JP6995375B2 - pH応答性ポリマー及び薬物送達システム - Google Patents

pH応答性ポリマー及び薬物送達システム Download PDF

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Description

本発明は、pH応答性ポリマー及び薬物送達システムに関する。本願は、2016年12月15日に、日本に出願された特願2016-243749号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
従来、薬物等の体内動態を制御するためにポリマーが使用されている。これらのポリマーは、薬物等と正常組織及び血液成分との無作為な相互作用を抑制するステルス性を発揮することで薬物等の長期血中滞留性を可能とし、正常組織への毒性を抑制すると同時に腫瘍組織への集積を可能としている。このようなポリマーとしては、例えばポリエチレングリコール(PEG)等が使用されてきた(例えば、非特許文献1を参照)。
Knop K., et al., Poly(ethylene glycol) in drug delivery: pros and cons as well as potential alterations. Angew. Chem. Int. Ed., 49, 6288-6208, 2010.
しかしながら、生体内でステルス性を示す従来のポリマーは、血液成分や正常組織との相互作用だけでなく、腫瘍組織との相互作用も抑制してしまう場合がある。その結果、標的部位である腫瘍組織への薬物等の集積や癌細胞への薬物等の取り込みが効率的でない場合がある。
そこで、本発明は、血液成分や正常組織に対してはステルス性を示し、腫瘍組織に対しては集積効率及び細胞への取り込み効率が向上したポリマーを提供することを目的とする。
本発明は、以下の態様を含む。
[1]7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基が結合した生体適合性ポリマーからなる、pH応答性ポリマー。
[2]7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する前記基が、pH7.2~7.6の環境下で電気的に中性でありpH6.0~6.6の環境下でカチオン性に変化する基である、[1]に記載のpH応答性ポリマー。
[3]7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する前記基が下記式(a)で表される基を含む、[1]又は[2]に記載のpH応答性ポリマー。
Figure 0006995375000001
[式(a)中、*は結合手を表す。]
[4]7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する前記基が、カルボキシル基、スルホ基又はホスホン基を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のpH応答性ポリマー。
[5]前記カルボキシル基を含む基が下記式(1)で表される基であり、前記スルホ基を含む基が下記式(2)で表される基であり、前記ホスホン基を含む基が下記式(3)で表される基である、[4]に記載のpH応答性ポリマー。
Figure 0006995375000002
[式(1)~(3)中、nは1~3の整数を表し、*は結合手を表す。]
[6]前記生体適合性ポリマーが生体分解性である、[1]~[5]のいずれかに記載のpH応答性ポリマー。
[7]前記生体適合性ポリマーが、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド及び多糖類からなる群より選択される、[6]に記載のpH応答性ポリマー。
[8]前記生体適合性ポリマーがポリアミノ酸である、[7]に記載のpH応答性ポリマー。
[9]前記ポリアミノ酸がポリグルタミン酸又はポリアスパラギン酸である、[8]に記載のpH応答性ポリマー。
[10]下記式(b)で表される繰り返し単位を含む、[9]に記載のpH応答性ポリマー。
Figure 0006995375000003
[11]下記式(c)で表される繰り返し単位を含む、[9]に記載のpH応答性ポリマー。
Figure 0006995375000004
[式(c)中、nは2又は3の整数を表す。]
[12]重量平均分子量が1,000~200,000である、[1]~[11]のいずれかに記載のpH応答性ポリマー。
[13]重量平均分子量が10,000~50,000である、[12]に記載のpH応答性ポリマー。
[14]前記生体適合性ポリマー1モルあたり、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する前記基が4~800モル結合した、[1]~[13]のいずれかに記載のpH応答性ポリマー。
[15]薬物送達システム用である、[1]~[14]のいずれかに記載のpH応答性ポリマー。
[16]薬物と、[1]~[15]のいずれかに記載のpH応答性ポリマーとが結合した、薬物送達システム。
本発明によれば、血液成分や正常組織に対してはステルス性を示し、腫瘍組織に対しては集積効率及び細胞への取り込み効率が向上したポリマーを提供することができる。
実験例1において、ポリマーの拡散係数を蛍光相関分光法により測定した結果を示すグラフである。 実験例2において、フローサイトメトリーによりポリマーの細胞への取り込みを測定した結果を示すグラフである。 (a)~(c)は、実験例3における乳酸脱水素酵素(LDH)活性試験の結果を示すグラフである。(a)はpH7.4における試験結果であり、(b)はpH6.5における試験結果であり、(c)はpH5.5における試験結果である。 (a)及び(b)は、実験例4における細胞毒性試験の結果を示すグラフである。(a)はpH7.4における結果であり、(b)はpH6.7における結果である。 実験例5において、量子ドットの血中残存量を経時的に測定した結果を示すグラフである。 実験例5において、摘出した腫瘍組織中の量子ドットを定量した結果を示すグラフである。 実験例8において、ポリマーの拡散係数を蛍光相関分光法により測定した結果を示すグラフである。 実験例9において、フローサイトメトリーによりポリマーの細胞への取り込みを測定した結果を示すグラフである。 実験例10において、ポリマーの拡散係数を蛍光相関分光法により測定した結果を示すグラフである。 実験例11において、フローサイトメトリーによりポリマーの細胞への取り込みを測定した結果を示すグラフである。
[pH応答性ポリマー]
1実施形態において、本発明は、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基が結合した生体適合性ポリマーからなる、pH応答性ポリマーを提供する。
生体内の血液成分や正常組織の周囲の環境は、ほぼ中性のpH7.4に保たれている。これに対し、腫瘍組織の周囲の環境は、弱酸性のpH条件(pH6.5程度又はそれ以下)である。実施例において後述するように、本実施形態のpH応答性ポリマーは、7を超えるpH環境下、例えば正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)では電気的に中性であり、血液成分や正常組織に対しステルス性を示す。一方、pH7以下、例えば、腫瘍組織の周囲の弱酸性環境に相当するpH6.5程度又はそれ以下ではカチオン性を帯びる。このため、本実施形態のpH応答性ポリマーは、細胞表面に存在するヘパリン等のアニオン性分子との相互作用を、正常組織では誘導しないが、癌組織では誘導することにより、効率的に癌細胞に取り込まれる。
したがって、本実施形態のpH応答性ポリマーを用いることにより、腫瘍組織に効率よく薬物を送達し、正常組織への傷害を抑制することができる。このため、本実施形態のpH応答性ポリマーは、特に、癌治療用の薬物送達システムを構築するのに有用である。すなわち、本実施形態のpH応答性ポリマーは薬物送達システム用であるということができる。
本実施形態のpH応答性ポリマーにおいて、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する前記基は、pH7.2~7.6の環境下で電気的に中性でありpH6.0~6.6の環境下でカチオン性に変化する基であることが好ましい。
本実施形態のpH応答性ポリマーにおいて、生体適合性ポリマーとは、生体に投与した場合に、強い炎症反応等の悪影響を及ぼしにくいポリマーを意味する。生体適合性ポリマーとしては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、ポリアミノ酸、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリヌクレオチド、多糖類等が挙げられ、ポリアミノ酸、ポリアクリルアミド、多糖類が好ましい。
生体適合性ポリマーは、一部にその合成過程で導入された任意の基を有していてもよい。このような基としては、例えば重合開始剤の一部等が挙げられる。生体適合性ポリマーは、ポリマー分子内の電荷の釣り合いが中性であるか、ほぼ中性であることが好ましい。
本実施形態のpH応答性ポリマーにおいて、生体適合性ポリマーは生体分解性であることが好ましい。本明細書において、生体適合性ポリマーが生体分解性であるとは、生体適合性ポリマーの少なくとも一部が生体分解性であることを意味する。従来のポリマーは生体に投与した場合に生体内に蓄積することが問題となる場合があった。これに対し、生体分解性であるポリマーを用いることにより、生体内への蓄積を抑制することができ、副作用を低減させることができる。
生体分解性とは、生体内で吸収又は分解され得る性質を意味する。生体分解性である生体適合性ポリマーとしては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等が挙げられ、ポリアミノ酸、多糖類が好ましく、ポリアミノ酸がより好ましい。ポリアミノ酸としては、ポリグルタミン酸又はポリアスパラギン酸が好ましい。
本実施形態のpH応答性ポリマーは、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基が結合していることにより、pH応答性を示すことができる。pH応答性とは、周囲のpH環境に応答して電荷が変化する性質である。実施例において後述するように、本実施形態のpH応答性ポリマーは、従来用いられてきたPEGと比較して、より高いステルス性を発揮することができる。
本実施形態のpH応答性ポリマーにおいて、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基は、当該基の一部として、下記式(a)で表される基を含むことが好ましい。
Figure 0006995375000005
[式(a)中、*は結合手を表す。]
上記式(a)で表される基は、エチレンジアミン構造を有する基であるということもできる。後述するように、エチレンジアミン構造を有する基は、pH環境の変化に応じた電荷数の変化を示すことができる。
本実施形態のpH応答性ポリマーにおいて、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基は、当該基の一部として、例えば、下記式(4)で表されるカルボキシル基、下記式(5)で表されるスルホ基、下記式(6)で表されるホスホン基等のアニオン性基を含むことが好ましい。
Figure 0006995375000006
Figure 0006995375000007
Figure 0006995375000008
本実施形態のpH応答性ポリマーにおいて、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基は下記式(1)、(2)又は(3)で表される構造であることが好ましい。
Figure 0006995375000009
[式(1)~(3)中、nは1~3の整数を表し、*は結合手を表す。]
上記式(1)で表される基は上記式(4)で表されるカルボキシル基を含む基の具体例である。また、上記式(2)で表される基は上記式(5)で表されるスルホ基を含む基の具体例である。また、上記式(3)で表される基は上記式(6)で表されるホスホン基を含む基の具体例である。
ここで、上述した式(1)で表される基において、nが2である基を例に、pH環境に応じた電荷数の変化について説明する。下記式(7)に、上述した式(1)で表される基において、nが2である基を示す。下記式(7)に示す基は、エチレンジアミン構造と、アニオン性基であるカルボキシル基とを有している。
Figure 0006995375000010
エチレンジアミン構造は2つのpKa(6.2と8.9)を有している。そして、上記式(7)の左側に示すように、正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)では、エチレンジアミン構造が有するカチオン電荷数は1である。
しかしながら、pHが低下すると、上記式(7)の右側に示すように、エチレンジアミン構造が有するカチオン電荷数が2に変化する。
このため、エチレンジアミン構造とアニオン性基とを有する基は、正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)では電荷が釣り合って電気的に中性となり、ステルス性を発揮することができる。また、腫瘍組織の周囲の弱酸性環境に相当するpH6.5程度又はそれ以下では、カチオン性を帯びることとなる。
その結果、エチレンジアミン構造とアニオン性基とを有する基が結合した生体適合性ポリマーは、血液成分や正常組織に対してはステルス性を示し、腫瘍組織に対しては高い集積効率及び細胞への高い取り込み効率を示すことができる。
実施例において後述するように、上記式(1)、(2)又は(3)で表される基を有するpH応答性ポリマーは、血液成分や正常組織に対してはステルス性を示し、腫瘍組織に対しては高い集積効率及び細胞への高い取り込み効率を示すことができる。
本実施形態のpH応答性ポリマーの重量平均分子量は1,000~200,000であることが好ましく、例えば5,000~100,000であってもよく、例えば10,000~50,000であってもよい。
ここで、pH応答性ポリマーの重量平均分子量としては、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)解析により測定した値を用いることができる。具体的には、pH応答性ポリマーを溶媒に溶かした後、細孔(ポア)が数多く存在する充てん剤を用いたカラム内に移動相溶液と共に通液し、カラム内で分子量の大小によって分離させ、それを示差屈折率計や紫外可視分光光度計、粘度計、光散乱検出器等を検出器として用いて検出する。SEC専用装置が広く市販されており、標準ポリエチレングリコール換算によって測定することが一般的である。本明細書における重量平均分子量は、この標準ポリエチレングリコール換算によって測定されたものである。
本実施形態のpH応答性ポリマーは、上述した生体適合性ポリマー1モルあたり、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する前記基が4~800モル結合していることが好ましく、例えば20~400モルであってもよく、例えば40~200モルであってもよく、例えば60~130モルであってもよい。
本実施形態のpH応答性ポリマーの好適な具体例としては、生体適合性ポリマーがポリアミノ酸の場合は、ポリ-L-グルタミン酸やポリ-L-アスパラギン酸の側鎖に前記式(1)~(3)のいずれか一つが結合したポリマーが挙げられ、好ましくは下記式(A1)で表されるポリマーが挙げられる。
Figure 0006995375000011
[式(A1)中、mは4~800の整数を表し、nは1~3の整数を表し、Xは前記式(4)又は前記式(5)で表される基を表す。]
本実施形態のpH応答性ポリマーは、下記式(b)で表される繰り返し単位を含むものであってもよく、下記式(c)で表される繰り返し単位を含むものであってもよい。
Figure 0006995375000012
Figure 0006995375000013
[式(c)中、nは2又は3を表す。]
また、生体適合性ポリマーがポリアクリルアミドである場合、本実施形態のpH応答性ポリマーの好適な具体例としては、下記式(A2)で表されるポリマーが挙げられる。
Figure 0006995375000014
[式(A2)中、mは4~800の整数を表し、nは1~3の整数を表し、Xは前記式(4)または前記式(5)で表される基を表す。]
更に、生体適合性ポリマーが多糖類である場合、本実施形態のpH応答性ポリマーの好適な具体例としては、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、プルラン、キトサン、デキストラン又はシクロデキストリンの側鎖に前記式(1)~(3)のいずれか一つが結合したポリマーが挙げられ、好ましくは下記式(A3)で表されるポリマーが挙げられる。
Figure 0006995375000015
[式(A3)中、mは4~500を表し、Yは、ぞれぞれ独立に下記式(A4)で表される基又は水素基を表し、少なくとも1つは下記式(A4)で表される基である。]
Figure 0006995375000016
[式(A4)中、nは1~3の整数を表し、Xは前記式(4)又は前記式(5)で表される基を表し、*は結合手を表す。]
続いて、pH応答性ポリマーの製造方法の好適な具体例を説明する。例えば、側鎖にカルボキシル基、又は保護基(例えば、ベンジル基、メチル基、エチル基等)で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーに対して、公知の縮合剤等を用いた縮合反応やアミノリシス反応によりジエチレントリアミンを導入してアミン体ポリマー合成し、得られたアミン体ポリマーに対してマイケル付加反応又は求核置換反応により、前記式(4)又は前記式(5)で表される基を含む基を導入することで本発明のpH応答性ポリマーを得ることができる。
また、側鎖に、カルボキシル基、又は保護基で保護されたカルボキシル基を有しない生体適合性ポリマーの場合、クロロ酢酸、無水コハク酸、クロロギ酸-p-ニトロフェニル等を用いた公知の方法により側鎖にカルボキシル基等を導入し、上記と同様の縮合反応やアミノリシス反応によりアミン体ポリマーを合成し、得られたアミン体ポリマーに対してマイケル付加反応又は求核置換反応を施すことにより、本実施形態のpH応答性ポリマーを得ることができる。
側鎖にカルボキシル基、又は保護基で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーは、生体適合性ポリマーがポリアミノ酸である場合、アミン化合物を開始剤としたβ-ベンジル-L-グルタミン酸-N-カルボキシアンヒドリド(BLG-NCA)等のアミノ酸-N-カルボキシ無水物の開環重合等の公知の製造方法で製造することができる。あるいは、市販のポリアミノ酸を使用してもよい。
また、生体適合性ポリマーがポリアクリルアミドである場合、アクリル酸又はアクリル酸ベンジルを原料として、フリーラジカル重合又はリビングラジカル重合等の公知の製造方法により、側鎖にカルボキシル基、又は保護基で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーを製造することができる。
更に、生体適合性ポリマーが多糖である場合、側鎖にカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーとして、市販のカルボキシメチルセルロースやヒアルロン酸等を使用することができる。
(生体適合性ポリマーにエチレンジアミン構造を有する基を導入させる方法の説明)
側鎖に保護基で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーの場合、当該ポリマーとジエチレントリアミンとの反応、あるいは当該ポリマーを脱保護することで得られたカルボン酸に対して、公知の縮合剤等を用いてジエチレントリアミンを導入することにより、エチレンジアミン構造を有する基が導入された生体適合性ポリマー(アミン体ポリマー)を得ることができる。
本反応は各種溶媒中で行うことができる。溶媒としては、当該ポリマーとジエチレントリアミンに対して反応性をもたない溶媒であれば特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、クロロホルム、DMF、NMP等の各種有機溶媒、及びそれら混合物が挙げられる。ポリマーの溶解性の観点からは、NMP又はテトラヒドロフランが好ましい。溶媒の使用量は、当該ポリマーに対して質量比で通常1~100倍、好ましくは3~50倍、最も好ましくは5~30倍量である。
本反応に用いるジエチレントリアミンの使用量は、当該ポリマーの保護基で保護されたカルボキシル基に対して、モル比で通常30~150倍、好ましくは40~100倍、より好ましくは50~80倍である。ジエチレントリアミンの使用量が30倍より少ない場合、ジエチレントリアミンによりポリマー間が架橋された構造体が生成する恐れがあり、150倍より多い場合、未反応のジエチレントリアミンを除去することが困難となる場合がある。
また、本反応には触媒を用いることが可能であり、例えば2-ヒドロキシピリジン、ピリジン、トリエチルアミン等の触媒を使用することができる。
本反応を行う場合の反応温度は使用する溶媒により異なるが、通常0~100℃である。また反応時間は反応温度の条件により異なるが、通常1~48時間程度が好ましい。本反応により得られたアミン体ポリマーは、そのまま未精製で用いられる他、カラムクロマトグラフィー等の処理により単離、精製を行うこともできる。
一方、側鎖にカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーの場合、当該ポリマーとジエチレントリアミンを縮合剤の存在下で縮合反応させることにより、アミン体ポリマーを得ることができる。また、側鎖に保護基で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーの場合、公知の反応で保護基を脱保護し、側鎖にカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーを得た後、同様に縮合反応させることにより、アミン体ポリマーを得ることができる。
本反応は各種溶媒中で反応を行うことができ、用いる溶媒としては当該ポリマー、ジエチレントリアミン、縮合剤に対して反応性をもたない溶媒であれば特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、クロロホルム、DMF、NMP等の各種有機溶媒、及びそれら混合物が挙げられる。ポリマーの溶解性の観点からはNMP又はテトラヒドロフランが好ましい。溶媒の使用量は、生体適合性ポリマーに対して質量比で通常1~100倍、好ましくは3~50倍、より好ましくは5~30倍量である。
本反応に用いるジエチレントリアミンの使用量は、当該ポリマーのカルボキシル基に対して、モル比で通常30~150倍、好ましくは40~100倍、より好ましくは50~80倍である。ジエチレントリアミンの使用量が30倍より少ない場合、ジエチレントリアミンによりポリマー間が架橋された構造体が生成する恐れがあり、150倍より多い場合、未反応のジエチレントリアミンを除去することが困難となる場合がある。
本反応に用いる縮合剤としては、反応が進行するものであれば特に限定されず、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩等を用いることができる。
本反応を行う場合の反応温度は使用する溶媒により異なるが、通常10~100℃である。また反応時間は反応温度等の条件により異なるが、通常1~48時間程度が好ましい。本反応により得られたアミン体ポリマーは、結晶化やカラムクロマトグラフィー等の処理により縮合剤を除去し、単離、精製することが好ましい。
(アミン体ポリマーに前記式(4)又は前記式(5)を含む基を導入する方法の説明)
マイケル付加反応や求核置換反応により、アミン体ポリマーに前記式(4)又は前記式(5)を含む基を導入することができる。
マイケル付加反応の場合は、アミン体ポリマーと、アクリル酸、ビニルスルホン酸、又はこれらのナトリウム塩若しくはカリウム塩とをpH9~10の水溶液中、マイケル付加反応させることで本実施形態のpH応答性ポリマーを得ることができる。
マイケル付加反応に用いる、アクリル酸、ビニルスルホン酸、又はこれらのナトリウム塩若しくはカリウム塩の使用量は、アミン体ポリマーの側鎖の一級アミノ基に対して、モル比で通常3~300倍である。
マイケル付加反応はpH9~10の水溶液中で行う。pHの調整には通常、無機塩基を使用する。具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を用いることができる。
マイケル付加反応を行う場合の反応温度は、通常0~80℃である。また反応時間は反応温度等の条件により異なるが、通常5時間~2週間程度が好ましい。
本反応により得られたpH応答性ポリマーは、そのまま未精製で用いてもよいし、カラムクロマトグラフィー等の処理により単離、精製してもよい。
求核置換反応の場合は、アミン体ポリマーと、4-ブロモブタン酸又は3-ブロモプロパンスルホン酸ナトリウムとを求核置換反応させることで本実施形態のpH応答性ポリマーを得ることができる。
求核置換反応に用いる4-ブロモブタン酸又は3-ブロモプロパンスルホン酸ナトリウムの使用量は、アミン体ポリマーの側鎖の一級アミノ基に対して、モル比で通常3~300倍である。
求核置換反応においては塩基触媒を用いてもよく、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等の無機塩基を用いることができる。
求核置換反応を行う場合の反応温度は、通常0~80℃である。また反応時間は反応温度等の条件により異なるが、通常5時間~1週間程度が好ましい。
本反応により得られたpH応答性ポリマーは、そのまま未精製で用いてもよいし、カラムクロマトグラフィー等の処理により単離、精製してもよい。
[薬物送達システム]
1実施形態において、本発明は、薬物と、上述したpH応答性ポリマーとが結合した、薬物送達システムを提供する。
実施例において後述するように、本実施形態の薬物送達システムは、血液成分や正常組織に対してはステルス性を示し、腫瘍組織に対しては高い集積効率及び細胞への取り込み効率を示す。したがって、本実施形態の薬物送達システムを用いることにより、腫瘍組織に効率よく薬物を送達し、正常組織への傷害を抑制することができる。
本実施形態の薬物送達システムにおいて、薬物としては、特に制限されず、阻害性核酸、低分子医薬、タンパク質型医薬、標識物質等が挙げられる。
阻害性核酸としては、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA等が挙げられる。
低分子医薬としては、分子量が概ね1000以下である医薬が挙げられる。低分子医薬は、例えば、抗癌剤、造影剤等であってもよい。抗癌剤としては、例えば、パクリタクセル、ドキソルビシン、シスプラチン、ゲムシタビン等が挙げられる。
タンパク質型医薬としては、ハーセプチン、アバスチン、サイラムザ等の抗体医薬等が挙げられる。
標識物質としては、量子ドット、金ナノ粒子、磁性粒子、シリカナノ粒子等が挙げられる。
本実施形態の薬物送達システムの合成方法は特に制限されない。あるいは、薬物及びpH応答性ポリマーにそれぞれ反応性の官能基を導入し、これらを反応させることにより、両者を結合させてもよい。あるいは、物理吸着又は反応性の官能基同士の結合を利用して、タンパク質型医薬である薬物をpH応答性ポリマーで修飾してもよい。あるいは、物理吸着又は反応性の官能基同士の結合を利用して、薬物を封入したリポソームにpH応答性ポリマーを結合させてもよい。あるいは、物理吸着又は反応性の官能基同士の結合を利用して、量子ドット、金ナノ粒子、磁性粒子、シリカナノ粒子等の表面を被覆してもよい。
また、薬物送達システムは、ブロック共重合体の合成と自己組織化による高分子ミセルを形成していてもよく、高分子ベシクルの形態であってもよい。
反応性の官能基の組み合わせとしては、特に限定されず、例えばアジド基とジベンゾシクロオクチン(DBCO)の組み合わせ、スクシンイミド基とアミノ基の組み合わせ、チオール基とマレイミド基の組み合わせ、アジド基とアルキン基の組み合わせ、ビオチン基とストレプトアビジン基の組み合わせ等が挙げられる。また、反応性の官能基以外にも、例えばチオール基と金との配位結合による結合を利用してもよい。
これらの組み合わせのうちいずれか一方を薬物に導入し、他方をpH応答性ポリマーに導入し、これらを反応させてもよい。あるいは、pH応答性ポリマーにこれらの反応性の官能基を導入し、それを用いて重合反応によりブロック共重合体としてもよい。あるいは、チオール基を有するpH応答性ポリマーを調製し、これを金ナノ粒子表面に導入してもよい。
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
[実施例1、比較例1及び比較例2のポリマーの合成]
実施例1、比較例1及び比較例2のポリマーを合成した。
(ポリ(β-ベンジルL-グルタミン酸)の合成)
まず、ポリ(β-ベンジルL-グルタミン酸)(PBLG)を合成した。5.0gのBLG-N-カルボキシアンヒドリド(BLG-NCA)をアルゴン雰囲気下で25mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、更に75mLのジクロロメタン(DCM)を加えた。
得られた溶液に、38.4mgの11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミドを加え、アルゴン雰囲気下にて2日間、室温にて撹拌した。続いて、反応溶液を過剰量のジエチルエーテルに注ぐことで生成物を再沈殿させて回収し、減圧乾燥を経て4.0gの白色固体を得た(収率95%)。
H NMR解析により構造を確認し、PBLGであることを確認した。
Figure 0006995375000017
また、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)解析により分子量を算出し、平均重合度が100であることが明らかとなった(Mw/Mn=1.2)。
(PGlu(EDA)、PGlu(DET)及びPGlu(DPT)の合成)
PBLGの側鎖のベンジル基に対するアミノリシス反応により、PGlu(EDA)、PGlu(DET)及びPGlu(DPT)を合成した。
まず、1gのPBLGと2.7gの2-ヒドロキシピリジンを45mLのN-メチルピロリドン(NMP)に溶解した。得られた溶液に対し、19gのエチレンジアミン(EDA)を加え、反応溶液を0.3M塩酸による透析により中和し、続けて0.01M塩酸に対して透析し、更に純水に対して透析した。透析処理を行った水溶液を凍結乾燥することにより生成物となる白色固体(PGlu(EDA))を得た(0.8g、収率81%)。
同様に、PBLGに対するジエチレントリアミン(DET)及びジプロピレンジアミン(DPT)の反応により、それぞれPGlu(DET)及びPGlu(DPT)を得た。得られたPGlu(EDA)、PGlu(DET)及びPGlu(DPT)は、それぞれH NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000018
Figure 0006995375000019
Figure 0006995375000020
(PGlu(EDA-Car)、PGlu(DET-Car)及びPGlu(DPT-Car)の合成)
PGlu(EDA)、PGlu(DET)、PGlu(DPT)の側鎖の一級アミンに対し、アクリル酸とのマイケル反応によりカルボキシル基を導入した。まず、100mgのPGlu(EDA)を30mLの0.5M炭酸ナトリウム水溶液に溶解し、8.5mLのアクリル酸を加えた。5M水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応溶液のpHを9~10に調整した後、室温にて1週間撹拌した。得られた反応溶液を0.01M塩酸、続けて純水に対して透析処理し、凍結乾燥することにより、比較例1のポリマー(以下、「PGlu(EDA-Car)」という場合がある。)を乳白色の固体として得た(95mg、収率95%)。
同様に、実施例1のポリマー(以下、「PGlu(DET-Car)」という場合がある。)及び比較例2のポリマー(以下、「PGlu(DPT-Car)」という場合がある。)を得た。実施例1、比較例1及び比較例2の各ポリマーは、それぞれH NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000021
Figure 0006995375000022
Figure 0006995375000023
実施例1のポリマーの化学式を下記式(8)に示す。実施例1のポリマーは、生体適合性ポリマーとしてポリグルタミン酸を有し、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基として、エチレンジアミン構造を有する基が結合したポリマーであった。
Figure 0006995375000024
[式(8)中、mの平均値は100である。]
続いて、比較例1のポリマーの化学式を下記式(9)に示す。比較例1のポリマーは、生体適合性ポリマーとしてポリグルタミン酸を有し、1つの2級アミンを有するポリマーであり、正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)においても、腫瘍組織の周囲に相当するpH環境下(pH6.5程度又はそれ以下)においても、電気的に中性を示すポリマーであった。
下記式(10)に、比較例1のポリマーの2級アミン部分及びカルボキシル基部分の電荷を示す。下記式(10)に示すように、比較例1のポリマーに導入された1つの2級アミンは、正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)においても、腫瘍組織の周囲に相当するpH環境下(pH6.5程度又はそれ以下)においても、正電荷を1個有する。
Figure 0006995375000025
[式(9)中、mの平均値は100である。]
Figure 0006995375000026
続いて、比較例2のポリマーの化学式を下記式(11)に示す。比較例2のポリマーは、生体適合性ポリマーとしてポリグルタミン酸を有し、プロピレンジアミン構造を有するポリマーであり、正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)においても、腫瘍組織の周囲に相当するpH環境下(pH6.5程度又はそれ以下)においても、カチオン性を帯びるポリマーであった。
下記式(12)に、比較例2のポリマーのプロピレンジアミン構造部分及びカルボキシル基部分の電荷を示す。下記式(12)に示すように、プロピレンジアミン構造は、正常組織に相当するpH環境下(pH7.4)においても、腫瘍組織の周囲に相当するpH環境下(pH6.5程度又はそれ以下)においても、正電荷を2個有する。
Figure 0006995375000027
[式(11)中、mの平均値は100である。]
Figure 0006995375000028
[実験例1]
(ポリマー及びアニオン性糖鎖の相互作用試験)
一般に、細胞膜の表面はアニオン性の糖鎖で覆われている。そこで、実施例1及び比較例1のポリマーと、アニオン性糖鎖とのpH依存的な相互作用を検討した。アニオン性糖鎖としてへパリンを用いた。
まず、各ポリマーを、蛍光物質であるCy3で標識した。続いて、300nMの各ポリマーと100μg/mLのへパリンとの混合溶液を調製し、様々なpH条件下で蛍光相関分光法(FCS)を用いて各ポリマーの拡散係数を測定した(型式「LSM710」、Carl-Zeiss社)。ポリマーの拡散係数が低下したことは、へパリンとポリマーとが相互作用し、会合体を形成したことを示す。pH6.0、6.5、7.0のpH条件はMES緩衝液(50mM)で作製し、pH7.4と8.0のpH条件はHEPES緩衝液(50mM)で作製した。
図1は、FCSによる測定結果を示すグラフである。その結果、実施例1のポリマーは、正常組織の周囲の環境に相当するpH条件(pH約7.4)ではへパリンとの相互作用を示さず、腫瘍の周囲の環境に相当する弱酸性条件(pH約6.5)ではへパリンとの会合体を形成(拡散係数が低下)したことが明らかとなった。これに対し、比較例1のポリマーは、pH条件を変化させてもへパリンとの相互作用が認められなかった。
この結果から、実施例1のポリマーは、正常組織の細胞とは相互作用せず、腫瘍組織の細胞の細胞膜には特異的に吸着し、細胞への取り込みが促進されることが示された。
[実験例2]
(ポリマーの細胞への取り込みの検討)
ヒト肺癌細胞であるA549に、様々なpH条件下で実施例1及び比較例1のポリマーを接触させ、細胞に取り込まれるか否かを検討した。
まず、1ウェルあたり100,000個のA549細胞を6ウェルプレートに播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)入りのRPMI培地中で一晩インキュベートした。続いて、培地をpH7.4の緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、10%FBS)、pH6.5の緩衝液(10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、10%FBS)、又はpH5.5の緩衝液(10mM MES、150mM NaCl、10%FBS)に交換した。
続いてCy3標識した各ポリマーを終濃度500nMとなるように添加し、37℃で1時間インキュベートした。続いて、A549細胞を、FBSを含まない緩衝液でリンス処理し、更にトリプシン処理を行って回収し、フローサイトメトリー(型式「Guava easyCyte 6-2L」、メルクミリポア社)で解析し、A549細胞に取り込まれたCy3の蛍光強度を測定した。
図2は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。その結果、比較例1のポリマーはpH7.4~5.5の範囲内で細胞への取り込みに変化が認められなかった。これに対し、実施例1のポリマーは、pHが6.5以下に低下すると細胞への取り込みが増大することが明らかとなった。
この結果から、正常組織の周囲の環境に相当するpH条件(pH約7.4)では、実施例1のポリマーも比較例1のポリマーも、同程度の細胞への取り込みを示すことが明らかとなった。
一方、腫瘍の周囲の環境に相当する弱酸性条件(pH約6.5)以下のpH条件では、比較例1のポリマーの細胞への取り込みには変化が認められなかったのに対し、実施例1のポリマーは細胞への取り込みが上昇したことが明らかとなった。
すなわち、実施例1のポリマーは、中性付近のpH条件下で電気的に中性であることにより、正常組織の細胞への取り込みは抑制され、弱酸性以下のpH条件下でpH選択的にカチオン性を帯びることにより、腫瘍組織の細胞への取り込みが上昇したことが確認された。
[実験例3]
(細胞膜傷害試験)
カチオン性物質は、しばしば細胞膜と強く相互作用することにより細胞膜を破壊し、細胞毒性を示す場合がある。そこで、実施例1、比較例1及び比較例2のポリマーの細胞膜傷害試験を行った。具体的には、ヒト肺癌細胞であるA549に、様々なpH条件下で各ポリマーを接触させ、乳酸脱水素酵素(LDH)活性試験を行った。
まず、1ウェルあたり100,000個のA549細胞を6ウェルプレートに播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)入りのRPMI培地中で一晩インキュベートした。続いて、培地をpH7.4の緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、10%FBS)、pH6.5の緩衝液(10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、10%FBS)、又はpH5.5の緩衝液(10mM MES、150mM NaCl、10%FBS)に交換した。
続いて、各濃度の各ポリマーを添加し、37℃で1.5時間インキュベートした。続いて、LDHアッセイキット(DOJINDO)を用いて細胞内から漏出したLDH量を測定し、細胞膜への傷害を定量化した。これは、ポリマーに細胞膜傷害性があり、細胞膜が傷害を受けた場合、細胞内のLDHが細胞外に漏出することを利用したものである。細胞外のLDH活性を測定することにより、各ポリマーの細胞膜傷害性を評価することができる。
図3(a)~(c)はLDH活性試験の結果を示すグラフである。図3(a)はpH7.4における試験結果であり、図3(b)はpH6.5における試験結果であり、図3(c)はpH5.5における試験結果である。
その結果、実施例1及び比較例1のポリマーは、いずれのpHにおいても目立ったLDH活性を示さないことが明らかとなった。
この結果から、実施例1のポリマーは、弱酸性~酸性のpHに応答して細胞膜への吸着及び細胞内への取り込みを示すものの、細胞膜への傷害を起こすことはなく、生体適合性が高いポリマーであることが明らかとなった。
また、比較例1のポリマーの結果は、pH応答性を示さず、いずれのpH条件においても細胞と相互作用せず、細胞内への取り込みもわずかであったという実験例1、2の結果と一致したものであった。
また、比較例2のポリマーは、pHの低下に伴ってLDH活性が上昇したことが明らかとなった。この結果から、比較例2のポリマーは、酸性条件下において細胞傷害性を示すことが明らかとなった。
[実験例4]
(細胞毒性試験)
実施例1、比較例1及び比較例2のポリマーの細胞毒性試験を行った。具体的には、ヒト肺癌細胞であるA549の培地に、様々なpH条件下で様々な濃度の各ポリマーを添加して1日間培養し、細胞生存率を測定した。
まず、1ウェルあたり5,000個のA549細胞を96ウェルプレートに播種し、10%FBS入りのRPMI培地中で一晩インキュベートした。続いて、培地を通常のRPMI培地(pH7.4)及びpHを6.7に調整したRPMI培地に交換し、様々な濃度の各ポリマーを添加して37℃で1日間培養し、細胞生存率を測定した。細胞生存率の測定にはCCK-8キット(DOJINDO)を使用した。
図4(a)及び(b)は、細胞毒性試験の結果を示すグラフである。図4(a)はpH7.4における結果であり、図4(b)はpH6.7における結果である。その結果、いずれのポリマーも、pH、濃度によらず目立った細胞毒性を示さないことが明らかとなった。
[実験例5]
(血中滞留性試験及び腫瘍集積試験)
実施例1、比較例1及び比較例2のポリマーでコーティングしたナノ粒子を用いて、インビボにおける血中滞留性及び腫瘍への集積を検討した。
まず、ナノ粒子(薬物)のモデルである量子ドットを、実施例1、比較例1及び比較例2のポリマーでコーティングした。また、比較のために、従来用いられてきたポリエチレングリコール(PEG)を用いて同様に量子ドットをコーティングしたものも調製した。以下、実施例1のポリマーでコーティングした量子ドットを「実施例1の量子ドット」という場合がある。同様に、比較例1のポリマーでコーティングした量子ドットを「比較例1の量子ドット」といい、比較例2のポリマーでコーティングした量子ドットを「比較例2の量子ドット」という場合がある。
続いて、BALB/cマウス(雌、5週齢)の皮下にマウス大腸癌細胞株であるCT26細胞を移植し、マウス担癌モデルを作製した。腫瘍組織のサイズが50~100mmとなった段階で、各量子ドット200pmolずつをそれぞれ尾静脈投与した。その後、経時的に血液採取を行い、48時間後にと殺して腫瘍組織を摘出した。
続いて、採取した各試料を90%硝酸中180℃で処理した。得られた水溶液に含まれる量子ドット由来のカドミウム量をICP-MS(型式「Agilent 7700 ICP-MS」、アジレントテクノロジーズ社)で測定することにより、各量子ドットの量をそれぞれ定量し、各量子ドットの血中滞留性及び腫瘍組織への集積性を評価した。
図5は、各量子ドットの血中残存量を経時的に測定した結果を示すグラフである。その結果、実施例1及び比較例1の量子ドットは、同等の血中滞留性を示したことが明らかとなった。この結果は、これらの量子ドットがインビボで同等のステルス性を有することを示す。
一方、比較例2の量子ドットは、実施例1及び比較例1の量子ドットと比較して、低い血中滞留性を示したことが明らかとなった。比較例2のポリマーは、弱塩基性~酸性のpH条件においてカチオン性を帯びているため、血液中成分や正常組織と相互作用し、血液中からの消失が速いものと考えられる。
また、実施例1及び比較例1の量子ドットは、従来使用されてきたPEGでコーティングした量子ドットと比較して、高い血中滞留性を示した。この結果は、実施例1及び比較例1のポリマーが、インビボでPEGよりもすぐれたステルス性を有することを示す。
図6は、摘出した腫瘍組織中の各量子ドットの定量結果を示すグラフである。その結果、実施例1の量子ドット及び比較例1の量子ドットは、同等の血中滞留性を示すにもかかわらず、実施例1の量子ドットは、比較例1の量子ドットよりも高い腫瘍組織への集積性を有することが明らかとなった。この結果は、実施例1の量子ドット及び比較例1の量子ドットの血液中におけるステルス性は同等であるが、腫瘍組織の周囲の弱酸性環境下では、実施例1のポリマーがカチオン性に変化することにより、実施例1の量子ドットは、腫瘍組織の細胞との相互作用を増大させ、細胞取り込みを促進したことを示す。
また、比較例2の量子ドットの腫瘍組織への集積は比較例1の量子ドットと同様であった。更に、従来使用されてきたPEGでコーティングした量子ドットの腫瘍組織への集積は、比較例1及び比較例2の腫瘍組織への集積量よりも顕著に低いものであった。
[実施例2のポリマーの合成]
実施例2のポリマーを合成した。実施例2のポリマーは、平均重合度75のPGlu(DET-Car)であった。
(ポリ(β-ベンジルL-グルタミン酸)の合成)
まず、ポリ(β-ベンジルL-グルタミン酸)(PBLG)を合成した。5.0gのBLG-N-カルボキシアンヒドリド(BLG-NCA)をアルゴン雰囲気下で10mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、更に40mLのジクロロメタン(DCM)を加えた。
得られた溶液に、40.0mgの11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミドを加え、アルゴン雰囲気下にて一晩、室温にて撹拌した。続いて、反応溶液を過剰量のジエチルエーテルに注ぐことで生成物を再沈殿させて回収し、減圧乾燥を経て3.9gの白色固体を得た(収率79%)。
H NMR解析により構造を確認し、PBLGであることを確認した。
Figure 0006995375000029
また、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)解析により分子量を算出し、平均重合度が75であることが明らかとなった(Mw/Mn=1.2)。
(PGlu(DET)の合成)
PBLGの側鎖のベンジル基に対するアミノリシス反応により、PGlu(DET)を合成した。まず、660mgのPBLGと1.4gの2-ヒドロキシピリジンを48mLのN-メチルピロリドン(NMP)に溶解した。得られた溶液に対し、15.4gのジエチレントリアミン(DET)を加え、4日間室温で攪拌した。反応溶液を0.3M塩酸による透析により中和し、続けて0.01M塩酸に対して透析し、更に純水に対して透析した。透析処理を行った水溶液を凍結乾燥することにより生成物となる白色固体(PGlu(DET))を得た(0.64g、収率97%)。得られたPGlu(DET)は、H NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000030
(PGlu(DET-Car)の合成)
PGlu(DET)の側鎖の一級アミンに対し、アクリル酸とのマイケル反応によりカルボキシル基を導入した。まず、200mgのPGlu(DET)を60mLの0.5M炭酸ナトリウム水溶液に溶解し、2.2mLのアクリル酸を加えた。5M水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応溶液のpHを9~10に調整した後、室温にて1週間撹拌した。得られた反応溶液を0.01M塩酸、続けて純水に対して透析処理し、凍結乾燥することにより、PGlu(DET-Car)(以下、「実施例2のポリマー」という場合がある。)を乳白色の固体として得た(210mg、収率82%)。H NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000031
[実施例3のポリマーの合成]
実施例3のポリマーを合成した。実施例3のポリマーは、平均重合度112のPGlu(DET-Car)であった。
(ポリ(β-ベンジルL-グルタミン酸)の合成)
まず、ポリ(β-ベンジルL-グルタミン酸)(PBLG)を合成した。3.0gのBLG-N-カルボキシアンヒドリド(BLG-NCA)をアルゴン雰囲気下で6mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、更に24mLのジクロロメタン(DCM)を加えた。
得られた溶液に、19.1mgの11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミドを加え、アルゴン雰囲気下にて24時間、室温にて撹拌した。続いて、反応溶液を過剰量のジエチルエーテルに注ぐことで生成物を再沈殿させて回収し、減圧乾燥を経て2.2gの白色固体を得た(収率85%)。
H NMR解析により構造を確認し、PBLGであることを確認した。
Figure 0006995375000032
また、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)解析により分子量を算出し、平均重合度が112であることが明らかとなった(Mw/Mn=1.2)。
(PGlu(DET)の合成)
PBLGの側鎖のベンジル基に対するアミノリシス反応により、PGlu(DET)を合成した。まず、500mgのPBLGと1.0gの2-ヒドロキシピリジンを14mLのN-メチルピロリドン(NMP)に溶解した。得られた溶液に対し、12.4gのジエチレントリアミン(DET)を加え、4日間室温で攪拌した。反応溶液を0.3M塩酸による透析により中和し、続けて0.01M塩酸に対して透析し、更に純水に対して透析した。透析処理を行った水溶液を凍結乾燥することにより生成物となる白色固体(PGlu(DET))を得た(0.49g、収率86%)。得られたPGlu(DET)は、H NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000033
(PGlu(DET-Car)の合成)
PGlu(DET)の側鎖の一級アミンに対し、アクリル酸とのマイケル反応によりカルボキシル基を導入した。まず、200mgのPGlu(DET)を25mLの0.5M炭酸ナトリウム水溶液に溶解し、3.2mLのアクリル酸を加えた。5M水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応溶液のpHを9~10に調整した後、室温にて1週間撹拌した。得られた反応溶液を0.01M塩酸、続けて純水に対して透析処理し、凍結乾燥することにより、PGlu(DET-Car)(以下、「実施例3のポリマー」という場合がある。)を乳白色の固体として得た(213mg、収率83%)。H NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000034
[実施例4のポリマーの合成]
実施例4のポリマー(以下、「PGlu(DET-Sul)」という場合がある。)を合成した。
(PGlu(DET-Sul)の合成)
実施例3と同様にして合成したpGlu(DET)(平均重合度112)の側鎖の一級アミンに対し、ビニルスルホン酸とのマイケル反応によりスルホ基を導入した。まず、200mgのPGlu(DET)を25mLの0.5M炭酸ナトリウム水溶液に溶解し、6.1gのビニルスルホン酸ナトリウムを加えた。5M水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応溶液のpHを9~10に調整した後、室温にて2週間撹拌した。得られた反応溶液を0.01M塩酸、続けて純水に対して透析処理し、凍結乾燥することにより、PGlu(DET-Sul)(以下、「実施例4のポリマー」という場合がある。)を淡橙色の固体として得た(213mg、収率78%)。H NMR解析により目的の構造であることを確認した。
Figure 0006995375000035
実施例4のポリマーの化学式を下記式(13)に示す。実施例4のポリマーは、生体適合性ポリマーとしてポリグルタミン酸を有し、7を超えるpH環境下で電気的に中性でありpH7以下でカチオン性に変化する基として、エチレンジアミン構造を有する基が結合したポリマーであった。
Figure 0006995375000036
[式(13)中、mの平均値は112である。]
[実験例6]
(実施例1のポリマーのpKa測定)
実施例1のポリマーのpKaを測定した。上述したように、実施例1のポリマーは平均重合度100のPGlu(DET-Car)であった。
5mgのPGlu(DET-Car)を2mLの150mM NaCl 0.1M HClに溶解し、150mM NaCl 0.01M NaOHにて滴定試験を行った。滴定装置には、型式「COM-1750M」(平沼産業)を使用した。その結果、実施例1のポリマーは、4.3(カルボン酸由来)、6.0(エチレンジアミン由来)、8.8(エチレンジアミン由来)のpKaを有することが明らかとなった。
[実験例7]
(実施例4のポリマーのpKa測定)
実施例4のポリマーのpKaを測定した。上述したように、実施例4のポリマーは平均重合度112のPGlu(DET-Sul)であった。
5mgのPGlu(DET-Sul)を2mLの150mM NaCl 0.1M HClに溶解し、150mM NaCl 0.01M NaOHにて滴定試験を行った。滴定装置には、型式「COM-1750M」(平沼産業)を使用した。その結果、実施例4のポリマーは、6.4(エチレンジアミン由来)、8.9(エチレンジアミン由来)のpKaを有することが明らかとなった。
[実験例8]
(実施例3のポリマー及びアニオン性糖鎖の相互作用試験)
実験例1において上述したように、一般に、細胞膜の表面はアニオン性の糖鎖で覆われている。そこで、実施例3のポリマーと、アニオン性糖鎖とのpH依存的な相互作用を検討した。アニオン性糖鎖としてへパリンを用いた。上述したように、実施例3のポリマーは平均重合度112のPGlu(DET-Car)であった。
まず、PGlu(DET-Car)を、蛍光物質であるCy3で標識した。続いて、200nMのポリマーと100μg/mLのへパリンとの混合溶液を調製し、様々なpH条件下で蛍光相関分光法(FCS)を用いてポリマーの拡散係数を測定した(型式「LSM710」、Carl-Zeiss社)。ポリマーの拡散係数が低下したことは、へパリンとポリマーとが相互作用し、会合体を形成したことを示す。pH6.0、6.5、7.0のpH条件はMES緩衝液(50mM)で作製し、pH7.4と8.0のpH条件はHEPES緩衝液(50mM)で作製した。
図7は、FCSによる測定結果を示すグラフである。その結果、実施例3のポリマーは、正常組織の周囲の環境に相当するpH条件(pH約7.4)ではへパリンとの相互作用を示さず、腫瘍の周囲の環境に相当する弱酸性条件(pH約6.5)ではへパリンとの会合体を形成(拡散係数が低下)したことが明らかとなった。
この結果から、実施例3のポリマーは、正常組織の細胞とは相互作用せず、腫瘍組織の細胞の細胞膜には特異的に吸着し、細胞への取り込みが促進されることが示された。
[実験例9]
(実施例3のポリマーの細胞への取り込みの検討)
マウス大腸がん細胞であるCT26に、様々なpH条件下で実施例3のポリマーを接触させ、細胞に取り込まれるか否かを検討した。上述したように、実施例3のポリマーは平均重合度112のPGlu(DET-Car)であった。
まず、1ウェルあたり50,000個のCT26細胞を24ウェルプレートに播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)入りのDMEM培地で一晩インキュベートした。続いて、培地をpH7.4の緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、10%FBS)、又はpH6.5の緩衝液(10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、10%FBS)に交換した。
続いてCy3標識したポリマーを終濃度1μMとなるように添加し、37℃で6時間インキュベートした。続いて、CT26細胞を、FBSを含まない緩衝液でリンス処理し、更にトリプシン処理を行って回収し、フローサイトメトリー(型式「Guava easyCyte 6-2L」、メルクミリポア社)で解析し、CT26細胞に取り込まれたCy3の蛍光強度を測定した。
図8は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。その結果、実施例3のポリマーはpH7.4に比較して、pHが6.5での細胞への取り込みが増大することが確認された。
[実験例10]
(実施例4のポリマー及びアニオン性糖鎖の相互作用試験)
実験例1において上述したように、一般に、細胞膜の表面はアニオン性の糖鎖で覆われている。そこで、実施例4のポリマーと、アニオン性糖鎖とのpH依存的な相互作用を検討した。アニオン性糖鎖としてへパリンを用いた。上述したように、実施例4のポリマーは平均重合度112のPGlu(DET-Sul)であった。
まず、PGlu(DET-Sul)を、蛍光物質であるCy3で標識した。続いて、200nMのポリマーと100μg/mLのへパリンとの混合溶液を調製し、様々なpH条件下で蛍光相関分光法(FCS)を用いてポリマーの拡散係数を測定した(型式「LSM710」、Carl-Zeiss社)。ポリマーの拡散係数が低下したことは、へパリンとポリマーとが相互作用し、会合体を形成したことを示す。pH6.0、6.5、7.0のpH条件はMES緩衝液(50mM)で作製し、pH7.4と8.0のpH条件はHEPES緩衝液(50mM)で作製した。
図9は、FCSによる測定結果を示すグラフである。その結果、実施例4のポリマーは、正常組織の周囲の環境に相当するpH条件(pH約7.4)ではへパリンとの相互作用を示さず、腫瘍の周囲の環境に相当する弱酸性条件(pH約6.5)ではへパリンとの会合体を形成(拡散係数が低下)したことが明らかとなった。
この結果から、実施例4のポリマーは、正常組織の細胞に比較して、腫瘍組織の細胞の細胞膜に強く相互作用し、細胞への取り込みが促進されることが示された。
[実験例11]
(実施例4のポリマーの細胞への取り込みの検討)
マウス大腸がん細胞であるCT26に、様々なpH条件下で実施例4のポリマーを接触させ、細胞に取り込まれるか否かを検討した。上述したように、実施例4のポリマーは平均重合度112のPGlu(DET-Sul)であった。
まず、1ウェルあたり50,000個のCT26細胞を24ウェルプレートに播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)入りのDMEM培地で一晩インキュベートした。続いて、培地をpH7.4の緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、10%FBS)、又はpH6.5の緩衝液(10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、10%FBS)に交換した。
続いてCy3標識したポリマーを終濃度1μMとなるように添加し、37℃で6時間インキュベートした。続いて、CT26細胞を、FBSを含まない緩衝液でリンス処理し、更にトリプシン処理を行って回収し、フローサイトメトリー(型式「Guava easyCyte 6-2L」、メルクミリポア社)で解析し、CT26細胞に取り込まれたCy3の蛍光強度を測定した。
図10は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。その結果、実施例4のポリマーはpH7.4に比較して、pHが6.5での細胞への取り込みが増大することが確認された。
本発明によれば、血液成分や正常組織に対してはステルス性を示し、腫瘍組織に対しては集積効率及び細胞への取り込み効率が向上したポリマーを提供することができる。

Claims (13)

  1. pH7.2~7.6の環境下で電気的に中性でありpH6.0~6.6の環境下でカチオン性に変化する基が結合した生体適合性ポリマーからなり、
    pH7.2~7.6の環境下で電気的に中性でありpH6.0~6.6の環境下でカチオン性に変化する前記基が、下記式(1)で表される基、下記式(2)で表される基、又は、下記式(3)で表される基を含む、pH応答性ポリマー。
    Figure 0006995375000037
    [式(1)~(3)中、nは1~3の整数を表し、*は結合手を表す。]
  2. 前記式(1)で表される基、前記式(2)で表される基、又は前記式(3)で表される基が生体適合性ポリマーの側鎖に結合している、請求項1に記載のpH応答性ポリマー。
  3. 前記生体適合性ポリマーが生体分解性である、請求項1又は2に記載のpH応答性ポリマー。
  4. 前記生体適合性ポリマーが、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド及び多糖類からなる群より選択される、請求項に記載のpH応答性ポリマー。
  5. 前記生体適合性ポリマーがポリアミノ酸である、請求項に記載のpH応答性ポリマー。
  6. 前記ポリアミノ酸がポリグルタミン酸又はポリアスパラギン酸である、請求項に記載のpH応答性ポリマー。
  7. 下記式(b)で表される繰り返し単位を含む、請求項に記載のpH応答性ポリマー。
    Figure 0006995375000038
  8. 下記式(c)で表される繰り返し単位を含む、請求項に記載のpH応答性ポリマー。
    Figure 0006995375000039
    [式(c)中、nは2又は3を表す。]
  9. 重量平均分子量が1,000~200,000である、請求項1~のいずれか一項に記載のpH応答性ポリマー。
  10. 重量平均分子量が10,000~50,000である、請求項に記載のpH応答性ポリマー。
  11. 前記生体適合性ポリマー1モルあたり、pH7.2~7.6の環境下で電気的に中性でありpH6.0~6.6の環境下でカチオン性に変化する前記基が4~800モル結合した、請求項1~10のいずれか一項に記載のpH応答性ポリマー。
  12. 薬物送達システム用である、請求項1~11のいずれか一項に記載のpH応答性ポリマー。
  13. 薬物と、請求項1~12のいずれか一項に記載のpH応答性ポリマーとが結合した、薬物送達システム。
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