JP6978874B2 - D−アミノ酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、D-アミノ酸の製造方法に関する。
近年、ヒトを含めた高等動物においてD-アミノ酸の存在とその様々な作用が明らかにされつつある。例えば、D-セリンは中枢神経系、特に記憶学習などの高次機能を担う大脳皮質、短期記憶や感情コントロールを担う海馬で豊富に存在し、興奮性の神経伝達を担うグルタミン酸受容体の一つ、N-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン受容体(N-methyl-D-Aspartate receptor :NMDAR)の調節因子として機能する。こうした生理機能により、D-セリンは記憶形成や情動反応に影響すると考えられている。
またD-アスパラギン酸は、ヒト真皮線維芽細胞において過酸化水素により惹起される酸化毒性を軽減しうることが報告されている。真皮におけるアスパラギン酸のうち、D-アスパラギン酸は2%を占め、加齢に伴い減少していくことが示されている。加齢による減少は他にもD-セリン、D-グルタミン酸についても認められる。さらに、D-アラニンについては表皮角化細胞のラミニン332の産生を促進することも報告されており、様々なD-アミノ酸の皮膚恒常性維持への寄与が示唆されている。
一方、同一のアミノ酸種であったとしても、D-アミノ酸はL-アミノ酸とは異なった特徴ある風味を呈することも着目されている。
食酢や生もと造りの日本酒、チーズ、ヨーグルトなどの発酵食品は全アミノ酸中、D-アミノ酸を比較的豊富な割合で含むことが知られているが、発酵食品中のD-アミノ酸の絶対量は微量であり、発酵食品から抽出によりD-アミノ酸を製造することは効率的ではない。
特許文献1〜5は乳酸菌又は乳酸菌由来酵素を用いたD-アミノ酸の製造方法を開示している。しかし特許文献1〜5ではD-アミノ酸を十分高い濃度で得られていない。また特許文献1の方法では乳酸菌由来酵素液を使用してL-アミノ酸からD-アミノ酸に変換するが、手間やコストが多くかかる。特許文献5では特許文献2〜4よりも高濃度でD-アミノ酸を産生しているが、数ヶ月に及ぶ製造工程を終えた後の結果であり、D-アミノ酸の製造という目的には適していない。
特許文献6は、炭酸カルシウムをはじめとする特定の成分を含む液体培地を用いて乳酸菌を撹拌培養することにより、乳酸菌の菌数を増加させる方法を開示している。しかし特許文献6は、炭酸カルシウムを公知の液体培地に添加して回分培養を行っても菌数の増加はわずかであり、炭酸カルシウムには菌数や乳酸濃度を増大させる効果は認められなかったことを開示している。特許文献6はD-アミノ酸の製造については記載していない。
特開平2−171195号公報 特開2015−47120号公報 特開2015−47121号公報 特開2015−47114号公報 特開2014−207891号公報 特開2004−57020号公報
本発明は、D-アミノ酸、例えばD-アスパラギン酸を、乳酸菌を用いて効率よく生産する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスを始めとするラクトバチルス属菌を、増殖後に比較的高い温度でインキュベートすることにより、得られるラクトバチルス属菌培養物(発酵物)中のD-アミノ酸含量が増加すること、また脂肪酸エステルの存在下ではD-アミノ酸含量が特に顕著に増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] ラクトバチルス属菌を培地で培養し増殖させた後、44℃以上の温度でインキュベーションしてD-アミノ酸の生成を促進し、D-アミノ酸を含む発酵物を調製することを含む、D-アミノ酸の製造方法。
[2] 44℃以上の温度が、44℃〜50℃である、上記[1]に記載の方法。
[3] 前記インキュベーションを、脂肪酸エステルの存在下で行う、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 脂肪酸エステルがグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、上記[3]に記載の方法。
[5] 脂肪酸エステルが炭素数8〜18の脂肪酸部分を含む、上記[3]又は[4]に記載の方法。
[6] 脂肪酸エステルが、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸デカグリセリン、カプリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリン、ラウリン酸デカグリセリン、ミリスチン酸デカグリセリン、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、及びショ糖オレイン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、上記[3]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 培地がL-アミノ酸又はその塩を含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] ラクトバチルス属菌を、アルカリを用いて培地のpHを制御しながら培養し増殖させる、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9] アルカリが、炭酸カルシウム又は炭酸カリウムである、上記[8]に記載の方法。
[10] ラクトバチルス属菌がラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)からなる群から選択される、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11] ラクトバチルス属菌がラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1247株(受託番号NITE BP-01814)又はラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1255株(受託番号NITE BP-76)である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記発酵物を乾燥させることをさらに含む、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 前記発酵物からD-アミノ酸を回収することをさらに含む、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記アミノ酸がアスパラギン酸を含む、上記[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 上記[1]〜[14]のいずれかに記載の方法によりD-アミノ酸を製造し、食品に添加することを含む、D-アミノ酸強化食品の製造方法。
本発明によれば、D-アミノ酸を効率よく製造することができる。
図1はOLL1255株発酵液を各種脂肪酸エステルで処理した後の、発酵液中のD-アスパラギン酸含量を示すグラフである。左から、対照(脂肪酸エステル無添加)、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸デカグリセリン、カプリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリン、ラウリン酸デカグリセリン、ショ糖ラウリン酸エステル、ミリスチン酸デカグリセリン、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、及びショ糖オレイン酸エステルを添加した発酵液のD-アスパラギン酸濃度を示す。 図2はラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤を中和剤として使用した場合の、OLL1255株発酵液のD-アスパラギン酸含量(濃度)を示すグラフである。白抜き丸は炭酸カリウム、黒塗り丸は炭酸カルシウム製剤(ラウリン酸ペンタグリセリンを含む)を示す。 図3はラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤を中和剤として使用した場合の、「明治ブルガリアヨーグルト」から単離したラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス菌の発酵液のD-アスパラギン酸含量(濃度)を示すグラフである。白抜き丸は炭酸カリウム、黒塗り丸は炭酸カルシウム製剤(ラウリン酸ペンタグリセリンを含む)を示す。 図4はOLL1255株発酵液粉末及び「明治ブルガリアヨーグルト」から単離したラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス菌の発酵液粉末の45℃で1ヶ月保存後の粉末性状を示す写真である。AはOLL1255株発酵液粉末(左が比較試料1、右が試験試料1)、Bは「明治ブルガリアヨーグルト」から単離した乳酸菌(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス菌)の発酵液粉末(左が比較試料2、右が試験試料2)を示す。 図5はOLL1255株発酵液粉末及び「明治ブルガリアヨーグルト」から単離した乳酸菌(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス菌)の発酵液粉末の45℃で1ヶ月保存後のD-アスパラギン酸残存性を示すグラフである。最も左のバーから順に、炭酸カリウムを培養時に使用して得たOLL1255株発酵液粉末、炭酸カルシウム製剤を培養時に使用して得たOLL1255株発酵液粉末、炭酸カリウムを培養時に使用して得たブルガリアヨーグルト由来乳酸菌発酵液粉末、炭酸カルシウム製剤を培養時に使用して得た「明治ブルガリアヨーグルト」由来乳酸菌発酵液粉末を示す。 図6はラクトバチルス・ヘルベティカスJCM 1120T株の発酵液を各種脂肪酸エステルで処理した後の発酵液中のD-アスパラギン酸含量を示すグラフである。 図7はラクトバチルス・ファーメンタムJCM 1173T株の発酵液をカプリル酸モノグリセリドで処理した後の発酵液中のD-アスパラギン酸含量を示すグラフである。 図8はラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスMEP201603株を増殖させた後に異なる温度で培養して得られた発酵液中のD-アスパラギン酸含量を示すグラフである。白抜き丸、白抜き三角、白抜きひし形はそれぞれ37℃、41℃、45℃でインキュベートした試料を示す。 図9はラウリン酸ペンタグリセリンを含む培地でラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスMEP201603株を増殖させた後に温度を上げて培養して得られた発酵液中のD-アスパラギン酸含量を示すグラフである。白抜き丸は対照、黒塗り丸は0.2%ラウリン酸ペンタグリセリン含有培地を用いて得られた試料を示す。 図10はラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスMEP201603株を増殖させた後にラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤等を加え、温度を上げて培養して得られた発酵液中のD-アスパラギン酸含量を示すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ラクトバチルス属菌を用いて、D-アミノ酸を含む発酵物(fermentation culture)を調製することを含む、D-アミノ酸の製造方法に関する。本発明では、ラクトバチルス属菌の培養物をアミノ酸のラセミ化促進に適した温度に曝すことにより、非処理の対照と比較してD-アミノ酸含量が増加した発酵物を調製することができる。好ましい実施形態では、本発明では、ラクトバチルス属菌を、増殖に適した温度での培養(第1工程)とその後のアミノ酸のラセミ化促進に適した温度でのインキュベーション(第2工程)を含む二段階培養により、培養物中に生成されるD-アミノ酸の量を増加させることができる。より具体的には、本発明は、ラクトバチルス属菌を培地で培養し増殖させた後、44℃以上の温度でインキュベーションしてD-アミノ酸の生成を促進し、D-アミノ酸を含む発酵物を調製することを含む、D-アミノ酸の製造方法を提供する。この方法により、得られる発酵物中でL-アミノ酸がD-アミノ酸に変換されラセミ化を促進することができると考えられる。本発明では、さらに、脂肪酸エステルを使用することにより、ラクトバチルス属菌の発酵物中に生成されるD-アミノ酸の量をさらに増加させることができる。
本発明の方法で用いるラクトバチルス属菌は、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する乳酸菌である。本発明では、1つの種又は菌株のラクトバチルス属菌を用いてもよいし、2つ以上の種又は菌株のラクトバチルス属菌を組み合わせて用いてもよい。本発明の方法で用いるラクトバチルス属菌の例としては、以下に限定されないが、例えば高温性乳酸菌(至適生育温度:35℃〜50℃)が挙げられる。本発明の方法で用いるラクトバチルス属菌は、以下に限定されるものではないが、好ましくはラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、又はラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)である。これらのうち1つの種の菌を使用してもよいし、2つ又は3つの種の菌を組み合わせて用いてもよい。本発明の方法で用いるラクトバチルス属菌は、特に好ましくはラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)である。本発明の方法で用いるラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)菌株の特に好ましい例は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株及びOLL1255株である。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株は、D-アミノ酸の製造に特に適している。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2014年3月6日付で受託番号NITE BP-01814としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1255株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2005年2月10日付で受託番号NITE BP-76としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。なおこの寄託株は2009年4月1日(移管日)に国内寄託(原寄託)からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
またラクトバチルス・ヘルベティカス菌株の好ましい例として、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM 1120T株が挙げられる。JCM 1120T株は、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(RIKEN BRC-JCM、日本)より、JCM番号1120Tに基づいて入手することができる。
ラクトバチルス・ファーメンタム菌株の好ましい例として、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum) JCM 1173T株が挙げられる。JCM 1173T株は、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(RIKEN BRC-JCM、日本)より、JCM番号1173Tに基づいて入手することができる。
本発明の方法では、まず、ラクトバチルス属菌を培養し、増殖させることが好ましい。
ラクトバチルス属菌の培養に使用する培地は、ラクトバチルス属菌の乳酸発酵に適した任意の培地であってよい。培地は好ましくは液体培地であるが、それに限定されない。培地は、炭素源の他、一般的には窒素源、ミネラル等を含む。培地は、通常は、炭素源として糖質又は糖質材料を含む。本発明に関して、糖質は、糖類(単糖又は二糖)、多糖類、及び糖アルコールを包含する。例えば、糖質として、乳糖、ショ糖、グルコース、デンプン、オリゴ糖、キシリトール等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明において糖質材料は、糖質を含む有機物を意味し、以下に限定するものではないが、例えば、乳及びその加工品(脱脂粉乳、ホエイ、ミルクパウダー、練乳など)、豆乳及びその加工品(豆乳加水分解物など)、穀類、果実、野菜等が挙げられる。乳はウシ、ヤギ、ヒツジ、水牛、ラクダ、ラマ、ロバ、ヤク、ウマ、トナカイ等の任意の哺乳動物に由来するものであってよい。なお「糖質」は単離又は精製された化合物に限定されない。例えば、乳(糖質材料)を含む培地は、乳糖(糖質)を含むことになる。
窒素源としては、任意の無機窒素源又は有機窒素源を使用することができ、以下に限定するものではないが、例えば、酵母エキス(例えば、ビール酵母エキス)、肉エキス、カゼイン等のタンパク質、ペプトン等のタンパク質加水分解物、ペプチド、アンモニウム塩、硝酸塩等が挙げられる。
ミネラルとしては、以下に限定するものではないが、マンガン、亜鉛、鉄、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム、カルシウム、リン、イオウ、微量元素等が挙げられる。
上記培地は、ビタミン(ビタミンB群など)、エキス類等の成分を含んでもよい。
上記培地は、L-アミノ酸又はその塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の任意の塩)を含むことも好ましい。L-アミノ酸は、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、又はL-バリンでありうるが、これらに限定されない。上記培地は、製造目的のD-アミノ酸のエナンチオマーであるL-アミノ酸又はその塩を含むことが好ましい。上記培地は、製造目的のD-アミノ酸のエナンチオマーであるL-アミノ酸又はその塩を終濃度で0.01wt%以上、好ましくは0.01wt%〜10wt%、より好ましくは0.1 wt%〜5wt%、例えば0.3 wt%〜2wt%含み得るが、L-アミノ酸又はその塩の濃度範囲はこれらに限定されない。
なお本明細書において培地の成分についての単位wt%は質量%(培地100g当たりの成分のg数)を意味する。L-アミノ酸又はその塩は、培養開始前に事前に培地に添加してもよいし、培養開始後、発酵進行に伴って培地に添加してもよい。あるいはL-アミノ酸又はその塩は、インキュベーションの開始前又は開始と同時に培養物(培地)に添加してもよいし、インキュベーションの開始後に添加してもよい。
ラクトバチルス属菌は、公知の培養条件に基づいて培養することができる。ラクトバチルス属菌は、以下に限定するものではないが、生育温度範囲内で、典型的には、20℃〜50℃で培養することができる。本発明においてラクトバチルス属菌は、液体培地で培養することが好ましい。ラクトバチルス属菌は対数増殖期又は定常期まで増殖させることが好ましく、対数増殖期後期又は定常期まで増殖させることがより好ましく、定常期まで増殖させることがさらに好ましい。本発明において対数増殖期後期とは、時間に対して生菌数の対数をプロットした増殖曲線において、対数増殖期の直線部の中央に当たる時点より後の対数増殖期を指す。増殖のための培養時間は適宜設定すればよいが、典型的には10時間以上、好ましくは10〜100時間、例えば10〜60時間、12〜60時間、10〜48時間、12〜48時間、16〜48時間、12〜24時間、14〜24時間又は16〜24時間とすることができる。
ラクトバチルス属菌を始めとする乳酸菌は、培養(発酵)時に乳酸を産生するため、発酵進行に伴い、培地のpHが低下し、多くの場合は最終的に増殖阻害が生じる。そのため本発明の方法では、ラクトバチルス属菌を培養し増殖させる際、アルカリを用いて培地のpHを制御してもよい。アルカリを中和剤(pH中和剤)として用いることにより、生成される乳酸による培地のpH低下を抑制することができる。好ましい実施形態では、アルカリを用いて培地のpHを、使用するラクトバチルス属菌の培養に適した範囲内、典型的にはpH3.5〜6.5、好ましくはpH4.7〜6.5又はpH5.0〜6.0、例えばpH5.0〜5.5、pH5.2〜pH5.4、pH5.5〜pH6.5、又はpH5.7〜pH6.0に制御(調整)しながら、ラクトバチルス属菌を増殖させることができる。
培地に添加するアルカリは、ラクトバチルス属菌の増殖を阻害しない限り任意のアルカリであってよいが、好ましくは弱酸と強塩基の塩である。弱酸としては炭酸、酢酸等が挙げられる。アルカリは、弱酸のカルシウム塩又はカリウム塩であってよい。アルカリは、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩であってもよい。アルカリの好ましい例は、炭酸カルシウム又は炭酸カリウムである。1種又は2種以上のアルカリを使用することができる。
本発明では、上記のようにしてラクトバチルス属菌を培養し増殖させた後、得られた培養物(増殖したラクトバチルス属菌)を、アミノ酸のラセミ化に適した温度、特に44℃以上の温度で、インキュベーション(インキュベート)することが好ましい。本発明では、ラクトバチルス属菌を2段階の温度(より低温+より高温)を用いて培養してもよく、例えば、ラクトバチルス属菌を培養によって十分に増殖させた後、より高い44℃以上の温度で培養してもよく、44℃以上の温度でのそのような培養工程も本発明のインキュベーション工程に含まれる。44℃以上の温度でのインキュベーションは、以下に限定するものではないが、2時間以上、典型的には10〜100時間、好ましくは16〜60時間、例えば20〜48時間行うことができる。
例えば、ラクトバチルス属菌を、それぞれの増殖に適した温度、好ましくは20〜50℃、例えば24〜43℃、34.5〜43.5℃、35〜40℃、20〜35℃、36〜38℃、又は37℃で上記のように培養し増殖させる。増殖させたラクトバチルス属菌を、さらに、アミノ酸のラセミ化に適した温度でインキュベーションする。ラクトバチルス属菌(培養物)は、増殖培養時よりも高い温度(増殖時の温度と比較して、典型的には1℃以上、好ましくは2℃以上、例えば10℃以上高い温度)でインキュベーションしてもよい。増殖させたラクトバチルス属菌(培養物)のインキュベーションの温度は、44℃以上であり、好ましくは44〜50℃、より好ましくは44〜47℃、例えば44〜46℃又は44.5〜45.5℃であってよい。培養は嫌気条件下で行うことが好ましい。嫌気条件下での培養は、窒素ガス、炭酸ガス等の嫌気ガスを培養系に通気しながら行うことができる。
ラクトバチルス属菌は、培養し増殖させた直後に44℃以上の温度でインキュベートしてもよいし、あるいは、培養により増殖させた後、0〜15℃に冷却するなどにより一旦発酵を停止させ、一定時間保管した後に44℃以上の温度でインキュベートしてもよい。増殖後の44℃以上の温度でのインキュベーションは、培地のpH制御を行うことなく実施してもよい。
本発明では、以上のようなラクトバチルス属菌の増殖及びアミノ酸のラセミ化に適した44℃以上の温度でのインキュベーションにより、培養物におけるD-アミノ酸の生成を促進することができる。したがって本発明は、ラクトバチルス属菌を培養し増殖させた後、44℃以上の温度でインキュベートし、それにより培養物中のD-アミノ酸の生成を促進する方法も提供する。本発明では、以上のようにして、D-アミノ酸含量が増加した発酵物を調製することができる。本発明によれば、L-アミノ酸のD-アミノ酸への変換を促進することにより、D-アミノ酸の生成を促進できると考えられる。
本発明では、脂肪酸エステルを使用することにより、D-アミノ酸の生成をさらに促進することができる。より具体的には、増殖させたラクトバチルス属菌(培養物)のインキュベーションを、脂肪酸エステルの存在下で行うことにより、D-アミノ酸の生成をさらに促進することができる。脂肪酸エステルは、培地中に含まれることが好ましい。一実施形態では、前記インキュベーションを脂肪酸エステルの存在下で行う目的で、ラクトバチルス属菌を培養し増殖する際に脂肪酸エステルを含む培地を用いてもよい。別の実施形態では、前記インキュベーションを脂肪酸エステルの存在下で行う目的で、増殖させたラクトバチルス属菌を44℃以上の温度でインキュベートする際に、培養物(培地)に脂肪酸エステルを添加してもよい。脂肪酸エステルは、ラクトバチルス属菌の培養開始前に事前に培地に添加してもよいし、培養開始後、発酵進行に伴って培地に添加してもよい。インキュベーションの開始前又は開始と同時に培養物(培地)に脂肪酸エステルを添加してもよいし、インキュベーションの開始後に培養物(培地)に脂肪酸エステルを添加してもよい。ラクトバチルス属菌を、脂肪酸エステルの存在下でインキュベーションすることにより、D-アミノ酸の生成をさらに促進することができる。脂肪酸エステルは、アルカリと共に培地に添加してもよい。
脂肪酸エステルは、以下に限定するものではないが、脂肪酸エステルの終濃度で0.001 wt%以上、好ましくは0.01wt%〜20wt%、例えば0.01wt%〜10wt%、0.05wt%〜10wt%又は0.1wt%〜0.5wt%、より好ましくは0.2wt/%〜0.3wt%となるように培地(又は培養物)に添加してもよい。
脂肪酸エステルの存在下で、44℃以上、好ましくは44〜50℃、より好ましくは44〜47℃、例えば44〜46℃又は44.5〜45.5℃で2時間以上、典型的には10〜100時間、好ましくは16〜60時間、例えば20〜48時間反応させることにより、L-アミノ酸のD-アミノ酸への変換(ラセミ化)が促進される。
脂肪酸エステルを使用する方法により、D-アミノ酸の生成がさらに促進され、D-アミノ酸をより多く含有する発酵物(典型的には、発酵液)を調製することができる。ここでD-アミノ酸の生成のさらなる促進は、脂肪酸エステルを使用しないこと以外は同じ条件で試験した場合と比較して発酵物中のD-アミノ酸の濃度が増加(好ましくは統計学的に有意に増加)したことを意味し、典型的には例えば1.5倍以上に増加する場合を含む。
本発明で使用する脂肪酸エステルは、特に限定するものではないが、食品添加物として利用できるものであることが好ましい。本発明で使用する脂肪酸エステルとしては、以下に限定されないが、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明で使用する脂肪酸エステルは、より好ましい例では、グリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである。本発明では脂肪酸エステルを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸モノグリセリド(モノグリセリン脂肪酸エステル)、又は脂肪酸ジグリセリドや脂肪酸トリグリセリド等のポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンはジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等であってよい。
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸部分は、任意の脂肪酸であってよい。好ましい例では脂肪酸エステルは炭素数8〜18の脂肪酸部分、例えば炭素数8〜12又は炭素数12〜16の脂肪酸部分を含む。脂肪酸エステルを構成する脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ネルボン酸等が挙げられる。
好ましい実施形態では、脂肪酸エステルとして、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸デカグリセリン、カプリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリン、ラウリン酸デカグリセリン、ミリスチン酸デカグリセリン、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、及びショ糖オレイン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つを使用することができる。
本発明の方法において生成が促進されるD-アミノ酸は、D-アラニン(Ala)、D-アルギニン(Arg)、D-アスパラギン(Asn)、D-アスパラギン酸(Asp)、D-システイン(Cys)、D-グルタミン(Gln)、D-グルタミン酸(Glu)、D-ヒスチジン(His)、D-イソロイシン(Ile)、D-ロイシン(Leu)、D-リシン(Lys)、D-メチオニン(Mat)、D-フェニルアラニン(Phe)、D-プロリン(Pro)、D-セリン(Ser)、D-トレオニン(Thr)、D-トリプトファン(Trp)、D-チロシン(Tyr)、及びD-バリン(Val)からなる群より選択される少なくとも1つであってよい。本発明の方法は、D-アスパラギン酸を少なくとも含むD-アミノ酸の生成を促進するものであってもよい。一実施形態では、本発明の方法により、D-アスパラギン酸に加え、D-グルタミン酸、D-セリン及びD-アラニンを含むD-アミノ酸の生成を促進させることができる。本発明の方法によれば、D-アミノ酸を高効率に生産することができる。
本発明の方法では、以上のようにしてD-アミノ酸を含む発酵物を調製し、取得することができる。好ましい実施形態では、D-アミノ酸を含む発酵物は、以下に限定するものではないが、D-アミノ酸を1mM以上、好ましくは1.5mM以上、より好ましくは2mM以上(上限は特に限定されないが、例えば100mM以下又は50mM以下)の濃度で含むことができる。
得られた発酵物中のD-アミノ酸の濃度は、常法により測定することができる。本明細書で言及する、発酵物中のD-アミノ酸の濃度は、Carrez試薬により発酵物の除タンパク処理を行い、それを遠心し、得られた上清と四ホウ酸ナトリウム溶液とを混合した後、オルトフタルアルデヒド(OPA)及びN-アセチル-L-システイン(NAC)を添加してD-アミノ酸及びL-アミノ酸を蛍光誘導体化し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるピーク分離及び340nmの励起波長による蛍光波長450nmを蛍光検出器により検出することにより得られた測定値を基準とする。
本発明の方法は、上記のようにして得られたD-アミノ酸を含む発酵物を乾燥させることを含んでもよい。乾燥は、凍結乾燥、風乾、真空乾燥、真空凍結乾燥、加熱乾燥等の任意の乾燥法を用いて行うことができる。また、乾燥後又は乾燥処理と同時に、乾燥物を粉末化、顆粒化、成形、カプセル封入等の方法により任意の形態に調製してもよい。
特にアルカリとして炭酸カルシウムなどのカルシウム塩を使用する場合には、発酵物を乾燥させた場合の保存性が、例えば炭酸カリウムを使用した場合と比較して、顕著に向上する。具体的には、例えば、炭酸カルシウムを使用して調製した発酵物を乾燥粉末にした場合、45℃で1ヶ月保存後の粉末性状に大きな変化は認められず、固結や褐変が抑制され、また保存後のD-アミノ酸残存率も、炭酸カリウムを使用した場合と比較して大きく改善される。したがって、本発明において炭酸カルシウムを使用する場合、得られた発酵物を保存用に乾燥することも好ましい。得られた乾燥発酵物は高い保存安定性を示し、D-アミノ酸の低減(減衰)も抑制することができる。したがってこのような乾燥発酵物は高い保存性が要求されるサプリメント製品等に配合する上で、非常に有用である。
本発明では、高いD-アミノ酸含量の発酵物を調製することができる。本発明の方法では、そのような発酵物をそのままD-アミノ酸高含有物質として使用してもよいし、乾燥、凍結、凍結乾燥、殺菌、濃縮等の処理を行ってその処理物をD-アミノ酸高含有物質として使用してもよい。本発明の方法により得られるD-アミノ酸を含む発酵物は、D-アミノ酸の供給源として用いることができる。具体的には、D-アミノ酸を食品、飼料、香料等の任意の組成物に配合する場合に、本発明の発酵物を、D-アミノ酸の供給源としてそれらの組成物に添加することができる。あるいは、本発明の発酵物は、D-アミノ酸を抽出するための原料として用いることもできる。
本発明の方法は、そのような発酵物から、D-アミノ酸又はD-アミノ酸を含む画分を回収することを含んでもよい。発酵物からのD-アミノ酸又はD-アミノ酸を含む画分の回収は、D-アミノ酸の任意の分離精製法により行えばよく、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー技術、塩析、溶媒沈殿等を用いて行うことができる。D-アミノ酸又はD-アミノ酸を含む画分の回収には、光学異性体を分離可能な技法を用いてもよい。発酵物からD-アミノ酸又はD-アミノ酸を含む画分を回収する際、発酵物からラクトバチルス属菌を除去する工程を行ってもよいし、行わなくてもよい。D-アミノ酸を含む画分は、ラクトバチルス属菌を含んでもよいし、含まなくてもよい。発酵物からのラクトバチルス属菌の除去は、膜ろ過や遠心分離を用いて行うことができる。
以上のようにして得られた発酵物やその処理物、回収したD-アミノ酸若しくはD-アミノ酸を含む画分は、食品、食品添加物、医薬品(例えば、内服薬等の経口製剤や、皮膚外用剤等の非経口製剤)、医薬部外品、化粧料、飼料等の製造に使用することができる。本発明の方法で得られたD-アミノ酸を高含有する発酵物等を使用することにより、D-アミノ酸を高濃度で含む、食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品、化粧料、飼料等を容易に製造することができる。D-アミノ酸を含有するそのような食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品、化粧料、飼料等は、D-アミノ酸補充用に好適に用いることができ、例えば、D-アミノ酸の摂取量が不足しているか又はD-アミノ酸の補充が望まれる対象におけるD-アミノ酸補充用に用いることができる。対象は哺乳動物が好ましく、例えば、ヒト、チンパンジー、ゴリラ等の霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ロバ等のペット又は家畜、マウス、ラット、ハムスター等の実験動物であってよい。
本発明において「食品」は、飲料であってもよいしその他の食品であってもよい。飲料としては、以下に限定するものではないが、発酵乳(ドリンクヨーグルト等)、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳等)、茶系飲料(緑茶、紅茶及び烏龍茶等)、果物・野菜系飲料(オレンジ、りんご、ぶどう等の果汁、トマト、ニンジン等の野菜汁を含む飲料)、アルコール性飲料(ビール、発泡酒、ワイン等)、炭酸飲料、清涼飲料、水ベースの飲料等の飲料が挙げられる。飲料以外の食品としては、以下に限定するものではないが、発酵乳(セットタイプヨーグルト、ソフトヨーグルト等)、菓子、インスタント食品、調味料等の加工食品が挙げられる。各種の食品の製造法等については、既存の参考書を参考にすることができる。
本発明において食品は、機能性食品であってもよい。本発明において「機能性食品」は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能食品を含む保健機能食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤などの各種剤形のもの)及び美容食品(例えばダイエット食品)などのいわゆる健康食品全般を包含する。本発明の機能性食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含する。
本発明の機能性食品は、病者用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品、介護用食品等の特別用途食品であってもよい。
本発明は、本発明の方法によりD-アミノ酸を製造し、食品に添加することを含む、D-アミノ酸強化食品の製造方法も提供する。一実施形態では、D-アミノ酸は、本発明の方法により調製された発酵物やその処理物、回収したD-アミノ酸又はD-アミノ酸を含む画分の形態で、食品に添加することができる。D-アミノ酸は食品製造の任意の段階で添加し得る。本発明において「D-アミノ酸強化食品」とは、D-アミノ酸を添加しない同種の食品と比較して、D-アミノ酸含量を増加させた食品を意味する。一実施形態では、D-アミノ酸強化食品は機能性食品であり、D-アミノ酸補充用に用いることができる。同様に、本発明は、D-アミノ酸を飼料に添加することを含む、D-アミノ酸強化飼料の製造方法も提供する。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<分析法>
以下の実施例において、発酵液中のアミノ酸の定量は、発酵液に添加したCarrez試薬により発酵液の除タンパク処理を行い、それを遠心し、得られた上清と四ホウ酸ナトリウム溶液とを混合した後、オルトフタルアルデヒド(o-phthalaldehyde; OPA)及びN-アセチル-L-システイン(NAC)を添加してD-アミノ酸及びL-アミノ酸を蛍光誘導体化し、高速液相クロマトグラフィー(HPLC)によるピーク分離及び340nmの励起波長による蛍光波長450nmを蛍光検出器により検出することにより実施した。
<D-アミノ酸含有乳酸菌発酵液の調製法>
別途記載する一部の実施例を除き、脱脂粉乳(明治社製)を8wt%、精製乳糖を3wt%、ビール酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を1wt%、L-アスパラギン酸ナトリウムを0.5wt%の終濃度で水に混合した溶液を、121℃、2分の条件でオートクレーブ殺菌したものを培地として用いた。
乳酸菌は0.1wt%のビール酵母エキスを含む10wt%還元脱脂乳で一晩培養することで植え継ぎ、前日に植え継いだ菌液を上記の培地に対し1wt%添加し、発酵を開始した。発酵のための培養条件は以下の実施例に記載するとおりである。
[実施例1]D-アミノ酸含有OLL1247発酵液の調製及びアミノ酸分析
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1247株(受託番号NITE BP-01814)を添加した培地を上述の調製法に従って調製した。発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースへ通気して行った。発酵過程の温度は、発酵開始より16時間は43℃、その後32時間は45℃とした。細菌増殖は、発酵開始より16時間の時点で定常期に達していた。
発酵開始より16時間までは、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いて発酵液のpHを5.90を中心に自動制御した。それ以降は発酵終了までpHの制御は実施しなかった。
培養後の発酵液について、上記分析法に従い、L-アミノ酸、及びD-アミノ酸の濃度を測定した。結果を表1に示した。この結果から、OLL1247株の培養物(発酵液)において、各種D-アミノ酸、特にD-アスパラギン酸が高濃度で産生されたことが示された。
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[実施例2]脂肪酸エステル添加によるラセミ化促進
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1255株(受託番号NITE BP-76)を添加した培地を上述の調製法に従って調製した。発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵温度は37℃とし、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いて発酵液のpHを5.30を中心に自動制御した。12時間の発酵後、発酵液に、終濃度0.3wt%となるように、図1に示す各種グリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸エステル)の分散液を添加し、45℃で24時間反応を行った。この24時間の反応中は、pHの制御は実施しなかった。なお細菌増殖は、発酵開始より12時間の時点で定常期に達していた。対照として、脂肪酸エステルを添加しないこと以外は同様の方法で発酵液を調製した。
その後、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した結果を図1に示した。OLL1255株の発酵液に脂肪酸エステルを添加することにより、それを添加しない場合と比較してD-アスパラギン酸をより高濃度で生成できることが示された。このことは、脂肪酸エステルの添加により、発酵液中に含まれるL-アスパラギン酸のD-アスパラギン酸への変換(ラセミ化)が促進されたことを示す。
[実施例3]
1)比較試料1の調製
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1255株(受託番号NITE BP-76)を添加した培地を上述の調製法に従って調製した。発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵過程の温度は、発酵開始より16時間は37℃、その後32時間は45℃とした。
発酵開始より16時間までは、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を中和剤として用いて発酵液のpHを5.90を中心に自動制御しながら、培養を行った。炭酸カリウム溶液の添加は発酵開始の4時間後に開始した。発酵開始より16時間後以降は、乳酸がほとんど産生されず、pHの制御は実施しなかった。
45℃で32時間の反応後の発酵液を-30℃で予備凍結し、次いでクリスト(Christ)社製の卓上凍結乾燥機を用いて乾燥粉末(比較試料1)とした。
2)試験試料1の調製
炭酸カリウムの代わりに、ラウリン酸ペンタグリセリンを2.4wt%の濃度で含む炭酸カルシウム製剤を中和剤として使用したこと以外は、比較試料1の調製と同様の方法で発酵(培養)を行った。発酵においては、比較試料1の調製における炭酸カリウムの添加量とモル濃度で同一になる量の炭酸カルシウムが添加されるように、その炭酸カルシウム製剤を使用した。炭酸カルシウム製剤の添加のタイミングは、炭酸カルシウムのアルカリとしての反応性の低さを考慮し、比較試料1の調製における炭酸カリウムの経時添加量を参考にして比較試料1についての炭酸カリウムの添加開始時から約2時間早めた時点からとし、比較試料1の調製時の炭酸カリウム相当量の炭酸カルシウム製剤を1時間間隔で添加した。
45℃で32時間の反応後の発酵液を-30℃で予備凍結し、次いでクリスト(Christ)社製の卓上凍結乾燥機を用いて乾燥粉末(試験試料1)とした。
3)D-アスパラギン酸の濃度測定
上記の比較試料1と試験試料1の調製における発酵中、発酵開始の16時間、32時間、及び48時間経過後に、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図2に示した。ラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤を用いることで、OLL1255株の発酵液において、D-アスパラギン酸がより高濃度で生成されることが示された。
[実施例4]
1)比較試料2の調製
市販の「明治ブルガリアヨーグルト」(明治社製)から当業者に一般に知られる方法によりラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス菌を単離し、それを添加した培地を上述の調製法に従って調製した。発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵過程の温度は、発酵開始より16時間は37℃、その後32時間は45℃とした。
発酵開始より16時間までは、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を中和剤として用いて発酵液のpHを5.90を中心に自動制御しながら、培養を行った。炭酸カリウム溶液の添加は発酵開始の4時間後に開始した。発酵開始より16時間後以降は、乳酸がほとんど産生されず、pHの制御は実施しなかった。
45℃で32時間の反応後の発酵液を-30℃で予備凍結し、次いでクリスト(Christ)社製の卓上凍結乾燥機を用いて乾燥粉末(比較試料2)とした。
2)試験試料2の調製
炭酸カリウムの代わりに、ラウリン酸ペンタグリセリンを2.4wt%の濃度で含む炭酸カルシウム製剤を中和剤として使用したこと以外は、比較試料2の調製と同様の方法で発酵を行った。発酵においては、比較試料2の調製における炭酸カリウムの添加量とモル濃度で同一になる量の炭酸カルシウムが添加されるように、その炭酸カルシウム製剤を使用した。炭酸カルシウム製剤の添加のタイミングは、アルカリとしての反応性の低さを考慮し、比較試料2の調製における炭酸カリウムの経時添加量を参考にして比較試料2についての炭酸カリウムの添加開始時から約2時間早めた時点からとし、比較試料2の調製時の炭酸カリウム相当量の炭酸カルシウム製剤を1時間間隔で添加した。
45℃で32時間の反応後の発酵液を-30℃で予備凍結し、次いでクリスト(Christ)社製の卓上凍結乾燥機を用いて乾燥粉末(試験試料2)とした。
3)D-アスパラギン酸の濃度測定
上記の比較試料2と試験試料2の調製における発酵中、発酵開始の16時間、32時間、及び48時間経過後に、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図3に示した。ラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤を用いることで、OLL1255株以外のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス菌の発酵液においても、D-アスパラギン酸がより高濃度で生成されることが示された。
[実施例5]
実施例3で得られた比較試料1及び試験試料1の発酵液粉末、並びに実施例4で得られた比較試料2及び試験試料2の発酵液粉末を、45℃で1ヶ月保存し、保存期間後の粉末性状及びD-アスパラギン酸の残存性を評価した。D-アスパラギン酸の残存性は、調製直後の発酵液粉末について上記分析法に従って測定したD-アスパラギン酸の濃度に対する、保存期間後の発酵液粉末について上記分析法に従って測定したD-アスパラギン酸の濃度の比率(D-アスパラギン酸残存率[%])として算出した。
45℃で1ヶ月保存後の発酵液粉末について、外観写真を図4に、D-アスパラギン酸残存率を図5に示した。保存試験の結果、比較試料1及び比較試料2は、黒色に変色しており、粒子の大きさの増大や粒子同士の強固な固結状態が認められたのに対し、試験試料1及び2は、本来の白色から黄色の外観を保ち、微粉末状態へ容易に解砕が可能な物性を保持していた。またD-アスパラギン酸残存率は、いずれの菌株でも、上記の炭酸カルシウム製剤を用いた場合の方が高かった。このことから、上記炭酸カルシウム製剤を用いることにより、発酵液粉末の安定性が大きく改善することが示された。この安定性改善効果は乳酸がカルシウム塩に変換されたことによるものと考えられる。
[実施例6]
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1255株の代わりに、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM 1120T株を用い、脂肪酸エステルとしてカプリル酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ショ糖ラウリン酸エステル、又はショ糖パルミチン酸エステルを使用して、実施例2と類似の方法で発酵液を調製し、D-アスパラギン酸の濃度の測定を行った。
具体的には、脱脂粉乳(明治社製)を8wt%、精製乳糖を3wt%、ビール酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を1wt%、L-アスパラギン酸ナトリウムを0.5wt%の終濃度で水に混合した溶液を、121℃、2分の条件でオートクレーブ殺菌したものを培地とした。
ラクトバチルス・ヘルベティカスJCM 1120T株は0.1wt%のビール酵母エキスを含む10wt%還元脱脂乳で一晩培養することで植え継ぎ、前日に植え継いで得られた菌液を上記培養培地に対し1wt%添加し、発酵を開始した。
ラクトバチルス・ヘルベティカスJCM 1120Tの発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵温度は37℃とし、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いpH 5.30を中心に自動制御した。22時間の発酵後、6規定の炭酸カリウムにより発酵液をpH6.0へと調整し、さらに、終濃度0.3wt%となるように、図6に示す各種グリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルの分散液を添加し、45℃で24時間反応を進めた。発酵液のpH6.0への調整後、45℃で24時間の反応中はpHの制御は実施しなかった。対照として、脂肪酸エステルを添加しないこと以外は同様の方法で発酵液を調製した。
その後、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図6に示す。
同様に、OLL1255株の代わりに、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum) JCM 1173T株を用い、脂肪酸エステルとしてカプリル酸モノグリセリドを使用して、実施例2と類似の方法で発酵液を調製し、D-アスパラギン酸の濃度の測定を行った。
具体的には、脱脂粉乳(明治社製)を8wt%、精製乳糖を3wt%、ビール酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を1wt%、イーストリッチマンガン(オリエンタル酵母工業社製)を0.5wt%、L-アスパラギン酸ナトリウムを0.5wt%の終濃度で水に混合した溶液を、121℃、2分の条件でオートクレーブ殺菌したものを培地とした。
JCM 1173T株は0.5wt%のビール酵母エキス及び0.2wt%のイーストリッチマンガンを含む10wt%還元脱脂乳で一晩培養することで植え継ぎ、前日に植え継いだ菌液を上記培地に対し1wt%添加し、発酵を開始した。
ラクトバチルス・ファーメンタムJCM 1173Tの発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵温度は37℃とし、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いpH 5.30を中心に自動制御した。25時間の発酵後、発酵液に、終濃度0.3wt%となるように、カプリル酸モノグリセリドの分散液を添加し、45℃で24時間反応を進めた。なお45℃で24時間の反応中は、発酵液のpHの制御は実施しなかった。
その後、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図7に示した。
本実施例の結果から、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス以外の種のラクトバチルス属菌を用いた場合でも、脂肪酸エステルを使用して発酵液中のD-アスパラギン酸の生成濃度を増加させることができることが示された。
[実施例7]
脱脂粉乳(明治社製)を8wt%、精製乳糖を3wt%、ビール酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を1wt%、L-アスパラギン酸ナトリウムを0.5wt%の終濃度で水に混合した溶液を、121℃、2分の条件でオートクレーブ殺菌したものを培地とした。乳酸菌の調製及び培地への添加は上述の実施例と同様にして行った。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) MEP201603株の発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵温度は37℃とし、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いpH 5.90に制御しながら16時間発酵を行った。続いて、その後の発酵温度を37℃、41℃、又は45℃とし、さらに24時間反応を進めた。なお細菌増殖は、発酵開始より16時間の時点で定常期に達していた。発酵開始より16時間後以降はpHの制御は実施しなかった。
その後、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図8に示す。図8に示されるとおり、37℃での培養(増殖)後に発酵液の温度を45℃に上昇させることにより、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を顕著に増加させることができたことが示された。
[実施例8]
脱脂粉乳(明治社製)を8wt%、精製乳糖を3wt%、ビール酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を1wt%、L-アスパラギン酸ナトリウムを0.5wt%、ラウリン酸ペンタグリセリンを0.2wt%の終濃度で水に混合した溶液を、121℃、2分の条件でオートクレーブ殺菌したものを培地とした。対照として、ラウリン酸ペンタグリセリン0.2wt%を含まないこと以外は同じ培地を調製した。乳酸菌の調製及び培地への添加は上述の実施例と同様にして行った。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) MEP201603株の発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵過程の温度は、発酵開始より16時間は37℃、その後32時間は45℃とした。
発酵開始より16時間までは、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いて発酵液のpHを5.30を中心に自動制御しながら、培養を行った。発酵開始より16時間後以降はpHの制御は実施しなかった。
その後、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図9に示す。図9に示されるとおり、ラウリン酸ペンタグリセリンを用いることにより、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度をさらに増加させることができることが示された。なお脂肪酸エステルは、一般的に、菌の増殖阻害を示すことが知られているが、本実施例に示すとおり、ラクトバチルス属菌を用いたD-アミノ酸生成においては脂肪酸エステルによる増殖阻害は示されなかった。
[実施例9]
脱脂粉乳(明治社製)を8wt%、精製乳糖を3wt%、ビール酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を1wt%、L-アスコルビン酸ナトリウムを0.5wt%の終濃度で水に混合した溶液を、121℃、2分の条件でオートクレーブ殺菌したものを培地とした。乳酸菌の調製及び培地への添加は上述の実施例と同様にして行った。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) MEP201603株の発酵はバイオット社の3L容ジャーファーメンターを用い、撹拌羽回転数を150rpmとし、窒素ガスをヘッドスペースに通気して行った。発酵温度は37℃とし、6規定(N)の炭酸カリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いpH 5.30を中心に自動制御した。16時間の発酵後、発酵液に、炭酸カルシウムスラリー、ラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウムスラリー製剤、炭酸カルシウム、又はラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤を、炭酸カルシウム相当量が同一(2wt%)となる量で添加し、45℃で24時間反応を進めた。
対照として、上記と同様に調製した培地を用いて、炭酸カルシウム(炭酸カルシウムスラリー、ラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウムスラリー製剤、炭酸カルシウム、又はラウリン酸ペンタグリセリンを含む炭酸カルシウム製剤)を添加しないこと以外は、同様の試験を行った。
その後、上記分析法に従い、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度を測定した。結果を図10に示す。炭酸カルシウムだけではD-アスパラギン酸の生成は促進されなかったが、ラウリン酸ペンタグリセリンを用いることにより、発酵液中のD-アスパラギン酸の濃度をさらに増加させることができることが示された。
本発明では、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスをはじめとするラクトバチルス属菌を用いて、D-アミノ酸を高効率に生産することができる。本発明において使用されるラクトバチルス属菌は乳酸菌として長い食経験があるため、得られたD-アミノ酸含有発酵物を食品等に使用する場合、発酵物から乳酸菌を分離除去することなく、食品などの組成物に配合することができる。本発明により製造されるD-アミノ酸、及びD-アミノ酸を含有するラクトバチルス属菌の発酵物(培養物)は、D-アミノ酸が有する生理機能を付与すべく、医薬品(皮膚外用剤、内服薬等)、医薬部外品、化粧料、食品、食品添加物又は飼料などに使用可能である。

Claims (13)

  1. ラクトバチルス属菌を培地で培養し増殖させるステップと、
    増殖したラクトバチルス菌をグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される脂肪酸エステルの存在下、44℃以上の温度でインキュベーションするステップと
    を含み、D-アミノ酸を含む発酵物を調製することを特徴とする、D-アミノ酸の製造方法
  2. 44℃以上の温度が、44℃〜50℃である、請求項1に記載の方法。
  3. 脂肪酸エステルが炭素数8〜18の脂肪酸部分を含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 脂肪酸エステルが、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸デカグリセリン、カプリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリン、ラウリン酸デカグリセリン、ミリスチン酸デカグリセリン、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、及びショ糖オレイン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 培地がL-アミノ酸又はその塩を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  6. ラクトバチルス属菌を、アルカリを用いて培地のpHを制御しながら培養し増殖させる、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  7. アルカリが、炭酸カルシウム又は炭酸カリウムである、請求項に記載の方法。
  8. ラクトバチルス属菌がラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)からなる群から選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  9. ラクトバチルス属菌がラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1247株(受託番号NITE BP-01814)、又はラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1255株(受託番号NITE BP-76)である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記発酵物を乾燥させることをさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記発酵物からD-アミノ酸を回収することをさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記アミノ酸がアスパラギン酸を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法によりD-アミノ酸を製造し、食品に添加することを含む、D-アミノ酸強化食品の製造方法。
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