JP2022044570A - セメント製造方法、セメント製造システム、セメント硬化物の製造方法 - Google Patents

セメント製造方法、セメント製造システム、セメント硬化物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】生成されるセメント硬化物の強度低下を抑制しつつ、バイオマス灰を有効に活用できる、セメント製造方法及びセメント製造システムを提供する。【解決手段】本発明のセメント製造方法は、バイオマス灰を、粗粉と細粉に分級する工程(a)と、工程(a)で得られた細粉を、セメントキルンに投入されるセメントクリンカ原料、セメントキルンから得られたセメントクリンカ、又はセメントクリンカに対する粉砕処理後のセメント、の少なくともいずれかに対して投入する工程(b)とを有する。【選択図】図2

Description

本発明はセメント製造方法及びセメント製造システムに関し、特にバイオマス灰をセメント原料等に利用したセメント製造方法及びセメント製造システムに関する。また、本発明は、バイオマス灰を利用したセメント硬化物の製造方法に関する。
都市ゴミの焼却等により発生する焼却灰は、近年、処分場が逼迫しつつあることを背景に、セメント原料等として資源化することが望まれている。また、再生可能エネルギーの普及に向けた各所事業体における諸般の取り組みにより、バイオマス発電設備の建設や運開が進んでおり、バイオマス発電で発生する焼却灰(バイオマス灰)の発生量も増大している。このため、バイオマス灰についても、都市ゴミ等の焼却灰と同様に、セメント原料等として資源化することが期待されている。
このような課題に関連して、例えば、下記非特許文献1では、バイオマス灰をセメント混和材に適用することが検討されている。
佐川孝広 他,『木質バイオマス焼却灰のセメント混和材への適用』,第70回セメント技術大会講演要旨,2016〔1307〕
上記非特許文献1では、バイオマス灰がそのままセメント混和材として使用されている。しかしながら、この方法によれば、得られたセメントを利用したコンクリートやモルタル等のセメント硬化物の強度が大きく低下するという問題がある。
本発明は、生成されるセメント硬化物の強度低下を抑制しつつ、バイオマス灰を有効に活用できる、セメント製造方法及びセメント製造システムを提供することを目的とする。
本発明に係るセメント製造方法は、
バイオマス灰を、粗粉と細粉に分級する工程(a)と、
前記工程(a)で得られた前記細粉を、セメントキルンに投入されるセメントクリンカ原料、前記セメントキルンから得られたセメントクリンカ、又は前記セメントクリンカに対する粉砕処理後のセメント、の少なくともいずれかに対して投入する工程(b)とを有することを特徴とする。
バイオマス灰は活性が低いが、粒度の小さい細粉ほど活性が高く、アルカリ金属含有量も高い。このため、上記方法のように、バイオマス灰を分級した後に得られる細粉が、セメントクリンカ原料やセメントクリンカ(以下、両者をまとめて「セメント原料」と称することがある。)、又はセメントに対して混合されることで、ポゾラン反応が活性化する。従って、分級前のバイオマス灰(以下、「原灰」という。)をセメント原料やセメントに投入した場合よりも、セメント硬化物の強度が高められる。
上記工程(b)の具体的な方法としては、セメントクリンカの原料の調合のための混合機や粉砕機など原料調合系統設備への投入、セメントキルン(ロータリーキルン)前のプレヒータトップや仮焼炉への投入、セメントキルン窯尻への投入、セメントキルン窯前への投入、焼成して得られたセメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラへの投入、セメントクリンカを粉砕するための粉砕装置(ミル)への投入、混合セメント製造用の混合機への投入、コンクリートミキサへの投入等が挙げられる。すなわち、工程(a)で得られたバイオマス灰の細粉は、セメント製造の際の種々の段階に投入が可能であり、セメントクリンカ原料や、セメント混合材、セメント混和材として好適に使用され得る。
なお、以下において、本明細書では「混合材又は混和材」と記載することによる冗長を回避する観点から、単に「混合材」と記載した場合には、セメント製造段階にかかわらずセメントクリンカ又はセメントに対して投入される材料を指すものとする。
この工程(a)は、水が添加されておらず水和物の形成反応が進行していない状態のバイオマス灰(好ましくは乾灰)に対して実行されるのが好ましい。例えば、バイオマス灰が湿灰であって、凝集したり水和物が形成されている状態の場合には、分級を行った場合においても、粗粉側にも塩素が多く含まれる可能性がある。
本明細書において、「乾灰」とは、バイオマス灰のうち乾燥された状態で回収され、分級処理を行うまでに水が添加されておらず、凝集したり水和物が形成されていないものを指す。また、前記の乾灰は、分級処理を行う前に水が添加されても、水が多く添加され分散された状態であり、長期間の保管により水和物が形成されていない場合も含む。また、本明細書において、「湿灰」とは、例えば焼却炉の炉底から排出される焼却残留物である主灰や集塵機等で回収された飛灰を、水冷又は散水されたことで水分を含む状態で回収されたものや、それを乾燥したものを指す。一般的に、湿灰は含水率が15質量%以上である。
前記セメント製造方法は、前記バイオマス灰を水洗する工程(c)を有し、
前記工程(b)は、前記工程(c)によって水洗された後の前記細粉を投入する工程としても構わない。
本発明者らの検討によれば、バイオマス灰は、セメントやコンクリートにおいて有害となる成分が含まれていたり、易反応性のカルシウム成分の存在により品質の安定性が悪く、このためにセメント原料等としての資源化に制約を受ける懸念があった。これに対し、上記方法によれば、水洗工程(c)を経たバイオマス灰がセメント原料(セメントクリンカ原料、セメントクリンカ)又はセメントに投入されるため、投入されるバイオマス灰はセメント忌避成分である塩素が効率よく除去されており、セメント硬化物としてのコンクリートの鉄筋腐食が抑制できる。また、環境汚染のおそれのあるセレンやクロム等の重金属類や、易反応性の酸化カルシウムや水酸化カルシウムが除かれて、セメントの品質を均質化できる。水洗工程(c)を経たバイオマス灰をクリンカ原料に用いた場合は、プレヒーターや窯尻、キルンへの低融点物質の付着による閉塞が抑制される。
この水洗工程(c)は、バイオマス灰に水を加えてスラリーにする工程(c1)と、このスラリーに対して水洗水を供給して水洗する工程(c2)と、水洗後のスラリーを脱水する工程(c3)とを有するのが好適である。スラリーにした後に水洗し、その後に脱水することで脱水物を得るため、塩素、及び重金属を取り除くことができる。
前記工程(c)は、前記工程(a)で得られた前記細粉のみを水洗するものとしても構わない。
本発明者らの検討によれば、バイオマス灰を分級した後に得られる粗粉と細粉を対比すると、バイオマス灰に含まれる塩素分の多くは細粉に含まれることが確認された。このため、上記方法によれば、水洗に利用される水量を抑制しながら、効率的にバイオマス灰に含まれる塩素を除去できる。
前記セメント製造方法は、前記工程(c)の実行中又は前記工程(c)の実行後に、前記バイオマス灰を酸化処理する工程(d)を有するものとしても構わない。
上記方法によれば、水洗時のpHが酸性側に調整されるため、塩素をより効率的に取り除くことができる。また、バイオマス灰中に易反応性の酸化カルシウムや水酸化カルシウムが大量に含まれる場合であっても、炭酸カルシウムや硫酸カルシウムの形態に漏れなく置換できるため、セメントの流動性等の品質を均質化させることができる。
工程(d)としては、バイオマス灰の水洗中に酸溶液を添加したり、二酸化炭素(CO2)含有ガスを吹き込むものとしても構わないし、水洗処理後のバイオマス灰に対してCO2含有ガスを吹き込むものとしても構わない。特に、CO2含有ガスとして、セメントキルンの燃焼排ガスや塩素バイパスの抽気ガス、バイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガスを用いることで、これらのガスに含まれるCO2を炭酸カルシウムに変化させてバイオマス灰に固定できるため、CO2排出量の削減効果も期待できる。加えて、前記排ガスに含まれる硫黄酸物(SOx)等の有害ガスについても、硫酸カルシウムに変化させてバイオマス灰に固定化できる。
また、特に工程(d)において、工程(c)に係る水洗中にバイオマス灰を炭酸化処理することで、水洗後の廃液に多く含まれるカルシウム分が炭酸カルシウムとして析出できるため、スケールの発生が抑制される。これにより、排水処理のための配管等が閉塞するのを抑制できる。
前記セメント製造方法は、前記工程(c)の実行中に、前記バイオマス灰に含まれる未燃カーボンを除去する工程(e)を有するものとしても構わない。
バイオマス灰には、多くの未燃カーボンが含まれる可能性がある。このため、カーボンを多く含むバイオマス灰をセメントクリンカ原料として使用する場合には、プレヒータの高温化を招くおそれがあり、混合材として使用する場合はコンクリートの黒ずみや、減水剤がカーボンに吸着することによる流動性の低下を招くおそれがある。
これに対し、上記方法によれば、水洗中に未燃カーボンが除去できるため、前述したような課題の招来を抑制できる。具体的には、油や界面活性剤等の脱未燃炭素剤を混合して浮遊選鉱を行うことで、含有されている未燃カーボンの量を低下するものとして構わない。
前記工程(b)は、前記セメントキルンから得られたセメントクリンカ、又は前記セメントクリンカに対する粉砕処理後のセメントの少なくともいずれかに対して投入する工程であるものとしても構わない。
この方法によれば、バイオマス灰を分級した後に得られる細粉が混合材として用いられるため、分級前のバイオマス灰を混合材として用いる場合よりもセメント硬化物の強度が高くなる。
前記工程(b)は、前記細粉に加えて、潜在水硬性物質及びポゾランの少なくとも一種を混合する工程としても構わない。
セメント製造の際にバイオマス灰の分級後の細粉が投入されると、アルカリ金属含有量の高いセメントが生成され得る。このセメントと骨材を混合してコンクリートを生成すると、骨材中のアルカリ反応性鉱物(非晶質シリカ等)とアルカリ金属とが反応して吸水性のアルカリシリカゲルが発生し、コンクリートにひび割れ等を招くおそれがある(アルカリ骨材反応)。
これに対し、上記方法によれば、高炉スラグ等の潜在水硬性物質や、ポゾラン(珪石粉末、石粉等の天然ポゾランや、フライアッシュ、焼成粘土等の人工ポゾランを含む)が細粉と併せて投入されるため、アルカリ骨材反応を抑制できる。
ただし、コンクリートの製造の際に混合される骨材として、アルカリ骨材反応が生じにくい骨材を利用することで、潜在水硬性物質やポゾランを混合することなく、アルカリ骨材反応を抑制することは可能である。
前記工程(a)は、20μm以上100μm以下を分級点として分級する工程とするのが好適である。これにより、特に塩素や硫黄が細粉側に支配的に分配されるため、効率的である。
本発明に係るセメント製造システムは、
バイオマス灰を粗粉と細粉に分級する分級設備と、
セメントクリンカ原料を焼成してセメントクリンカを生成するセメントキルンと、
前記セメントキルンから得られた前記セメントクリンカを粉砕してセメントを生成する粉砕設備とを備え、
前記分級装置で得られた前記細粉が、前記セメントクリンカ原料、前記セメントキルンから得られた前記セメントクリンカ、又は前記粉砕設備から得られた前記セメントの少なくともいずれかに対して投入されることを特徴とする。
上記システムによれば、バイオマス灰を分級した後に得られる細粉がセメント原料やセメントに対して投入されるため、原灰をセメント原料やセメントに混合した場合よりも、セメント硬化物の強度を高めることができる。
また、本発明に係るセメント硬化物の製造方法は、
バイオマス灰を、粗粉と細粉に分級する工程(a)と、
前記工程(a)で得られた前記細粉と、粉砕処理後のセメントと、水とを投入する工程(b)とを有することを特徴とする。
この方法によっても、上述したのと同様の理由により、分級前の原灰を投入した場合よりも、強度の高いセメント硬化物を得ることができる。セメント硬化物としては、コンクリートやモルタルが挙げられる。いずれの場合も、細粉、セメント、水に加えて、適切な骨材が適宜投入されるものとしても構わない。なお、これらを投入した後は、例えばコンクリートミキサ内で混合されるものとしても構わない。
本発明によれば、生成されるセメント硬化物の強度低下を抑制しつつ、セメント製造の際にバイオマス灰を有効に活用することが可能となる。
第一実施形態におけるセメント製造方法の処理フローを模式的に示す図面である。 第一実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。 実施例1のバイオマス発電施設P1から焼却飛灰の粒度分布を示すグラフである。 第二実施形態におけるセメント製造方法の処理フローを模式的に示す図面である。 水洗工程の詳細な処理フローの一例を模式的に示す図面である。 第二実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。 図6のセメント製造システムが備える水洗設備の構造の一例を模式的に示すブロック図である。 第二実施形態におけるセメント製造方法の処理フローの別の例を模式的に示す図面である。 水洗設備の構造の一例を模式的に示すブロック図である。 第三実施形態におけるセメント製造方法の処理フローを模式的に示す図面である。 第三実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。 別実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。 別実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。 別実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。
[バイオマス灰]
本発明は、セメント製造の際にバイオマス灰を用いる技術に関する。まず、本発明が適用されるバイオマス灰について説明する。
本発明が適用されるバイオマス灰としては、広く一般にバイオマスの焼却灰であるものを含み、例えば草木竹の焼却灰や食品残渣の焼却灰を含む。バイオマス灰は、水溶性のアルカリ金属塩化物、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩を含んでいる。バイオマス灰は、都市ごみ焼却灰や塩素バイパスダストに比べて、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩の占める割合が多く、アルカリ塩素物濃度は低いという利点を有する。
バイオマス灰は焼却灰であるので、石炭灰と同様にポゾラン反応性を有するガラス成分を含んでいる。バイオマス灰のうち、草木竹の焼却灰は、K2Oの含有率が比較的高く、カリウム(K2O)の半分以上はそのガラス相に包埋されて含まれている。従って、バイオマス灰は混合材として用いた場合の活性が高いので、セメント製造時に利用するのが好ましい。
バイオマス灰のK2Oの含有率は、2質量%~10質量%であることが好ましく、3質量%~8質量%であることがより好ましく、3質量%~5質量%であることが更により好ましい。バイオマス灰のK2O含有率が2質量%未満であると、混合材として用いた場合のセメントの強度が低くなる可能性があり、また、そもそもセメントに添加する材料としての必要な量が確保できないおそれがある。一方、バイオマス灰のK2O含有率が10質量%を超えると、セメントクリンカの原料として用いた場合の使用量が制限されたり、混合材として用いた場合のアルカリ骨材反応の発生が増加するおそれがある。
バイオマス灰に含まれる全アルカリ濃度は、R2O換算(R2O=Na2O+0.658×K2O)で2質量%~11質量%が好ましく、3質量%~6質量%がより好ましい。また、バイオマス灰に含まれる硫黄酸化物(SO3)濃度は、0.5質量%~6質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましい。
バイオマス発電所では、バイオマスと石炭との混焼を行う場合もあるが、本発明が適用されるバイオマス灰には、そのような混焼を行う場合に生じる灰も含まれる。ただし、一般に石炭を燃焼した石炭灰はK2O含有率が低くなるので、混焼時の石炭の使用量によりバイオマス灰の活性が異なる。そのため、セメント製造時の混合材として資源化する観点からは、石炭との混焼である場合、燃料中のバイオマスの比率が50質量%以上のものから得られた灰であることが好ましい。
本発明が適用されるバイオマス灰としては、草木竹の焼却灰のなかでもパーム椰子殻を燃料として得られたパーム椰子殻灰(PKS灰)も好適に例示される。パーム椰子殻はパーム油生産の副産物であり、天然バイオマス・エネルギー産業で主に使用されている。パーム椰子殻は、灰分の少ない黄褐色の繊維状物質で、その粒径は5mm~40mm程度であり、発熱量は4000Kcal/kg程度であるため、再生可能資源を用いたエネルギー生産において、パーム椰子殻は、近年、バイオマス発電の燃料としての利用が増えている。
一般に、バイオマス発電の燃焼炉には、ストーカ式や流動床式があるが、流動床式である循環流動床式や加圧式流動床式の燃焼炉では炉内で脱硫を行うために石灰石が投入される。そこで、そのような燃焼炉からのバイオマス灰には、カルシウム成分や硫黄成分が多く含まれており、例えばCaO含有率は、一般に5質量%~45質量%となっている。また、投入した石灰石由来のCa化合物の形態として、CaO(生石灰)、Ca(OH)2(消石灰)、CaCO3(石灰石)、CaSO4(石膏)等の形態が含まれる。
本発明が適用されるバイオマス灰のCaO含有率は、混合材として資源化した場合のセメントの強度の観点から、10質量%~40質量%であることが好ましく、15質量%~30質量%であることがより好ましい。
本発明が適用されるバイオマス灰の灰種別としては、バイオマス発電の燃焼炉等で炉底に燃え残る主灰であっても構わないし、燃焼排ガスに含まれて気体として浮遊する煤塵を集塵機により収集して得られる飛灰であっても構わない。このうち飛灰は、アルカリ金属や塩素濃度がより高い上に、水洗により塩素が分離しやすく、効率的なため好ましい。
また、バイオマス灰は、乾灰であることが好ましい。一度水を噴霧されたバイオマス灰は、粒状になったり、生成した水和物に塩素が取り込まれて、分級や水洗により塩素が分離しにくい場合がある。乾灰としては、例えば、粉末X線回折法により水和物であるフリーデル氏塩、またはエトリンガイトが検出されないことが好ましい。または、含水率が10質量%以下であることが好ましく、5%質量以下であることがより好ましい。または、強熱減量が10%以下であることが好ましい。含水率は、105℃で乾燥した際の質量減少率として求めることができる。また、強熱減量は、105℃で乾燥された対象物を975℃で加熱した際の質量減少率として求めることができる。
また、強熱減量から炭酸カルシウムによる脱炭酸量を差し引いて、バイオマス灰中の水和物の構造水量を水和物生成量として求めてもよい。当該水和物生成量は、5%以下が好ましく、3%以下であることがより好ましい。
バイオマス灰の粒度は、例えば、セメントの強度がより高くなる、メジアン径(D50)が200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることが更に好ましい。粒度は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置が使用でき、例えば、マイクロトラック・ベル社製 MW3300EXII にてエタノールを分散媒とし、1分間の超音波分散後に測定すること等により測定することができる。なお、D50値とは、体積基準の粒度分布において累積50%での粒径を意味する。
[第一実施形態]
セメント製造方法及びセメント製造システムの第一実施形態について説明する。図1は、本実施形態におけるセメント製造方法の処理フローを模式的に示す図面である。図2は、本実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。
図2に示すセメント製造システム1は、セメントクリンカ原料Y1が貯槽された原料槽3と、バイオマス灰B1が貯槽された粉体貯槽5と、クリンカ製造設備10と、分級設備20と、粉砕設備30とを備える。クリンカ製造設備10は、セメントクリンカ原料Y1を焼成してセメントクリンカCn1を生成する設備であり、焼成用のセメントキルン12と、セメントキルン12に投入する前にセメントクリンカ原料Y1を事前に加熱するプレヒータ11と、焼成後のセメントクリンカCn1を冷却するクリンカクーラ13とを備える。
図1に示すように、本実施形態のセメント製造方法は、バイオマス灰B1を分級する工程S10と、分級された後のバイオマス灰B1をセメント原料等に投入又は添加する工程S20とを有する。なお、以下では、投入又は添加工程を「投入」工程と総称する。
(分級工程S10)
粉体貯槽5に貯槽されたバイオマス灰B1は、分級設備20によって、所定の分級点を基準として粒度の粗い粗粉B1Cと、粒度の細かい細粉B1Fとに分級される。分級工程S10において定められる分級点は、好ましくは20μm以上100μm以下であり、より好ましくは30μm以上90μm以下であり、特に好ましくは38μm以上75μm以下である。
分級設備20としては、バイオマス灰B1を上述したようなμmオーダの分級点で分級できる装置であれば特に限定されず、例えば、ふるい、慣性分級装置、遠心分級装置、重力式分級装置等が好適に使用でき、特に分級精度の観点から、サイクロン型エアセパレータやふるい分け装置等の使用が好ましい。水洗を行う場合は、湿式で行うと効率的である。
流動床式である焼却炉には、流動媒体としての石英を主成分とした砂と脱硫用の石灰石が投入される。そこで、そのような焼却炉からのバイオマス灰の飛灰には、比較的粗粒な溶融固化や凝集したガラスや砂由来物と、比較的細粒な揮発したアルカリ金属塩や前述の石灰石由来物とが含まれる。そこで、バイオマス灰を粒度分布を頻度で表した場合の、細粒側の山と粗粒側の山の間を分級点とすると、塩素分、硫黄分、カルシウム分を効率よく分離することができる。
図3は、後述する実施例1のバイオマス発電施設P1から焼却飛灰の粒度分布を示すグラフである。図3のグラフによれば、細粒側と粗粒側にそれぞれ山が現れていることが確認される。細粒側は、石灰類、アルカリ金属塩に由来するものであり、粗粒側は、石英やガラスに由来するものであると考えられる。よって、これらの山の間の領域(谷の領域)の粒度を分級点として分級することで、塩素分、硫黄分、カルシウム分を効率よく分離できることが分かる。
分級設備20には、バイオマス灰B1の貯槽が付設されていてもよい。さらに、かかる貯槽からバイオマス灰B1を定量的に分級設備20に供給するための供給装置が付設されていてもよい。これらの貯槽や供給装置は、受入れたバイオマス灰B1の状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
分級工程S10における分級の目安としては、細粉B1Fの活性度指数、細粉B1Fの収率、細粉B1Fや粗粉B1Cの塩素濃度、硫黄酸化物濃度、酸化カルシウム濃度等が挙げられる。
分級工程S10で得られる細粉B1Fの活性度指数は、バイオマス灰(原灰)B1より高い値となり、典型的には7日で70%以上、28日で65%以上となり、より典型的には7日で75%以上、28日で70%以上となる。
バイオマス灰B1(B1C,B1F等)に含まれる活性度指数については、周知の方法で測定することができ、例えば、JISA 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に準拠した方法が好ましく例示される。
細粉B1Fの収率は、10%~80%であることが好ましく、20%~70%であることがより好ましく、30%~60%であることが更に好ましい。細粉B1Fの収率は、分級工程S10の実行前のバイオマス灰B1の全質量に対する、得られた細粉B1Fの全質量の割合として構わない。
粗粉B1Cに対する細粉B1Fの塩素濃度比は、4以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、12以上であることが更に好ましい。細粉B1Fの塩素濃度は、例えば典型的には0.2質量%~2質量%となり、より典型的には0.3質量%~1.5質量%となる。一方、粗粉B1Cの塩素濃度は、典型的には0.01質量%~0.2質量%にまで低減され、より典型的には0.02質量%~0.1質量%にまで低減される。
バイオマス灰B1(B1C,B1F等)に含まれる塩素濃度については、周知の方法で測定でき、例えば、酸分解処理した後、電位差滴定法により測定する方法等が好ましく例示される。
粗粉B1Cに対する細粉B1Fの全アルカリ濃度比は、R2O換算(R2O=Na2O+0.658×K2O)で1.05以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましい。細粉B1Fの全アルカリ濃度は、例えば典型的には2質量%~10質量%となり、より典型的には3質量%~8質量%となる。一方、粗粉B1Cの全アルカリ濃度は、典型的には0.5質量%~6質量%にまで低減され、より典型的には2質量%~5質量%にまで低減される。
バイオマス灰B1(B1C,B1F等)に含まれる全アルカリ濃度については、周知の方法で測定することができ、例えば、JISR 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法等が好ましく例示される。
粗粉B1Cに対する細粉B1Fの硫黄酸化物濃度比は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましい。細粉B1Fの硫黄酸化物濃度は、例えば典型的には1質量%~6質量%となり、より典型的には2質量%~5質量%となる。一方、粗粉B1Cの硫黄酸化物濃度は、典型的には0.01質量%~2質量%にまで低減され、より典型的には0.05質量%~1質量%にまで低減される。
バイオマス灰B1(B1C,B1F等)に含まれる硫黄酸化物濃度については、周知の方法で測定することができ、例えば、蛍光X線装置による検量線法等が好ましく例示される。
粗粉B1Cに対する細粉B1Fの酸化カルシウム濃度比は、1.5以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。細粉B1Fの酸化カルシウム濃度は、例えば典型的には8質量%~40質量%となり、より典型的には15質量%~35質量%となる。一方、粗粉B1Cの酸化カルシウム濃度は、典型的には3質量%~15質量%にまで低減され、より典型的には5質量%~10質量%にまで低減される。
バイオマス灰B1(B1C,B1F等)に含まれる酸化カルシウム濃度については、周知の方法で測定することができ、例えば、蛍光X線装置による検量線法等が好ましく例示される。
この分級工程S10が、工程(a)に対応する。
(投入工程S20)
分級工程S10で得られた細粉B1Fは、セメントクリンカの原料としてや、セメントクリンカ又はセメントに混合材として投入(添加)される。図2の例では、細粉B1Fが、クリンカ製造設備10から得られるセメントクリンカCn1、及び必要に応じて石膏と共に粉砕設備30において混合して粉砕処理が行われることで、混合セメントが生成される場合が一例として図示されている。その際、必要に応じて散水や粉砕助剤が添加される。
細粉B1Fは、粗粉B1Cと比べて粒度が細かいため高い反応性を示す。このため、分級工程S10後に得られた細粉B1Fを回収し、セメント混合材に用いるのが好適である。これにより、ポゾラン反応が活性化して、セメント硬化物の強度が高められる。
粉砕設備30としては、チューブミル等の仕上げ工程で利用される一般的なミルが利用できる。ミルは仕上げ粉砕機とも呼ばれ、円筒状のドラムの中で鋼鉄のボールと、セメントクリンカCn1、及び必要に応じて付加される石膏がドラムの回転によって互いに衝突しながら粉砕される。石膏を使用する場合、その石膏は、特に限定されるものではなく、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏等が例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
細粉B1Fは、セメント原料の一部と置換するものであり、セメント原料の質量に対して0.5質量%~30質量%添加することが好ましい。また、石膏は、SO3換算で好ましくは1.5質量%~5.0質量%添加することが、セメントの強度発現性および流動性を向上する上で好ましい。
別の方法として、分級工程S10で得られた細粉B1Fをクリンカクーラ13に直接投入しても構わない。投入方法としては、クリンカクーラ13内の所望の温度の位置に、クリンカクーラ13の上部から落下させる方法が挙げられる。投入量は、セメントの質量に対して0.5質量%~20質量%程度となるように設定されるのが好ましい。なお、クリンカクーラ13として、エアクエンチングクーラーを使用すれば、クリンカクーラ13内の所定の位置に細粉B1Fを投入できるので、好適である。
細粉B1Fをクリンカクーラ13に投入する場合、セメントクリンカCn1の製造とは直接関係のない熱エネルギーを利用して水分を蒸発除去することができ好都合である。また、クリンカクーラ13内に粉塵が大量に発生することを防ぐ意味から、細粉B1Fは含水率を好ましくは50質量%以下とし、塊状か粒状のまま投入することが好ましい。
なお、図2には図示していないが、この回収された細粉B1Fは、セメントクリンカCn1が粉砕設備30において粉砕された後に得られるセメントに対して混合されても構わない。この混合のタイミングは、粉砕設備30の後段においてセメントが貯槽されるセメントサイロまでの経路上であっても構わないし、セメントサイロ内であっても構わないし、更には、セメントを利用する際のコンクリート練り混ぜ工程時であっても構わない。細粉B1Fが高い反応性を示すことから、細粉B1Fの混合のタイミングに関わらず、セメント硬化物の強度を高める効果が得られる。ただし、より厳密にいえば、細粉B1Fは、セメントクリンカCn1が粉砕設備30において粉砕された後に得られるセメントに対して混合する場合よりも、セメントクリンカCn1又は粉砕設備30に投入する場合の方が、より粒度が細かく反応性が高くなるので好ましい。
一方、分級工程S10後に得られた粗粉B1Cは、細粉B1Fと比べて反応性が低く、アルカリ金属濃度、カルシウム濃度、塩素濃度、硫黄濃度についても細粉B1Fより低減される。このため、図2に示すように、セメントクリンカ原料Y1と共にクリンカ製造設備10で利用することができる。例えばクリンカ製造設備10における、セメントクリンカ原料Y1の調合のための混合機への投入、プレヒータ11や仮焼炉への投入、セメントキルン12の窯尻や窯前への投入等が可能であり、様々なセメント製造段階に投入可能なセメントクリンカCn1の原料として好適に使用され得る。
また、上述したように、分級工程S10によって粗粉B1Cは塩素濃度が大きく低減される。更に硫黄分も大きく低減されるため、プレヒータや窯尻、キルンへの低融点物質の付着による閉塞が抑制される。別途、粉砕をして反応性を高めたうえで、細粉B1Fと同様にセメント混合材として利用しても構わない。
この投入工程S20が、工程(b)に対応する。
[第二実施形態]
セメント製造方法及びセメント製造システムの第二実施形態について、第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。図4は、本実施形態におけるセメント製造方法の処理フローを模式的に示す図面である。図5は、後述する水洗工程S30の詳細な処理フローの一例を模式的に示す図面である。図6は、本実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。
図6に示す本実施形態のセメント製造システム1は、第一実施形態と比較して、水洗設備40を備える点が異なる。水洗設備40は、バイオマス灰B1を水洗する設備であり、バイオマス灰B1に含まれる塩素等のセメント忌避成分の濃度を低下する目的で設けられている。水洗設備40の詳細な構造の一例については、図7を参照して後述される。
(水洗工程S30)
バイオマス灰B1は、水洗設備40によって水洗処理が行われる。より詳細には、図5に示すように、バイオマス灰B1をスラリー化する工程S31と、スラリーを水洗する工程S32と、脱水する工程S33とが実行される。
一例として、図7に示す水洗設備40には、収容されたバイオマス灰B1に水W1を加えてスラリーLr1にして水洗するための粉体溶解槽43と、水洗後に粉体溶解槽43から排出されたスラリーLr2を脱水するための固液分離装置46と、固液分離装置46で分離された脱水物Ck1を搬送するための搬送装置47を備えている。
更に、図7に示す水洗設備40の例では、粉体溶解槽43には、バイオマス灰B1を供給するための粉体供給装置41と、水W1を供給するための液体供給装置42が付設されている。また、バイオマス灰B1と水W1の混合、及び、その混合によって生成されたスラリーLr1の攪拌のために、攪拌翼を備えたスラリー攪拌装置44が付設されている。
粉体溶解槽43では、バイオマス灰B1と水W1を混合撹拌してスラリーLr1を生成するスラリー化工程S31、及びそのスラリーLr1中で塩素等のセメント忌避成分を液相に溶出させる水洗工程S32が行われる。そのためのスラリー攪拌装置44としては、例えば、パドル型やスクリュー型の一般的な撹拌装置を使用することができる。
スラリー化工程S31における、バイオマス灰B1と水W1との質量比(W1/B1)は、2~10が好ましく、3~7がより好ましく、4~5が特に好ましい。質量比(W1/B1)が2よりも小さいと、バイオマス灰B1からの塩素等の水溶性成分の溶出が不十分となる等、改質効果が不十分となる場合がある。また、質量比(W1/B1)が10よりも大きいと、排水W3の量が多くなってしまう。
水洗工程S32は、スラリーLr1を所定時間静置又は攪拌することによりなされる。これにより、バイオマス灰B1の溶解性成分がスラリーの液相に溶出した状態のスラリーLr2が得られる。
水洗工程S32の所要時間は、バイオマス灰B1を水W1で十分に改質するため、30分間以上とすることが好ましく、45分間以上がより好ましい。また、温度条件は、高い程、バイオマス灰B1からの塩素等の水溶性成分の溶出効率がよくなるが、処理に係るコストの観点からは、5℃~50℃とすることが好ましく、25℃~50℃がより好ましい。
水洗工程S32の後、塩素等のセメント忌避成分がスラリー中で液相に溶出された状態となったスラリーLr2は、粉体溶解槽43から排出され、固液分離装置46に移送される。スラリーLr2の移送には、スラリー用渦巻きポンプ、ピストンポンプ、モーノポンプ等の通常のスラリー液用輸送装置(不図示)を用いればよい。
固液分離装置46では、スラリーLr2を固液分離して脱水物Ck1を得る(脱水工程S33)。固液分離装置46としては、フィルタープレス、加圧葉状ろ過装置、スクリュープレス、ベルトプレス、ベルトフィルター、沈降分離等の通常のろ過装置等を用いることができる。
脱水工程S33においては、スラリーLr2中に含まれる塩素等の水溶性成分が液相と共に残留することを防ぐため、脱水物の水分は20質量%~90質量%とすることが好ましく、30質量%~70質量%とすることがより好ましい。
スラリーLr2の液相に溶出させた成分は排水W3へと除かれるので、得られる脱水物Ck1は、原灰に比べて塩素等のセメント忌避成分の量が低下される。一方で、排水W3には、原灰に含まれていた重金属類等も溶出されているので、適宜に水質浄化処理を行った後に環境中に放流してもよい。
なお、図7に示すように、固液分離装置46に水洗浄装置49を付設し、脱水物Ck1に対して水W2を加えた後に再度脱水するものとしても構わない。これによれば、スラリーLr2の液相がほとんど水に置き換わるので、溶出させた成分をより確実に除去ができる。
この水洗工程S30が、工程(c)に対応する。
水洗工程S30を経て得られた脱水物Ck1は、バイオマス灰B1が改質された状態であり(改質バイオマス灰B2)、塩素等のセメント忌避成分が減じられ、且つ、セメントの強度発現性や流動性に影響を及ぼす易反応性の酸化カルシウムや水酸化カルシウムの含有量が十分に減じられている。よって、この改質バイオマス灰B2を用いて、第一実施形態と同様に、分級、混合の各工程を行うことで、セメント混合材としての品質を均質に保つことが容易となる。特に、カルシウム成分を含む石灰石が投入された流動床式燃焼炉から排出されたバイオマス灰B1を用いることで、上記効果を顕著に実現できる。
なお、脱水工程S33で得られる排水W3は、イオン交換樹脂、膜分離、銀や鉛イオンによる沈殿形成等の周知の方法で含有塩素イオンを低減した状態で、セメントクリンカCn1に混合しても構わない。これにより、鉄筋腐食を生じる塩素を除去しながら、排水W3に含まれる強度増進効果を示すアルカリ金属を有効活用できる。本実施形態のように、水洗工程S30を実行して得られる改質バイオマス灰B2は、水洗によって活性が低くなるので、水洗後の排水W3をセメント添加剤として添加することで改質バイオマス灰B2の活性低下という弱点を補うことができる。
特に、バイオマス灰B1は、都市ごみ焼却灰よりも低塩素濃度のため、排水W3に含まれる塩素の分離が容易であり、且つ排水W3には多くのアルカリ金属硫酸塩や炭酸塩が得られる。このため、クリンカクーラ13から粉砕設備30までの経路上において、排水W3を投入することで、セメント添加剤としてより多くのアルカリ金属を活用することもできる。
クリンカクーラ13から粉砕設備30の間に排水W3を投入することで、乾燥や固形化することなく、セメントクリンカCn1の冷却用や粉砕設備30内の温度調整用の散水を兼ねながら、セメント添加剤として利用できる。より具体的な投入箇所としては、セメント製造設備における、400℃以下のクリンカクーラ13や、その後の輸送機、粉砕設備30が挙げられる。400℃を超えると瞬時に蒸発するのでセメントに含まれにくくなり、粉砕設備30より後段であるとセメントに水分が残り風化や水和の影響により品質が悪化するおそれがある。
なお、乾燥等を行って水分を減らした状態で排水W3をクリンカクーラ13から粉砕設備30の間に投入しても構わない。これによれば、セメントを風化等させることなくセメント添加剤としてより多くのアルカリ金属を活用できる。特に、排水W3に対して乾燥固化を行えば、粉砕されたセメントやコンクリート混練時にも投入でき、任意の量を容易に添加することもできる。
含有塩素イオンを低減する手段としては、特に両性イオン交換樹脂やナノろ過膜によるものが好ましい。これによれば、選択的に硫酸イオン・炭酸イオンと塩素イオンを分離でき、硫酸イオン・炭酸イオン濃度が高くなり塩素イオン濃度が低くなった水と、硫酸イオン・炭酸イオン濃度が低くなり塩素イオン濃度が高くなった水を得ることができる。
バイオマス灰B1の水洗後に得られる排水W3には、セレンと六価クロムが含まれる場合が多い。上記の両性イオン交換樹脂やナノろ過膜を利用することで、硫酸イオンと同様の形態を示すセレンと六価クロムが塩素濃度の低い水側に分離される。塩素濃度が高い水は処分されるが、当該水はセレンと六価クロム濃度も低く、排水処理が容易となる。また、乾燥することなく水量を減らす(アルカリ金属濃度を高める)ことができ、クリンカクーラ13から粉砕設備30の間に投入する場合は、同じ散水量でセメント添加剤としてより多くのアルカリ金属を活用できる。
以上のように、水洗水から得られた排水W3(セメント添加剤)と、水洗された改質バイオマス灰B2をセメント混合材を同時に利用できるので、バイオマス灰B1を余すことなく利用できる。これにより、処分される排水量やその排水処理負荷を削減する効果も期待できる。
なお、本実施形態において、水洗工程S30と共に、酸化工程S41や未燃カーボン除去工程S42を実行することも可能である(図8A,図8B参照)。これらの工程は、水洗工程S30の実行と並行して行われても構わないし、水洗工程S30の実行後に行われても構わない。なお、酸化工程S41と未燃カーボン除去工程S42は、いずれか一方だけが行われても構わない。
図8Aは、本実施形態において、酸化工程S41及び未燃カーボン除去工程S42の双方が実行される場合における処理フローを模式的に示す図面であり、図8Bはこの場合における水洗設備40の構造を図7にならって模式的に示す図面である。なお、図8Bには、水洗設備40と共に、ガス供給装置51及び浮遊選鉱装置53についても図示されている。
(酸化工程S41)
酸化工程S41は、バイオマス灰B1を酸化する工程である。一例として、水洗工程S30において、粉体溶解槽43内にpH調整剤を加えて水洗を行うことで実行できる。これにより、水洗工程S30と酸化工程S41とが並行して行われる。
水洗の際のpHを酸性側に調整することで、pH調整しない場合に比べて、バイオマス灰B1に含まれる塩素をより効率よく水溶できる。また、バイオマス灰B1中に含まれるカルシウム成分を、遅速反応性の炭酸カルシウムやセメント製造時にセメントクリンカCn1に添加される硫酸カルシウムの形態へと安定化させやすくなり、水洗工程S30後に得られる改質バイオマス灰B2が、品質変動の小さいセメント混合材として好適となる。
酸化工程S41における、スラリーLr1のpH条件としては、pH4~13であることが好ましく、pH5~12であることがより好ましい。
pH調整剤としては、スラリーLr1のpHを酸性側に調整できるものであれば特に制限はなく、例えば、硫酸等の酸溶液やCО2含有ガス等が挙げられる。CО2含有ガスとしては、セメントキルン12の燃焼排ガスや、バイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガスを利用できる。これらの排ガスには二酸化炭素(CО2)が含まれているので、その燃焼排ガスをスラリーLr1に吹き込むことにより、pHを酸性側に調整できる。これによれば、バイオマス灰B1中に含まれるカルシウム成分を炭酸化して炭酸カルシウムの形態へとより安定化させやすくなる。
図8Bでは、一例として、ガス供給装置51からCО2含有ガスG1が粉体溶解槽43内のスラリーLr1に供給される場合が図示されている。この場合、ガス供給装置51は、前述した、セメントキルン12の燃焼排ガスや、バイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガス等を粉体溶解槽43に供給するための装置に対応する。
CО2含有ガスG1は二酸化炭素が含まれていればよいが、効率的な炭酸化を促すためには、二酸化炭素濃度は10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。また、燃焼排ガスのなかでも、特にクリンカ製造設備10の塩素バイパスダストを捕集後のガスには硫黄酸化物(SOx)等の有害ガスが含まれるので、このガスをスラリーLr1に吹き込むことで、硫黄酸化物を固定化する効果も期待できる。
このようにクリンカ製造設備10の燃焼排ガスを用いれば、その場で二酸化炭素を含有する燃焼排ガスを得てバイオマス灰B1の改質に利用でき、改質されたバイオマス灰B2はセメント混合材として利用できる。また、バイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガスを用いれば、その場で得た二酸化炭素を含有する燃焼排ガスを用いてバイオマス灰B1を改質でき、これをクリンカ製造設備10や粉砕設備30等のセメント製造設備に輸送すれば、すぐさまセメント混合材として利用できる。
更に、水洗工程S30において、粉体溶解槽43内にアミン系二酸化炭素回収装置から得た廃液を加えて水洗を行ってもよい。工場等の排ガスから二酸化炭素を回収するためのアミン二酸化炭素回収装置では、通常、劣化したアミン類を含む液は廃棄されるが、この方法によればその廃液を有効に活用できる。
アミン類は、二酸化炭素と反応して炭酸イオンの生成を促進する作用があることが知られており、効率よくカルシウム成分の炭酸化を進めることができる。また、アミン類は、粉砕設備30においてセメントクリンカCn1を粉砕する際に、粉砕助剤として機能することも知られている。アミン類としては、分子内にアミノ基とヒドロキシル基を有するものであり、特に、粉砕助剤として使用されるアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)等が挙げられる。従って、添加した廃液から持ち込まれたアミン類が取り込まれた改質バイオマス灰B2は、後工程での粉砕助剤としての機能性の付与が期待できるため、セメント混合材として好適となる。
なお、脱水工程S33を経て得られる脱水物Ck1に対して、CО2含有ガスG1を吹き込むものとしても構わない。これによれば、脱水物Ck1中に残る易反応性のカルシウム成分が炭酸化され、得られる改質バイオマス灰B2の更なる品質の均質化を図ることができ、セメント混合材として好適となる。また、脱水物Ck1中に含まれる水分の乾燥にも役立つ。
ガスの吹込み手段(ガス供給装置51)としては、脱水物Ck1をCО2含有ガスと接触できればよく、その方法は問わない。例えば、脱水物Ck1を充填した容器にCО2含有ガスを流通させたり、排ガス煙道中に脱水物Ck1を通過させたりする等の手段を使用できる。また、上記したスラリーLr1への吹込みと同様に、セメントキルン12の燃焼排ガスや、バイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガスを、脱水物Ck1に吹き込むものとしても構わない。
この酸化工程S41が、工程(d)に対応する。
(未燃カーボン除去工程S42)
未燃カーボン除去工程S42は、バイオマス灰B1に含まれる未燃カーボンを除去する工程である。バイオマス灰B1には、多くの未燃カーボンが含まれるので、セメントクリンカCn1の原料として使用する場合にはプレヒータ11の高温化を招く場合があり、また混合材として使用する場合にはコンクリートの黒ずみや流動性の低下を招く場合がある。
具体的には、水洗工程S30の実行時に、脱未燃炭素剤供給装置52から粉体溶解槽43内に、油や界面活性剤等の脱未燃炭素剤D1を加えた状態で撹拌等の処理を行う方法が採用できる。得られたスラリーLr2aは、浮遊選鉱装置53において、例えば所定の起泡剤を添加して浮遊選鉱処理が行われ、未燃カーボンを含むフロスと、未燃カーボンが除去又は低減されたテールとに分離される。そして、テールとしてのスラリーLr2bが固液分離装置46に送られて固液分離される。
これにより、水洗工程S30と未燃カーボン除去工程S42とが並行的、連続的に行われる。
この未燃カーボン除去工程S42が、工程(e)に対応する。
(分級工程S10)
第一実施形態で上述した方法と同様の方法を採用することで、改質バイオマス灰B2は、粗粉B2Cと細粉B2Fとに分級される。
なお、水洗工程S30と分級工程S10は同時に行うものとしても構わない。具体的には、水ふるい、液体サイクロン、遠心分離、等の方法が挙げられる。
水洗工程S30及び分級工程S10を経て得られる細粉B2Fの活性度指数は、バイオマス灰(原灰)B1より高い値となり、典型的には7日で70%以上、28日で65%以上となり、より典型的には7日で73%以上、28日で68%以上となる。
この細粉B2Fの塩素濃度は、例えば典型的には0.01質量%~0.2質量%まで低減され、より典型的には0.02質量%~0.1質量%まで低減される。
この細粉B2Fの全アルカリ金属濃度は、例えば典型的には1質量%~8質量%まで低減され、より典型的には3質量%~6質量%まで低減される。
この細粉B2Fの硫黄酸化物濃度は、例えば典型的には0.5質量%~4質量%まで低減され、より典型的には1質量%~3質量%まで低減される。
この細粉B2Fのセレンの溶出量は、例えば典型的には0.002mg/L~0.02mg/L、より典型的には0.005mg/L~0.01mg/Lにまで低減される。
この細粉B2Fの六価クロム溶出量は、例えば典型的には0.01mg/L~0.1mg/L、より典型的には0.02mg/L~0.05mg/Lにまで低減される。
上記したセレン(Se)及び六価クロム(Cr6+)の溶出量は、周知の方法で測定できる。測定方法の好適な一例としては、JISK 0058-1「スラグ類の化学物質試験方法-第1部:溶出試験方法 5.利用有姿による試験」に準拠し検液を作成した後、セレン(Se)についてはICP質量分析法によって、六価クロム(Cr6+)についてはジフェニルカルバジド吸光光度法によって、それぞれ測定する方法が挙げられる。
また、後述する実施例で示されるように、水洗工程S30によってセメントの強度発現性や流動性に影響を及ぼす易反応性の酸化カルシウムや水酸化カルシウムの含有量が十分に減じられ、カルシウム成分が炭酸カルシウムの形態へと安定化しており、品質変動を抑制することができる。
例えば、水洗工程S30後の改質バイオマス灰B2の水酸化カルシウムの含有量は、典型的には0.5質量%以下、より典型的には0.1質量%以下である。
また、例えば、改質バイオマス灰B2の硫酸カルシウム(石膏)の含有量は、典型的にはSO3換算で0.5質量%以上、より典型的には3質量%以上である。
なお、上記した塩素濃度は、周知の方法で測定でき、例えば、酸分解処理した後、電位差滴定法により測定する方法等が好ましく例示される。
また、上記した水酸化カルシウムの含有量は、周知の方法で測定でき、例えば、DSC(示差操作熱量計)による400℃付近の脱水に熱量の測定により求める方法等が好ましく例示される。
また、上記した硫酸カルシウム(石膏)の含有量は、周知の方法で測定でき、例えば、X線粉末回折のパターンから、リートベルト法により定量する方法等が好ましく例示される。
(投入工程S20)
第一実施形態で上述した方法と同様の方法を採用できる。つまり、投入の手順については、第一実施形態における細粉B1Fを水洗工程S30を経て得られる細粉B2Fに、粗粉B1Cを水洗工程S30を経て得られる粗粉B2Cに、それぞれ置き換えればよい。
特に、本実施形態では、投入工程S20の前に水洗工程S30が実行されているため、分級後に得られる細粉B2Fは、第一実施形態で得られた細粉B1Fと比べて水分を含む可能性がある。従って、細粉B2Fに含まれる水分が、石膏の変質等を防ぐための粉砕設備30内の温度制御に利用できる。なお、細粉B2Fに含まれる水分が過剰である場合には、沈降分離等で簡易的に脱水可能であるし、逆に水分が不足する場合には適切な量を粉砕設備30に散水すればよい。
第一実施形態で上述したのと同様、分級後に得られる細粉B2Fは、クリンカクーラ13に直接投入することもできる。クリンカクーラ13内の温度は、通常は200~1200℃であり、その投入位置に応じて加熱温度を選択することができる。ただし、上記の酸化工程S41が実行される場合には、特に改質バイオマス灰B2にはCO2が固定化されることで得られるCaCO3が多く含まれる。この場合には、改質バイオマス灰B2に含有されているCaCO3が分解して生石灰(CaO)を生成したり、二酸化炭素を放出したりすることがないよう、クリンカクーラ13内の200℃~800℃の低温部分に投入することが好ましい。
なお、本実施形態の方法で得られる改質バイオマス灰B2は、水洗工程S30が実行されることでアルカリ金属含有量は低減しているものの、依然として石炭灰よりはアルカリ金属含有量が高いことが想定される。このため、この改質バイオマス灰B2をセメントクリンカCn1の原料として用いるとアルカリ金属含有量の高いセメントが製造される場合がある。また、排水W3から得られるセメント添加剤の主成分はアルカリ金属塩である。従って、これらがコンクリートに多く含まれると骨材によってはアルカリ骨材反応を起こす可能性がある。
そこで、アルカリ骨材反応の可能性を低減するために、改質バイオマス灰B2と共に高炉スラグ等の潜在水硬性物質、フライアッシュ、火山灰、火山岩、焼成粘土等のポゾラン物質を投入(添加)するものとしても構わない。なお、このような潜在水硬性物質やポゾラン物質の投入(添加)は、第一実施形態のように水洗工程S30を行わない場合における細粉B1Fを用いる場合にも適用可能である。
[第三実施形態]
セメント製造方法及びセメント製造システムの第三実施形態について、第一実施形態及び第二実施形態と異なる箇所を中心に説明する。図9は、本実施形態におけるセメント製造方法の処理フローを模式的に示す図面である。図10は、本実施形態におけるセメント製造システムの構造を模式的に示すブロック図である。
本実施形態では、第二実施形態と比較して、水洗工程S30が分級工程S10の後に行われている点のみが異なり、他は第二実施形態と共通する。本実施形態では、水洗工程S30は、分級工程S10によって分級された細粉B1Fに対してのみ行われる。
バイオマス灰B1に対して分級工程S10で分級されることで得られる粗粉B1Cと細粉B1Fとを比較すると、塩素分の多くは、粗粉B1Cよりも細粉B1Fに含まれる。このため、本実施形態によれば、バイオマス灰B1に含まれる塩素等のセメント忌避成分を、水洗工程S30の実施に必要な水分量を削減しながら、効率的に減少できる。
なお、本実施形態においても、第二実施形態と同様に、酸化工程S41や未燃カーボン除去工程S42を実行するものとしても構わない。他は上記各実施形態と共通するため、説明が割愛される。
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
〈1〉図11に示すように、分級設備20においてバイオマス灰B1が分級されることで得られる粗粉B1Cと細粉B1Fのうち、粗粉B1Cに対して水洗設備40によって水洗されるものとしても構わない。分級工程S10によって粗粉B1Cは塩素や硫黄の含有濃度が低下されており、更に水洗工程S30によって、これらの濃度が更に低下されている。このため、セメントクリンカCn1の原料として活用できる。
なお、この場合、水洗工程S30で得られる排水W3は、もともと塩素が少ない粗粉B1Cに対する水洗後に得られたものであるため、含有塩素濃度が低い状態である。従って、第二実施形態で上述したような、含有塩素イオンを低減する手段を講じることなく、排水W3をセメントクリンカCn1に混合しても構わない。
一方、細粉B1Fについては、必要に応じて別途の水洗処理が行われた後、セメントクリンカCn1やセメントに混合されるものとしても構わない。
〈2〉図12に示すように、分級設備20においてバイオマス灰B1が分級されることで得られた細粉B1Fに対して、水洗設備40によって水洗された後、得られた改質バイオマス灰B2FがセメントクリンカCn1の原料として利用されても構わない。具体的には、セメントクリンカの原料の調合のための混合機や粉砕機など原料調合系統設備への投入、セメントキルン前のプレヒータトップや仮焼炉への投入、セメントキルン窯尻への投入、セメントキルン(ロータリーキルン)窯前の高温部への投入、が挙げられる。細粉B1F側には、粗粉B1Cと比べて塩素や硫黄が高濃度に含まれるものの、水洗されることでバイオマス灰B1に含まれる塩素や硫黄の含有濃度が低下されているため、セメントクリンカCn1の原料として活用できる。
これにより、水洗しない場合よりプレヒータや窯尻、キルンへの低融点物質の付着による閉塞が抑制され、またセメントクリンカCn1の塩素含有量も低減される。また、セメントクリンカCn1のアルカリ金属含有量が高くなり、強度の高いセメントを得ることができる。特に粗粉B1Cをセメント混合材として投入した場合や、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、フライアッシュ、火山灰、火山岩、焼成粘土等のポゾラン物質を添加した場合は、セメントクリンカから供給されたアルカリ金属により、これらの混合材の反応が活性化される。
一方、分級工程S10で得られた粗粉B1Cについては、バイオマス灰B1よりも塩素の含有率が低下できているため、セメントクリンカCn1やセメントへの混合材として利用できる。図12では、粗粉B1Cが粉砕設備30で粉砕された後に混合される場合が例示されている。
〈3〉上記第三実施形態(図9、図10参照)において、分級工程S10及び水洗工程S30を経て得られた、水洗後の細粉(改質バイオマス)B2Fについても、粗粉B1Cと同様に、セメントクリンカCn1の原料としてクリンカ製造設備10で利用されるものとしても構わない(図13参照)。
〈4〉上記各実施形態では、粉砕設備30においてセメントクリンカCn1が粉砕されることでセメントが製造される過程までを説明した。しかし、投入工程S20として、各実施形態において得られたバイオマス灰の細粉(B1F,B2F)を、セメント及び水に対して投入、混練することで、コンクリートやモルタル等のセメント硬化物を製造する方法に利用しても構わない。
[実施例1]
パーム椰子殻を燃料にして循環流動床炉による発電を実施しているバイオマス発電施設P1から焼却飛灰BA-1(粒度D50(頻度)が47.2μm、975℃における強熱減量(ig.loss)が4.17%)を入手し、これを分級することによるバイオマス灰の成分組成に与える影響を検討した。パーム椰子殻と石炭の混合燃料中の石炭の含有率は10質量%であった。なお、この焼却飛灰の粒度分布(レーザー回析式粒度分布測定装置:マイクロトラック・ベル製MT3300EX IIを利用)は、図3に示した通りである。
《試験方法》
以下、試験方法を説明する。
〈1.分級〉
表1に示す分級点となるように設定された目開きのふるい(スピンエアシーブ:セイシン企業製SAR-75/200)を用いてふるいに掛け、ふるい通過分として細粉B1Fを、ふるい残分として粗粉B1Cを得た。この処理が分級工程S10に対応する。なお、この分級点は、図3に示した粒度分布に基づいて設定されたものである。試験では、32μm、45μm、及び90μmの3種類の分級点において、それぞれバイオマス灰B1が分級された。なお、以下では、バイオマス灰B1が分級前であることを明確にするために、「原灰B1」と表記することがある。
分級後のバイオマス灰の粒度分布は表1の通りである。なお、表1には、バイオマス発電施設P1とは別のバイオマス発電施設P2から入手した焼却飛灰BA-2に対して、45μmを分級点として分級した後に得られた粗粉B1Cについても併せて示されている。粒度分布は、レーザー回析式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル製MT3300EX II)によって、測定された。
Figure 2022044570000002
〈2.化学組成分析〉
焼却飛灰BA-1由来の原灰B1(#1)、各粗粉B1C(#2,#4)、及び各細粉B1F(#3,#5)、原灰B1を以下の方法で湿灰化したもの(#1W)、湿灰化した原灰B1(#1W)を45μmで分級した粗粉B1C(#2W)のそれぞれに対し、化学成分を測定した。また、原灰B1を20μmを分級点として分級した粗粉B1C(#9)及び細粉B1F(#10)を得て、これらに対しても同様に化学成分を測定した。更に、原灰B1(#1)及び45μmで分級した細粉B1F(#3)に対しては、以下の方法で水洗処理を施したものを準備し(#1Wp,#3Wp)、同様に化学成分を測定した。
湿灰化の方法は、次の通りである。原灰B1(符号#1)に対して、外割で20質量%(含水率16.7質量%)の水を添加した後に20℃で3日間保管し、105℃で乾燥させることで湿灰とした。この方法で湿灰化された原灰B1が「符号#1W」に対応し、この湿灰化された原灰#1Wを分級して得られた粗粉B1Cが「符号#2W」に対応する。なお、湿灰化した原灰B1(#1W)を分級するに際しては、エアジェットシーブ(ホソカワミクロン社製、e200LS)が用いられた。
水洗処理の方法は、次の通りである。この処理が水洗工程S30に対応する。
(手順1)バイオマス灰(B1,B1F)100gと水道水400gをビーカーに投入し、スラリーにして、攪拌機にて400rpmで30分間攪拌した。このとき、水洗時にCO2ガスを流入してpH調整を行う場合には、pHメータで液中pHを監視しながら流量を調整した。
(手順2)攪拌を停止後、ブフナーロートを使用して濾別し、得られた濾紙上のケーキに対して更に水道水400gを投入してスラリーを洗浄後、回収した。
(手順3)回収したケーキを自然乾燥後、質量を測定し、各種分析を行った。
また、得られた粗粉に対しては、ボールミルを用いて粉砕を行った。
《分析》
化学成分の測定は、以下の方法で行われた。
準備された各試料(#1~#5,#9~#10,#1W,#2W,#1Wp,#3Wp)に対し、蛍光X線装置(リガク社製、ZSX Primus II)を用いて、検量線(石炭灰)法によって化学成分を測定した。その結果を表2に示す。なお、それぞれの強熱減量は、JIS R 5202 「セメントの化学分析方法」に準じた方法で測定した。
また、焼却飛灰と得られた試料の炭酸化カルシウム量は、窒素雰囲気中で試料約50mgを昇温速度20℃/分にて1000℃まで昇温したときの600℃~700℃付近の質量減少量を求め、試薬との重量減少との比率により求めた(NETZSCH社製 TG-DTA 2000SR を利用)。その結果、原灰B1の炭酸カルシウム量は5.5%、湿灰化したもの(#1W)では5.6%であった。
水和物生成量は、上記強熱減量より上記炭酸化カルシウム量から揮発する脱炭酸分を除いたものとした。その結果、原灰B1の水和物生成量は1.8%、湿灰化したもの(#1W)では6.0%であった。
Figure 2022044570000003
表2によれば、乾灰である原灰B1を、粒度分布を頻度で表した場合の細粒側の山と粗粒側の山の間を分級点として分級すると、細粉(B1F)側に塩素成分と硫黄成分(SO3)のほとんどが含まれた。また、これを水洗することで(B2F)効率的に塩素成分が除去できていることが確認された。このため、特に水洗後の細粉については、セメント混合材として好適であることが分かる。
一方、原灰を分級した粗粉(B1C)側のアルカリ金属の減少量は小さいが、塩素成分と硫黄成分をほとんど含まない上、原灰と比べてCaOが減少し、SiO2が増加している。よって、粗粉は石炭灰の化学組成に近くなり、セメントクリンカの原料として好適であることが分かる。
また、原灰B1を湿灰化したもの(#1W)と、これを45μmで分級した粗粉B1C(#2W)とを対比すると、分級による塩素濃度の低下の程度は低いことが確認される。これは、原灰B1が湿灰化されたことで凝集と水和反応が生じており、生成された水和物に塩素(Cl)分が取り込まれた結果、分級による除去率が低下したものと推定される。原灰B1を湿灰化したもの(#1W)は水和反応が生じており、乾灰である原灰B1よりも強熱減量が増加していた。
〈3.物理試験〉
焼却飛灰BA-1由来の原灰B1(#1)、分級点を45μmとして得られた粗粉B1C(#2)及び細粉B1F(#3)につき、ブレーン比表面積、フロー値比、及び活性度指数を、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」の附属書Cに準拠した方法で、測定した。更に、粗粉B1C(#2)に対しては細粉B1Fと同等程度の粒度になるようにミルで粉砕し、同様にブレーン比表面積、フロー値比、及び活性度指数を測定した。なお、粗粉B1Cを粉砕して得られた粉砕物(#2C)は、例えば、図12において、分級後の粗粉B1Cが粉砕設備30で粉砕されたもの(便宜上、符号「B1Cp」と称する。)を模擬したものである。この測定結果を表3に示す。
Figure 2022044570000004
表3によれば、原灰B1を分級した細粉B1Fを混合材として用いた場合は、原灰B1よりも活性度指数が高くなることが確認された。なお、粗粉B1Cは塩素を含まず、ブレーン比表面積が4000cm2/g以上になるまで粉砕を行えば(B1Cp)、原灰よりも反応性の高いポゾラン混合材として利用できることが明らかとなった。
[実施例2]
木質バイオマス(間伐材)を燃料にして循環流動床炉による発電を実施しているバイオマス発電施設P2から飛灰(粒度D50(頻度)が45.3μm、750℃における強熱減量(ig.loss)が2.3%)を入手し、これを水洗すること、及びその水洗の際の酸化工程(特には炭酸化工程)の有無が成分組成に与える影響を検討した。
《試験方法》
以下の手順で試験を行った。
(手順1)バイオマス灰100gと水道水400gをビーカーに投入し、スラリーにして、攪拌機にて400rpmで30分間攪拌した。このとき、水洗時にCO2ガスを流入してpH調整を行う場合には、pHメータで液中pHを監視しながら流量を調整した。
(手順2)攪拌を停止後、ブフナーロートを使用して濾別し、得られた濾紙上のケーキに対して更に水道水400gを投入してスラリーを洗浄後、回収した。
(手順3)回収したケーキを自然乾燥後、質量を測定し、各種分析を行った。
以下の表4は、各水洗条件の水準を示す。
Figure 2022044570000005
《分析》
得られた試料につき、それぞれ以下の方法で分析を行った。
Clの定量:試料を硝酸分解処理した後、電位差滴定法により測定した。
K,Naの定量:試料を酸分解処理した後、ICP発光分光分析法により測定した。
Se,Cr6+の溶出試験:JIS K 0058-1「スラグ類の化学物質試験方法-第1部:溶出試験方法 5.利用有姿による試験」に準拠した方法で検液を作成した後、SeについてはICP質量分析法によって、Cr6+はジフェニルカルバジド吸光光度法によってそれぞれ測定した。
C,Mg,Al,Si,P,S,Ca,Feの定量:40℃乾燥処理を施した試料を蛍光X線装置(FP法:ファンダメンタルパラメータ法)によって測定した。測定結果を表5及び表6に示す。
Figure 2022044570000006
Figure 2022044570000007
表5によれば、原灰を水洗することにより塩素のほとんどが有効に除かれ、混合材として用いた場合のセメントを水硬化した後、鉄筋等への腐食作用のおそれがないと評価される許容基準の0.035質量%以下を満たすことが確認された。つまり、水洗後のバイオマス灰を分級した場合、細粉側及び粗粉側の双方にも塩素がほとんど含まれないことが分かる。
また、表5によれば、原灰に含まれる水溶性セレンや六価クロムも水洗により有効に除かれており、混合材として用いた場合の重金属類の溶出のおそれが低減することが明らかとなった。
表6に示すように、このバイオマス灰は、SiO2やCaOが主要な構成成分であり、反応性の高いポゾラン混合材として有用であることが明らかとなった。
水準2-2の結果によれば、CO2ガスを吹き込みながら水洗を行うことで、水洗後のバイオマス灰のCO2含有率が上昇することが明らかとなった。よって、pH調整のための成分は、水洗の操作後にはその少なくとも一部が灰中に固定化され、炭酸カルシウムが生成されたものと考えられる。また、CO2ガスを吹き込みながら水洗を行うことで、水酸化カルシウムが消失していた。表6において、水酸化カルシウムの含有量が0.01%未満であることは、検出限界未満であることを意味している。
下記表7には、XRD法(X線回折法)により灰中のカルシウム成分の存在形態を調べた結果を示す。
Figure 2022044570000008
表6及び表7によれば、原灰ではカルシウム成分の形態として、CaO(生石灰)、Ca(OH)2(消石灰)、CaCO3(石灰石)、CaSO4(石膏)の各Ca化合物の存在が確認された。これに対して、pH調整せずに水洗した水準2-1では、CaO(生石灰)の存在は消失し、Ca(OH)2(消石灰)の存在の減少が確認された。また、CO2ガスを吹込みながらpH9の条件で水洗した水準2-2では、CaO(生石灰)とCa(OH)2(消石灰)の存在が消失したことが確認された。
[実施例3]
木質ペレットおよびパーム椰子殻を燃料にしてストーカ炉による発電を実施しているバイオマス発電施設P3から焼却飛灰(粒度D50(頻度)が20.0μm、750℃における強熱減量(ig.loss)6.1%)を入手して、実施例2と同様の試験を行った。その結果を表8及び表9に示す。なお、水準3-2では、水洗時にpH調整のための硫酸が添加されている。
Figure 2022044570000009
Figure 2022044570000010
表8によれば、原灰を水洗することにより塩素のほとんどが有効に除かれ、混合材として用いた場合のセメントを水硬化した後、鉄筋等への腐食作用のおそれがないと評価される許容基準0.035質量%以下を満たすことが確認された。つまり、水洗後のバイオマス灰を分級した場合、細粉側及び粗粉側の双方にも塩素がほとんど含まれないことが分かる。
また、表8によれば、原灰に含まれる水溶性セレンや六価クロムも水洗により有効に除かれており、混合材として用いた場合の重金属類の溶出のおそれが低減することが明らかとなった。
表9に示すように、このバイオマス灰は、SiO2やCaOが主要な構成成分であり、反応性の高いポゾラン混合材として有用であることが明らかとなった。更に、硫酸を添加して水洗を行うことでSO3含有率が上昇することが明らかとなった。よって、pH調整のための硫酸成分は、水洗の操作後にはその少なくとも一部が灰中に固定化されているものと考えられる。
1 :セメント製造システム
3 :原料槽
5 :粉体貯槽
10 :クリンカ製造設備
11 :プレヒータ
12 :セメントキルン
13 :クリンカクーラ
20 :分級設備
30 :粉砕設備
40 :水洗設備
41 :粉体供給装置
42 :液体供給装置
43 :粉体溶解槽
44 :スラリー攪拌装置
46 :固液分離装置
47 :搬送装置
49 :水洗浄装置
51 :ガス供給装置
52 :脱未燃炭素剤供給装置
53 :浮遊選鉱装置
B1 :バイオマス灰
B1C :粗粉
B1F :細粉
B2 :(改質)バイオマス灰
B2C :(改質)粗粉
B2F :(改質)細粉
Ck1 :脱水物
Cn1 :セメントクリンカ
D1 :脱未燃炭素剤
G1 :CО2含有ガス
Lr1 :スラリー
Lr2(Lr2a,Lr2b) :スラリー
W1,W2 :水
W3 :排水
Y1 :セメントクリンカ原料

Claims (13)

  1. バイオマス灰を、粗粉と細粉に分級する工程(a)と、
    前記工程(a)で得られた前記細粉を、セメントキルンに投入されるセメントクリンカ原料、前記セメントキルンから得られたセメントクリンカ、又は前記セメントクリンカに対する粉砕処理後のセメント、の少なくともいずれかに対して投入する工程(b)とを有することを特徴とする、セメント製造方法。
  2. 前記バイオマス灰を水洗する工程(c)を有し、
    前記工程(b)は、前記工程(c)によって水洗された後の前記細粉を投入する工程であることを特徴とする、請求項1に記載のセメント製造方法。
  3. 前記工程(c)は、前記工程(a)で得られた前記細粉のみを水洗する工程であることを特徴とする、請求項2に記載のセメント製造方法。
  4. 前記工程(c)の実行中又は前記工程(c)の実行後に、前記バイオマス灰を酸化処理する工程(d)を有することを特徴とする、請求項2又は3に記載のセメント製造方法。
  5. 前記工程(c)の実行中に、前記バイオマス灰に含まれる未燃カーボンを除去する工程(e)を有することを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載のセメント製造方法。
  6. 前記工程(b)は、前記細粉を、前記セメントキルンから得られたセメントクリンカ、又は前記セメントクリンカに対する粉砕処理後のセメントの少なくともいずれかに対して投入する工程であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント製造方法。
  7. 前記工程(b)は、前記細粉を、前記セメントキルンに投入されるセメントクリンカ原料に対して投入する工程であることを特徴とする、請求項2~5のいずれか1項に記載のセメント製造方法。
  8. 前記工程(b)は、前記細粉に加えて、潜在水硬性物質及びポゾランの少なくとも一種を投入する工程であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のセメント製造方法。
  9. 前記工程(a)は、20μm以上100μm以下を分級点として分級する工程であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のセメント製造方法。
  10. 前記バイオマス灰は、流動床式燃焼炉から発生した飛灰であり、かつ乾灰であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のセメント製造方法。
  11. バイオマス灰を粗粉と細粉に分級する分級設備と、
    セメントクリンカ原料を焼成してセメントクリンカを生成するセメントキルンと、
    前記セメントキルンから得られた前記セメントクリンカを粉砕してセメントを生成する粉砕設備とを備え、
    前記分級装置で得られた前記細粉が、前記セメントクリンカ原料、前記セメントキルンから得られた前記セメントクリンカ、又は前記粉砕設備から得られた前記セメントの少なくともいずれかに対して投入されることを特徴とする、セメント製造システム。
  12. 前記バイオマス灰を水洗する水洗設備を備え、
    前記水洗設備によって水洗された後の前記細粉が、前記セメントクリンカ原料、前記セメントキルンから得られた前記セメントクリンカ、又は前記粉砕設備から得られた前記セメントの少なくともいずれかに対して投入されることを特徴とする、請求項11に記載のセメント製造システム。
  13. バイオマス灰を、粗粉と細粉に分級する工程(a)と、
    前記工程(a)で得られた前記細粉と、粉砕処理後のセメントと、水とを投入する工程(b)とを有することを特徴とする、セメント硬化物の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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