が強固になり、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
尚、粒径が10nm以上10μm以下の粒子状(好ましくは球状)の共晶粒子を少なくとも1つ以上含むことがより好ましい。この共晶粒子は、粒子状以外の上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物と同じ材料を含む。圧粉材料中には空隙も部分的に存在していることがあり、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の一部が粒子状、好ましくは球状となって存在していることを容易に観察することができる。空隙がない場合も、粒子状又は球状の界面は容易に判別することができる。共晶粒子の粒径は、より好ましくは10nm以上1μm、更に好ましくは10nm以上100nm以下である。これによって、熱処理時に、扁平磁性金属粒子同士の密着性を保持しながらも、応力を適度に緩和させることによって、扁平磁性金属粒子に印加される歪みを低減し、保磁力を低減させることができる。これによって、ヒステリシス損失も低減し、透磁率は向上する。尚、共晶粒子の粒径は、TEM又はSEM観察により測定することができる。
また、介在相は、その軟化点が、上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の軟化点よりも高く、より好ましくは軟化点が600℃より高く、O(酸素)、C(炭素)、N(窒素)及びF(フッ素)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む中間介在粒子を更に含むことが好ましい。中間介在粒子が扁平磁性金属粒子間に存在することによって、圧粉材料が高温に曝された時、扁平磁性金属粒子同士が熱的に融合し特性が劣化することを抑制することができる。すなわち、主に熱的な安定性のために中間介在粒子が存在することが望ましい。尚、中間介在粒子の軟化点が上記の酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の軟化点よりも高く、更に好ましくは軟化点が600℃以上であることによって、熱的な安定性をより高めることができる。
中間介在粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含み、かつ、O(酸素)、C(炭素)、N(窒素)及びF(フッ素)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。より好ましくは、高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点から、酸素を含有する酸化物又は複合酸化物であることがより好ましい。特に、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化珪素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)などの酸化物、やAl−Si−O等の複合酸化物などが高い耐酸化性、高い熱的安定性の観点から好ましい。
中間介在粒子を含む圧粉材料を製造する方法としては、例えば、扁平磁性金属粒子及び中間介在粒子(酸化アルミニウム(Al2O3)粒子、二酸化珪素(SiO2)粒子、酸化チタン(TiO2)粒子、酸化ジルコニウム(ZrO2)粒子など)を、ボールミル等によって混合し、分散させた状態を作り、その後、プレス成型などで一体化させる方法などが挙げられる。分散させる方法は、適度に分散させることができる方法であれば、その方法は特に拘らない。
次に、2つ目の「介在相が樹脂を含有する場合」について説明する。この場合、樹脂は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン系樹脂、テフロン(登録商標)系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、シリコーン樹脂、その他の合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、或いはそれらの共重合体が用いられる。特に、高い熱的安定性を実現するためには、耐熱性の高いシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、を含むことが好ましい。これによって、扁平磁性金属粒子と介在相との接合が強固になり、熱的な安定性や強度や靱性などの機械的特性が向上しやすくなる。
樹脂は、大気雰囲気中180℃で3000時間加熱した後の重量減少率が5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、大気雰囲気中220℃で200時間加熱した後の重量減少率に関して、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、大気雰囲気中250℃で200時間加熱した後の重量減少率に関して、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましいなお、これら重量減少率の評価は、未使用の状態の材料を用いて行う。未使用の状態とは、成型して使える状態にしたもので、その状態から熱(たとえば40度以上の温度の熱)、化学薬品、太陽光(紫外線)等に曝されていない状態のことである。重量減少率は、加熱前後の質量から次式で計算するものとする:重量減少率(%)=[加熱前の質量(g)−加熱後の質量(g)]/加熱前の質量(g)×100。また、好ましくは、大気雰囲気中180℃で20000時間加熱後の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。更に好ましくは、大気雰囲気中220℃で20000時間加熱後の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。また日本工業規格(JIS)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、最高温度180℃に耐える耐熱性を満たすことが好ましい。更に好ましくは、国鉄規格(JRE)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、周囲温度(標準:25℃、最高:40℃)に対して180℃の温度上昇に耐える耐熱性を満たすことが好ましい。これに好ましい樹脂は、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリベンズオキサゾール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、液晶ポリマーなどがある。これらの樹脂は、分子間凝集力が大きいため、耐熱性が高くなり、好ましい。中でも、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾールは、分子内に占める剛直ユニットの割合が高いため、より耐熱性が高く好ましい。また、熱可塑性樹脂であることが好ましい。以上の加熱重量減少率の規定、強度の規定、樹脂種類の規定は、それぞれ、樹脂の耐熱性を高めるために効果的である。また、これらによって、複数の扁平磁性金属粒子と介在相(ここでは樹脂)から成る圧粉材料を形成した時に、圧粉材料としての耐熱性が高まり(熱的な安定性が高まり)、高温(たとえば上記の200℃や250℃)に曝した後、又は高温(たとえば上記の200℃や250℃)での強度・靱性などの機械的特性が向上しやすくなり、好ましい。また、加熱後も扁平磁性粒子の周りを多くの介在相が取り囲んで存在するため、耐酸化性に優れ、扁平磁性金属粒子の酸化による磁気特性の劣化も起こり難く、好ましい。
また、圧粉材料は、180℃で3000時間加熱後の重量減少率が5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、圧粉材料は、220℃で3000時間加熱後の重量減少率が5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、大気雰囲気中250℃で200時間加熱した後の圧粉材料の重量減少率に関して、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下であることが好ましい。なお、重量減少率の評価は、上記の樹脂の場合と同様である。また、好ましくは、大気雰囲気中180℃で20000時間加熱後の圧粉材料の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。更に好ましくは、大気雰囲気中220℃で20000時間加熱後の圧粉材料の強度が、加熱前の強度の半分以上であることが好ましい。また日本工業規格(JIS)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、最高温度180℃に耐える耐熱性を満たすことが好ましい。更に好ましくは、国鉄規格(JRE)で規定されるH種を満たすことが好ましい。特に、周囲温度(標準:25℃、最高:40℃)に対して180℃の温度上昇に耐える耐熱性を満たすことが好ましい。以上の加熱重量減少率の規定、強度の規定、前述の樹脂種類の規定は、それぞれ、圧粉材料の耐熱性を高めるために効果的であり、高信頼性の材料を実現できる。また、圧粉材料としての耐熱性が高まり(熱的な安定性が高まり)、高温(たとえば上記の200℃や250℃)に曝した後、又は高温(たとえば上記の200℃や250℃)での強度・靱性などの機械的特性が向上しやすくなり、好ましい。また、加熱後も扁平磁性粒子の周りを多くの介在相が取り囲んで存在するため、耐酸化性に優れ、扁平磁性金属粒子の酸化による磁気特性の劣化も起こり難く、好ましい。
さらに、熱分解温度までガラス転移点を有しない結晶性の樹脂を含むことが好ましい。また、ガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含むことが好ましく、更に好ましくはガラス転移温度が220℃以上の樹脂を含むことが好ましい。更に好ましくは、ガラス転移温度が250℃以上の樹脂を含むことが好ましい。尚、一般に扁平磁性金属粒子は、熱処理する温度が高くなるほど結晶粒径が大きくなる。そのため、扁平磁性金属粒子の結晶粒径を小さくする必要がある場合は、用いる樹脂のガラス転移温度は高すぎないほうが好ましく、具体的には600℃以下であることが好ましい。また、熱分解温度までガラス転移点を有しない結晶性の樹脂にガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含むことが好ましく、更に好ましくはガラス転移温度が220℃以上の樹脂を含むことが好ましい。具体的には180℃以上のガラス転移温度を有するポリイミドを含むことが好ましく、更に好ましくは220℃以上のガラス転移温度を有するポリイミドを含むことが好ましく、更に好ましくは熱可塑性ポリイミドを含むことが好ましい。これによって、磁性金属粒子への融着が起こり易くなり、特に圧粉成型に好適に用いることができる。熱可塑性ポリイミドとしては、熱可塑性芳香族ポリイミド、熱可塑性芳香族ポリアミドイミド、熱可塑性芳香族ポリエ−テルイミド、熱可塑性芳香族ポリエステルイミド、熱可塑性芳香族ポリイミドシロキサンなどの高分子鎖中にイミド結合を有するものが好ましい。中でも、ガラス転移温度が250℃以上の場合は、より耐熱性が高くなり好ましい。
芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾールは、芳香族環と複素環が直接結合して平面構造をとり、それらがπ-πスタッキングにより固定化されていることで高耐熱性を発現している。これによって、ガラス転移温度を高くでき、熱的安定性を向上できる。また、分子構造内に適度にエーテル結合などの屈曲ユニットを導入することで所望のガラス転移点に容易に調整できるので好ましい。中でも、イミドポリマーを構成する酸無水物由来ユニットのベンゼン環構造がビフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのいずれかの構造であると強度の観点から好ましい。耐熱性に影響を及ぼすイミド基間の対称構造を損なわず、配向性も長距離に及ぶことから材料強度も向上する。これに好ましい芳香族ポリイミドの構造は、下記化学式(1)で示される。言い換えると、本実施形態のポリイミド樹脂は、下記化学式(1)で表される繰り返し単位を含む。
(1)
化学式(1)中、Rはビフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのいずれかの構造、R’は構造内に少なくとも1つ以上の芳香環を有する構造を示す。
圧粉材料から、その構成成分である介在相(ここでは樹脂)の特性(重量減少率、樹脂種類、ガラス転移温度、分子構造など)を求める際には、圧粉材料から樹脂の部分のみを切り出して、種々の特性評価を行う。目視で樹脂かどうか判断がつかない場合は、EDXによる元素分析などを用いて樹脂と磁性金属粒子とを区別する。
圧粉材料全体に占める樹脂の含有量は、多ければ多いほど、扁平磁性金属粒子をぬらしている(覆っている)ポリマーと、隣接する扁平磁性金属粒子をぬらしている(覆っている)ポリマーの間を、無理なくポリマーがつなぐことができ、強度などの機械的特性が向上する。また電気抵抗率も高くなり圧粉材料の渦電流損失を低減でき好ましい。一方で、樹脂の含有量が多ければ多いほど、扁平磁性金属粒子の割合が減るため、圧粉材料の飽和磁化が下がり、透磁率も下がり、好ましくない。強度などの機械的特性、電気抵抗率・渦電流損失、飽和磁化、透磁率の特性を総合的に考慮してバランスの良い材料を実現するためには、圧粉材料全体に占める樹脂の含有量を93wt%以下、更に好ましくは86wt%以下、更に好ましくは2wt%以上67wt%以下、更に好ましくは2wt%以上43wt%以下にすることが好ましい。また、扁平磁性金属粒子の含有量は、7wt%以上であることが好ましく、更に好ましくは、14wt%以上であることが好ましく、更に好ましくは、33wt%以上98wt%以下、更に好ましくは、57wt%以上98wt%以下であることが好ましい。また、扁平磁性金属粒子は、粒子径が小さくなると、表面積が大きくなり、必要な樹脂の量が飛躍的に増加するため、適度に大きい粒子径を有することが好ましい。これによって、圧粉材料を高飽和磁化にでき、透磁率を大きくでき、システムの小型化・高出力化に有利である。
次に、3つ目の「介在相がFe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有し、磁性を有する場合」について説明する。この場合、介在相が磁性を有することによって、扁平磁性金属粒子同士が磁気的に結合し易くなり透磁率が向上するため好ましい。また、磁区構造が安定化するため、透磁率の周波数特性も向上し、好ましい。尚、ここで言う磁性とは、強磁性、フェリ磁性、弱磁性、反強磁性、等のことを示す。特に、強磁性、フェリ磁性の場合が、磁気的な結合力が高まり好ましい。介在相が磁性を有する点については、VSM(Vibrating Sample Magetometer:振動試料型磁力計)等を用いて評価することができる。介在相がFe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有し磁性を有する点については、EDX等を用いて簡単に調べることができる。
以上、介在相の3つの形態を説明したが、これら3つのうち少なくとも1つを満たすことが好ましいが、2つ以上、更には3つ全てを満たしても構わない。「介在相が酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の場合」(1つ目の場合)は、介在相が樹脂の場合(2つ目の場合)と比較すると、強度などの機械的特性ではやや劣るものの、一方で、歪みが解放され易く、特に、低保磁力化が進行しやすい、という観点では非常に優れており、好ましい(これによって、低いヒステリシス損失、高い透磁率、が実現し易く、好ましい)。また、樹脂に比べると耐熱性が高い場合が多く、熱的安定性にも優れているため好ましい。逆に、「介在相が樹脂を含有する場合」(2つ目の場合)は、扁平磁性金属粒子と樹脂との密着性が高いため、応力が加わり易く(歪みが入り易く)、これによって保磁力が増加しやすい傾向がある、という欠点があるものの、特に、強度などの機械的特性の点では非常に優れているため好ましい。「介在相がFe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有し、磁性を有する場合」(3つ目の場合)は、扁平磁性金属粒子同士が磁気的に結合し易くなるため、特に、高透磁率、低保磁力(それゆえに低ヒステリシス損失)の点で非常に優れているため好ましい。以上の長所、短所を踏まえて、使い分けたり、また、いくつかを組み合わせることによって、バランスの良いものを作ったりすることができる。
以下、製造方法について具体的に説明する。尚、製造方法に関しては、特に限定されず、あくまで一例として説明する。
第1の工程は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの第1の元素を含む磁性金属リボンを製造する工程である。本工程は、たとえば、ロール急冷装置やスパッタ装置などの成膜装置を用いて、リボン若しくは薄膜を作製する工程である。この際、成膜装置を用いて作製する成膜法においては磁場中成膜や回転成膜等によって膜面内に一軸異方性を付与させた膜を成膜することが望ましい。尚、成膜装置を用いた場合は、厚さを薄く出来、且つ、組織が洗練されたものになりやすく、回転磁化を起こしやすいため、回転磁化型のものを作る場合は成膜法を用いるのが望ましいロール急冷装置は、大量合成に適しているため、バルク材料を合成する際に望ましい。ロール急冷装置の場合は、単ロール急冷装置が簡便で好ましい。また、ロール面の粗さを適度に制御された状態にする事によって、合成されるリボンの面内に凹部又は凸部が転写されて付きやすくなるため、ロール面の粗さを制御する事は極めて重要である。ロール面の粗さは、#80以上#4000以下の研磨紙で一方向に(リボンの長さ方向に)磨くのが好ましい。より好ましくは、#80以上#2000以下、更に好ましくは#80以上#600以下、更に好ましくは#180付近の研磨紙で磨く場合が好ましい。これによって、凹部又は凸部を備える扁平磁性金属粒子を合成し易くなり、好ましい。
第2の工程は、磁性金属リボンを50℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程である。本工程では、熱処理するための電気炉に入れやすくするため、適当なサイズにリボンを切断しても良い。例えば、ミキサー装置等を用いて適当な大きさに切断しても良い。本工程を行う事によって、次の第3の工程である粉砕の工程において、粉砕性が向上しやすくなり望ましい。尚、熱処理の雰囲気は、低酸素濃度の真空雰囲気下、不活性雰囲気下、還元性雰囲気下が望ましく、更に望ましくは、H2(水素)、CO(一酸化炭素)、CH4(メタン)等の還元雰囲気下が好ましい。この理由としては、磁性金属リボンが酸化していても還元雰囲気で熱処理を施す事によって、酸化してしまった金属を還元して、金属に戻す事が可能となるためである。これによって、酸化し飽和磁化が減少した磁性金属リボンを還元して、飽和磁化を回復させる事も出来る。尚、熱処理によって、前記磁性金属リボンの結晶化が著しく進行してしまうと特性が劣化(保磁力が増加、透磁率が低下)してしまうため、過剰な結晶化を抑制するように条件を選定することが好ましい。また、より好ましくは、磁場中で熱処理を施す事がより望ましい。印加する磁場は大きければ大きいほど好ましいが、1kOe以上印加する事が好ましく、更に好ましくは10kOe以上印加する事がより好ましい。これによって磁性金属リボンの面内に磁気異方性を発現させる事が出来、優れた磁気特性を実現出来るため、好ましい。
第3の工程は、熱処理された磁性金属リボンを粉砕して扁平磁性金属粒子を製造する工程である。尚、本工程においては、本粉砕の前に、磁性金属リボンもしくは薄膜を、ミキサー装置等を用いて適当な大きさに切断しても良い。本工程においては、例えばビーズミルや遊星型ミル等の粉砕装置によって粉砕を行う。尚、粉砕装置は、特に種類を選ばない。例えば、遊星ミル、ビーズミル、回転ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル(アトライター)、ジェットミル、遠心分離機、又はミルと遠心分離を組み合わせた手法などが挙げられる。粉砕時においては、0℃以下の温度で冷却しながら粉砕を行うと、粉砕が進行しやすく好ましい。特に、液体窒素温度(77K)、ドライアイス温度(194K)などで冷却する事が望ましく、その中でも特に、液体窒素温度に冷却する事がより望ましい。これによって、磁性金属リボンが低温脆性を起こしやすく、粉砕が容易に行われる。つまり、磁性金属リボンに過度な応力や歪みを印加させずに、効率よく粉砕が出来るため好ましい。ただし、冷却なしでも十分粉砕される場合も多く、その場合は冷却は行わなくても良い。
尚、第3の工程においては、単純に粉砕するだけでなく、圧延を組み合わせて、扁平磁性金属粒子の厚さを薄くする事が出来る。尚、第2の工程までで所定の厚さになっている場合は圧延のための処理は省略できる。ここで圧延は、同時に行っても良いし、粉砕後に圧延、若しくは圧延後に粉砕しても良い。この場合は、強い重力加速度を印加出来る装置が好ましいが、例えば、遊星ミル、ビーズミル、回転ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル(アトライター)、ジェットミル、遠心分離機、又はミルと遠心分離を組み合わせた手法などで行う事が出来る。例えば、ハイパワー遊星ミル装置では、数十Gの重力加速度が簡単に印加出来るため好ましい。ハイパワー遊星ミル装置の場合は、自転重力加速度の方向と公転重力加速度の方向が同一直線上の方向ではなく角度を持った方向になる、傾斜型遊星ミル装置がより好ましい。通常の遊星ミル装置では、自転重力加速度の方向と公転重力加速度の方向が同一直線上の方向であるが、傾斜型遊星ミル装置では容器が傾斜した状態で回転運動を行うため、自転重力加速度の方向と公転重力加速度の方向が同一直線上ではなく角度を持った方向になる。これによって、試料にパワーが効率よく伝達し、粉砕・圧延化が効率良く進行するため好ましい。また、量産性を考慮すると、大量処理が容易なビーズミル装置が好ましい。
以上の切断と粉砕・圧延化を行い(圧延は必要に応じて行う。不要の場合は行わない)、場合によっては切断と粉砕・圧延化を繰り返し、所定の厚さ及びアスペクト比の扁平磁性金属粒子10になるように処理を行う事が望ましい。この時、厚さが10nm以上100μm以下、より好ましくは10nm以上1μm以下、更に好ましくは10nm以上100nm以下になるように粉砕・圧延を行うと、回転磁化を起こしやすい粒子になり、好ましい。
また得られた扁平磁性金属粒子は熱処理によって格子歪みを適度に除去する事が望ましい。この時の熱処理は、第2の工程と同じように、50℃以上800℃以下の温度で行う事が好ましく、熱処理の雰囲気は、低酸素濃度の真空雰囲気下、不活性雰囲気下、還元性雰囲気下が望ましく、更に望ましくは、H2、CO、CH4等の還元雰囲気下が好ましい。また、より好ましくは、磁場中で熱処理を施す事がより望ましい。これらの理由や詳細については、第2の工程の場合と同じであるためここでは説明を割愛する。
次に、第4の工程として、上述の介在相と磁性金属粒子を混合し、介在相と扁平磁性金属粒子の混合粉を形成する。次に、第5の工程として、介在相と磁性金属粒子の混合粉を成型する。これにより第3の実施の形態の圧粉材料が得られる。なお、得られた圧粉材料は、様々な形状(モータ用の磁性くさびの形状やモータコアの形状など)に加工して適宜用いることができる。また、適宜上記の工程の前後に熱処理を行っても良い。つまり、成型前後、もしくは成型と同時に熱処理を行なっても良い。また、加工前後に熱処理を行なっても良い。熱処理条件は上述の通りである。また、より好ましくは、磁場中で熱処理を施す事がより望ましい。これらの理由や詳細については、第2の工程の場合と同じであるためここでは説明を割愛する。
なお、本実施の形態の扁平磁性金属粒子及び圧粉材料を得る際に、この第5の工程が非常に重要となってくる。この工程では、通常、一軸プレス成型、CIP成型(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加圧成型)、ホットプレス成型やHIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加圧成型)を用いて行われる。この時、一軸プレス成型、CIP成型を行った後に適切な熱処理を加える方法でも良いが、特別に好ましい方法は、ホットプレス成型や、HIP成型である。つまり、熱と圧力を同時に印加しながら成型する事が好ましい。この時、処理条件を適切に制御する事が極めて大事である。以下に詳細に説明する。
図17は、第3の実施の形態において、所定の断面における第5の工程の圧力と温度の違いにより生じる圧粉材料の走査型電子顕微鏡写真である。ここでは、無機バインダ(介在相)として、Bi2O3−B2O3−ZnO系材料を、扁平磁性金属粒子粉末に対して30wt%加えている。この無機バインダ(介在相)の軟化温度は425℃である。なお、Bi2O3−B2O3−ZnO系材料は、B、Si、Cr、Mo、Nb、Li、Ba、Zn、La、P、Al、Ge、W、Na、Ti、As、V、Ca、Bi、Pb、Te及びSnからなる群のうちの少なくとも1つの第3の元素を含む酸化物を含む介在相の一例である。
温度を490℃として、圧力1,800kgf/cm2でホットプレス成型した場合には、ホットプレス成型後に歪除去のための熱処理をおこなった後の最小保磁力は、0.7 Oeであった。一方、温度を435℃として、圧力1,800kgf/cm2でホットプレスプレス成型した場合には、熱処理後の最小保磁力は0.2 Oeと非常に低い保磁力が得られた。図17から、ホットプレス成型温度435℃の場合の方が、扁平磁性金属粒子には多数の亀裂があり、圧粉材料には空隙が多い事が分かる。一方で、490℃の場合においては、扁平磁性金属粒子には亀裂がほとんど見られず、また、圧粉材料には空隙が少ない事が分かる。
図18は、第3の実施の形態における、圧粉材料のホットプレス成型温度と保磁力の関係を示すグラフである。白抜きの四角で表したデータは、ホットプレス成型後の保磁力を示したデータであり、ホットプレス成型温度増加と共に保磁力が増加していることがわかる。一方黒の四角で表したデータは、ホットプレス成型後に歪除去のための熱処理をおこなった後の最小となる保磁力を示したデータである。ホットプレス成型温度増加と共に保磁力が増加している。また、全体的に、黒の四角で表したデータにおいては、白抜きの四角で表した、歪除去のための熱処理を行わないときの保磁力よりも、保磁力が低くなっていることがわかる。このグラフから、介在相の軟化温度より少し高めの温度、更に好ましくは「軟化温度」〜「軟化温度+100℃」の温度範囲、更に好ましくは「軟化温度」〜「軟化温度+50℃」の温度範囲、更に好ましくは「軟化温度」〜「軟化温度+20℃」の温度範囲で製造する事によって、低保磁力が実現しやすい事が分かる。
一般に、磁性粒子には亀裂などの欠陥が多く含まれると、保磁力は増加(劣化)する。しかし、第3の実施の形態の圧粉材料においては、亀裂を含んだ状態であるにも関わらず、すなわち、亀裂を欠陥と解釈するならば、「欠陥を多く含んだ状態であるのにも関わらず、保磁力は低下する」という通常の一般常識とは全く逆の結果が得られている。このことより、第3の実施の形態の圧粉材料においては、扁平磁性金属粒子の亀裂及び圧粉材料内における空隙が、逆に応力緩和及び保磁力低下に有効に作用したものと考えられる。すなわち、一般的には、磁性材料に欠陥が多く含まれると、磁化の進行を妨げ保磁力を増大してしまう傾向があるが、前述の扁平磁性金属粒子の規定範囲、亀裂、空隙の規定範囲を満たす限りにおいては、保磁力はむしろ低くなり(これによって低いヒステリシス損失を実現)、高い透磁率を実現しやすく、好ましい(通常とは全く異なる効果が発揮されている)。つまり、前述の材料構成、製造条件を満たす事によって、前述の特殊な亀裂、空隙が効果的に生成し、低保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)、高透磁率、高い熱的安定性が可能となる。
なお、前述の扁平磁性金属粒子の亀裂や、圧粉材料に含まれる空隙は、ある特定の製造条件を満たす時に効果的に生成する。特に、「介在相が酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の場合」や、「介在相が樹脂を含有する場合」において、効果的に生成する。中でも、「介在相が酸化物、もしくは共晶系を有する酸化物の場合」において、特に効果的に生成する。このような介在相を用いて、介在相の軟化温度付近、好ましくは、軟化温度もしくは軟化温度より少し高めの温度、更に好ましくは「軟化温度」〜「軟化温度+100℃」の温度範囲、更に好ましくは「軟化温度」〜「軟化温度+50℃」の温度範囲、更に好ましくは「軟化温度」〜「軟化温度+20℃」の温度範囲で製造する事によって効率よく亀裂、空隙が生成する。またホットプレス(もしくはHIPなど)成型のように、温度を印加しながら、圧力を加える製造工程を加える事によって、更に効果的に亀裂、空隙が生成する。好ましい圧力は、10〜10000kgf/cm2の範囲であり、より好ましくは100〜5000kgf/cm2の範囲、更に好ましくは100〜2000kgf/cm2の範囲である。このような製造条件を満たす事によって、前述の図14、図15のように、亀裂、空隙が効果的に生成し、これによって応力が緩和しやすくなり、低い保磁力(これによって低いヒステリシス損失を実現)や高い透磁率を実現しやすくなり好ましい。また、熱による応力も緩和しやすくなるため、例えば熱的安定性などが高まり好ましい。
なお、介在相を含む圧粉材料ではなく、扁平磁性金属粒子単独の場合、第1の実施の形態の亀裂を生成させる際にも、上記の製造方法を応用することが有効である。この場合は、磁性金属粒子を50℃以上800℃以下の温度で、10〜10000kgf/cm2の範囲、より好ましくは100〜5000kgf/cm2の範囲、更に好ましくは100〜2000kgf/cm2の範囲の圧力を加えながら熱処理を行う事によって(熱と圧力を同時に加える事によって)、亀裂を効果的に生成させることが出来る。もしくは、上記の圧粉材料を合成した後、介在相を除く(もしくは砕く)事によって、第1の実施の形態の亀裂を有する扁平磁性金属粒子を得る事が可能となる。
圧粉材料の飽和磁化は高い方が好ましく、0.2T以上であることが好ましく、より好ましくは0.5T以上であることが好ましく、1.0T以上、更に好ましくは1.8T以上、更に好ましくは2.0T以上であることが好ましい。これによって磁気飽和が抑制され、システム上で磁気特性を十分に発揮することが出来好ましい。ただし、用途によっては(例えばモータの磁性くさびなど)、飽和磁化が比較的小さい場合でも十分に使用することができ、むしろ低損失に特化した方が好ましい場合もある。よって、用途に応じて、組成を選定することが重要である。
扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な面と、圧粉材料が有する平面とのなす角度が0度に近ければ近いほど配向していると定義する。図19は、第3の実施の形態において、扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な面と、圧粉材料が有する平面とのなす角度を表した模式図である。10個以上の多数の扁平磁性金属粒子に関して前述の角度を求めその平均値が、好ましくは0度以上45度以下、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下であることが望ましい。すなわち、圧粉材料においては、前記複数の扁平磁性金属粒子の前記扁平面は互いに平行に、又は互いに平行に近くなるように層状に配向されていることが好ましい。これによって、圧粉材料の渦電流損失を低減することができ好ましい。また、反磁界を小さくできるため、圧粉材料の透磁率を大きくでき好ましい。また、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。更には、このような積層構造においては、磁区構造が安定化し、低い磁気損失を実現できるため好ましい。
圧粉材料が有する前記平面内(扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な平面内)において、方向による保磁力を測定する場合は、例えば、前記平面内の360度の角度に対して、22.5度おきに方向を変えて保磁力を測定する。
圧粉材料の前記平面内において保磁力差を有することによって、保磁力差がほとんどない等方性の場合に比べて、最小となる保磁力値が小さくなり好ましい。平面内で磁気異方性を有する材料においては、平面内の方向によって保磁力に差を有し、磁気的に等方性の材料に比べて、最小となる保磁力値が小さくなる。これによってヒステリシス損失は低減、透磁率は向上し、好ましい。
圧粉材料が有する前記平面内(扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な平面内)において、方向による保磁力差の割合は大きければ大きいほど好ましく、1%以上であることが好ましい。より好ましくは、保磁力差の割合が10%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が50%以上、更に好ましくは保磁力差の割合が100%以上である。ここでいう保磁力差の割合とは、扁平面内において、最大となる保磁力Hc(max)と最小となる保磁力Hc(min)を用いて、(Hc(max)−Hc(min))/Hc(min)×100(%)で定義される。
尚、保磁力は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等を用いて、簡単に評価できる。保磁力が低い場合は、低磁界ユニットを用いることによって、0.1Oe以下の保磁力も測定することができる。測定磁界の方向に対して、圧粉材料の前記平面内(扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な平面内)において方向を変えて測定を行う。
保磁力を算出する際は、横軸と交わる2つの点(磁化がゼロになる磁界H1、H2)の磁界の差分を2で割った値を採用することができる(つまり保磁力=|H2−H1|/2で算出できる)。
磁気異方性を付与する観点からは、磁性金属粒子が最大長さ方向を揃えて配列されていることが好ましい。最大長さ方向が揃っているかどうかは、圧粉材料に含まれる磁性金属粒子をTEM又はSEM又は光学顕微鏡などで観察し、最大長さ方向と任意に決めた基準線のなす角を求めて、そのばらつき度合いにより判断する。好ましくは、20個以上の扁平磁性金属粒子に対して平均的なばらつき度合いを判断することが好ましいが、20個以上の扁平磁性金属粒子を観察することが出来ない場合は、できる限り多くの扁平磁性金属粒子観察し、それらに対して平均的なばらつき度合いを判断することが好ましい。本明細書においては、ばらつき度合いが±30°の範囲に入っている時、最大長さ方向が揃っているという。ばらつき度合いは±20°の範囲内がより好ましく、±10°の範囲内が更に好ましい。これによって、圧粉材料の磁気的な異方性を付与し易くなり望ましい。更に好ましくは、扁平面にある複数の凹部と複数の凸部の一方又は両方の第1方向が最大長さ方向に配列されていることが望ましい。これによって、磁気的な異方性を大きく付与でき望ましい。
圧粉材料においては、近似的な第1方向が第2方向に配列される「配列割合」が30%以上であることが好ましい。より望ましくは50%以上、更に望ましくは75%以上である。これによって、磁気異方性が適度に大きくなり、前述の通り磁気特性が向上し好ましい。まず事前に評価する全ての扁平磁性金属粒子について、各扁平磁性金属粒子が有する凹部又は凸部の配列方向が最多数を占める方向をそれぞれ第1方向として定め、各扁平磁性金属粒子の第1方向が、圧粉材料全体として最も多く配列している方向を第2方向と定義する。次に、第2方向に対して、360度の角度を、45度おきの角度で分割した方向を決める。次に、各扁平磁性金属粒子の第1方向がどの角度の方向に最も近くに配列しているかを分類し、その方向を「近似的な第1方向」として定義する。すなわち、0度の方向、45度の方向、90度の方向、135度の方向の4つのいずれかに分類する。近似的な第1方向が、第2方向に対して、同じ方向で配列している割合を、「配列割合」と定義する。この「配列割合」を評価する際には、隣り合った扁平磁性金属粒子を順番に4つ選び、その4つを評価する。これを少なくとも3回以上の複数回(多い方が良い、例えば5回以上が望ましい、更に望ましくは10回以上が望ましい)行うことによって、その平均値を配列割合として採用する。なお、凹部又は凸部の方向が判別できない扁平磁性金属粒子は評価から除き、そのすぐ隣の扁平磁性金属粒子の評価を行う。例えば、単ロール急冷装置で合成したリボンを粉砕した扁平磁性金属粒子においては、片側の扁平面のみに凹部又は凸部が付き、もう片側の扁平面は凹部又は凸部が付かないことが多い。このような扁平磁性金属粒子をSEMで観察した場合、凹部又は凸部が付いていない扁平面が観察の画面上で見えている場合も確率としては半分ほど起こりうる(この場合も、実は裏側の扁平面は凹部又は凸部が付いているはずであるが、上記評価においては除く)。
また、圧粉材料の磁化容易軸方向に、最も多くの近似的な第1方向が配列されていることが好ましい。すなわち、圧粉材料の磁化容易軸は第2方向と平行であることが好ましい。凹部又は凸部が配列している長さ方向は、形状磁気異方性の効果によって、磁化容易軸になりやすいため、この方向を磁化容易軸として揃える方が、磁気異方性が付与され易くなり、好ましい。
圧粉材料に含まれる扁平磁性金属粒子に関しては、第1、2の実施の形態で記述した要件を満たすことが望ましい。ここでは内容が重複するため、記述を省略する。
圧粉材料においては、前記複数の扁平磁性金属粒子の前記扁平面は互いに平行になるように層状に配向されていることが好ましい。これによって、圧粉材料の渦電流損失を低減することができ好ましい。また、反磁界を小さくできるため、圧粉材料の透磁率を大きくでき好ましい。また、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。更には、このような積層構造においては、磁区構造が安定化し、低い磁気損失を実現できるため好ましい。ここで、扁平磁性金属粒子の扁平面に平行な面と、圧粉材料が有する平面とのなす角度が0度に近ければ近いほど配向していると定義する。具体的には、10個以上の多数の扁平磁性金属粒子6に関して前述の角度を求めその平均値が、好ましくは0度以上45度以下、より好ましくは0度以上30度以下、更に好ましくは0度以上10度以下であることが望ましい。
圧粉材料は、前記扁平磁性金属粒子を含有する磁性層と、O、C、Nのいずれかを含有する中間層とからなる積層型の構造を有していても良い。磁性層においては、前記扁平磁性金属粒子が配向している(互いの扁平面を平行にするように配向)ことが好ましい。また、中間層の透磁率を磁性層の透磁率よりも小さくすることが好ましい。これらの処置によって、疑似的な薄膜積層構造を実現でき、層方向の透磁率が高くできるため好ましい。また、このような構造においては、強磁性共鳴周波数を高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。更には、このような積層構造においては、磁区構造が安定化し、低磁気損失を実現できるため好ましい。尚、これらの効果を更に高めるためには、中間層の透磁率を介在相(磁性層の中の介在相)の透磁率よりも小さくすることがより好ましい。これによって、疑似的な薄膜積層構造において、層方向の透磁率を更に高くできるため好ましい。また、強磁性共鳴周波数を更に高くできるため、強磁性共鳴損失を小さくでき好ましい。
なお、圧粉材料に含まれる空隙や、扁平磁性金属粒子の亀裂は、たとえば、断面SEMもしくは断面TEM、光学顕微鏡等によっての観察を行うことによって調査する事ができる。
以上、本実施形態によれば、低い磁気損失等の優れた磁気特性を有する圧粉材料の提供が可能になる。
(第4の実施の形態)
本実施の形態のシステム及びデバイス装置は、第3の実施の形態の圧粉材料を有するものである。したがって、第1ないし第3の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。このシステム、デバイス装置に含まれる圧粉材料の部品は、例えば、各種モータや発電機などの回転電機(例えば、モータ、発電機など)、変圧器、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ等のコアや、回転電機用の磁性楔(磁性くさび)等である。図20は、第4の実施の形態のモータシステムの概念図である。モータシステムは、回転電機システムの一例である。モータシステムとは、モータの回転数や電力(出力パワー)を制御する制御系を含めたシステムのことである。モータの回転数を制御する方式としては、ブリッジサーボ回路による制御、比例電流制御、電圧比較制御、周波数同期制御、PLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)制御、等による制御方法がある。一例として、PLLによる制御法について図20に示してある。PLLによるモータの回転数を制御するモータシステムは、モータと、モータの回転の機械的変位量を電気信号に変換してモータの回転数を検出するロータリーエンコーダと、ある命令により与えられたモータの回転数とロータリーエンコーダにより検出されたモータの回転数を比較しそれらの回転数差を出力する位相比較器と、当該回転数差を小さくするようにモータを制御するコントローラと、を備える。一方、モータの電力を制御する方法としては、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御、PAM(Pulse Amplitude Modulation:パルス電圧振幅波形)制御、ベクトル制御、パルス制御、バイポーラ駆動、ペデスタル制御、抵抗制御、等による制御方法がある。またその他の制御方法として、マイクロステップ駆動制御、多相駆動制御、インバータ制御、スイッチング制御、等の制御方法がある。一例として、インバータによる制御法について図20に示してある。インバータによるモータの電力を制御するモータシステムは、交流電源と、交流電源の出力を直流電流に変換する整流器と、当該直流電流を任意の周波数による交流に変換するインバータ回路と、当該交流により制御されるモータと、を備える。
図21は、第4の実施の形態のモータの概念図を示す。モータ200は、回転電機の一例である。モータ200においては、第1のステータ(固定子)と第2のロータ(回転子)が配置されている。図では、ロータがステータの内側に配置されているインナーロータ型を示しているが、ロータがステータの外側に配置されるアウターロータ型でも構わない。
図22は、第4の実施の形態のモータコア(ステータ)の概念図である。図23は、第4の実施の形態のモータコア(ロータ)の概念図である。モータコア300(モータのコア)としては、ステータ及びロータのコアが該当する。この点を、以下に説明する。図22は第1のステータの断面概念図例である。第1のステータは、コアと、巻き線と、を有する。巻き線は、コア内側に設けられた、コアが有する突起の一部に巻き付けられている。このコア内に第3の実施形態の圧粉材料を配置することができる。図23は第1のロータの断面概念図例である。第1のロータは、コアと、巻き線と、を有する。巻き線は、コア外側に設けられた、コアが有する突起の一部に巻き付けられている。このコア内に第3の実施形態の圧粉材料を配置することができる。
尚、図22、図23はあくまでモータの一例を示したものであり、圧粉材料の適用先としてはこれに限定されるものではない。磁束を導きやすくするためのコアとして、あらゆる種類のモータに適用することができる。
図24は、第4の実施の形態の変圧器・トランスの概念図である。図25は、第4の実施の形態のインダクタ(リング状インダクタ、棒状インダクタ)の概念図である。図26は、第4の実施の形態のインダクタ(チップインダクタ、平面インダクタ)概念図である。これらもあくまで一例として示したものである。変圧器・トランス400、インダクタ500においてもモータコアと同様に、磁束を導きやすくするために、又は高い透磁率を利用するために、あらゆる種類の変圧器・トランス、インダクタに圧粉材料を適用することができる。
図27は、第4の実施の形態の発電機500の概念図である。発電機500は、回転電機の一例である。発電機500は、第1ないし第3の実施形態の圧粉材料をコアとして用いた第2のステータ(固定子)530と、第1ないし第3の実施形態の圧粉材料をコアとして用いた第2のロータ(回転子)540の、いずれか一方又はその両方を備えている。図では、第2のロータ(回転子)540は第2のステータ530の内側に配置されているが、外側に配置されていても構わない。第2のロータ540は、発電機500の一端に設けられたタービン510と、シャフト520を介して接続されている。タービン510は、例えば図示しない外部から供給される流体により回転する。尚、流体により回転するタービンに代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフトを回転することも可能である。第2のステータ530及び第2のロータ540には、各種公知の構成を採用することができる。
シャフトは、第2のロータに対してタービンとは反対側に配置された、図示しない整流子と接触している。第2のロータの回転により発生した起電力は、発電機の電力として、図示しない相分離母線及び図示しない主変圧器を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。尚、第2のロータには、タービンからの静電気や発電に伴う軸電流による帯電が発生する。このため、発電機は、第2のロータの帯電を放電させるためのブラシを備えている。
また、本実施形態の回転電機は、鉄道車両に好ましく用いることができる。例えば、鉄道車両を駆動するモータ200や、鉄道車両を駆動するための電気を発生する発電機500に好ましく用いることができる。
また、図28は、磁束の方向と圧粉材料の配置方向の関係を示す概念図である。尚、まず、磁壁移動型、回転磁化型のいずれにおいても、磁束の方向に対して、圧粉材料に含まれる扁平磁性金属粒子の扁平面をできるだけ互いに平行に、かつ層状に揃える方向に配置することが好ましい。これは磁束を貫く扁平磁性金属粒子の断面積をできるだけ小さくすることによって渦電流損失を低減できるからである。その上で、尚かつ、磁壁移動型においては、扁平磁性金属粒子の扁平面内における磁化容易軸(矢印方向)を磁束の方向と平行に配置することが好ましい。これによって、保磁力がより低減する方向で使用することができるためヒステリシス損失を低減出来好ましい。また透磁率も高く出来て好ましい。逆に、回転磁化型においては、扁平磁性金属粒子の扁平面内における磁化容易軸(矢印方向)を磁束の方向と垂直に配置することが好ましい。これによって、保磁力がより低減する方向で使用することができるためヒステリシス損失を低減出来好ましい。つまり、圧粉材料の磁化特性を把握し、磁壁移動型か回転磁化型か(判別方法は前述の通り)を見極めた上で、図28のように配置することが好ましい。磁束の向きが複雑な場合は完全に図28のように配置することは難しいかもしれないが、できる限り図28のように配置することが好ましい。以上の配置方法は、本実施の形態の全てのシステム及びデバイス装置(例えば、各種モータや発電機などの回転電機(例えば、モータ、発電機など)、変圧器、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ等のコアや、回転電機用の磁性楔(くさび)等)において適用されることが望ましい。
このシステム及びデバイス装置に適用するために、圧粉材料は、種々の加工を施すことを許容する。例えば焼結体の場合は、研磨や切削等の機械加工が施され、粉末の場合はエポキシ樹脂、ポリブタジエンのような樹脂との混合が施される。必要に応じて更に表面処理が施される。また、必要に応じて巻線処理がなされる。
本実施の形態のシステム及びデバイス装置によれば、優れた特性(高効率、低損失)を有するモータシステム、モータ、変圧器、トランス、インダクタ及び発電機が実現可能となる。
(実施例)
以下に、実施例1〜8を、比較例1〜2と対比しながらより詳細に説明する。以下に示す実施例及び比較例によって得られる扁平磁性金属粒子について、扁平磁性金属粒子の平均厚さ、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値、亀裂を有する扁平磁性金属粒子の個数割合、圧粉材料に含まれる空隙割合、をまとめたものを表1に示す。
(実施例1)
まず、単ロール急冷装置を用いて、Fe−Co−Si−B(Co/(Fe+Co)=30at%、)のリボンを作製する。次に得られたリボンをH2雰囲気中400℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて適当な大きさに切断し、その後切断したリボン片を回収し、ZrO2ボールとZrO2容器を用いたビーズミルによってAr雰囲気下において約1000rpmの粉砕・圧延化を行い扁平粉末化し、扁平磁性金属粒子を得る。上記の、粉砕・圧延化、熱処理、の作業を繰り返す事によって、所定のサイズになるように処理を行う。その後、無機酸化物介在相(B2O3−Bi2O3−ZnO:軟化温度425℃)とともに混合、磁場中成型を行い(扁平粒子を配向化させる)、ホットプレス装置によって、プレス圧1800kgf/cm2を印加しながら、真空中435℃で1時間熱処理を行う。その後、磁場中熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。磁場中熱処理では、磁化容易軸方向に磁場を印加して熱処理を行う。得られた扁平磁性金属粒子は、前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において前記平均厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂を有しているものが全体に対して1%以上の個数割合で存在する。また、圧粉材料中に空隙を面積比で12%含む。また、扁平磁性金属粒子の扁平面内の方向によって保磁力差を有しており、また圧粉材料の平面内の方向によって保磁力差を有している。
(実施例2)
扁平磁性金属粒子の厚さが1μm、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が100である事以外は実施例1とほぼ同じである。
(実施例3)
扁平磁性金属粒子の厚さが10μm、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が20である事以外は実施例1とほぼ同じである。
(実施例4)
扁平磁性金属粒子の厚さが100μm、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が5である事以外は実施例1とほぼ同じである。
(実施例5)
扁平磁性金属粒子の厚さが10nm、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が1000である事以外は実施例1とほぼ同じである。
(実施例6)
扁平磁性金属粒子の厚さが10nm、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が10000である事以外は実施例1とほぼ同じである。
(実施例7)
圧粉材料中に含まれる空隙が面積比で1%である事以外は実施例3とほぼ同じである。
(実施例8)
圧粉材料中に含まれる空隙が面積比で60%である事以外は実施例3とほぼ同じである。
(比較例1)
前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において前記平均厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂を有する扁平磁性金属粒子の個数割合がほぼ0%であり、圧粉材料中に含まれる空隙が面積比で0.3%である事以外は実施例3とほぼ同じである。
(比較例2)
圧粉材料中に含まれる空隙が面積比で65%である事以外は比較例1とほぼ同じである。
次に、実施例1〜8及び比較例1〜2の評価用材料に関して、透磁率、tanδ、鉄損、透磁率実部(μ’)の経時変化割合を評価する。尚、鉄損、透磁率実部(μ’)の経時変化割合に関しては、以下の方法で評価する。評価結果を表2に示す。
(1)鉄損:B−Hアナライザーを用いて100Hz、1Tの動作条件での鉄損を測定する。尚、100Hz、1Tの条件で直接測定出来ない場合は、鉄損の周波数依存性、磁束密度依存性を測定し、そのデータから100Hz、1Tの鉄損を推定する(そしてこの推定値を採用する)。
(2)透磁率実部μ’の経時変化割合:インピーダンスアナライザーを用いて、リング状の試料の透磁率実部μ’を100Hzで測定する。その後、評価用試料を温度100℃、大気中で100時間加熱した後、再度、透磁率実部μ’を測定し、経時変化(100時間放置後の透磁率実部μ’/放置前の透磁率実部μ’)を求める。
表1から明らかなように、実施例1〜8に係る扁平磁性金属粒子は、平均厚さが10nm以上100μm以下、厚さに対する扁平面内の平均長さの比の平均値が5以上10000以下である。また、扁平磁性金属粒子の扁平面内の方向によって保磁力差を有しており、また圧粉材料の平面内の方向によって保磁力差を有している。また、得られた扁平磁性金属粒子は、前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において前記平均厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂を有しているものが全体に対して1%以上の個数割合で存在する。また、圧粉材料中に空隙を面積比で1%以上60%以下含む。一方で、比較例1〜2はいずれも、得られた扁平磁性金属粒子は、前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において前記平均厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂を有しているものがほとんどなく、全体に対して1%未満の個数割合である。また圧粉材料中に含まれる空隙の割合が面積比で1%未満か60%より多い。
表2から明らかなように、実施例1〜8の扁平磁性金属粒子を用いた圧粉材料は、比較例1〜2の圧粉材料と比べて、透磁率、鉄損、μ’の経時変化割合、において優れていることが分かる。これは、実施例1〜8においては、特に、前記扁平磁性金属粒子の厚さ方向において前記平均厚さの10%以上の深さと前記深さよりも短い幅を有する亀裂を有している個数割合が1%以上であり、また、圧粉材料中に空隙を面積比で1%以上60%以下含む事によって、低保磁力(これによって低いヒステリシス損失、つまり低い鉄損を実現)、高透磁率、高い熱的安定性が可能となる。つまり、磁気的特性、熱的安定性において優れた材料を実現できていることが分かる。また、実施例の材料は圧粉材料であるため、複雑な形状への適用が可能である。
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。