以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(発電システム100)
図1は、発電システム100の概略的な構成を説明するための図である。なお、図1中、原料水、および、ハイドレートの流れを実線の矢印で示し、不活性ガスの流れを破線の矢印で示し、海洋深層水(第1の流体)および海洋表層水(第2の流体)の流れを一点鎖線の矢印で示す。
本実施形態の発電システム100は、海洋深層水(例えば、4℃〜8℃程度)と、海洋表層水(例えば、20℃〜30℃程度)との温度差を利用して発電するシステムである。発電システム100では、原料水と不活性ガスとの気液混合物を海洋深層水で冷却して不活性ガスのハイドレートを生成し、生成したハイドレートを海洋表層水で加熱して分解し、得られた高圧の不活性ガスで膨張機を回転させて発電する。そして、膨張機を回転させることで減圧された不活性ガスは、再度原料水と混合される。このように発電システム100において、不活性ガスは、気体(ガス)もしくはハイドレートとして循環し、循環過程において発電が為されることとなる。なお、本実施形態において、海洋深層水および海洋表層水は、サイフォンの原理を利用して(位置エネルギーを要しない構造で)汲み上げられる。海洋深層水および海洋表層水を汲み上げる技術は既存であるため、詳細な記載を省略する。以下、発電システム100の具体的な構成について説明する。
図1に示すように、発電システム100は、気液混合部110と、ハイドレート生成部120と、ハイドレート水分離部130と、ポンプ140と、ハイドレート分解部150と、脱湿部160A、160Bと、発電ユニット170と、熱交換器180と、ハイドレート分離水落圧部190と、冷却部200と、ブロワ210と、バッファタンク220と、中央制御部230とを含んで構成される。
気液混合部110は、原料水と不活性ガスとを混合して気液混合物を生成する。なお、本実施形態では、不活性ガスとしてクリプトン(Kr)を例に挙げて説明する。また、原料水には、後述するハイドレート生成部120におけるハイドレートの生成圧力を低下させる補助剤として、1−メチルピペリジン(1−MPD)が含まれている。なお、気液混合物中の水とKrと1−MPDとのモル比は、例えば、水:Kr:1−MPD=34:5:1である。Krと1−MPDとのモル比を上記に維持して、水を結晶水(モル比:34)以上に存在させることで、ハイドレート生成部120におけるハイドレートの生成反応の安定化を図るとともに流動性を維持することが可能となる。気液混合部110の出口は、配管112を介して、ハイドレート生成部120の入口に接続される。
ハイドレート生成部120は、気液混合物を海洋深層水で冷却して、Krのハイドレートを生成する。ハイドレート生成部120は、例えば、液相(原料水)においてKrの気泡(マイクロバブル)が実質的に均等に分布するようなミキサーで構成され、配管中の流れを乱流になるようにする。ハイドレート生成部120の出口は、配管122を介して、ハイドレート水分離部130の入口に接続される。
ハイドレート水分離部130は、例えば、円筒形状の容器で構成され、容器全体が海洋深層水によって冷却される。ハイドレート水分離部130には、配管122を介して、ハイドレート生成部120から、ハイドレートと原料水との固液混合物が導入される。ハイドレート水分離部130は、固液混合物を、混在している遊離ガスと、ハイドレート混合水とに分離する。具体的に説明すると、遊離ガスと、ハイドレート混合水との質量密度の差によって、遊離ガスは、ハイドレート水分離部130の上部に、ハイドレート混合水は、ハイドレート水分離部130の底部に沈降する。ただし、通常運転では、多量の原料水(キャリア水)中の反応になるため、Krガスは、原料水中に溶け込む。したがって、遊離ガスはほとんど存在せず、ハイドレート水分離部130の上部に遊離ガスが溜まることはほとんどない。なお、ハイドレート水分離部130は、容器全体が海洋深層水で冷却されているため、ハイドレート水分離部130においてもハイドレートの分解が抑制されるとともに、Krガスの溶解も促進され、さらにハイドレートの生成が促進されることとなる。
また、本実施形態では、固液混合物がハイドレート水分離部130の接線方向に噴射されて導入される。これにより、固液混合物をハイドレート水分離部130内で緩く旋回させて、ハイドレートの結晶がハイドレート水分離部130の内壁に付着しないようにするとともに、遠心力および比重差でハイドレートをハイドレート水分離部130の中心に集約する。したがって、共存している遊離水(原料水)にハイドレートが懸濁されやすくなり、ポンプ140への排出が容易になる。また、未反応のKrガスが存在する場合には、気泡と原料水との接触効率を向上させることができ、ハイドレート水分離部130におけるハイドレートの生成効率を向上させることが可能となる。
ハイドレート水分離部130の底部には、ハイドレート水分離部130と、後述するハイドレート分解部150とを接続する配管132が接続されており、配管132には、ポンプ140が設けられる。したがって、ハイドレート水分離部130によって沈降分離されたハイドレート懸濁水(スラリー)は、ポンプ140によって、ハイドレート分解部150に送出されることとなる。
なお、通常運転時にはハイドレート水分離部130においてKrガスが発生することは殆どないが、発電システム100の起動時等、原料水の流量が小さかったり、ハイドレート生成部120における圧力や温度がハイドレートの生成条件から外れたりした場合、ハイドレート水分離部130へ導入される固液混合物に遊離ガス(Krガス)が混入する。
このため、ブロワ210と、バッファタンク220とを設けておき、ハイドレート水分離部130において生じたKrガスをブロワ210によってバッファタンク220に送出する。具体的に説明すると、ハイドレート水分離部130の上部にKrガスを滞留させておき、原料水の液面が所定の高さ未満となったら、ハイドレート水分離部130の上部とバッファタンク220とを接続する配管134に設けられたブロワ210を駆動させる。そうすると、ハイドレート水分離部130の上部に滞留したKrガスは、バッファタンク220へ排出されることとなる。バッファタンク220を備える構成により、ハイドレート水分離部130からKrガスを排出する際の圧力変動を小さくすることができる。なお、配管134におけるブロワ210とバッファタンク220の間には、開閉弁134aと、逆止弁134bとが設けられている。開閉弁134aは、ブロワ210の駆動とともに開弁され、ブロワ210の停止とともに閉弁される。逆止弁134bは、バッファタンク220からハイドレート水分離部130へのKrガスの逆流を防止している。
ポンプ140は、ハイドレート水分離部130によって分離されたハイドレート(詳細にはハイドレートと原料水とのスラリー)を昇圧(ハイドレート分解部150において分解できる圧力まで昇圧)してハイドレート分解部150に送出する。なお、配管132におけるポンプ140とハイドレート分解部150との間には、逆止弁132aと、流量調整弁132bとが設けられている。また、配管132におけるポンプ140と逆止弁132aとの間と、配管122とを接続する配管136が設けられており、配管136には、流量調整弁136aが設けられている。逆止弁132aを備える構成により、ハイドレート分解部150からハイドレート水分離部130へのハイドレートの逆流を防止している。また、流量調整弁132b、136aによってハイドレート水分離部130からハイドレート分解部150へ導入されるハイドレートの流量、ハイドレート水分離部130へ返送されるハイドレートの流量が調整されることとなる。なお、このKrガスは、ブロワ210を設けずとも、ベント134c(安全弁)から放出しても大きな損失とはならない。
本実施形態において、ポンプ140は、後述するハイドレート分解部150によって生成された原料水の圧力(例えば、5〜7MPa程度)で回転するハイドレート分離水落圧部190によって駆動される。ハイドレート分離水落圧部190を備える構成により、ポンプ140を駆動させるエネルギーを削減することができる。
なお、本実施形態では、ハイドレート分離水落圧部190による回転のみではポンプ140の動力が不足する場合があるため、ハイドレート分離水落圧部190の駆動軸力を補助する補助駆動機192を備える。例えば、発電システム100の起動時においては、ハイドレート分解部150において原料水が生成されないため、ハイドレート分離水落圧部190が機能しない。このため、ハイドレート分離水落圧部190が定格運転となるまでは、補助駆動機192でポンプ140を駆動させる。なお、補助駆動機192は、電動モータであってもよいし、他の動力であってもよい。
ハイドレート分解部150は、例えば、円筒形状の伝熱装置を備えた容器で構成され、容器内のハイドレートが海洋表層水(例えば、27℃程度)によって間接的に加熱される。ハイドレート分解部150には、配管132を介して、ハイドレートが導入される。ハイドレート分解部150では、ハイドレートが海洋表層水で加熱されて、原料水と、高圧(例えば、5MPa〜7MPa程度)のKrガスとに分解される。ハイドレート分解部150の上部には、配管152を介して脱湿部160A、160Bが接続されており、ハイドレート分解部150から排出されるガス(湿性のKrガス)は脱湿部160A、160Bで水が除去され、乾燥Krガスとなる。
具体的に説明すると、配管152は、一端がハイドレート分解部150の上部に接続されるとともに、他端が2つに分岐され、他端それぞれに脱湿部160A、160Bが接続される。脱湿部160A、160Bには、水を吸着する吸着剤(例えば、モレキュラーシーブ等)が充填されており、圧力スイング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)法によって、混合ガスから水を除去する。
そして、水が除去されたガス、つまり、乾燥Krガス(例えば、24℃程度、5MPa〜7MPa程度)は、配管162を介して、発電ユニット170を構成する膨張機172に送出され、膨張機172において膨張されるとともに、膨張エネルギーによって膨張機172が回転されることとなる。
脱湿部160A、160Bを備える構成により、膨張機172に送出されるガス(Kr)中の水分を低減することができ、膨張機172内で水が凍結して、膨張機172を構成する部品(例えば、ブレード等のガス接触部品、軸受等)に不具合が生じる可能性を低減することができる。
なお、脱湿部160Aに湿性のKrガスを供給して脱湿部160Aから膨張機172に乾燥Krガスを送出している間、つまり、脱湿部160Aにおいて湿性のKrガス中の水を吸着して除去している間は、脱湿部160Bへの湿性のKrガスの供給を停止し、脱湿部160Bを再生する(吸着剤から水を脱着させる)。一方、脱湿部160Bに湿性のKrガスを供給している間は、脱湿部160Aへの湿性のKrガスの供給を停止し、脱湿部160Aを再生する。
具体的に説明すると、脱湿部160A、160Bの出口は、配管162に加えて、配管164が接続されており、配管164は、気液混合部110に接続されている。そして、脱湿部160Aに湿性のKrガスを供給する場合、開閉弁152a、162a、164bを開弁するとともに、開閉弁152b、162b、164aを閉弁する。そうすると、ハイドレート分解部150で生成された湿性のKrガスは脱湿部160Aに導入され、脱湿部160Aで水が除去された後、膨張機172に送出される。また、脱湿部160Bと気液混合部110との差圧によって、脱湿部160Bの吸着剤に吸着された水が脱着され、脱湿部160Bに残存したKrガスと、脱着された水との混合ガス(湿性のKrガス)が気液混合部110に導入されることとなる。
同様に、脱湿部160Bに湿性のKrガスを供給する場合、開閉弁152a、162a、164bを閉弁するとともに、開閉弁152b、162b、164aを開弁する。そうすると、ハイドレート分解部150で生成された湿性のKrガスは脱湿部160Bに導入され、脱湿部160Bで水が除去された後、膨張機172に送出される。また、脱湿部160Aと気液混合部110との差圧によって、脱湿部160Aの吸着剤に吸着された水が脱着され、脱湿部160Aに残存したKrガスと、脱着された水との混合ガス(湿性のKrガス)が気液混合部110に導入されることとなる。
発電ユニット170は、乾燥Krガスの膨張エネルギーによって回転される膨張機(例えば、タービン)172と、膨張機172の回転によって発電する発電機174とを含んで構成される。
膨張機172の出口は、配管182、164を介して気液混合部110に接続される。したがって、膨張機172で膨張した(減圧された)Krガスは、気液混合部110に返送されることとなる。なお、膨張機172で膨張したKrガスは、極低温(例えば、−100℃程度)であるため、配管182には熱交換器180が設けられる。
熱交換器180は、配管182を通過するKrガスと、後述する配管156を通過する原料水とで熱交換を行い、原料水の熱をKrガスに伝達して、Krガスを0℃以上に加熱する。熱交換器180を備える構成により、配管164(脱湿部160A、160Bで脱着された水が通過する配管)が凍結してしまう事態を回避するとともに、膨張機172に対する影響を回避することができる。
このように、気液混合部110には、膨張機172を通過したKrガス、脱湿部160A、160Bの再生時に送出されるKrガス、バッファタンク220から送出されるKrガスが導入されることとなる。なお、脱湿部160A、160Bの再生時には、圧力変動が大きくなり、気液混合部110において大量のKrガスが原料水に導入される可能性がある。そこで、配管164とバッファタンク220とを配管222で接続し、Krガスの圧力変動をバッファタンク220で吸収する。かかる構成により、ハイドレート生成部120において、Krガスの導入量の変動によるハイドレートの生成反応の停滞を抑制し、ハイドレートの収率の低下を低減することが可能となる。
一方、ハイドレート分解部150においてハイドレートが分解されることで生成された原料水(例えば、24℃程度、5MPa〜7MPa程度)は、配管154を介してハイドレート分離水落圧部190に送出され、原料水によってハイドレート分離水落圧部190が回転することになる。かかる構成により、ハイドレート分離水落圧部190を回転させるために外部から投入するエネルギー、すなわち、ポンプ140を駆動させるために外部から投入するエネルギーを削減することができ、低コストでポンプ140を駆動させることが可能となる。
なお、上記したように、ハイドレート分解部150において生成された原料水は、例えば、24℃程度、5MPa〜7MPa程度である。このため、原料水をそのままハイドレート分離水落圧部190の回転に用いると、ハイドレート分離水落圧部190において原料水が減圧される際に原料水に溶解しているKrガスが40%程度ガス化してしまい、ハイドレート分離水落圧部190の運転を阻害するおそれがある。
そこで、配管154に冷却部200を設けておき、ハイドレート分解部150で生成された原料水を7℃〜8℃程度に冷却する。これにより、ハイドレート分離水落圧部190におけるKrのガス化を5%以下に抑制することが可能となる。したがって、ハイドレート分離水落圧部190のブレード等に生じる影響(偏流)を低減して、ハイドレート分離水落圧部190の耐久性を向上させることができる。なお、本実施形態において、冷却部200は、ハイドレート生成部120において気液混合物を冷却した後の海洋深層水(例えば、6℃〜10℃程度)によって原料水を冷却する。かかる構成により、原料水を冷却するために外部から投入するエネルギーを削減することができる。
こうしてハイドレート分離水落圧部190を回転させることで1MPa〜1.5MPa程度まで減圧された原料水は、配管156を介して気液混合部110に導入される。また、上述したように、配管156には、熱交換器180が設けられていることから、熱交換器180によって原料水とKrガスとで熱交換が為されることとなる。したがって、原料水はKrガスによって冷却された(例えば、元の温度から2℃程度冷却される)後、気液混合部110に導入される。これにより、ハイドレート生成部120の冷熱源として利用する海洋深層水の量を低減することが可能となる。
中央制御部230は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成され、ROM(Read Only Memory:読み出し専用メモリ)からCPU自体を動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出し、ワークエリアとしてのRAM(Random Access Memory:読み書き可能なメモリ)や他の電子回路と協働して発電システム100全体を管理および制御する。本実施形態において、中央制御部230は、ハイドレート分解部150の圧力が所定の設定値に維持されるように、流量調整弁132b、136a、および、配管164に設けられた流量調整弁164cの開度を調整する。また、中央制御部230は、ハイドレート分解部150に設置した不図示の液面検知計に基づいて、発電システム100の系全体の原料水の漏洩等を監視する。
以上説明したように、本実施形態にかかる発電システム100によれば、海洋深層水でKrのハイドレートを生成し、海洋表層水でハイドレートを分解して高圧のKrガスを生成し、高圧のKrガスが低圧のKrガスに膨張する際の膨張エネルギーで膨張機172を回転させて発電する。これにより、燃焼のおそれがなく、また、低コストで発電することが可能となる。
また、本実施形態では、ハイドレートのゲスト物質としてKrを用いている。Krは、他の希ガスと比較して、ハイドレートの生成反応が安定しているため、Krをゲスト物質とすることにより、ハイドレートの生成反応の安定化を図ることができる。また、他の不活性ガス(ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、二酸化炭素(CO2))と比較して、Krは分子量が大きい。したがって、膨張機172に送出する圧力が等しい場合、密度が大きくなるため、膨張機172を小型にすることが可能となる。
また、本実施形態では、Krのハイドレートを生成する際の生成圧力を低下させる補助剤として1−MPDを原料水に含有させている。従来、Krのハイドレートを生成する際の補助剤の開発が希求されていた。そこで、本願発明者らは、鋭意検討の結果、1−MPDがハイドレートの生成圧力を効率よく低減できることを見出した。したがって、Krのハイドレートを生成する際の生成圧力を低下させる補助剤であって、1−MPDであることを特徴とする補助剤、1−MPDを含有させた原料水とKrとを混合する気液混合部と、気液混合部によって生成された気液混合物を冷却するハイドレート生成部とを備えたことを特徴とするKrハイドレート製造装置、および、1−MPDを含有させた原料水とKrとを混合して気液混合物を生成し、生成した気液混合物を冷却することを特徴とするKrハイドレートの製造方法が提供される。
図2は、実施例と比較例とのハイドレート相平衡条件の実験結果を示す図である。図2中、比較例として補助剤なしを白い四角で示し、実施例を黒い丸で示す。比較例として、補助剤なしでKrのハイドレートを生成した場合の相平衡条件(ハイドレートとKrガスとが平衡状態となる圧力と温度の条件)を、実施例として、1−MPDを補助剤としてKrのハイドレートを生成した場合の相平衡条件を測定した。その結果、図2に示すように、相平衡条件のうち、相平衡温度が同じである場合であっても、実施例は、比較例より相平衡圧力が低くなることが分かった。
また、海洋深層水の温度範囲(4℃〜8℃程度、すなわち、277.15K〜281.15K程度)において、相平衡圧力は、比較例では3MPa程度であるのに対し、実施例では1MPa程度であることが確認された。つまり、補助剤として1−MPDを添加することにより、ハイドレート生成部120におけるハイドレートの生成圧力を1/3に低減できることが分かった。
一方、海洋表層水の温度範囲(20℃〜30℃程度、すなわち、283.15K〜293.15K程度)において、補助剤なしの場合の相平衡圧力は、比較例では3MPa〜9MPa程度であるのに対し、実施例では、1MPa〜3MPa程度であることが確認された。つまり、補助剤として1−MPDを添加することにより、ハイドレート分解部150におけるハイドレートの分解圧力を1/3に低減できることが分かった。
また、ハイドレートの生成圧力と、分解圧力との比、つまり、Krガスの膨張比を比較すると、比較例および実施例の双方において3倍程度と殆ど変わらないことが確認された。つまり、補助剤として1−MPDを添加することにより、発電システム100の系全体の圧力を1/3に低減しつつ、膨張機172での回収圧力(膨張機172の出力(発電機174の発電量))を維持することが可能となることが分かった。
以上説明したように、1−MPDは、Krのハイドレートを生成する際の補助剤として効率よく機能することが確認された。
(ハイドレートのエンジンサイクルと、従来のランキンサイクルとの比較)
上記ハイドレートを利用した発電システム100(ハイドレートのエンジンサイクル)の熱効率と、従来のガスを利用したランキンサイクルの熱効率とを下記式(1)〜(3)を用いて算出した。
W=Δhg+Δhw−VΔp …(1)
Q=∫Cp,h×dT+Lh …(2)
η=W/Q …(3)
ここで、Wは仕事(得られるエネルギー)、Δhgはガスのエンタルピー差、Δhwは水のエンタルピー差、Vはハイドレート、ガスのモル体積、Δpは圧力差、Qは熱量(消費されるエネルギー)、Cp,hは、ハイドレートおよび共存水等の比熱、Lhはハイドレートの生成熱、もしくは、従来のランキンサイクルのガスの凝縮潜熱を示す。
また、ハイドレートの生成温度、従来のランキンサイクルのガスの凝縮温度を282Kとし、ハイドレートの分解温度、従来のランキンサイクルのガスの蒸発温度を293Kとした。
図3は、ハイドレートのエンジンサイクルと、従来のガスのランキンサイクルとの熱効率を説明する図である。図3(a)に示すように、補助剤として1−MPDを用いた場合のKrハイドレートのエンジンサイクル(以下、「1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクル」と称する)では、膨張機でのガスの膨張比が小さくなることはないため、圧力が低くなっても、補助剤を用いないKrハイドレートのエンジンサイクルの熱効率に近い熱効率を得ることができる。また、1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクルは、補助剤を用いないKrハイドレートのエンジンサイクルと比較して、圧力を低くすることが可能となるため、装置の耐久強度を大幅に低くでき得る(図2参照)。したがって、補助剤として1−MPDを用いることにより、低圧であっても高い発電効率を得ることが可能となり、かつ、装置の設計圧力を大幅に低くでき得るためコストを削減できる。
また、Xeハイドレートのエンジンサイクルの熱効率は、1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクルの熱効率より高いことが分かった。ただし、Xeハイドレートの反応は不安定であった。さらに、1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクルの熱効率は、メタンハイドレートのエンジンサイクルの熱効率より高いことが分かった。
図3(a)、(b)に示すように、1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクルは、従来のアンモニアのランキンサイクルよりも熱効率が高いことが分かった。また、1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクルは、従来のプロパンのランキンサイクルよりも熱効率が多少劣るものの、不燃性であるため、発電システムにおいて燃焼したり爆発したりする事態を回避することができる。
また、膨張機に吸入されるガスの単位体積あたりの発電量を導出した。その結果、1−MPDを用いたKrハイドレートのエンジンサイクルの場合、1.699(kW/m3)であり、メタンハイドレートのエンジンサイクルの場合、2.529(kW/m3)であった。このように、単位体積あたりの発電量は、メタンハイドレートのエンジンサイクルの方がKrハイドレートのエンジンサイクルより大きいが、Krハイドレートは不燃性であるため、発電システムにおいて燃焼したり爆発したりする事態を回避することができる。
また、アンモニアのランキンサイクルの場合、0.082(kW/m3)であり、プロパンのランキンサイクルの場合、0.083(kW/m3)であり、R−404A(分子量:107.75)のランキンサイクルの場合、0.128(分子量:107.75)であった。したがって、Krハイドレート等のハイドレートのエンジンサイクルは、従来のガスのランキンサイクルと比較して単位体積あたりの発電量が大きいことが分かった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態において、不活性ガスとしてKrガスを例に挙げて説明した。しかし、不活性ガスは、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、ラドン(Rn))であってもよいし、窒素、二酸化炭素であってもよい。いずれにせよ、不活性ガスのハイドレートを生成し、さらに、ハイドレートを分解して高圧の不活性ガスを生成して膨張機172を回転させることにより、発電システム100において燃焼や爆発が生じる事態を回避しつつ、効率よく発電することが可能となる。
また、上記実施形態において、補助剤として1−MPDを例に挙げて説明した。しかし、補助剤は、ハイドレートのゲスト物質に応じて適宜選択すればよい。例えば、ゲスト物質がKrである場合、2,2−ジメチルブタンを補助剤として用いてもよい。また、補助剤は必須ではなく、補助剤を含まない原料水を用いてハイドレートを生成してもよい。
また、上記実施形態において、脱湿部160A、160Bが圧力スイング吸着法によって、混合ガスから水を除去する構成を例に挙げて説明した。しかし、脱湿部は、混合ガスから水を除去できれば、水分離膜等で構成されてもよい。
また、上記実施形態において、第1の流体として海洋深層水を、第2の流体として海洋表層水を例に挙げて説明した。しかし、第1の流体と、第2の流体とに限定はなく、第2の流体が第1の流体よりも高温で(温度差が例えば、20℃〜25℃程度)あればよい。例えば、第1の流体として、常温の水を採用し、第2の流体として温泉水や、高温排水を採用してもよい。