JP6983077B2 - フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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[1]質量%で、C:0.020〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、N:0.010〜0.050%、B:0.0020〜0.0100%、Al:0〜0.200%、Ti:0〜0.180%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Nb:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%であり、このうちAl:0.050〜0.200%、Ti:0.050〜0.180%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式により定まるγmax値が20.0〜44.0であり、かつ下記(2)式により定まるAr値が870以上である化学組成を有し、下記(A)で定義される{111}コロニーのうち、円相当径が200μm以上である{111}コロニーについての平均円相当径が300μm以下である結晶配向を有し、JIS13B号引張試験片による圧延方向の破断伸び(JIS Z2241:2011)が28.0%以上であるフェライト系ステンレス鋼板。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(1)式および(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
(A)板厚方向(ND)に垂直な板厚1/4位置の断面についてEBSD(電子線後方散乱回折法)により測定された、「フェライト結晶の板厚方向結晶方位が<111>方向から15°以内である領域」を表示するマッピング画像において、その領域の輪郭をたどることによって形成される、当該領域を囲む1つの閉じた輪郭線の内部領域を、1つの「{111}コロニー」と定義する。
[2]下記(B)で定義されるリジング指標Wa×WSm値が8200以下である上記[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(B)長手方向が圧延方向となるように採取されたJIS5号引張試験片を用いて、平行部での伸び率が20%となるまで引張ひずみを付与したのち除荷し、除荷後の試験片平行部に圧延直角方向の測定ラインを5mm間隔で5本定め、JIS B0601:2013に従い、各測定ライン上で基準長さ20mmの表面プロフィールを測定し、カットオフ値λf=8.0mm、λc=0.5mmとして波長成分0.5〜8.0mmのうねり曲線を定め、5本の測定ライン毎に上記うねり曲線から算術平均うねりWa(μm)およびうねり曲線要素の平均長さWSm(μm)を求め、各測定ラインでのWaの加算平均値Wa(AVE)とWSmの加算平均値WSm(AVE)との積、Wa(AVE)×WSm(AVE)を算出する。この試験を3本の試験片について行い、計6個(試験片3本×両面)のWa(AVE)×WSm(AVE)値の加算平均値を、当該鋼板のリジング指標である「Wa×WSm値」とする。
[3]板厚が0.3mm以上2.0mm未満である上記[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4]質量%で、C:0.020〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、N:0.010〜0.050%、B:0.0020〜0.0100%、Al:0〜0.200%、Ti:0〜0.180%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Nb:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%であり、このうちAl:0.050〜0.200%、Ti:0.050〜0.180%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式により定まるγmax値が20.0〜44.0であり、かつ下記(2)式により定まるAr値が870以上である化学組成を有する鋼の鋳片を1050〜1150℃で加熱する工程(鋳片加熱工程工程)、
前記加熱後の鋳片に粗圧延を施す工程(粗圧延工程)、
粗圧延を終えた板材に、各パス間で850℃以上Ar値で表される温度(℃)以下での加熱保持を行う方法で、複数パスによる合計圧下率80%以上の熱間圧延を施す工程(仕上熱延工程)、
冷間圧延と、それに続く焼鈍を1回以上行う工程(冷延−中間焼鈍工程)、
圧延率50%以上の最終的な冷間圧延と、それに続く最終的な焼鈍を行う工程(仕上冷延−仕上焼鈍工程)、
を上記の順に有し、最初の冷間圧延開始直前の板厚から、最終的な冷間圧延終了時の板厚までの合計圧下率を75%以上とする、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(1)式および(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
[5]質量%で、C:0.020〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、N:0.010〜0.050%、B:0.0020〜0.0100%、Al:0〜0.200%、Ti:0〜0.180%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Nb:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%であり、このうちAl:0.050〜0.200%、Ti:0.050〜0.180%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式により定まるγmax値が20.0〜44.0であり、かつ下記(2)式により定まるAr値が870以上である化学組成を有する鋼の鋳片を1050〜1150℃で加熱する工程(鋳片加熱工程)、
前記加熱後の鋳片に粗圧延を施す工程(粗圧延工程)、
粗圧延を終えた板材に、各パス間で850℃以上Ar値+20で表される温度(℃)以下での加熱保持を行う方法で、複数パスによる合計圧下率80%以上の熱間圧延を施す工程(仕上熱延工程)、
前記熱間圧延によって得られた鋼板に、800℃以上Ar値で表される温度(℃)以下の焼鈍を施す工程(熱延板焼鈍工程)、
冷間圧延と、それに続く焼鈍を1回以上行う工程(冷延−中間焼鈍工程)、
圧延率50%以上の最終的な冷間圧延と、それに続く最終的な焼鈍を行う工程(仕上冷延−仕上焼鈍工程)、
を上記の順に有し、最初の冷間圧延開始直前の板厚から、最終的な冷間圧延終了時の板厚までの合計圧下率を75%以上とする、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(1)式および(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
[6]冷延−中間焼鈍工程、仕上冷延−仕上焼鈍工程での各焼鈍を、いずれも加熱温度850〜1000で行う、上記[4]または[5]に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
RT=(h0−h1)/h0×100 …(3)
単に「合計圧下率」と言うときには、途中の圧延パス間での熱履歴は問わない。
一方、冷間圧延における「圧延率」は、圧延パス間での熱処理を伴わない一連の冷間圧延パスによる、上記(3)式の合計圧下率RT(%)を意味する。
本明細書において、鋼の化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、再結晶したフェライト結晶粒で構成されるマトリックス中に炭化物粒子が分散している金属組織を呈する。マトリックスが十分に再結晶していない場合や、マルテンサイト相が残存する場合は、加工性が悪くなる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、表面凹凸(うねり曲線)の高さと波長の両方を加味した厳しい基準で評価される優れた耐リジング性を呈する。前述のように、そのような優れた耐リジング性を呈するためには、フェライト結晶コロニーが十分に分断化されていることに加え、フェライト結晶の<111>方向が板厚方向に近い角度に配向した結晶粒の集団のうち、ある程度サイズの大きいものが、比較的均等なサイズで分布していることが重要であることがわかった。本明細書では、フェライト結晶の<111>方向が板厚方向に近い角度に配向した結晶粒の集団を「{111}コロニー」と呼び、具体的には下記(A)のように定義している。
(A)板厚方向(ND)に垂直な板厚1/4位置の断面についてEBSD(電子線後方散乱回折法)により測定された、「フェライト結晶の板厚方向結晶方位が<111>方向から15°以内である領域」を表示するマッピング画像において、その領域の輪郭をたどることによって形成される、当該領域を囲む1つの閉じた輪郭線の内部領域を、1つの「{111}コロニー」と定義する。
上記「当該領域を囲む1つの閉じた輪郭線」の記載における「当該領域を囲む」とは、閉じた輪郭線に接する<111>領域が、その閉じた輪郭線の内部領域側に存在することを意味する。また、上記の「当該領域を囲む1つの閉じた輪郭線の内部領域」には、往々にして<111>領域以外の領域が存在する。すなわち、{111}コロニーは、その内部に<111>領域以外の領域を含むことがある。その場合、{111}コロニーの内部に存在する「<111>領域以外の領域」も、当該{111}コロニーの一部であるとみなして、当該{111}コロニーの面積を定める。また、上記の輪郭をたどる手法によって画定される、ある{111}コロニーが、同様の手法によって画定される別の{111}コロニーの内部に含まれることとなった場合、内部の{111}コロニーは、それを含む別の{111}コロニーの一部であるとみなし、内部の{111}コロニーの存在については無視する。
(i)「輪郭線に視野境界線を含まない{111}コロニー」は存在するが、その中で最もサイズが大きい{111}コロニーの円相当径が200μm未満である場合。
(ii)「フェライト結晶の板厚方向結晶方位が<111>方向から15°以内である領域」が存在しないこと、またはその面積割合が極めて少ないことに起因して、「輪郭線に視野境界線を含まない{111}コロニー」が全測定視野内に見当たらない場合。
(iii){111}コロニーが粗大であることに起因して、全測定視野内に観測される{111}コロニーの全てが「輪郭線に視野境界線を含む{111}コロニー」である場合。
本発明に従うフェライト系ステンレス鋼板はマトリックスがフェライト再結晶粒からなる金属組織を有し、加工性が良い。具体的には、JIS13B号引張試験片による圧延方向の破断伸び(JIS Z2241:2011)が28.0%以上という、良好な延性を呈する。
本発明に従うフェライト系ステンレス鋼板は、表面凹凸の高さと波長の両方を加味した厳しい基準で評価される優れた耐リジング性を有する。その具体的評価指標として、下記(B)で定義されるリジング指標「Wa×WSm値」を採用することができる。
(B)長手方向が圧延方向となるように採取されたJIS5号引張試験片を用いて、平行部での伸び率が20%となるまで引張ひずみを付与したのち除荷し、除荷後の試験片平行部に圧延直角方向の測定ラインを5mm間隔で5本定め、JIS B0601:2013に従い、各測定ライン上で基準長さ20mmの表面プロフィールを測定し、カットオフ値λf=8.0mm、λc=0.5mmとして波長成分0.5〜8.0mmのうねり曲線を定め、5本の測定ライン毎に上記うねり曲線から算術平均うねりWa(μm)およびうねり曲線要素の平均長さWSm(μm)を求め、各測定ラインでのWaの加算平均値Wa(AVE)とWSmの加算平均値WSm(AVE)との積、Wa(AVE)×WSm(AVE)を算出する。この試験を3本の試験片について行い、計6個(試験片3本×両面)のWa(AVE)×WSm(AVE)値の加算平均値を、当該鋼板のリジング指標である「Wa×WSm値」とする。
本発明に従うフェライト系ステンレス鋼板は、例えば以下のような工程によって製造することができる。
鋳片加熱→熱間圧延→(熱延板焼鈍)→冷間圧延→中間焼鈍→仕上冷間圧延→仕上焼鈍
上記のうち「熱延板焼鈍」の工程は、特に優れた耐リジング性の実現を重視する場合などに選択的に採用することができる。「冷間圧延→中間焼鈍」の工程は必要に応じて複数回行うことができる。なお、上記工程中には「酸洗」の記載を省略しているが、酸洗は常法に従い適宜実施される。以下、上記の各工程について説明する。
熱間圧延前の鋳片加熱は1050〜1150℃の温度範囲で行うことが望ましい。鋳片加熱温度が高すぎると鋳片加熱炉から抽出したときのオーステナイト量が少なくなる。オーステナイト相はフェライト相と比較して硬質であるため、圧延時にはオーステナイト相の量が多いほどフェライト相へのひずみの導入が促進されやすく、フェライト結晶コロニーの消失化に有利となる。したがって、鋳片加熱温度を高くしすぎないことが耐リジング性向上には有利となる。一方、鋳片加熱温度が低すぎると、変形抵抗が大きくなり圧延負荷が増大する。
熱間圧延は、粗圧延機と仕上圧延機を用いて行うことができる。仕上圧延機は、熱延鋼板の最終目標板厚まで圧下することができる熱間圧延機である。以下、粗圧延機で行う熱間圧延を「粗圧延」、仕上圧延機で行う熱間圧延を「仕上熱延」と言う。
粗圧延では、オーステナイト相が十分に存在する状態で圧下を加えることによって、フェライト結晶コロニーの分断化を図る。そのためには、例えば、950〜1050℃の温度範囲で合計圧下率85%以上の粗圧延を施すことが好ましい。鋳片が厚さ100mm以上のスラブであれば、鋳片加熱炉からの抽出温度を1050℃以上とすることによって、上記好ましい条件での粗圧延が可能である。なお、γmax値が低すぎる場合や、鋳片加熱温度が上記より高い場合はオーステナイト相の存在量が少なくなり、フェライト結晶コロニーの分断効果が十分に得られない。
必要に応じて熱延板焼鈍を行うことができる。上述のWa×WSm値が例えば6000以下という非常に優れた耐リジング性を狙う場合は、熱延板焼鈍を行うことが望ましい。長時間のバッチ式焼鈍を行っても構わないが、連続焼鈍酸洗ラインでの短時間の焼鈍でも大きな効果が得られる。バッチ式焼鈍では例えば800℃以上Ar値(℃)で表される温度以下で9〜24時間保持する条件が適用できる。連続焼鈍では例えば800℃以上Ar値(℃)で表される温度以下、より好ましくは850℃以上Ar値(℃)で表される温度以下の範囲に定めた所定温度で0〜60秒保持する条件が適用できる。保持時間0秒とは、所定の温度に到達したのち直ちに冷却するヒートパターンを意味する。上記の熱延手法で得られた熱延鋼板(as hot材)は、既に再結晶したフェライト結晶粒で構成されるマトリックス中に炭化物粒子が分散した金属組織を有しているが、熱延板焼鈍を施すことにより組織の均質化が一層進行し、これが耐リジング性の更なる向上をもたらすものと考えられる。なお、上述したように、仕上熱延でのパス間加熱温度がAr値を少し超える条件で行った熱延鋼板(as hot材)では、ごく僅かにマルテンサイト相が存在していることも考えられる。このようなas hot材であっても、熱延板焼鈍を施すことによってマルテンサイト相を消失させることができ、良好な加工性が得られる。
上記の熱間圧延、あるいはさらに熱延板焼鈍を終えた鋼板に対して、中間焼鈍を挟んだ冷間圧延と、最終的な仕上焼鈍を施し、冷延焼鈍鋼板を得る。ここでは、最終的な仕上焼鈍に供する直前の冷間圧延を「仕上冷間圧延」と呼ぶ。従来から、ステンレス鋼板の製造プロセスでは必要に応じて中間焼鈍を挟んだ冷延工程が採用されることがある。しかし、上述のWa×WSm値が8200以下という厳しい基準での優れた耐リジング性を、優れた加工性(延性)と両立させながら実現するためには、熱間圧延時にオーステナイト相を直接、フェライト相と炭化物へ分解させてしまう上述の熱間圧延手法を採用して熱延鋼板を得たのちに、中間焼鈍を挟んだ冷延工程を適用することが極めて有効となる。「冷間圧延」とその後に行われる「焼鈍」のサイクルを繰り返すことにより、集合組織の発達が抑制され、顕著にランダム化された結晶配向を有する冷延焼鈍鋼板が得られ、上記の優れた耐リジング性が付与される。仕上冷間圧延の前に行う「冷間圧延→中間焼鈍」は、必要に応じて複数回行うことができる。
(冷延工程A)冷間圧延→中間焼鈍→酸洗→仕上冷間圧延→仕上焼鈍→酸洗
(冷延工程B)仕上冷間圧延→仕上焼鈍→酸洗
冷延工程A、Bの種別、冷延工程Aでの中間焼鈍条件、冷延工程A、Bでの仕上冷間圧延率、冷延工程A、Bでの仕上焼鈍条件、および冷延工程A、Bでの最初の冷間圧延開始直前の板厚から仕上冷間圧延終了時の板厚までの合計圧下率を、表2A、表2B中に示してある。
板厚0.7mmの冷延焼鈍鋼板からサンプルを採取し、以下の調査を行った。
L断面について光学顕微鏡観察およびEBSD測定を行い、EBSD測定では前述のように結晶方位差が15°以上である結晶粒界を検出させた。その結果、本発明例の冷延焼鈍鋼板はいずれも、再結晶したフェライト結晶粒で構成されるマトリックス中に炭化物粒子が分散している金属組織を呈していることが確認された。
板厚方向(ND)に垂直な板厚1/4位置の断面について、EBSDにより板厚方向のフェライト結晶方位を測定した。測定面は圧延面をSiCペーパー(JIS R6010:2000に規定される粒度P180、P320、P500およびP1000)で板面から約0.17mm研磨した後バフ研磨仕上げにより平滑に調製した表面とした。無作為に1.5mm×1.5mmの測定視野を5視野選択し、それぞれの視野についてステップサイズ(測定ピッチ)0.5μmで電子線を照射して、001逆極点図に基づくBCC結晶方位マップを作成した。その結晶方位マップから、「フェライト結晶の板厚方向結晶方位が<111>方向から15°以内である領域」を表示するマッピング画像を作成し、前述 (A)の定義に従い{111}コロニーを定め、円相当径が200μm以上である{111}コロニーの平均円相当径を求めた。
各冷延焼鈍鋼板から長手方向が圧延方向となるようにJIS5号引張試験片を採取した。この試験片に平行部での伸び率が20%となるまで引張ひずみを付与したのち除荷し、リジング測定試料とした。リジング測定試料の平行部に、圧延直角方向(すなわち試験片の長手方向に対して直角方向)の測定ラインを5mm間隔で5本定めた。接触式表面粗さ計(東京精密社製;SURFCOM2900DX)を用いて、JIS B0601:2013に従い、各測定ライン上で基準長さ20mmの表面プロフィールを測定し、カットオフ値λf=8.0mm、λc=0.5mmとして、波長成分0.5〜8.0mmのうねり曲線を定めた。λf=8.0mmとすることで板反りに起因するうねり成分を除去している。5本の測定ラインについて上記うねり曲線から算術平均うねりWa(μm)およびうねり曲線要素の平均長さWSm(μm)を求めた。各測定ラインで求めた5個のWaの加算平均値Wa(AVE)と、同じく各測定ラインで求めた5個のWSmの加算平均値WSm(AVE)との積、Wa(AVE)×WSm(AVE)を当該測定面におけるリジング指標値とした。同様の操作を、同じリジング測定試料の反対側の表面(前記測定面の裏側表面)についても実施し、反対側測定面におけるリジング指標値を求めた。リジング測定試料は各冷延焼鈍鋼板につき3本用意し、それぞれの試料の両面について上記リジング指標値の算出を実施した。このようにして、各冷延焼鈍鋼板につき計6個(試験片3本×両面)のリジング指標値を求めた。そして、上記6個のリジング指標値を加算平均することにより、当該冷延焼鈍鋼板のリジング指標値を定めた。以下、このようにして求めたリジング指標値を本明細書では「Wa×WSm値」と呼んでいる。発明者らの検討によれば、うねりの高さと波長の両方を加味した上記Wa×WSm値が12000以下であれば、多くの加工製品で意匠性の高い平滑な表面外観を得るに足る良好な耐リジング性を呈すると評価することができる。ただし、本発明では、従来安定して製造することが困難であった、Wa×WSm値が8200以下となる優れた耐リジング性を有するフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目指している。したがって、ここではWa×WSm値が8200以下のものを合格と判定した。なかでも、Wa×WSm値が6000以下のものは非常に優れた耐リジング性を有すると評価できる。結果を表2A、表2Bに示す。表2A、表2Bには、Wa×WSm値が6000以下のものに◎、6000を超え8200以下のものに○、それ以外に×を付記した。
各冷延焼鈍鋼板からJIS13B号引張試験片を採取し、JIS Z2241:2011に従い圧延方向の引張試験を行い、破断後の試験片から破断伸び(%)を測定した。破断伸びが28%以上であるものを○(延性;良好)、それ以外を×(延性;不良)と判定した。結果を表2A、表2Bに示す。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.020〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、N:0.010〜0.050%、B:0.0020〜0.0100%、Al:0〜0.200%、Ti:0〜0.180%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Nb:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%であり、このうちAl:0.050〜0.200%、Ti:0.050〜0.180%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式により定まるγmax値が20.0〜44.0であり、かつ下記(2)式により定まるAr値が870以上である化学組成を有し、下記(A)で定義される{111}コロニーのうち、円相当径が200μm以上である{111}コロニーについての平均円相当径が300μm以下である結晶配向を有し、JIS13B号引張試験片による圧延方向の破断伸び(JIS Z2241:2011)が28.0%以上であるフェライト系ステンレス鋼板。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(1)式および(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
(A)板厚方向(ND)に垂直な板厚1/4位置の断面についてEBSD(電子線後方散乱回折法)により測定された、「フェライト結晶の板厚方向結晶方位が<111>方向から15°以内である領域」を表示するマッピング画像において、その領域の輪郭をたどることによって形成される、当該領域を囲む1つの閉じた輪郭線の内部領域を、1つの「{111}コロニー」と定義する。 - 下記(B)で定義されるリジング指標Wa×WSm値が8200以下である請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(B)長手方向が圧延方向となるように採取されたJIS5号引張試験片を用いて、平行部での伸び率が20%となるまで引張ひずみを付与したのち除荷し、除荷後の試験片平行部に圧延直角方向の測定ラインを5mm間隔で5本定め、JIS B0601:2013に従い、各測定ライン上で基準長さ20mmの表面プロフィールを測定し、カットオフ値λf=8.0mm、λc=0.5mmとして波長成分0.5〜8.0mmのうねり曲線を定め、5本の測定ライン毎に上記うねり曲線から算術平均うねりWa(μm)およびうねり曲線要素の平均長さWSm(μm)を求め、各測定ラインでのWaの加算平均値Wa(AVE)とWSmの加算平均値WSm(AVE)との積、Wa(AVE)×WSm(AVE)を算出する。この試験を3本の試験片について行い、計6個(試験片3本×両面)のWa(AVE)×WSm(AVE)値の加算平均値を、当該鋼板のリジング指標である「Wa×WSm値」とする。 - 板厚が0.3mm以上2.0mm未満である請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 質量%で、C:0.020〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、N:0.010〜0.050%、B:0.0020〜0.0100%、Al:0〜0.200%、Ti:0〜0.180%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Nb:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%であり、このうちAl:0.050〜0.200%、Ti:0.050〜0.180%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式により定まるγmax値が20.0〜44.0であり、かつ下記(2)式により定まるAr値が870以上である化学組成を有する鋼の鋳片を1050〜1150℃で加熱する工程(鋳片加熱工程工程)、
前記加熱後の鋳片に粗圧延を施す工程(粗圧延工程)、
粗圧延を終えた板材に、各パス間で850℃以上Ar値で表される温度(℃)以下での加熱保持を行う方法で、複数パスによる合計圧下率80%以上の熱間圧延を施す工程(仕上熱延工程)、
冷間圧延と、それに続く焼鈍を1回以上行う工程(冷延−中間焼鈍工程)、
圧延率50%以上の最終的な冷間圧延と、それに続く最終的な焼鈍を行う工程(仕上冷延−仕上焼鈍工程)、
を上記の順に有し、最初の冷間圧延開始直前の板厚から、最終的な冷間圧延終了時の板厚までの合計圧下率を75%以上とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(1)式および(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。 - 質量%で、C:0.020〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、N:0.010〜0.050%、B:0.0020〜0.0100%、Al:0〜0.200%、Ti:0〜0.180%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Nb:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%であり、このうちAl:0.050〜0.200%、Ti:0.050〜0.180%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式により定まるγmax値が20.0〜44.0であり、かつ下記(2)式により定まるAr値が870以上である化学組成を有する鋼の鋳片を1050〜1150℃で加熱する工程(鋳片加熱工程)、
前記加熱後の鋳片に粗圧延を施す工程(粗圧延工程)、
粗圧延を終えた板材に、各パス間で850℃以上Ar値+20で表される温度(℃)以下での加熱保持を行う方法で、複数パスによる合計圧下率80%以上の熱間圧延を施す工程(仕上熱延工程)、
前記熱間圧延によって得られた鋼板に、800℃以上Ar値で表される温度(℃)以下の焼鈍を施す工程(熱延板焼鈍工程)、
冷間圧延と、それに続く焼鈍を1回以上行う工程(冷延−中間焼鈍工程)、
圧延率50%以上の最終的な冷間圧延と、それに続く最終的な焼鈍を行う工程(仕上冷延−仕上焼鈍工程)、
を上記の順に有し、最初の冷間圧延開始直前の板厚から、最終的な冷間圧延終了時の板厚までの合計圧下率を75%以上とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−52Al+470N+189 …(1)
Ar=−250C+73Si−66Mn−115Ni+35Cr+60Mo−18Cu+620Ti+750Al−280N+310 …(2)
ここで、(1)式および(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。 - 冷延−中間焼鈍工程、仕上冷延−仕上焼鈍工程での各焼鈍を、いずれも加熱温度850〜1000℃で行う、請求項4または5に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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