以下、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機について図面等を参照しながら説明する。ここで、図1を含め、以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、以下に記載する実施の形態の全文において共通することとする。そして、明細書全文に表わされている構成要素の形態は、あくまでも例示であって、明細書に記載された形態に限定するものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の全体構成の概略縦断面図である。
実施の形態1のスクロール圧縮機は、圧縮機構部8と、圧縮機構部8を回転軸6を介して駆動する電動機構部110と、その他の構成部品とを有し、これらが外郭を構成する密閉容器100の内部に収納された構成を有している。
密閉容器100内には更に、電動機構部110を挟んで対向するようにフレーム7とサブフレーム9とが収納されている。フレーム7は、電動機構部110の上側に配置されて電動機構部110と圧縮機構部8との間に位置しており、サブフレーム9は、電動機構部110の下側に位置している。フレーム7は、焼嵌めまたは溶接等によって密閉容器100の内周面に固着されている。また、サブフレーム9はサブフレームホルダ9aを介して焼嵌めまたは溶接等によって密閉容器100の内周面に固着されている。
サブフレーム9の下方には容積型ポンプを含むポンプ要素112が取り付けられている。ポンプ要素112は、密閉容器100の底部の油溜め部100aに溜められた冷凍機油を圧縮機構部8の後述の主軸受7a等の摺動部に供給する。ポンプ要素112は、上端面で回転軸6を軸方向に支承している。
密閉容器100には、冷媒を吸入するための吸入管101と、冷媒を吐出するための吐出管102とが設けられている。
圧縮機構部8は、吸入管101から吸入した冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒を密閉容器100内の上方に形成されている高圧部に排出する機能を有している。圧縮機構部8は、固定スクロール1と揺動スクロール2とを備えている。
固定スクロール1はフレーム7を介して密閉容器100に固定されている。揺動スクロール2は固定スクロール1の下側に配置されて回転軸6の後述の偏心軸部6aに揺動自在に支持されている。
固定スクロール1は、固定台板1aと、固定台板1aの一方の面に立設された渦巻状突起である固定渦巻体1bとを備えている。揺動スクロール2は、揺動台板2aと、揺動台板2aの一方の面に立設された渦巻状突起である揺動渦巻体2bとを備えている。固定スクロール1および揺動スクロール2は、固定渦巻体1bと揺動渦巻体2bとを逆位相で噛み合わせた対称渦巻形状の状態で密閉容器100内に配置されている。そして、固定渦巻体1bと揺動渦巻体2bとの間には、回転軸6の回転に伴い、半径方向外側から内側へ向かうにしたがって容積が縮小する圧縮室71が形成されている。
固定スクロール1の固定台板1aにおいて揺動スクロール2とは反対側の面には、バッフル4が固定されている。バッフル4には、固定スクロール1の吐出口1cに連通する貫通孔4aが形成され、その貫通孔4aには吐出バルブ11が設けられている。そして、この吐出口1cを覆うように吐出マフラ12が取り付けられている。
フレーム7は固定スクロール1を固定配置し、揺動スクロール2に作用するスラスト力を軸方向に支持するスラスト面を有する。また、フレーム7には、吸入管101から吸入された冷媒を圧縮機構部8内に導く開口部7cが貫通形成されている。
また、フレーム7上には、揺動スクロール2の旋回運動中の自転を防止するためのオルダムリング14が配置されている。オルダムリング14のキー部14aは、揺動スクロール2の揺動台板2aの外周側に配置されている。
電動機構部110は回転軸6に回転駆動力を供給するものであり、電動機固定子110aと電動機回転子110bとを備えている。電動機固定子110aは、外部から電力を得るために、フレーム7と電動機固定子110aとの間に存在するガラス端子(図示せず)にリード線(図示せず)で接続されている。また、電動機固定子110aは回転軸6に焼嵌め等によって固定されている。また、スクロール圧縮機の回転系全体のバランシングを行うため、回転軸6に第1バランスウェイト60が固定され、電動機固定子110aに第2バランスウェイト61が固定されている。
回転軸6は、回転軸6の上部の偏心軸部6aと、主軸部6bと、回転軸6の下部の副軸部6cとで構成されている。主軸部6bおよび副軸部6cの軸心は回転軸6の軸心と一致し、偏心軸部6aの軸心は回転軸6の軸心に対して偏心している。偏心軸部6aは、バランスウェイト付スライダー5および揺動軸受2cを介して揺動スクロール2に嵌合しており、回転軸6の回転により揺動スクロール2を揺動運動させる。主軸部6bは、フレーム7に設けられた円筒状のボス部7bの内周に配置された主軸受7aにスリーブ13を介して嵌合され、冷凍機油による油膜を介して主軸受7aと摺動する。主軸受7aは、銅鉛合金等の滑り軸受に使用される軸受材料を圧入する等してボス部7b内に固定されている。
サブフレーム9の上部には玉軸受からなる副軸受10を備え、電動機構部110の下部で回転軸6を半径方向に軸支する。なお、副軸受10は玉軸受以外の別の軸受構成によって軸支しても良い。副軸部6cは副軸受10と嵌合され、冷凍機油による油膜を介して副軸受10と摺動する。
ここで、密閉容器100内の空間を以下の様に定義する。密閉容器100の内部空間のうち、フレーム7より電動機回転子110b側の空間を第1空間72とする。また、フレーム7の内壁と固定台板1aとにより形成される空間を第2空間73とする。また、固定台板1aより吐出管102側の空間を第3空間74とする。
次に、密閉容器100の内部における圧縮機構部8の部品配置について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部の横断面図である。図3は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部の固定渦巻体と揺動渦巻体とを示した平面図である。なお、図2および図3では、固定スクロール1の固定渦巻体1bと揺動スクロール2の揺動渦巻体2bとの区別を容易にするため、揺動スクロール2の揺動渦巻体2bにハッチングを施してある。後述の図においても同様である。
密閉容器100は、平面的に見て真円形状であり、密閉容器100の内部に、フレーム7の外周面が密閉容器100の内周面に接触した状態で固着されている。よって、フレーム7の外周面も真円形状となっている。フレーム7内部の第2空間73には、固定スクロール1の固定渦巻体1bと揺動スクロール2とが配置されている。また、第2空間73内にはオルダムリング14のキー部14aが配置されている。このような仕様では、キー部14aの可動範囲を避けて揺動台板2aを配置する必要があるため、揺動台板2aの外形形状は扁平形状となっている。なお、扁平形状とは、長円形状および楕円形状も含むものであり、要するに円よりも平べったい形状全般を指すものとする。
このように揺動台板2aの外形形状は扁平形状であることから、揺動台板2a上に立設される揺動渦巻体2bもまた扁平形状とすることで、揺動台板2a上のスペースを有効に使用でき、スペース効率を高めることができる。固定台板1aについても同様であり、固定渦巻体1bを扁平形状とする。このようにスペース効率を高めることで、密閉容器100の大きさを同じとしたままで圧縮室71の容積の拡大を図ることができ、圧縮機能力を向上することが可能となる。逆に見れば、同じ圧縮機能力を確保するにあたり、密閉容器100の小型化が可能となる。なお、以下において、固定渦巻体1bと揺動渦巻体2bとを区別せず、両方を指すときは、「渦巻体」と総称する。台板についても同様で、固定台板1aと揺動台板2aとを区別せず、両方を指すときは、「台板」と総称する。
ところで、固定スクロール1の材質は例えば鋳物材である。また、揺動スクロール2の材質には、遠心力の抑制を目的として鋳物材などに比べて比重の小さい例えばアルミ合金材が用いられている。以上の材質構成の場合、揺動渦巻体2bの降伏応力が固定渦巻体1bに対して相対的に小さくなる。よって、揺動渦巻体2bの強度を確保するため、図2および図3に示すように揺動渦巻体2bの肉厚を固定渦巻体1bよりも厚く設定している。本実施の形態1は、揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの肉厚を個別に設定できることを特徴の1つとしており、この点については改めて説明する。
次に、スクロール圧縮機の動作について説明する。
図4は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機における揺動スクロールの1回転中の動作を示す圧縮工程図である。図4(a)は回転位相が0[rad](2π[rad])の場合の渦巻体の位置を示している。図4(b)は回転位相がπ/2[rad]の場合の渦巻体の位置を示している。図4(c)は回転位相がπ[rad]の場合の渦巻体の位置を示している。図4(d)は回転位相が3π/2[rad]の場合の渦巻体の位置を示している。
電動機構部110の電動機固定子110aに通電されると、電動機回転子110bが回転力を受けて回転する。それに伴い、電動機回転子110bに固定された回転軸6が回転駆動される。回転軸6の回転運動は、偏心軸部6aを介して揺動スクロール2に伝達される。揺動スクロール2の揺動渦巻体2bは、オルダムリング14によって自転が規制されながら揺動半径で揺動運動する。なお、揺動半径とは、主軸部6bに対する偏心軸部6aの偏心量を意味している。
電動機構部110の駆動に伴い、冷媒が外部の冷凍サイクルから吸入管101を介して密閉容器100内の第1空間72に流入する。第1空間72に流入した低圧冷媒は、フレーム7内に設置された2つの開口部7cを通って第2空間73に流入する。第2空間73に流入した低圧冷媒は、圧縮機構部8の揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bの相対的な揺動動作に伴って圧縮室71へと吸い込まれる。圧縮室71に吸い込まれた冷媒は、図2に示すように揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bの相対的な動作に伴う圧縮室71の幾何学的な容積変化によって低圧から高圧へと昇圧される。そして、高圧となった冷媒は、固定スクロール1の吐出口1cおよびバッフル4の貫通孔4aを通過し、吐出バルブ11を押し開けて吐出マフラ12内に吐出される。吐出マフラ12内に吐出された冷媒は、第3空間74に吐出され、吐出管102から高圧冷媒として圧縮機外部へと吐出される。
本実施の形態1では、上述したように揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bの輪郭を扁平形状としており、渦巻形状も扁平形状としている。また、揺動渦巻体2bと固定渦巻体1bとでは肉厚が異なっている。このような渦巻体を有する圧縮機構部8において、図4に示すように一定の揺動半径で揺動渦巻体2bを動作させた場合においても、揺動渦巻体2bの外向面と内向面が、互いに相対する固定渦巻体1bの内向面と外向面に接触しながら動作する。
そして、本実施の形態1は、輪郭が扁平形状である揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの渦巻形状を、式を用いて定義することを特徴とする。この定義には、揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの肉厚を個別に設定できることも含まれる。以下ではまず、渦巻形状を特定するための式について説明し、その後、この式を用いた肉厚が異なる渦巻体の製図方法について説明する。
渦巻形状は、渦巻体の外向面を特定する外側曲線と渦巻体の内向面を特定する内側曲線とによって決まる。渦巻体の渦巻形状を式を用いて定義するにあたり、まず、渦巻体の外側曲線および内側曲線の一方を特定するための基礎曲線と、他方を特定するための反転曲線とを定義する。基礎曲線は、基礎円の伸開線である曲線であって、x、y座標系において伸開角θを用いて式(1)および式(2)で定義される曲線とする。反転曲線は、基礎曲線を基礎円の中心を基準としてπ[rad]回転させた曲線である。
式(1)および(2)におけるa(θ)は基礎円の半径であり、a(θ)は、π[rad]を1周期とした正弦波状または余弦波状に変化する関数で与えられる。これにより、輪郭を扁平形状とした渦巻体の渦巻形状を式で定義できる。なお、基礎円半径a(θ)は、上述したように正弦波状または余弦波状に変化するものであるが、本実施の形態1では、一例として、式(3)の通り正弦波状に変化させたものとする。なお、式(3)においてαは係数である。Nは1以上の自然数である。
式(3)においてαは正の値でも、負の値でも成立する。なお、αを変更することで、輪郭の扁平率が変わる。αを変更した場合の具体的な渦巻体の変化については、実施の形態2で説明する。
次に、基礎曲線および反転曲線を用いた、肉厚の異なる固定渦巻体1bおよび揺動渦巻体2bのそれぞれの渦巻形状の製図方法について説明する。基礎曲線は、揺動渦巻体2bの外側曲線および固定渦巻体1bの内側曲線を特定するために用いられる。反転曲線31は、揺動渦巻体2bの内側曲線および固定渦巻体1bの外側曲線を特定するために用いられる。以下、詳細に説明する。
図5は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部を構成する渦巻形状の製図方法の説明図である。図5において、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)の手順に製図をする。製図するにあたり、まず、図5(a)に示す通り、基礎円の伸開線である基礎曲線30を描く。ここで、基礎円の基礎円半径a(θ)は、上述したように伸開角θに応じて、π[rad]を1周期とした正弦波状に変化する。
次に、図5(b)に示す通り、手順(a)で描いた基礎曲線30を基礎円中心Oに対してπ[rad]回転させた反転曲線31を描く。次に、図5(c)に示す通り、手順(a)および手順(b)で描いた基礎曲線30および反転曲線31のそれぞれ上に中心を有する、半径がeλの円32を複数描く。ここで、eは揺動渦巻体2bの揺動半径である。λは係数であり、λの範囲は、0<λ<0.5または0.5<λ<1である。λが0.5の場合は円32と、後述の円35の半径とが同じとなり、最終的に製図される固定渦巻体1bの肉厚と揺動渦巻体2bとの肉厚が等しくなることから、λの範囲において0.5は除いている。
次に、図5(d)に示す通り、手順(c)で描いた円群の包絡線を描く。このとき、基礎曲線30上の円群に対する内側包絡線33が揺動渦巻体2bの外側曲線となる。また、反転曲線31上の円群に対する外側包絡線34が揺動渦巻体2bの内側曲線となる。そして、手順(d)のドット領域が揺動渦巻体2bの断面となる。
次に、図5(e)に示す通り、基礎曲線30および反転曲線31上に中心を有し、かつ、半径がe(1-λ)の円35を複数描く。次に、図5(f)に示す通り、手順(e)で描いた円群の包絡線を描く。このとき、基礎曲線30上の円群に対する外側包絡線36が固定渦巻体1bの内側曲線となる。また、反転曲線31上の円群に対する内側包絡線37が固定渦巻体1bの外側曲線となる。そして、手順(f)のハッチング領域が固定渦巻体1bの断面となる。
以上のようにして肉厚が異なる固定渦巻体1bおよび揺動渦巻体2bのそれぞれの渦巻形状を作成できる。なお、図5では、基礎円半径a(θ)を、式(3)においてαの値を0.5、λの値を0.4、Nの値を1とした場合の固定渦巻体1bおよび揺動渦巻体2bの形状を記載している。
ところで、図2において、点線円は、固定台板1aに設けられた過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22を示している。過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22は、圧縮比の小さい部分負荷運転において、圧縮室内部のガス冷媒を圧縮過程の途中で軸方向に排出するために設けられている。このようにガス冷媒を圧縮過程の途中で排出することで、圧縮室71内部での過剰圧縮による損失を低減するようにしている。
これらの過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22は、圧縮室71間の漏れを抑制するために、隣り合う圧縮室71の両方に同時に連通しないように形成する必要がある。このため、過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22のポート径は、渦巻体の肉厚よりも小さく設定する必要がある。一方で、圧縮過程のガス冷媒を効率良く排出するためには、ポート径を大きく設定することが効果的である。このため、過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22のポート径の設計制約が部分負荷運転の性能改善における課題となる。
実施の形態1に記載の渦巻体の渦巻形状では、伸開角が、0[rad]、π[rad]のときの肉厚に比べ、π/2[rad]、3π/2[rad]のときの肉厚が厚い。このように実施の形態1に記載の渦巻体は、肉厚が増減する渦巻形状を有する。このため、揺動渦巻体2bの肉厚が大きくなる部分の、揺動スクロール2の揺動運動に伴う移動軌跡領域内に過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22を設置することで、以下の効果が得られる。すなわち、ポート径を揺動渦巻体2bの肉厚の範囲内で大きく設定しつつ、隣り合う圧縮室71間が過圧縮リリーフポート21および過圧縮リリーフポート22によって連通することを防止できる。これにより、部分負荷運転においてガス冷媒を効率的に排出でき、冷媒の過剰圧縮を抑制できる。その結果、冷媒の過剰圧縮による無駄な電力消費を低減できる。
以上説明したように、本実施の形態1では、渦巻体の渦巻形状を基礎曲線30と反転曲線31とを用いて定義した。基礎曲線30は、伸開角θを用いて上記式(1)および式(2)で定義される。反転曲線31は基礎曲線30を基礎円中心Oに対してπ[rad]回転させた曲線である。そして、式(1)および式(2)における基礎円半径a(θ)を、伸開角θに対してπ[rad]を1周期とした正弦波状または余弦波状に変化する関数とした。
そして、基礎曲線30と反転曲線31のそれぞれの式を用いて、揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの外側曲線および内側曲線を特定する。つまり、揺動渦巻体2bは、基礎曲線30上に中心点を有し、かつ、半径がeλの円群に対する内側包絡線を外側曲線とする。また揺動渦巻体2bは、反転曲線31上に中心点を有し、かつ、半径がeλの円群に対する外側包絡線を内側曲線とする。固定渦巻体1bは、基礎曲線30上に中心点を有し、かつ、半径がe(1-λ)の円群に対する外側包絡線を内側曲線とする。また、固定渦巻体1bは、反転曲線31上に中心点を有し、かつ、半径がe(1-λ)の円群に対する内側包絡線を外側曲線とする。なお、ここでは、揺動渦巻体2bを、半径がeλの円群を用いて作成し、固定渦巻体1bを、半径がe(λ-1)の円群を用いて作成するとしたが、円群を逆としてもよい。
以上により、輪郭が扁平形状である揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの渦巻形状を式を用いて定義できる。この定義には、揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの肉厚を個別に設定できることも含まれる。揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bのそれぞれの肉厚を個別に設定できることで、材質の異なる固定渦巻体1bおよび揺動渦巻体2bにおいて、強度的な過剰設計を回避でき、結果として吸入容積を拡大できる。よって、圧縮機を大型化することなく圧縮機能力を向上することが可能となる。あるいは、同等圧縮機能力での小型化が可能となる。
また、本実施の形態1に記載の渦巻体の渦巻形状では、αを正の値とすることで、π/2および3π/2の回転位相に比べ、0およびπの回転位相の方が渦巻体の曲率を小さく設定している。このため、図2中のπ/2および3π/2の回転位相に比べ、0およびπの回転位相の方が渦巻体の側面における摺動速度を小さく設定することができる。このため、水平方向のガス荷重が大きくなる回転位相では摺動速度を小さく設定し、水平方向のガス荷重が小さくなる回転位相では摺動速度を大きく設定することで、渦巻体の側面におけるPV値を低減できる。PV値とは、荷重と摺動速度の積である。このようにPV値を低減できるため、摺動による摩耗および焼き付きを抑制することができ、信頼性を向上することが可能となる。
実施の形態2.
実施の形態2では、上記式(3)におけるαの値に応じた、渦巻体の輪郭の扁平率の変化について説明する。以下、実施の形態2が実施の形態1と異なる構成を中心に説明するものとし、実施の形態2で説明されない構成は実施の形態1と同様である。
上記式(3)において、αの値を変更した場合の渦巻体の形状について次の図6に記す。
図6は、本発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機における渦巻体の輪郭の扁平率の変化を示す図である。図6において(a)はα=0の場合、(b)はα=0.25の場合、(c)はα=0.5の場合を示している。また、図6ではλの値を実施の形態1と同じ0.4に固定し、Nの値を1に固定している。
図6に示すようにαの値を変更することで、渦巻体の輪郭の扁平率を任意に設定することが可能となる。なお、扁平率とは、図6(a)に示すように長径D1と短径D2との比D1/D2である。よって、図6より、αの値が大きくなるに連れ、扁平率が大きくなる。
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、αの値を変更することで、渦巻体の輪郭の扁平率を任意に設定することが可能となる。よって、台板の形状に合わせてαを変更して渦巻体の輪郭の扁平率を設定することで、渦巻の輪郭の最適化を図り、台板上での渦巻体の実装密度の向上を図ることができる。
実施の形態3.
実施の形態3では、λの値に応じた渦巻体の肉厚の変化について説明する。以下、実施の形態3が実施の形態1と異なる構成を中心に説明するものとし、実施の形態3で説明されない構成は実施の形態1と同様である。
上記式(3)において、λの値を変更した場合の渦巻体の形状について次の図7に記す。
図7は、本発明の実施の形態3に係るスクロール圧縮機における渦巻体の肉厚の変化を示す図である。図7において(a)はλ=0.4の場合、(b)はλ=0.5の場合、(c)はλ=0.6の場合を示している。また、図7ではαの値を実施の形態1と同じ0.5に固定し、Nの値を1に固定している。
図7に示すようにλの値を変更することで、固定渦巻体1bと揺動渦巻体2bとの肉厚の差異を任意に設定することが可能となる。λ=0.5の場合は上述したように固定渦巻体1bと揺動渦巻体2bとの肉厚は同じとなる。λを0.5より小さくするに連れ、揺動渦巻体2bの肉厚が厚くなる一方で、固定渦巻体1bの肉厚が薄くなる。また、λを0.5より大きくするに連れ、肉厚が逆転し、揺動渦巻体2bの肉厚が薄くなる一方で、固定渦巻体1bの肉厚が厚くなる。
以上説明したように、本実施の形態3によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、λの値を変更することで、固定渦巻体1bと揺動渦巻体2bとの肉厚の差異を任意に設定することが可能となる。よって、圧縮機の仕様および運転条件などにより強度的に必要な肉厚に応じてλを設定すればよい。
また、本実施の形態3を実施の形態2と組み合わせることで、渦巻体の輪郭の扁平率と肉厚の差異とを任意に設定できる具体的数式を定義でき、台板上における渦巻体の渦巻形状の設計自由度を向上できる。そして、台板の形状に合わせて渦巻体の輪郭の扁平率を設定すると共に、圧縮機の仕様および運転条件などに応じてλを設定することで、渦巻体の輪郭の最適化による渦巻体の実装密度の向上を図りつつ、吸入容積の拡大も図ることができる。これにより、圧縮機を大型化することなく圧縮機能力を向上することが可能となる。あるいは、同等の圧縮機能力での圧縮機の小型化が可能となる。
実施の形態4.
実施の形態4では、基礎円半径a(θ)の特性に応じた渦巻形状の変化について説明する。以下、実施の形態4が実施の形態1と異なる構成を中心に説明するものとし、実施の形態4で説明されない構成は実施の形態1と同様である。
図8は、本発明の実施の形態4に係るスクロール圧縮機における渦巻体の渦巻形状を特定する基礎円半径a(θ)の特性を示す図である。図8(a)、図8(b)、図8(c)、図8(d)は、順に、上記実施の形態1で示した式(3)と、以下の式(4)~(6)に対応している。図8の縦軸は、基準基礎円半径a0に対するa(θ)の比率を示している。図8の横軸は、伸開角θ[rad]を示している。また、図8において、αの値を0.3、λの0.4、Nの値を1としている。
図8に示す基礎円半径a(θ)の波形においてa(θ)/a0の値が大きい程、渦巻体の肉厚が厚くなることを示す。よって、図8(a)の例で説明すると、π/2、3π/2、5π/2、7π/2において、渦巻体の肉厚が厚くなる。また、基礎円半径a(θ)の波形において、トップピークとボトムピークのうち、トップピークがある伸開角の方向に、渦巻体が引き延ばされた形状となる。よって、図8(a)では、伸開角がπ/2、3π/2、5π/2、7π/2においてトップピークがくるため、図5に示すように横方向に引き延ばされた形状となる。
本実施の形態4によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、a(θ)の関数式を変更することで、固定渦巻体1bおよび揺動渦巻体2bの輪郭を任意に設定することが可能となる。
実施の形態5.
実施の形態5では、基礎円半径a(θ)の特性に応じた渦巻形状の変化について説明する。以下、実施の形態5が実施の形態1と異なる構成を中心に説明するものとし、実施の形態5で説明されない構成は実施の形態1と同様である。
図9は、本発明の実施の形態5に係るスクロール圧縮機における渦巻体の渦巻形状を特定する基礎円半径a(θ)の特性を示す図である。図9の縦軸は、基準基礎円半径a0に対するa(θ)の比率を示している。図9の横軸は、伸開角θ[rad]を示している。図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)は、順に以下の式(7)~(10)に対応している。なお、βは係数であり、正の値をとる。図9では、αの値を0.3、βの値を0.015、λの0.4、Nの値を1としている。
式(7)~(10)は、式(3)~(6)に(1-βθ)を乗算した式となっている。(1-βθ)を乗算することで、式(7)~(10)の基礎円半径を用いて特定される渦巻体の形状は、巻き始めから巻き終わりに向かって、伸開角2π周期の平均肉厚が順に小さくなる形状となる。以下、詳細に説明する。
βは正の値をとるため、伸開角θが大きくなるに連れて(1-βθ)の値が小さくなる。よって、図9に示すように、基礎円半径a(θ)の特性においてπ毎のトップピークのa(θ)/a0の値は、伸開角が進むに連れて小さくなっている。上述したようにa(θ)/a0の値が大きい程、渦巻体の肉厚が厚いことを示すことから、基礎円半径a(θ)が図9のように変化するとき、巻き始めから巻き終わりにかけて、渦巻体の肉厚が伸開角π毎に縮小される形状となる。
図9(a)の例で説明すると、図9(a)で特定される渦巻体は、伸開角がπ/2、3π/2、5π/2、7π/2の位置で順に肉厚が薄くなる形状となる。よって、図9(a)~図9(d)で特定される渦巻体は、伸開角2π周期の平均肉厚でみると、巻き始めから巻き終わりに向かって順に小さくなる形状となる。以上の形状により得られる効果について、以下に説明する。
圧縮機構部8内に形成される圧縮室71間の圧力差は、冷媒が圧縮されて圧力の高くなる中心部、つまり渦巻体の中心部ほど大きくなる。つまり渦巻体の巻き始め部分の方が巻き終わり部分に比べて圧縮室71間の圧力差が大きくなる。したがって、渦巻体の肉厚を設計する際には、渦巻体の中心部で生じる圧力差に耐えられる肉厚に設計する必要がある。ここで、仮に、渦巻体の肉厚を、巻き始めから巻き終わりまで、渦巻体の中心部で生じる圧力差に耐えられる肉厚で一定とした場合、圧縮室71間の圧力差の小さい巻き終わり部近傍では、強度的に過剰設計となる。つまり、渦巻体の肉厚を必要以上に厚く形成することになるため、吸入完了時の圧縮室71の容積である吸入容積を不必要に減少させることになる。
これに対し、本実施の形態5では、式(7)~式(10)のいずれかの関数式を用いることで、巻き始め部から巻き終わり部に向けて、伸開角2π周期の平均肉厚を薄く設定することができる。つまり、作用する圧力差が小さい巻き終わり部付近の渦巻体の肉厚を縮小することが可能となる。よって、巻き終わり部付近の肉厚の過剰設計を回避し、吸入容積を大きく設定することができる。
βは、上述したように正の値をとるものであり、βの値が大きくなるに連れ、渦巻体の巻き始め部から巻き終わり部に向けての肉厚の縮小率が大きくなる。なお、肉厚の縮小率とは、図2に示すように巻き始め部の肉厚W1と巻き終わりの肉厚W2との比W1/W2である。よって、βを適宜設定することで、巻き始め部から巻き終わり部に向けての肉厚の縮小率を任意に設定することができる。このため、圧縮機の仕様および運転条件などに応じてβを設定することで、巻き始め部で必要とされる強度の肉厚を持ちつつ巻き終わりでは肉厚を薄くし、限られたスペース内で吸入容積を大きく確保することが可能な渦巻体を得ることができる。具体的には、βを0以上の値で大きくするに連れ、肉厚の縮小率が大きくなるため、渦巻体の中心部における圧縮室71間の圧力差が大きい場合にはβの値を大きくし、渦巻体の中心部における圧縮室71間の圧力差が小さい場合にはβの値を小さくすればよい。
本実施の形態5によれば、実施の形態1および実施の形態4と同様の効果が得られると共に、βの値を変更することで、巻き始めから巻き終わりに向かって、伸開角2π周期の平均肉厚を順に小さく設定できる。よって、巻き終わり部付近の肉厚の過剰設計を回避し、吸入容積を大きく設定することができる。
また、式(7)~(10)においてαを変更することで渦巻体の輪郭の扁平率を任意に設定でき、また、式(7)~(10)に基づいて渦巻体を製図するにあたり、λを変更することで、揺動渦巻体2bおよび固定渦巻体1bの肉厚の差異を任意に設定できる。
実施の形態1~5においては、密閉容器100の内部が低圧冷媒で満たされる低圧シェル型のスクロール圧縮機について示したが、密閉容器100の内部が高圧冷媒で満たされる高圧シェル型のスクロール圧縮機とした場合でも、同様の効果が得られる。