以下、本発明に係る建設機械の実施の形態として、排土装置を備えた油圧ショベルを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。図1ないし図11は本発明の第1の実施の形態を示している。なお、本実施の形態では、下部走行体が自走する前,後方向に対し、前,後方向に直行した水平方向を左,右方向とし、各機器、部材の構成、配置について説明する。
図1ないし図3において、油圧ショベル1は、前,後方向に自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4とを備えている。上部旋回体4の前側には、土砂の掘削作業等を行うスイング式の作業装置5が設けられている。この場合、下部走行体2および上部旋回体4は、油圧ショベル1の車体を構成している。
ここで、下部走行体2は、ベースとなるトラックフレーム2Aを備え、トラックフレーム2Aは、左,右方向で対をなして前,後方向に延びる左,右のサイドフレーム2B(左側のみ図示)を有している。左,右のサイドフレーム2Bの前,後方向の一側には遊動輪2Cが設けられ、前,後方向の他側には駆動輪2Dが設けられている。遊動輪2Cと駆動輪2Dには履帯2Eが巻装され、駆動輪2Dによって履帯2Eを駆動することにより下部走行体2が走行する。また、下部走行体2のトラックフレーム2Aには、後述する排土装置17が設けられている。
上部旋回体4は、下部走行体2のトラックフレーム2Aに旋回装置3を介して旋回可能に搭載されている。上部旋回体4は、後述の旋回フレーム6、カウンタウエイト7、エンジン8、運転席9、フロア部材12、手摺り14、キャノピ15、外装カバー16等を含んで構成されている。
作業装置5は、後述する旋回フレーム6の前端に左,右方向に揺動可能に取付けられたスイングポスト5Aと、スイングポスト5Aに俯仰動可能に取付けられたブーム5Bと、ブーム5Bの先端に回動可能に取付けられたアーム5Cと、アーム5Cの先端に回動可能に取付けられたバケット5Dと、ブームシリンダ5E、アームシリンダ5F、バケットシリンダ5Gを備えて構成されている。また、旋回フレーム6とスイングポスト5Aとの間には、スイングポスト5Aを左,右方向に揺動させるスイングシリンダ5Hが設けられている(図3参照)。
旋回フレーム6は、上部旋回体4のベースとなるもので、旋回装置3を介してトラックフレーム2A上に取付けられている。旋回フレーム6の前部側には、前方に突出する支持ブラケット6Aが設けられ、この支持ブラケット6Aには、作業装置5のスイングポスト5Aが左,右方向に揺動可能に支持されている。旋回フレーム6の後部側にはカウンタウエイト7が設けられ、このカウンタウエイト7によって作業装置5との重量バランスが保たれている。
ここで、カウンタウエイト7の後面7Aは、上部旋回体4が旋回したときに下部走行体2の左,右の車幅寸法(左,右の履帯2Eの間隔)A内に収まり、上部旋回体4の旋回時における周囲の障害物との干渉を回避できるようになっている(図3参照)。これにより、油圧ショベル1は、上部旋回体4の後方小旋回を実現している。なお、後方小旋回の定義としては、作業上で問題にならない範囲で、カウンタウエイト7の一部が下部走行体2の車幅寸法Aから若干はみ出す程度も含むものである。
原動機としてのエンジン8は、カウンタウエイト7の前側に位置して旋回フレーム6に搭載されている。エンジン8は、油圧ショベル1に搭載された油圧アクチュエータに圧油を供給する油圧ポンプ(図示せず)を駆動する。なお、原動機としては、電動モータ、あるいはエンジンと電動モータとを組合せたハイブリッド式の原動機を用いることができる。
運転席9は、カウンタウエイト7の前側で、かつエンジン8の上側に位置して旋回フレーム6上に設けられている。運転席9は、油圧ショベル1を操縦するオペレータが着席するものである。運転席9の左,右両側には、旋回装置3および作業装置5等を操作するための左操作レバー10Aおよび右操作レバー10Bが配置されている。また、右操作レバー10Bの右側には、後述する排土装置17を操作するためのブレード操作レバー(図示せず)が配置されている。さらに、右操作レバー10Bの前側には、例えば油圧ショベル1の運転状態、設定、警告等の情報をオペレータに対して表示するマルチモニタ装置11が設けられている。
上部旋回体4のフロア部を構成するフロア部材12は、運転席9の前側に設けられている。フロア部材12は平坦な板体からなり、運転席9に着席したオペレータの足場を形成している。フロア部材12には、左,右一対の走行レバー・ペダル装置13が設けられている。これら左,右の走行レバー・ペダル装置13を手動操作または足踏み操作することにより、下部走行体2の走行動作が制御される。
手摺り14は、フロア部材12の前側に設けられ、フロア部材12から上方に立上がっている。手摺り14は、運転席9よりも前側に位置して左,右方向に延在し、例えばオペレータが地面とフロア部材12との間を乗降するときに把持したり、フロア部材12上に立上がったオペレータが掘削した穴を覗込むときに把持するものである。図3に示すように、手摺り14は、例えばパイプ材等の1本の棒材に折曲加工を施すことにより、上,下方向に延びる左縦棒14Aおよび右縦棒14Bと、これら左縦棒14Aと右縦棒14Bの上端部間を連結する横棒14Cとを有する逆U字型の枠状に形成されている。
キャノピ15はカウンタウエイト7に取付けられ、運転席9を上側から覆っている。キャノピ15は、例えば左,右方向に間隔をもってカウンタウエイト7に立設された左,右の支柱15Aと、左,右の支柱15Aの上端に設けられたルーフ15Bとを備えた2柱式のキャノピとして構成されている。なお、本実施の形態ではキャノピ15を備えたキャノピ仕様の油圧ショベル1を例示しているが、キャノピ15に代えてキャブ(図示せず)を備える構成としてもよい。
外装カバー16は、旋回フレーム6に搭載された熱交換器、コントロールバルブ、作動油タンク、燃料タンク等(いずれも図示せず)の搭載機器を覆った状態で旋回フレーム6に設けられている。外装カバー16は、エンジン8の右側に配置された熱交換器等を覆う右後カバー16Aと、右後カバー16Aの前側に開閉可能に設けられ、作動油タンクおよび燃料タンク等を覆う右前カバー16Bと、カウンタウエイト7の左前側から旋回フレーム6の支持ブラケット6Aに亘って配置され、旋回フレーム6の底板6Bとフロア部材12との間を覆うスカートカバー16Cとを備えている。
次に、油圧ショベル1の下部走行体2に設けられた排土装置17について説明する。
排土装置17は、下部走行体2のトラックフレーム2Aに設けられている。図3に示すように、排土装置17は、基端側がトラックフレーム2Aに上,下方向に揺動可能に取付けられたV字状の昇降アーム17Aと、下部走行体2の左,右方向に延びる長方形の板状体からなり、後面17G側の中央部が昇降アーム17Aの先端側に自在ピン17Bを介して取付けられた排土作業用のブレード17Cと、後述する昇降シリンダ17D、アングルシリンダ17E、チルトシリンダ17Fとにより構成されている。
昇降シリンダ17Dは、昇降アーム17Aとトラックフレーム2Aとの間に設けられている。アングルシリンダ17Eは、昇降アーム17Aの左側部位とブレード17Cとの間に前,後方向に延びた状態で設けられている。チルトシリンダ17Fは、ブレード17Cの後面17Gに沿って左,右方向に延びた状態で、昇降アーム17Aとブレード17Cとの間に設けられている。
昇降シリンダ17Dは、昇降アーム17Aを介してブレード17Cを上,下方向に揺動させる。従って、油圧ショベル1の走行時にブレード17Cを下降させることにより、土砂を走行方向に押出して地面を整地することができる。アングルシリンダ17Eは、ブレード17Cの長さ方向の両端を自在ピン17Bの位置を中心にして前,後方向に揺動させる。これにより、ブレード17Cによって押出される土砂を、下部走行体2の左側方または右側方にまとめて排出することができる。チルトシリンダ17Fは、ブレード17Cの長さ方向の両端を自在ピン17Bの位置を中心にして上,下方向に揺動させる。これにより、ブレード17Cによって整地される地面に勾配を形成することができる。これら昇降シリンダ17D、アングルシリンダ17E、チルトシリンダ17Fは、コントロールバルブ(図示せず)によって圧油の給排が制御されることにより、ブレード17Cの高さ位置および姿勢を制御するものである。
回動部材18は、ブレード17Cの左,右方向(長さ方向)の左端部17H上に設けられている。回動部材18は、後述するマスト20が取付けられ、マスト20を直立位置と転倒位置との間で回動させるものである。ここで、回動部材18は、ブレード17C上に固定された下板18Aと、下板18A上に蝶番(ヒンジ)18C,18Cを介して開閉可能に設けられた上板18Bとにより構成されている(図4および図5参照)。
下板18Aは、四角形の板体として形成され、マスト20を搭載するための回動部材18の土台としてブレード17C上に固定されている。下板18Aは、ブレード17Cおよびブレード17Cの後面17Gに溶接された2枚の台形状の取付板18A1,18A1の上端に、溶接等の手段を用いて固定されている。また、下板18Aには、左,右方向の中心部後方に位置して上,下方向に貫通するピン挿通孔18A2が穿設されている。
上板18Bは、下板18Aと同一形状を有する板体として形成され、下板18A上に重ね合わせて配置されている。上板18Bは、下板18Aに対し、蝶番18Cを用いて左,右方向に回動可能に接続されている。即ち、蝶番18Cは、下板18Aの右側面部18A3に溶接されると共に、上板18Bの右側面部18B1にボルト18C1を用いて固定されている。これにより、上板18Bは、蝶番18Cのナックル部(回転中心軸)18C2を支点として左,右方向に回動可能に配置されている。
固定機構19は、下板18Aと上板18Bとの間に設けられている。固定機構19は、上板18Bを下板18A上に固定することにより、後述するマスト20を直立位置に固定するものである。固定機構19は、後述の突出ピン19Aと、固定ピン19Bとにより構成されている。
突出ピン19Aは、上板18Bの下面18B2に設けられている。突出ピン19Aは、下板18Aに設けられたピン挿通孔18A2の孔径よりも小径な円柱状をなし、上板18Bの下面18B2から下方に突出している。突出ピン19Aは、図5に示すように、下板18A上に上板18Bを重ね合わせた状態で、下板18Aのピン挿通孔18A2に同心上に挿通され、突出ピン19Aの下端側は下板18Aの下面18A4よりも下方に突出している。また、突出ピン19Aの下端側には、径方向に貫通する固定ピン挿通孔(図示せず)が穿設されている。
固定ピン19Bは、下板18Aのピン挿通孔18A2の孔径よりも大きな長さ寸法を有する棒状体からなっている。固定ピン19Bは、突出ピン19Aの固定ピン挿通孔に挿通されている。固定ピン19Bの一端には、固定ピン19Bを抜差しするための把手19Cが設けられている。この把手19Cは、円周上の1ヵ所が切断された環状体からなり、2つの切断部は、互いに離間した状態で固定ピン19Bに接続されている。これにより、把手19Cには捻り力が作用し、把手19Cは常に固定ピン19Bに当接した格納状態を保持している。
従って、回動部材18の下板18A上に上板18Bを重合わせた状態では、下板18Aのピン挿通孔18A2内に突出ピン19Aが挿通され、突出ピン19Aの下端側は、ピン挿通孔18A2を介して下板18Aの下面18A4よりも下方に突出する。従って、この突出ピン19Aの下端側に固定ピン19Bを差込むことにより、固定ピン19Bが下板18Aの下面18A4に当接し得る位置に配置される。これにより、蝶番18Cを用いて下板18Aに回動可能に接続された上板18Bを、下板18Aに対して固定することができる。一方、突出ピン19Aの下端側から固定ピン19Bを抜取ることにより、蝶番18Cのナックル部18C2を中心として、上板18Bを回動させることができる。
マスト20は、回動部材18を介してブレード17Cの左端部17H側に設けられ、上,下方向に延びている。マスト20は、例えば円筒状のパイプ材を用いて形成され、マスト20の長さ方向の基端側である下端20Aは、回動部材18の上板18Bに溶接されている。また、マスト20の下端20Aと上板18Bとの間には、複数の三角形状の補強板20Bが固定されている。
これにより、回動部材18の上板18Bが下板18A上に配置されている状態では、マスト20は鉛直上向きに延びた直立位置(図6の位置)を保持し、固定機構19によって直立位置に固定される。一方、上板18Bが蝶番18Cのナックル部18C2を中心として回動することにより、マスト20は、ブレード17C側に倒された転倒位置(図7の位置)に変位する。なお、マスト20は、図7に示す転倒位置に配置されたときに、後述するプリズム21がブレード17Cの右端部17Jから外側に突出しない長さ寸法に設定されている。
位置検出装置としてのプリズム21は、マスト20の先端側である上端20Cに設けられている。プリズム21は、マスト20の上端20Cにボルト等を用いて着脱可能に取付けられ、マスト20が転倒位置に配置されたときには、マスト20から取外される。プリズム21は、整地作業の現場に設置された自動追尾式のトータルステーション(図示せず)によって追尾される対象物(ターゲット)である。トータルステーションは、プリズム21を追尾することによりブレード17Cの位置と高さとを連続的に計測し、この計測結果をブレード17Cの位置情報として、無線によりコントローラ(図示せず)に出力する。コントローラは、トータルステーションからの出力に基づいて、昇降シリンダ17D、チルトシリンダ17F等のブレード17C用のコントロールバルブ(図示せず)を制御する。これにより、排土装置17を用いて整地作業を行うときに、排土装置17の動作が、施工すべき地面の3次元データに従って制御される。
保持部材22は、ブレード17Cの左,右方向の他端である右端部17Jに設けられている。保持部材22は、マスト20を転倒位置に配置したときに、マスト20の先端(上端20C)側を保持する役割を担っている。図10に示すように、保持部材22は、ブレード17Cの右端部17J上に固定されたベース板22Aと、ベース板22A上に搭載されたグリップ台22Bと、グリップ台22B上に取付けられたグリップ22Cとにより構成されている。
ベース板22Aは、ブレード17Cの右端部17J上に設けられている。ベース板22Aは、四角形状の板体として形成され、ブレード17Cおよびブレード17Cの後面17Gに溶接された台形状の2枚の取付板22A1,22A1の上端に、溶接等の手段を用いて固定されている。
グリップ台22Bは、ベース板22A上の左側に配設されている。グリップ台22Bは、ベース板22Aよりも一廻り小さな四角形のブロック状に形成され、ベース板22A上に溶接されている。グリップ台22Bは、後述するグリップ22Cの台座となるもので、マスト20が転倒位置に配置され、マスト20の上端20C側がグリップ22Cに把持されたときに、マスト20の上端20Cと下端20Aの高さを一致させるものである。
グリップ22Cは、グリップ台22B上に取付けられている。グリップ22Cは、ブレード17C側に倒されたマスト20の上端20C側を迎え入れる開口端22C1と、マスト20の上端20C側を把持するために円弧状に形成された弾性力を有する曲面部22C2とを備え、ボルト22Dを用いてグリップ台22Bに固定されている(図10参照)。
グリップ22Cは、グリップ22Cの開口端22C1がマスト20の上端20Cを案内する方向を向くように配設されている。また、マスト20がグリップ22Cの開口端22C1に押込まれるときには、開口端22C1が弾性力によってグリップ22Cの外側に押し出され、強制的に開かれる。そして、マスト20の上端20Cが、グリップ22Cの曲面部22C2の内周面に嵌合すると共に、開口端22C1が閉じる。これにより、マスト20の上端20Cがグリップ22Cに把持され、マスト20が図7に示す転倒位置で固定される。
センサ23は、保持部材22のグリップ台22Bに隣接してベース板22A上に設けられている。センサ23は、例えば非接触式の近接スイッチからなり、マスト20が転倒位置にあるか否かを検出する。センサ23は、マスト20が転倒位置に配置されたときに、マスト20の上端20C側が接近することにより、マスト20が転倒位置にあることを検出し、この検出信号をコントローラ(図示せず)に出力する。
コントローラは、センサ23からマスト20が転倒位置にあることを示す検出信号が入力されたときには、上部旋回体4の旋回動作を許可し、マスト20が転倒位置にない(即ち、直立位置にある)ことを示す検出信号が入力されたときには、上部旋回体4の旋回動作を禁止する。具体的には、コントローラは、センサ23からの検出信号に応じて、旋回油圧モータに対する圧油の給排を制御するコントロールバルブ(いずれも図示せず)の油圧パイロット部に対し、パイロット圧の供給、停止を制御する構成となっている。
本実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、次に、排土装置17を用いた整地作業について説明する。
整地作業を行う場合には、マスト20の上端20Cにプリズム21を取付けた状態で、マスト20を上,下方向に延びた直立位置に配置する。この場合、マスト20の下端20Aが固定された回動部材18の上板18Bは、下板18A上に重合わされる。この状態で、上板18Bの下面18B2に突設された固定機構19の突出ピン19Aは、下板18Aのピン挿通孔18A2を通じて下板18Aの下面18A4側に突出する。従って、図5に示すように、突出ピン19Aの下端側に固定ピン19Bを差込むことにより、上板18Bを下板18Aに対して固定し、マスト20は直立位置に固定することができる。
このとき、センサ23は、マスト20が転倒位置にない(即ち、直立位置にある)ことを示す検出信号をコントローラに出力する。これにより、コントローラは、上部旋回体4の旋回動作を禁止する。
マスト20を直立位置に固定した状態で、オペレータは、上部旋回体4のフロア部材12に乗込んで運転席9に着席する。運転席9に着席したオペレータは、ブレード操作レバー(図示せず)を操作し、ブレード17Cの下端を地面に接地させた状態で、走行レバー・ペダル装置13によって油圧ショベル1を走行させることにより、地面の整地作業を行うことができる。このとき、作業現場に設置されたトータルステーション(図示せず)は、マスト20の上端20Cに取付けられたプリズム21を追尾することにより、ブレード17Cの高さと位置を連続的に計測し、この計測結果をブレード17Cの位置情報としてコントローラに出力する。
コントローラは、トータルステーションからの出力に基づいて、ブレード17C用のコントロールバルブ(図示せず)を制御する。これにより、排土装置17(昇降シリンダ17D、チルトシリンダ17F)の動作が、施工すべき地面の3次元データに従って自動制御される。この結果、施工すべき地面の3次元データに従ってブレード17Cの高さおよび位置が制御され、施工すべき地面に適合した整地作業を行うことができる。
次に、作業装置5を用いた掘削作業について説明する。
掘削作業を行う場合には、マスト20をブレード17C側に倒した転倒位置に配置する。具体的には、突出ピン19Aの下端側から固定ピン19Bを取外し、蝶番18Cのナックル部18C2を支点として上板18Bを回動させる。即ち、マスト20をブレード17C側に倒し、マスト20の上端20C側をグリップ22Cの開口端22C1に押付ける。これにより、開口端22C1が弾性力によって開かれ、マスト20の上端は、グリップ22Cの曲面部22C2によって把持される。かくして、マスト20は、蝶番18Cを介して回動し、作業装置5の邪魔にならない転倒位置に固定される。そして、マスト20を転倒位置に固定した状態で、マスト20の上端20Cからプリズム21を取外す。
このとき、センサ23は、マスト20が転倒位置にあることを示す検出信号をコントローラに出力する。これにより、コントローラは、上部旋回体4の旋回動作を許可する。この状態で、オペレータは、左操作レバー10Aおよび右操作レバー10Bを操作し、上部旋回体4を旋回させつつ、作業装置5を用いて掘削作業を行うことができる。
このように、マスト20は、回動部材18によって直立位置から作業装置5の邪魔にならない転倒位置に迅速かつ容易に回動させることができるので、上部旋回体4の旋回動作を伴う掘削作業時に、マスト20を取外すことなく、作業装置5との接触を回避することができる。従って、排土装置17を用いた整地作業から作業装置5を用いた排土作業に切換えるときの作業性を向上させることができる。さらに、マスト20の上端20Cからプリズム21を取外す場合に、マスト20が転倒位置に配置されることによりプリズム21の高さ位置が低くなり、より安定した作業姿勢にてプリズム21の取り外し作業を行うことができる。
次に、コントローラによる上部旋回体4の旋回制御処理について、図11の流れ図を用いて説明する。
この旋回制御処理は、エンジン8の始動によってスタートし、ステップ1において、センサ23からの検出信号を読み込む。続くステップ2において、コントローラは、センサ23からの検出信号に基づいてマスト20が転倒位置にあるか否かを判定する。
ステップ2において「YES」、即ち、マスト20が転倒位置に配置されていると判定した場合には、ステップ3において、上部旋回体4の旋回動作を許可する。具体的には、旋回油圧モータ用のコントロールバルブ(いずれも図示せず)の油圧パイロット部に対し、パイロット圧の供給を許可する。これにより、例えば左操作レバー10Aの操作に応じて上部旋回体4を旋回動作させることができる。
一方、ステップ2において「NO」、即ち、マスト20が転倒位置に配置されていないと判定した場合は、ステップ4において、上部旋回体4の旋回動作を禁止する。具体的には、旋回油圧モータ用のコントロールバルブの油圧パイロット部に対し、パイロット圧の供給を停止する。これにより、左操作レバー10Aの操作に関わらず上部旋回体4の旋回動作を禁止することができる。そして、上述のステップ3またはステップ4を実行した後にはスタートに戻り、ステップ1以降の処理を繰り返す。
かくして、実施の形態による排土装置17は、下部走行体2の左,右方向に延びる板状体からなるブレード17Cと、ブレード17Cの左端部17Hに上,下方向に延びて設けられたマスト20と、マスト20の上端20Cに設けられたプリズム21とを備え、ブレード17Cの左端部17Hには、マスト20の下端20Aが取付けられると共に、マスト20を上,下方向に延びた直立位置とブレード20側に倒された転倒位置との間で回動させるための回動部材18が設けられ、ブレード20の右端部17Jには、転倒位置に配置されたマスト20の上端20C側を保持する保持部材22が設けられている。
これにより、排土装置17を用いた整地作業を行うときには、マスト20を直立位置に配置してプリズム21を高い位置に保持することができ、作業装置5を用いた掘削作業を行うときには、マスト20を作業装置5の邪魔にならない転倒位置に配置し、保持部材22によって保持することができる。この場合、マスト20は、回動部材18によって直立位置と転倒位置との間で回動するので、マスト20をブレード17Cに対して取付け、取外しする必要がない。この結果、整地作業から掘削作業への切換え、掘削作業から整地作業への切換えを迅速かつ容易に行うことができ、整地作業や掘削作業の作業性を向上させることができる。
また、掘削作業に際してマスト20からプリズム21を取外す場合には、マスト20を転倒位置に保持することにより、マスト20の上端20Cに取付けられたプリズム21を地面の近くに降ろすことができるので、作業姿勢がより安定した地上にてプリズム21の取外し作業を行うことができる。
また、実施の形態によれば、保持部材22のベース板22Aには、マスト20が転倒位置にあることを検出するセンサ23が設けられ、センサ23からの信号を受信するコントローラは、マスト20が転倒位置に配置されたときには、上部旋回体4の旋回動作を許可し、マスト20が直立位置に配置されたときには、上部旋回体4の旋回動作を禁止する構成としている。
これにより、マスト20が直立位置に配置された状態では、左操作レバー10Aが操作されたとしても、コントローラによって上部旋回体4の旋回動作が禁止される。この結果、直立位置に配置されたマスト20に作業装置5が衝突するのを抑え、マスト20やプリズム21を保護することができる。
次に、図12および図13は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、マストが直立位置に配置された場合でも、コントローラによる上部旋回体の旋回動作を禁止する制御を解除する解除スイッチが設けられていることにある。なお、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
図12において、解除スイッチ31は、左操作レバー10Aに設けられている。解除スイッチ31は、オペレータによって操作されることにより、コントローラ(図示せず)に旋回許可信号を出力する。コントローラは、解除スイッチ31から旋回許可信号が出力されている間は、マスト20が直立位置にある場合でも、上部旋回体4の旋回動作を許可する。即ち、解除スイッチ31は、センサ23がマスト20の転倒位置を検出したか否かに関わらず、コントローラによる上部旋回体4の旋回動作を禁止させる制御を解除するものである。
従って、例えば排土装置17を用いた整地作業の合間に、短時間だけ作業装置5を用いて掘削作業を行いたい場合には、マスト20が直立位置にある状態でも、オペレータが解除スイッチ31を操作することにより、作業装置5がマスト20と干渉しないように注意しながら上部旋回体4を旋回させることができる。
第2の実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き解除スイッチ31を有するもので、次に、コントローラによる上部旋回体4の旋回制御処理について、図13を参照しつつ説明する。
この旋回制御処理は、エンジン8の始動によってスタートし、ステップ11において、センサ23からの検出信号を読み込む。続くステップ12において、コントローラは、センサ23からの検出信号に基づいてマスト20が転倒位置にあるか否かを判定する。ステップ12において「YES」と判定した場合には、ステップ13において、上部旋回体4の旋回動作を許可する。具体的には、旋回油圧モータ用のコントロールバルブ(いずれも図示せず)の油圧パイロット部に対し、パイロット圧の供給を許可する。これにより、例えば左操作レバー10Aの操作に応じて上部旋回体4を旋回動作させることができる。
一方、ステップ12において「NO」と判定した場合は、ステップ14において、上部旋回体4の旋回動作を禁止する。具体的には、旋回油圧モータ用のコントロールバルブの油圧パイロット部に対し、パイロット圧の供給を停止する。これにより、左操作レバー10Aの操作に関わらず上部旋回体4の旋回動作を禁止することができる。
ステップ14を実行した後には、ステップ15に進み、解除スイッチ31が操作されているか否かを判定する。ステップ15で「NO」と判定した場合には、解除スイッチ31が操作されていないので、スタートに戻ってステップ1以降の処理を繰り返す。一方、ステップ15で「YES」と判定した場合には、解除スイッチ31が操作されているのでステップ13に進み、上部旋回体4の旋回動作を許可した後、スタートに戻ってステップ1以降の処理を繰り返す。
かくして、第2の実施の形態によれば、センサ23がマスト20の転倒位置を検出したか否かに関わらず、コントローラによる上部旋回体4の旋回動作を禁止させる制御を解除する解除スイッチ31を備えている。これにより、マスト20が直立位置にある状態でも、オペレータが解除スイッチ31を操作することにより、作業装置5がマスト20と干渉しない範囲で上部旋回体4を旋回させることができる。この結果、例えば排土装置17を用いた整地作業の合間に、上部旋回体4を旋回させつつ作業装置5を用いて掘削作業を行うことができる。
なお、本実施の形態では、マスト20を回動部材18を介してブレード17Cの左端部17Hに設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、マスト20を回動部材18を介してブレード17Cの右端部17Jに設けてもよい。この場合には、保持部材22は、ブレード17Cの左端部17Hに設けられる。
また、本実施の形態では、ブレード17Cの右端部17Jに配置された保持部材22にセンサ23を設けた場合を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばセンサ23を回動部材18の下板18Aに設け、マスト20が転倒位置に配置されたときの上板18Bの接近を検出する構成としてもよい。
また、第2の実施の形態では、解除スイッチ31を左操作レバー10Aに設けた場合を例示したが、本発明はこれに限らず、例えば右操作レバー10Bや運転席9の周囲に配置する構成としてもよい。
さらに、実施の形態では、建設機械として、クローラ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばホイール式の油圧ショベル等の他の建設機械にも広く適用することができる。