以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。
図1は、一実施形態に係る硫黄含有組成物の製造方法、脱硫生成物の製造方法、セメントクリンカーの製造方法、及びセメント組成物の製造方法の概要を示す図である。本実施形態に係る硫黄含有組成物の製造方法は、硫黄含有廃棄物と、紙、廃プラスチック、炭素繊維、バイオマス、石炭及び石油からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む炭素源と、を含む配合物を、温度500〜1500℃の温度域で加熱して還元性の硫黄含有組成物を得る加熱工程を有する。
硫黄含有廃棄物としては、廃石膏ボード、脱硫スラッジ、廃タイヤ、脱硫スラグ、石膏及びコークス類から選ばれる少なくとも一種を含むものが挙げられる。なお、本実施形態において、廃石膏ボードは、石膏ボードの表面に付着している紙分を含んでよい。なお、硫黄含有組成物及び脱硫生成物をより一層安定的に製造する観点から、硫黄含有廃棄物は、廃石膏ボード及び/又は石膏を含むことが好ましい。炭素源は、紙、廃プラスチック、炭素繊維、バイオマス、石炭及び石油からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
加熱工程の前に、硫黄含有廃棄物を粉砕する廃棄物粉砕工程を有してもよい。廃棄物粉砕工程は、硫黄含有廃棄物のみを粉砕してもよいし、硫黄含有廃棄物と炭素源を混合しながら粉砕してもよい。廃棄物粉砕工程は、通常の粉砕機を用いて行うことができる。なお、廃棄物粉砕工程を行うことは必須ではない。
加熱工程では、硫黄含有廃棄物及び炭素源を含む配合物は、温度500〜1500℃の温度域で加熱して焼成する。配合物を昇温して配合物が500℃以上の温度域に到達するときに、配合物は、硫黄含有廃棄物に対して炭素源を合計で10質量%以上含む。これによって、炭素源が硫黄含有廃棄物に含まれる酸素と反応して、硫黄含有廃棄物と炭素源との反応が促進される。したがって、還元性の硫黄含有組成物を効率的に生成することができる。同様の観点から、温度500℃以上の温度域に到達するときに、配合物は、硫黄含有廃棄物に対して炭素源を合計で15質量%以上含むことが好ましく、20質量%以上含むことがより好ましい。このような含有量となるように、硫黄含有廃棄物と炭素源との配合割合を調整すればよい。
加熱工程では、配合物を、500℃以上、好ましくは700℃以上、更に好ましくは800℃以上の温度域に加熱して、硫黄含有組成物を生成する。この温度域は、例えば500〜1500℃、700〜1400℃、700〜1200℃、又は800〜1100℃の温度域であってよい。加熱工程の雰囲気は、大気よりも低い酸素濃度を有する還元雰囲気であってよい。加熱工程における雰囲気の酸素濃度は、18%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。このような条件で加熱することによって、効率よく硫黄含有組成物を生成することができる。加熱工程で得られる亜硫酸ガスは、他の成分を含む排ガスに含まれた状態で得られてもよい。
加熱工程における加熱前の配合物は、硫黄含有廃棄物100質量部に対して、炭素源を10〜1000質量部、好ましくは15〜800質量部、より好ましくは20〜700質量部、さらに好ましくは100〜600質量部含む。このような割合の配合物を加熱することによって、効率よく硫黄含有組成物を生成することができる。
加熱工程において、配合物が500℃以上の温度域に到達するとは、配合物が、500℃以上である加熱部内に置かれる、又は供給されることを意味する。例えば、加熱部が温度分布を有するキルンであれば、500℃以上の温度を有する部分に配合物が進入ないし供給される時であり、チューブ炉であれば、炉内を昇温して配合物の周囲の温度が500℃に到達した時である。
500℃以上の温度に到達するときの配合物に含まれる硫黄含有廃棄物に対する炭素源の割合を調整するには、例えば、炭素源の種類および粒径等を変えて炭素源の燃焼速度を制御したり、加熱工程で用いられる加熱炉における炭素源の移動速度をガス風量やキルンの回転速度等によって制御したりすることが挙げられる。硫黄含有廃棄物に対する炭素源の供給割合を制御して調整してもよい。なお、炭素源の供給量は、例えば上記温度域に直接炭素源を吹き込んだり、投入したりすることができる装置を用いて調整してもよい。
500℃以上の温度域に到達するときの炭素源の含有量(残存量)は、炭素源を所定の雰囲気と昇温速度で加熱して燃焼したときの質量減少量から、計算で求めることができる。すなわち、加熱工程と同じ条件で炭素源を加熱し、炭素源が燃焼によって消失する量に基づいて、加熱工程において500℃以上の温度域に到達するときの炭素源の含有量を算出することができる。
加熱工程の雰囲気における酸素濃度は低い方が好ましい。雰囲気における酸素濃度が低いと、炭素源の燃焼が抑制され、硫黄含有廃棄物と反応する炭素源を増やすことができる。また、加熱雰囲気中に還元ガスが含まれることが好ましい。還元ガスは、可燃性有機物、一酸化炭素、アンモニア及び水素からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むガスであることが好ましい。還元ガスが、可燃性有機物、一酸化炭素、アンモニア及び水素からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むガスであることにより、好適な量の硫黄含有組成物が生成する。還元ガスの濃度は、同様の観点から、好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、より好ましくは1000ppm以上である。
硫黄含有廃棄物が石膏及び炭素を含む場合、加熱工程では例えば以下の反応式(1)で表される反応が進行する。また同時に以下の反応式(2)で表される反応も進行し、SO2が発生する。炭素源は、紙、廃プラスチック、炭素繊維、バイオマス、石炭及び石油からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むものが挙げられる。
CaSO4+2C→ CaS+2CO2 (1)
3CaSO4+CaS→ 4CaO+4SO2 (2)
上記加熱工程では、硫黄含有廃棄物及び炭素源とともに、硫黄含有廃棄物とは異なる硫黄を含む硫黄源を加熱して反応させることが好ましい。これによって、硫黄が硫黄含有廃棄物に含まれる酸素と反応し、硫黄含有組成物を効率的に生成することができる。なお、加熱工程の前に硫黄を含む硫黄源を燃焼させる硫黄燃焼工程を有してもよい。この場合、硫黄燃焼工程からの高温の燃焼ガスを、加熱工程において硫黄含有廃棄物を反応させるための熱源として利用してもよい。
加熱工程で得られる硫黄含有組成物は、硫酸塩、硫化物及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、硫化物を含むことがより好ましい。硫化物は、構成元素として、アルカリ土類金属、鉄、亜鉛、アルミニウム、銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。硫化物は、例えば硫化カルシウムを含んでよい。なお、本開示で硫化物の一形態である酸硫化物は、例えばカルシウム鉄酸硫化物を含んでよい。この硫化物を含む硫黄含有組成物を、セメント組成物を製造するセメント製造工程の一つである粉砕工程に入れて、セメントクリンカーや石膏とともに粉砕することで、六価クロム溶出量を低減することが可能なセメント組成物を製造することができる。硫黄含有組成物は、スラリーとして粉砕工程で添加してもよい。
硫黄含有組成物に、硫化物として含まれる、硫黄の合計含有量(以下、「硫化物形態の硫黄の含有量」と称する場合もある。)は、粉末X線回折測定で得られる回析パターンをリートベルト法により解析し、含まれる硫化物量の定量値から、以下の式で求めることができる。なお、複数種の硫化物が含まれる場合には、それぞれの硫化物形態の硫黄の含有量を求めた後、合算して求めることができる。
硫化物の含有量/硫化物の分子量×硫化物中の硫黄原子の数×硫黄の分子量
=硫化物形態の硫黄の含有量
硫化物形態の硫黄の含有量は、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」の硫化物硫黄の定量方法に準拠して求めてもよい。
硫黄含有組成物における硫化物形態の硫黄の含有量は、好ましくは0.1〜44質量%、より好ましくは1〜42質量%、さらに好ましくは5〜40質量%である。硫黄含有組成物における硫化物形態の硫黄の含有量が0.1質量%未満であると十分に六価クロム溶出を低減することが難しくなる傾向にある。一方、硫黄含有組成物における硫化物形態の硫黄の含有量が44質量%を超えると硫黄含有組成物の生産性が低下し、硫黄含有組成物の製造コストが高くなる傾向にある。
硫黄含有組成物における未燃炭素の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0,5〜5質量%であることがさらに好ましい。これによって、硫黄含有組成物を十分に生成させることができる。
加熱工程で発生する排ガスは、たとえば上記式(2)の反応によって生成する亜硫酸ガスを含む。一実施形態に係る脱硫生成物の製造方法は、このような亜硫酸ガスを含む排ガスを、アルカリ源と水とを含む原料スラリーと接触させて脱硫生成物を得る反応工程を有する。加熱工程で発生する亜硫酸ガスの濃度は、好ましくは100ppm〜10%、より好ましくは500ppm〜5%、さらに好ましくは1000ppm〜2%である。
亜硫酸ガスの濃度が100ppm未満であると脱硫生成物の生産量が少なくなり、脱硫生成物の製造コストが高くなる傾向にある。一方、亜硫酸ガスの濃度が10%を超えると反応工程における亜硫酸ガスの反応効率が低くなる傾向にある。なお、ここでいう反応効率とは、反応器の入口における亜硫酸ガス濃度に対する、反応器の出口における亜硫酸ガス濃度の比率で評価される。
アルカリ源は、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のどちらか一方を含んでいてもよいし、両方を含んでいてもよい。アルカリ源がアルカリ金属化合物を含む場合、アルカリ金属化合物は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいることが好ましい。これによって、より安価に脱硫生成物を生成することができる。また、反応工程において亜硫酸塩を十分に高い収率で発生させることができる。
アルカリ源がアルカリ土類金属化合物を含む場合、アルカリ土類金属化合物は、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、消石灰、酸化カルシウム、及び塩化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これによって、より安価に脱硫生成物を生成することができる。また、反応工程において亜硫酸塩を十分に高い収率で発生させることができる。
アルカリ源として、セメントクリンカーの原料の粉砕時に発生する炭酸カルシウムを主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部から抽出されるカルシウム化合物のダスト粒子、当該ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子、セメント及びセメント水和物の少なくとも一方を含む汚泥、並びに加熱工程で発生する硫黄含有組成物からなる群より選ばれる少なくとも一種を利用することが好ましい。反応工程において、セメントクリンカーの製造設備における生成物(副産物)を用いることによって、より安価に脱硫生成物を製造することが可能となる。
本実施形態の脱硫生成物の製造方法は、アルカリ源と水とを含む原料スラリーを調製するスラリー調製工程を有してもよい。反応工程では、この原料スラリーを用いることが好ましい。原料スラリーを用いることによって、加熱工程で得られる排ガスに含まれる亜硫酸等とアルカリ源との反応を効率よく進行させることができる。また、反応工程で得られる脱硫生成物をスラリー状にして、セメント組成物の製造に好適に用いることができる。原料スラリー中の固形分の割合は、ハンドリング性を良好にする観点から、0.1〜90質量%であることが好ましく、1〜85質量%であることがより好ましく、5〜80質量%であることがさらに好ましい。
原料スラリーは、アルカリ源全体に対し、カルシウム化合物をCaOとして10〜98質量%含有することがより好ましい。原料スラリーは、セメントクリンカー製造工程で発生する無機化合物を回収して調製してもよい。このような無機化合物としては、クリンカー原料を粉砕する際に発生するCaCO3を主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部で発生したCaO及び/又はCa(OH)2を含むダスト粒子、並びに該ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子等が挙げられる。原料スラリーには、セメント及び/又はセメント水和物を含む汚泥を配合して調製してもよい。汚泥としては、例えば、生コン工場で得られる生コンスラッジが挙げられる。
反応工程では、例えば原料スラリーに含まれるアルカリ源と、加熱工程で発生する排ガスとを接触させることで脱硫生成物を得る。得られる脱硫生成物は亜硫酸塩(亜硫酸化合物)を含むことが好ましい。亜硫酸塩は、亜硫酸カルシウム(例えば半水和物)、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸マグネシウム、重亜硫酸カルシウム(Ca(HSO2)2)、重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムの複塩も上記亜硫酸塩に含まれる。これによって、六価クロムの溶出抑制に一層有効な脱硫生成物を製造することができる。脱硫生成物は、硫化カルシウム等の硫化物を含んでいてもよい。このような脱硫生成物は、硫黄含有組成物とともに、例えばセメント製造の際の還元材として一層好適に用いることができる。
加熱工程で発生する排ガスに硫化水素が含まれる場合、反応工程では、亜硫酸塩に加えて硫化カルシウム、硫化ナトリウム、硫化マグネシウム等の塩も生成してよい。この場合、脱硫生成物は、亜硫酸塩に加えて硫化カルシウム、硫化ナトリウム、硫化マグネシウム等の塩を含んでよい。
脱硫生成物はスラリー状で得てもよい(以下、「脱硫生成物スラリー」と称する。)。脱硫生成物スラリーにおける亜硫酸化合物(無水物換算)の含有量は、固形分全体に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
脱硫生成物スラリーは亜硫酸化合物以外の成分を含んでもよい。そのような成分として、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム及び硫酸カルシウム等が挙げられる。これらの成分の少なくとも一種を含んでよい。硫酸カルシウムは、二水和物(二水石膏)、半水和物(半水石膏)、及び無水物(無水石膏)のいずれを含んでもよい。
脱硫生成物は、上述のようなスラリー状でなくてもよい。変形例では、反応工程において、原料スラリーを亜硫酸ガス又はこれを含む排ガス中に噴霧して乾燥するスプレードライを行うことによって、粉状の脱硫生成物を得てもよい。また、別の変形例では、原料スラリー調製工程を行わずに、上述の原料スラリーに含まれる成分を固形(粉状)のまま、亜硫酸ガスと接触させて反応工程を行ってもよい。この場合、反応工程は、例えばアルカリ源、カルシウム化合物及び灰分等を固体粒子とする流動層を用いて行うことができる。この場合も、粉状の脱硫生成物を得ることができる。
反応工程で発生する排ガスは、一実施形態に係るクリンカーの製造方法における導入工程(図1参照)で用いてもよい。このようなクリンカーの製造方法は、通常のキルンを備えるセメント製造装置において、キルンに反応工程で発生する排ガスを導入することによって、セメントクリンカー及び/又はマグネシアクリンカーを製造することができる。導入工程では、加熱工程で発生する亜硫酸ガスを含む排ガスを導入してもよい。これによって、反応工程及び加熱工程で発生する排ガスに含まれる硫黄系ガスをクリンカーの原料に有効活用することができる。また、排ガスの処理コストを低減することもできる。これらの排ガスのキルンへの吹き込みはキルン二次空気の中に入れてもよいし、サイクロンプレヒーターに吹き込んでもよい。
一実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、硫黄分を含む原料を焼成してセメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程と、上述の反応工程と、上述の加熱工程と、セメントクリンカーと上記硫黄含有組成物及び/又は上記脱硫生成物とを含む配合物を粉砕し、セメント組成物を得る粉砕工程を有する。
セメントクリンカー製造工程で得られるセメントクリンカーは、その種類に特に制限はなく、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントのいずれであってもよい。本実施形態のセメント組成物によれば、十分に六価クロムの溶出を抑制できる。セメントクリンカーの全クロム量は、例えば、20mg/kg〜250mg/kgであってもよく、80mg/kg〜200mg/kgであってもよく、100〜150mg/kgであってもよい。セメント協会標準試験方法JCAS I−53−2018記載の方法に準拠して測定されるセメントクリンカーの水溶性六価クロムの量は、例えば、3〜40mg/kgであってもよく、10〜40mg/kgであってもよく、20〜30mg/kgであってもよい。また、反応工程で発生する排ガス、及び/又は、加熱工程で発生する排ガスをキルンに吹き込みながら製造したセメントクリンカーであってもよい。
一例として、粉砕工程では、セメントクリンカーと、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリーと、石膏と、を配合した後、これらを含む配合物を粉砕してセメント組成物を得てもよい。別の例として、粉砕工程では、セメントクリンカーと、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリーと、石膏と、の配合と粉砕を同時に行ってもよい。さらに別の例として、粉砕工程では、セメントクリンカーをある程度粉砕した後、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリーと、石膏と、を配合し、得られた配合物をさらに粉砕してもよい。さらに別の例として、セメントクリンカーと石膏とを粉砕したものと、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリーを粉砕したものと、を混合してセメント組成物を得てもよい。
このセメント組成物の製造方法によれば、低い製造コストで製造される硫黄含有組成物及び脱硫生成物の少なくとも一方を用いることから、低い製造コストでセメント組成物を製造することができる。また、このようなセメント組成物は、上記硫黄含有組成物及び脱硫生成物の少なくとも一方を含むことから、六価クロムの溶出を抑制することができる。特に上記硫黄含有組成物と脱硫生成物の双方を用いることが好ましい。これによって、六価クロム溶出抑制により有効なセメント組成物を製造することができる。
硫黄含有組成物及び脱硫生成物の製造装置の一実施形態を以下に説明する。この製造装置は、硫黄含有廃棄物と炭素源とを加熱して硫黄含有組成物を得る加熱部と、亜硫酸ガスと、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むアルカリ源と、を反応させて、脱硫生成物を得る反応部と、を備える。
この製造装置では、硫黄含有廃棄物を用いて硫黄含有組成物及び脱硫生成物を製造する。この硫黄含有組成物は、例えば還元性の硫化物等を含むことから、六価クロムの溶出抑制に有効である。したがって、六価クロムの溶出抑制に有効な硫黄含有組成物を低い製造コストで製造することができる。加えて、この製造装置では、亜硫酸塩を含む脱硫生成物が副産物として生成する。この脱硫生成物は、例えば亜硫酸塩を含むことから、六価クロムの溶出抑制に有効である。したがって、六価クロムの溶出抑制に有効な硫黄含有組成物及び脱硫生成物を低い製造コストで製造することができる。
加熱部としては、例えば、キルン及び/又は流動床炉等を用いることができる。これらのうち、還元雰囲気で加熱できる設備を用いることが好ましい。
図2は、硫黄含有組成物及び脱硫生成物を製造する製造装置の一例を示す図である。製造装置100は、加熱部70、原料スラリー調製部34、及び反応部30を備える。加熱部70では、上述の説明内容に基づいて加熱工程を行うことができる。加熱部70では、硫黄含有組成物が得られるとともに、亜硫酸ガス又は亜硫酸ガスを含む排ガスが発生する(図では便宜的に「SO2」と表示している。)。反応部30は例えばバブリング槽であり、上述の説明内容に基づいて反応工程を行うことができる。原料スラリー調製部34では、上述の説明内容に基づいて原料スラリー調製工程を行うことができる。加熱部70で得られる硫黄含有組成物がCaOを含む場合、原料スラリー調製部34に導入して、アルカリ源及び水と配合してもよい。
製造装置100は、反応部30の下流側に、スラリー濃度調整部36、配合部51、及びセメントミル52を備える。反応部30及びスラリー濃度調整部36で得られた脱硫生成物スラリー(脱硫生成物)は、還元材としてセメント組成物の製造に用いてもよい。なお、反応部30で発生する排ガスの少なくとも一部は、例えば加熱部70又は別のセメントキルンに導入してもよい。これによって、反応部30で発生する排ガスに亜硫酸ガスが含まれている場合に、亜硫酸ガスを有効活用することができる。
スラリー濃度調整部36では、スラリー濃度調整工程を行う。スラリー濃度調整部36は、乾燥、脱水又は加水によって、脱硫生成物スラリー中の固形分濃度を調整する。例えば、スラリー濃度調整部36は、脱水部及び乾燥部を有していてよい。脱水部で脱水された脱硫生成物スラリーと、乾燥部で乾燥して得られた固形分と、脱水されていない脱硫生成物スラリーとを配合して脱硫生成物スラリーの固形分濃度を調節してもよい。スラリー濃度調整後の脱硫生成物スラリー中の固形分濃度は、0.1〜95質量%であってよい。脱硫生成物スラリー中の固形分の割合は、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは3〜50質量%であり、さらに好ましくは5〜40質量%である。このような範囲であれば、脱硫生成物スラリーの取り扱い性を高水準に維持しつつ、脱硫生成物スラリーとセメント組成物との混合を十分に均一にすることができる。
脱硫生成物スラリーにおける固形分全体に対する亜硫酸塩の含有量(無水物換算)は、例えば5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。このようにしてスラリー濃度調整工程で得られる脱硫生成物スラリーを、亜硫酸塩を含む脱硫生成物として得てもよい。
配合部51では、スラリー濃度調整部36でスラリー濃度が調整された脱硫生成物スラリーとセメントクリンカーとを配合する配合工程を行う。得られるセメント組成物を100質量部としたときに、セメントクリンカーに、脱硫生成物スラリーを亜硫酸塩の無水物換算(又は亜硫酸カルシウムの無水物換算)で好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.15〜15質量部、さらに好ましくは0.2〜10質量部、特に好ましくは0.25〜5質量部配合する。これによって、得られるセメント組成物における亜硫酸塩の含有量を維持しつつ、配合物の粉砕を円滑に行うことができる。脱硫生成物スラリーが亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩を含む場合は、複塩における亜硫酸カルシウムが上述の質量割合で含有されてよい。
配合部51では、必要に応じて石膏及び硫黄含有組成物を配合してもよい。配合される石膏は、二水石膏、半水石膏及び無水石膏のいずれの形態であってよい。各形態の石膏は単独で配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。セメントクリンカー、石膏、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリーの配合の順序は特に制限されず、これらのうちの2種を先に配合した後に残りのものを配合してもよいし、3種又は4種を同時に配合してもよい。石膏の配合量は、セメントクリンカーに対して、SO3換算で3〜10質量%程度としてよい。石膏は、脱硫生成物スラリーの一部を酸化及び脱水して調製したものであってよい。セメントクリンカー100質量部に対する石膏の配合比は、SO3換算で1.5〜20質量部程度であってよい。
セメントミル52では、セメントクリンカーと、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリーと、必要に応じて石膏と、を含む配合物を粉砕する粉砕工程を行う。セメントミル52は、ボールミルであってよいし竪型ミルであってもよい。このようにしてセメント組成物が得られる。すなわち、製造装置100は、セメント組成物の製造方法を行うセメント組成物の製造装置にも該当する。
このようにして得られるセメント組成物は、硫化物を含む硫黄含有組成物を含有することから、六価クロムの溶出量を低減することができる。また、硫黄含有組成物は、硫黄含有廃棄物に由来するものであることから、セメント組成物を低い製造コストで製造することができる。なお、配合部51とセメントミル52を一体化して、配合と粉砕を同時に行ってもよい。この場合、セメントミル52には、セメントクリンカー、硫黄含有組成物及び/又は脱硫生成物スラリー、石膏、及び粉砕助剤等を導入し、粉砕しながら混合することでセメント組成物を製造する。
このようにして製造されるセメント組成物は、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定のポルトランドセメントにすることができる。このようなポルトランドセメントとして、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。更に、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカ質から選ばれる少なくとも1種を加えて混合セメントにしてもよい。
セメント組成物は硫化物及び/又は亜硫酸塩を含むことから、セメント組成物における六価クロムの含有量を低減することができる。セメント組成物における硫化物及び/又は亜硫酸塩の合計含有量は、例えば0.1〜15質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
セメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2500〜6000cm2/gであり、より好ましくは3000〜5000cm2/gである。ブレーン比表面積が2500cm2/g以上であれば、優れた強度発現性を達成しやすくなる。他方、ブレーン比表面積が6000cm2/g以下であれば、コンクリート又は固化材スラリーとして使用したときの粘性を好適な範囲に制御しやすい。
セメント組成物に含まれる石膏の形態は、二水石膏又は無水石膏(II型)であることが好ましい。セメント組成物に含まれる石膏のうち、半水石膏の割合は二水石膏と無水石膏の合量に対して98質量%以下であってよく、0.1〜95質量%であることが好ましく、5〜85質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
図3は、硫黄含有組成物及びセメント組成物の製造装置の別の実施形態を示す図である。図3の製造装置101は、反応部30Aがスプレードライによって粉状の脱硫生成物を得る点、及び、スラリー濃度調整部36を備えない点で、図2の製造装置100と異なっている。製造装置101のその他の構成は、図2の製造装置100と同様である。
反応部30Aでは、原料スラリー調製部34で調製された原料スラリーが、亜硫酸ガス中に噴霧して乾燥される。これによって粒子状の脱硫生成物が得られる。反応部30Aで得られた脱硫生成物は、配合部51に導入され、セメントクリンカー、硫黄含有組成物、及び、必要に応じて石膏と配合される。配合後、セメントミル52における粉砕工程によってセメント組成物が製造される。
図4は、硫黄含有組成物及びセメント組成物の製造装置のさらに別の実施形態を示す図である。図4の製造装置102は、反応部30Bが流動層であり、アルカリ源、CaO及び硫黄含有組成物が、固形のまま反応部30Bに供給されて、亜硫酸ガスを含む排ガスと接触する点、原料スラリー調製部34を備えない点で、図3の製造装置101と異なっている。製造装置102のその他の構成は、図3の製造装置101と同様である。
製造装置102であれば、硫黄含有組成物と脱硫生成物の混合物を粉状で得ることができる。この混合物は例えば亜硫酸塩と硫化物を含む。加熱部70で得られる硫黄含有組成物にカルシウム化合物(例えばCaO)が含まれる場合は、これらを反応部30Bに導入することによって、亜硫酸塩等を新たに生成することができる。これによって、硫黄含有組成物に含まれるカルシウム化合物の有効利用を図ることができる。アルカリ源も、粉状のまま反応部30Bに直接導入してよい。
図5は、硫黄含有組成物、脱硫生成物及びセメント組成物の製造装置の一例を示す図である。製造装置104は、加熱工程をそれぞれ行う2つの加熱部70,71を備える。加熱部71は、セメントクリンカー焼成部である。2つの加熱部70,71のうち、加熱部70において、硫黄含有組成物と亜硫酸ガスを含む排ガスが得られる。
製造装置104は、硫黄含有原料及びクリンカー原料を焼成してセメントクリンカーを生産するセメントキルン部10、排ガスを抽気するバイパス部12及び1つ又は複数のサイクロンを有するプレヒータ部16を備える加熱部71と、加熱部71で発生する排ガスに含まれる亜硫酸ガスを原料スラリーに吸収して、亜硫酸カルシウムを含む脱硫生成物スラリーを得る脱硫部60と、硫黄含有組成物を得る加熱部70と、セメントクリンカーと硫黄含有組成物を含む配合物を粉砕してセメント組成物を得る粉砕部50と、を備える。
プレヒータ部16は、原料とセメントキルン部10からの排ガスとを接触させて原料を予熱する。バイパス部12は、セメントキルン部10の窯尻10aとプレヒータ部16のボトムサイクロン(最下部にあるサイクロン)又は仮焼炉(不図示)との間から亜硫酸ガスを含む排ガスを抽気する。このバイパス部12は塩素バイパス部であってよい。セメントキルン部10で製造されたセメントクリンカーは、冷却部11において40〜220℃に冷却されて、サイロ18に導入される。
脱硫部60は、バイパス部12から抽気された排ガス及び窯尻10aから抜き出された排ガスを、例えば400℃以下、好ましくは100〜200℃に冷却して凝集する塩素化合物を含むダスト粒子を生成する冷却部17と、排ガスに含まれるダスト粒子の少なくとも一部を除去して、亜硫酸ガスを含む排ガスを得る集塵部19と、排ガスとカルシウム化合物を含む原料スラリーとを接触させて、亜硫酸化合物として亜硫酸カルシウムを含む脱硫生成物スラリーを得る反応部30と、原料スラリーを調製する原料スラリー調製部34を備える。反応部30及び原料スラリー調製部34において、反応工程及び原料スラリー調製工程が行われる。
セメントキルン部10では、石炭、及び石油コークス等が燃焼するとともに原料が反応して、亜硫酸ガスを含む排ガスが発生する。セメントキルン部10の窯尻10aとプレヒータ部16との間に、バイパス部12を構成する抽気管から抽気されたガスが排ガスとして回収される。このバイパス部12からの排ガス中の亜硫酸ガスの濃度は、例えば100〜5000ppm程度であってよい。
排ガスは、窯尻10aから抜き出されてもよい。窯尻10aから抜き出される排ガスの温度は例えば700〜1200℃であり、亜硫酸ガスの濃度は500〜10000ppmであってよい。窯尻10aから抜き出された排ガスとバイパス部12からの排ガスは、合流して又は個別に、冷却部17に導入され、例えば100〜200℃程度に冷却される(冷却工程)。冷却部17における冷却は、排ガスに外気(空気)等を混ぜることによって行ってもよいし、冷却水又は空気等との熱を用いたクーラーによって行ってもよい。
排ガスを冷却することによって、排ガスに元々含まれるダスト粒子の表面に揮発性の塩素化合物等が凝集する。このようなダスト粒子の少なくとも一部は、集塵部19によって取り除かれる(集塵工程)。集塵部19は、例えばバグフィルタを有する。排ガスがダスト粒子を含んでいてもよい場合、排ガスは、集塵部19をバイパスして、反応部30に直接導入してもよい。
集塵部19で捕集されたダスト粒子は、水洗部31で水洗され塩分が低減される。水洗部31で塩分が低減された水洗ダスト粒子は、例えば、CaO及び/又はCa(OH)2を含有する。この水洗ダスト粒子は、原料スラリー調製部34に導入されて排ガスの脱硫のみならず亜硫酸カルシウムの原料として有効活用される。なお、集塵部19で捕集されたダスト粒子は水洗されずに、そのまま原料スラリー調製部34に導入されてもよい。
集塵部19においてダスト粒子の少なくとも一部が取り除かれた排ガスは、反応部30に導入される。反応部30では、原料スラリーと亜硫酸ガスを含む排ガスとを接触させる。これによって、亜硫酸ガスが原料スラリーに取り込まれて、脱硫生成物スラリーを得ることができる。また、大気中への放出が規制される亜硫酸ガスの有効利用を図ることができる。このように反応部30は、排煙脱硫部としても機能する。なお、原料スラリーと排ガスの接触手段はバブリングに限定されるものではなく、原料スラリーをスプレー散布する方法(スプレードライ)であってもよい。
加熱部70で硫黄含有廃棄物と炭素源を加熱し硫黄含有組成物が得られる。反応部30に、加熱部70で発生する亜硫酸ガス又はこれを含む排ガスが導入される。加熱部70からの亜硫酸ガス(排ガス)と集塵部19からの排ガスは、合流した後に反応部30に導入されてもよいし、個別に反応部30に導入されてもよい。加熱部71を備えることは必須ではなく、加熱部70で生成する亜硫酸ガスのみを用いて脱硫生成物スラリー及びセメント組成物を製造してもよい。
反応部30には、空気を導入してもよい。これによって、亜硫酸カルシウムの一部を酸化して硫酸カルシウムの二水和物を得てもよい。これによって、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムの二水和物とを含む脱硫生成物スラリーを得ることができる。このようにして得られる脱硫生成物スラリーは、セメント組成物の製造に用いてもよいし、他の用途に用いてもよい。セメント組成物の製造に用いる場合、脱硫生成物スラリーが硫酸カルシウムの二水和物を含有することによって、配合部51における石膏の配合量を低減又はなくすことができる。
反応部30には、原料スラリー調製部34から原料スラリーが連続的又は断続的に供給される。原料スラリー調製部34には、水及びクリンカー原料(例えば石灰石)を粉砕する粉砕部82で発生するCaCO3を主成分とする微粒子粉末が供給される。原料スラリー調製部34には、この他に、加熱部70で得られる硫黄含有組成物が供給されてもよい。また、原料スラリー調製部34には、上述のダスト粒子及び水洗ダスト粒子に加えて、セメント又はセメント水和物を含む汚泥が導入されてもよい。汚泥としては、例えば、生コン工場で得られる生コンスラッジが挙げられる。
反応部30で脱硫された排ガスは、冷却部11に導入されセメントクリンカーと熱交換する流路を流通して、セメントキルン部10に導入される。これによって、排ガスに残存する亜硫酸ガスを有効活用することができる。また、排ガスがNOxを含有する場合に、大気中へのNOxの放出を抑制することができる。導入経路はこれに限定されず、プレヒータ部又は仮焼炉等を介して、セメントキルンに導入してもよい。また、集塵部19においてダスト粒子が低減された排ガスの一部は、反応部30をバイパスし、冷却部11を経由する流路によってセメントキルン部10に導入されてもよい。
反応部30で調製された脱硫生成物スラリーの少なくとも一部は、スラリー濃度調整部36に導入される。反応部30で調製された脱硫生成物スラリーの別の一部は、酸化処理部42において酸化処理されてよい。酸化処理は例えば空気をバブリングすることによって行う。このように酸化処理した脱硫生成物スラリーは石膏を含む。その後、脱硫生成物スラリーを脱水部44で脱水して石膏が得られる。このようにして得られた石膏は配合部51に導入される。
スラリー濃度調整部36における脱硫生成物スラリー中の固形分濃度は、セメントクリンカーの温度Tr、セメントミル52から導出されるセメント組成物の温度Tm、及びセメント組成物の強熱減量Igに基づいて上記濃度範囲に制御される。具体的には、セメントクリンカーの温度Tr、セメント組成物の温度Tm、及びセメント組成物の強熱減量Igのそれぞれの測定値が入力信号として第1制御部38に入力される。第1制御部38は、3つの入力信号のいずれかを選択し、スラリー濃度調整部36に、脱硫生成物スラリー中の固形分濃度の目標値に関する制御信号を出力する。第1制御部38は、複数の入力信号のうち、固形分濃度を最も多く調整する信号を選択してよい。スラリー濃度調整部36では、第1制御部38からの制御信号に基づいて、脱硫生成物スラリー中の固形分濃度を調整する。第1制御部38は、上述の3つの測定値と脱硫生成物スラリーの固形分濃度との関係を示すテーブルデータを有していてもよいし、相関式データを有していてもよい。
反応部30とスラリー濃度調整部36とを個別に設けることは必須ではない。変形例では、反応部30において脱硫生成物スラリーの固形分濃度の調整を行ってもよい。この場合、第1制御部38からの制御信号は反応部30に入力されてもよい。また、第1制御部38に入力される測定値は、セメントクリンカーの温度Tr、セメントミル52から導出されるセメント組成物の温度Tm、及びセメント組成物の強熱減量Igから選ばれるいずれか一つであってもよいし、二つであってもよい。
固形分濃度が調製された脱硫生成物スラリーと、サイロ18に貯留されていたセメントクリンカーは、粉砕部50における配合部51に導入される。セメントクリンカーは、一旦サイロ18に貯留された後に導入されてもよいし、冷却部11から直接導入されてもよい。配合部51に導入されるセメントクリンカーの温度Trは、例えば40〜220℃である。
配合部51では、必要に応じて、石膏、及び/又は、加熱部70で得られる硫黄含有組成物を配合してもよい。加熱部70で得られる硫黄含有組成物は、硫化物を含む。硫化物は、構成元素として、アルカリ土類金属、鉄、亜鉛、アルミニウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。セメント組成物を100質量部としたときに、セメントクリンカーに、硫黄含有組成物を上記硫化物の無水物換算(又は硫化カルシウムの無水物換算)で好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.15〜15質量部、さらに好ましくは0.2〜10質量部、特に好ましくは0.25〜5質量部配合する。これによって、得られるセメント組成物における硫化物の含有量を維持しつつ、配合物の粉砕を円滑に行うことができる。脱硫生成物スラリーを配合する場合は、脱硫生成物に含まれる亜硫酸カルシウムと硫黄含有組成物に含まれる硫化物を合算した量で,上述の質量割合で含有されてよい。セメントクリンカー100質量部に対する石膏の配合比は、SO3換算で1.5〜20質量部程度であってよい。なお、本例では、脱硫生成物をスラリーとして配合部51に投入しているが、脱硫生成物を、固形物(乾粉)として配合部51に投入してもよい。
このようにして得られる、六価クロムの溶出量を低減することが可能なセメント組成物は、サイロ54に収容される。セメント組成物の強熱減量Ig(ig.loss)は、例えば1.0〜8.0質量%であってよい。
集塵部19の下流側には、排ガスのSO2濃度Sgを測定する測定器が設置されていてもよい。また、窯尻10aには、ダスト中のSO3濃度Spを測定する測定器が設置されていてもよい。SO2濃度Sgは、加熱部71に供給される原料の硫黄分を調整して500〜10000ppmに制御されてよい。原料の硫黄分の調整は、硫黄含有原料の供給量を変更して行ってもよいし、硫黄含有原料中の硫黄濃度を変更して行ってもよい。
本例では、粉砕部50は、配合部51とセメントミル52を備えるが、これに限定されない。例えば、変形例では、セメントクリンカー、硫黄含有組成物及び必要に応じて配合される石膏は、セメントミル52に直接導入され、セメントミル52で配合及び粉砕を行ってもよい。また、セメントクリンカーと石膏を配合部51で配合し、配合部51からセメントミル52に得られた配合物を搬送するベルトコンベア上において、配合物に硫黄含有組成物を散布し、セメントミル52で粉砕を行ってもよい。
別の変形例では、セメントキルン部10から導出されるセメントクリンカーのクロム含有量に応じて、セメントクリンカーに対する硫黄含有組成物の配合比を調整する第2制御部を備えていてもよい。セメントクリンカーのクロム含有量は、所定の頻度でサイロ18からサンプリングして計測してもよいし、加熱部71に導入される原料に含まれるクロム含有量から計算で求めてもよい。
第2制御部は、上述のようにして求められるセメントクリンカーのクロム含有量の入力値に基づいて、セメントクリンカーに配合される硫黄含有組成物の量を算出する。第2制御部は、セメントクロム含有量と硫黄含有組成物の配合量の関係を示すテーブルデータを有していてもよいし、両者の相関式データを有していてもよい。第2制御部は、このようなデータを用いて硫黄含有組成物の配合量を算出する。第2制御部は算出結果に基づいて、例えば、硫黄含有組成物の量を調節するベルトコンベアの速度の制御を行ってもよい。このようにして、セメントクリンカーに対する硫黄含有組成物の配合比を調整することができる。
第2制御部による制御は、固形物(乾粉)である硫黄含有組成物を用いて行ってもよいし、硫黄含有組成物と水とを混合して、流動性を有する硫黄含有組成物スラリーとして、この硫黄含有組成物スラリーの流量を調節して行ってもよい。また、第2制御部の少なくとも一部は、第1制御部と共通で構成されていてもよいし、個別に構成されていてもよい。
本開示のセメント組成物の製造方法は、上述の製造装置100,101,102,104のいずれかを用いて行ってよい。
製造装置100,101,102,104は、上述のセメント組成物の製造方法の内容に基づいて使用してもよい。したがって、セメント組成物の製造方法で説明した内容はセメント組成物の製造装置にも適用することができる。また、製造装置100,101,102,104及びその変形例の説明内容は、上述の硫黄含有組成物、脱硫生成物、クリンカー、及びセメント組成物の製造方法にも適用することができる。本開示のセメント組成物の製造装置は、硫黄含有組成物の製造と、排ガスの脱硫及び脱硫生成物スラリーの製造を併せて行うことが可能であり、スラリーの脱水設備等を設けたり、脱水後の固形物用の専用タンク、計量機、輸送設備を設けたりすることが必要ではなくなる。また、硫黄含有組成物の製造に加えて脱硫生成物スラリーの製造も安定化できる。このため、設備の導入コスト及び運転コストを十分に低減することができる。ただし、本開示は、このような設備を備えるものを排除するものではない。
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、図5の製造装置104では、図2と同様の反応部30を備えているがこれに限定されない。例えば、反応部30に代えて、図3に示されるようなスプレードライ方式で粒状の脱硫生成物を得る反応部30Aを備えていてもよい。また、図4に示されるような流動層方式で粒状の脱硫生成物を得る反応部30Bを備えていてもよい。これらの場合、図5のスラリー濃度調整部36はなくてもよいし、粉状の脱硫生成物をスラリー化する脱硫生成物スラリー調製部に置換してもよい。
以下、実施例及び比較例を参照して、本開示の内容を詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
チューブ炉及びロータリーキルンを用いて、以下のとおり加熱工程を行い、生成物の評価を行った。
[チューブ炉による焼成]
以下の原材料を準備した。
(1)廃石膏ボード破砕品
(2)廃プラスチック(RPF)
廃石膏ボード破砕品100質量部に対して、廃プラスチック(RPF)を表1に示すとおり20〜200質量部配合して混合し原料を調製した。この原料10gを、アルミナ製の船形るつぼに入れ、チューブ炉(光洋サーモスシステム株式会社製:KTF434−S)を使用して、表1に示す温度で60分間加熱した。加熱の際、チューブ炉には表に記載のガスを、表1に記載の流量で流通させた。ガスの記載がない実施例は、チューブ炉を密閉して加熱した。
XRD−リートベルト法によって、るつぼに残存した生成物(灰分)の組成分析を行った。組成分析には、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、加速電圧:30kV、電流10mA、管球:Cu)を用いた。得られた粉末X線回折パターンのリートベルト解析を行い、石膏(CaSO4)、硫化カルシウム(CaS)、酸化カルシウム(CaO)及び石英(SiO2)の量を測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Topas)を用いた。
XRD−リートベルト法によって求めた組成分析の結果は表1に示すとおりであった。硫化物形態の硫黄、すなわち硫化物として含まれる硫黄の含有量を、XRD−リートベルト法で測定したCaS量を用いて、以下の式で求めた。結果は表1に示すとおりであった。
[CaSの含有量]/[CaSの分子量:72]×[CaSの硫黄原子の数:1]×[Sの分子量:32]=[硫化物形態の硫黄の含有量]
実施例1〜7に示すとおり、窒素ガスの流通条件下、又は流通ガスなしの密閉条件下では、CaSが生成した。実施例1〜7では、500℃以上の温度域に到達したときに、廃石膏ボード破砕品に対して廃プラスチックが10質量%以上残存しており、これがCaS生成の要因となっている。また、表1の結果から、密閉条件において、廃プラスチックの配合量が増加するほど、CaSの生成量が増加する傾向があることが確認された。
[ロータリーキルンによる焼成]
以下の原材料を準備した。
(1)廃石膏ボード破砕品
(2)おが屑(集成材)
廃石膏ボード破砕品100質量部に対して、おが屑を表2に示す割合で配合して混合したものを原料とした。スクリューフィーダーを用いて、原料をロータリーキルン炉(中央化工機株式会社製)に投入し、空気30L/minの流通雰囲気下で、950℃で加熱した。ロータリーキルンの回転数は3rpm、傾斜角は5%とした。加熱後の生成物を、実施例1〜3と同じ方法で組成分析して、各成分の含有量と、硫化物形態の硫黄の含有量を求めた。
参考例8,9及び実施例10についても、ロータリーキルンで500℃以上の温度域に配合物が到達したときに、廃石膏ボード破砕品に対しておが屑(炭素源)が10質量%以上残存する条件では、いずれも廃石膏に含まれる石膏(CaSO4)が反応してCaSが生成した。おが屑の配合量が多くなるほどCaSの生成量が増加する傾向がみられた。CaSが生成するためには、500℃に到達するまでに炭素源が残存し、石膏と炭素源が接触する必要がある。そのため、500℃に到達するまでの間における燃焼による減少量を想定し、必要量以上のおが屑を配合する必要がある。なお、おが屑が配合されていない比較例2の場合、上述の焼成条件では石膏は反応しなかった。参考例8〜9では、亜硫酸ガスの濃度が5000ppmである排ガスを得ることができた。この排ガスと炭酸カルシウムスラリーと接触させることで、亜硫酸Caが得られることを確認した。