以下、図面を参照しながら、いくつかの実施形態に係るインクジェットプリンタについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。以下の説明では、インクジェットプリンタを正面から見たときに、インクジェットプリンタから遠ざかる方を前方、インクジェットプリンタに近づく方を後方とする。図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表している。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、インクジェットプリンタの設置態様等を限定するものではない。また、図面中の符号Yは主走査方向を示し、符号Xは主走査方向Yと直交する副走査方向Xを示している。
図1は、一実施形態に係る大判のインクジェットプリンタ(以下、「プリンタ」とする。)10の正面図である。プリンタ10は、ロール状の記録媒体5を順次前方に移動させると共に、主走査方向Yに移動するキャリッジ25に搭載されたインクヘッド40、50、60、70(図2参照)からインクを吐出することによって、記録媒体5上に画像を印刷する。
記録媒体5は、画像が印刷される対象物である。記録媒体5は特に限定されない。記録媒体5は、例えば、普通紙やインクジェット用印刷紙等の紙類であってもよいし、樹脂製やガラス製などの透明なシートであってもよいし、金属製やゴム製等のシートであってもよい。
図1に示すように、プリンタ10は、プリンタ本体10aと、プリンタ本体10aを支持する脚11とを備えている。プリンタ本体10aは、主走査方向Yに延びている。プリンタ本体10aは、ガイドレール21と、ガイドレール21に係合したキャリッジ25とを備えている。ガイドレール21は、主走査方向Yに延びている。ガイドレール21は、キャリッジ25の主走査方向Yへの移動をガイドする。キャリッジ25には無端状のベルト22が固定されている。ベルト22は、ガイドレール21の右側に設けられたプーリ23aおよび左側に設けられたプーリ23bに巻き掛けられている。右側のプーリ23aにはキャリッジモータ24が取り付けられている。キャリッジモータ24は、制御装置100と電気的に接続されている。キャリッジモータ24は、制御装置100によって制御される。キャリッジモータ24が駆動するとプーリ23aが回転し、ベルト22が走行する。それにより、キャリッジ25がガイドレール21に沿って主走査方向Yに移動する。このように、キャリッジ25が主走査方向Yに移動することによって、インクヘッド40〜70も主走査方向Yに移動する。本実施形態では、ベルト22とプーリ23aとプーリ23bとキャリッジモータ24とが、キャリッジ25およびキャリッジ25に搭載されたインクヘッド40〜70を主走査方向Yに移動させる主走査方向移動装置20の一例である。なお、以下では適宜、主走査方向Yのうち、プリンタ10の左方に一致する方向を第1主走査方向Y1、プリンタ10の右方に一致する方向を第2主走査方向Y2と呼ぶことがある。
キャリッジ25の下方には、プラテン12が配置されている。プラテン12は、主走査方向Yに延びている。プラテン12には記録媒体5が載置される。プラテン12の上方には、記録媒体5を上から押下するピンチローラ31が設けられている。ピンチローラ31は、キャリッジ25より後方に配置されている。プラテン12には、グリットローラ32が設けられている。グリットローラ32は、ピンチローラ31の下方に配置されている。グリットローラ32は、ピンチローラ31と対向する位置に設けられている。グリットローラ32は、フィードモータ33(図3参照)に連結されている。グリットローラ32は、フィードモータ33の駆動力を受けて回転可能に形成されている。フィードモータ33は、制御装置100と電気的に接続されている。フィードモータ33は、制御装置100によって制御される。ピンチローラ31とグリットローラ32との間に記録媒体5が挟まれた状態でグリットローラ32が回転すると、記録媒体5は副走査方向Xに搬送される。本実施形態では、ピンチローラ31とグリットローラ32とフィードモータ33とが、記録媒体5を副走査方向Xに移動させる副走査方向移動装置30の一例である。なお、以下では適宜、副走査方向Xのうち、記録媒体5の搬送方向(プリンタ10の前方と一致する。)を下流X2、下流X2の逆方向(プリンタ10の後方と一致する。)を上流X1と呼ぶことがある。
図2は、キャリッジ25の記録媒体5と対向する側の面(本実施形態では下面)の構成を示す模式図である。図2に示すように、キャリッジ25の下面には、インクヘッド40、インクヘッド50、インクヘッド60、およびインクヘッド70が保持されている。インクヘッド40〜70は、副走査方向Xに延びている。また、各インクヘッド40、50、60、70は、主走査方向Yに並んで配置されている。インクヘッド40〜70は、それぞれ図示しないインク供給路によって、インクを貯留するインクカートリッジと接続されている。本実施形態では、インクヘッド40は、シアンインクが貯留されたインクカートリッジと接続され、シアンインクを吐出する。インクヘッド50は、マゼンタインクが貯留されたインクカートリッジと接続され、マゼンタインクを吐出する。インクヘッド60は、イエローインクが貯留されたインクカートリッジと接続され、イエローインクを吐出する。インクヘッド70は、ブラックインクが貯留されたインクカートリッジと接続され、ブラックインクを吐出する。ただし、インクヘッドの数は4個に限定されず、各インクヘッドから吐出されるインクの色も上記4種類に限定されない。また、インクの材料は何ら限定されず、従来からインクジェットプリンタのインクの材料として用いられている各種の材料を使用することができる。上記インクは、例えば、ソルベント系(溶剤系)顔料インクや水性顔料インクであってもよいし、水性染料インク、あるいは、紫外線を受けて硬化する紫外線硬化型顔料インク等であってもよい。
図2に示すように、複数のインクヘッド40、50、60、70は、それぞれ、副走査方向Xに並んだ複数のノズルを有している。詳しくは、インクヘッド40は、ノズル41を有している。インクヘッド50は、ノズル51を有している。インクヘッド60は、ノズル61を有している。インクヘッド70は、ノズル71を有している。ノズル41〜71は、そこからインクが吐出される部材である。
なお、図2において、インクヘッド40、50、60、および70には、それぞれ10個のノズルが図示されているが、実際にはさらに多数(例えば180個)のノズルが形成されている。また、各インクヘッド40、50、60、70の副走査方向Xの長さは、例えば、1インチである。上記した場合には、副走査方向Xに関するインクの吐出密度は、180dpi(dot per inch)である。ただし、各インクヘッド40〜70の副走査方向Xの長さ、および各インクヘッド40〜70が備えるノズルの個数は、何ら限定されるわけではない。
各インクヘッド40〜70の内部には、圧電素子等を備えたアクチュエータ(図示せず)が設けられている。アクチュエータは、制御装置100と電気的に接続されている。アクチュエータは、制御装置100によって制御される。アクチュエータが駆動することによって、インクヘッド40〜70の各ノズル41〜71から記録媒体5に向かってインクが吐出される。
図1に示すように、プリンタ10は、ヒータ35を備えている。ヒータ35は、プラテン12の下方に設けられている。ヒータ35は、グリットローラ32より前方に配置されている。ヒータ35は、プラテン12を加熱する。プラテン12が加熱されることによって、プラテン12上に配置されている記録媒体5および記録媒体5に着弾したインクが加熱され、インクの乾燥が促進される。ヒータ35は、制御装置100に電気的に接続されている。ヒータ35の加熱温度は、制御装置100によって制御される。
図1に示すように、プリンタ本体10aの右端部には、操作パネル110が設けられている。操作パネル110には、機器状態を表示する表示部と、ユーザーによって操作される入力キー等が設けられている。操作パネル110の内側には、プリンタ10の各種の動作を制御する制御装置100が収容されている。図3は、本実施形態に係るプリンタ10のブロック図である。図3に示すように、制御装置100は、フィードモータ33、キャリッジモータ24、ヒータ35、および各インクヘッド40、50、60、70とそれぞれ通信可能に接続されており、それらを制御可能に構成されている。制御装置100は、印刷モード選択部101と、印刷制御部102と、補正部103とを備えている。
制御装置100の構成は特に限定されない。制御装置100は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェア構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から印刷データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置とを備えている。なお、制御装置100は必ずしもプリンタ本体10aの内部に設けられている必要はなく、例えば、プリンタ本体10aの外部に設置され、有線または無線を介してプリンタ本体10aと通信可能に接続されたコンピュータ等であってもよい。
印刷モード選択部101は、プリンタ10の印刷モードが選択される部位である。印刷モード選択部101は、例えば、制御装置100に接続された外部コンピュータの表示装置に操作画面を表示するように構成されている。本実施形態に係るプリンタ10は、印刷モードとして「画像印刷モード」および「双方向調整パターン印刷モード」を選択可能に構成されている。上記各印刷モードの詳細については後述する。
印刷制御部102は、印刷動作を制御する部位である。印刷制御部102は、キャリッジモータ24、フィードモータ33、インクヘッド40〜70に接続され、それらを制御することで記録媒体5に対して印刷を行う。印刷制御部102は、画像印刷部102aと、双方向調整パターン印刷部102bとを備えている。画像印刷部102aは、印刷モード選択部101で「画像印刷モード」が選択されたとき、各部を制御して画像の印刷を行わせる部位である。双方向調整パターン印刷部102bは、印刷モード選択部101で「双方向調整パターン印刷モード」が選択されたとき、各部を制御して双方向調整パターンの印刷を行わせる部位である。詳しくは後述するが、印刷された双方向調整パターンからは、往路印刷と復路印刷との印刷位置のずれ量を知ることができる。画像印刷部102a、双方向調整パターン印刷部102bの制御の詳細については後述する。なお、印刷制御部102は、ヒータ35の温度を制御することで、印刷後のインクの乾燥の制御も行っている。
補正部103は、双方向調整パターンから得られる補正値に基づいてインクの吐出位置を補正する部位である。補正部103は、補正値入力部103aと、補正実行部103bとを備えている。補正値入力部103aには、双方向調整パターンから得られる補正値が入力される。上記入力は、ユーザーによる入力である。本実施形態に係る補正実行部103bは、補正値入力部103aに入力された補正値だけ復路印刷におけるインクの吐出位置を補正する。上記補正の詳細については後述する。
「画像印刷モード」では、通常の画像印刷が行われる。画像印刷部102aは、入力された画像データに基づいて、記録媒体5上に画像の印刷を行う。本実施形態に係るプリンタ10は、双方向印刷が可能に構成されている。双方向印刷は、キャリッジ25が第1主走査方向Y1に走査されているときと、第2主走査方向Y2に走査されているときのいずれのときにも印刷を行う印刷方法である。画像印刷部102aは、キャリッジモータ24を駆動してキャリッジ25を第1主走査方向Y1に移動させるとともに、各インクヘッド40、50、60、70からインクを吐出させ、記録媒体5上にインクを着弾させる。また、画像印刷部102aは、キャリッジ25を第2主走査方向Y2に移動させるときにも、各インクヘッド40、50、60、70からインクを吐出させ、記録媒体5上にインクを着弾させる。以下では、キャリッジ25を第1主走査方向Y1に移動させながら行う印刷を「往路印刷」と称し、第2主走査方向Y2に移動させながら行う印刷を「復路印刷」と称する。「往路印刷」は、「第1方向印刷」の一例である。「復路印刷」は、「第2方向印刷」の一例である。画像印刷部102aは、往路印刷および復路印刷が各1回終了するたびに、フィードモータ33を制御して、記録媒体5を前方(副走査方向Xの下流X2側)に移動させる。画像印刷部102aは、往路印刷および復路印刷、その後の記録媒体5の搬送を繰り返して、記録媒体5上に画像を印刷する。
なお、1つの画像は、往路印刷と復路印刷の2回印刷で形成されてもよいし、往路印刷と復路印刷のセットが複数回繰り返されることによって形成されてもよい。
「双方向調整パターン印刷モード」では、双方向調整パターンが印刷される。双方向調整パターンは、往路印刷時のキャリッジ25の位置と、復路印刷時のキャリッジ25の位置とのずれを確認するためのチェックパターンである。双方向調整パターンにおいて確認されるキャリッジ25の位置のずれは、主走査方向Yに関する位置のずれである。往路と復路とでキャリッジ25の位置にずれがない場合には、往路印刷においてある主走査方向Yの位置を狙って吐出されたインクと、復路印刷において往路印刷と同じ主走査方向Yの位置を狙って吐出されたインクとは、主走査方向Yに関して同じ位置に着弾する。しかし実際には、主走査方向Yに関して、往路印刷におけるキャリッジ25の位置と復路印刷におけるキャリッジ25の位置との間にずれが生じていることがあり、そのずれはインクの着弾位置のずれとして現れる。双方向調整パターンは、上記ずれの量および方向が確認できるように設計された印刷パターンである。双方向調整パターンにずれが見られたときには、ユーザーは、ずれの量および方向に応じてインクの着弾位置を補正する。双方向調整パターンによるずれのチェックは、例えば、プリンタ10の移動設置後の初期設定時や、インクヘッド40〜70を交換したとき、または始業点検時などに行われる。初期設定時やインクヘッド交換後などでは、ほとんどの場合、往路印刷におけるインクの着弾位置と復路印刷におけるインクの着弾位置とがずれており、また、ずれ量も大きい。
図4は、双方向調整パターンの概要を示す模式図である。図4に示されるように、双方向調整パターンは、複数の検査パターンPを含んでいる。複数の検査パターンPは、記録媒体5上において主走査方向Yに並んでいる。1つの検査パターンPは、第1往路パターンPaと、第2往路パターンPbと、復路パターンPcとで構成されている。第1往路パターンPaと第2往路パターンPbとは、往路印刷によって印刷されるパターンであり、主走査方向Yに関して位置が揃っている。第2往路パターンPbは、第1往路パターンPaよりも副走査方向Xの上流X1側に位置している。また、復路パターンPcは、復路印刷によって印刷されるパターンであり、第1往路パターンPaおよび第2往路パターンPbとは主走査方向Yに関する位置が異なっている。
複数の検査パターンPの前方(副走査方向Xの下流X2側)には、それぞれ異なる数字が印刷されている。これらの数字も、検査パターンPの一部として印刷されるものである。これら数字は、検査パターンPにおいて、副走査方向Xの下流X2側の端に印刷されている。これら数字は、往路パターンPa、Pbの主走査方向Yに関する印刷位置と、復路パターンPcの主走査方向Yに関する印刷位置との設定上の距離(ずらし量)を表す数字である。検査パターンPにおいて、往路パターンPa、Pbと復路パターンPcとは、主走査方向Yに関して、上記ずらし量だけ離れた位置に印刷されるように設定されている。ただし、これはプリンタ10における設定上のことであり、実際の印刷位置のことではない。この数字における「1」は、例えば、900分の1インチ相当である。ここでの900分の1インチは、印刷位置の補正量の単位となる距離である。ただし、もちろんこれは1つの例示に過ぎず、補正の単位は900分の1インチに限定されるものではない。図4の場合では、補正値「−2」が設定された検査パターンPにおける往路パターンPa、Pbと復路パターンPcとの設定上の距離は、450分の1インチである。補正値「−1」が設定された検査パターンPにおける往路パターンPa、Pbと復路パターンPcとの設定上の距離は、900分の1インチである。補正値の符号は、マイナスの値が大きいほど、往路パターンPa、Pbに対して復路パターンPcが右方(第2主走査方向Y2側)にずれるように付されている。逆に、補正値の符号のプラスの値が大きいほど、復路パターンPcは、往路パターンPa、Pbに対して左方(第1主走査方向Y1側)にずれるように構成されている。往路パターンPa、Pbの主走査方向Yに関する位置と復路パターンPcの主走査方向Yに関する位置とは、設定上は、補正値「0」のときに一致する。
しかしながら、実際に双方向調整パターンを印刷すると、図4のように補正値「0」以外の検査パターンPで往路パターンPa、Pbと復路パターンPcとが一致することがある。図4の場合、往路パターンPa、Pbと復路パターンPcとは、補正値「+1」の検査パターンPにおいてほぼ重なっている。これは、往路パターンPa、Pbを基準としたとき、復路パターンPcの印刷位置が補正単位「1」だけ右方(第2主走査方向Y2側)にずれていることを意味している。
印刷された双方向調整パターンの確認は、ユーザーの目視によって行われる。図4の場合、ユーザーは、補正値「+1」が設定された検査パターンPを、最もずれの少ない検査パターンPとして認定する。そこで、ユーザーは、最適な補正値として「+1」を補正値入力部103aに入力する。補正実行部103bは、復路印刷における印刷位置を補正単位「1」(=900分の1インチ)だけ左方(第1主走査方向Y1側)に移動させる補正を行う。この補正により、ずれていた往路印刷の印刷位置と復路印刷の印刷位置とが一致する。なお、ここでは補正は復路印刷における印刷位置に対して実行されたが、それには限られない。印刷位置の補正は相対的なものであって、補正されるのは往路印刷の印刷位置であってもよい。また、往路印刷の印刷位置と復路印刷の印刷位置の両方であってもよい。補正される印刷方向は限定されない。さらに、補正値の符号は上記したものと逆であってもよい。
図4に示されたような検査パターンPは、実際の双方向調整パターン全体においては、もっと多数印刷される。例えば1つの好適な例では、検査パターンPは、1つのインクヘッドにつき、補正値「−20」から「+20」までの41個印刷される。このとき、別のインクヘッドに関する双方向調整パターンもそれぞれ41個印刷される。別のインクヘッドに関する双方向調整パターンは、記録媒体5を搬送して、記録媒体5上の別の位置に印刷される。
図5および図6は、従来からのプリンタで印刷された双方向調整パターンの例を示す模式図である。図5は、検査パターンPが主走査方向Yに一列に並んで配置される場合を図示している。図6は、検査パターンPが2行に分かれて配置される場合を図示している。図5および図6では、1つのインクヘッドにつき、補正値「−20」から「+20」までの41個の検査パターンP(一部図示省略)が印刷されている。図5および図6における検査パターンPの内部構造(第1往路パターンPa、第2往路パターンPb、復路パターンPc)は、図4と同じである。そこで、図5、図6においては、一部を除き、検査パターンPの内部構造の図示は省略している。ただし、補正値を表す数値は図示している。また、図5、図6には、1つのインクヘッドに対する双方向調整パターンのみを示し、他のインクヘッドに対するものは省略している。
図5において、複数の検査パターンPは、主走査方向Yに一列に並んでいる。複数の検査パターンPは、記録媒体5の紙幅(主走査方向Yの長さ)から要求される一定の間隔をおいて並んでいる。図5に示されるように、複数の検査パターンPは、1つの補正値を表す数字と、それに隣接する検査パターンの補正値を表す数字とがほぼ連続する程度に接近している。そのため、検査パターンPの補正値を読み取るのが困難である。また、その補正値がどの検査パターンPに属するのか判別するのが困難である。図5の場合はそれでも最適な補正値を読み取ることが可能であるが、検査パターンPの密度がもっと密な場合には、補正値あるいは検査パターンPそのものが重なってしまい、読み取ることができなくなってしまう。そこで、例えば、図6に示されるように検査パターンPを複数行に分けて印刷することによって、双方向調整パターンの視認性を向上させる方法などが採られる。
図6の検査パターンPは、副走査方向Xに2行に分けて印刷されている。図6の検査パターンPは、記録媒体5上の第1領域A1において主走査方向Yに並ぶ複数の第1検査パターンP1と、第2領域A2において主走査方向Yに並ぶ複数の第2検査パターンP2とによって構成されている。第1領域A1および第2領域A2は、いずれも主走査方向Yに延びる帯状の領域である。第2領域A2は、第1領域A1よりも副走査方向の上流X1側に位置している。複数の第1検査パターンP1は、補正値が偶数の検査パターンから構成されている。複数の第2検査パターンP2は、補正値が奇数の検査パターンから構成されている。
1つの第2検査パターンP2は、1つの第1検査パターンP1の後方(副走査方向Xの上流X1側)に印刷されている。例えば、補正値「+20」の第1検査パターンP1の後方には、補正値「+19」の第2検査パターンP2が印刷されている。補正値「+20」の第1検査パターンP1と、補正値「+19」の第2検査パターンP2とは、主走査方向Yに関して位置が揃っている。
第1領域A1と第2領域A2との間には、間隔L1が設けられている。間隔L1は、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2との境界を見やすくするために設けられるものである。逆に言うと、間隔L1を設けなければ、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、目視による区別が困難である。
図6の双方向調整パターンは、図5の双方向調整パターンに比べて視認性は向上している。しかし、検査パターンPを2行に分けて印刷したために副走査方向Xに関する長さは長くなっている。加えて、検査パターンPを2行に分けるに当たり、行間の間隔L1が必要なために、さらに副走査方向Xに関する長さが長くなっている。
このように、従来からの双方向調整パターンでは、視認性を向上させようとすると副走査方向Xの長さが長くなり、一方、副走査方向Xの長さを短くしようとすれば視認性が悪化する。双方向調整パターンが副走査方向Xに長くなると、印刷された双方向調整パターンが着床してしまい検査パターンの確認作業が大変になるというような問題が発生することがある。一方、双方向調整パターンの視認性が悪いと補正値の確認に手間が掛かったり、読み間違いの可能性が高まったりする。
(第1実施形態)
第1実施形態に係るプリンタ10は、上記のような問題を改善する双方向調整パターンを印刷するプリンタの1つである。図7は、第1実施形態に係るプリンタ10によって印刷される双方向調整パターンの一例を示す図である。図5、図6と同様に、図7においても1つのインクヘッドに対応する双方向調整パターンだけが図示され、検査パターンPの内部構造は一部を除いて図示が省略されている。図7に示されるように、本実施形態に係る双方向調整パターンも、複数の第1検査パターンP1と、複数の第2検査パターンP2とによって構成されている。第1検査パターンP1は、記録媒体5上の第1領域A1において主走査方向Yに並んでいる。第2検査パターンP2は、第1領域A1よりも副走査方向Xの上流X1側に位置する第2領域A2において主走査方向Yに並んでいる。本実施形態に係る双方向調整パターンも、第1領域A1と第2領域A2の2行に分けて印刷された双方向調整パターンである。複数の第1検査パターンP1は、補正値が偶数の検査パターンから構成されている。複数の第2検査パターンP2は、補正値が奇数の検査パターンから構成されている。
本実施形態に係る双方向調整パターンにおいても、1つの第2検査パターンP2は、1つの第1検査パターンP1の後方(副走査方向Xの上流X1側)に印刷されている。ただし、主走査方向Yに関する位置はずれている。具体的には、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、主走査方向Yに関して、交互に配置されている。第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、いわゆる千鳥配置されている。言い換えれば、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、主走査方向Yに関して、隣り合う2つの第1検査パターンP1の間に1つの第2検査パターンP2が配置されるとともに、隣り合う2つの第2検査パターンP2の間に1つの第1検査パターンP1が配置されるように構成されている。例えば、補正値「−20」の第1検査パターンP1の右後方には補正値「−19」の第2検査パターンP2が印刷され、補正値「−19」の第2検査パターンP2の右前方には補正値「−18」の第1検査パターンP1が印刷されている。
図7に示されるように、本実施形態に係る双方向調整パターンでは、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2との間の間隔L1(図6参照)が削除されている。第1検査パターンP1の副走査方向Xの上流X1側の端部と、第2検査パターンP2の副走査方向Xの下流X2側の端部とは、副走査方向Xに関して揃っている。従って、本実施形態に係る双方向調整パターンは、図6の双方向調整パターンよりも間隔L1分だけ、副走査方向Xの長さが短くなっている。なお、図7では省略したが、実際には間隔L1は、複数のインクヘッドに対応する複数の双方向調整パターンにそれぞれ設定されており、全体の長さは、間隔L1にインクヘッドの数(ここでは4個)を乗じた距離だけ短くなる。
このように、本実施形態に係るプリンタ10によれば、視認性を確保しつつ、従来のプリンタによるものよりも副走査方向Xの長さが短い双方向調整パターンを印刷することができる。図7に示されているように、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは主走査方向Yの位置がずらされており、そのため、図6の間隔L1を設けなくとも第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とを明瞭に区別することができる。また、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とが主走査方向Yに交互に並ぶことで、主走査方向Yに関する視認性も向上している。
また、本実施形態では、図6の場合と異なり、検査パターンPが補正値の順に主走査方向Yに並んでいる。詳しくは、検査パターンPは、補正値が小さいものが左方に、大きいものが右方にくるように順に並んでいる。このように検査パターンPを配置することによって、感覚的にも認識しやすい双方向調整パターンを構成することができる。
図6に示した双方向調整パターンは、以下のようなプロセスで記録媒体5上に印刷される。本実施形態に係るプリンタ10は、まずインクヘッド40についての双方向調整パターンを印刷する。インクヘッド40についての双方向調整パターンは、インクヘッド40のノズル41から吐出されるシアンインクによって印刷される。インクヘッド40についての双方向調整パターンにおいて、プリンタ10は、最初に第1検査パターンP1を全て印刷する。第1検査パターンP1の中では、第1往路パターンPaと第2往路パターンPbとが最初に印刷される。第1往路パターンPaおよび第2往路パターンPbの印刷は、往路印刷によるものである。本実施形態では、このときに補正値を表す数字の印刷も行われる。ただし、補正値の印刷は復路印刷のときに行われてもよい。往路印刷の後、復路パターンPcの印刷が、復路印刷によって行われる。復路印刷の完了により、第1検査パターンP1の印刷が完了する。ただし、上記は1つの実施形態によるものであり、それに限定されない。例えば、第1往路パターンPaおよび第2往路パターンPbは、それぞれ1回の往路印刷で印刷されなくともよく、複数回の往路印刷で印刷されてもよい。同様に、復路パターンPcは、1回の復路印刷で印刷されなくともよく、複数回の復路印刷で印刷されてもよい。また、上記複数回の印刷の間に、記録媒体5が副走査方向Xの下流X2側に何回か搬送されてもよい。
第1検査パターンP1印刷後、双方向調整パターン印刷部102bは、記録媒体5を副走査方向Xの下流X2側に搬送する。双方向調整パターン印刷部102bは、搬送後の位置において第2検査パターンP2を印刷する。第2検査パターンP2の印刷方法は、第1検査パターンP1の印刷の場合と同様である。その後、双方向調整パターン印刷部102bは、記録媒体5を副走査方向Xの下流X2側にさらに搬送し、インクヘッド50についての双方向調整パターンを印刷する。インクヘッド50についての双方向調整パターンに続いては、インクヘッド60についての双方向調整パターンが同様に印刷され、さらにインクヘッド70についての双方向調整パターンが印刷される。
(第2実施形態)
第2実施形態は、双方向調整パターンの副走査方向Xに関する長さをさらに短くすることができる実施形態である。図8は、第2実施形態に係るプリンタ10によって印刷される双方向調整パターンの一例を示す図である。図8に示されるように、本実施形態に係る双方向調整パターンは第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とからなり、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、副走査方向Xに関して一部が重なっている。言い換えれば、第1領域A1の一部と第2領域A2の一部とが、副走査方向Xに関して重なっている。
図8に示されるように、本実施形態に係る双方向調整パターンにおいても、複数の第1検査パターンP1は第1領域A1において主走査方向Yに並んでおり、複数の第2検査パターンP2は、第1領域A1よりも副走査方向Xの上流X1側に位置する第2領域A2において主走査方向Yに並んでいる。ただし、本実施形態に係る第2領域A2は、一部だけが第1領域A1よりも副走査方向Xの上流X1側に位置しており、他の部分は第1領域A1と重なっている。本実施形態に係る双方向調整パターンにおいても、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは主走査方向Yに関して交互に配置されているため、互いに、相手の検査パターンが自己の隣接する2つの検査パターンの間に挿入される形になっている。
図8に示されるように、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、副走査方向Xに関して、長さL2分だけ重なっている。本実施形態に係る双方向調整パターンは、図6に示された双方向調整パターンよりも、この重なり長さL2だけ副走査方向Xに関する長さが短い。
一方、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、長さL3分だけ副走査方向Xにずれている。この長さL3によって表されるずれによって、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは識別可能に区別されている。
図8に示されているように、本実施形態に係る双方向調整パターンの主走査方向Yに関する検査パターンPの密度は、図5の双方向調整パターンのそれと同じである。言い換えれば、本実施形態に係る双方向調整パターンは、図5に示された双方向調整パターンと同じ密度で検査パターンPが主走査方向Yに並んでいるにもかかわらず、検査パターンPの間の識別性を獲得している。本実施形態に係る双方向調整パターンによれば、視認性を保ったまま、検査パターンPの主走査方向Yに関する密度を密にすることが可能である。
また、副走査方向Xの長さについては、本実施形態に係る双方向調整パターンは、図5に示した双方向調整パターンよりもL3長いだけである。本実施形態に係るプリンタ10によれば、双方向調整パターンの副走査方向Xの長さをわずかに長くするだけで、視認性を著しく向上させることができる。
本実施形態では、ずれ長さL3は、補正値を表す数字の高さ(副走査方向Xの長さ)とほぼ同じに設定されている。そこで、第1検査パターンP1の補正値を表す数字と、第2検査パターンP2の補正値を表す数字とは、ほぼ数字自体の高さだけ副走査方向Xにずれ、それぞれの数字の左右には間隔が確保されている。従って、それぞれの検査パターンに対応する補正値が一見して確認可能である。1つの第1検査パターンP1と、その隣に配置された第2検査パターンP2との区別も、両者が副走査方向Xにずらされているために一見して可能である。つまり、ずれ長さL3の好適な長さは、「補正値を表す数字の高さ以上」である。
このように、ずれ長さL3が少なくとも補正値を表す数字の高さ以上に設定されれば、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とを明瞭に区別することができる。ただし、第1領域A1と第2領域A2との重なり長さL2をできるだけ長くし、双方向調整パターン全体をできるだけ短くするためには、ずれ長さL3はできるだけ短いことが好ましい。重なり長さL2とずれ長さL3との合計は、検査パターンPの副走査方向Xに関する長さと同じであり、検査パターンPが変わらない限り一定である。従って、ずれ長さL3は、本実施形態のように、補正値を表す数字の高さと同じまたはほぼ同じに設定されるのが好ましい。
上記のように、本実施形態に係るプリンタ10によれば、第1実施形態の場合よりもさらに双方向調整パターンの副走査方向Xに関する長さを短くすることができる。そのときの第1領域A1と第2領域A2とのずれ長さL3は、検査パターンPの補正値を表す数字の高さ以上であることが好ましく、検査パターンPの補正値を表す数字の高さと同じであればさらに好適である。
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
例えば、上記した実施形態では、双方向調整パターンは2行の検査パターンPで構成されていたが、3行以上で構成されていてもよい。特に第2実施形態によれば、双方向調整パターンの副走査方向Xに関する長さを大幅に短縮できるため、主走査方向Yに関する視認性を重視して行数を増やしてもよい。
また、上記した実施形態では、第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、主走査方向Yに関して交互に配置されたが、そのような配置に限定されない。第1検査パターンP1と第2検査パターンP2とは、主走査方向Yに関して位置が重ならなければよく、必ずしも交互に配置されることを要しない。第1検査パターンP1と第2検査パターンP2との主走査方向Yに関する位置が重ならなければ、図6の行間の間隔L1をなくすことができ、また第1領域A1と第2領域A2とを副走査方向Xに関して一部重複させることも可能である。即ち、双方向調整パターンの副走査方向Xに関する長さの短縮に関しては、上記した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
また、上記した実施形態では、1つの検査パターンPは、第1往路パターンPa、第2往路パターンPb、および復路パターンPcによって構成されていたが、それに限定されない。検査パターンPの内部構成としては、往路印刷の印刷位置と復路印刷の印刷位置とを比較することが可能な各種の構成が可能である。
上記した実施形態では、インクを吐出させる方式は、いわゆるピエゾ駆動式であった。しかしながら、本発明に係るプリンタのインク吐出方式は、例えば、二値偏向方式または連続偏向方式などの各種の連続方式、および、サーマル方式などの各種のオンデマンド方式であってもよい。本発明に係るインク吐出方式は、限定されない。
上記した実施形態では、キャリッジ25が主走査方向Yに移動し、記録媒体5が副走査方向Xに移動するように構成されていたが、これには限定されない。キャリッジ25と記録媒体5との移動は相対的なものであり、そのどちらが主走査方向Yまたは副走査方向Xに移動してもよい。例えば、記録媒体5は移動不能に配置され、キャリッジ25が主走査方向Yおよび副走査方向Xの両方向に移動可能なように構成されていてもよい。また、キャリッジ25および記録媒体5のいずれもが両方向に移動可能なように構成されていてもよい。
さらに、ここに開示される技術は様々なタイプのインクジェットプリンタに適用することができる。上記実施形態で示したロール状の記録媒体5を搬送する、所謂、ロール・トゥ・ロールタイプのプリンタの他、例えばフラットベッドタイプのインクジェットプリンタにも同様に適用することができる。また、プリンタ10は独立したプリンタとして単独で使用されるものに限定されず、他の装置と組み合わせたものであってもよい。例えば、プリンタ10は、カッティング装置を備えたプリント・アンド・カット装置などであってもよい。