以下に、本発明にかかる高炉の銑鉄切断方法の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1及び図2に示すように、高炉1の炉体2内部には、基礎部分3上の耐火レンガ4で取り囲まれて、銑鉄5が残留する。本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法は、この銑鉄5を高炉1内から搬出可能な塊状物に切断するために用いられる。
切断にあたり、本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法では、銑鉄5に、その上面5aから下方の耐火レンガ4まで達するように上下方向縦向きに貫通する貫通孔7x,7yを連続的に形成し、これら連続する貫通孔7x,7yによって銑鉄5を直線状や折れ線状、曲線状にラインカットするようになっている。
本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法を説明するにあたり、まず、貫通孔7x,7yを形成するために使用される装置・機器について説明する。高炉1の炉体2内部には、図示しない開口部から、銑鉄5の上面5a上に、削孔機11及びコアボーリング機31が搬入される。
削孔機11は図3に示すように、銑鉄5の上面5a上を自在に走行移動されるクローラ9に設けられた起伏式の作業用アーム10に搭載される。本実施形態に用いられる削孔機11には、後述するアンカー部8が備えられる。アンカー部8を有する削孔機11は、銑鉄5に貫通孔7xを形成する際に、起伏操作される作業用アーム10によって、銑鉄上面5aに向けて下向きにセットされる。削孔機11に関し、下向きにセットされた状態で、以下説明する。
削孔機11は、上下方向縦向きに長く形成され、作業用アーム10に取り付けられた基台12と、基台12に、上下方向へ移動自在に搭載された回転駆動部13と、基台12に設けられ、回転駆動部13を銑鉄5に対して前後進させるために、当該回転駆動部13を上下方向へ直線往復移動させる移動機構14と、回転駆動部13に着脱自在にかつ下方へ向けて設けられ、回転駆動部13で回転駆動される削孔ロッド15と、削孔ロッド15の下部先端に設けられ、銑鉄5に貫通孔7xを形成するために、削孔ロッド15を介して回転駆動部13により回転駆動される削孔ビット16とを備えて構成される。削孔ビット16は、穴掘り形式で貫通孔7xを形成するドリル形態で形成される。
走行移動されるクローラ9が貫通孔形成位置で停止されると、削孔機11は、削孔ビット16が銑鉄5の上面5aに向くように、作業用アーム10によって下向きにセットされる。削孔ビット16が設けられた削孔ロッド15を回転駆動部13で回転駆動しつつ、当該回転駆動部13が移動機構14により基台12に沿って銑鉄5の上面5aへ向けて前進される。回転駆動部13の前進により削孔ロッド15が下方へ向けて移動され、回転駆動部13で削孔ビット16が回転されることにより、銑鉄5に削孔が形成されていく。
回転駆動部13が基台12の下端に達したときには、回転駆動部13が停止され、当該回転駆動部13と削孔ロッド15の連結が切り離される。次いで、回転駆動部13が移動機構14により基台12の上端側へ後退され、後退された回転駆動部13と切り離された削孔ロッド15との間に、追加の削孔ロッドが継ぎ足される。
その後、回転駆動部13による削孔ロッド15の回転駆動と移動機構14による回転駆動部13の前進が再開され、削孔ビット16による削孔の形成が継続される。このようにして、削孔ロッド15を回転駆動しつつ銑鉄5へ向けて前進させ、削孔ビット16により銑鉄5を貫通する貫通孔7xが形成されるまで、削孔作業が行われる。
削孔機11には、削孔ロッド15と隣り合う位置にアンカー部8が一体的に設けられる。アンカー部8は、基台12に取付固定される取付ブラケット17と、取付ブラケット17に着脱自在に設けられ、貫通孔7xの内部に挿抜自在に挿入するために、基台12からこれよりも下方へ向けて垂下される軸体18と、軸体18に設けられ、当該軸体18を貫通孔7xに離脱可能に定着させる定着手段19とを備えて構成される。
基台12に対し取付ブラケット17で一定の高さ位置に保持される軸体18と、回転駆動部13の前進で基台12よりも下方へ向けて移動されて高さ位置が変化する削孔ビット16との高さ位置関係について、削孔作業前は、削孔ビット16が軸体18の下端の高さ位置よりも高く、削孔作業の進捗に従う回転駆動部13の前進で削孔ビット16が下降していって、削孔作業途中で、反対に軸体18の下端が削孔ビット16の高さ位置よりも高くなるように設定される。
削孔作業開始前において、削孔ビット16よりも軸体18の下端がより下方に突出される関係であるため、軸体18は、少なくとも一つの貫通孔7xが形成された後に、取付ブラケット17に取り付けられる。すなわち、アンカー部8、少なくともその軸体18を削孔機11に装着する前に、削孔機11により先行して貫通孔7xを形成するようにし、この先行形成した貫通孔7xに、作業用アーム10の操作で当該軸体18が挿入される。
そして、当該貫通孔7xに軸体18が挿入され、後述する定着手段19で貫通孔7xに定着されたならば、その挿入状態で削孔ビット16の下降を伴う削孔作業が行われる。なお、貫通孔7xへの軸体18の挿入操作については、作業用アーム10の先端部に、基台12の傾きや高さを調節する機構を設けるようにしてもよい。
軸体18の外径寸法は、貫通孔7xに挿抜可能な寸法に設定される。削孔機11に一体的に設けられるアンカー部8の軸体18と、削孔機11に備えられる削孔ロッド15とは、互いに間隔を隔てて平行に配置され、先行形成された貫通孔7xに削孔作業前に挿入される軸体18によって、削孔作業を行う際の削孔ロッド15の位置が位置決めされる。すなわち、軸体18により、削孔機11で形成される新たな貫通孔7xの形成位置が位置決めされる。また、軸体18により、新たな貫通孔7xを形成する削孔ロッド15の前進が案内されるようになっている。
軸体18と削孔ロッド15との横向き水平方向の間隔は、コアボーリング機31の、後述するコアビット32の口径以下の間隔に設定される。これにより、削孔機11で形成される貫通孔7xとコアボーリング機31で切削されて形成される貫通孔7yとが一部重なり合い、この重なり合いで貫通孔7x,7y同士が横方向に連通されて、これら貫通孔7x,7yの連続性が確保される。
作業用アーム10によって貫通孔7xへ挿入される軸体18の挿入深さ、すなわち、軸体18の下端から銑鉄上面5aまでの寸法Pは、図4に示すように、当該軸体18に設けられる定着手段19が貫通孔7xの内部に納まるように設定される。
本実施形態にあっては、定着手段19は、軸体18の下方部分に備えられるジャッキ20で構成される。ジャッキ20は、軸体18内部に収納された油圧ユニット部20aと、油圧ユニット部20aに設けられ、軸体18周りの1個所に横向きに向けて形成された穴21を介して、貫通孔7x内部の周壁7aに向けて軸体18の径方向外方へ進退自在に進出されるラム20bとから構成される。
ラム20bは、油圧ユニット部20aで駆動されて進出されると、周壁7aに圧接され、この圧接による反力で、穴21とは反対側で、軸体18の周面を周壁7aに圧着させる。軸体18には、穴21の反対側に位置させて、凹凸加工され大きな硬度を有する超高合金製のグリッパー50が設けられ、このグリッパー50が貫通孔7x内部の周壁7aに、摩滅が抑制されつつ大きな摩擦力で定着される。ラム20bは、油圧ユニット部20aで駆動されて後退されると、グリッパー50と共に、軸体18を貫通孔7x内部の周壁7aから離脱させる。
図示例では、ジャッキ20は、軸体18の軸方向、すなわち貫通孔7xの深さ方向に上下に2台設けられていて、これらジャッキ20のラム20bは軸体18の径方向の同一方向に進退されるようになっている。このように、2台以上複数台のジャッキ20を備えることにより、軸体18は長い距離にわたり、貫通孔7xに安定して定着される。図4(B)は、グリッパー50を一つ設けた場合、図4(C)は、グリッパー50を、軸体18周りに間隔を隔てて2つ設けた場合を示している。
軸体18が定着手段19で貫通孔7x内部の周壁7aに定着されることにより、削孔ビット16で銑鉄5に貫通孔7xを形成するときに、削孔ロッド15を介して銑鉄5から削孔機11に伝達される削孔反力が、削孔機11から軸体18の定着手段19を介して銑鉄5に伝達され支持される。また、この定着作用により、削孔作業にあたり、削孔ロッド15が安定して下向き下方に案内される。油圧ユニット部20aへの油圧供給は、軸体18の内部を通じて、削孔機11側から行っても、あるいは別途独立した油圧供給系を設けて行うようにしてもよい。
削孔反力を銑鉄5に支持させるアンカー部8は、軸体18とジャッキ20などの定着手段19とで構成して、削孔機11に一体的に設けるだけであって、構造が簡単であると同時に、削孔機11を銑鉄5に対し適切かつ確実に固定的に設置することができる。
削孔機11には図3に示すように、その基台12から垂下され、作業用アーム10の操作によって銑鉄5の上面5aに接離自在に押し当てられて、削孔反力の主に水平方向の振れ動きを銑鉄5に伝達する押圧部材22が設けられる。すなわち、本実施形態では、アンカー部8に加えてさらに、貫通孔形成時に銑鉄5から削孔ロッド15を介して削孔機11に伝達される削孔反力が当該押圧部材22によっても銑鉄5で支持されるようになっている。
押圧部材22は図示例では、銑鉄5の上面5aに押し当てられる先端が刃状に形成された板状部材で形成される。押圧部材22は、アンカー部8と共に、あるいは軸体18が貫通孔7xに挿入されない貫通孔形成時に、使用される。押圧部材22は、アンカー部8の取付ブラケット17等に設けるようにしてもよい。
押圧部材22は、削孔機11またはアンカー部8に単に取り付けられ、作業用アーム10の操作で単に銑鉄5の上面5aに押し当てるだけであって、簡単な構造で的確に削孔反力を銑鉄5に支持させて、削孔機11等の振れ動きを抑制することができる。
図5には、軸体18に設けられる定着手段19の他の例が示されている。この定着手段19では、軸体18が中空筒体状に形成されると共に、軸体18に、貫通孔7x内部の周壁7aに向けて膨出自在な弾性体25aを備えて、膨出される弾性体25aが周壁7aに圧接される圧接手段25と、軸体18内を軸方向にスライド自在に貫通して貫通孔7x内部に突出され、スライド操作されて圧接手段25の弾性体25aを膨出させる操作手段としての操作ロッド26とから構成される。
圧接手段25の弾性体25aは、通孔25bを有する中空円筒体状に形成され、その上面が、軸体18を貫通する操作ロッド26に接合されかつ銑鉄5の上面5aに設置される環状プレート25cに当接される。また、弾性体25aの下面には、リングプレート52が設けられ、このリングプレート52にナット体25dが当接される。操作ロッド26は、軸体18の下端から通孔25bを介してナット体25dと螺合される。
操作ロッド26が上方へスライド操作されると、弾性体25aがリングプレート52と環状プレート25cとの間で圧縮され、これにより弾性体25aがその径方向外方へ膨出されて貫通孔7xの周壁7aに圧接され、これにより定着作用が得られるようになっている。弾性体25aの定着作用が得られたら、操作ロッド26に設けてある締め込みナット51を回して、当該操作ロッド26に沿って下降して環状プレート25cの上面に螺着させ押し付けることで、弾性体25aの膨出状態を保持する。殊に、弾性体25aはその弾性により貫通孔7xの周壁7aの凹凸を吸収できるので、周壁7aに密着させることができる。また、環状プレート25cに対する締め込みナット51の螺着を解除して、操作ロッド26が下方へスライド操作されることで、弾性体25aが復原されて周壁7aから離脱され、これにより定着作用が解除されるようになっている。
図6には、軸体18に設けられる定着手段19のさらに他の例が示されている。この定着手段19では、軸体18が中空筒体状に形成されると共に、軸体18に、貫通孔7x内部の周壁7aに向けて拡開自在に設けられ、拡開されて周壁7aに圧接される圧接手段23と、軸体18内を軸方向にスライド自在に貫通して貫通孔7x内部に突出され、スライド操作されて圧接手段23を拡開させる操作手段24とから構成される。
圧接手段23は、軸体18の下方であって、貫通孔7xの周方向に間隔を隔てて配列され、それぞれ貫通孔7x内部の周壁7aに向けて揺動自在に支持された複数の揺動ブロック23aから構成される。揺動ブロック23aは、操作手段24の操作ロッド24aに設けられかつ銑鉄5の上面5aに設置される環状プレート25cに取り付けて設けられる。また、操作手段24は、貫通孔7x内部へ達する操作ロッド24aと、上端が小径で下端が大径なコーン状に形成されて操作ロッド24aの下端に設けられ、配列された揺動ブロック23aに取り囲まれて配置されるコーン部材24bとから構成される。
操作ロッド24aが上方へスライド操作されると、コーン部材24bが上昇して各揺動ブロック23aを貫通孔7xの周壁7aに向けて揺動させることにより、圧接手段23全体としては拡開されて周壁7aに圧接されることとなり、これにより定着作用が得られるようになっている。揺動ブロック23aの定着作用が得られたら、操作ロッド24aに設けてある締め込みナット51を回して、当該操作ロッド24aに沿って下降して環状プレート25cの上面に螺着させ押し付けることで、揺動ブロック23aの拡開状態を保持する。また、環状プレート25cに対する締め込みナット51の螺着を解除して、操作ロッド24aが下方へスライド操作されることで、揺動ブロック23aが周壁7aから離脱され、これにより定着作用が解除されるようになっている。
これら図5及び図6に示した定着手段19の場合、図4に示した定着手段19とは異なり、軸体18を貫通孔7xの中心に位置付けることができ、アンカー部8の隣接位置で削孔機11により削孔される貫通孔7xの位置精度をさらに高めることができる。
次に、コアボーリング機31について説明すると、図7に示すように、コアボーリング機31は、削孔機11と同様に、銑鉄5の上面5a上を自在に走行する走行体33に搭載される。
コアボーリング機31は主に、走行体33上に上下方向縦向きに立設された支持ポスト34と、支持ポスト34に上下方向ヘスライド移動自在に設けられたアーム部35と、アーム部35に内蔵して当該アーム部35と支持ポスト34の間に設けられ、アーム部35に設けられた操作ハンドル36の回動操作で支持ポスト34の高さ方向に沿ってアーム部35を銑鉄5に対して前進させるために、当該アーム部35を上下方向へ直線往復スライド移動させる、例えばラックアンドピニオン機構などの操作力伝達機構(図示せず)と、アーム部35上に搭載されたモータ部37と、モータ部37から垂下され、アーム部35を介してその下方へ突出されたモータ駆動軸38と、モータ駆動軸38に着脱自在にかつ下方へ向けて設けられ、モータ部37で回転駆動される中空円筒体状のコアチューブ39と、コアチューブ39の下部先端に設けられ、銑鉄5に環状の切削溝を切削して貫通孔7yが形成されるように、コアチューブ39を介してモータ部37により回転駆動されるコアビット32とを備えて構成される。
コアビット32は、円形に溝掘りする形式で切削溝、ひいては貫通孔7yを形成するために、コアチューブ39の周方向に沿う円形の刃形態で形成される。
走行移動される走行体33が貫通孔形成位置で停止されると、コアボーリング機31は、コアビット32が銑鉄5の上面5aに面するようにセットされる。コアビット32が設けられたコアチューブ39をモータ部37で回転駆動しつつ、モータ部37を搭載するアーム部35が、操作ハンドル36により、操作力伝達機構を介して支持ポスト34に沿って銑鉄5の上面5aへ向けて前進される。アーム部35の前進によりコアチューブ39が下方へ向けて移動され、モータ部37でコアビット32が回転されることにより、銑鉄5に切削溝が形成されていく。
アーム部35が支持ポスト34の下端に達したときには、モータ部37が停止され、モータ駆動軸38とコアチューブ39の連結が切り離される。次いで、アーム部35が操作ハンドル36の操作で支持ポスト34の上端側へ後退され、後退されたモータ部37と切り離されたコアチューブ39との間に、追加のコアチューブが継ぎ足される。
その後、モータ部37によるコアチューブ39の回転駆動とアーム部35の前進が再開され、コアビット32による切削溝の形成が継続される。このようにして、コアチューブ39を回転駆動しつつ銑鉄5へ向けて前進させ、コアビット32により銑鉄5を貫通する切削溝が形成されるまで、削孔作業が行われる。
コアボーリング機31については、図8に示すように、走行体33に搭載することなく、銑鉄5の上面5aにアンカーボルト41で固設したベース42上に支持ポスト34を設けて、固定して設置するようにしても良い。
図9は、コアボーリング機31のさらに他の変形例を示す側面図である。この変形例でも、図8の例と同様にコアボーリング機31を搭載する走行体33が省略され、コアボーリング機31の支持ポスト34そのものの直下に、コアチューブ39から間隔を隔てて、アンカー部8が一体的に設けられている。
具体的には、支持ポスト34の下方部分が、貫通孔7に挿入される挿入体18として利用されている。定着手段19としては、ジャッキ20を用いた場合が示されている。
このような変形例であっても、コアチューブ39を介してコアボーリング機31に伝達されるスラストやトルクなどの削孔反力を、アンカー部8によって銑鉄5に伝達して支持させることができ、コアボーリング機31を銑鉄5に対し、固定して設置することができる。
図10は、削孔機11の削孔ビット16及びコアボーリング機31のコアビット32について説明する説明図である。図10(A)には、削孔ビット16の側面と切削断面が示され、図10(B)には、コアチューブ39下端のコアビット32の側面と切削断面が示されている。
削孔機11の削孔ビット16は、図10(A)に示すように、穴掘りする形式の例えば超硬チップを使用した残銑削孔用ビットであるのに対し、コアボーリング機31のコアビット32は、図10(B)に示すように、円形に溝掘りする形式の円形の刃形態である。
削孔ビット16が銑鉄5を切削する切削面積Sは、削孔ビット16の外径Jが2R(R:半径)であるとして、その断面積(πR2 )となる。これに対し、コアビット32が銑鉄5を切削する切削面積Tは、コアビット32の口径(外径)Wが削孔ビット16の外径と同じ(W=2R)であるとして、その周長に刃の厚さtを乗じたものとなる。この結果、コアビット32の切削面積Tはほぼ2πRtとなり、削孔ビット16による切削面積Sは、コアビット32による切削面積TのR/(2t)倍となる。
例えば、上記Rの値が20mmである場合、切削ビット16の切削面積Sは、400πであるのに対し、コアビット32の切削面積Tは、刃の厚さがt=1mmの場合、40πであって、同じ孔径の貫通孔を形成する場合、削孔ビット16の方がコアビット32よりも、切削に要する仕事量がR/2倍大きい。
表現を代えると、一回の削孔作業でより大きな貫通孔を形成するために、削孔ビット16の外径Jを2倍にすると、切削面積Sが4倍となるのに対し、コアビット32の口径(外径)Wを2倍にしても、切削面積Tは2倍になるに過ぎない。
このため、貫通孔を形成する際、コアボーリング機31の方が削孔機11よりも、効率は若干劣るけれども、必要動力が小さくて済み、装置も小型化することができる。他方、コアボーリング機31では、切断した残銑とは別にコア体40の搬出を行う必要があるけれども、削孔機11では、そのような処理が不要である。
コア体40の搬出は、例えば、(1)アンカー部8を挿入する貫通孔の場合は、アンカー部8の設置前に、(2)残銑の切断や搬出の障害になる場合は、それらの作業前に、さらに、(3)これ以外の場合は、残銑を切断して搬出した後に行えばよい。
このような削孔機11の利点・欠点と、コアボーリング機31の利点・欠点の知見からして、コアビット32の口径Wを削孔ビット16の外径Jよりも大きくする(W>J)ことが好ましい。そして、貫通孔7x,7y同士を重ね合わせることで連続的な貫通孔を形成するにあたり、図11に示すように、コアビット32の口径W以下の間隔Zを空けて穴掘りする形式で削孔ビット16により貫通孔7xを形成し、その後に、銑鉄5を貫通したこれら貫通孔7xの間に、コア体40が残る溝掘りをする形式でコアビット32により貫通孔7yを形成することが好ましい。
次に、本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法について説明する。高炉1の炉体2内部に残留する銑鉄5を切断する際には、図1及び図2に示すように、クローラ9に搭載した削孔機11及び走行体33に搭載したコアボーリング機31を銑鉄5の上面5a上に搬入する。切断作業に際しては、削孔機11及びコアボーリング機31を複数台用いることが効率的である。
大きな動力を要する削孔機11の方がコアボーリング機31よりも大型になるため、複数台の削孔機11とコアボーリング機31を用いる場合、小動力で小型で済むコアボーリング機31を、削孔機11よりも多く用いることで、狭い炉体2内にこれら削孔機11やコアボーリング機31を適切に配備することができ、円滑に銑鉄5を切断することができる。
本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法は図11に示すように、要するに、削孔機11による貫通孔7xとコアボーリング機31による貫通孔7yとを交互に配列して、かつ隣接するこれら貫通孔7x,7y同士を互いに連通させて形成する切断工程を含むようにする。
すなわち、まず、削孔機11により、先行して、ある程度の数の貫通孔7xを形成し、その後、貫通孔7xを継続して形成しつつ、後追いで、コアボーリング機31により、貫通孔7xの間に貫通孔7yを形成していく。コアボーリング機31の方が削孔機11よりも効率が低くても、多数のコアボーリング機31で同時に多数の貫通孔7yを形成することができるので、削孔ビット16による複数の貫通孔7xの形成を先行しておくようにする。理想的には、コアボーリング機31と削孔機11とが並行して作業を行い、コアボーリング機31が追い付く直前に全工程を完了する。
これにより、交互に配列される貫通孔7x及び貫通孔7yにより、銑鉄5をラインカットすることができる。この際、図11に矢印Qで示すように、ラインカットの形態は、隣接する貫通孔7x,7y同士に角度を付けることで、直線状に限ることなく、折れ線状や曲線状の形態としてもよい。
本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法をさらに詳述すると、上記切断工程は、コアビット32の口径W以下の間隔Zを隔てて、対をなす貫通孔7xを削孔機11で削孔する第1穿孔工程と、対をなす貫通孔7xの間に、これら貫通孔7xと連通する一つの貫通孔7yをコアボーリング機31で形成するコアボーリング工程と、既に穿孔形成されたいずれかの貫通孔7xからコアビット32の口径W以下の間隔Zを隔てて、当該貫通孔7xと対をなす他の貫通孔7xを削孔機11で削孔する第2穿孔工程とを備えて、第2穿孔工程が完了したらコアボーリング工程を開始することを繰り返すようにして行われる。
まず、第1穿孔工程では、連続的に形成されて銑鉄5をラインカットする貫通孔7のうち、最初の貫通孔7xを、アンカー部8の軸体18を挿入するための貫通孔7xとして、削孔機11により先行して形成する。削孔機11で削孔する際には常に、押圧部材22を銑鉄5の上面5aに押し当てることで、削孔反力を銑鉄5に伝達して支持させることができ、削孔機11により、曲がりのない貫通孔7xを高い削孔スピードで形成することができる。
次いで、削孔機11に、取付ブラケット17を介して、定着手段19を備えた軸体18を一体的に設ける。そして、作業用アーム10により、軸体18を先行形成された貫通孔7xに挿入する。貫通孔7xに挿入された軸体18の定着手段19により貫通孔7内部の周壁7aに軸体18を定着させる。
軸体18の貫通孔7xへの挿入深さは、表面付近の残留する銑鉄5には不純物が多く脆いので、ある程度深く設定される。挿入深さは、先行形成する際の反力や切り屑から判定可能であるので、手間がかかることなく、容易かつ短時間でアンカー部8の設置を完了することができる。
軸体18が貫通孔7xに定着されることにより、削孔機11、ひいてはこれを搭載するクローラ9を銑鉄5に対し、固定して設置することができる。また、アンカー部8により、コアビット32の口径W以下の間隔Zを隔てた位置に形成する、先行形成された貫通孔7xと対をなす貫通孔7xの位置を位置決めすることができる。さらに、この対をなす貫通孔7xの形成にあたり、削孔ロッド16の前進を案内することができる。このとき、押圧部材22も銑鉄5の上面5aに押し当てられる。
この際、軸体18が、銑鉄上面5aよりも下方の貫通孔7x内部に定着されている一方、削孔ビット16は、銑鉄上面5aよりも上方に位置されている。軸体18を貫通孔7x内部に定着させたら、対となる貫通孔7xを形成するために、削孔ビット16による削孔作業を開始する。削孔作業は、削孔機11の回転駆動部13で削孔ロッド15を介して削孔ビット16を回転駆動しつつ、移動機構14で回転駆動部13を銑鉄5に向けて前進させることで行う。
削孔ビット16で銑鉄5に、対となる貫通孔7xを形成していくとき、削孔ロッド15を介して削孔機11に伝達されるスラストやトルクなどの削孔反力は、アンカー部8により、すなわち定着手段19で貫通孔7に定着された軸体18により、銑鉄5に伝達されて支持される。
このようにアンカー部8により、削孔反力を銑鉄5に伝達して支持させるようにしたので、削孔機11、そしてまたこれを備えるクローラ9に生じる振れ動きを抑制することができ、またクローラ9の姿勢が傾くことを防止することができる。
また、軸体18は、削孔ロッド15から、貫通孔ほぼ一つ分となるコアビット32の口径W以下の間隔Zを隔てて配置されるので、削孔反力が生じる位置(削孔ロッド15)とこの削孔反力に抗する定着位置(軸体18)との距離が短く、クローラ9を含む削孔機11側に作用する応力負担を軽減できて、効率良く安定的に削孔反力に抗することができる。削孔機11及びクローラ9の振れ動きは、押圧部材22によっても抑制することができる。
従って、削孔機11で形成される貫通孔7xを位置精度高く、かつ孔曲がりが生じることなく形成できると同時に、高い削孔スピードで作業を行うことができて、貫通孔7xを安定的かつ効率的に形成することができる。また、安定的に貫通孔7xを形成できることにより、連設する貫通孔7x,……を正確な位置に形成でき、コアボーリング機31と共に貫通孔7x,7yを連続的に形成するにあたり、貫通孔7x,7y同士の重なり合いの量を僅かとして、貫通孔7x,7yの形成個数を減少させることができ、施工効率を向上することができる。
次に、コアボーリング工程では、コアボーリング機31のコアビット32により、削孔機11で形成された対をなす貫通孔7xの間に、貫通孔7yを形成する。コアビット32による切削作業は、コアボーリング機31のモータ部37でコアチューブ39を介してコアビット32を回転駆動しつつ、操作ハンドル36で操作されるアーム部35でモータ部37を銑鉄5に向けて前進させることで行う。
コアビット32で銑鉄5を切削していくときには、コアボーリング機31が小動力で銑鉄5を切削できるので、切削作業で生じる反力も小さく、また、コアチューブ39内に残るコア体40が内側から当該コアチューブ39を支持するので、コアボーリング機31で形成される貫通孔7yは位置精度高く、かつ孔曲がりが生じることなく形成でき、貫通孔7yを安定的かつ効率的に形成することができる。
また、安定的に貫通孔7yを形成できることにより、連設する貫通孔7y,……を正確な位置に形成でき、コアボーリング機31によっても、貫通孔7x,7y同士の重なり合いの量を僅かとして、施工効率を向上することができる。
特に、コアビット32の口径Wを、削孔ビット16の外径Jよりも大きくすることで、削孔機11で形成する貫通孔7xの個数を低減することができる。削孔機11は、コアボーリング機31に比し大動力を要し、用いる装置が大型になるので、コアボーリング機31を多数使用することによって、削孔機11による貫通孔7xの個数を低減できることで、高い施工効率で銑鉄5をラインカットすることができる。なお、コアボーリング機31に、削孔機11に備えたと同様のアンカー部8を設けてもよい(図9参照)。この場合、コアボーリング工程の最初に、第2穿孔工程と同様の工程が実施される。
次に、第2穿孔工程では、それ以前に削孔機11で形成された貫通孔7xのうち、いずれかの貫通孔7xに対し、これと対をなす他の貫通孔7xを、コアビット32で切削する貫通孔7y位置を空けた状態で、上述したアンカー部8を利用した削孔機11の削孔ビット16で削孔する。すなわち、既に形成された貫通孔7xに軸体18を挿入して、新しく貫通孔7xを形成する。
そして、常に対をなす削孔機11で形成される貫通孔7xの間に、後追いでコアボーリング機31により貫通孔7yを形成する手順となるように、第2穿孔工程が完了したらコアボーリング工程を開始することを繰り返すようになっている。
削孔機11については、貫通孔7xが新設される度に、アンカー部8の軸体18を定着させる貫通孔7xをずらし、削孔機11で新たな貫通孔7xの形成を継続するようにし、コアボーリング機31については、貫通孔7xが対をなして形成される度に、その位置へ移動して、コアビットで32新たな貫通孔7yの形成を継続するようにすることで、銑鉄5を貫通する貫通孔7x,7yを連続的に形成して、銑鉄5をラインカットすることができる。この際、コアボーリング機31で形成される貫通孔7y内にコア体40が残存していても、銑鉄5は完全にラインカットされている。
貫通孔7y内に残存するコア体40は必要に応じて、貫通孔7yから抜き出される。抜き出しは、コア体40の上端に吊り具を溶接し、当該吊り具を介して重機でコア体40を吊り上げるなどの方法で行うことができる。
以上説明したように、本実施形態に係る高炉の銑鉄切断方法にあっては、削孔機11だけで施工する場合やコアボーリング機31だけで施工する場合に比して、コア体40が残存することなく貫通孔7xを形成できる削孔機11の削孔ビット16と、小型小動力で短時間に切削を完了できるコアボーリング機31のコアビット32とによって貫通孔7x,7yを連続形成することができ、効率的に銑鉄5をラインカットすることができる。
削孔機11を主体的に使用し、コアボーリング機31を補助的に使用する銑鉄切断方法であり、削孔機11では削孔しにくい箇所は、コアボーリング機31を使用することができる。例えば、貫通孔同士の間隔が5mm程度であり、削孔ビットで削孔しにくい場合、コアボーリング機31を使用することができる。また、銑鉄表面付近ではラップしていても、途中から離れてしまっている貫通孔について、残っている部分をコアボーリング機31で削孔することができる。さらに、炉の外周など、削孔機11を設置できない位置でも、コアボーリング機31であれば、削孔することができる。
本発明は、上述した実施形態に具体的に記載した内容に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。例えば、押圧部材22は設けなくてもよい。また、アンカー部8の軸体18は、削孔ロッド15から貫通孔7xの孔径以上離して配置されても、例えば、軸体18と削孔ロッド15が貫通孔7x,7yを2つもしくは3つ跨ぐような間隔を隔てて配置されてもよく、当該間隔を調節可能としてもよい。