以下、添付の図面を参照して本開示に係る光偏向器及びライダー装置の実施の形態を説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
(適用例)
本開示に係る光偏向器が適用可能な一例について、図1を用いて説明する。図1は、本開示に係る光偏向器1の適用例を説明するための図である。
本開示に係る光偏向器1は、例えば車載用途のライダー装置2に適用可能である。図1に示すように、ライダー装置2では、光源部20からの光が光偏向器1の反射板10に照射される。光偏向器1は、反射板10を回動させて、反射板10における反射光の出射方向を変化させる。ライダー装置2は、回動した反射板10の角度に応じて、光偏向器1が反射光を出射する方向を変更可能な走査領域R1において、光検出による測距を行う。
本開示では、光偏向器1において反射板10を回動させる機能と、反射板10の角度検出のための機能とにおいて共用される構成要素を導入することにより、光偏向器1の設計自由度を確保し易くする。これにより、例えば車載機器としてライダー装置2を設計する各種仕様に応じて、光偏向器1を小型化することができる。
(構成例)
以下、光偏向器1及びライダー装置2の構成例として各実施形態を説明する。
(実施形態1)
実施形態1では、光偏向器1が上記機能の共用化を実現する構成要素として軟磁性体を備える構成例について説明する。
1.構成
本実施形態に係るライダー装置2及び光偏向器1の構成について、以下説明する。
1−1.ライダー装置の構成
ライダー装置2の構成について、図1,2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るライダー装置2の構成を示すブロック図である。
本実施形態に係るライダー装置2は、図2に示すように、光偏向器1と、光源部20と、投光光学系21と、投光制御部22と、受光光学系23と、受光部24と、距離演算部25とを備える。光偏向器1の構成については後述する。
光源部20は、レーザ光源などの光源素子を含む。光源部20は、赤外領域等の所定の波長帯を有する光を発光する。光源部20は、光源素子を駆動する駆動回路を含んでもよい。
投光光学系21は、例えばコリメートレンズを含む。投光光学系21は、図1に示すように、光源部20から入射する光を、光偏向器1の反射板10に集光する。
投光制御部22は、ライダー装置2における光の投光時に各種制御信号を生成して、ライダー装置2の動作を制御する。例えば、投光制御部22は、光源部20が発光するタイミング、および光偏向器1における反射板10の駆動のタイミングなどを制御する。投光制御部22は、例えばマイコンやFPGA等で構成される。
受光光学系23は、ライダー装置2の外部から光を取り込むための受光レンズを含む。受光光学系23は、ライダー装置2が出射した光の反射光を受光部24に導光するように配置される。
受光部24は、例えばPD(フォトダイオード)、APD(アバランシェフォトダイオード)、又はSPAD(単一光子アバランシェフォトダイオード)を含む。受光部24は、光を受光したタイミング等を示す検出信号を生成し、生成した検出信号を距離演算部25に出力する。
距離演算部25は、受光部24の検出信号、及び投光制御部22による光源部20の制御タイミング等に基づいて、ライダー装置2における測距結果を示す距離値を演算する。距離演算部25は、光偏向器1における静電容量等の検出結果を入力して、距離の演算等に用いてもよい。距離演算部25は、例えばマイコンやFPGA等で構成される。
投光制御部22及び距離演算部25等としてのライダー装置2の各種機能は、所定のプログラム等を読み出して種々の演算処理を実行するCPU等によって実現されてもよい。ライダー装置2は、当該プログラム等が格納されるROM及びRAM等を備えてもよい。
1−2.光偏向器の構成
本実施形態に係る光偏向器1の構成について、図3,4を用いて説明する。図3は、光偏向器1の構成を示す斜視図である。図4は、光偏向器1の分解斜視図である。
本実施形態の光偏向器1は、反射板10と、反射板10の可動範囲を規定する部分である可動部11と、電磁石を用いて可動部11を駆動する電磁駆動部3と、2つの検出電極41,42と、信号処理部5とを備える。
反射板10は、光を反射する反射面10aを有する。以下、反射面10aが傾斜(回動)する基準となる平面を「XY平面」とし、XY平面の法線方向を「Z方向」とする。また、反射面10aが光を反射する+Z側を上側といい、反対の−Z側を下側という場合がある。
可動部11は、反射面10aがXY平面に対して傾斜するように反射板10を回動させる回動軸11aを有する(図6参照)。以下、回動軸11aの方向を「Y方向」とし、Y,Z方向に直交する方向を「X方向」とする。また、+X側を右側といい、−X側を左側という場合がある。
電磁駆動部3は、例えば、各種部品を固定するように樹脂等でモールド成形された筐体31aを備える。電磁駆動部3の筐体31は、XY平面に平行な上面31aを有することとする。当該上面31aには、例えば、図4に示すようにY方向における両側に、可動部11の固定端を固定するための凸部31bが設けられる。電磁駆動部3の構成の詳細については後述する。
検出電極41,42は、光偏向器1において、光を偏向する方向に応じた静電容量を検出するための電極である。本実施形態において、2つの検出電極41,42は、電磁駆動部3の上面31aに配置される。例えば、各検出電極41,42は、電磁駆動部3のモールド成形時に上面31aに固定される。
信号処理部5は、光偏向器1における各種の信号処理を行う。信号処理部5は、図3に示すように、容量検出回路51と、コイル駆動回路52とを含む。信号処理部5は、IC等を基板に実装して構成される。例えば、信号処理部5は、容量検出回路51の出力波形を整形する波形整形回路などの各種回路をさらに含んでもよい。
容量検出回路51は、検出電極41,42毎に、対応する静電容量を検出する回路である。容量検出回路51は、各々の検出電極41,42に接続される。コイル駆動回路52は、電磁駆動部3における駆動コイル33(図5参照)に接続される。コイル駆動回路52は、駆動コイル33に駆動信号の電流を流して電磁駆動部3を駆動する回路である。
図4に示すように、本実施形態の光偏向器1における可動部11は、接合部材12と、弾性部材13と、鉄棒14とを備える。鉄棒14は、本実施形態において軟磁性体で構成される可動部11の磁性体の一例である。
接合部材12は、反射板10の下側に配置される。接合部材12は、反射板10と弾性部材13とを接合する。接合部材12によると、弾性部材13と反射板10間に空隙が確保され、弾性部材13の変形時に反射板10と弾性部材13とが接触する事態を抑制できる。接合部材12は適宜、省略されてもよい。
弾性部材13は、例えばトーションバーである。弾性部材13は、例えば、金属等の導電性の材料で構成される。弾性部材13は、接合部材12の下面に結合され、Y方向に延在する。Y方向における弾性部材13の両端は、電磁駆動部3の上面31aの凸部31bに、例えば樹脂により接合される。弾性部材13は、ねじれの応力によって反射板10の姿勢を保持する。弾性部材13は、スポット溶接等によって接合されてもよい。例えば、スポット溶接用の金属部は、筐体31のモールド前に凸部31bを形成する位置の近傍に挿入されることにより、モールド材に固定できる。
鉄棒14は、弾性部材13の下面に結合される。これにより、鉄棒14は、弾性部材13及び接合部材12を介して、反射板10に対して固定される。鉄棒14の長手方向は、Y方向に直交し、例えばX方向に向けられる。鉄棒14は、中央に凸部14aを有し、凸部14aが下側に向けられる。鉄棒14は、電磁駆動部3の上面31aに配置される。鉄棒14は、下面において2つの検出電極41,42に対向する。
以上のように構成される可動部11によると、光偏向器1において、反射板10が電磁駆動部3の上側に、可動範囲を確保しながら組み付けられる。本実施形態の可動部11では、鉄棒14が、反射板10と共に可動な状態で、両側において検出電極41,42に対向する。
1−2−1.電磁駆動部の構成
光偏向器1における電磁駆動部3の構成の詳細について、図5(a),(b),6(a),(b)を用いて説明する。以下では、電磁駆動部3の筐体31の図示を省略する場合がある。
図5(a)は、電磁駆動部3の内部構造を示す斜視図である。図5(b)は、図5(a)とは別の方向からみた電磁駆動部3の斜視図である。図6(a)は、Z方向からみた電磁駆動部3の平面図である。図6(b)は、Y方向からみた電磁駆動部3の側面図である。
本実施形態に係る電磁駆動部3は、図5(a)に示すように、鉄芯32と、駆動コイル33と、永久磁石34とを備える。鉄芯32と駆動コイル33とは、電磁駆動部3における電磁石30を構成する。
鉄芯32は、電磁石30の磁芯を構成する。図5(b)に示すように、鉄芯32は、U字状の形状を有する。鉄芯32は、両端を上側(+Z側)に向け、中央部32aを下側(−Z側)に向けて配置される。鉄芯32の中央部32aは、X方向に延在する。
駆動コイル33は、鉄芯32の周りに導線を巻き付けて構成される。駆動コイル33は、例えば鉄芯32の中央部32aの右側(+X側)と左側(−X側)とに設けられる。両側の駆動コイル33は、例えば直列接続され、コイル駆動回路52(図3)に接続される。
永久磁石34は、例えば棒状であり、Z方向に延在する。永久磁石34は、例えば、鉄芯32の中央部32aにおいて、駆動コイル33の間に配置される。永久磁石34の上端は、図4に示すように、電磁駆動部3の筐体31の上面31aから露出する。
永久磁石34の上端には、図5(b),6(b)に示すように、鉄棒14の凸部14aが配置される。図6(a),6(b)に示すように、回動軸11aは、鉄棒14の凸部14aと永久磁石34の上端とによって形成される。永久磁石34の上端には、鉄棒14の凸部14aに応じた凹部等が設けられてもよい。
永久磁石34は、凸部14aにおける接触によって、鉄棒14を磁化する。図6(b)では、永久磁石34の上端がN極であり、下端がS極である例を示している。永久磁石34の磁極はこれに限らず、例えば上記の例から反転されてもよい。
電磁駆動部3において、電磁石30の磁極30a,30bは、鉄芯32の両端に構成される。各磁極30a,30bは、電磁駆動部3の筐体31の上面31aから露出する(図4参照)。これにより、鉄棒14は、回動軸11aを介した両側において、それぞれ電磁石30の鉄芯32の両端の磁極30a,30bに対向する。鉄棒14を含む可動部11の可動範囲は、例えば鉄棒14と磁極30a,30bとの間の距離によって規定される。
2.動作
以上のように構成されるライダー装置2及び光偏向器1の動作について、以下説明する。
2−1.ライダー装置の動作
本実施形態に係るライダー装置2の動作について、図1,2を用いて説明する。
本実施形態のライダー装置2において、投光制御部22(図2)は、例えば所定の周期で、光源部20に光を発光させる。光源部20において発光した光は、図1に示すように、投光光学系21を介して光偏向器1に入射する。
光源部20の制御に同期して、投光制御部22は、光偏向器1に制御信号を出力し、例えば所定の駆動周波数を示す制御信号を光偏向器1に出力する。駆動周波数は、例えば光源部20の発光の周期よりも長い駆動周期に対応する。光偏向器1は、投光制御部22からの制御信号に基づいて、後述する光の偏向動作を行う。これにより、光偏向器1に入射して、反射面10aに反射された光は、駆動周期中に走査領域R1を走査するように、ライダー装置2から出射する。
ライダー装置2の出射光が外部の物体に到達すると、同物体における反射光が、出射時の進行方向を逆行して、ライダー装置2の受光光学系23に入射し得る。当該反射光が受光部24に受光されるタイミングは、出射時のタイミングから外部の物体までの距離を光速で往復する分の遅延期間を有する。
距離演算部25は、投光制御部22が光源部20を制御したタイミングと、受光部24からの受光信号のタイミングとに基づいて、上記の遅延期間に対応する距離を演算する。また、例えば、距離演算部25は、光偏向器1における容量検出回路51の検出信号に基づいて、光偏向器1から光が出射した方向を示す情報を演算する。距離演算部25は、光偏向器1の駆動周期中に繰り返し、以上の演算を実行する。
以上のライダー装置2の動作によると、走査範領域R1内の空間方向を走査しながら光検出による測距を行うことができる。これにより、例えばライダー装置2の外部の三次元空間における物体の配置を認識することができる。
2−2.光偏向器の動作
以上のようなライダー装置2における光偏向器1の動作について、図7を用いて説明する。図7は、光偏向器1による光の偏向動作を説明するための図である。
図7(a),(b)では、光偏向器1における入射光61と反射光62とを示している。入射光61は、光偏向器1の左方から反射板10に入射し、反射面10aにおいて反射されている。入射光61の反射光62は、反射面10aから光偏向器1の右方に出射している。反射光62が出射する方向は、XY平面に対する反射面10aの傾斜角度に応じて変化する。
図7(a)は、光偏向器1において反射面10aが最も左側に傾斜した場合を示す。図7(b)は、反射面10aが最も右側に傾斜した場合を示す。反射面10aの傾斜の向きは、反射面10aの法線10bの方向を基準としている。
本実施形態の光偏向器1では、反射板10が回動軸11aの周りに回動するように、電磁駆動部3が、磁極30a,30bからの磁場に基づいて、可動部11の鉄棒14をシーソー運動させる。図7(a)では、電磁石30の左側の磁極30aが、鉄棒14を吸着している。一方、図7(b)では、電磁石30の右側の磁極30bが、鉄棒14を吸着している。
以上のように鉄棒14を用いた可動部11の駆動により、図7(a),(b)に示すように、反射板10の機械的な振れ角の範囲A1に対応する走査範囲A2(=A1×2)内で、反射光62の出射方向を走査することができる。
上記の走査時などに、反射光62の出射方向、或いは反射面10aの傾斜角度を検出するためには、反射板10と共に動く電極(以下「可動電極」という)と、傾斜の基準となるXY平面等に固定された電極(以下「固定電極」という)とを用いて、可動電極と固定電極との間の静電容量を検出することが考えられる。
ここで、従来の光偏向器のように、可動電極としての専用部品を設ける場合、可動部の設計制約が増え、光偏向器の設計自由度が低下してしまうことが考えられる。また、可動部の質量増加によって光偏向器の駆動周波数が低下したり、製造時に可動電極の形成工程を要したりすることが考えられる。
そこで、本実施形態の光偏向器1は、可動部11の鉄棒14が、反射板10を駆動させる機能に加えて、静電容量を検出するための可動電極としての機能も担うように構成される。これにより、光偏向器1に固定電極としての検出電極41,42を設けるだけで特に可動電極専用の部材を設けずに、反射面10aの傾斜角度に応じた静電容量を検出する機能を実現できる。以下、本実施形態の光偏向器1の動作の詳細を説明する。
2−2−1.電磁石の駆動方法
光偏向器1の電磁駆動部3における電磁石30の駆動方法について、図8を用いて説明する。
図8は、光偏向器1における電磁石30の駆動方法を説明するための図である。以下では、電磁石30の駆動方法の一例としてパルス駆動の動作例を説明する。
図8(a)は、光偏向器1の初期状態の一例を示す。本例において、可動部11の鉄棒14は、永久磁石34との接触により、両端がN極になるように磁化されている。このため、駆動コイル33の通電前の初期状態において、鉄棒14は、鉄芯32の一端に吸着することが考えられる。図8(a)の例では、鉄棒14が鉄芯32の左端に吸着している。
図8(b)は、電磁石30の駆動信号の一例を示す。図8(c)は、図8(b)の駆動信号に応じた第1の駆動状態を示す。
光偏向器1のコイル駆動回路52は、例えば図8(b)に示すように、パルス電圧を有する駆動信号を生成して、駆動コイル33に供給する。これにより、駆動コイル33は磁場を発生させ、図8(c)に例示するように鉄芯32を磁化する。
図8(c)の例では、電磁石30の左側の磁極30aがN極となり、右側の磁極30bがS極となるように鉄芯32が磁化される。このため、可動部11の鉄棒14の左端では反発力が生じ、右端では吸引力が生じる。この際、鉄棒14は、図8(a)の状態から時計回りにシーソー運動して、図8(c)に示す第1の駆動状態に到る。第1の駆動状態では、鉄棒14が電磁石30の右側の磁極30bに吸着される。
図8(d)は、電磁石30の駆動信号の別例を示す。図8(e)は、図8(d)の駆動信号に応じた第2の駆動状態を示す。
図8(c)に示す第1の駆動状態から、コイル駆動回路52は、図8(d)に示すように、図8(b)とは逆極性のパルス電圧を有する駆動信号を生成して、駆動コイル33に供給する。これにより、駆動コイル33に流れる電流が逆向きになり、鉄芯32の磁化が、第1の駆動状態(図8(c))から図8(e)に示すように反転する。
図8(e)の例では、電磁石30の左側の磁極30aがS極となり、右側の磁極30bがN極となることから、可動部11の鉄棒14の左端では吸引力が生じ、右端では反発力が生じる。この際、鉄棒14は、図8(c)の状態から反時計回りにシーソー運動して、図8(e)に示す第2の駆動状態に到る。第2の駆動状態では、鉄棒14が電磁石30の左側の磁極30aに吸着される。
以上の駆動方法によると、第1及び第2の駆動状態(図8(c),(e))間で、鉄棒14をシーソー運動させるように可動部11を動かすことができる。例えば、コイル駆動回路52が、図8(b),(d)の駆動信号を周期的に生成することにより、上記のシーソー運動を繰り返し実行できる。
以上に説明した駆動方法は一例であり、光偏向器1における電磁石30の駆動方法は特にこれに限定されない。例えば、光偏向器1は適宜、第1の駆動状態と第2の駆動状態との中間状態に制御されてもよい。
2−2−2.静電容量による角度検出方法
光偏向器1における静電容量に基づく反射面10aの傾斜角度の検出方法について、図9〜11を用いて説明する。図9は、光偏向器1における静電容量を説明するための図である。
本実施形態の光偏向器1において、鉄棒14と各検出電極41,42とは、互いに対向することによって、図9に示すように、それぞれキャパシタ71,72とみなすことができる。左側の検出電極41を含むキャパシタ71は、静電容量の容量値C1を有する。右側の検出電極42を含むキャパシタ72は、容量値C2を有する。
図9は、光偏向器1の反射面10aが右側に傾斜した状態(図7(b))における鉄棒14と検出電極41,42との位置関係を例示している。鉄棒14が電磁石30の右側の磁極30bに吸着されると、左側の検出電極41と鉄棒14間の距離は長くなることから、左側のキャパシタ71の容量値C1は小さくなる。また、このとき、右側の検出電極42と鉄棒14間の距離は短くなることから、右側のキャパシタ72の容量値C2は大きくなる。
一方、鉄棒14が電磁石30の左側の磁極30aに吸着されると、反射面10aが右側に傾斜する(図7(a)参照)。このとき、鉄棒14は左側の検出電極41に近づくことから、左側のキャパシタ71の容量値C1が大きくなる。また、鉄棒14は右側の検出電極42から離れることから、右側のキャパシタ72の容量値C2は小さくなる。
以上のように、鉄棒14と検出電極41,42間の距離が反射面10aの傾斜角度に応じて変化することにより、鉄棒14が静電容量の検出の可動電極として機能する。光偏向器1における静電容量と傾斜角度との関係式について、図10を用いて説明する。
図10は、光偏向器1における静電容量と傾斜角度との関係を説明するための図である。図10では、鉄棒14の左側のキャパシタ71を模式的に示しており、対称性から鉄棒14の右側の図示を省略している。
以下では、説明の簡単化のため、鉄棒14において検出電極41に対向する部分をキャパシタ71の可動電極とみなすことにする。また、図10に示すように、傾斜角度θについて、時計回りに+θ方向とし、反時計回りに−θ方向とし、Y方向に平行な場合に0°とする。
一般的なキャパシタの容量値Cは、真空の誘電率ε0、並びに対向する電極間の距離d及び面積Sに基づいて、次式(1)のように表される。
C=ε0×S/d (1)
図10において、Pは、鉄棒14の長さの半分を示す。また、θmaxは、機械的な振れ角の最大値を示す。Gは、θ=0°を基準とするθ=−θmaxの鉄棒14のZ方向における振れ幅である。pは、X方向における検出電極41と鉄棒14の回転中心との間の距離である。dは、Z方向における検出電極41と鉄棒14間の距離である。
図10によると、G=P×sinθmaxが成立することから、傾斜角度θにおける鉄棒14と検出電極41間の距離dは、次式(2)のように表される。
d=G+p×tanθ
=P×sinθmax+p×tanθ (2)
従って、鉄棒14と検出電極41によるキャパシタ71の容量値C1は、上式(1),(2)に基づき、次式(3)のように表すことができる。
C1=ε0×S/(P×sinθmax+p×tanθ) (3)
また、鉄棒14の右側のキャパシタ72(図9)については、鉄棒14の傾斜角度θに応じて、距離dの変化量が左側のキャパシタ71とは逆に増減することとなる。よって、右側のキャパシタ72の容量値C2は、次式(4)のように表すことができる。
C2=ε0×S/(P×sinθmax−p×tanθ) (4)
上式(3),(4)によると、各々のキャパシタ71,72の容量値C1,C2と傾斜角度θとの関係が規定されることから、容量値C1と容量値C2との少なくとも一方を用いて、傾斜角度θを算出することができる。
なお、容量値C1,C2と傾斜角度θとの関係式は、特に上式(3),(4)に限定されない。例えば、上式(3),(4)におけるtanθの代わりにsinθを用いてもよい。また、以上の説明では、鉄棒14の一部を可動電極とみなしたが、鉄棒14全体を可動電極とみなしてもよい。この場合、容量値C1,C2は適宜、鉄棒14の長手方向の積分値を用いて算出可能である。
本実施形態では、上記のような各キャパシタ71,72の容量値C1,C2の差分を用いて、傾斜角度θを検出する。図11を用いて、静電容量(C1−C2)による角度検出方法について説明する。
図11(a)は、光偏向器1における傾斜角度θの時間変化の一例を示すグラフである。図11(b),(c)は、それぞれ図11(a)の傾斜角度θに対応する各キャパシタ71,72の容量値C1,C2を示すグラフである。図11(d)は、図11(b),(c)の差分(C1−C2)を示すグラフである。
光偏向器1において、例えば反射板10の傾斜角度θが図11(a)に示すように変動しているとき、容量検出回路51は、各検出電極41,42からの電圧又は電流等の出力に基づいて、図11(b),(c)に示すように、各容量値C1,C2を検出する。容量検出回路51は、例えば、容量値C1,C2の検出結果を示す信号を生成して、ライダー装置2の距離演算部25に出力する。距離演算部25は、例えば図11(d)の差分(C1−C2)を算出して、図11(a)の傾斜角度θを検出する。
図11(a)では、傾斜角度θが線形に変化する例を示している。この際、鉄棒14の左側のキャパシタ71の容量値C1と、右側のキャパシタ72の容量値C2とは、図11(b),(c)に示すように、それぞれ非線形に変化することとなる。これに対して、2つのキャパシタ71,72の容量値C1,C2の差分(C1−C2)によると、図11(d)に示すように、差分を取らない場合よりも線形性を向上できる。
さらに、傾斜角度θの検出に差分(C1−C2)を用いることにより、個々の容量値C1,C2の検出時におけるノイズの影響を低減することができる。2つの検出電極41,42を用いることにより、傾斜角度θの検出精度を良くすることができる。また、例えば上述した第1及び第2の駆動状態(図8(a),(b))において校正を行うことにより、傾斜角度θの検出精度を向上できる。
以上のような静電容量による傾斜角度θの検出を行う回路構成の一例を図12に示す。図12の例において、容量検出回路51は、各キャパシタ71,72の容量値C1,C2をそれぞれ検出する容量検出IC等を含んでいる。容量検出回路51は、各容量検出ICの出力波形を整形し(図11(b),(c))、整形した信号の差分を演算して(図11(d))、傾斜角度θ(図11(a))の算出を行う。
図12に示すように、本構成例の光偏向器1においては、鉄棒14と接合する弾性部材13を金属等で構成することにより、2つのキャパシタ71,72の可動電極(即ち鉄棒14)を、弾性部材13を介して接地できる。従来技術(特許文献1)は、可動部電極を接地するためにトーションバー部を通じて固定部側に専用の配線を設けている。これに対して、上記の構成例によると、従来技術のような接地専用の配線を設ける必要がなくなり、光偏光器1の設計自由度をより向上することができる。
3.まとめ
以上のように、本実施形態に係る光偏向器1は、入射した光が出射する方向を変化させる。光偏向器1は、反射板10と、可動部11と、電磁石30と、検出電極41,42とを備える。反射板10は、光を反射する。可動部11は、反射板10が回動可能な回動軸11aを有する。電磁石30は、可動部11を駆動する磁極30a,30bを有する。検出電極41,42は、回動軸11a周りの反射板10の角度(θ)に応じた静電容量(C1,C2)を検出する。可動部11は、反射板10に対して固定された磁性体の一例である鉄棒14を含む。鉄棒14は、電磁石30の磁極30a,30bと検出電極41,42とに対向するように配置される。
以上の光偏向器1によると、電磁石30による反射板10及び可動部11の駆動と、検出電極41,42による静電容量の検出との双方の機能を、鉄棒14を用いて実現できる。また、弾性部材13が鉄棒14と非可動部側とを電気的に接続する配線の役割も担うことになる。これにより、静電容量の計測専用の電極を、反射板10と共に動く部分に設ける必要がなくなり、反射板10と共に動く部分に設ける計測専用の電極を非可動部側と電気的に接続するための配線も不要になるなど、設計自由度を確保し易い光偏向器1を提供することができる。
また、本実施形態の光偏向器1では、電磁石30の駆動コイル33を反射板10或いは可動部11等の反射板10と共に動く位置に形成する必要がない。これにより、例えば弾性部材を介して可動板にコイルへ通電するような配線が不要になり、弾性部材上の配線部分の弾性変形に対する耐性を考慮する必要をなくすことができる。また、コイルに通電する際に生じる熱により反射板の平面度が悪化するという現象も回避できる。
本実施形態において、可動部11における磁性体としての鉄棒14は、静電容量の検出にも適用し易いと考えられる軟磁性体である。本実施形態の光偏向器1においては、鉄棒14の代わりに、各種の軟磁性体が用いられてもよい。鉄棒14のような棒形状に限らず、種々の形状を有してもよい。
また、本実施形態において、光偏向器1は、鉄棒14に接触する永久磁石34をさらに備える。永久磁石34によって鉄棒14を磁化することにより、可動部11を電磁石30で駆動し易くすることができる。
また、本実施形態において、電磁石30は、回動軸11aを介した両側において鉄棒14にそれぞれ対向する2つの磁極30a,30bを有する。各磁極30a,30bからの磁場を利用して、可動部11を駆動し易くできる。
また、本実施形態において、光偏向器1は、回動軸11aを介した両側において鉄棒14にそれぞれ対向する2つの検出電極41,42を備える。2つの検出電極41,42を用いて、静電容量に応じた反射板10の角度検出を精度良く行うことができる。
また、本実施形態において、可動部11は、反射板10の姿勢を保持する弾性部材13をさらに含む。弾性部材13は適宜、省略されてもよい。
また、本実施形態において、電磁石30は、電流に応じて磁場を発生させる駆動コイル33を備える。光偏向器1は、駆動コイル33を駆動するコイル駆動回路52をさらに備える。コイル駆動回路52により、電磁石30を駆動することができる。
また、本実施形態において、光偏向器1は、検出電極41,42に接続され、静電容量の容量値C1,C2を検出する容量検出回路51をさらに備える。光偏向器1は、容量検出回路51に加えて、又はこれに代えて、容量値C1,C2に応じた傾斜角度θを検出する角度検出回路を備えてもよい。
また、本実施形態に係るライダー装置2は、光偏向器1と、光偏向器1の反射板10に光を照射する光源部20とを備える。本実施形態のライダー装置2では、光偏向器1により、設計自由度が確保し易い。ライダー装置2の距離演算部25は、光偏向器1の検出電極41,42において検出される静電容量に基づいて、光偏向器1から出射する光の方向を示す情報を演算する演算部の一例である。
(他の実施形態)
上記の実施形態1では、鉄棒14が2つの磁極30a,30b及び2つの検出電極41,42に対向する光偏向器1の構成例を説明した。本開示の光偏向器はこれに限定されず、例えば、検出電極の個数が1つであってもよいし、磁性体に対向する磁極も1つであってもよい。光偏向器の変形例1〜3について、図13〜14を用いて説明する。
図13は、実施形態1の変形例1に係る光偏向器1Aの構成を例示する。図13(a)は、本変形例に係る光偏向器1Aの斜視図を示す。図13(b)は、図13(a)のA−A’断面における光偏向器1Aの断面図を示す。変形例1では、鉄棒14が1つの磁極30a及び1つの検出電極41に対向する光偏向器1Aの構成例を説明する。
本変形例の光偏向器1Aでは、実施形態1の光偏向器1と同様の構成において、図13(a),(b)に例示するように、1つの検出電極41と、電磁石30Aとを備える。1つの検出電極41と、電磁石30Aの1つの磁極30aとは、それぞれ鉄棒14に対向するように配置される。
図13の構成例では、電磁石30Aは、例えば平板状のコイルで構成される。電磁石30Aは、特に磁芯を備えなくてもよい。また、本構成例の光偏向器1Aでは、実施形態1の光偏向器1における永久磁石34(図6(b)参照)は省略されている。
また、図13(b)に示すように、本構成例の光偏向器1Aの可動部11Aでは、接合部材12が、反射板10と鉄棒14とを接合している。鉄棒14の下面は、弾性部材13の上面に接合されている。例えば、鉄棒14の上面に、接合部材12と同様の形状の部分を設けることにより、接合部材12が省略されてもよい。
以上のように構成される光偏向器1Aにおいては、可動部11Aの鉄棒14が、電磁石30による吸引力のオン/オフと、弾性部材13の弾性力とによって駆動される。例えば、鉄棒14の固有振動数に応じた駆動周波数が用いられてもよい。鉄棒14の可動範囲は、例えば弾性部材13に固定する姿勢に応じて適宜、設定可能である。
図14は、変形例2に係る光偏向器1Bの構成を示す。本変形例の光偏向器1Bは、変形例1の光偏向器1Bの構成に加えて、2つ目の検出電極42をさらに備える。2つの検出電極41,42を用いることにより、静電容量に基づく傾斜角度θの検出精度を良くすることができる。
図15は、変形例3に係る光偏向器1Cの構成を示す。本変形例の光偏向器1Cは、変形例1の光偏向器1Bの構成に加えて、2つ目の電磁石30Bをさらに備える。2つ目の電磁石30Bの磁極30bは、弾性部材13を介して1つ目の電磁石30Aの磁極30aとは反対側において、鉄棒14に対向するように配置される。2つの電磁石30A,30Bを用いることにより、例えば交互に磁場を発生させ、鉄棒14の駆動を高速化することができる
上記の実施形態1では、永久磁石33が電磁駆動部3に設けられる構成例を説明した。本実施形態において、光偏光器の可動部に永久磁石が設けられてもよい。この場合においても、永久磁石を鉄棒14等の軟磁性体に接触するように配置することにより、当該軟磁性体を磁化して、可動部11の電磁駆動を行い易くすることができる。
上記の各実施形態では、光偏向器1の可動部11が備える磁性体が、鉄棒14のような軟磁性体の例を説明した。本実施形態では、光偏向器が、鉄棒14の代わりに、磁石などの各種の磁性体を備えてもよい。この場合であっても、磁性体を電磁石の磁極と静電容量の検出電極とに対向させることにより、当該磁性体を電磁石による駆動と静電容量の検出とに利用でき、光偏向器の設計自由度を確保し易くすることができる。
また、上記の各実施形態では、光偏向器1が信号処理部5を備える構成例を説明した。本実施形態では、光偏向器が信号処理部5を備えなくてもよい。例えば、光偏向器は、信号処理部5とは別体で提供されてもよい。
(付記)
以上のように、本開示の各種実施形態について説明したが、本開示は上記の内容に限定されるものではなく、技術的思想が実質的に同一の範囲内で種々の変更を行うことができる。以下、本開示に係る各種態様を付記する。
本開示に係る第1の態様は、入射した光が出射する方向を変化させる光偏向器(1)であって、前記光を反射する反射板(10)と、前記反射板が回動可能な回動軸(11a)を有する可動部(11)とを備える。前記可動部は、前記反射板に対して固定された磁性体(14)を含む。さらに、光偏向器は、前記磁性体に対向して配置された磁極(30a、30b)を有し、前記可動部を駆動する電磁石(30)と、前記磁性体に対向して配置され、前記回動軸周りの前記反射板の角度に応じた静電容量を検出する検出電極(41,42)とを備える。
第2の態様では、第1の態様の光偏向器において、前記磁性体は、軟磁性体である。
第3の態様では、第2の態様の光偏向器が、前記軟磁性体に接触する永久磁石(34)をさらに備える。
第4の態様では、第1〜第3のいずれかの態様の光偏向器において、前記電磁石は、前記回動軸を介した両側において前記磁性体にそれぞれ対向する2つの磁極を有する。
第5の態様では、第1〜第4のいずれかの態様の光偏向器が、前記回動軸を介した両側において前記磁性体にそれぞれ対向する2つの検出電極を備える。
第6の態様では、第1〜第5のいずれかの態様の光偏向器において、前記可動部は、前記反射板の姿勢を保持する弾性部材(13)をさらに含む。
第7の態様では、第1〜第6のいずれかの態様の光偏向器において、前記電磁石は、電流に応じて磁場を発生させる駆動コイル(33)を備える。光偏向器は、前記駆動コイルを駆動するコイル駆動回路(52)をさらに備える。
第8の態様では、第1〜第7のいずれかの態様の光偏向器が、前記検出電極に接続され、前記静電容量を検出する容量検出回路(51)をさらに備える。
第9の態様は、光を発光する光源部(20)と、前記光源部において発光した光が出射する方向を変化させる、第1〜第8のいずれかの態様の光偏向器とを備えたライダー装置(2)である。